JP5820315B2 - 室温時効後のヘム加工性と焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents
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Description
先ず、本発明でいうクラスタとは何を意味するか説明する。本発明でいうクラスタとは、後述する3DAPにより測定される原子の集合体(クラスタ)を言い、以下の記載では主としてクラスタと表現する。6000系アルミニウム合金においては、溶体化および焼入れ処理後に、室温保持、あるいは50〜150℃の熱処理中に、Mg、Siがクラスタと呼ばれる原子の集合体を形成することが知られている。但し、これら室温保持と50〜150℃の熱処理中とで生成するクラスタは、全くその挙動(性質)が異なる。
以下に、本発明のクラスタの規定につき具体的に説明する。
本発明がクラスタを規定するアルミニウム合金板は、前記した通り、圧延後に溶体化および焼入れ処理、再加熱処理などの一連の調質が施された後の板であって、プレス成形などによってパネルに成形加工される前の板のことを言う。プレス成形される前の0.5〜4ヶ月間程度の比較的長期に亙る室温放置された際の室温時効を抑制するためには、当然ながら、この室温放置される前の、前記調質が施された後の板の組織状態を本発明で規定する組織とする必要がある。
そして、室温放置される前の、前記溶体化および焼入れ処理などの調質が施された後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の任意の板厚中央部における組織を、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定する。この測定された組織に存在するクラスタとして、本発明では、先ず、そのクラスタが、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むものとする。なお、この原子の集合体に含まれるMg原子やSi原子の個数は多いほどよく、その上限は特に規定しないが、製造限界からすると、このクラスタに含まれるMg原子やSi原子の個数の上限は概ね10000個程度である。
以上説明した本発明で定義されるクラスタ乃至前提条件を満たすクラスタは、6.0×1023個/m3以上、25.0×1023個/m3以下の平均数密度で含むものとする。このクラスタの平均数密度が6.0×1023個/m3よりも少なすぎると、長期間の室温経時中に新たに小さすぎるクラスタが生成してしまい、BH性の低下および加工性の劣化を引き起こしてしまう。一方、25.0×1023個/m3よりも多すぎると、BH処理前の強度が高くなりすぎてしまい、その結果加工性が劣化してしまう。
本発明で定義されるクラスタを前記一定量(平均数密度以上)存在させることを前提に、BH性向上のために、本発明は、これらの条件を満たす原子の集合体の、円相当径の平均半径が1.2nm以上、1.5nm以下であるとともに、この円相当径の平均半径(以下、単に「半径」とも言う)の標準偏差が0.35nm以下とする。
前記した前提条件を満たす原子の集合体の円相当径の平均半径E(r)(nm)は、E(r)=(1/n)Σrで表される。ここで、nは前記前提条件を満足する原子の集合体の個数である。rは前記前提条件を満足する個々の原子の集合体の円相当径の半径(nm)である。
また、前記した前提条件を満たす原子の集合体の円相当径の標準偏差σは、前記円相当径の平均半径E(r)から、σ2=(1/n)Σ[r-E(r)]2で表される。
3DAP(3次元アトムプローブ)は、電界イオン顕微鏡(FIM)に、飛行時間型質量分析器を取り付けたものである。このような構成により、電界イオン顕微鏡で金属表面の個々の原子を観察し、飛行時間質量分析により、これらの原子を同定することのできる局所分析装置である。また、3DAPは、試料から放出される原子の種類と位置とを同時に分析可能であるため、原子の集合体の構造解析上、非常に有効な手段となる。このため、公知技術として、前記した通り、磁気記録膜や電子デバイスあるいは鋼材の組織分析などに使用されている。また、最近では、前記した通り、アルミニウム合金板の組織のクラスタの判別などにも使用されている。
これら3DAPによるクラスタの測定は、前記調質が施された後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の任意の板厚中央部の部位10箇所について行い、これらの前記各測定値(算出値)を平均化して、本発明で規定する各平均の値とする。
これら3DAPによる原子の検出効率は、現在のところ、イオン化した原子のうちの50%程度が限界であり、残りの原子は検出できない。この3DAPによる原子の検出効率が、将来的に向上するなど、大きく変動すると、本発明が規定する各サイズのクラスタの平均個数密度(個/μm3 )の3DAPによる測定結果が変動してくる可能性がある。したがって、この測定に再現性を持たせるためには、3DAPによる原子の検出効率は約50%と略一定にすることが好ましい。
次に、6000系アルミニウム合金板の化学成分組成について、以下に説明する。本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板は、前記した自動車の外板用の板などとして、優れた成形性やBH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求される。
SiはMgとともに、本発明で規定する前記クラスタ形成の重要元素である。また、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記低温での人工時効処理時に、強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車のアウタパネルとして必要な強度(耐力)を得るための必須の元素である。更に、本発明6000系アルミニウム合金板にあって、プレス成形性に影響する全伸びなどの諸特性を兼備させるための最重要元素である。
Mgも、Siとともに本発明で規定する前記クラスタ形成の重要元素である。また、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとしての必要耐力を得るための必須の元素である。
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化焼入れなどの調質処理が施されて製造される。
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。ここで、本発明の規定範囲内にクラスタを制御するために、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを30℃/分以上と、できるだけ大きく(速く)することが好ましい。
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。この目的を達成する条件であれば、特に限定されるものではなく、通常の1回または1段の処理でも良い。
熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊 (スラブ) の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は必ずしも必要ではないが、結晶粒の微細化や集合組織の適正化によって、成形性などの特性を更に向上させる為に実施しても良い。
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板 (コイルも含む) に製作する。但し、結晶粒をより微細化させるためには、冷間圧延率は60%以上であることが望ましく、また前記荒鈍と同様の目的で、冷間圧延パス間で中間焼鈍を行っても良い。
冷間圧延後、溶体化焼入れ処理を行う。溶体化処理焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインによる加熱,冷却でよく、特に限定はされない。ただ、各元素の十分な固溶量を得ること、および前記した通り、結晶粒はより微細であることが望ましいことから、520℃以上、溶融温度以下の溶体化処理温度に、加熱速度5℃/秒以上で加熱して、0〜10秒保持する条件で行うことが望ましい。
この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段や条件を各々選択して用いる。
この焼入れ処理は、溶体化処理後の板を室温まで冷却するのではなく、板が80〜130℃となる温度域Tで冷却(焼入れ)を停止して、この温度範囲で一定時間tだけ保持する保持処理、その後室温まで放冷や強制冷却などの冷却手段を問わずに冷却する。この80〜130℃の温度での保持(処理)は、加熱によっても非加熱によってもよく、等温保持であっても良い。但し、この温度での保持時間tは、前記焼入れ停止温度Tとの関係で、次式を満足するように決める。
2.3×104×exp[-0.093×T]<t<2.0×105×exp[-0.096×T]
このMgやSiの好ましい拡散距離の範囲を得るための焼入れ停止温度と焼入れ停止後の温度保持時間を整理しなおし、焼入れ停止後の温度保持時間tの上限値と下限値を、焼入れ停止温度Tとの関係で、前記式のように決定した。
これは、焼入れ冷却終了後から再加熱処理までの室温保持(放置)時間を幾ら短くしても、この間にクラスタの大部分が形成されるからである。しかも、このクラスタは、そのサイズ分布が大きいものや小さいものなど様々で、サイズが均等ではなく、バラバラである。
このため、本発明で規定するサイズが均等あるいは類似のクラスタがたとえ形成されていたとしても、その絶対数は少なくなり、必然的に、原子の集合体の円相当径の平均半径が1.2nm以上、1.5nm以下であるとともに、この円相当径の半径の標準偏差が0.35nm以下である規定を満足できない。この結果、特に長期間の室温時効後の加工性が低下し、またBH前後での0.2%耐力差が90MPa以上となるようなBH性を有することができない。
前記温度保持処理後の室温までの冷却は、放冷でも、生産の効率化のために前記焼入れ時の冷却手段を用いて強制急冷しても良い。すなわち、本発明で規定するサイズが均等あるいは類似のクラスタを前記温度保持処理によって出尽くさせているため、従来の再加熱処理のような強制急冷や、数段にわたる複雑な平均冷却速度の制御は不要である。
先ず、前記供試板の板厚中央部における組織を前記3DAP法により分析し、本発明で規定するクラスタの、平均数密度(×1023個/m3)、円相当径の平均半径(nm)、この円相当径の半径の標準偏差を各々前記した方法で各々求めた。これらの結果を表3に示す。また、図1に、表3における発明例1、比較例4のアルミニウム合金板の、前記クラスタの円相当径の半径(横軸:クラスタ半径)と、数密度(縦軸)との関係を示す。図1において、発明例1は太い実線、比較例4は点線で各々示している。
前記調質処理後、7日間または100日間室温放置した後の各供試板の機械的特性として、0.2%耐力(As耐力)と全伸び(As全伸び)を引張試験により求めた。また、これらの各供試板を各々共通して、7日間の室温時効および100日間の室温時効させた後に、170℃×20分の人工時効硬化処理した後(BH後)の、供試板の0.2%耐力(BH後耐力)を引張試験により求めた。そして、これら0.2%耐力同士の差(耐力の増加量)から各供試板のBH性を評価した。
ヘム加工性は、前記調質処理後7日間または100日間室温放置後の各供試板についてのみ行った。試験は、30mm幅の短冊状試験片を用い、ダウンフランジによる内曲げR1.0mmの90°曲げ加工後、1.0mm厚のインナを挟み、折り曲げ部を更に内側に、順に約130度に折り曲げるプリヘム加工、180度折り曲げて端部をインナに密着させるフラットヘム加工を行った。
0;割れ、肌荒れ無し、1;軽度の肌荒れ、2;深い肌荒れ、3;微小表面割れ、4;線状に連続した表面割れ、5;破断
比較例32は表1の合金14であり、Siが多すぎる。
比較例33は表1の合金15であり、Feが多すぎる。
比較例34は表1の合金16であり、Mnが多すぎる。
比較例35は表1の合金17であり、CrおよびTiが多すぎる。
比較例36は表1の合金18であり、Cuが多すぎる。
比較例37は表1の合金19であり、Znが多すぎる。
比較例38は表1の合金20であり、ZrおよびVが多すぎる。
Claims (2)
- 質量%で、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.3〜2.0%、を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、その原子の集合体が、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含み、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合う他の原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下であり、これらの条件を満たす原子の集合体を6.0×1023個/m3以上、25.0×1023個/m3以下の平均数密度で含むとともに、これらの条件を満たす原子の集合体の、円相当径の平均半径が1.2nm以上、1.5nm以下であり、かつ、この円相当径の平均半径の標準偏差が0.35nm以下であることを特徴とする室温時効後のヘム加工性と焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が、更に、Mn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cu:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Fe:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、V:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.05%以下(但し、0%を含まず)、Zn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を含む請求項1に記載の室温時効後のヘム加工性と焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板。
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