以下、更に詳しく、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維について説明をする。
本発明は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として少なくとも芳香族エポキシ化合物(B1)を含むサイジング剤を炭素繊維に塗布したサイジング剤塗布炭素繊維であって、弾性率が335〜600GPaであり、X線源としてAlKα1,2を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度45°で測定される前記炭素繊維の繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が0.15以上であり、かつ、前記炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を、X線源としてAlKα1,2を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度15°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)が0.50〜0.80であることを特徴とする。
まず、本発明で使用するサイジング剤について説明する。本発明にかかるサイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む。
本発明者らの知見によれば、かかる範囲のものは、サイジング剤塗布炭素繊維の毛羽が発生しにくく、高い擦過性を有するとともに、炭素繊維とマトリックスの界面接着性に優れる。そのサイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合にも、高い物性が得られ、複合材料用の炭素繊維に好適なものである。
本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維に塗布した際、サイジング層内側(炭素繊維側)に脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在することで、炭素繊維と脂肪族エポキシ化合物(A)とが強固に相互作用を行い、接着性を高めるとともに、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)には耐擦過性の高い芳香族エポキシ化合物(B1)を含む芳香族化合物(B)を多く存在させることで、毛羽を抑制することができる。該サイジング剤塗布炭素繊維を炭素繊維強化複合材料に用いた場合には、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)にはマトリックス樹脂と強い相互作用が可能な化学組成として、所定割合のエポキシ基を含む芳香族エポキシ化合物(B1)および脂肪族エポキシ化合物(A)が所定の割合で存在するため、マトリックス樹脂との接着性も向上するものである。
サイジング剤が、芳香族エポキシ化合物(B1)のみからなり、脂肪族エポキシ化合物(A)を含まない場合、サイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が高いという利点がある。また、剛直な界面層を形成することができるという利点もある。しかしながら、芳香族エポキシ化合物(B1)はその化合物の剛直さに由来して、脂肪族エポキシ化合物(A)と比較して、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が若干劣ることが確認されている。
また、サイジング剤が、脂肪族エポキシ化合物(A)のみからなる場合、該サイジング剤を塗布した炭素繊維はマトリックス樹脂との接着性が高いことが確認されている。そのメカニズムは確かではないが、脂肪族エポキシ化合物(A)は柔軟な骨格および自由度が高い構造に由来して、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基との官能基と脂肪族エポキシ化合物(A)が強い相互作用を形成することが可能であると考えられる。しかしながら、脂肪族エポキシ化合物(A)は、炭素繊維表面との相互作用により高い接着性を発現する一方、耐擦過性が芳香族化合物(B)に比べて低くなるという課題が確認されている。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)を混合した場合、より極性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い芳香族化合物(B)が偏在しやすいという現象が見られる。このサイジング層の傾斜構造の結果として、脂肪族エポキシ化合物(A)は炭素繊維近傍で炭素繊維と強い相互作用を有することで炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を高めることができる。また、外層に多く存在する芳香族エポキシ化合物(B1)を含む芳香族化合物(B)により、耐擦過性を高めることができる。なお、脂肪族エポキシ化合物(A)を芳香族エポキシ化合物(B1)を含む芳香族化合物(B)でほぼ完全に覆う場合には、サイジング剤とマトリックス樹脂との相互作用が小さくなり接着性が低下してしまうため、耐擦過性と接着性を両立するサイジング剤表面の脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)の存在比率が重要である。
本発明に係るサイジング剤は、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、脂肪族エポキシ化合物(A)を35〜65質量%、芳香族化合物(B)を35〜60質量%少なくとも含むことが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することにより、接着性が向上する。また、65質量%以下とすることで、サイジング剤として脂肪族エポキシ化合物(A)以外の成分を用いることができ、当該サイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が高くなり、その後炭素繊維強化複合材料に成形した際の物性が良好になる。脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、38質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、60質量%以下がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましい。
本発明のサイジング剤において、芳香族化合物(B)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することで、サイジング剤の外層中の芳香族化合物(B)の組成を高く維持することができるため、サイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が向上する。また、60質量%以下とすることで、サイジング剤中の傾斜構造を発現することができ、接着性を維持することができる。芳香族化合物(B)の配合量は、37質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。また、芳香族化合物(B)の配合量は、55質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。
本発明におけるサイジング剤には、エポキシ成分として、脂肪族エポキシ化合物(A)に加えて、芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)が含まれる。脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)の質量比(A)/(B1)は、71/29〜80/20である。(A)/(B1)を71/29以上とすることにより、炭素繊維表面に存在する脂肪族エポキシ化合物(A)の比率が大きくなり、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。その結果、得られた炭素繊維強化複合材料の引張強度などのコンポジット物性が高くなる。また、(A)/(B1)を80/20以下とすることにより、反応性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維表面に存在する量が少なくなり、マトリックス樹脂との反応性が抑制できるため好ましい。また、(A)/(B1)の質量比は75/25以下がより好ましく、73/27以下がさらに好ましい。
本発明において使用する脂肪族エポキシ化合物(A)は、芳香環を含まないエポキシ化合物である。自由度の高い柔軟な骨格を有していることから、炭素繊維と強い相互作用を有することが可能である。その結果、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が向上する。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は分子内に1個以上のエポキシ基を有する。そのことにより、炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合を形成することができる。分子内のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りのエポキシ基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性をさらに向上することができる。エポキシ基の数の上限は特にないが、接着性の観点からは10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において使用する脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量は、360g/eq.未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq.未満であり、さらに好ましくは180g/eq.未満である。脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量が360g/eq.未満であると、高密度で炭素繊維との相互作用が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の二重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ポリオールとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。たとえば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である。また、このグリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
分子内に複数の二重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
本発明に使用する脂肪族エポキシ化合物(A)として、これらのエポキシ化合物以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
本発明にかかる脂肪族エポキシ化合物(A)は、1個以上のエポキシ基と、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基とを有することが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が有する官能基の具体例として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えて水酸基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(登録商標)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ウレタン変性エポキシ化合物が挙げられ、具体的には“アデカレジン(登録商標)”EPU−78−13S、EPU−6、EPU−11、EPU−15、EPU−16A、EPU−16N、EPU−17T−6、EPU−1348およびEPU−1395(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシ化合物は脂肪族ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物(A)は、上述した中でも高い接着性の観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましい。
上記の中でも本発明における脂肪族エポキシ化合物(A)は、高い接着性の観点から、分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物が好ましく、本発明では、脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物であることを必須とする。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
本発明において、芳香族化合物(B)は、分子内に芳香環を1個以上有する。芳香環とは、炭素のみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。芳香環の疎水性により、脂肪族エポキシ化合物(A)に比べて炭素繊維との相互作用が弱くなるため、炭素繊維との相互作用により炭素繊維側に脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在し、サイジング層外層に芳香族化合物(B)が多く存在する結果となる。芳香族化合物を用いることで耐擦過性が良好になるため好ましい。芳香族化合物(B)における分子内の芳香環の数の上限は特にないが、10個あれば耐擦過性の観点から十分である。
本発明において、芳香族化合物(B)は、分子内に1種以上の官能基を有することができる。また、芳香族化合物(B)は、1種類であっても良いし、複数の化合物を組み合わせて用いても良い。芳香族化合物(B)は、分子内に1個以上のエポキシ基と1個以上の芳香環を有する芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むものである。エポキシ基以外の官能基は水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基またはスルホ基から選択されるものが好ましく、1分子内に2種以上の官能基を含んでいても良い。芳香族化合物(B)は、芳香族エポキシ化合物(B1)以外には、耐擦過性等の高次加工性が良好になることから、芳香族エステル化合物、芳香族ウレタン化合物が特に好ましく用いられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。また、10個以下であることが好ましい。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。芳香族エポキシ化合物(B1)が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。芳香族エポキシ化合物(B1)が、分子内に3個以上のエポキシ基または1個のエポキシ基と他の官能基を2個以上有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ当量は、360g/eq.未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq.未満であり、さらに好ましくは180g/eq.未満である。芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ当量が360g/eq.未満であると、高密度で共有結合が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)の具体例としては、例えば、芳香族ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有する芳香族アミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、芳香族ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の二重結合を有する芳香族化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジンのほか、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。
さらに、例えば、グリシジルアミン型エポキシ化合物として、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
本発明に使用する芳香族エポキシ化合物(B1)として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、1個以上のエポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基が好ましく用いられる。例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは芳香環を含有するジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてイミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的には“デナコール(登録商標)”EX−731(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の芳香環を含有する多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシはジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有する芳香環を含有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
エポキシ基に加えてスルホ基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、p−トルエンスルホン酸グリシジルおよび3−ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、またはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのいずれかであることが好ましい。これらのエポキシ化合物は、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、かつ、2個以上の芳香環を有しており、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることが、接着性及び耐擦過性の観点から好ましく、本発明では、芳香族エポキシ化合物(B1)が、ビスフェノールA型エポキシ化合物またはフェノールノボラック型エポキシ化合物であることを必須とする。
さらに、本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)以外の成分を1種類以上含んでも良い。サイジング剤塗布炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与する材料を配合することで取扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高めることができて好ましい。
本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)以外に、分子内にエポキシ基を持たないエステル化合物(C)を配合することができる。エステル化合物(C)を配合することで、集束性が向上し、耐毛羽性が向上するため好ましい。本発明にかかるサイジング剤は、エステル化合物(C)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、2〜35質量%配合することができる。15〜30質量%であることがより好ましい。
エステル化合物(C)は、芳香環を持たない脂肪族エステル化合物でも良いし、芳香環を分子内に1個以上有する芳香族エステル化合物でも良いが、なお、エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いた場合には、芳香族エステル化合物(C1)は、分子内にエポキシ化合物を持たないエステル化合物(C)に含まれるのと同時に、本発明において芳香族化合物(B)に含まれる。かかる場合、芳香族化合物(B)の全てが、芳香族エステル化合物(C1)となることはなく、芳香族化合物(B)は、芳香族エポキシ化合物(B1)と芳香族エステル化合物(C1)とにより構成される。エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いると、サイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が向上するため好ましい。特に、芳香族エステル化合物(C1)は、炭素繊維との相互作用が弱いため、マトリックス樹脂の外層に存在することとなり、接着性の低下を抑制しながら、耐擦過性を高めることができる。また、芳香族エステル化合物(C1)は、エステル基以外にも、エポキシ基以外の官能基、たとえば、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、およびスルホ基を有していてもよい。芳香族エステル化合物(C1)として、具体的にはビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合物からなるエステル化合物を用いるのが好ましい。不飽和二塩基酸としては、酸無水物低級アルキルエステルを含み、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などが好ましく使用される。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物としてはビスフェノールのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物、ブチレンオキシド付加物などが好ましく使用される。上記縮合物のうち、好ましくはフマル酸またはマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキシドまたは/およびプロピレンオキシド付加物との縮合物が使用される。
ビスフェノール類へのアルキレンオキシドの付加方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。上記の不飽和二塩基酸には、必要により、その一部に飽和二塩基酸や少量の一塩基酸を接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることができる。また、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物には、通常のグリコール、ポリエーテルグリコールおよび少量の多価アルコール、一価アルコールなどを、接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることもできる。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合法は、公知の方法を用いることができる。
本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)以外に、分子内にエポキシ基を持たないウレタン化合物(D)を配合することができる。ウレタン化合物(D)を配合することで、集束性が向上し、耐毛羽性が向上するため好ましい。本発明にかかるサイジング剤は、ウレタン化合物(D)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、2〜35質量%配合することができる。15〜30質量%であることがより好ましい。
ウレタン化合物(D)は、芳香環を持たない脂肪族ウレタン化合物でも良いし、芳香環を分子内に1個以上有する芳香族ウレタン化合物でも良い。なお、ウレタン化合物(D)として芳香族ウレタン化合物(D1)を用いた場合には、芳香族ウレタン化合物(D1)は、分子内にエポキシ化合物を持たないウレタン化合物(D)に含まれるのと同時に、本発明において芳香族化合物(B)に含まれる。かかる場合、芳香族化合物(B)の全てが、芳香族ウレタン化合物(D1)となることはなく、芳香族化合物(B)は、芳香族エポキシ化合物(B1)と芳香族ウレタン化合物(D1)とにより構成される。ウレタン化合物(D)として芳香族ウレタン化合物(D1)を用いると、サイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が向上するため好ましい。特に、芳香族ウレタン化合物(D1)は、炭素繊維との相互作用が弱いため、マトリックス樹脂の外層に存在することとなり、接着性の低下を抑制しながら、耐擦過性を高めることができる。
上記以外にも、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。
次に、本発明で使用する炭素繊維について説明する。本発明において使用する炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
本発明では、ストランド弾性率が335〜600GPaの炭素繊維を用いる。335GPa以上であることで、炭素繊維強化複合材料に用いた場合、弾性率が高くなり好ましい。ストランド強度を維持できる観点から、600GPa以下で十分である。350GPa以上が好ましく、380GPa以上がより好ましい。500GPa以下であることが好ましく、より好ましくは450GPa以下である。得られた炭素繊維束のストランド引張強度が、2.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは3.0GPa以上であり、さらに好ましくは4.0GPa以上である。また、本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
本発明において用いられる炭素繊維は、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmであることが好ましい。より好ましくは15〜80nmであり、30〜60nmが好適である。表面粗さ(Ra)が6.0〜60nmである炭素繊維は、表面に高活性なエッジ部分を有するため、前述したサイジング剤のエポキシ基等との反応性が向上し、界面接着性を向上することができ好ましい。また、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmである炭素繊維は、表面に凹凸を有しているため、サイジング剤のアンカー効果によって界面接着性を向上することができ好ましい。
炭素繊維表面の平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いることにより測定することができる。例えば、炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測すればよい。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムなどが使用可能であり、以下の観測条件で観測することができる。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中
また、各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、平均粗さ(Ra)を算出し、単繊維5本について、平均粗さ(Ra)を求め、平均値を評価することが好ましい。
本発明において炭素繊維の総繊度は、400〜3000テックスであることが好ましい。また、炭素繊維のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本であり、さらに好ましくは3000〜50000本である。
本発明において、炭素繊維の単繊維径は4.5〜7.5μmが好ましい。7.5μm以下であることで、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるため、好ましく用いられる。6μm以下であることがより好ましく、さらには5.5μm以下であることが好ましい。4.5μm以上で工程における単繊維切断が起きにくくなり生産性が低下しにくく好ましい。
本発明において、X線源としてAlKα1,2を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度45°で測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.15以上の炭素繊維を用いることが重要である。より好ましくは0.18以上であり、さらに好ましくは0.20以上である。表面酸素濃度(O/C)が0.15以上であることで、炭素繊維の極性が高まり、炭素繊維表面と脂肪族エポキシ化合物(A)の相互作用が高まり、サイジング層内側(炭素繊維側)に脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在させることができ、サイジング層が偏在化した構造を形成できる。炭素繊維表面と脂肪族エポキシ化合物(A)の相互作用が高まることで、接着性を高く維持することが可能となる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができ、好ましい。0.30以下がより好ましい。
本発明において、X線源としてAlKα1,2を用いたX線光電子分光法によって(α)光電子脱出角度10°で測定される前記炭素繊維の繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)と、(β)光電子脱出角度90°で測定される前記炭素繊維の繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)との比率(β)/(α)が0.85以上であることが好ましい。
X線光電子分光法では、光電子脱出角度を変化させることにより、測定対象物から得られる情報の深さを制御することができる。本発明において、光電子脱出角度10°に比べて90°と大きくしていくと、炭素繊維表面だけでなく、炭素繊維表面から離れた情報を含んだ表面酸素濃度(O/C)を得ることができる。(β)/(α)の値が大きいということは、炭素繊維の極表層だけでなく内部方向に均一に酸素濃度(O/C)が分布していることを示している。本発明の弾性率が335〜600GPaの炭素繊維は、炭素繊維表面酸素濃度を上げていくと、炭素繊維の極性が高まり、サイジング層が偏在化した構造を形成することで接着性を高くすることができるが、弾性率が335GPa未満の炭素繊維に比べて、強度の低下が大きい。光電子脱出角度45°で測定される表面酸素濃度(O/C)が同一の場合でも、(β)/(α)を0.85以上に制御することで、強度が良好になることが分かった。接着性と強度の観点から、より好ましくは、0.90以上である。
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定した。光電子脱出角度10°〜90°で測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度(O/C)は、上記O1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面のカルボキシル基(COOH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が、0.003〜0.015の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面のカルボキシル基濃度(COOH/C)の、より好ましい範囲は、0.004〜0.010である。また、本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面の水酸基(OH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面水酸基濃度(COH/C)が、0.001〜0.050の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面の表面水酸基濃度(COH/C)は、より好ましくは0.010〜0.040の範囲である。
炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、水酸基濃度(COH/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04モル/リットルの無水三弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rが求められる。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表される。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02モル/リットルの三弗化エタノール気体、0.001モル/リットルのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04モル/リットルのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mが求められる。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に塗布したサイジング剤表面をX線源としてAlKα1,2を用い、光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.80であることを特徴とする。本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、この(a)/(b)が、特定の範囲、すなわち、0.50〜0.80である場合に、高い接着性を維持しながら、耐擦過性が高くなることを見出してなされたものである。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が、好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、比率(a)/(b)が、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.70以下である。(a)/(b)が大きいということは、表面に芳香族由来の化合物が多く、脂肪族由来の化合物が少ないことを示す。
X線光電子分光の測定法とは、超高真空中で試料の炭素繊維にX線を照射し、炭素繊維の表面から放出される光電子の運動エネルギーをエネルギーアナライザーとよばれる装置で測定する分析手法のことである。この試料の炭素繊維表面から放出される光電子の運動エネルギーを調べることにより、試料の炭素繊維に入射したX線のエネルギー値から換算される結合エネルギーが一意的に求まり、その結合エネルギーと光電子強度から、試料の最表面(〜nm)に存在する元素の種類と濃度、その化学状態を解析することができる。
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。光電子脱出角度15°で測定した。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定が行われる。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせる。このときに、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求められる。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVのピークの高さ(cps)を求め、(a)/(b)が算出される。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を400eVのX線を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度55°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a’)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b’)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a’)/(b’)より求められる(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことが好ましい。
(I)超音波処理前のサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a’)/(b’)の値
(II)サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で超音波処理することで、サイジング剤付着量を0.09〜0.20質量%まで洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a’)/(b’)の値
(III)0.50≦(I)≦0.80かつ0.6<(II)/(I)<0.8
超音波処理前のサイジング剤塗布炭素繊維表面の(a’)/(b’)値である(I)が上記範囲に入ることは、サイジング剤の表面に芳香族由来の化合物が多く、脂肪族由来の化合物が少ないことを示す。超音波処理前の(a’)/(b’)値である(I)は好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、超音波処理前の(a’)/(b’)値である(I)が、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.70以下である。
超音波処理前後のサイジング剤塗布炭素繊維表面の(a’)/(b’)値の比である(II)/(I)が上記範囲に入ることは、サイジング剤表面に比べて、サイジング剤の内層に脂肪族由来の化合物の割合が多いことを示す。(II)/(I)は好ましくは0.65以上である。また、(II)/(I)は0.85以下であることが好ましい。
(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことで、マトリックス樹脂との接着性に優れ、かつサイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が高く、その炭素繊維を適用したプリプレグの品位及び物性が良好になるため好ましい。
本発明において、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は350〜550g/eq.であることが好ましい。エポキシ当量が550g/eq.以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。また、炭素繊維に塗布されたエポキシ当量が350g/eq.以上であることで十分である。塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は360g/eq.以上が好ましく、380g/eq.以上がより好ましい。また、塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、530g/eq.以下が好ましく、500g/eq.以下がより好ましい。塗布されたサイジング剤のエポキシ当量を上記範囲とするためには、エポキシ当量180〜470g/eq.のサイジング剤を塗布することが好ましい。313g/eq.以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。また、222g/eq.以上であることで、十分である。
本発明におけるサイジング剤のエポキシ当量は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。エポキシ当量は220g/eq.以上が好ましく、240g/eq.以上がより好ましい。また、310g/eq.以下が好ましく、280g/eq.以下がより好ましい。また、本発明における炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、サイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。なお、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、塗布に用いるサイジング剤のエポキシ当量および塗布後の乾燥での熱履歴などにより、制御することができる。
本発明において、サイジング剤の炭素繊維への付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して、0.1〜10.0質量%の範囲であることが好ましい。サイジング剤の付着量が0.1質量%以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグ化および製織する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、炭素繊維シートの平滑性などの品位が優れる。一方、サイジング剤の付着量が10.0質量%以下であると、サイジング剤塗布炭素繊維の周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる複合材料においてボイド生成が抑えられ、複合材料の品位が優れ、同時に機械物性が優れる。より好ましくは0.4〜3.0質量%の範囲である。0.8〜2.0質量%であることが好ましい。
サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維を約2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定し、質量変化量を加熱処理前の質量で除した値(質量%)とする。
本発明において、炭素繊維に塗布され乾燥されたサイジング剤層の厚さは、2.0〜20nmの範囲内で、かつ、厚さの最大値が最小値の2倍を超えないことが好ましい。このような厚さの均一なサイジング剤層により、安定して大きな接着性向上効果が得られ、さらには、安定した高次加工性が得られる。
本発明で用いられる炭素繊維は、試長50mmでの単繊維強度が2800MPa以上であることが好ましい。単繊維強度は、サイジング剤塗布炭素繊維、サイジング剤塗布する前の炭素繊維のどちらを用いても測定することができる。単繊維強度が高くなることで、それを用いたコンポジットの物性が良好になるため好ましい。炭素繊維表面の表面酸素濃度(O/C)の分布を制御することで、接着性を維持しながら単繊維強度を維持することができる。試長50mmでの単繊維強度は3000MPa以上がより好ましく、3500MPa以上がさらに好ましい。
本発明で好ましく用いられるサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法について説明する。
少なくとも脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として少なくとも芳香族エポキシ化合物(B1)を含むサイジング剤を塗布し、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒熱処理することが好ましい。
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。特に乾湿式紡糸方法を用いることで、強度の高い炭素繊維を得ることができることから、より好ましい。
炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性をさらに向上するために、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmの炭素繊維が好ましく、該表面粗さの炭素繊維を得るためには、湿式紡糸方法により前駆体繊維を紡糸することが好ましい。
紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。溶剤としてはジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を使用する。ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミドが溶剤として好適である。
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中、あるいは空気中に吐出した後、紡糸浴中で凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、N,N−ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理ならびに炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高到達温度が1500〜3000℃が好ましい。1500℃以上で、高い弾性率の炭素繊維が得られる。より好ましくは1800℃以上、さらに好ましくは2000℃以上である。また、3000℃以下であることで、効率良く酸素含有官能基の導入を効率良く行うことができ好ましい。より好ましくは2500℃以下である。
得られた炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、酸化処理が施され、これにより、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸電解液およびアルカリ性電解液が好ましく用いられるが、結晶が発達した高い弾性率を有する炭素繊維を効率良く電解処理し、酸素含有官能基を導入する点から、酸性電解液を用いることが好ましい。
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。ペルオキソ二硫酸塩に代表される酸化力の高い電解処理液を用いても構わないが、長時間安定して酸化処理を行うことができる点から、なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。また、上記酸性電解液に、塩を併用しても構わないし、2種以上の酸性電解液を組み合わせることでさらに効率良く電解処理を行うことができる。硝酸と硫酸の組み合わせが好ましい。
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
異なる電解液中で複数回の異なる電解液を用いて電解処理しても構わない。例えば、酸電解液中で電解処理を行った後に、アルカリ性電解液中で電解処理を行うことができるし、アルカリ性電解液中で電解処理後に、酸性電解液中で電解処理を行うこともできる。
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。電解液の濃度が0.01mol/L以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5mol/L以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは45℃以上である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃未満であると、安全性の観点から有利になる。45℃以上にすることで、表面処理効率が向上し、低い電気量でも効率良く酸素含有官能基を導入することができるため好ましい。
本発明において、液相電解酸化における電気量は、150C/g以上が好ましい。炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましいが、150C/g以上で弾性率の高い炭素繊維においても酸素含有官能基が導入され、炭素繊維表面と脂肪族エポキシ化合物(A)の相互作用が大きくなる。電気量は180C/g以上が好ましく、200C/g以上がより好ましい。また、電気量の上限は、強度維持の観点から2000C/g以下で十分である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の重量当たり0.01〜100アンペア/gの範囲内であることが好ましい。電流密度が0.01アンペア/g以上であると、電解処理の効率が向上し、短時間で表面官能基を導入できるため、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が100アンペア/g以下であると、安全性の観点から有利になる。また、0.01〜1.0アンペア/gにすることで単繊維強度の低下を抑制できることから好ましい。0.02〜0.5アンペア/gが好ましい範囲である。また、1.0〜10.0アンペア/gにすることが、単繊維強度と電解処理効率を両立する観点から好ましい。より好ましくは、1.0〜3.0アンペア/gである。
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法またはスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは200℃以下、さらに好ましくは160℃以下で乾燥することが好ましい。一方、乾燥の効率を考慮すれば、乾燥温度は、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。
次に、上述した方法で製造した炭素繊維にサイジング剤を塗布する方法について説明する。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法では、少なくとも脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B)として少なくとも芳香族エポキシ化合物(B1)を含むサイジング剤を塗布した後に、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒熱処理することが好ましい。
脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)以外の成分として、エステル化合物(C)および/または、ウレタン化合物(D)、その他の成分を用いることができる。なお、脂肪族エポキシ化合物(A)、芳香族化合物(B)、エステル化合物(C)、ウレタン化合物(D)およびその他の成分は、前述した化合物を用いることができる。
本発明において、炭素繊維へのサイジング剤の塗布方法としては、溶媒に、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む芳香族化合物(B)、ならびにその他の成分を同時に溶解または分散したサイジング剤含有液を用いて、1回で塗布する方法や、各化合物(A)、(B1)、(B)やその他の成分を任意に選択し個別に溶媒に溶解または分散したサイジング剤含有液を用い、複数回において炭素繊維に塗布する方法が好ましく用いられる。本発明においては、サイジング剤の構成成分をすべて含むサイジング剤含有液を、炭素繊維に1回で塗布する1段付与を採用することが効果および処理のしやすさからより好ましく用いられる。
本発明にかかるサイジング剤は、サイジング剤成分を溶媒で希釈したサイジング剤含有液として用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、およびN,N−ジメチルアセトアミドが挙げられるが、なかでも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、界面活性剤で乳化させた水分散液あるいは水溶液が好ましく用いられる。
サイジング剤含有液は、芳香族化合物(B)を少なくとも含む成分を界面活性剤で乳化させることで水エマルジョン液を作成し、脂肪族エポキシ化合物(A)を少なくとも含む溶液を混合して調整することが好ましい。この時に、脂肪族エポキシ化合物(A)が水溶性の場合には、あらかじめ水に溶解して水溶液にしておき、芳香族化合物(B)を少なくとも含む水エマルジョン液と混合する方法が、乳化安定性の点から好ましく用いられる。また、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)およびその他の成分を界面活性剤で乳化させた水分散剤を用いることが、サイジング剤の長期安定性の点から好ましく用いることができる。
本発明に用いるサイジング剤は、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、脂肪族エポキシ化合物(A)を35〜65質量%、芳香族化合物(B)を35〜60質量%含むことが好ましい。
脂肪族エポキシ化合物(A)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することにより、接着性が向上する。また、65質量%以下とすることで、サイジング剤として脂肪族エポキシ化合物(A)以外の成分を用いることができ、当該サイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が高くなり、その後炭素繊維強化複合材料に成形した際の物性が良好になる。脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、38質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。
本発明のサイジング剤において、芳香族化合物(B)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することで、サイジング剤の外層中の芳香族化合物(B)の組成を高く維持することができるため、サイジング剤塗布炭素繊維の耐擦過性が向上する。また、60質量%以下とすることで、サイジング層中の傾斜構造を発現することができ、接着性を維持することができる。芳香族化合物(B)の配合量は、37質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。また、芳香族化合物(B)の配合量は、55質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。
本発明におけるサイジング剤には、エポキシ成分として、脂肪族エポキシ化合物(A)に加えて、芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)が含まれる。脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)の質量比(A)/(B1)は、57/43〜80/20であることが好ましい。(A)/(B1)を57/43以上とすることにより、炭素繊維表面に存在する脂肪族エポキシ化合物(A)の比率が大きくなり、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。その結果、得られた炭素繊維強化複合材料の引張強度などのコンポジット物性が高くなる。また、(A)/(B1)を80/20以下とすることにより、反応性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維表面に存在する量が少なくなり、マトリックス樹脂との反応性が抑制できるため好ましい。(A)/(B1)の質量比は71/29以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましい。また、(A)/(B1)の質量比は75/25以下がより好ましく、73/27以下がさらに好ましい。
本発明において、サイジング剤含有液におけるサイジング剤の濃度は、通常は0.2質量%〜20質量%の範囲が好ましい。
サイジング剤の炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラを介してサイジング剤含有液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング剤含有液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング剤含有液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング剤含有液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
サイジング液を炭素繊維に塗布する際のサイジング剤含有液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤の濃度変動を抑えるため、10〜50℃の範囲が好ましい。また、サイジング剤含有液を付与した後に、余剰のサイジング剤含有液を絞り取る絞り量を調整することにより、サイジング剤の付着量の調整および炭素繊維内への均一付与ができる。
炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒間熱処理することが好ましい。熱処理条件は、好ましくは170〜250℃の温度範囲で30〜500秒間であり、より好ましくは180〜240℃の温度範囲で30〜300秒間である。熱処理条件が、160℃未満および/または30秒未満であると、サイジング剤の脂肪族エポキシ化合物(A)と炭素繊維表面の酸素含有官能基との間の相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となったり、溶媒を十分に乾燥除去できない場合がある。一方、熱処理条件が、260℃を超えるおよび/または600秒を超える場合、サイジング剤の分解および揮発が起きて、炭素繊維との相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となる場合がある。
また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。マイクロ波照射および/または赤外線照射によりサイジング剤塗布炭素繊維を加熱処理した場合、マイクロ波が炭素繊維内部に侵入し、吸収されることにより、短時間に被加熱物である炭素繊維を所望の温度に加熱できる。また、マイクロ波照射および/または赤外線照射により、炭素繊維内部の加熱も速やかに行うことができるため、炭素繊維束の内側と外側の温度差を小さくすることができ、サイジング剤の接着ムラを小さくすることが可能となる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維および本発明の製造方法で得られたサイジング剤塗布炭素繊維は、マトリックス樹脂との組み合わせで、炭素繊維強化複合材料として用いることができる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂(ここで説明される樹脂は、樹脂組成物であってもよい)が用いられる。高い弾性率を有する炭素繊維は、弾性率が低い炭素繊維と比較して接着性が低く、耐擦過性が低いのが課題である。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を用いることで、弾性率、接着強度の高い、良好な物性を有する炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、例えば、トウ、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド等の形態で好適に用いられる。
次に、マトリックス樹脂に熱硬化性樹脂を用いた、炭素繊維強化熱硬化性樹脂系複合材料について説明する。
特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、炭素繊維が一方向に引き揃えたトウが最も適しており、さらに、マトリックス樹脂を含浸したプリプレグを用いる方法が好ましく用いられる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維および本発明の製造方法で得られたサイジング剤塗布炭素繊維は、熱硬化性樹脂との組み合わせでプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料に用いることができる。本発明において、プリプレグは、前述したサイジング剤塗布炭素繊維、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂を含む。
本発明で用いられる熱硬化性樹脂は、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成する樹脂であれば特に限定されない。かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂および熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられ、これらの変性体および2種類以上ブレンドした樹脂なども用いることができる。また、これらの熱硬化性樹脂は、加熱により自己硬化するものであっても良いし、硬化剤や硬化促進剤などを配合するものであっても良い。
エポキシ樹脂に用いるエポキシ化合物としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノール型エポキシ化合物、アミン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、レゾルシノール型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、イソシアネート変性エポキシ化合物、テトラフェニルエタン型エポキシ化合物、トリフェニルメタン型エポキシ化合物などの中から1種以上を選択して用いることができる。
ここで、ビスフェノール型エポキシ化合物とは、ビスフェノール化合物の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものであり、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、もしくはこれらビスフェノールのハロゲン、アルキル置換体、水添品等が挙げられる。また、単量体に限らず、複数の繰り返し単位を有する高分子量体も好適に使用することができる。
ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、“jER(登録商標)”505、5050、5051、5054、5057(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、ST5100(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールF型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”806、807、4002P、4004P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830、835(以上、DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001、YDF2004(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。テトラメチルビスフェノールF型エポキシ化合物としては、YSLV−80XY(新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールS型エポキシ化合物としては、“エピクロン(登録商標)”EXA−154(DIC(株)製)などが挙げられる。
また、アミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキノール置換体、水添品などが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、MY721(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、ELM120(以上、住友化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)などが挙げられる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品の市販品としては、TETRAD−X、TETRAD−C(以上、三菱ガス化学(株)製)などが挙げられる。
フェノールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N−740、N−770、N−775(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
クレゾールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、N−665、N−670、N−673、N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
レゾルシノール型エポキシ化合物の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
グリシジルアニリン型エポキシ化合物の市販品としては、GANやGOT(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000H、YX4000、YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200L(エポキシ価4.0〜4.1meq./g、軟化点54〜58)、“エピクロン(登録商標)”HP7200(エポキシ価3.9meq./g、軟化点59〜63)、“エピクロン(登録商標)”HP7200H(エポキシ価3.6meq./g、軟化点80〜85)、“エピクロン(登録商標)”HP7200HH(エポキシ3.6meq./g、軟化点87〜92)(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、XD−1000−L(エポキシ価3.9〜4.2meq./g、軟化点60〜70)、XD−1000−2L(エポキシ価4.0〜4.3meq./g、軟化点53〜63)(以上、日本化薬(株)製)、“Tactix(登録商標)”556(エポキシ価4.3〜4.7meq./g、軟化点79℃)(Vantico Inc社製)などが挙げられる。
イソシアネート変性エポキシ化合物の市販品としては、オキサゾリドン環を有するXAC4151、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)やACR1348((株)ADEKA製)などが挙げられる。
テトラフェニルエタン型エポキシ化合物の市販品としては、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン型エポキシ化合物である“jER(登録商標)”1031(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
トリフェニルメタン型エポキシ化合物の市販品としては、“タクチックス(登録商標)”742(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
不飽和ポリエステル樹脂としては、α,β−不飽和ジカルボン酸を含む酸成分とアルコールとを反応させて得られる不飽和ポリエステルを、重合性不飽和単量体に溶解したものが挙げられる。α,β−不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等およびこれらの酸無水物等の誘導体等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。また、必要に応じてα,β−不飽和ジカルボン酸以外の酸成分としてフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和ジカルボン酸およびこれらの酸無水物等の誘導体をα,β−不飽和ジカルボン酸と併用してもよい。
アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族グリコール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド(1〜100モル)付加物、キシレングリコール等の芳香族ジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール等が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。
不飽和ポリエステル樹脂の具体例としては、例えば、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキサイド(以下、EOと略す)付加物との縮合物、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのプロピレンオキサイド(以下、POと略す。)付加物との縮合物およびフマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのEOおよびPO付加物(EOおよびPOの付加は、ランダムでもブロックでもよい)との縮合物等が含まれ、これらの縮合物は必要に応じてスチレン等のモノマーに溶解したものでもよい。不飽和ポリエステル樹脂の市販品としては、“ユピカ(登録商標)”(日本ユピカ(株)製)、“リゴラック(登録商標)”(昭和電工(株)製)、“ポリセット(登録商標)”(日立化成工業(株)製)等が挙げられる。
ビニルエステル樹脂としては、前記エポキシ化合物とα,β−不飽和モノカルボン酸とをエステル化させることで得られるエポキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。α,β−不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、チグリン酸および桂皮酸等が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。ビニルエステル樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ化合物(メタ)アクリレート変性物(ビスフェノールA型エポキシ化合物のエポキシ基と(メタ)アクリル酸のカルボキシル基とが反応して得られる末端(メタ)アクリレート変性樹脂等)等が含まれ、これらの変性物は必要に応じてスチレン等のモノマーに溶解したものでもよい。ビニルエステル樹脂の市販品としては、“ディックライト(登録商標)”(DIC(株)製)、“ネオポール(登録商標)”(日本ユピカ(株)製)、“リポキシ(登録商標)”(昭和高分子(株)製)等が挙げられる。
ベンゾオキサジン樹脂としては、o−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、m−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、p−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−メチルアミン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−シクロヘキシルアミン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−m−トルイジン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−3,5−ジメチルアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA−アミン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールF−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールS−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ジヒドロキシジフェニルスルホン−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ジヒドロキシジフェニルエーテル−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾフェノン型ベンゾオキサジン樹脂、ビフェニル型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールAF−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA−メチルアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−ジアミノジフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、トリフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、およびフェノールフタレイン型ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。ベンゾオキサジン樹脂の市販品としては、BF−BXZ、BS−BXZ、BA−BXZ(以上、小西化学工業(株)製)等が挙げられる。
フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、t−ブチルフェノール、ノニルフェノール、カシュー油、リグニン、レゾルシンおよびカテコール等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドおよびフルフラール等のアルデヒド類との縮合により得られる樹脂が挙げられ、ノボラック樹脂やレゾール樹脂等が挙げられる。ノボラック樹脂は、シュウ酸等の酸触媒存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はフェノール過剰の条件で反応させることで得られる。レゾール樹脂は、水酸化ナトリウム、アンモニア又は有機アミン等の塩基触媒の存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はホルムアルデヒド過剰の条件で反応させることにより得られる。フェノール樹脂の市販品としては、“スミライトレジン(登録商標)”(住友ベークライト(株)製)、レヂトップ(群栄化学工業(株)製)、“AVライト(登録商標)”(旭有機材工業(株)製)等が挙げられる。
尿素樹脂としては、尿素とホルムアルデヒドとの縮合によって得られる樹脂が挙げられる。尿素樹脂の市販品としては、UA−144((株)サンベーク製)等が挙げられる。
メラミン樹脂としては、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合により得られる樹脂が挙げられる。メラミン樹脂の市販品としては、“ニカラック(登録商標)”((株)三和ケミカル製)等が挙げられる。
熱硬化性ポリイミド樹脂としては、少なくとも主構造にイミド環を含み、かつ末端又は主鎖内にフェニルエチニル基、ナジイミド基、マレイミド基、アセチレン基等から選ばれるいずれか一つ以上を含む樹脂が挙げられる。ポリイミド樹脂の市販品としては、PETI−330(宇部興産(株)製)等が挙げられる。
これらの熱硬化性樹脂の中でも、機械特性のバランスに優れ、硬化収縮が小さいという利点を有するため、エポキシ化合物(E)を少なくとも含むエポキシ樹脂を用いることが好ましい。特にエポキシ化合物(E)として複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物を少なくとも含有するエポキシ樹脂が好ましい。複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物を少なくとも含有するエポキシ樹脂は、多架橋密度が高く、炭素繊維強化複合材料の耐熱性および圧縮強度を向上させることができるため好ましい。
複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾール、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリンおよびN,N−ジグリシジル−4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン等が挙げられる。これらの化合物は、多くの場合、フェノキシアニリン誘導体にエピクロロヒドリンを付加し、アルカリ化合物により環化して得られる。分子量の増加に伴い粘度が増加していくため、取扱い性の点から、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリンが特に好ましく用いられる。
フェノキシアニリン誘導体としては、具体的には、4−フェノキシアニリン、4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、4−(3−メチルフェノキシ)アニリン、4−(2−メチルフェノキシ)アニリン、4−(4−エチルフェノキシ)アニリン、4−(3−エチルフェノキシ)アニリン、4−(2−エチルフェノキシ)アニリン、4−(4−プロピルフェノキシ)アニリン、4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリン、4−(4−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(3−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(2−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(4−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(2−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−[4−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[3−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[2−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−(2−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−(1−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−[(1,1’−ビフェニル−4−イル)オキシ]アニリン、4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(3−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2−ニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−アミノフェニルフェニルエーテル、2−ニトロ−4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−フェノキシアニリン、4−(2−クロロフェノキシ)アニリン、4−(3−クロロフェノキシ)アニリン、4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジクロロフェノキシ)アニリン、3−クロロ−4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、および4−(4−クロロ−3−トリルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品として、例えば、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(東都化成(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)等を使用することができる。トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾールとしては、例えば、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0510、“アラルダイト(登録商標)”MY0600(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)等を使用することができる。
複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物として、上述した中でもグリシジルアミン骨格を少なくとも1つ有し、かつエポキシ基を3以上有する芳香族エポキシ化合物であることが好ましい。
エポキシ基を3以上有するグリシジルアミン型芳香族エポキシ化合物を含むエポキシ樹脂は、耐熱性を高める効果があり、その割合は、エポキシ樹脂中に30〜100質量%含まれていることが好ましく、より好ましい割合は50質量%以上である。グリシジルアミン型芳香族エポキシ化合物の割合が30質量%以上で、炭素繊維強化複合材料の圧縮強度が向上、耐熱性が良好になるため好ましい。
これらのエポキシ化合物を用いる場合、必要に応じて酸や塩基などの触媒や硬化剤を添加してよい。例えば、エポキシ樹脂の硬化には、ハロゲン化ホウ素錯体、p−トルエンスルホン酸塩などのルイス酸や、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタンおよびそれらの誘導体や異性体などのポリアミン硬化剤などが好ましく用いられる。
本発明のプリプレグにおいて、硬化剤には、潜在性硬化剤(F)を用いることが好ましい。ここで説明される潜在性硬化剤(F)は、本発明の熱硬化性樹脂の硬化剤であって、温度をかけることで活性化してエポキシ基等の反応基と反応する硬化剤であり、70℃以上で反応が活性化することが好ましい。ここで、70℃で活性化するとは、反応開始温度が70℃の範囲にあることをいう。かかる反応開始温度(以下、活性化温度という)は例えば、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。具体的には、エポキシ価5.2〜5.4meq./g程度のビスフェノールA型エポキシ化合物100質量部に評価対象の硬化剤10質量部を加えたエポキシ樹脂組成物について、示差走査熱量分析により得られる発熱曲線の変曲点の接線とベースラインの接線の交点から求められる。
潜在性硬化剤(F)は、芳香族アミン硬化剤、またはジシアンジアミドもしくはその誘導体であることが好ましい。芳香族アミン硬化剤としては、エポキシ樹脂硬化剤として用いられる芳香族アミン類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、3,3’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−10)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールの2−エチルヘキサン酸エステル等を使用することができる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
芳香族アミン硬化剤の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA−220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’−DAS(三井化学(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DEA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DIPA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−MIPA(Lonza(株)製)および“Lonzacure(登録商標)”DETDA 80(Lonza(株)製)などが挙げられる。
ジシアンジアミドもしくはその誘導体とは、アミノ基、イミノ基およびシアノ基の少なくとも一つを用いて反応させた化合物であり、例えば、o−トリルビグアニド、ジフェニルビグアニドや、ジシアンジアミドのアミノ基、イミノ基またはシアノ基にエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ化合物のエポキシ基を予備反応させたものである。
ジシアンジアミドまたはその誘導体の市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
芳香族アミン硬化剤、ジシアンジアミドまたはその誘導体以外の硬化剤としては、脂環式アミンなどのアミン、フェノール化合物、酸無水物、ポリアミノアミド、有機酸ヒドラジド、イソシアネートを芳香族ジアミン硬化剤に併用して用いてもよい。
潜在性硬化剤(F)として使用するフェノール化合物としては、マトリックス樹脂として上記で例示したフェノール化合物を任意に用いることができる。
また、潜在性硬化剤の総量は、全エポキシ樹脂成分のエポキシ基1当量に対し、活性水素基が0.6〜1.2当量の範囲となる量を含むことが好ましく、より好ましくは0.7〜0.9当量の範囲となる量を含むことである。ここで、活性水素基とは、硬化剤成分のエポキシ基と反応しうる官能基を意味し、活性水素基が0.6当量に満たない場合は、硬化物の反応率、耐熱性、弾性率が不足し、また、繊維強化複合材料のガラス転移温度や強度が不足する場合がある。また、活性水素基が1.2当量を超える場合は、硬化物の反応率、ガラス転移温度、弾性率は十分であるが、塑性変形能力が不足するため、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。
また、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化を促進させることを目的に、硬化促進剤を配合することもできる。
硬化促進剤としては、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾールとその塩、トリフェニルホスフィンまたはその誘導体、カルボン酸金属塩や、ルイス酸類やブレンステッド酸類とその塩類などが挙げられる。中でも、保存安定性と触媒能力のバランスから、ウレア化合物が好適に用いられる。
特に、硬化促進剤としてウレア化合物が用いられる場合、潜在性硬化剤としてジシアンジアミドまたはその誘導体と組み合わせて用いられることが好適である。
ウレア化合物としては、例えば、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3−フェニル−1,1−ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上、Emerald Performance Materials,LLC製)などが挙げられる。
ウレア化合物の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して1〜4質量部とすることが好ましい。かかるウレア化合物の配合量が1質量部に満たない場合は、反応が十分に進行せず、硬化物の弾性率と耐熱性が不足することがある。また、かかるウレア化合物の配合量が4質量部を超える場合は、エポキシ化合物の自己重合反応が、エポキシ化合物と硬化剤との反応を阻害するため、硬化物の靭性が不足することや、弾性率が低下することがある。
また、これらエポキシ樹脂と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や保存安定性向上に有効な場合がある。
本発明のプリプレグには、靱性や流動性を調整するために、熱可塑性樹脂が含まれていることが好ましく、耐熱性の観点から、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、フェノキシ樹脂、ポリオレフィンから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。また、熱可塑性樹脂のオリゴマーを含ませることができる。また、エラストマー、フィラーおよびその他の添加剤を配合することもできる。なお、熱可塑性樹脂は、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂に含まれていると良い。さらに、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂が用いられる場合、熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂や、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子等を配合することができる。かかるエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂としては、樹脂と炭素繊維との接着性改善効果が期待できる水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
エポキシ樹脂可溶で、水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂として、アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂、アミド結合を有する熱可塑性樹脂やスルホニル基を有する熱可塑性樹脂を使用することができる。
かかるアルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂を挙げることができ、また、アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドンを挙げることができ、さらに、スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンを挙げることができる。ポリアミド、ポリイミドおよびポリスルホンは、主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子に置換基を有してもよい。
エポキシ樹脂に可溶で水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂の市販品を例示すると、ポリビニルアセタール樹脂として、デンカブチラール(電気化学工業(株)製)、“ビニレック(登録商標)”(チッソ(株)製)、フェノキシ樹脂として、“UCAR(登録商標)”PKHP(ユニオンカーバイド(株)製)、ポリアミド樹脂として“マクロメルト(登録商標)”(ヘンケル白水(株)製)、“アミラン(登録商標)”(東レ(株)製)、ポリイミドとして“ウルテム(登録商標)”(SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)、“Matrimid(登録商標)”5218(チバ(株)製)、ポリスルホンとして“スミカエクセル(登録商標)”(住友化学(株)製)、“UDEL(登録商標)”、“RADEL(登録商標)”(以上、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)、ポリビニルピロリドンとして、“ルビスコール(登録商標)”(ビーエーエスエフジャパン(株)製)を挙げることができる。
また、アクリル系樹脂は、エポキシ樹脂との相溶性が高く、増粘等の流動性調整のために好適に用いられる。アクリル系樹脂の市販品を例示すると、“ダイヤナール(登録商標)”BRシリーズ(三菱レイヨン(株)製)、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M,M100,M500(松本油脂製薬(株)製)、“Nanostrength(登録商標)”E40F、M22N、M52N(アルケマ(株)製)などを挙げることができる。
特に、耐熱性をほとんど損なわずにこれらの効果を発揮できることから、ポリエーテルスルホンやポリエーテルイミドが好適である。ポリエーテルスルホンとしては、“スミカエクセル(登録商標)”3600P、“スミカエクセル”(登録商標)5003P、“スミカエクセル(登録商標)”5200P、“スミカエクセル(登録商標)”、以上、住友化学工業(株)製)7200P、“Virantage(登録商標)”PESU VW−10200、“Virantage(登録商標)” “PESU VW−10700(登録商標)”、以上、(ソルベイアドバンスポリマーズ(株)製)、“Ultrason(登録商標)”2020SR(BASF(株)製)、ポリエーテルイミドとしては、“ウルテム(登録商標)”1000、“ウルテム(登録商標)”1010、“ウルテム(登録商標)”1040(以上、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)などを使用することができる。
かかる熱可塑性樹脂は、特に含浸性を中心としたプリプレグ作製工程に支障をきたさないように、エポキシ樹脂組成物中に均一溶解しているか、粒子の形態で微分散していることが好ましい。
また、かかる熱可塑性樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に溶解せしめる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して1〜40質量部が好ましく、より好ましくは1〜25質量部である。一方、分散させて用いる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して10〜40質量部が好ましく、より好ましくは15〜30質量部である。熱可塑性樹脂がかかる配合量に満たないと、靭性向上効果が不十分となる場合がある。また、熱可塑性樹脂が前記範囲を超える場合は、含浸性、タック・ドレープおよび耐熱性が低下する場合がある。
さらに、本発明のマトリックス樹脂を改質するために、上述した熱可塑性樹脂以外にエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、エラストマー、フィラー、ゴム粒子、熱可塑性樹脂粒子、無機粒子およびその他の添加剤を配合することもできる。
本発明に好ましく用いられるエポキシ樹脂には、ゴム粒子を配合することもできる。かかるゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。
架橋ゴム粒子の市販品としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるFX501P(JSR(株)製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(日本触媒(株)製)、YR−500シリーズ(新日鐵化学(株)製)等を使用することができる。
コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL−2655(呉羽化学工業(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC−3355、TR−2122(以上、武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる“PARALOID(登録商標)”EXL−2611、EXL−3387(以上、Rohm&Haas社製)、“カネエース(登録商標)”MX(カネカ(株)製)等を使用することができる。
熱可塑性樹脂粒子としては、先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。中でも、ポリアミド粒子やポリイミド粒子が好ましく用いられ、ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11やナイロン6/12共重合体やエポキシ化合物で変性されたナイロン(エポキシ変性ナイロン)は、特に良好な熱硬化性樹脂との接着強度を与えることができることから、落錘衝撃時の炭素繊維強化複合材料の層間剥離強度が高く、耐衝撃性の向上効果が高いため好ましい。ポリアミド粒子の市販品として、SP−500、SP−10(東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”(アルケマ(株)製)等を使用することができる。
この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。本発明では、本発明の効果を損なわない範囲において、エポキシ樹脂組成物の増粘等の流動性調整のため、エポキシ樹脂組成物に、シリカ、アルミナ、スメクタイトおよび合成マイカ等の無機粒子を配合することができる。
本発明のプリプレグは、炭素繊維同士の接触確率を高め炭素繊維強化複合材料の導電性を向上させる目的で、導電性フィラーを混合して用いることも好ましい。このような導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長法炭素繊維(VGCF)、フラーレン、金属ナノ粒子、カーボン粒子、金属めっきした先に例示した熱可塑性樹脂の粒子、金属めっきした先に例示した熱硬化性樹脂の粒子などが挙げられ、単独で使用しても併用してもよい。なかでも安価で効果の高いカーボンブラック、カーボン粒子が好ましく用いられ、かかるカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなどを使用することができ、これらを2種類以上ブレンドしたカーボンブラックも好適に用いられる。また、かかるカーボン粒子として“ベルパール(登録商標)”C−600、C−800、C−2000(鐘紡(株)製)、“NICABEADS(登録商標)”ICB、PC、MC(日本カーボン(株)製)などが具体的に挙げられる。金属めっきした熱硬化性樹脂粒子としてはジビニルベンゼンポリマー粒子にニッケルをメッキし、さらにその上に金をメッキした粒子“ミクロパール(登録商標)”AU215などが具体的に挙げられる。
次に、本発明のプリプレグの製造方法について説明する。
本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸せしめたものである。プリプレグは、例えば、マトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法あるいは加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
ウェット法では、サイジング剤塗布炭素繊維束をマトリックス樹脂が含まれる液体に浸漬した後、引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。
また、ホットメルト法では、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接サイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法、あるいは一旦マトリックス樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムをまず作成し、ついでサイジング剤塗布炭素繊維束の両側あるいは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧してマトリックス樹脂をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法により、プリプレグを製造することができる。ホットメルト法は、プリプレグ中に残留する溶媒がないため好ましい手段である。
本発明のプリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形するには、プリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながらマトリックス樹脂を加熱硬化させる方法などを用いることができる。
熱および圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法などがあり、特にスポーツ用品に関しては、ラッピングテープ法と内圧成形法が好ましく採用される。より高品質で高性能の積層複合材料が要求される航空機用途においては、オートクレーブ成形法が好ましく採用される。各種車輌外装にはプレス成形法が好ましく用いられる。
本発明のプリプレグの炭素繊維質量分率は、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。炭素繊維質量分率が低すぎると、得られる複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、炭素繊維質量分率が高すぎると、マトリックス樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
本発明におけるサイジング剤塗布炭素繊維としては、収束性、平滑性が高く、接着性が高いことから、オープンモールド形式、加圧成形、連続成形、マッチドダイ成形など、目的とする用途に合わせて任意の成形方法によって炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
また、本発明において炭素繊維強化複合材料を得る方法としては、上記プリプレグを用いるオートクレーブ成形等の他に、ハンドレイアップ、RTM、“SCRIMP(登録商標)”、フィラメントワインディング、プルトルージョンおよびSMCプレス成形、リアクションインジェクションモールド成形、レジンフィルムインフュージョンなどの成形法を目的に応じて選択し適用することができる。これらのいずれかの成形法を適用することにより、前述のサイジング剤塗布炭素繊維と熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む繊維強化複合材料が得られる。
次に、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いた、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物、およびそれを成形してなる炭素繊維強化複合材料について説明する。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物として好ましく用いられる。本発明にかかる炭素繊維強化熱可塑性樹脂および炭素繊維強化複合材料について説明する。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は集束性、平滑性が高く、炭素繊維強化熱可塑性樹脂として用いた場合には、得られる成形体の品位が良く、コンポジット物性が向上することから好ましい。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、酸変性ポリエチレン(m−PE)、酸変性ポリプロピレン(m−PP)、酸変性ポリブチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド樹脂;ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN);ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;液晶ポリマー(LCP)等の結晶性樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)等のポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、未変性または変性されたポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)等の非晶性樹脂;フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、さらにポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ポリイソプレン系エラストマー、フッ素系樹脂およびアクリロニトリル系エラストマー等の各種熱可塑エラストマー等、これらの共重合体および変性体等から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
中でも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂およびポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂であれば、サイジング剤外層に多く存在する芳香族化合物(B)との相互作用が大きく、サイジング剤と熱可塑性樹脂の相互作用が強くなることで強固な界面を形成し、得られるコンポジットの物性が向上するため好ましい。
また、本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、耐熱性の観点からは、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂が好ましい。寸法安定性の観点からは、ポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。摩擦・磨耗特性の観点からは、ポリオキシメチレン樹脂が好ましい。強度の観点からは、ポリアミド樹脂が好ましい。表面外観の観点からは、ポリカーボネートやポリスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が好ましい。軽量性の観点からは、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
より好ましくは、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン系樹脂、およびポリオレフィン系樹脂から選ばれる一種以上あるいはポリアミドである。ポリアリーレンスルフィド樹脂は耐熱性の点から、ABS等のポリスチレン系樹脂は寸法安定性の点から、ポリオレフィン系樹脂は軽量性の点から特に好ましい。
また、ポリアミドなどに代表される吸水性の高い樹脂を用いた場合には、サイジング剤外層に多く存在する芳香族化合物(B)による水分率低下の効果により、吸水時にも物性が維持されるため好ましい。特にポリアミド樹脂は強度が高く好ましい。
なお、熱可塑性樹脂としては、本発明の目的を損なわない範囲で、これらの熱可塑性樹脂を複数種含む熱可塑性樹脂組成物が用いられても良い。
次に本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を製造するための好ましい態様について説明する。
本発明における炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を製造方法では、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む芳香族化合物(B)を少なくとも含むサイジング剤を炭素繊維に塗布する工程、および、サイジング剤が塗布された炭素繊維を熱可塑性樹脂に配合する工程を有することが好ましい。サイジング剤が塗布された炭素繊維は上述のサイジング剤を炭素繊維に塗布する工程によって得ることができる。
また、本発明のサイジング剤が塗布された炭素繊維を熱可塑性樹脂に配合する方法としては限定されないが、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維と熱可塑性樹脂を同時に溶融混練する方法が挙げられる。サイジング剤が塗布された炭素繊維と熱可塑性樹脂を溶融混練することで、炭素繊維が均一に分散することができ、品位が良好で、力学特性に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
本発明において、サイジング剤が塗布された炭素繊維1〜80質量%、および熱可塑性樹脂20〜99質量%からなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。
前記溶融混練の方法は特に限定されず、公知の加熱溶融混合装置を使用することができる。具体的には、単軸押出機、二軸押出機、それらの組み合わせの二軸押出機、ニーダー・ルーダー等を使用することができる。中でも、混合力の観点から二軸押出機を用いることが好ましく、より好ましくは、ニーディングゾーンが2箇所以上ある二軸押出機を用いることである。
サイジング剤が塗布された炭素繊維を上記加熱溶融混合装置に投入する際の形態は、連続繊維状、特定の長さに切断した不連続繊維状のいずれでも用いることができる。連続繊維状で直接加熱溶融混合装置に投入した場合(ダイレクトロービングの場合)、炭素繊維の折損が抑えられ、炭素繊維強化複合材料の中でも繊維長を確保できるため、力学特性に優れた炭素繊維強化複合材料を得ることができる。また、炭素繊維を切断する工程が省けるため、生産性が向上する。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物には、力学特性を阻害しない範囲で、用途等に応じて、上記以外の他の成分が含まれていてもよく、また、充填剤や添加剤等が含まれていてもよい。充填剤あるいは添加剤としては、無機充填剤、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、発泡剤およびカップリング剤などが挙げられる。
添加剤として、特に、難燃性が要求される用途向けには難燃剤の添加や、導電性が要求される用途向けには導電性付与剤の添加が好ましく採用される。難燃剤としては、例えば、ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、窒素化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物、フェノール化合物および金属水酸化物などの難燃剤を使用することができる。中でも、環境負荷を抑えるという観点から、ポリリン酸アンモニウム、ポリホスファゼン、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、ホスフィンオキシドおよび赤リンなどのリン化合物を好ましく使用することができる。
導電性付与剤としては、例えば、カーボンブラック、アモルファスカーボン粉末、天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、ピッチマイクロビーズ、気相成長炭素繊維およびカーボンナノチューブ等を採用することができる。
本発明におけるサイジング剤塗布炭素繊維には収束性、平滑性が高く、接着性が良いことから、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、ペレット、スタンパブルシートおよびプリプレグ等の成形材料の形態で使用することができる。最も好ましい成形材料はペレットである。ペレットは、一般的には、熱可塑性樹脂ペレットと連続状炭素繊維もしくは特定の長さに切断した不連続炭素繊維(チョップド炭素繊維)を押出機中で溶融混練し、押出、ペレタイズすることによって得られたものをさす。
上記成形材料の成形方法としては、例えば、射出成形(射出圧縮成形、ガスアシスト射出成形およびインサート成形など)、ブロー成形、回転成形、押出成形、プレス成形、トランスファー成形およびフィラメントワインディング成形が挙げられる。中でも、生産性の観点から射出成形が好ましく用いられる。これらの成形方法により、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
本発明のプリプレグから得られた炭素繊維強化複合材料は、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途、さらにはゴルフシャフト、バット、バトミントンやテニスラケットなどスポーツ用途に好ましく用いられる。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形してなる炭素繊維強化複合材料の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、パネルなどの建材用途、モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係、排気系または吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、CNGタンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュールなどの自動車、二輪車関連部品、部材および外板やランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、風車の羽根などが挙げられる。特に、航空機部材、風車の羽根、自動車外板および電子機器の筐体およびトレイやシャーシなどに好ましく用いられる。
本発明のプリプレグを管状に硬化させてなる繊維強化複合材料製管状体は、ゴルフシャフト、釣り竿などに好ましく用いることができる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。なお、実施例7、9は本発明の参考実施例である。
(1)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面のAlKα1,2でのX線光電子分光法
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線源としてAlKα1,2を用いたX線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。なお、光電子脱出角度15°で実施した。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
なお、(b)より(a)のピークが大きい場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1に合わせた場合、C1sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた後、上記手法にて(a)/(b)を算出した。
(2)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤の洗浄
サイジング剤塗布炭素繊維を2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施した。続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥した。
(3)サイジング剤塗布炭素繊維の400eVでのX線光電子分光法
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a’)、(b’)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維およびサイジング剤を洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源として佐賀シンクロトロン放射光を用い、励起エネルギーは400eVで実施した。試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。なお、光電子脱出角度55°で実施した。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b’)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と、(a’)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a’)/(b’)を算出した。
なお、(b’)より(a’)のピークが大きい場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1に合わせた場合、C1sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた後、上記手法にて(a’)/(b’)を算出した。
(4)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/三フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(5)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1,2 を用い、光電子脱出角度を10°〜90°の間で変更して測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
光電子脱出角度が45°の時のO/Cが0.15未満が×、0.15以上0.18未満が△、0.18以上0.20未満が○、0.20以上が◎であり、本発明においては◎、○、△が好ましい範囲である。
(α)光電子脱出角度が10°の時のO/Cと、(β)光電子脱出角度が90°の時のO/Cを算出し、両者の比率(β)/(α)を算出した。
(6)サイジング付着量の測定方法
約2gのサイジング付着炭素繊維束を秤量(W1)(小数点第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(小数点第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回行い、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
(7)界面剪断強度(IFSS)の測定
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(イ)〜(ニ)の手順で行った。
(イ)樹脂の調整
ビスフェノールA型エポキシ化合物“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)14.5質量部を、それぞれ容器に入れた。その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱した。その後、両者をよく混合し、80℃の温度で約15分間真空脱泡を行った。
(ロ)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥を行った。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmだった。
(ハ)樹脂注型から硬化まで
上記(ロ)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(イ)の手順で調整した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/分で75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5℃/分で125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温した。その後、脱型して試験片を得た。
(ニ)界面剪断強度(IFSS)の測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数N(個)を測定した。次に、平均破断繊維長laを、la(μm)=22×1000(μm)/N(個)の式により計算した。次に、平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度IFSSを、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
・界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
IFSSの値が35MPa以上を○、30MPa以上35MPa未満を△、30MPa未満を×とした。○、△が本発明において好ましい範囲である。
(8)耐擦過性
表面が平滑な直径10mmのステンレス棒5本を50mm間隔で、それぞれ平行にかつ炭素繊維糸条が120°の角度で接触しながら通過するようにジグザグに配置した。糸条走行時の入り側から1、2、4、5本目にフィラメント数24,000本の炭素繊維糸条に初期張力650gを付加しながら3m/分の速度で通過させ、繊維糸条に対して直角方向からレーザー光線を照射する。フィラメント数12,000本の場合は、合糸して24,000本にして評価した。レーザー光線を遮蔽する回数から発生した毛羽個数をカウントし、個/mで表示する。毛羽個数が20個/m未満を○、20個/m以上30個/m未満を△、30個/m以上を×とした。○、△が本発明において好ましい範囲である。
(9)繊維強化複合材料の0°引張強度(c)測定
作成後24時間以内の一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、これを一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm2、2時間で硬化させ、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を得た。この一方向強化材を幅12.7mm、長さ230mmにカットし、両端に幅1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。このようにして得られた試験片について、インストロン社製万能試験機を用いてクロスヘッドスピード1.27mm/分で引張試験を行った。
本発明において、0°引張強度の値(c)MPaを(2)で求めたストランド強度の値で割り返したものを強度利用率(%)として、次式で求めた。
強度利用率=引張強度/((CF目付/190)×Vf/100×ストランド強度)×100
CF目付=190g/m2
Vf=56%
強度利用率が83%以上を◎、80%以上83%未満を○、78%以上80%未満を△、78%未満を×とした。◎、○が本発明において好ましく高い範囲である。
(10)射出成形品の曲げ特性評価方法
得られた射出成形品から、長さ130±1mm、幅25±0.2mmの曲げ強度試験片を切り出した。ASTM D−790(2004)に規定する試験方法に従い、3点曲げ試験冶具(圧子10mm、支点10mm)を用いて支持スパンを100mmに設定し、クロスヘッド速度5.3mm/分で曲げ強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機として“インストロン(登録商標)”万能試験機4201型(インストロン社製)を用いた。測定数はn=5とし、平均値を曲げ強度とした。
(11)単繊維強度(単繊維の引張強度)
JIS L1015(1981)に従って引張試験を行った。表面が滑らかで光沢のある紙片に5mm幅毎に60mmの長さの単繊維を1本ずつ試料長が約50mmとなるよう両端を接着剤で緩く張った状態で固着した。試料を単繊維引張試験器のつかみに取り付け、上部のつかみの近くで紙片を切断し、試料長50mm、引張速度1mm/分で測定した。測定数はn=50とし、全測定の平均値を引張強度とした。強度の計算に必要な単繊維の断面積については、下記の炭素繊維束の目付と比重を後述する手順に従い測定し、下記式を用いて計算したものを用いた。
s=W/100×n×ρ
s:単繊維断面積(cm2)
W:炭素繊維束の目付(g/m)
n:炭素繊維束中の糸条数(本)
ρ:炭素繊維束の比重(g/cm3)。
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。
・(A)成分:A−1〜A−2
A−1:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/mol、エポキシ基数:4
水酸基数:2
A−2:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:183g/mol、エポキシ基数:3以上、
・(B1)成分:B−1〜B−4
B−1:“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)
フェノールノボラックのグリシジルエーテル
エポキシ当量:175g/eq.、エポキシ基数:3、
B−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/eq.、エポキシ基数:2、
B−3:“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:475g/eq.、エポキシ基数:2、
B−4:“jER(登録商標)”807(三菱化学(株)製)
ビスフェノールFのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、エポキシ基数:2、
・(D)成分:D−1
D−1:“VONDIC(登録商標)”1230NE(DIC(株)製)
芳香族イソシアネートと芳香族ポリエステルの重合物
・エポキシ化合物(E):E−1、E−2
E−1:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)
エポキシ当量:120g/eq.
E−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/eq.
・潜在性硬化剤(F)成分:F−1
F−1:“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)
・熱可塑性樹脂
“スミカエクセル(登録商標)”5003P(ポリエーテルスルホン、住友化学工業(株)製)
ポリアミド樹脂:ポリアミド66(PA)樹脂ペレット・・・“アミラン(登録商標)”CM3001(東レ(株)製)。
(参考例1)
原料となる炭素繊維は以下の通りに製造した。
アクリロニトリル共重合体を乾湿式紡糸し、最高到達温度2500℃で焼成し、総フィラメント数12,000本、総繊度500テックス、ストランド引張弾性率390GPaの炭素繊維Aを得た。次いでこの炭素繊維を濃度0.05モル/Lの硫酸水溶液を用い、電気量を変えることで表1に示す表面酸素濃度O/Cの炭素繊維a1〜a4を得た。
(参考例2)
焼成の最高到達温度を1400℃にした以外は、参考例1と同様に行い、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維Bを得た。次いで、参考例1と同様に表1の条件で表面処理を行い、炭素繊維b1を得た。
(実施例1)
(B1)成分として(B−2)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−2)を50質量部混合してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物であり、(B)成分に該当することにもなる。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維a1に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して1.2質量%となるように調整した。続いて、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。この結果、サイジング剤表面の化学組成も目的の範囲内であり、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
(実施例2、3)
炭素繊維にa2,a3を用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。この結果、サイジング剤表面の化学組成、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
(比較例1、2)
炭素繊維にa4,b1を用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。この結果、IFSSで測定した接着性が低いことが分かった。
(実施例4〜9、比較例3〜6)
(A)(B1)(C)成分として、表2に示す化合物を用いた以外は実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。なお、表面処理された炭素繊維a1を用いた。続いて、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)、耐擦過性を測定した。結果を表2にまとめた。
(実施例10)
・第Iの工程:炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル共重合体を乾湿式紡糸し、最高到達温度2500℃で焼成し、総フィラメント数12,000本、総繊度500テックスの炭素繊維を得た。
・第IIの工程:表面処理工程
次いで、その炭素繊維を、濃度0.05モル/lの硫酸水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり700クーロンで電解表面処理した。なお、電解液温度は25℃で行った。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。
・第IIIの工程:サイジング剤塗布
(B1)成分として(B−2)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−2)を50質量部混合してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物であり、(B)成分に該当することにもなる。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で90秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して1.3質量%となるように調整した。続いて、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表3にまとめた。この結果、サイジング剤表面の化学組成も目的の範囲内であり、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
(実施例11〜実施例15、比較例7〜9)
第Iの工程での最高到達温度、第IIの工程での電解液種類、電解液温度、電気量、第IIIの工程でのサイジング剤塗布後の熱処理温度(℃)、熱処理時間(秒)を表3の通りにした以外は実施例10の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。得られたサイジング剤塗布前の炭素繊維の弾性率、表面酸素濃度(O/C)を表3に示した。続いて、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表3にまとめた。
(実施例16)
実施例1で得られたサイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施した。続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥した。洗浄後に残っているサイジング剤付着量を測定したところ、表4の通りだった。
続いて、洗浄前のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面、および洗浄により得られたサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の400eVでのX線光電子分光法で(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さと(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(I)洗浄前のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)/(b)、(II)洗浄後のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)/(b)を算出した。(I)および(II)/(I)は表4に示す通りだった。
(比較例10〜12)
実施例16と同様に比較例1、比較例4,比較例5で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表4に示す。比較例10は傾斜構造が小さく、比較例11、12は傾斜構造が得られていないことが分かった。
(実施例17)
混練装置で、(E)成分として(E−1)と(E−2)に、スミカエクセル(登録商標)5003Pを配合して溶解した後、硬化剤(F)成分として、(F−1)4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを混練して、炭素繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物を作製した。
得られたエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付52g/m2で離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えた実施例1のサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、エポキシ樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させプリプレグを得た。0°引張試験の強度利用率は高く好ましい範囲だった。
(実施例18)
実施例1で得られたサイジング剤が塗布された炭素繊維を、カートリッジカッターで1/4インチにカットした。サイジング剤をカットするときの毛羽が検出されなかった。
日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、PA66樹脂(PA)ペレットをメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットしたサイジング剤を塗布した炭素繊維を供給し、バレル温度280℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりPA66樹脂ペレット70質量部に対して、サイジング剤を塗布した炭素繊維が30質量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:330℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。曲げ強度は340MPaと非常に高かった。
(実施例18)
参考例1で得られた炭素繊維Aを濃度0.05モル/Lの硫酸水溶液を用い、表5に示す電流密度、電気量で表面処理を行った。表5に示す通り、炭素繊維表面の光電子脱出角度45°の表面酸素濃度(O/C)は十分高く、(β)/(α)も好ましい範囲だった。炭素繊維を用いて実施例1と同様にサイジング剤塗布を実施した。この結果、サイジング剤表面の化学組成、IFSSで測定した接着性、単繊維強度も十分に高いことがわかった。
(実施例19)
参考例1で得られた炭素繊維Aを濃度0.05モル/Lの硫酸水溶液を用い、表5に示す電流密度、電気量で表面処理を行った。表5に示す通り、炭素繊維表面の光電子脱出角度45°の表面酸素濃度(O/C)は十分高く、(β)/(α)も好ましい範囲だった。炭素繊維を用いて実施例1と同様にサイジング剤塗布を実施した。この結果、サイジング剤表面の化学組成、IFSSで測定した接着性、単繊維強度も十分に高いことがわかった。
(実施例20)
参考例1で得られた炭素繊維Aを濃度0.05モル/Lの硫酸水溶液を用い、表5に示す電流密度、電気量で表面処理を行った。表5に示す通り、炭素繊維表面の光電子脱出角度45°の表面酸素濃度(O/C)は十分高かったが、(β)/(α)が小さかった。炭素繊維を用いて実施例1と同様にサイジング剤塗布を実施した。この結果、サイジング剤表面の化学組成、IFSSで測定した接着性は十分高かったが、単繊維強度が若干低いことが分かった。
(実施例20)
参考例1で得られた炭素繊維Aを濃度0.05モル/Lの硫酸水溶液を用い、表5に示す電流密度、電気量で表面処理を行った。表5に示す通り、炭素繊維表面の光電子脱出角度45°の表面酸素濃度(O/C)は十分高かったが、(β)/(α)が若干小さかった。炭素繊維を用いて実施例1と同様にサイジング剤塗布を実施した。この結果、サイジング剤表面の化学組成、IFSSで測定した接着性は十分高かったが、単繊維強度が若干低いことが分かった。
(比較例13、14)
参考例1で得られた炭素繊維Aを濃度0.05モル/Lの硫酸水溶液を用い、表5に示す電流密度、電気量で表面処理を行った。表5に示す通り、炭素繊維表面の光電子脱出角度45°の表面酸素濃度(O/C)、(β)/(α)ともに小さかった。炭素繊維を用いて実施例1と同様にサイジング剤塗布を実施した。この結果、単繊維強度は十分だったが、IFSSで測定した接着性は低かった。