JP4033451B2 - 透光性希土類酸化物焼結体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、R2O3(RはY, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luからなる群の少なくとも一員の元素)で表わされる透光性希土類酸化物焼結体、及びその製造方法に関する。本発明の焼結体は、例えば赤外透過窓材、偏光板、放電ランプ用エンベロープ、光学部品、レーザー発振子として好適に使用される。
【0002】
【従来の技術】
一般式R2O3(RはY,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luからなる群の少なくとも一員の元素)で表わされる希土類酸化物は、その結晶構造が立方晶であり複屈折が無い。そのため、気孔や不純物の偏析を完全に除去する事により、透光性に優れた焼結体を得ることが可能である。
【0003】
中でもイットリア(Y2O3)は、希土類酸化物中最高の融点2415℃を有し、耐熱性、耐アルカリ性に優れており、赤外領域で高い透光性を示す事が知られている。更に高い熱伝導率を有するため、固体レーザー用ホスト材料としても期待されている。しかしながら、その融点が極めて高い上、2280℃付近で相転移(立方晶と六方晶)を生じるため、既存の単結晶合成技術では光学的に優れた大型結晶を合成することは困難である。一方、セラミックス(多結晶体)は、融点以下の比較的低い温度での合成が可能であるため、従来より赤外用高温窓材、放電ランプ用エンベロープ、耐食部材等に適用すべく検討が盛んに行なわれている。
【0004】
希土類酸化物に限らず、透光性焼結体の作製においては、焼結の際、粒成長による気孔の排出を上手く行なえるかどうかが最も重要であり、粒成長速度を制御すべく焼結助剤を添加する手法が一般的である。従来より多数報告されているイットリアの製造方法に関しても、その多くは焼結助剤を添加した手法である。
【0005】
焼結助剤を用いた透光性イットリア焼結体の製造方法としては、以下のものが知られている。
(1) ThO2を添加して水素中2100℃以上で焼結する方法(Ceramic BulletinVol.52,No5(1973)),
(2) AlF3を添加したY2O3粉末を真空ホットプレスで焼結する方法(特開昭53-120707),
(3) 同様にLiF又はKFを添加してホットプレスする方法(特開平4-59658),
(4) La2O3やAl2O3を添加して低O2雰囲気中で焼結する方法(特開昭54-17911,特開昭54-17910)。
【0006】
(1)の手法においては、比較的透明度の高い焼結体が得られるものの、入手及び取り扱いが容易でない放射性のトリアを焼結助剤として添加している。更に高温で長時間焼結を行なうため、平均粒子径は100μm以上と非常に大きく、その材料強度は極めて低い。従って民生品としての実用には不適である。(2)のホットプレス法では、比較的低温での焼結が可能であるものの、可視部での直線光透過率は60%程度のものしか得られない。
【0007】
(3)の手法では、1500℃以上でホットプレス処理を行なうことにより、波長2μm以上の赤外領域で直線光透過率が80%程度の焼結体が作製可能である。可視部での透過率は明記されておらず不明であるが、焼結助剤として添加されている弗化物は低融点物質(LiF:842℃,KF:860℃)であり、焼結過程において蒸発し、試料の外周部と内部で粒成長速度に差が生じるため、肉厚試料の場合には均一な焼結体を作製することは困難と推定される。また真島らによれば(日本金属学会誌第57巻10号(1993)1221-1226)、LiFを助剤としてホットプレスした場合、添加量を最適化しても試料中心部にフッ素が残留し、試料の外周部と比較してその透過率は低くなることが述べられている。従って弗化物を焼結助剤として用い、大型、肉厚焼結体を作製することは容易ではない。
【0008】
(4)のLa2O3を添加する手法では、その添加量が約6〜14モル%と多く、固溶できないLa2O3が偏析層を生成し易く(例えばJournal of Materials Science 24(1989)863-872)、光学的に均一な焼結体を作製することは容易ではない。また、Al2O3を添加する手法では、その添加量を0.05wt%〜5wt%とし、Y4Al3O9とY2O3との間の共晶温度(1920℃)以上で液相焼結により緻密体を作製している。しかしながら、高温で焼結を行なっているにもかかわらず、得られる焼結体の透過率は、理論透過率に対して最大でも80%に留まっている。
【0009】
一方、焼結助剤を添加しないイットリアの製造方法としては、特許第2773193や特開平6-211573によるものがある。特許第2773193では、BET値10m2/g以上のイットリア粉末をホットプレスして、理論密度比95%以上に緻密化した後に、HIP処理を行なう。これにより得られる焼結体の透過率は、波長3〜6μmの赤外領域では80%程度と良好であるが、0.4〜3μmの波長域では平均で75%程度に留まっている。HIP処理を行なっているにも関らず、短波長域での透光性が不充分なのは、出発原料としてハンドリングの困難な超微粉を用いているため、ホットプレスにより表面は緻密化したとしても、試料内部にはHIP処理を行なっても除去出来ない大きな空隙を含みやすいためであると推測される。
【0010】
また特開平6-211573の手法では、平均粒径が0.01〜1μmの易焼結性原料粉末をCIP成形した後に、1800℃以上で真空焼結若しくは1600℃以上でHIP処理を行なうことにより透明体を作製している。この手法により得られる焼結体は、可視領域における平均直線光透過率が80%以上と高く、発光元素を添加することによりレーザー発振可能な焼結体が作製可能であると記されている。しかしながら、透明度の高い試料を作製するためには、真空焼結及びHIP処理の何れの場合においても2000℃前後の高温で焼結を行なう必要があり、工業的に連続生産を行なう場合、焼結炉の劣化が激しく維持が大変である。更に、波長が短くなるにつれて透過率の低下が著しく(波長1000nmから400nmでは10%以上低下)、可視部の透光性を重視する光学部材への適用は不適である。
【0011】
ところで、従来法において使用されている希土類酸化物原料粉末は、一般には蓚酸塩を母塩としたものであるが、これを仮焼して得られる原料粉末は粒度分布が不均一であり、凝集の激しい二次粒子から構成されている。そのため成形によるパッキングが充分とれず、緻密体を作製することは容易でない。近年、この点を改善すべく易焼結性原料粉末を用いた低温焼結による透明体作製法も開示されている(例えば、特開平9-315865、10-273364、11-189413 、11-278933)。
【0012】
これらの手法においては、炭酸塩を母塩に用い、これを仮焼して得られる比較的粒度分布が均一で、凝集の少ない粉末を出発原料として用いることにより焼結体を作製している。しかしながら、これらの手法において得られる焼結体の可視部での直線光透過率は、最高でも70%程度であり、理論透過率(≒82%)と比較すると単結晶に匹敵する透明体とは言い難い。
【0013】
以上に、既存の透光性イットリアの製造方法を述べたが、可視部から赤外領域に渡って単結晶と同等の優れた透光性を有する焼結体を、工業的に容易に製造する手法は皆無である。また、イットリア以外の希土類元素を用いた透光性希土類酸化物焼結体は、希土類元素が比較的高価であること、更に特定の用途が見出せないことから、製造条件がイットリアの場合とほとんど同じであるにも関らず、それらに関する報告はほとんど認められない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、工業的に実用可能な手法により、可視部から赤外領域に渡って良好な透過率を示す希土類酸化物焼結体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
【発明の構成】
本発明の透光性希土類酸化物焼結体は、一般式がR2O3(RはY, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luからなる群の少なくとも一員の元素)で表わされ、波長500nmから6μmにおける、特異吸収波長以外での、直線光透過率が焼結体1mm厚で80%以上であり、焼結体中のAlの含有量が金属換算で5wtppm以上、100wtppm以下で、Si 含有量が金属換算で 10wtppm 以下、焼結体の平均粒径が 2 〜 20 μmである。5wtppm以上のAlは、焼結体を緻密化し、特に気孔を完全に除去して80%以上の直線光透過率を得るために必要である。100wtppmを越えるAlは、粒界にAlが偏析して異相が析出する原因となり、直線光透過率を低下させる。
【0016】
焼結体の平均粒径が大きいと、同じAl含有量でも異相が粒界に析出しやすくなるので、焼結体の平均粒径は2μm以上20μm以下とする。
Siは焼結体の平均粒径を大きくするので、平均粒径を2〜20μmとするため、焼結体中のSi量を金属換算で10wtppm 以下とする。
本発明では、5〜100wtppmのAlにより焼結体の透明度を向上させ、従来技術のように、CaOやMgOにより透明度を向上させるのではない。このため、CaO含有量やMgO含有量は5wtppm未満が好ましい。CaOやMgOがY2O3中に固溶すると、焼結体が着色しやすくなる。これは、+3のYイオンと+2のCaやMgイオンとの電荷の差のため、光吸収の原因となる欠陥が生じやすくなるためと思われる。
【0017】
また、本発明の透光性希土類酸化物焼結体の製造方法では、Al含有量が金属換算で5〜100wtppmで、Si含有量が金属換算で10wtppm以下であり、かつ純度99.9%以上の高純度希土類酸化物原料粉末を用いて、成形密度が理論密度比58%以上の成形体を作製し、熱処理により脱バインダー処理を行なった後に、水素、希ガスあるいはこれらの混合雰囲気中、もしくは真空中で、1450℃以上1700℃以下の温度で0.5時間以上焼結する。この方法によって、平均粒径が 2 〜 20 μmで、波長500nmから6μmにおける、特異吸収波長以外での、直線光透過率が焼結体1mm厚で80%以上の焼結体を得ることができる。
焼結体の平均粒径は2〜20 μmとし、焼結体の粒界でのAl含有の異相の析出が実質的にないようにすることが好ましく、焼結体中のCaOやMgOが5wtppm未満となるように、原料粉末や成形工程を管理することが好ましい。
なお以下では、Al含有量やSi含有量は金属換算で示す。
【0018】
【発明の作用と効果】
本発明者らは、前記課題を解決するため種々検討を行なった結果、波長500nmから6μmの領域に渡って、特異吸収波長以外での直線光透過率が1mm厚みで80%以上の希土類酸化物焼結体を作製できることを見出した。そのためには、原料の純度、Al含有量、成形体密度を管理した成形体を、熱処理による脱バインダー処理を行なった後に、水素、希ガスあるいはこれらの混合雰囲気中もしくは真空中で、1450℃以上1700℃以下の温度で、0.5時間以上焼結すれば良い。
【0019】
本発明における希土類酸化物の焼結においては、極微量(金属換算で5wtppm〜100wtppm)のAlが焼結助剤として大きな効果を発揮している。なおこの明細書中で、AlとSiの含有量は特に記さない限り、金属換算の重量比で表す。また成形体の密度は、理論密度との比で示す。
【0020】
従来技術の項で述べた様に、焼結助剤を添加する手法は種々開示されているが、これらはほとんど全ての場合において、助剤が粒界に偏析して粒界の移動速度を減少させることにより、粒成長速度を制御し緻密化を行なっている。本発明における、Alを極微量含有した場合の、焼結による緻密化機構の詳細に関しては不明であるが、焼結体の平均粒径が2μm〜20μm程度の範囲においてのみ緻密化促進剤としての効果を発揮し、それ以上ではAlを含有する異相を生成する。
【0021】
すなわち、焼結温度が1450℃未満の場合、Alの有無に関係なく、粒成長による緻密化が充分進行しないため、不透明若しくは半透明の焼結体しか得られない。通常この場合の平均粒径は2μm未満である。焼結温度が1450℃以上1700℃以下で、Al含有量が5〜100wtppm、及び成形体密度が理論密度比58%以上である場合には、使用原料の焼結性にもよるが、得られる焼結体の平均粒径は2〜20μmの範囲にあり、透光性に優れた焼結体が得られる。またAl含有量が5wtppm未満の試料を同様に焼結した場合、その平均粒径はやはり2〜20μm程度であるが、得られる焼結体は半透明体若しくは不透明体である。
【0022】
一方、Alを100wtppmを超えて含有する試料の場合には、それ以下の場合と比較して粒成長しており、その平均粒径は大きくなっている。しかしながら、得られる焼結体はAl含有量が5wtppm未満の場合と同様に、半透明体若しくは不透明体である。焼結助剤としてのAlは、その量が5〜100wtppmの範囲においては緻密化促進剤として作用しており、その場合においてのみ良好な透明体が得られる。しかしながら、100wtppmを超える場合には主として粒成長促進剤として作用しており、気孔の排出が十分行なえないため、満足な透明体が得られない。
【0023】
一方、1700℃を越える温度で焼結を行なった場合、Alの有無に関らず粒成長が著しく進行するため、気孔の排出が充分行われず、充分な透光性を有する焼結体を作製することは容易ではない。この場合の平均粒径は例えば25μm以上である。1700℃を越える焼結温度においては、Alの含有量が5〜100wtppmの極微量でも、粒界にAlの偏析相が生じる。Alの析出は焼結体の平均粒径に依存しており、20μm以下の場合は如何なる焼結雰囲気においても析出は認められない。しかしながら、焼結体の平均粒径が20μmを超えると、粒界にAlの偏析が生じ始め、平均粒径が30μm以上になるとその現象は顕著になる。
【0024】
従って、Alは含有量が5〜100wtppmでのみ緻密化促進剤としての効果を発揮し、析出の生じない1450℃以上1700℃以下の温度範囲で、かつ平均粒径が2μm以上20μm以下となる様に焼結された場合のみ、透光性に優れた焼結体を作製することができる。ただし、極微量のAlによる緻密化促進効果を充分発揮し、透光性に優れた焼結体を作製するためには、原料中に含まれるSi量を厳密に管理する必要があり、その量を10wtppm以下とすると共に、更に成形体密度を理論密度比58%以上としておく必要がある。
【0025】
通常市販されている希土類元素として99.9%以上の高純度希土類酸化物粉末中に含まれる不純物は、各元素毎に見ると数wtppm程度であり、多くても10wtppm程度に満たない。例えばCaOやMgOは含有量が5wtppm以下である。しかしながら、Siは10wtppm程度含まれる場合が多く、多い場合には数十wtppm以上含まれている。これは希土類原料を仮焼する際に使用する匣鉢が通常は石英製で、付着水が石英容器と僅かに反応し、Siが原料粉体中に混入するためである。また反応槽がガラスやグラスライニング製であったり、沈殿剤中にSiが含まれる場合があるためである。なお高純度希土類原料中での、不純物としてのAl濃度は5wtppm未満である。焼結体の製造過程でのAlの意図しない混入は、原料粉末の粉砕にアルミナボールではなくナイロンボールなどのプラスチックボールを用いる、仮焼に高純度のアルミナ坩堝などを用い坩堝の反応性を低下させることにより、防止できる。これらにより、意図的にAlを添加しない場合、焼結体中のAl濃度は5wtppm未満にできる。
【0026】
Siは、粒界に液相を生成し粒成長を促進するため、その量が多いと微量のAlによる緻密化促進効果を打ち消してしまう。そのため、使用する希土類酸化物原料粉末に含まれるSiは10wtppm以下とし、好ましくは5wtppm以下とする。原料中に含まれるSiは、そのほとんどが仮焼用匣鉢から混入しており、例えば仮焼にアルミナ製坩堝等を使用することにより、Si量の低い原料を得ることが可能である。またイオン交換水や蒸留水からもSiが混入することがあり、好ましくは超純水などを用いる。なおアルミナ製坩堝は、例えば99%アルミナなどの高純度アルミナ坩堝を用い、坩堝からのAlの混入を防止することが好ましい。
【0027】
本発明では、内部に大きな気泡や空隙を含まない均質で高密度の成形体を作製する必要がある。一般的な透光性セラミックスは、融点より100℃〜300℃程度低い温度で焼結され、その平均粒径は50μm程度若しくはそれ以上である。すなわち成形体内部の空孔を粒成長により排出するため、空孔の多い(成形体密度の低い)成形体を焼結する際には、著しく粒成長させることにより緻密体を作製している。一方、本発明における焼結体はAlの析出が生じない1700℃以下の比較的低温で焼結され、その平均粒径は20μm以下と比較的小さい。従って過度の粒成長による気孔の排出効果を期待せず、透光性に優れた焼結体を作製するためには、均質で高密度な成形体を作製し、焼結する必要がある。
【0028】
成形密度が58%未満の成形体内部には、パッキングが不充分なため大きな空孔が多数存在しており、このような成形体を1700℃以下の低温で充分緻密化させることは容易ではない。一方、成形密度が58%以上の成形体は比較的その内部の空孔が少なく、低温でも充分緻密化させることは可能である。従って波長500nmから6μmの領域に渡って、特異吸収波長以外での直線光透過率が1mm厚みで80%以上の、透光性に優れた焼結体を作製するためには、その成形密度を58%以上とする必要があり、好ましくは60%以上とする。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に実施例の焼結体とその製造方法を説明する。
焼結体の作製には、純度99.9%以上の高純度易焼結性原料粉末で、Si含有量が10wtppm以下のものを使用する。一般に各種希土類原料は、複数の希土類元素を含む鉱石から溶媒抽出法により分離精製され、蓚酸塩の沈殿を仮焼することにより作製されている。そのため、十分な分離精製が行われていない原料粉末には、主成分以外の希土類元素が含まれている場合がある。不純物として含まれる希土類元素は、場合によってはその元素特有の吸収を示し焼結体が着色する恐れがあり好ましくない。またFe等の遷移元素も同様に着色源となるため好ましくない。従って、出発原料は充分精製されたものを選択する必要がある。ただし、レーザー発振子材料の場合は、NdやYb等のレーザー活性元素を添加し、着色ガラス等の場合は着色元素を添加する。
【0030】
原料粉末の焼結性は母塩に依存し、例えばイットリウムの場合、焼結性は一般的には、(1)炭酸塩、(2)水酸化物、(3)蓚酸塩、(4)アンモニウム硫酸塩、(5)硫酸塩の順となる(例えば、L.R.Furlong,L.P.Domingues,Bull.Am.Ceram.Soc,45,1051(1966)による)。しかしながらこれらの母塩の種類は特に限定されるものではなく、入手しやすいものを使用すれば良い。
【0031】
また使用する原料粉末の一次粒子径についても特に限定されるものではなく、成形、焼結プロセスに適合したものを選択すれば良い。すなわち、超微粉は焼結活性が高く比較的低温でよく緻密化するものの、ハンドリングが容易でないばかりか、凝集粒子が多く成形密度を高くすることが容易ではない。また粗粒の場合、パッキングは容易なものの焼結活性が低く、低温で緻密化させることは出来ない。従って、焼結性、パッキング性及びハンドリング性の容易さの観点から、使用原料の比表面積は3〜12m2/g程度が好ましく、4〜10m2/g程度のものがより好ましい。更には、凝集が少なく粒度分布の均一なものを使用するのが最も好ましい。
【0032】
次に前記希土類酸化物原料粉末を用いて、所望の形状の成形体を作製する。セラミックスの成形方法としては、押し出し成形、射出成形、プレス成形や鋳込み成形等が挙げられる。実施例においては特に何れかの手法に限定されるものではなく、成形密度が58%以上となり不純物の混入が少ない手法により行なえば良い。またこの際、必要に応じて焼結助剤のAlを各種成形法に応じ均一に分散する様に添加する。例えば、プレス成形の場合であれば、顆粒作製用スラリー中に適量のAlを添加し、ボールミル等により充分混合した後にスプレードライヤ等により乾燥し、成形用顆粒とすれば良い。
【0033】
Alの添加時期に関しては、成形体中に均一に分散させることが可能であれば特に限定されるものではなく、例えば原料合成段階や仮焼段階で添加しても問題ない。極微量のAlでその効果を充分発揮させるには、原料中に混合させておくのが最も好ましい。
【0034】
またその添加形態については特に限定されるものではなく、例えば成形段階で混合するのであれば、アルミナゾルやAl2O3粉末、R3Al5O12(RはY, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu)粉末等のアルミニウム化合物を適量添加すれば良い。また原料合成時に添加する場合には、塩化アルミニウムや水酸化アルミニウム等で添加すれば良い。添加剤の純度に関しては、その添加量が微量であるため特に限定されるものではないが、原料粉末同様、高純度なものを使用するのが好ましい。また粉末で添加する場合には、その大きさは原料粉末の一次粒子径と同程度、若しくはそれ以下のものを使用するのが好ましい。
【0035】
得られた成形体は、熱分解による脱バインダー処理を行なう。この際の処理温度、時間、雰囲気は添加した成形助剤の種類により異なるが、試料の表面が閉空孔化してしまうと脱バインダーが困難となる。そのため表面の閉空孔化しない温度以下で充分時間をかけて行なう。この温度は、使用原料粉末の仮焼温度や焼結性、及び成形体のパッキングにもよるが、通常900℃〜1400℃程度であり、それ以下の温度で行なうのが好ましい。また雰囲気は酸素雰囲気が最も一般的であるが、必要に応じ加湿水素やAr、若しくは減圧下で行なっても問題ない。
【0036】
脱バインダー処理終了後、試料を水素、希ガスあるいはこれらの混合雰囲気もしくは真空中で、1450℃以上1700℃以下の温度で0.5時間以上焼結する。また、脱バインダー終了後の試料を、一次焼結により閉空孔化した後にHIP焼結することも有効である。焼結時間は全体を均一に焼結するためには0.5時間以上必要であり、それ以上であれば特に限定されるものではない。焼結雰囲気や試料の厚みにもよるが、通常1〜5mm程度の試料厚みであれば、2時間から10時間程度の焼結で充分である。また加圧焼結の場合には、0.5時間から2時間程度で充分である。
【0037】
【実施例】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
特開平11-157933の手法に基づき、平均一次粒子径0.3μm、純度99.9%以上、Si3wtppmのY2O3原料粉末を作製した。即ち、イットリウムの硝酸塩水溶液と尿素の水溶液と硫酸アンモニウムの水溶液とを混合して、イットリウム:尿素:硫酸アンモニウムがモル比で1:6:1とし、オートクレーブ中125℃で2時間水熱反応させ、イットリウムの炭酸塩を得た。得られた炭酸塩を純水で洗浄し、乾燥した。次にこの乾燥粉をアルミナ坩堝で大気雰囲気中1200℃で3時間仮焼して、原料粉とした。
【0038】
この原料2kgに対して可塑剤のセラミゾールC-08(日本油脂製、セラミゾールは商品名)60g、バインダーとしてメチルセルロースを300g添加し、原料粉末に対してAl金属換算で50wtppm相当のアルミナゾル(日産化学製)を焼結助剤として添加し、純水4kgを加えナイロンポット及びナイロンボールを用いて、100時間ボールミル混合した。このスラリーを加熱濃縮して、押出し可能な粘度とした後、3本ロールミルを5回通して生地の均一性を向上させた。こうして得られた生地を、押出し機を用いて60mm×200mm×3mmに成形した。
【0039】
この成形体を充分に乾燥した後、20℃/hrで600℃まで昇温し、この温度で20時間保持して脱脂した。この成形体の密度は、アルキメデス法により測定すると、59.8%であった。脱脂を充分に行なうために、この成形体を更に1200℃まで昇温し、10時間保持した。その後、真空炉にて1650℃の温度で8時間焼結した。この際、昇温速度は1200℃までは300℃/hr、それ以上は50℃/hrとし、炉内の真空度は10-1Pa以下とした。
【0040】
得られた焼結体は、両面をダイヤモンドスラリーを用いて鏡面研磨を行ない、分光光度計にて直線光透過率を測定した。その結果、波長500nm及び800nmでの直線光透過率はそれぞれ80.6%,82.1%(試料厚み1mm)であった。また赤外領域における透過率は、波長3μm及び6μmでそれぞれ83.2%,84.1%であった。
【0041】
この試料を、大気中1500℃にて2時間サーマルエッチングを行ない、微構造を光学顕微鏡にて観察した結果、平均粒径は12.6μmであった。ここで平均粒径は、SEM等の高分解能画像上で任意に引いた線の長さをCとし、この線上の粒子数をN、倍率をMとして、平均粒径=1.56C/(MN) として求めた。また、アルキメデス法により焼結体の密度を求めた結果、理論密度比99.97%であった。なおこの焼結体をオートクレーブにより溶解後、ICP法によりAl及びSi量を求めた結果、Alが47wtppm,Siが3wtppmであった。
【0042】
実施例 2 〜 7
実施例1と同様にして、各種希土類酸化物焼結体を作製した。全ての試料において、使用した原料純度は希土類元素として99.9%以上、Si10wtppm以下であり、成形密度は58%以上であった。焼結条件、Al含有量及び1mm厚みでの直線光透過率、平均粒径を表1に示す。直線光透過率の測定波長はYb2O3及びLu2O3は500nmとしたが、他の焼結体については固有吸収の影響の無い波長を選択して測定した。
【0043】
【表1】
【0044】
なお実施例1〜7により作製した焼結体の直線光透過率を測定した結果、波長1μm以上6μmにおいては全ての場合において82%以上であった(ただし、固有の吸収波長を除く)。これらの結果から、実施例により、可視部から赤外領域に渡って優れた透光性を有する焼結体の作製が可能であることが判る。
【0045】
比較例 1 〜 5
特開平11-157933の手法に基づき、Y2O3原料粉末を作製した。原料粉末の仮焼には石英製匣鉢を用い、匣鉢中でのサンプリング位置を変えることにより、Si含有量の異なる原料粉末を得た。ただし比較例1と比較例5に使用した原料の仮焼には高純度アルミナ製匣鉢を使用した。得られた原料粉末を用い、実施例1と同様にして、Al含有量の異なるイットリア焼結体を作製した。原料中に含まれるSi量、焼結体中に含まれるAl量と波長500nmでの直線光透過率(試料厚み1mm)を表2に示す。なお成形体密度は全ての場合において58%以上であった。
【0046】
【表2】
【0047】
比較例1のように、焼結体中に含まれるAl量が少ない場合には、その効果が充分発揮されないため、平均粒径は11μmとほぼ実施例1と同程度であるにもかかわらず、透光性は高くない。また比較例5より、Al含有量が100wtppmを超える場合には、その平均粒径は30μmと実施例1の2倍以上であり、充分な緻密化が行われず透光性は高くない。この試料をEDX(エネルギー分散型X線分析)を装備したSEMにより観察した結果、粒界にAlの偏析相が確認された。また逆に比較例2〜4より、焼結体中のAl含有量が5〜100wtppm内でも、原料中に含まれるSi量が10wtppmを超える場合には、充分な透光性が得られないことが判る。従ってこれらの比較例より、透光性に優れた焼結体を作製するためには、原料中に含まれるSi量、焼結体中に含まれるAl量を厳密に管理する必要があることが判明した。
【0048】
実施例 8,9,10 ,比較例 6,7,8
純度99.9%以上Si3wtppmで一次粒子径0.35μmのEr2O3原料粉末を用い、成形圧力を種々変更してCIP成形を行ない、成形密度の異なる成形体を作製し、実施例4と同様にして焼結体を作製した。成形密度と、焼結体の波長600nmでの直線光透過率(t=1.0mm)を表3に示す。なお焼結体中に含まれるAl量は全ての場合において、55〜60wtppmの範囲内にあった。
【0049】
【表3】
【0050】
比較例6では、他の場合と比較して粒成長が著しく、焼結体内部には気孔が多数残存しており、更にAlの偏析も認められ、不透明体であり透過率の測定は不可能であった。比較例7,8及び実施例8,9,10より、成形密度の増加と共に透過率も上昇しており、80%以上の透光性に優れた焼結体を得るためにはその成形密度が58%以上必要であることが判る。
【0051】
実施例 11-14, 比較例 9-12
原料純度99.9%以上, Si2wtppmのYb2O3原料粉末に、焼結体中に含まれるAlが50wtppmとなるようにアルミナゾルを添加し、実施例1と同様にして、成形密度59.5%の成形体を作製した。この成形体を、種々異なる焼結温度により10時間焼結を行ない、Yb2O3焼結体を作製した。焼結温度、及び得られた焼結体の平均粒径と、波長500nmでの直線光透過率を表4に示す。焼結温度が1450℃〜1700℃では、平均粒径が2〜20μmで、直線光透過率は80%以上となるが、焼結温度がこの範囲を外れると、直線光透過率は極端に低くなる。
【0052】
【表4】
【0053】
実施例 15
易焼結性イットリア原料粉末を、特開平11-189413中の実施例2と同様にして作製した。即ち塩化イットリウムを純水に溶解し、冷却しながら撹拌下にアンモニア水をゆっくりと滴下して水酸化イットリウムを沈殿させ、次いで硫酸アンモニウムの水溶液を加えて3時間撹拌し、沈殿を濾過し、純水で洗浄し、乾燥させた。前駆体の水酸化イットリウムを1100℃で仮焼し、原料粉末とした。ただし、原料中へのSiの混入を防ぐため、原料合成はガラス製ビーカーに換えてポリテトラフルオロエチレン製容器により行ない、前駆体の仮焼にはアルミナ製匣鉢を使用した。得られた原料粉末の純度をICP発光分析法により求めた結果、純度99.9%以上、Si2wtppmであった。
【0054】
この粉末に、アルミナ粉末(大明化学製TM-DAR 平均一次粒子径0.3μm,TM-DARは商品名)を添加し、アルミナ製乳鉢により充分混合、粉砕を行なった。この粉末をφ20mmの金型に挿入し、20MPaで一次成形を行なった後に、250MPaの圧力にてCIP成形を行なった。成形体中に含まれるAl量、及び成形密度を測定した結果、それぞれ75wtppm、59.6%であった。 この成形体を、真空炉にて100℃/hrで1650℃まで昇温し、10時間保持した後に200℃/hrで冷却した。焼結時の真空度は10-1Pa以下とした。得られた焼結体を実施例1と同様に評価した結果、波長500nmでの直線光透過率80.3%、平均粒径14.2μmであった。
【0055】
なおAlを添加しない焼結体も同様に作製したが、その直線光透過率は48%であり、特開平11-189413中の実施例により得られた焼結体と、ほぼ同程度(1700℃焼結で約45%)であった。以上により、Alを極微量含有することにより、使用原料粉末の製法に依存せず透光性に優れた焼結体が得られることが判る。
【0056】
比較例 13
実施例1で調製した酸化イットリウムの原料粉末中での、CaO含有量やMgO含有量は5wtppm未満であった。この原料粉末に、アルミナゾルの代わりに、CaOを200wtppm相当分添加し、ナイロンボールとナイロンポットとを用いて混合し、以降は実施例1と同様にして、イットリア焼結体を作製した。焼結体の両面をダイアモンドスラリーで鏡面研磨した際の、直線光透過率は、試料厚さが1mm、波長が500nmで、約80%であった。
【0057】
実施例1のイットリア焼結体と比較例13のイットリア焼結体を、太陽光が当たる場所に3ヶ月放置した。実施例の焼結体を3ヶ月放置しても変化は見られなかったが、比較例では1ヶ月放置で僅かに黄色に着色し、3ヶ月では明らかに黄色く着色した。確認のため、CaO含有量を50wtppmとして、他は比較例13と同様のイットリア焼結体を得たが、太陽光に当たる場所に3ヶ月放置すると同様に黄色に着色した。
Claims (6)
- 一般式がR2O3(RはY, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luからなる群の少なくとも1員の元素)で表わされ、波長500nm〜6μmにおける、特異吸収波長以外での、直線光透過率が焼結体1mm厚で80%以上で、Al含有量が金属換算で5〜100wtppm、 Si 含有量が金属換算で 10wtppm 以下、焼結体の平均粒径が 2 〜 20 μmの透光性希土類酸化物焼結体。
- 焼結体中の粒界にAl含有の異相の析出が実質的にないことを特徴とする、請求項1の透光性希土類酸化物焼結体。
- CaO含有量及びMgO含有量が各5wtppm未満であることを特徴とする、請求項1の透光性希土類酸化物焼結体。
- 前記焼結体が、レーザー活性元素を含むレーザー発振子材料であることを特徴とする、請求項1の透光性希土類酸化物焼結体。
- Al含有量が金属換算で5〜100wtppmで、Si含有量が金属換算で10wtppm以下の純度99.9%以上の希土類酸化物原料粉末と、バインダーとを用いて、成形密度が理論密度比58%以上の成形体を作製し、
熱処理により成形体からバインダーを除去した後に、水素,希ガスあるいはこれらの混合雰囲気中、もしくは真空中で、1450℃以上1700℃以下で0.5時間以上成形体を焼結することにより、焼結体の平均粒径を 2 〜 20 μmとする、一般式がR2O3(RはY, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luの何れか1種以上の希土類元素)で表わされる透光性希土類酸化物焼結体の製造方法。 - 前記焼結は、焼結体中の粒界でのAl含有の異相の析出が実質的にないように行われることを特徴とする、請求項5の透光性希土類酸化物焼結体の製造方法。
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