JP6337841B2 - アルミニウム合金製鋳物部材の製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金製鋳物部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、アルミニウム合金製鋳物部材の製造方法に関する。
従来、自動車等の車両の製造分野では、ドアやエンジンフードといった車体部品、ナックル等のシャシ部品(車両の足回り部品)をアルミニウム合金で製造することにより、車両の軽量化を図っている。このような車両部品のアルミ化では、主にアルミニウムにマグネシウムおよびシリコンを添加したAl−Mg−Si系合金が用いられている。例えば、特許文献1には、車両部品に適したAl−Mg−Si系合金の一つとして、高い引張強さが得られる高強度アルミニウム合金が開示されている。
特開平9−202933号公報
ところで、Al−Mg−Si系のアルミニウム合金を鋳造して得られた鋳造物は、通常、強度を高めるための熱処理(T6等)が行われた後に使用される。T6処理は、鋳造された鋳造物を高温に加熱してその温度に所定時間保持することで母相中に溶質元素を拡散・固溶させる溶体化処理と、溶体化処理で得られた溶体化処理物を水冷等により急速に冷却することで過飽和固溶状態にさせる焼入れ処理と、焼入れ処理で得られた焼入れ処理物を溶体化処理の加熱温度より低い時効温度まで加熱してその時効温度に所定時間保持することで、固溶した溶質元素を第2相として析出させる人工時効処理とからなる。
上記したナックル等の足回り部品には、強度(引張強度、耐力)と伸び(靱性)の両方が高いことが求められる。しかしながら、T6処理で得られたアルミニウム合金製鋳物部材の強度と伸びはトレードオフの関係にあるため、その処理条件を強度優位に設定すれば伸びが小さくなり、伸び優位に設定すれば強度が小さくなってしまう。具体的には、人工時効処理の温度が高いと強度重視型(伸び小)の鋳物部材となり(特許文献1参照)、人工時効処理の温度が低いと伸び重視型(強度小)の鋳物部材となる。従って、T6処理で単に人工時効処理の処理条件(温度・時間)を調整するだけでは、強度と伸びの両方を向上させることは難しい。
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、強度と伸びの両方を高めることができるアルミニウム合金製鋳物部材の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、質量%で、Mg:0.2%以上0.4%以下、Si:1.2%以上5.0%以下を含有し、かつ、全Si量からMgSiに含まれるSi量を減じた値を過剰Si量とする下記の関係式を満足し、
7.7×[過剰Si量]+9×[MgSi量]≦14
80×[過剰Si量]+55×[MgSi量]≧112
かつ、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるAl−Mg−Si系のアルミニウム合金製鋳物部材の製造方法であって、鋳造された鋳造物の温度を500〜560℃の溶体化温度に1Hr以上保持する処理である溶体化工程と、前記溶体化工程で得られた溶体化処理物を焼入れ処理する焼入れ工程とを備え、前記焼入れ工程は、前記溶体化処理物を、前記溶体化温度より低く、かつ、常温より高い温度である焼入れ温度まで急冷して当該焼入れ温度に所定時間保持し、その後、常温まで冷却する2段階の焼入れ処理であることを特徴とする、鋳物部材の製造方法を提供する。
本発明によれば、溶体化処理物に対して上記2段階の焼入れ処理を行うことにより、当該焼入れ処理後の時効時に、アルミニウム合金製鋳物部材の強度と伸びを高める析出相(β”相)の成長が促進されるため、当該鋳物部材の強度と伸びの両方を高めることができる。すなわち、上記2段階の焼入れ処理が行われることにより、焼入れ処理物(焼入れ処理で得られた物)内に、β”相の成長に寄与する有効クラスタが、β”相の成長を阻害する有害クラスタよりも優位に形成される(有効クラスタの形成が促進されるとともに、有害クラスタの形成が抑制される)ため、アルミニウム合金製鋳物部材の強度(引張強度、耐力)と伸び(靱性)の両方を高めることができる。
本発明においては、前記アルミニウム合金は、質量%で、Cu:0.4%以上0.6%以下、Ti:0.020%以上0.035%以下をさらに含有することが好ましい。
この構成によれば、Cuが添加されていることで、時効硬化を促進させて強度をより高めることができるとともに、伸びをさらに改善することができる。また、Tiが添加されていることで、鋳造に際し、結晶粒細粒化を促進させて凝固割れを抑制することができる。
本発明においては、前記焼入れ工程は、前記焼入れ温度である120〜160℃に加熱されたソルト炉または流動層炉により、前記溶体化処理物を前記焼入れ温度まで急冷して当該焼入れ温度に2Hr以下の時間保持する前段処理と、当該前段処理で得られた前段処理物を常温まで冷却する後段処理とからなることが好ましい。
この構成によれば、焼入れ温度およびその保持時間が好適な範囲に設定され、しかも、ソルト炉または流動層炉で冷却することにより溶体化処理物が好適な速度で冷却されるので、アルミニウム合金製鋳物部材の強度と伸びをさらに高めることができる。
本発明においては、前記焼入れ工程で得られた焼入れ処理物を、120〜160℃の温度にて0〜6Hr加熱する処理である人工時効工程をさらに備えることが好ましい。
この構成によれば、人工時効処理の温度および時間が好適な範囲に設定されるので、アルミニウム合金製鋳物部材の強度と伸びをさらに高めることができる。
本発明においては、前記溶体化処理工程は、前記鋳造物の温度を前記溶体化温度に3〜8Hr保持する処理であることが好ましい。
この構成によれば、溶体化処理の実行時間が過不足のない時間に設定されるので、溶体化処理が適切になされるとともに、溶体化処理にかかるコストを低減することができる。
以上説明したように、本発明によれば、強度と伸びの両方が高いアルミニウム合金製鋳物部材を製造することができる。
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製鋳物部材の製造方法(実施例1〜4)を示す図である。 比較例1,2に係るアルミニウム合金製鋳物部材の製造方法を示す図である。 実施例1〜4および比較例1,2で得られたアルミニウム製合金鋳物部材に対して行われた引張試験の結果を示すグラフである。 ナノクラスタの生成領域およびβ”相の析出領域を示すC曲線と、焼入れ処理における冷却経路(温度変化および時間経過)を示す図である。 本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製鋳物部材の製造方法(実施例4〜6)を示す図である。 実施例4〜6で得られたアルミニウム合金製鋳物部材に対して行った引張試験の結果を示すグラフである。 各種アルミニウム合金におけるSi,Mg,およびMgSiの各含有量を示す図である。 本発明の実施形態に係る製造方法で得られたアルミニウム合金製鋳物部材の機械的性質を示すグラフである。 A6061合金の機械的性質を示すグラフである。
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について詳述する。
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金製鋳物部材の製造方法は、下記のアルミニウム合金の鋳造物に対して後述の熱処理(溶体化処理、焼入れ処理、および人工時効処理)を行うことを特徴とするものである。以下、本製造方法について詳細に説明する。
<アルミニウム合金の鋳造物について>
本実施形態で用いられるアルミニウム合金(以下、「本アルミニウム合金」と称する)は、Al−Mg−Si系のアルミニウム合金であって、質量%で、Mg:0.2%以上0.4%以下、Si:1.2%以上5.0%以下、Cu:0.4%以上0.6%以下、Ti:0.020%以上0.035%以下を含有し、かつ、全Si量からMgSiに含まれるSi量を減じた値を過剰Si量とする下記の式(1)、(2)を満足し、
7.7×[過剰Si量]+9×[MgSi量]≦14…(1)
80×[過剰Si量]+55×[MgSi量]≧112…(2)
かつ、残部がAl及び不可避的不純物よりなるものである。なお、以下の説明では、化学組成を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
本アルミニウム合金を電気炉にて溶解したものを、例えば溶融温度740℃、金型温度200℃の条件で、通常の金型重力鋳造法に基づいて金型に鋳込むことにより、アルミニウム合金の鋳造物が得られる。
<溶体化処理について>
上記溶体化処理(溶体化工程)は、上記鋳造物の温度を500〜560℃の溶体化温度に1Hr以上保持する処理であり、上記溶体化温度に保持する時間は、好ましくは3〜8Hrとされる。鋳造物を500℃以上の溶体化温度に加熱し且つその温度に1Hr以上保持することで、溶質元素を母相中に拡散および固溶させることができるが、溶体化温度が500℃未満であるか、もしくは、その温度に保持する時間が1Hr未満である場合には、溶質元素の固溶が不充分となる。また、溶体化温度が560℃を超える温度である場合には、共晶融解が生じて強度低下を生じる可能性がある。
<焼入れ処理について>
上記焼入れ処理(焼入れ工程)は、溶体化処理で得られた溶体化処理物を、上記溶体化温度より低く、かつ、常温より高い温度である焼入れ温度まで急冷して当該焼入れ温度に所定時間保持し(図1における焼入れ温度保持領域H)、その後、常温まで冷却する2段階の焼入れ処理である。
詳しく説明すると、焼入れ処理は、焼入れ温度である120〜160℃に加熱されたソルト炉または流動層炉により、溶体化処理物を焼入れ温度まで急冷して当該焼入れ温度に0を超え且つ2Hr以下の時間保持する前段処理と、当該前段処理で得られた前段処理物を常温まで空冷(常温に放置)する後段処理とからなる。
上記前段処理における焼入れ温度の保持時間(焼入れ温度保持領域Hの時間方向の長さ)は、0Hrに近い短時間でもよく、例えば10分(1/6Hr)程度とすることが可能である。
この焼入れ処理により、固溶元素が母相内で過飽和固溶状態となるとともに、母相内において、有効クラスタと称されるナノクラスタ(SiおよびMgから構成される金属間化合物)が、有害クラスタと称されるナノクラスタ(SiおよびMgから構成される金属間化合物)よりも優位に形成される。「有効クラスタが有害クラスタよりも優位に形成される」とは、有効クラスタの形成が促進されるとともに、有害クラスタの形成が抑制されることを意味する。
この有効クラスタは、焼入れ処理後の時効時にβ”相と称される金属間化合物(SiおよびMgから構成される中間相)に遷移することにより、β”相の形成を促進する。このβ”相は、時効時にβ’相、β相へと順次遷移する。β’相はβ”相とは異なる結晶構造を有する金属間化合物(SiおよびMgから構成される中間相)であり、β相はβ”相およびβ’相よりも安定な金属間化合物(MgSiからなる平衡相)である。β相は、アルミニウム合金製鋳物部材の強度(引張強度、耐力)および伸び(靱性)を増大させる。
一方、有害クラスタは、有効クラスタよりも安定した化合物であり、焼入れ処理後の時効時(人工時効およびその後の自然時効を含む)にβ”相に遷移しにくいため、β”相の析出を阻害し、ひいてはβ相の析出を阻害する。
上記2段階の焼入れ処理では、有効クラスタの形成が促進されるとともに、有害クラスタの形成が抑制されるため、時効時におけるβ”相の析出が促進される。
<人工時効処理について>
人工時効処理(人工時効工程)は、上記焼入れ処理で得られた焼入れ処理物を、120〜160℃の温度にて0〜6Hr加熱する処理である。この人工時効処理により、母相に固溶した溶質元素が析出し、この析出過程において上記有効クラスタがβ”相に遷移する(β”相が析出する)。β”相は、人工時効およびその後の自然時効により、β’相、β相へと順次遷移する。β相の析出により、アルミニウム合金製鋳物部材の強度および伸びが向上する。
人工時効温度が120℃未満であると強度が低下し、160℃を超えると伸びが低下する。120〜160℃の範囲で、強度と伸びのバランスを勘案すると140〜160℃がより好ましい。また、人工時効時間が長過ぎると過時効状態となり、充分な機械的性質が得られない。伸び重視の観点から、人工時効時間は6Hr以下に設定される(図3参照)。
次に、本発明を実施例により説明することで、本発明の効果を明らかにする。
(実施例1〜4)
[製造方法]
下記の表1に示される化学成分よりなる本アルミニウム合金を電気炉によって溶解し、これを、溶融温度740℃、金型温度200℃の条件下で、金型重力鋳造法に基づき、JISH5202に記載の金型試験片鋳型に鋳込むことにより実施例1〜4に係る鋳造物を得た。
Figure 0006337841
これらの鋳造物に対し、図1および下記の表2に示される熱処理(溶体化処理、2段階焼入れ処理、および人工時効処理)を施すことにより、実施例1〜4に係るアルミニウム合金製鋳物部材を得た。
Figure 0006337841
具体的には、図1および表2に示されるように、溶体化処理は、実施例1〜4に係る鋳造物を550℃まで加熱して、その温度に5Hr保持することで行った。2段階焼入れ処理は、実施例1〜4に係る溶体化処理物を、140℃に加熱されたソルトバスに投入することにより140℃まで急冷してその温度に2Hr保持(図1の焼入れ温度保持領域H)した後、常温まで空冷(常温に放置)することで行った。人工時効処理は、実施例1〜4に係る焼入れ処理物を、140℃まで加熱してその温度に0,3,6,8Hr保持し、その後空冷(常温に放置)することで行った。なお、実施例1における「0Hr保持」とは、焼入れ処理物をソルトバスにより140℃まで加熱した直後にソルトバスから取り出し、その後、常温まで空冷で冷却(常温に放置)することを意味する。
(比較例1,2)
[製造方法]
実施例1〜4と同様の方法で得た鋳造物に対し、図2および下記の表3に示される熱処理(溶体化処理、焼入れ処理、および人工時効処理)を施すことにより、比較例1,2に係るアルミニウム合金製鋳物部材を得た。
Figure 0006337841
具体的には、図2および表3に示されるように、溶体化処理は、比較例1,2に係る鋳造物を550℃まで加熱して、その温度に5Hr保持することで行った。焼入れ処理は、比較例1,2に係る溶体化処理物を、水冷により常温まで急冷することで行った。人工時効処理は、表3に示されるように、比較例1,2に係る焼入れ処理物を、175℃,140℃まで加熱してその温度に8Hr保持し、その後空冷(常温に放置)することで行った。
[試験方法]
実施例1〜4および比較例1,2の製造方法で得られたアルミニウム合金製鋳物部材の中央からJIS14A号の引張試験片を採取し、島津製作所製オートグラフを用いて、常温(室温)の下で試験速度3mm/minにて引張試験を実施し、引張強さ(MPa)、0.2%耐力(MPa)、および伸び(%)を測定した。試験結果を図3に示す。
[試験結果]
図3に示されるように、T6処理がなされた比較例1は、強度重視の観点から人工時効温度が175℃と高く設定されており、比較例2は伸び重視の観点から人工時効温度が140℃と低く設定されている。このため、比較例1では強度(引張強度)が高く、比較例2では伸びが高い結果が得られている。しかしながら、T6処理がなされたものは強度と伸びがトレードオフの関係にあるため、比較例1では伸びが低く、比較例2では強度が低くなっており、いずれの時効処理温度でも、強度と伸びの両方を高めることはできていない。特に、伸びを重視した比較例2では、強度(特に耐力)の低下が著しい。
これに対し、2段階焼入れ処理がなされた実施例1〜3では、比較例2と同じ人工時効温度(140℃)であるにも拘わらず、比較例2よりも耐力が大幅に高くなっている。また、人工時効時間が短いほど伸びの値が高くなっている。中でも、実施例1は、強度(引張強度、耐力)と伸びの両方で高い値を示し、従来のT6処理では得られない優れた強度・伸びバランスを実現できている。なお、実施例4では、強度は高いものの、実施例1〜3と比べて伸びが低くなっている。
以上の結果から、2段階焼入れ処理における時効時間は、引張強度が270MPa級、伸びが10%を超える機械的性質が見込まれる6Hr以下が望ましいことが分かった。さらに、実施例1においては、2段階焼入れ処理後の人工時効処理を実施せずに、高い機械的特性が得られることから、人工時効処理工程の省略が可能となり、熱処理コストの削減および生産性の向上を図ることができる。
[考察]
Al−Si−Mg系のアルミニウム合金では、溶体化および焼入れ後、常温(室温)に一定期間放置(自然時効)すると、人工時効後の強度が減少することが知られており(いわゆる「負の効果」)、この負の効果を解消するための研究が盛んに行われている。近年の析出過程の研究から、溶体化処理後、母相内に比較的低温で生成されるクラスタには、図4に示されるように、常温(室温)〜70℃で生成される有害クラスタ(I)と、70〜130℃付近で生成される有効クラスタ(II)の2種類のMg−Siナノクラスタがあり、有効クラスタ(II)と比べて熱的に安定な有害クラスタ(I)の量が優位にあると、強化相(時効硬化に寄与する相)であるβ”相の形成が阻害されると言われている。従来のT6処理では、溶体化処理物は水冷により溶体化温度から常温まで一気に急冷されるため、図4に示されるように、焼入れ時の冷却過程(温度変化および時間経過)を示す冷却経路L1が有効クラスタ(II)の生成領域を通過せず、その結果、有効クラスタ(II)がほとんど生成されず、常温に到達したときに有害クラスタ(I)が数多く生成される。その結果、有害クラスタ(I)の量が有効クラスタ(II)の量よりも優位となり、焼入れ処理後の人工時効時にβ”相の形成が阻害されて、機械的特性の改善が図れないものと推察される。
一方、図4に冷却経路L2で示されるように、溶体化処理後にソルトバスで焼入れを行い、焼入れ温度を140℃に保持した場合には、冷却経路L2が有効クラスタ(II)の生成領域を通過する(特に、冷却経路L2の140℃に保持された部分が有効クラスタ(II)の生成領域を通過する)ため、有効クラスタ(II)の生成割合が増加するとともに、有害クラスタ(I)の生成割合が減少し、その結果、人工時効時にβ”相の析出が促進されて、強度および伸びが向上したものと考えられる。
(実施例5,6)
2段階焼入れ処理における焼入れ温度の適正化を図るために、上記実施例4における熱処理条件の一部を変更した実施例5,6を作製し、以下の試験を行った。
[製造方法]
図5に示されるように、実施例5に係るアルミニウム合金製鋳物部材の製造方法は、焼入れ温度を180℃に設定した点以外は、上記実施例4と同じ条件とした。
実施例6に係るアルミニウム合金製鋳物部材の製造方法は、焼入れ温度を100℃に設定した以外は、上記実施例4と同じ条件とした。なお、ソルトバスにおいて焼入れ温度を100℃に設定すると、ソルトが固まってしまうため、実施例6では100℃の沸騰水で焼入れ処理を行った。
[試験方法]
実施例5,6に係るアルミニウム合金製鋳物部材について、実施例1〜4と同じ方法で引張試験を実施した。試験結果を図6に示す。なお、実施例5,6との比較のために、上記実施例4についての試験結果も図6に示した。
[試験結果および考察]
図6に示されるように、焼入れ温度を一般的な時効処理の温度である180℃に設定した場合には、実施例4と比べて強度は高いものの伸びの改善は見られなかった。これは、焼入れ温度が図4に示されるβ”相のノーズ温度に相当するため、有効クラスタ(II)の生成が少なかったためと考える。
これに対し、焼入れ温度を100℃(沸騰水で焼入れ)まで下げて、冷却経路L3(図4参照)が有効クラスタ(II)の生成領域に若干入るようにすると、伸びは向上するものの強度は低下する傾向にあり、特に耐力の低下が著しい。
しかしながら、焼入れ温度を140℃に設定した場合には、耐力の低下は殆ど認められず、引張強度は若干向上した。以上より、140℃付近が有効クラスタ(II)の生成割合が最も増加するものと推察される。よって2段階焼入れ処理における焼入れ温度の範囲は140℃付近が適正値であろうと考えられる。焼入れ温度が120℃未満であると耐力の低下が大きく、焼入れ温度が160℃を超えると伸びの低下が大きいことから、焼入れ温度範囲は120℃〜160℃が好ましいことが分かる。
また、2段階焼入れ処理における焼入れ温度の保持時間については、比較的短時間の焼入れで有効クラスタ(II)の生成割合を増加させることが可能と思われる。しかしながら、人工時効処理を行わない場合(あるいは極短時間とした場合)には、溶質元素の析出が不充分で強度が不足するケースも考えられる。このようなケースでは、溶体化処理物を焼入れ温度(例えば140℃程度)に一定時間保持することで、溶質元素の析出が進み、強度の向上が図られる。2Hrの保持により、200MPa級の耐力が得られることから、焼入れ保持時間は0〜2Hrが好ましいことが分かる。
次に、本アルミニウム合金と2段階焼入れ処理の組み合わせによる効果の特異性について説明する。本アルミニウム合金は、機械的性質の確保と凝固割れ防止の観点から、図7に示されるように、一般の6000系アルミニウム合金に比べてSi含有量が高く、Mg含有量が低く設定されており、MgSi量が0.5%の低濃度となっている(MgSi低濃度合金)。これに対し、一般の6000系アルミニウム合金のMgSi量は1%を超える高濃度となっている(MgSi高濃度合金)。このため、合金成分の違いにより、時効析出における上記ナノクラスタの生成挙動が異なる可能性が考えられる。
そこで、市販のA6061合金を用いてアルミニウム合金製鋳造物を6個作製し、これら鋳造物に上記実施例1〜4および上記比較例1,2と同じ条件にて熱処理を行い、機械的特性を評価した。以下の説明では、A6061合金を用いて実施例1〜4と同じ熱処理を行って作製した鋳物部材を実施例A1〜A4と称し、A6061合金を用いて比較例1,2と同じ熱処理を行って作製した鋳物部材を比較例A1,A2と称する。
2段階焼入れ処理によるアルミニウム合金製鋳物部材の機械的特性(伸びおよび耐力)の改善状態を図8,9に示す。図8に示すグラフは、比較例1の耐力に対する実施例1〜4の耐力の相対値(耐力の改善比)を示す縦軸と、比較例2の伸びに対する実施例1〜4の伸びの相対値(伸びの改善比)を示す横軸とを有しており、実施例1〜4における各々の耐力の改善比と伸びの改善比との関係を示す点P1〜P4と、比較例1,2における各々の耐力と伸びの関係を示す点Q1,Q2とをプロットしたものである。図9に示すグラフは、比較例A1の耐力に対する実施例A1〜A4の耐力の相対値(耐力の改善比)を示す縦軸と、比較例A2の伸びに対する実施例A1〜A4の伸びの相対値(伸びの改善比)を示す横軸とを有しており、実施例A1〜A4における各々の耐力の改善比と伸びの改善比との関係を示す点PA1〜PA4と、比較例A1,A2における各々の耐力と伸びの関係を示す点QA1,QA2とをプロットしたものである。なお、図8において、点Q1と点Q2とを直線で結んでいるが、この直線は、点Q1と点Q2の間を補間するものである(以下、「補間線Qh」と称する)。同様に、図9において、点QA1と点QA2とを直線で結んでいるが、この直線は、点QA1と点QA2の間を補間するものである(以下、「補間線QAh」と称する)。
図8に示されるように、本アルミニウム合金を2段階焼入れすることにより得られた実施例1〜3に係る点P1〜P3は、補間線Qhより右側(各改善比が大きい側)に位置しており、これにより、実施例1〜3は強度と伸び(靱性)のバランスに優れていることが分かる。一方、図9に示されるように、A6061合金を2段階焼入れすることにより得られた実施例A1〜A4に係る点PA1〜PA4は、補間線QAhより左側(各改善比が小さい側)に位置しており、2段階焼入れによる特性改善効果が認められない。つまり、A6061合金では、2段階焼入れ処理を行っても伸びの改善が見られず、耐力も低下しているのに対し、本アルミニウム合金では、2段階焼入れ処理を行うことにより伸びおよび耐力が向上し、A6061合金(MgSi高濃度合金)とは異なる傾向を示している。この現象は、本アルミニウム合金の強化機構を左右するMgSi量やSi量に関連するものとみられ、2段階焼入れによる機械的特性(強度および伸び)の向上は、本アルミニウム合金に特有の現象であると考えられる。このように、本アルミニウム合金と2段階焼入れ処理の組み合わせによる機械的特性の改善効果が特異的なものであることを確認できた。
以上説明したように、本実施形態によれば、溶体化処理物に対して上記2段階の焼入れ処理を行うことにより、当該焼入れ処理後の時効時に、アルミニウム合金製鋳物部材の強度と伸びを高める析出相(β”相)の成長が促進されるため、当該鋳物部材の強度と伸びの両方を高めることができる。すなわち、上記2段階の焼入れ処理が行われることにより、焼入れ処理物内に、β”相の成長に寄与する有効クラスタが、β”相の成長を阻害する有害クラスタよりも優位に形成されるため、アルミニウム合金製鋳物部材の強度(引張強度および耐力)と伸び(靱性)の両方を高めることができる。
また、本実施形態によれば、合金成分としてCuが添加されていることで、時効硬化を促進させて強度をより高めることができるとともに、伸びをさらに改善することができる。また、Tiが添加されていることで、鋳造に際し、結晶粒細粒化を促進させて凝固割れを抑制することができる。
また、本実施形態によれば、焼入れ温度が120〜160℃に設定され、焼入れ温度の保持時間が2Hr以下に設定され、さらに、ソルト炉または流動層炉で冷却が行われることにより、アルミニウム合金製鋳物部材の強度と伸びをさらに高めることができる。
また、本実施形態によれば、人工時効処理の温度が120〜160℃に設定され、人工時効処理の時間が0〜6Hrに設定されるため、アルミニウム合金製鋳物部材の強度と伸びをさらに高めることができる。
また、本実施形態によれば、溶体化処理の実行時間が過不足のない時間(3〜8Hr)に設定されることで、溶体化処理が適切になされるとともに、溶体化処理にかかるコストを低減することができる。
H 2段階焼入れ処理における焼入れ温度保持領域
L2 2段階焼入れ処理(焼入れ温度140℃)での冷却過程を示す冷却経路

Claims (5)

  1. 質量%で、Mg:0.2%以上0.4%以下、Si:1.2%以上5.0%以下を含有し、かつ、全Si量からMgSiに含まれるSi量を減じた値を過剰Si量とする下記の関係式を満足し、
    7.7×[過剰Si量]+9×[MgSi量]≦14
    80×[過剰Si量]+55×[MgSi量]≧112
    かつ、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるAl−Mg−Si系のアルミニウム合金製鋳物部材の製造方法であって、
    鋳造された鋳造物の温度を500〜560℃の溶体化温度に1Hr以上保持する処理である溶体化工程と、
    前記溶体化工程で得られた溶体化処理物を焼入れ処理する焼入れ工程とを備え、
    前記焼入れ工程は、前記溶体化処理物を、120〜160℃の焼入れ温度まで急冷して当該焼入れ温度に10分以上2Hr以下保持し、その後、常温まで冷却する2段階の焼入れ処理であることを特徴とする、鋳物部材の製造方法。
  2. 前記アルミニウム合金は、質量%で、Cu:0.4%以上0.6%以下、Ti:0.020%以上0.035%以下をさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の鋳物部材の製造方法。
  3. 前記焼入れ工程は、前記焼入れ温度である120〜160℃に加熱されたソルト炉または流動層炉により、前記溶体化処理物を前記焼入れ温度まで急冷して当該焼入れ温度に10分以上2Hr以下の時間保持する前段処理と、当該前段処理で得られた前段処理物を常温まで冷却する後段処理とからなることを特徴とする、請求項1または2に記載の鋳物部材の製造方法。
  4. 前記焼入れ工程で得られた焼入れ処理物を、120〜160℃の温度にて0〜6Hr加熱する処理である人工時効工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳物部材の製造方法。
  5. 前記溶体化処理工程は、前記鋳造物の温度を前記溶体化温度に3〜8Hr保持する処理であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の鋳物部材の製造方法。
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