本発明の伝動ベルトは、特定の心線を含む。このような伝動ベルトは、後述のように、ベルト本体と、ベルト長手方向に延びてベルト本体に埋設される特定の心線とを含む。
[心線]
心線(伝動ベルト用心線)は、少なくともポリアリーレンスルフィド繊維を含む繊維(A)で構成されている。
(繊維(A))
心線又は繊維(A)を構成するポリアリーレンスルフィド繊維において、ポリアリーレンスルフィドとしては、アリーレンスルフィド単位を含む単独又は共重合体、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリビフェニレンスルフィド(PBPS)、ポリフェニレンスルフィドケトン(PPSK)、ポリフェニレンスルフィドスルホン(PPSS)などが挙げられる。これらのうち、代表的なポリアリーレンスルフィド(繊維)は、ポリフェニレンスルフィド(繊維)である。
ポリアリーレンスルフィドは、架橋構造を有していてもよく、直鎖型(リニアー型)であってもよい。特に、直鎖型のポリアリーレンスルフィドを好適に使用してもよい。
ポリアリーレンスルフィド(繊維)の融点又は分解温度は、例えば、200〜400℃、好ましくは240〜350℃、さらに好ましくは260〜320℃(例えば、270〜300℃)程度であってもよい。
また、ポリアリーレンスルフィド(繊維)の破断強度は、例えば、1〜10cN/dtex、好ましくは1.5〜8cN/dtex、さらに好ましくは2〜6cN/dtex(例えば、3〜5cN/dtex)程度であってもよい。
さらに、ポリアリーレンスルフィド(繊維)の破断伸度は、例えば、15〜80%、好ましくは20〜70%、さらに好ましくは25〜65%(例えば、30〜60%)程度であってもよい。
繊維(A)は、異なるポリアリーレンスルフィド繊維を組み合わせて含んでいてもよい。
繊維(A)において、ポリアリーレンスルフィド繊維の構造(又は形態)は、特に限定されないが、通常、マルチフィラメント(A1)の形態で、ポリアリーレンスルフィド繊維を含んでいる場合が多い。
マルチフィラメント(A1)は、ポリアリーレンスルフィド繊維のモノフィラメントを含んでいればよく、他の繊維(後述の繊維など)のモノフィラメントを含んでいてもよいが、通常、ポリアリーレンスルフィド繊維のモノフィラメントのみで構成されていてもよい。
代表的な態様では、繊維(A)は、ポリアリーレンスルフィド繊維(単糸又はモノフィラメント)のマルチフィラメント(A1)を少なくとも含む撚糸(撚糸コード)であってもよい。
マルチフィラメント(A1)の平均繊度は、例えば、100〜3000dtex、好ましくは200〜2000dtex、さらに好ましくは250〜1000dtex、特に300〜800dtex程度であってもよい。なお、マルチフィラメント(A1)を構成するモノフィラメント(単糸)の本数は、例えば、30〜1000本、好ましくは50〜800本、さらに好ましくは70〜500本程度であってもよい。また、マルチフィラメント(A1)を構成するモノフィラメントの平均繊度は、例えば、1〜20dtex、好ましくは2〜15dtex、さらに好ましくは3〜10dtex程度であってもよい。
撚糸は、マルチフィラメント(A1)のみで構成してもよく、他の繊維のマルチフィラメント(A2)を含んでいてもよい。マルチフィラメント(A2)を構成する他の繊維としては、特に限定されず、例えば、再生繊維(レーヨン、アセテートなど)、合成繊維[ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維、ポリスチレンなどのスチレン系繊維、ポリフルオロエチレンなどのフッ素系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、PBO(ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ポリケトン繊維など]、無機繊維(炭素繊維、ガラス繊維など)などが挙げられる。これら他の繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これら他の繊維のうち、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維、炭素繊維、ガラス繊維などが汎用される。中でも、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などを好適に使用してもよく、特にポリアミド繊維を好ましく用いることができる。
ポリアミド繊維において、ポリアミドとしては、例えば、脂肪族ポリアミド(例えば、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6−12、又はこれらの共重合体など)、芳香族ポリアミド[例えば、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから合成された半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド(p−アラミド、m−アラミドなどのアラミドなど)など]などが挙げられる。これらのポリアミド(繊維)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも、ベルト特性(優れた耐屈曲疲労性や適度な弾性、ゴムに対する接着性など)などの点から、脂肪族ポリアミド(特に、ポリアミド66、ポリアミド46などの高融点の脂肪族ポリアミド)が好ましい。
また、ポリエステル繊維としては、通常、芳香族ポリエステル繊維、例えば、ポリアルキレンアリレート繊維[例えば、エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのC2−4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリアルキレンアリレート系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)系繊維、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維、ポリブチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維など)]、全芳香族ポリエステル繊維などが挙げられ、中でもポリアルキレンアリレート繊維(特に、PET系繊維)を好適に用いることができる。なお、PET系繊維は、エチレンテレフタレート単位の他に、他のジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ビス(カルボキシフェニル)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など)やジオール(例えば、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)で構成された単位を20モル%以下程度の割合で含んでいてもよい。ポリエステル繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
他の繊維(特に、脂肪族ポリアミド繊維など)と組み合わせることにより、低下しやすい初期のベルト張力(昇温時のベルト張力)を効率よく維持又はさらに向上させつつ、高温時(例えば、100℃以上)における張力を高いレベルで維持できる。この理由は、定かではないが、ポリアリーレンスルフィド繊維が、熱収縮の程度が小さい(熱収縮応力が比較的小さい)のに対して、脂肪族ポリアミド繊維などは熱収縮しやすい(熱収縮応力が大きい)ため、これらを組み合わせることで、昇温過程にあるベルトの走行初期におけるベルト張力を高いレベルで維持できる一方で、昇温後はポリアリーレンスルフィド繊維により高いレベルでの張力維持を実現できるものと考えられる。また、ポリアリーレンスルフィド繊維は、脂肪族ポリアミド繊維などによる収縮を抑制(緩和)する作用もあるようである。
マルチフィラメント(A2)の平均繊度は、例えば、100〜3000dtex、好ましくは250〜2500dtex、さらに好ましくは350〜2000dtex、特に500〜1500dtex(例えば、700〜1200dtex)程度であってもよい。なお、マルチフィラメント(A2)を構成するモノフィラメント(単糸)の本数は、例えば、50〜1000本、好ましくは100〜800本、さらに好ましくは150〜500本程度であってもよい。また、マルチフィラメント(A2)を構成するモノフィラメントの平均繊度は、例えば、1〜20dtex、好ましくは2〜15dtex、さらに好ましくは3〜10dtex程度であってもよい。
撚糸(撚糸コード)は、複数のマルチフィラメント[少なくともマルチフィラメント(A1)を含む複数のマルチフィラメント]の撚糸であればよいが、特に、複数のマルチフィラメントの下撚り糸(子縄)を、複数上撚りした撚糸(撚糸コード、上撚り糸)であってもよい。なお、さらに、下撚りと上撚りに加えて、さらに、中撚りを行ってもよい。すなわち、このような下撚りと上撚りを組み合わせた撚糸では、少なくとも一本の下撚り糸がマルチフィラメント(A1)で構成されている。
下撚り糸において、マルチフィラメントの数は、所望の繊度などに応じて適宜選択でき、例えば、1〜10本(例えば、1〜6本)、好ましくは2〜6本、さらに好ましくは2〜5本程度であってもよい。
また、下撚り糸において、撚り数は、例えば、2〜100回/10cm(例えば、3〜80回/10cm)、好ましくは5〜50回/10cm(例えば、8〜40回/10cm)、さらに好ましくは10〜35回/10cm(例えば、12〜30回/10cm)程度であってもよい。
撚糸コード(又は上撚り糸)において、下撚り糸の数は、例えば、2〜10本、好ましくは2〜8本(例えば、2〜7本)、さらに好ましくは2〜6本(例えば、3〜6本)、特に3〜5本程度であってもよい。
また、撚糸コード(又は上撚り糸)を構成するマルチフィラメントの数(総数)は、例えば、3〜100本(例えば、4〜70本)、好ましくは4〜50本、さらに好ましくは5〜40本、特に6〜30本(例えば、6〜25本)程度であってもよい。
上撚り糸において、撚り数(下撚り糸又は中撚り糸の撚り数)は、例えば、3〜100回/10cm(例えば、5〜80回/10cm)、好ましくは7〜60回/10cm(例えば、10〜50回/10cm)、さらに好ましくは11〜40回/10cm(例えば、12〜35回/10cm)程度であってもよい。
撚糸コードにおいて、下撚り(又は中撚り)と上撚りとの撚り方向は、特に限定されず、下撚りと上撚りの撚り方向が互いに反対方向である諸撚りでもよく、同一方向であるラング撚りでもよい。これらのうち、上撚りの撚り戻りが起こり難く、撚りが安定している点から、諸撚りが好ましい。
撚糸コードにおいて、総繊度(繊度の合計)は、500dtex以上(例えば、800〜20000dtex)の範囲から選択でき、例えば、1000dtex以上(例えば、1500〜18000dtex)、好ましくは2000dtex以上(例えば、2500〜15000dtex)、さらに好ましくは3000dtex以上(例えば、3500〜12000dtex)、特に4000dtex以上(例えば、4500〜10000dtex)であってもよい。
撚糸コードにおいて、ポリアリーレンスルフィド繊維(又はマルチフィラメント(A1))と他の繊維(又はマルチフィラメント(A2))とを組み合わせる場合、これらの割合は、前者/後者(繊度比)=1/0.1〜1/30(例えば、1/0.15〜1/25)、好ましくは1/0.2〜1/20(例えば、1/0.25〜1/18)、さらに好ましくは1/0.3〜1/15(例えば、1/0.5〜1/12)、特に1/0.7〜1/10(例えば、1/0.8〜1/8、好ましくは1/0.9〜1/7、さらに好ましくは1/1〜1/6)程度であってもよく、通常1/0.1〜1/10(例えば、1/0.15〜1/6、好ましくは1/0.3〜1/3、さらに好ましくは1/1〜1/3)であってもよい。
なお、ポリアリーレンスルフィド繊維(又はマルチフィラメント(A1))と他の繊維(又はマルチフィラメント(A2))とを組み合わせる場合、撚糸コードは、(i)マルチフィラメント(A1)のみからなる下撚り糸と、マルチフィラメント(A2)のみからなる下撚り糸との上撚り糸であってもよく、(ii)少なくとも1つの下撚り糸が、マルチフィラメント(A1)とマルチフィラメント(A2)との混撚り糸である上撚り糸であってもよい。特に、撚糸コードは、撚糸コード内における所望の特性の偏りをより小さくできるという点で、他の繊維との組み合わせ(ii)の態様であるのが好ましい。
撚糸コードにおいて、ポリアリーレンスルフィド繊維(又はマルチフィラメント(A1))の繊度(又は総繊度)は、100dtex以上(例えば、200〜15000dtex)の範囲から選択でき、例えば、200dtex以上(例えば、300〜13000dtex)、好ましくは400dtex以上(例えば、500〜12000dtex)、さらに好ましくは600dtex以上(例えば、700〜10000dtex)、特に800dtex以上(例えば、850〜9000dtex)であってもよい。
なお、繊維(A)(又は撚糸)の繊維径は、用途に応じて適宜選択できるが、例えば、0.1〜3mm、好ましくは0.2〜2mm、さらに好ましくは0.3〜1.5mm程度であってもよい。
繊維(A)は、延伸処理されていてもよい。すなわち、心線は、繊維(A)が延伸された延伸繊維(又は延伸糸)であってもよい。延伸(一軸延伸)において、延伸率(延伸倍率)は、1.1倍以上(例えば、1.2〜10倍)の範囲から選択でき、例えば、1.5倍以上(例えば、1.7〜9倍)、好ましくは2倍以上(例えば、2.5〜8倍)、さらに好ましくは3倍以上(例えば、3.5〜7.5倍)、特に4倍以上(例えば、4.5〜7倍)であってもよく、通常3〜9倍(例えば、4〜8倍)であってもよい。一般的に、脂肪族ポリアミド繊維などでは、高い延伸率で延伸すると、初期のベルト張力(昇温時のベルト張力)の低下をより一層効率よく抑制できるものの、熱収縮率が大きくなってベルトの寸法安定性が低下したり、ベルトの弾性率が高くなりすぎてベルト取付性を損なう場合がある。しかし、本発明では、意外にも、延伸(特に、3倍以上程度の比較的高い延伸率で延伸)しても、適度な弾性を保持できるので、ベルトの取付性を損なうことなく、初期のベルト張力の低下を効率よく抑えることができる。
なお、延伸処理は、繊維(A)に対して行うことができればよく、繊維(A)に対して行ってもよく、後述の易接着性処理された繊維(A)やゴム被覆繊維を延伸処理することで繊維(A)を延伸してもよい。
(易接着性繊維)
繊維(A)は、必要に応じて、ベルト本体に埋設する部分(例えば、後述のゴム層など)に対する接着性又は密着性を改善又は向上させるため、接着処理(易接着処理)されていてよい。すなわち、心線は、少なくとも繊維(A)で構成すればよく、必要に応じて、繊維(A)が易接着性処理又は被覆処理(表面処理)されていてもよい。換言すれば、心線(又は易接着性繊維)は、繊維(A)と、この繊維を被覆する易接着性被膜とで構成されていてもよい。易接着性被膜は、代表的には、フェノール類、アルデヒド類及びゴムを含む組成物(易接着性処理用組成物)で形成(又は構成)される。
フェノール類としては、例えば、芳香族モノオール[例えば、フェノール、アルキルフェノール(例えば、クレゾールなど)など]、芳香族ポリオール(カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、ピロガロールなど)、アミノフェノール(3−アミノフェノール、4−アミノフェノールなど)などが挙げられる。これらのフェノール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのフェノール類のうち、芳香族ジオール、アミノフェノールなどが好ましく、レゾルシン、ハイドロキノンなどのジヒドロキシベンゼン(特に、レゾルシン)が特に好ましい。
アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド、フェニルアセトアルデヒドなどの芳香族アルデヒド、トリオキサン、パラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒドの縮合体も使用できる。これらのアルデヒド類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのアルデヒド類のうち、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドが好ましく、ホルムアルデヒドが特に好ましい。ホルムアルデヒドは、通常、ホルマリンとして用いられる。
アルデヒド類の割合は、フェノール類1モルに対して、例えば、0.5〜3モル、好ましくは0.6〜2.5モル、さらに好ましくは0.7〜2モル(特に0.8〜1.5モル)程度であってもよい。
なお、フェノール類とアルデヒド類とは、縮合してプレポリマー(又は部分縮合物)を形成していてもよい。
フェノール類およびアルデヒド類の総量(又はフェノールとアルデヒド類との縮合物)の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、さらに好ましくは30〜60重量部程度であってもよい。
ゴムとしては、例えば、ジエン系ゴム(例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、又はこれらのジエン系ゴムの水添物など)、オレフィン系ゴム[例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体(エチレンプロピレンゴム(EPR)など)、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体(エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)など)など]、アクリル系ゴム、フッ素ゴム、シリコーン系ゴム、ウレタン系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アルキルクロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)、オレフィン−ビニルエステル共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EAM)など)などが挙げられる。これらのゴムは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
好ましいゴムには、比較的極性の小さいゴム(例えば、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムなど)が含まれる。また、ジエン系ゴムは、塩基性のゴム、例えば、ビニルピリジン骨格を有するジエン系ゴムであってもよい。このようなジエン系ゴムとしては、ブタジエン−ビニルピリジン系共重合体で構成されていてもよく、この共重合体は、さらに他の共重合性単量体を含んでいてもよい。他の共重合性単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。これらのうち、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体が汎用される。代表的な、ビニルピリジン−ブタジエン系共重合体としては、例えば、ブタジエン−ビニルピリジン共重合体、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体などが汎用される。
なお、ゴムは、慣用の乳化剤を用いて水中に分散させたラテックスであってもよい。さらに、ラテックスと、フェノール類およびアルデヒド類(又はプレポリマー)とを含む水分散液との混合液において、ゴムの固形分濃度は、例えば、1〜40重量%、好ましくは5〜35重量%、さらに好ましくは10〜30重量%程度であってもよい。
なお、易接着性処理用組成物は、通常、液状組成物であってもよい。このような液状組成物は、流動性又は粘性を有していれば、無溶媒であってもよいが、通常、溶媒を含む組成物であってもよい。溶媒としては、特に限定されず、有機溶媒(例えば、メタノールなどのアルコール類)などであってもよいが、通常、少なくとも水を含む溶媒である場合が多い。
なお、繊維(A)は、易接着処理(又は易接着性処理)の前に、さらに、慣用の接着性成分(例えば、エポキシ樹脂、イソシアネート系化合物又はウレタン樹脂など)で前処理(被覆処理)を行ってもよい。
繊維(A)を、易接着処理する方法としては、特に限定されないが、繊維(A)を液状の易接着処理用組成物に浸漬する方法、易接着性処理用組成物(通常、液状の組成物)を繊維(A)に噴霧又は塗布する方法などが挙げられる。
(ゴム被覆繊維)
繊維(A)(又は易接着処理された繊維(A)又は易接着性繊維)は、さらに、必要に応じて、ゴムで被覆してもよい。すなわち、心線は、繊維(A)(易接着性繊維を含む)と、この繊維(A)を被覆するゴム組成物とで構成されたゴム被覆繊維(ゴム被覆心線)であってもよい。
ゴム組成物を構成するゴムとしては、前記と同様のゴムが挙げられる。好ましいゴムには、オレフィン系ゴム[例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体(エチレン−α−オレフィンエラストマー)、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体(エチレン−α−オレフィン−ジエンエラストマー)などのエチレン−α−オレフィン系共重合体]が挙げられ、特に、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体が好ましい。
オレフィン系ゴム(又はエチレン−α−オレフィン系共重合体)において、α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどのα−C3−12オレフィン系単量体(特に、鎖状オレフィン)などが挙げられる。これらのうち、プロピレンなどのα−C3−4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。α−オレフィンは、単独又は2種以上組み合わせてもよい。
また、ジエンとしては、通常、非共役ジエン系単量体が挙げられる。このようなジエン系単量体としては、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが挙げられる。ジエンは、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
エチレン−α−オレフィンゴムにおいて、エチレンとα−オレフィンとの割合(重量比)は、前者/後者=40/60〜90/10、好ましくは45/55〜85/15(例えば、47/53〜80/20)、さらに好ましくは50/55〜75/25程度であってもよい。また、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体において、ジエンの割合は、4〜15重量%(例えば、4.1〜14重量%)程度の範囲から選択でき、例えば、4.2〜13重量%(例えば、4.3〜12重量%)、好ましくは4.4〜11.5重量%(例えば、4.5〜11重量%)程度であってもよい。なお、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合体において、α−オレフィンの割合は、例えば、10〜60重量%、好ましくは15〜55重量%、さらに好ましくは18〜50重量%(例えば、20〜45重量%)程度であってもよい。
ゴム組成物は、通常、加硫剤を含んでいてもよい。加硫剤としては、硫黄系加硫剤、有機過酸化物[例えば、ハイドロパーオキサイド(t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラブチルハイドロパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなど)、ジアシルパーオキサイド(ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイドなど)、アルキルパーオキシエステル(t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシベンゾエートなど)、パーオキシカーボネート(t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネートなど)、ジアルキルパーオキサイド[ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジt−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−アミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなど]、パーオキシケタール(エチル−3,3−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチレートなど)、ケトンパーオキサイド(メチルエチルケトンパーオキサイドなど)など]、アゾ化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリルなど)などが挙げられる。加硫剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
これらの加硫剤のうち、少なくとも硫黄系加硫剤を好適に用いてもよい。硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄[例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄など]の他、硫黄化合物[例えば塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの硫黄系加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
加硫剤の割合は、加硫剤の種類にもよるが、例えば、ゴム100重量部に対して、0.01〜15重量部、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部(例えば、0.5〜3重量部)程度であってもよい。
ゴム組成物は、さらに、加硫促進剤を含んでいてもよい。加硫促進剤としては、例えば、硫黄系加硫促進剤{例えば、チウラム系加硫促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’−ジメチル−N,N’−ジフェニルチウラム・ジスルフィドなど]、チアゾ−ル系加硫促進剤[例えば、2−メルカプトベンゾチアゾ−ル、2−メルカプトベンゾチアゾ−ルの亜鉛塩、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド(MBTS)、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど)など]、スルフェンアミド系加硫促進剤[例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなど]など}、ビスマレイミド系加硫促進剤(例えば、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−1,2−エチレンビスマレイミドなど)、ウレア系加硫促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの加硫促進剤のうち、TMTD、MBTS、CBSなどの硫黄系加硫促進剤を好適に使用できる。
加硫促進剤の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.5〜15重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1.5〜5重量部程度であってもよい。
ゴム組成物は、さらに、フェノール類とアルデヒド類との縮合物(共重合物又はプレポリマー又はフェノール樹脂)を含んでいてもよい。フェノール類およびアルデヒド類は、前記例示の成分が挙げられ、これらの割合も前記と同様の範囲から選択できる。
縮合物の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.5〜15重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1.5〜5重量部程度であってもよい。
なお、ゴム組成物は、接着性をより一層向上させたり、繊維(A)やベルト本体を構成するゴムとの接着の進行とともに、フェノール類とアルデヒド類との縮合をより一層進行させるため、架橋剤[例えば、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、ヘキサアルコキシメチロールメラミン(例えば、ヘキサメトキシメチロールメラミンなどのヘキサC1−4アルコキシメチロールメラミン)などのメラミン類とアルデヒド類との縮合物(部分縮合物、プレポリマー)など]を含んでいてもよい。
このような架橋剤(メラミン類とアルデヒド類との縮合物)の割合は、縮合物100重量部に対して、例えば、10〜1000重量部(例えば、20〜500重量部)、好ましくは30〜300重量部、さらに好ましくは40〜250重量部程度であってもよい。
ゴム組成物は、さらに、汎用の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、共加硫剤(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物)、充填剤(又は増強剤又は補強剤、例えば、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカなどの充填剤)、加硫助剤、架橋助剤、加硫遅延剤、滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、加工助剤、カップリング剤(シランカップリング剤、チタンカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤など)、発泡剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
なお、硫黄系加硫剤は、共加硫剤としての金属酸化物と組み合わせてもよい。
共加硫剤の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.5〜30重量部、好ましくは1〜20重量部(例えば、1.5〜15重量部)、さらに好ましくは2〜10重量部程度であってもよい。充填剤の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.1〜100重量部、好ましくは1〜80重量部(例えば、2〜70重量部)、さらに好ましくは3〜60重量部(例えば、4〜50重量部)程度であってもよい。滑剤や老化防止剤の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜7重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部程度であってもよい。
また、後述するように、ゴム組成物は、溶媒や、慣用の接着性成分を含んでいてもよい。
繊維(A)(又は易接着処理された繊維(A))をゴム組成物で被覆する方法としては、特に限定されないが、繊維を液状のゴム組成物に浸漬する方法、ゴム組成物(通常、液状の組成物)を繊維に噴霧又は塗布する方法などが挙げられる。
なお、液状のゴム組成物は、前記ゴム組成物と溶媒とを混合することにより得ることができる。溶媒としては、特に限定されず、アルコール類(エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルカノール類)、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロアルカン類)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、エステル類(例えば、酢酸エチルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどの鎖状ケトン、シクロヘキサノンなどの環状ケトン)、セロソルブ類、カルビトール類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、グリコールエーテルエステル類(エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)などの有機溶媒が挙げられる。溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用してもよい。
溶媒を含むゴム組成物において、固形分の割合は、0.5〜30重量%、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは2〜10重量%(例えば、2.5〜7重量%)程度であってもよい。
なお、ゴム組成物は、前記と同様に、慣用の接着性成分(例えば、エポキシ樹脂、イソシアネート系化合物又はウレタン樹脂など)を含んでいてもよい。このような場合、接着性成分の種類によっては硬化などが速やかに進行する場合があるため、繊維に噴霧又は塗布する直前にゴム組成物に含有させてもよい。接着性成分の割合は、ゴム組成物(溶媒を含む場合には、ゴム組成物の固形分)全体に対して、例えば、5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは15〜30重量%程度であってもよい。
なお、繊維(A)が易接着性処理されている場合、繊維(コアとなる繊維)とゴム組成物との間には、易接着性処理用組成物(又はその被膜)が存在又は介在している。
なお、ゴム被覆繊維において、ゴム組成物(および易接着性繊維のゴム、以下同じ)は、通常、未加硫であってもよいが、ゴム組成物の加硫とともに、繊維(又は易接着性繊維の被膜)とゴムとが接着される。すなわち、繊維と、この繊維を被覆するゴム組成物の硬化物(加硫物)とで形成されたゴム被覆繊維において、繊維とゴム組成物とが接着している。ゴム組成物(未加硫ゴム組成物)の加硫は、通常、加熱下で行うことができ、加熱温度は、例えば、80〜250℃、好ましくは100〜230℃、さらに好ましくは120〜200℃(特に150〜180℃)程度であってもよい。加熱時間は、例えば、5分〜3時間、好ましくは10分〜2時間、さらに好ましくは15分〜1時間(特に20〜40分)程度であってもよい。なお、加硫は、加熱に加えて、加圧下(例えば、0.1〜100MPa、好ましくは0.3〜10MPa、さらに好ましくは0.5〜5MPa)程度の加圧下で行ってもよい。なお、易接着性繊維を構成するゴム(未加硫ゴム)の加硫は、ゴム組成物の加硫とともに行ってもよい。また、ゴム被覆繊維とベルト本体を構成するゴム(又はその組成物)とを接着させる場合、後述するように、ベルト本体を構成するゴム(又はその組成物)の加硫とともにゴム組成物を加硫させてもよい。
[伝動ベルト]
本発明の伝動ベルトは、ベルト本体と、ベルト長手方向に延びてベルト本体に埋設された前記心線(本発明の心線)とを含む。このような本発明の伝動ベルトは、プーリへの取付性を損なわず、かつ高負荷のレイアウトに適用可能な適度な弾性(張力)を有している。例えば、伝動ベルトの引張弾性率は、10〜45N/(mm・%)(例えば、12〜43N/(mm・%))、好ましくは15〜40N/(mm・%)(例えば、16〜38N/(mm・%))、さらに好ましくは17〜35N/(mm・%)(例えば、18〜33N/(mm・%))程度であってもよい。なお、このような引張弾性率は、一対のプーリに伝動ベルトを(切断することなく)掛けて(又は巻き付け)、一方のプーリを移動させた際に測定される応力−歪み曲線における直線の傾きとして求めることができる。
伝動ベルトとしては、特に限定されず、摩擦伝動ベルト、かみ合い伝動ベルト(歯付ベルト)などの各種伝動ベルトに利用でき、例えば、平ベルト、Vベルト、ラップドVベルト、Vリブドベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルトなどの摩擦伝動ベルト(特にVリブドベルト)が挙げられる。中でも、本発明の心線は、特に、ベルトの弾性率を低くしてプーリに取り付けることや張力維持(特に、100℃を超える高温下での張力維持)が要求される低弾性タイプのVベルト(低モジュラスVベルト)に有用である。
ベルト本体(又はベルト本体のうち心線を埋設する部分)は、例えば、ゴム組成物、液状ポリウレタンなどで構成できる。特に、ベルト本体のうち、少なくとも心線を埋設する部分(例えば、後述の接着層、伸張層、圧縮層、伸張層及び圧縮層の双方など)はゴム組成物で構成する場合が多い。換言すれば、ベルト本体は、心線が埋設されたゴム層で少なくとも構成してもよい。
図1は、本発明の伝動ベルト(動力伝動用ベルト)の一例であるVリブドベルトを示す概略断面図である。図1の例では、Vリブドベルトは、ベルト本体の内周面(下面)に、ベルトの長手方向に沿って複数列で延びるリブ部3(図では4列)を有しており、このリブ部3の長手方向に対して直交する方向における断面形状は、ベルト外周側(リブ部を有さず、プーリと係合しない側)から内周側に向かって幅が小さくなる(先端に向かって先細る)逆台形状(断面V字形)である。Vリブドベルトは、積層構造を有しており、ベルト本体の内周側から外周側に向かって、前記リブ部3を有する圧縮層(圧縮ゴム層)2、ベルト長手方向に心線1を埋設した接着層(接着ゴム層)5、伸張層(伸張ゴム層)6が順次積層されている。前記圧縮層2は、ベルト幅方向に配向した複数の短繊維4を含んでいる。
なお、リブ部3の表面は、繊維部材(織物、編物、不織布など)で被覆してもよい。また、リブ部3の表面には、パウダー状繊維(例えば、綿、ポリアミド、アラミドなど)を植毛してもよく、リブ部3の表面を潤滑剤などで処理(スプレーによる潤滑剤の塗布など)してもよい。
図1の例では、心線1は、接着層(ゴム接着層)5に埋設されているが、必ずしも接着層は必要ではなく、圧縮層、伸張層、又はこれらの双方に埋設させてもよい。また、接着層を圧縮層又は伸張層のいずれか一方に設け、心線を接着層(圧縮層側の接着層)と伸張層との間又は接着層(伸張層側の接着層)と圧縮層との間に埋設させてもよい。図2は、このようなVベルトの他の例を示す概略断面図である。図2のVベルトでは、心線1は、圧縮層(圧縮ゴム層)2と伸張層(伸張ゴム層)6との間に埋設させ、短繊維4を3列のリブ部3の形状に沿って配向(特に、リブ部3の表面近傍においてはリブ部3の外形に沿って配向)させたこと以外は、図1の例と同様の構造を有している。
伝動ベルトにおいて、心線は、通常、ベルト本体中において、複数本の心線が、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に埋設されており、隣接する心線の間隔(スピニングピッチ)は、心線径に応じて適宜選択され、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.8〜1.5mm、さらに好ましくは1〜1.3mm程度であってもよい。
(圧縮層)
圧縮層は、ベルトの種類に応じて、適宜選択でき、例えば、ゴム組成物[又はその加硫又は架橋物(加硫ゴム組成物)]やポリウレタン樹脂組成物(又はその硬化物)などが利用される。
ゴム組成物(圧縮ゴム組成物、圧縮ゴム層用組成物)において、ゴムとしては、前記例示のゴム(例えば、オレフィン系ゴムなど)が挙げられる。また、ポリウレタン組成物としては、例えば、ウレタンプレポリマーと硬化剤との硬化物(二液硬化型ポリウレタン)などが例示できる。
これらのうち、圧縮層は、ゴム組成物(特に、有機過酸化物加硫型ゴム組成物)(又はその硬化物)で形成するのが好ましく、特に、エチレン−α−オレフィン系共重合体(例えば、EPR、EPDMなど、特にEPDM)で構成されたゴム組成物で形成するのが好ましい。なお、ゴムの好ましい態様は、前記と同様である。
ゴム組成物は、通常、加硫剤を含んでいる。加硫剤としては、前記と同様の加硫剤が挙げられ、特に、好ましい加硫剤は、有機過酸化物である。加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期が150〜250℃(例えば、175〜225℃)程度の過酸化物を好適に使用してもよい。
加硫剤(特に有機過酸化物)の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、1〜10重量部、好ましくは1.2〜8重量部、さらに好ましくは1.5〜6重量部(例えば、2〜5重量部)程度であってもよい。
ゴム組成物は、さらに加硫促進剤(前記例示の加硫促進剤など)を含んでいてもよい。加硫促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫促進剤の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.5〜15重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは2〜5重量部程度であってもよい。
ゴム組成物は、架橋度を高め、粘着摩耗などを防止するために、さらに共架橋剤(架橋助剤、又は共加硫剤)を含んでいてもよい。共架橋剤としては、慣用の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2−ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなど]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど]、ビスマレイミド類(N−N’−m−フェニレンビスマレイミドなど)などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。架橋助剤の割合(複数種を組み合わせる場合は合計量)は、固形分換算で、ゴム100質量部に対して、例えば、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜8重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部程度であってもよい。
ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、加硫助剤、加硫遅延剤、増強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイル、プロセスオイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止材、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの添加剤の割合は、種類に応じて慣用の範囲から選択でき、例えば、ゴム100重量部に対して増強剤(カーボンブラック、シリカなど)の割合は10〜200重量部(特に20〜150重量部)程度であってもよく、金属酸化物(酸化亜鉛など)の割合は1〜15重量部(特に2〜10重量部)程度であってもよく、軟化剤(パラフィンオイルなどのオイル類)の割合は1〜30重量部(特に5〜25重量部)程度であってもよく、加工剤(ステアリン酸など)の割合は0.1〜5重量部(特に0.5〜3重量部)程度であってもよい。
短繊維としては、前記心線の項で例示した繊維と同様の繊維を使用できる。これらの短繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維のうち、綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(PET繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)などが汎用される。
短繊維は、ゴム組成物中での分散性や接着性を向上させるため、慣用の接着処理(又は表面処理)、例えば、RFL液などで処理してもよい。
短繊維の平均繊維長は、例えば、1〜20mm、好ましくは2〜15mm、さらに好ましくは3〜10mm程度であってもよい。短繊維の平均繊維径は、例えば、5〜50μm、好ましくは7〜40μm、さらに好ましくは10〜30μm程度であってもよい。短繊維の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、1〜50重量部、好ましくは5〜40重量部、さらに好ましくは10〜35重量部程度であってもよい。
圧縮層中での短繊維の配向方向は、特に限定されず、ランダムな方向に配向してもよく、ベルト長手方向、ベルト幅方向、リブ形状に沿った方向などの所定の方向に配向してもよい。
圧縮層の厚みは、ベルトの種類に応じて適宜選択できるが、Vリブドベルトの場合、例えば、2〜25mm、好ましくは2.2〜16mm、さらに好ましくは2.5〜12mm程度であってもよい。
圧縮層のリブ部の縦断面形状は、台形形状に限定されず、ベルト長手方向に延びる形状であればよく、例えば、略三角形状、略半円状などであってもよい。リブ部の列数(個数)は、3列又は4列に限定されず、2〜10列程度から選択できる。
(接着層)
接着層は、例えば、ゴム組成物[又はその加硫又は架橋物(加硫ゴム組成物)]で形成できる。ゴム組成物としては、前記例示のゴム組成物と同様のゴム組成物[例えば、ゴムをオレフィン系ゴム(EPDMなど)とするゴム組成物]を利用できる。接着層のゴム組成物を構成するゴムは、前記ゴム被覆繊維を構成するゴムや前記圧縮層を構成するゴムと同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。
ゴム組成物(接着ゴム組成物、接着ゴム層用組成物)は、通常、加硫剤を含んでいる。加硫剤としては、前記と同様の加硫剤が挙げられ、特に、好ましい加硫剤は、硫黄系加硫剤である。加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫剤の割合は、加硫剤の種類にもよるが、例えば、ゴム100重量部に対して、0.01〜15重量部、好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部(例えば、0.5〜3重量部)程度であってもよい。
ゴム組成物は、さらに加硫促進剤(前記例示の加硫促進剤など)を含んでいてもよい。中でも、TMTD、MBTS、CBSなどの硫黄系加硫促進剤を好適に使用できる。加硫促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫促進剤の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.5〜15重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1.5〜5重量部程度であってもよい。
ゴム組成物は、さらに、フェノール類とアルデヒド類との縮合物(共重合物又はプレポリマー又はフェノール樹脂)を含んでいてもよい。フェノール類およびアルデヒド類は、前記例示の成分が挙げられ、これらの割合も前記と同様の範囲から選択できる。縮合物の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.5〜15重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1.5〜5重量部程度であってもよい。
なお、ゴム組成物は、さらに、架橋剤[例えば、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、ヘキサアルコキシメチロールメラミン(例えば、ヘキサメトキシメチロールメラミンなどのヘキサC1−4アルコキシメチロールメラミン)などのメラミン類とアルデヒド類との縮合物(部分縮合物、プレポリマー)など]を含んでいてもよい。このような架橋剤(メラミン類とアルデヒド類との縮合物)の割合は、縮合物100重量部に対して、例えば、10〜1000重量部(例えば、20〜500重量部)、好ましくは30〜300重量部、さらに好ましくは40〜250重量部程度であってもよい。
ゴム組成物は、さらに、汎用の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、前記ゴム被覆繊維の項で例示の添加剤(例えば、共加硫剤、充填剤、滑剤など)を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
共加硫剤の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.5〜30重量部、好ましくは1〜20重量部(例えば、1.5〜15重量部)、さらに好ましくは2〜10重量部程度であってもよい。充填剤の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、1〜200重量部、好ましくは5〜150重量部(例えば、10〜120重量部)、さらに好ましくは15〜100重量部(例えば、20〜80重量部)程度であってもよい。滑剤や老化防止剤の割合は、ゴム100重量部に対して、例えば、0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜7重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部程度であってもよい。
接着層の厚みは、ベルトの種類に応じて適宜選択できるが、Vリブドベルトの場合、例えば、0.4〜3.0mm、好ましくは0.6〜2.2mm、さらに好ましくは0.8〜1.4mm程度であってもよい。
なお、前記のように、接着層は必ずしも必要ではなく、接着層を設けることなく、伸張層と圧縮層との間などに心線を埋設させてもよい。
(伸張層)
伸張層は、ゴム組成物[又はその加硫又は架橋物(加硫ゴム組成物)]で形成してもよく、帆布などの布帛(補強布)で形成してもよい。
補強布としては、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材などが挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布や、経糸と緯糸との交差角が90〜120°程度の広角度帆布や編布などが好ましい。補強布を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維を利用できる。補強布は、前記RFL液などで処理(浸漬処理など)した後、ゴム組成物を擦り込むフリクション・コーティング又は積層してゴム付帆布を形成してもよい。
これらのうち、ゴム組成物(伸張ゴム組成物)で形成された伸張層が好ましい。伸張層のゴム組成物において、ゴムとしては、前記圧縮ゴム組成物のゴムと同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、伸張ゴム組成物は、前記圧縮ゴム組成物と同様の添加剤(加硫剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤など)を含んでいてもよく、添加剤の割合も圧縮ゴム組成物と同様の範囲から選択できる。
ゴム組成物には、背面駆動時に背面ゴムの粘着により発生する異音を抑制するために、さらに短繊維が含まれていてもよい。短繊維としては、圧縮層の項で例示の短繊維が挙げられ、繊維長、繊維径や割合も前記と同様の範囲から選択できる。
さらに、背面駆動時の異音を抑制するために、伸張層(伸張ゴム層)の表面(ベルトの背表面)に凹凸パターンを設けてもよい。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターンなどが挙げられる。これらのパターンのうち、織布パターンが好ましい。
伸長層の厚みは、ベルトの種類に応じて適宜選択できるが、Vリブドベルトの場合、例えば、0.4〜2mm、好ましくは0.5〜1.5mm、さらに好ましくは0.7〜1.2mm程度である。
(製造方法)
伝動ベルトの製造方法としては、特に限定されず、例えば、次のような公知の方法(第1又は第2の方法など)を用いることができる。第1の方法では、先ず、表面がフラットな円筒状の成形モールドに伸張層用シートを巻きつけ、この上に処理ロープを螺旋状にスピニングし、さらに接着層用シート、圧縮層用シートを順次巻き付けて成形体を作製する。その後、加硫用ジャケットを成形体の上から被せて金型を加硫缶に設置し、所定の加硫条件で加硫した後、成形モールドから脱型して筒状の加硫ゴムスリーブを得る。そして、この加硫ゴムスリーブの外表面(圧縮層)を研削ホイールにより研磨して複数のリブを形成した後、カッターを用いてこの加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルトに仕上げる。
ベルトの製造方法としては、この方法(第1の方法)に限定されず、以下の方法を用いてもよい。第2の方法では、先ず、外周面に可撓性ジャケットを装着した内型に未加硫の伸張層用シートを巻きつけ、この上に心線を螺旋状にスピニングし、さらに未加硫の圧縮層用シートを巻き付けて成形体を作製する。次に、内周面に複数のリブ型を刻設した外型に成形体を巻き付けた内型を同心的に設置する。その後、可撓性ジャケットを外型の内周面(リブ型)に向かって膨張させて成形体(圧縮層)をリブ型に圧入し、加硫を行なう。最後に、内型を外型より抜き取り、複数のリブを有する加硫ゴムスリーブを外型より脱型した後、カッターを用いてこの加硫ゴムスリーブをベルト長手方向に所定の幅にカットしてVリブドベルトに仕上げる。
この第2の方法では伸張層、心線、圧縮層からなる積層体を一度に膨張させてVリブドベルトに仕上げているが、例えば、圧縮層のみを膨張させて予備成形体(半加硫状態)とし、次いで伸張層と心線とを膨張させて前記予備成形体に圧着し、加硫一体化してVリブドベルトに仕上げる方法(例えば、特開2004−82702号公報に記載の方法)を用いてもよい。
第2の方法では、第1の方法とは異なり圧縮層を研磨してリブを形成する必要はない。図2の形態や、リブ表面を繊維部材で被覆したVリブドベルトにおいては、第2の製造方法が用いられる。リブ表面を繊維部材で被覆したVリブドベルトは、ベルト製造時において繊維部材が未加硫の圧縮層用シートの外側(外型の内周側)に積層される。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において用いた原料及び原糸、撚り構成、各物性における測定方法又は評価方法を以下に示す。
[原料及び原糸]
ポリフェニレンスルフィド原糸(PPSという):東レ(株)製、「トルコン」、平均繊度440dtex、マルチフィラメント糸、単繊維繊度4.4dtex
ポリアミド66原糸(N66−1という):東レ(株)製、「東レナイロン」、平均繊度940dtex、単繊維繊度6.9dtex
ポリアミド66原糸(N66−2という):旭化成(株)製「TYPE T5」、平均繊度940dtex、単繊維繊度6.7dtex
ポリエチレンテレフタレート原糸(PETという):帝人ファイバー(株)製、「P952NL」、平均繊度1100dtex、マルチフィラメント糸、単繊維繊度4.4dtex
EPDMポリマー:デュポン・ダウエラストマージャパン(株)製「IP3640」、ムーニー粘度40(100℃)
含水シリカ:東ソー・シリカ(株)製「Nipsil VN3」、比表面積240m2/g
レゾルシン・ホルマリン共重合物(レゾルシノール樹脂):レゾルシノール20%未満、ホルマリン0.1%未満のレゾルシン・ホルマリン共重合物
ポリメリックイソシアナート:MDI(メチレンビス(1,4−フェニレン)ジイソシアネート)をイソシアネートとするポリメリックイソシアナート(ポリメリックMDI)
カーボンHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
加硫促進剤MBTS:2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド
加硫促進剤CBS:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド
加硫促進剤TMTM:テトラメチルチウラム・モノスルフィド
有機過酸化物:化薬アクゾ(株)製「パーカドックス14RP」
パラフィン系軟化剤:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイル」
ポリアミド短繊維:旭化成(株)製「66ナイロン」。
[撚り構成]
撚り構成(撚りコード)の態様は以下のとおりである。なお、いずれも、下撚り数は21.0回/10cm、上撚り数は12.0回/10cmであり、下撚りと上撚りの撚り構成は、諸撚りとした。
実施例1:図3の(1)に示すように、4本のPPS原糸30を下撚りした下撚り糸(子縄)を5本引き揃えて上撚りした構成
実施例2:図3の(2)に示すように、2本のPPS原糸30と1本のN66−1原糸(斜線部)31とを混撚りした混撚り糸(下撚り糸)を3本引き揃えて上撚りした構成(PPS繊維とN66−1繊維との繊度の比率=1/1.1)
実施例3:図3の(3)に示すように、2本のPPS原糸30と1本のN66−1原糸31とを混撚りした下撚り糸2本と、2本のN66−1原糸31を撚った1本の下撚り糸とを引き揃えて上撚りした構成(PPS繊維とN66−1繊維との繊度の比率=1/2.1)
実施例4:図3の(4)に示すように、2本のPPS原糸30と1本のN66−1原糸31とを混撚りした1本の下撚り糸と、2本のN66−1原糸31を撚った下撚り糸2本とを引き揃えて上撚りした構成(PPS繊維とN66−1繊維との繊度の比率=1/5.3)
比較例1:図3の(5)に示すように、2本のN66−2原糸32を下撚りした下撚り糸を3本引き揃えて上撚りした構成
比較例2:図3の(5)に示すように、2本のPET原糸32を下撚りした下撚り糸を3本引き揃えて上撚りした構成。
[延伸、接着処理およびゴム被覆処理(オーバーコーティング処理)]
上記撚り構成の撚りコードを、プレディップ(P/D)処理液(ポリメリックイソシアナートを10質量%の割合で含むトルエン溶液)に浸漬した後、180℃で4分間熱処理した。
次に、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)処理液[レゾルシンとホルマリンとのプレポリマー4質量部(レゾルシン2.6質量部、ホルマリン1.4質量部)、ラテックス(スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン共重合体、日本ゼオン(株)製)17.2質量部、水78.8質量部を含む混合液]に浸漬し、乾燥炉内において230℃で2分間熱処理した。
引き続き、RFL処理後の撚りコードを、前記乾燥炉内において230℃で熱延伸(一軸延伸)した。延伸率は実施例1〜4は6.0%、比較例1および2は2.5%とした。なお、延伸率を6.0%ではなく2.5%としたのは、比較例1では心線の乾熱収縮率が大きくなってベルトの寸法安定性が低下するためであり、比較例2ではベルトの弾性率が高くなりすぎてプーリへのベルトの取付けが困難になるためである。
さらに、表1に示すゴム組成物(練りゴム)を、カレンダーロールに通して圧延ゴムシートを作製し、作製したゴムシートをトルエンに溶解させてゴム糊(ゴムシート由来成分の割合10質量%)を調製した。さらに、このゴム糊とポリメリックイソシアネートとをトルエンに溶解して作製したオーバーコート(O/C)処理液(ゴム糊50質量部、ポリメリックイソシアネート1質量部、トルエン94質量部を含む混合液)に、RFL処理した心線(撚りコード)を浸漬し、150℃で4分間熱処理することで、接着ゴムにより被覆された心線(被覆心線、被覆繊維、処理心線、処理ロープ)を得た。
[被覆心線(処理ロープ)の評価]
(1)引張試験
チャック間距離を250mmとして、処理ロープを弛まない程度にチャックに固定し、引張速度300mm/分の条件で処理ロープを引っ張って、中間伸度(100N時伸び(%)、200N時伸び(%))、切断時の強力(破断強力)および伸び(破断伸度)を測定した。
(2)屈曲疲労試験
屈曲疲労試験用の試験片は以下の方法で作製した。まず、下記の未加硫のEPDMゴムシート(厚み0.5mm)を円筒状の金型に巻き付け、この上に処理ロープをスパイラル状に巻き付けた後、さらにこの上に同じ未加硫のEPDMゴムシート(厚み0.5mm)を巻き付け、これにジャケットを被せて加熱することよって加硫(温度160℃、時間30分)し、加硫ゴムスリーブを作製した。そして、処理ロープが2本埋設され、且つカットした側面に処理ロープが露出しないように加硫ゴムスリーブを周方向にカッターでカットし、幅3mm、長さ50cm、厚み1.5mmの試験片を作製した。
屈曲疲労試験は、図4に示すように、上下に配置した一対の円柱形の回転バー(直径10mm)12a,12bに、作製した前記試験片13を屈曲させて巻き掛け、試験片13の一端をフレーム14に固定すると共に試験片13の他端に2kgの荷重15をかけ、一対の回転バー12a、12bを相対距離を一定に保ったまま、上下方向に10000回往復(ストローク:100mm、サイクル:100回/分)させることによって、回転バー12a、12bへの試験片13の巻き付け・巻き戻しを繰り返し、屈曲疲労させた。そして、オートグラフ((株)島津製作所製「AGS−J10kN」)を用いて、この屈曲後の試験片13を引張速度300mm/分の条件で引張り、試験片13の破断時の強力を測定した。一方、屈曲前の試験片13の破断時の強力を予め測定しておき、下記式に基づいて強力保持率を算出した。強力保持率が高いほど耐屈曲疲労性に優れることを意味する。
強力保持率(%)=(屈曲後の強力/屈曲前の強力)×100
(未加硫EPDMシート)
表2に示すゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールによって圧延することによって、未加硫EPDMゴムシートを作製した。
(3)剥離試験
屈曲疲労試験で用いたものと同じ組成の未加硫のEPDMゴムシート(厚み4.0mm)の上に、被覆心線を、幅が25mmとなるように複数本平行に並べ(繊維間隔0.1mm)、プレス板で2.0MPaの圧力をかけ、160℃で30分間加硫して、剥離試験用の短冊試料(幅25mm×長さ150mm×厚み4mm)を作製した。そして、JISK6256に従って、引張速度50mm/分で剥離試験を行い、心線と加硫ゴムとの接着力(剥離力)を室温雰囲気下で測定した。
[ベルトの評価]
まず、次のようにして、Vリブドベルトを製造した。まず、表面がフラットな円筒状の成形モールドに、下記の伸張層用シート(EPDM未加硫ゴムシート)を巻きつけ、この上に処理ロープを螺旋状にスピニングし、さらに下記の接着層用シート(EPDM未加硫ゴムシート)、下記の圧縮層用シート(EPDM未加硫ゴムシート)を順次巻き付けて成形体を作製した。その後、加硫用ジャケットを成形体の上から被せて金型を加硫缶に設置し、温度160℃、時間30分の条件で加硫した後、成形モールドから脱型して筒状の加硫ゴムスリーブを得た。そして、この加硫ゴムスリーブの外表面(圧縮層)を研削ホイールにより研磨して複数のリブを形成した後、カッターにより個々のベルトに切断して、Vリブドベルト(リブ数3、周長1100mm)に仕上げた。
(伸張層用シート)
表3に示すゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールによって圧延することによって、伸張層を形成するためのゴムシートを1.0mmの厚みで作製した。
(接着層を形成するためのゴムシート)
表4に示すゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールによって圧延することによって、接着層を形成するためのゴムシートを0.5mmの厚みで作製した。
(圧縮層を形成するためのゴムシート)
表5に示すゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールによって圧延することによって、圧縮層を形成するためのゴムシートを3.0mmの厚みで作製した。
そして、得られたベルトについて、以下の方法により、弾性率、寸法変化率、張力保持率を測定した。
(1)引張試験
上下に配置した一対の平プーリ(直径75mm)の中心位置を予め合わせておき、この位置を原点とする。次に、ベルト背面側が平プーリと接するように、ベルトを一対の平プーリに掛け、一方の平プーリを移動させてベルトが弛まない程度に張力(約0.5N/mm)を掛ける。この状態にある平プーリの位置を初期位置とし、50mm/分の速度でベルトを引張り、ベルトの応力が350N/リブ(1リブ=3.56mm)に到達後、直ちに平プーリを初期位置まで戻す。この動作を2回繰り返し、2回目の応力−歪み曲線において比較的直線関係にある領域(15〜45N/mm)の直線の傾き(平均傾斜)をベルトの弾性率として算出した。
(2)寸法変化率測定
上下に配置した一対の溝付きプーリ(直径100mm)にベルトのリブが嵌合するようにベルト(加硫1日後のベルト)を掛け、3kg/リブの荷重を付与したときのベルト長さを測定する。次に、このベルトを温度23℃、湿度65%に設定した恒温槽に1000時間入れてベルトを経時収縮させる。その後、ベルトを恒温槽より取り出し、同様の条件でベルト長さを測定してベルトの収縮長さ(収縮前のベルト長さ−収縮後のベルト長さ)を求める。そして、寸法変化率(%)=(ベルトの収縮長さ/収縮前のベルト長さ)×100の式から寸法変化率を算出した。
(3)二軸走行試験
この走行試験はベルトの張力維持性を評価する試験である。図5に示すように、直径120mmの駆動(Dr.)プーリと、直径120mmの従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機を用いて行なった。次に、各プーリにベルトを掛架し、雰囲気温度23℃で30分間慣らし走行(駆動プーリの回転数2000rpm)させた後の張力(初張力)が75N/ribとなるようにプーリの軸間距離を調整した後、駆動プーリの回転数4900rpm、従動プーリに3kWの負荷を付与し、雰囲気温度120℃の条件でベルトを1000時間走行させた。張力保持率は、100時間走行後のベルト張力と1000時間走行後のベルト張力を測定し、張力保持率(%)=(1000時間後の張力/100時間後の張力)×100の式から張力保持率を算出した。
(4)走行時間に対するベルト張力
三ツ星ベルト(株)製の「ドクターテンション」を用い、走行を停止させた状態のベルトを弾くなどして振動を与え、その時の振動数F(Hz)とスパン長L(m)及び単位長さ当たりのベルトの質量W(kg/m)より、以下の式を用いてベルト張力T(N)を求めた。
T=W(2LF)2
ここで、Lは以下の式より算出される。
L=√(C2−(Dp−dp)2/4)
(式中、Cは軸間距離、Dpは大プーリピッチ径(直径)、dpは小プーリピッチ径(直径)を示す)。
結果を表6に示す。また、図6に、実施例1〜2および比較例1〜2について、処理ロープの試験力−歪み曲線を示す。さらに、図7および8に、実施例および比較例について、走行時間−張力曲線を示す。なお、図8は、初期(走行時間10時間まで)の走行時間−張力曲線を示すものである。
(ベルトの評価)
表6の結果から明らかなように、実施例のベルトでは、高温下で走行させても、張力を高いレベルで保持していた。また、65%という比較的高湿度下においても、寸法変化を抑制できた。さらに、延伸率を6.0%と高くしたにもかかわらず、意外にも、プーリへの取付性を損なわない程度で適度な弾性率を保持でき、ポリアミド66繊維を単独で用いた比較例1と同レベルかそれ以上の優れた伸び、強度および耐屈曲疲労性を有していた。
また、実施例1、実施例2〜4、および比較例1の比較からも明らかなように、PPS繊維とポリアミド66繊維とを組み合わせることで、ゴムに対する密着性をPPS繊維単独の場合に比べて向上させつつ、上記のような優れた特性を付与することができた。
さらに、図7および8の結果から明らかなように、実施例では、ベルトの走行初期(〜10時間程度)の張力の低下を効率よく抑えつつ、長期にわたってベルト張力を高いレベルで維持できた。