<心線の製造方法>
本発明では、心線は、パラ系アラミド繊維を含む未処理撚糸コード(心線本体)を特定の第1処理剤で処理(被覆処理、浸漬処理、含浸処理、乾燥処理、硬化処理)する工程(第1処理工程)を少なくとも経て、製造される。
[第1処理工程]
(パラ系アラミド繊維を含む未処理撚糸コード)
第1処理剤で処理するためのパラ系アラミド繊維を含む未処理撚糸コードは、パラ系アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)を含むパラ系アラミドマルチフィラメント糸(原糸)に撚りを加えた未処理の撚糸コードであってもよい。本発明では、このような撚糸コードであっても、処理剤の撚糸コード(モノフィラメント間及び/又はマルチフィラメント間)への含浸性が優れているため、耐ホツレ性やゴムとの接着性を向上できる。
原糸において、パラ系アラミドマルチフィラメント糸は、パラ系アラミド繊維のモノフィラメント糸を含んでいればよく、必要であれば、他の繊維(ポリエステル繊維など)のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。パラ系アラミド繊維の割合は、モノフィラメント糸全体(マルチフィラメント糸)に対して50質量%以上(特に80〜100質量%)であり、通常、全モノフィラメント糸がパラ系アラミド繊維で構成されている。本発明では、特定の第1処理剤で未処理撚糸コードを処理するため、未処理撚糸コードがパラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸(パラ系アラミド繊維のモノフィラメント糸のみからなるマルチフィラメント糸)であっても伝動ベルト側面でのホツレを防止でき、かつ伝動ベルトの耐屈曲疲労性を向上できる。
原糸は、パラ系アラミド繊維で形成されているため、高モジュラス性に優れている。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)の「トワロン(登録商標)」、東レ・デュポン(株)の「ケブラー(登録商標)」など)、ポリパラフェニレンテレフタルアミドと3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体繊維(例えば、帝人(株)の「テクノーラ(登録商標)」など)などが例示できる。
パラ系アラミドマルチフィラメント糸は、複数のモノフィラメント糸を含んでいればよく、伝動ベルトの耐久性の点から、例えば100〜5000本、好ましくは300〜2000本、さらに好ましくは600〜1000本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。
モノフィラメント糸の平均繊度は、例えば0.8〜10dtex、好ましくは1.0〜5dtex、さらに好ましくは1.1〜1.7dtex程度であってもよい。
撚糸コードは、少なくとも1本の原糸を右撚り(S撚り)又は左撚り(Z撚り)した撚糸コード(片撚糸)であってもよいが、強度の点から、複数本の原糸を撚り合わせた撚糸コードが好ましい。
複数本の原糸を撚り合わせた撚糸コードは、複数の片撚糸を下撚り糸として上撚りした糸(例えば、諸撚糸、駒撚糸、ラング撚糸など)であってもよく、片撚糸と単糸とを下撚り糸として上撚りした撚糸(例えば、壁撚糸など)であってもよい。また、片撚り方向(下撚り方向)と上撚り方向とは、同一方向(ラング撚り)及び逆方向(諸撚り)のいずれであってもよい。これらのうち、撚り戻りの抑制や耐屈曲疲労性に優れる点から、複数の片撚糸を下撚糸として上撚りした2段階に撚糸した撚糸コード(諸撚糸やラング撚糸)が特に好ましい。
これらの撚糸を構成する下撚り糸の数は、例えば2〜5本、好ましくは2〜4本、さらに好ましくは2〜3本程度であってもよい。下撚りの撚り数は、例えば20〜300回/m、好ましくは30〜200回/m、さらに好ましくは50〜180回/m(特に100〜150回/m)程度であってもよい。下撚りにおいて、下記式(1)で表される撚り係数(T.F.)は、例えば0.01〜10程度の範囲から選択でき、諸撚糸では1〜6程度が好ましく、ラング撚糸では0.2〜2程度が好ましい。
撚り係数(T.F.)=[撚り数(回/m)×√トータル繊度(tex)]/960 (1)。
上撚りの撚り数は、特に制限されず、例えば30〜200回/m、好ましくは40〜180回/m、さらに好ましくは50〜150回/m(特に60〜100回/m)程度であってもよい。上撚りにおいて、式(1)で表される撚り係数(T.F.)は、例えば0.01〜10程度の範囲から選択でき、諸撚糸では1〜6程度が好ましく、ラング撚糸では2〜5程度が好ましい。
上撚りされたアラミド心線未処理撚糸の平均径は、例えば0.2〜3.5mm、好ましくは0.4〜3mm、さらに好ましくは0.5〜2.5mm程度であってもよい。
複数本の原糸を撚り合わせた撚糸コードにおける撚り構成を(下撚り時の原糸引き揃え本数)×(上撚り時の下撚り糸引き揃え本数)で表す場合、1×2、1×3、1×5、2×3、2×5、3×5などの構成の撚糸コードであってもよい。
(第1処理剤)
第1処理剤(又は前処理剤)は、弾性ポリマーで変性(強靱化)された変性エポキシ樹脂、潜在性硬化剤及び有機溶媒を含む。
(1)変性エポキシ樹脂
前記変性エポキシ樹脂は、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂由来のエポキシ基(グリシジル基など)を弾性ポリマーで変性したエポキシ樹脂であってもよく、エポキシ樹脂の末端を弾性ポリマーで変性した変性エポキシ樹脂が特に好ましい。
このような変性エポキシ樹脂において、弾性ポリマーとしては、エポキシ樹脂よりも柔軟なポリマーであれば特に限定されず、各種のゴム、エラストマー、軟質樹脂などが利用でき、例えば、ポリブタジエン、ニトリルゴム(NBR)、カルボキシル基末端NBR、ポリウレタンエラストマーなどが挙げられる。これらの弾性ポリマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの弾性ポリマーのうち、NBR、カルボキシル基末端NBR、ポリウレタンエラストマーが好ましく、アラミド心線を埋設するゴムに対する接着性などの観点から、ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体であるNBRが特に好ましい。
変性エポキシ樹脂のベースとなるエポキシ樹脂としては、特に限定されず、脂肪族エポキシ樹脂[脂肪族ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類、グリセリンなどのトリオール類など)とハロゲン含有エポキシ化合物(例えば、エピクロロヒドリンなど)との反応物]、脂環族エポキシ樹脂(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂など)、芳香族エポキシ樹脂などのいずれであってもよい。
芳香族エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂[ビスフェノール類(又はそのアルキレンオキサイド付加物)とハロゲン含有エポキシ化合物(エピクロロヒドリンなど)との反応物など]、ナフタレン型エポキシ樹脂(例えば、ジグリシジルオキシナフタレンなど)、ベンゼンジオール(例えば、ヒドロキノン)とハロゲン含有エポキシ化合物(エピクロロヒドリンなど)との反応物、ノボラック型エポキシ樹脂[ノボラック樹脂(フェノールノボラック、クレゾールノボラックなど)とハロゲン含有エポキシ化合物(エピクロロヒドリンなど)との反応物など]などが挙げられる。
ビスフェノール型エポキシ樹脂において、ビスフェノール類としては、例えば、ビフェノール類(4,4’−ジヒドロキシビフェニルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカン類]、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類(例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テルなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドなど)、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類(例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドなど)などが挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
これらのエポキシ樹脂のうち、芳香族エポキシ樹脂(多価フェノール類とハロゲン含有エポキシ化合物との反応物など)が好ましく、特に、パラ系アラミド繊維との接着性に優れる点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールF型エポキシ樹脂及び/又はビスフェノールA型エポキシ樹脂)が好ましい。
変性エポキシ樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
変性エポキシ樹脂は、通常、分子中に2個以上のエポキシ基を有していてもよい。このような変性エポキシ樹脂のエポキシ当量は、エポキシ樹脂の種類にもよるが、例えば100〜1000g/eq、好ましくは120〜800g/eq、さらに好ましくは150〜600g/eq(特に200〜500g/eq)であってもよい。エポキシ当量が小さすぎると、繊維間を接着させる力が低下する虞があり、高すぎると、ベルトの耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
なお、変性エポキシ樹脂の分子量[ポリマー型である場合には、平均分子量(質量又は重量平均分子量など)]は、特に限定されず、例えば300〜3000程度の範囲から選択できる。なお、本発明では、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)において、ポリスチレン換算で測定してもよい。
なお、ゴム(NBR)変性エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、EPR−2000((株)ADEKA製)、EPR−4030((株)ADEKA製)、EPR−4033((株)ADEKA製)、EPB−13(日本曹達(株)製)などが挙げられる。
(2)潜在性硬化剤
前記変性エポキシ樹脂(NBR変性エポキシ樹脂など)は、接着処理した心線の可撓性を向上させ、屈曲時の接着被膜の破壊を抑制して耐屈曲疲労性を改善する。また、カット後の心線のフィラメントの収束性を維持し、ホツレ対策に有効になる。しかし、変性エポキシ樹脂だけでは、未硬化であるため、被着体であるゴム組成物との接着力が低下し易く、ホツレ対策も十分ではなく、さらに硬化剤を配合して一液タイプの硬化性組成物を調製する。そのため、撚糸コードを連続処理して使用するためには、少なくとも数時間以上の安定性(ポットライフ)が要求される。そこで、本発明では、浸漬処理中には硬化せず、浸漬後の処理剤の乾燥・硬化のための熱処理時に初めて硬化を可能とする(熱により硬化反応する)潜在性硬化剤(熱潜在性硬化剤)を用いる。すなわち、変性エポキシ樹脂と潜在性硬化剤とを組み合わせることにより、変性エポキシ樹脂の硬化反応を制御でき、第1処理剤の安定性及び取り扱い性が向上し、処理剤が撚糸コードの繊維間に均一に含浸する前に変性エポキシ樹脂が硬化するのを抑制できる。さらに、第2処理剤を用いた場合、潜在性硬化剤を変性エポキシ樹脂のエポキシ基に対して当量モル未満の割合で用いると、第1処理(前処理)で未反応のエポキシ基を残存でき、エポキシ樹脂と第2処理剤中のレゾルシンとホルマリンとの縮合物(RF縮合物)と共硬化でき、両者の界面を強固に架橋できるためか、撚糸内部から外周(心線表面)にかけて強固な被膜を形成できる。
潜在性硬化剤としては、慣用の潜在性硬化剤を利用でき、例えば、グアニジン化合物、芳香族アミン類、酸無水物などを利用できる。
潜在性硬化剤は、触媒反応を示さず、熱、光、圧力などの作用により活性化して硬化剤として機能すればよく、活性化させるための条件は特に限定されないが、加熱により活性化する硬化剤が好ましい。活性化させるための加熱温度は50℃以上であればよく、例えば50〜250℃、好ましくは60〜200℃、さらに好ましくは80〜180℃(特に100〜150℃程度)程度であってもよい。なお、後述するように、潜在性硬化剤を活性化させるための加熱温度は、硬化促進剤との組み合わせにより制御してもよい。これらの潜在性硬化剤のうち、高温で融解してエポキシ基と反応する高融点塩基性活性水素化合物が好ましい。
潜在性硬化剤の融点は50℃以上であればよく、例えば100〜300℃、好ましくは150〜250℃、さらに好ましくは180〜230℃(特に190〜220℃)程度であってもよい。潜在性硬化剤の融点が低すぎると、処理中に変性エポキシ樹脂が硬化する虞があり、高すぎると、変性エポキシ樹脂の硬化が遅延し、生産性が低下する虞がある。
これらの潜在性硬化剤のうち、ジシアンジアミド、ジエチルビグアニド、フェニルビグアニド、トリルビグアニド、ジフェニルビグアニド、フェニルグアニジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンなどのグアニジン化合物が好ましく、配合量によりエポキシ基の反応量を制御できる点から、ジシアンジアミド類が特に好ましい。ジシアンジアミド類にはジシアンジアミド又はその誘導体(例えば、ジシアンジアミド変性ポリアミンなど)などが含まれ、ジシアンジアミドが特に好ましい。
潜在性硬化剤の形状は、特に限定されず、液状であってもよいが、通常、粒状などの固体状である。固体状(粒状)の形状は、略球状などの等方形状、繊維状、板状などの異方形状のいずれであってもよい。
固体状の潜在性硬化剤の中心粒径(D50)(異方形状の場合、長径と短径との平均径)は、取り扱い性などの点から、例えば0.1μm以上であってもよく、例えば0.5〜500μm、好ましくは1〜300μm、さらに好ましくは2〜200μm(特に3〜100μm)程度である。固体状の潜在性硬化剤を溶媒に分散させて用いる場合、潜在性硬化剤の最大粒径は30μm以下(特に25μm以下)であってもよい。
変性エポキシ樹脂のエポキシ基数と、潜在性硬化剤の活性水素原子数とのモル比は、前者/後者=4/0.1〜4/6(4/0.3〜4/4)程度の範囲から選択できるが、第2処理剤を用いる場合、第2処理剤のヒドロキシル基と反応可能なエポキシ基を残存でき、第2処理剤との共硬化を促進できる点から、エポキシ基が過剰となる割合、例えば4/0.5〜4/3.8、好ましくは4/0.8〜4/3.5、さらに好ましくは4/1〜4/3(特に4/1.5〜4/2.5)程度であってもよい。潜在性硬化剤の割合が多く、活性水素原子数が多すぎると、心線を埋設するゴムに対する接着性や耐屈曲疲労性が低下する虞があり、少なすぎると、繊維間接着性の低下により耐ホツレ性が低下する虞がある。さらに、第2処理剤でさらに処理する場合、潜在性硬化剤を活性水素原子数が過剰となる割合で用いると、第2処理剤のRF縮合物と共硬化できない虞がある。
潜在性硬化剤の割合は、変性エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば1〜9.5質量部、好ましくは2〜8.5質量部、さらに好ましくは2.5〜7.5質量部(特に4〜6質量部)程度である。
(3)硬化促進剤
第1処理剤は、潜在性硬化剤による硬化反応を促進させるために、さらに硬化促進剤を含んでいてもよい。潜在性硬化剤に対して硬化促進剤を組み合わせることにより、潜在性硬化剤を活性化させるための加熱温度や硬化速度を制御でき、潜在性硬化剤を用いても、処理中の硬化反応は抑制しつつ、適度な温度で速やかに硬化できるため、生産性を向上できる。
硬化促進剤としては、エポキシ樹脂の硬化促進剤として慣用的に利用される硬化剤や硬化促進剤を利用できるが、潜在性硬化剤の潜在性を損なうことなく、適度な条件で変性エポキシ樹脂を硬化できる点から、第3級アミン類が好ましい。第3級アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどの脂肪族アミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−1などの芳香環を有するアミンなどが挙げられる。これらの第3級アミン類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの第3級アミン類のうち、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの芳香環を有する第3級アミン類が特に好ましい。
硬化促進剤の割合は、変性エポキシ樹脂100質量部に対して10質量部以下であってもよく、好ましくは2〜6質量部、さらに好ましくは3〜5質量部程度である。硬化促進剤の割合は、潜在性硬化剤100質量部に対して500質量部以下であってもよく、例えば10〜300質量部、好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは30〜150質量部(特に50〜100質量部)程度である。硬化促進剤の割合が多すぎると、処理剤が撚糸間に均一に含浸する前に変性エポキシ樹脂が硬化する虞があり、少なすぎると、変性エポキシ樹脂の硬化に高温が必要となったり、硬化反応に時間がかかりすぎる虞がある。
(4)有機溶媒
第1処理剤は、有機溶媒を含むことにより、処理剤の粘度を低下できるとともに、変性エポキシ樹脂及び潜在性硬化剤を有機溶媒中に溶解又は均一に分散できるため、変性エポキシ樹脂及び潜在性硬化剤を撚糸コードの繊維間に均一に含浸できる。そのため、繊維間の接着力を向上できるとともに、撚糸内部で未硬化のエポキシ樹脂が残存するのを抑制できるためか、心線の耐ホツレ性を向上できる。
有機溶媒としては、例えば、鎖状ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、環状ケトン類(シクロヘキサノンなど)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテルなど)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、脂肪族アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノールなど)、脂環族アルコール(シクロヘキサノールなど)、多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルなど)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)などが例示できる。これらの有機溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの有機溶媒のうち、潜在性硬化剤に対する溶解性の点から、少なくともグリコールエーテル類(セロソルブ類)、特に、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのC2−4アルキレングリコールモノC1−3アルキルエーテルを含むのが好ましい。グリコールエーテル類を用いると、潜在性硬化剤を溶解できるため、繊維間への処理剤の含浸性を向上できる。
さらに、グリコールエーテル類は、変性エポキシ樹脂の種類に応じて、他の有機溶媒と組み合わせてもよく、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素類と組み合わせてもよい。グリコールエーテル類と、他の有機溶媒(特に芳香族炭化水素類)との質量割合は、例えば、グリコールエーテル類/他の有機溶媒=100/0〜10/90、好ましくは95/5〜20/80、さらに好ましくは90/10〜30/70(特に85/15〜40/60)程度である。
第1処理剤の固形分濃度は、例えば1〜70質量%、好ましくは2〜60質量%(例えば3〜50質量%)、さらに好ましくは4〜40質量%(特に5〜30質量%)程度であってもよい。固形分濃度が高すぎると、繊維間への処理剤の含浸性が低下したり、ベルトの耐屈曲疲労性が低下する虞があり、低すぎると、繊維間の接着力が低下する虞がある。
(5)他の添加剤
第1処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の添加剤として、弾性ポリマーで変性されていない汎用のエポキシ樹脂(ビスフェノール型エポキシ樹脂など)、他の硬化剤又は硬化促進剤、反応性希釈剤(低粘度のポリグリシジルエーテル、モノグリシジルエーテルなど)、慣用の添加剤(接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤、粘着付与剤、安定剤、カップリング剤、可塑剤、滑剤、着色剤など)などを含んでいてもよい。
他の添加剤の割合は、第1処理剤全体に対して30質量%以下であってもよく、例えば0.01〜30質量%、好ましくは0.05〜20質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%程度である。
(処理方法)
第1処理剤の調製方法は、特に限定されず、一括混合により調製してもよいが、潜在性硬化剤を予めグリコールエーテル類に攪拌して溶解させた後、他の成分と混合してもよい。
アラミド心線の未処理撚糸コードに第1処理剤を処理する方法としては、特に制限されず、例えば、噴霧、塗布、浸漬などが例示できる。これらの処理方法のうち、浸漬が汎用される。浸漬時間は、例えば1〜20秒、好ましくは2〜15秒程度であってもよい。
アラミド心線の未処理撚糸コードを第1処理剤で処理した後、必要に応じて乾燥してもよい。乾燥温度は、例えば100〜250℃、好ましくは110〜220℃、さらに好ましくは120〜200℃(特に150〜190℃)程度であってもよい。乾燥時間は、例えば10秒〜30分、好ましくは30秒〜10分、さらに好ましくは1〜5分程度であってもよい。さらに、乾燥は、アラミド心線の未処理撚糸コードに対して張力を作用させて行ってもよい。張力は、例えば5〜15N、好ましくは10〜15N程度であってもよい。張力の作用下で乾燥させると、アラミド心線の未処理撚糸コードに対して処理剤が馴染み易くなり、撚りムラを低減でき、撚りムラによって生じる撚糸の径のばらつきを小さくすることができる。
第1処理剤で処理したアラミド心線の未処理撚糸コードに付着した第1処理剤の付着率[(第1処理剤による処理後の質量−第1処理剤による処理前の質量)/第1処理剤による処理後の質量×100]は、例えば0.5〜5質量%、好ましくは0.7〜4質量%、さらに好ましくは1〜3質量%程度であってもよい。
第1処理剤により形成される被膜の平均厚みは、例えば0.001〜5μm、好ましくは0.01〜3μm、さらに好ましくは0.05〜2μm程度であってもよい。
[第2処理工程]
第1処理剤で処理したパラ系アラミド繊維を含む第1処理撚糸コードは、そのままアラミド心線として用いてもよいが、通常、さらに、レゾルシンとホルマリンとラテックスとを含む第2処理剤で処理してもよい。このような第2処理剤で処理する工程(第2処理工程)を経ることにより、アラミド心線と伝動ベルト本体との接着性をより一層向上できる。
第2処理剤(未加硫のゴム組成物又はRFL液)は、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とゴム又はラテックス(L)とを含んでいる。レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とは、これらの縮合物(RF縮合物)の形態で含まれていてもよい。特に、本発明では、第1処理剤の潜在性硬化剤と組み合わせることにより、RF縮合物と第1処理剤の変性エポキシ樹脂とが共硬化していてもよく、共硬化により、心線表面に強固な被膜を形成できるためか、心線のホツレを高度に抑制できる。
RF縮合物としては、特に制限されず、例えば、ノボラック型、レゾール型、これらの組み合わせなどが例示できる。RF縮合物は、第1処理剤の変性エポキシ樹脂と共硬化し、かつ第1処理剤の表面で縮合物の被膜を形成できる点から、ノボラック型とレゾール型との組み合わせ(混合物)が好ましい。ノボラック型とレゾール型とを組み合わせると、第1処理剤により撚糸コード内部の繊維間で硬化した変性エポキシ樹脂とノボラック型RF縮合物とが反応するとともに、多くのレゾール型RF縮合物が撚糸の外周で架橋密度の高い強固なRFL被膜を形成できる。そのため、繊維間を接着させる変性エポキシ樹脂硬化物と、撚糸外周のRFL被膜とが、ノボラック型RF縮合物と変性エポキシ樹脂との共硬化により一体化した硬化物を形成でき、撚糸とゴムとの接着性や耐ホツレ性を向上できる。
RF縮合物は、例えば、水及び塩基触媒(水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属塩;アルカリ土類金属塩;アンモニアなど)の存在下、レゾルシンとホルムアルデヒドとを反応することにより得られる反応生成物(例えば、初期縮合物又はプレポリマー)であってもよい。なお、本発明の効果を阻害しない限り、レゾルシンと共に、フェノール、クレゾールなどの芳香族モノオールを併用してもよく、カテコール、ヒドロキノンなどの芳香族ジ又はポリオールを併用してもよい。また、ホルムアルデヒドとしては、ホルムアルデヒドの縮合体(例えば、トリオキサン、パラホルムアルデヒドなど)を使用してもよく、ホルムアルデヒドの水溶液(ホルマリンなど)を使用してもよい。
レゾルシンとホルムアルデヒドとの割合(使用割合)は、例えば、前者/後者(モル比)=1/0.1〜1/5程度の範囲から選択でき、レゾール型とノボラック型との混合物を生成する場合、両者のモル比は、例えば、前者/後者=1/0.3〜1/1、好ましくは1/0.4〜1/0.95、さらに好ましくは1/0.5〜1/0.9(特に1/0.6〜1/0.85)程度であってもよい。ホルムアルデヒドの割合が多すぎると、レゾール型RF縮合物の割合が多すぎるため、変性エポキシ樹脂との共硬化が低下する虞があり、逆に少なすぎると、ノボラック型RF縮合物の割合が少なすぎるため、第2処理剤による被膜の強度が低下する虞がある。
ラテックスを構成するゴムとしては、アラミド心線に柔軟性を付与できる限り特に制限されず、例えば、ジエン系ゴム[例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、これらのジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム[例えば、エチレン−α−オレフィン系ゴム(エチレン−α−オレフィンエラストマー)、ポリオクテニレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど]、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、ウレタン系ゴム、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム、これらの組み合わせなどが例示できる。
なお、ゴムとして、心線を埋設するゴムと同じ又は同系統のゴムを好適に使用することもできる。
RF縮合物100質量部に対して、ラテックスの割合は、固形分換算で、40〜700質量部程度の範囲から選択でき、例えば45〜600質量部、好ましくは50〜500質量部、さらに好ましくは55〜400質量部程度であってもよい。
第2処理剤は、通常、水を含んでいる場合が多い。また、第2処理剤は、必要であれば、第3処理剤の項で例示する添加剤(例えば、加硫剤、加硫促進剤、共加硫剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤など)を含んでいてもよい。
第2処理剤の全固形分濃度(RF縮合物の固形分質量とラテックスの固形分質量との合計質量を処理剤の質量で除した濃度)は、例えば0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%(例えば1〜11質量%)、さらに好ましくは1.5〜10質量%(例えば2〜10質量%)程度であってもよい。このような割合とすることにより、アラミド繊維を含む第1処理撚糸コードに対する固形分付着量を適度な範囲に調整し、アラミド心線の特性を効率よく改善しやすい。
なお、第2処理剤による処理方法は、第1処理剤による処理方法と同様である。好ましい乾燥温度は150〜250℃(特に200〜240℃)程度であってもよい。
第1処理剤及び第2処理剤で処理したパラ系アラミド繊維を含む第2処理撚糸コードに付着した第2処理剤の付着率[(第2処理剤による処理後の質量−第2処理剤による処理前の質量)/第2処理剤による処理後の質量×100]は、例えば1〜20質量%、好ましくは1.5〜15質量%、さらに好ましくは2〜10質量%程度であってもよい。
なお、第1処理剤の付着量と、第2処理剤の付着量との比率(質量比)は、固形分換算で、例えば、前者/後者=0.5/1〜20/1、好ましくは0.6/1〜10/1、さらに好ましくは0.7/1〜5/1(例えば0.8/1〜2/1)程度であってもよい。
第2処理剤により形成される被膜の平均厚みは、例えば1〜30μm、好ましくは2〜25μm、さらに好ましくは5〜20μm程度であってもよい。
[第3処理工程]
第2処理剤で処理したパラ系アラミド繊維を含む第2処理撚糸コードは、さらに、ゴムを含む第3処理剤(未加硫のゴム組成物又はゴム糊)で処理してもよい。このような第3処理剤で処理する工程(第3処理工程)を経ることにより、アラミド心線と伝動ベルト本体(特に接着ゴム層)との接着性をより一層向上できる。
ゴムとしては、第2処理剤に含有されるゴムの種類、伝動ベルトでアラミド心線を埋設するゴム層のゴムの種類などに応じて適宜選択でき、第2処理剤の項で例示したゴム、例えば、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー(又はエチレン−α−オレフィン系ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)など)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど)、ジエン系ゴム(例えば、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムなど)などが例示できる。これらのゴムは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
なお、ゴムとして、心線を埋設するゴムと同じ又は同系統のゴムを好適に使用することもできる。
第3処理剤は、ゴムに加えて、必要により、慣用の添加剤、例えば、加硫剤(又は架橋剤)、共加硫剤(又は共架橋剤)、加硫促進剤(又は架橋助剤)、加硫遅延剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、粘着付与剤、安定剤、カップリング剤、可塑剤、滑剤、着色剤、溶媒などを含んでいてもよい。添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。添加剤のうち、加硫剤、共加硫剤、加硫促進剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤、溶媒などが汎用される。
加硫剤は、硫黄系加硫剤と非硫黄系加硫剤とに分類できる。硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄(例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄など)、硫黄化合物(例えば、一塩化硫黄、二塩化硫黄などの塩化硫黄など)などが例示できる。
非硫黄系加硫剤としては、例えば、有機過酸化物[例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)など]、オキシム類[例えば、キノンジオキシムなど]、マレイミド類[例えば、ビスマレイミド、フェニルマレイミド、N−N’−m−フェニレンビスマレイミドなど]、アリルエステル類[例えば、DAF(ジアリルフマレート)、DAP(ジアリルフタレート)、TAC(トリアリルシアヌレート)、TAIC(トリアリルイソシアヌレート)、TMAIC(トリメタリルイソシアヌレート)など]、(メタ)アクリレート類[例えば、メチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジ乃至テトラオールのジ乃至テトラ(メタ)アクリレートなど]などが例示できる。
加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.01〜20質量部、さらに好ましくは0.1〜15質量部(例えば0.5〜10質量部)程度であってもよい。
共加硫剤としては、金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなどが例示できる。共加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。共加硫剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(例えば1〜10質量部)程度であってもよい。
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤(例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)など)、チアゾ−ル系促進剤(例えば、2−メルカプトベンゾチアゾ−ル又はその塩など)、スルフェンアミド系促進剤(例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなど)、ウレア系促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)、これらの組み合わせなどが例示できる。
加硫促進剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(例えば1〜10質量部)程度であってもよい。
接着性改善剤としては、例えば、第2処理剤の項で例示したRF縮合物、メラミン類とアルデヒド類との縮合物(例えば、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、ヘキサC1−4アルコキシメチロールメラミンなど)、エポキシ化合物(例えば、アルカントリ乃至ヘキサオールポリグリシジルエーテル、ポリC2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル、C6−8ポリアルカントリ乃至テトラオールポリグリシジルエーテルなど)、イソシアネート化合物(例えば、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートなど)、これらの組み合わせなどが例示できる。なお、接着性改善剤は、市販の接着剤、例えば、ロード社製の「ケムロック402」などを使用してもよい。
接着性改善剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば50質量部以下、好ましくは0.1〜40質量部、さらに好ましくは0.5〜30質量部(例えば1〜20質量部)程度であってもよい。
充填剤(補強剤も含む)としては、有機又は無機充填剤、例えば、粉粒状充填剤[例えば、カーボンブラック(例えば、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、GPF、SRFなどのファーネスブラックなど)、シリカ(乾式シリカ、湿式シリカ)、炭酸カルシウム、タルクなど]、繊維状充填剤[例えば、ポリアミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの短繊維など]、これらの組合せなどが例示できる。充填剤のうち、無機充填剤(例えば、カーボンブラック、シリカなどの粉粒状充填剤)が汎用される。
充填剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば1〜80質量部、好ましくは5〜70質量部、さらに好ましくは10〜60質量部程度であってもよい。
老化防止剤としては、例えば、アミン系老化防止剤[例えば、芳香族第2級アミン類(例えば、N−フェニル−1−ナフチルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジナフチル−p−フェニレンジアミンなど)、ケトン−アミン反応生成物(例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物、アセトンとジフェニルアミンとの縮合物、アセトンとN−フェニル−2−ナフチルアミンとの縮合物など)など]、フェノール系老化防止剤[例えば、モノフェノール類(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなど)、ビスフェノール類(例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)など]、これらの組み合わせなどが例示できる。
老化防止剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(例えば1〜10質量部)程度であってもよい。
滑剤としては、例えば、高級飽和脂肪酸又はその塩(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩など)、ワックス、パラフィン、これらの組み合わせなどが例示できる。滑剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(例えば1〜10質量部)程度であってもよい。
溶媒としては、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロアルカン類)、アルコール類(エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルカノール類)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、エステル類(例えば、酢酸エチルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどの鎖状ケトン、シクロヘキサノンなどの環状ケトン)、セロソルブ類、カルビトール類などが例示できる。溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用してもよい。
溶媒の割合は、ゴム1質量部に対して、例えば0.5〜50質量部、好ましくは1〜20質量部程度であってもよい。
代表的な第3処理剤としては、ゴムとRF縮合物と添加剤(例えば、加硫剤、共加硫剤、加硫促進剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤)とを含む組成物を溶媒に溶解させたゴム糊などが挙げられる。なお、ゴム糊に対するゴム濃度は、特に限定されず、例えば1〜20質量%、好ましくは2〜15質量%、さらに好ましくは3〜10質量%程度であってもよい。
なお、第3処理剤による処理方法も、第1処理剤による処理方法と同様である。
第1処理剤と第2処理剤と第3処理剤とで処理したアラミド繊維を含む第3処理撚糸コードに付着した第3処理剤の付着率[(第3処理剤による処理後の質量−第3処理剤による処理前の質量)/第3処理剤による処理後の質量×100]は、例えば1〜20質量%、好ましくは5〜15質量%程度であってもよい。
第3処理剤により形成される被膜の平均厚みは、特に制限されず、例えば1〜20μm、好ましくは5〜15μm程度であってもよい。
<アラミド心線>
本発明のアラミド心線は、前記製造方法により、表面及び繊維間に樹脂成分が付与されたアラミド心線であり、表面及び繊維間に、少なくとも前記変性エポキシ樹脂の硬化物を含んでおり、さらに第2処理剤で処理されることにより、RFL液が前記変性エポキシ樹脂に共硬化した硬化物を含むのが好ましく、さらに第3処理剤で処理されることにより、硬化ゴムを含むのが特に好ましい。
本発明のアラミド心線は、伝動ベルト用途に適しており、通常、伝動ベルトのゴム層に埋設して利用される。なお、ゴム層は、伝動ベルトの用途等に応じて適宜選択でき、例えば、ラップドVベルトでは、アラミド心線を、ジエン系ゴム(天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴムなど)、オレフィン系ゴム(EPDMなど)などのゴム(又はその組成物)で形成されたゴム層に埋設してもよい。
伝動ベルト用アラミド心線は、前記の製造方法により得られるアラミド心線であってもよい。すなわち、伝動ベルト用アラミド心線は、第1処理剤で(さらに必要に応じて、第2処理剤、又は第2処理剤及び第3処理剤で)処理(例えば、被覆又は含浸)したアラミド系マルチフィラメント糸(例えば、撚糸)であってもよい。さらに、伝動ベルト用アラミド心線は、第1処理剤(さらに必要に応じて第2処理剤、又は第2処理剤および第3処理剤)で処理(例えば、被覆又は含浸)した後、加硫されたアラミド系マルチフィラメント糸であってもよい。
アラミド心線の平均径は、例えば、0.3〜3.6mm、好ましくは0.5〜3.1mm、さらに好ましくは0.6〜2.7mm程度であってもよい。
<伝動ベルト及びその製造方法>
伝動ベルトは、前記アラミド心線を含んでいればよく、通常、ベルトの長手方向(又は周方向)に沿って、アラミド心線(特に複数のアラミド心線)を埋設したゴム層を備えた伝動ベルトである場合が多い。隣接する心線の間隔(スピニングピッチ)は、例えば、0.5〜4mm、好ましくは0.6〜2.5mm、さらに好ましくは0.7〜2.3mm程度であってもよい。
代表的には、伝動ベルトは、接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に圧縮ゴム層とを有し、接着ゴム層がアラミド心線を埋設する伝動ベルトであってもよい。なお、接着ゴム層の他方の面には伸張ゴム層を設けてもよい。また、伝動ベルトは、ゴム層からなるベルト本体の一部(例えば、伸張ゴム層及び/又は圧縮ゴム層の表面)又は全部を補強布で被覆(又は積層)していてもよい。
このような伝動ベルトとしては、ラップドVベルト、ローエッジVベルトなどのVベルト、Vリブドベルト、平ベルト、歯付ベルトなどが挙げられる。
図1は、本発明の方法で得られた伝動ベルトの一例であるVリブドベルトを示す概略断面図である。この例では、ベルトの長手方向にアラミド心線1を埋設した接着ゴム層2と、この接着ゴム層の一方の面(内周面)に形成された圧縮ゴム層3と、前記接着ゴム層の他方の面(外周面又は背面)に形成された伸張ゴム層4とを備えており、圧縮ゴム層3にV字状溝のリブ5が形成されている。圧縮ゴム層3には、伝動ベルトの耐側圧性を向上させるため、ポリアミド短繊維6が含有されている。なお、接着ゴム層2、圧縮ゴム層3及び伸張ゴム層4は、それぞれ、第3処理剤に含有する成分と同様の成分を含有するゴム組成物[オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー)を含むゴム組成物]で形成されている場合が多い。また、伸張ゴム層4の背面には、織物、不織布、編物などで形成された補強布を積層してもよい。
図2は、本発明の方法で得られた伝動ベルトの他の例であるローエッジVベルトを示す概略断面図である。図2に示すベルトは、圧縮ゴム層3にリブ5が形成されていない点及び外周面から内周面に向かってベルト幅が小さくなる台形状である点を除き、図1と同様に構成されている。なお、圧縮ゴム層3には、ベルトの長手方向に沿って、複数のコグ(凸部)を所定の間隔をおいて形成してもよい。また、圧縮ゴム層3の面(内周面)及び伸張ゴム層4の面(外周面)には、織物、不織布、編物などで形成された補強布を積層してもよい。
これらの伝動ベルトは、円筒状の成形ドラムに、圧縮ゴム層用シートと第1接着ゴム層用シートとを順次巻き付け、この上にアラミド心線を螺旋状にスピニングし、さらに、第2接着ゴム層用シートと伸張ゴム層用シートとを順次巻き付けて積層体を形成し、この積層体を加硫して加硫ベルトスリーブを作製し、この円筒状の加硫ベルトスリーブを周方向に切断して形成される。この切断の際、周方向に配列又は配向したアラミド心線も切断され、アラミド心線が伝動ベルトの側面(切断面)に露出する。アラミド心線が伝動ベルトの側面に露出していると、アラミド糸が解れ易くなり、伝動ベルトの側面から解れたアラミド糸を起点として、アラミド心線が伝動ベルトの側面から突出するポップアウトが生じ、ポップアウトしたアラミド心線が回転するプーリの軸に巻き付いて伝動ベルトが破断するおそれがある。しかし、図1及び図2に示す伝動ベルトでは、接着ゴム層に特定の処理剤で処理されたアラミド心線を埋設しており、アラミド心線のフィラメント同士の結束性が高いため、伝動ベルトの側面でアラミド心線が解れることがなく、アラミド心線のポップアウトを有効に防止でき、伝動ベルトの耐久性を著しく向上できる。
伝動ベルトは、前記Vリブドベルト及びローエッジVベルトに限定されず、歯付ベルト、平ベルトなどにも利用できる。
本発明の伝動ベルトの製造方法としては、前記方法に限定されず、ベルトの種類に応じて、アラミド心線をベルトの長手方向に沿ってゴム層に埋設させる埋設工程を含む慣用の方法、例えば、一対の未加硫ゴムシート(未加硫の積層ゴムシートを含む)の間に、特定の処理剤で処理したアラミド心線を挟持させた円筒状の積層体を加硫して伝動ベルト前駆体(加硫ベルトスリーブ)を作製し、この円筒状の伝動ベルト前駆体を周方向にカッティングする方法などが挙げられる。本発明では、このようにカッティングしても、伝動ベルトの側面において、アラミド心線の毛羽立ちやホツレが生成しない。なお、一対の未加硫ゴムシートは、同一又は異なって、第3処理剤の項で例示した成分(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマーなどのオレフィン系ゴムなど)を含むゴム組成物で形成されている場合が多い。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[原料]
(第1処理剤)
変性エポキシ樹脂:NBR変性エポキシ樹脂、(株)ADEKA製「EPR−2000」
水分散ポリウレタン樹脂:第一工業製薬(株)製「スーパーフレックスE−200」、固形分濃度50質量%
水分散ブロックドイソシアネート:EMS社製「IL−6」、固形分濃度50質量%
エポキシ樹脂:ナガセケムテックス(株)製「デナコールEX614EX」
アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂:田岡化学工業(株)製「タッキロール201」
ウレタンプレポリマー:ポリオール変性MDI、ポリオール成分:ポリテトラメチレンプロピレングリコール、東ソー(株)製「コロネート4362」
潜在性硬化剤A:ジシアンジアミド、三菱化学(株)製「DICY−50」、50%粒径30〜60μm、粉末品
潜在性硬化剤B:ジシアンジアミド、三菱化学(株)製「DICY−7」、50%粒径3μm、微粉砕品
硬化促進剤:2,4,6,−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、大都産業(株)製「ダイトクラールHD−Acc43」。
(第3処理剤)
クロロプレンゴム:電気化学工業(株)製「PM−40」
シリカ:東ソー・シリカ(株)製「Nipsil VN3」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストS」
ナフテン系オイル:日本サン石油(株)製「SUNTHENE410」
架橋剤(イソシアネート化合物):ポリメリックMDI、東ソー(株)製「MR−200」
(接着ゴム層用ゴム組成物)
加硫促進剤:テトラメチルラチウム・ジスルフィド(TMTD)
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
レゾルシン・ホルマリン縮合物:レゾルシノール20%未満、ホルマリン0.1%未満のレゾルシン・ホルマリン縮合物。
[アラミド繊維コードの作製]
1100dtex(フィラメント数667本)の未処理のアラミド繊維(帝人(株)製「テクノーラ(登録商標)T−2000」)からなる無撚りでリボン状に引き揃えたアラミド繊維フィラメントの束(アラミド繊維単糸という)2本を、下撚り数を120〜140回/mで下撚り(S撚り)し、この下撚り糸を3本束ね、上撚り数を60〜70回/mで下撚りと反対方向に上撚り(Z撚り)し、アラミド繊維コードを作製した。
[処理剤]
(第1処理剤)
表4に示す第1処理剤の成分を混合し、室温で10分攪拌し、各種第1処理剤(処理液)を作製した。
なお、実施例1〜7では、潜在性硬化剤(ジシアンジアミド)は、予め溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル)に加えて室温で10分間攪拌して溶解させた後、他の成分(潜在性硬化剤及びプロピレングリコールモノメチルエーテルを除く他の成分)と混合した。
一方、比較例1〜4及び実施例8では、有機溶媒としてトルエン又は水のみを用いたため、実施例1〜7のようにジシアンジアミドをプロピレングリコールモノメチルエーテルへ溶解させずに処理剤を混合した。
(第2処理剤)
表1に第2処理剤(RFL)の構成成分を示す。まず、水にレゾルシンを加えて室温で30分間攪拌して溶解させた後、37質量%ホルマリンを加えて、さらに室温で30分間攪拌して反応させ、A液を得た。
次に、ラテックスを水で希釈してB液とし、攪拌しながらA液を加えて混合した。この混合液を、25℃で6日間熟成させた後、固形分濃度が10質量%になるように水(C液)で希釈して、第2処理剤(RFL液)を作製した。
(第3処理剤)
表2に示すゴム組成物と架橋剤とを、固形分濃度6質量%でトルエンに溶解して第3処理剤(ゴム糊)を作製した。
[剥離試験(剥離性)]
表3に示す接着ゴム層用ゴム組成物の未加硫ゴムシート(厚み4mm)の上に、アラミド心線を、幅が25mmとなるように複数本平行に並べ(繊維間隔0.1mm)、プレス板で2.0MPaの圧力をかけ、160℃で30分間加硫して、剥離試験用の短冊試料(幅25mm×長さ150mm×厚み4mm)を作製した。そして、JIS K6256(1999)に従って、引張速度50mm/分で剥離試験を行い、心線と接着ゴムとの接着力(加硫接着力)を室温及び100℃雰囲気下で測定した。
[剪断(引抜)接着力試験]
所定の金型に、表3に示すゴム組成物(接着ゴム層用)の未加硫ゴムシートと、複数本のアラミド心線をセットし、プレス板で2.0MPaの圧力をかけ、160℃で30分間加硫して、剪断(引抜)接着力用の試料(断面1cm角の加硫ゴム試験片)に、アラミド心線の一端が埋設された試料を作製した。得られた試料は、断面が正方形状(縦1cm×横1cm)である角柱状の加硫ゴム試験片に対して、繊維の長手方向が角柱の長手方向と垂直に交差する方向で、アラミド繊維が試験片中に貫通して埋設されており、繊維の他端は試験片の表面から掴み具で固定できる長さで突出していた。
そして、JIS L1017(Tテスト)に準拠して、引張速度100mm/分でアラミド心線の引抜試験を行い、心線と接着ゴムとの剪断(引抜)接着力を室温雰囲気下で測定した。詳しくは、試料のゴム側を所定の治具を介して、引っ張り試験機の掴み具で固定した。次に、心線(1本)の端部を試験機の掴み具で固定し、引張速度100mm/分で心線をゴムから引抜いたときの力(N)を、剪断(引抜)接着力として測定した。なお、ゴムが心線に埋設された長さが1cmであるため、剪断(引抜)接着力は、N/cmで表した。
[ホツレ試験(耐ホツレ性)]
アラミド心線の耐ホツレ性を評価するため、次の方法で平ベルトを作製した。まず、表3に示す接着ゴム層用ゴム組成物で形成された厚み0.5mmの未加硫ゴムシートを円筒状の金型に巻き付け、この上にアラミド心線をスパイラル状に巻き付け、さらにこの上に表3に示す接着ゴム層用ゴム組成物で形成された厚み0.5mmの未加硫ゴムシートを巻き付けて形成した未加硫成形体に加硫用ジャケットを被せた状態で、加硫缶に入れて加硫し、加硫ゴムスリーブを作製した。得られた加硫ゴムスリーブをカッターにより周方向に幅1cmでカットして端面にアラミド心線が露出した試験片(平ベルト)を作製した。
得られた平ベルトについて、ベルト側面(カット時の端面)におけるアラミド心線のホツレの状態を以下の基準で評価した。なお、評価がS又はAの場合を良好と判定した。
S:ベルトカット時に端面にホツレはなく、端面を擦ってもホツレが生成しない
A:ベルトカット時に端面にホツレはなく、端面を強く擦っても、数箇所ホツレが生成する程度である
B:ベルトカット時に端面にホツレはないが、端面を普通に擦ってもホツレが生成し、強く擦るとホツレが多数生成する
C:ベルトカット時に端面にホツレが生成する。
[屈曲疲労試験(強度保持率)]
ホツレ試験と同様にして試験片(平ベルト)を作製した。屈曲疲労試験は、図3に示すように、得られた試験片21を、上下に配置した一対の円柱形の回転バー(直径30mm)22a,22bに屈曲させて巻き掛け、試験片21の一端をフレーム23に固定すると共に、試験片21の他端に2kgの荷重24を作用させ、一対の回転バー22a,22bを相対距離を一定に保ったまま、上下方向に30万回往復(ストローク:100mm、サイクル:100回/分)させることによって、回転バー22a,22bへの試験片21の巻き付け・巻き戻しを繰り返し、屈曲疲労させた。オートグラフ((株)島津製作所製「AGS−J10kN」)を用いて、屈曲後の試験片を引張速度50mm/分の条件で引張り、試験片の破断時の強力を測定した。一方、屈曲前の試験片の破断時の強力を予め測定しておき、下記式に基づいて強力保持率を算出した。
強力保持率(%)=(屈曲後の強力/屈曲前の強力)×100。
[実施例1〜8及び比較例1〜4]
アラミド繊維コード(アラミド撚糸コード)を、表4に示す各種第1処理剤に10秒間浸漬処理し、175℃、2分間の条件で乾燥処理した。
第1処理剤で処理したアラミド撚糸コードを、第2処理剤に10秒間浸漬処理し、230℃で2分間の条件で乾燥処理した。
第2処理剤で処理したアラミド撚糸コードを、第3処理液に2秒間浸漬処理し、175℃、1分間の条件で乾燥処理した。第3処理剤によるこの浸漬・乾燥処理を3回繰り返すことによりアラミド心線を得た。
得られたアラミド心線のそれぞれについて、剥離試験、剪断(引抜)接着力試験、ホツレ試験及び屈曲疲労試験を行った。結果を表4に示す。
表4の結果から明らかなように、第1処理剤において、弾性ポリマーで変性された変性エポキシ樹脂と、潜在性硬化剤とを組合せた実施例1〜8は、アラミド繊維の撚糸コードへの処理であっても、耐ホツレ性、耐屈曲疲労性、ゴムとの接着力のバランスに優れたアラミド心線を得ることができた。
特に、変性エポキシ樹脂のエポキシ基数と、潜在性硬化剤(ジシアンジアミド)の活性水素原子数とのモル比が、4/1〜4/3である実施例2〜4は、ゴムとの接着力が、室温、100℃雰囲気下の双方で高く、伝動ベルト走行時に高温になっても、心線と接着ゴム層間の剥離を生じにくいことを示した。
また、実施例1〜8は、剪断(引抜)接着力が高かった。この結果は、伝動ベルト走行時に、アラミド心線とゴム層との界面に、ベルト走行方向(ベルト長手方向)の剪断応力がかかる場合に、心線と接着ゴム間にクラックが生じにくく、また、心線のポップアウト(ベルト側面からの心線のはみ出し)が起こりにくいことを示す。
ジシアンジアミドは、プロピレングリコールモノメチルエーテルには溶解するが、トルエンには溶解せず分散している。ジシアンジアミドの微粉砕品は粒径が大きい非粉砕品に比べ、溶媒への分散性が高いが、トルエンに分散させただけの実施例8は、ジシアンジアミドをプロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解させた実施例6及び7に比べ耐ホツレ性が低下することから、ジシアンジアミドをトルエンに分散させたのみでは、撚糸内部(繊維間)への第1処理剤の含浸性が低く、繊維間接着性が低下することを示す。
即ち、実施例1〜8の結果から、プロピレングリコールモノメチルエーテルのようなジシアンジアミドを溶解する溶媒を用いれば、他の溶媒を含んでいても、ジシアンジアミドの粒径に拘わらず、第1処理剤が撚糸内部(繊維間)へ含浸して、良好な耐ホツレ性が得られることを示している。
これに対して、比較例1では、実施例に比べて耐ホツレ性が低かった。処理剤が撚糸内部に含浸しないため、繊維間の接着力が低いためであると考えられる。
また、比較例2は、第1処理剤として、特許文献1の実施例1に相当する処理液(アラミド繊維の原糸用、ポリウレタン樹脂成分が主成分)を用いた例であるが、実施例に比べて耐ホツレ性が低かった。耐ホツレ性は、繊維間の接着力の低下により低下する。繊維間の接着力が低下した原因は、アラミド繊維の原糸用の第1処理剤を、撚糸コードの第1処理剤として用いても、この処理剤は、水系処理剤であり、溶剤系処理剤に比べて処理剤が撚糸内部に含浸し難いためであると考えられる。また、100℃での剥離力が低かった。この剥離力の低下はポリウレタン樹脂の耐熱性が低いためであると考えられる。
また、比較例3は、第1処理剤として、特許文献2の実施例6に相当する処理液(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維やアラミド繊維の撚糸コード用、ニトリルゴム変性エポキシ樹脂とアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂を含む前処理液)を用いた例であり、特許文献2ではPBO繊維のみを実施例で評価しているが、特許文献2の処理剤をアラミド繊維の撚糸コードの第1処理剤に用いた。比較例3は、実施例に比べて心線とゴムとの接着力(剥離力、引抜接着力)、強力保持率のいずれもが低かった。接着力が低下した原因は、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂がエポキシ樹脂の硬化を過剰に促進し、未反応のエポキシ基が消失し、第1処理剤中のエポキシ基と第2処理剤中のRF縮合物との共硬化が起こらないためであると考えられる。一方、強力保持率が低下した原因は、エポキシ樹脂の過剰な硬化により硬化膜が硬くなり過ぎたためであると考えられる。
さらに、比較例4は、第1処理剤として、特許文献3の実施例7に相当する処理液(アラミド繊維の撚糸コード用、ウレタンプレポリマーと有機溶媒とを含み、かつポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含まない第1処理剤)を用いた例であるが、実施例に比べて100℃での剥離力が低かった。ポリウレタン樹脂の耐熱性が低いためであると考えられる。