JP2017210673A - r値の異方性が小さいプレス成形用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

r値の異方性が小さいプレス成形用アルミニウム合金板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】自動車パネル材用として、従来の組成や製造条件を大きく変えることなく製造できる、高成形性6000系アルミニウム合金板を提供する。【解決手段】6000系アルミニウム合金板を再結晶組織とし、この再結晶組織における、Cube方位、CubeRD方位、G方位、CubeND方位、RW方位、Q方位、P方位、R方位の各ピーク強度を、板の圧延方向に対して特定方向のr値に対する作用に応じて、各々特定の範囲に制御することによって、r値の異方性を小さくする。【選択図】なし

Description

本発明はr値の異方性が小さいプレス成形性に優れたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板およびその製造方法に関するものである。
本発明で言うアルミニウム合金板とは、熱間圧延板や冷間圧延板などの圧延板であって、溶体化および焼入れ処理などの調質(調質処理)が施された後であって、用途である自動車部材などに成形され、塗装焼付硬化処理される前のアルミニウム合金板を言う。また、以下の記載ではアルミニウムをアルミやAlとも言う。
近年、地球環境などへの配慮から、自動車等の車両の軽量化の社会的要求はますます高まってきている。かかる要求に答えるべく、自動車の材料として、鋼板等の鉄鋼材料に代えて、成形性や塗装焼付硬化性(ベークハード性、以下BH性とも言う)に優れた、より軽量なアルミニウム合金材の適用が増加しつつある。
自動車のアウタパネル、インナパネルなどの大型自動車パネル材用のアルミニウム合金板としては、代表的にはAl−Mg−Si系のAA乃至JIS 6000系 (以下、単に6000系とも言う) アルミニウム合金板が例示される。この6000系アルミニウム合金板は、Si、Mgを必須として含む組成を有し、成形時には低耐力(低強度)で成形性を確保し、成形後のパネルの塗装焼付処理などの人工時効(硬化) 処理時の加熱により耐力(強度)が向上し、必要な強度を確保できる、塗装焼付硬化性が優れている。
自動車のフェンダーやフードなどの大型パネル、特にアウタパネルには、デザイン性の点で、コーナー部やキャラクタラインなどの形状が先鋭化あるいは複雑化しても、成形後のネジレ変形が抑制され、ひずみやしわのない美しい曲面構成となる、高い形状精度を実現させることが必要である。また、自動車のインナパネルでも、前記アウタパネルとの関係で、設計される凹凸形状が深く(高く)なり、複雑化しても、ひずみやしわのない曲面構成を高い形状精度で実現させることが必要である。
そして、このような高成形性化の要求は、素材であるアルミニウム合金板の採用拡大に伴って、年々厳しくなっている。
ただ、このような自動車パネル材用途に要求される高成形性化を、鋼板素材よりも難加工材である6000系アルミニウム合金板で、通常の(従来の)合金組成範囲や、通常の製造工程や条件を大きく変えることなく達成することは、かなり難しい課題となる。
これに対して、従来から、前記自動車パネル材用の素材6000系アルミニウム合金板において、前記成形性やBH特性を向上させるための合金組成や、組織制御の手段は、結晶粒径の制御から、集合組織の制御を含め、原子の集合体(クラスター)の制御に至るまで、周知の通り、多数提案されている。
これらの組織制御の手段の中で、r値の異方性を小さくして自動車のアウタパネルなどへのプレス成形性を向上されるために、集合組織を制御することも、従来から種々提案されている。
例えば、特許文献1では、6000系アルミニウム合金板の、Cube方位、Brass方位、S方位、Cu方位の平均合計面積率を20〜65%である集合組織とし、この集合組織におけるCube方位の平均面積率を5〜15%、板の圧延方向に対して各々、0 °方向のr値をr0 、45°方向のr値をr45、90°方向のr値をr90とした時の、これらr値の平均値として、rbar =1/4×(r0 +2×r45+r90)と規定されるrbarを1.5以上とし、r値の異方性を示す指標であるΔrの絶対値として、1/4×(r0 −2×r45+r90)と規定されるΔrを0.75以下とすることが提案されている。
特許文献2では、6000系アルミニウム合金板の表面から板厚の1/4 深さ部分における結晶方位分布関数解析によるキューブ方位分布密度が10〜30の範囲であり、かつ、r値の異方性を示す指標であるΔrの絶対値として(r0 +r90−2×r45)/2を0.2〜0.7の範囲として、曲げ加工性とプレス成形性に優れた板とすることが提案されている。
特許文献3では、6000系アルミニウム合金板の表面から板厚の1/4深さ部分における結晶方位分布関数解析による、ランダム方位(%)=100−Cube方位(%)−Goss方位(%)−Brass方位(%)−Cu方位(%)−S方位(%)−PP方位(%)−RW方位(%)と規定する、ランダム方位の面積率を55〜75%として、前記Δrを0.2〜0.6とするとともに、前記r値の平均値を0.5以上として、伸びフランジ性および曲げ加工性に優れた板とすることが提案されている。
特許第5432439号公報 特許第4588338号公報 特許第4495623号公報
ただ、これら従来の、r値の異方性を小さくしてプレス成形性を向上させる、集合組織の制御技術では、前記高い形状精度を実現させるなど、自動車パネル材に要求されるより厳しい高成形性を達成するためには、未だ改善の余地がある。
本発明者らの知見によれば、前記従来の集合組織の制御では、r値の異方性を示す指標である前記Δrとしての(r0 +r90−2×r45)/2が概ね0.2以上と大きく、このようなr値の異方性制御のレベルでは、前記した高い形状精度を実現させる高成形性化は達成できない。
したがって、このような高成形性を達成するためには、これまでは、パネルデザインの変更や成形条件を変更して、成形時の負荷を緩和するか、6000系アルミニウム合金板の成形時の強度を大きく下げるなどの、従来周知の対策しかなかったのが実情である。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、自動車パネル材用として、従来の6000系アルミニウム合金板の組成や製造条件を大きく変えることなく製造できる、r値の異方性が小さいプレス成形用アルミニウム合金板およびその製造方法を提供することを目的とする。
この目的を達成するために、本発明のr値の異方性が小さいプレス成形用アルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Si:0.4〜1.5%、Mg:0.3〜1.0%、Mn:0.01〜0.5%、Cu:0.001〜1.0%を各々含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、
この板の組織が再結晶組織であり、この板の組織をSEM/EBSD法により前記板の任意の部位の板厚方向の全域に亘って測定した際の結晶方位分布関数より求められる、Cube方位、CubeRD方位、G方位、CubeND方位、RW方位、Q方位、P方位、R方位の各ピーク強度が、[Cube方位]+[CubeRD方位]+[G方位]+[CubeND方位]の合計で7.0〜16.0の範囲であるとともに、[RW方位]+[Q方位]+[P方位]+[R方位]の合計で5.0〜9.0の範囲であり、
前記板の圧延方向に10%のひずみの引張変形を付与した際の、前記圧延方向に対して各々、0 °方向のr値をr0 、45°方向のr値をr45、90°方向のr値をr90とした時の、r値の異方性を示す指標であるΔrの絶対値として(r0 +r90−2×r45)/2が0.15以下であることとする。
また、前記目的を達成するために、本発明のr値の異方性が小さいプレス成形用アルミニウム合金板の製造方法の要旨は、上記した成分組成を有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳塊を、均質化熱処理後に、終了温度を230〜340 ℃とした熱間圧延を行い、熱延板を圧延組織とした上で、この熱延板を更に圧下率が70〜94%の範囲で冷間圧延して冷延板とし、この冷延板を更に溶体化および焼入れ処理して、この溶体化および焼入れ処理後の板の組織を再結晶組織となし、
この板の組織をSEM/EBSD法により前記溶体化および焼入れ処理後の板の任意の部位の板厚方向の全域に亘って測定した際の結晶方位分布関数より求められる、Cube方位、CubeRD方位、G方位、CubeND方位、RW方位、Q方位、P方位、R方位の各ピーク強度を、[Cube方位]+[CubeRD方位]+[G方位]+[CubeND方位]の合計で7.0〜16.0の範囲とするとともに、[RW方位]+[Q方位]+[P方位]+[R方位]の合計で5.0〜9.0の範囲とし、
前記溶体化および焼入れ処理後の板の圧延方向に10%のひずみの引張変形を付与した際の、前記圧延方向に対して各々、0 °方向のr値をr0 、45°方向のr値をr45、90°方向のr値をr90とした時の、r値の異方性を示す指標であるΔrの絶対値として(r0 +r90−2×r45)/2を0.15以下とすることである。
本発明では、r値の異方性を小さくして高成形性化するために、6000系アルミニウム合金板の集合組織につき、前記板の圧延方向に対して0 °方向のr値、45°方向のr値、90°方向のr値に対する、各方位の各集合組織方位成分の影響を改めて見直した。
この結果、45°方向のr値の増大に大きく寄与する方位、45°方向のr値を大きく増大させない方位、0°方向と90°方向のr値を大きく増大させない方位、90°方向のr値を大きく増大させる方位などを新たに知見した。
これらの知見に基づき、本発明では、通常の板の製造条件を見直したところ、通常の条件では、Cube方位の集積度が大きく、0°方向と90°方向のr値が大きくなり、r値の異方性が大きくなることも知見した。これに基づき、本発明では、板の製造条件を変えて、45°方向のr値の増大に寄与する方位の結晶粒を増加させる一方で、r値の異方性を低減させるために、これらの方位の集積度を一定の範囲とする。また、0°方向および90°方向のr値の増大に寄与するCube方位などのる結晶粒を、r値の異方性を低減させるために規制する。
これによって、圧延方向に対して0°方向、45°方向、90°方向のr値を、通常あるいはそれ以上の値としながら、r値の異方性自体は低減させる。
このような集合組織制御によって、素材板のプレス成形時において、引張変形により材料中に導入される粒内歪の局在化を抑制し、前記引張変形の際の低歪域から高歪域まで、均一に(比較的高めに)粒内に歪を蓄積するようにする。これによって、プレス成形における、高歪域から破断に至るまでの不均一変形が抑制でき、高い加工硬化特性を発現させ、素材板を高成形性化させることができる。
これらの組織制御による高成形性化は、従来のアルミニウム合金組成や製造条件を大きく変えないで達成できる利点もある。
以下に、本発明の実施の形態につき、要件ごとに具体的に説明する。
(化学成分組成)
先ず、本発明のAl−Mg−Si系(以下、6000系とも言う)アルミニウム合金板の化学成分組成について、以下に説明する。本発明では、前記自動車パネル材などの素材板として、必要な高成形性や、BH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性を、組成の面からもこれらの要求を満たすようにする。但し、この場合でも、従来の組成や製造条件を大きくは変えないことを前提とする。
このような課題を組成の面から満たすようにするため、6000系アルミニウム合金板の組成は、質量%で、Si:0.4〜1.5%、Mg:0.3〜1.0%、Mn:0.01〜0.5%、Cu:0.001〜1.0%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとする。
この組成に加えて、前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Fe:0.05〜0.5%、Zr:0.04〜0.1%、Cr:0.04〜0.3%、V:0.02〜0.1%、Ag:0.01〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.3%のうちの一種または二種以上を選択的に含んだ組成としても良い。
上記6000系アルミニウム合金板における、各元素の含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
Si:0.4〜1.5%
Siは、Mgとともに、固溶強化と、焼付け塗装処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与するMg−Si系析出物を形成して、人工時効硬化能(BH性)を発揮し、アウタパネルなど自動車パネル材としての必要な強度(耐力)を得るための必須の元素である。
また、固溶Siは自動車パネル材へのプレス成形において材料に導入される転位の局在化を抑制し、引張変形の低歪み域から高歪み域まで均一に転位を増殖させる効果を有する。これによって、プレス成形時の高歪み域から破断に至るまでの不均一変形を抑制し、高い伸びや加工硬化特性を発現させることができる。
Si含有量が少なすぎると、固溶Si量が減少し、プレス成形時の伸びや加工硬化特性が低下して、5%の歪の引張変形を付与した後の転位増殖量が低下する。また、それだけではなく、Mg−Si系析出物の生成量が不足するため、BH性が低下して、焼付け塗装処理後の強度が著しく低下する。
一方、Si含有量が多すぎると、粗大な晶出物および析出物が形成されて、熱間圧延中に大幅な板割れが生じる。
したがって、Siは0.4〜1.5%の範囲とする。
Mg:0.3〜1.0%
MgもSiとともに、固溶強化と、焼付け塗装処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与するMg−Si系析出物を形成して、人工時効硬化能(BH性)を発揮し、パネルとしての必要耐力を得るための必須の元素である。
また、固溶Mgは、固溶Siと同様に、自動車パネル材へのプレス成形において材料に導入される転位の局在化を抑制し、引張変形の低歪み域から高歪み域まで均一に転位を増殖させる効果を有する。これによって、プレス成形時の高歪み域から破断に至るまでの不均一変形を抑制し、高い伸びや加工硬化特性を発現させることができる。
Mg含有量が少なすぎると、固溶Mg量が減少し、加工硬化特性が低下して、引張変形を付与した後の転位増殖量が低下する。さらに、Mg−Si系析出物の生成量が不足するため、BH性が低下して、焼付け塗装処理後の強度が低下する。
一方、Mg含有量が多すぎると、粗大な晶出物および析出物が形成されて、熱間圧延中に大幅な板割れが生じる。
したがって、Mgの含有量は0.3〜1.0%の範囲とする。
Mn:0.01〜0.5%
Mnは、固溶強化と結晶粒微細化効果により、アルミニウム合金の強度を向上させる。Mn含有量が少なすぎると、これらの効果が無い。一方、0.5%を超えて過度に含有すると、Al−Mn系金属間化合物量が多くなって破壊起点になり、伸びが低下しやすい。 また、Al−Mn系金属間化合物の周囲に転位が局在化し、加工硬化特性も低下する。 したがって、Mnの含有量は0.01〜0.5%の範囲とする。
Cu:0.001〜1.0%
Cuは強度や成形性の向上に寄与する。そして、固溶Cuは、固溶Siと同様に、加工硬化特性を向上させ、強度と成形性のバランスを高める。
Cu量が0.001%未満では、Cu自体の前記効果が小さくなり、同時に固溶Cu量も不足して、固溶Cuによる前記効果も不足する。
一方、Cu量が1.0%を超えると、塗装後の耐糸さび性や耐応力腐食割れ性を著しく劣化させる。
したがって、Cuの含有量は0.001〜1.0%の範囲とする。
Fe、Zr、Cr、V、Ag、Sn、Znのうちの一種または二種以上
これらの元素は、共通して板を高強度化させる効果があるので、本発明では同効元素と見なせ、必要により選択的に含有させるが、その具体的な機構には、共通する部分も、異なる部分も勿論ある。
Feは晶出物を生成して、再結晶粒の核となり、結晶粒の粗大化を阻止し、強度を向上させる役割を果たす。含有量が少なすぎると、その効果が小さく、多すぎると、粗大な化合物を形成し、破壊の起点となり、強度や成形性が低下する。
Zr、Cr、Vは、鋳塊及び最終板製品の結晶粒を微細化して強度向上に寄与する。また、これらの元素は分散粒子として存在して、結晶粒微細化に寄与して、成形性も向上させる。各々の含有量が少なすぎると、これらの結晶粒微細化による、強度や成形性の向上効果が不足する。一方、これらの元素が多すぎると、粗大な化合物を形成し、延性を劣化させる。
Agは、自動車部材への成形加工後の人工時効熱処理によって強度向上に寄与する時効析出物を緊密微細に析出させ、高強度化を促進する効果がある。含有量が少なすぎると強度向上効果が小さく、多すぎると、圧延性及び溶接性などの諸特性を却って低下させ、また、強度向上効果も飽和し、高価となる。
Snは室温でのクラスタ形成を抑制して、溶体化・焼き入れ処理後の板の、優れた成形加工性を長時間保持する効果を有し、更にその後に焼付け塗装処理などの人工時効熱処理した場合の強度を向上させる。含有量が少なすぎてはその効果が小さく、多すぎても却って熱間脆性を生じて熱間加工性(熱延性)を著しく劣化させる。
Znは人工時効硬化能(BH性)を向上させるのに有用で、焼付け塗装処理で、板組織の結晶粒内へのGPゾーンなどの化合物相の析出を促進させて高強度化する効果がある。
したがって、これらFe、Zr、Cr、V、Ag、Sn、Znは、含有させる場合には、前記した通り、Fe:0.05〜0.5%、Zr:0.04〜0.1%、Cr:0.04〜0.3%、V:0.02〜0.1%、Ag:0.01〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.3%の範囲で、一種または二種以上を含有させる。
その他の元素:
これら記載した以外の、Ti、Bなどのその他の元素は不可避的な不純物である。Tiは、Bとともに、粗大な化合物を形成して機械的特性を劣化させる。ただ、微量の含有によって、アルミニウム合金鋳塊の結晶粒を微細化する効果もあるので、6000系合金としてJIS規格などで規定する範囲での各々の含有を許容する。この許容量の例として、Tiは0.1%以下、好ましくは0.05%以下とする。また、Bは0.03%以下とする。
組織
以上の合金組成を前提として、本発明では成形性の向上のために、6000系アルミニウム合金板の組織についても、以下の通り制御する。
先ず、本発明は、前記高い形状精度を実現させる成形性向上のために、前記組成のAl−Mg−Si系アルミニウム合金板の組織が再結晶組織であることを前提とする。
この板の組織が再結晶組織であることは、熱延板あるいは冷延板を溶体化焼入れ処理した板の任意の部位の板厚方向の断面を切り出し、機械研磨および電解エッチングを施した後、倍率100倍の光学顕微鏡に偏光をかけて、結晶粒組織を観察し、再結晶粒組織か、圧延組織かどうかを、結晶粒の形状から判別できる。そして、板厚全域×板の圧延方向に1mm以上の長さの範囲(領域)を写真撮影し、この撮影範囲内の再結晶粒の面積率が95%以上のものを、本発明でいう、板の組織が再結晶組織とする。
次に、本発明では、前記高い形状精度を実現させる成形性向上のために、SEM/EBSD法により前記板の任意の部位の板厚方向の全域に亘って、この板の集合組織を測定した際の結晶方位分布関数より規定し、制御する。
すなわち、Cube方位、CubeRD方位、G方位、CubeND方位、RW方位、Q方位、P方位、R方位の、以下に示す各ピーク強度を、その作用に応じて別個に制御する。
先ず、[Cube方位]+[CubeRD方位]+[G方位]+[CubeND方位]の合計で7.0〜16.0の範囲とする。
次に、[RW方位]+[Q方位]+[P方位]+[R方位]の合計で5.0〜9.0の範囲とする。
これによって、前記板の圧延方向に10%のひずみの引張変形を付与した際の、前記圧延方向に対して各々、0 °方向のr値をr0 、45°方向のr値をr45、90°方向のr値をr90とした時の、r値の異方性を示す指標であるΔrの絶対値として(r0 +r90−2×r45)/2を0.15以下とする。
ちなみに、本発明では、Cube方位、CubeRD方位、G方位、CubeND方位、RW方位、Q方位、P方位、R方位の各ピーク強度をそれぞれ、[Cube方位]、[CubeRD方位]、[G方位]、[CubeND方位]、[RW方位]、[Q方位]、[P方位]、[R方位]と、括弧書きしている。
本発明では、r値の異方性を小さくして高成形性化するために、6000系アルミニウム合金板の集合組織につき、前記板の圧延方向に対して0 °方向のr値、45°方向のr値、90°方向のr値に対する、各方位の各集合組織方位成分の影響を、改めて調査した。この結果、各方位の前記各方向のr値への影響が改めて明らかとなった。
すなわち、RW方位,Q方位,P方位,R方位は、圧延方向に対して45°方向のr値の増大に大きく寄与する。
Cube方位,CubeRD方位,CubeND方位,Goss方位は、圧延方向に対して45°方向のr値を大きく増大させない。
Cube方位は0°方向と90°方向、Goss方位は90°方向のr値を大きく増大させる。
これらの知見に基づき、通常の板の製造条件を見直したところ、通常の再結晶組織となりやすい熱延条件や、冷延、溶体化および焼入れ処理条件では、Cube方位の集積度が大きく、0°方向と90°方向のr値が大きくなり、r値の異方性が大きくなることも改めて知見した。
これに基づき、本発明では、前提として、工程自体は常法の圧延において、熱延板は一旦圧延組織とした上で、冷延板の圧下率を制御するとともに溶体化および焼入れ処理して、6000系アルミニウム合金板の組織を再結晶組織とする。
これによって、これらの再結晶粒のうち、45°方向のr値の増大に寄与する、RW方位を有する結晶粒と、Q方位を有する結晶粒と、P方位を有する結晶粒と、R方位を有する結晶粒を増加させ、前記した[RW方位]+[Q方位]+[P方位]+[R方位]の合計を5.0以上とする。
但し、0°方向、45°方向、90°方向のr値の異方性を低減させるために、これらRW方位、Q方位、P方位、R方位の集積度を、前記した[RW方位]+[Q方位]+[P方位]+[R方位]の合計で9.0以下とする。
したがって、これら[RW方位]+[Q方位]+[P方位]+[R方位]の合計は、前記した通り5.0〜9.0の範囲とする。
同時に、0°方向および90°方向のr値の増大に寄与する、他の主要方位であるCube方位を有する結晶粒と、CubeRD方位を有する結晶粒と、CubeND方位を有する結晶粒と、Goss方位を有する結晶粒を、前記r値の異方性を低減させるために、一定の範囲内に規制する。
すなわち、[Cube方位]+[CubeRD方位]+[G方位]+[CubeND方位]の合計で16.0以下とする。
但し、これらは0°方向および90°方向のr値の増大には寄与するので、[Cube方位]+[CubeRD方位]+[G方位]+[CubeND方位]の合計で7.0以上とする。
したがって、これら[Cube方位]+[CubeRD方位]+[G方位]+[CubeND方位]の合計は、前記した通り7.0〜16.0の範囲とする。
以上の集合組織制御によって、圧延方向に対して0°方向、45°方向、90°方向に10%引張変形を付与した際のr値を、通常あるいはそれ以上の値を有しながら、その異方性を低減させ、r値の異方性を示す指標であるΔrの絶対値として(r0 +r90−2×r45)/2を0.15以下とする。
そして、素材板のプレス成形時において、引張変形により材料中に導入される粒内歪の局在化を抑制し、前記引張変形の際の低歪域から高歪域まで、均一に(比較的高めに)粒内に歪を蓄積するようにする。この結果、プレス成形における、高歪域から破断に至るまでの不均一変形が抑制でき、高い加工硬化特性を発現させ、素材板を高成形性化させることができる。
本発明は、以上の集合組織の規定によって、素材板を自動車パネル材にプレス成形して、前記した自動車のフェンダーやフードなどの大型パネルを実際に成形してみなくても、予め(事前に)この素材板の、前記成形後のネジレ変形が抑制された形状精度を達成する、などの成形性が評価できる利点も有する。
集合組織の測定
以上の本発明で規定する各結晶方位の集積度は、いずれもSEM−EBSD方位によって測定する。集合組織の測定のN数は5個として、その平均値を本発明で規定するピーク強度とする。
具体的には、溶体化および焼入れ処理後の冷延板(T4材)の各々任意の部位(5か所)の圧延方向断面の表面を機械研磨し、さらにバフ研磨に次いで電解研磨して、表面を調製した試料を各々用意し、測定部位は、前記表面を調整した各試料断面の板厚方向の全域に亘る、板厚全体とする。この場合、測定面積は、電子線照射幅3000μm×試料板厚tmmとなる。
走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、結晶方位分布関数(ODF)より、Cube方位、CubeRD方位、G方位、CubeND方位、RW方位、Q方位、P方位、R方位の各ピーク強度を求める。
そして、前記板厚全体の、結晶粒の数が1000個以上含まれる測定範囲で、ODF(結晶方位分布関数)を、3つのオイラー角φ1、Φ、φ2が0〜90°の範囲で、展開級数22まで計算し、得られたODF値を集積度として各方位に対して求める。
そして、これらの方位のそれぞれのODF値を各結晶方位の集積度=ピーク強度として求める。このピーク強度(無次元)の値は、ランダム方位のそれに対する大きさを示し、数値が大きいほど集積度が高いことを意味する。
この際、各方位の3つの(3次元の)オイラー角は以下の通りとする。
φ1:0°かつΦ:0°かつφ2:0°はCube方位。
φ1:22°かつΦ:0°かつφ2:0°はCubeND方位。
φ1:0°かつΦ:22°かつφ2:0°はCubeRD方位。
φ1:0°かつΦ:45°かつφ2:0°はGoss方位。
φ1:45°かつΦ:0°かつφ2:0°はRW方位。
φ1:45°かつΦ:15°かつφ2:10°はQ方位。
φ1:70°かつΦ:45°かつφ2:0°はP方位。
φ1:59°かつΦ:37°かつφ2:63°はR方位。
このようなSEM/EBSD法は、集合組織の測定方法として汎用され、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)に、後方散乱電子回折像[EBSD: Electron Back Scattering(Scattered) Diffraction Pattern]システムを搭載した結晶方位解析法である。
SEM/EBSD法は、前記FESEM(FE−SEM)の鏡筒内にセットしたAl合金板の試料に、電子線を照射して、その後方散乱電子の回折パターンをEBSD装置に取り込み、結晶方位解析をしながら試料表面を1μmおきに走査する。これにより、各点でのEBSP(Electron Back Scatter Diffraction Pattern)を得てその指数付けを行い,電子線照射部位の結晶方位を求める。得られた結晶方位測定データを圧延方向軸周りに90°回転,さらに,圧延面法線方向に90°回転操作し,測定領域全域においてEBSDによる結晶方位測定を行った際の、結晶方位分布関数(ODF)を計算し求める。これにより,前記各結晶方位の集積度=ピーク強度(無次元)を測定、算出する。これらFESEMにEBSDシステムを搭載した結晶方位解析法の詳細は、神戸製鋼技報/Vol.52 No.2(Sep.2002)P66-70などに詳細に記載されている。
(製造方法)
次ぎに、本発明アルミニウム合金板の製造方法について以下に説明する。本発明アルミニウム合金板は、製造工程自体は常法あるいは公知の方法であり、上記6000系成分組成のアルミニウム合金鋳塊を鋳造後に均質化熱処理し、熱間圧延、冷間圧延が施されて所定の板厚とされ、更に溶体化および焼入れ処理などの調質処理が施されて製造される。
但し、これらの製造工程中で、本発明の規定する集合組織を確実に再現性良く得るためには、後述する通り、熱間圧延条件、冷間圧延条件、溶体化および焼入れ処理などの諸条件を全て好ましい範囲内に満たすことが望ましい。これら諸条件が一つでも外れると、本発明の規定する集合組織が得られない可能性が高くなる。
溶解、鋳造冷却速度
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。ここで、本発明の規定範囲内に組織(平均結晶粒径、引張変形時の小傾角粒界の割合)を制御するために、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを30℃/分以上と、できるだけ大きく(速く)することが好ましい。
均質化熱処理
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、通常の目的である、組織の均質化(鋳塊組織内の結晶粒内の偏析をなくす)の他に、SiやMgを充分に固溶させるために重要である。
この均質化熱処理を行った後に熱間圧延を行うが、均質化熱処理後の熱間での粗圧延開始まで、500℃以下には鋳塊の温度を下げずに、MgやSiの固溶量を確保することが好ましい。
粗熱間圧延開始までに、500℃以下に鋳塊の温度が下がった場合、Al−Fe系やMg−Si系の粗大な化合物が析出しやすくなり、均一な結晶粒径分布や蓄積歪分布が得られなくなる可能性がある。このため、成形性が低下する可能性が高くなる。また、SiやMgが化合物に含まれることで固溶SiやMg濃度が減少すると、前記した固溶SiやMgの効果が十分に発揮されず、成形性が低下する可能性がある。
熱間圧延
熱間圧延は、圧延する板厚に応じて鋳塊の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
熱間粗圧延の開始から終了までの圧延中には、450℃以下には温度を下げることなく、SiやMgの固溶量を確保することが好ましい。圧延時間が長くなるなどして、パス間の粗圧延板の最低温度が450℃以下に下がると、Mg−Si系の化合物が析出しやすくなり、均一な結晶粒径分布が得られなくなる可能性がある。このため、成形性が低下する可能性が高くなる。また、SiやMgが化合物に含まれることで固溶SiやMgの濃度が減少すると、前記した固溶SiやMgの効果が十分に発揮されなくなる可能性もある。
このような熱間粗圧延後に、終了温度を230〜340℃の範囲とした熱間仕上げ圧延を行うことが好ましい。この熱間仕上げ圧延の終了温度が230℃未満と低すぎる場合には、圧延荷重が高くなって生産性が低下する。一方、熱延板を圧延組織(加工組織)とするためには、熱間仕上げ圧延の終了温度を340℃以下とする。この終了温度が340℃を超えると、熱延板が再結晶組織となり、続く、冷間圧延の条件を工夫しても、溶体化および焼入れ処理後の再結晶組織を、本発明で規定する集合組織とすることができない可能性が高い。
冷間圧延
次いで、上記熱延板を、中間焼鈍せずに、最終板厚まで冷間圧延して、所望の最終板厚の冷延板(コイルを含む)を製作することが好ましい。この際、圧下率(冷間圧延率)は70〜92%とする。冷延の途中で中間焼鈍を施すと、冷延の圧下率が低すぎる場合と同様に、熱延板が圧延組織(加工組織)であっても、溶体化および焼入れ処理後の再結晶組織を、本発明で規定する集合組織とすることができない可能性が高い。
溶体化および焼入れ処理
冷間圧延後に、溶体化処理と、これに続く室温までの焼入れ処理を行う。この溶体化焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインを用いてよい。
ただ、Mg、Siなどの各元素の十分な固溶量を得るためには、500℃以上、溶融温度以下の溶体化処理温度で10秒以上保持した後、その保持温度から100℃までの平均冷却速度を30℃/秒以上とすることが好ましい。500℃より低い温度、または10秒より短い保持時間では、溶体化処理前に生成していた、Al−Fe系化合物や、Mg−Si系化合物の再固溶が不十分になって、固溶Si量が低下し、前記した固溶SiやMgの効果が十分に発揮されず、成形性が低下する可能性がある。
平均冷却速度が30℃/秒未満の場合、冷却中に再結晶粒径が粗大化すると同時に、固溶SiやMg量が低下し、前記した固溶SiやMgの効果が十分に発揮されず、成形性が低下する可能性が高くなる可能性がある。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段や条件を各々選択して用いる。
このような溶体化処理および焼入れ処理後に、BH性向上などの必要性があれば選択的に予備時効処理(再加熱処理)を行う。この予備時効処理は、60〜120℃での保持時間を10時間以上、40時間以下保持することが好ましい。これによって、前記MgとSiのバランスが良いMg−Siクラスタが形成される。
以下、実例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
次に本発明の実施例を説明する。本発明の集合組織で規定する組織が異なる6000系アルミニウム合金板を、組成や製造条件を変えて作り分けて製造した。そして、板製造後の、集合組織とr値の異方性、As耐力(焼付け塗装硬化処理前の耐力)やAB耐力(焼付け塗装硬化処理後の耐力)、破断伸びを各々測定、評価した。これらの結果を表1、2に示す。
具体的な前記作り分け方は、表1に示す組成の6000系アルミニウム合金板を、表1に示すように、熱延終了温度、冷延の圧下率を種々変えて行った。ここで、表1中の各元素の含有量の表示において、各元素における数値をブランクとしている表示は、その含有量が検出限界以下であることを示す。
アルミニウム合金板の製造条件
アルミニウム合金板の具体的な製造条件は、前記熱延終了温度、前記冷延の圧下率を除き、各例とも以下の通り共通(同じ)とした。
表1に示す各組成のアルミニウム合金鋳塊を、DC鋳造法により共通して溶製した。この際、各例とも共通して、鋳造時の平均冷却速度について、液相線温度から固相線温度までを50℃/分とした。続いて、鋳塊を、550℃×6時間の均熱処理をした後、その温度で熱間粗圧延を開始した。この際の熱間粗圧延の最低(パス)温度は490℃とし、続く仕上げ圧延にて熱間圧延板とした。この熱間圧延板を、冷延パス途中の中間焼鈍無しで冷間圧延を行い、厚さ1mmの冷延板とした。
更に、この各冷延板を、連続式の熱処理設備で巻き戻し、巻き取りながら、連続的に溶体化および焼入れ処理(T4)した。具体的には、溶体化処理を500℃までの平均加熱速度を10℃/秒として、540℃の目標温度に到達後5秒保持して行い、その後、平均冷却速度を100℃/秒とした水冷を行うことで室温まで冷却した。
これらの溶体化および焼入れ処理後、100日間室温放置した後の各最終製品板から供試板 (ブランク) を切り出し、各供試板の前記再結晶組織や集合組織、特性を測定、評価した。これらの結果を表2に示す。
(再結晶組織)
各例とも、この板の組織が再結晶組織であるかどうかを前記した結晶粒組織の観察にて確認した。この結果、比較例6を除いて、前記写真撮影した範囲内の再結晶粒の面積率は全て100%であった。
(集合組織)
上記各溶体化および焼入れ処理後の板の集合組織の測定は、前記した要領にて、EBSD測定・解析システムとして、TSL社製(OIM)あるいはOXFORD社製(CHANNEL5)を用いて、前記板の任意の部位の板厚方向の全域に亘って前記再結晶組織を測定して、結晶方位分布関数を求めた。
そして、この結晶方位分布関数より求められる、Cube方位、CubeRD方位、G方位、CubeND方位、RW方位、Q方位、P方位、R方位の各ピーク強度を測定した。そして、これら各ピーク強度の[Cube方位]+[CubeRD方位]+[G方位]+[CubeND方位]の合計と、[RW方位]+[Q方位]+[P方位]+[R方位]の合計も算出した。
測定領域は、前記板の任意の5か所の部位の板厚方向の全域とし、これら各々の測定面積は、電子線照射幅3000μm×試料板厚1mmとし、測定ステップ間隔は1μmとした。
なお、表2では、各ピーク強度を、その合計も含めて、各々の括弧([])を外して記載している。
引張試験
前記各供試板の引張試験は、上記各溶体化および焼入れ処理後の板から、各々JIS13Aの引張試験片(20mm×80mmGL×板厚)を採取し、室温にて引張試験を行った。このときの試験片の引張方向は圧延方向に対して0°方向,45°方向,90°方向の3方向とした。引張速度は5mm/分とした。機械的特性測定のN数は5とし、前記As耐力(0.2%耐力)、破断伸び(%)を各々測定して平均化した。
また、前記大型パネルへの成形を模擬して、前記試験片の前記板の圧延方向に10%のひずみの引張変形を予め付与した際の、前記圧延方向に対して各々、0 °方向のr値r0 、45°方向のr値r45、90°方向のr値r90を、前記引張試験条件により、各々測定した。そして、(r0 +r90−2×r45)/2からΔrの絶対値を算出した。このΔrの測定のN数も5とし、これらの平均値で算出した。なお、以下の記載ではΔrの絶対値を単にΔrと言う。
BH性
BH性(ベークハード性)は、前記大型パネルへの成形を模擬して、前記各溶体化および焼入れ処理後の板に、この板の圧延方向に10%のひずみの引張変形を予め付与した後で、前記大型パネルの時効硬化処理(塗装焼き付け処理)を模擬して、180℃×20分熱処理(人工時効硬化処理)後の板から、圧延方向に対する角度が90°方向を長手方向とする、前記引張試験片を採取し、前記要領にて引張試験を行って、前記AB耐力(0.2%耐力)を各々測定した。
表1に各々示す通り、実施例は、本発明の成分組成範囲内で、かつ好ましい条件範囲で製造され、熱間圧延後の組織を圧延組織とし,冷間圧延での圧下率を大きくすることで溶体化処理前までの圧延率を増大させ、溶体化および焼入れ処理後に完全再結晶して、45°方向のr値増大に寄与するRW方位,Q方位,P方位を持つ再結晶粒を、規定する通り形成させている。また、その一方で,45°方向のr値増大に寄与せず、0°方向のr値および90°方向のr値を上げるCube、Goss方位を持つ再結晶粒も、規定する通り、一定量形成させている。この結果、Δrが0.15以下となっている。
この結果、各実施例は、前記した自動車パネル材用として合格するくらいにr値異方性が低く、前記高い形状精度を実現させる成形性に優れる。
これに対して、比較例1〜6は、表1の通り、本発明の成分組成範囲内であるが、製造条件が好ましい範囲から外れている。比較例7、8は、製造条件が好ましい範囲内であるが、表1の通り、合金組成が本発明の成分組成範囲から外れている。
このため、これら比較例は、表2に示す通り、集合組織が本発明で規定する範囲から外れ、Δrが高く、実施例に比して成形性が劣っている。したがって、自動車パネル材用としては不合格である。
比較例1は、熱間圧延後の組織を圧延組織としたが、冷間圧延での圧下率が70%を下回り、溶体化処理前までの圧延率が小さいため、溶体化処理後に完全再結晶した後に、Cube方位の集積度が大きくなり、0°方向と90°方向のr値が大きくなり、Δrが0.15を超えている。
比較例2は、熱間圧延後の組織を圧延組織としたが、冷間圧延での圧下率が92%を超えて、溶体化処理前までの圧延率が非常に大きくなりすぎ、溶体化処理後に完全再結晶した後に、Cube方位の集積度が小さくなりすぎる。また、Q方位やP方位の集積度が増大したため、45°方向のr値が大きくなりすぎ、Δrが0.15を超えている。
比較例3は、熱間圧延終了温度が高すぎ、熱延板の組織が再結晶組織となり、このときにCube方位が発達するため、Q方位およびP方位の集積度が低下する。このため、0°および90°方向のr値が上がり、45°方向のr値が低下してΔrが0.15を超えている。
比較例4は、比較例3と同様に、熱間圧延後に再結晶してCube方位粒が形成されている。この場合、冷間圧延後にCube方位領域が残存し、溶体化処理時にCube方位粒が再び発達する。ただ、比較例4は、比較例3より冷間圧延率が大きいため、周囲の大きな蓄積ひずみを駆動力に溶体化処理時にCube方位粒が発達し過ぎて、0°および90°方向のr値が上がり、45°方向のr値が低下してΔrが0.15を超えている。
比較例5は、冷間圧延率は大きいが、熱間圧延後に未再結晶領域中に部分的に形成された再結晶粒のうちCube方位を有したものがあり、比較例4と同様の機構により、溶体化処理時に再び大きくCube方位粒が発達しすぎて、0°および90°方向のr値が上がり、45°方向のr値が低下して、Δrが0.15を超えている。
比較例6は、溶体化処理で再結晶組織が得られないので、表1の通り、溶体化処理後も圧延集合組織が残存し、r値は低すぎて測定不能であった。また、これによって、前記人工時効硬化処理の前のストレッチ(板の圧延方向に10%のひずみの引張変形を予め付与)した際に破断したため、AB耐力は測定できなかった。
比較例7は表1の合金7であり、Mgが少なすぎる。
比較例8は表1の合金8であり、Si、Mn、Cuが少なすぎる。
このため、これら比較例はAs耐力が低すぎるので、低すぎることが確実なAB耐力は敢えて測定しなかった。
したがって、以上の実施例の結果から、自動車パネル材用として、従来の組成や製造条件を大きく変えることなく、高成形性6000系アルミニウム合金板を得るための、本発明で規定する組成や組織の要件を全て満たすことの意義が裏付けられる。
本発明によれば、自動車パネル材用として、従来の組成や製造条件を大きく変えることなく製造できる、高成形性6000系アルミニウム合金板を得ることができる。この結果、自動車パネル材用として、6000系アルミニウム合金板の適用を拡大できる。

Claims (3)

  1. 質量%で、Si:0.4〜1.5%、Mg:0.3〜1.0%、Mn:0.01〜0.5%、Cu:0.001〜1.0%を各々含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金板であって、
    この板の組織が再結晶組織であり、この板の組織をSEM/EBSD法により前記板の任意の部位の板厚方向の全域に亘って測定した際の結晶方位分布関数より求められる、Cube方位、CubeRD方位、G方位、CubeND方位、RW方位、Q方位、P方位、R方位の各ピーク強度が、[Cube方位]+[CubeRD方位]+[G方位]+[CubeND方位]の合計で7.0〜16.0の範囲であるとともに、[RW方位]+[Q方位]+[P方位]+[R方位]の合計で5.0〜9.0の範囲であり、
    前記板の圧延方向に10%のひずみの引張変形を付与した際の、前記圧延方向に対して各々、0 °方向のr値をr0 、45°方向のr値をr45、90°方向のr値をr90とした時の、r値の異方性を示す指標であるΔrの絶対値として(r0 +r90−2×r45)/2が0.15以下である
    ことを特徴とするr値の異方性が小さいプレス成形用アルミニウム合金板。
  2. 前記成分組成が、更に、質量%で、Fe:0.05〜0.5%、Zr:0.04〜0.1%、Cr:0.04〜0.3%、V:0.02〜0.1%、Ag:0.01〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.3%のうちの一種または二種以上を含む請求項1に記載のr値の異方性が小さいプレス成形用アルミニウム合金板。
  3. 請求項1または2に記載の成分組成を有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金鋳塊を、均質化熱処理後に、終了温度を230〜340 ℃とした熱間圧延を行い、熱延板を圧延組織とした上で、この熱延板を更に圧下率が70〜92%の範囲で冷間圧延して冷延板とし、この冷延板を更に溶体化および焼入れ処理して、この溶体化および焼入れ処理後の板の組織を再結晶組織となし、
    この板の組織をSEM/EBSD法により前記溶体化および焼入れ処理後の板の任意の部位の板厚方向の全域に亘って測定した際の結晶方位分布関数より求められる、Cube方位、CubeRD方位、G方位、CubeND方位、RW方位、Q方位、P方位、R方位の各ピーク強度を、[Cube方位]+[CubeRD方位]+[G方位]+[CubeND方位]の合計で7.0〜16.0の範囲とするとともに、[RW方位]+[Q方位]+[P方位]+[R方位]の合計で5.0〜9.0の範囲とし、
    前記溶体化および焼入れ処理後の板の圧延方向に10%のひずみの引張変形を付与した際の、前記圧延方向に対して各々、0 °方向のr値をr0 、45°方向のr値をr45、90°方向のr値をr90とした時の、r値の異方性を示す指標であるΔrの絶対値として(r0 +r90−2×r45)/2を0.15以下とすることを特徴とするr値の異方性が小さいプレス成形用アルミニウム合金板の製造方法。
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