JP5905810B2 - 成形加工用アルミニウム合金板 - Google Patents
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Description
本発明では、Cuを含む組成のAl−Mg系アルミニウム合金板組織中の、X線小角散乱法で測定できる、組成によらない微細粒子全体(総量)の粒度分布(平均粒子直径と体積分率)を規定する。以下、この微細粒子を原子クラスタとも言う。本発明者らは、X線小角散乱法とは別のアトムプローブ法によって、本発明で規定する微細粒子が概ねCu原子の集まり(Cu原子の集合体=Cuクラスタ)であることを予め把握している。このため、小角散乱法でその粒度分布や体積分率が測定、導出される微細粒子は、概ねCu原子の集合体(Cuクラスタ)であると言ってもいい。
X線を用いた小角散乱法自体は、ナノメートルオーダの構造情報を調べる代表的な手法として古くから知られている。物質にX線を照射すると、入射X線が物質内部の電子密度分布の情報を反映して、入射X線の周囲に散乱X線が発生する。例えば、物質中に粒子や電子密度の不均一な領域が存在すると、結晶や非晶質等にかかわらず、X線は干渉して密度揺らぎ起因の散乱が発生する。これがアルミニウム合金などの金属であれば、アルミニウム合金組織中にナノメートルオーダの微小な析出物などの粒子が存在すると、この粒子に由来する散乱が観測される。この散乱X線が発生する領域は、Cuターゲットを用いた波長1.54ÅのX線の場合、測定角度2θは0.1〜10度程度以下である。前記X線小角散乱法では、この散乱X線を解析することで、ナノメートルオーダの微細な粒子の形状、大きさ、分布の情報等を得ることができる。小角散乱法は、例えば、特開2011−38136号などで、5000系のAl−Mg系アルミニウム合金板のプレス成形時のストレッチャーストレインマークの発生に関連する、微細粒子の粒度分布の平均粒子直径や、この粒度分布のピークサイズの数密度を測定するために用いられている。
本発明で規定するアルミニウム合金組織の微細粒子の粒度分布の平均粒子直径や、その体積分率を測定するためには、先ず、アルミニウム合金板の、X線小角散乱法で測定された、X線の散乱強度プロファイルを求める。このX線の散乱強度プロファイルは、例えば、縦軸がX線の散乱強度(散乱X線の散乱強度)、横軸が測定角度2θと波長λに依存する波数ベクトルq(nm−1)として求められる。このX線の散乱強度プロファイルから、前記微細粒子の粒度分布の平均粒子直径や、その体積分率を求めることができる。
本発明では、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の組織とプレス成形性との関係を表す指標として、X線小角散乱法で測定された微細粒子の粒度分布において、平均粒子直径が0.5nm以上、6.0nm以下であるとともに、その体積分率が0.03%以上であることとする。
本発明成形加工用アルミニウム合金板の化学成分組成は、基本的に、Al−Mg系合金であるJIS 5000系に相当するアルミニウム合金とする。
Mgは、加工硬化能を高め、自動車パネル用素材板としての必要な強度や耐久性を確保する。また、材料を均一に塑性変形させて破断割れ限界を向上させ、成形性を向上させる。Mgの含有量が2.0%未満では、強度や耐久性が不十分となる。一方、Mgの含有量が6.0%を越えると、板の製造が困難となり、しかもプレス成形時に、却って粒界破壊が発生しやすくなり、プレス成形性が著しく低下する。したがってMgの含有量は2.0〜6.0%、好ましくは2.4〜5.7%の範囲とする。
Cuは、前記したCuを主体とする原子の集合体(原子クラスタ)を形成して、Znと違い、板を室温時効硬化させることなく、プレス成形の際のSSマークの発生を抑制する。Cuが0.3%以下と少なすぎる場合は、Cuを主体とするクラスタの生成量が不足して、プレス成形の際のSSマークの発生抑制効果発揮が不十分となる。一方、Cuの含有量が2.0%を越えれば、粗大な晶出物や析出物の生成量が多くなり、破壊の起点になりやすく、却ってプレス成形性を低下させる。Cuの含有量は0.3%を超え、2.0%以下の範囲内とし、好ましくは0.5〜1.5%の範囲内とする。
その他の元素は、Fe、Si、Mn、Cr、Zr、Tiなどが例示される。これらの元素は、溶解原料としてアルミニウム合金スクラップ量(アルミニウム地金に対する割合)が増すほど含有量が多くなる不純物元素である。即ち、Al合金板のリサイクルの観点から、溶解原料として、高純度アルミニウム地金だけではなく、5000系合金やその他のAl合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用した場合には、これら元素の混入量(含有量)が必然的に多くなる。これら元素を例えば検出限界以下などに敢えて低減することは製造コストを押し上げるので、5000系アルミニウム合金の通常の規格(上限量)と同程度の含有の許容(上限値の規定)が必要となる。
本発明の板の製造方法について、以下に具体的に説明する。
本発明の組織を有する板とするためには、以上のようにして得られた所要の板厚のこれら熱延板あるいは冷延板に対して、先ず、急速加熱や急速冷却を伴う溶体化・焼入れ処理を行う。このような溶体化・焼入れ処理を行った材料、いわゆるT4処理(調質)材は、比較的緩やかな加熱や冷却を伴うバッチ焼鈍材と比較して、強度と成形性とのバランスに優れる。また、溶体化処理に続く焼入れ処理時には原子空孔が導入される。
この溶体化処理後の焼入れ処理時は、板を室温まで冷却するが、溶体化処理温度から200℃まで、5℃/秒以上の平均冷却速度で板を冷却する必要がある。溶体化処理温度から200℃までの平均冷却速度が5℃/秒未満では、冷却中に粗大な析出物が生成して、この後に低温焼鈍を加えて最終板としても、SSマークが発生する。前記微細粒子が不足して、体積分率が0.03%以上とならないからである。これら急速加熱や急速冷却を伴う溶体化・焼入れ処理は、連続焼鈍ライン(CAL)での強制空冷やミスト、水冷等の強制冷却等を用いて連続的に行っても良い。また、加熱にソルトバス等を、冷却に水焼入れ、油焼入れ、強制空冷等を用いてバッチ式で行っても良い。ここで、CALを用いた溶体化処理・焼入れを実施した場合、室温〜溶体化処理温度までの一般的な加熱および冷却の速度はともに1〜30℃/秒程度である。
本発明では、この焼入れ処理終了後、24時間以上室温時効処理した(室温放置した)後に、100℃を超え、200℃以下の温度に加熱する低温焼鈍を行う。この低温焼鈍の処理時間は、前記温度範囲に0.5〜48時間程度加熱、保持して行う。
本発明の板として、SSマークのうち、特にランダムマーク解消のために、前記低温焼鈍処理を施した後に、更に、加工率が0.2〜5%程度の予歪みを板に与える冷間加工(予加工)を行なう。このように耐力値の増加分が特定の範囲内となるように加工率を調整した、予加工としての冷間加工を行うことによって、プレス成形時の降伏伸びの発生を確実に抑制して、SSマーク、特にランダムマークの発生を確実に防止することが可能となる。
X線小角散乱測定は、各例とも共通して、(株)リガク製 水平型X線回折装置SmartLabを用い、波長1.54ÅのX線を用いて測定し、各例とも前記X線の散乱強度プロファイルを測定した。試験装置は、試験片表面に対して垂直にX線を入射し、入射X線に対して0.1〜10度の微小角度(小角)で、前記試験片から後方に散乱されるX線を検出器を用いて測定するものである。測定試料は、約80μmに薄片化し、測定を行った。このX線小角散乱測定は、通常のこの種組織の測定部位と同じく、この板の幅方向断面である。そして、前記調質直後の板の幅方向断面の任意の箇所から採取した5個の測定試験片(5箇所の測定箇所)の各測定値を平均化したものを、本発明で規定する、微細粒子の粒度分布における、平均粒子直径、体積分率(平均体積分率)と各々した。
前記試験片の機械的特性の調査として、引張試験を行い、引張強さ、伸びを各々測定した。試験条件は、圧延方向に対して直角方向のJISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を前記試験片から採取し、引張試験を行った。引張試験は、JISZ2241(1980)(金属材料引張り試験方法)に基づき、室温20℃で試験を行った。この際、クロスヘッド速度は5mm/分として、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
また、室温で保持した際の経時変化(室温時効硬化の影響)を評価するために、前記試験片を更に室温で1ヶ月保持した後に、同様の条件で引張試験を行い、前記調質処理(製造)直後からの、引張強さの増加量(室温時効硬化量)を求めた。この室温時効硬化量は少ないほど良いが、目安として、1ヶ月間当たりの引張強さの増加量が10MPa以下であることが好ましい。
SSマーク発生評価も、板を製造後に一定期間保管された上でプレス成形が行われることを考慮して、前記試験片を更に室温にて1ヶ月保持した後のSSマーク発生状態を評価した。この評価のために、前記試験片を室温にて1ヶ月保持した後に、前記した引張試験を行い、応力−歪曲線上の鋸歯状のセレーションが発生する歪み量(臨界歪み量:%)を調べた。ちなみに、本実施例では、実際に(直接的に)プレス成形しての、板のSSマーク(SSマーク発生)は確認していないが、このセレーション発生の臨界歪み量は、実際のプレス成形した場合のSSマークの発生状態に非常によく相関している。このように、SSマークの発生状態など、アルミニウム合金板の成形性を示す指標として、前記アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレーション発生の臨界歪みが8%以上であることが好ましい。この臨界歪み量εc(限界歪み量)の上限は特に限定するものではないが、製造上の限界などからすれば、20%程度と想定される。
アウタパネルで問題となる張出成形性の評価として、張出成形試験を行った。この張出成形試験も、板を製造後に一定期間保管された上でプレス成形が行われることを考慮して、前記試験片を更に室温にて1ヶ月保持した後に、直径101.6mmの球頭張出ポンチを用い、長さ180mm、幅110mmの試験片に潤滑剤としてスギムラ化学(株)製防錆洗浄油R−303Pを塗布し、成形速度4mm/S、しわ押さえ荷重200kN、ストローク20mmで張出成形試験を行い、割れの発生状態を目視観察した。そして、プレス成形時の割れが全く発生していないものを○、一部でも割れが発生しているものを×として評価した。
比較例9は溶体化処理温度が低すぎる。
比較例10は焼入れ処理の冷却速度が小さすぎる。
比較例11は焼入れ終了後から低温焼鈍開始までの、室温時効保持時間が短すぎる。
比較例12は低温焼鈍保持時間が短すぎる。
比較例13は低温焼鈍温度が低すぎる。
比較例14は低温焼鈍温度が高すぎる。
Claims (3)
- 質量%で、Mg:2.0〜6.0%、Cu:0.3%を超え、2.0%以下を含み、更に、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以下、Cr:0.1%以下、Zr:0.1%以下、Ti:0.05%以下の内から選ばれる一種また二種以上を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板であって、この板の組織とプレス成形性との関係を表す指標として、X線小角散乱法で測定された微細粒子の粒度分布の平均粒子直径が0.5nm以上、6.0nm以下であるとともに、その体積分率が0.03%以上であることを特徴とする成形加工用アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Zn:1.0%以下を含有する請求項1に記載の成形加工用アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板の成形性を示す指標として、前記アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレーション発生の臨界歪みが8%以上である請求項1または2に記載の成形加工用アルミニウム合金板。
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