JP6768568B2 - プレス成形性、リジングマーク性、bh性に優れたアルミニウム合金板 - Google Patents

プレス成形性、リジングマーク性、bh性に優れたアルミニウム合金板 Download PDF

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本発明は、プレス成形性、リジングマーク性、BH性に優れた6000系アルミニウム合金板に関するものである。
自動車からの排出ガスによる地球環境問題に対して、自動車等の輸送機器による燃費向上が求められている。特に、自動車の車体に対しては、従来から使用されている鋼材に替わって、より軽量なアルミニウム合金材が適用されている。このうち、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフなどの外装材(外装板材、アウタパネル材)の素材として、時効硬化性や耐食性に優れたAl−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金の需要が高まっている。
自動車用外装用部材には、一般にプレス成形が施されることから、適用されるアルミニウム合金板には優れた成形性が求められる。近年では、車体デザインやキャラクタラインの多様化や先鋭化、複雑化に伴い、プレス成形加工が複雑で、加工条件が厳しくなる事例が増えており、プレス成形加工における、板材の破断限界をより向上させることが必要となっている。
これに対して、従来から、前記自動車パネル材用の素材6000系アルミニウム合金板において、前記成形性やBH性(ベークハード性、人工時効硬化性)を向上させるための合金組成や、組織制御の手段は、結晶粒径の制御から、集合組織の制御を含め、原子の集合体(クラスター)の制御に至るまで、周知の通り、多数提案されている。
これらの組織制御の手段の中で、r値を制御して自動車のアウタパネルなどへのプレス成形性を向上させるために、集合組織を制御することも、従来から種々提案されている。
例えば、特許文献1では、6000系アルミニウム合金板の、Cube方位、Brass方位、S方位、Cu方位の平均合計面積率を20〜65%である集合組織とし、この集合組織におけるCube方位の平均面積率を5〜15%、板の圧延方向に対して各々、0°方向のr値をr0 、45°方向のr値をr45、90°方向のr値をr90とした時の、これらr値の平均値として、rbar =1/4×(r0+2×r45+r90)と規定されるrbarを1.5以上とし、r値の異方性を示す指標であるΔrの絶対値として、1/4×(r0−2×r45+r90)と規定されるΔrを0.75以下とすることが提案されている。
特許文献2では、6000系アルミニウム合金板の表面から板厚の1/4深さ部分における結晶方位分布関数解析による、ランダム方位(%)=100−Cube方位(%)−Goss方位(%)−Brass方位(%)−Cu方位(%)−S方位(%)−PP方位(%)−RW方位(%)と規定する、ランダム方位の面積率を55〜75%として、前記Δrを0.2〜0.6とするとともに、前記r値の平均値を0.5以上として、伸びフランジ性および曲げ加工性に優れた板とすることが提案されている。
特許文献3では、6000系アルミニウム合金板の表面から板厚の1/4深さ部分における結晶方位分布関数解析によるキューブ方位分布密度が10〜25の範囲であり、かつ、rbarが0.50以上、Δrが0.30以下として、曲げ加工性とプレス成形性に優れた板とすることが提案されている。
また、プレス成形を施した6000系アルミニウム合金板においては、リジングマークなどの表面の肌荒れ不良が生じやすいという課題もある。リジングマークは、板表面に筋状の凹凸が生じる現象で、板内部に形成する集合組織に起因している。このリジングマークは、パネル構造体の大型化や形状の複雑化、または薄肉化などによりプレス成形条件が厳しくなった場合に生じやすい。また、プレス成形直後は比較的目立たず、塗装工程に進んだ後に(塗装後に)目立ちやすくなり、製品板(パネル)の表面品質を低下させるため、抑制することが必要である。
このリジングマークの課題を解決するために、例えば特許文献4では、各集合組織の標準偏差を、([Cube]+[CR]+[RW]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP])/8≦1.0として、結晶方位の局所的な集積を抑制することで、リジングマークを抑制する方法が提案されている。
また、特許文献5では、Cube方位およびNDCube方位の方位密度をC<15、N<15、1/20<N/C<1として、かつ耳率が7%以下、結晶粒度が5以上とすることで、リジングマークを抑制する方法が提案されている。
特許第5432439号公報 特許第4495623号公報 特開2015−67857号公報 特許第4499369号公報 特開2009−256722号公報
ただ、これら従来の方法は、各々、r値の制御のみ、またはリジングマークの制御のみを制御した特許であり、これら従来の方法だけで、前記r値とリジングマークの制御の両立と、更に強度特性をも両立させることは難しい。
例えば、前記従来技術のうち、特許文献2、3は、均質化熱処理(均熱)工程にて、比較的低い温度で均熱処理を実施することで、集合組織の割合を制御し、r値の異方性を低くする方法が提案されているが、この手法では、相対的に強度が低くなることが懸念される。
また、前記特許文献4では、Al−Mg−Si系合金板であって、Mgを0.1〜3.0質量%,Siを0.1〜2.5質量%含有し、且つCube方位,CR方位,RW方位,Goss方位,Brass方位,S方位,Cu方位,PP方位の各集合組織が、下記式(1)の条件を満たすことを特徴とするAl−Mg−Si系合金板が提案されている。
([Cube]+[CR]+[RW]+[Goss]+[Brass]+[S]+[Cu]+[PP])/8≦1.0(%) ・・・ (1)
(式中、[x]は、板幅方向500μm毎の板断面における方位xの面積率の標準偏差(%)を示す。)
前記特許文献4では、冷延前焼鈍および中間焼鈍を比較的低温で行うことで、このような集合組織を得て、リジングマークを抑制する方法が提案されている。
ただ、この手法ではCube方位の面積率自体が比較的高くなり、r値の異方性が高く、r45が低くなり、プレス成形性が低下することが懸念される。
本発明では、このような従来の方法の限界に着目してなされたものであり、強度水準を高く維持したまま、45°方向のr値が高く、r値の異方性Δrが低く、かつリジングマーク抑制を両立できる、プレス成形性、リジングマーク性、BH性に優れたアルミニウム合金板を提供しようとするものである。
発明が解決するための手段
前記目的を達成するため、本発明のプレス成形性、リジングマーク性、BH性に優れたアルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Si:0.4〜1.5%、Mg:0.3〜1.5%、Mn:0.01〜0.5%、Cu:0.001〜1.0%を含み、残部がAlおよび不可逆的不純物からなり、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、前記板の圧延方向に平行な方向の断面における集合組織として、前記板の断面の板厚方向全域に亙ってSEM−EBSD法により測定した結晶方位分布関数により求められる、Cupper方位、Brass方位、S方位、P方位、Q方位の合計ピーク強度が、7.0≦[Cupper]+[Brass]+[S]+[P]+[Q]≦15.0を満たし、前記板の表面における集合組織として、前記板表面の圧延方向に直角な方向300μm×圧延方向に平行な方向2000μmの矩形領域をSEM−EBSD法により測定した際のCube方位面積率をWとしたとき、前記矩形領域を前記板の圧延方向に直角な方向に亙って10個並列した領域における前記Cube方位面積率Wの標準偏差が3.0%以下であって、さらに、前記アルミニウム合金板の、最終調質後に20〜30℃で90日放置した後の導電率が47IACS%以下であることとする。
前記特許文献4のように、Cube方位面積率Wの標準偏差を小さくすれば、リジングマーク性は向上するが、Cube方位面積率が高いので、r値の異方性が高く、r45が低くなり、プレス成形性が低下しやすい。
このため、本発明では、板の主要な集合組織を制御し、r値の異方性を制御してプレス成形性を向上させる。一方、Cube方位については、板表面における結晶方位集合組織を適正に制御してCube方位面積率の標準偏差を低くし、リジングマーク性を向上させる。
これによって、本発明によれば、強度水準を高く維持したまま、比較的低くなりやすい45°方向のr値を0.45以上で、かつr値の異方性Δrを0.20以下としてプレス成形性を向上させることができる。また、合わせてリジングマークの発生が抑制された優れた表面性状に制御することができ、プレス成形性、リジングマーク性、BH性に優れた6000系アルミニウム合金板が得られる。
以下に、本発明のプレス成形用アルミニウム合金板について、要件毎に具体的に説明する。
(化学成分組成)
先ず、本発明のAl−Mg−Si系(以下、6000系とも言う)アルミニウム合金板の化学成分組成について、以下に説明する。
本発明では、前記自動車の外装材(アウタパネル材)などの素材板として必要な、プレス成形性、リジングマーク性、BH性、そして、好ましくは溶接性、耐食性などの諸要求特性を、6000系アルミニウム合金板の組成の面から満たすようにする。但し、この場合でも、従来の組成や製造条件を大きくは変えないことを前提とする。
ここで、前記アルミニウム合金板のプレス成形性とは、具体的には、前記板の圧延方向に対して各々、0°方向のr値をr0 、45°方向のr値をr45、90°方向のr値をr90とした時の、前記r45が0.45以上であるとともに、r値の異方性を示す指標である、1/4×(r0−2×r45+r90)と規定されるΔrが0.20以下であることが好ましい。
また、前記アルミニウム合金板のリジングマーク性とは、具体的には、リジングマークの発生が抑制された表面性状に優れたものであることが好ましい。
また、前記アルミニウム合金板のBH性とは、具体的には、前記板を185℃×20分の人工時効硬化処理した際の0.2%耐力が210MPa以上で、かつ耐力増加量が100MPa以上であることが好ましい。
このような課題や特性を組成の面から満たすようにするため、6000系アルミニウム合金板の組成は、質量%で、Si:0.4〜1.5%、Mg:0.3〜1.5%、Mn:0.01〜0.5%、Cu:0.001〜1.0%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとする。
この組成に加えて、前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Fe:0.05〜0.5%、Zr:0.04〜0.1%、Cr:0.04〜0.3%、V:0.02〜0.1%、Ag:0.01〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.3%のうちの一種または二種以上を選択的に含んだ組成としてもよい。
前記6000系アルミニウム合金板における、各元素の含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
(Si:0.4〜1.5%)
Siは、Mgとともに、固溶強化と、塗装焼き付けなどの低温での人工時効処理において、強度上昇に寄与するMg−Si系析出粒子を形成して、人工時効硬化能(BH性)を発揮し、アウタパネルなど自動車パネル材としての必要な強度(耐力)を得るための必須な元素である。
Si含有量が少なすぎると、人工時効処理時にMg−Si系析出物の生成量が不足するため、BH性が低下して、焼付け塗装処理後の強度が著しく低下する。一方、Si含有量が多すぎると、粗大な晶出物および析出物が形成されて、熱間圧延中に大幅な板割れが生じる。したがって、Siは0.4〜1.5%の範囲とする。
(Mg:0.3〜1.5%)
Mgは、Siとともに、固溶強化と塗装焼き付けなどの人工時効処理時において、強度上昇に寄与するMg−Si系析出粒子を形成して、人工時効硬化能(BH性)を発揮し、自動車パネル材としての必要な耐力を得るための必須な元素である。
Mg含有量が少なすぎると、Mg−Si系析出物の生成量が不足するため、BH性が低下して、焼付け塗装処理後の強度が低下する。一方、Mg含有量が多すぎると、粗大な晶出物および析出物が形成されて、熱間圧延中に大幅な板割れが生じる。したがって、Mgの含有量は0.3〜1.5%の範囲とする。
(Si、Mgの固溶量)
ここで、板に含有するSi、Mgの存在形態として、製造方法や製造条件などにより、添加したSiおよびMgが粗大な第2相粒子として多く分散、析出し、板の溶体化処理後の固溶Si量および固溶Mg量が少なくなると、最終調質処理後の時効硬化処理(塗装焼付け硬化処理など)における、0.2%耐力の上昇量が小さく、BH性が低下して、外装材としての強度が不足する可能性がある。
したがって、前記アルミニウム合金板のBH性確保のためには、前記アルミニウム合金板の溶体化処理後あるいは最終調質処理後の固溶Mg量および固溶Si量を確保する必要がある。具体的には、この固溶Mg量および固溶Si量の目安として、最終調質処理後の前記アルミニウム合金板を、20〜30℃で90日放置した後の、導電率が47IACS%以下であることが必要である。
ここで、前記アルミニウム合金板の導電率測定のタイミングを、圧延板製造の際の最終調質処理後20〜30℃で90日放置した後と、あえて規定したのは、最終調質処理後の室温時効の経過時間にて変化する、前記アルミニウム合金板の導電率測定の再現性を図るためである。
また、ここで言う最終調質処理とは、圧延板の溶体化および焼入れ処理の後に、更に、予備時効処理などの低温での熱処理が施されて最終とする場合には、この低温での熱処理を最終調質処理とし、前記溶体化および焼入れ処理が最終の熱処理の場合には、この溶体化および焼入れ処理を最終調質処理とする。
(Mn:0.01〜0.5%)
Mnは、鋳造時や均質化熱処理時に、第2相粒子を形成し、これらが再結晶後の結晶粒界移動の障害として作用する効果があるため、微細な結晶粒を得ることができる効果がある。Mnの含有量が0.5%超であると、粗大な第2相粒子が形成され、プレス成形性や溶接性が低下する。したがって、Mnの含有量は0.01〜0.5%、好ましくは0.1〜0.3%とする。
(Cu:0.001〜1.0%)
Cuは、比較的低温かつ短時間の人工時効処理条件において、時効析出粒子の形成を促進させる効果を有しており、また固溶したCuは、成形性を向上させることができる元素である。Cuの含有量が1.0%超であると、耐応力腐食割れ性、糸錆性および溶接性が低下する。したがって、Cuの含有量は0.001〜1.0%、好ましくは0.1〜0.8%とする。
(Fe、Zr、Cr、V、Ag、Sn、Znのうち一種または二種以上)
これらの元素は、共通して板を高強度化させる効果があるので、本発明では同効元素と見なせ、必要により選択的に含有させるが、その具体的な機構には、共通する部分も、異なる部分も勿論ある。
Feは晶出物を生成して、再結晶粒の核となり、結晶粒の粗大化を阻止し、強度を向上させる役割を果たす。含有量が少なすぎると、その効果が小さく、多すぎると、粗大な化合物を形成し、破壊の起点となり、強度や成形性が低下する。
Zr、Cr、Vは、鋳塊及び最終板製品の結晶粒を微細化して強度向上に寄与する。また、これらの元素は分散粒子として存在して、結晶粒微細化に寄与して、成形性も向上させる。各々の含有量が少なすぎると、これらの結晶粒微細化による、強度や成形性の向上効果が不足する。一方、これらの元素が多すぎると、粗大な化合物を形成し、延性を劣化させる。
Agは、自動車部材への成形加工後の人工時効熱処理によって強度向上に寄与する時効析出物を緊密微細に析出させ、高強度化を促進する効果がある。含有量が少なすぎると強度向上効果が小さく、多すぎると、圧延性及び溶接性などの諸特性を却って低下させ、また、強度向上効果も飽和し、高価となる。
Snは、室温でのクラスタ形成を抑制して、溶体化・焼き入れ処理後の板の、優れた成形加工性を長時間保持する効果を有し、更にその後に焼付け塗装処理などの人工時効熱処理した場合の強度を向上させる。含有量が少なすぎてはその効果が小さく、多すぎても却って熱間脆性を生じて熱間加工性(熱延性)を著しく劣化させる。
Znは、人工時効硬化能(BH性)を向上させるのに有用で、焼付け塗装処理で、板組織の結晶粒内へのGPゾーンなどの化合物相の析出を促進させて高強度化する効果がある。
したがって、これらFe、Zr、Cr、V、Ag、Sn、Znは、含有させる場合には、前記した通り、Fe:0.05〜0.5%、Zr:0.04〜0.1%、Cr:0.04〜0.3%、V:0.02〜0.1%、Ag:0.01〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.3%の範囲で、一種または二種以上を含有させる。
その他の元素
これら記載した以外の、Ti、Bなどのその他の元素は不可避的な不純物である。Tiは、Bとともに、粗大な化合物を形成して機械的特性を劣化させる。ただ、微量の含有によって、アルミニウム合金鋳塊の結晶粒を微細化する効果もあるので、6000系合金としてJIS規格などで規定する範囲での各々の含有を許容する。この許容量の例として、Tiは0.1%以下、好ましくは0.05%以下とする。また、Bは0.03%以下とする。
(集合組織)
本発明では、強度水準を高く維持したまま、比較的低くなりやすい45°方向のr値を0.45以上で、かつr値の異方性Δrを0.20以下とr値を制御して、プレス成形性を向上させ、かつr値の制御とリジングマーク抑制を両立させるために、板における各結晶方位集合組織成分の見直しを行った。
その結果、前記のようにr値を制御するためには、SEM−EBSD法により評価した、圧延方向に平行な方向の縦断面における集合組織の中で、相対的に低くなりやすい45°方向のr値(r45)を高める、結晶方位の集積度を積極的に制御することが重要であることを見出した。
その一方で、板をプレス成形した後のパネル表面のリジングマークを抑制して、外装材としての優れた表面性状(リジングマークが無い塗膜外観、鮮鋭性、光沢性)を有するためには、板表面のEBSD測定で評価した集合組織の中で、Cube方位の分布を制御することが重要であることを見出した。
すなわち、r値を制御するために、前記板の圧延方向に平行な方向の断面における集合組織として、前記板の縦断面の板厚方向全域に亙ってSEM−EBSD法により測定した結晶方位分布関数により求められる、Cupper方位、Brass方位、S方位、P方位、Q方位の合計ピーク強度が、7.0≦[Cupper]+[Brass]+[S]+[P]+[Q]≦15.0(以下、式1とも言う)を満たすようにする。
ここで、前記板の圧延方向に平行な方向の断面とは、前記板の任意の部位を圧延方向に平行な方向に、前記板の平面方向(水平方向)に対して、垂直方向(縦方向)に切断した断面(縦断面)を言う。
これによって、前記アルミニウム合金板のプレス成形性として、前記板のr45を0.45以上とでき、前記板のr値の異方性を示す指標である前記Δrを0.20以下とすることができる。
これに対して、前記式1が7.0よりも小さい場合、r値(r45)を高める結晶方位である、Cupper方位、Brass方位、S方位、P方位、Q方位の集積度が小さすぎるため、r45が低くなりやすく、Δrが0.20以下になりにくい。このため、[Cupper]+[Brass]+[S] +[P]+[Q]は7.0以上が好ましく、より好ましくは7.5以上である。
一方、前記式1が15.0を超えて高い場合は、反対にr値(r45)を高める結晶方位である、Cupper方位、Brass方位、S方位、P方位、Q方位の集積度が高くなりすぎるため、r45がr0やr90と比較して高くなりすぎて、Δrが0.20以下と小さくなりにくい。このため、[Cupper]+[Brass]+[S]+[P]+[Q]は15.0以下が好ましく、より好ましくは12.0である。
さらに、リジングマークを抑制するために、前記板の任意の部位の表面における集合組織として、前記板表面の圧延方向に直角な方向300μm×圧延方向に平行な方向2000μmの矩形領域をSEM−EBSD法により測定した際のCube方位面積率をWとしたとき、前記矩形領域を前記板の圧延方向に直角な方向に亙って10個並列した領域における前記Cube方位面積率Wの標準偏差を3.0%以下とする。
ここで、前記矩形領域は、板表面の圧延方向に直角な方向(板の幅方向)に300μmの長さ×圧延方向に平行な方向(板の長手方向)に2000μmの長さの矩形領域であり、この矩形領域にて測定されるCube方位面積率をWとする。そして、この矩形領域を前記板の圧延方向に直角な方向(板の幅方向)に亙って10個並列した、これら各矩形領域における各々のCube方位面積率Wの、前記10個の領域における標準偏差を求める。
このような板表面におけるCube方位面積率Wの標準偏差の制御によって、板をプレス成形した後のパネル表面のリジングマークを抑制して、外装材としての優れた表面性状(塗膜の鮮鋭性、光沢性)を有することができる。
前記Cube方位面積率の標準偏差が3.0%よりも大きいと、Cube方位が筋状に分布しやすく、リジングマークが発生しやすい。このため、前記Cube方位面積率の標準偏差が3.0%以下であることが必要で、より好ましくは2.5%以下である。
(集合組織の定義)
通常のアルミニウム合金においては、下記の結晶方位集合組織の存在が知られており、これら結晶方位の体積分率に応じて、等しく引張変形が加わった場合でも、結晶方位によって、それぞれ変形状態が異なる。
Cube方位:{001}<100>
Goss方位:{011}<100>
Cupper方位:{112}<111>
Brass方位:{011}<211>
S方位:{123}<634>
P方位:{011}<211>
Q方位:{130}<312>
ここで、前記結晶方位集合組織の表現方法は、圧延板材の場合、圧延面と圧延方向で表される。即ち、圧延面は{○○○}で表現し、圧延方向は<×××>で表現する。○や×は、整数を表す。なお、これらは(長島晋一著「集合組織」(丸善株式会社)、軽金属学会「軽金属」解説Vol. 43, (1993)285−293)などに記載されている。
(集合組織の測定方法)
以上の本発明で規定する各結晶方位集合組織は、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)または電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission-Scanning Electron Microscope:FE−SEM)を使用し、SEM−EBSD法によって評価する。測定に供する試料は、最終調質処理を実施した冷延板に対し、その冷延板表面を機械研磨、バフ研磨した後、電解研磨を行い、表面の酸化皮膜を除去するなど、板の表面を調製する。
このSEM−EBSD法は、結晶方位集合組織の測定方法として汎用され、電界放出型走査電子顕微鏡(例えば、日本電子社製JSM−7000F)に、後方散乱電子回折像(EBSD: Electron Back-Scattered Diffraction Pattern:EBSD)システムを搭載した結晶方位解析法である。
SEM−EBSD法は、前記FE−SEMの鏡筒内にセットしたAl合金板の試料に、電子線を照射して、その後方散乱電子の回折パターンをEBSD装置(例えば、TSL社製のEBSD測定・解析システム:OIM(Orientation Imaging Macrograph) Data & Analysis)に取り込み、結晶方位解析をしながら試料表面を1μmおきに走査する。これにより、各点でのEBSP(Electron Back Scatter Diffraction Pattern)を得てその指数付けを行い、電子線照射部位の結晶方位を求める。得られた結晶方位測定データを圧延方向軸周りに90°回転、さらに、圧延面法線方向に90°回転操作し、測定領域全域においてEBSDによる結晶方位測定を行った際の、結晶方位分布関数(ODF)や面積率を計算し求める。これらFE−SEMにEBSDシステムを搭載した結晶方位解析法の詳細は、神戸製鋼技報/Vol. 52 No.2(Sep. 2002)P66−70などに詳細に記載されている。
本発明では、r値を制御するために、SEM−EBSD法により、板の圧延方向に平行な縦断面の板厚方向の全域に亙って測定した際の結晶方位分布関数(ODF)から算出される、各結晶方位集合組織のピーク強度を規定している。以下に、その評価手法を説明する。
(板の圧延方向に平行な方向の任意の断面における結晶方位集合組織の分布状態の規定)
前記板の圧延方向の平行な方向での縦断面での結晶方位集合組織の分布状態は、前記SEM−EBSD法を用い、Cupper方位、Brass方位、S方位、P方位、Q方位の各ピーク強度を、結晶方位分布関数(ODF)を用いて求める。
試料は、前記表面を調製した板の圧延方向に平行な方向の断面として、前記板の任意の部位を圧延方向に平行な方向に、板の平面方向(水平方向)に対して垂直方向(縦方向)に切断して、測定対象である断面(縦断面)を出して調整する。そして、この試料の断面の板厚方向全体と、圧延方向1000μmの範囲で囲まれる領域を測定し、測定視野は2視野として、測定値はその平均とする。
そして、前記測定範囲にて、ODFを、3つのオイラー角φ1、Φ、φ2が0〜90°の範囲で展開級数22まで計算し、得られたODF値を集積度として各方位に対して求める。そして、これらの方位のそれぞれのODF値を、各結晶方位の集積度=ピーク強度として求める。得られる数値(無次元)は、ランダム方位のそれに対する大きさを示し、値が大きいほどその方位の集積度が高いことを意味している。
その際、各方位の3つのオイラー角は以下の通りとする。
φ1:0°かつΦ:0°かつφ2:0°はCube方位。
φ1:0°かつΦ:45°かつφ2:0°はGoss方位。
φ1:35°かつΦ:45°かつφ2:0°はBrass方位。
φ1:0°かつΦ:30°かつφ2:45°はCupper方位。
φ1:58°かつΦ:29°かつφ2:63°はS方位。
φ1:70°かつΦ:45°かつφ2:0°はP方位。
φ1:45°かつΦ:15°かつφ2:10°はQ方位。
本発明では、基本的に上記オイラー角から±2.5°以内の角度のずれは、同一の角度因子に属するものと定義する。斯かる範囲内であれば、ほぼ同一の性質を示すからである。
また、本発明では、リジングマークを抑制するため、任意の圧延面における矩形領域10個分のCube方位の面積率の標準偏差を規定している。以下に、その評価手法を説明する。
(板表面のCube方位の分布状態の規定)
板表面(板の酸化皮膜を除いた圧延面)の集合組織を測定する場合には、前記表面を調製した板の表面における結晶方位集合組織の分布状態を、前記SEM−EBSD法を用い、まず、圧延幅方向300μm×圧延長手方向2000μmに亙る矩形領域における、Cube方位の面積率Wを測定する。
そして、この測定を、前記矩形領域に圧延幅方向に亙って隣接する同一面積の矩形領域10個分で測定し、これら合計10個の矩形領域におけるCube方位の面積率Wの標準偏差を求め、評価する。
本発明では、基本的に測定した結晶方位のずれが、前記Cube方位の結晶面から±10°以内であれば、同一の方位因子に属すると定義する。斯かる範囲内であれば、ほぼ同一の性質を示すからである。
(製造方法)
次に、本発明のアルミニウム合金板の製造方法について、以下に説明する。本発明に係る製造方法は、合金鋳塊を比較的高温で均質化熱処理し、冷間圧延中に中間焼鈍を実施し、かつ熱間圧延から中間焼鈍を経て最終板厚までの冷間圧延における総圧延率(総板厚減少率)を80%以上とすることで、板材内の集合組織成分の制御および板表面における筋状のCube方位を減少させるところに大きな特徴を有するものである。
(溶解)
前記した組成を有するアルミニウム合金を溶解した溶湯から、所定形状の鋳塊を作製する。アルミニウム合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されず、常法あるいは公知の方法を用いればよい。
(均質化熱処理)
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立ち均質化熱処理(均熱処理)を施す。この均質化熱処理は、鋳造時の不均一な組織を均一にするために行う。均質化熱処理温度は、500℃以上で融点未満が好ましい。500℃未満では、第2相粒子の分散が多くなり、人工時効後の強度が低下しやすくなる。このため、均質化熱処理温度は500℃以上が好ましく、より好ましくは520℃以上である。
なお、均質化熱処理は、上記条件で、通常の1回だけ行えば良く、一度500℃以上で熱処理し、室温まで冷却した後に、500℃以下の温度に再度加熱するような2回の均質化熱処理、あるいは室温まで冷却せずに500℃以下の温度に再度加熱するような2段の均質化熱処理は行う必要は無い。これら2回あるいは2段均質化熱処理を行うと、添加したMgおよびSiが粗大な第2相粒子として多く分散し、溶体化処理後の固溶MgおよびSi量が少なくなる。このため、最終調質処理後の人工時効硬化処理(塗装焼付け処理)における0.2%耐力の上昇量が小さく、BH性が低下し、強度が不足する可能性がある。
(熱間圧延)
前記均質化熱処理の後に、所定の厚みとするために熱間圧延を行う。熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、粗圧延工程と仕上げ圧延工程に分けられる。これら粗圧延工程と仕上げ圧延工程では、リバース式またはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
熱間圧延、特に粗圧延工程の開始温度は、400〜550℃であることが望ましい。粗圧延の開始温度が低いと、圧延時の変形抵抗が大きくなるため好ましくない。粗圧延の開始温度が550℃を超えると、圧延時に再結晶粒が形成し、歪の蓄積が不足するため、所定の性質を満たさない。粗圧延の開始温度が前記均質化熱処理温度より低い場合は、適宜冷却して実施する。
熱間圧延の仕上げ工程の終了温度は、好ましくは350℃以下であり、より好ましくは300℃以下である。熱間圧延の終了温度が350℃を超えると、板表層部を中心に再結晶粒が生じ、歪の蓄積量が不足するため、溶体化熱処理時に特定の結晶方位のみが発達することで変形に差が生じて、アルミニウム合金板を等方的な組織とすることができない。
(冷間圧延)
前記熱間圧延にて得られた板材は、熱間圧延から中間焼鈍までの板厚減少率60%以上が好ましく、より好ましくは65%以上である。また、熱間圧延から溶体化処理までの総板厚減少率は80%以上が好ましく、より好ましくは85%以上である。熱間圧延から中間焼鈍までの冷間圧延における板厚減少率が60%未満、または熱間圧延から溶体化処理までの総板厚減少率が80%未満であると、歪量が不足し、Brass方位、Cupper方位、S方位、P方位、Q方位の形成量が減少するため、r45が低くなりやすい。
(中間焼鈍)
中間焼鈍は、400℃以上の温度で、5℃/s以上の昇温速度にて行う。中間焼鈍温度が400℃未満の場合、再結晶が促進されず、かつCube方位が筋状に形成しやすい。そのため、中間焼鈍温度は400℃以上が好ましく、より好ましくは450℃以上である。また、中間焼鈍における昇温速度が5℃/s未満の場合、Cube方位が筋状に形成し、その標準偏差が4.0%以上となりやすく、リジングマークが発生しやすい。そのため、中間焼鈍における昇温速度は5℃/s以上が望ましく、より好ましくは10℃/s以上である。
(溶体化および焼入れ処理)
冷間圧延後、溶体化焼入れ処理を行う。溶体化処理は、500℃〜570℃で0〜20s保持する条件で行い、その後10℃/s以上の冷却速度で焼入れ処理を行うことが望ましい。焼入れ処理の冷却速度が遅いと、結晶粒界上にSi、Mg−Si系析出物が形成しやすくなり、プレス成形や曲げ加工における割れの起点となりやすく、成形性が低下する。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理はファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬などの水冷手段や条件を各種選択して用い、冷却速度を10℃/s以上とする。
更に、成形パネルの塗装焼付け工程などの人工時効硬化処理での時効硬化性を高めるため、前記溶体化処理の後に、直ちに予備時効処理を行う。予備時効処理では、70〜120℃の温度範囲とし、1〜24時間の範囲で等温保持するのが望ましい。また、この予備時効処理は、前記焼入れ後10分以内、または焼入れ時の冷却終了温度を70〜120℃と高くして実施することが望ましい。
次に、本発明の実施例を説明する。表1に示す組成のアルミニウム合金板を、表2に示す条件にて、均質化熱処理、熱間圧延、冷間圧延および中間焼鈍を行い、続いて溶体化熱処理にて製品とした。なお、表1中の各元素の含有量の表示において、数値を空白としている元素は、その含有量が検出限界以下であることを示す。
以下に、アルミニウム合金板のより具体的な製造条件を説明する。表1に示す各組成の鋳塊を、DC鋳造法にて溶製した。続いて実施する均質化熱処理は、表2に示す温度にて、各例とも共通して4時間の熱処理を実施した。均質化熱処理終了後は、室温まで冷却することなく、表2に示す熱間圧延開始温度まで冷却した後、熱間圧延の粗圧延を実施した。そして、300℃以下で仕上げ圧延を終了した。各熱間圧延板の最終板厚は3.5〜10mmとした。
熱間圧延後のアルミニウム合金板に対し、表1〜3の比較例1および比較例2の例を除き、冷間圧延を行った後に、連続焼鈍炉またはバッチ式の大気炉にて中間焼鈍を実施した。表1〜3の比較例1では、中間焼鈍を実施せず、比較例2では熱間圧延終了後に500℃で中間焼鈍を行った。中間焼鈍終了後は、再度冷間圧延を実施し、各例とも共通して、最終板厚を1mmとした。連続式の熱処理設備で、550℃まで加熱して、直ちに10℃/s以上の冷却速度で、室温まで冷却する溶体化焼入れ処理を行った。また。各例とも共通して、室温まで冷却した後、直ちに100℃まで加熱して、その温度で2時間保持する予備時効処理を最終調質処理として実施した。
これら最終調質処理後のアルミニウム合金板から供試板を採取し、前記最終調質処理後30日後の室温時効の、各供試板の機械的性質および微細組織(集合組織)を調査した。また、前記最終調質処理後20〜30℃の温度範囲で90日間室温時効させた、各供試板の導電率を調査した。
(機械的性質)
機械的性質の測定に供する引張試験片は、前記供試板から引張方向が圧延方向に平行、45°方向および垂直となるように、JIS2201の13A号試験片(20mm×80mmGL×板厚1mm)を採取および作製し、室温にて引張試験を行った。引張試験は、0.2%耐力測定までは5mm/min、耐力以降を30mm/minとし、0.2%耐力、塑性歪10%付加時の、前記圧延方向に対して平行方向のr値r0、45°方向のr値r45、垂直方向のr値r90を各々測定した。そして、Δrを、1/4×(r0−2×r45+r90)から算出した。これらの結果を表3に示す。なお、引張試験の測定数は2回とし、各種特性は平均値で求めた。
ここで、自動車外装材として、アルミニウム合金板のプレス成形性は、前記r45が0.45以上であるとともに、前記Δrが0.20以下で合格とした。
(BH性)
BH性(ベークハード性)は、前記大型パネルへの成形を模擬して、前記供試板に、この板の圧延方向に2%のひずみの引張変形を予め付与した後で、前記大型パネルの時効硬化処理(塗装焼き付け処理)を模擬して、185℃×20分の人工時効硬化処理(BH)後の板から、圧延方向に対して直角方向となる、前記引張試験片を採取し、前記要領にて引張試験を行って、0.2%耐力を各々測定した。そして、前記時効硬化処理前における0.2%耐力値を引くことにより、時効硬化処理による耐力上昇量を算出した。
ここで、自動車外装材として、アルミニウム合金板のBH性は、BH後の0.2%耐力が210MPa以上で、かつBHによる耐力増加量が100MPa以上で合格である、
(リジングマーク)
前記供試板から切り出した各試験片に対し、圧延方向に垂直方向に15%の塑性歪みを加えた後、ED塗装を施してリジングマークの有無を目視評価した。自動車外装材として、リジングマークの評価は、発生していないものを○、明瞭なリジングマークが発生しているものを×とした。
(集合組織)
前記供試板の集合組織は、前記したSEM−EBSD法にて、日本電子社製のFE−SEM(JSM−7100F)を用い、加速電圧20kVの条件の下、株式会社TSLソリューション社製の測定ソフト(TSL−OIM Data Collection Ver. 5)にて、前記した所定の観察面および前記所定の測定矩形領域における結晶方位を測定した。続いて、株式会社TSLソリューション社製の測定ソフト(TSL−OIM Data Collection Ver. 6. 2)にて、各結晶方位集合組織を解析し、集積度および標準偏差を求めた。なお、本解析における電子線の間隔(ステップ)は2μmとした。その結果を表3に併記する。
(導電率)
前記供試板の導電率は、日本フェルスター株式会社製の導電率測定計(SIGMATEST D 2.068)にて、板表面を20℃に保持した状態で5点測定し、それらの平均値をその試料の導電率とした。
表1〜3に示すように、各実施例は、本発明成分組成範囲内で、かつ、中間焼鈍前における冷間圧延の板厚減少率、中間焼鈍の熱処理温度と昇温速度、および熱間圧延から溶体化熱処理までの総板厚減少率が、それぞれ好ましい条件範囲で製造されている。
このため、表3に示す通り、各実施例は、本発明で規定する、Si、Mgの固溶量と結晶方位集合組織とを有する。即ち、r値の制御とリジングマーク抑制を両立するために、板の比較的広域な領域における結晶方位の分布状態を、本発明の規定範囲内に制御することができている。また、BH性を確保するために十分なSi、Mgの固溶量が確保されている。
この結果、各発明例は、r値の制御(プレス成形性)、リジングマーク抑制、BH性が互いに両立されている。
すなわち、各実施例は、前記アルミニウム合金板のプレス成形性が、前記r45が0.45以上であるとともに、前記Δrが0.20以下であり、リジングマークの発生が無い表面性状に優れたものである。また、前記アルミニウム合金板のBH後の0.2%耐力が210MPa以上で、かつ耐力増加量が100MPa以上を満足する。したがって、各実施例は自動車外装材の要求特性を満足している。
これに対して、比較例1〜8は、表1〜3に示すように、本発明の成分組成範囲、または製造条件が好ましい範囲から外れている。このため、これら比較例は、集合組織が本発明で規定する範囲から外れ、実施例に比してr値や、リジングマーク性が劣っている。
比較例1は、冷間圧延の板厚減少率を83%と高くしているが、中間焼鈍が未実施である。このため、Cube方位が圧延面において筋状に形成し、Cube方位の標準偏差が3.0%を超え、リジングマークが抑制されていない。
比較例2は、熱間圧延直後に中間焼鈍を実施し、熱間圧延から中間焼鈍までの冷延を行っていない。このため、リジングマークは抑制されるが、Brass方位、Cupper方位、S方位、P方位、Q方位の形成量が少なく、r45が0.45未満となり、Δrが0.20を超えている。
比較例3は、中間焼鈍前における冷間圧延の板厚減少率は本発明の範囲内であるが、中間焼鈍の昇温速度が5℃/s以下と遅い。このため、Brass方位、Cupper方位、S方位、P方位、Q方位の形成量が少なく、r45が0.45未満となり、Δrが0.20を超えている。
比較例4は、均質化熱処理において、一度500℃以上で熱処理し、室温まで冷却した後に、500℃以下の温度に再度加熱する工程であるため、添加したSiおよびMgが粗大な第2相粒子として多く分散し、前記アルミニウム合金板の最終調質後に20〜30℃で90日放置した後の導電率が47IACS%を超えており、固溶Si量および固溶Mg量が少な過ぎる。このため、BH後の0.2%耐力や、0.2%耐力の上昇量が小さい。
比較例5は、中間焼鈍前における冷間圧延の板厚減少率が60%未満であるため、Brass方位、Cupper方位、S方位、P方位、Q方位の形成が進まず、r45が0.45未満となり、Δrが0.20を超えている。
比較例6は、中間焼鈍前における冷間圧延の板厚減少率が60%未満であり、かつ熱間圧延から溶体化熱処理までの総板厚減少率が80%未満であるため、Brass方位、Cupper方位、S方位、P方位、Q方位の形成が進まず、r45が0.45未満となり、Δrが0.20を超えている。
比較例7は、表1に示すようにMgの添加量が、比較例8ではSiの添加量が、本発明における成分組成範囲を満たしておらず、最終調質処理後の時効硬化処理における0.2%耐力の上昇量が100MPa未満となっている。
したがって、以上の実施例の結果から、成形加工後の表面性状およびr値に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金を得るための、本発明おいて規定する組成や組織の要件を全て満たすことの意義が裏付けられる。
Figure 0006768568
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本発明によれば、強度水準を高く維持したまま、45°方向のr値が高く、r値の異方性Δrが低く、かつリジングマーク抑制を両立できる、プレス成形性、リジングマーク性、BH性に優れたアルミニウム合金板を提供できる。この結果、パネル材を含めた自動車外装材として、6000系アルミニウム合金板の適用を拡大できる。

Claims (3)

  1. 質量%で、Si:0.4〜1.5%、Mg:0.3〜1.5%、Mn:0.01〜0.5%、Cu:0.001〜1.0%を含み、残部がAlおよび不可逆的不純物からなり、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、前記板の圧延方向に平行な方向の断面における集合組織として、前記板の断面の板厚方向全域に亙ってSEM−EBSD法により測定した結晶方位分布関数により求められる、Cupper方位、Brass方位、S方位、P方位、Q方位の合計ピーク強度が、7.0≦[Cupper]+[Brass]+[S]+[P]+[Q]≦15.0を満たし、前記板の表面における集合組織として、前記板表面の圧延方向に直角な方向300μm×圧延方向に平行な方向2000μmの矩形領域をSEM−EBSD法により測定した際のCube方位面積率をWとしたとき、前記矩形領域を前記板の圧延方向に直角な方向に亙って10個並列した領域における前記Cube方位面積率Wの標準偏差が3.0%以下であって、さらに、前記アルミニウム合金板の、最終調質後に20〜30℃で90日放置した後の導電率が47IACS%以下であることを特徴とする、プレス成形性、リジングマーク性、BH性に優れたアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Fe:0.05〜0.5%、Zr:0.04〜0.1%、Cr:0.04〜0.3%、V:0.02〜0.1%、Ag:0.01〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.3%の範囲で、一種または二種以上を含有する請求項1に記載のプレス成形性、リジングマーク性、BH性に優れたアルミニウム合金板。
  3. 前記アルミニウム合金板のプレス成形性が、前記板の圧延方向に対して各々、0 °方向のr値をr0 、45°方向のr値をr45、90°方向のr値をr90とした時の、前記r45が0.45以上であるとともに、r値の異方性を示す指標として、1/4×(r0−2×r45+r90)と規定されるΔrが0.20以下であり、前記アルミニウム合金板のBH性が、前記板を185℃×20分の人工時効硬化処理した際の0.2%耐力が210MPa以上で、かつ耐力増加量が100MPa以上である、請求項1または2に記載のプレス成形性、リジングマーク性、BH性に優れたアルミニウム合金板。
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