JP2017133044A - アルミニウム合金板およびアルミニウム合金構造部材 - Google Patents

アルミニウム合金板およびアルミニウム合金構造部材 Download PDF

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Abstract

【課題】成形性を低下させずに、自動車の衝突時における衝撃吸収性を向上させた、6000系アルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】常法によって製造された、特定の組成の6000系アルミニウム合金板のT6材における平均KAM値で代表あるいは模擬される析出物の形状を、図1のように、扁平な断面を有する長い板状の形状を有するように制御して、成形性を低下させずに、VDA曲げ試験にて評価される自動車の衝突時における圧壊特性を向上させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、通常の圧延(常法)によって製造される6000系アルミニウム合金板であって、衝撃吸収性に優れた高強度6000系アルミニウム合金板およびアルミニウム合金構造部材に関するものである。
近年、地球環境などへの配慮から、自動車車体の軽量化の社会的要求はますます高まってきている。かかる要求に答えるべく、自動車車体のうち、パネル(フード、ドア、ルーフなどのアウタパネル、インナパネル)や、バンパリーンフォース(バンパーR/F)やドアビームなどの補強材などの部分に、それまでの鋼板等の鉄鋼材料に代えて、アルミニウム合金材料を適用することが行われている。
自動車車体の更なる軽量化のためには、自動車部材のうちでも特に軽量化に寄与する、サイドメンバー等のメンバ、フレーム類や、ピラーなどの自動車構造部材にも、アルミニウム合金材の適用を拡大することが必要となる。ただ、これら自動車構造部材には、前記自動車パネル材に比べて、素材板の更なる高強度化や、車体衝突時の衝撃吸収性や乗員の保護にもつながる、圧壊性(耐圧壊性、圧壊特性)を新たな特性として付与することが必要である。
前記自動車構造部材のうちの、高強度な補強材としては、JIS乃至AA7000系アルミニウム合金を熱間押出加工して製造される押出形材が、素材として既に汎用されている。これに対して、フレーム、ピラーなどの大型の構造部材は、鋳塊を均熱処理後に熱間圧延する、あるいは更に冷間圧延するような、常法によって製造される圧延板を素材とすることが好ましい。ただ、前記した7000系アルミニウム合金は、圧延板としては、その高合金ゆえの作りにくさがあり、これまであまり実用化されていない。
このため、通常の圧延(常法)によって製造される圧延板用の合金としては、前記7000系よりも低合金であるがゆえに作りやすい、Al−Mg−Si系アルミニウム合金である、JIS乃至AA6000系アルミニウム合金が注目される。
この6000系アルミニウム合金板は、自動車の大型ボディパネル(フード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのアウタパネルやインナパネル)としては既に用いられている。このため、これら自動車の大型ボディパネルに要求される、プレス成形性とBH性(ベークハード性)との兼備や向上のために、従来から、成分組成や組織などの冶金的な改善策が、数多く提案されている。
ただ、前記補強材などには、従来から6000系アルミニウム合金押出形材が提案され、実用化されているものの、アルミニウム合金圧延板は、自動車構造部材にはあまり提案例がない。
例えば、アルミニウム合金圧延板の組織として、結晶粒のサイズやアスペクト比を制御し、人工時効処理(人工時効熱処理)後の耐力を230MPa以上とした、圧壊性を高めた6000系アルミニウム合金板が、特許文献1などで提案されている程度である。
一方、アルミニウム合金の分野ではないが、本発明に関係する公知例として、コルソン合金(Cu−Ni−Si系銅合金)の圧延板の分野において、SEM−EBSD法により測定された結晶粒組織の平均方位差であるKAM値(Kernel Average Misorientation値)を制御して、強度異方性が小さく、特に圧延直角方向の耐力が高く、また、曲げ加工性のバランスに優れたコルソン合金が提案されている(特許文献2、3参照)。
また、このKAM値は、鋼板の分野などでも、高強度冷延鋼板(ハイテン)の強度と伸びと伸びフランジ性のバランスを確保する指標としても公知である(特許文献4参照)。
特開2001−294965号公報 特許第5314663号公報 特許第5476149号公報 特許第4977184号公報
本発明が用途とする、前記したフレーム、ピラーなどの自動車構造部材では、前記した通り、自動車パネル用途とは違って、プレス成形性などは必要とせず、更に高強度化させることや、車体衝突時の衝撃吸収性=耐圧壊性を新たに持たせるなどの、この用途特有の特性が要求される。
この一例として、近年の自動車の衝突安全基準のレベルアップ(厳格化)によって、ヨーロッパなどでは、前記フレーム、ピラーなどの自動車構造部材に、ドイツ自動車工業会(VDA)で規格化されている「VDA238−100 Plate bending test for metallic materials(以後、VDA曲げ試験と言う)」にて評価される、自動車の衝突時における圧壊特性(耐圧壊性、衝撃吸収性)を満たすことが求められるようになっている。
このような厳しい安全基準に対して、前記した従来の自動車パネル用の6000系アルミニウム合金板では、より高強度化させた上での、車体衝突時の圧壊特性が不足している。
そして、通常の圧延によって製造される6000系アルミニウム合金板に、構造部材への成形性を低下させずに、自動車の衝突時における圧壊特性を満たす手段については、未だ有効な手段が不明で、なお解明の余地がある。
このような状況に鑑み、本発明の目的は、通常の圧延によって製造され、構造部材への成形性を低下させずに、自動車の衝突時における圧壊特性を満たした6000系アルミニウム合金板と、前記圧壊特性を満たすアルミニウム合金構造部材を提供することである。
この目的を達成するために、本発明の圧壊特性に優れたアルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Mg:0.3〜1.5%、Si:0.3〜1.5%を各々含有するとともに、Cu:0.02〜0.5%、Mn:0.03〜0.2%、Zr:0.02〜0.15%、Cr:0.02〜0.15%、Sc:0.02〜0.1%のうちの一種または二種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、板厚中心において圧延表面と平行に延在する面の組織の、SEM−EBSD法により測定されたKAM値の平均値が0.6〜5.0°の範囲であることとする。
また、前記目的を達成するための構造部材の要旨は、質量%で、Mg:0.3〜1.5%、Si:0.3〜1.5%を各々含有するとともに、Cu:0.02〜0.5%、Mn:0.03〜0.2%、Zr:0.02〜0.15%、Cr:0.02〜0.15%、Sc:0.02〜0.1%のうちの一種または二種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる構造部材であって、板厚中心において圧延表面と平行に延在する面の組織の、SEM−EBSD法により測定されたKAM値の平均値が0.6〜5.0°の範囲であることとする。
本発明では、6000系アルミニウム合金板の前記結晶粒の平均方位差を定量化したKAM値の平均値が、その板の圧壊特性と強く相関していることを新らたに知見した。
このKAM値の平均値の制御によって、既に、構造部材として規格化されている6000系アルミニウム合金圧延板の組成や製造方法を大きく変更することなく、また、アルミニウム合金圧延板の、構造部材への成形性を低下させずに、自動車の衝突時における圧壊特性を満たすことができる。
また、前記KAM値によって、素材である6000系アルミニウム合金圧延板の組織を特定してやれば、この素材板を構造部材に成形し、人工時効処理せずとも、素材板の段階で、構造部材としての圧壊特性が優れているか否かの評価が可能となる。
このため、6000系アルミニウム合金圧延板を、自動車の重要な保安部材である構造部材として適用することが可能となる。
本発明アルミニウム合金板の組織を示す、図面代用写真である。 従来例のアルミニウム合金板の組織を示す、図面代用写真である。 衝撃吸収性を評価するVDA曲げ試験の態様を示す斜視図である。
本発明で言うアルミニウム合金板とは、熱間圧延板や冷間圧延板などの圧延板で、この圧延板に溶体化処理および焼入れ処理などの調質(T4)が施された板であって、使用される自動車構造部材に成形され、塗装焼付硬化処理などの人工時効処理(人工時効硬化処理または人工時効熱処理)される前の、素材アルミニウム合金板を言う。以下の記載ではアルミニウムをアルミやAlとも言う。
以下に、本発明の実施の形態につき、要件ごとに具体的に説明する。
アルミニウム合金組成:
先ず、本発明アルミニウム合金板の化学成分組成について、各元素の限定理由を含めて、以下に説明する。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
本発明アルミニウム合金板の化学成分組成は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金として、自動車などの構造部材に要求される強度と圧壊特性の特性、そして好ましくは構造材への成形性とを兼備するために決定される。
この観点から、本発明アルミニウム合金板の化学成分組成は、質量%で、Mg:0.3〜1.5%、Si:0.3〜1.5%を各々含有するとともに、Cu:0.02〜0.5%、Mn:0.03〜0.2%、Zr:0.02〜0.15%、Cr:0.02〜0.15%、Sc:0.02〜0.1%のうちの一種または二種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるものとする。
この組成に、更に、質量%で、Ag:0.01〜0.2%、Sn:0.001〜0.1%のうちの一種または二種を含んでも良い。
なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
Si:0.3〜1.5%
SiはMgとともに、固溶強化と、焼付け塗装処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与するMg−Si系析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車構造部材として必要な強度(耐力)を得るための必須の元素である。
Si含有量が少なすぎると、焼付け塗装処理前(人工時効処理前)の固溶Si量が減少し、Mg−Si系析出物の生成量が不足し、KAM値の平均値も低くなるため、BH性が著しく低下し、強度が不足する。
一方、Si含有量が多すぎると、粗大な晶出物および析出物が形成されて、延性が低下し、圧延時の割れの原因となる。したがって、Siの含有量は0.3〜1.5%の範囲、好ましくは、0.7〜1.5%の範囲とする。
Mg:0.3〜1.5%
MgもSiとともに、固溶強化と、焼付け塗装処理などの人工時効処理時に、強度向上に寄与するMg−Si系析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車構造部材としての必要耐力を得るための必須の元素である。
Mg含有量が少なすぎると、焼付け塗装処理前の固溶Mg量が減少し、Mg−Si系析出物の生成量が不足し、KAM値の平均値も低くなるため、BH性が著しく低下し、強度が不足する。
一方、Mg含有量が多すぎると、冷間圧延時にせん断帯が形成されやすくなり、圧延時の割れの原因となる。したがって、Mgの含有量は0.3〜1.5%の範囲、好ましくは、0.7〜1.5%の範囲とする。
Cu、Mn、Zr、Cr、Scのうちの一種または二種以上
これらの元素は、共通して板を高強度化させる効果があるので、同効元素と見なせるが、その具体的な機構には、共通する部分も、異なる部分も勿論ある。
Cuは固溶強化により強度を向上させ、自動車構造部材としての必要耐力を得ることができる。Cuの含有量が少なすぎると、その効果が小さく、多すぎても.その効果は飽和し、却って耐食性などを劣化させる。
Mn、Zr、Mn、Cr、Scは、鋳塊及び最終板製品の結晶粒を微細化して強度向上に寄与する。また、これらの元素は分散粒子として存在して、結晶粒微細化に寄与して、成形性も向上させる。各々の含有量が少なすぎると、これらの結晶粒微細化による、強度や成形性の向上効果が不足する。一方、これらの元素が多すぎると、粗大な化合物を形成し、延性を劣化させる。
従って、これらMn、Zr、Mn、Cr、Scは、Cu:0.02〜0.5%、Mn:0.03〜0.2%、Zr:0.02〜0.15%、Cr:0.02〜0.15%、Sc:0.02〜0.1%の含有量範囲で、一種または二種以上を含有させる。
Sn:0.001〜0.1%
Snは室温でのクラスタ形成を抑制して、溶体化・焼き入れ処理後の板の、優れた成形加工性を長時間保持する効果を有し、更にその後に焼付け塗装処理などの人工時効処理した場合の強度を向上させる。このため、自動車構造部材としての必要耐力や圧壊特性を得るための必須の元素である。Snの含有量が0.001%未満ではその効果が小さく、また0.1%を超えても、その効果は飽和し、却って熱間脆性を生じて熱間加工性(熱延性)を著しく劣化させる。従って、選択的に含有させる場合のSnの含有量は0.001〜0.1%の範囲とする。
Ag:0.01〜0.2%
Agは、構造材への成形加工後の人工時効処理によって強度向上に寄与する時効析出物を緊密微細に析出させ、高強度化を促進する効果があるので、必要に応じて選択的に含有させる。Agの含有量が0.01%未満では強度向上効果が小さい。一方、Ag含有量が多すぎると、圧延性及び溶接性などの諸特性を却って低下させ、また、強度向上効果も飽和し、高価となるだけである。従って、選択的に含有させる場合のAgの含有量は0.01〜0.2%%の範囲とする。
その他の元素:
これら記載した以外の、Ti、B、Fe、Zn、Vなどのその他の元素は不可避的な不純物である。Tiは、Bとともに、粗大な化合物を形成して機械的特性を劣化させる。ただ、微量の含有によって、アルミニウム合金鋳塊の結晶粒を微細化する効果もあるので、6000系合金としてJIS規格などで規定する範囲での各々の含有を許容する。この許容量の例として、Tiは0.1%以下、好ましくは0.05%以下とする。また、Bは0.03%以下とする。
また、Fe、Zn、Vなどのその他の元素も、鋳塊の溶解原料として、純アルミニウム地金以外に、アルミニウム合金スクラップの使用による、これら不純物元素の混入なども想定(許容)して、6000系合金のJIS規格で規定する範囲での各々の含有を許容する。
(KAM値)
以上の合金組成を前提に、本発明では、自動車などの輸送機の構造部材用として、アルミニウム合金板の板厚中心部における組織として、SEM−EBSD法により測定された結晶粒組織(結晶粒)の平均方位差である、KAM値(Kernel Average Misorientation値)の平均値を0.6〜5.0°の範囲とする。以下、KAM値の平均値を平均KAM値とも言う。
このような平均KAM値は、SEM−EBSD法による測定の際に、ある測定点と、その隣接する測定点間の結晶方位差の平均値で定義される。
SEM−EBSD法によるKAM値測定方法の詳細は後述するが、測定の再現性のためには、KAM値を計算する基準のピクセルと隣接するピクセルの間の位置関係として、第n近接までの領域内のピクセルを計算するかを設定する。この点で、解析ソフトでの前記隣接(Nearest Neighbor)の設定を、本発明では第1近接(1st)までとした。
また、KAM値測定の再現性のために、本発明では、各基準のピクセル毎に得られたKAM値に対して、最大方位差(Maximum Misorientation)の上限を5°として前記解析ソフトを設定し、5°以内のKAM値となるピクセルのデータのみを用いて、解析範囲内の平均KAM値を算出した。
これらの解析条件で得られた平均KAM値は、6000系アルミニウム合金圧延板の強度や圧壊特性と強く相関している。
本発明は、前記平均KAM値の制御によって、構造部材への成形性を低下させずに、構造部材に要求される強度と圧壊特性の特性を有する、6000系アルミニウム合金板とすることができる。平均KAM値が0.6°未満と小さすぎる場合には、構造部材に要求される強度と圧壊特性の特性とすることができず、平均KAM値が5.0°超えと大きすぎる場合には、伸びが低下して、却って圧壊特性が低下するし、構造部材への成形性も低下する。
具体的には、平均KAM値を0.6〜5.0°の範囲とすることで、溶体化・焼き入れ処理した調質(T4)素材板として、あるいは、この素材板を成形後に人工時効処理した構造部材として必要な高耐力を有するとともに、高圧壊特性を有していることができる。このため、このような特性が要求される、前記自動車や鉄道車両などの構造部材用に好適な6000系アルミニウム合金板を常法によって製造できる。
また、素材板の平均KAM値は、素材アルミニウム合金板を成形後に人工時効処理した構造部材であっても、極端に大きく変化することが無い。このため、素材アルミニウム合金板を成形後に人工時効処理したアルミニウム合金構造部材としても、圧壊特性を保証する基準あるいは目安となる。
したがって、本発明では、前記アルミニウム合金構造部材としても、SEM−EBSD法により測定された板厚中心部における組織として、KAM値の解析を行う近接領域範囲(Nearest Neighbor)の設定を1st、KAM値の解析に用いるデータの上限の方位差である最大方位差(Maximum misorientation)を5°と設定した場合の平均KAM値が0.6〜5.0°の範囲であると規定して、圧壊特性の保証とする。
平均KAM値が0.6°未満と小さすぎる場合や、2.0°超えと大きすぎる場合には、どちらもアルミニウム合金構造部材としての圧壊特性が低下する。
詳細な理由は未だ不明であるが、前記平均KAM値の範囲とすることで、素材アルミニウム合金板やアルミニウム合金構造部材の、前記転位の運動を妨げる効果が著しく増して、強度と圧壊特性のバランスが向上するのではないかと推考される。
なお、このKAM値自体は、残存ひずみと相関があることが、例えば、「材料」(Journal of the Society of Materials Science, Japan)Vol.58、No.7, P568-574,July 2009などで公知である。
また、KAM値は、隣接する測定点間の結晶方位の差である局所方位差を、平均方位差として定量化した値であることも、前記文献などで公知である。
更に、前記特許文献にも記載されている通り、このKAM値は、6000系アルミニウム合金圧延板以外の、銅合金板や鋼板の分野で、プレス成形性や曲げ加工性向上のために制御することが公知である。
しかし、この平均KAM値と、6000系アルミニウム合金板の圧壊特性との関係は、これまでは知られていない。
しかも、前記特許文献のKAM値制御の目的であるプレス成形性や曲げ加工性と、本発明が課題とする圧壊特性とでは、その荷重機構や変形機構・速度が大きく異なる。
本発明が課題とする圧壊特性は、高速で瞬間的に、しかも局所に集中する、自動車構造部材にとっては非常に条件が厳しい、自動車の衝突荷重に対するものである。
この衝突荷重に対して、本発明は、構造部材の割れにくさ(割れの発生のしにくさ)と、割れずに最後まで構造部材の断面方向や長手方向の変形が持続して衝突エネルギを吸収できる、圧壊特性を有している。
一方、前記プレス成形性や曲げ加工性は、低速で比較的長時間に、広いあるいは大きな領域に荷重が負荷され、本発明が課題とする圧壊特性とは、互いの荷重機構や変形機構・変形速度が大きく異なり、座屈モードも大きく異なる。
すなわち、KAM値の制御が、銅合金板や鋼板の分野でプレス成形性や曲げ加工性向上のために有効であったとしても、より厳しい条件である、本発明が課題とする圧壊特性に対して、KAM値制御が果たして有効か否は、当然ながらこれまで未知で推測もできず、実際に試してみないと分らない。
平均KAM値の制御:
平均KAM値の制御は、後述する通り、調質(T4)後の圧延板に、後述する、引張、冷間圧延、レベラー、ストレッチなどの手段により、ひずみ(以下、予ひずみとも言う)を常法よりも大きく付加するだけで可能である。
このため、圧延板の、前記構造部材として既に規格化されている6000系アルミニウム合金組成を大きく変更することなく、また、常法による圧延工程を大きく変更することなく、制御できる利点がある。
(SEM−EBSD法による測定方法)
前記KAM値の測定は、板の板厚中心部にて行う。具体的な測定方法は、板の任意の位置の板厚中心部から採取した測定試料(3個)の断面を研磨する。そして、SEM−EBSDを用いて、前記試料の、圧延面と平行な面における、板厚中心から両厚さ方向にそれぞれ0.05mm(厚さ0.1mm)の領域に、1.0μmのピッチで電子線を照射し、これら電子線の反射電子から菊地パターンを得てピクセルの方位を測定する。そして、得られた結晶方位データを、方位解析ソフトを用いてKAM値を解析する際に、Nearest Neighborの設定を1st、Maximum misorientation を5°と設定した場合のKAM値を解析し、更に、測定した試料数3個で平均化することで平均KAM値を算出する。
SEM−EBSD(EBSP)法は、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope: FESEM)に、後方散乱電子回折像[EBSD: Electron Back Scattering (Scattered) Diffraction Pattern] システムを搭載した結晶方位解析法である。
より具体的に、SEM−EBSDの前記観察用試料の調整は、前記観察試料 (断面組織)を、更に機械研磨後電解エッチングして鏡面化する。そして、FESEM の鏡筒内にセットし、試料の鏡面化した表面に、電子線を照射してスクリーン上にEBSDを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。コンピュータでは、この画像を解析して、既知の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって、結晶の方位が決定される。算出された結晶の方位は3次元オイラー角として、位置座標(x、y)などとともに記録される。
アルミニウム合金構造部材の析出物:
平均KAM値を前記0.6〜5.0°の範囲とすることによって、6000系アルミニウム合金圧延板の強度や圧壊特性が向上するのは、調質(T4)後にひずみを常法よりも大きく付加し、平均KAM値の範囲に制御した板において、人工時効処理した際に生成する析出物(人工時効析出物)が大きく関与しているためである。
すなわち、通常、調質(T4)後の素材板を、パネルなどにプレス成形して、5%未満の低度のひずみを付加した板を人工時効処理した際にも、勿論析出物は生成する。しかし、このような常法による低度のひずみを付加した板を人工時効処理した場合に生成する人工時効析出物と、本発明のように、平均KAM値を0.6〜5.0°の範囲とするために、後述する通り、前記KAM値の平均の制御として、調質(T4)後に、5%以上の大きなひずみを付加した板を人工時効処理した際、調質(T6)に生成する人工時効析出物とでは、その形状や形態が大きく異なっている。
図1、2に、本発明と従来の調質T5の析出物を各々示す。
図1、2では、各々図の手前から奥の方向が[001]方向であり、この [001]方向に垂直な(図の左右方向の)断面での析出物を各々示している。
図1に示す通り、本発明の高ひずみ付加後の人工時効処理した場合に生成する析出物は、前記した断面に示される通り、扁平な断面を有する、長い板状の形状や形態を有している。
これに対して、図2に示す通り、常法による、ひずみが付加されないか、低いひずみ付加後の人工時効処理した場合に生成する析出物は、丸い断面を有する、長い丸棒状の形状や形態を有している。
このような形状や形態の違いがあることが、平均KAM値の違いや、構造部材としての強度や圧壊特性の違いとなって現れる。言い換えると、人工時効処理した場合に生成する析出物を、本発明のような、扁平な長い板状の形状や形態とすることで、構造部材への成形性を低下させずに、構造部材に要求される強度と圧壊特性の特性を有する、6000系アルミニウム合金板とすることができる。
前記図1の本発明の扁平な長い板状の析出物は、図2の従来の析出物とは、前記調質(T4)後のアルミニウム合金板を230℃×20分の人工時効処理した後の板厚中心部において、倍率5万倍のTEMにより観察される、析出物の形状や数密度の違いによって、明確に区別できる。
本発明の析出物規定:
この点で、本発明は、前記KAM値だけでなく、前記アルミニウム合金板を前記人工時効処理した後か、このアルミニウム合金板からなるアルミニウム合金構造部材の、板厚中心において圧延表面と平行に延在する面の組織(板厚中心部の組織)として、倍率5万倍のTEMにより測定可能な全析出物の、平均数密度と平均アスペクト比とを、好ましい条件として規定する。
具体的には、倍率5万倍のTEMにより測定可能な全析出物の、平均数密度を1000個/μm以上 4000個/μm以下とする。
同時に、前記TEMにより測定可能な全析出物の、[001]方向に垂直な断面における平均長径が5nm以上、[001]方向に垂直な断面における長径と短径との比率で定義されるアスペクト比の平均値(以下、平均アスペクト比とも言う)を1.5以上、 [001]方向の平均長さが40nm以上とする。
これによって、前記図1の本発明の扁平な長い板状の析出物を主体とする組織を、その平均数密度で規定して、前記図2の棒状析出物が主体の従来組織と明確に区別することができる。
人工時効処理された後のアルミニウム合金構造部材の析出物(前記図1の本発明の析出物)は、6000系アルミニウム合金構造部材の、最適あるいは汎用される人工時効処理の範囲である、温度が200〜270℃の範囲内、時間条件が10〜30分の範囲内であれば、大きな変化や違いは生じない。このため、素材アルミニウム合金板と同様に、人工時効処理された後のアルミニウム合金構造部材でも規定できる。
なお、素材であるアルミニウム合金板では、より厳密に再現性を持たせるために、前記析出物を規定する際の人工時効処理条件を、敢えて230℃×20分と規定している。
前記KAM値の平均を0.6〜5.0°の範囲とすることによって、このような扁平な長い板状の析出物が人工時効処理時に前記規定の範囲で析出し、構造部材に要求される強度と圧壊特性の特性を満足させることができる。
したがって、前記平均KAM値によって、6000系アルミニウム合金圧延板の組織を特定してやれば、この素材板を構造部材に成形し、人工時効処理せずとも、素材板の段階で、構造部材としての圧壊特性が優れているか否かの評価が可能となる。
すなわち、前記前記KAM値の平均を0.6〜5.0°の範囲とできなければ、このような扁平な長い板状の析出物を、人工時効処理時に前記規定の範囲で析出させることができず、素材板としても、構造部材としても、構造部材に要求される強度と圧壊特性の特性を満足させることができない。
この点で、平均KAM値は、扁平な長い板状の析出物を、人工時効処理時に前記規定の範囲で析出させるための目安となる。
ただ、構造部材に要求される強度と圧壊特性との特性を確実に達成(兼備)するためには、平均KAM値の規定だけではなく、前記扁平な長い板状の析出物の存在状態を示す直接の指標として、倍率5万倍のTEMにより測定可能な全析出物の前記平均数密度や平均アスペクト比が前記規定する範囲を満たすことが好ましい。
すなわち、前記扁平な長い板状の析出物の存在状態自体(前記全析出物の平均数密度や平均アスペクト比自体)も直接測定して、前記規定する範囲を満たすようにすることが好ましい。
前記倍率5万倍のTEMにより測定可能な全析出物の、[001]方向に垂直な断面における平均長径が5nm未満、あるいは[001]方向に垂直な断面における前記長径と短径との平均アスペクト比が1.5未満、更には[001]方向の平均長さが40nm未満では、前記図1の本発明の扁平な長い板状の析出物ではなく、図2に示す、従来の長い丸棒状の形状や形態の析出物と大差なくなる。このため、構造部材に要求される強度と圧壊特性の特性を満足させることができない。
また、前記倍率5万倍のTEMにより測定可能な全析出物の平均数密度が1000個/μm未満では、特定の形状の板状析出物の数が不足して、構造部材に要求される強度と圧壊特性の特性を満足させることができない。一方、この板状析出物の平均数密度を4000個/μmを超える数密度とすることは、板製造上の限界がある。
析出物の測定:
本発明で規定する前記析出物の[001]方向に垂直な断面における平均長径、[001]方向に垂直な断面における長径と短径との比率で定義されるアスペクト比の平均値(平均アスペクト比)、[001]方向の平均長さなどは、その平均数密度(個/μm)と合わせて、EDX(エネルギ分散型X線分光法)機能を持つ、5万倍の倍率のTEM(透過型電子顕微鏡:FE−TEM)によって測定する。
測定対象は、熱間圧延板や冷間圧延板などの圧延板であって、溶体化処理および焼入れ処理などの調質が施された後(T4材)であって、加工硬化性も問題となるので、使用される構造部材に曲げ加工などの成形加工される前のアルミニウム合金板、およびこの板が成形されて、更に人工時効処理された構造部材とする。
具体的な測定方法は、前記T4材や構造部材の板厚中心部の試料を採取し、板厚中心において圧延表面と平行に延在する面を観察面とする、TEM用の薄膜試料を作成した上で、5万倍の倍率のTEMにより撮影した、板厚中心部の組織写真を画像処理し、測定視野内(観察視野の合計面積が4μm以上)の同定(識別)可能および円相当径が測定可能な、析出物を各々全て測定する。
なお、前記板厚中心部の試料とは、板厚中心からの各圧延表面方向に向かう距離(板厚方向の長さ)が、それぞれ0.05mmの領域(板厚中心を中間位置に挟む厚さ0.1mmの領域)の試料を言う。
ここで、測定は、任意の板厚中心部から採取した10個の試料につき行い、これらを平均化する。
(製造方法)
本発明の6000系アルミニウム合金板は、鋳塊を均熱処理後に熱間圧延され、更に冷間圧延された冷延板であって、更に溶体化処理などの調質が施される、常法によって製造される。即ち、鋳造、均質化熱処理、熱間圧延の通常の各製造工程を経て製造され、板厚が2〜10mm程度であるアルミニウム合金熱延板とされる。次いで、冷間圧延されて板厚が3mm以下の冷延板とされる。
また、本発明の6000系アルミニウム合金板は、双ロール法などの薄板連続鋳造後に冷延して熱延を省略したり、温間圧延を行うような特殊な製造方法や圧延方法による製造方法でも良い。
但し、本発明で規定する組織とするための、調質処理(T4)後の圧延板の、平均KAM値を制御するための、冷間圧延、レベラー、ストレッチなどの手段によるひずみを常法よりも大きく付加する工程が必要となる。
このため、圧延板の、前記構造部材として既に規格化されている6000系アルミニウム合金組成を大きく変更することなく、また、常法による圧延工程を大きく変更することなく、板を製造できる利点がある。
(溶解、鋳造冷却速度)
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分組成範囲内に溶解調整されたアルミニウム合金溶湯を、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
(均質化熱処理)
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立って、均質化熱処理を施す。この均質化熱処理(均熱処理)は、組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。この均熱処理の条件は、冷却速度も含めて、本発明で規定する粒界組織には影響が無く、通常の1回だけの均熱でも良く、2回均熱あるいは2段均熱としても良い。1回の均熱では、熱延開始温度まで冷却するか、あるいは熱延開始温度か、その近傍で保持して、熱延を開始する。
2回均熱とは、1回目の均熱後に、一旦室温を含む200℃以下の温度まで冷却し、更に、再加熱し、その温度で一定時間維持した後に、熱延を開始する。これに対して、2段均熱とは、1回目の均熱後に冷却はするものの、200℃以下までは冷却せず、より高温で冷却を停止した上で、その温度で維持した後に、そのままの温度か、より高温に再加熱した上で熱延を開始する。
1回のみの均熱、あるいは2回均熱における1回目、あるいは2段均熱における1段目の均熱条件は、500℃以上、融点未満の温度範囲で、2時間以上の保持時間の範囲から適宜選択される。
2回均熱では、この1回目の均熱処理後に、2回均熱のために、一旦、室温を含む200℃以下まで冷却する。また、2段均熱では、この1段目の均熱処理後に、一旦、200℃よりも高温の温度まで冷却する。2回目あるいは2段目の均熱条件は、熱延開始温度以上、500℃以下の温度範囲で2時間以上の保持時間の範囲から選択し、1回目の均熱、冷却後の鋳塊を再加熱し、熱延開始温度まで冷却するか、あるいは熱延開始温度まで再加熱してその近傍で保持すれば良い。また、1段目の均熱後の鋳塊を、熱延開始温度まで冷却して、その近傍で保持しても良い。これら、2回目あるいは2段目の均熱温度は、1回目あるいは1段目の均熱温度よりも低温とする方が好ましい。
(熱間圧延)
熱間圧延は、熱延開始温度が固相線温度を超える条件では、バーニングが起こるため熱延自体が困難となる。また、熱延開始温度が350℃未満では熱延時の荷重が高くなりすぎ、熱延自体が困難となる。したがって、熱延開始温度は350℃〜固相線温度の範囲から選択して熱間圧延し、2〜10mm程度の板厚の熱延板とする。この熱延板の冷間圧延前の焼鈍(荒鈍) は必ずしも必要ではないが実施しても良い。
(熱間圧延)
均質化熱処理を行った鋳塊の熱間圧延は、圧延する板厚に応じて、鋳塊 (スラブ) の粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とから構成される。これら粗圧延工程や仕上げ圧延工程では、リバース式あるいはタンデム式などの圧延機が適宜用いられる。
熱延開始温度としての熱間粗圧延の開始温度は、1回均熱工程では350℃以上、固相線温度以下、2回均熱工程では350℃以上、400℃以下とすることが好ましい。熱間粗圧延の開始温度が350℃未満では、いずれの均熱工程材でも熱延が困難となり、逆に400℃を超えた場合、2回均熱工程材では遷移元素系分散粒子が粗大に析出して、板の特性を低下させる可能性がある。
また、1回均熱工程材に関しては、均熱時間を所定の時間範囲で行った後に、直ちに熱延を行うことで、遷移元素系分散粒子の粗大化を抑制して、熱延を行うことができる。
このような熱間粗圧延後に、好ましくは、終了温度を300〜350℃の範囲とした熱間仕上圧延を行う。この熱間仕上圧延の終了温度が300℃未満と低すぎる場合には、圧延荷重が高くなって生産性が低下する。一方、加工組織を多く残さず再結晶組織とするために、熱間仕上圧延の終了温度を高くした場合、この温度が350℃を超えると、遷移元素系分散粒子が粗大に析出する可能性が高くなる。
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は必要ではないが、実施しても良い。
(冷間圧延)
冷間圧延では、上記熱延板を圧延して、所望の最終板厚の冷延板 (コイルも含む) に製作する。但し、結晶粒をより微細化させるためには、冷間圧延率は30%以上であることが望ましく、また前記荒鈍と同様の目的で、冷間圧延パス間で中間焼鈍を行っても良い。
(溶体化および焼入れ処理)
冷間圧延後、溶体化処理と、これに続く、室温までの焼入れ処理を行う。この溶体化焼入れ処理については、通常の連続熱処理ラインを用いてよい。ただ、Mg、Siなどの各元素の十分な固溶量を得るためには、550℃以上、溶融温度以下の温度で溶体化処理した後、室温までの平均冷却速度を20℃/秒以上とすることが好ましい。550℃より低い温度では、溶体化処理前に生成していたMg−Si系などの化合物の再固溶が不十分になって、固溶Mg量と固溶Si量が低下する。
また、平均冷却速度が20℃/秒未満の場合、冷却中に主にMg−Si系の析出物が生成して固溶Mg量と固溶Si量が低下し、やはりSiやMgの固溶量が確保できない可能性が高くなる。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段や条件を各々選択して用いる。
(予備時効処理:再加熱処理)
このような溶体化処理後に焼入れ処理して室温まで冷却した後、1時間以内に冷延板を予備時効処理(再加熱処理)することが好ましい。室温までの焼入れ処理終了後、予備時効処理開始(加熱開始)までの室温保持時間が長すぎると、室温時効により、SiリッチのMg−Siクラスタが生成してしまい、MgとSiのバランスが良いMg−Siクラスタを増加させことができにくくなる。したがって、この室温保持時間は短いほど良く、溶体化および焼入れ処理と再加熱処理とが、時間差が殆ど無いように連続していても良く、下限の時間は特に設定しない。
この予備時効処理は、60〜120℃での保持時間を5時間以上、40時間以下保持することが好ましい。これによって、MgとSiのバランスが良いMg−Siクラスタが形成される。
予備時効温度が60℃未満か、または保持時間が10時間未満であると、この予備時効処理をしない場合と同様となって、SiリッチのMg−Siクラスタを抑制し、前記MgとSiのバランスが良いMg−Siクラスタを増加させにくくなり、焼付塗装後の耐力が低くなりやすい。
一方、予備時効条件が120℃を超える、または、40時間を超えては、析出核の生成量が多すぎてしまい、焼付け塗装前の曲げ加工時の強度が高くなりすぎ、曲げ加工性が劣化しやすい。
(ひずみ付加)
これらの調質処理(T4)後の圧延板の平均KAM値を制御するために、引張、冷間圧延、レベラー、ストレッチなどの手段による、ひずみを常法よりも大きく、人工時効処理前に予め付加(付与)する。
なお、ひずみ付加を、前記調質処理(T4)後の素材板を、サイドメンバー等のメンバ、フレーム類や、ピラーなどの、自動車などの前記構造部材へと、プレス成形する際に、合わせて行っても良い。
ただ、平均KAM値を前記した0.6〜5.0°の規定範囲とするためには、ひずみを最低でも5%以上で、20%以下付加する。ひずみ量が5%以未満では、従来のプレス成形や曲げ加工の際に付与されるひずみ量と大差なくなり、平均KAM値を0.6°以上とすることができない。
一方、ひずみ量が大きいほど、平均KAM値を大きくできるが、ひずみ量が20%を超えると、平均KAM値が5.0°を超えて、加工硬化が大きくなり、伸びが著しく低下して、成形性が劣るようになる。
以上の工程によって、構造部材用としての一つの基準として、板を人工時効処理した際の0.2%耐力を180MPa以上とするとともに、VDA曲げ試験にて100°以上の曲げ角度となる圧壊特性を有することができる。
そして、本発明のアルミニウム合金板は、素材として、バーリング加工、穴拡げ加工などを含む、プレス成形や加工が施された上で、自動車、自転車、鉄道車両などの構造部材とされる。また、成形性の確保の点で、これら構造部材に成形や加工された後で、別途、必要に応じて、人工時効処理されて高強度化される。
(人工時効処理)
この人工時効処理は、素材である板の段階で行っても良く、通常のように、素材板を構造部材に成形した後で行っても良い。一般的な人工時効条件(T6、T7)で良く、温度や時間の条件は、所望の強度や素材の6000系アルミニウム合金板の強度、あるいは室温時効の進行程度などから自由に決定される。例示すると、1段の人工時効処理であれば、好ましくは、加熱温度200〜270℃×保持時間5〜30分の範囲での時効処理を行う。
加熱温度が低すぎる、保持時間が短すぎると、時効硬化が不足し、本発明で規定する組織とならない可能性がある。また加熱温度が高すぎたり、保持時間が長すぎたりしても、過時効となり、本発明で規定する組織とならない可能性がある。
なお、本発明の素材アルミニウム合金板では、前記した通り、前記析出物の規定に再現性を持たせるために、前記析出物を規定する際の人工時効処理条件を、敢えて、加熱温度230℃×保持時間20分の1点と規定している。
下記表1に示す各成分組成の6000系アルミニウム合金の冷延板の、平均KAM値およびBH後の析出物組織を表2のように、付加したひずみ量を種々変えて制御したものについて、強度とVDA曲げ試験にて評価される圧壊特性とを測定評価した。これらの結果を表2に示す。
各例とも、ひずみの付加以外は、アルミニウム合金板の具体的な製造条件を以下の通り共通させた。すなわち、表1に示す各組成のアルミニウム合金鋳塊を、DC鋳造法により共通して溶製した。続いて、鋳塊を、各例とも、昇温速度150℃/hr、均熱温度550℃×3時間保持にて均熱処理をした。
その後、各例とも、熱間粗圧延を500〜520℃で開始し、終了温度を300〜350℃の範囲とした熱間仕上圧延を行い、共通して厚さ4.0mmの熱延板とした。この熱延板を、各例とも共通して、熱延後の荒焼鈍や、冷延パス途中の中間焼鈍無しで、加工率50%の冷間圧延を行い、厚さ2.0mmの冷延板とした。
更に、この各冷延板を、各例とも共通した条件にて、熱処理設備で調質処理(T4)した。具体的には、溶体化処理を550℃×30分保持で行い、この際、前記溶体化処理温度までの平均加熱速度を10℃/秒とし、溶体化処理後は平均冷却速度を100℃/秒とした水冷を行うことで室温まで冷却した。また、この冷却直後に、直ちに予備時効処理を100℃で4時間保持する条件で行い、予備時効処理後は徐冷(放冷)しT4材を得た。
これらT4材に、さらに後述する引張試験で表2に示す条件でひずみを付与したり、あるいは付与しなかったりの条件を種々変えて、表2に示す条件で人工時効処理を行いT6材とした。
この人工時効処理は、加熱温度200〜270℃×保持時間20〜30分の範囲の、好ましい条件での1段の人工時効処理とした。
これは、人工時効処理の温度と保持時間とを変えた場合の、前記板厚中心部における、BH後の平均KAM値と、析出物に与える影響を調査するためである。
これらのT6材から供試板 (ブランク) を切り出し、各供試板の組織として、BH後のKAM値の平均、前記析出物の状態(5万倍のTEMにより測定可能な全析出物の、平均数密度、[001]方向に垂直な断面における平均長径、[001]方向に垂直な断面における長径と短径との比率で定義されるアスペクト比の平均値、 [001]方向の平均長さ)を、前記した各測定方法により、各々測定した。
これらのKAM値の平均および析出物が構造部材としての(構造部材を模擬した)組織となる。
また、これに先立ち、前記T4材にひずみを付与した後の(あるいはひずみを付与しない)板についても、KAM値の平均も前記した測定方法により測定した。これらの平均KAM値が素材板としての組織となる。
(ひずみ付与)
ひずみ付与は、前記T4材(素材板)の各供試板をJIS5号試験片に加工し、圧延方向に対して、引張方向が平行となるように、表2に示す各ひずみ量(%)を付与した。
そして、ひずみを付与しない板状試験片含めて、前記KAM値の測定を板の板厚中心部から採取した測定試料にて、SEM−EBSDを用いて、前記した方法で行った。
(引張試験)
室温引張り試験は、ひずみを付与しない前記T4材(素材板)の前記JIS5号試験片、また、ひずみを付与した(あるいはひずみを付与しない)前記T4材に人工時効処理した前記T6材(構造部材を模擬)の各供試板をJIS5号試験片に加工したものを、ひずみの付与無しで引張り試験し、0.2%耐力(MPa)を各々測定した。
試験方法は、JIS2241(1980)に基づき、室温20℃で試験を行い、評点間距離50mmで引張速度5mm/分、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
そして、構造部材用として、0.2%耐力が180MPa以上を合格とした。
(衝撃吸収性)
衝撃吸収性を評価する曲げ試験は、VDA曲げ試験として、ドイツ自動車工業会(VDA)の規格の中の「VDA238−100 Plate bending test for metallic materials」に従って実施した。この試験方法を、図3に斜視図で示す。
先ず、前記T6材の板状試験片を、ロールギャップを設けて、互いに平行に配置した2個のロール上に、図3に点線で示すように、水平で左右均等の長さに載置する。
具体的には、前記T6材の板状試験片を、その圧延方向と、上方に垂直に立てて配置した板状の押し曲げ治具の延在方向とが、互いに直角になるように、ロールギャップ中央にその中央部が位置するよう、2個のロール上に、水平で左右均等の長さに載置する。
そして、上方から前記押し曲げ治具を板状試験片の中央部に押し当てて荷重を負荷し、この板状試験片を前記狭いロールギャップに向けて押し曲げ(突き曲げ)て、曲げ変形した板状試験片中央部を前記狭いロールギャップ内に押し込む。
この際に、上方からの押し曲げ治具からの荷重Fが最大となる時の板状試験片の中央部の曲げ外側の角度を曲げ角度(°)として測定して、その曲げ角度の大きさで衝撃吸収性を評価する。この曲げ角度が大きいほど、板状試験片は、途中で圧壊せずに、曲げ変形が持続しており、衝撃吸収性(圧壊特性)が高い。
このVDA曲げ試験の試験条件として、図3に記載した記号を用いて示すと、板状試験片は幅b:60mm×長さl:60mmの正方形形状とし、2個のロール直径Dは各々30mm、ロールギャップLは板状試験片板厚の2.0倍の4mmとした。Sは荷重Fが最大となる時の板状試験片中央部のロールギャップ内への押し込み深さである。
また、板状の押し曲げ治具は、図3に示すように、板状試験片の中央部に押し当たる、下端側の辺が、その先端(下端)の半径が0.2mmφとなるように尖ったテーパ状とされている。
上記VDA曲げ試験は、各例とも板状試験片3枚ずつ(3回)行い、曲げ角度(°)はこれらの平均値を採用した。これらの結果を表2に示す。
表2から明らかなように、表1の1〜9の合金番号(本発明組成範囲内)のアルミニウム合金板を用いた、各発明例1〜15は、前記した好ましいひずみや人工時効処理が施されている。
このため、T6(BH後)の板は、本発明で規定する平均KAM値や析出物の規定を満足している。
この結果、圧壊特性は曲げ角度が100°以上であり、T6材の0.2%耐力も180MPa以上の高強度であり、これら構造材としての要求特性を満たした上で、強度、耐圧壊性ともに、後述する比較例に比して優れている。
これに対して、各比較例は、合金組成が本発明範囲から外れるか、合金組成は本発明範囲内であるものの、前記したひずみ条件が好ましい範囲から外れる。このため、各比較例はT6(BH後)の板が本発明で規定する平均KAM値や析出物を満足していない。
この結果、各比較例は、同じ強度レベルの発明例に比して圧壊特性が劣るか、同じ圧壊特性レベルの発明例に比して強度が劣っている。このため、構造材としての前記要求特性を満たしていないか、例え、前記要求特性は最低限満たしていたとしても、圧壊特性か強度が、発明例に比して明らかに劣っている。
比較例16、17、19、20、21、23、24は、合金組成は表1の合金番号2、4、5の通り本発明範囲内であるものの、前記した予ひずみが付加されていないか、不足している。このため、予ひずみ付与後および人工時効処理後を含めて、平均KAM値が0.6未満となって、TEMにより測定可能な全析出物の規定も満たしていない。
比較例18、22、25は、合金組成は表1の合金番号2、4、5の通り本発明範囲内であるものの、付加されるひずみが大きすぎる。このため、平均KAM値が5.0を超えており、TEMにより測定可能な全析出物の規定も満たしていない。
比較例26、27は、前記した好ましい範囲でのひずみが付加されているものの、合金組成が、表1の合金番号10、11の通り、Mg、Siの含有量が本発明範囲から低目に外れる。
このため、平均KAM値も低くなり、TEMにより測定可能な全析出物の規定も満たさず、BH性が著しく低下し、強度が低すぎる。
以上の結果から、本発明アルミニウム合金板がVDA曲げ試験にて評価される圧壊特性、高強度を兼備するための、本発明の各要件の臨界的な意義が裏付けられる。
以上説明したように、本発明は、常法の圧延によって製造され、構造部材への成形性を低下させずに、自動車の衝突時における圧壊特性を向上させた、6000系アルミニウム合金板を提供できる。したがって、本発明は軽量化に寄与する、自動車、自転車、鉄道車両などの構造部材に好適である。

Claims (6)

  1. 質量%で、Mg:0.3〜1.5%、Si:0.3〜1.5%を各々含有するとともに、Cu:0.02〜0.5%、Mn:0.03〜0.2%、Zr:0.02〜0.15%、Cr:0.02〜0.15%、Sc:0.02〜0.1%のうちの一種または二種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、板厚中心において圧延表面と平行に延在する面の組織の、SEM−EBSD法により測定されたKAM値の平均値が0.6〜5.0°の範囲であることを特徴とする圧壊特性に優れたアルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板が、この板を230℃×20分の条件で人工時効処理した際の組織として、板厚中心において圧延表面と平行に延在する面の組織の、倍率5万倍のTEMにより測定可能な全析出物の、平均数密度が1000個/μm以上 4000個/μm以下であるとともに、前記TEMにより測定可能な全析出物の、[001]方向に垂直な断面における平均長径が5nm以上、[001]方向に垂直な断面における長径と短径との比率で定義されるアスペクト比の平均値が1.5以上、 [001]方向の平均長さが40nm以上である請求項1に記載の圧壊特性に優れたアルミニウム合金板。
  3. 前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Ag:0.01〜0.2%、Sn:0.001〜0.1%のうちの一種または二種を含有する請求項1または2に記載の圧壊特性に優れたアルミニウム合金板。
  4. 質量%で、Mg:0.3〜1.5%、Si:0.3〜1.5%を各々含有するとともに、Cu:0.02〜0.5%、Mn:0.03〜0.2%、Zr:0.02〜0.15%、Cr:0.02〜0.15%、Sc:0.02〜0.1%のうちの一種または二種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる構造部材であって、板厚中心において圧延表面と平行に延在する面の組織の、SEM−EBSD法により測定されたKAM値の平均値が0.6〜5.0°の範囲であることを特徴とする圧壊特性に優れたアルミニウム合金構造部材。
  5. 前記アルミニウム合金構造部材の板厚中心において圧延表面と平行に延在する面の組織の、倍率5万倍のTEMにより測定可能な全析出物の、平均数密度が1000個/μm以上 4000個/μm以下であるとともに、前記TEMにより測定可能な全析出物の、[001]方向に垂直な断面における平均長径が5nm以上、[001]方向に垂直な断面における長径と短径との比率で定義されるアスペクト比の平均値が1.5以上、 [001]方向の平均長さが40nm以上である請求項4に記載の圧壊特性に優れたアルミニウム合金構造部材。
  6. 前記アルミニウム合金構造部材が、更に、質量%で、Ag:0.01〜0.2%、Sn:0.001〜0.1%のうちの一種または二種を含有する請求項4または5に記載の圧壊特性に優れたアルミニウム合金構造部材。
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