JP5723245B2 - アルミニウム合金板 - Google Patents

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本発明は成形性に優れたAl−Mg系アルミニウム合金板に関するものである。本発明で言うアルミニウム合金板とは、熱間圧延板や冷間圧延板であって、溶体化処理および焼入れ処理などの調質が施されたアルミニウム合金板を言う。また、以下、アルミニウムをAlとも言う。
近年、地球環境などへの配慮から、自動車等の車両の軽量化の社会的要求はますます高まってきている。かかる要求に答えるべく、自動車パネル、特にフード、ドア、ルーフなどの大型ボディパネル(アウタパネル、インナパネル)の材料として、鋼板等の鉄鋼材料にかえてアルミニウム合金材料の適用が検討されている。
Al−Mg系のJIS5052合金やJIS5182合金等の5000系アルミニウム合金板(以下、Al−Mg系合金板とも言う)は、延性および強度に優れることから、従来から、これら大型ボディパネル用のプレス成形素材として使用されている。
しかし、特許文献1などに開示される通り、これらAl−Mg系合金板について引張試験を行なえば、応力−歪曲線上の降伏点付近で降伏伸びが生じる場合があり、また降伏点を越えた比較的高い歪量(例えば引張伸び2%以上)で応力−歪曲線に鋸歯状もしくは階段状のセレーション(振動)が生じる場合がある。これらの応力−歪曲線上の現象は、実際のプレス成形において、いわゆるストレッチャーストレイン(以下SSマークとも記す)の発生を招き、成形品である大型ボディパネル、特に外観が重要なアウタパネルにとって、商品価値を損なう大きな問題となる。
このSSマークは、公知のように、歪量の比較的低い部位で発生する火炎状の如き不規則な帯状模様のいわゆるランダムマークと、歪量の比較的高い部位で引張方向に対し、約50°をなすように発生する平行な帯状模様のパラレルバンドとに分けられる。前者のランダムマークは降伏点伸びに起因し、また後者のパラレルバンドは段落0004で記載した応力−歪曲線上のセレーション(振動)に起因することが知られている。
従来から、これらSSマークを解消する方法が種々提案されている。例えば、主な手法としては、Al−Mg系合金板の結晶粒をある程度粗大に調整する方法が知られている。ただ、このような結晶粒の調整方法は、SSマークのうちでも、段落0004で記載したパラレルバンドの発生防止には有効ではない。また、結晶粒が粗大になり過ぎれば、プレス成形において表面に肌荒れが発生するなど、却って別の問題が生じる。
また、別のSSマークの解消方法として、Al−Mg系合金板のO材(軟質材)もしくはT4処理材などの調質材に、大型ボディパネルへのプレス成形前に、予めスキンパス加工あるいはレベリング加工等の加工(予加工)を加えて、若干の歪み(予歪み)を与えておくことも知られている。ただ、このような予加工法でも、加工度が高くなりすぎた場合には、段落0004で記載した応力−歪曲線上のセレーション(振動)が生じやすくなり、実際のプレス成形時においても、幅の広い明瞭なパラレルバンドの発生につながりやすい。このため、予加工の加工度には大きな制約があり、加工度を小さくした場合には安定してランダムマークの発生を防止することができなくなる。したがって、この予加工法では、パラレルバンドの発生防止と、ランダムマーク発生防止との最適加工度が相反するために、これら両者を同時に防止することができない。
これに対して、前記した特許文献1では、ランダムマークの発生とともに、広幅のパラレルバンドの発生も抑制した、SSマークの発生が少ないAl−Mg系合金板の製法が提案されている。具体的には、Al−Mg系合金の圧延板に、急速冷却を伴なう特定条件での溶体化・焼入れ処理を施し、その後特定条件での予加工としての冷間加工を行ない、さらに特定条件での最終焼鈍を施す。そして、平均結晶粒径が55μm以下でかつ150μm以上の粗大結晶粒が実質的に存在しない最終板を得るものである。
ここで、Al−Mg系合金板の分野において、必ずしもSSマークの発生抑制には直接言及してはいないが、合金板の熱的変化を示差熱分析(DSC)により測定して得られた、室温からの加熱曲線の吸熱ピークの位置や、その高さを、その板のプレス成形性向上の指標とすることも公知である。
例えば、特許文献2では、Al−Mg系合金板の示差熱分析(DSC)により得られた、室温からの加熱曲線の特定位置の吸熱ピーク高さによって、プレス成形性向上の指標とすることが提案されている。この示差熱分析(DSC)は、特性に影響するクラスタ(金属間化合物)が、TEMなどのミクロ組織観察では判別や識別ができず、直接存在を裏付けることができない場合に、クラスタの有無などの組織的な違いを、前記加熱曲線の特定位置の吸熱ピーク位置や高さによって、間接的に裏付けたり、指標とするために、アルミニウム合金板の分野で汎用されている。
この特許文献2では、双ロール式連続鋳造によって製造された、8質量%を超える高MgのAl−Mg系合金板において、室温からの加熱曲線の50〜100℃の間の吸熱ピーク高さを50.0μW以上として、プレス成形性を向上させている。この吸熱ピーク高さは、Al−Mg系合金板組織中のβ相と称せられるAl−Mg系金属間化合物の存在形態(固溶、析出状態の安定性)を示していることを根拠としている。
しかし、最近の大型ボディパネル、特に外観が重要なアウタパネルでは、表面性状の要求レベルが更に厳しくなってきており、これら特許文献1あるいは特許文献2でも、このような要求に対しては、SSマーク発生の抑制策が不十分である。例えば、特許文献1では、階段状のセレーションを軽微にできるだけであり(特許文献1の実施例の階段状セレーション評価の説明に記載)、そのためSSマークの一つであるパラレルバンドは完全には抑制できない。
これに対して、特許文献3では、この点を改良し、ランダムマークの発生とともに、パラレルバンドの発生を同時に抑制でき、SSマークを抑制した、自動車パネルへのプレス成形などの成形性に優れたAl−Mg系アルミニウム合金板が提案されている。同文献では、Al−Mg系アルミニウム合金板に対して、特にZnを0.1〜4.0%含有させて、セレーション発生の臨界歪み量(限界歪み量)をより高くする。すなわち、AlとMgとによって形成されるクラスタ(超微細金属間化合物)の形成量を、Zn等の第3元素の含有や添加によって、Zn等も含むクラスタとして増大させ、これらクラスタによる限界ひずみ量増大効果をより一層高めるものである。そして、これによって、セレーションを抑制し、これに起因するパラレルバンドを抑制して、SSマークの発生を抑制するものである。
このZn等も含むクラスタが、ナノレベル以下の大きさで、10万倍程度のFE−TEMなどのミクロ組織観察では判別や識別できず、直接存在を裏付けることができない。このため、この特許文献3でも、前記特許文献2同様、クラスタの有無などの組織的な違いを、熱的変化を示差熱分析(DSC)により測定した、前記加熱曲線の特定位置の吸熱ピーク位置や高さによって、組織的な違いの指標としている。具体的には、Zn等も含むAl−Mgクラスタが、前記DSC加熱曲線の100〜150℃の間の吸熱ピークの要因であると推測し、この吸熱ピーク高さを200.0μW(マイクロワット)以上としている。
特開平7−224364号公報 特開2006−249480号公報 特開2010−77506号公報
しかし、本発明者らの知見によれば、Al−Mg系アルミニウム合金板において、この特許文献3のようにZnを多く含有した場合、室温での時効硬化が生じやすくなる、という新たな問題が生じる。これは、特許文献3がSSマーク発生抑制の切り札として生成させようとしている、Znによって形成されるクラスタ(超微細金属間化合物)が、室温で生じやすいことに起因すると推考される。すなわち、Zn含有量が多くなるほど、室温で形成される前記クラスタ量が増大し、結果として、室温での時効硬化が進みすぎるものと推考される。通常は、Al−Mg系アルミニウム合金板は、アルミ板メーカーで製造されてすぐに、自動車メーカーで大型ボディパネルなどに成形されるわけではなく、通常は数週間以上の間隔があくのが普通である。このため、例えば、板の製造から1カ月経過後に、大型ボディパネルなどに成形される場合には、時効硬化が著しく進んでしまい、曲げ性やプレス成形性が却って阻害される、という新たな(別な)問題が生じる。
周知の通り、熱処理型のAl−Zn−Mg系(7000系)アルミニウム合金板に比して、通常、Al−Mg系アルミニウム合金板は室温での時効硬化が生じにくい。しかし、このようなAl−Mg系アルミニウム合金板でも、特許文献3のように、Zn含有量を多くした場合には、7000系アルミニウム合金板と同じように、室温での時効硬化を示すようになる。
以上述べた課題に鑑み、本発明の目的は、室温での時効硬化による曲げ性の低下などの新たな問題が生じることなしに、前記降伏伸びに起因するランダムマークの発生とともに、パラレルバンドの発生を同時に抑制して、SSマーク発生を抑制でき、自動車パネルへのプレス成形性を向上させた、Al−Mg系アルミニウム合金板を提供することである。
この目的を達成するために、本発明のアルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Mg:2.0〜6.0%、Cu:0.3%を超え、2.0%以下を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板であって、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含む原子の集合体を1.4×104個/μm3以上、1×10 6 個/μm 3 以下の平均密度で含むことである。
本発明者らは、SSマークの発生抑制効果がある元素として、室温での時効硬化が生じやすいZnに代わり、Cuを選択した。このCuであれば、Znのように室温での時効硬化が生じることなしに、SSマークの発生抑制効果がある。
ただ、同じようにCuを含有しても、SSマークの発生抑制効果がない場合があり、例え同じCu含有量のAl−Mg系アルミニウム合金板(以下、Al−Mg−Cu系合金板とも言う)であっても、SSマークの発生抑制効果には大きな差があることも知見した。このことから、Cuを含むだけではなく、Al−Mg系アルミニウム合金板におけるCuの存在状態(組織状態)の違いが、SSマークの発生状態に大きく影響しているものと考えられる。
このCuの存在状態につき、更に検討した結果、本発明者らは、SSマークの発生抑制効果が、種々のCuの微細クラスタのうちでも、特定のCuの微細クラスタ(Cuを主とする微細クラスタ)の存在量や存在の有無に、大きく影響を受けているものと推考している。
しかし、この特定のCuのクラスタは、微細すぎて、通常の組織観察で直接、その存在が確認できるわけではない。このCuのクラスタは、前記特許文献2、3のAl−Mg系金属間化合物などと同じく、ナノレベル以下の微小な大きさであると推考される。したがって、通常の組織観察方法であるSEMやTEMの分析方法では、このCuのクラスタを特定することはできない。
これを踏まえ、本発明者らは、この新規な特定のCuのクラスタの存在を裏付けることができないか検討した。そして、100個未満の原子構造分析が可能な、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により、Cuを含有し、しかも特定条件の調質を施したAl−Mg系アルミニウム合金板の、原子数10個分程度の原子の集合体(クラスタ)の分析を試みた。即ち、SSマーク抑制性が優劣相異なる、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板につき、互いの原子の集合体の存在形態(存在状態)の違いを確かめた。
この結果、本発明が規定する原子の集合体の存在が確認でき、このCu原子を含む原子の集合体の存在状態によって、他の材料条件に互いに差が無い、Al−Mg系アルミニウム合金板同士のSSマーク抑制の効果が大きく異なることを発見した。すなわち、本発明が規定するCu原子を含む原子の集合体の密度が多いほど、SSマーク抑制効果が大きいことを見出した。ここで、他の材料条件に差が無いとは、SSマーク抑制効果が相異なる板の、互いの成分組成は勿論、通常のTEMやSEMなどの組織観察、あるいは抽出残渣法やX線回折などの分析によっても、互いに差が無いことを意味する。そして、本発明が規定するCu原子を含む原子の集合体の存在状態だけが互いに異なることを意味する。
このように、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板では、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された、Cu原子を含む原子の集合体の存在状態(平均密度)が、SSマーク抑制効果に影響(相関)する組織状態(新規なクラスタの存在状態)を表す。したがって、このCu原子を含む原子の集合体(以下、単に原子の集合体とも言う)の平均密度は、SSマーク特性にて代表されるプレス成形性との関係を表す指標となりうる。
本発明は、このように、Znのように室温での時効硬化が生じない、Cuを用いることによって、Al−Mg系アルミニウム合金板の組織を制御し、フリーMg原子の転位への移動を妨げて、Mgが拡散しにくい組織として、セレーションが発生しにくく、SSマーク性に優れたものとすることができる。
以下に、本発明の実施の形態につき、要件ごとに具体的に説明する。
(組織)
前記した通り、Al−Mg系アルミニウム合金板では、Cuを含有するとSSマークの発生抑制効果があるが、同じCuの含有量であっても、SSマークの発生抑制効果には大きな差がある。このことは、Cuを含むだけではなく、Al−Mg系アルミニウム合金板の組織状態、すなわち、Cuによって生成する微細クラスタの存在形態が、SSマークの発生状態に大きく影響していることを推測させる。
ただ、本発明が規定する微細クラスタ(原子の集合体)は、最大の個数として100個の原子からなったとしても、その大きさは、せいぜい50Å(オングストローム)程度の微小なものである。このようなCuの微細クラスタは、これを含むと推測される、SSマークが抑制されたAl−Mg系アルミニウム合金板の組織観察を行っても観察できなかった。具体的には、板組織における微細クラスタを測定するのに最も有効な、10万倍のTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて組織観察を行っても、SSマーク抑制効果に効く、新規な特定のCuの微細クラスタは観察できなかった。
また、例えば、添加元素の固溶量や析出物量を測定するために汎用される抽出残渣法でも、この新規な特定のCuの微細クラスタは観察できなかった。抽出残渣法は、最も小さな目開きサイズ0.1μm のフィルターによって、0.1μm 以下の微細なサイズの析出物か、0.1μm を越える粗大なサイズの析出物かは判別可能である。しかし、やはり、本発明が規定する100個未満の原子からなる原子の集合体は、到底判別できなかった。
これらの事実は、上記SSマーク性の優劣が相異なる板を、これらTEMやSEMなどの組織観察、あるいは抽出残渣法やX線回折などの分析を駆使して行っても、本発明が規定する原子の集合体の存在状態の違いまでは、とても検知できないことを意味する。
ただ、これらの事実は、逆に、これらTEMやSEMでも観察できないような、殆ど固溶状態と大差が無いくらいの微細Cuクラスタの存在が、SSマーク抑制に影響しているのではとの推測も生み出した。仮に、このような微細Cuクラスタが、Al−Mg系アルミニウム合金板組織中に存在すれば、プレス成形による変形の際のMgの拡散を妨げ、SSマーク発生の抑制効果があるのではないかと推測されるからである。
(3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡)
これら新規な微細Cuクラスタ=本発明が規定する原子の集合体は、公知の3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡(3DAP:3D Atom Probe Field Ion Microscope 、以下3DAPとも略記する)を用いてのみ、現時点では測定可能である。
この3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡による分析自体は、従来から、高密度化された磁気記録膜や電子デバイスの分析などに汎用されている。また、鋼材の分野でも組織分析に使用されている。例えば、特開2006−29786号公報では鋼材中の炭素含有微細析出物に含まれる元素の種類や量の分析に使用されている。また、特開2007−254766号公報では鋼材中の硫化物とFeとの界面のC量、N量の分析(原子/nm2 )にも使用されている。
また、銅合金分野では、本出願人自身が、特開2009−263690号公報として、この3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡を使用した、Cu−Fe−P系銅合金板の耐熱性向上のための原子集合体の規定による指標を提案している。すなわち、少なくともFe原子かP原子かのいずれかを含み、Fe原子とP原子との互いに隣り合う原子同士の距離が0.90nm以下である原子の集合体の平均密度を、Cu原子とFe原子とP原子との合計個数が15個以上、100個未満と規定している。
(3DAPの測定原理と測定方法)
3DAPは、電界イオン顕微鏡(FIM)に、飛行時間型質量分析器を取り付けたものである。このような構成により、電界イオン顕微鏡で金属表面の個々の原子を観察し、飛行時間質量分析により、これらの原子を同定することのできる局所分析装置である。また、3DAPは、試料から放出される原子の種類と位置とを同時に分析可能であるため、原子の集合体の構造解析上、非常に有効な手段となる。このため、公知技術として、前記した通り、磁気記録膜や電子デバイスあるいは鋼材の組織分析などに使用されている。
この3DAPでは、電界蒸発とよばれる高電界下における試料原子そのもののイオン化現象を利用する。試料原子が電界蒸発するために必要な高電圧を試料に印加すると、試料表面から原子がイオン化されこれがプローブホールを通りぬけて検出器に到達する。
この検出器は、位置敏感型検出器であり、個々のイオンの質量分析(原子種である元素の同定)とともに、個々のイオンの検出器に至るまでの飛行時間を測定することによって、その検出された位置(原子構造位置)を同時に決定できるようにしたものである。したがって、3DAPは、試料先端の原子の位置及び原子種を同時に測定できるため、試料先端の原子構造を、3次元的に再構成、観察できる特長を有する。また、電界蒸発は、試料の先端面から順次起こっていくため、試料先端からの原子の深さ方向分布を原子レベルの分解能で調べることができる。
この3DAPは高電界を利用するため、分析する試料は、金属等の導電性が高いことが必要で、しかも、試料の形状は、一般的には、先端径が100nmφ前後あるいはそれ以下の極細の針状にする必要がある。このため、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の板厚中央部などから試料を採取して、この試料を精密切削装置で切削および電解研磨して、分析用の極細の針状先端部を有する試料を作製する。測定方法としては、例えば、Imago Scientific Instruments 社製の「LEAP3000」を用いて、この先端を針状に成形したアルミニウム合金板試料に、1kVオーダーの高パルス電圧を印加し、試料先端から数百万個の原子を継続的にイオン化して行う。イオンは、位置敏感型検出器によって検出し、パルス電圧を印加されて、試料先端から個々のイオンが飛び出してから、検出器に到達するまでの飛行時間から、イオンの質量分析(原子種である元素の同定)を行う。
更に、電界蒸発が、試料の先端面から順次規則的に起こっていく性質を利用して、イオンの到達場所を示す、2次元マップに適宜深さ方向の座標を与え、解析ソフトウエア「IVAS」を用いて、3次元マッピング(3次元での原子構造:アトムマップの構築)を行う。これによって、試料先端の3次元アトムマップが得られる。
この3次元アトムマップを、更に、析出物やクラスタに属する原子を定義する方法であるMaximum Separation Methodを用いて、原子の集合体(クラスタ)の解析を行う。この解析に際しては、Cu原子の数と、互いに隣り合うCu原子同士の距離(間隔)、そして、前記特定の狭い間隔(1.0nm以下)を有するCu原子の数をパラメータとして与える。そして、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含むことを満たす、原子の集合体を、本発明の原子の集合体と定義する。その上で、この定義に当てはまる原子の集合体の分散状態を評価して、原子の集合体の数密度を、測定試料数が3個以上で平均化して、1μm3当たりの平均密度(個/μm3)として計測し、定量化する。
(3DAPによる原子の検出効率)
但し、これら3DAPによる原子の検出効率は、現在のところ、イオン化した原子のうちの50%程度が限界であり、残りの原子は検出できない。この3DAPによる原子の検出効率が、将来的に向上するなど、大きく変動すると、本発明が規定する原子の集合体の平均個数密度(個/μm3)の3DAPによる測定結果が変動してくる可能性がある。したがって、この原子の集合体の平均個数密度の測定に再現性を持たせるためには、3DAPによる原子の検出効率は約50%と略一定にすることが好ましい。
(原子の集合体の定義)
本発明で規定する原子の集合体(クラスタ)とは、このような3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含むことを満たす、原子の集合体である。
また、本発明で規定する前記原子の集合体は、Cu原子だけで構成されるとは限らず、このCu原子に加えて、非常に高い確率でAl原子を含む。また、このCu原子に加えて、他の元素として、特にSi原子などを含む場合もある。すなわち、本発明で規定する前記原子の集合体は、前記したCu原子の規定さえ満足すれば、他にどんな原子を含んでも良い。
更に、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金の成分組成によっては、合金元素や不純物として含む、Si、Fe、Mn、Cr、Zr、V、TiあるいはZnなどの原子が原子の集合体中に含まれ、これらその他の原子が3DAP分析によりカウントされる場合が必然的に生じる。しかし、これらその他の原子(合金元素や不純物由来)が原子の集合体に含まれるとしても、Cu原子の総数に比べると少ないレベルである。それゆえ、このような、その他の原子を集合体中に含む場合でも、隣合う他のCu原子との規定距離(間隔)と、これを満足するCu原子の個数の条件を満たすものは、本発明の原子の集合体として、Cu原子のみからなる原子の集合体と同様に機能する。
したがって、その他の原子を集合体中に含む場合でも、原子の集合体において、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子があれば、本発明の原子の集合体としてカウントする。そして、この条件を満たさない場合は、たとえCu原子同士が近接していても、本発明の原子の集合体とはせず、カウントしない。
本発明の原子の集合体における、原子同士の距離の規定は、前記した通り、特定の(基準となる)Cu原子に対して、隣り合う他の全ての原子の距離が各々全て1.0nm以下にならなくてもよく、反対に、各々全て1.0nm以下になっていてもよい。言い換えると、距離が1.0nmを超える他のCu原子や、Cu原子以外の他の原子が隣り合っていても良く、特定の(基準となる)Cu原子の周りに、この規定距離(間隔)を満たす、他のCu原子が最低1個あればいい。そして、この規定距離を満たす隣り合う他のCu原子が1個ある場合には、距離の条件を満たす、カウントすべきCu原子の数は、特定の(基準となる)Cu原子を含めて2個となる。また、この規定距離を満たす隣り合う他のCu原子が2個ある場合には、距離の条件を満たす、カウントすべきCu原子の数は、特定の(基準となる)Cu原子を含めて3個となる。
以上説明した、本発明のCu原子の集合体は、熱延板や冷延板の溶体化および焼入れ処理と、これに続く低温での長時間焼鈍とを組み合わせた調質(後述する)により生成するものと推考される。
(原子の集合体の平均密度)
本発明では、以上のように規定され、かつ3DAP分析により測定される原子の集合体を、1.0×104個/μm3以上の平均密度で、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板組織中に存在させる。すなわち、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含むことを満たす原子の集合体を、1.0×104個/μm3以上の平均密度で、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板組織中に存在させる。なお、本発明では、原子の集合体の平均密度の上限値は、特に限定するものではないが、製造上の限界などからすれば、1×106個/μm3程度が想定される。
これによって、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板のプレス成形性である、SSマークの発生を確実に抑制させることができる。即ち、原子の集合体が多いほど、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の原子空孔を、原子の集合体で閉塞(トラップ)させることができる。原子空孔の存在は、応力−歪曲線上のセレーションに起因するパラレルバンドの発生や伝播を促進させると推考される。このため、原子空孔が原子の集合体で閉塞されると、SSマークの発生や伝播が抑制される。また、これによって、降伏伸びの発生に起因するランダムマークの発生とともに、パラレルバンドの発生も同時に抑制できる。したがって、本発明によれば、SSマークの発生を総合的に抑制でき、プレス成形性を向上させることができる。
これに対して、この原子の集合体が1.0×104個/μm3未満の平均密度では、原子の集合体が少なすぎて、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の原子空孔に、Cu原子を拡散させて、閉塞(トラップ)させることができない。このため、原子空孔が多くはそのまま残り、この原子空孔による、SSマークの発生や伝播の促進作用を止めることができずに、SSマークの発生を十分抑制させることができなくなる。
ここで、本発明の原子の集合体が、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含むことを満たすこととしたのは、この個数が5個未満では、原子の集合体のサイズが小さすぎて、原子空孔の閉塞(トラップ)効果が小さくなるからである。一方で、原子の集合体における、このCu原子の個数を100個以上の多数とすることは、そのサイズが大きくなりすぎてSSマーク発生の抑制効果が小さくなる。したがって、このCu原子の個数は、好ましくは、5個以上、100個未満の範囲となる。
(ランダムマークの発生防止)
本発明では、SSマークのうち、降伏伸びの発生によるランダムマークの発生も防止できる。したがって、このランダムマークの発生防止のために、従来の予歪み(予加工)を与える対策も不要となる。言い換えると、従来の予歪み(予加工)を与えずとも、歪量の比較的低い部位で発生するランダムマークと、歪量の比較的高い部位で発生するパラレルバンドとの、両方のストレッチャーストレインマーク(SSマーク)の発生を十分に抑制できる。
本発明は、自動車パネル用素材板として、特に外観が重要なアウタパネルでの表面性状の要求レベルが更に厳しくなった場合でも、降伏伸びに起因するランダムマークの発生とともに、応力−歪曲線上でのセレーションに関連するパラレルバンドの発生を、同時に抑制できる。この結果、自動車パネル用素材板の性能を大きく向上できる。
(化学成分組成)
本発明アルミニウム合金板の化学成分組成は、基本的に、Al−Mg系合金であるJIS5000系に相当するアルミニウム合金とする。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
本発明は、特に、自動車パネル用素材板として、プレス成形性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性を満足する必要がある。このため本発明合金板は、5000系アルミニウム合金の中でも、質量%で、Mg:2.0〜6.0%、Cu:0.3%を超え、2.0%以下を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板とする。なお、元素含有量は全て質量%である。
更に、不純物元素としてのZnは、前記した通り、室温での時効硬化が生じて曲げ性やプレス成形性を低下させる原因となるので、極力含まないようにする。また、仮に含んでも、質量%で1.0%以下、好ましくは0.6%以下、より好ましくは0.1%以下に規制する。
Mg:2.0〜6.0%
Mgは、加工硬化能を高め、自動車パネル用素材板としての必要な強度や耐久性を確保する。また、材料を均一に塑性変形させて破断割れ限界を向上させ、成形性を向上させる。Mgの含有量が0.5%未満では、強度や耐久性が不十分となる。一方、Mgの含有量が7.0%を越えると、板の製造が困難となり、しかもプレス成形時に、却って粒界破壊が発生しやすくなり、プレス成形性が著しく低下する。したがってMgの含有量は2.0〜6.0%、好ましくは2.4〜5.7%の範囲とする。
Cu:0.3%を超え、2.0%以下
Cuは、前記したCuを主体とする原子の集合体(微細クラスタ)を形成して、Znと違い、板を室温時効硬化させることなく、プレス成形の際のSSマークの発生を抑制するものと推測される。Cuが0.3%以下と少なすぎる場合は、Cuを主体とするクラスタの生成量が不足して、プレス成形の際のSSマークの発生抑制効果発揮が不十分となる。一方、Cuの含有量が2.0質量%を越えれば、粗大な晶出物や析出物の生成量が多くなり、破壊の起点になりやすく、却ってプレス成形性を低下させる。Cuの含有量は0.3%を超え、2.0%以下の範囲内とし、好ましくは0.5〜1.5%の範囲内である。
Cu/Mg:0.05〜1
ここで、Cuの前記添加効果を発揮させるためには、CuのMgに対する含有量の比:Cu/Mgを、好ましくは0.05〜1とする。この比の上限値と下限値とは、互いの前記含有量の、上限値と下限値同士あるいは好ましい上限値と下限値同士の比から算出されるものであり、好ましくは0.08〜0.8の範囲とする。
その他の元素
その他の元素は、Fe、Si、Mn、Cr、Zr、Tiなどが例示される。これらの元素は、溶解原料としてアルミニウム合金スクラップ量(アルミニウム地金に対する割合)が増すほど含有量が多くなる不純物元素である。即ち、Al合金板のリサイクルの観点から、溶解原料として、高純度アルミニウム地金だけではなく、5000系合金やその他のAl合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用した場合には、これら元素の混入量(含有量)が必然的に多くなる。これら元素を例えば検出限界以下などに敢えて低減することは製造コストを押し上げるので、5000系アルミニウム合金の通常の規格(上限量)と同程度の含有の許容(上限値の規定)が必要となる。この点で、前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以下、Cr:0.1%以下、Zr:0.1%以下、Ti:0.05%以下の内から選ばれる一種また二種以上を含有することを許容する。また、Tiに付随して混入しやすいB(ボロン)をTiの含有量未満の範囲で含有することを許容する。
(製造方法)
本発明の板の製造方法について、以下に具体的に説明する。
本発明では、溶体化処理前までの圧延工程までは、5182、5082、5083、5056などのMgを4.5%程度含む、成形用Al−Mg系合金の通常の製造工程による製造方法で製造可能である。即ち、鋳造(DC鋳造法や連続鋳造法)、均質化熱処理、熱間圧延の通常の各製造工程を経て製造され、板厚が1.5〜5.0mmであるアルミニウム合金熱延板とされる。この段階で製品板としても良く、また冷間圧延前もしくは冷間圧延の中途において1回または2回以上の中間焼鈍を選択的に行ないつつ、更に冷延して、板厚が1.5mm以下の冷延板の製品板としても良い。
溶体化処理(最終焼鈍)
本発明の組織を有する板とするためには、以上のようにして得られた所要の板厚のこれら熱延板あるいは冷延板に対して、先ず、急速加熱や急速冷却を伴う溶体化・焼入れ処理を行う。このような溶体化・焼入れ処理を行った材料、いわゆるT4処理(調質)材は、比較的緩やかな加熱や冷却を伴うバッチ焼鈍材と比較して、強度と成形性とのバランスに優れる。また、溶体化処理に続く焼入れ処理時には原子空孔が導入される。
ここで、溶体化処理温度の適正値は、具体的な合金組成によって異なるが、450℃以上570℃以下の範囲内とする必要がある。また、この溶体化処理温度での保持は180秒(3分)以内とする必要がある。溶体化処理温度が450℃未満では合金元素の固溶が不十分となって強度・延性等が低下する恐れがある。一方、溶体化処理温度が570℃を越えれば、結晶粒が過度に粗大化して成形性の低下や成形時の肌荒れの発生が問題となる。また溶体化処理温度での保持時間が180秒を越えれば、結晶粒の過度の粗大化による、成形性の低下や成形時の肌荒れ発生などの問題が生じる。
焼入れ処理
この溶体化処理後の焼入れ処理時は、板の温度が溶体化温度から、続く低温焼鈍温度まで、20℃/秒以上の冷却速度で冷却する必要がある。冷却速度が20℃/秒未満では、冷却中に粗大な析出物が生成して、この後に低温焼鈍を加えて最終板としても、原子の集合体(微細クラスタ)の生成量が不足してSSマークが発生する。これら急速加熱や急速冷却を伴う溶体化・焼入れ処理は、連続焼鈍ライン(CAL)等を用いて連続的に行っても良いし、あるいは加熱にソルトバス等を、冷却に水焼入れ、油焼入れ、強制空冷等を用いてバッチ式で行っても良い。ここで、CALを用いた溶体化処理・焼入れを実施した場合、室温〜溶体化処理温度までの一般的な加熱および冷却の速度はともに5〜100℃/秒程度である。
低温焼鈍
この焼入れ処理(急冷)に続いて、50℃以上100℃以下の範囲で24時間以上保持する低温焼鈍を、連続して行う。このためには、板の温度が50℃以上100℃以下の範囲となったところで、焼入れ処理(急冷)における冷却を停止し、この50℃以上100℃以下の温度範囲で、そのまま、板(コイル)を24時間以上保持する。ここで、50℃未満での保持時間が200秒以内であれば、焼入れ処理と低温焼鈍の間に板が50℃未満になっても良い。
このように、溶体化・焼入れ処理後に、連続的に低温焼鈍を行うことが、本発明の板として、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含む原子の集合体を、1.0×104個/μm3以上の平均密度で含むために重要である。
この低温焼鈍の50〜100℃という温度は、通常のより高温の時効析出温度に比して著しく低温である。これは、低い焼鈍温度の方が、溶体化焼入れ処理後の過飽和固溶度が大きくなるため、超微細なクラスタが安定的に形成されるためである。この低温焼鈍温度が100℃を超えて高すぎると、粗大なMg−Cu系析出物が低密度に分散するため、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含む原子の集合体が、1.0×104個/μm3以上の平均密度とならない。また、結晶粒界などでMgやCuその他の合金添加元素を含む第二相粒子の粗大化が生じて延性、成形性あるいは耐食性の低下を招く。
また、この低温焼鈍温度が50℃未満であったり、例え適正な50〜100℃の温度範囲であっても、保持時間が24時間未満であると、原子の拡散が不十分となる。このため、いずれの場合も、超微細なクラスタの形成量が不十分で、低温焼鈍の効果が不足する。
溶体化・焼入れ処理後に、板を室温まで冷却せずに、連続的にこの低温焼鈍を行うためには、板温が50〜100℃になったところで強制空冷やミスト等の強制冷却(急冷)を停止するか、浴温が50〜100℃の温水浴か油浴に浸漬して冷却(急冷)する。そして、その後、板やコイルをそのまま速やかに、炉内に移すかカバーして温度保持するか、板を再加熱後に炉内に移すかカバーして温度保持し、50〜100℃の範囲でこの低温焼鈍を施す。
なお、この溶体化処理・焼入れ処理後に、板の形状制御や残留応力除去のために、スキンパスを行ったり、テンションレベラー通板を行ってもよい。その後の付加焼鈍あるいは時効処理は、SSマーク発生抑制効果からして不要であり、本発明では行わない。
このような溶体化処理・焼入れ処理と低温焼鈍との特殊な組み合わせによって、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の組織を本発明で規定する原子の集合体とすることができる。すなわち、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含む原子の集合体が、1.0×104個/μm3以上の平均密度で含むものとできる。そして、これによって、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の限界ひずみ量増大効果を高めて、応力−歪曲線上のセレーションを抑制し、これに起因するパラレルバンドを抑制して、ストレッチャーストレインマークの発生を抑制できる。また、SSマークのうち、降伏伸びの発生によるランダムマークの発生も防止できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
次に、本発明の実施例を説明する。表1に示す発明例、比較例の各組成のAl−Mg系合金板を製造し、表2(表1の続き)に示す条件で調質、製造した後、この調質後の板の組織、機械的な特性を各々測定、評価した。これらの結果も表2に示す。なお、表1における元素含有量の「−」表記は、その元素の含有量が検出限界以下であることを示す。
熱延板や冷延板の各製造方法(条件)は、各例とも同じ共通条件で行った。即ち、ブックモールド鋳造によって鋳造した50mm厚の鋳塊を、480℃で8時間の均質化熱処理を行い、その後400℃にて熱間圧延を開始した。板厚は、3.5mmの熱延板とした。この熱延板を、1.35mmの板厚まで冷間圧延を行った後に、硝石炉にて400℃、10秒の中間焼鈍を行い、さらに冷間圧延して1.0mm厚の冷延板とした。
これら冷延板を、表2に示す通り、溶体化処理および焼入れ処理、その後の連続する低温焼鈍処理を、各々条件を種々変えて行った。この低温焼鈍は、焼入れ処理を浴温が50〜100℃の油浴に浸漬して行い、板温が50〜100℃へ到達後に、板を室温まで冷却せずに、50〜100℃に保持した炉内に移して温度保持し、この低温焼鈍を施した。なお、溶体化処理および焼入れ処理後の、予歪みを与える冷間加工としてのスキンパスや、その後の室温時効処理、人工時効処理などは行っていない。
これら低温焼鈍処理後の板から試験片(1mm厚み)を切り出し、室温時効の影響がない(無視できる)、低温焼鈍処理後(最終板を作製してから)24時間以内に、この試験片(調質直後の板)の3DAP測定、組織、機械的な特性を各々測定、評価した。
(3DAPによる組織測定)
3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡と分析解析ソフトとを用いた測定方法(段落0037〜0043に詳述した測定方法)により、本発明で規定した原子の集合体の平均密度を測定した。
(機械的特性)
前記板の機械的特性の調査として、引張試験を行い、引張強さ、伸びを各々測定した。試験条件は、圧延方向に対して直角方向のJISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、引張試験を行った。引張試験は、JISZ2241(1980)(金属材料引張り試験方法)に基づき、室温20℃で試験を行った。この際、クロスヘッド速度は5mm/分として、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
(室温での経時変化後の板の特性)
また、室温で保持した際の経時変化(室温時効硬化の影響)を評価するために、前記調質処理(製造)してから1ヶ月間、上記各試験片を室温で保持した後に、同様の条件で引張試験を行い、前記調質処理(製造)直後からの、引張強さの増加量(室温時効硬化量)を求めた。
(SSマーク発生評価)
同様に、前記室温保持1ヶ月経過後の板のプレス成形性としてのSSマーク発生評価のために、前記室温保持1ヶ月後の引張試験時における、降伏伸び(%)と、前記応力−歪曲線上の鋸歯状のセレーションが発生する歪み量(臨界歪み量:%)を調べた。ちなみに、本実施例では、実際に(直接的に)プレス成形しての、板のSSマーク性(SSマーク発生)は確認していないが、このセレーション発生の臨界歪み量は、実際のプレス成形した場合のSSマーク性に、非常によく相関している。このため、本発明では、前記アルミニウム合金板のSSマーク性(成形性)を示す指標として、前記アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレーション発生の臨界歪みを好ましくは8%以上とする。このセレーション発生の臨界歪みは高いほど良く、本発明ではその上限は特に規定しない。ただ、前記アルミニウム合金板の製造限界からすると、この臨界歪みの上限は概ね20%程度である。
(プレス成形性評価)
アウタパネルで問題となる張出成形性の評価として、張出成形試験を行った。張出成形試験は、最終板を作製してから1ヶ月後に、直径101.6mmの球頭張出ポンチを用い、長さ180mm、幅110mmの試験片に潤滑剤としてスギムラ化学(株)製防錆洗浄油R−303Pを塗布し、成形速度4mm/S、しわ押さえ荷重200kN、ストローク20mmで張出成形試験を行い、割れの発生状態を目視観察した。そして、プレス成形時の割れが全く発生していないものを○、一部でも割れが発生しているものを×として評価した。
表1の通り、発明例1〜9は、Cuを含有し、Znを含有しないか規制しており、本発明のAl−Mg系アルミニウム合金組成規定を満足する。また、表2の通り、前記した溶体化処理・焼入れ処理と低温焼鈍との特殊な組み合わせの、好ましい製造条件で製造されている。この結果、Cuを含むAl−Mg系アルミニウム合金板の組織を本発明で規定する原子の集合体とすることができている。すなわち、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含む原子の集合体が、1.0×104個/μm3以上の平均密度で含むものとできている。
これによって、各発明例は、前記調質処理(製造)直後からの引張強さの増加量(室温時効硬化量)が小さく、SSマーク特性を含めたプレス成形性に優れている。すなわち、アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレーション発生の臨界歪みが8%以上であり、高いものは10%以上であり、前記張出成形試験でも割れは発生していない。しかも、これらの優れたSSマーク特性を、JIS5052合金やJIS5182合金等の5000系アルミニウム合金板の有する引張強さや伸びなどの、優れた機械的な特性レベルを落とすことや室温時効硬化すること無しに、達成できている。
但し、許容量ではあるが、Znを0.6%と比較的多く含有する発明例9は、0.02%と少ない含有量である発明例5や、Znを含有しない他の発明例に比して、許容範囲ではあるが、室温時効硬化量が大きくなっている。
一方、比較例10〜14は、発明例3と同じ合金組成でありながら、表2の通り、調質条件が好ましい範囲から各々外れている。
比較例10は溶体化処理温度が低すぎる。
比較例11は焼入れ処理での急冷における冷却速度が低すぎる。
比較例12は低温焼鈍温度が低すぎる。
比較例13は低温焼鈍温度が高すぎる。
比較例14は低温焼鈍での保持時間が短すぎる。
この結果、比較例10〜14は、本発明で規定するCu原子の集合体を下限(1.0×104個/μm3)未満の平均密度しか含んでいない。このため、強度や伸びなどの機械的な特性は発明例と大差ないものの、アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレーション発生の臨界歪みが8%未満と低く、SSマーク特性が発明例に比して著しく低い。すなわち、前記セレーションが起きやすい組織となっている。
比較例15〜18は、表1、2の通り、調質条件は好ましい範囲ではあるが、合金組成が発明範囲を外れている。比較例15はCuを含有せず、比較例16はCu含有量が少なすぎる。比較例17はMg含有量が多すぎる。比較例18はZn含有量が多すぎる。
この結果、Cuの効果が発揮できない比較例15、16は、溶体化処理・焼入れ処理と低温焼鈍との組み合わせの好ましい条件で製造されているにもかかわらず、本発明で規定するCu原子の集合体を含まないか、下限(1.0×104個/μm3)未満の平均密度しか含んでいない。このため、室温時効硬化量は少ないものの、強度も低く、アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレーション発生の臨界歪みが8%未満と低く、SSマーク特性は発明例に比して著しく低い。すなわち、前記セレーションが起きやすい組織となっている。
比較例17も、室温時効硬化量は少ないものの、強度が高すぎ、伸びが低く、プレス成形時に割れが生じて、プレス成形性が発明例に比して低い。
比較例18は、Znが多すぎるために、室温時効硬化量が許容範囲を超えて大きくなり、プレス成形時に割れが生じて、プレス成形性が発明例に比して低い。
以上の実施例から、本発明各要件あるいは好ましい製造条件などの、SSマーク特性やプレス成形性あるいは機械的特性などを兼備するための、臨界的な意義が裏付けられる。
Figure 0005723245
Figure 0005723245
以上説明したように、本発明によれば、室温での時効硬化による曲げ性の低下などの新たな問題が生じることなしに、前記降伏伸びに起因するランダムマークの発生とともに、パラレルバンドの発生を同時に抑制して、SSマーク発生を抑制でき、自動車パネルへのプレス成形性を向上させた、Al−Mg系アルミニウム合金板を提供できる。この結果、板をプレス成形して使用される、前記した自動車などの多くの用途へのAl−Mg系アルミニウム合金板の適用を広げるものである。

Claims (4)

  1. 質量%で、Mg:2.0〜6.0%、Cu:0.3%を超え、2.0%以下を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金板であって、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、隣り合う他のCu原子との距離のうちの少なくとも1つが1.0nm以下であるCu原子を5個以上含む原子の集合体を1.4×104個/μm3以上、1×10 6 個/μm 3 以下の平均密度で含むことを特徴とするアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Fe:0.5%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以下、Cr:0.1%以下、Zr:0.1%以下、Ti:0.05%以下の内から選ばれる一種また二種以上を含有する請求項1に記載の成形性に優れたアルミニウム合金板。
  3. 前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Zn:1.0%以下含有する請求項1または2に記載の成形性に優れたアルミニウム合金板。
  4. 前記アルミニウム合金板の成形性を示す指標として、前記アルミニウム合金板の応力−歪曲線上のセレーション発生の臨界歪みが8%以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板。
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