以下、更に詳しく、本発明の実施の形態にかかるプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料について説明をする。
本発明は、サイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させてなるプリプレグであって、前記サイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として少なくとも芳香族エポキシ化合物(B1)を含み、前記サイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を、X線光電子分光法によって光電子脱出角度15°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)が0.50〜0.90であり、前記エポキシ樹脂組成物は、樹脂硬化物に高い靭性を付与するエポキシ樹脂(D)と、樹脂硬化物に高い弾性を付与するエポキシ樹脂(E)と、エポキシ樹脂(D)およびエポキシ樹脂(E)の相溶化剤として機能するエポキシ樹脂(F)と、潜在性硬化剤(G)と、を少なくとも含み、前記エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物が、前記エポキシ樹脂(D)リッチ相と前記エポキシ樹脂(E)リッチ相と、を含む相分離構造を有することを特徴とする。
まず、本発明のプリプレグで使用するサイジング剤について説明する。本発明にかかるサイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む。
本発明者らの知見によれば、かかる範囲のものは、炭素繊維とマトリックス樹脂であるエポキシ樹脂との界面接着性に優れるとともに、そのサイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合にもプリプレグを長期保管した場合の経時変化が小さく、炭素繊維強化複合材料用の炭素繊維に好適なものである。
本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維に塗付した際、サイジング層内側(炭素繊維側)に脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在することで、炭素繊維と脂肪族エポキシ化合物(A)とが強固に相互作用を行い、接着性を高めるとともに、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)には芳香族エポキシ化合物(B1)を含む芳香族化合物(B)を多く存在させることで、内層にある脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂との反応を阻害しながら、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)にはマトリックス樹脂と強い相互作用が可能な化学組成として、所定割合のエポキシ基を含む芳香族エポキシ化合物(B1)および脂肪族エポキシ化合物(A)が所定の割合で存在するため、マトリックス樹脂との接着性も向上するものである。
サイジング剤が、芳香族エポキシ化合物(B1)のみからなり、脂肪族エポキシ化合物(A)を含まない場合、サイジング剤とマトリックス樹脂との反応性が低く、プリプレグを長期保管した場合の力学特性変化が小さいという利点がある。また、剛直な界面層を形成することができるという利点もある。しかしながら、芳香族エポキシ化合物(B1)はその化合物の剛直さに由来して、脂肪族エポキシ化合物(A)と比較して、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が若干劣ることが確認されている。
また、サイジング剤が、脂肪族エポキシ化合物(A)のみからなる場合、該サイジング剤を塗布した炭素繊維はマトリックス樹脂との接着性が高いことが確認されている。そのメカニズムは確かではないが、脂肪族エポキシ化合物(A)は柔軟な骨格および自由度が高い構造に由来して、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基との官能基と脂肪族エポキシ化合物(A)が強い相互作用を形成することが可能であると考えられる。しかしながら、脂肪族エポキシ化合物(A)は、炭素繊維表面との相互作用により高い接着性を発現する一方、マトリックス樹脂中の硬化剤に代表される官能基を有する化合物との反応性が高く、プリプレグの状態で長期間保管すると、マトリックス樹脂とサイジング剤の相互作用により界面層の構造が変化し、そのプリプレグから得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性が低下する課題があることが確認されている。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)を混合した場合、より極性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い芳香族化合物(B)が偏在しやすいという現象が見られる。このサイジング層の傾斜構造の結果として、脂肪族エポキシ化合物(A)は炭素繊維近傍で炭素繊維と強い相互作用を有することで炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を高めることができる。また、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグにした場合には、外層に多く存在する芳香族化合物(B)は、脂肪族エポキシ化合物(A)をマトリックス樹脂から遮断する役割を果たす。このことにより、脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂中の反応性の高い成分との反応が抑制されるため、長期保管時の安定性が発現される。なお、脂肪族エポキシ化合物(A)を芳香族化合物(B)でほぼ完全に覆う場合には、サイジング剤とマトリックス樹脂との相互作用が小さくなり接着性が低下してしまうため、サイジング剤表面の脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)の存在比率が重要である。
本発明に係るサイジング剤は、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、脂肪族エポキシ化合物(A)を35〜65質量%、芳香族化合物(B)を35〜60質量%少なくとも含むことが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することにより、接着性が向上する。また、65質量%以下とすることで、プリプレグを長期保管した場合にも、その後炭素繊維強化複合材料に成形した際の力学特性が良好になる。脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、38質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、60質量%以下がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましい。
本発明のサイジング剤において、芳香族化合物(B)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することで、サイジング剤の外層中の芳香族化合物(B)の組成を高く維持することができるため、プリプレグの長期保管時に反応性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂中の反応性化合物との反応による力学特性低下が抑制される。また、60質量%以下とすることで、サイジング剤中の傾斜構造を発現することができ、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を維持することができる。芳香族化合物(B)の配合量は、37質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。また、芳香族化合物(B)の配合量は、55質量%以下がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましい。
本発明におけるサイジング剤には、エポキシ成分として、脂肪族エポキシ化合物(A)に加えて、芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)が含まれる。脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)の質量比(A)/(B1)は、52/48〜80/20であることが好ましい。(A)/(B1)を52/48以上とすることにより、炭素繊維表面に存在する脂肪族エポキシ化合物(A)の比率が大きくなり、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。結果、得られた炭素繊維強化複合材料の引張強度などの力学特性が高くなる。また、(A)/(B1)を80/20以下とすることにより、反応性の高い脂肪族エポキシ化合物(B)が炭素繊維表面に存在する量が少なくなり、マトリックス樹脂との反応性が抑制できるため好ましい。(A)/(B1)の質量比は55/45以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましい。また、(A)/(B1)の質量比は75/35以下がより好ましく、73/37以下がさらに好ましい。
本発明における脂肪族エポキシ化合物(A)は、芳香環を含まないエポキシ化合物である。自由度の高い柔軟な骨格を有していることから、炭素繊維と強い相互作用を有することが可能である。その結果、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が向上する。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は分子内に1個以上のエポキシ基を有する。そのことにより、炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合を形成することができる。分子内のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りのエポキシ基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性をさらに向上することができる。エポキシ基の数の上限は特にないが、接着性の観点からは10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量は、360g/eq.未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq.未満であり、さらに好ましくは180g/eq.未満である。脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量が360g/eq.未満であると、高密度で炭素繊維との相互作用が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ポリオールとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。たとえば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である。また、このグリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
本発明に使用する脂肪族エポキシ化合物(A)として、これらのエポキシ化合物以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
本発明にかかる脂肪族エポキシ化合物(A)は、1個以上のエポキシ基と、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基とを有することが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が有する官能基の具体例として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えて水酸基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(商標登録)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ウレタン変性エポキシ化合物が挙げられ、具体的には“アデカレジン(商標登録)”EPU−78−13S、EPU−6、EPU−11、EPU−15、EPU−16A、EPU−16N、EPU−17T−6、EPU−1348およびEPU−1395(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物(A)は、上述した中でも高い接着性の観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましい。
上記の中でも本発明における脂肪族エポキシ化合物(A)は、高い接着性の観点から、分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物が好ましい。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
本発明において、芳香族化合物(B)は、分子内に芳香環を1個以上有する。芳香環とは、炭素のみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維近傍のいわゆる界面層は、炭素繊維あるいはサイジング剤の影響を受け、マトリックス樹脂とは異なる特性を有する場合がある。サイジング剤が芳香環を1個以上有する芳香族化合物(B)を含むと、剛直な界面層が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の応力伝達能力が向上し、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性が向上する。また、芳香環の疎水性により、脂肪族エポキシ化合物(A)に比べて炭素繊維との相互作用が弱くなるため、炭素繊維との相互作用により炭素繊維側に肪族エポキシ化合物(A)が多く存在し、サイジング層外層に芳香族化合物(B)が多く存在する結果となる。これにより、芳香族化合物(B)が脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂との反応を抑制するため、本発明にかかるサイジング剤を塗布した炭素繊維をプリプレグに用いた場合、長期間保管した場合の経時変化を抑制することができ好ましい。芳香族化合物(B)として、芳香環を2個以上有するものを選択することで、プリプレグとした際の長期保管安定性をより向上することができる。芳香環の数の上限は特にないが、10個あれば力学特性およびマトリックス樹脂との反応の抑制の観点から十分である。
本発明において、芳香族化合物(B)は分子内に1種以上の官能基を有することができる。また、芳香族化合物(B)は、1種類であっても良いし、複数の化合物を組み合わせて用いても良い。芳香族化合物(B)は、分子内に1個以上のエポキシ基と1個以上の芳香環を有する芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含むものである。エポキシ基以外の官能基は水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基またはスルホ基から選択されるものが好ましく、1分子内に2種以上の官能基を含んでいても良い。芳香族化合物(B)は、芳香族エポキシ化合物(B1)以外には、化合物の安定性、高次加工性を良好にすることから、芳香族エステル化合物、芳香族ウレタン化合物が好ましく用いられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。また、10個以下であることが好ましい。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。芳香族エポキシ化合物(B1)が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。芳香族エポキシ化合物(B1)が、分子内に3個以上のエポキシ基、1個のエポキシ基と他の官能基を2個以上、または2個のエポキシ基と他の官能基を1個以上有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ当量は、360g/eq.未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq.未満であり、さらに好ましくは180g/eq.未満である。芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ当量が360g/eq.未満であると、高密度で共有結合が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)の具体例としては、例えば、芳香族ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有する芳香族アミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、芳香族ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する芳香族化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシとして化合物、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジンのほか、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。
さらに、例えば、グリシジルアミン型エポキシ化合物として、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
本発明に使用する芳香族エポキシ化合物(B1)として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、1個以上のエポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を好ましく用いられる。例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは芳香環を含有するジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてイミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的には“デナコール(商標登録)”EX−731(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の芳香環を含有する多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシはジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有する芳香環を含有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
エポキシ基に加えてスルホ基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、p−トルエンスルホン酸グリシジルおよび3−ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、またはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのいずれかであることが好ましい。これらのエポキシ化合物は、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、かつ、2個以上の芳香環を有しており、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることに加え、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性を向上させる。芳香族エポキシ化合物(B1)は、より好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ化合物およびクレゾールノボラック型エポキシ化合物である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)がフェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがプリプレグを長期保管した場合の安定性、接着性の観点から好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがより好ましい。
さらに、本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)以外の成分を1種類以上含んでも良い。炭素繊維とサイジング剤との接着性を高める促進剤、サイジング剤塗布炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与する材料を配合することで取扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高め、マトリックス樹脂の含浸性を向上させることができる。本発明において、プリプレグでの長期保管安定性を向上させる目的で、(A)および(B1)以外の化合物を含有することができる。また、サイジング剤の安定性を目的として、分散剤および界面活性剤等の補助成分を添加しても良い。
本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)以外に、分子内にエポキシ基を持たないエステル化合物(C)を配合することができる。本発明にかかるサイジング剤は、エステル化合物(C)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、2〜35質量%配合することができる。15〜30質量%であることがより好ましい。エステル化合物(C)を配合することで、収束性が向上し、取り扱い性が向上すると同時に、マトリックス樹脂とサイジング剤との反応によるプリプレグを長期保管したときの力学特性の低下を抑制することができる。
エステル化合物(C)は、芳香環を持たない脂肪族エステル化合物でも良いし、芳香環を分子内に1個以上有する芳香族エステル化合物でも良い。なお、エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いた場合には、芳香族エステル化合物(C1)は、分子内にエポキシ化合物を持たないエステル化合物(C)に含まれるのと同時に、本発明において芳香族化合物(B)に含まれる。かかる場合、芳香族化合物(B)の全てが、芳香族エステル化合物(C1)となることはなく、芳香族化合物(B)は、芳香族エポキシ化合物(B1)と芳香族エステル化合物(C1)とにより構成される。エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いると、サイジング剤塗布炭素繊維の取り扱い性が向上すると同時に、芳香族エステル化合物(C1)は、炭素繊維との相互作用が弱いため、マトリックス樹脂の外層に存在することとなり、プリプレグの長期保管時の力学特性低下の抑制効果が高くなる。また、芳香族エステル化合物(C1)は、エステル基以外にも、エポキシ基以外の官能基、たとえば、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、およびスルホ基を有していてもよい。芳香族エステル化合物(C1)として、具体的にはビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合物からなるエステル化合物を用いるのが好ましい。不飽和二塩基酸としては、酸無水物低級アルキルエステルを含み、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などが好ましく使用される。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物としてはビスフェノールのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物、ブチレンオキシド付加物などが好ましく使用される。上記縮合物のうち、好ましくはフマル酸またはマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキシドまたは/およびプロピレンオキシド付加物との縮合物が使用される。
ビスフェノール類へのアルキレンオキシドの付加方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。上記の不飽和二塩基酸には、必要により、その一部に飽和二塩基酸や少量の一塩基酸を接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることができる。また、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物には、通常のグリコール、ポリエーテルグリコールおよび少量の多価アルコール、一価アルコールなどを、接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることもできる。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合法は、公知の方法を用いることができる。
また、本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維とサイジング剤成分中のエポキシ化合物との接着性を高める目的で、接着性を促進する成分である3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を配合することができる。発明にかかるサイジング剤は、該化合物を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、0.1〜25質量%配合することが好ましい。2〜8質量%がより好ましい。
脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)に、接着性促進成分として3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を併用したサイジング剤は、該サイジング剤を炭素繊維に塗布し、特定の条件で熱処理した場合、接着性がさらに向上する。そのメカニズムは確かではないが、まず、該化合物が本発明で用いられる炭素繊維のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基に作用し、これらの官能基に含まれる水素イオンを引き抜きアニオン化した後、このアニオン化した官能基と脂肪族エポキシ化合物(A)または芳香族エポキシ化合物(B1)成分に含まれるエポキシ基が求核反応するものと考えられる。これにより、本発明で用いられる炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合が形成され、接着性が向上するものと推定される。
接着性促進成分の具体的な例としては、N−ベンジルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩であることが好ましく、特に1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩が好適である。
上記のDBU塩としては、具体的には、DBUのフェノール塩(U−CAT SA1、サンアプロ(株)製)、DBUのオクチル酸塩(U−CAT SA102、サンアプロ(株)製)、DBUのp−トルエンスルホン酸塩(U−CAT SA506、サンアプロ(株)製)、DBUのギ酸塩(U−CAT SA603、サンアプロ(株)製)、DBUのオルソフタル酸塩(U−CAT SA810)、およびDBUのフェノールノボラック樹脂塩(U−CAT SA810、SA831、SA841、SA851、881、サンアプロ(株)製)などが挙げられる。
本発明において、サイジング剤に配合する接着性促進成分としては、トリブチルアミンまたはN,N−ジメチルベンジルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミンであることが好ましく、特にトリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロピルエチルアミンが好適である。
上記以外にも、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。また、本発明の効果に影響しない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、および不飽和ポリエステル化合物等を添加してもよい。
次に、本発明で使用する炭素繊維について説明する。本発明において使用する炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
本発明にかかる炭素繊維は、得られた炭素繊維束のストランド強度が、3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上であり、さらに好ましくは5GPa以上である。また、得られた炭素繊維束のストランド弾性率が、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは240GPa以上であり、さらに好ましくは280GPa以上である。
本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業(株)製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
本発明において用いられる炭素繊維は、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmであることが好ましい。より好ましくは15〜80nmであり、30〜60nmが好適である。表面粗さ(Ra)が6.0〜60nmである炭素繊維は、表面に高活性なエッジ部分を有するため、前述したサイジング剤のエポキシ基等との反応性が向上し、界面接着性を向上することができ好ましい。また、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmである炭素繊維は、表面に凹凸を有しているため、サイジング剤のアンカー効果によって界面接着性を向上することができ好ましい。
炭素繊維表面の平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いることにより測定することができる。例えば、炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測すればよい。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムなどが使用可能であり、以下の観測条件で観測することができる。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中
また、各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、平均粗さ(Ra)を算出し、単繊維5本について、平均粗さ(Ra)を求め、平均値を評価することが好ましい。
本発明において炭素繊維の総繊度は、400〜3000テックスであることが好ましい。また、炭素繊維のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本であり、さらに好ましくは3000〜50000本である。
本発明において、炭素繊維の単繊維径は4.5〜7.5μmが好ましい。7.5μm以下であることで、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるため、好ましく用いられる。6μm以下であることがより好ましく、さらには5.5μm以下であることが好ましい。4.5μm以上で工程における単繊維切断が起きにくくなり生産性が低下しにくく好ましい。
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.05〜0.50の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.06〜0.30の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.07〜0.25の範囲内ものである。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、マトリックス樹脂との強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度(O/C)は、上記O1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面のカルボキシル基(COOH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が、0.003〜0.015の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面のカルボキシル基濃度(COOH/C)の、より好ましい範囲は、0.004〜0.010である。また、本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面の水酸基(OH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面水酸基濃度(COH/C)が、0.001〜0.050の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面の表面水酸基濃度(COH/C)は、より好ましくは0.010〜0.040の範囲である。
炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、水酸基濃度(COH/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04mol/Lの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rが求められる。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表される。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02mol/Lの3弗化エタノール気体、0.001mol/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04mol/Lのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mが求められる。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
本発明に用いられる炭素繊維としては、表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上50mJ/m2以下のものであることが好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上であることで、脂肪族エポキシ化合物(A)がより炭素繊維表面に近づくことで接着性が向上し、サイジング層が偏在化した構造を有するため好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が50mJ/m2以下であることで、炭素繊維間の収束性が大きくなるためにマトリックス樹脂との含浸性が良好になるため、炭素繊維強化複合材料として用いた場合に用途展開が広がり好ましい。
該炭素繊維表面の表面自由エネルギーの極性成分は、より好ましくは15mJ/m2以上45mJ/m2以下であり、最も好ましくは25mJ/m2以上40mJ/m2以下である。炭素繊維の表面自由エネルギーの極性成分は、炭素繊維を水、エチレングリコール、燐酸トリクレゾールの各液体において、ウィルヘルミ法によって測定される各接触角をもとに、オーエンスの近似式を用いて算出した表面自由エネルギーの極性成分である。
本発明に用いられる脂肪族エポキシ化合物(A)は表面自由エネルギーの極性成分が9mJ/m2以上50mJ/m2以下のものであれば良い。また、芳香族エポキシ化合物(B1)は表面自由エネルギーの極性成分が0mJ/m2以上9mJ/m2未満のものであれば良い。
本発明において、炭素繊維の表面自由エネルギーの極性成分ECFと脂肪族エポキシ化合物(A)、芳香族エポキシ化合物(B1)の表面エネルギーの極性成分EA、EB1がECF≧EA>EB1を満たすことが好ましい。
次に、PAN系炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。
炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性をさらに向上するために、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmの炭素繊維が好ましく、該表面粗さの炭素繊維を得るためには、湿式紡糸方法により前駆体繊維を紡糸することが好ましい。
紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。溶剤としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を使用する。ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドが溶剤として好適である。
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中、あるいは空気中に吐出した後、紡糸浴中で凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理ならびに炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
得られた炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、これにより、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられるが、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性の観点からアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤を塗布することがより好ましい。
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。電解液の濃度が0.01mol/L以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5mol/L以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m2当たり1.5〜1000アンペア/m2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/m2の範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m2以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m2以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法またはスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは260℃以下、さらに好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下で乾燥することが好ましい。
次に、上述した炭素繊維にサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維について説明する。本発明にかかるサイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含み、それ以外の成分を含んでも良い。
本発明において、炭素繊維へのサイジング剤の塗布方法としては、溶媒に、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む芳香族化合物(B)、ならびにその他の成分を同時に溶解または分散したサイジング液を用いて、1回で塗布する方法や、各化合物(A)、(B1)、(B)やその他の成分を任意に選択し個別に溶媒に溶解または分散したサイジング液を用い、複数回において炭素繊維に塗布する方法が好ましく用いられる。本発明においては、サイジング剤の構成成分をすべて含むサイジング液を、炭素繊維に1回で塗布する1段付与を採用することが効果および処理のしやすさからより好ましく用いられる。
本発明にかかるサイジング剤は、サイジング剤成分を溶媒で希釈したサイジング液として用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドが挙げられるが、なかでも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、界面活性剤で乳化させた水分散液あるいは水溶液が好ましく用いられる。
サイジング液は、芳香族化合物(B)を少なくとも含む成分を界面活性剤で乳化させることで水エマルジョン液を作成し、脂肪族エポキシ化合物(A)を少なくとも含む溶液を混合して調整することが好ましい。この時に、脂肪族エポキシ化合物(A)が水溶性の場合には、あらかじめ水に溶解して水溶液にしておき、芳香族化合物(B)を少なくとも含む水エマルジョン液と混合する方法が、乳化安定性の点から好ましく用いられる。また、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)およびその他の成分を界面活性剤で乳化させた水分散剤を用いることが、サイジング剤の長期保管安定性の点から好ましく用いることができる。
サイジング液におけるサイジング剤の濃度は、通常は0.2質量%〜20質量%の範囲が好ましい。
サイジング剤の炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラを介してサイジング液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
サイジング液を炭素繊維に塗布する際のサイジング液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤の濃度変動を抑えるため、10〜50℃の範囲であることが好ましい。また、サイジング液を付与した後に、余剰のサイジング液を絞り取る絞り量を調整することにより、サイジング剤の付着量の調整および炭素繊維内への均一付与ができる。
炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒間熱処理することが好ましい。熱処理条件は、好ましくは170〜250℃の温度範囲で30〜500秒間であり、より好ましくは180〜240℃の温度範囲で30〜300秒間である。熱処理条件が、160℃未満および/または30秒未満であると、サイジング剤の脂肪族エポキシ化合物(A)と炭素繊維表面の酸素含有官能基との間の相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となったり、溶媒を十分に乾燥除去できない場合がある。一方、熱処理条件が、260℃を超えるおよび/または600秒を超える場合、サイジング剤の分解および揮発が起きて、炭素繊維との相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となる場合がある。
また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。マイクロ波照射および/または赤外線照射によりサイジング剤塗布炭素繊維を加熱処理した場合、マイクロ波が炭素繊維内部に侵入し、吸収されることにより、短時間に被加熱物である炭素繊維を所望の温度に加熱できる。また、マイクロ波照射および/または赤外線照射により、炭素繊維内部の加熱も速やかに行うことができるため、炭素繊維束の内側と外側の温度差を小さくすることができ、サイジング剤の接着ムラを小さくすることが可能となる。
上記のようにして製造した、本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、サイジング剤を塗布した炭素繊維のサイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90であることを特徴とする。本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、この(a)/(b)が、特定の範囲、すなわち、0.50〜0.90である場合に、マトリックス樹脂との接着性に優れ、かつプリプレグの状態で長期保管したときも力学特性低下が少ないことを見出してなされたものである。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が、好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、比率(a)/(b)が、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.74以下である。(a)/(b)が大きいということは、表面に芳香族由来の化合物が多く、脂肪族エステル由来の化合物が少ないことを示す。
X線光電子分光の測定法とは、超高真空中で試料の炭素繊維にX線を照射し、炭素繊維の表面から放出される光電子の運動エネルギーをエネルギーアナライザーとよばれる装置で測定する分析手法のことである。この試料の炭素繊維表面から放出される光電子の運動エネルギーを調べることにより、試料の炭素繊維に入射したX線のエネルギー値から換算される結合エネルギーが一意的に求まり、その結合エネルギーと光電子強度から、試料の最表面(〜nm)に存在する元素の種類と濃度、その化学状態を解析することができる。
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定が行われる。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を286.1eVに合わせる。このときに、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求められる。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)が算出される。
サイジング剤の内層を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)が0.45〜1.0であることが好ましい。サイジング剤の内層は、サイジング塗布炭素繊維をアセトン溶媒で1〜10分間超音波洗浄した後、蒸留水で洗い流し、炭素繊維に付着している残存サイジング剤を0.10±0.05質量%の範囲に制御した後、上述した方法にて測定が行われる。
本発明において、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は350〜550g/eq.であることが好ましい。エポキシ当量が550g/eq.以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。また、炭素繊維に塗布されたエポキシ当量が350g/eq.以上であることで、プリプレグに該サイジング剤塗布炭素繊維を用いた場合に、プリプレグに用いているマトリックス樹脂成分とサイジング剤との反応を抑制することができるため、プリプレグを長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の力学特性が良好になるため好ましい。塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は360g/eq.以上が好ましく、380g/eq.以上がより好ましい。また、塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、530g/eq.以下が好ましく、500g/eq.以下がより好ましい。塗布されたサイジング剤のエポキシ当量を上記範囲とするためには、エポキシ当量180〜470g/eq.のサイジング剤を塗布することが好ましい。313g/eq.以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。また、222g/eq.以上であることで、プリプレグに該サイジング剤塗布炭素繊維を用いた場合に、プリプレグに用いている樹脂成分とサイジング剤との反応を抑制することができるため、プリプレグを長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の力学特性が良好になる。
本発明におけるサイジング剤のエポキシ当量は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。エポキシ当量は220g/eq.以上が好ましく、240g/eq.以上がより好ましい。また、310g/eq.以下が好ましく、280g/eq.以下がより好ましい。また、本発明における炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、サイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで炭素繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。なお、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、塗布に用いるサイジング剤のエポキシ当量および塗布後の乾燥での熱履歴などにより、制御することができる。
本発明において、サイジング剤の炭素繊維への付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.1〜10.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量部の範囲である。サイジング剤の付着量が0.1質量部以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグ化および製織する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、炭素繊維シートの平滑性などの品位が優れる。一方、サイジング剤の付着量が10.0質量部以下であると、サイジング剤塗布炭素繊維の周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる炭素繊維強化複合材料においてボイド生成が抑えられ、炭素繊維強化複合材料の品位が優れ、同時に力学特性が優れる。
サイジング剤の付着量は、サイジング塗布炭素繊維を約2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定し、質量変化量を加熱処理前の質量で除した値(質量%)とする。
本発明において、炭素繊維に塗布され乾燥されたサイジング剤層の厚さは、2.0〜20nmの範囲内で、かつ、厚さの最大値が最小値の2倍を超えないことが好ましい。このような厚さの均一なサイジング剤層により、安定して大きな接着性向上効果が得られ、さらには、安定した高次加工性が得られる。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.05〜5.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜2.0質量部の範囲である。さらに好ましくは0.3〜1.0質量部である。脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量が0.05質量部以上であると、炭素繊維表面に脂肪族エポキシ化合物(A)でサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上するため好ましい。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法では、表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上50mJ/m2以下の炭素繊維にサイジング剤を塗布することが好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上であることで脂肪族エポキシ化合物(A)がより炭素繊維表面に近づくことで接着性が向上し、サイジング層が偏在化した構造を有するため好ましい。50mJ/m2以下で、炭素繊維間の収束性が大きくなるためにマトリックス樹脂との含浸性が良好になるため、炭素繊維強化複合材料として用いた場合に用途展開が広がり好ましい。該炭素繊維表面の表面自由エネルギーの極性成分は、より好ましくは15mJ/m2以上45mJ/m2以下であり、最も好ましくは25mJ/m2以上40mJ/m2以下である。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、例えば、トウ、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド等の形態で用いられる。特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、炭素繊維が一方向に引き揃えたトウが最も適しており、さらに、マトリックス樹脂を含浸したプリプレグが好ましく用いられる。
次に本発明におけるプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料について詳細を説明する。
本発明において、プリプレグは、前述したサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂としてのエポキシ樹脂組成物を含む。
本発明にかかるエポキシ樹脂組成物は、樹脂硬化物に高い靭性を付与するエポキシ樹脂(D)と、樹脂硬化物に高い弾性を付与するエポキシ樹脂(E)と、エポキシ樹脂(D)およびエポキシ樹脂(E)の相溶化剤として機能するエポキシ樹脂(F)と、潜在性硬化剤(G)と、を少なくとも含み、前記エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物が、前記エポキシ樹脂(D)リッチ相と前記エポキシ樹脂(E)リッチ相と、を含む相分離構造を有することを特徴とするものである。
ここで、エポキシ樹脂(D)〜(F)は、硬化前において互いに均一に相溶している状態であったとしても、硬化過程においてスピノーダル分解し、エポキシ樹脂(D)リッチ相とエポキシ樹脂(E)リッチ相とで相分離構造を形成することが好ましい。また、その相分離構造周期は1nm〜5μmであることがより好ましく、さらに好ましい相分離構造周期は1nm〜1μmである。エポキシ樹脂組成物の硬化過程において、エポキシ樹脂(F)はエポキシ樹脂(D)および(E)の相溶化剤として機能する。
相分離構造の構造周期が1nm未満の場合は、キャビテーション効果を発揮できず、靱性が不足するだけでなく、弾性率も不足しやすい。また、相分離構造の構造周期が5μmを超える場合では、その構造周期が大きいために、亀裂が島相への進展なく、海相のみの領域で進展するのでキャビテーション効果を発現できず、樹脂硬化物の靱性が不充分である場合がある。すなわち、エポキシ樹脂組成物の樹脂硬化物が、エポキシ樹脂(D)リッチ相とエポキシ樹脂(E)リッチ相を含み、かつ、微細な相分離構造を有することにより、樹脂硬化物の弾性率と靭性の両立が可能となる。
本発明において相分離構造とは、エポキシ樹脂(D)リッチ相とエポキシ樹脂(E)リッチ相とを含む2相以上の相が分離して形成されている構造をいう。ここで、エポキシ樹脂(D)リッチ相およびエポキシ樹脂(E)リッチ相とは、それぞれエポキシ樹脂(D)およびエポキシ樹脂(E)を主成分とする相のことをいう。また、ここで主成分とは、当該相において最も高い含有率で含まれている成分のことをいう。相分離構造は、エポキシ樹脂(D)およびエポキシ樹脂(E)以外の成分を主成分とする相をさらに含む3相以上の相分離構造であっても良い。これに対し、分子レベルで均一に混合している状態を、相溶状態という。
樹脂硬化物の相分離構造は、樹脂硬化物の断面を走査型電子顕微鏡もしくは透過型電子顕微鏡により観察することができる。必要に応じて、オスミウムなどで染色しても良い。染色は、通常の方法で行うことができる。
本発明において、相分離構造の構造周期は、次のように定義するものとする。なお、相分離構造には、両相連続構造と海島構造が有るので、それぞれについて定義する。相分離構造が両相連続構造の場合、顕微鏡写真の上に所定の長さの直線をランダムに3本引き、その直線と相界面の交点を抽出し、隣り合う交点間の距離を測定し、これらの数平均値を構造周期とする。かかる所定の長さとは、顕微鏡写真を基に以下のようにして設定するものとする。構造周期が0.01μmオーダー(0.01μm以上0.1μm未満)と予想される場合、倍率を20,000倍でサンプルの写真を撮影し、写真上で引いた20mmの長さ(サンプル上1μmの長さ)を直線の所定の長さとする。同様にして、相分離構造周期が0.1μmオーダー(0.1μm以上1μm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍で写真撮影し、写真上で20mmの長さ(サンプル上10μmの長さ)を直線の所定の長さとする。相分離構造周期が1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上で20mmの長さ(サンプル上100μmの長さ)を直線の所定の長さとする。もし、測定した相分離構造周期が予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて再度測定する。
相分離構造が海島構造の場合、顕微鏡写真の上の所定の領域をランダムに3箇所選出し、その領域内の島相サイズを測定し、これらの数平均値を構造周期とする。島相のサイズは、相界面から一方の相界面へ島相を通って引く最短距離の線の長さをいう。島相が楕円形、不定形、または、二層以上の円または楕円になっている場合であっても、相界面から一方の相界面へ島相を通る最短の距離を島相サイズとする。かかる所定の領域とは、顕微鏡写真を基に以下のようにして設定するものとする。相分離構造周期が0.01μmオーダー(0.01μm以上0.1μm未満)と予想される場合、倍率を20,000倍でサンプルの写真を撮影し、写真上で4mm四方の領域(サンプル上0.2μm四方の領域)を所定の領域とする。同様にして、相分離構造周期が0.1μmオーダー(0.1μm以上1μm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍で写真撮影し、写真上で4mm四方の領域(サンプル上2μm四方の領域)を所定の領域とする。相分離構造周期が1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上で4mm四方の領域(サンプル上20μm四方の領域)を所定の領域とする。もし、測定した相分離構造周期が予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて再度測定する。
次に本発明で使用するエポキシ樹脂組成物の具体的態様について説明する。本発明にかかるエポキシ樹脂組成物は、第1または第2の態様を有する。初めに第1の態様について説明する。
本発明にかかるエポキシ樹脂組成物の第1の態様は、数平均分子量が1500以上のビスフェノール型エポキシ樹脂(D1)と、3個以上の官能基を有するアミン型エポキシ樹脂(E1)と、数平均分子量が150〜1200であるビスフェノール型エポキシ樹脂(F1)と、潜在性硬化剤(G)と、を少なくとも含み、エポキシ樹脂(D1)〜(F1)の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対し、エポキシ樹脂(D1)を20〜50質量部、エポキシ樹脂(E1)を30〜50質量部、エポキシ樹脂(F1)を10〜40質量部含むことを特徴とする。
第1の態様においては、エポキシ樹脂(D1)として、数平均分子量が1500以上のビスフェノール型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部のうち、20〜50質量部含む。好ましくは、エポキシ樹脂(D1)を全エポキシ樹脂100質量部のうち30〜50質量部含むことである。エポキシ樹脂(D1)の含有量が、20質量部に満たない場合、樹脂硬化物の靭性が不足する。エポキシ樹脂(D1)の含有量が、50質量部を超える場合は、樹脂硬化物の弾性率や耐熱性が不足するだけでなく、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎる。エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎると、プリプレグを製造する際、炭素繊維間にエポキシ樹脂組成物を充分に含浸できない。このために、得られる炭素繊維強化複合材料中にボイドを生じ、炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性が低下する。
エポキシ樹脂(D1)として、数平均分子量が1500に満たない場合、樹脂硬化物が相分離構造を形成することが難しく、靭性が不足し、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する。また、エポキシ樹脂(D1)の分子量は、5000以下であることが、エポキシ樹脂組成物の炭素繊維への含浸性、および、炭素繊維強化複合材料の耐熱性の観点から好ましい。靭性の観点からはエポキシ樹脂(D1)の分子量の上限は特に定める必要性は低いが、5000を超える場合は、樹脂硬化物の相分離構造が粗大となるとともに、耐熱性が不足し、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。また、エポキシ樹脂(D1)の分子量が5000を超える場合、エポキシ樹脂組成物の最低粘度が高くなりすぎ、プリプレグに用いた場合、プリプレグを製造する際、炭素繊維間にエポキシ樹脂組成物を充分に含浸できず、得られる炭素繊維強化複合材料中にボイドを生じ、炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性が低下する場合がある。
さらに、エポキシ樹脂(D1)として、軟化点が90℃以上のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂(D1)として、軟化点が90℃に満たない場合は、樹脂硬化物の靱性が不足し、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。
かかるエポキシ樹脂(D1)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、およびこれらのハロゲン置換体、アルキル置換体、水添品などから選ばれるエポキシ樹脂を好ましく使用できる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”1004、1004F、1004AF、1005F、1007、1009P、1010Pなどが挙げられる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、4004P、4005P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2004(以上、東都化成(株)製)などが挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”5057(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、ST4100D、ST5100(以上、東都化成(株)製)などが挙げられる。中でも、耐熱性、弾性率および靭性のバランスが良いことから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、またはビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく、より好ましくはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。
第1の態様においては、エポキシ樹脂(E1)として、3個以上の官能基を有するアミン型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部のうち30〜50質量部含む。エポキシ樹脂(E1)の含有量が30質量部に満たない場合、樹脂硬化物の弾性率が不足する。また、エポキシ樹脂(E1)の含有量が50質量部を超える場合は、樹脂硬化物の塑性変形能力と靭性が不足する。3個以上の官能基を有するアミン型エポキシ樹脂の中でも、3個の官能基を有するアミン型エポキシ樹脂が、樹脂硬化物に弾性率と靭性をバランス良く与えるため好ましい。さらに、官能基を3個有するアミン型エポキシ樹脂の中でも、アミノフェノール型エポキシ樹脂は、樹脂硬化物の靭性が比較的高く、より好ましい。
かかるエポキシ樹脂(E1)としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、テトラグリシジルジアミノジフェニルエーテル、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンなどのアミン型エポキシ樹脂や、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、およびこれらのハロゲン置換体、アルキル置換体、水添品などから選ばれるエポキシ樹脂が好ましく使用される。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンとしては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、MY721、MY725(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)等を使用することができる。テトラグリシジルジアミノジフェニルエーテルとしては、3,3’−TGDDE(東レファインケミカル(株)製)等を使用することができる。トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールとしては、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600、MY0610(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)等を使用することができる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品としては、“TETRAD(登録商標)”−X、“TETRAD(登録商標)”−C(以上、三菱ガス化学(株)製)等を使用することができる。テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホンの市販品としては、TG3DAS(小西化学工業(株)製)が挙げられる。
第1の態様においては、エポキシ樹脂(F1)として、数平均分子量が150〜1200であるビスフェノール型エポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部のうち10〜40質量部配合する。好ましくは、エポキシ樹脂(F1)が全エポキシ樹脂100質量部のうち20〜40質量部含まれることである。エポキシ樹脂(F1)の配合量が40質量部を超える場合は、得られる樹脂硬化物の靭性が不足する。また、エポキシ樹脂(F1)の配合量が10質量部未満の場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなる。さらに、エポキシ樹脂(F1)の数平均分子量を1200以下にすることにより、得られるエポキシ樹脂組成物の粘度を低くすることができる。したがって、プリプレグ製造工程において、前記エポキシ樹脂組成物が炭素繊維間に含浸しやすくなるため、得られるプリプレグの繊維含有率を向上させることができる。一方で、エポキシ樹脂(F1)の数平均分子量が1200より大きい場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりやすいため、プリプレグ製造工程において、エポキシ樹脂組成物が炭素繊維間に含浸しにくくなり、得られる炭素繊維強化複合材料中にボイドを生じるので、プリプレグの繊維含有率を向上させにくい。また、エポキシ樹脂(F1)の数平均分子量を150〜1200とすることで、相溶化剤としての効果が大きくなるため、微細な相分離構造を形成させやすい。ビスフェノール型エポキシ樹脂(F1)の数平均分子量が150より小さいか、または1200より大きい場合、構成要素(F1)はいずれか一方の相に相溶しやすくなるため、相溶化剤としての効果が小さくなる。その結果、樹脂硬化物の相分離構造周期が大きくなる。エポキシ樹脂(F1)の数平均分子量は、150〜450であることが特に好ましい。
エポキシ樹脂(F1)としては、所定の分子量の範囲にあるビスフェノール型エポキシ樹脂であれば特に限定されるものではないが、とりわけビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、もしくはこれらビスフェノール型エポキシ樹脂のハロゲン、アルキル置換体、水添品等が用いられる。
また、エポキシ樹脂(F1)として、得られるエポキシ樹脂組成物の粘度を低くすることができることから50℃以下の軟化点を有するビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。かかるエポキシ樹脂(F1)の市販品としては、以下のものが挙げられる。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、826、827、828、834、1001、1002(以上、三菱化学(株)製)。臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、Epc152、Epc153(以上、DIC(株)製)、“jER(登録商標)”5050、5051(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)“EX−252(ナガセケムテックス(株)製)、ST3000、ST5080、ST4000D(以上、東都化成(株)製)などが挙げられる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)、“jER(登録商標)”806、807、4002P(以上、三菱化学(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001(東都化成(株)製)などが挙げられる。
なお、本発明でいう数平均分子量は、測定するエポキシ樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解して、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により測定して、ポリスチレン換算で求めた値である。測定条件の詳細は後述する。
潜在性硬化剤(G)としては、エポキシ樹脂を硬化させるものであれば特に限定はなく、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂環式アミンなどのアミン類、酸無水物類、ポリアミノアミド類、有機酸ヒドラジド類、イソシアネート類等が挙げられる。
アミン硬化剤は、得られる樹脂硬化物の力学特性や耐熱性に優れることから好ましい。アミン硬化剤としては、芳香族アミンであるジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタンや、脂肪族アミンであるジシアンジアミドまたはその誘導体、ヒドラジド化合物等が用いられ、特に、得られる樹脂硬化物の弾性率、伸度のバランスに優れ、エポキシ樹脂組成物の長期保管安定性に優れることからジシアンジアミドまたはその誘導体が好ましい。かかるジシアンジアミドの市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。ジシアンジアミドの誘導体は、ジシアンジアミドに各種化合物を結合させたものであり、エポキシ樹脂との反応物、ビニル化合物やアクリル化合物との反応物などが挙げられる。
さらに、潜在性硬化剤(G)としてジシアンジアミドまたはその誘導体を粉体としてエポキシ樹脂組成物に配合することは、室温での長期保管安定性や、プリプレグ化時の粘度安定性の観点から好ましい。ジシアンジアミドまたはその誘導体を粉体として樹脂に配合する場合、その平均粒径は10μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは7μm以下である。例えば、プリプレグ製造工程において加熱加圧により炭素繊維束にエポキシ樹脂組成物を含浸させる際、10μmを超える粒径を持つジシアンジアミドまたはその誘導体は、炭素繊維束中に入り込まず、炭素繊維束表層に取り残される場合がある。
また、潜在性硬化剤(G)の総量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂成分のエポキシ基に対し、活性水素基が0.6〜1.0当量の範囲となる量を配合することが好ましく、より好ましくは0.7〜0.9当量の範囲である。活性水素基が0.6当量に満たない場合は、樹脂硬化物の反応率、耐熱性および弾性率が不足し、また、得られる炭素繊維強化複合材料のガラス転移温度や引張強度等の力学特性が不足する場合がある。また、活性水素基が1.0当量を超える場合は、樹脂硬化物の反応率、ガラス転移温度および弾性率は充分であるが、塑性変形能力が不足するため、得られる炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。
潜在性硬化剤(G)は、硬化促進剤や、その他のエポキシ樹脂の硬化剤と組み合わせて用いても良い。組み合わせる硬化促進剤としては、ウレア類、イミダゾール類、ルイス酸触媒などが挙げられる。
かかるウレア化合物としては、例えば、N,N-ジメチル−N’−(3,4-ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3-フェニル-1,1-ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上CVC SpecialtyChemicals,Inc.製)などが挙げられる。
イミダゾール類の市販品としては、2MZ、2PZ、2E4MZ(以上、四国化成(株)製)などが挙げられる。ルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・トリエタノールアミン錯体、三塩化ホウ素・オクチルアミン錯体などの、ハロゲン化ホウ素と塩基の錯体が挙げられる。
中でも、長期保管安定性と触媒能力のバランスから、ウレア化合物が好ましく用いられる。かかるウレア化合物の配合量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂成分100質量部に対して1〜5質量部が好ましい。ウレア化合物の配合量が1質量部に満たない場合は、反応が充分に進行せず、樹脂硬化物の弾性率と耐熱性が低下しがちである。また、ウレア化合物の配合量が5質量部を超える場合は、エポキシ樹脂の自己重合反応が、エポキシ樹脂と硬化剤との反応を阻害するため、樹脂硬化物の靭性が低下する上、弾性率も低下する。
続いて、本発明のエポキシ樹脂組成物の第2の態様について説明する。本発明の第2の態様にかかるエポキシ樹脂組成物は、軟化点が90℃以上のエポキシ樹脂(D2)と、軟化点が50℃以下であって、エポキシ樹脂(D2)およびエポキシ樹脂(F2)のSP値のいずれに対してよりも1.2以上大きいSP値を有するエポキシ樹脂(E2)と、軟化点が50℃以下のエポキシ樹脂(F2)と、潜在性硬化剤(G)と、を少なくとも含み、エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物が、エポキシ樹脂(D2)リッチ相とエポキシ樹脂(E2)リッチ相とを含む相分離構造を有し、その相分離構造周期が1nm〜5μmであることを特徴とする。
第2の態様においては、エポキシ樹脂(D2)の軟化点が90℃以上であり、かつエポキシ樹脂(E2)と(F2)との軟化点が50℃以下であることが必要である。エポキシ樹脂(D2)〜(F2)がこれらの要件を満たす場合、得られる樹脂硬化物中で、(D2)が(E2)と相溶し、均一構造になることを抑えることができるため、弾性率と靱性がともに向上する。
また、第2の態様において、エポキシ樹脂(E2)のSP値は、エポキシ樹脂(D2)およびエポキシ樹脂(F2)のSP値のいずれに対してよりも1.2以上大きいものである。ここで、各エポキシ樹脂のSP値とは、エポキシ樹脂(D2)、(E2)、および(F2)をそれぞれ、潜在性硬化剤(G)と反応させて得られる樹脂硬化物(D2’)、(E2’)、および(F2’)のSP値をいい、各SP値が、次の条件を満たす必要がある。
(1) ((E2’)のSP値)≧((D2’)のSP値)+1.2
(2) ((E2’)のSP値)≧((F2’)のSP値)+1.2
ここで、SP値とは、一般に知られている溶解性パラメータのことであり、溶解性および相溶性の指標となる。本発明で規定されるSP値は、Polym.Eng.Sci.,14(2),147−154(1974)に記載された、Fedorsの方法に基づき、分子構造から算出した値である。(E2’)のSP値が、(D2’)のSP値に1.2を足した値より小さい場合は、得られる樹脂硬化物中で、(D2)が(E2)と相溶し、均一構造になるため、樹脂硬化物の弾性率と靱性が十分でない。また、(E2’)のSP値が、(F2’)のSP値に1.2を足した値より小さい場合は、得られる樹脂硬化物中で、相溶化剤である(F2)が(E2)のみに溶け込むため、(D2)リッチ相と(E2)リッチ相の粗大相分離を引き起こす。
さらに、第2の態様においては、エポキシ樹脂(F2)と、エポキシ樹脂(F2)のエポキシ基に対し活性水素基が0.9当量となる量のジシアンジアミドと、エポキシ樹脂(F2)100質量部に対して2質量部のDCMUからなるエポキシ樹脂組成物を、室温から130℃まで2.5℃/分で昇温し、130℃で90分間反応させて得られる樹脂硬化物の弾性率が、3.3GPa以上であることが好ましい。この樹脂硬化物の弾性率が3.3GPa未満の場合は、本発明のエポキシ樹脂組成物から得られる樹脂硬化物が良好な弾性率を得られない場合がある。エポキシ樹脂(F2)は、相溶化剤として作用し、(D2)リッチ相にも(E2)リッチ相にも溶け込む成分であるため、エポキシ樹脂(F2)の弾性率が高いことによって、得られる樹脂硬化物の弾性率が高くなる。特に相分離構造が海島構造の場合、島相を覆っている海相の弾性率が高いことが重要であるので、エポキシ樹脂(F2)が海相に溶け込むことによって、海相の弾性率が高くなることによる効果が大きい。ここで、活性水素基とは、エポキシ基と反応しうる官能基を意味する。活性水素基として、アミノ基や水酸基等が挙げられる。
さらに、本態様においては、エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、エポキシ樹脂(D2)リッチ相とエポキシ樹脂(E2)リッチ相を含む相分離構造を有し、その相分離構造周期が1nm〜5μmであることが必要である。さらに好ましい相分離構造周期は1nm〜1μmである。
樹脂硬化物が、相分離構造を有することにより、樹脂硬化物の弾性率と靭性の両立が可能となる。構造周期が1nm未満の場合は、キャビテーション効果を発揮できず、靱性が不足するだけでなく、弾性率も不足する。また、構造周期が5μmを超える場合では、その構造周期が大きいために、亀裂が島相への進展なく、海相のみの領域で進展するのでキャビテーション効果を発現できず、靱性が不充分となる。
エポキシ樹脂(D2)としては、90℃以上の軟化点を有するビスフェノール型エポキシ樹脂、イソシアネート変性型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂およびこれらのハロゲン置換体、アルキル置換体、水添品等から選ばれるエポキシ樹脂を好ましく用いることができる。エポキシ樹脂(D2)の軟化点が90℃に満たない場合は、樹脂硬化物の靱性が不足し、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する。
樹脂硬化物に高い靱性を与えることから、エポキシ樹脂(D2)として、90℃以上の軟化点を有するビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。中でも、耐熱性、弾性率および靭性のバランスが良いことから、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、またはビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましく用いられる。さらに好ましくは、高い弾性率を与えることからビスフェノールF型エポキシ樹脂である。また、エポキシ樹脂(D2)は、全エポキシ樹脂100質量部のうち20〜50質量部含まれることが好ましく、全エポキシ樹脂100質量部のうち30〜50質量部含まれることがより好ましい。含有量が20質量部に満たない場合、得られる樹脂硬化物が相分離構造を形成することが難しくなりがちであり、靭性が低下しやすい。含有量が50質量部を超える場合は、樹脂硬化物の弾性率や耐熱性が低下しがちであるだけでなく、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎる傾向がある。エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎると、プリプレグを製造する際、炭素繊維間にエポキシ樹脂組成物を充分に含浸できない場合がある。このために、得られる炭素繊維強化複合材料中にボイドを生じ、炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性が低下する場合がある。
かかるエポキシ樹脂(D2)の市販品としては、以下のものが挙げられる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”1004、1004F、1004AF、1005F、1007、1009P、1010Pなどが挙げられる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、4004P、4005P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2004(以上、東都化成(株)製)などが挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”5057(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、ST4100D、ST5100(以上、東都化成(株)製)などが挙げられる。
エポキシ樹脂(E2)としては、軟化点が50℃以下である、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルエーテル、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンなどのアミン型エポキシ樹脂や、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、およびこれらのハロゲン置換体、アルキル置換体、水添品などから選ばれたエポキシ樹脂を使用することができる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンとしては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、MY721、MY725(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)等を使用することができる。テトラグリシジルジアミノジフェニルエーテルとしては、3,3’−TGDDE(東レファインケミカル(株)製)等を使用することができる。トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールとしては、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600、MY0610(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)等を使用することができる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品として、“TETRAD(登録商標)”−X、“TETRAD(登録商標)”−C(三菱ガス化学(株)製)等を使用することができる。トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂として“TEPIC(登録商標)”B26(日産化学工業(株))等を使用することができる。
エポキシ樹脂(E2)としては、3個以上の官能基を有するアミン型エポキシ樹脂が好ましい。またエポキシ樹脂(E2)は、全エポキシ樹脂100質量部のうち30〜50質量部含まれることが好ましい。含有量が30質量部に満たない場合、得られる樹脂硬化物が相分離構造を形成しがたく、弾性率が低下しやすくなる。また、含有量が50質量部を超える場合は、樹脂硬化物の塑性変形能力と靭性が低下しやすい。3個以上の官能基を有するアミン型エポキシ樹脂の中でも、3個の官能基を有するアミン型エポキシ樹脂が、樹脂硬化物に弾性率と靭性をバランス良く与えるため好ましい。さらに、3個の官能基を有するアミン型エポキシ樹脂の中でも、アミノフェノール型エポキシ樹脂は、靭性が比較的高く、より好ましい。
エポキシ樹脂(F2)としては、50℃以下の軟化点を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびこれらのハロゲン置換体、アルキル置換体、水添品等から選ばれたエポキシ樹脂が用いられる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、826、827、828、834(以上、三菱化学(株)製)。水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)“EX−252(ナガセケムテックス(株)製)、ST3000(以上、東都化成(株)製)などが挙げられる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)、“jER(登録商標)”806、807(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱化学(株)製)、EPN1179、EPN1180(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)などが挙げられる。クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、ECN9511(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)などが挙げられる。エポキシ樹脂(F2)の軟化点が50℃を超える場合は、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりやすいため、プリプレグ製造工程において、エポキシ樹脂組成物が炭素繊維間に含浸しにくくなり、得られる炭素繊維強化複合材料中にボイドを生じ、耐衝撃性が低下する。
エポキシ樹脂(F2)としては、高い弾性率を与え、エポキシ樹脂(D2)および(E2)への相溶性が良好であることから、1200以下の数平均分子量を持つエポキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ樹脂(F2)は、全エポキシ樹脂100質量部のうち10〜40質量部含まれることが好ましい。より好ましくは、エポキシ樹脂(F2)が、全エポキシ樹脂100質量部のうち20〜40質量部含まれることである。エポキシ樹脂(F2)の配合量が10質量部に満たない場合、得られる樹脂硬化物の相分離構造周期が大きくなる傾向がある。また、エポキシ樹脂(F2)の配合量が40質量部を超える場合は、エポキシ樹脂(D2)と(E2)が相溶しやすく、相分離構造を形成し難いため、得られる樹脂硬化物の弾性率や靭性が低下しやすい。なお、数平均分子量は、実施の態様1と同様の方法で測定可能である。
エポキシ樹脂(F2)の数平均分子量を1200以下にすることにより、得られるエポキシ樹脂組成物の粘度を低くすることができる。したがって、プリプレグ製造工程において、前記エポキシ樹脂組成物が炭素繊維間に含浸しやすくなるため、得られるプリプレグの繊維含有率を向上させることができる。一方で、エポキシ樹脂(F2)の数平均分子量が1200より大きい場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりやすいため、プリプレグ製造工程において、エポキシ樹脂組成物が炭素繊維間に含浸しにくくなり、得られる炭素繊維強化複合材料中にボイドを生じるので、プリプレグの繊維含有率を向上させにくい。また、エポキシ樹脂(F2)の数平均分子量を150〜1200とすることで、相溶化剤としての効果が大きくなるため、微細な相分離構造を形成させやすい。エポキシ樹脂(F2)の数平均分子量が150より小さいか、または1200より大きい場合、構成要素(F2)はいずれか一方の相に相溶しやすくなるため、相溶化剤としての効果が小さくなる。その結果、樹脂硬化物の相分離構造周期が大きくなる。エポキシ樹脂(F2)の数平均分子量は、150〜450であることが特に好ましい。
かかる数平均分子量450以下のエポキシ樹脂(F2)の市販品としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、826、827、828(以上、三菱化学(株))、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)、“jER(登録商標)”806(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
実施の態様2において、潜在性硬化剤(G)は、第一の態様で記載した潜在性硬化剤(G)と同様のものを使用できる。
また、実施の態様1および2において、本発明にかかるサイジング剤と、潜在性硬化剤(G)との組み合わせとしては、次に示す組み合わせが好ましい。塗布されるサイジング剤と潜在性硬化剤(G)とのアミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が、1.0でサイジング剤と潜在性硬化剤(G)とを混合し、混合直後と、温度25℃、湿度60%の環境下で20日保管した場合のガラス転移点を測定する。20日経時後のガラス転移点の上昇が10℃以下であるサイジング剤と、潜在性硬化剤(G)との組み合わせが好ましい。ガラス転移点の上昇が10℃以下であることで、プリプレグにしたときに、サイジング剤外層とマトリックス樹脂中の反応が抑制され、プリプレグを長期間保管した後の炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性低下が抑制されるため好ましい。またガラス転移点の上昇が8℃以下であることがより好ましい。なお、ガラス転移点は、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。
実施の態様1および2において、エポキシ樹脂組成物と潜在性硬化剤(G)、あるいはそれらの一部を予備反応させた物をエポキシ樹脂組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や長期保管安定性向上に有効な場合がある。
実施の態様1および2において、エポキシ樹脂組成物には、粘弾性を調整して作業性または樹脂硬化物の弾性率や耐熱性を向上させる目的で、エポキシ樹脂(D)〜(F)以外のエポキシ樹脂を、本発明の効果が失われない範囲で添加することができる。これらは1種類だけでなく、複数種組み合わせて用いても良い。具体的には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、N,N’−ジグリシジルアニリン、ジグリシジル−p−フェノキシアニリンなどが挙げられる。
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては EPPN−201(日本化薬(株))、“エピクロン(登録商標)”N−770、N−775(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、N−665、N−670、N−673、N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
レゾルシノール型エポキシ樹脂の具体例としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては“エピクロン(登録商標)”HP7200、HP7200L、HP7200H(以上、DIC(株)製)、“TACTIX(登録商標)”558(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、XD−1000−1L、XD−1000−2L(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000H、YX4000、YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
イソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品としては、オキサゾリドン環を有する“AER(登録商標)”4152(旭化成イーマテリアルズ(株)製)やXAC4151(旭化成ケミカルズ(株)製)などが挙げられる。
アントラセン型エポキシ樹脂の市販品としては、YX8800(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX810、811、850、851、821、830、841、861(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
ジグリシジルアニリンの市販品としては、GAN、GOT(日本化薬(株))などが挙げられる。
ジグリシジル−p−フェノキシアニリンの市販品としては、PxGAN(東レ・ファインケミカル(株)製)などが挙げられる。
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、粘弾性を制御し、プリプレグのタックおよびドレープ特性や、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性などの力学特性を改良するために、エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂や、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子や、無機粒子等を配合することができる。
エポキシ樹脂に配合する可溶性の熱可塑性樹脂は、一般に、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、この熱可塑性樹脂は、部分的に架橋構造を有していても差し支えなく、結晶性を有していても非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、フェノキシ樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂が、エポキシ樹脂に溶解していることが好適である。
さらに、この熱可塑性樹脂の末端官能基としては、水酸基、カルボキシル基、チオール基、酸無水物などのものが、カチオン重合性化合物と反応することができ、好ましく用いられる。水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂を挙げることができる。
中でも、ポリピニルホルマール、ボリビニルブチラール、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンエーテルは、加熱によりエポキシ樹脂に容易に溶解し、硬化物の耐熱性を損なうことなく、炭素繊維とエポキシ樹脂組成物の接着性を改善すると共に、分子量の選択や配合量の調整により粘度調整が容易に行えるため好ましく用いられる。
具体的に熱可塑性樹脂の市販品を例示すると、ポリピニルアセタール樹脂としては、“ビニレック”(登録商標)K、“ビニレック”(登録商標)L、“ビニレック”(登録商標)H、“ビニレック”(登録商標)E(以上、チッソ(株)製)などのポリピニルホルマール、“エスレック”(登録商標)K(積水化学工業(株)製)などのポリピニルアセタール、“エスレック”(登録商標)B(積水化学工業(株)製)やデンカブチラール(電気化学工業(株)製)などのポリピニルブチラールなどが挙げられる。ポリエーテルスルホンの市販品としては、“スミカエクセル(登録商標)”PES3600P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5200P、“スミカエクセル(登録商標)”PES7600P、“スミカエクセル(登録商標)”PES7200P(以上、住友化学工業(株)製)、“Ultrason(登録商標)”E2020P SR、“Ultrason(登録商標)”E2021SR(以上、BASF(株)製)、“GAFONE(登録商標)”3600RP、“GAFONE(登録商標)” 3000RP(以上、ソルベイアドバンスポリマーズ(株)製)、“Virantage(登録商標)”PESU VW−10200、“Virantage(登録商標)”PESU VW−10700(以上、ソルベイアドバンスポリマーズ(株)製)などを使用することができ、また、特表2004−506789号公報に記載されるようなポリエーテルスルホンとポリエーテルエーテルスルホンの共重合体オリゴマー、さらにポリエーテルイミドの市販品である“ウルテム(登録商標)”1000、“ウルテム(登録商標)”1010、“ウルテム(登録商標)”1040(以上、SABIC Innovative Plastics(株)製)などが挙げられる。
また、アクリル系樹脂は、エポキシ樹脂との高い相溶性を有し、粘弾性制御のために好ましく用いられる。アクリル樹脂の市販品としては、“ダイヤナール(登録商標)”BRシリーズ(三菱レイヨン(株)製)、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M、M100、M500(松本油脂製薬(株)製)などを挙げることができる。
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。
コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL−2655、EXL−2611、EXL−3387(ロームアンドハーズ(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC−3355、TR−2122(ガンツ(株)製)、“NANOSTRENGTH(登録商標)”M22、51、52、53(アルケマ社製)、“カネエース(登録商標)”MXシリーズ(カネカ(株)製)等を使用することができる。
熱可塑性樹脂粒子としては、先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものであって、エポキシ樹脂組成物に混合して用い得る熱可塑性樹脂を用いることができる。中でも、ポリアミドは最も好ましく、ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン6/12共重合体や特開平01−104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)は、特に良好なエポキシ樹脂との接着強度を与える。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。ポリアミド粒子の市販品としては、SP−500、SP−10、TR−1、TR−2、842P−48、842P−80(以上、東レ(株)製)、“トレパール(登録商標)”TN(東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)等を使用することができる。
本発明において、S−B−M、B−M、およびM−B−Mからなる群から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体(以下略して、ブロック共重合体と記すこともある)をさらに含んでいることは、エポキシ樹脂組成物の優れた耐熱性を維持しつつ、靱性や耐衝撃性を向上させるために有効である。
ここで、前記のS、BおよびMは、以下で定義される各ブロックを意味する。S、BおよびMで表される各ブロックは、共有結合によって直接、もしくは、何らかの化学構造を介して連結されている。
また、ブロック共重合体がS−B−Mの場合は、S、B、Mのいずれかのブロックが、ブロック共重合体がB−MまたはM−B−Mの場合は、B、Mのいずれかのブロックが、エポキシ樹脂と相溶することは、靱性の向上の観点から好ましい。
ブロックMは、ポリメタクリル酸メチルのホモポリマーまたはメタクリル酸メチルを50質量%以上含むコポリマーからなるブロックである。ブロックMは60質量%以上がシンジオタクティックPMMA(ポリメタクリル酸メチル)からなるのが好ましい。
ブロックBは、ブロックMに非相溶で、かつ、ガラス転移温度が20℃以下であるブロックである。ブロックBのガラス転移温度は、エポキシ樹脂組成物、およびブロック共重合体単体のいずれを用いた場合でも、動的粘弾性測定装置(RSAII:レオメトリックス社製、または、レオメーターARES:TAインスツルメント社製)を用いてDMA法により測定できる。すなわち、測定サンプルを厚さ1mm、幅2.5mm、長さ34mmの板状にし、それを、−100〜250℃の温度で掃引しながら、ストレスを加える周期を1Hzとして測定し、そのtanδ値が最大となる温度をブロックBのガラス転移温度とする。ここで、サンプルの作製は次のようにして行う。エポキシ樹脂組成物を用いた場合は、未硬化の樹脂組成物を真空中で脱泡した後、1mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み1mmになるように設定したモールド中で130℃の温度で2時間硬化させることでボイドのない板状樹脂硬化物が得られる。ブロック共重合体単体を用いた場合、2軸押し出し機を用いてボイドのない板を作成する。これらの板をダイヤモンドカッターにより上記サイズに切り出して評価することができる。
ブロックBのガラス転移温度は20℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−40℃以下である。ガラス転移温度は、靱性の観点では低ければ低いほど好ましいが、−100℃を下回ると炭素繊維強化複合材料とした際に切削面が荒れるなどの加工性に問題が生じる場合がある。
ブロックBは、エラストマーブロックであることが好ましい。かかるエラストマーブロックを構成するモノマーとしては、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンおよび2−フェニル−1,3−ブタジエンから選択することができる。
ブロックBは、ポリジエン、特にポリブタジエン、ポリイソプレンおよびこれらのランダム共重合体または部分的または完全に水素化されたポリジエン類の中から選択するのが靱性の観点から好ましい。かかる部分的または完全に水素化されたポリジエン類は、通常の水素化方法に従って作製できる。上記で列記したジエンの中で、最も低いガラス転移温度を有する1,4−ポリブタジエン(ガラス転移温度約−90℃)を使用するのがより好ましい。ガラス転移温度がより低いブロックBを用いることは耐衝撃性や靱性の観点から有利だからである。
エラストマーブロックBを構成するモノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレートを用いることもできる。具体例としては、エチルアクリレート(−24℃)、ブチルアクリレート(−54℃)、2−エチルヘキシルアクリレート(−85℃)、ヒドロキシエチルアクリレート(−15℃)および2−エチルヘキシルメタアクリレート(−10℃)を挙げることができる。ここで、各アクリレートの名称の後のカッコ中に示した数値は、それぞれのアクリレートを用いた場合に得られるブロックBのガラス転移温度である。これらの中では、ブチルアクリレートを用いるのが好ましい。これらのアクリレートは、メタクリル酸メチルを50質量%以上含むブロックMとは非相溶である。ブロックBは、ポリ1,4−ブタジエン、ポリブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)から選ばれたものがより好ましく、ポリ1,4−ブタジエンまたはポリ(ブチルアクリレート)がさらに好ましい。
ブロックSは、ブロックBおよびMに非相溶であり、かつ、そのガラス転移温度が、ブロックBよりも高いブロックである。ブロックSのガラス転移温度または融点は、23℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。ブロックSを構成するモノマーの例として、芳香族ビニル化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレンまたはビニルトルエン;アルキル鎖が1〜18の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルなどを挙げることができる。
ブロック共重合体の配合量は、力学特性やプリプレグ作製プロセスへの適合性の観点から、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、さらに好ましくは2〜7質量部である。ブロック共重合体の配合量が1質量部未満の場合、樹脂硬化物の靭性および塑性変形能力の向上効果が小さく、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が低くなる場合がある。10質量部を超える場合、樹脂硬化物の弾性率が低下して炭素繊維強化複合材料の力学特性が低下する上、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなるため、取り扱い性が悪くなる場合がある。
ブロック共重合体としてトリブロック共重合体M−B−Mを用いる場合、トリブロック共重合体M−B−Mの二つのブロックMは、互いに同一でも異なっていてもよい。また、同じモノマーによるもので分子量が異なるものにすることもできる。
ブロック共重合体としてトリブロック共重合体M−B−Mとジブロック共重合体B−Mを併用する場合は、トリブロック共重合体M−B−MのブロックMがジブロック共重合体B−MのMブロックと同一でも、異なっていてもよく、また、M−B−MトリブロックのブロックBはジブロック共重合体B−Mと同一でも異なっていてもよい。
ブロック共重合体としてトリブロック共重合体S−B−Mとジブロック共重合体B−Mおよび/またはトリブロック共重合体M−B−Mを併用する場合には、このトリブロック共重合体S−B−MのブロックMと、トリブロック共重合体M−B−Mの各ブロックMと、ジブロック共重合体B−MのブロックMとは互いに同一でも異なっていてもよく、トリブロック共重合体S−B−Mと、トリブロック共重合体M−B−Mと、ジブロック共重合体B−Mとの各ブロックBは互いに同一でも異なっていてもよい。
ブロック共重合体はアニオン重合によって製造できる。例えば欧州特許第EP524,054号公報や欧州特許第EP749,987号公報に記載の方法で製造できる。
トリブロック共重合体M−B−Mの具体例としては、メタクリル酸メチル−ブチルアクリレート−メタクリル酸メチルからなるNanostrength M22(アルケマ社製)や、極性官能基をもつNanostrength M22N(アルケマ社製)が挙げられる。トリブロック共重合体S−B−Mの具体例としては、スチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチルからなるアルケマ社製のNanostrength 123、Nanostrength 250、Nanostrength 012,Nanostrength E20,Nanostrength E40(以上、アルケマ社製)が挙げられる。
ブロック共重合体が含まれる場合、硬化前においてエポキシ樹脂(D)〜(F)およびブロック共重合体が互いに均一に相溶している状態であったとしても、硬化過程においてスピノーダル分解し、エポキシ樹脂(D)リッチ相とエポキシ樹脂(E)リッチ相とブロック共重合体リッチ相の少なくとも3相を含む相分離構造を形成する傾向がある。
エポキシ樹脂組成物の第2の態様において、エポキシ樹脂組成物がエポキシ樹脂(D2)〜(F2)、および潜在性硬化剤(G)に加え、ブロック共重合体を含む場合、得られる樹脂硬化物が、エポキシ樹脂(D2)リッチ相、エポキシ樹脂(E2)リッチ相、およびブロック共重合体リッチ相を含む相分離構造を有し、エポキシ樹脂(D2)リッチ相と、エポキシ樹脂(E2)リッチ相、およびブロック共重合体リッチ相の相分離構造周期が1nm〜5μmであることが必要である。
エポキシ樹脂組成物の第1の態様において、エポキシ樹脂組成物がエポキシ樹脂(D1)〜(F1)、および潜在性硬化剤(G)に加え、ブロック共重合体を含む場合、得られる樹脂硬化物が、エポキシ樹脂(D1)リッチ相、エポキシ樹脂(E1)リッチ相およびブロック共重合体リッチ相を含む相分離構造を有し、エポキシ樹脂(D1)リッチ相と、エポキシ樹脂(E1)リッチ相、およびブロック共重合体リッチ相の相分離構造周期が1nm〜5μmであることが好ましく、ブロック共重合体リッチ相の相分離周期が1nm〜1μmであることがさらに好ましい。
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、熱硬化性樹脂粒子、カーボンブラック、カーボン粒子や金属めっき有機粒子等の導電性粒子、あるいはシリカゲル、クレー等の無機フィラーや、導電性フィラーを配合することができる。導電性粒子や導電性フィラーを用いることは、得られる樹脂硬化物や炭素繊維強化複合材料の導電性を向上することが出来るので、好適に用いられる。
導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長法炭素繊維(VGCF)、フラーレン、金属ナノ粒子などが挙げられ、単独で使用しても併用してもよい。なかでも安価で効果の高いカーボンブラックが好ましく用いられ、かかるカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなどを使用することができ、これらを2種類以上ブレンドしたカーボンブラックも好適に用いられる。
本発明において、エポキシ樹脂(D)リッチ相とエポキシ樹脂(E)リッチ相の相分離構造周期が小さすぎる場合は、本発明の目的を損なうことのない範囲内で、下記の調整方法の1つ以上の方法を行うことにより、相分離構造周期を大きくすることができる。
(1)全エポキシ樹脂に対するエポキシ樹脂(F)の配合割合を減らす。
(2)エポキシ樹脂(D)の軟化点を高くする。
(3)エポキシ樹脂(E)の軟化点を低くする。
(4)エポキシ樹脂(D)、(E)両方の配合割合を増やす。
また、エポキシ樹脂(D)リッチ相とエポキシ樹脂(E)リッチ相の相分離構造周期は、本発明の目的を損なうことのない範囲内で、下記の調整方法の1つ以上の方法を行うことにより、小さくすることができる。
(1)全エポキシ樹脂に対するエポキシ樹脂(F)の配合割合を増やす。
(2)エポキシ樹脂(D)の軟化点を低くする。
(3)エポキシ樹脂(E)の軟化点を高くする。
(4)エポキシ樹脂(D)および(E)両方の配合割合を減らす。
また、ブロック共重合体をエポキシ樹脂組成物に配合する場合、ブロック共重合体リッチ相の相分離構造周期は、本発明の目的を損なうことのない範囲内で、下記の調整方法の1つ以上の方法を行うことにより、小さくすることができる。
(1)ブロック共重合体の配合割合を減らす。
(2)エポキシ樹脂(D)の軟化点を低くする。
(3)エポキシ樹脂(E)の配合割合を増やす。
また、ブロック共重合体リッチ相の相分離構造周期は、本発明の目的を損なうことのない範囲内で、下記の調整方法の1つ以上の方法を行うことにより、大きくすることできる。
(1)ブロック共重合体の配合割合を増やす。
(2)エポキシ樹脂(D)の軟化点を高くする。
(3)エポキシ樹脂(E)の配合割合を減らす。
本発明のエポキシ樹脂組成物をプリプレグのマトリックス樹脂として用いる場合、タックやドレープなどのプロセス性の観点から、エポキシ樹脂組成物の80℃における粘度は、0.5〜200Pa・sであることが好ましい。エポキシ樹脂組成物の80℃における粘度が0.5Pa・sに満たない場合、製造したプリプレグが形状を保持しがたく、プリプレグに割れを生じる可能性がある。また、炭素繊維強化複合材料の成形時に多くの樹脂フローを生じ、炭素繊維含有量にばらつきが生じたりする可能性がある。また、80℃における粘度が200Pa・sを超える場合、プリプレグを製造する際、炭素繊維間にエポキシ樹脂組成物を充分に含浸できないことがある。このために、得られる炭素繊維強化複合材料中にボイドを生じ、炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性が低下する場合がある。エポキシ樹脂組成物の80℃における粘度は、プリプレグ製造工程において、炭素繊維間に樹脂が含浸しやすく、高繊維含有率のプリプレグを製造できるため、5〜50Pa・sの範囲にあることがより好ましい。粘度については、本発明の目的を損なうことのない範囲内で、下記の(1)〜(2)の1つ以上の方法を行うことにより低粘度化でき、下記の(3)〜(4)の1つ以上の方法を行うことにより高粘度化できる。
(1)軟化点の低いエポキシ樹脂(D)および/または(E)を用いる。
(2)エポキシ樹脂(F)の配合量を増量する。
(3)軟化点の高いエポキシ樹脂(D)および/または(E)を用いる。
(4)熱可塑樹脂を配合する。
ここで粘度とは、動的粘弾性測定装置(レオメーターRDA2:レオメトリックス社製、またはレオメーターARES:TAインスツルメント社製)を用い、直径40mmのパラレルプレートを用い、昇温速度1.5℃/分で単純昇温し、周波数0.5Hz、Gap 1mmで測定を行った複素粘性率η*のことを指している。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、その樹脂硬化物の弾性率が、3.8〜5.0GPaの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、4.0〜5.0GPaである。かかる弾性率が3.8GPaに満たない場合、得られる炭素繊維強化複合材料の静的強度が低くなる場合がある。かかる弾性率が5.0GPaを超える場合、得られる炭素繊維強化複合材料の塑性変形能力が低くなりがちで、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が低下する場合がある。弾性率の測定方法については、後で詳述する。
樹脂硬化物の弾性率は、本発明の目的を損なうことのない範囲内で、下記の1つ以上の方法を行うことにより、向上させることができる。
(1)エポキシ樹脂(D)として弾性率の高いビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いる。
(2)エポキシ樹脂(E)の配合量を増やす。
(3)エポキシ樹脂(E)としてアミン型エポキシを用い、中でも弾性率の高いアミノフェノール型エポキシ樹脂を用いる。
(4)エポキシ樹脂(F)としてビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いる。
樹脂硬化物を得るための硬化温度や硬化時間は、配合する硬化剤や触媒に応じて選択する。例えば、ジシアンジアミドとDCMUを組み合わせた硬化剤系では、130〜150℃の温度で90分〜2時間硬化させる条件が好ましく、ジアミノジフェニルスルホンを用いた場合には、180℃の温度で2〜3時間硬化させる条件が好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させた樹脂硬化物の樹脂靱性値は、1.1MPa・m0.5以上であることが好ましい。より好ましくは、1.3MPa・m0.5以上である。樹脂靱性値が1.1MPa・m0.5未満であると、得られる炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が低下する場合がある。樹脂靭性値の測定方法については、後で詳述する。
樹脂靱性値は、本発明の目的を損なうことのない範囲内で下記の1つ以上の方法を行うことにより、向上させることができる。
(1)数平均分子量の大きなエポキシ樹脂(D)および/または(E)を用いる。
(2)エポキシ樹脂(D)の配合量を増やす。
(3)ブロック共重合体を配合する。
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、ニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機などが好ましく用いられる。エポキシ樹脂(D)〜(F)を投入し、撹拌しながらエポキシ樹脂混合物の温度を130〜180℃の任意の温度まで上昇させ、エポキシ樹脂(D)〜(F)を均一に溶解させる。このとき、潜在性硬化剤(G)と硬化促進剤以外の、熱可塑性樹脂や、ブロック共重合体などのその他の成分を添加し、ともに混練しても良い。その後、撹拌しながら、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下の温度まで下げて、潜在性硬化剤(G)ならびに硬化促進剤を添加し、混練、分散させる。この方法は、長期保管安定性に優れるエポキシ樹脂組成物を得ることができるため好ましく用いられる。
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、上記のような材料を所定の割合で配合することにより、低温下、高温高湿下等の厳しい環境下での力学特性に優れ、該エポキシ樹脂組成物と炭素繊維との接着性に優れ、長期保管における力学特性低下を抑制しうるプリプレグを提供することが可能となる。
次に、本発明のプリプレグの製造方法について説明する。
本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸せしめたものである。プリプレグは、例えば、マトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法あるいは加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
ウェット法では、サイジング剤塗布炭素繊維束をマトリックス樹脂が含まれる液体に浸漬した後、引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。
また、ホットメルト法では、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接サイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法、あるいは一旦マトリックス樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムをまず作成し、ついでサイジング剤塗布炭素繊維束の両側あるいは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧してマトリックス樹脂をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法により、プリプレグを製造することができる。ホットメルト法は、プリプレグ中に残留する溶媒がないため好ましい手段である。
本発明のプリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形するには、プリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながらマトリックス樹脂を加熱硬化させる方法などを用いることができる。
熱および圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法などがあり、特にスポーツ用品に関しては、ラッピングテープ法と内圧成形法が好ましく採用される。より高品質で高性能の積層複合材料が要求される航空機用途においては、オートクレーブ成形法が好ましく採用される。各種車輌外装にはプレス成形法が好ましく用いられる。
本発明のプリプレグの炭素繊維質量分率は、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。炭素繊維質量分率が低すぎると、得られる炭素繊維強化複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる炭素繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、炭素繊維質量分率が高すぎると、エポキシ樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる炭素繊維強化複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
また、本発明において炭素繊維強化複合材料を得る方法としては、プリプレグを用いて得る方法の他に、ハンドレイアップ、RTM、“SCRIMP(登録商標)”、フィラメントワインディング、プルトルージョンおよびレジンフィルムインフュージョンなどの成形法を目的に応じて選択し適用することができる。これらのいずれかの成形法を適用することにより、前述のサイジング剤塗布炭素繊維とエポキシ樹脂組成物の硬化物を含む炭素繊維強化複合材料が得られる。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、スポーツ用途、一般産業用途および航空宇宙用途に好ましく用いられる。より具体的には、スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット、ホッケー等のスティック、およびスキーポール等に好ましく用いられる。さらに一般産業用途では、自動車、自転車、船舶および鉄道車両等の移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、および補修補強材料等に好ましく用いられる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。次に示す実施例のプリプレグの作製環境および評価は、特に断りのない限り、温度25℃±2℃、相対湿度50%の雰囲気で行ったものである。
(1)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面のX線光電子分光法
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。なお、光電子脱出角度15°で実施した。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
なお、(b)より(a)のピークが大きい場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1に合わせた場合、C1sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた後、上記手法にて(a)/(b)を算出した。
(2)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業(株)製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(3)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1,2を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
(4)炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、表面水酸基濃度(COH/C)
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。
溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04mol/Lの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rを求めた。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表した。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206での、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02mol/Lの3弗化エタノール気体、0.001mol/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04mol/Lのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mを求めた。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いた場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
(5)サイジング剤のエポキシ当量、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量
サイジング剤のエポキシ当量は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、サイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルムアミド中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで炭素繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。
(6)ガラス転移点の上昇温度
アミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が1.0になるようにサイジング剤と潜在性硬化剤とを混合し、JIS K7121(1987)に従い、示差走査熱量計(DSC)により調整した混合物のガラス転移温度の測定を行った。容量50μlの密閉型サンプル容器に、3〜10mgの試料(試験片)を詰め、昇温速度10℃/分で30〜350℃まで昇温し、ガラス転移温度を測定した。ここでは、測定装置として、TA Instruments社製の示差走査型熱量計(DSC)を使用した。
具体的には、得られたDSC曲線の階段状変化を示す部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とした。
続いて、調整した混合物を温度25℃、湿度60%の環境下で20日保管した後、上記の方法でガラス転移温度を測定し、初期からの上昇温度をガラス転移点の上昇温度とした(表中の「硬化剤とのΔTg」がそれに該当する)。
(7)サイジング付着量の測定方法
約2gのサイジング付着炭素繊維束を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50mL/minの窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20L/minの乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回行い、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
(8)界面剪断強度(IFSS)の測定
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(イ)〜(ニ)の手順で行った。
(イ)樹脂の調整
ビスフェノールA型エポキシ化合物“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)14.5質量部を、それぞれ容器に入れた。その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱した。その後、両者をよく混合し、80℃の温度で約15分間真空脱泡を行った。
(ロ)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥を行った。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmだった。
(ハ)樹脂注型から硬化まで
上記(ロ)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(イ)の手順で調整した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/分で75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5℃/分で125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温した。その後、脱型して試験片を得た。
(ニ)界面剪断強度(IFSS)の測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数N(個)を測定した。次に、平均破断繊維長laを、la(μm)=22×1000(μm)/N(個)の式により計算した。次に、平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度IFSSを、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
・界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
(9)数平均分子量測定
測定装置としては、“HLC(登録商標)”8220GPC(東ソー株式会社製)、検出器としてUV−8000(254nm)、カラムにはTSK−G4000H(東ソー株式会社製)を用いた。測定するエポキシ樹脂をTHFに、濃度0.1mg/mlで溶解させ、これを流速1.0ml/分、温度40℃で測定した。測定サンプルの保持時間を、ポリスチレンの校正用サンプルの保持時間を用いて、分子量に換算して数平均分子量を求めた。
(10)軟化点測定(環球法)
環球法JIS−K7234(2008年)にて測定した。
(11)エポキシ樹脂組成物原料の構造ユニットとしてのSP値計算
各エポキシ樹脂原料(D2)、(E2)および(F2)と硬化剤(G)との樹脂硬化物を想定した場の構造ユニットについて、Polym.Eng.Sci.,14(2),147−154(1974)に記載された、Fedorsの方法に基づき、分子構造からSP値を算出した。その単位は(cal/cm3)1/2を用いた。
(12)エポキシ樹脂組成物の粘度測定
エポキシ樹脂組成物の粘度は、動的粘弾性測定装置(レオメーターRDA2:レオメトリックス社製)を用い、直径40mmのパラレルプレートを用い、昇温速度2℃/minで単純昇温し、周波数0.5Hz、Gap 1mmで測定を行い、複素粘性率η*の80℃の値を測定した。
(13)エポキシ樹脂硬化物の弾性率
エポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、特に断らない限り130℃の温度で90分間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを100mm/分とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施し、弾性率を測定した。サンプル数n=5で測定した値の平均値を弾性率の値とした。
(14)エポキシ樹脂硬化物の樹脂靱性値の測定
エポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、6mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み6mmになるように設定したモールド中で、特に断らない限り130℃の温度で90分間硬化させ、厚さ6mmの板状の樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物から、幅12.7mm、長さ150mmの試験片を切り出し、ASTM D5045(1999)に従って、試験片を加工し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、測定をおこなった。試験片への初期の予亀裂の導入は、液体窒素温度まで冷やした剃刀の刃を試験片にあてハンマーで剃刀に衝撃を加えることで行った。ここでいう、樹脂靱性値とは、変形モードI(開口型)の臨界応力強度のことを指している。サンプル数n=5で測定した値の平均値を、樹脂靱性値とした。
(15)構造周期の測定
上記(13)で得られたエポキシ樹脂硬化物を染色後、薄切片化し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて下記の条件で透過電子像を取得した。染色剤は、モルホロジーに充分なコントラストが付くよう、OsO4とRuO4を樹脂組成に応じて使い分けた。
装置:H−7100透過型電子顕微鏡(日立(株)製)
加速電圧:100kV
倍率:10,000倍
透過電子像より、エポキシ樹脂(D1)または(D2)リッチ相、およびエポキシ樹脂(E1)または(E2)リッチ相の構造周期を観察した。各成分の種類や比率により、エポキシ樹脂硬化物の相分離構造は、両相連続構造や海島構造を形成するのでそれぞれについて以下のように測定した。以下の方法により測定された相分離サイズが、1nm〜1μmであるものをA、1μmを超える〜5μmの相分離サイズをB、均一構造をC、5μmを超える相分離サイズをDとして評価した。
相分離構造が両相連続構造の場合、顕微鏡写真の上に所定の長さの直線をランダムに3本引き、その直線と相界面の交点を抽出し、隣り合う交点間の距離を測定し、これらの数平均値を構造周期とした。かかる所定の長さとは、顕微鏡写真を基に以下のようにして設定するものとした。構造周期が0.01μmオーダー(0.01μm以上0.1μm未満)と予想される場合、倍率を20,000倍でサンプルの写真を撮影し、写真上で引いた20mmの長さ(サンプル上1μmの長さ)を直線の所定の長さとした。同様にして、相分離構造周期が0.1μmオーダー(0.1μm以上1μm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍で写真撮影し、写真上で20mmの長さ(サンプル上10μmの長さ)を直線の所定の長さとした。相分離構造周期が1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上で20mmの長さ(サンプル上100μmの長さ)を直線の所定の長さとした。もし、測定した相分離構造周期が予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて再度測定した。
相分離構造が海島構造の場合、顕微鏡写真の上の所定の領域をランダムに3箇所選出し、その領域内の島相サイズを測定し、これらの数平均値を構造周期とした。島相のサイズは、相界面から一方の相界面へ島相を通って引く最短距離の線の長さをいう。島相が楕円形、不定形、または、二層以上の円または楕円になっている場合であっても、相界面から一方の相界面へ島相を通る最短の距離を島相サイズとした。かかる所定の領域とは、顕微鏡写真を基に以下のようにして設定するものとした。相分離構造周期が0.01μmオーダー(0.01μm以上0.1μm未満)と予想される場合、倍率を20,000倍でサンプルの写真を撮影し、写真上で4mm四方の領域(サンプル上0.2μm四方の領域)を所定の領域とした。同様にして、相分離構造周期が0.1μmオーダー(0.1μm以上1μm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍でサンプルの写真を撮影し、写真上で4mm四方の領域(サンプル上2μm四方の領域)を所定の領域とした。相分離構造周期が1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上で4mm四方の領域(サンプル上20μm四方の領域)を所定の領域とした。もし、測定した相分離構造周期が予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて再度測定した。
(16)樹脂硬化物のガラス転移温度の測定
上記(12)と同様の方法で作製したエポキシ樹脂硬化物をダイヤモンドカッターで幅13mm、長さ35mmに切り出し、試験片とした。試験片を動的粘弾性測定装置(DMAQ800:ティー・エイ・インスツルメンツ社製)を用い、40℃〜250℃まで昇温速度5℃/分で昇温し、周波数1.0Hzの曲げモードでガラス転移温度の測定を行った。このときの貯蔵弾性率のオンセット温度をガラス転移温度とした。表2〜6にその結果を示す。ただし、相分離構造を有する樹脂硬化物のガラス転移温度測定では、樹脂硬化物のガラス転移温度が2つ生じる場合があり、表2〜6に記載のガラス転移温度は、低い方のガラス転移温度である。
(17)円筒シャルピー衝撃試験用炭素繊維強化複合材料製管状体の作製
次の(a)〜(e)の操作により、一方向プリプレグを、繊維方向が円筒軸方向に対して45°および−45°になるよう、各3plyを交互に積層し、さらに一方向プリプレグを、繊維方向が円筒軸方向に対して平行になるよう、3plyを積層し、内径が6.3mmの炭素繊維強化複合材料製管状体を作製した。マンドレルとしては、直径6.3mm、長さ1000mmのステンレス製丸棒を使用した。
(a)一方向プリプレグから、縦104mm、横800mmの長方形の形状(長辺の方向に対して繊維軸方向が45度となるように)に2枚のプリプレグを切り出した。切り出した2枚のプリプレグの繊維の方向をお互いに交差するように、かつ短辺方向に10mm(マンドレル半周分)ずらして貼り合わせた。
(b)プリプレグの長方形の長辺とマンドレル軸方向が同一方向になるように、離型処理したマンドレルに前記貼り合わせたプリプレグを捲回した。
(c)その上に、一方向プリプレグを縦114mm、横800mmの長方形形状(長辺方向が繊維軸方向となる)に切り出したものを、その繊維の方向がマンドレル軸の方向と同一になるように捲回した。
(d)さらに、その上から、ラッピングテープ(耐熱性フィルムテープ)を巻きつけて捲回物を覆い、硬化炉中、特に断らない限り、130℃で90分間、加熱成形した。なお、ラッピングテープの幅は15mm、張力は34N、巻き付けピッチ(巻き付け時のずれ量)は2.0mmとし、これを2plyラッピングした。
(e)この後、マンドレルを抜き取り、ラッピングテープを除去して炭素繊維強化複合材料製管状体を得た。
(18)炭素繊維強化複合材料製管状体のシャルピー衝撃試験
上記(17)で得た炭素繊維強化複合材料製管状体を長さ60mmでカットし、内径6.3mm、長さ60mmの試験片を作製した。秤量300kg・cmで管状体の側面から衝撃を与えてシャルピー衝撃試験を行った。振り上がり角から、下記の式、
E=WR[(cosβ−cosα)−(cosα'−cosα)(α+β)/(α+α')]
E:吸収エネルギー(J)
WR:ハンマーの回転軸の周りのモーメント(N・m)
α:ハンマーの持ち上げ角度(°)
α’:ハンマーの持ち上げ角αから空振りさせたときの振り上がり角(°)
β:試験片破断後のハンマーの振り上がり角(°)
に従って衝撃の吸収エネルギーを計算した。なお、試験片にはノッチ(切り欠き)は導入していない。測定数はn=5で行い、平均値をシャルピー衝撃値とした。
(19)一方向強化材の0°引張強度測定
一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、これを一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、昇温速度2.5℃/分で温度130℃まで上昇させ、圧力3kg/cm2、90分間で硬化させ、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を得た。この一方向強化材を幅12.7mm、長さ230mmにカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。このようにして得られた試験片について、インストロン社製万能試験機を用いてクロスヘッドスピード1.27mm/minで引張試験を行った。
本発明において、0°引張強度の値を(B)で求めたストランド強度の値で割り返したものを強度利用率(%)として、次式で求めた。
強度利用率=引張強度/((CF目付)/190)×Vf/100×ストランド強度)×100
CF(炭素繊維)目付=190g/m2
Vf(炭素繊維体積分率)=56%
(20)プリプレグ保管後の0°引張強度利用率
プリプレグを温度25℃、湿度60%で20日保管後、(19)と同様に0°引張強度測定を行い、強度利用率を算出した。
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。使用したエポキシ樹脂(D1)または(D2)、エポキシ樹脂(E1)または(E2)、エポキシ樹脂(F1)または(F2)、その他のエポキシ樹脂のSP値、軟化点、弾性率および数平均分子量を表1に示す。
・(A)成分:A−1〜A−3
A−1:“デナコール(登録商標)”EX−810(ナガセケムテックス(株)製)
エチレングリコールのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:113g/eq.、エポキシ基数:2
A−2:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、エポキシ基数:4
水酸基数:2
A−3:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:183g/eq.、エポキシ基数:3以上
・(B1)成分:B−1〜B−4
B−1:“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)
フェノールノボラックのグリシジルエーテル
エポキシ当量:175g/eq.、エポキシ基数:3
B−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/eq.、エポキシ基数:2
B−3:“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:475g/eq.、エポキシ基数:2
B−4:“jER(登録商標)”807(三菱化学(株)製)
ビスフェノールFのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、エポキシ基数:2
・エポキシ樹脂(D1)または(D2)
D−1:“jER(登録商標)”1007(三菱化学(株)製)
数平均分子量:3950、ビスフェノールA型エポキシ樹脂
D−2:“jER(登録商標)”4007P(三菱化学(株)製)
数平均分子量:4540、ビスフェノールF型エポキシ樹脂
D−3:“jER(登録商標)”4010P(三菱化学(株)製)
数平均分子量:8800、ビスフェノールF型エポキシ樹脂
・エポキシ樹脂(E1)または(E2)
E−1:“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、数平均分子量:480
E−2:“アラルダイド(登録商標)”MY0500(ハイツマン・アドバンスドマテリアル(株)製)
トリグリシジル−p−アミノフェノール、数平均分子量:330
・エポキシ樹脂(F1)または(F2)
F−1:“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂、数平均分子量:340
F−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、数平均分子量:378
F−3:“jER(登録商標)”834(三菱化学(株)製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、数平均分子量:500
F−4:“エポトート(登録商標)”YDF2001(東都化成(株)製)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂、数平均分子量:950
F−5:“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)
フェノールノボラック樹脂、数平均分子量:370
その他のエポキシ樹脂
・“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、数平均分子量:900
GAN(日本化薬(株)製)
N−ジグリシジルアニリン、数平均分子量:500
・“デナコール(登録商標)”EX821(ナガセケムテックス(株)製)
ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、数平均分子量:370
潜在性硬化剤(G)成分
・DICY7(三菱化学(株)製、ジシアンジアミド)
熱可塑性樹脂
“ビニレック(登録商標)”PVF−K(ポリビニルホルマール、JNC(株)製)
硬化促進剤
・DCMU99(3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、保土ヶ谷化学工業(株)製)
(実施例1)
本実施例は、次の第Iの工程、第IIの工程および第IIIの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99mol%とイタコン酸1mol%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.15、表面カルボン酸濃度COOH/Cは0.005、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。これを炭素繊維Aとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B1)成分として(B−1)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−3)を50質量部混合してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2mol付加物2molとマレイン酸1.5mol、セバチン酸0.5molの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70mol)スチレン化(5mol)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物であり、(B)成分に該当することにもなる。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表1の通りである。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。結果を表1にまとめた。この結果、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
混練装置で、エポキシ樹脂(D)成分として(D−2)を50質量部、エポキシ樹脂(E)成分として(E−2)を30質量部、およびエポキシ樹脂(F)成分として(F−1)を20質量部配合して溶解した後、潜在性硬化剤(G)として、全エポキシ樹脂のエポキシ基に対し活性水素基が0.9当量のジシアンジアミド、および硬化促進剤のDCMU99を2質量部混練して、エポキシ樹脂組成物を作製した。得られたエポキシ樹脂組成物の80℃での粘度は良好であった。得られたエポキシ樹脂組成物を2.5℃/分で昇温し、130℃で90分間かけて硬化した。得られた樹脂硬化物は、微細な相分離構造を形成し、力学特性は良好であった。得られたエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付21g/m2、および、52g/m2で離型紙上にコーティングし、2種類の樹脂フィルムを作製した。かかる樹脂目付21g/m2の樹脂フィルムを、一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維(目付125g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、温度100℃、気圧1気圧で加熱加圧しながらエポキシ樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させ炭素繊維質量分率75質量%のプリプレグを得た。また、かかる樹脂目付52g/m2の樹脂フィルムを、一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、温度100℃、気圧1気圧で加熱加圧しながらエポキシ樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させ炭素繊維質量分率65質量%のプリプレグを得た。続いて、炭素繊維質量分率75質量%のプリプレグを用いて得られた炭素繊維強化複合材料製管状体を用い、シャルピー衝撃試験を実施した。さらに、炭素繊維質量分率65質量%のプリプレグを用いて得られた炭素繊維強化複合材料を用い、初期の0°引張試験、長期保管後の0°引張試験を実施した。その結果を表2に示す。初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性は十分高く、20日後の引張強度の低下率は低いことが確認できた。
(実施例2〜8)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表2に示す(A)成分、および(B1)成分を用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。結果を表2に示す。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。各実施例のエポキシ樹脂組成物から得られた樹脂硬化物は、いずれも微細な相分離構造を形成し、力学特性は良好であった。また、プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表2に示す。
(実施例9〜13)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表3に示す質量比にした以外は、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。結果を表3に示す。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。各実施例のエポキシ樹脂組成物から得られた樹脂硬化物は、いずれも微細な相分離構造を形成し、力学特性は良好であった。また、プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表3に示す。
(実施例14)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−3)を55質量部、(B1)成分として(B−2)を22.5質量部、(C)成分を22.5質量部、DMFに溶解してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2mol付加物2molとマレイン酸1.5mol、セバチン酸0.5molの縮合物を用いた。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表2の通りである。実施例1と同様に、このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。この結果、表3に示す通り、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。各実施例のエポキシ樹脂組成物から得られた樹脂硬化物は、いずれも微細な相分離構造を形成し、力学特性は良好であった。また、プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表3に示す。
(実施例15)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−3)を60質量部、(B1)成分として(B−2)を40質量部、DMFに溶解してサイジング液を調合した。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表2の通りである。実施例1と同様に、このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。この結果、表2に示す通り、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。各実施例のエポキシ樹脂組成物から得られた樹脂硬化物は、いずれも微細な相分離構造を形成し、力学特性は良好であった。また、プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表3に示す。
(実施例16〜26)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表4に示す。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
表4に示すエポキシ樹脂(D1)または(D2)、エポキシ樹脂(E−1)または(E−2)、エポキシ樹脂(F−1)または(F−2)、および熱可塑性樹脂を、表4に示す質量比で用いた以外は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。各実施例のエポキシ樹脂組成物から得られた樹脂硬化物は、いずれも微細な相分離構造を形成し、力学特性は良好であった。また、プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表4に示す。
(実施例27〜37)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表5に示す。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
表5に示すエポキシ樹脂(D1)または(D2)、エポキシ樹脂(E1)または(E2)、エポキシ樹脂(F1)または(F2)、その他のエポキシ樹脂、および熱可塑性樹脂を、表5に示す質量比で用いた以外は、実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。各実施例のエポキシ樹脂組成物から得られた樹脂硬化物は、いずれも微細な相分離構造を形成し、力学特性は良好であった。また、プリプレグを用いて作製した炭素繊維強化複合材料の初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表5に示す。
(比較例1〜3)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表6に示す質量比にした以外は、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性が低いことが分かった。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。20日後の0°引張強度利用率の低下率は小さく、かつ耐衝撃性は高かったが、初期の0°引張強度利用率が低いことが分かった。
(比較例4)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表6に示す質量比にした以外は、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50より小さく、本発明の範囲から外れていた。IFSSで測定した接着性は十分高いことが分かった。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性は良好だったが、20日後の引張強度の低下率が大きいことが分かった。
(比較例5、6)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤のエポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物(B1)を用いず、脂肪族エポキシ化合物(A)のみを用いて、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50より小さく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性は十分高いことが分かった。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性は高かったが、20日後の引張強度の低下率が大きいことが分かった。
(比較例7)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤のエポキシ化合物として、脂肪族エポキシ化合物(A)を用いず、芳香族エポキシ化合物(B1)のみを用いて、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性が低いことが分かった。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物およびプリプレグを作製、成形、評価を実施した。20日後の引張強度の低下率は小さかったが、初期の0°引張強度利用率および耐衝撃性が低いことが分かった。
(比較例8〜11)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表6に示す。
・第IIIの工程:エポキシ樹脂組成物および一方向プリプレグの作製、成形、評価
表6に示すエポキシ樹脂(D1)または(D2)、エポキシ樹脂(E1)または(E2)、エポキシ樹脂(F1)または(F2)、およびその他のエポキシ樹脂を、表6に示す質量比で用いた以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグを作製、成形、評価を実施した。比較例8、10、および11は初期の0°引張強度利用率および20日後の0°引張強度利用率の低下率は小さかったが、耐衝撃性が十分な値ではなかった。また、比較例9は、20日後の0°引張強度利用率の低下率は小さく、かつ耐衝撃性は高かったが、初期の0°引張強度利用率が低いことが分かった。