JP2009173972A - 成形時のリジングマーク性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents

成形時のリジングマーク性に優れたアルミニウム合金板 Download PDF

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Abstract

【課題】成形条件がより厳しくなった場合にでも、再現性良くプレス成形時のリジングマークを防止できるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板を提供することを目的とする。
【解決手段】特定組成のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板において、この板の幅方向断面における集合組織であって、板厚tの1/4t部から1/2t部までの板厚中心部における、Goss方位と小傾角粒界とを抑制して、幅方向に亙って比較的大きな板表面の凹凸の周期を有するリジングマークを抑制する。
【選択図】なし

Description

本発明は、リジングマーク性に優れたアルミニウム合金板(以下、アルミニウムを単にAlとも言う)に関し、パネルへのプレス成形加工時に発生する表面凸凹(リジングマーク、ローピングとも言う)を抑制できるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板に関する。本発明で言うアルミニウム合金板とは、圧延後に溶体化および焼入れ処理などの調質が施され板であって、プレス成形などによってパネルに成形加工される前の板のことを言う。
近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、自動車などの輸送機の車体の軽量化による燃費の向上が追求されている。このため、特に、自動車の車体に対し、従来から使用されている鋼材に代わって、成形性や焼付硬化性に優れた、より軽量なアルミニウム合金材の適用が増加しつつある。
この内、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の、アウタパネル (外板) やインナパネル( 内板) 等のパネルには、薄肉でかつ高強度アルミニウム合金板として、Al−Mg−Si系のAA乃至JIS 6000系 (以下、単に6000系とも言う) のアルミニウム合金板の使用が検討されている。
6000系アルミニウム合金板は、基本的には、Si、Mgを必須として含み、優れた時効硬化能を有しているため、プレス成形や曲げ加工時には低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効( 硬化) 処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できるBH性 (ベークハード性、人工時効硬化能、塗装焼付硬化性) がある。
また、6000系アルミニウム合金板は、Mg量などの合金量が多い他の5000系アルミニウム合金などに比して、合金元素量が比較的少ない。このため、これら6000系アルミニウム合金板のスクラップを、アルミニウム合金溶解材 (溶解原料) として再利用する際に、元の6000系アルミニウム合金鋳塊が得やすく、リサイクル性にも優れている。
一方、自動車のアウタパネルは、周知の通り、アルミニウム合金板に対し、プレス成形における張出成形時や曲げ成形などの成形加工が複合して行われて製作される。例えば、フードやドアなどの大型のアウタパネルでは、張出などのプレス成形によって、アウタパネルとしての成形品形状となされ、次いで、このアウタパネル周縁部のフラットヘムなどのヘム (ヘミング) 加工によって、インナパネルとの接合が行われ、パネル構造体とされる。
この際、6000系アルミニウム合金板を素材とした、プレス成形後のパネルには、リジングマークなどの表面の肌荒れ不良が生じ易いという課題がある。リジングマークは、板のスジ状に並んだ集合組織に起因し、プレス成形などの変形時に、板表面の凹凸となる現象である。このため、素材であるアルミニウム合金板の結晶粒が肌荒れを生じない程度に微細であっても、プレス成形によって生じる点がやっかいである。
このリジングマークは、パネル構造体の大型化や形状の複雑化、あるいは薄肉化などによりプレス成形条件が厳しくなった場合に特に生じ易い。また、プレス成形直後には比較的目立たず、そのままパネル構造体として塗装工程に進んだ後に目立ちやすくなるという問題もある。
このリジングマークが生じた場合、特に表面が美麗であることが要求される、外板 (アウタ) 用などのパネル構造体では、外観不良となって使用できない問題となる。
このようなリジングマークの問題に対し、従来から、鋳塊を500℃以上の温度で均質化熱処理後に冷却して、あるいは室温に冷却後再加熱して、350〜450℃の比較的低温で熱延を開始する、あるいは化合物を制御する、ことにより、過剰Si型6000系アルミニウム合金板のリジングマークを防止することが公知である (特許文献1、2 、3、10参照) 。
6000系アルミニウム合金板の集合組織(結晶方位)を制御してリジングマークを改善する方法も種々提案されている。例えば、{100}面の結晶方位成分に着目し、板表層部でのCube方位の集積度を2〜5、板表面部の結晶粒径を45μm以下に微細化することが提案されている (特許文献4参照) 。また、6000系アルミニウム合金板における、例えば、Cube方位、Goss方位、Brass方位、CR方位、RW方位、S方位、PP方位など、種々の方位の分布密度を同時に規定することも提案されている (特許文献5、9参照) 。
更に、隣接する結晶方位差を15°以下である結晶粒界の占める割合を20%以上とすることも提案されている (特許文献6参照) 。また、6000系アルミニウム合金板における耳率を4%以上、結晶粒径を45μm以下とすることも提案されている (特許文献7参照) 。また、Mgを含有するアルミニウム合金であって、合金表面における結晶粒の板面方位が(100)面から10゜以内の結晶粒が占める面積率と、(100)面から20゜以内の結晶粒が占める面積率とを特定の関係とすることも提案されている (特許文献8参照) 。
特許第2823797 号公報 特開平8 ー232052号公報 特開平7 ー228956号公報 特開平11ー189836号公報 特開平11ー236639号公報 特開2003ー171726号公報 特開2000ー96175 号公報 特開2005ー146310号公報 特開2004ー292899号公報 特開2005ー240113号公報
前記従来技術は、前記特許文献4〜9のような板の集合組織乃至特性を制御することも含めて、リジングマーク抑制に一定の効果はある。しかし、より深いあるいはより複雑な3次元形状のパネルに成形されるなど、成形条件がより厳しくなった場合には、その効果が未だ不十分である。
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、成形条件がより厳しくなった場合にでも、再現性良くプレス成形時のリジングマークを防止できるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板を提供しようとするものである。
この目的を達成するために、本発明の成形時のリジングマーク性に優れたアルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Mg:0.1〜3.0%、Si:0.1〜2.5%、Mn:0.01〜1.0%、Cu:0.001〜1.0%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板において、この板の幅方向断面における集合組織であって、板厚tの1/4t部から1/2t部までの板厚中心部における、Goss方位の面積率の平均値が4%以下であるとともに、傾角5〜15°の小傾角粒界の割合が5%以下であることとする。
ここで、前記アルミニウム合金板が、Fe:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Ag:0.2%以下、Zn:1.0%以下の1種または2種以上を含むことを許容する。
本発明者等は、これまで、どちらかといえばアルミニウム合金板の表面側の性状が注目されていたリジングマーク(板表面の凹凸)につき、成形される板の内部側組織(中心部組織)の影響を調査した。この結果、板の内部組織の影響も大きいことを知見した。
板がより深いあるいはより複雑な3次元形状のパネルに成形されるなど、プレス成形条件がより厳しくなった場合、その発生が顕著になるような、リジングマークは、板幅方向に亙る長さが約2〜3mmの比較的大きな周期を有している。このようなリジングマークに対しては、板の内部組織、特に板の中心部(板厚中心部)における集合組織の影響が大きくなる。
これに対して、前記した従来の特許文献における板の集合組織制御技術では、板厚中心部(板厚tの1/2t部)における集合組織を評価できていない。例えば、実施例において、板厚中心部の集合組織を測定していることを明記している特許文献5でも、これと同時に測定している、板表面、板厚の1/4の厚さ部(板厚tの1/4t部)の各集合組織(方位分布密度)を全部合わせて、板全体の集合組織として平均化している。したがって、結果として、板厚中心部における集合組織のみを評価できておらず、前記比較的大きな周期を有するリジングマークに対する、板厚中心部の集合組織の影響の認識が無い。
例えば、前記特許文献5のように、板表面、板厚tの1/4t部、板厚中心部の各測定結果が平均化された場合には、例え、その平均値が小さかったとしても、本発明で規定する板厚中心部の測定結果が小さいとは限らない。即ち、例え、前記平均化されたGoss方位や小傾角粒界の割合が小さかったとしても、本発明で規定する板厚中心部のGoss方位の平均面積率や小傾角粒界の割合が小さいとは限らない。これは、板厚方向全体で平均化した方が値は小さくなるからである。したがって、前記平均化されたGoss方位や小傾角粒界の割合が小さかったとしても、本発明で規定する板厚中心部のGoss方位の平均面積率や、傾角15°以下の小傾角粒界の割合が高くなることは大いにあり得る。そして、このように、板厚中心部におけるGoss方位や小傾角粒界の割合が増した場合には、板表面や板厚tの1/4t部のGoss方位や小傾角粒界の割合が少なかったとしても、前記比較的大きな周期を有するリジングマーク性は低下する。
このような傾向は、圧延によるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の製造の際に、最終的に1mmt程度に薄板化させても、板厚中心部など板の内部には、板表面ほどには圧延の圧下力(歪み)が入らず、板厚中心部に加工組織が残存しやすくなることからも裏付けられる。即ち、このような加工組織が残存すると、最終的に1mmt程度に薄板化させても、板厚中心部のGoss方位や小傾角粒界の割合は増す傾向となる。
このことが、従来の板の集合組織制御によっても、リジングマーク抑制の効果が未だ不十分であった一因であると推考される。
なお、本発明でも、板の結晶方位の違いにより、隣接する結晶粒の導入歪み量(結晶性の変形量)が異なり、表面凹凸のばらつきであるリジングマークが生じやすくなる、リジングマーク発生のメカニズムや、このメカニズムに対する認識自体は、結晶方位を規定した前記特許文献と同じである。
しかし、本発明では、前記比較的大きな周期を有するリジングマークに対して、板厚中心部における集合組織を規定して、成形性を向上させる点が大きく相違する。本発明では、このような板厚中心部における、板の幅方向断面におけるGoss方位を、平均面積率によって規制して極力少なくするだけでなく、傾角15°以下の小傾角粒界の割合も規制して極力少なくする。
これによって、より深いあるいはより複雑な3次元形状のパネルに成形されるなど、成形条件がより厳しくなった場合に生じる、前記比較的大きな周期を有するリジングマークの発生を防止できるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板を提供できる。
以下に、本発明アルミニウム合金板の実施態様につき具体的に説明するが、先ず、本発明の集合組織規定について以下に説明する。
(集合組織)
Goss方位:
Goss方位は、他の方位に比べてr値(ランクフォード値)の面内異方性が非常に大きく、Goss方位では、板をその幅方向に引っ張った場合に、板厚減少がほとんど生じない。このような特性を有するGoss方位が板厚中心部の組織内に実質量存在すると、板をプレス成形した場合に、板の部位、特に板の幅方向の部位による伸び変形能力が異なり、かつ板の幅方向に亙る伸び変形能力が低下する。この結果、板の幅方向に亙って、板表面の凹凸発生状況が大きく異なって、板幅方向の長さが約2〜3mmに亙る比較的大きな周期を有するリジングマークになる。
本発明では、このような機構によるリジングマークの発生を抑制するために、先ず板厚中心部のGoss方位を規制する。即ち、具体的には、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の幅方向断面における、板厚tの1/4t部から1/2t部までの板厚中心部のGoss方位の面積率の平均値を4%以下と規定して、Goss方位を極力少なくする。このGoss方位の面積率の平均値が4%を超えた場合には、板厚中心部の組織内のGoss方位が多すぎ、成形条件がより厳しくなった場合には、成形性(リジングマーク性)が低下して、前記した機構によるリジングマークが発生する。
Goss方位以外の結晶方位:
板厚中心部における、これらGoss方位以外の、Brass方位、S方位、Cu方位などの他の結晶方位は、Cube方位以外は、前記した比較的大きな周期を有するリジングマークの発生にはあまり影響しない。したがって、Goss方位とCube方位以外の結晶方位は規制する必要がなく、前記Goss方位の測定領域においても、実質量存在して良い。
しかし、Cube方位は、一般的にも知られている様に、アルミの再結晶集合組織の主方位であり、Al−Mg−Si系合金においても主要な結晶方位の1つである。このCube方位では、Goss方位の前記挙動と相違し、圧延方向に対して45°方向に板を引っ張った場合に著しく板厚減少が生じる。したがって、このように板厚減少挙動が全く(大きく)異なるGoss方位とCube方位とが同時にあるいは両方、板厚中心部における組織内に実質量存在すると、板をプレス成形した場合には、当然、板の部位、特に板の幅方向に亙って、板表面の凹凸発生状況が大きく異なってくる。リジングマークの抑制からは、この点は好ましくない。したがって、板厚中心部におけるCube方位も極力少なくする方が好ましい。
即ち、具体的には、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の幅方向断面における、板厚tの1/4t部から1/2t部までの板厚中心部のCube方位の面積率の平均値を10%以下とすることが好ましい。
小傾角粒界:
このGoss方位の制御(規制)に加えて、本発明では、成形性(リジングマーク性)を向上させるために、板厚中心部の集合組織における、小傾角粒界の割合を規制する。即ち、具体的には、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の幅方向断面における、板厚tの1/4t部から1/2t部までの板厚中心部の傾角5〜15°の小傾角粒界の割合を5%以下と規定して、小傾角粒界の割合を極力少なくする。
前記板厚中心部において、この小傾角粒界の割合が高いと、結晶粒界の全長が長くなり、板をプレス成形した場合に、板の部位、特に板の幅方向の部位による伸び変形能力が不均一となり、板の幅方向に亙る伸び変形能力が低下する。このため、成形条件がより厳しくなった場合には、成形性(リジングマーク性)が低下し、リジングマークが発生しやすくなる。
この小傾角粒界は、後述する結晶方位解析方法(SEM/EBSP法)により測定した結晶方位の内、結晶方位の相違(傾角)が5〜15°と小さい結晶粒の間の粒界である。本発明では、この小傾角粒界の割合として、SEM/EBSP法により測定した、前記小傾角粒界の結晶粒界の全長(測定された全小傾角粒の結晶粒界の合計の長さ)の、同じく測定した、結晶方位の相違が5〜180°の結晶粒界の全長(測定された全結晶粒の結晶粒界の合計の長さ)に対する割合として、5%以下とする。即ち、小傾角粒界の割合(%)は、〔(5−15°の結晶粒界の全長)/(5−180°の結晶粒界の全長)〕×100として、5%以下とする。
板厚中心部における、これらGoss方位と小傾角粒界との制御(規制)によって、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板の板幅方向に亙って、リジングマークの要因が少なくなる。この結果、フードやドアなどの大型の自動車パネルの張出成形など、より深いあるいはより複雑な3次元形状のパネルへの成形条件が厳しくなった場合でも、板の表面品質が極めて向上する。
板表面部の集合組織:
上記板厚tの1/4t部から1/2t部までの板厚中心部以外の、謂わば板表面部の集合組織も、板厚中心部ほどではないが、成形条件が厳しくなるほど、成形性(リジングマーク性)に影響する可能性がある。したがって、板表面部の集合組織、具体的には、板厚tの1/4t部から板表面までの板表面部の集合組織も、前記した板厚中心部と同様に、Goss方位の面積率と、小傾角粒界の割合とを制御(規制)することが好ましい。また、更に、前記した板厚中心部のCube方位の面積率も、前記した板厚中心部と同様に、制御(規制)することが好ましい。
(アルミニウム合金板の集合組織測定)
集合組織のでき方は結晶系が同じでも加工法によって異なり、圧延材の場合は圧延面と圧延方向で表わされる。即ち、下記に示す様に、圧延面は{○○○}で表現され、圧延方向は<△△△>で表現される。なお、○や△は整数を示している。
かかる表現方法に基づき、各方位は下記のように表される。なお、これら各方位の表現については、長島晋一編著「集合組織」(丸善株式会社刊)や軽金属学会「軽金属」解説Vol.43(1993)P.285〜293などに記載されている。
Cube方位:{001}<100>
Goss方位:{011}<100>
CR方位:{001}<520>
RW方位:{001}<110>[Cube方位が(100)面で板面回転した方位]
Brass方位:{011}<211>
S方位:{123}<634>
Cu方位:{112}<111>
(若しくは、D方位:{4411}<11118>)
SB方位:{681}<112>
(結晶方位成分存在率の測定)
これら結晶粒の各結晶方位成分の面積率(存在率)は、前記した板断面を、走査型電子顕微鏡SEM( Scanning Electron Microscope )による、後方散乱電子回折像EBSP(Electron Backscatter Diffraction Pattern)を用いた結晶方位解析方法(SEM/EBSP法)により測定する。
上記EBSPを用いた結晶方位解析方法は、SEMの鏡筒内にセットした試料表面に電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。コンピュータでは、この画像を解析して、既知の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって、結晶の方位が決定される。
本発明においては、SEM/EBSP法において、基本的に、結晶面から±15°以内の方位のずれのものは同一の結晶面(方位因子)に属するものとする。また、隣り合う結晶粒の方位差が5°以上の結晶粒の境界を結晶粒界と定義する。
上記EBSPを用いた結晶方位解析方法は、結晶粒毎の測定ではなく、指定した試料領域を任意の一定間隔で走査して測定し、かつ、上記プロセスが全測定点に対して自動的に行なわれるので、測定終了時には数万〜数十万点の結晶方位データが得られる。このため、観察視野が広く、多数の結晶粒に対する、平均結晶粒径、平均結晶粒径の標準偏差、あるいは方位解析の情報を、数時間以内で得られる利点がある。したがって、本発明のような板幅方向の前記した広域の集合組織を規定あるいは測定する場合には最適である。
これに対して、集合組織の測定のために汎用されるX線回折(X線回折強度など)では、上記EBSPを用いた結晶方位解析方法に比して、結晶粒毎の比較的ミクロな領域の組織(集合組織)を測定していることとなる。このため、リジングマークに影響する、板幅方向の前記した広域の組織(集合組織)を、上記EBSPを用いた結晶方位解析方法ほどには正確に、かつ効率的には測定することができない。
上記EBSPを用いた結晶方位解析方法は、組織観察用の試験片を、前記した各板断面から採取して、機械研磨およびバフ研磨を行った後、電解研磨して表面を調整する。このように得られた試験片について、SEM装置として、例えば日本電子社製SEM(JEOLJSM5410)、例えばTSL社製のEBSP測定・解析システム:OIM(Orientation Imaging Macrograph、解析ソフト名「OIMAnalysis」)を用いて、各結晶粒が、対象とする方位(理想方位から10°以内)か否かを判定し、測定視野における方位密度を求める。試験片の測定領域は1000μm×1000μmとし、測定ステップ間隔は例えば3μm以下とする。
この際、測定される材料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から、菊地パターンを得る。この際、電子線を試料表面に2次元で走査させ、所定ピッチ毎に結晶方位を測定すれば、試料表面の方位分布を測定できる。次に、得られた上記菊池パターンを解析して、電子線入射位置の結晶方位を知る。即ち、得られた菊地パターンを既知の結晶構造のデータと比較し、その測定点での結晶方位を求める。同様にして、その測定点に隣接する測定点の結晶方位を求め、これら互いに隣接する結晶の方位差が±15°以内(結晶面から±15°以内のずれ)のものは同一の結晶面に属するものとする(見なす)。また、両方の結晶の方位差が±15°を超える場合には、その間(両方の六角形が接している辺など)を粒界とする。このようにして、試料表面の結晶粒界の分布を求める。測定視野範囲は、例えば500μm×500μm程度の領域とし、これを試験片の適当箇所数か所で測定を行い平均化する。
(平均結晶粒径)
リジングマークを抑制するためには平均結晶粒径も微細化する、言い換えると、結晶粒径を粗大化させないことが好ましい。即ち、前記した板断面での各平均結晶粒径も各々50μm以下とすることが好ましい。また、結晶粒径をこの範囲に細かく乃至小さくすることによって、曲げ加工性やプレス成形性が確保乃至向上される。結晶粒径が50μmを越えて粗大化した場合、前記した結晶方位を制御しても、曲げ加工性や張出などのプレス成形性が著しく低下し、成形時の割れや肌荒れなどの不良が生じ易い。
ここで平均結晶粒径は、上記SEM−EBSPと、その測定条件を用い、所定の測定領域内に観察される各結晶粒の板の圧延方向の最大直径を各々測定し、得られた結果の平均値を算出する。
(化学成分組成)
本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板の化学成分組成について説明する。本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板は、前記した自動車の外板用の板などとして、優れた成形性やBH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求される。
このような要求を満足するために、アルミニウム合金板の組成は、質量%で、Mg:0.1〜3.0%、Si:0.1〜2.5%、Mn:0.01〜1.0%、Cu:0.001〜1.0%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとする。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
本発明が対象とする6000系アルミニウム合金板は、リジングマークが生じやすいが、BH性がより優れた、SiとMgとの質量比Si/ Mgが1 以上であるような過剰Si型の6000系アルミニウム合金板に適用されて好ましい。6000系アルミニウム合金板は、プレス成形や曲げ加工時には低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できる優れた時効硬化能(BH性)を有している。この中でも、過剰Si型の6000系アルミニウム合金板は、質量比Si/ Mgが1未満の6000系アルミニウム合金板に比して、このBH性がより優れている。
Mg、Si、Mn、Cu以外のその他の元素は、基本的には不純物であり、AA乃至JIS 規格などに沿った各不純物レベルの含有量 (許容量) とする。しかし、リサイクルの観点から、溶解材として、高純度Al地金だけではなく、6000系合金やその他のアルミニウム合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として多量に使用した場合には、下記その他の元素が不純物として混入される可能性がある。そして、これらの不純物元素を例えば検出限界以下に低減すること自体コストアップとなり、ある程度の含有の許容が必要となる。また、実質量含有しても本発明目的や効果を阻害しない含有範囲があり、この範囲では各々の含有効果もある。
したがって、これらの不純物元素を各々以下に規定する量以下の範囲での含有を許容する。具体的には、Fe:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Ag:0.2%以下、Zn:1.0%以下の1種または2種以上を、この範囲で、上記した基本組成に加えて、更に含んでも良い。ここで、これらの各元素の各上限規定は、全て0%は含まないこととする。
上記6000系アルミニウム合金における、各元素の好ましい含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。
Si:0.1〜2.5%
SiはMgとともに、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記低温での人工時効処理時に、強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車のアウタパネルとして必要な、例えば170MPa以上の必要強度(耐力)を得るための必須の元素である。したがって、本発明過剰Si型6000系アルミニウム合金板にあって、プレス成形性、ヘム加工などの曲げ加工性の諸特性を兼備させるための最重要元素である。
また、パネルへの成形後の低温塗装焼き付け処理後(2% ストレッチ付与後170 ℃×20分の低温時効処理時) の耐力を170MPa以上という、優れた低温時効硬化能を発揮させるためにも、Si/ Mgを質量比で1.0以上とし、SiをMgに対し過剰に含有させた過剰Si型6000系アルミニウム合金組成とすることが好ましい。
Si量が0.1%未満では、前記時効硬化能、更には、各用途に要求される、プレス成形性、曲げ加工性などの諸特性を兼備することができない。一方、Siが2.5%を越えて含有されると、曲げ加工性やリジングマーク性を含めたプレス成形性が著しく阻害される。更に、溶接性も著しく阻害される。したがって、Siは0.1〜2.5%の範囲、好ましくは0.6〜1.2%の範囲とする。
Mg:0.1〜3.0%
Mgは、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとして、例えば170MPa以上の必要耐力を得るための必須の元素である。
Mgの0.1%未満の含有では、絶対量が不足するため、人工時効処理時に前記化合物相を形成できず、時効硬化能を発揮できない。このためパネルとして必要な170MPa以上の必要耐力が得られない。
一方、Mgが3.0%を越えて含有されると、却って、リジングマーク性を含めたプレス成形性や曲げ加工性等の成形性が著しく阻害される。したがって、Mgの含有量は0.1〜3.0%%の範囲で、好ましくは、Si/ Mgが質量比で1.0以上となるような量とする。また、Si含有量を前記0.6〜1.2%の範囲とする場合には、これに対応して、Mg含有量も0.2〜0.7%の範囲とすることが好ましい。
Cu:0.001〜1.0%
Cuは、本発明の比較的低温短時間の人工時効処理の条件で、アルミニウム合金材組織の結晶粒内への強度向上に寄与する時効析出物の形成を促進させる効果がある。また、固溶したCuは成形性を向上させる効果もある。Cu含有量が0.001%未満、特に0.01%未満ではこの効果がない。一方、1.0%を越えると、耐応力腐食割れ性や、塗装後の耐蝕性の内の耐糸さび性、また溶接性を著しく劣化させる。このため、Cu含有量は0.001〜1.0%、好ましくは0.01〜1.0%とする。
Mn:0.01〜1.0%、
Mnには、均質化熱処理時に分散粒子 (分散相) を生成し、これらの分散粒子には再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒を得ることができる効果がある。前記した通り、本発明アルミニウム合金板のプレス成形性やヘム加工性はアルミニウム合金組織の結晶粒が微細なほど向上する。この点、Mn含有量が0.01%未満ではこれらの効果が無い。
一方、Mn含有量が多くなった場合、溶解、鋳造時に粗大なAl−Fe−Si−(Mn、Cr、Zr) 系の金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、アルミニウム合金板の機械的性質を低下させる原因となる。また、Mn含有量が1.0%を越えた場合、曲げ加工性が低下する。このため、Mnは0.01〜1.0%の範囲とし、好ましくは0.01〜0.15%の範囲とする。
(製造方法)
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化焼入れなどの調質処理が施されて製造される。但し、この中で、リジングマーク性向上のために、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界の割合とを本発明の範囲に制御(規制)するためには、特に熱延条件を制御する必要がある。
(溶解、鋳造)
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
(均質化熱処理)
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に均質化熱処理を施す。均質化熱処理の温度自体は、常法通り、500℃以上で融点未満の均質化温度が適宜選択される。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくし、合金元素や粗大な化合物を十分に固溶させることを目的とする。この均質化温度が低いと結晶粒内の偏析を十分に無くすことができず、これが破壊の起点として作用するために、伸びフランジ性や曲げ加工性が低下する。
均質化熱処理は、一旦室温近傍まで冷却して、熱延(粗圧延)温度に再加熱する2回均熱処理か、熱延(粗圧延)温度に冷却する2段均熱処理とすることが好ましい。これによって、冷却中の高温域でのMg−Si化合物などの比較的粗大な析出物を析出させ、MgやSiの固溶量を減らすことができ、その後の熱延(粗圧延)のための再加熱時に微細な析出物が増加することを抑制できる。したがって、熱延中の、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界、あるいはCube方位の発達を抑制できる。
この点、均熱処理後の冷却速度は小さい(遅い)方が好ましい。例えば、冷却速度が40℃/hrを超えて大きくなると、冷却中の高温域での前記比較的粗大な析出物の析出が抑制される。このため、MgやSiの固溶量が増して、その後の熱延(粗圧延)のための再加熱時に、微細な析出物が増加し、熱延中に、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界、あるいはCube方位が発達しやすくなる。このため、本発明範囲内の集合組織とできなくなる可能性が高い。
(熱間圧延)
熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊 (スラブ) の粗圧延工程と、粗圧延後の板厚が約40mm以下の板を約4mm以下の板厚まで圧延する仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられ、各々複数のパスからなる圧延が施される。
ここで、板の集合組織において、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界、あるいはCube方位を発達させないためには、以下の特定熱延条件とすることが好ましい。
熱間粗圧延条件:
熱間粗圧延においては、板厚に応じて1パス当たりの圧下率を変え、板厚が厚い領域では比較的軽圧下とし、板厚が薄い領域では圧下率を比較的大きくすることが好ましい。例えば、鋳塊 (スラブ) の厚さが250mm以上の場合には1パス当たりで最大となる圧下率を15%以上、40%未満とし、厚さが250mm未満となった場合には、この最大圧下率を40%以上とすることが好ましい。
一方で、これら粗圧延におけるこの最大圧下率が小さ過ぎると、粗圧延での圧下量(歪み導入量)が不足し、板厚中心部に加工組織が残存しやすくなり、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界、あるいはCube方位が発達しやすくなる。この加工組織は、Goss方位の集団が板厚中心部に形成される起源となり、小傾角粒界の割合やCube方位も増大させ、最終の溶体化処理後も、これらが残留しやすくなる主因となる。
粗圧延における開始温度は400〜500℃の温度範囲とされることが好ましい。粗圧延開始温度が低すぎると、熱間圧延終了後に再結晶が進まず、板厚中心部に加工組織が残存して、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界、あるいはCube方位が発達しやすくなる。また、加工集合組織が発達しやすくなって、リジングマークが発生しやすくなる。
一方、逆に、粗圧延開始温度が高すぎると、再結晶が生じて熱間圧延時に粗大な再結晶粒が生成し、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界、あるいはCube方位が発達しやすくなる。即ち、これらの好ましい粗圧延の条件から外れた場合には、いずれもリジングマーク発生の原因となる。
仕上げ圧延条件:
仕上げ圧延における総加工率は90%以上とし、かつ1パス当たりの圧下量が大きいことが好ましい。このためには、仕上げ圧延を開始する板厚、即ち、粗圧延後の板厚を40mm以下と薄くすることが好ましい。仕上げ圧延を開始する板厚が厚すぎると、仕上げ圧延における1パス当たりの圧下量(歪み導入量)や総加工率が不足し、板厚中心部に加工組織が残存しやすくなり、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界、あるいはCube方位が発達しやすくなる。
更に、仕上げ圧延終了温度は300〜350℃とされることが好ましい。熱間圧延(仕上げ圧延)終了温度が350℃を超えた場合、粗大な再結晶粒が生成し、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界、あるいはCube方位が発達しやすくなり、リジングマークの原因となる。一方、熱間圧延終了温度が300℃未満でも、熱間圧延終了後に再結晶が進まず、加工集合組織が発達して、リジングマークが発生しやすくなる。したがって、熱間圧延終了温度は、好ましくは300℃以上、350℃以下とする。
(熱延板の焼鈍)
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は、基本的に行なわないことが好ましい。この焼鈍 (荒鈍) を省略することによって、板製造の効率化や製造コストの低減が図れる。
(冷間圧延)
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板 (コイルも含む) に製作する。
(溶体化および焼入れ処理)
上記鋳塊の均熱によって本発明範囲内のサイズ分布と量とに制御した分散粒子を活用し、最終の溶体化および焼入れ処理において、リジングマークを抑制するために、板厚中心部のGoss方位と小傾角粒界、あるいはCube方位を抑制するためには、最終の溶体化処理の昇温速度を100℃/分以上とすることが好ましい。
なお、溶体化処理の条件は、板のプレス成形後の塗装焼き付け硬化処理などの人工時効処理により強度向上に寄与する時効析出物を十分粒内に析出させるために、好ましくは500℃以上、融点以下までの温度範囲で行う。
続く溶体化処理温度からの焼入れ処理では、冷却速度が遅いと、粒界上にSi、Mg2 Siなどが析出しやすくなり、プレス成形や曲げ加工時の割れの起点となり易く、これら成形性が低下する。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段や条件を各々選択して用い、冷却速度を10℃/秒以上の急冷とすることが好ましい。
本発明では、成形パネルの塗装焼き付け工程などの人工時効硬化処理での時効硬化性をより高めるため、焼入れ処理後に、強度向上に寄与する時効析出物の析出を促進するために、予備時効処理をしても良い。この予備時効処理は、60〜150℃、好ましくは70〜120℃の温度範囲に、1〜24時間の必要時間保持することが好ましい。この予備時効処理として、上記焼入れ処理の冷却終了温度を60〜150℃と高くした後に、直ちに再加熱乃至そのまま保持して行う。あるいは、溶体化処理後常温までの焼入れ処理の後に、5分以内に、直ちに60〜150℃に再加熱して行う。
更に、室温時効抑制のために、前記予備時効処理後に、時間的な遅滞無く、比較的低温での熱処理 (人工時効処理) を行っても良い。前記時間的な遅滞があった場合、予備時効処理後でも、時間の経過とともに室温時効 (自然時効) が生じ、この室温時効が生じた後では、前記比較的低温での熱処理による効果が発揮しにくくなる。
また、連続溶体化焼入れ処理の場合には、前記予備時効の温度範囲で焼入れ処理を終了し、そのままの高温でコイルに巻き取るなどして行う。なお、コイルに巻き取る前に再加熱しても、巻き取り後に保温しても良い。また、常温までの焼入れ処理の後に、前記温度範囲に再加熱して高温で巻き取るなどしてもよい。
この他、用途や必要特性に応じて、更に高温の時効処理や安定化処理を行い、より高強度化などを図ることなども勿論可能である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
次に、本発明の実施例を説明する。表1に示すA〜Kの組成の6000系アルミニウム合金板を、表2に示す条件で、均質化熱処理 (均熱処理と略記) および熱間圧延 (熱延と略記) し、更に、冷間圧延を行い、溶体化および焼入れ処理して、製造した。なお、表1中の各元素の含有量の表示において、「−」の表示は、検出限界以下であることを示す。
アルミニウム合金板のより具体的な製造条件は以下の通りである。表1に示す各組成の鋳塊を、DC鋳造法により共通して溶製した。
続く、鋳塊の均熱処理の際に、各例とも共通にして、540℃の均熱処理温度まで加熱昇温し、4hr保持した。この均熱処理後、各例とも共通して、前記した好ましい緩冷却条件である、冷却速度が40℃/hr未満となるように均熱炉内で鋳塊を200℃以下の温度まで放冷した。
この均熱処理後に粗圧延開始温度に再加熱する2回均熱処理を行って、熱間圧延を行った。この際、各例とも、表2に示す、各粗圧延開始温度(℃)、各鋳塊厚み(mm)で、各例とも共通してパス数を10回とした粗圧延を行った。そして、各例とも、表2に示す、最大圧下率/パス(%)にて粗圧延を終了した。その後、各例とも、表2に示す、開始板厚(mm)、開始温度(℃)にて、仕上げ圧延を開始し、表2に示す、最大圧下率/パス(%)、終了板厚(mm)、終了温度(℃)にて仕上げ圧延を終了した。これらの熱延板を、各例とも共通して、荒鈍を省略した上で、冷延率60%で直接冷間圧延を行い、厚さ1.0mmの冷延板を得た。
そして、この冷延板を、連続式の熱処理設備で、各例とも共通して、昇温速度およそ300℃/分で加熱し、550℃の溶体化処理温度に到達した時点で5秒保持する溶体化処理を行い、直ちに室温まで、冷却速度100℃/秒以上の急冷にて焼入れた。また、この焼入れ後5分以内に(直ちに)、100℃の温度で2時間保持する予備時効(再加熱)処理を行った。この予備時効処理後は0.6℃/hrで徐冷し、T4調質材を得た。
これら調質処理後の各最終製品板から供試板 (ブランク) を切り出し、前記調質処理後15日の室温時効(室温放置)後の、各供試板の組織や特性を測定、評価した。
(供試板組織)
前記調質処理後15日間の室温時効後の供試板の集合組織を、前記SEM−EBSPを用いて、測定・解析した。この供試板を厳しいプレス成形を模擬して、板幅方向に(圧延と直角方向に)20%ストレッチして予ひずみを付与した後の板幅方向の板断面をEBSP測定面とした。そして、このEBSP測定面は、板幅中央部であって、板厚tの1/4t部から1/2t部までの板厚中心部における板断面のGoss方位の面積率の平均値(%)、傾角5〜15°の小傾角粒界の割合(%)を求めた。これらの結果を表3に示す。また、このEBSP測定の際、同時に供試板の平均結晶粒径も測定したが、各例とも共通して50μm以下であった。
(供試板特性)
更に、前記供試板の特性として、リジングマーク性、機械的特性:0.2%耐力(As耐力: MPa)、伸び(%)を各々測定した。これらの結果も表3に示す。
(リジングマーク)
製造されたアルミニウム合金板から供試板を採取し、これらの供試板の圧延方向に直角方向に、引張試験により20%ストレッチした後に、塗装処理を行い、塗装板表面を目視観察して、板幅方向に亙る長さが約2〜3mmの比較的大きな周期を有するリジングマークが発生しているか否かを評価した。この試験を5回(供試板5枚について)行い、5回(5枚)とも全てリジングマークが生じていないものを〇、1回(1枚)以上にリジングマークが生じているものを×と評価した。塗装処理は、前処理として、室温にてリン酸チタンのコロイド分散液に浸漬させた後に、フッ素を50ppm含むリン酸亜鉛浴に室温にて浸漬させてリン酸亜鉛皮膜を板表面に形成した。その後の塗装処理は、カチオン電着塗装を行った後に、170℃×30分の焼き付けを行う条件とした。
前記ストレッチを付与し、また、機械的特性を測定するための引張試験は、前記調質処理後15日間の室温時効後のアルミニウム合金板からJISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、室温引張りを行った。このときの試験片の引張り方向を圧延方向の直角方向とした。引張り速度は、0.2%耐力までは5mm/分、耐力以降は20mm/分とした。機械的特性測定のN数は5とし、各々平均値で算出した。
表1〜2に示す通り、各発明例は、本発明成分組成範囲内で、かつ、好ましい条件範囲で熱間圧延を行なっている。このため、表3に示す通り、本発明で規定する集合組織組織を有する。即ち、リジングマークを抑制するために、この板の幅方向断面における集合組織であって、板厚tの1/4t部から1/2t部までの板厚中心部における、Goss方位の面積率の平均値が4%以下であるとともに、傾角5〜15°の小傾角粒界の割合が5%以下である。
この結果、各発明例は、前記調質処理後に室温時効して、成形性が低下した過剰Si型の組成の6000系アルミニウム合金板の例でも、リジングマーク性が優れている。また、強度、伸びなど機械的特性にも優れている。
これに対して、比較例8〜12は、上記発明例と同じ合金例A、Bを用いている。しかし、これら各比較例は、表2に示す通り、熱間圧延の製造条件が好ましい範囲を外れている。この結果、表3に示す通り、これら比較例は上記発明例に比してリジングマーク性が劣っている。
比較例13〜16は、好ましい条件範囲で熱間圧延しているものの、成分組成が本発明範囲を外れる。したがって、成分組成の点からもリジングマーク性が発明例に比して著しく劣るか、リジングマーク性が良くても強度や伸びが発明例に比して著しく劣る。
したがって、以上の実施例の結果から、本発明における成分や組織の各要件、あるいは好ましい製造条件の、リジングマーク性や機械的性質などを兼備するための臨界的な意義乃至効果が裏付けられる。
Figure 2009173972
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本発明によれば、成形条件がより厳しくなった場合にでも、再現性良くプレス成形時のリジングマークを防止でき、機械的特性にも優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板を提供できる。この結果、自動車、船舶あるいは車両などの輸送機、家電製品、建築、構造物の部材や部品用として、また、特に、自動車などの輸送機の部材に、6000系アルミニウム合金板の適用を拡大できる。

Claims (2)

  1. 質量%で、Mg:0.1〜3.0%、Si:0.1〜2.5%、Mn:0.01〜1.0%、Cu:0.001〜1.0%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金板において、この板の幅方向断面における集合組織であって、板厚tの1/4t部から1/2t部までの板厚中心部における、Goss方位の面積率の平均値が4%以下であるとともに、傾角5〜15°の小傾角粒界の割合が5%以下であることを特徴とする成形時のリジングマーク性に優れたアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板が、更に、Fe:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下、Ti:0.1%以下、Ag:0.2%以下、Zn:1.0%以下(但し、これらの上限規定は全て0%を含まず)の1種または2種以上を含む請求項1に記載の成形時のリジングマーク性に優れたアルミニウム合金板。
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