JP5852534B2 - 焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents
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Description
先ず、本発明でいうクラスタの意味につき説明する。本発明でいうクラスタとは、後述する3DAPにより測定される原子の集合体(クラスタ)を言い、以下の記載では主としてクラスタと表現する。6000系アルミニウム合金においては、溶体化および焼入れ処理後に、室温保持、あるいは50〜150℃の熱処理中に、Mg、Siがクラスタと呼ばれる原子の集合体を形成することが知られている。但し、これら室温保持と50〜150℃の熱処理中とで生成するクラスタは、全くその挙動(性質)が異なる。
以下に、本発明のクラスタの規定につき具体的に説明する。
本発明がクラスタを規定するアルミニウム合金板は、前記した通り、圧延後に溶体化および焼入れ処理、再加熱処理などの一連の調質が施された後の板であって、焼付け塗装硬化処理などの人工時効硬化処理される前のアルミニウム合金板を言う。ただ、前記自動車パネルなどとしてプレス成形されるには、板の製造後0.5〜4ヶ月間程度の比較的長期に亙って室温放置されることが多い。このため、この長期に亘って室温放置された後の板の組織状態であっても、本発明で規定する組織とすることが好ましい。この点、長期の室温経時後の特性を問題とする場合には、100日程度の室温経時後では特性が変化せず、組織も変化していないことが予想されるため、十分に室温経時が進行した、前記一連の調質が施された後、100日以上が経過した後の板の組織と特性を、調査および評価することがより好ましい。
このようなアルミニウム合金板の任意の板厚中央部における組織を、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定する。この測定された組織に存在するクラスタとして、本発明では、先ず、そのクラスタが、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むものとする。なお、この原子の集合体に含まれるMg原子やSi原子の個数は多いほどよく、その上限は特に規定しないが、製造限界からすると、このクラスタに含まれるMg原子やSi原子の個数の上限は概ね10000個程度である。
以上説明した定義されるクラスタ乃至前提条件を満たすクラスタを、本発明では1.0×1024個/m3以上の平均数密度で含むものとする。このクラスタの平均数密度が1.0×1024個/m3よりも少なすぎると、室温経時中に新たに小さすぎるクラスタが生成してしまい、BH性の低下および加工性の劣化を引き起こしてしまう。一方、クラスタの平均数密度の上限は特に規定しないが、その製造限界からすると、25.0×1023個/m3程度(2.5×1024個/m3程度)である。
本発明で定義されるクラスタ乃至前提条件を満たすクラスタであっても、その組成によってBH性への影響が前記した通り異なる。Si原子がリッチなクラスタは、BH性に悪影響を及ぼすが、これはSiリッチなクラスタは、焼付け塗装時に生成し、BH性を向上させるβ’’あるいはβ’などの強化相とMg/Si組成の違いが比較的大きいため、焼付け塗装時に強化相の生成を促進することが無く、むしろ強化相の生成を抑制する。
3DAP(3次元アトムプローブ)は、電界イオン顕微鏡(FIM)に、飛行時間型質量分析器を取り付けたものである。このような構成により、電界イオン顕微鏡で金属表面の個々の原子を観察し、飛行時間質量分析により、これらの原子を同定することのできる局所分析装置である。また、3DAPは、試料から放出される原子の種類と位置とを同時に分析可能であるため、原子の集合体の構造解析上、非常に有効な手段となる。このため、公知技術として、前記した通り、磁気記録膜や電子デバイスあるいは鋼材の組織分析などに使用されている。また、最近では、前記した通り、アルミニウム合金板の組織のクラスタの判別などにも使用されている。
これら3DAPによる原子の検出効率は、現在のところ、イオン化した原子のうちの50%程度が限界であり、残りの原子は検出できない。この3DAPによる原子の検出効率が、将来的に向上するなど、大きく変動すると、本発明が規定する各サイズのクラスタの平均個数密度(個/μm3 )の3DAPによる測定結果が変動してくる可能性がある。したがって、この測定に再現性を持たせるためには、3DAPによる原子の検出効率は約50%と略一定にすることが好ましい。
次に、6000系アルミニウム合金板の化学成分組成について、以下に説明する。本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板は、前記した自動車の外板用の板などとして、優れた成形性やBH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求される。
SiはMgとともに、本発明で規定する前記クラスタ形成の重要元素である。また、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車のアウタパネルとして必要な強度(耐力)を得るための必須の元素である。更に、本発明6000系アルミニウム合金板にあって、プレス成形性に影響する全伸びなどの諸特性を兼備させるための最重要元素である。
Mgも、Siとともに本発明で規定する前記クラスタ形成の重要元素である。また、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとしての必要耐力を得るための必須の元素である。
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化焼入れなどの調質処理が施されて製造される。
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。ここで、本発明の規定範囲内にクラスタを制御するために、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを30℃/分以上と、できるだけ大きく(速く)することが好ましい。
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。この目的を達成する条件であれば、特に限定されるものではなく、通常の1回または1段の処理でも良い。
熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊 (スラブ) の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は必ずしも必要ではないが、結晶粒の微細化や集合組織の適正化によって、成形性などの特性を更に向上させる為に実施しても良い。
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板 (コイルも含む) に製作する。但し、結晶粒をより微細化させるためには、冷間圧延率は60%以上であることが望ましく、また前記荒鈍と同様の目的で、冷間圧延パス間で中間焼鈍を行っても良い。
冷間圧延後、溶体化焼入れ処理を行う。溶体化処理焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインによる加熱,冷却でよく、特に限定はされない。ただ、各元素の十分な固溶量を得ること、および前記した通り、結晶粒はより微細であることが望ましいことから、520℃以上、溶融温度以下の溶体化処理温度に、加熱速度5℃/秒以上で加熱して、0〜10秒保持する条件で行うことが望ましい。
ここで、BH性をより高めるためには、溶体化および焼入れ処理終了後から、後述する再加熱処理を行うまでに、歪量で0.1〜5%の加工を板に施すことが望ましい。手段としては、レベラー矯正、スキンパス圧延等により、適宜選択される。溶体化および焼入れ処理終了後から再加熱処理を行うまでに歪量で0.1〜5%の加工を板に施すことで、前記規定条件を満たす原子の集合体のうち、Si原子がリッチなクラスタよりも、Mg原子がリッチなクラスタが生成しやすくなって、Mg/Si比が2/3以上の原子集合体の割合を0.65以上としやすくなる。一方、この歪量が5%を超えて大きいとヘム加工性が悪くなりやすい。このメカニズムは未だ不明な点が多いが、以下の通り推測される。すなわち、溶体化処理後に歪量で0.1〜5%の加工を板に施すことで、溶体化処理後の板の凍結空孔が減少し、その結果、室温での拡散が抑制される。このため、室温で生成するSiリッチなクラスタが生成されにくくなり、Mg/Si比が2/3以上の原子集合体の割合を0.65以上としやすくなるものである。
また、BH性をより高くするために、溶体化および焼入れ処理終了後から、前記歪量で0.1〜5%の加工工程を含めた、再加熱処理を開始するまでの室温保持時間を、60分以内とすることが望ましい。この室温保持時間を短くすることで、Mg/Si比が2/3以上の原子集合体の割合が0.65以上となりやすくなる。この室温保持時間は短いほど良く、溶体化および焼入れ処理と再加熱処理とが、時間差が殆ど無いように連続していても良く、下限の時間は特に設定しない。
再加熱処理の到達温度は80〜160℃の温度範囲かつ、保持時間は3〜24hrの範囲であることが望ましい。再加熱の到達温度が80℃以下または3hr未満であると、BH性を促進するMg−Siクラスタが十分に生成されず、その結果Mg/Si比が2/3以上のクラスタの割合が0.65未満となりやすい。一方、再加熱の到達温度が160℃を超えるまたは保持時間が24hrを超える条件では、クラスタとは異なるβ’’やβ’などの金属間化合物相が一部形成するため、クラスタの数密度が未満となりやすく、BH性が低くなりすぎてしまう。またβ’’やβ’が原因で、成形性が悪くなりやすい。
先ず、前記供試板の板厚中央部における組織を前記3DAP法により分析し、本発明で規定するクラスタの、平均数密度(×1023個/m3)、Mg原子数とSi原子数の比(Mg/Si)が2/3以上である原子集合体の平均割合を各々前記した方法で各々求めた。これらの結果を表3に示す。
前記調質処理後、100日間室温放置した後の各供試板の機械的特性として、0.2%耐力(As耐力)を引張試験により求めた。また、これらの各供試板を各々共通して、100日間の室温時効させた後に、185℃×20分の人工時効硬化処理した後(BH後)の、供試板の0.2%耐力(BH後耐力)を引張試験により求めた。そして、これら0.2%耐力同士の差(耐力の増加量)から各供試板のBH性を評価した。
ヘム加工性は、前記調質処理後100日間放置後の各供試板について行った。試験は、30mm幅の短冊状試験片を用い、ダウンフランジによる内曲げR1.0mmの90°曲げ加工後、1.0mm厚のインナを挟み、折り曲げ部を更に内側に、順に約130度に折り曲げるプリヘム加工、180度折り曲げて端部をインナに密着させるフラットヘム加工を行った。
0;割れ、肌荒れ無し、1;軽度の肌荒れ、2;深い肌荒れ、3;微小表面割れ、4;線状に連続した表面割れ、5;破断
比較例26は表1の合金11であり、Siが多すぎる。
比較例27は表1の合金12であり、Feが多すぎる。
比較例28は表1の合金13であり、Mnが多すぎる。
比較例29は表1の合金14であり、Crが多すぎる。
比較例30は表1の合金15であり、Cuが多すぎる。
比較例31は表1の合金16であり、TiとZnが多すぎる。
比較例32は表1の合金17であり、ZrとVが多すぎる。
Claims (2)
- 質量%で、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.3〜2.0%、を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定された原子の集合体として、Mg原子かSi原子かのいずれか又は両方を合計で10個以上含むとともに、これらに含まれるMg原子かSi原子のいずれの原子を基準としても、その基準となる原子と隣り合うMg原子かSi原子のうちのいずれかの原子との互いの距離が0.75nm以下である条件を満たす、原子の集合体の平均数密度が1.0×1024個/m3以上であって、かつ、これらの条件を満たす原子の集合体のうち、Mg原子数とSi原子数の比(Mg/Si)が2/3以上である原子の集合体の平均割合が0.65以上であることを特徴とする焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が、更に、Mn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cu:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Fe:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Cr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Zr:0.3%以下(但し、0%を含まず)、V:0.3%以下(但し、0%を含まず)、Ti:0.1%以下(但し、0%を含まず)、Zn:1.0%以下(但し、0%を含まず)、Ag:0.2%以下(但し、0%を含まず)の1種または2種以上を含む請求項1に記載の焼付け塗装硬化性に優れたアルミニウム合金板。
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