JP5985165B2 - 焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents
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Description
本発明でいうクラスタ(原子の集合体)とは、後述する3DAPにより測定される原子の集合体(クラスタ)を言い、以下の記載では主としてクラスタと表現する。6000系アルミニウム合金においては、溶体化および焼入れ処理後に、室温保持、あるいは50〜150℃の熱処理中に、Mg、Siがクラスタと呼ばれる原子の集合体を形成することが知られている。但し、室温保持と50〜150℃の熱処理中とで生成するクラスタは、全くその挙動(性質)が異なる。
前記した通り、本発明アルミニウム合金板は、圧延後に溶体化および焼入れ処理、再加熱処理などの一連の調質が施された後の板であって、プレス成形などによってパネルに成形加工される前の板のことを言う。プレス成形される前の0.5〜4ヶ月間程度の比較的長期に亙る室温放置された際の室温時効を抑制するためには、当然ながら、この室温放置される前の、前記調質が施された後の板の組織状態を本発明で規定する組織とする必要がある。
先ず、室温放置される前の、前記溶体化および焼入れ処理などの調質が施された後のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の任意の板厚中央部における組織を、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により、前記した方法で測定する。この測定された組織に存在するクラスタとして、本発明では、先ず、そのクラスタが、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むものとする。なお、この原子の集合体に含まれるMg原子やSi原子の個数は多いほどよく、その上限は特に規定しないが、製造限界からすると、このクラスタに含まれるMg原子やSi原子の個数の上限は概ね10000個程度である。
本発明では、これらの条件を満たす(本発明で規定する)クラスタを5.0×1023個/m3以上の平均数密度で含むものとする。なお、このクラスタの平均数密度は、後述する小さいサイズのクラスタの規制を前提とすると、多いほど、大きなサイズのクラスタの数密度を保障できて、BH性向上によい。その上限は特に規定しないが、製造限界からすると、この原子の集合体の平均数密度は概ね1.0×1026個/m3程度である。
以上、本発明で規定するクラスタを一定量(平均数密度以上)存在させることを前提に、本発明では、これらの条件を満たす原子の集合体(クラスタ)のうち、最大となる円相当径の半径が1.5nm未満のサイズの原子の集合体の平均数密度を10.0×1023個/m3以下に規制する。その一方で、この最大となる円相当径の半径が1.5nm未満のサイズの原子の集合体の平均数密度aと、最大となる円相当径の半径が1.5nm以上のサイズの原子の集合体の平均数密度bとの比a/bが3.5以下となるように、前記最大となる円相当径の半径が1.5nm以上のサイズの原子の集合体を含むものとする。これによって、車体塗装焼付け処理が150℃×20分などの低温で短時間化された場合であっても、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板のBH性をより向上させることができる。
3DAP(3次元アトムプローブ)は、電界イオン顕微鏡(FIM)に、飛行時間型質量分析器を取り付けたものである。このような構成により、電界イオン顕微鏡で金属表面の個々の原子を観察し、飛行時間質量分析により、これらの原子を同定することのできる局所分析装置である。また、3DAPは、試料から放出される原子の種類と位置とを同時に分析可能であるため、原子の集合体の構造解析上、非常に有効な手段となる。このため、公知技術として、前記した通り、磁気記録膜や電子デバイスあるいは鋼材の組織分析などに使用されている。また、最近では、前記した通り、アルミニウム合金板の組織のクラスターの判別などにも使用されている。
これら3DAPによる原子の検出効率は、現在のところ、イオン化した原子のうちの50%程度が限界であり、残りの原子は検出できない。この3DAPによる原子の検出効率が、将来的に向上するなど、大きく変動すると、本発明が規定する各サイズのクラスタの平均個数密度(個/μm3 )の3DAPによる測定結果が変動してくる可能性がある。したがって、この測定に再現性を持たせるためには、3DAPによる原子の検出効率は約50%と略一定にすることが好ましい。
次に、6000系アルミニウム合金板の化学成分組成について、以下に説明する。本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板は、前記した自動車の外板用の板などとして、優れた成形性やBH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求される。
SiはMgとともに、本発明で規定する前記クラスタ形成の重要元素である。また、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記低温での人工時効処理時に、強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車のアウタパネルとして必要な強度(耐力)を得るための必須の元素である。更に、本発明6000系アルミニウム合金板にあって、プレス成形性に影響する全伸びなどの諸特性を兼備させるための最重要元素である。
Mgも、Siとともに本発明で規定する前記クラスタ形成の重要元素である。また、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとしての必要耐力を得るための必須の元素である。
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化焼入れなどの調質処理が施されて製造される。
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。ここで、本発明の規定範囲内にクラスタを制御するために、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを30℃/分以上と、できるだけ大きく(速く)することが好ましい。
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。この目的を達成する条件であれば、特に限定されるものではなく、通常の1回または1段の処理でも良い。
熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊 (スラブ) の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は必ずしも必要ではないが、結晶粒の微細化や集合組織の適正化によって、成形性などの特性を更に向上させる為に実施しても良い。
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板 (コイルも含む) に製作する。但し、結晶粒をより微細化させるためには、冷間圧延率は60%以上であることが望ましく、また前記荒鈍と同様の目的で、冷間圧延パス間で中間焼鈍を行っても良い。
冷間圧延後、溶体化焼入れ処理を行う。溶体化処理焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインによる加熱,冷却でよく、特に限定はされない。ただ、各元素の十分な固溶量を得ること、および前記した通り、結晶粒はより微細であることが望ましいことから、520℃以上の溶体化処理温度に、加熱速度5℃/秒以上で加熱して、0〜10秒保持する条件で行うことが望ましい。
この室温まで焼入れ冷却した後、1時間以内に冷延板を再加熱処理する。この再加熱処理は100〜150℃の温度域に、平均加熱速度(昇温速度)1℃/秒(S)以上で再加熱し、到達再加熱温度で0.2〜1時間保持する。そして、この再加熱温度域から、室温まで冷却するが、この際、室温まで一様に冷却するのではなく、温度域に応じて、平均冷却速度を変える2段階の冷却とする。
Al−Mg−Si系アルミニウム合金圧延板がこれら一連の調質された後の、BH処理までの室温経時時間が長いほど、前記比較的小さなサイズのクラスタが多くなって、BH処理時の析出物の析出を阻害し、BH性を低くする。その一方で、前記室温経時時間が短いAl−Mg−Si系アルミニウム合金板ほど、前記比較的大きなサイズのクラスタが多くなって、BH処理時に成長して、BH処理時の析出物の析出を促進して、BH性を高くする。ただ、このような調質後のBH処理までの室温経時時間は、自動車の製造ラインの都合で変わり、制御はできにくい。
先ず、前記供試板の板厚中央部における組織を前記3DAP法により分析し、本発明で規定するクラスタの全体の平均数密度(×1023個/m3)、これらの集合体のうちで、最大となる円相当径の半径が1.5nm未満のサイズの原子の集合体の平均数密度a(×1023個/m3)、最大となる円相当径の半径が1.5nm以上のサイズの原子の集合体の平均数密度b(×1023個/m3)、これらの比a/bを各々前記した方法で求めた。
前記調質処理後2ヶ月室温放置した後の各供試板の機械的特性として、0.2%耐力(As耐力)と全伸び(As全伸び)を引張試験により求めた。また、これらの各供試板を各々共通して、150℃×20分の低温、短時間の人工時効硬化処理した後(BH後)の、供試板の0.2%耐力(BH後耐力)を引張試験により求めた。そして、これら0.2%耐力同士の差(耐力の増加量)から各供試板のBH性を評価した。
ヘム加工性は、前記調質処理後2ヶ月室温放置後の各供試板についてのみ行った。試験は、30mm幅の短冊状試験片を用い、ダウンフランジによる内曲げR1.0mmの90°曲げ加工後、1.0mm厚のインナを挟み、折り曲げ部を更に内側に、順に約130度に折り曲げるプリヘム加工、180度折り曲げて端部をインナに密着させるフラットヘム加工を行った。
0;割れ、肌荒れ無し、1;軽度の肌荒れ、2;深い肌荒れ、3;微小表面割れ、4;線状に連続した表面割れ、5;破断、
比較例2、37は溶体化および室温まで焼入れ冷却した後の、冷延板を再加熱処理するまでの時間(室温時効時間)が1時間を超えている。
比較例3は100℃までの第一段の平均冷却速度が0.1℃/hr未満と遅すぎる。
比較例4は100℃までの第一段の平均冷却速度が1℃/hrを超えて速すぎる。
比較例5、6は100℃以下、室温までの第ニ段の平均冷却速度が1℃/hr未満で遅すぎる。
比較例38は再加熱処理時の平均加熱速度が1℃/秒(S)未満で遅すぎる。比較例39は再加熱到達温度が100℃未満で低すぎる。
比較例40は再加熱到達温度が150℃を超えて高すぎる。
比較例41は到達再加熱温度での保持時間が0.2時間未満で短すぎる。
比較例2、37、39は前記本発明で規定するクラスタの平均数密度が5.0×1023個/m3未満と少なすぎる。
比較例3、41は、前記小さなサイズ(半径<1.5nm)のクラスタの平均数密度aは10.0×1023以下に規制されているものの、前記比a/bが3.5を超えており、前記大きなサイズ(半径≧1.5nm)のクラスタの割合が少なすぎる。
比較例3〜6、38、40は、前記小さなサイズ(半径<1.5nm)のクラスタの平均数密度aが10.0×1023個/m3を超えて多すぎ、前記比a/bが3.5を超えて、前記大きなサイズ(半径≧1.5nm)のクラスタの割合が少なすぎる。
比較例8は再加熱到達温度が100℃未満で低すぎる。
比較例9は100℃までの第一段の平均冷却速度が0.1℃/hr未満で遅すぎる。
比較例10は100℃までの第一段の平均冷却速度が1℃/hrを超えて速すぎる。
比較例11、12は100℃以下、室温までの第ニ段の平均冷却速度が1℃/hr未満で遅すぎる。
比較例8は前記小さなサイズ(半径<1.5nm)のクラスタの平均数密度aは10.0×1023以下に規制されているものの、前記比a/bが3.5を超えており、前記大きなサイズ(半径≧1.5nm)のクラスタの割合が少なすぎる。
比較例9〜12は、前記小さなサイズ(半径<1.5nm)のクラスタの平均数密度aが10.0×1023個/m3を超えて多すぎ、前記比a/bが3.5を超えて、前記大きなサイズ(半径≧1.5nm)のクラスタの割合が少なすぎる。
比較例14は再加熱到達温度が150℃を超えて高すぎる。
比較例15は100℃までの第一段の平均冷却速度が0.1℃/hr未満と遅すぎる。
比較例16は100℃までの第一段の平均冷却速度が1℃/hrを超えて速すぎる。
比較例17、18は100℃以下室温までの第ニ段の平均冷却速度が1℃/hr未満と遅すぎる。
比較例42は100℃までの第一段の平均冷却速度が0.1℃/hr未満と遅すぎる。
比較例43は100℃までの第一段の平均冷却速度が1℃/hrを超えて速すぎる。
比較例30は表1の合金15であり、Siが多すぎる。
比較例31は表1の合金16であり、Zrが多すぎる。
比較例32は表1の合金17であり、Feが多すぎる。
比較例33は表1の合金18であり、Vが多すぎる。
比較例34は表1の合金19であり、Tiが多すぎる。
比較例35は表1の合金20であり、Cuが多すぎる。
比較例36は表1の合金21であり、Znが多すぎる。
Claims (2)
- 質量%で、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.3〜2.0%、を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により観察して得た3次元アトムマップを、Maximum Separation Methodにより解析することで特定された原子の集合体として、その原子の集合体が、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むとともに、これらMgとSi以外の原子を含むことが許容されており、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、前記原子の集合体に存在する全てのMg原子やSi原子が、その周囲に互いの距離が0.75nm以下であるMg原子やSi原子を少なくとも1つ有しており、これらの条件を満たす原子の集合体を5.0×1023個/m3以上の平均数密度で含むとともに、これらの条件を満たす原子の集合体のうち、最大となる円相当径の半径が1.5nm未満のサイズの原子の集合体の平均数密度が10.0×1023個/ m3以下である一方、この最大となる円相当径の半径が1.5nm未満のサイズの原子の集合体の平均数密度aと、最大となる円相当径の半径が1.5nm以上のサイズの原子の集合体の平均数密度bとの比a/bが3.5以下となるように、前記最大となる円相当径の半径が1.5nm以上のサイズの原子の集合体を含むことを特徴とする焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が、更に、Mn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cu
:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Fe:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、V:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.05%以下(但し、0%を含まず)、Zn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を含む請求項1に記載の焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板。
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