JP5967333B1 - サイジング剤塗布炭素繊維、サイジング剤塗布炭素繊維の製造方法、炭素繊維強化複合材料および炭素繊維強化複合材料の製造方法 - Google Patents

サイジング剤塗布炭素繊維、サイジング剤塗布炭素繊維の製造方法、炭素繊維強化複合材料および炭素繊維強化複合材料の製造方法 Download PDF

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Abstract

全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維に、(A)〜(C)を合わせてサイジング剤全量に対して80質量%以上含むサイジング剤が塗布されてなるサイジング剤塗布炭素繊維であって、アセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下である。(A)ポリイミド、ポリエーテルイミド、およびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1つ(B)1分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物(C)エポキシ当量が250g/eq以下であって、1分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物

Description

本発明は、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材および船舶部材などに好適に用いられるサイジング剤塗布炭素繊維および該サイジング剤塗布炭素繊維の製造方法、プリプレグならびに炭素繊維強化複合材料および炭素繊維強化複合材料の製造方法、成型材料に関するものである。さらに詳しくは、電気絶縁性に優れた特徴を有するものである。
炭素繊維は、軽量でありながら、強度および弾性率に優れるため、種々のマトリックス樹脂と組み合わせた複合材料は、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等の多くの分野に用いられている。
特に、電気・電子部品においては、その小型化、高性能化にともない、当該部品内での発熱を抑制するため、放熱対策が求められている。高い熱伝導性を必要とする材料に主として金属材料が用いられてきたが、部品の小型化に適合するため、軽量性、成形加工性の高い樹脂材料への代替が進んでいる。この樹脂材料に熱伝導性を持たせるためのフィラーとして炭素繊維を用いる例が提案されている(特許文献1参照)。
炭素繊維は高い導電性を有するため、電気・電子部品として用いた場合に、電気絶縁性が求められてきた。熱可塑性樹脂組成物において、サイジング剤と熱可塑性樹脂とのSP値の制御によって、炭素繊維が樹脂中で安定的に分散させることで繊維間距離を高め、電気絶縁性を向上させる方法が提案されている(特許文献2参照)。炭素繊維は接着性の観点から表面酸素濃度が0.05以上であることが好ましい範囲として書かれているが、公知文献には、炭素繊維表面の電気特性を制御する思想がなかった。
炭素繊維はマトリックス樹脂との接着性を向上させるため、通常、炭素繊維に気相酸化や液相酸化等の酸化処理を施し、炭素繊維表面に酸素含有官能基を導入する方法が行われている。例えば、炭素繊維に電解処理を施すことにより、接着性の指標である層間剪断強度を向上させる方法が提案されている(特許文献3参照)。
炭素繊維は脆く、集束性および耐摩擦性に乏しいため、高次加工工程において毛羽や糸切れが発生しやすい。このため、炭素繊維にサイジング剤を塗布する方法が提案されている(特許文献4および5参照)。
例えば、サイジング剤として、脂肪族タイプの複数のエポキシ基を有する化合物が提案されている(特許文献6、7、8参照)。また、サイジング剤としてポリアルキレングリコールのエポキシ付加物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献9、10および11参照)。
特開平9−157403号公報 特開2013−117014号公報 米国特許第3,957,716号明細書 特開昭57−171767号公報 特公昭63−14114号公報 特開平7−279040号公報 特開平8−113876号公報 特開昭57−128266号公報 米国特許第4,555,446号明細書 特開昭62−033872号公報 特開平07−009444号公報
しかし、上述のいずれの文献においても、接着性、高次加工性を向上させる目的で炭素繊維の表面処理およびサイジング剤を用いているものの、炭素繊維の表面処理およびサイジング剤の制御によって電気絶縁性を実現する思想は開示されていなかった。
そこで、本発明は、炭素繊維の表面処理とサイジング剤によって、高い絶縁性を有するサイジング剤塗布炭素繊維、サイジング剤塗布炭素繊維の製造方法、プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
また、本発明は、炭素繊維の表面処理とサイジング剤によって、高い絶縁性を有する炭素繊維強化樹脂組成物およびその製造方法、炭素繊維強化樹脂成形品を提供することを目的とする。
また、本発明は、炭素繊維の表面処理とサイジング剤、およびそれらを用いたプリプレグの積層構成によって、高い絶縁性を有する積層プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維に、(A)〜(C)を合わせて少なくともサイジング剤全量に対して80質量%以上含むサイジング剤が塗布されてなるサイジング剤塗布炭素繊維であって、サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下であることを特徴とする。
(A)ポリイミド、ポリエーテルイミド、およびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1つ
(B)1分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物
(C)エポキシ当量が250g/eq以下であって、1分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物。
また、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法は、上記発明において、炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、240℃以上で60〜3000秒熱処理することを特徴とする。
また、本発明のプリプレグは、上記発明のサイジング剤塗布炭素繊維、または上記発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法により製造されたサイジング剤塗布炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてなることを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維強化複合材料は、上記発明のプリプレグを硬化してなることを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、上記発明のサイジング剤塗布炭素繊維、および熱可塑性樹脂またはラジカル重合性樹脂からなるマトリックス樹脂を含むことを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法は、上記発明のサイジング剤塗布炭素繊維を製造する工程と、サイジング剤塗布炭素繊維をマトリックス樹脂に配合する工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、上記発明の炭素繊維強化樹脂組成物であって、下記(D)、(E)、(F)、(G)のいずれかの形態の成形材料であることを特徴とする。
成形材料(D):柱状をなし、炭素繊維が軸心方向と成形材料の長軸の軸線同士の角度のずれが20゜以下に配列し、かつ成形材料の長さの50%以下の長さの炭素繊維の含有量が30質量%以下で、成形材料を構成する炭素繊維単繊維と最も近接する他の炭素繊維単繊維とで形成される二次元配向角の平均値が10〜80°である成形材料
成形材料(E):炭素繊維は単繊維状で、実質的に2次元配向している成形材料
成形材料(F):炭素繊維は束状で、実質的に2次元配向している成形材料
成形材料(G):プリプレグ
また、本発明の積層プリプレグは、少なくとも2プライのサイジング剤塗布炭素繊維(a)を含有する炭素繊維層(b)と、前記2プライ間に配置された高分子樹脂の層(c)を含む積層プリプレグであって、
(i)サイジング剤塗布炭素繊維(a)は、上記発明のサイジング剤塗布炭素繊維であり、
(ii)前記積層プリプレグを固化して得られるインターレイヤー構造を有する複合材料の、積層プリプレグ厚み方向の体積固有抵抗が500Ω・m以上である、
ことを特徴とする。
また、本発明の積層プリプレグの製造方法は、上記発明の積層プリプレグを製造する方法であって、サイジング剤塗布炭素繊維(a)が、炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、240℃以上で60〜3000秒熱処理する工程を経ることを特徴とする。
本発明によれば、電気絶縁性が高い炭素繊維強化複合材料を製造可能なサイジング剤塗布炭素繊維、電気絶縁性が高い炭素繊維強化樹脂組成物、高い電気絶縁性を示す積層プリプレグを得ることができる。
図1は、本発明の実施の形態にかかる成形材料の一例を示す斜視図である。 図2は、本発明の実施の形態にかかる成形材料の他の一例を示す斜視図である。 代表的な積層プリプレグの断面図の一例を示す概略図である。
以下、更に詳しく、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維およびサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法を実施するための形態について説明する。
本発明は、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維に、(A)〜(C)を合わせてサイジング剤全量に対して80質量%以上含むサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維であって、サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下であるサイジング剤塗布炭素繊維である。
(A)ポリイミド、ポリエーテルイミド、およびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1つ
(B)1分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物
(C)エポキシ当量が250g/eq以下であって、1分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物。
本発明者らは、特定の表面構造を有する炭素繊維に特定の組成のサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維を炭素繊維複合材料に用いた時に、高い電気絶縁性が向上することを見いだし本発明に至った。すなわち、既知の炭素繊維と既知のサイジング剤を用いることができるが、特定の表面構造を有する炭素繊維に特定の組成のサイジング剤を塗布し、特定の条件で強固な相互作用を持たせることで、高い電気絶縁性が得られることを見出したものである。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維において、炭素繊維は、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維のみからなり、サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下にならない場合には、電気絶縁性が十分ではないことが確認されている。
また、サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下であっても、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維を用いない場合には、電気絶縁性が十分ではないことが確認されている。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維において、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維と、特定の(A)〜(C)の合計がサイジング剤全量に対して80質量%以上であること、サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下になることをすべて満たすときに、電気絶縁性が高いということが重要である。
最初に、本発明で用いる炭素繊維について説明する。本発明で用いる炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PANと略すことがある。)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
本発明の炭素繊維は、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法(EDX)で検出した際に、酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する。
炭素繊維の表面の酸素濃度が高い領域の厚みが10nm以上になることで電気絶縁性が高くなる。12nm以上が好ましく、15nm以上がさらに好ましい。また、電気絶縁性の観点からは当該厚みが厚い方が好ましいが、30nmあれば十分である。
本発明における炭素繊維表面の酸素濃度は、サイジング剤を塗布する前の炭素繊維を断面方向に収束イオンビーム(FIBと略すことがある。)を用いて約100nm厚みの薄片を作製し、任意の3カ所を原子分解能分析電子顕微鏡装置で、0.2nm以下のスポット径で、検出器としてエネルギー分散型X線分光法を用いて測定する。炭素繊維の円周に対して垂直方向に、炭素繊維内部から保護膜に向かって20nm幅で元素濃度の割合を測定する。そのラインプロファイルで酸素濃度が4%以上になる厚みを、炭素繊維の表面の酸素濃度が高い領域の厚みとする。
また、本発明の炭素繊維は、AlKα1,2を用いたX線光電子分光法によって求まる以下の(α)と(β)との比率(β)/(α)が0.8以上であることが好ましい。
(α)光電子脱出角度10°で測定される炭素繊維の繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)
(β)光電子脱出角度90°で測定される炭素繊維の繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)。
光電子脱出角度を大きくすることで、表面近傍より奥の情報を得ることができる。従って、(β)/(α)が大きいということは、表面近傍から内部に向かって酸素濃度の変化が小さいことを示している。(β)/(α)が0.8以上であることで、電気絶縁性がより高くなる好ましい。より好ましくは0.85以上、さらに好ましくは0.9以上である。
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。まず、溶剤でサイジング剤を塗布する前の炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定する。光電子脱出角度10°と90°で測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度(O/C)は、上記O1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、ストランド強度が、3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上であり、さらに好ましくは5GPa以上である。また、ストランド弾性率が、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは250GPa以上であり、さらに好ましくは280GPa以上である。ストランド強度および/またはストランド弾性率が高くなると、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を複合材料として用いた時に、用いるサイジング剤塗布炭素繊維の量を減らすことができ、電気絶縁性が高くなることから好ましい。
本発明において、上記のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。ストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
また、炭素繊維のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本である。50000本以下であることがさらに好ましい。
本発明において、炭素繊維の単糸の繊度は0.8dtex以下であることが好ましく、0.5dtex以下であることがより好ましい。強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるため、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を複合材料として用いた時に、用いるサイジング剤塗布炭素繊維の量を減らすことができ、電気絶縁性が高くなることから好ましい。また、0.3dtex以上あれば工程における単繊維切断が起きにくくなり生産性が低下しにくく好ましい。
単糸の繊度は、サイジング剤塗布炭素繊維の総繊度を測定し、総繊度をサイジング剤塗布炭素繊維のフィラメント数で除すことで求める。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の撚り数は1mにつき1ターン以下であることが好ましい。1mにつき1ターン以下にすることで、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を複合材料として用いた時に、マトリックス樹脂中で単糸同士が分散され、電気絶縁性が高くなることで好ましい。より好ましくは0.2ターン以下である。さらに好ましくは0ターン、すなわち無撚りとすることが好ましい。
なお、本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維の撚り数は以下のとおりに求める。測定するサイジング剤塗布炭素繊維4mの両端をクリップで固定する。一方のクリップの内側直近部の炭素繊維の束の中心に1mmφの金属棒を差し入れ、その金属棒をもう一端のクリップ近傍までスライドさせ、金属棒と、もう一端のクリップとの間における繊維のターン数を数える。これを5回測定して、その相加平均をAとする。さらに次式により、1m当たりの撚り数を求める。
撚り数(ターン/m)=A/4。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の平均引き裂き可能距離は300mm以上であることが好ましい。300mm以上であることで、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を複合材料として用いた時に、マトリックス樹脂中で単糸同士が分散され、電気絶縁性が高くなることで好ましい。より好ましくは400mm以上、さらに好ましくは500mm以上である。糸の収束性等の観点から700mm以下が好ましい。
平均引き裂き可能距離は、繊維束の交絡状態を表す指標であり、以下のようにして求める。まず、繊維束を1160mmの長さにカットし、その一端を水平な台上に粘着テープで動かないように固定する(この点を固定点Aと呼ぶ)。該繊維束の固定していない方の一端を指で2分割し、その一方を緊張させた状態で台上に粘着テープで動かないように固定する(この点を固定点Bと呼ぶ)。2分割した他方を、固定点Aが支点となり弛みが出ないよう台上に沿って動かし、固定点Bからの直線距離が500mmの位置で静止させ、台上に粘着テープで動かないように固定する(この点を固定点Cと呼ぶ)。固定点A、B、Cで囲まれた領域を目視で観察し、固定点Aから最も遠い交絡点を見つけ、固定点Aと固定点Bで結ばれる直線上に投影した距離を最低目盛りが1mmの定規で読み取り、引き裂き可能距離とする。前記操作の繰り返し30回の測定の算術平均値を平均引き裂き可能距離とする。本測定方法において、固定点Aから最も遠い交絡点とは、固定点Aからの直線距離が最も遠く、かつ弛みのない3本以上の単繊維が交絡している点のことである。
次に、本発明に用いられるサイジング剤について説明する。
本発明で用いるサイジング剤は、(A)〜(C)の合計がサイジング剤全量に対して80質量%以上である。
(A)ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンから選ばれる少なくとも1つ
(B)1分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物
(C)エポキシ当量が250g/eq以下であって、1分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物。
本発明において、サイジング剤の炭素繊維への付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して、0.1〜10.0質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量%の範囲である。サイジング剤の付着量が0.1質量%以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグ化および製織する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、電気絶縁性が向上するため好ましい。一方、サイジング剤の付着量が10.0質量%以下であると、サイジング剤塗布炭素繊維の周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる複合材料においてボイド生成が抑えられ、複合材料の品位が優れるため好ましい。
サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維を2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定し、質量変化量を加熱処理前の質量で除した値(質量%)とする。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下が重要である。
アセトン溶媒中の処理は、サイジング剤塗布炭素繊維を2±0.5g採取し、50mlのアセトンに入れて10分間超音波処理を行う。この処理をさらに2回繰り返したのち、洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング付着量を前記した方法で測定する。
本発明者らは、溶出されずに炭素繊維上に残存するサイジングの量と電気絶縁性に相関があることを見出した。溶出されずに炭素繊維上に残存するサイジングの量は、サイジング剤塗布炭素繊維を複合材料として用いたときに、マトリックス樹脂中に拡散しないで炭素繊維表面に局在化するサイジング剤と相関があり、そのサイジング剤により、近接する炭素繊維間の電気絶縁性が向上すると考えている。0.12質量部以上が好ましく、0.15質量部以上がさらに好ましい。より好ましくは0.18質量部以上である。0.25質量部以下で電気絶縁性の観点からは十分である。
溶出されずに炭素繊維上の残存したサイジング剤は、前述した炭素繊維、サイジング剤の種類およびサイジング剤塗布後の熱処理により制御することができる。
本発明において、サイジング剤全量に対して、(A)〜(C)の合計が80質量%以上であることが、重要である。種々検討の結果、(A)〜(C)はいずれも炭素繊維表面との相互作用が強く、高い電気絶縁性を発現することを見出した。85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
本発明において、サイジング剤成分(A)〜(C)を単独で用いることもできるし、複数用いることもできる。また、各成分から2種以上の化合物を用いることもできる。
本発明で用いるサイジング剤成分(A)はポリイミド、ポリエーテルイミド、およびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンは、いずれもマトリックス樹脂に溶出しにくいため、炭素繊維表面に局在化することで電気絶縁性が向上するため好ましい。低分子量あるいは前駆体をサイジング剤として塗布した後、炭素繊維表面で高分子量化あるいは高分子化をすることができる。
たとえば、サイジング剤成分(A)としてポリイミドあるいはポリエーテルイミドを用いる場合、ポリイミドあるいはポリエーテルイミドをサイジング剤として塗布しても良いし、前駆体であるポリアミック酸を塗布しても良い。前駆体としてポリアミック酸を用いた場合、ポリアミック酸が残っていても構わないが、イミド化率が80%以上であることが好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。ポリイミドのイミド化率X(%)は次式で求められる。
X=(1−D/C)×100。
ここで、Cは全くイミド化していないポリアミック酸の130℃と415℃における質量減少率、Dは同条件におけるポリイミドの質量減少率である。TGA装置で空気雰囲気中、110℃で2時間ホールド、10℃/分で450℃まで昇温する。
本発明で用いるポリスルホンは、スルホニル基を含む繰り返し構造を持つ高分子化合物である。ポリスルホンアミド誘導体、ポリエーテルスルホンなどの誘導体を用いることもできる。
本発明で用いるサイジング剤成分(B)は1分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物である。末端不飽和基が炭素繊維表面で重合することで、炭素繊維表面に局在化しやすくなり、電気絶縁性が向上する。
本発明における極性基と末端不飽和基を有する化合物としては、不飽和アルコール、不飽和カルボン酸とイソシアネート化合物を反応せしめた化合物が挙げられ、不飽和アルコールとしては、例えばアリルアルコール、不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸等、イソシアネート化合物としてはヘキサメチレンジシソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の公知の不飽和ポリウレタン化合物が挙げられる。
特に、不飽和ポリウレタン化合物の末端不飽和基がアクリレート基およびメタクリレート基である化合物が好ましく、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート化合物、フェニルグリシジルエーテルアクリレートトリレンジイソシアネート化合物、ペンタエリスリトールアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート化合物、フェニルグリシジルエーテルトリアクリレートイソホロンジイソシアネート化合物、グリセリンジメタクリレートトリレンジイソシアネート化合物、グリセリンジメタクリレートイソホロンジイソシアネート化合物、ペンタエリスリトールトリアクリレートトリレンジイソシアネート化合物、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネート、トリアリルイソシアヌレート化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
末端不飽和基と、極性基としてアミド結合を有する化合物としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等が挙げられる。スルホ基と末端不飽和基を有する化合物としてはビスフェノールS型ジグリシジルジアクリレート、ビスフェノールS型ジグリシジルジメタクリレート等が挙げられる。
好ましいサイジング剤の構造としては、炭素繊維表面での高分子量化を容易にし、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面に剛直で立体的に大きな化合物を介在させない、芳香環を有さない分子鎖が直線状で柔軟性を有する脂肪族化合物、特に末端不飽和基と極性基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物、すなわちポリエチレングリコール骨格およびポリアルキレン骨格であるポリイソシアネート化合物が好ましい。
本発明で用いるサイジング剤成分(C)は、1分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物である。炭素繊維と特に強い相互作用を持つことから、炭素繊維表面にサイジング剤成分が局在化することで電気絶縁性が向上する。
本発明における脂肪族エポキシ化合物とは分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物である。分子内にエポキシ基が複数あり、かつ柔軟な脂肪族の主鎖をもつエポキシ化合物は、炭素繊維の表面官能基と相互作用し、炭素繊維表面と強固に接着するため電気絶縁性が向上する。
また本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物は、分子内にエポキシ基を2以上有する。電気絶縁性の観点から3以上が好ましく、4以上がさらに好ましい。電気絶縁性の観点から、10個で十分である。
本発明で用いるサイジング剤成分(C)のエポキシ当量は、250g/eq.以下である。さらに好ましくは180g/eq.以下である。脂肪族エポキシ化合物のエポキシ当量が250g/eq.以下であると、炭素繊維表面と強く相互作用し、電気絶縁性が向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば電気絶縁性の観点から十分である。
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物は、分子内にエポキシ基以外の官能基をもつこともできる。脂肪族エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択できる。炭素繊維との相互作用を向上する観点から水酸基を有することが特に好ましい。
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ポリブチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるエポキシ化合物が挙げられる。なかでも、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましく用いられる。これらの化合物は炭素繊維表面に局在化することができるため、電気絶縁性が高くなることで好ましい。また、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの極性溶媒に対して高い溶解性を有し、これらサイジング剤を炭素繊維に塗布する際に均一なサイジング剤溶液として用いることができる点で特に好ましい。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの化合物の製品の具体例として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−512、EX−521)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−321)、グリセロールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−313、EX−314)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(例えば、ナガセケムテックス(株)製の“デナコール(登録商標)”EX−411)などを挙げることができる。
本発明において、サイジング剤成分(A)〜(C)以外にも、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。また、本発明の効果に影響しない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、および不飽和ポリエステル化合物等を添加してもよい。
次に、PAN系炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の公知の方法を用いることができる。
紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中、あるいは空気中に吐出した後、紡糸浴中で凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理ならびに炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
得られた炭素繊維は、炭素繊維表面に酸素濃度の高い層を配置して電気絶縁性が向上するために、酸化処理が施され。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられる。
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。電解液の濃度が0.01mol/L以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5mol/L以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において用いられる電解液の温度は、40℃以上であることが好ましく、より好ましくは60℃以上である。電解液の温度が40℃以上であると、電解処理の効率が向上し、同一表面処理量のときに電気絶縁性が高くなる。一方、電解液の温度が100℃未満であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて、前述した炭素繊維表面の高い酸素濃度を有する層が10nm以上になるように、最適化することが好ましい。弾性率の高い炭素繊維に処理を施す場合、弾性率が低い炭素繊維に比べてより大きな電気量が必要である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m当たり5アンペア以下が好ましく、より好ましくは3アンペア/m以下であり、さらに好ましくは1.5アンペア/m以下である。電流密度を下げることで、電気絶縁性が高くなり好ましい。理由は明確ではないが、炭素繊維表面を均一に表面処理した効果と考えている。
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法またはスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。一方、乾燥の効率を考慮すれば、乾燥温度は、110℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。
次に、上述した炭素繊維にサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法について説明する。
次に、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法について述べる。
まず、本発明のサイジング剤の炭素繊維への塗布(付与)手段について述べる。本発明において、サイジング剤は溶媒にサイジング剤に用いる成分を同時に溶解または分散したサイジング剤含有液を用いて、1回で塗布する方法や、サイジング剤(A)〜(C)やその他の成分を任意に選択し個別に溶媒に溶解または分散したサイジング剤含有液を用い、複数回において炭素繊維に塗布する方法が好ましく用いられる。本発明においては、サイジング剤の構成成分をすべて含むサイジング剤含有液を炭素繊維に1回で塗布する1段付与を採用することが効果および処理のしやすさから、より好ましく用いられる。
本発明でサイジング剤成分の希釈に用いられる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドなどが挙げられるが、なかでも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、水が好ましく用いられる。
塗布手段としては、例えば、ローラを介してサイジング剤溶液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング剤溶液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング剤溶液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがあるが、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を製造する上では、ローラーを介してサイジング剤溶液に炭素繊維を浸漬する方法が好ましく用いられる。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
炭素繊維に対するサイジング剤成分の付着量が適正範囲で付着するように、サイジング剤溶液濃度・温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましく、サイジング剤溶液の濃度としては、サイジング剤成分が0.1質量%以上20質量%以下の溶液を用いることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、240℃以上で60〜3000秒熱処理することが好ましい。240℃以上で熱処理することで、サイジング剤が高分子量化あるいは反応が進むことから好ましい。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を複合材料に用いた場合には、マトリックス樹脂へのサイジング剤の拡散が抑制されて、炭素繊維表面にサイジング剤が局在化することで電気絶縁性が高くなり好ましい。250℃以上が好ましく、さらに好ましくは260℃以上である。また、熱処理時間は60〜3000秒が好ましい。60秒以上であることで、サイジング剤の高分子量化あるいは反応が進むことから好ましい。より好ましくは、90秒以上、120秒以上、さらに好ましくは1000秒以上である。3000秒以下で十分である。
また、熱処理は、240℃未満での熱処理に加えて、240℃以上の熱処理を実施することができる。また、熱処理は、加熱したローラへのサイジング剤塗布炭素繊維の接触あるいは空気あるいは窒素などの不活性気体を熱媒体とした加熱、非接触加熱を行うことができる。この場合には、240℃以上で熱処理した時間の合計が60〜3000秒であることが好ましい。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、例えば、トウ、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド等の形態で用いられる。特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、炭素繊維が一方向に引き揃えたトウが最も適しており、さらに、マトリックス樹脂を含浸したプリプレグが好ましく用いられる。
次に、本発明におけるプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料について説明する。
本発明において、プリプレグは、前述したサイジング剤塗布炭素繊維、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させて得られるものである。本発明のプリプレグを硬化した際に、前述したサイジング剤塗布炭素繊維、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維を用いることで、電気絶縁性の優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができるため好ましい。
本発明において、マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂(ここで説明される樹脂は、樹脂組成物であってもよい)を使用することができるが、熱硬化性樹脂を好ましく用いることができる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂およびビスマレイミド樹脂等の樹脂およびこれらの変性体、これらを2種類以上ブレンドした樹脂が挙げられる。なかでも、機械特性のバランスに優れ、硬化収縮が小さいという利点を有するため、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
エポキシ樹脂に用いるエポキシ化合物としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノール型エポキシ化合物、アミン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、レゾルシノール型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、イソシアネート変性エポキシ化合物、テトラフェニルエタン型エポキシ化合物、トリフェニルメタン型エポキシ化合物等のなかから1種類以上を選択して用いることができる。
また、硬化剤としては特に限定はされないが、芳香族アミン硬化剤、ジシアンアミドもしくはその誘導体などが挙げられる。また、脂環式アミン等のアミン、フェノール化合物、酸無水物、ポリアミドアミノ、有機酸ヒドラジド、イソシアネートを芳香族アミン硬化剤に併用して用いることもできる。
なかでも多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂と芳香族ジアミン硬化剤を含有したエポキシ樹脂を使用することが好ましい。一般に多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂と芳香族ジアミン硬化剤を含有したマトリックス樹脂は、架橋密度が高く、炭素繊維強化複合材料の耐熱性および圧縮強度を向上させることができる。
多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾールなどを好ましく使用することができる。多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂は耐熱性を高める効果があり、その割合は、全エポキシ樹脂100質量%中、30〜100質量%含まれていることが好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂の割合が30質量%以上の場合は、炭素繊維強化複合材料の圧縮強度が向上し、耐熱性に優れる。
芳香族ジアミン硬化剤としては、エポキシ樹脂硬化剤として用いられる芳香族アミン類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−10)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、DMP−30のトリ−2−エチルヘキシル酸塩等、およびそれらの異性体、誘導体を好ましく使用することができる。これらは、単独で用いても、あるいは2種以上の混合物を用いてもよい。
上記の芳香族ジアミン硬化剤は、全エポキシ樹脂に対する化学量論量の50〜120質量%含まれていることが好ましく、60〜120質量%がより好ましく、さらに好ましくは70〜90質量%である。芳香族アミン硬化剤が、全エポキシ樹脂に対する化学量論量の50質量%以上で得られる樹脂硬化物の耐熱性が良好になる。また、芳香族アミン硬化剤が120質量%以下の場合は、得られる樹脂硬化物の靱性が向上する。
また、エポキシ樹脂の硬化を促進する目的に硬化促進剤を配合することもできる。硬化促進剤としては、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾールとその塩、トリフェニルホスフィンまたはその誘導体、カルボン酸金属塩やルイス酸、ブレンステッド酸類とその塩類などが挙げられる。
本発明の炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂には、得られる樹脂硬化物の靭性等の物性を向上させるため、熱可塑性樹脂を配合することができる。かかる熱可塑性樹脂としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、フェノキシ樹脂およびビニル系ポリマー等の耐熱性と靭性とを兼備したものを好ましく使用することができる。
特に、耐熱性をほとんど損なわずにこれらの効果を発揮できることから、ポリエーテルスルホンやポリエーテルイミドが好適である。
また、上記の熱可塑性樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に溶解せしめる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して1〜40質量部が好ましく、より好ましくは1〜25質量部である。一方、分散させて用いる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して10〜40質量部が好ましく、より好ましくは15〜30質量部である。熱可塑性樹脂がかかる配合量を満たすと、靭性向上効果がさらに向上する。また、熱可塑性樹脂が前記範囲を超えない場合は、含浸性、タック・ドレープおよび耐熱性が良好になる。
上記の熱可塑性樹脂は、特に含浸性を中心としたプリプレグ作製工程に支障をきたさないように、エポキシ樹脂組成物中に均一溶解しているか、粒子の形態で微分散していることが好ましい。
さらに、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維と組み合わせて用いるマトリックス樹脂を改質するために、マトリックス樹脂に用いられる熱硬化性樹脂以外の熱硬化性樹脂、エラストマー、フィラー、ゴム粒子、熱可塑性樹脂粒子、無機粒子およびその他の添加剤を配合することもできる。
上記の熱可塑性樹脂粒子としては、先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。なかでも、ポリアミド粒子やポリイミド粒子が好ましく用いられ、ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11やナイロン6/12共重合体や特開平01−104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)は、特に良好な熱硬化性樹脂との接着強度を与えることができることから、落錘衝撃時の炭素繊維強化複合材料の層間剥離強度が高く、耐衝撃性の向上効果が高いため好ましい。
この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。
上記のゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。
また、本発明で用いられるマトリックス樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲において、マトリックス樹脂の増粘等の流動性調整のため、シリカ、アルミナ、スメクタイトおよび合成マイカ等の無機粒子を配合することもできる。
本発明のプリプレグは、上記のマトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法と、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法(ドライ法)等の公知の方法で作製することができる。
次に本発明の好ましい形態であるサイジング剤塗布炭素繊維、および、熱可塑性樹脂またはラジカル重合性樹脂からなるマトリックス樹脂を含む炭素繊維強化樹脂組成物について説明する。
本発明において、前述したサイジング剤塗布炭素繊維、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させて得られるものである。前述したサイジング剤塗布炭素繊維、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維を用いることで、電気絶縁性の優れた炭素繊維強化樹脂組成物を得ることができるため好ましい。
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物で用いられるマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂またはラジカル重合性樹脂が用いられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、酸変性ポリエチレン(m−PE)、酸変性ポリプロピレン(m−PP)、酸変性ポリブチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド樹脂;ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN);ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;液晶ポリマー(LCP)等の結晶性樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等のポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、未変性または変性されたポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)等の非晶性樹脂;フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、さらにポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ポリイソプレン系エラストマー、フッ素系樹脂およびアクリロニトリル系エラストマー等の各種熱可塑エラストマー等、これらの共重合体および変性体等から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
上記の熱可塑性樹脂の中でも、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物において用いられる熱可塑性樹脂は、耐熱性の観点からは、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂が好ましい。強度の観点からは、ポリアミド樹脂が好ましい。表面外観の観点からは、ポリカーボネートのような非晶性樹脂が好ましい。軽量性の観点からは、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
なお、熱可塑性樹脂としては、炭素繊維強化樹脂組成物の目的を損なわない範囲で、これらの熱可塑性樹脂を複数種含む炭素繊維強化樹脂組成物が用いられても良い。
本発明において、ラジカル重合性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂およびビスマレイミド樹脂等が挙げられる。なかでも、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂が好適に使用される。
不飽和ポリエステル樹脂は不飽和多塩基酸又は場合により飽和多塩基酸を含む不飽和多塩基酸と多価アルコールから得ることができる。不飽和多塩基酸は1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。又、不飽和多塩基酸の一部を置き換える飽和多塩基酸としては、例えば、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘット酸等を挙げることができる。これらの飽和多塩基酸は1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、グリセリンモノアリルエール、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、グリシジル化ビスフェノールA、グリシジル化ビスフェノールF、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン等を挙げることができる。これらの多価アルコールは、1種を単独で用いても、あるいは2種以上組み合わせても良い。
また、成形材料の軽量化を目的として、ラジカル重合性樹脂に、熱可塑性樹脂を含ませることができる。室温で固体の熱可塑性樹脂組成物が、軽量化のためには好ましい。特に、飽和ポリエステル、ポリビニル化合物、ポリアセテート又はポリ(メタ)アクリレートのいずれか一つ又はこれらの組み合わせからなる組成物を好ましく用いることができ、中でも、ポリ(メタ)アクリレートは取り扱いが容易であり且つ安価であるから最も好ましく用いることができる。
熱可塑性樹脂のラジカル重合性樹脂中への配合量は、ラジカル重合性樹脂100質量部に対して、10質量部以上、特に20質量部以上が好ましく、60質量部以下、特に40質量部以下が好ましい。熱可塑性樹脂の量が60質量部を超えると、炭素繊維強化樹脂成形品に成形した場合の強度が低下するためである。
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物には、力学特性を阻害しない範囲で、用途等に応じて、上記以外の他の成分が含まれていてもよく、また、充填剤や添加剤等が含まれていてもよい。充填剤あるいは添加剤としては、無機充填剤、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、発泡剤およびカップリング剤などが挙げられる。
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、サイジング剤が塗布された炭素繊維1〜80質量%、およびマトリックス樹脂20〜99質量%からなる炭素繊維強化樹脂組成物であることが好ましい。
続いて、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物にかかる成形材料および炭素繊維強化樹脂成形品について説明する。本発明において、前記炭素繊維樹脂組成物は、ペレット、スタンパブルシート、の成形材料の形態で使用することができる。また、本発明において、前記炭素繊維強化樹脂組成物は、下記(D)、(E)、(F)、(G)のいずれかの形態の成形材料として使用することができる。
成形材料(D):柱状をなし、炭素繊維が軸心方向と成形材料の長軸の軸線同士の角度のずれが20゜以下平行に配列し、かつ成形材料の長さの50%以下の長さの炭素繊維の含有量が30質量%以下で、成形材料を構成する炭素繊維単繊維と最も近接する他の炭素繊維単繊維とで形成される二次元配向角の平均値が10〜80°である成形材料
成形材料(E):炭素繊維は単繊維状で、実質的に2次元配向している成形材料
成形材料(F):炭素繊維は束状で、実質的に2次元配向している成形材料
成形材料(G):プリプレグ。
ペレットについて説明する。ペレットは、一般的には、マトリックス樹脂からなるペレットと連続状炭素繊維もしくは特定の長さに切断した不連続炭素繊維(チョップド炭素繊維)を押出機中で溶融混練し、押出、ペレタイズすることによって得られたものをさす。
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法では、サイジング剤を炭素繊維に塗布した後、240℃以上で60〜3000秒熱処理してサイジング剤塗布炭素繊維を製造する工程と、前記サイジング剤塗布炭素繊維をマトリックス樹脂に配合する工程とを有することが好ましい。サイジング剤塗布炭素繊維は上述のサイジング剤炭素繊維を製造する工程によって得ることができる。
本発明のサイジング剤が塗布された炭素繊維とマトリックス樹脂とを配合する方法としては限定されないが、サイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂を溶融混練することで、炭素繊維が均一に分散することができ、電気絶縁性に優れた成形品を得ることができる。
前記溶融混練の方法は特に限定されず、公知の加熱溶融混合装置を使用することができる。具体的には、単軸押出機、二軸押出機、それらの組み合わせの二軸押出機、ニーダー・ルーダー等を使用することができる。
サイジング剤が塗布された炭素繊維を上記加熱溶融混合装置に投入する際の形態は、連続繊維状、特定の長さに切断した不連続繊維状のいずれでも用いることができる。連続繊維状で直接加熱溶融混合装置に投入した場合(ダイレクトロービングの場合)、炭素繊維の折損が抑えられ、成形品の中でも繊維長を確保できるため、力学特性に優れた成形品を得ることができる。また、炭素繊維を切断する工程が省けるため、生産性が向上する。
上記成形材料の成形方法としては、例えば、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形およびインサート成形など)、ブロー成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形およびフィラメントワインディング成形が挙げられる。中でも、生産性の観点から射出成形が好ましく用いられる。これらの成形方法により、炭素繊維強化成形品を得ることができる。
続いて、成形材料(D)〜(G)および炭素繊維強化樹脂成形品について説明する。
(成形材料(D))
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は柱状をなし、前記炭素繊維が軸心方向にほぼ平行に配列し、かつ前記炭素繊維の長さが成形材料の長さと実質的に同じである成形材料(D)であることが好ましい。
続いて、成形材料(D)および炭素繊維強化樹脂成形品について説明する。成形材料(D)は、上述のサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂とから構成される。図1に示すように、成形材料1は、円柱状をなし、複数の炭素繊維2が、円柱の軸心方向にほぼ平行に配列し、炭素繊維の周囲はマトリックス樹脂3で覆われている。すなわち、炭素繊維2が円柱の芯構造を主として構成し、マトリックス樹脂3が炭素繊維2からなる芯構造を被覆する鞘構造の主成分をなしている。「主成分」とは、全体の占める割合で50%以上であることを示す。成形材料1は、炭素繊維2とマトリックス樹脂3とにより芯鞘構造を構成すれば、円柱状のほか、角柱状、楕円柱状等その形状を問うものではない。なお、本明細書において、「ほぼ平行に配列」とは、炭素繊維2の長軸の軸線と、成形材料1の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を意味し、軸線同士の角度のずれが、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。
また、成形材料1において、炭素繊維2の長さと成形材料1の長さLが実質的に同じである長繊維ペレットであることが好ましい。なお、本明細書において、「長さが実質的に同じ」とは、ペレット状の成形材料1において、ペレット内部の途中で炭素繊維2が切断されていたり、成形材料1の全長よりも有意に短い炭素繊維2が実質的に含まれたりしないことを意味している。特に、成形材料1の長さLよりも短い炭素繊維の量について限定する必要はないが、成形材料1の長さLの50%以下の長さの炭素繊維の含有量が30質量%以下である場合には、成形材料1の全長よりも有意に短い炭素繊維束が実質的に含まれていないと評価する。さらに、成形材料1の全長の50%以下の長さの炭素繊維の含有量は20質量%以下であることが好ましい。なお、成形材料1の全長とは成形材料1中の炭素繊維配向方向の長さLである。炭素繊維2が成形材料1と同等の長さを持つことで、成形品中の炭素繊維長を長くすることが出来るため、優れた力学特性を得ることができる。
成形材料(D)は、好ましくは1〜50mmの範囲の長さに切断して用いられる。前記の長さに調製することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。また、成形材料(D)は、連続、長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得たりすることができる。
また、成形材料(D)として、炭素繊維2とマトリックス樹脂3との間に含浸助剤(H)を設けたものが好適に使用できる。図2は、成形材料(D)の成形材料1Aの斜視図である。成形材料1Aは、複数の炭素繊維2が、円柱の軸心方向にほぼ平行に配列し、炭素繊維2の周囲を含浸助剤4で覆うとともに、含浸助剤4の周囲をマトリックス樹脂3で被覆する構成をなす。成形材料を成形して得た成形品の力学特性を向上するためには、一般に高分子量のマトリックス樹脂を使用することが好ましいが、高分子量のマトリックス樹脂は、溶融粘度が高く、炭素繊維束中に含浸し難いという問題を有している。一方、炭素繊維束中へのマトリックス樹脂の含浸性を向上するためには、溶融粘度が低い低分子量のマトリックス樹脂を使用することが好ましいが、低分子量のマトリックス樹脂を使用した成形品は力学特性が大幅に低下してしまう。
そこで、比較的低分子量の樹脂(プレポリマー)を含浸助剤4として炭素繊維2束中に含浸させた後、比較的高分子量のマトリックス樹脂3をマトリックス樹脂として使用することにより、力学的特性に優れた成形材料を生産性よく製造することができる。
以下、含浸助剤(H)を使用する成形材料(D)についての好適な形態を説明する。
含浸助剤(H)は、炭素繊維100質量部に対して0.1〜100質量部となることが好ましい。より好ましくは10〜70質量部、さらに好ましくは15〜30質量部である。含浸助剤(H)が炭素繊維100質量部に対して0.1〜100質量部とすることにより、高力学特性の成形材料を生産性良く製造することができる。
含浸助剤(H)の種類は限定されないが、用いるマトリックス樹脂の種類によって選択されることが好ましい。マトリックス樹脂としてポリアリーレンスルフィド樹脂を使用する場合、含浸助剤(H)として、ポリアリーレンスルフィド[d](以下、PASと略する)を使用することが好ましい。マトリックス樹脂としてポリアミド樹脂を使用する場合、含浸助剤(H)として、フェノール系重合体を使用することが好ましい。マトリックス樹脂としてポリオレフィン系樹脂を使用する場合、含浸助剤(H)として、テルペン系樹脂あるいは、アシル基を側鎖に有さない第1のプロピレン系樹脂[g]およびアシル基を側鎖に有する第2のプロピレン系樹脂[h]の混合物が好ましく用いられる。
次に、成形材料(D)および炭素繊維強化樹脂成形品を製造するための好ましい態様について説明する。
成形材料(D)の製造方法では前記サイジング剤を、連続する炭素繊維に塗布する塗布工程、溶融したマトリックス樹脂中をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させ、連続したストランドを得るストランド化工程、および前記ストランドを冷却した後、切断して柱状の成形材料を得る切断工程を有することが好ましい。
また、成形材料(D)の製造方法において、マトリックス樹脂をサイジング剤が塗布された炭素繊維に含浸する方法としては限定されないが、例えば、サイジング剤を塗布した炭素繊維を引きながらマトリックス樹脂を炭素繊維に含浸させる引き抜き成形法(プルトルージョン法)が例示される。引き抜き成形法では、マトリックス樹脂に必要に応じて樹脂添加剤を加えて、連続炭素繊維をクロスヘッドダイを通して引きながら、マトリックス樹脂を押出機から溶融状態でクロスヘッドダイに供給して連続炭素繊維に、マトリックス樹脂を含浸させ、溶融樹脂が含浸した連続炭素繊維を加熱し、冷却する。冷却したストランドを、引き抜き方向と直角に切断して成形材料1を得る。成形材料1は、長さ方向に炭素繊維が同一長さで平行配列している。引き抜き成形は、基本的には連続した炭素繊維束を引きながらマトリックス樹脂を含浸するものであり、上記クロスヘッドの中を炭素繊維束を通しながら押出機等からクロスヘッドにマトリックス樹脂を供給し含浸する方法の他に、マトリックス樹脂のエマルジョン、サスペンジョンあるいは溶液を入れた含浸浴の中を、炭素繊維束を通し含浸する方法、マトリックス樹脂の粉末を炭素繊維束に吹きつけるか粉末を入れた槽の中を炭素繊維束を通し、炭素繊維にマトリックス樹脂粉末を付着させたのちマトリックス樹脂を溶融し含浸する方法等も使用することができる。特に好ましいのはクロスヘッド方法である。また、これらの引き抜き成形における樹脂の含浸操作は1段で行うのが一般的であるが、これを2段以上に分けてもよく、さらに含浸方法を異にして行ってもかまわない。
プルトルージョン法では、炭素繊維を均一に配列することができ、力学特性に優れた炭素繊維強化樹脂成形品を得ることができるため好ましい。
また、含浸助剤(H)を有する成形材料は、含浸助剤(H)をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させた後、含浸助剤(H)が含浸したサイジング剤塗布炭素繊維をマトリックス樹脂に含浸することが好ましい。例えば、上記の引き抜き成形法(プルトルージョン法)によりマトリックス樹脂で被覆することにより製造される。
成形材料(D)の成形方法としては、例えば、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形およびインサート成形など)、押出成形、プレス成形が挙げられる。中でも、生産性の観点から射出成形が好ましく用いられる。これらの成形方法により、炭素繊維強化樹脂成形品を得ることができる。
(成形材料(E)、(F))
本発明において、前記炭素繊維強化樹脂組成物は前記炭素繊維が束状実質的に2次元配向していることを特徴とする成形材料(E)または前記炭素繊維が単繊維状で実質的に2次元配向していることを特徴とする成形材料(F)であることが好ましい。
成形材料(E)、(F)において、サイジング剤塗布炭素繊維とは、連続する炭素繊維にサイジング剤を塗布したもの、ならびにウェブ状、不織布状、フェルト状、マット状等の生地に加工された炭素繊維にサイジング剤を付与したものを意味する。
続いて、成形材料(E)、(F)および炭素繊維強化樹脂成形品の製造方法について説明する。
成形材料(E)、(F)は、下記の2つの方法により好適に製造される。
第1の方法は、炭素繊維を、ウェブ状、不織布状、フェルト状、またはマット状の生地に加工する加工工程と、前記加工工程で得られた生地100質量部に対して、前記サイジング剤を0.1〜10質量部付与する付与工程と、前記付与工程でサイジング剤が付与された生地1〜80質量%に対し、マトリックス樹脂20〜99質量%を付与して、複合化する複合化工程と、を少なくとも含む。
第2の方法は、炭素繊維100質量部に対して、前記サイジング剤を0.1〜10質量部塗布してサイジング剤塗布炭素繊維を得る塗布工程と、前記塗布工程で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を1〜50mmに切断する切断工程と、前記切断工程で切断されたサイジング剤塗布炭素繊維1〜80質量%と、マトリックス樹脂20〜99質量%とを混合し、複合化する複合化工程と、を少なくとも含む。
まず、炭素繊維が単繊維状で、実質的に2次元配向している成形材料(E)の製造方法である第1の方法について説明する。
第1の方法では、炭素繊維を、ウェブ状、不織布状、フェルト状、マット状の生地に加工する(加工工程)。ウェブ状等の炭素繊維の生地は、炭素繊維束を分散加工して製造され得る。炭素繊維束は上述の炭素繊維であれば、連続した炭素繊維から構成されるもの、あるいは不連続な炭素繊維から構成されるもののどちらでも良いが、より良好な分散状態を達成するためには、不連続な炭素繊維が好ましく、チョップド炭素繊維がより好ましい。
炭素繊維の分散は、湿式法、或いは乾式法のいずれかによることができる。湿式法としては、炭素繊維束を水中で分散させ抄造する方法が例示され、乾式法としては、炭素繊維束を空気中で分散させる方法や、カーディング装置を用いて炭素繊維束を分散させる方法などが例示される。
上記のようにして製造したシート状の炭素繊維生地の目付は、10〜500g/m2であることが好ましく、50〜300g/m2であることがより好ましい。10g/m2未満であると基材の破れなどの取り扱い性に不具合を生じるおそれがあり、500g/m2を超えると、湿式法では基材の乾燥に長時間かかることや、乾式法ではシートが厚くなる場合があり、その後のプロセスで取り扱い性が難しくなるおそれがある。
加工工程の後、得られた生地である炭素繊維シート100質量部に対して、前記サイジング剤を0.1〜10質量部付与する(付与工程)。本発明におけるサイジング剤は、この第1の方法において、「バインダー」とも称されるが、工程中における炭素繊維の取り扱い性を高める観点および炭素繊維表面との接着性を高めて電気絶縁性を高くすることができる。サイジング剤が0.1質量部以上で、炭素繊維シートの取り扱い性が良好になり、成形材料の生産効率が高くなる。また、10質量部以下で、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着性が高くなる。
炭素繊維シートへのサイジング剤の付与は、前述の炭素繊維へのサイジング剤の付与と同様にサイジング剤を含む水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを用いて行うことが好ましい。付与後は、例えば吸引除去する方法または吸収紙などの吸収材へ吸収させる方法などで、過剰分の水溶液、エマルジョンまたはサスペンジョンを除去しておくことが好ましい。
付与工程において、炭素繊維シートは、サイジング剤の付与後に加熱されることが好ましい。加熱温度、時間は、前記のサイジング剤炭素繊維の製造方法が参照できる。
複合化工程では、付与工程において得られるサイジング剤が付与された炭素繊維シートにマトリックス樹脂を含浸させ、炭素繊維シートとマトリックス樹脂とを複合化し、成形材料を得る。
第1の方法において、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合には、マトリックス樹脂と、サイジング剤が付与された炭素繊維シートとの複合化は、マトリックス樹脂を炭素繊維シートに接触させることにより行うことができる。この場合のマトリックス樹脂の形態は、特に限定されないが、例えば布帛、不織布およびフィルムから選択される少なくとも1種の形態であることが好ましい。接触の方式は特に限定されないが、マトリックス樹脂の布帛、不織布またはフィルムを2枚用意し、サイジング剤が付与された炭素繊維シートの上下両面に配置する方式が例示される。
第1の方法において、マトリックス樹脂と、サイジング剤が付与された炭素繊維シートとの複合化は、加圧および/または加熱により行われることが好ましく、加圧と加熱の両方が同時に行われることがより好ましい。加圧の条件は0.01MPa以上10MPa以下であることが好ましく、0.05MPa以上5MPa以下であることがより好ましい。加熱の条件は、用いるマトリックス樹脂が溶融または流動可能な温度であることが好ましく、温度領域では50℃以上400℃以下であることが好ましく、80℃以上350℃以下であることがより好ましい。加圧および/または加熱は、マトリックス樹脂をサイジング剤が付与された炭素繊維シートに接触させた状態で行うことができる。例えば、マトリックス樹脂の布帛、不織布またはフィルムを2枚用意し、サイジング剤が付与された炭素繊維シートの上下両面に配置し、両面から加熱および/または加熱を行う(ダブルベルトプレス装置で挟み込む方法等)方法が挙げられる。
第1の方法で製造された成形材料(E)において、炭素繊維は単繊維状で実質的に2次元配向である。「2次元配向である」とは、成形材料を構成する炭素繊維単繊維と最も近接する他の炭素繊維単繊維とで形成される2次元配向角の平均値が10〜80°であることを意味する。成形材料を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡で観察することで、2次元配向角を測定することができる。成形材料において、400本の炭素繊維の2次元配向角を測定して平均値をとる。「実質的に」炭素繊維が2次元配向であるとは、上記400本の炭素繊維のうち通常本数で70%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは全ての炭素繊維が2次元配向であることを意味する。
続いて、炭素繊維が束状で、実質的に2次元配向している成形材料(F)の製造方法である第2の方法について説明する。第2の方法は、少なくとも塗布工程、切断工程および複合化工程からなる。
塗布工程では、前述のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法が用いられる。切断工程では、塗布工程で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を1〜50mmにカットする。炭素繊維の長さは1〜50mmとすることが好ましい。1mm未満であると炭素繊維による補強硬化を効率よく発揮することが困難となるおそれがあり、50mmを超えると分散を良好に保つのが困難となるおそれがあるためである。カットは、ギロチンカッターや、ロービングカッター等のロータリー式カッターなど公知の方法で行うことができる。
第2の方法で製造された成形材料(F)において、炭素繊維は束状で実質的に2次元配向である。「2次元配向である」は、第1の方法と同様の意味を有する。
第1の方法および第2の方法において、複合化工程で使用するマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂またはラジカル重合性樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられる。特に第1の方法においては、成形性の観点から熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
第2の方法において、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、成形時の流動性を確保するために、マトリックス樹脂の重合性モノマーを配合することができる。マトリックス樹脂の重合性モノマーは、炭素繊維強化樹脂成形品に成形する際の成形性を高めるように作用する。また、重合性モノマーは、炭素繊維への濡れ性を高めるので、より多量の炭素繊維を成形材料中に含有させることができる。重合性モノマーは、重合時に熱可塑性重合体を形成することができるものである。このような重合性モノマーは、例えば、ラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を分子内にひとつ有し、分子量1000以下の分子である。炭素−炭素二重結合を分子内にひとつ有する重合性モノマーを用いることによって、これを含有する成形材料を重合硬化させてなる炭素繊維強化樹脂成形品は、非架橋重合体からなり、熱可塑性を発現する。
マトリックス樹脂の重合性モノマーは、具体的には、スチレン等の芳香族ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、フマル酸エステル、メチルメタクリレートやメタクリル酸等の(メタ)アクリル系単量体が使用例として挙げられる。これらの単量体は、必要に応じて単独であるいは二種以上を併用することができる。また、マトリックス樹脂の重合性モノマーは、成形材料に適度の流動性を付与することができるかぎり、上記重合性モノマーなどのオリゴマーの形態であってもよい。中でも、硬化後の耐候性が良好な(メタ)アクリル系単量体が特に好ましい。
第2の方法において、マトリックス樹脂としてラジカル重合性樹脂を使用する場合、離型フィルム上に均一に溶融樹脂を塗布したフィルム状等のシートとして使用する。該シート上に切断工程でカットした束状のサイジング剤塗布炭素繊維を均一に落下または散布した後、同様に溶融樹脂を塗布したシートを貼り合わせて炭素繊維を挟み込むことにより、複合化する。得られたシートを、所定時間加温(例えば、40℃にて24時間)することにより、マトリックス樹脂を増粘化し、成形材料であるシートを得ることができる。
第2の方法において、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合、マトリックス樹脂は、ラジカル重合性樹脂と同様に離型フィルム上に均一に溶融樹脂を塗布したフィルム状等のシートとして使用する。重合性モノマーを配合したマトリックス樹脂を使用する場合、離型フィルムの脇から液ダレが起こらないような粘度とすることが好ましい。マトリックス樹脂を塗布したシート上に切断工程でカットした束状のサイジング剤塗布炭素繊維を均一に落下または散布した後、同様に溶融樹脂を塗布したシートを貼り合わせて炭素繊維を挟み込んで、複合化する。
(成形材料(G))
本発明において、前記炭素繊維強化樹脂組成物の好ましい成形材料の一つがプリプレグ(G)である。
プリプレグ(G)とは、サイジング剤塗布炭素繊維を一方向に引き揃えた一方向プリプレグを意味する。
サイジング剤塗布炭素繊維は、少なくとも一方向に、10mm以上の長さに亘り連続した多数本のフィラメントから構成されていることが好ましい。
プリプレグ(G)は、プリプレグの幅が1〜50mmであることが好ましい。
また、マトリックス樹脂をサイジング剤が塗布された炭素繊維に含浸する方法としては限定されないが、マトリックス樹脂を溶融させた後、その中に少なくとも第1工程で得られたサイジング剤を塗布した連続した炭素繊維を通過せしめ、さらに拡幅して幅が1〜50mmのプリプレグとするプルトルージョン法が好ましい。溶融したマトリックス樹脂中にサイジング剤が塗布された炭素繊維を連続して通過させ、さらに拡幅することにより、炭素繊維が均一に配列することができ、電気絶縁性に優れた成形品を得ることができる。
プルトルージョン法では、例えば、マトリックス樹脂に必要に応じて樹脂添加剤を加え、押出機から溶融状態で含浸ダイに供給する。炭素繊維束を、含浸ダイを通して引くことにより、含浸ダイに供給された溶融樹脂を炭素繊維束に付加し、加熱して含浸させ、溶融樹脂が含浸した炭素繊維束を引き取りながら冷却し、拡幅してテープ状のプリプレグとすることができる。
また、プリプレグ(G)は、一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂とにより形成されるものであればよく、マトリックス樹脂の形態は、フィルム状、粒子状、繊維状等を問うものではない。
フィルム状のマトリックス樹脂としては、溶融樹脂を離型紙上に塗布して作製したコーティングフィルムのほか、マトリックス樹脂を紡糸して繊維化し、切断して短繊維化した後、該短繊維を液体に分散させて、該分散液から繊維がランダム配向した短繊維ウェブを抄紙したものも使用可能である。
プリプレグ(G)は、一方向に引き揃えた炭素繊維束を、マトリックス樹脂のコーティングフィルムや短繊維ウェブにより両側から挟み込んで加熱することにより製造することができる。
また、粒子状のマトリックス樹脂を含むプリプレグとしては、マトリックス樹脂の粉末を水に懸濁させた樹脂スラリー中に一方向に引き揃えた炭素繊維束を通過させて、炭素繊維束に樹脂スラリーを付加し、炭素繊維束に付着した水を蒸発させた後、粒子状のマトリックス樹脂の融点以上に加熱して炭素繊維中に樹脂を含浸させることができる。
上記の樹脂スラリー浴は、例えば、水溶液中に粒子状の樹脂を4〜30質量%の範囲で含み、粒子状の樹脂と水との混合を促進する界面活性剤を0.05〜0.25質量%含んでいてもよい。
また、繊維状のマトリックス樹脂を含むプリプレグ(G)としては、炭素繊維束とマトリックス樹脂の繊維とを混繊したものが例示される。混繊は、ボビンラック等に装着されたマトリックス樹脂のポリマー繊維を、繊維ガイド等を経てコデットロールに送り、コデットロールを出た後、個々の繊維を更なる繊維ガイドを経て繊維コームを通過させる。他方、炭素繊維束は、繊維ガイド等を経てコデットロールに送られた後、更なる繊維ガイドを経てエア開繊装置で炭素繊維トウの幅を均一化し、繊維コームを通過したポリマー繊維と混合用固定ロッドで混合され、混繊されたプリプレグに寸法安定性と混合状態を維持するために、コームを経てツイストガイドに送られて引き取られる。プリプレグの完全な混繊状態を確保するためには、ポリマー繊維と炭素繊維とを全幅にわたって均一に広げ、かつ両者の広がり幅を実質的に同一にして行うことが好ましい。
本発明のプリプレグ(G)は、所望の金型に一方向に引き揃えた後、加熱型プレス機等により加熱しながらプレス成型されることにより、炭素繊維強化樹脂成形品とすることができる。また、所望の金型に一方向に引き揃えた後、別のプリプレグを繊維軸方向の角度をずらしながら複数枚積層した後、加熱型プレス機等により加熱しながらプレス成型されることにより、炭素繊維強化樹脂成形品とすることもできる。
炭素繊維束は積層体の長さ方向の全長さに亘り、あるいは積層体の幅方向の全幅に亘り、連続している必要はなく、途中で分断されていても良い。炭素繊維束の形態の例としては、多数本のフィラメントからなる炭素繊維束、この炭素繊維束から構成されたクロス、多数本のフィラメントが一方向に配列されたフィラメント束(一方向性繊維束)、この一方向性繊維束から構成された一方向性クロスがある。プリプレグあるいは積層体の生産性の観点から、クロス、一方向性繊維束が好ましい。積層体の炭素繊維束は、同一の形態の複数本の繊維束から構成されていても、あるいは、異なる形態の複数本の繊維束から構成されていても良い。必要の応じ、積層された炭素繊維群の積層間に他の基材が積層されてなるサンドイッチ形態が用いられる。
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物および成形材料を成形してなる炭素繊維強化成形品の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、パネルなどの建材用途、モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係、排気系または吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、CNGタンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュールなどの自動車、二輪車関連部品、部材および外板やランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェアリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、風車の羽根などが挙げられる。特に、航空機部材、風車の羽根、自動車外板および電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどに好ましく用いられる。
次に本発明の好ましい形態である、少なくとも2プライのサイジング剤塗布炭素繊維(a)を含有する炭素繊維層(b)と、前記2プライ間に配置された高分子樹脂の層(c)を含む積層プリプレグであって、
(i)サイジング剤塗布炭素繊維(a)は、上述のサイジング剤塗布炭素繊維であり、
(ii)前記積層プリプレグを固化して得られるインターレイヤー構造を有する複合材料の、積層プリプレグ厚み方向の体積固有抵抗が500Ω・m以上である、
積層プリプレグについて説明する。
以下、更に詳しく、本発明の積層プリプレグ、その製造方法、およびそれを用いた炭素繊維強化複合材料の製造方法を実施するための形態について説明する。
本発明は、少なくとも2プライのサイジング剤塗布炭素繊維(a)を含有する炭素繊維層(b)と、前記2プライ間に配置された高分子樹脂の層(c)を含む積層プリプレグであって、
(i)サイジング剤塗布炭素繊維(a)は、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維に、サイジング剤全量に対して下記(A)〜(C)を合わせて80質量%以上含むサイジング剤が塗布されてなるサイジング剤塗布炭素繊維(a)であって、該サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施したときに、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維(a)100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下となるものであり、
(ii)前記積層プリプレグを固化して得られるインターレイヤー構造を有する炭素繊維強化複合材料の、積層プリプレグ厚み方向の体積固有抵抗が500Ω・m以上である、
ことを特徴とする積層プリプレグが好ましい。
(A)ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1つ。
(B)1分子内に極性基と末端不飽和基を有する化合物。
(C)エポキシ当量が250g/eq以下であって、1分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物。
本発明者らは、炭素繊維強化複合材料の積層方向の絶縁性メカニズムを鋭意検討した結果、特定の表面構造を有する炭素繊維に特定の組成のサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維(a)を含有する炭素繊維層(b)間に高分子樹脂の層(c)を配置した積層プリプレグは、固化して得られる炭素繊維強化複合材料の積層方向の電気絶縁性が高いことを見出し、本発明に至った。
本発明の積層プリプレグにおいて、サイジング剤塗布炭素繊維(a)に用いる炭素繊維として、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維を用い、積層プリプレグの積層構成が2プライの炭素繊維層(b)間に高分子樹脂の層(c)を含む場合においても、サイジング剤塗布炭素繊維(a)をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下にならない場合には、積層プリプレグを固化した炭素繊維強化複合材料の積層方向の電気絶縁性が十分ではないことが確認されている。
また、本発明の積層プリプレグにおいて、サイジング剤塗布炭素繊維(a)をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維(a)100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下であり、積層プリプレグの積層構成が2プライの炭素繊維層(b)間に高分子樹脂の層(c)を含む場合においても、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維を用いない場合には、積層プリプレグを固化した炭素繊維強化複合材料の積層方向の電気絶縁性が十分ではないことが確認されている。
さらに、炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在し、サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下である場合において、積層プリプレグの積層構成が2プライの炭素繊維層(b)間に高分子樹脂の層(c)を含まない場合は、高分子樹脂の層(c)を含む場合に比べて積層方向の電気絶縁性が低くなることが確認されている。
すなわち、本発明の積層プリプレグにおいて、サイジング剤を塗布する前の炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維と、上述の特定の(A)〜(C)の合計がサイジング剤全量に対して80質量%以上であること、サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下になること、積層プリプレグの積層構成が2プライの炭素繊維層(b)間に高分子樹脂の層(c)を含むことをすべて満たすときに、炭素繊維強化複合材料の電気絶縁性がさらに高いということが重要であり、好ましい。
本発明の積層プリプレグに用いられるサイジング剤塗布炭素繊維(a)で使用する炭素繊維は、前述したサイジング剤塗布炭素繊維、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維である。本発明の前述したサイジング剤塗布炭素繊維、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維を用いることで、電気絶縁性の優れた積層プリプレグおよびそれを用いた炭素繊維強化複合材料を得ることができるため好ましい。
次に、本発明の積層プリプレグについて説明する。
図3は代表的な積層プリプレグの断面図の一例である。図3を用いて、さらに具体的に説明する。
本発明の積層プリプレグは少なくとも2プライのサイジング剤塗布炭素繊維(a)を含有する炭素繊維層(b)と、前記2プライ間に配置された高分子樹脂の層(c)を含む。このような構造をとることにより、積層プリプレグを固化した場合に、炭素繊維強化複合材料の内部の層間に絶縁層が周期的に形成され、得られる炭素繊維強化複合材料は高い積層方向の電気絶縁性を示す。
固化とは、炭素繊維層(b)中に含浸されている高分子樹脂や高分子樹脂の層(c)を構成する該高分子樹脂からなるマトリックス樹脂が液体状態から固体状態に変化することを意味し、具体的にはガラス転移温度以上に加熱した熱可塑性樹脂をガラス転移温度以下に冷却して固体化させることや、熱硬化性樹脂を反応硬化や架橋により固体化させることを意味する。積層プリプレグを固化した炭素繊維強化複合材料の炭素繊維層を炭素繊維層(b)’として、高分子樹脂の層を高分子樹脂の層(c)’とする。
積層プリプレグにおいて、炭素繊維層(b)間に高分子樹脂の層(c)を配置することで、固化して得られる炭素繊維強化複合材料はインターレイヤー構造を有するようになるので、2つの炭素繊維層(b)’間をつなぐ炭素繊維の接触を減らし、炭素繊維強化複合材料の積層方向の電気絶縁性を大幅に向上させる。
本発明の積層プリプレグを固化した炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維層(b)’の平均厚さT1と高分子樹脂の層(c)’の平均厚さT2の比T1/T2が9以下であることが好ましく、より好ましくは8未満であり、さらに好ましくは7未満である。T1/T2が9以下であると炭素繊維強化複合材料全体の積層方向の厚みに対して絶縁層である高分子樹脂の層(c)’の厚みの割合が高くなり、炭素繊維強化複合材料の電気絶縁性が増加する。T1/T2の下限は特にないが、5以下で十分である。
炭素繊維層(b)’の平均厚さT1と高分子樹脂の層(c)’の平均厚さT2は、次の手順に従って求められる。積層プリプレグを固化した炭素繊維強化複合材料を積層方向に切断し、断面を得る。この断面に対して、切断方向に配列した2つ炭素繊維層の間は除外して、その他の炭素繊維層(b)’または高分子樹脂の層(c)’の厚みを測定する。
高分子樹脂の層(c)に含まれる熱硬化性樹脂と硬化剤の合計が層内の高分子樹脂100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、より好ましくは70質量部以上である。一般に熱硬化性樹脂は熱可塑性樹脂と比較して、電気抵抗値が高く、固化した高分子樹脂の層(c)’の電気絶縁性が向上するため好ましい。
高分子樹脂の層(c)は、熱可塑性樹脂の粒子、繊維、およびフィルムからなる群から選択されるいずれかの熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
すなわち、高分子樹脂の層(c)が熱可塑性樹脂の粒子、繊維、およびフィルムを含むことにより、積層プリプレグを固化させて炭素繊維強化複合材料とした場合に、炭素繊維層(b)’の界面の炭素繊維が高分子樹脂の層(c)’に拡散しにくくなり、高分子樹脂の層(c)’間をつなぐ炭素繊維が減少し、炭素繊維複合材料の積層方向の電気絶縁性が増加するため好ましい。
高分子樹脂の層(c)に含まれる熱可塑性樹脂の粒子、繊維、およびフィルムは、積層プリプレグに含まれる高分子樹脂の全量に対して5〜30質量%含むことが好ましく、10〜30質量%含むことがより好ましく、10〜20質量%含むことがさらに好ましい。5質量%以上含むことにより、前述のように炭素繊維強化複合材料の高分子樹脂の層(c)’の厚みが保持されるため好ましい。30質量部以下の場合、高分子樹脂の層(c)’の熱可塑性樹脂成分以外の樹脂割合が高くなり、炭素繊維強化複合材料の電気絶縁性が増加するため好ましい。
熱可塑性樹脂の粒子としては、マトリックス樹脂に混合して用い得る熱可塑性樹脂を用いることができる。中でも、ポリアミドは最も好ましく、ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン6/12共重合体やセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)は、特に良好なマトリックス樹脂との接着強度を与える。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい。ポリアミド粒子の市販品としては、SP−500、SP−10、TR−1、TR−2、842P−48、842P−80(以上東レ(株)製)、“トレパール(登録商標)”TN(東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)等を使用することができる。
熱可塑性樹脂の繊維としては、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリベンズイミダゾールが挙げられる。この中でも、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンは良好なマトリックス樹脂との接着強度を与えるため好ましい。ポリアミドは、特に良好なマトリックス樹脂との接着強度を与えるため、より好ましい。
上記の熱可塑性樹脂のフィルムとしては、例えば、主鎖に炭素-炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合、カルボニル結合から選ばれる結合を有する熱可塑性樹脂が代表的である。特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリベンズイミダゾールが挙げられる。この中でも、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンは良好なマトリックス樹脂との接着強度を与えるため好ましい。ポリアミドは、特に良好なマトリックス樹脂との接着強度を与えるため、より好ましい。
本発明の積層プリプレグを固化して得られる炭素繊維強化複合材料の炭素繊維体積分率(Vf)が60〜70%であることが好ましい。Vfが70%以下であると電気絶縁性が高分子樹脂と比較して低い炭素繊維の割合が減少するため、炭素繊維強化複合材料の電気絶縁性が向上するため好ましい。Vfが60%以上であると、炭素繊維強化複合材料の弾性率および強度が良好になるため好ましい。

次に、本発明における積層プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料の製造方法について説明する。
本発明において、プリプレグは、前述したサイジング剤塗布炭素繊維(a)、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維(a)にマトリックス樹脂を含浸させて得られるプリプレグを積層したものである。本発明の積層プリプレグを固化した際に、前述したサイジング剤塗布炭素繊維(a)、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維(a)を用いることで、電気絶縁性の優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができるため好ましい。
本発明において、マトリックス樹脂である炭素繊維層(b)中に含浸されている高分子樹脂や、高分子樹脂の層(c)を構成する高分子樹脂として、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を使用することができるが、熱硬化性樹脂を好ましく用いることができる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂およびビスマレイミド樹脂等の樹脂およびこれらの変性体、これらを2種類以上ブレンドした樹脂が挙げられる。なかでも、機械特性のバランスに優れ、硬化収縮が小さいという利点を有するため、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
エポキシ樹脂に用いるエポキシ化合物としては、特に限定されるものではなく、前述の化合物が用いられる。また、硬化剤としては特に限定はされず前述の化合物を用いることができる。
なかでも多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂と芳香族ジアミン硬化剤を含有したエポキシ樹脂を使用することが好ましい。一般に多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂と芳香族ジアミン硬化剤を含有したマトリックス樹脂は、架橋密度が高く、炭素繊維強化複合材料の耐熱性および圧縮強度を向上させることができる。
多官能のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、芳香族ジアミン硬化剤としては、特に限定されるものではない前述の化合物が単独あるいは併用して用いられる。
上記の芳香族ジアミン硬化剤は、全エポキシ樹脂に対する化学量論量の50〜120質量%含まれていることが好ましく、60〜120質量%がより好ましく、さらに好ましくは70〜90質量%である。芳香族アミン硬化剤が、全エポキシ樹脂に対する化学量論量の50質量%以上で得られる樹脂硬化物の耐熱性が良好になる。また、芳香族アミン硬化剤が120質量%以下の場合は、得られる樹脂硬化物の靱性が向上する。
また、エポキシ樹脂の硬化を促進する目的に硬化促進剤、得られる樹脂硬化物の靭性等の物性を向上させるため、熱可塑性樹脂を配合することができる。
熱可塑性樹脂としては前述の化合物が用いられる。
なお、炭素繊維強化複合材料の電気絶縁性を損なわない範囲で、これらの熱可塑性樹脂を複数種含む積層プリプレグが用いられても良い。
さらに、本発明の積層プリプレグに用いるマトリックス樹脂を改質するために、前述の添加剤を用いることができる。
本発明のプリプレグは、前述の公知の方法で作製することができる。
本発明のインターレイヤー構造を有する炭素繊維強化複合材料は、上述した本発明の積層プリプレグを加圧および、加熱あるいは昇温冷却によってマトリックス樹脂を固化することにより作製することができる。具体的な方法として、プレス成形法、オートクレーブ成形法、シートワインディング成形法、内圧成形法および真空圧成形法等が採用される。このようないずれの成形法においても、本発明の積層プリプレグを固化することにより、積層方向の電気絶縁性が高い炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
(1)炭素繊維断面のエネルギー分散型X線分光法
炭素繊維の表面の酸素濃度が高い領域の厚みは以下の方法で測定した。
炭素繊維を断面方向に収束イオンビーム(FIB)を用いて約100nm厚みの薄片を作製した。また、アモルファスカーボンで炭素繊維表面の保護を行った。任意の3カ所を原子分解能分析電子顕微鏡装置で、0.2nm以下のスポット径で、検出器としてエネルギー分散型X線分光法を用いて測定した。炭素繊維の円周に対して垂直方向に、炭素繊維内部から保護膜に向かって20nm幅で元素濃度の割合を測定した。そのラインプロファイルで酸素濃度が4%以上になる厚みを、炭素繊維の表面の酸素濃度が高い領域の厚みとした。
(2)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)の光電子脱出角度依存性
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1,2 を用い、光電子脱出角度を10°、90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
(α)光電子脱出角度10°のO/Cと(β)光電子脱出角度90°のO/Cの比率(β)/(α)を炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)の光電子脱出角度依存性の指標とした。
(3)サイジング付着量の測定方法
約2gのサイジング付着炭素繊維束を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回行い、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
(4)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤の洗浄
サイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて10分間の超音波処理を行った。続いて、アセトンからサイジング剤塗布炭素繊維をとりだし、別のアセトン50mlに浸漬させて10分間の超音波処理を行った。超音波処理を合計3回実施して、乾燥させた。
(5)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(6)炭素繊維強化複合材料の0°の定義
JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向炭素繊維強化複合材料の繊維方向を軸方向とし、その軸方向を0°軸と定義し軸直交方向を90°と定義した。
(7)炭素繊維強化複合材料の電気絶縁性
一方向プリプレグを、それぞれ[+45°/0°/−45°/90°]3s構成で、擬似等方的に24プライ積層し、オートクレーブにて、180℃の温度で2時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成形して積層体を作製した。これらの各積層体から、縦50mm×横50mmのサンプルを切り出し、両面に導電性ペースト“ドータイト(登録商標)”D−550(藤倉化成(株)製)を塗布したサンプルを作製した。これらのサンプルを、アドバンテスト(株)製R6581デジタルマルチメーターを用いて、四端子法で積層方向の抵抗を測定し、体積固有抵抗を求めた。
測定に用いた炭素繊維強化複合材料の炭素繊維の体積分率が70%の時の体積固有抵抗が5000Ωcm以上をA、1000Ωcm以上5000Ωcm未満をB、600Ωcm以上1000Ωcm未満をC、300Ωcm以上600Ωcm未満をD、300Ωcm未満をEとした。A〜Dが本発明において好ましい範囲である。
(8)炭素繊維強化複合材料の層間厚みの測定
上記(7)で作製した電気絶縁性測定用サンプルを0°方向ならびに90°方向に切断し、2つの断面を得た。この断面に対して、切断方向に配列した2つ炭素繊維層の間は除外して、その他の炭素繊維層(b)’または高分子樹脂の層(c)’の厚みを、それぞれ1つの層間あたり20点測定し、2つ以上の層間の厚みを平均した値を層間厚みとした。(6)炭素繊維複合材料の体積固有抵抗値(電気絶縁性)
幅12.7mm×長さ65mm×厚さ2mm(以下、前記の幅、長さ、厚さを辺A、B、Cとし、それぞれの辺に平行な方向を方向a、b、cとする、又、辺A、Bを有する長方形の面を面ABとし、他の面(BC、CA)も同様に定義する。)の内部寸法を有する成形型に対して、前記成形型のBC面の一方の辺Cに接するように位置するファンゲート(ゲート寸法:方向bは5mm、方向cは2mm)にて射出成形した成形体を試験片とした。次いで、成形した試験片の2つの面ABに導電性ペースト(藤倉化成株式会社製ドータイト)を塗布し、十分に導電性ペーストを乾燥させてから、絶乾状態(水分率0.05%以下)で測定に供した。測定に際しては、2つの面ABを電極に圧着し、電極間の電気抵抗値をデジタルマルチメーター(アドバンテスト社製R6581)にて測定した。前記電気抵抗値から測定機器、治具等の接触抵抗を減じた値に、導電性ペースト塗布面の面積を乗じ、次いで、その値を試験片長さで除したものを固有抵抗値とした(単位はΩ・cm)。なお、本測定では10サンプル測定し、それらの平均値を用いた。
1.0×10Ωcm以上をA、1.0×10Ωcm以上をB、1.0Ωcm以上をC、1.0Ωcm以下をDとした。A、Bが本発明において好ましい範囲である。

各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。
(A)成分:
A−1:ポリアミック酸としてピロメリット酸無水物モノマーと4,4’−オキシジフェニレンの混合物。
(B)成分:
B−1:UA101H(共栄社化学製)
グリセリンジメタクリレートヘキサメチレンジイソシアネート
末端不飽和基数:4個。
(C)成分:
C−1:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/mol、エポキシ基数:4
水酸基数:2
C−2:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:183g/mol、エポキシ基数:3以上。
サイジング剤のその他の成分:
D−1:ジグリセリン−S(阪本薬品工業(株)製)ジグリセリン
D−2:C−2の15質量%水溶液を、加熱攪拌して加水分解することで、エポキシ当量を400g/molにしたもの。
(E)成分:
E−1:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)
エポキシ当量:120g/eq.
E−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/eq.。
(F)成分:
F−1:“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)。
(G)熱可塑性樹脂:
G−1:“スミカエクセル(登録商標)”5003P(ポリエーテルスルホン、住友化学工業(株)製)。
(I)添加物成分:
I−1:ナイロン12粒子SP−10(東レ(株)製)。
(J) マトリックス樹脂:
長繊維ペレットでは以下を用いた。
ポリアリーレンスルフィド(PPS)樹脂ペレット:“トレリナ(登録商標)”A900(東レ(株)製)
短繊維ペレットでは以下を用いた。
ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂ペレット:“トレリナ(登録商標)”M2888(東レ(株)製)。
(H)成分:
H−1:下記参考例1で調製したポリフェニレンスルフィドプレポリマー。
(参考例1)
<ポリフェニレンスルフィドプレポリマーの調製:H−1>
撹拌機付きの1000リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム118kg(1000モル)、96%水酸化ナトリウム42.3kg(1014モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を163kg(1646モル)、酢酸ナトリウム24.6kg(300モル)、およびイオン交換水150kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水211kgおよびNMP4kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン147kg(1004モル)、NMP129kg(1300モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水を18kg(1000モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(J)を得た。このスラリー(J)を376kgのNMPで希釈しスラリー(K)を得た。80℃に加熱したスラリー(K)14.3kgをふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、粗PPS樹脂とスラリー(L)を10kg得た。スラリー(L)をロータリーエバポレーターに仕込み、窒素で置換後、減圧下100〜160℃で1.5時間処理した後、真空乾燥機で160℃、1時間処理した。得られた固形物中のNMP量は3質量%であった。
この固形物にイオン交換水12kg(スラリー(L)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水12kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してポリフェニレンスルフィドオリゴマー100gを得た。ポリフェニレンスルフィドプレポリマーが所定量に達するまで上記操作を繰り返した。
得られたポリフェニレンスルフィドオリゴマーを4g分取してクロロホルム120gで3時間ソックスレー抽出した。得られた抽出液からクロロホルムを留去して得られた固体に再度クロロホルム20gを加え、室温で溶解しスラリー状の混合液を得た。これをメタノール250gに撹拌しながらゆっくりと滴下し、沈殿物を目開き10〜16μmのガラスフィルターで吸引濾過し、得られた白色ケークを70℃で3時間真空乾燥して白色粉末を得た。
この白色粉末の質量平均分子量は900であった。この白色粉末の赤外分光分析における吸収スペクトルより、白色粉末はポリフェニレンスルフィド(PAS)であることが判明した。また、示差走査型熱量計を用いてこの白色粉末の熱的特性を分析した結果(昇温速度40℃/分)、約200〜260℃にブロードな吸熱を示し、ピーク温度は215℃であることがわかった。
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィドおよび繰り返し単位数2〜11の直鎖状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと直鎖状ポリフェニレンスルフィドの質量比は9:1であることがわかった。
(参考例2)
原料となる炭素繊維は以下の通りに製造した。
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維Fを得た。次いでこの炭素繊維を表1に示す電解質、電流密度、温度、電気量で表面処理を行い、表1に示す物性の炭素繊維A,B,D,Eを得た。
(参考例3)
原料となる炭素繊維は以下の通りに製造した。
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、総フィラメント数24,000本、総繊度1000テックスの炭素繊維を得た。次いでこの炭素繊維を表1に示す電解質、電流密度、温度、電気量で表面処理を行い、表1に示す物性の炭素繊維Cを得た。また、ストランド引張強度は2.8GPa、引張弾性率390GPaだった。
Figure 0005967333
(実施例1)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−1)を10質量部、(C)成分として(C−2)を90質量部からなるアセトン溶液を調合した。このサイジング剤を浸漬法により炭素繊維Aに塗布した後、240℃の温度で70秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して1.0質量%となるように調整した。続いて、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。結果を表2にまとめた。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
混練装置で、(E)成分として(E−1)を80質量部と(E−2)を20質量部に、10質量部の“スミカエクセル(登録商標)”5003Pを配合して溶解した後、硬化剤(F)成分として、(F−1)4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを40質量部混練して、炭素繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物を作製した。
得られたエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付27g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えた実施例1のサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、温度100℃、気圧1気圧で加熱加圧しながらエポキシ樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させプリプレグを得た。得られた炭素繊維樹脂複合材料電気絶縁性は高かった。また、炭素繊維樹脂複合材料のVfは70%だった。
(実施例2〜4、6)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
炭素繊維とサイジング剤、熱処理条件を表2に示す通りにした以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性は高かった。結果を表2に示す。
(実施例5)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例3と同様にサイジング剤塗布炭素繊維を得た。ボビンに巻かれたサイジング剤塗布炭素繊維を、炭素繊維を1m/分の速度で走行させて、もう一方のボビンに巻き取りを行った。このときに、ボビンを2分間に1ターン回転させることで、サイジング剤塗布炭素繊維に0.5ターン/mの撚りを与えた。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が実施例3に比べて若干下がっているものの高い値を示した。結果を表2に示す。
Figure 0005967333
(比較例1)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(C)成分として(C−1)を60質量部、その他の成分として(D−1)を40質量部用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表3に示す。
(比較例2)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
その他の成分として(D−1)を100質量部用い、炭素繊維Bを用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表3に示す。
(比較例3)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
その他の成分として(D−1)を100質量部用い、炭素繊維Bを用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表3に示す。
(比較例4)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−1)を10質量部用い、(C)成分として(C−1)を90質量部用いて、炭素繊維Dを用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表3に示す。
(比較例5)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B)成分として(B−1)を10質量部用い、(C)成分として(C−1)を90質量部用いて、炭素繊維Eを用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表3に示す。
(比較例6)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B)成分として(B−1)を10質量部用い、(C)成分として(C−2)を90質量部用いて、炭素繊維Fを用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表3に示す。
(比較例7)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−1)を90質量部用い、(C)成分として(C−1)を10質量部用いて、炭素繊維Aを用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表3に示す。
Figure 0005967333
(実施例7)
本実施例は、次の第I〜IIIの工程からなる。
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−1)を10質量部、(C)成分として(C−2)を90質量部からなるアセトン溶液を調合した。このサイジング剤を浸漬法により炭素繊維Aに塗布した後、240℃の温度で70秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して1.0質量%となるように調整した。続いて、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。結果を表4にまとめた。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
単軸押出機の先端部分に、連続したサイジング剤塗布炭素繊維が通過可能な波状に加工したクロスヘッドダイを装着した。次いで、連続したサイジング剤塗布炭素繊維を5m/分の速度でクロスヘッドダイに通して引きながら、PPS樹脂ペレットを押出機から溶融状態でクロスヘッドダイに供給して、連続したサイジング剤塗布炭素繊維にPPS樹脂を含浸させ、冷却後、引き抜き方向と直角に7mmに切断して、炭素繊維が軸心方向にほぼ平行に配列し、かつ炭素繊維の長さが成形材料の長さと実質的に同じである長繊維ペレットを得た。なお、押出機は、バレル温度320℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。PPS樹脂ペレットの供給は、サイジング剤塗布炭素繊維が20質量部に対して、PPS樹脂80質量部になるように調整した。
・第IIIの工程:射出成形工程
前工程で得られた長繊維ペレットを、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:330℃、金型温度:100℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。得られた成形体の電気絶縁性は高かった。
(実施例8〜10,12)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
炭素繊維とサイジング剤、熱処理条件を表4に示す通りにした以外は、実施例7と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例1と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性は高かった。
(実施例11)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例3と同様に、サイジング剤塗布炭素繊維を得た。ボビンに巻かれたサイジング剤塗布炭素繊維を、炭素繊維を1m/分の速度で走行させて、もう一方のボビンに巻き取りを行った。このときに、ボビンを1分間に1ターン回転させることで、サイジング剤塗布炭素繊維に1.0ターン/mの撚りを与えた。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例7と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。実施例9に比べて若干低下するものの、得られた成形体の電気絶縁性は高かった。
(実施例13)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
炭素繊維とサイジング剤、熱処理条件を表4に示す通りにした以外は、実施例7と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
参考例1で調製した含浸助剤(H−1)を、240℃の溶融バス中で溶融させ、ギアポンプにてキスコーターに供給する。230℃に加熱されたロール上にキスコーターから含浸助剤(H−1)を塗布し、被膜を形成させた。このロール上にサイジング剤塗布炭素繊維を接触させながら通過させて、サイジング剤塗布炭素繊維の単位長さあたりに一定量の含浸助剤(H−1)を付着させた。
含浸助剤(H−1)を付着させたサイジング剤塗布炭素繊維を、350℃に加熱された炉内へ供給し、ベアリングで自由に回転する、一直線上に上下交互に配置された10個のロール(φ50mm)間に通過させ、かつ葛折り状に炉内に設置された10個のロールバー(φ200mm)を通過させて含浸助剤(H−1)をサイジング剤塗布炭素繊維に十分に含浸させながらPASに高重合度体に転化させた。次に、炉内から引き出した炭素繊維ストランドにエアを吹き付けて冷却した後、ドラムワインダーで巻き取った。
続いて、PPS樹脂を360℃で単軸押出機にて溶融させ、押出機の先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に押し出すと同時に、含浸助剤(H−1)を含浸させたサイジング剤塗布炭素繊維も上記クロスヘッドダイ中に連続的に供給(速度:30m/分)することによって、溶融したPPS樹脂を含浸助剤(H−1)を含浸させたサイジング剤塗布炭素繊維に被覆した。次いで、冷却後、引き抜き方向と直角に7mmに切断して、炭素繊維が軸心方向にほぼ平行に配列し、かつ炭素繊維の長さが成形材料の長さと実質的に同じである芯鞘構造の長繊維ペレットを得た。PPS樹脂ペレットの供給は、サイジング剤塗布炭素繊維が全体に対して20質量%になるように調整した。
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例1と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性は高かった。
Figure 0005967333
(比較例8)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(C)成分として(C−1)を60質量部、その他の成分として(D−1)を40質量部用いた以外は、実施例7と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例7と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
(比較例9)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
その他の成分として(D−1)を100質量部用い、炭素繊維Bを用いた以外は、実施例7と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例7と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
(比較例10)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
その他の成分として(D−1)を100質量部用い、炭素繊維Bを用いた以外は、実施例7と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例7と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
(比較例11)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−1)を10質量部用い、(C)成分として(C−1)を90質量部用いて、炭素繊維Dを用いた以外は、実施例7と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例1と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
(比較例12)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B)成分として(B−1)を10質量部用い、(C)成分として(C−1)を90質量部用いて、炭素繊維Eを用いた以外は、実施例7と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例1と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
(比較例13)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B)成分として(B−1)を10質量部用い、(C)成分として(C−2)を90質量部用いて、炭素繊維Fを用いた以外は、実施例7と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例1と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
(比較例14)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−1)を90質量部用い、(C)成分として(C−1)を10質量部用いて、炭素繊維Aを用いた以外は、実施例7と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例7と同様に長繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
Figure 0005967333
(実施例14)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
第Iの工程で得られたサイジング剤が塗布された炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IIIの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PPS樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤が塗布された炭素繊維を供給し、バレル温度320℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPPS樹脂ペレット80質量部に対して、サイジング剤が塗布された炭素繊維が20質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第IVの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:330℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。得られた成形体の電気絶縁性は高かった。
(比較例15)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例8と同様にサイジング剤塗布炭素繊維を得た。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例14と同様に短繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
(比較例16)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例9と同様にサイジング剤塗布炭素繊維を得た。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例14と同様に短繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
(比較例17)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例10と同様にサイジング剤塗布炭素繊維を得た。
・第IIの工程:長繊維ペレットを製造する工程
・第IIIの工程:射出成形工程
実施例14と同様に短繊維ペレットを作製、成形、評価を実施した。得られた成形体の電気絶縁性が十分ではなかった。
Figure 0005967333
(参考例4)
原料となる1次樹脂を以下の通りに製造した。
混練装置に(E−1)を80質量部、(E−2)を20質量部、(G−1)を10質量部配合して、加熱しつつ混練して、透明な粘調液を得た。この粘調液を100℃以下まで降温し、硬化剤である(F−1)を40質量部混練して、炭素繊維強化複合材料用の熱硬化性樹脂Aを作製した。
(参考例5)
原料となる2次樹脂を以下の通りに製造した。
混練装置に(E−1)を80質量部、(E−2)を20質量部、(G−3)を10質量部配合して、加熱しつつ混練して、透明な粘調液を得た。この粘調液を100℃以下まで降温し、熱可塑性樹脂の粒子(I−1)を表2に示す所定量加えた。その後に硬化剤である(F−1)を40質量部混練して、炭素繊維強化複合材料用の熱硬化性樹脂Bを作製した。
Figure 0005967333
(実施例15)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−1)を10質量部、(C)成分として(C−2)を90質量部からなるアセトン溶液を調合した。このサイジング剤を浸漬法により炭素繊維Aに塗布した後、245℃の温度で70秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維(a)を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維(a)に対して1.0質量%となるように調整した。続いて、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。結果を表8にまとめた。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
熱硬化性樹脂Aを、ナイフコーターを用いて樹脂目付30g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えた第Iの工程のサイジング剤塗布炭素繊維(a)(目付190g/m)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながら熱硬化性樹脂をサイジング剤塗布炭素繊維(a)に含浸させ1次プリプレグを得た。次に熱硬化性樹脂Bを樹脂目付20g/mで離型紙上にコーティングし、2次樹脂フィルムを2枚作製した。この2次樹脂フィルムを向かい合わせにした間に1次プリプレグを通し、で加熱加圧しながら2次プリプレグを得た。
得られた2次プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の体積固有抵抗は高かった。また、炭素繊維樹脂複合材料のVfは66%であった。結果を表3にまとめた。
(実施例16)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例15と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
次に熱硬化性樹脂Bを樹脂目付10g/mで離型紙上にコーティングした以外は、実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた2次プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の体積固有抵抗は高かった。また、炭素繊維樹脂複合材料のVfは69%であった。結果を表8にまとめた。
(実施例17)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例15と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
次に熱硬化性樹脂Bを樹脂目付30g/mで離型紙上にコーティングした以外は、実施例15と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた2次プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の体積固有抵抗は高かった。また、炭素繊維樹脂複合材料のVfは63%であった。結果を表8にまとめた。
(実施例18〜21)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
炭素繊維とサイジング剤、熱処理条件を表8に示す通りにした以外は、実施例15と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性は高かった。結果を表8にまとめた。
Figure 0005967333
(実施例22)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例15と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
熱硬化性樹脂Aを、ナイフコーターを用いて樹脂目付30g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えた第Iの工程のサイジング剤塗布炭素繊維(a)(目付190g/m)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながら熱硬化性樹脂をサイジング剤塗布炭素繊維(a)に含浸させ1次プリプレグを得た。次に樹脂目付20g/mの熱硬化性樹脂Aの樹脂フィルムを向かい合わせにした間に1次プリプレグを通し、加熱加圧しながら2次プリプレグを得た。得られた2次プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の体積固有抵抗は問題なかった。また、炭素繊維樹脂複合材料のVfは66%であった。結果を表9にまとめた。
(実施例23)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
次に熱硬化性樹脂Bを樹脂目付5g/mで離型紙上にコーティングした以外は、実施例15と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた2次プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の体積固有抵抗は問題なかった。また、炭素繊維樹脂複合材料のVfは72%であった。結果を表9にまとめた。
(比較例18)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(C)成分として(C−1)を60質量部、その他の成分として(D−1)を40質量部用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例15と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表9にまとめた。
(比較例19)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
その他の成分として(D−1)を100質量部用い、炭素繊維Bを用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例15と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表9にまとめた。
(比較例20)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
その他の成分として(D−2)を100質量部用い、炭素繊維Bを用いた以外は、実施例15と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表9にまとめた。
(比較例21)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−1)を10質量部用い、(C)成分として(C−1)を90質量部用いて、炭素繊維Dを用いた以外は、実施例15と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例15と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表9にまとめた。
(比較例22)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B)成分として(B−1)を10質量部用い、(C)成分として(C−1)を90質量部用いて、炭素繊維Eを用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例15と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表9にまとめた。
(比較例23)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B)成分として(B−1)を10質量部用い、(C)成分として(C−2)を90質量部用いて、炭素繊維Fを用いた以外は、実施例15と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例15と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表9にまとめた。
(比較例24)
・第Iの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤を浸漬法により炭素繊維Aに塗布した後、180℃の温度で40秒間熱処理をした以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維(a)を得て、アセトン溶出後の残存サイジング剤を測定した。
・第IIの工程:プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。得られた炭素繊維樹脂複合材料の電気絶縁性が低かった。結果を表9にまとめた。
Figure 0005967333
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維およびサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法は、優れた電気絶縁性を有することから、織物やプリプレグへの加工に適する。また、本発明のプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料は、軽量でありながら電気絶縁性に優れることから、電気・電子部品をはじめとして、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等の多くの分野に好適に用いることができる。
1:成形材料
1A:成形材料
2:炭素繊維
3:マトリックス樹脂
4:含浸助剤

Claims (26)

  1. 炭素繊維断面をエネルギー分散型X線分光法で検出した際に全元素に対する酸素の組成比が4%以上の層が炭素繊維表面に10nm以上の厚みで存在する炭素繊維に、(A)〜(C)を合わせてサイジング剤全量に対して80質量%以上含むサイジング剤が塗布されてなるサイジング剤塗布炭素繊維であって、サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で10分間の超音波処理を3回実施した場合、溶出されずに炭素繊維上に残存したサイジング剤がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対し0.1質量部以上、0.25質量部以下であるサイジング剤塗布炭素繊維。
    (A)ポリイミド、ポリエーテルイミド、およびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1つ
    (B)1分子内に末端不飽和基と極性基を有する化合物
    (C)エポキシ当量が250g/eq以下であって、1分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物
  2. ポリエーテル型脂肪族エポキシ化合物および/またはポリオール型脂肪族エポキシ化合物が、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールからなる群から選ばれる少なくとも1種とエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である請求項1に記載のサイジング剤塗布炭素繊維。
  3. AlKα1,2を用いたX線光電子分光法によって求まる以下の(α)と(β)との比率(β)/(α)が0.8以上である請求項1または2に記載のサイジング剤塗布炭素繊維。
    (α)光電子脱出角度10°で測定される炭素繊維の繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)
    (β)光電子脱出角度90°で測定される炭素繊維の繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)
  4. サイジング剤塗布炭素繊維の単糸の繊度が0.5dtex以下である請求項1から3のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維。
  5. サイジング剤塗布炭素繊維の撚り数が1mにつき1ターン以下である請求項1から4のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維を製造する方法であって、炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、240℃以上で60〜3000秒熱処理することを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法。
  7. 炭素繊維を5A/m以下の電流密度で液相電解酸化する請求項6に記載のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法。
  8. 40℃以上で液相電解酸化する請求項7に記載のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法。
  9. 請求項1から5のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてなるプリプレグ。
  10. 請求項9に記載のプリプレグを硬化してなる炭素繊維強化複合材料。
  11. 請求項1から5のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維、および、熱可塑性樹脂またはラジカル重合性樹脂からなるマトリックス樹脂を含む炭素繊維強化樹脂組成物。
  12. マトリックス樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂から選ばれる1種以上である請求項11に記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
  13. 請求項6から8のいずれかに記載の方法によりサイジング剤塗布炭素繊維を製造する工程と、サイジング剤塗布炭素繊維をマトリックス樹脂に配合する工程と、を有する炭素繊維強化樹脂組成物の製造方法。
  14. 請求項11または12に記載の炭素繊維強化樹脂組成物であって、下記(D)、(E)、(F)、(G)のいずれかの形態の成形材料である炭素繊維強化樹脂組成物。
    成形材料(D):柱状をなし、炭素繊維が軸心方向と成形材料の長軸の軸線同士の角度のずれが20゜以下に配列し、かつ成形材料の長さの50%以下の長さの炭素繊維の含有量が30質量%以下で、成形材料を構成する炭素繊維単繊維と最も近接する他の炭素繊維単繊維とで形成される二次元配向角の平均値が10〜80°である成形材料
    成形材料(E):炭素繊維は単繊維状で、実質的に2次元配向している成形材料
    成形材料(F):炭素繊維は束状で、実質的に2次元配向している成形材料
    成形材料(G):プリプレグ
  15. 請求項14に記載の炭素繊維強化樹脂組成物を成形してなる炭素繊維強化樹脂成形品。
  16. 少なくとも2プライのサイジング剤塗布炭素繊維(a)を含有する炭素繊維層(b)と、前記2プライ間に配置された高分子樹脂の層(c)を含む積層プリプレグであって、
    (i)サイジング剤塗布炭素繊維(a)は、請求項1から5のいずれかに記載のサイジング剤塗布炭素繊維であり、
    (ii)前記積層プリプレグを固化して得られるインターレイヤー構造を有する複合材料の、積層プリプレグ厚み方向の体積固有抵抗が500Ω・m以上である積層プリプレグ。
  17. 前記複合材料における炭素繊維層(b)の平均厚さT1と高分子樹脂の層(c)の平均厚さT2の比T1/T2が9以下である、請求項16に記載の積層プリプレグ。
  18. 高分子樹脂の層(c)に含まれる熱硬化性樹脂と硬化剤の合計が層内の高分子樹脂100質量部に対して、50質量部以上である請求項16または17に記載の積層プリプレグ。
  19. 高分子樹脂の層(c)に少なくとも熱可塑性樹脂の粒子、繊維、およびフィルムからなる群から選択されるいずれかの熱可塑性樹脂を含む請求項16から18のいずれかに記載の積層プリプレグ。
  20. 前記熱可塑性樹脂が、積層プリプレグに含まれる高分子樹脂の全量に対して5〜30質量%以上含む請求項19に記載の積層プリプレグ。
  21. 前記複合材料における炭素繊維体積分率が60〜70%である請求項16から20のいずれかに記載の積層プリプレグ。
  22. 請求項16から21のいずれかに記載の積層プリプレグを製造する方法であって、サイジング剤塗布炭素繊維(a)が、炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、240℃以上で60〜3000秒熱処理する工程を経て得られる積層プリプレグの製造方法。
  23. 請求項16から21のいずれかに記載の積層プリプレグを製造する方法であって、サイジング剤塗布炭素繊維(a)が、5A/m以下の電流密度で液相電解酸化した炭素繊維にサイジング剤を塗布する工程を経て得られる積層プリプレグの製造方法。
  24. 請求項16から21のいずれかに記載の積層プリプレグを製造する方法であって、サイジング剤塗布炭素繊維(a)が、40℃以上で液相電解酸化した炭素繊維にサイジング剤を塗布する工程を経て得られる積層プリプレグの製造方法。
  25. 請求項16から21のいずれかに記載の積層プリプレグを固化する工程を有するインターレイヤー構造を有する複合材料の製造方法。
  26. 請求項22から24のいずれかに記載の方法により積層プリプレグを得た後に、該積層プリプレグを固化する工程を有する、インターレイヤー構造を有する複合材料の製造方法。
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