JP5864172B2 - ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体、その製造方法およびその用途 - Google Patents

ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体、その製造方法およびその用途 Download PDF

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Description

本発明は、ゴムや樹脂の補強材料に好適なポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体、その製造方法およびその用途に関するものである。
ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、「PPTA」と記す。)繊維は、紡糸時にポリマー溶解の溶媒として濃硫酸を用い液晶状態とした後、口金によるせん断を与えて結晶化度の高い糸に形成される。溶媒である濃硫酸は、紡糸直後に水洗およびアルカリにより中和処理され、200℃以上で加熱乾燥された後、フィラメントとして巻き取られて製造されることが知られている(特許文献1)。
PPTA繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びないなどの高い機能性と、有機繊維特有のしなやかさと、軽量性を併せ持った合成繊維である。これらの特長から、ゴムあるいは樹脂の補強材料として、自動車、自動二輪、自転車用のタイヤ、自動車用歯付きベルト、コンベヤ、樹脂製歯車などに用いられている。ここで、樹脂製歯車は、軽量化や歯の噛み合い時の騒音発生を抑えることを目的として、金属製歯車と噛み合う相手歯車として用いられるもので、耐摩耗性と強度が要求される。
従来、樹脂製歯車などに代表される樹脂複合材料の製造方法としては、
(イ)フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂微粒子と、アラミド繊維短繊維を水中に分散させ抄造して抄造シートを得、これを重ね巻きしたものを金型に投入して加熱加圧成形する方法(例えば、特許文献2);
(ロ)アラミド繊維短繊維の集積体にニードリング処理を施したフェルト、もしくは、アラミド繊維短繊維を水中に分散してシート状に抄造したシート状の繊維基材を、螺旋巻き積層や重ね巻きしたものを、成形金型に投入して型締めした後、成形金型に液状の熱硬化性樹脂を注入して加熱成形する方法(例えば、特許文献3〜5);
などが知られている。
上記のシート状の繊維基材は、水中で抄造する湿式、または、気中で集積する乾式、で作製されたものが用いられる。特に湿式は、所定形状の抄造金型に、アラミド繊維短繊維を含有するスラリーを投入し、濾過、乾燥したシート状の繊維基材に、熱硬化性樹脂を注入することにより、所望の形状の成形材料を簡単に成形できる。そのため、乾式の場合のように、シート状の繊維基材に皺がよらないように一枚一枚揃えて積み重ねる作業なども不要で、作業性の向上が図れる。
また、上記(イ)法および(ロ)法は、リング状に打ち抜き加工することによる無駄な端材の発生がない、打ち抜き屑が出ないため打ち抜き屑をほぐし再度抄造し直す必要がないという利点がある。しかし、熱硬化性樹脂とアラミド繊維との密着性が悪いと、樹脂製歯車において耐摩耗性と強度を発現させることが困難となる。
さらに、通常のアラミド繊維は樹脂との濡れ性が悪く、樹脂に対する親和性が乏しいアラミド繊維を補強材料として用いた樹脂成形体では、耐久性や強度が低下する問題がある。
これまで報告されているアラミド繊維の樹脂に対する密着性を高める方法には、エポキシ樹脂を直接繊維に被覆する方法(特許文献6)が知られているが、被覆材料が水溶性の場合には密着性の改善効果が発現しないという問題があった。
そこで、繊維結晶間間隙を有するアラミド繊維に、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物を含浸・浸透させたアラミド繊維(特許文献7)、フィルムフォーマ、シランカップリング剤および界面活性剤を繊維表面および繊維内部に付与したアラミド繊維(特許文献8)が提案された。
しかしながら、これらのアラミド繊維は、エポキシ樹脂との密着性は優れているが、フェノール樹脂や芳香族架橋ポリマー(例えばフェニレンオキサゾリン系樹脂とフェニレンアミン系樹脂の縮合体)など、機械的強度の高い樹脂との濡れ性、密着性が悪いという問題があった。
米国特許第3,767,756号明細書 特開2002−086578号公報 特開平10−329150号公報 特開2001−241535号公報 特開2002−013614号公報 特開昭59−094640号公報 特開2006−152533号公報 特開2002−194669号公報
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消し、PPTA繊維本来の高耐熱性および高ヤング率を保持しながら、熱硬化性樹脂との濡れ性、密着性に優れると共に、水との親和性が良好で、湿式抄紙性に優れる、ゴムや樹脂の補強材料に有用なPPTA繊維複合体、その製造法およびその用途を提供することにある。
本発明は上記課題を解決するため、次の手段をとるものである。
(1)硬化性エポキシ化合物および相溶化剤、さらに必要に応じて硬化剤を、繊維骨格内に、0.1重量%以上10.0重量%以下、浸透・含浸させてなるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体であって、前記相溶化剤が、下記一般式(I)で表されるグリコールエーテル系化合物であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(式中、R は炭素原子数1〜10のアルキル基、または炭素原子数1〜10のアルケニル基であり、Rは水素原子を示す。また、Aは炭素原子数2〜のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す1〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
(2)水分率が15〜200重量%である上記(1)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(3)水分率が15重量%未満である上記(1)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(4)硬化性エポキシ化合物が、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種類または、2種類以上の混合物である上記(1)〜(3)いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(5)硬化性エポキシ化合物が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である上記(1)〜(3)いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(6)上記(2)、(4)、(5)いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を乾燥することにより、水分率を15重量%未満としたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
(7)上記(1)〜(6)いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を1〜100mmにカットしたポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維複合体。
(8)上記(7)記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維複合体を用いて、湿式抄造により形成された湿式不織布。
(9)上記(8)記載の湿式不織布を用いた樹脂複合材料。
(10)ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡出、中和し、100〜150℃で5〜20秒間乾燥することにより水分率15〜200重量%を保つようにしたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、硬化性エポキシ化合物および前記一般式(I)で表わされる相溶化剤、さらに必要に応じて硬化剤を付与して繊維骨格内に浸透・含浸させたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
(11)上記(10)記載の製造方法によって得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を乾燥することにより、水分率を15重量%未満としたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
(12)ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡出、中和、乾燥した、水分率15重量%未満のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、硬化性エポキシ化合物および前記一般式(I)で表わされる相溶化剤、さらに必要に応じて硬化剤を付与して繊維骨格内に浸透・含浸させた後、続いて、硬化性エポキシ化合物をエージングしたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
本発明のPPTA繊維複合体は、PPTA繊維本来の高ヤング率を保持しながら、フェノール樹脂や芳香族架橋ポリマーなどの機械的強度が高い樹脂に対する濡れ性、密着性と、水に対する親和性とを兼ね備えているため、湿式抄紙性に優れているばかりでなく、樹脂の補強材料として軽量化と高強度化が求められる用途に有用である。
本発明におけるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)とは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用することができ、得られる重合体または共重合体の数平均分子量は通常20,000〜25,000の範囲内が好ましい。
PPTA繊維の製造方法の代表例としては、PPTAを濃硫酸に溶解して、18〜20重量%の粘調な溶液とし、これを紡糸口金から吐出して、わずかの間空気中に紡出後、水中へ紡糸する。この時、口金吐出時のせん断速度を25,000〜50,000sec−1にするのが好ましい。その後、紡糸浴中で凝固した繊維を水酸化ナトリウム水溶液で中和処理した後、100〜150℃で、好ましくは5〜20秒間乾燥することにより、水分率が15〜200重量%の範囲内にあるPPTA繊維(以下、「PPTA繊維b」という。)を調製することができる。
さらに、水分率が15〜200重量%の範囲内にあるPPTA繊維bを、150〜700℃、好ましくは150〜500℃の温度で乾燥することにより、水分率が15重量%未満のPPTA繊維(以下、「PPTA繊維a」という。)を調製することができる。
一般に、PPTA繊維bの結晶サイズは50オングストローム未満であり、この繊維を乾燥したPPTA繊維aの結晶サイズは、PPTA繊維bのそれよりも大きい。
本発明のPPTA繊維複合体は、PPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤の他に、さらに必要に応じて硬化剤を付与し、これらの薬剤を繊維骨格内に浸透・含浸させたものである。具体的には、PPTA繊維bまたはPPTA繊維aの繊維骨格内に、前記の薬剤を浸透・含浸させたものである。
硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物としては、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロールなどの多価アルコールのグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種または、2種以上の混合物であることが好ましい。例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが特に好ましく用いられる。
硬化性エポキシ化合物は、芳香環を有するエポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種または、2種以上の混合物であることが好ましい。例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールC]などのグリシジルエーテル化物が挙げられる。これらの中でも、常温で液状の、ビスフェノールA、ビスフェノールFのグリシジルエーテル化物が特に好ましく用いられる。
硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物と芳香環を有するエポキシ化合物を併用することもできる。
硬化剤は、アミン化合物が好ましく、三級アミン化合物が特に好ましい。例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミンや、脂肪族一級アミンにエチレンオキサイドを付加した長鎖アルキルポリオキシエチレン型三級アミンなどが挙げられる。
相溶化剤は、一般式(I)で表されるグリコールエーテル系化合物が用いられる。相溶化剤は、硬化性エポキシ化合物よりも親水性の化合物であることが望ましい。
上記一般式(I)において、Rは炭素原子数1〜10、好ましくは炭素原子数4〜8のアルキル基またはアルケニル基であり、R は水素原子である。また、Aは炭素原子数2〜3のアルキレン基であり、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す1〜10の整数、好ましくは2〜8である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。
一般式(I)で示される化合物の具体例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコール(n=3)グリセリルエーテルなどが挙げられる。グリコールエーテル化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
本発明のPPTA繊維複合体では、硬化性エポキシ化合物、相溶化剤および硬化剤の繊維への含浸量は、合計で、0.1重量%以上10.0重量%以下である。ここで、「含浸量」は、PPTA繊維の水分率を0%に換算したときの繊維重量に対する値である。
望ましい含浸量は、硬化性エポキシ化合物および相溶化剤の場合、それぞれ、0.1〜2.0重量%であり、特に好ましくは0.2〜1.0重量%である。
硬化剤を併用する場合、硬化剤の含浸量は0.02〜1.0重量%が好ましく、特に好ましくは0.04〜0.5重量%である。硬化性エポキシ化合物と硬化剤を浸透・含浸させたPPTA繊維複合体では、硬化剤の触媒効果により硬化性エポキシ化合物が反応しやすくなることで、より短時間で、後述する硬化性エポキシ化合物のエージングを終了することができる。
次に、PPTA繊維複合体の製造方法を詳細に説明する。
PPTA繊維bを用いて、本発明のPPTA繊維複合体を製造する場合は、100〜150℃で、好ましくは5〜20秒間、低温乾燥を行うことで、水分率を好ましくは15〜200重量%の範囲内に調製したPPTA繊維bを得る。このPPTA繊維bに、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤、あるいは、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤と硬化剤を付与し、PPTA繊維骨格内にこれらの薬剤を浸透・含浸させる。その後、乾燥することで、PPTA繊維の水分率を15重量%未満、より好ましくは10重量%未満、さらに好ましくは3〜10重量%の範囲内とし、繊維表面および繊維内部に、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤のコーティング層、あるいは、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤と硬化剤のコーティング層を形成する。
薬剤を浸透・含浸させるPPTA繊維bの水分率は、15〜200重量%の範囲内にあることが好ましく、水分率が15重量%以上あれば、硬化性エポキシ化合物や相溶化剤を繊維骨格内に浸透・含浸させることが容易であり、水分率が200重量%以下であれば、繊維の巻き出しや巻き取り操作も容易である。水分率は、特に20〜50重量%の範囲内にあることが、より好ましい。PPTA繊維bは、平衡水分率よりも高い水分を含有する乾燥前の状態であるため、PPTA繊維aに比べて結晶サイズが小さく、PPTA繊維結晶間の間隙が広いので、硬化性エポキシ化合物や相溶化剤が繊維骨格内に浸透・含浸しやすい。
薬剤を浸透・含浸させたPPTA繊維複合体は、乾燥する前でも繊維形態を有しているが、乾燥により繊維骨格内の水分を除去することで、繊維表面および繊維内部に、エポキシ化合物と相溶化剤を強固に含浸させることができる。また、当該乾燥は、エポキシ化合物を硬化させるためのエージングの役割も果たす。その結果、PPTA繊維複合体を水中に分散させた場合(湿式抄造時など)でも、含浸させた薬剤が水中に溶出するのを抑制できる。
本発明において、上記の乾燥は、PPTA繊維複合体の製造工程における任意の段階で実施することができ、乾燥方法も、PPTA繊維の水分率を15重量%未満、より好ましくは10重量%未満にできる方法であれば、加熱乾燥(50〜300℃、好ましくは100〜250℃)、熱風乾燥、減圧乾燥、マイクロ波乾燥、高周波乾燥などを採用することができ、これらの方法を併用することもできる。具体的には、水分率の高いPPTA繊維複合体を緊張下で乾燥した後にボビンに巻き取ってもよいし、水分率の高いPPTA繊維複合体をボビンから巻き出して緊張下で乾燥してもよい。あるいは、水分率の高いPPTA繊維複合体を巻き取ったボビンを乾燥条件下に曝してもよい。
一方、PPTA繊維aを用いて、本発明のPPTA繊維複合体を製造する場合は、水分率を好ましくは15重量%未満、より好ましくは10重量%以下、特に好ましくは3〜10重量%の範囲内に調製したPPTA繊維aに、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤、あるいは、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤と硬化剤を付与し、PPTA繊維骨格内にこれらの薬剤を浸透・含浸させた後、エージングして硬化性エポキシ化合物を硬化させ、繊維表面および繊維内部に、エポキシ化合物と相溶化剤のコーティング層、あるいは、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤と硬化剤のコーティング層を形成する。好ましくは、薬剤を浸透・含浸させた後、続いて巻き取り工程でPPTA繊維複合体をボビンに巻き取り、それをボビンに巻き取った状態でエージングして、繊維表面および繊維内部に上記のコーティング層を形成する。エージングは、温度50〜100℃で24時間以上、好ましくは24〜120時間行うのがよい。
硬化性エポキシ化合物および相溶化剤を、PPTA繊維aまたはPPTA繊維bに付与する場合は、予め、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤を、硬化性エポキシ化合物/相溶化剤=2/8〜8/2(重量比)の割合で含有する薬剤原液を調製しておき、この薬剤原液を上記のPPTA繊維に付与し、薬剤を含浸・浸透させるのがよい。薬剤原液を水などの溶媒で希釈した薬剤希釈液を用いてもよい。硬化剤は、なくても反応は進行するが、用いる硬化性エポキシ化合物の特性、所望の反応速度などによっては、使用してもよい。硬化剤の使用量は用いる硬化剤の種類によって異なるが、薬剤原液中に3〜30重量%程度含有させることが好ましい。
薬剤原液には、その他の成分として、油剤、非イオン界面活性剤などの浸透剤、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、有機界面活性剤などの平滑剤、オキサゾリンや酸無水物などの樹脂改良剤、シラン系やイソシアネート系などのカップリング剤などが、それぞれ20重量%以下の量、含有されていてもよい。
上記の薬剤原液あるいは薬剤希釈液を、PPTA繊維に付与する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法などの方法で付与される。
本発明のPPTA繊維複合体において、繊維骨格内に浸透・含浸させた硬化性エポキシ化合物は、主に熱硬化性樹脂との濡れ性と密着性向上に寄与し、シート状の繊維基材を形成するPPTA繊維の一部が、熱硬化性樹脂の層から抜けたり、積層したシート状の繊維基材が相互に剥離したりする現象を防止する。また、PPTA繊維骨格内に浸透・含浸させた相溶化剤は、熱硬化性樹脂との濡れ性を向上させ、熱硬化性樹脂中へのPPTA繊維の分散性を高めると共に、水との親和性を向上させる働きがあるので、湿式抄造時におけるPPTA繊維の水分散性が良好となり、均一性に優れる湿式不織布が製造される。
本発明のPPTA繊維複合体は、フィラメント、または、フィラメントをカットしたカットファイバー(短繊維)として、あるいはそれらを紙、織物、編物、不織布などに加工した加工品として、プリント配線板用シート状物をはじめ、各種用途に使用可能である。特に、ゴムや樹脂の補強材料として有用である。
本発明のPPTA繊維複合体を1〜100mm、好ましくは1〜50mmにカットした短繊維複合体は、湿式不織布の製造に好ましく使用される。湿式不織布は、公知の方法で製造することができ、具体的には、金属メッシュ上に、PPTA短繊維複合体と水を主成分とするスラリーを投入し、抄造することにより得られる。湿式不織布は、繊維強化樹脂製歯車用繊維補強材や樹脂複合板などの樹脂複合材料などに有用である。
例えば繊維強化樹脂製歯車は、抄造した湿式不織布を金型に配置し、その後液状樹脂を注入し、湿式不織布に含浸させて成形する方法;湿式不織布に樹脂を含浸して半硬化状態とした後、金型に配置し、これを成形する方法;湿式不織布を巻回もしくは重ね巻きしたものを歯車成形用金型に配置し、その後液状樹脂を注入し、湿式不織布に含浸させて成形する方法;湿式不織布に樹脂を含浸して半硬化状態とした後、当該湿式不織布を巻回もしくは重ね巻きしたものを歯車成形用金型に配置し、これを成形する方法;などの公知の方法により製造可能である。
また、樹脂複合板は、抄造した湿式不織布に液状樹脂を含浸させて作製したプリプレグを複数積層した後、金型に配置し、加熱圧縮成形するなどの方法により製造可能である。このとき、湿式不織布は、金型に配置する前に樹脂を含浸してプリプレグとしてもよいし、金型に配置し、所定の樹脂率となるように圧縮した後に樹脂を注入してもよい。
含浸させる樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、架橋ポリアミノアミド樹脂、架橋ポリエステルアミド樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいは、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは、共重合体、変性体、あるいは2種以上の樹脂を混合した樹脂であってもよい。また、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を複合してもよい。あるいは、樹脂中に、難燃剤、耐光剤、紫外線吸収剤、平滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、着色剤、抗菌剤、顔料、導電剤などの添加剤を含有していてもよい。
本発明のPPTA繊維複合体は、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤が、繊維表面および内部に含浸・浸透しているため、湿式抄造時にPPTA単繊維が凝集するおそれがなく、また、PPTA単繊維1本1本の周囲にエポキシ化合物が存在することにより、繊維と樹脂との接着強度が高く、機械的強度に優れる樹脂製歯車や樹脂複合板などを提供することができる。
以下、実施例を示すが、実施例中の各測定値は次の方法にしたがった。
(1)水分率
試料約5gの重量を測定し、300℃×20分間加熱し、25℃65%RHで5分間放置した後、再度重量を測定する。ここで使う水分率は、[乾燥前重量−乾燥後重量]/[乾燥後重量]で得られるドライベース水分率である。
(2)樹脂への濡れ性評価
脱脂したPPTA(ケブラー29)厚地織物に、前記織物に対し1.5重量%の薬剤を付与した後、1cm×1cmの大きさに裁断して試料を作製し、上記試料を、170℃に加熱した、芳香族架橋モノマー液に、4mm程度が液面に出るようにピンセットで10秒間濡らし、再び液面に置いてから沈むまでの時間を測定し、以下の基準で評価した。
100秒以下:○、100〜300秒:△、300秒以上:×
(3)アラミド繊維糸とエポキシ樹脂との密着性
東栄産業(株)製複合材界面特性評価装置を用いた単繊維引き抜き試験法(マイクロドロップレット法)によって、アラミド繊維糸とエポキシ樹脂との密着性を評価した。通常のPPTA繊維のみの界面強度を100とし、通常のPPTA繊維で得られる界面強度に対して指数表示した。
(4)水に対する親和性
脱脂したPPTA(ケブラー29)厚地織物に、前記織物に対し1.5重量%の薬剤を付与した後、1cm×1cmの大きさに裁断して試料を作製し、上記試料を、常温のイオン交換水に、4mm程度が液面に出るようにピンセットで10秒間濡らし、再び液面に置いてから沈むまでの時間を測定し、以下の基準で評価した。
100秒以下:○、100〜300秒:△、300秒以上:×
[実施例1]
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間の低温乾燥をして、水分率35重量%の乾燥前のPPTA繊維(水分率0重量%換算のとき繊度1670dtex)を調製した。
このPPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物としてトリグリセロールトリグリシジルエーテルを40重量部、相溶化剤としてジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル60重量部、硬化剤としてラウリルアミンエチレンオキサイド10モル付加体5重量部を含有する薬剤原液を付与し、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤と硬化剤をPPTA繊維に浸透・含浸させた後、巻き取り工程でボビンに巻き取り、水分率35重量%のPPTA繊維複合体を製造した。含浸量を表1に示す。
この後、このPPTA繊維複合体をボビンから巻き出し、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、3.9Nの張力での緊張下130℃20秒間、加熱乾燥・エージングして巻き取り、水分率が6.9重量%のPPTA繊維複合体を得た。
得られたPPTA繊維複合体を用いて、樹脂との密着性、濡れ性、および水に対する親和性を測定した。
[実施例2]
実施例1と同様の方法で調製した水分率35重量%のPPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物としてビスフェノール型エポキシ樹脂を70重量部、相溶化剤として、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル30重量部、硬化剤として、ラウリルアミンエチレンオキサイド10モル付加体8.8重量部を含有する薬剤原液を付与し、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤と硬化剤をPPTA繊維に浸透・含浸させた後、巻き取り工程でボビンに巻き取り、水分率35重量%のPPTA繊維複合体を製造した。含浸量を表1に示す。
この後、このPPTA繊維複合体をボビンから巻き出し、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、3.9Nの張力での緊張下110℃40秒間加熱乾燥・エージングして巻き取り、水分率が6.8重量%のPPTA繊維複合体を得た。得られたPPTA繊維複合体を用いて、実施例1と同様の方法で評価した。
[実施例3]
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、200℃×15秒間、加熱乾燥して、水分率7.0重量%のPPTA繊維(水分率0重量%換算のとき繊度1670dtex)を調製した。
このPPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物としてトリグリセロールトリグリシジルエーテルを40重量部、相溶化剤としてジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル60重量部、硬化剤として、ラウリルアミンエチレンオキサイド10モル付加体5重量部を含有する薬剤原液を付与し、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤と硬化剤をPPTA繊維に浸透・含浸させた後、60℃で48時間、エージングして、水分率が7.0重量%のPPTA繊維複合体を得た。得られたPPTA繊維複合体を用いて、実施例1と同様の方法で評価した。
[比較例1]
実施例1において、硬化性エポキシ化合物のみを含有する薬剤原液を、PPTA繊維が水分率0重量%換算としたときに硬化性エポキシ化合物が0.5重量%となるように浸透・含浸させた後、巻き取り工程でボビンに巻き取り、水分率35重量%のPPTA繊維複合体を調製した。
この後、この繊維複合体をボビンから巻き出し、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、3.9Nの張力での緊張下、130℃20秒間加熱乾燥・エージングして巻き取り、水分率が7.0重量%のPPTA繊維複合体を得た。得られたPPTA繊維複合体を用いて、実施例1と同様の方法で評価した。
[比較例2]
実施例1において作製した、水分率35重量%の乾燥前のPPTA繊維について、実施例1と同様の方法で評価した。
[比較例3]
実施例3において作製した、水分率7.0重量%のPPTA繊維について、実施例1と同様の方法で評価した。
評価結果を表1にまとめて示す。
表1の結果から、薬剤を浸透・含浸させていない通常のPPTA繊維(比較例3)は、樹脂および水に対する濡れ性が悪く、また、相溶化剤を浸透・含浸させていないPPTA繊維複合体(比較例1)も同様の評価であった。水分率の高いPPTA繊維(比較例2)は、水や樹脂に対する親和性は良好であったが、エポキシ樹脂に対する密着性が劣っていた。
これに対し、本発明例のPPTA繊維複合体(実施例1〜3)は、水や樹脂に対する親和性が良好で、かつエポキシ樹脂との密着性にも優れていた。
本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体は、フィラメント、短繊維、湿式不織布、シート状繊維基材などの各種形態で、ゴムや樹脂などの補強材料として幅広く利用することができる。とりわけ、シート状の繊維基材に、樹脂を含浸させて成形することにより高強度の成形体が得られることから、当該成形体は、樹脂製歯車や各種樹脂成形板として有用である。

Claims (12)

  1. 硬化性エポキシ化合物および相溶化剤、さらに必要に応じて硬化剤を、繊維骨格内に、0.1重量%以上10.0重量%以下、浸透・含浸させてなるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体であって、前記相溶化剤が、下記一般式(I)で表されるグリコールエーテル系化合物であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
    (式中、R は炭素原子数1〜10のアルキル基、または炭素原子数1〜10のアルケニル基であり、Rは水素原子を示す。また、Aは炭素原子数2〜のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す1〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
  2. 水分率が15〜200重量%である請求項1記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
  3. 水分率が15重量%未満である請求項1記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
  4. 硬化性エポキシ化合物が、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種類または、2種類以上の混合物である請求項1〜3いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
  5. 硬化性エポキシ化合物が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である請求項1〜3いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
  6. 請求項2、4、5いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を、乾燥することにより、水分率を15重量%未満としたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体。
  7. 請求項1〜6いずれか記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を1〜100mmにカットしたポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維複合体。
  8. 請求項7記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維複合体を用いて、湿式抄造により形成された湿式不織布。
  9. 請求項8記載の湿式不織布を用いた樹脂複合材料。
  10. ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡出、中和し、100〜150℃で5〜20秒間乾燥することにより水分率15〜200重量%を保つようにしたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、硬化性エポキシ化合物および記一般式(I)で表わされる相溶化剤、さらに必要に応じて硬化剤を付与して繊維骨格内に浸透・含浸させたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
    (式中、R は炭素原子数1〜10のアルキル基、または炭素原子数1〜10のアルケニル基であり、R は水素原子を示す。また、Aは炭素原子数2〜3のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す1〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
  11. 請求項10記載の製造方法によって得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体を乾燥することにより、水分率を15重量%未満としたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
  12. ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡出、中和、乾燥した、水分率15重量%未満のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、硬化性エポキシ化合物および記一般式(I)で表わされる相溶化剤、さらに必要に応じて硬化剤を付与して繊維骨格内に浸透・含浸させた後、続いて、硬化性エポキシ化合物をエージングしたことを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体の製造方法。
    (式中、R は炭素原子数1〜10のアルキル基、または炭素原子数1〜10のアルケニル基であり、R は水素原子を示す。また、Aは炭素原子数2〜3のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す1〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が単独で付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
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