JP5454668B1 - 炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物および成形品 - Google Patents
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Abstract
【課題】炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性に優れ、力学特性に優れた炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、サイジング剤が塗布された炭素繊維および熱可塑性樹脂を含んでなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物において、前記サイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むものであり、かつ、前記サイジング剤が塗布された炭素繊維は、該サイジング剤表面をX線源としてAlKα1,2を用い、光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90であることを特徴とする。
【選択図】なし
【解決手段】本発明は、サイジング剤が塗布された炭素繊維および熱可塑性樹脂を含んでなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物において、前記サイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むものであり、かつ、前記サイジング剤が塗布された炭素繊維は、該サイジング剤表面をX線源としてAlKα1,2を用い、光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90であることを特徴とする。
【選択図】なし
Description
本発明は、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材および船舶部材などに好適に用いられる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物、およびそれを成形してなる成形品に関するものである。
炭素繊維は、軽量でありながら、強度および弾性率に優れるため、種々のマトリックス樹脂と組み合わせた複合材料は、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等の多くの分野に用いられている。炭素繊維を用いた複合材料において、炭素繊維の優れた特性を活かすには、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着性が優れることが重要である。
炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着性を向上させるため、通常、炭素繊維に気相酸化や液相酸化等の酸化処理を施し、炭素繊維表面に酸素含有官能基を導入する方法が行われている。例えば、炭素繊維に電解処理を施すことにより、界面接着性の指標である層間剪断強度を向上させる方法が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、近年、複合材料への要求特性のレベルが向上するにしたがって、このような酸化処理のみで達成できる界面接着性では不十分になりつつある。
一方、炭素繊維は脆く、集束性および耐摩擦性に乏しいため、高次加工工程において毛羽や糸切れが発生しやすい。このため、炭素繊維にサイジング剤を塗布する方法が提案されている(特許文献2および3参照)。
例えば、サイジング剤として、脂肪族タイプの複数のエポキシ基を有する化合物が提案されている(特許文献4、5、6参照)。また、サイジング剤としてポリアルキレングリコールのエポキシ付加物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献7、8および9参照)。
また、芳香族系のサイジング剤としてビスフェノールAのジグリシジルエーテルを炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献2および3参照)。また、サイジング剤としてビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物を炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献10および11参照)。また、サイジング剤としてビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物にエポキシ基を付加させたものを炭素繊維に塗布する方法が提案されている(特許文献12および13参照)。
上記したサイジング剤により、炭素繊維に接着性や集束性を付与することができるものの、1種類のエポキシ化合物からなるサイジング剤では十分とは言えず、求める機能により2種類以上のエポキシ化合物を併用する手法が近年提案されている。
例えば、表面エネルギーを規定した2種以上のエポキシ化合物を組み合わせたサイジング剤が提案されている(特許文献14〜17参照)。特許文献14では、脂肪族エポキシ化合物と芳香族エポキシ化合物の組み合わせが開示されている。特許文献14では、外層に多くあるサイジング剤が、内層に多くあるサイジング剤成分に対し、大気との遮断効果をもたらし、エポキシ基が大気中の水分により開環するのを抑止するとされている。また、特許文献14では、サイジング剤の好ましい範囲について、脂肪族エポキシ化合物と芳香族エポキシ化合物との比率は10/90〜40/60と規定され、芳香族エポキシ化合物の量が多いほうが好適とされている。
また、特許文献16および17では、表面エネルギーの異なる2種以上のエポキシ化合物を使用したサイジング剤が開示されている。特許文献16および17は、マトリックス樹脂との接着性の向上を目的としているため、2種以上のエポキシ化合物の組み合わせとして芳香族エポキシ化合物と脂肪族エポキシ化合物の併用は限定されてなく、接着性の観点から選択される脂肪族エポキシ化合物の一般的例示がないものである。
さらに、ビスフェノールA型エポキシ化合物と脂肪族ポリエポキシ樹脂を質量比50/50〜90/10で配合するサイジング剤が開示されている(特許文献18参照)。しかしながら、この特許文献18も、芳香族エポキシ化合物であるビスフェノールA型エポキシ化合物の配合量が多いものである。
また、芳香族エポキシ化合物および脂肪族エポキシ化合物の組み合わせを規定したサイジング剤として、炭素繊維束の表面に多官能の脂肪族化合物、上面にエポキシ樹脂、アルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合物、フェノール類のアルキレンオキシド付加物を組み合わせたものが開示されている(特許文献19参照)。
さらに、2種以上のエポキシ化合物の組み合わせとして、脂肪族エポキシ化合物と芳香族エポキシ化合物であるビスフェノールA型エポキシ化合物の組み合わせが開示されている。脂肪族エポキシ化合物は環状脂肪族エポキシ化合物および/または長鎖脂肪族エポキシ化合物である(特許文献20参照)。
また、性状の異なるエポキシ化合物の組み合わせが開示されている。25℃で液体と固体の2種のエポキシ化合物の組み合わせが開示されている(特許文献21参照)。さらに、分子量の異なるエポキシ樹脂の組み合わせ、単官能脂肪族エポキシ化合物とエポキシ樹脂の組み合わせが提案されている(特許文献22および23参照)。
しかしながら、炭素繊維強化熱可塑性樹脂の物性向上には、前述の2種類以上を混合したサイジング剤(例えば、特許文献20〜23など)においても十分とは言えないのが実情であった。炭素繊維と熱可塑性樹脂との高い接着性を満たすには、以下の2つの要件を満たすことが必要と考えられるが、従来の任意のエポキシ樹脂の組み合わせではそれらの要件を満たしていなかったからであるといえる。2つの要件の一つ目は、サイジング層内側(炭素繊維側)に接着性の高いエポキシ成分が存在し、炭素繊維とサイジング中のエポキシ化合物が強固に相互作用を行うこと、二つ目が、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)には、内層にある炭素繊維との接着性の高いエポキシ化合物と熱可塑性樹脂との相互作用と強い相互作用が可能な化学組成が必要であることである。
例えば、特許文献14には、炭素繊維とサイジング剤との接着性を高めるため、サイジング剤に傾斜構造を持たせることは開示されているが、特許文献14およびその他いずれの文献(特許文献15〜18など)においても、炭素繊維強化熱可塑性樹脂において、サイジング層内層に接着性の高い成分を配置し、サイジング層表層に熱可塑性樹脂との相互作用が高い成分を配置することで炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面接着性を実現する思想は皆無と言える。
また、特許文献19には、サイジング剤内層に多官能脂肪族化合物が存在し、外層に反応性の低い芳香族エポキシ樹脂および芳香族系反応物が存在するものが開示されている。しかし、脂肪族化合物と芳香族化合物が分離しているため高い接着性を実現することは困難であるといえる。
以上のように、従来の技術では、特に熱可塑性樹脂を用いた場合、炭素繊維との界面接着性は乏しく、さらなる界面接着性向上技術が必要となっている。
そこで本発明の目的は、上記の従来技術における問題点に鑑み、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性に優れ、湿潤下での力学特性に優れる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物、およびそれを成形してなる成形品を提供することにある。
本発明者らは、複数の特定の化合物を組み合わせたサイジング剤を使用し、サイジング剤表面が特定の化学組成にある炭素繊維と熱可塑性樹脂からなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物において、上述した目的を達成することができることを見出した。すなわち、本発明において、個々のサイジング剤自体は、既知のサイジング剤を用いることができるが、特定の化合物の組み合わせにおいて、サイジング剤表面を特定の化学組成にすることがサイジング手法として重要なものであって、かつ新規なものであるといえるものである。
本発明者らは、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)を特定の割合で含むサイジング剤を炭素繊維に塗布する工程、サイジング剤を塗布した炭素繊維を熱可塑性樹脂と配合する工程をとることで、炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面接着性が高く、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の湿潤下の物性も良好であることを見出し、本発明に想到した。
本発明は、前記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明はサイジング剤が塗布された炭素繊維および熱可塑性樹脂を含んでなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物において、前記サイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むものであり、かつ、前記サイジング剤が塗布された炭素繊維は、該サイジング剤表面をX線源としてAlKα1,2を用い、光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90であることを特徴とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、サイジング剤が塗布された炭素繊維の水分率が0.010〜0.030質量%であることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、サイジング剤中の脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)の質量比が52/48〜80/20であることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)が分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物であることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物であることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)がビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、前記サイジング剤塗布炭素繊維を、400eVのX線を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度55°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)より求められる(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことを特徴とする。
(I)超音波処理前の前記サイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(II)前記サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で超音波処理することで、サイジング剤付着量を0.09〜0.20質量%まで洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(III)0.50≦(I)≦0.90かつ0.6<(II)/(I)<1.0。
(I)超音波処理前の前記サイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(II)前記サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で超音波処理することで、サイジング剤付着量を0.09〜0.20質量%まで洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(III)0.50≦(I)≦0.90かつ0.6<(II)/(I)<1.0。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量が0.2〜2.0質量%であることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、炭素繊維の化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度COOH/Cが0.003〜0.015、COH/Cが0.001〜0.050であることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、熱可塑性樹脂がポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂およびポリオレフィン系樹脂から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、上記発明において、熱可塑性樹脂がポリアミドであることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記サイジング剤が、炭素繊維100質量部に対して0.1〜10.0質量部付着されてなるサイジング剤塗布炭素繊維1〜80質量%、および熱可塑性樹脂20〜99質量%からなること、または、炭素繊維100質量部に対して、前記サイジング剤を0.1〜10.0質量部付着して得られたサイジング剤塗布炭素繊維1〜80質量%と、熱可塑性樹脂20〜99質量%を溶融混練して得られることを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法の好ましい態様によれば、上記発明において、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、脂肪族エポキシ化合物(A)35〜65質量%と芳香族化合物(B)35〜60質量%を少なくとも含むサイジング剤を炭素繊維に塗布する工程、および、サイジング剤が塗布された炭素繊維を熱可塑性樹脂に配合する工程を有することを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法の好ましい態様によれば、上記発明において、サイジング剤が塗布された炭素繊維と熱可塑性樹脂の配合を溶融混練により行うことを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品の好ましい態様によれば、上記炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物、または、上記方法で製造された炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。
本発明によれば、サイジング剤表面が特定の化学組成にあり、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むサイジング剤を塗布された炭素繊維と熱可塑性樹脂を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物によって、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性が優れ、湿潤下においても高い力学特性が維持できる。
また、本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品は、軽量でありながら強度、弾性率が優れるため、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材およびスポーツ用品等の多くの分野に好適に用いることができる。
以下、更に詳しく、本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を実施するための形態について説明をする。
本発明はサイジング剤が塗布された炭素繊維および熱可塑性樹脂を含んでなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物において、前記サイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むものであり、かつ、前記サイジング剤が塗布された炭素繊維は、該サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90であることを特徴とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物である。
本発明者らの知見によれば、かかる範囲のものは、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性が高く、優れた力学特性を有するとともに、吸湿性が高い樹脂においても湿潤下での物性低下が抑制された炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物になる。
エポキシ化合物として脂肪族エポキシ化合物(A)のみからなるサイジング剤を塗布した炭素繊維は炭素繊維とサイジング剤の相互作用が強く接着性が良好であることから、それを用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の物性が良好になることが確認されている。そのメカニズムは確かではないが、脂肪族エポキシ化合物(A)は柔軟な骨格および自由度が高い構造に由来して、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基との官能基と脂肪族エポキシ化合物が強い相互作用を形成することが可能であると考えられる。しかしながら、脂肪族エポキシ化合物(A)は、炭素繊維表面との相互作用により高い接着性を発現する一方、その構造に由来して水との相互作用が強いことから、脂肪族エポキシ化合物(A)のみからなるサイジング剤を塗布した炭素繊維は水分率が高く、特に吸湿性の高い樹脂を用いた場合には、これを含む強化熱可塑性樹脂組成物は湿潤下での物性が若干低下する課題があることが確認されている。
エポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物(B1)のみからなり、脂肪族エポキシ化合物(A)を含まないサイジング剤を塗布した炭素繊維を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、剛直な界面層を形成することができるという利点もある。また、サイジング剤の疎水性が高く炭素繊維表面の水分率を低くすることができるという利点がある。しかしながら、芳香族エポキシ化合物(B1)はその化合物の剛直さに由来して、脂肪族エポキシ化合物(A)と比較して、炭素繊維とサイジング剤の相互作用が若干劣るため、それを用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の力学特性が若干劣ることが確認されている
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)を混合した場合、より極性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い芳香族化合物(B)が偏在しやすいという現象が見られることが重要である。このサイジング層の傾斜構造の結果として、脂肪族エポキシ化合物(A)は炭素繊維近傍で炭素繊維と強い相互作用し、極性の低い芳香族化合物(B)は熱可塑性樹脂と強い相互作用を行う。その結果、炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面接着性を高めることができ、得られる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の物性を高くすることができる。また、外層に多く存在する芳香族化合物(B)は、熱可塑性樹脂組成物中で炭素繊維近傍の水分率を低下させる役割を果たす。このことにより、吸湿性の高い樹脂を用いた場合にも、湿潤下において炭素繊維近傍の水分率が低くなるため物性の低下が抑制される。そこで、X線光電子分光法によって測定されるサイジング剤表層の脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)の存在比率が重要である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)を混合した場合、より極性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い芳香族化合物(B)が偏在しやすいという現象が見られることが重要である。このサイジング層の傾斜構造の結果として、脂肪族エポキシ化合物(A)は炭素繊維近傍で炭素繊維と強い相互作用し、極性の低い芳香族化合物(B)は熱可塑性樹脂と強い相互作用を行う。その結果、炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面接着性を高めることができ、得られる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の物性を高くすることができる。また、外層に多く存在する芳香族化合物(B)は、熱可塑性樹脂組成物中で炭素繊維近傍の水分率を低下させる役割を果たす。このことにより、吸湿性の高い樹脂を用いた場合にも、湿潤下において炭素繊維近傍の水分率が低くなるため物性の低下が抑制される。そこで、X線光電子分光法によって測定されるサイジング剤表層の脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)の存在比率が重要である。
本発明において、サイジング剤は脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)を少なくとも含む。脂肪族エポキシ化合物(A)は溶媒を除いたサイジング剤全量に対して35〜65質量%含まれることが好ましい。35質量%以上塗布されていることで、熱可塑性樹脂との界面接着性が向上し、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の物性が向上する。また、65質量%以下であることで、サイジング剤として脂肪族エポキシ化合物(A)以外の成分を用いることができ、サイジング剤と熱可塑性樹脂の相互作用が高くなるため物性が良好になるため好ましい。38質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、60質量%以下がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましい。
芳香族化合物(B)は溶媒を除いたサイジング剤全量に対して35〜60質量%含まれることが好ましい。芳香族化合物(B)を35質量%以上含むことで、サイジング剤外層中の芳香族化合物の組成を高く維持することができるため、熱可塑性樹脂との相互作用が強くなること、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物中の炭素繊維近傍の水分率を低くできることから好ましい。60質量%以下であることで、上述したサイジング剤中の傾斜構造を発現することができ、接着性を維持することができることから好ましい。37質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。また、55質量%以下がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましい。
本発明におけるサイジング剤中のエポキシ成分として、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)が含まれる。脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)の質量比(A)/(B1)は52/48〜80/20であることが好ましい。(A)/(B1)が52/48以上で、炭素繊維表面に存在する脂肪族エポキシ化合物(A)の比率が大きくなり、炭素繊維との界面接着性が向上する。その結果、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の引張強度などのコンポジット物性が高くなるため好ましい。また、80/20以下において、水分率の高い脂肪族エポキシ化合物が炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の炭素繊維表面に存在する量が少なくなること、熱可塑性樹脂と相互作用できる芳香族化合物が増えることから好ましい。(A)/(B1)の質量比は55/45以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましい。また、75/35以下がより好ましく、73/37以下がさらに好ましい。
また、本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)の125℃における表面張力は35〜45mJ/m2であることが好ましい。表面張力が近似する脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)を組み合わせることで、2種の化合物の混合性が良好となるとともに、サイジング剤が塗布された炭素繊維の保管時に、サイジング剤成分のブリードアウト等の発生を抑制することができる。
ここで、本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)の125℃における表面張力の値は、次の手法にて白金プレートを用いたウィルヘルミ法により得ることができるものである。
各成分のみからなる125℃に温度調節したサイジング液中に白金プレートを接触させると、サイジング液が白金プレートに対してぬれ上がり、このときにプレートの周囲に沿って表面張力が働き、プレートをサイジング液中に引き込もうとする。この力を読み取り算出される。例えば、協和界面科学社製の表面張力計DY−500を用いて、静的な表面張力として測定することができる。
本発明において使用する脂肪族エポキシ化合物(A)は、芳香環を含まないエポキシ化合物である。自由度の高い柔軟な骨格を有していることから、炭素繊維と強い相互作用を有することが可能である。その結果、サイジング剤を塗布した炭素繊維との界面接着性が向上することから好ましい。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は分子内に1個以上のエポキシ基を有する。そのことにより、炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合を形成することができる。分子内のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りのエポキシ基が外層の芳香族エポキシ化合物(B1)あるいは熱可塑性樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上するため好ましい。エポキシ基の数の上限は特にないが、界面接着性が飽和する場合があるため10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基が芳香族エポキシ化合物(B1)あるいは熱可塑性樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量は、360g/eq未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq未満であり、さらに好ましくは180g/eq未満である。エポキシ当量が360g/eq未満であると、高密度で炭素繊維との相互作用が形成され、炭素繊維との界面接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、界面接着性が飽和する場合があるため90g/eq以上であれば十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。また、このグリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
本発明に使用する脂肪族エポキシ化合物(A)として、これらのエポキシ化合物以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が使用可能である。
本発明において脂肪族エポキシ化合物(A)は1個以上のエポキシ基と、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を有することが好ましい。脂肪族エポキシ化合物の具体例として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えて水酸基を有する化合物としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的にはデナコール(登録商標)EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する化合物としては、例えば、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する化合物としては、例えば、ウレタン変性エポキシ化合物が挙げられ、具体的にはアデカレジン(登録商標)EPU−78−13S、EPU−6、EPU−11、EPU−15、EPU−16A、EPU−16N、EPU−17T−6、EPU−1348およびEPU−1395(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する化合物としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物(A)は、上述した中でも高い接着性の観点からエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましい。
上記の中でも本発明における脂肪族エポキシ化合物(A)は、高い接着性の観点から、分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物が好ましい。
また、脂肪族エポキシ化合物(A)がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物であることがより好ましい。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
本発明において、芳香族化合物(B)は、分子内に芳香環を1個以上有する。芳香環とは、炭素のみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。サイジング剤が塗布された炭素繊維と熱可塑性樹脂とからなる炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維近傍のいわゆる界面層は、炭素繊維あるいはサイジング剤の影響を受け、熱可塑性樹脂とは異なる特性を有する場合がある。芳香族化合物(B)が芳香環を1個以上有すると、剛直な界面層が形成され、炭素繊維と熱可塑性樹脂との間の応力伝達能力が向上し、繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性が向上する。特に、熱可塑性樹脂として芳香環あるいは炭化水素系を多く含む疎水性の高い樹脂を用いた場合には、サイジング剤に含まれる芳香族化合物(B)との相互作用が高く接着性が向上するため好ましい。また、芳香環を有するエポキシ化合物は耐熱性が高いため、ポリアリーレンスルフィド樹脂に代表されるような成形温度が高い熱可塑性樹脂の場合でも熱分解により消失することなく、本来の炭素繊維表面の酸素含有官能基との反応および熱可塑性樹脂との相互作用の機能を保つことが可能である。また、芳香環により疎水性が向上することにより、炭素繊維近傍の水分率を低下させることができるため、吸湿性の高い熱可塑性樹脂を用いた場合にも湿潤下での炭素繊維複合材料の物性低下が抑制されるため好ましい。芳香環を2個以上有することで、芳香環による上述の効果が高まるため好ましい。芳香環の数の上限は特にないが、10個あれば力学特性が飽和することがあるため十分である。
本発明において、芳香族化合物(B)は分子内に1種以上の官能基を有することができる。また、芳香族化合物(B)は、1種類であっても良いし、複数の化合物を組み合わせて用いても良い。芳香族化合物(B)の中の少なくとも1種が分子内に1個以上のエポキシ基と1個以上の芳香環を有する芳香族エポキシ化合物(B1)である。エポキシ基以外の官能基は水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基またはスルホ基から選択されるものが好ましく、1分子内に2種以上含んでいても良い。エポキシ基あるいはエポキシ基以外の官能基を用いることで、熱可塑性樹脂と相互作用をもつことができて好ましい。芳香族化合物(B)芳香族エポキシ化合物(B1)以外には、化合物の安定性、高次加工性を良好にすることから、芳香族エステル化合物、芳香族ウレタン化合物が好ましく用いられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。また、10個以下で十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基が熱可塑性樹脂と共有結合、水素結合などの相互作用を形成することができ、熱可塑性樹脂との界面接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、界面接着性が飽和する点から10個で十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ当量は、360g/eq未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq未満であり、さらに好ましくは180g/eq未満である。エポキシ当量が360g/eq未満であると、高密度で共有結合が形成され、炭素繊維、脂肪族エポキシ化合物(A)あるいは熱可塑性樹脂との界面接着性がさらに向上するため好ましい。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq以上であれば界面接着性が飽和する観点から十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンが挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンが挙げられる。
さらに、例えば、グリシジルアミン型エポキシ化合物として、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
本発明に使用する芳香族エポキシ化合物(B1)として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、1個以上のエポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を好ましく用いられる。例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシ化合物は芳香環を含有するジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてイミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的にはデナコール(登録商標)EX−731(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の芳香環を含有する多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシはジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有する芳香環を含有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ化合物等が挙げられる。
エポキシ基に加えてスルホ基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、p−トルエンスルホン酸グリシジルおよび3−ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、またはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることが好ましい。これらのエポキシ化合物は、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、炭素繊維、脂肪族エポキシ化合物(A)、熱可塑性樹脂との相互作用が強く、界面接着性を向上させて繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性を向上させることに加えて、芳香環の割合が高いことから湿潤時の力学特性が良好になることで好ましい。ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがより好ましい。
さらに、本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)以外の成分を1種類以上含んでも良い。炭素繊維とサイジング剤との接着性を高める接着性促進成分、サイジング剤が塗布された炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与することで取扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高め、熱可塑性樹脂の含浸性を向上させることが目的として挙げられるが、本発明における、プリプレグでの長期安定性を向上させる目的で(A)および(B1)以外の化合物を含有することができる。また、サイジング剤の安定性を目的として、分散剤および界面活性剤等の補助成分を添加しても良い。
本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)以外に、分子内にエポキシ基を持たないエステル化合物(C)を塗布されたサイジング剤全量に対して、2〜35質量%含有することができる。15〜30質量%であることがより好ましい。エステル化合物(C)を含有することで、炭素繊維の収束性が向上して取り扱い性が向上すると同時に、エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いた場合には、炭素繊維近傍の疎水性が高くなり、湿潤下での力学特性が高くなることで好ましい。なお、芳香族エステル化合物(C1)は、分子内にエポキシ化合物を持たないエステル化合物(C)に含まれるのと同時に、本発明において芳香族化合物(B)に含まれる(この場合(B)の全てが(C1)となることはなく、前述のとおり(B)は(B1)と(C1)を含んで構成されることになる)。エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いると、サイジング剤が塗布された炭素繊維の取り扱い性が向上するため好ましい。また、エステル基以外にも、エポキシ基以外の官能基を有することができ、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、およびスルホ基が好ましい。芳香族エステル化合物(C1)として、具体的にはビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合物からなるエステル化合物を用いるのが好ましい。不飽和二塩基酸としては、酸無水物低級アルキルエステルを含み、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などが好ましく使用される。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物としてはビスフェノールのエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどが好ましく使用される。上記縮合物のうち、好ましくはフマル酸またはマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキシドまたは/およびプロピレンオキシド付加物との縮合物が使用される。
ビスフェノール類へのアルキレンオキシドの付加方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。上記の不飽和二塩基酸には、必要により、その一部に飽和二塩基酸や少量の一塩基酸を、また、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物には、通常のグリコール、ポリエーテルグリコールおよび少量の多価アルコール、一価アルコールなどを、接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることもできる。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合法は、公知の方法を用いることができる。
本発明において、炭素繊維とサイジング剤成分中のエポキシ化合物との接着性を高め、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性を高める目的で、接着性を促進する成分として3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を用いることができる。該化合物は塗布されたサイジング剤全量に対して、0.1〜25質量%添加することが好ましい。2〜10質量%がより好ましい。
脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)に上記の3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を併用したサイジング剤を、炭素繊維に塗布し、特定の条件で熱処理することにより接着性が向上するため好ましい。そのメカニズムは確かではないが、まず、該化合物が本発明で用いられる炭素繊維のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基に作用し、これらの官能基に含まれる水素イオンを引き抜きアニオン化した後、このアニオン化した官能基と脂肪族エポキシ化合物(A)または芳香族エポキシ化合物(B1)成分に含まれるエポキシ基が求核反応するものと考えられる。これにより、本発明で用いられる炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合が形成され、接着性が向上する。
具体的な化合物としては、N−ベンジルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩であることが好ましく、特に1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩が好適である。
上記のDBU塩としては、具体的には、DBUのフェノール塩(U−CAT SA1、サンアプロ株式会社製)、DBUのオクチル酸塩(U−CAT SA102、サンアプロ株式会社製)、DBUのp−トルエンスルホン酸塩(U−CAT SA506、サンアプロ株式会社製)、DBUのギ酸塩(U−CAT SA603、サンアプロ株式会社製)、DBUのオルソフタル酸塩(U−CAT SA810)、およびDBUのフェノールノボラック樹脂塩(U−CAT SA810、SA831、SA841、SA851、881、サンアプロ株式会社製)などが挙げられる。
本発明において、トリブチルアミンまたはN,N−ジメチルベンジルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミンであることが好ましく、特にトリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロピルエチルアミンが好適である。
上記以外にも、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。また、本発明の効果に影響しない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、および不飽和ポリエステル化合物等を添加してもよい。
次に本発明で使用する、サイジング剤が塗布される前の炭素繊維について説明する。
本発明において、炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
本発明において、得られた炭素繊維束のストランド強度が、3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上であり、さらに好ましくは5GPa以上である。また、得られた炭素繊維束のストランド弾性率が、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは240GPa以上であり、さらに好ましくは280GPa以上である。
本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
本発明において用いられる炭素繊維は、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmが好ましい。より好ましくは15〜80nmであり、30〜60nmが好適である。表面粗さ(Ra)が6.0〜60nmである炭素繊維は、表面に高活性なエッジ部分を有するため、前述したサイジング剤のエポキシ基等との相互作用が向上し、炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面接着性を向上することができ好ましい。また、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmである炭素繊維は、表面に凹凸を有しているため、サイジング剤のアンカー効果によって界面接着性を向上することができ好ましい。
炭素繊維の表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いることにより測定することができる。例えば、炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測すればよい。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムなどが使用可能であり、以下の観測条件で観測することができる。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中。
また、各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、炭素繊維の表面粗さ(Ra)を算出し、単繊維5本について、炭素繊維の表面粗さ(Ra)を求め、平均値を評価することが好ましい。
本発明において炭素繊維の総繊度は、400〜3000テックスであることが好ましい。また、炭素繊維
のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本であり、さらに好ましくは3000〜50000本である。
のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本であり、さらに好ましくは3000〜50000本である。
本発明において、炭素繊維の単繊維径は4.5〜7.5μmが好ましい。7.5μm以下であることで、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるため、好ましく用いられる。6μm以下であることがより好ましく、さらには5.5μm以下であることが好ましい。4.5μm以上で工程における単繊維切断が起きにくくなり生産性が低下しにくく好ましい。
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.05〜0.50の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.06〜0.30の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.07〜0.25の範囲内のものである。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、熱可塑性樹脂との強固な界面接着性を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定した。光電子脱出角度90°で測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
本発明に用いる炭素繊維の化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面のカルボキシル基(COOH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が0.003〜0.015の範囲内であることが好ましい。より、好ましい範囲は、0.004〜0.010である。また、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面の水酸基(OH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面水酸基濃度(COH/C)が0.001〜0.050の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.010〜0.040の範囲である。
炭素繊維の表面カルボキシル基濃度、水酸基濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04モル/リットルの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、 682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rが求められる。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表される。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s] −2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02モル/リットルの3弗化エタノール気体,0.001モル/リットルのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04モル/リットルのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mが求められる。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
本発明に用いられる炭素繊維としては、表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上50mJ/m2以下のものであることが好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上であることで脂肪族エポキシ化合物(A)がより炭素繊維表面に近づくことでサイジング層が偏在化した構造が得られ、界面接着性が向上するため好ましい。50mJ/m2以下で、炭素繊維間の熱可塑性樹脂への含浸性が良好になるため、複合材料として用いた場合に用途展開が広がり好ましい。
該炭素繊維表面の表面自由エネルギーの極性成分は、より好ましくは15mJ/m2以上45mJ/m2以下であり、最も好ましくは25mJ/m2以上40mJ/m2以下である。炭素繊維の表面自由エネルギーの極性成分は、炭素繊維を水、エチレングリコール、燐酸トリクレゾールの各液体において、ウィルヘルミ法によって測定される各接触角をもとに、オーエンスの近似式を用いて算出した表面自由エネルギーの極性成分である。
本発明に用いられる脂肪族エポキシ化合物(A)は表面自由エネルギーの極性成分が9mJ/m2以上、50mJ/m2以下のものであることが好ましい。また、芳香族エポキシ化合物(B1)は表面自由エネルギーの極性成分が0mJ/m2以上、9mJ/m2未満であることが好ましい。
脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)の表面自由エネルギーの極性成分は、脂肪族エポキシ化合物(A)または芳香族エポキシ化合物(B1)のみからなる溶液に炭素繊維束を浸漬して引き上げた後、120〜150℃で10分間乾燥後、上述の通り、水、エチレングリコール、燐酸トリクレゾールの各液体において、ウィルヘルミ法によって測定される各接触角をもとに、オーエンスの近似式を用いて算出した表面自由エネルギーの極性成分である。
本発明において、炭素繊維の表面自由エネルギーの極性成分ECFと脂肪族エポキシ化合物(A)、芳香族エポキシ化合物(B1)の表面自由エネルギーの極性成分EA、EB1がECF≧EA>EB1を満たすことが好ましい。
次に、本発明に好ましく用いられるPAN系炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。特に乾湿式紡糸方法を用いることで、強度の高い炭素繊維を得ることができることから、より好ましい。
炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性をさらに向上するために、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmの炭素繊維を得るためには、湿式紡糸方法により前駆体繊維を紡糸することが好ましい。
紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。溶剤としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を使用する。ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドが溶剤として好適である。
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中、あるいは空気中に吐出した後、紡糸浴中で凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理と炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
得られた炭素繊維は、熱可塑性樹脂との界面接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられるが接着性の観点からアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤を塗布することがより好ましい。
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5モル/リットルの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1モル/リットルの範囲内である。電解液の濃度が0.01モル/リットル以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5モル/リットル以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃未満であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m2当たり1.5〜1000アンペア/m2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/m2の範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m2以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m2以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法とスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。
次に、上述した炭素繊維にサイジング剤を塗布した炭素繊維について説明する。
本発明におけるサイジング剤として、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含み、それ以外の成分を含んでも良い。
炭素繊維へのサイジング剤の塗布方法としては、溶媒に、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む芳香族化合物(B)、ならびにその他の成分を同時に溶解または分散したサイジング剤含有液を用いて、1回で塗布する方法や、各化合物(A)、(B1)、(B)やその他の成分を任意に選択し個別に溶媒に溶解または分散したサイジング剤含有液を用い、複数回において炭素繊維に塗布する方法が好ましく用いられる。本発明においては、サイジング剤を塗布した炭素繊維の表面の組成を特定の値にするために、サイジング剤の構成成分をすべて含むサイジング剤含有液を、炭素繊維に1回で塗布する1段付与を採用することが効果および処理のしやすさからより好ましく用いられる。
本発明において、サイジング剤を溶媒で希釈してサイジング液として用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドが挙げられるが、なかでも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、界面活性剤で乳化させた水分散液あるいは水溶液が好ましく用いられる。
溶解の順番は、芳香族化合物(B)を少なくとも含む成分を界面活性剤で乳化させることで水エマルジョン液を作成し、脂肪族エポキシ化合物(A)を少なくとも含む溶液を混合してサイジング液をつくることが好ましい。この時に、脂肪族エポキシ化合物(A)が水溶性の場合には、あらかじめ水に溶解して水溶液にしておき、芳香族化合物(B)を少なくとも含む水エマルジョンと混合する方法が、乳化安定性の点から好ましく用いられる。また、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)およびその他の成分を界面活性剤で乳化させた水分散剤を用いることが、サイジング剤の長期安定性の点から好ましく用いることができる。
サイジング液におけるサイジング剤の濃度は、サイジング液の付与方法および付与した後に余剰のサイジング液を絞り取る絞り量の調整等によって適宜調節する必要があるが、通常は0.2質量%〜20質量%の範囲が好ましい。
サイジング剤の炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラを介してサイジング液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤の有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
サイジング液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤の濃度変動を抑えるため、10〜50℃の範囲であることが好ましい。また、サイジング液を付与した後に、余剰のサイジング液を絞り取る絞り量を調整することにより、サイジング剤の付着量および炭素繊維内への均一付与ができる。
本発明においては、炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒間熱処理することが好ましい。熱処理条件は、好ましくは170〜250℃の温度範囲で30〜500秒間であり、より好ましくは180〜240℃の温度範囲で30〜300秒間である。熱処理条件が、160℃以上および/または30秒以上であると、サイジング剤のエポキシ化合物と炭素繊維表面の酸素含有官能基との間の相互作用が促進され、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性が十分となるため好ましい。一方、熱処理条件が、260℃以下および/または600秒以下の場合、サイジング剤の分解および揮発を抑制でき、炭素繊維との相互作用が促進され、炭素繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性が十分となるため好ましい。
また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。マイクロ波照射および/または赤外線照射によりサイジング剤を塗布した炭素繊維を加熱処理した場合、マイクロ波が炭素繊維内部に侵入し、吸収されることにより、短時間に被加熱物である炭素繊維を所望の温度に加熱できる。また、マイクロ波照射および/または赤外線照射により、炭素繊維内部の加熱も速やかに行うことができるため、炭素繊維束の内側と外側の温度差を小さくすることができ、サイジング剤の接着ムラを小さくすることが可能となる。
本発明は、サイジング剤表面をX線源としてAlKα1,2を用い、光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90である。好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.74以下である。(a)/(b)が大きいということは、サイジング剤表面近傍に芳香族由来の化合物が多く、脂肪族由来の化合物が少ないことを示す。したがって、本発明においては、この(a)/(b)が、特定の範囲に入るときに、炭素繊維とサイジング剤との接着性に優れ、またサイジング剤と熱可塑性樹脂との相互作用が高くなる。その結果、炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面接着性に優れ、得られる炭素繊維強化熱可塑性樹脂の物性が良好になる。また、該炭素繊維を用いた場合に、吸湿性の高い熱可塑性樹脂を用いた場合にも、得られる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の湿潤下での力学特性も良好になることを見出してなされたものである。
X線光電子分光の測定法とは、超高真空中で試料の炭素繊維にX線を照射し、炭素繊維の表面から放出される光電子の運動エネルギーをエネルギーアナライザーとよばれる装置で測定する分析手法のことである。この試料の炭素繊維表面から放出される光電子の運動エネルギーを調べることにより、試料の炭素繊維に入射したX線のエネルギー値から換算される結合エネルギーが一意的に求まり、その結合エネルギーと光電子強度から、試料の最表面(〜nm)に存在する元素の種類と濃度、その化学状態を解析することができる。
本発明において、サイジング剤塗布繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。光電子脱出角度15°で測定した。サイジング剤が塗布された炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定が行われる。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせる。このときに、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求められる。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)が算出される。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を400eVのX線を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度55°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)より求められる(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことが好ましい。
(I)超音波処理前のサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(II)サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で超音波処理することで、サイジング剤付着量を0.09〜0.20質量%まで洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(III)0.50≦(I)≦0.90かつ0.6<(II)/(I)<1.0。
(I)超音波処理前のサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(II)サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で超音波処理することで、サイジング剤付着量を0.09〜0.20質量%まで洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(III)0.50≦(I)≦0.90かつ0.6<(II)/(I)<1.0。
超音波処理前のサイジング剤塗布炭素繊維表面の(a)/(b)値である(I)が上記範囲に入ることは、サイジング剤の表面に芳香族由来の化合物が多く、脂肪族由来の化合物が少ないことを示す。超音波処理前の(a)/(b)値である(I)は好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、超音波処理前の(a)/(b)値である(I)が、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.74以下である。
超音波処理前後のサイジング剤塗布炭素繊維表面の(a)/(b)値の比である(II)/(I)が上記範囲に入ることは、サイジング剤表面に比べて、サイジング剤の内層に脂肪族由来の化合物の割合が多いことを示す。(II)/(I)は好ましくは0.65以上である。また、(II)/(I)は0.85以下であることが好ましい。
(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことで、マトリックス樹脂との接着性に優れ、マトリックス樹脂に用いている熱可塑性樹脂との相互作用が高く良好な物性の熱可塑性樹脂組成物が得られる。なお、ここで説明される超音波処理とは、サイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施し、続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥する処理を意味する。
本発明において、サイジング剤の付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.1〜10.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量部の範囲である。サイジング剤の付着量が0.1質量部以上であると、サイジング剤を塗布した炭素繊維を熱可塑性樹脂に配合する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、炭素繊維シートの平滑性などの品位が優れる。一方、サイジング剤の付着量が10.0質量部以下であると、サイジング剤を塗布した炭素繊維の周囲のサイジング剤膜に阻害されることなく熱可塑性樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物のボイド生成が抑えられ、品位が優れ、同時に機械物性が優れるため好ましい。
サイジング剤の付着量は、サイジング剤を塗布された炭素繊維を約2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定して求められ、サイジング剤を塗布された炭素繊維100質量部あたりの質量変化量をサイジング剤の付着量(質量部)とする。
本発明において、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は350〜550g/eqであることが好ましい。550g/eq以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維および熱可塑性樹脂の界面接着性が向上し、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の物性が向上するため好ましい。また、350g/eq以上であることで、接着性の点から十分である。
本発明におけるサイジング剤を塗布した炭素繊維のエポキシ当量とは、サイジング剤塗布繊維をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。エポキシ当量は360g/eq以上が好ましく、380g/eq以上がより好ましい。また、530g/eq以下が好ましく、500g/eq以下がより好ましい。なお、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、塗布に用いるサイジング剤のエポキシ当量および塗布後の乾燥での熱履歴などにより、制御することができる。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.05〜5.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜2.0質量部の範囲である。さらに好ましくは0.3〜1.0質量部である。脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量が0.05質量部以上であると、炭素繊維表面に脂肪族エポキシ化合物(A)でサイジング剤が塗布された炭素繊維と熱可塑性樹脂の界面接着性が向上するため好ましい。
本発明において、炭素繊維に塗布され乾燥されたサイジング剤層の厚さは、2.0〜20nmの範囲内で、かつ、厚さの最大値が最小値の2倍を超えないことが好ましい。このような厚さの均一なサイジング剤層により、安定して大きな接着性向上効果が得られ、さらには、安定して優れた高次加工性が得られる。
また、本発明において、サイジング剤が塗布された炭素繊維をアセトニトリル/クロロホルム混合溶媒により溶出した際、溶出される脂肪族エポキシ化合物(A)の割合は、サイジング剤が塗布された炭素繊維100質量部に対し2.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.3質量部以下である。特に、脂肪族エポキシ化合物(A)の溶出量が0.3質量部以下であると、本発明のサイジング剤を塗布した炭素繊維を熱可塑性樹脂に混合した時に、炭素繊維表面の水分率が低下すること、熱可塑性樹脂との相互作用が強くなることから好ましい。かかる観点から、前記の溶出された脂肪族エポキシ化合物(A)の割合は、サイジング剤が塗布された炭素繊維100質量部に対し、0.1質量部以下がより好ましく、0.05質量部以下がさらに好ましい。
溶出された脂肪族エポキシ化合物(A)の割合は、サイジング剤が塗布された炭素繊維の試験片を、アセトニトリル/クロロホルム混合液(体積比9/1)に浸漬し、20分間超音波洗浄を行ない、サイジング剤をアセトニトリル/クロロホルム混合液に溶出した溶出液について、液体クロマトグラフィーを用いて下記条件で分析することができる。
・分析カラム:Chromolith Performance RP−18e(4.6×100mm)
・移動相:水/アセトニトリルを使用し、分析開始から7分で、水/アセトニトリル=60%/40%からアセトニトリル100%とした後、12分までアセトニトリル100%を保持し、その後12、1分までに水/アセトニトリル=60%/40%とし、17分まで水/アセトニトリル=60%/40%を保持した。
・流量:2.5mL/分
・カラム温度:45℃
・検出器:蒸発光散乱検出器(ELSD)
・検出器温度:60℃。
・分析カラム:Chromolith Performance RP−18e(4.6×100mm)
・移動相:水/アセトニトリルを使用し、分析開始から7分で、水/アセトニトリル=60%/40%からアセトニトリル100%とした後、12分までアセトニトリル100%を保持し、その後12、1分までに水/アセトニトリル=60%/40%とし、17分まで水/アセトニトリル=60%/40%を保持した。
・流量:2.5mL/分
・カラム温度:45℃
・検出器:蒸発光散乱検出器(ELSD)
・検出器温度:60℃。
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維の水分率は、0.010〜0.030質量%であることが好ましい。サイジング剤塗布炭素繊維の水分率が0.030質量%以下であることで、湿潤下においても炭素繊維強化複合材料の高い力学特性が維持できる。また、特に加水分解しやすい熱可塑性樹脂を用いた場合には、分子量低下を抑制できるため好ましい。サイジング剤塗布炭素繊維の水分率は、好ましくは0.024質量%以下であり、さらに好ましくは0.022質量%以下である。また、水分率の下限は0.010質量%以上であることで、炭素繊維に塗布されたサイジング剤の均一塗布性が向上するため好ましい。0.015質量%以上がより好ましい。サイジング剤塗布炭素繊維の水分量の測定は、サイジング剤塗布炭素繊維を約2g秤量し、三菱化学アナリテック社製KF−100(容量法カールフィッシャー水分計)等の水分計を用いて測定できる。測定時の加熱温度は150℃で実施した。
続いて、本発明にかかる成形材料および炭素繊維強化複合材料について説明する。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、酸変性ポリエチレン(m−PE)、酸変性ポリプロピレン(m−PP)、酸変性ポリブチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド樹脂;ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN);ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;液晶ポリマー(LCP)等の結晶性樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等のポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、未変性または変性されたポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)等の非晶性樹脂;フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、さらにポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ポリイソプレン系エラストマー、フッ素系樹脂およびアクリロニトリル系エラストマー等の各種熱可塑エラストマー等、これらの共重合体および変性体等から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
中でも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂およびポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂であれば、芳香族化合物(B)との相互作用が大きく、サイジング剤と熱可塑性樹脂の相互作用が強くなることで強固な界面を形成できるため好ましい。
また、本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、耐熱性の観点からは、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が好ましい。寸法安定性の観点からは、ポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。摩擦・磨耗特性の観点からは、ポリオキシメチレン樹脂が好ましい。強度の観点からは、ポリアミド樹脂が好ましい。表面外観の観点からは、ポリカーボネートやポリスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が好ましい。軽量性の観点からは、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
より好ましくは、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂、およびポリオレフィン系樹脂から選ばれる一種以上あるいはポリアミドである。ポリアリーレンスルフィド樹脂は耐熱性の点から、ABS等のポリスチレン系樹脂は寸法安定性の点から、ポリオレフィン系樹脂は軽量性の点から特に好ましい。
また、ポリアミドなどに代表される吸水性の高い樹脂を用いた場合には、炭素繊維表面の芳香族化合物(B)による水分率低下の効果により、吸水時にも物性が維持されるため好ましい。特にポリアミド樹脂は強度が高く好ましい。
なお、熱可塑性樹脂としては、本発明の目的を損なわない範囲で、これらの熱可塑性樹脂を複数種含む熱可塑性樹脂組成物が用いられても良い。
本発明において、上記好ましい熱可塑性樹脂を用いた場合のサイジング剤との相互作用について説明する。
本発明において、サイジング剤に含まれる炭素繊維との相互作用に関与しない残りのエポキシ基、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基は熱可塑性樹脂の主鎖にあるエーテル基、エステル基、スルフィド基、アミド基、側鎖にある酸無水物基、シアノ基、および末端にある水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の官能基と共有結合や水素結合などの相互作用を形成し、界面接着性を向上させるものと考えられる。特に、芳香族化合物(B)の官能基が熱可塑性樹脂と相互作用を形成し、界面接着性を高めると考えられる。
ポリアリーレンスルフィド樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、末端にあるチオール基やカルボキシル基と、サイジング剤のエポキシ基との共有結合等の相互作用、主鎖にあるスルフィド基とサイジング剤、特に芳香族化合物(B)に含まれるエポキシ基や水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。特に、熱可塑性樹脂中の芳香環とサイジング剤の芳香族化合物(B)との相互作用により高い接着性が得られると考えられる。
また、ポリアミド樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、末端にあるカルボキシル基やアミノ基と、サイジング剤に含まれるエポキシ基との共有結合などの相互作用、主鎖にあるアミド基とサイジング剤、特に芳香族化合物(B)に含まれるエポキシ基、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。
また、ポリエステル系樹脂やポリカーボネート樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、末端にあるカルボキシル基や水酸基と、サイジング剤に含まれるエポキシ基との共有結合などの相互作用、主鎖にあるエステル基と、サイジング剤、特に芳香族化合物(B)に含まれるエポキシ基や水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。特に、熱可塑性樹脂中の芳香環とサイジング剤の芳香族化合物(B)との相互作用により高い接着性が得られると考えられる。
また、ABS樹脂のようなポリスチレン系樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、側鎖にあるシアノ基と、サイジング剤、特に芳香族化合物(B)に含まれるエポキシ基、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。特に、スチレンの芳香環とサイジング剤の芳香族化合物(B)との相互作用により高い接着性が得られると考えられる。
また、ポリオレフィン系樹脂の中で、特に酸変性されたポリオレフィン系樹脂をマトリックス樹脂として使用する場合、側鎖にある酸無水物基やカルボキシル基とサイジング剤に含まれるエポキシ基、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基との水素結合により強固な界面を形成することができると考えられる。特にポリオレフィンの疎水性が高い未変性部位とサイジング剤の芳香族化合物(B)との相互作用により高い接着性が得られると考えられる。
次に本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を製造するための好ましい態様について説明する。
本発明における炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を製造方法では、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、脂肪族エポキシ化合物(A)35〜65質量%と芳香族化合物(B)35〜60質量%を少なくとも含むサイジング剤を炭素繊維に塗布する工程、および、サイジング剤が塗布された炭素繊維を熱可塑性樹脂に配合する工程を有することが好ましい。
サイジング剤が塗布された炭素繊維は上述のサイジング剤を炭素繊維に塗布する工程によって得ることができる。
また、本発明のサイジング剤が塗布された炭素繊維を熱可塑性樹脂の配合する方法としては限定されないが、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むサイジング剤が塗布された炭素繊維で該サイジング剤表面をX線源としてAlKα1,2を用いて光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90である炭素繊維と熱可塑性樹脂を同時に溶融混練する方法が挙げられる。サイジング剤が塗布された炭素繊維と熱可塑性樹脂を溶融混練することで、炭素繊維が均一に分散することができ、力学特性に優れた成形品を得ることができる。また、炭素繊維表面に脂肪族エポキシ化合物(A)、芳香族化合物(B)を少なくとも含むサイジング剤が局在化するため、炭素繊維表面の酸素含有官能基と脂肪族エポキシ化合物(A)に含まれるエポキシ基の反応効率が高まること、炭素繊維と熱可塑性樹脂との間に芳香族化合物(B)が存在することで界面接着性が向上することから、本発明の高い効果を得ることができることから好ましい。
本発明において、サイジング剤が塗布された炭素繊維1〜80質量%、および熱可塑性樹脂20〜99質量%からなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。
前記溶融混練の方法は特に限定されず、公知の加熱溶融混合装置を使用することができる。具体的には、単軸押出機、二軸押出機、それらの組み合わせの二軸押出機、ニーダー・ルーダー等を使用することができる。中でも、混合力の観点から二軸押出機を用いることが好ましく、より好ましくは、ニーディングゾーンが2箇所以上ある二軸押出機を用いることである。
サイジング剤が塗布された炭素繊維を上記加熱溶融混合装置に投入する際の形態は、連続繊維状、特定の長さに切断した不連続繊維状のいずれでも用いることができる。連続繊維状で直接加熱溶融混合装置に投入した場合(ダイレクトロービングの場合)、炭素繊維の折損が抑えられ、成形品の中でも繊維長を確保できるため、力学特性に優れた成形品を得ることができる。また、炭素繊維を切断する工程が省けるため、生産性が向上する。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物には、力学特性を阻害しない範囲で、用途等に応じて、上記以外の他の成分が含まれていてもよく、また、充填剤や添加剤等が含まれていてもよい。充填剤あるいは添加剤としては、無機充填剤、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、発泡剤およびカップリング剤などが挙げられる。
添加剤として、特に、難燃性が要求される用途向けには難燃剤の添加や、導電性が要求される用途向けには導電性付与剤の添加が好ましく採用される。難燃剤としては、例えば、ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、窒素化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物、フェノール化合物および金属水酸化物などの難燃剤を使用することができる。中でも、環境負荷を抑えるという観点から、ポリリン酸アンモニウム、ポリホスファゼン、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、ホスフィンオキシドおよび赤リンなどのリン化合物を好ましく使用することができる。
導電性付与剤としては、例えば、カーボンブラック、アモルファスカーボン粉末、天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、ピッチマイクロビーズ、気相成長炭素繊維およびカーボンナノチューブ等を採用することができる。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、ペレット、スタンパブルシートおよびプリプレグ等の成形材料の形態で使用することができる。最も好ましい成形材料はペレットである。ペレットは、一般的には、熱可塑性樹脂ペレットと連続状炭素繊維もしくは特定の長さに切断した不連続炭素繊維(チョップド炭素繊維)を押出機中で溶融混練し、押出、ペレタイズすることによって得られたものをさす。
上記成形材料の成形方法としては、例えば、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形およびインサート成形など)、ブロー成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形およびフィラメントワインディング成形が挙げられる。中でも、生産性の観点から射出成形が好ましく用いられる。これらの成形方法により、成形品を得ることができる。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、パネルなどの建材用途、モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係、排気系または吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、CNGタンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュールなどの自動車、二輪車関連部品、部材および外板やランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、風車の羽根などが挙げられる。特に、航空機部材、風車の羽根、自動車外板および電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどに好ましく用いられる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
(1)サイジング剤が塗布された炭素繊維のサイジング剤表面のX線光電子分光法(X線源:AlKα1,2)
本発明において、サイジング剤が塗布された炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤が塗布された炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
本発明において、サイジング剤が塗布された炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤が塗布された炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
なお、(b)より(a)のピークが大きい場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1に合わせた場合、C1sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた後、上記手法にて(a)/(b)を算出した。
(2)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤の洗浄
サイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施した。続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥した。
サイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施した。続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥した。
(3)サイジング剤塗布炭素繊維の400eVでのX線光電子分光法
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維およびサイジング剤を洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源として佐賀シンクトロトン放射光を用い、励起エネルギーは400eVで実施した。試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。なお、光電子脱出角度55°で実施した。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と、(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維およびサイジング剤を洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源として佐賀シンクトロトン放射光を用い、励起エネルギーは400eVで実施した。試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。なお、光電子脱出角度55°で実施した。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と、(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
なお、(b)より(a)のピークが大きい場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1に合わせた場合、C1sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた後、上記手法にて(a)/(b)を算出した。
(4)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(5)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1,2 を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピークの(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1,2 を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピークの(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
(6)炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、表面水酸基濃度(COH/C)
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。
溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04mol/Lの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rを求めた。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表した。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206での、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206での、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02モル/リットルの3弗化エタノール気体、0.001モル/リットルのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04モル/リットルのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mを求めた。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いた場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いた場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
(7)サイジング剤のエポキシ当量、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量
サイジング剤のエポキシ当量は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、サイジング剤塗布繊維をN,N−ジメチルホルムアミド中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。
サイジング剤のエポキシ当量は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、サイジング剤塗布繊維をN,N−ジメチルホルムアミド中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。
(8)サイジング付着量の測定方法
約2gのサイジングを塗布された炭素繊維を秤量(W1)(小数第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維を秤量(W2)(小数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回おこない、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
約2gのサイジングを塗布された炭素繊維を秤量(W1)(小数第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維を秤量(W2)(小数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回おこない、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
(9)サイジング剤を塗布した炭素繊維の水分率測定
サイジング剤を塗布した炭素繊維を約2g秤量し、三菱化学アナリテック社製KF−100(容量法カールフィッシャー水分計)を用いて水分率を測定した。測定時の加熱温度は150℃で実施した。
サイジング剤を塗布した炭素繊維を約2g秤量し、三菱化学アナリテック社製KF−100(容量法カールフィッシャー水分計)を用いて水分率を測定した。測定時の加熱温度は150℃で実施した。
(10)射出成形品の曲げ特性評価方法
得られた射出成形品から、長さ130±1mm、幅25±0.2mmの曲げ強度試験片を切り出した。ASTM D−790(2004)に規定する試験方法に従い、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分で曲げ強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機として“インストロン(登録商標)”万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。測定数はn=5とし、平均値を曲げ強度とした。
得られた射出成形品から、長さ130±1mm、幅25±0.2mmの曲げ強度試験片を切り出した。ASTM D−790(2004)に規定する試験方法に従い、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分で曲げ強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機として“インストロン(登録商標)”万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。測定数はn=5とし、平均値を曲げ強度とした。
(11)水中での曲げ強度の低下率
ポリアミドを用いた場合には、水中で試験片に対して水を2.5%吸水させた時の曲げ特性評価を実施した。その結果、水中での曲げ強度の低下率が60%以下を好ましい範囲として○、60%より大きいときを低下率が大きいとして×とした。
ポリアミドを用いた場合には、水中で試験片に対して水を2.5%吸水させた時の曲げ特性評価を実施した。その結果、水中での曲げ強度の低下率が60%以下を好ましい範囲として○、60%より大きいときを低下率が大きいとして×とした。
(12)炭素繊維の表面粗さ(Ra)
炭素繊維の表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測した。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムを使用し、以下の観測条件で観測した。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中。
炭素繊維の表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測した。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムを使用し、以下の観測条件で観測した。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中。
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は、下記のとおりである。
・(A)成分:A−1〜A−2
A−1:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、
A−2:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:183g/eq.、125℃での表面張力37mJ/m2
・(B1)成分:B−1〜B−4
B−1:“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)
フェノールノボラックのグリシジルエーテル
エポキシ当量:175g/eq.、125℃での表面張力40mJ/m2
B−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/eq.、125℃での表面張力38mJ/m2
B−3:“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:475g/eq.、125℃での表面張力38mJ/m2
B−4:“jER(登録商標)”807(三菱化学(株)製)
ビスフェノールFのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、125℃での表面張力40mJ/m2
・熱可塑性樹脂
ポリアリーレンスルフィド樹脂:
ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂ペレット・・・“トレリナ(登録商標)”M2888(東レ(株)製)
ポリアミド樹脂:
ポリアミド66(PA)樹脂ペレット・・・“アミラン(登録商標)”CM3001(東レ(株)製)
ポリカーボネート樹脂:
ポリカーボネート(PC)樹脂ペレット・・・“レキサン(登録商標)”141R(SABIC)
ポリオレフィン系樹脂:
ポリプロピレン(PP)樹脂ペレット・・・未変性PP樹脂ペレットと酸変性PP樹脂ペレットの混合物(未変性PP樹脂ペレット:“プライムポリプロ(登録商標)”J830HV((株)プライムポリマー製)50質量部、酸変性PP樹脂ペレット:“アドマー(登録商標)”QE800(三井化学(株)製)50質量部)。
ポリスチレン系樹脂:
アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂ペレット・・・“トヨラック(登録商標)”品種700区分番号314(東レ(株)製)。
・(A)成分:A−1〜A−2
A−1:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、
A−2:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:183g/eq.、125℃での表面張力37mJ/m2
・(B1)成分:B−1〜B−4
B−1:“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)
フェノールノボラックのグリシジルエーテル
エポキシ当量:175g/eq.、125℃での表面張力40mJ/m2
B−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/eq.、125℃での表面張力38mJ/m2
B−3:“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:475g/eq.、125℃での表面張力38mJ/m2
B−4:“jER(登録商標)”807(三菱化学(株)製)
ビスフェノールFのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、125℃での表面張力40mJ/m2
・熱可塑性樹脂
ポリアリーレンスルフィド樹脂:
ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂ペレット・・・“トレリナ(登録商標)”M2888(東レ(株)製)
ポリアミド樹脂:
ポリアミド66(PA)樹脂ペレット・・・“アミラン(登録商標)”CM3001(東レ(株)製)
ポリカーボネート樹脂:
ポリカーボネート(PC)樹脂ペレット・・・“レキサン(登録商標)”141R(SABIC)
ポリオレフィン系樹脂:
ポリプロピレン(PP)樹脂ペレット・・・未変性PP樹脂ペレットと酸変性PP樹脂ペレットの混合物(未変性PP樹脂ペレット:“プライムポリプロ(登録商標)”J830HV((株)プライムポリマー製)50質量部、酸変性PP樹脂ペレット:“アドマー(登録商標)”QE800(三井化学(株)製)50質量部)。
ポリスチレン系樹脂:
アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂ペレット・・・“トヨラック(登録商標)”品種700区分番号314(東レ(株)製)。
(実施例1)
本実施例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり50クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このとき表面酸素濃度O/Cは、0.14、表面カルボキシル基濃度COOH/Cは0.004、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は2.9nmだった。これを炭素繊維Aとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B1)成分として(B−2)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−1)を50質量部混合してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物であり、(B)成分に該当することにもなる。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表1−1の通りである。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤が塗布された炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤を塗布した炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。続いて、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量、炭素繊維の水分率、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、溶出された脂肪族エポキシ化合物測定の結果を表1−1にまとめた。この結果、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることが確認できた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤が塗布された炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PPS樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤が塗布された炭素繊維を供給し、バレル温度320℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPPS樹脂ペレット90質量部に対して、サイジング剤が塗布された炭素繊維が10質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:330℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度が228MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
本実施例は、次の第I〜Vの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり50クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このとき表面酸素濃度O/Cは、0.14、表面カルボキシル基濃度COOH/Cは0.004、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は2.9nmだった。これを炭素繊維Aとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B1)成分として(B−2)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−1)を50質量部混合してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物であり、(B)成分に該当することにもなる。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表1−1の通りである。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤が塗布された炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤を塗布した炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。続いて、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量、炭素繊維の水分率、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、溶出された脂肪族エポキシ化合物測定の結果を表1−1にまとめた。この結果、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることが確認できた。
・第IIIの工程:サイジング剤が塗布された炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤が塗布された炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PPS樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤が塗布された炭素繊維を供給し、バレル温度320℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPPS樹脂ペレット90質量部に対して、サイジング剤が塗布された炭素繊維が10質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:330℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度が228MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
(実施例2〜11)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−1の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤が塗布された炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることがわかった。結果を表1−1に示す。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度が222〜230MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−1の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤が塗布された炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることがわかった。結果を表1−1に示す。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度が222〜230MPaであり、力学特性が十分に高いことがわかった。
(実施例12)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
電解液として濃度0.05モル/lの硫酸水溶液を用い、電気量を炭素繊維1g当たり8クーロンで電解表面処理したこと以外は、実施例1と同様とした。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.08、表面カルボキシル基濃度COOH/Cは0.003、表面水酸基濃度COH/Cは0.003であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は2.9nmだった。これを炭素繊維Bとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−1の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行った。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りだった。結果を表1−1に示す。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度は問題ないことがわかった。
(実施例13)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数12,000本、総繊度447テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.6GPa、ストランド引張弾性率300GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり40クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。表面酸素濃度O/Cは、0.13、表面カルボキシル基濃度COOH/Cは0.005、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は23nmだった。これを炭素繊維Cとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−1の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行った。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りだった。結果を表1−1に示す。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度は問題ないことがわかった。
(実施例14)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分、(B1)成分を表1−1の通りに用い、(A)、(B1)をジメチルホルムアミド溶液にして塗布した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行った。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りだった。結果を表1−1に示す。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度は高いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
電解液として濃度0.05モル/lの硫酸水溶液を用い、電気量を炭素繊維1g当たり8クーロンで電解表面処理したこと以外は、実施例1と同様とした。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.08、表面カルボキシル基濃度COOH/Cは0.003、表面水酸基濃度COH/Cは0.003であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は2.9nmだった。これを炭素繊維Bとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−1の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行った。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りだった。結果を表1−1に示す。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度は問題ないことがわかった。
(実施例13)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数12,000本、総繊度447テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.6GPa、ストランド引張弾性率300GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり40クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。表面酸素濃度O/Cは、0.13、表面カルボキシル基濃度COOH/Cは0.005、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は23nmだった。これを炭素繊維Cとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−1の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行った。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りだった。結果を表1−1に示す。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度は問題ないことがわかった。
(実施例14)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分、(B1)成分を表1−1の通りに用い、(A)、(B1)をジメチルホルムアミド溶液にして塗布した以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行った。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りだった。結果を表1−1に示す。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表1−1にまとめた。この結果、曲げ強度は高いことがわかった。
(比較例1)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分を用いず(B1)成分の種類、量、その他の成分の量を表1−2の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行ったところ、表1−2に示す通り本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分を用いず(B1)成分の種類、量、その他の成分の量を表1−2の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行ったところ、表1−2に示す通り本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。
(比較例2)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B1)成分を用いず(A)成分の種類、量を表1−2の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行ったところ、表1−2に示す通り本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B1)成分を用いず(A)成分の種類、量を表1−2の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行ったところ、表1−2に示す通り本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
(比較例3)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−2の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行ったところ、表1−2に示す通り本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−2の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行ったところ、表1−2に示す通り本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。
(比較例4)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−2の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行ったところ、表1−2に示す通り本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)、(B1)成分の種類、量、(C1)、その他の成分の量を表1−2の通りに用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を行ったところ、表1−2に示す通り本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
(比較例5)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−2)の水溶液を調整し、浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して0.30質量部となるように調整した。続いて、(B1)成分として(B−2)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物であり、(B)成分に該当することにもなる。このサイジング剤を浸漬法により(A)成分を塗布した炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して0.30質量部となるように調整した。サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が低いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−2)の水溶液を調整し、浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して0.30質量部となるように調整した。続いて、(B1)成分として(B−2)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物であり、(B)成分に該当することにもなる。このサイジング剤を浸漬法により(A)成分を塗布した炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤を塗布した炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して0.30質量部となるように調整した。サイジング剤表面のX線光電子分光法測定を測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。
・第III〜Vの工程:
実施例1と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表1−2に示す通りで力学特性が低いことがわかった。
(実施例15〜20)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1,2,3,5,6,7と同様とした。
・第IIIの工程:サイジング剤を塗布した炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤を塗布した炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PC樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度300℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPC樹脂ペレット92質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が8質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:320℃、金型温度:70℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表2にまとめた。この結果、曲げ強度が高く力学特性が十分に高いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1,2,3,5,6,7と同様とした。
・第IIIの工程:サイジング剤を塗布した炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤を塗布した炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PC樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度300℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPC樹脂ペレット92質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が8質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:320℃、金型温度:70℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表2にまとめた。この結果、曲げ強度が高く力学特性が十分に高いことがわかった。
(比較例6)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例1と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例15と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表2に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例1と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例15と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表2に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。
(比較例7)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例2と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例15と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表2に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例2と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例15と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表2に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
(実施例21〜26)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1,2,3,5,6,7と同様とした。
・第IIIの工程:サイジング剤を塗布した炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤を塗布した炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PP樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度230℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPP樹脂ペレット80質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が20質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:60℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表3にまとめた。この結果、曲げ強度が高く、力学特性が十分に高いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1,2,3,5,6,7と同様とした。
・第IIIの工程:サイジング剤を塗布した炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤を塗布した炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PP樹脂ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度230℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPP樹脂ペレット80質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が20質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:60℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表3にまとめた。この結果、曲げ強度が高く、力学特性が十分に高いことがわかった。
(比較例8)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例1と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例21と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表3に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例1と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例21と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表3に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。
(比較例9)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例2と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例21と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表3に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例2と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例21と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表3に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
(実施例27〜32)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1,2,3,5,6,7と同様とした。
・第IIIの工程:サイジング剤を塗布した炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤を塗布した炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PA66樹脂(PA)ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度280℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPA66樹脂ペレット70質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が30質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:300℃、金型温度:70℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表4にまとめた通り曲げ強度高く、力学特性が十分に高いことがわかった。また、PAは吸水性が高いため、水中での曲げ強度測定を実施した。その結果、いずれも強度低下は小さいことが分かった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1,2,3,5,6,7と同様とした。
・第IIIの工程:サイジング剤を塗布した炭素繊維のカット工程
第II工程で得られたサイジング剤を塗布した炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。
・第IVの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PA66樹脂(PA)ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度280℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPA66樹脂ペレット70質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が30質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第Vの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:300℃、金型温度:70℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。結果を表4にまとめた通り曲げ強度高く、力学特性が十分に高いことがわかった。また、PAは吸水性が高いため、水中での曲げ強度測定を実施した。その結果、いずれも強度低下は小さいことが分かった。
(比較例10)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例1と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例27と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表4に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。また、水中での曲げ強度の低下は小さかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例1と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例27と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表4に示す通りで力学特性が不十分であることがわかった。また、水中での曲げ強度の低下は小さかった。
(比較例11)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例2と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例27と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表4に示す通りで力学特性は十分だったが、水中での曲げ強度の低下が大きいことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例2と同様とした。
・第III〜Vの工程:
実施例27と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表4に示す通りで力学特性は十分だったが、水中での曲げ強度の低下が大きいことがわかった。
(実施例33〜38)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1,2,3,5,6,7と同様とした。
・第IIIの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、ABS樹脂ペレットをメインホッパーから8kg/時間で供給し、次いで、その下流のサイドホッパーからサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給した。バレル温度230℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりABS樹脂ペレット80質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が20質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第IVの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:230℃、金型温度:60℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。表5に示す通り、曲げ強度が高く、力学特性が十分に高いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例1,2,3,5,6,7と同様とした。
・第IIIの工程:押出工程
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、ABS樹脂ペレットをメインホッパーから8kg/時間で供給し、次いで、その下流のサイドホッパーからサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給した。バレル温度230℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりABS樹脂ペレット80質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が20質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
・第IVの工程:射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:230℃、金型温度:60℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。表5に示す通り、曲げ強度が高く、力学特性が十分に高いことがわかった。
(比較例12)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例1と同様とした。
・第III〜IVの工程:
実施例33と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表5に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例1と同様とした。
・第III〜IVの工程:
実施例33と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表5に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
(比較例13)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例2と同様とした。
・第III〜IVの工程:
実施例33と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表5に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様とした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
比較例2と同様とした。
・第III〜IVの工程:
実施例33と同様の方法で特性評価用試験片を成形した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。この結果、曲げ強度が表5に示す通りで力学特性が若干低いことがわかった。
(実施例39)
実施例1で得られたサイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施した。続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥した。洗浄後に残っているサイジング剤付着量を測定したところ、表6の通りだった。
実施例1で得られたサイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施した。続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥した。洗浄後に残っているサイジング剤付着量を測定したところ、表6の通りだった。
続いて、洗浄前のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面、および洗浄により得られたサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の400eVでのX線光電子分光法で(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さと(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(I)洗浄前のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)/(b)、(II)洗浄後のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)/(b)を算出した。(I)および(II)/(I)は表6に示す通りだった。
(実施例40〜41)
実施例39と同様に実施例2、実施例3で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表6に示す。
実施例39と同様に実施例2、実施例3で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表6に示す。
(比較例14)
実施例39と同様に比較例1で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表6に示すが、(II/I)が大きく、サイジング剤に傾斜構造が得られていないことが分かった。
実施例39と同様に比較例1で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表6に示すが、(II/I)が大きく、サイジング剤に傾斜構造が得られていないことが分かった。
(比較例15)
実施例39と同様に比較例2で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表6に示すが、(II/I)が大きく、サイジング剤に傾斜構造が得られていないことが分かった。
(比較例16)
実施例39と同様に比較例5で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表6に示すが、(II/I)が小さいことが分かった。
実施例39と同様に比較例2で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表6に示すが、(II/I)が大きく、サイジング剤に傾斜構造が得られていないことが分かった。
(比較例16)
実施例39と同様に比較例5で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表6に示すが、(II/I)が小さいことが分かった。
Claims (16)
- サイジング剤が塗布された炭素繊維および熱可塑性樹脂を含んでなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物において、前記サイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むものであり、かつ、前記サイジング剤が塗布された炭素繊維は、該サイジング剤表面をX線源としてAlKα1,2を用い、光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90であることを特徴とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- サイジング剤が塗布された炭素繊維の水分率が0.010〜0.030質量%であることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- サイジング剤中の脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)の質量比が52/48〜80/20であることを特徴とする、請求項1または2記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 脂肪族エポキシ化合物(A)が分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 脂肪族エポキシ化合物(A)がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物であることを特徴とする、請求項4記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 芳香族エポキシ化合物(B1)がビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 前記サイジング剤塗布炭素繊維を、400eVのX線を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度55°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)より求められる(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
(I)超音波処理前の前記サイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(II)前記サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で超音波処理することで、サイジング剤付着量を0.09〜0.20質量%まで洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(III)0.50≦(I)≦0.90かつ0.6<(II)/(I)<1.0 - 脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量が0.2〜2.0質量%であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 炭素繊維の化学修飾X線光電子分光法により測定される表面カルボキシル基濃度COOH/Cが0.003〜0.015、COH/Cが0.001〜0.050であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 熱可塑性樹脂がポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂およびポリオレフィン系樹脂から選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 熱可塑性樹脂がポリアミドであることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 前記サイジング剤が、炭素繊維100質量部に対して0.1〜10.0質量部付着されてなるサイジング剤塗布炭素繊維1〜80質量%、および熱可塑性樹脂20〜99質量%からなることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 炭素繊維100質量部に対して、前記サイジング剤を0.1〜10.0質量部付着して得られたサイジング剤塗布炭素繊維1〜80質量%と、熱可塑性樹脂20〜99質量%を溶融混練して得られることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
- 溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、脂肪族エポキシ化合物(A)35〜65質量%と芳香族化合物(B)35〜60質量%を少なくとも含むサイジング剤を炭素繊維に塗布する工程、および、サイジング剤が塗布された炭素繊維を熱可塑性樹脂に配合する工程を有する請求項1から13のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
- サイジング剤が塗布された炭素繊維と熱可塑性樹脂の配合を溶融混練により行う、請求項14に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
- 請求項1から13のいずれか一項記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物、または、請求項14または15記載の方法で製造された炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形してなる、炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
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