JP6190308B2 - 成形性と焼付け塗装硬化性とに優れたアルミニウム合金板 - Google Patents

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Description

本発明はAl−Mg−Si系アルミニウム合金板に関するものである。本発明で言うアルミニウム合金板とは、熱間圧延板や冷間圧延板などの圧延板であって、溶体化処理および焼入れ処理などの調質が施された後であって、プレス成形や焼付け塗装硬化処理される前のアルミニウム合金板を言う。また、以下の記載ではアルミニウムをアルミやAlとも言う。
近年、地球環境などへの配慮から、自動車等の車両の軽量化の社会的要求はますます高まってきている。かかる要求に答えるべく、自動車の大型ボディパネル構造体(アウタパネル、インナパネル)の材料として、鋼板等の鉄鋼材料にかえて、成形性や焼付け塗装硬化性に優れた、より軽量なアルミニウム合金材の適用が増加しつつある。
この自動車の大型ボディパネル構造体の内、フード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのアウタパネル(外板) にも、薄肉でかつ高強度アルミニウム合金板として、Al−Mg−Si系のAA乃至JIS 6000系 (以下、単に6000系とも言う) アルミニウム合金板の使用が検討されている。
この6000系アルミニウム合金板は、Si、Mgを必須として含み、特に過剰Si型の6000系アルミニウム合金は、これらSi/Mgが質量比で1以上である組成を有し、優れた時効硬化能を有している。このため、自動車の前記アウタパネルへのプレス成形や曲げ加工時には、低耐力化により成形性を確保する。そして、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効( 硬化) 処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、パネルとしての必要な強度を確保できる、焼付け塗装硬化性(以下、ベークハード性=BH性、焼付硬化性とも言う) がある。
一方、自動車の前記アウタパネルは、周知の通り、アルミニウム合金板に対し、プレス成形における張出成形時や曲げ成形などの成形加工が複合して行われて製作される。例えば、フードやドアなどの大型のアウタパネルでは、張出などのプレス成形によって、アウタパネルとしての成形品形状となされ、次いで、このアウタパネル周縁部のフラットヘムなどのヘム (ヘミング) 加工によって、インナパネルとの接合が行われ、パネル構造体とされる。
ここで、6000系アルミニウム合金は、優れたBH性を有するという利点がある反面で、室温時効性を有し、溶体化焼入れ処理後の室温保持で時効硬化して強度が増加することにより、パネルへの成形性、特に曲げ加工性が低下する課題があった。例えば、6000系アルミニウム合金板を自動車パネル用途に用いる場合、アルミメーカーで溶体化焼入れ処理された後(製造後)、自動車メーカーでパネルに成形加工されるまでに、1ヶ月間程度室温におかれ(室温放置され)、この間で、かなり時効硬化(室温時効)することとなる。特に、厳しい曲げ加工が入るアウタパネルにおいては、製造直後では、問題無く成形可能であっても、1ヶ月経過後では、ヘム加工時に割れが生じるなどの問題が有った。したがって、自動車パネル用、特にアウタパネル用の6000系アルミニウム合金板では、1ヶ月間程度の比較的長期に亙る室温時効を抑制する必要がある。このような室温時効が大きい場合には、BH性が低下して、前記した成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効(硬化) 処理時の加熱によっては、パネルとしての必要な強度までに、耐力が向上しなくなるという問題も生じる。
従来から、6000系アルミニウム合金板の組織、特に含有元素が形成する化合物(晶出物、析出物)の観点から、成形性やBH性の向上、あるいは室温時効の抑制を図るなどの特性向上について、種々の提案がなされている。更に、最近では、特に、6000系アルミニウム合金板のBH性や室温時効性に影響する原子の集合体(クラスタ)を制御する試みも提案されている(特許文献1〜3)。
このうち、特許文献1では、BH性や室温時効性に影響するクラスタ(原子の集合体)を、板の組織をそのまま直接的に、100万倍の透過型電子顕微鏡によって分析し、観察されるクラスタ(原子の集合体)の内、円等価直径が1〜5nmの範囲のクラスタの平均数密度を一定の範囲で規定して、BH性に優れ、室温時効を抑制したものとしている。
これに対して、特許文献2、3では、特許文献1のように直接クラスタ(原子の集合体)を観察するのではなく、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により、高電界下で一旦イオン化(電界蒸発)させた板の原子の位置情報から、解析によって再構築された板の原子構造において定義される原子の集合体を規定している。より具体的には、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含み、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下である条件を満たす原子の集合体を制御している。すなわち、この条件を満たす原子の集合体の、平均数密度や、大きさの分布あるいは割合を規定している。
また、本発明におけるSnの添加に関係する先行特許としても、6000系アルミニウム合金板にSnを積極的に添加し、室温時効を抑制と焼付け塗装硬化を向上させる方法も多数提案されている(特許文献4、5)。
特開2009−242904号公報 特開2012−193399号公報 特開2013−60627号公報 特開平09-249950号公報 特開平10-226894号公報
しかし、これら従来のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板でも、長時間の室温時効後の良好な成形性と高いBH性とを兼備するためには、未だ改善の余地があった。
自動車の前記各種のアウタパネルは、デザイン性の点で、ひずみのない美しい曲面構成とキャラクターラインを実現させることが必要である。このような要求は、軽量化のために、成形が難しくなる高強度アルミニウム合金板素材の採用に伴って、年々厳しくなっている。このため、近年益々、より成形性に優れたアルミニウム合金板が求められている。しかし、前記した従来のDSCによる組織制御では、このような要求に応えることができなくなっている。
例えば、このようなアウタパネルへの高強度アルミニウム合金板の適用を難しくしている一因として、アウタパネル独特の形状の問題がある。アウタパネルには、把手座やランプ座、ライセンス (ナンバープレート) 座などの、器具や部材を装着したり、ホイールアーチを描くような、所定深さの凹部(張出部、エンボス部)が部分的に設けられる。
このような凹部を、その凹部形状周囲の連続した曲面を含めてプレス成形した場合には、面歪み(面ひずみ)が発生しやすく、前記したひずみのない美しい曲面構成とキャラクターラインを実現させることが難しい。したがって、前記アウタパネルには、素材板の成形時に、この面歪みの発生を抑制することが必須となる。
なお、このような面歪みの問題は、前記した凹部(張出部)だけの問題ではなく、ドアアウタパネルのくら型部、フロントフェンダの縦壁部、リアフェンダのウインドコーナー部、トランクリッドやフードアウタのキャラクターラインの消滅部、リアフェンダピラーの付け根部など、面歪みを生じるような凹部 (張出部) を一部に有するような、自動車パネルに共通する課題である。
このような課題に対して、前記面歪みの発生を抑制した成形性向上のためには、プレス成形される際の(製造後に室温時効)板の0.2%耐力を110MPa以下に低くするとともに、引張強度と降伏強度の比(0.2%耐力/引張強度)である降伏比を低くすることが望まれる。しかし、このように成形時の耐力を低下させると、焼付け塗装硬化処理(以下、ベークハード、BHとも言う)された後の0.2%耐力を190MPa以上、焼付け塗装硬化による0.2%耐力増加量で100MPa以上とすることが難しくなる。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、自動車パネル成形時の0.2%耐力を110MPa以下に低くするとともに、降伏比を0.50未満に低くした上で、BH後の0.2%耐力を190MPa以上とすることが可能な、成形性と焼付け塗装硬化性を兼備し、高BH性化と低降伏比化とを両立させたアルミニウム合金板を提供することを目的とする。
この目的を達成するために、本発明の成形性と焼付け塗装硬化性とに優れたアルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Mg:0.3〜1.0%、Si:0.5〜1.5%、Sn:0.005〜0.3%を各々含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、熱フェノールによる残渣抽出法により分離された溶液中のMg+Siの固溶量が、1.0質量%以上、2.0質量%以下であり、
かつ、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、
Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含み、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下である条件を満たす原子の集合体について、
これらの原子集合体の総体積として、個々の原子の集合体を各々球と見なした際のギニエ半径rから算出される個々の原子の集合体の体積Vi(=4/3πr 3)を合計した総体積ΣViの、前記3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された前記アルミニウム合金板の体積VAlに占める平均体積分率(ΣVi/VAl)×100が0.3〜1.5%の範囲であるとともに、
前記原子集合体の総体積ΣViのうち、前記ギニエ半径rが1.5nm以上である原子の集合体の体積V1.5以上を合計した総体積ΣVi1.5以上の占める平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100が20〜70%である、
こととする。
本発明では、先ず、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の前記したアウタパネルへの成形性(以下、このプレス成形性を代表してヘム加工性とも言う)を確保するために、この成形時の板の0.2%耐力を110MPa以下に低くするとともに、降伏比を0.50未満に低くすることを狙いとしている。
このために、本発明では、Mg、Siなどの合金組成とともに、MgとSiの固溶量も制御している。また、Snを添加して、前記成形性を確保しつつ、BH性を高めている。Snは、後述する通り、Mg+Siの固溶量を増しても、低降伏比化を阻害する原子集合体の体積分率を低くして、高BH性化と低降伏比化とを両立させる重要な効果がある。
また、本発明では、更に、板の成形時の降伏比を確実に0.50未満に低くできるように、このような手段に加えて、Mg−Si原子の集合体の制御として、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された、原子の集合体のサイズ分布を規定する。
ここで、本発明で言う3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体とは、前記特許文献2、3測定方法を含めて公知の原子の集合体であり、前記特許文献1のように、高倍率のTEMによって、板の組織中でのサイズや存在形態を、板の組織そのままの状態で、直接観察した原子の集合体(クラスタ)ではない。言い換えると、測定方法の詳細を後述する通り、前記特許文献2、3と同じく、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により、高電界下で一旦イオン化(電界蒸発)された板の原子の、飛行時間と位置から解析されて再構築された、3次元の原子構造(3次元アトムマップ)における、原子の集合体である。そして、この3次元の原子構造において、請求項1で規定する一定の条件を満たすものとして定義された(原子集合体であると見なされた)原子の集合体である。
本発明では、降伏比を0.50未満に低くするために、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された、原子の集合体のサイズ分布として、前記Mg原子かSi原子かを含み原子の互いの距離が0.75nm以下である条件を満たす原子の集合体の割合を、体積分率として一定の範囲に規制する。その上で、更に、これらの原子の集合体のうちの、前記ギニエ半径rが1.5nm以上である、比較的大きな原子の集合体の割合を、体積分率として、一定の範囲に多くする。
この結果、本発明によれば、Snを添加した上で、自動車パネル成形時の0.2%耐力を110MPa以下に低くするとともに、降伏比を0.50未満に低くした上で、BH後の0.2%耐力を190MPa以上とすることが可能な、成形性と焼付け塗装硬化性を兼備したアルミニウム合金板を提供することができる。
以下に、本発明の実施の形態につき、要件ごとに具体的に説明する。
(化学成分組成)
先ず、本発明のAl−Mg−Si系(以下、6000系とも言う)アルミニウム合金板の化学成分組成について、以下に説明する。本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板は、前記した自動車の外板用の板などとして、優れた成形性やBH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求されるので、組成の面からもこれらの要求を満たすようにする。その上で、本発明では、Snを含有させて、製造後の板の室温時効を抑制して、パネル成形時の0.2%耐力を110MPa以下に低くするとともに、降伏比を0.50未満に低くして、自動車のパネル構造体の、特に面歪が問題となるような自動車パネルなどへの成形性を向上させる。それとともに、焼付け塗装硬化後の0.2%耐力を190MPa以上とすることを、組成の面から可能とする。
このような要求を満足するために、アルミニウム合金板の組成は、量%で、Mg:0.3〜1.0%、Si:0.5〜1.5%、Sn:0.005〜0.3%を各々含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとする。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
本発明では、これらMg、Si、Sn以外のその他の元素は不純物あるいは含まれても良い元素であり、AA乃至JIS規格などに沿った各元素レベルの含有量 (許容量) とする。
すなわち、資源リサイクルの観点から、本発明でも、合金の溶解原料として、高純度Al地金だけではなく、Mg、Si以外のその他の元素を添加元素(合金元素)として多く含む6000系合金やその他のアルミニウム合金スクラップ材、低純度Al地金などを多量に使用した場合には、下記のような他の元素が必然的に実質量混入される。そして、これらの元素を敢えて低減する精錬自体がコストアップとなり、ある程度の含有を許容することが必要となる。また、これらの元素を実質量含有しても、本発明目的や効果を阻害しない有用な含有範囲がある。
したがって、本発明では、このような下記元素を各々以下に規定するAA乃至JIS 規格などに沿った上限量以下の範囲での含有を許容する。
具体的には、前記アルミニウム合金板が、更に、Fe:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Mn:0.4%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、V:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.1%以下(但し、0%を含まず)、Cu:0.4%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)、Zn:1.0%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を、この範囲で、上記した基本組成に加えて、更に含んでも良い。
なお、これらの元素を含有する場合、Cuは含有量が多いと耐食性を劣化させやすいので、好ましくはCuの含有量を0.3%以下とする。また、Mn、Fe、Cr、Zr、Vは、含有量が多いと比較的粗大な化合物を生成しやすく、本発明で課題とするヘム加工性(ヘム曲げ性)を劣化させやすい。このため、Mn含有量は、好ましくは0.35%以下、Cr、Zr、V含有量は、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下と各々する。
上記6000系アルミニウム合金における、各元素の含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に順に説明する。
Si:0.5〜1.5%
Siは、SiはMgとともに、塗装焼き付け処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車パネルとして必要な強度(耐力)を得るための必須の元素である。また、固溶Siは加工硬化能を向上させる元素であり、固溶することで引張強度と降伏強度の比(0.2%耐力/引張強度)である降伏比を0.50未満に低下させる効果がある。
Si含有量が少なすぎると、人工時効硬化処理後の析出物量が少なくなりすぎ、焼付け塗装時の強度増加量が低くなるとともに、固溶Si量も少なくなって、降伏比が0.50を超えて大きくなりすぎてしまう。一方Si含有量が多すぎると、不純物のFeなどと粗大な晶出物を形成してしまい、曲げ加工性などの成形性を著しく低下させてしまう。また、Si含有量が多すぎると、板の製造直後の強度だけでなく、製造後の室温時効量も高くなり、成形前の強度が高くなりすぎて、自動車のパネル構造体の、特に面歪が問題となるような自動車パネルなどへの成形性が低下してしまう。したがって、Siの含有量は0.5〜1.5%の範囲とする。
パネルへの成形後の、より低温、短時間での塗装焼き付け処理での優れた時効硬化能を発揮させるためには、Si/ Mgを質量比で1.0以上とし、一般に言われる過剰Si型よりも更にSiをMgに対し過剰に含有させた6000系アルミニウム合金組成とすることが好ましい。
Mg:0.3〜1.0%
Mgも、Siとともに本発明で規定する前記原子の集合体形成の重要元素であり、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとしての必要耐力を得るための必須の元素である。また、Siと同じく、固溶Mgは加工硬化能を向上させる元素であり、固溶することで引張強度と降伏強度の比(0.2%耐力/引張強度)である降伏比を0.50未満に低下させる効果がある。
Mg含有量が少なすぎると、人工時効硬化処理後の析出物量が少なくなりすぎ、焼付け塗装時の強度増加量が低くなるとともに、固溶Mg量も少なくなって、降伏比が0.50を超えて大きくなりすぎてしまう。一方、Mg含有量が多くなりすぎると、不純物のFeなどと粗大な晶出物を形成してしまい、曲げ加工性などの成形性を著しく低下させてしまう。また、Mg含有量が高すぎると、板の製造直後の強度だけでなく、製造後の室温時効量も高くなり、成形前の強度が高くなりすぎて、自動車のパネル構造体の、特に面歪が問題となるような自動車パネルなどへの成形性が低下してしまう。したがって、Mgの含有量は0.3〜1.0%の範囲とする。
Sn:0.005〜0.3%
Snは、後述するMg+Siの固溶量を増しても、パネル成形時の0.2%耐力を増加させる原子集合体の体積分率を低くして、高BH性化と低降伏比化とを両立させる重要な効果がある。一般的に、Mg+Siの固溶量を増すためには、板に含有させるMgなりSiなりの量を増加させることが有効である。しかし、これらMgやSiの板の含有量を増加させると、パネル成形時の0.2%耐力を増加させ、かつ低降伏比化を阻害する原子集合体の体積分率も増加してしまうため、高BH性化と低耐力化と低降伏比化の両立は、従来の組成や製法では難しかった。これに対して、本発明は、Snを前記範囲で含有させることで、Mg+Siの固溶量を増してBH性を高めても、低降伏比化を阻害する原子集合体を抑制でき、高BH性化と低耐力化と低降伏比化とを両立させることができる。
また、Snは、室温においては、原子空孔を捕獲(捕捉、トラップ)することで、室温でのMgやSiの拡散を抑制し、室温における強度増加(室温時効硬化)を抑制し、板のパネルへの成形時に、ヘム加工性や絞り加工や張出加工などのプレス成形性(以下、このプレス成形性を代表してヘム加工性とも言う)を向上させる効果がある。そして、パネルの塗装焼き付け処理などの人工時効処理時には捕獲していた空孔を放出するため、逆にMgやSiの拡散を促進し、BH性を高くすることができる。
Sn含有量が0.005%よりも少ないと、前記したMg+Siの固溶量を増しても、低降伏比化を阻害する原子集合体の体積分率を低くして、高BH性化と低降伏比化とを両立させる効果や、前記した室温時効硬化の抑制効果を発揮できない。一方で、Sn含有量が0.3%よりも多いと、Snが粒界に偏析し、粒界割れの原因となりやすい。なお、Sn含有量の好ましい下限値は0.01%である。Sn含有量の好ましい上限値は0.2%、さらには0.1%、より好ましくは0.06%である。
(Mg+Siの固溶量)
以上のような組成とした上で、本発明では、BH性を高めるために、更に、板が含有するMgとSiとの合計の固溶量(Mg+Siの固溶量)を増加させ、1.0質量%以上、2.0質量%以下の一定の範囲で確保する。Mg+Siの固溶量が1.0質量%未満では、前記組成としてもBH性を確保できない。このMg+Siの固溶量が多いほどBH性が向上するが、MgとSiと含有量と固溶量には前記した組成や製造上の制約もあり、また固溶量が多すぎると、前記した原子集合体の体積分率が増加し、パネル製経時の耐力および降伏比が大きくなる問題もあり、上限は2.0質量%とする。
板のMg+Siの固溶量の測定は、熱フェノールによる残渣抽出法により、測定対象となる板の試料を溶解し、メッシュを0.1μmとしたフィルターにより固液をろ過分離し、分離された溶液中のMgとSiとの合計含有量を、Mg+Siの固溶量とみなす。
熱フェノールによる残渣抽出法は、具体的に次のように行う。先ず、分解フラスコにフェノールを入れて加熱した後、測定対象となる各供試板試料を、この分解フラスコに移し入れて加熱分解する。次に、ベンジルアルコールを加えた後、前記フィルターにより吸引ろ過して、固液をろ過分離し、分離された溶液中のMgとSiとの合計含有量を定量分析する。この定量分析には、原子吸光分析法(AAS)や誘導結合プラズマ発光分析法(ICP−OES)などを適宜用いる。前記吸引ろ過には、前記した通り、メッシュ(捕集粒子径)が0.1μmでφ47mmのメンブレンフィルターを用いる。この測定と計算は、供試板の板幅方向の中央部1箇所と、この中央部からの板幅方向の両端部2箇所の計3箇所から採取した各試料3個について行い、これら各試料のMg+Siの固溶量(質量%)を平均化する。
(原子の集合体)
以上のような組成、組織とした上で、本発明では、更に、6000系アルミニウム合金板の組織について、降伏比を0.50未満に低くし、またBH性も保証するために、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された、MgとSiとの原子の集合体のサイズ分布を制御する。これによって、前記したSnの効果だけでなく、板の組織中における原子集合体(クラスタ)を制御して、高BH性化と低降伏比化とを両立させる。
(原子の集合体の定義)
但し、効果の欄で記載した通り、本発明では、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡の原理に基づく測定および解析によって規定される幾つかの条件(要件)を満たすものを、原子の集合体と定義している。すなわち、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により、高電界下で一旦イオン化(電界蒸発)された板の原子の、飛行時間と位置から解析されて再構築された、3次元の原子構造(3次元アトムマップ)において、本発明で規定する幾つかの条件(要件)を満たすものを、原子の集合体と定義している。
したがって、本発明で規定する原子の集合体は、前記特許文献1のように、高倍率のTEM(透過型電子顕微鏡)にて、板の組織をそのままの状態で直接観察して測定されるような、6000系アルミニウム合金板における実在の原子の集合体(クラスタ)ではない。しかし、前記高倍率のTEMにて直接観察されるような、6000系アルミニウム合金板における実在の原子の集合体(クラスタ)の存在状態とは深く相関している。このため、本発明における原子の集合体の測定は、いわば間接的あるいは模擬的であったとしても、低降伏比化や高BH性化に大きく影響する、これら実在の原子の集合体(クラスタ)の存在形態とは良く相関し、低降伏比化や高BH性化を組織(原子集合体)の面から保証する目安となるものである。
ここで、測定の対象となる板は、溶体化処理および焼入れ処理などの調質が施された後であって、プレス成形や焼付け塗装硬化処理される前の6000系アルミニウム合金板とし、この板の任意の板厚中央部における組織を、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定する。
(原子の集合体としての満たすべき条件)
本発明において原子の集合体であると定義される(みなされる)ための条件(前提条件)を以下に説明する。
本発明における原子の集合体としての満たすべき条件は、前記特許文献2、3と同じである。先ず、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むものとする。なお、この原子の集合体に含まれるMg原子やSi原子の個数の上限は特に規定しないが、製造限界からすると、この原子の集合体に含まれるMg原子やSi原子の個数の上限は概ね10000個程度である。
そして、さらに、これら原子の集合体に含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下であるものを原子の集合体とする。この互いの距離0.75nmは、技術的意味合いは十分には明らかになっていないが、MgやSiの互いの原子間の距離が近接して、低降伏比化や高BH性化に大きく影響するサイズの原子の集合体や、その体積分率を再現性良く規定するために、実験的に定めた値である。
本発明で規定する原子の集合体は、Mg原子とSi原子とを両方含む場合が最も多いものの、Mg原子を含むがSi原子を含まない場合や、Si原子を含むがMg原子を含まない場合を含む。また、Mg原子やSi原子だけで構成されるとは限らず、これらに加えて、非常に高い確率でAl原子を含む。
更に、アルミニウム合金板の成分組成によっては、合金元素や不純物として含む、Fe、Mn、Cu、Cr、Zr、V、Ti、ZnあるいはAgなどの原子が原子の集合体中に含まれ、これらその他の原子が3DAP分析によりカウントされる場合が必然的に生じる。しかし、これらその他の原子(合金元素や不純物由来)が原子の集合体に含まれるとしても、Mg原子やSi原子の総数に比べると少ないレベルである。それゆえ、このような、その他の原子を原子の集合体中に含む場合でも、前記規定(条件)を満たすものは、本発明の原子の集合体として、Mg原子やSi原子のみからなる原子の集合体と同様に機能する。したがって、本発明で規定する原子の集合体は、前記した規定さえ満足すれば、他にどんな原子を含んでも良い。
また、本発明の「これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下である」とは、原子の集合体に存在する全てのMg原子やSi原子が、その周囲に互いの距離が0.75nm以下であるMg原子やSi原子を少なくとも1つ有しているという意味である。
本発明の原子の集合体における、原子同士の距離の規定は、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちの全ての原子の距離が各々全て0.75nm以下にならなくてもよく、反対に、各々全て0.75nm以下になっていてもよい。言い換えると、距離が0.75nmを超える他のMg原子やSi原子が隣り合っていても良く、特定の(基準となる)Mg原子かSi原子の周りに、この規定距離(間隔)を満たす、他のMg原子かSi原子が最低1個あればいい。
そして、この規定距離を満たす隣り合う他のMg原子かSi原子が1個ある場合には、距離の条件を満たす、カウントすべきMg原子かSi原子の数は、特定の(基準となる)Mg原子かSi原子を含めて2個となる。また、この規定距離を満たす隣り合う他のMg原子かSi原子が2個ある場合には、距離の条件を満たす、カウントすべきMg原子かSi原子の数は、特定の(基準となる)Mg原子かSi原子を含めて3個となる。
(原子の集合体の制御)
先ず、本発明では、以上説明した、Mg原子、Si原子の個数や原子間距離などの一定の条件を満たす原子集合体の総体積として、個々の原子の集合体を各々球と見なした際のギニエ半径rから算出される個々の原子の集合体の体積Vi(=4/3πr 3)を合計した総体積ΣViを求める。そして、この総体積ΣViの、前記3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された前記アルミニウム合金板の体積VAlに占める平均体積分率(ΣVi/VAl)×100を0.3〜1.5%の範囲に制御する。
更に、本発明では、前記原子の集合体の体積分率の制御に加えて、前記条件を満たす原子の集合体のうちの、前記原子集合体の総体積ΣViのうち、前記ギニエ半径rが1.5nm以上である原子の集合体の総体積ΣVi1.5以上の占める平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)を20〜70%の範囲に制御する。すなわち、前記条件を満たす個々の原子の集合体をギニエ半径r1.5nmにて区分けし、ギニエ半径rが1.5nm以上である個々の原子の集合体の体積Vi1.5以上を合計した総体積ΣVi1.5以上の、前記原子集合体の総体積Vに占める平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100を20〜70%の範囲に制御する。
ここで、また、ギニエ半径(Guinier radius)rは、前記条件を満たす原子の集合体の、個々の原子の集合体を各々球と見なした際の、個々の原子の集合体が有する回転半径lのうちで最大となるものを、その原子の集合体の回転半径lとし、この回転半径lから後述する式により換算される半径である。そして、このギニエ半径の定義や後述する算出方法は、前記特許文献2、3によって公知である。
これらの組織制御によって、前記組成の制御と合わせて、6000系アルミニウム合金板の自動車パネル成形時の0.2%耐力を110MPa以下に低くするとともに、降伏比を0.50未満に低くした上で、BH後の0.2%耐力を190MPa以上とすることが可能となる。
前記条件を満たす原子の集合体の前記平均体積分率(ΣVi/VAl)×100が0.3%未満では、高BH性化や低降伏比化に効く、ギニエ半径rが1.5nm以上の比較的大きな原子の集合体の絶対数が不足する。このため、前記組成を満足しても、前記高BH性化や低降伏比化が達成できない。一方、前記平均体積分率(ΣVi/VAl)×100が1.5%を超えても、前記原子との互いの距離が0.75nm以下であるなどの条件を満たす原子の集合体の数が多すぎて、パネル成形時の0.2%耐力の低減および低降伏比化が図れなくなる。
また、高BH性化や低降伏比化に効く、ギニエ半径rが1.5nm以上である比較的大きな原子の集合体の平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100が20%未満でも、これら原子の集合体の絶対数が不足し、前記組成を満足しても、また、前記条件を満たす原子の集合体の平均体積分率が前記規定を満たしても、低降伏比化が達成できない。一方、ギニエ半径rが1.5nm以上である比較的大きな原子の集合体の個数や割合は多いほど、低降伏比化が図れるが、平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100を、70%を超えて大きくすることは製造上困難であり、製造限界からこの70%を上限とする。
(3DAPの測定原理と測定方法)
3DAPの測定原理と測定方法も前記特許文献1〜3によって公知である。すなわち、3DAP(3次元アトムプローブ)は、電界イオン顕微鏡(FIM)に、飛行時間型質量分析器を取り付けたものである。このような構成により、電界イオン顕微鏡で金属表面の個々の原子を観察し、飛行時間質量分析により、これらの原子を同定することのできる局所分析装置である。また、3DAPは、試料から放出される原子の種類と位置とを同時に分析可能であるため、原子の集合体の構造解析上、非常に有効な手段となる。このため、公知技術として、前記した通り、磁気記録膜や電子デバイスあるいは鋼材の組織分析などに使用されている。また、最近では、前記した通り、アルミニウム合金板の組織の原子の集合体の判別などにも使用されている。
この3DAPでは、電界蒸発とよばれる高電界下における試料原子そのもののイオン化現象を利用する。試料原子が電界蒸発するために必要な高電圧を試料に印加すると、試料表面から原子がイオン化されこれがプローブホールを通りぬけて検出器に到達する。
この検出器は、位置敏感型検出器であり、個々のイオンの質量分析(原子種である元素の同定)とともに、個々のイオンの検出器に至るまでの飛行時間を測定することによって、その検出された位置(原子構造位置)を同時に決定できるようにしたものである。したがって、3DAPは、試料先端の原子の位置及び原子種を同時に測定できるため、試料先端の原子構造を、3次元的に再構成、観察できる特長を有する。また、電界蒸発は、試料の先端面から順次起こっていくため、試料先端からの原子の深さ方向分布を原子レベルの分解能で調べることができる。
この3DAPは高電界を利用するため、分析する試料は、金属等の導電性が高いことが必要で、しかも、試料の形状は、一般的には、先端径が100nmφ前後あるいはそれ以下の極細の針状にする必要がある。このため、測定対象となるアルミニウム合金板の板厚中央部などから試料を採取して、この試料を精密切削装置で切削および電解研磨して、分析用の極細の針状先端部を有する試料を作製する。測定方法としては、例えば、Imago Scientific Instruments 社製の「LEAP3000」を用いて、この先端を針状に成形したアルミニウム合金板試料に、1kVオーダーの高パルス電圧を印加し、試料先端から数百万個の原子を継続的にイオン化して行う。イオンは、位置敏感型検出器によって検出し、パルス電圧を印加されて、試料先端から個々のイオンが飛び出してから、検出器に到達するまでの飛行時間から、イオンの質量分析(原子種である元素の同定)を行う。
更に、電界蒸発が、試料の先端面から順次規則的に起こっていく性質を利用して、イオンの到達場所を示す、2次元マップに適宜深さ方向の座標を与え、解析ソフトウエア「IVAS」を用いて、3次元マッピング(3次元での原子構造:アトムマップの構築)を行う。これによって、試料先端の3次元アトムマップが得られる。
この3次元アトムマップを、更に、析出物や原子の集合体に属する原子を定義する方法であるMaximum Separation Methodを用いて、原子の集合体(原子の集合体)の解析を行う。この解析に際しては、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方の数(合計で10個以上)と、互いに隣り合うMg原子かSi原子か同士の距離(間隔)、そして、前記特定の狭い間隔(0.75nm以下)を有するMg原子かSi原子かの数をパラメータとして与える。
そして、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含み、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下であり、これらの条件を満たす原子の集合体を、本発明の原子の集合体と定義する。その上で、この定義に当てはまる原子の集合体の分散状態を評価して、原子の集合体の数密度を、測定試料数が3個以上で平均化して、1m3当たりの平均密度(個/m3)として計測し、定量化する。
すなわち、前記3DAPが元々有する固有の解析ソフトによって、測定対象となった前記原子の集合体を球と見なした際の、最大となる回転半径lを下記数1の式により求める。
Figure 0006190308
この数1の式において、lは3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡の固有のソフトウエアにより自動的に算出される回転半径である。x、y、zは3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡の測定レイアウトにおいて不変のx、y、z軸である。x、y、zは、このx、y、z軸の長さで、前記原子の集合体を構成するMg、Si原子の空間座標である。「x」「y」「z」の上に各々「−」が乗った「エックスバー」なども、このx、y、z軸の長さだが、前記原子の集合体の重心座標である。nは前記原子の集合体を構成するMg、Si原子の数である。
次に、個々の原子の集合体が有する回転半径lのうちで最大となるものを、その原子の集合体の回転半径lとして、ギニエ半径rに、下記数2の式、r=√(5/3)・lの関係により換算する。そして、この換算されたギニエ半径rを原子の集合体の半径とみなす。
Figure 0006190308
これに基づいて、前記条件を満たす個々の原子の集合体の体積Vi(=4/3πr 3)を合計して総体積ΣViを求める。そして、前記電界蒸発した(電界蒸発により消失した)針状試料の体積を、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定されたアルミニウム合金板の体積VAlとして、これに占める前記原子の集合体の総体積の平均体積分率(ΣVi/VAl)×100を求める。また、前記原子の集合体の総体積Vに占める、ギニエ半径rが1.5nm以上である原子の集合体の総体積ΣVi1.5以上の、平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100も求める。これら3DAPによる原子の集合体の平均体積分率の測定は、前記調質が施された後の6000系アルミニウム合金板の任意の板厚中央部の部位10箇所について行い、これらの前記各測定値(算出値)を平均化する。
前記した原子の集合体の半径の算出式、回転半径lからギニエ半径rまでの測定および換算方法は、M. K. Miller: Atom Probe Tomography, (Kluwer Academic/Plenum Publishers, New York, 2000)、 184頁 を引用した。ちなみに、原子の集合体の半径の算出式は、これ以外にも、多くの文献に記載されている。例えば「イオン照射された低合金鋼のミクロ組織変化」(藤井克彦、福谷耕司、大久保忠勝、宝野和博ら)の140頁「(2)3次元アトムプローブ分析」には、前記数1の式やギニエ半径rへの換算式を含めて記載されている(但し回転半径lの記号はrと記載されている)。
(3DAPによる原子の検出効率)
これら3DAPによる原子の検出効率は、現在のところ、イオン化した原子のうちの50%程度が限界であり、残りの原子は検出できない。この3DAPによる原子の検出効率が、将来的に向上するなど、大きく変動すると、本発明が規定する各サイズの原子の集合体の平均個数密度(個/μm3 )の3DAPによる測定結果が変動してくる可能性がある。したがって、この測定に再現性を持たせるためには、3DAPによる原子の検出効率は約50%と略一定にすることが好ましい。
(製造方法)
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化焼入れなどの調質処理が施されて製造される。
但し、これらの製造工程中で、本発明の3DAPで規定する原子の集合体などの組織を得るためには、後述する通り、溶体化後の焼入れ処理の平均冷却速度の制御に加えて、焼入れ処理後の予備時効処理条件を、好ましい範囲とする。なお、他の工程においても、本発明で規定する組織を得るための好ましい条件もある。このような好ましい条件としなければ、本発明の組織を得ることが難しくなる。
(溶解、鋳造冷却速度)
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。ここで、本発明で規定する、円相当直径が0.3μm以上の化合物の数密度とし、Snを含む化合物の個数(平均個数)の割合とするためには、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを30℃/分以上と、できるだけ大きく(速く)することが好ましい。
このような、鋳造時の高温領域での温度(冷却速度)制御を行わない場合、この高温領域での冷却速度は必然的に遅くなる。このように高温領域での平均冷却速度が遅くなった場合、この高温領域での温度範囲で粗大に生成する晶出物の量が多くなって、鋳塊の板幅方向,厚さ方向での晶出物のサイズや量のばらつきも大きくなり、前提として必要な、6000系アルミニウム合金板の、強度や伸びなどの基本的な機械的性質を低下させる。
(均質化熱処理)
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。この目的を達成する条件であれば、特に限定されるものではなく、通常の1回または1段の処理でも良い。
均質化熱処理温度は、500℃以上で融点未満、均質化時間は4時間以上の範囲から適宜選択される。この均質化温度が低いと結晶粒内の偏析を十分に無くすことができず、これが破壊の起点として作用するために、伸びフランジ性や曲げ加工性が低下する。この後、直ちに熱間圧延を開始又は、適当な温度まで冷却保持した後に熱間圧延を開始しても良い。
この均質化熱処理を行った後、300℃〜500℃の間を20〜100℃/hrの平均冷却速度で室温まで冷却し、次いで20〜100℃/hrの平均加熱速度で350℃〜450℃まで再加熱し、この温度域で熱間圧延を開始することもできる。
この均質化熱処理後の平均冷却速度および、その後の再加熱速度の条件を外れると、粗大なMg−Si化合物が形成される可能性が高くなり、前提として必要な、6000系アルミニウム合金板の、強度や伸びなどの基本的な機械的性質が低下する。
(熱間圧延)
熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊 (スラブ) の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
この際、熱延(粗圧延)開始温度が固相線温度を超える条件では、バーニングが起こるため熱延自体が困難となる。また、熱延開始温度が350℃未満では熱延時の荷重が高くなりすぎ、熱延自体が困難となる。したがって、熱延開始温度は350℃〜固相線温度、更に好ましくは400℃〜固相線温度の範囲とする。
(熱延板の焼鈍)
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は必ずしも必要ではないが、結晶粒の微細化や集合組織の適正化によって、成形性などの特性を更に向上させる為に実施しても良い。
(冷間圧延)
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板 (コイルも含む) に製作する。但し、結晶粒をより微細化させるためには、パス数に関わらず、合計の冷間圧延率は60%以上であることが望ましい。
(溶体化および焼入れ処理)
冷間圧延後、溶体化処理と、これに続く、室温までの焼入れ処理を行う。この溶体化焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインによる加熱,冷却でよく、特に限定はされない。ただ、各元素の十分な固溶量を得ること、および前記した通り、結晶粒はより微細であることが望ましいことから、520℃以上、溶融温度以下の溶体化処理温度に、加熱速度5℃/秒以上で加熱して、0.1〜10秒保持する条件で行うことが望ましい。
また、成形性やヘム加工性を低下させる粗大な粒界化合物形成を抑制する観点から、溶体化処理温度から、室温の焼入れ停止温度までの平均冷却速度を3℃/s以上とすることが望ましい。溶体化処理後の室温までの焼入れ処理の冷却速度が小さいと、冷却中に粗大なMg2Siおよび単体Siが生成してしまい、成形性が劣化してしまう。また溶体化後の固溶量が低下し、BH性が低下してしまう。この冷却速度を確保するために、室温までの焼入れ処理は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段や条件を各々選択して用いる。
(予備時効処理:再加熱処理)
このような溶体化処理後に焼入れ処理して室温まで冷却した後、1時間(60分)以内のできるだけ短時間内に、冷延板を予備時効処理(再加熱処理)する。
室温までの焼入れ処理終了後、予備時効処理開始(加熱開始)までの室温保持時間が1時間を超えて長すぎると、前記Mg原子、Si原子の個数や原子間距離の条件を満たす原子の集合体の総体積を平均体積分率で、1.5%以下に規制できなくなる。また、同時に、比較的大きいクラスタも生成しにくく、前記条件を満たす原子の集合体のうちで、ギニエ半径rが1.5nm以上である原子の集合体の平均体積分率を20%以上に多くできなくなる。この結果、BH性が低下し、低降伏比化も難しくなる。したがって、この室温保持時間は短いほど良く、溶体化および焼入れ処理と再加熱処理とが、時間差が殆ど無いように連続していても良く、下限の時間は特に設定しない。
この予備時効処理では、予備時効温度までの昇温速度と予備時効温度範囲での保持時間を制御する。このうち、昇温速度は、前記した強度に寄与しない小さな原子の集合体の生成を抑制するために、1℃/s以上、好ましくは5℃/s以上のできるだけ大きな(速い)昇温速度とすることが好ましい。昇温速度が1℃/sよりも小さいと、強度に寄与しない小さな原子の集合体が多く生成してしまい、前記条件を満たす原子の集合体のうちで、ギニエ半径rが1.5nm以上である原子の集合体の平均体積分率を20%以上に多くできなくなる。この結果、BH性が低下し、低降伏比も難しくなる。
また、予備時効処理の温度と保持時間は、60〜120℃の温度範囲で、10hr以上、40hr以下保持するものとする。この時、この60〜120℃での温度保持を、この温度範囲で、一定の温度あるいは昇温、除冷により温度を順次変えた熱処理としても良い。要は、徐冷や昇温などで連続的に温度が変化しても、60〜120℃の温度域に、前記10hr以上、40hr以下保持されていれば良い。
予備時効温度が60℃未満、または保持時間が10hr未満であると、析出核の生成が不十分であり、前記条件を満たす原子の集合体のうちで、ギニエ半径rが1.5nm以上である原子の集合体の平均体積分率を20%以上に多くできなくなる。この結果、BH性が低下する。
一方、予備時効温度が120℃を超えるか、または、保持時間が40hrを超えると、この予備時効処理での析出核の生成量を多くしすぎることになる。このため、却って、強度に寄与する、サイズが比較的大きい原子の集合体が減少して、前記条件を満たす原子の集合体の平均体積分率が1.5%を超えて多くなり、成形時の板の降伏比を0.50未満に低くできなくなる。
すなわち、予備時効処理を、これらの好ましい条件範囲内としないと、自動車パネル成形時の板の0.2%耐力を110MPa以下に低くするとともに、降伏比も0.50未満に低くする一方で、BH後の0.2%耐力を190MPa以上とすることが難しくなる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
次に本発明の実施例を説明する。本発明で規定する組織が異なる6000系アルミニウム合金板を、溶体化および焼入れ処理後の予備時効処理の条件を変えて作り分けて製造した。そして、板製造後室温に30日間保持後の、BH性(塗装焼付け硬化性)、プレス成形性の指標としてのAs耐力や、曲げ加工性としてのヘム加工性を各々測定、評価した。
前記組織の作り分けは、表1に示す組成の6000系アルミニウム合金板を、表2、3に示すように、溶体化処理後の焼入れ処理の平均冷却速度や、その後の予備時効処理の温度や保持時間などの条件を種々変えて行った。ここで、表1中の各元素の含有量の表示において、各元素における数値をブランクとしている表示は、その含有量が検出限界以下であることを示す。
アルミニウム合金板の具体的な製造条件は以下の通りとした。表1に示す各組成のアルミニウム合金鋳塊を、DC鋳造法により共通して溶製した。この際、各例とも共通して、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを50℃/分とした。続いて、鋳塊を、各例とも共通して、540℃×6時間の1段のみの均熱処理をした後、500℃に再加熱して熱間粗圧延を開始した。そして、各例とも共通して、続く仕上げ圧延にて、厚さ3.5mmまで熱延し、熱間圧延板とした。熱間圧延後のアルミニウム合金板を、各例とも共通して、500℃×1分の荒焼鈍を施した後、冷延パス途中の中間焼鈍無しで加工率70%の冷間圧延を行い、厚さ1.0mmの冷延板とした。
更に、この各冷延板を、各例とも共通して、連続式の熱処理設備で巻き戻し、巻き取りながら、連続的に調質処理(T4)した。具体的には、溶体化処理を、500℃までの平均加熱速度を10℃/秒として、560℃の目標温度に到達後10秒保持して行い、その後、表2、3に示す各平均冷却速度となるように水冷あるいは空冷を行うことで室温まで冷却した。この冷却後、室温にて表2に示す所要時間後に、大気炉およびオイルバスを用い、表2、3に示す、昇温速度、到達温度、平均冷却速度、保持時間にて予備時効処理を行った。なお、この予備時効処理後の冷却は、平均冷却速度を変えるために、水冷あるいは徐冷(放冷)を行った。
これら調質処理後30日間室温放置した後の各最終製品板から供試板 (ブランク) を切り出し、各供試板の前記組織や特性を測定、評価した。これらの結果を表2、3に示す。
(組織)
前記した測定方法により、板のMg+Siの固溶量や3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体の各体積分率などを測定および解析して求めた。なお、表2、3では、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された各原子の集合体の平均体積分率(%)を「3DAP測定原子の集合体の平均体積分率(%)と略記している。
また、表2、3では、この欄に記載の「原子の集合体の平均体積分率」のうち、前記本発明で規定する条件を満たす原子の集合体の総体積ΣViの、前記電界蒸発した針状試料の体積VAlに占める、平均体積分率(ΣVi/VAl)×100を求めた(表2、3ではΣVi/VAl×100と記載)。また、前記原子の集合体の総体積ΣViに占める、ギニエ半径rが1.5nm以上である原子の集合体の総体積ΣVi1.5以上の平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100も求めた(表2、3ではΣVi1.5以上/ΣVi×100と記載)。
(塗装焼付硬化性)
前記調質処理後30日間室温放置した後の各供試板の機械的特性として、0.2%耐力(As耐力)を引張試験により求めた。また、これらの各供試板を各々共通して、30日間の室温時効させた後に、170℃×20分の人工時効硬化処理した後(BH後)の、供試板の0.2%耐力(BH後耐力)を引張試験により求めた。そして、これら0.2%耐力同士の差(耐力の増加量)から各供試板のBH性を評価した。
前記引張試験は、前記各供試板から、各々JISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、室温にて引張り試験を行った。このときの試験片の引張り方向を圧延方向の直角方向とした。引張り速度は、0.2%耐力までは5mm/分、耐力以降は20mm/分とした。機械的特性測定のN数は5とし、各々平均値で算出した。なお、前記BH後の耐力測定用の試験片には、この試験片に、板のプレス成形を模擬した2%の予歪をこの引張試験機により与えた後に、前記BH処理を行った。
(ヘム加工性)
ヘム加工性は、前記調質処理後7日間または100日間室温放置後の各供試板についてのみ行った。試験は、30mm幅の短冊状試験片を用い、ダウンフランジによる内曲げR1.0mmの90°曲げ加工後、1.0mm厚のインナを挟み、折り曲げ部を更に内側に、順に約130度に折り曲げるプリヘム加工、180度折り曲げて端部をインナに密着させるフラットヘム加工を行った。
このフラットヘムの曲げ部(縁曲部)の、肌荒れ、微小な割れ、大きな割れの発生などの表面状態を目視観察し、以下の基準にて目視評価した。下記の基準で、0〜2までが合格ライン、3以上が不合格である。
0;割れ、肌荒れ無し、1;軽度の肌荒れ、2;深い肌荒れ、3;微小表面割れ、4;線状に連続した表面割れ
表1の合金番号0〜11を用いた、表2の番号0、1、8、13、表3の16〜23の各発明例は、本発明成分組成範囲内で、かつ好ましい条件範囲で製造されるとともに、溶体化焼き入れ処理や予備時効処理を含めた調質処理も好ましい条件で行なわれている。このため、これら各発明例は、表2、3に示す通り、本発明で規定する組織条件を満たしている。すなわち、前記Mg+Siの固溶量が1.0質量%以上、2.0質量%以下であり、かつ前記本発明で規定する条件を満たす原子の集合体の総体積ΣViの、前記電界蒸発した針状試料の体積VAlに占める、平均体積分率(ΣVi/VAl)×100が0.3〜1.5%の範囲であるとともに、前記原子の集合体の総体積ΣViに占める、ギニエ半径rが1.5nm以上である原子の集合体の総体積ΣVi1.5以上の平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100が20〜70%である。
この結果、各発明例は、前記調質処理後の室温時効後であって、かつ低温短時間での塗装焼付け硬化であっても、BH性に優れている。また、表3に示す通り、前記調質処理後の室温時効後であっても、As耐力が比較的低く、更に低降伏比となっているために、自動車パネルなどへのプレス成形性に優れ、ヘム加工性にも優れている。
すなわち、本発明例によれば、室温時効した後に車体塗装焼付け処理された場合であっても、0.2%耐力差が100MPa以上で、BH後の0.2%耐力が190MPa以上の高いBH性や、As0.2%耐力で110MPa以下、0.50未満の低降伏比のプレス成形性や、良好な曲げ加工性が発揮できている。したがって、成形性と焼付け塗装硬化性を兼備し、高BH性化と低降伏比化とを両立させることができている。
これに対して、表2の比較例2〜7、9〜12、14、15は、表1の発明例と同じ合金例1、2、3を用いている。しかし、これら各比較例は、表2に示す通り、予備時効処理条件が好ましい条件を外れている。この結果、前記Mg+Siの固溶量か、前記平均体積分率(ΣVi/VAl)×100か、前記平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100が、本発明で規定する範囲から外れている。この結果、同じ合金組成である発明例に比して、室温時効が大きく、特に30日間室温保持後のAs耐力が比較的高いか、高低降伏比となっているために、自動車パネルなどへのプレス成形性やヘム加工性に劣るか、BH性が劣っている。したがって、成形性と焼付け塗装硬化性を兼備できておらず、高BH性化と低降伏比化とを両立させることができていない。
比較例2は、溶体化処理後の室温までの焼き入れ処理における平均冷却速度が小さすぎる。このため、冷却中に粗大なMg―Siおよび単体Siが生成して、成形性が低い。また溶体化後の固溶量が低下し、前記平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100も20%未満で、BH性も低い。
比較例3、9は、溶体化後の室温までの焼き入れ処理後から、予備時効処理(加熱開始)までの時間がかかりすぎている。このため、前記平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100が20%未満であり、BH性が低下し、低降伏比も達成できていない。
比較例4、10は、予備時効処理の昇温速度が遅すぎる。このため、前記平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100を20%以上に多くできず、BH性が低い。
比較例5、11、14は、予備時効処理における60〜120℃の範囲での保持時間が1時間と短かすぎる。このため、析出核の生成が不十分であり、前記平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100を20%以上に多くできず、BH性が低い。
比較例6、12、15は、予備時効処理における60〜120℃の範囲での保持時間が48〜45時間と長すぎる。このため、この予備時効処理での析出核の生成量を多くしすぎることになり、強度に寄与する、サイズが比較的大きい原子の集合体が減少して、前記平均体積分率(ΣVi/VAl)×100が1.5%を超えて多くなり、成形時の板の降伏比を0.50未満に低くできない。
比較例7は、予備時効処理における到達温度が130℃と、上限の120℃を超えて高すぎる。このため、この予備時効処理での析出核の生成量を多くしすぎることになり、強度に寄与する、サイズが比較的大きい原子の集合体が減少して、前記平均体積分率(ΣVi/VAl)×100が1.5%を超えて多くなり、As耐力が高すぎて、成形時の板の降伏比を0.50未満に低くできない。
また、表3の比較例24〜32は、前記予備時効処理条件を含めて好ましい範囲で製造しているものの、表1の合金番号12〜20を用いており、必須元素のMg、Siの含有量が各々本発明範囲を外れているか、あるいは不純物元素量が多すぎる。このため、これら比較例24〜32は、表3に示す通り、各発明例に比して、特に30日間室温保持後のAs耐力や降伏比が高すぎて、自動車パネルなどへのプレス成形性やヘム加工性に劣るか、BH性が劣っている。
比較例24は表1の合金12であり、Siが少なすぎる。
比較例25は表1の合金13であり、Siが多すぎる。
比較例26は表1の合金14であり、Snが少なすぎる。
比較例27は表1の合金15であり、Snが多すぎ、熱延時に割れが生じて板の製造ができなかった。
比較例28は表1の合金16であり、Feが多すぎる。
比較例29は表1の合金17であり、Mnが多すぎる。
比較例30は表1の合金18であり、CrおよびTiが多すぎる。
比較例31は表1の合金19であり、Znが多すぎる。
比較例32は表1の合金20であり、ZrおよびVが多すぎる。
以上の実施例の結果から、室温時効後の成形性とBH性向上に対して、前記本発明で規定する組成やDSCの各条件を全て満たす必要性があることが裏付けられる。
Figure 0006190308
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本発明によれば、室温時効後のBH性や成形性を兼備する6000系アルミニウム合金板を提供できる。この結果、自動車のパネル、特に、美しい曲面構成やキャラクターラインなどの意匠性が問題となるアウタパネルに、6000系アルミニウム合金板の適用を拡大できる。

Claims (2)

  1. 質量%で、Mg:0.3〜1.0%、Si:0.5〜1.5%、Sn:0.005〜0.3%を各々含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、熱フェノールによる残渣抽出法により分離された溶液中のMg+Siの固溶量が、1.0質量%以上、2.0質量%以下であり、
    かつ、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、
    Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含み、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下である条件を満たす原子の集合体について、
    これらの原子集合体の総体積として、個々の原子の集合体を各々球と見なした際のギニエ半径rから算出される個々の原子の集合体の体積Vi(=4/3πr 3)を合計した総体積ΣViの、前記3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された
    前記アルミニウム合金板の体積VAlに占める平均体積分率(ΣVi/VAl)×100が0.3〜1.5%の範囲であるとともに、
    前記原子集合体の総体積ΣViのうち、前記ギニエ半径rが1.5nm以上である原子の集合体の体積V1.5以上を合計した総体積ΣVi1.5以上
    占める平均体積分率(ΣVi1.5以上/ΣVi)×100が20〜70%である、
    ことを特徴とする成形性と焼付け塗装硬化性とに優れたアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板が、更に、Fe:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Mn:0.4%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、V:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.1%以下(但し、0%を含まず)、Cu:0.4%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)、Zn:1.0%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を含む請求項1に記載の成形性と焼付け塗装硬化性とに優れたアルミニウム合金板。
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