<心線の製造方法>
本発明の心線は、伝動ベルト用心線の未処理糸(心線本体)を特定の第1処理剤で処理(被覆処理、浸漬処理、含浸処理、乾燥処理、硬化処理)する工程(第1処理工程)を少なくとも経て、製造される。
[第1処理工程]
(伝動ベルト用心線の未処理糸)
第1の処理剤で処理するための未処理糸を構成する原料繊維としては、例えば、天然繊維(綿、麻など)、再生繊維(レーヨン、アセテートなど)、合成繊維(ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維、ポリスチレンなどのスチレン系繊維、ポリフルオロエチレンなどのフッ素系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、全芳香族ポリエステル繊維、アラミド繊維など)、無機繊維(炭素繊維、ガラス繊維など)などが挙げられる。これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのC2−4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維[ポリエチレンテレフタレート系繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート系繊維(PEN繊維)、ポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT繊維)などのポリアルキレンアリレート系繊維]、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、引張強度が高く、高張力、高負荷の要求に対応できる点から、アラミド繊維(芳香族ポリアミド繊維)を含むのが好ましく、パラ系アラミド繊維が特に好ましい。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)の「トワロン(登録商標)」、東レ・デュポン(株)の「ケブラー(登録商標)」など)、ポリパラフェニレンテレフタルアミドと3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体繊維(例えば、帝人(株)の「テクノーラ(登録商標)」など)などが例示できる。
第1の処理剤で処理するための未処理糸は、撚りが加えられていない原糸の状態であってもよく、原糸に撚りを加えた撚糸の状態(未処理撚糸コード)であってもよい。未処理撚糸コードは、フィラメントが撚り合わされているため、処理剤が内部のフィラメント間に侵入し難い性質を有している。そのため、未処理撚糸コードでは、通常、処理剤は、強固に内部のフィラメントに付着できずに、ゴムとの密着性が低下し易い。一方、原糸を処理剤で処理してから撚りを加えて撚糸を作製し、さらに処理剤で処理する方法があるが、ホツレや接着性は改善されるものの、原料繊維の柔軟性が損なわれて耐屈曲疲労性が低下し易い。また、撚糸前と後に処理工程を設けるため工程が複雑になる上に、原糸に処理液が付着すると粘着性が増して撚糸作業時の取り扱い性も低下する。これに対して、本発明では、処理剤の浸透性が優れているためか、撚糸コードであってもゴムとの密着性を向上できる。そのため、本発明では、伝動ベルト用心線の未処理糸が原糸、撚糸コードのいずれであっても優れた効果を発現するが、未処理撚糸コードである場合に、特に効果的である。
原料繊維を含む未処理撚糸コードは、原料繊維(特にパラ系アラミド繊維)を含むマルチフィラメント糸(原糸)に撚りを加えた未処理の撚糸コードであってもよい。本発明では、このような撚糸コードであっても、処理剤の撚糸コード(モノフィラメント間及び/又はマルチフィラメント間)への含浸性が優れているため、耐剥離性、耐ホツレ性、ゴムとの接着性を向上できる。
原糸において、マルチフィラメント糸は、パラ系アラミド繊維のモノフィラメント糸を含むのが好ましく、必要であれば、他の繊維(ポリエステル繊維など)のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。パラ系アラミド繊維の割合は、モノフィラメント糸全体(マルチフィラメント糸)に対して50質量%以上(特に80〜100質量%)であってもよく、通常、全モノフィラメント糸がパラ系アラミド繊維で構成されていてもよい。本発明では、特定の第1処理剤で未処理撚糸コードを処理するため、未処理撚糸コードがパラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸(パラ系アラミド繊維のモノフィラメント糸のみからなるマルチフィラメント糸)であっても伝動ベルト側面でのホツレを防止でき、かつ伝動ベルトの耐屈曲疲労性を向上できる。
マルチフィラメント糸は、複数のモノフィラメント糸を含んでいればよく、伝動ベルトの耐久性の点から、例えば100〜5000本、好ましくは300〜2000本、さらに好ましくは600〜1000本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。
モノフィラメント糸の平均繊度は、例えば0.8〜10dtex、好ましくは1〜5dtex、さらに好ましくは1.1〜1.7dtex程度であってもよい。
撚糸コードは、少なくとも1本の原糸を右撚り(S撚り)又は左撚り(Z撚り)した撚糸コード(片撚糸)であってもよいが、強度の点から、複数本の原糸を撚り合わせた撚糸コードが好ましい。
複数本の原糸を撚り合わせた撚糸コードは、複数の片撚糸を下撚り糸として上撚りした糸(例えば、諸撚糸、駒撚糸、ラング撚糸など)であってもよく、片撚糸と単糸とを下撚り糸として上撚りした撚糸(例えば、壁撚糸など)であってもよい。また、片撚り方向(下撚り方向)と上撚り方向とは、同一方向(ラング撚り)及び逆方向(諸撚り)のいずれであってもよい。これらのうち、撚り戻りの抑制や耐屈曲疲労性に優れる点から、複数の片撚糸を下撚り糸として上撚りした2段階に撚糸した撚糸コード(諸撚糸やラング撚糸)が特に好ましい。
これらの撚糸を構成する下撚り糸の数は、例えば、2〜5本、好ましくは2〜4本、さらに好ましくは2〜3本程度であってもよい。下撚りの撚り数は、例えば、20〜300回/m、好ましくは30〜200回/m、さらに好ましくは50〜180回/m程度であってもよい。下撚りにおいて、下記式(1)で表される撚り係数(T.F.)は、例えば0.01〜10程度の範囲から選択でき、諸撚糸では1〜6程度が好ましく、ラング撚糸では0.2〜2程度が好ましい。
撚り係数(T.F.)=[撚り数(回/m)×√トータル繊度(tex)]/960 (1)。
上撚りの撚り数は、特に制限されず、例えば、30〜200回/m、好ましくは40〜180回/m、さらに好ましくは50〜150回/m程度であってもよい。上撚りにおいて、式(1)で表される撚り係数(T.F.)は、例えば0.01〜10程度の範囲から選択でき、諸撚糸では1〜6程度が好ましく、ラング撚糸では2〜5程度が好ましい。
上撚りされた伝動ベルト用心線未処理撚糸の平均径は、例えば、0.2〜3.5mm、好ましくは0.4〜3mm、さらに好ましくは0.5〜2.5mm程度であってもよい。
複数本の原糸を撚り合わせた撚糸コードにおける撚り構成を(下撚り時の原糸引き揃え本数)×(上撚り時の下撚り糸引き揃え本数)で表す場合、1×2、1×3、1×5、2×3、2×5、3×5などの構成の撚糸コードであってもよい。
(第1処理剤)
第1処理剤(又は前処理剤)は、カルボキシル基含有ラテックス(カルボキシル変性ラテックス)を含むゴム成分(A1)及びブロック型ポリイソシアネートを含む硬化剤(A2)を含むゴム組成物(A)と親水性溶媒(B)とからなる。
(A1)ゴム成分
ゴム成分(A1)は、カルボキシル基含有ラテックス(カルボキシル基末端ラテックス)を含む。本発明では、ゴム成分としてカルボキシル基含有ラテックスを用いることにより、反応性のバインダー成分(エポキシ樹脂やレゾルシンとホルマリンとの縮合物など)を用いることなく、第1処理剤による被膜の強度を向上できるとともに、反応性のバインダー成分とは異なり、前記ラテックスの柔軟性により、耐屈曲疲労性も保持できる。
カルボキシル基含有ラテックスを構成するラテックス(ゴム成分)は、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBRラテックス)、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体ラテックス(Vpラテックス)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBRラテックス)、水素化ニトリルゴム(H−NBRラテックス)など]、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)など)、アクリル系ゴム、フッ素ゴム、シリコーン系ゴム、ウレタン系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、アルキルクロロスルホン化ポリエチレンゴム(ACSM)、オレフィン−ビニルエステル共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EAM)など)などが挙げられる。これらのラテックス(ゴム)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらのうち、ジエン系ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴムなどが汎用され、ゴムとの接着性に優れる点から、NBRラテックスが好ましく、レゾルシンとホルマリンとラテックスとを含む第2処理剤との接着性に優れる点から、Vpラテックスなどのビニルピリジン骨格を有するジエン系ゴムが好ましい。
NBRラテックスは、重合成分であるアクリロニトリル及びブタジエンに加えて、慣用の共重合成分[例えば、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、2−メチル−5−ビニルピリジンなどのビニル系化合物、イソプレン、メチルブタジエン、ペンタジエンなどのジエン系化合物など]を含んでいてもよい。NBRラテックスにおけるアクリロニトリル含量(中心値)は、例えば10〜50質量%、好ましくは20〜45質量%、さらに好ましくは30〜43質量%程度であってもよい。アクリロニトリル含量が少なすぎると、強度が低下する虞があり、アクリロニトリル含量が多すぎると、架橋が困難となり、耐久性が低下する虞がある。
ビニルピリジン骨格を有するジエン系ゴムとしては、ブタジエン及びビニルピリジンに加えて、慣用の共重合成分[スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステルなど]を含んでいてもよい。これらのうち、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体が汎用される。すなわち、ビニルピリジン−ブタジエン系共重合体としては、例えば、ブタジエン−ビニルピリジン共重合体、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体(Vpラテックス)などが汎用される。
これらのラテックスにカルボキシル基を導入する方法は、特に限定されないが、通常、エチレン性不飽和結合を有する不飽和カルボン酸を共重合させる方法が利用される。このような不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和多価カルボン酸;マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルなどの不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
ゴム成分は、カルボキシル基含有ラテックスに加えて、カルボキシル基で変性されていないカルボキシル基非含有ラテックスを含んでいてもよい。カルボキシル基非含有ラテックスとしては、カルボキシル基含有ラテックスを構成するラテックスとして例示されたラテックスなどが挙げられる。カルボキシル基非含有ラテックスの割合は、ゴム成分全体に対して、50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下(例えば0.1〜30質量%)、さらに好ましくは10質量%以下(例えば1〜10質量%)程度であってもよい。
カルボキシル基含有ラテックスの割合は、ゴム成分全体に対して、50質量%以上であってもよく、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であってもよく、ゴム成分がカルボキシル基含有ラテックス単独(100質量%)で形成されていてもよい。カルボキシル基含有ラテックスの割合が少なすぎると、第1処理剤による被膜の強度が低下する虞がある。
(A2)硬化剤
硬化剤(A2)は、ブロック型ポリイソシアネート(ブロックドポリイソシアネート)を含む。本発明では、硬化剤として、加熱によって、前記ラテックスのカルボキシル基と反応するブロック型ポリイソシアネートを用いることにより、反応性のバインダー成分と汎用の硬化剤との組み合わせとは異なり、浸漬処理中には前記ラテックスと硬化剤との反応による粘度上昇が抑制され、前記ラテックスが有する表面張力を低い状態に保持して、繊維(フィラメント)間に第1処理剤を充分に浸透できる。その後、浸漬処理後の熱処理により、ブロック型ポリイソシアネートのブロック剤が解離して、イソシアネート基が再生し、前記ラテックスのカルボキシル基と反応して繊維間を強固に接着できるため、接着処理した心線を埋設した伝動ベルトにおいて、心線とゴムとを引き剥がす力が作用する際に、繊維間の破壊や繊維の切断による剥離を防止できる。また、心線が撚糸コードである場合、カルボキシル基含有ラテックスとブロック型ポリイソシアネートとが反応して撚糸コードの外周に強固な被膜を形成するため、被膜の破壊による剥離を防止できる。さらに、心線とゴムとの剥離力(接着力)は、剥離状態がゴム部の破壊である場合に高く、繊維間の破壊や繊維の切断による剥離や、被膜の破壊による剥離であると、剥離力(接着力)が小さくなるが、本発明における第1処理剤を用いると、剥離状態がゴム部の破壊となり、心線とゴム組成物との接着性を向上できる。
ブロック型ポリイソシアネートとしては、慣用のブロック型ポリイソシアネートを利用できる。詳しくは、ブロック型ポリイソシアネートを構成するポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート[プロピレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)などの脂肪族ジイソシアネートや、1,6,11−ウンデカントリイソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネートなどの脂肪族トリイソシアネート]、脂環族ポリイソシアネート[シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート、水添ビス(イソシアナトフェニル)メタンなどの脂環族ジイソシアネートや、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどの脂環族トリイソシアネートなど]、芳香族ポリイソシアネート[フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ビス(イソシアナトフェニル)メタン(MDI)、トルイジンジイソシアネート(TODI)、1,3−ビス(イソシアナトフェニル)プロパンなどの芳香族ジイソシアネートなど]などが挙げられる。
これらのポリイソシアネートは、多量体(二量体や三量体、四量体など)、アダクト体、変性体(ビウレット変性体、アロハネート変性体、ウレア変性体など)などの誘導体や、複数のイソシアネート基を有するウレタンオリゴマーなどであってもよい。
ポリイソシアネートの変性体又は誘導体としては、例えば、ポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネートなど)と多価アルコール(トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールなど)とのアダクト体、前記ポリイソシアネートのビウレット体、前記ポリイソシアネートの多量体などを好ましく使用できる。外観や強度などの塗膜特性の点から、ポリイソシアネート(例えば、脂肪族ポリイソシアネート)の多量体(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体などのイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートなど)が特に好ましい。
これらのポリイソシアネートのうち、脂肪族ポリイソシアネート又はその誘導体(例えば、HDI又はその三量体など)、芳香族ポリイソシアネート(TDI、MDIなど)などが汎用される。
ブロック型ポリイソシアネートのブロック剤(保護剤)としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのC1−24モノアルコール類又はそのアルキレンオキサイド付加物(例えば、エチレンオキサイドなどのC2−4アルキレンオキサイド付加物);フェノール、クレゾール、レゾルシンなどのフェノール類;アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム類;ε−カプロラクタム、バレロラクタムなどのラクタム類;ジブチルアミン、エチレンイミンなどの第2級アミン類などが挙げられる。これらのブロック剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、オキシム類やラクタム類などが汎用される。
ブロック型ポリイソシアネートのイソシアネート基の含有率は、特に限定されないが、例えば1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%、さらに好ましくは5〜30重量%程度であってもよい。
ブロック型ポリイソシアネート解離温度は、第1処理剤での処理温度ではブロック剤が解離せず、処理後の熱処理により解離温度以上に加熱することで、ブロック剤が脱離してイソシアネート基が再生し、カルボキシル基含有ラテックスのカルボキシル基と反応できる温度であればよい。すなわち、ブロック型ポリイソシアネート解離温度は、第1処理剤での浸漬処理における温度(常温)を超え、かつ浸漬処理後の熱処理温度以下であればよく、例えば80〜220℃、好ましくは100〜200℃、さらに好ましくは120〜180℃程度であってもよい。ブロック型ポリイソシアネートの解離温度が低すぎると、伝動ベルト用心線の未処理糸を浸漬処理中にラテックスと反応して粘度上昇する虞があり、高すぎると、熱処理時により処理剤の被膜が劣化して接着力が低下する虞がある。
硬化剤(A2)は、ブロック型ポリイソシアネートに加えて、他の硬化剤を含んでいてもよい。他の硬化剤としては、ブロック剤で保護されていないポリイソシアネート(ブロック型ポリイソシアネートを構成するポリイソシアネートとして例示されたポリイソシアネートなど)、ポリオール類、ポリアミン類などが挙げられる。他の硬化剤の割合は、硬化剤(A2)全体に対して、50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下(例えば0.1〜30質量%)、さらに好ましくは10質量%以下(例えば1〜10質量%)程度であってもよい。
ブロック型ポリイソシアネートの割合は、硬化剤(A2)全体に対して、50質量%以上であってもよく、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、硬化剤(A2)がブロック型ポリイソシアネート単独(100質量%)で形成されていてもよい。ブロック型ポリイソシアネートの割合が少なすぎると、繊維間の強度が低下する虞がある。
(A)ゴム組成物
硬化剤(A2)(特にブロック型ポリイソシアネート)の割合は、ゴム成分(A1)(特にカルボキシル基含有ラテックス)100質量部に対して1〜500質量部程度の範囲から選択でき、例えば5〜200質量部、好ましくは10〜150質量部、さらに好ましくは15〜100質量部(特に15〜50質量部)程度であってもよい。硬化剤(A2)(特にブロック型ポリイソシアネート)の割合が少なすぎると、第1処理剤の被膜が柔軟となり、被膜破壊を起こし易くなる上に、第2処理剤又は第3処理剤と反応可能な未反応のイソシアネート基を残存させるのが困難となり、ゴムとの接着性が低下する虞があり、多すぎると、第1処理剤の被膜が剛直になり、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
ゴム組成物(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で樹脂成分(エポキシ樹脂やレゾルシンとホルマリンとの縮合物など)を含んでいてもよいが、繊維間を強固に接着でき、かつ耐屈曲疲労性も向上できる点から、実質的に樹脂成分を含まないのが好ましく、樹脂成分を全く含まないのが特に好ましい。
ゴム組成物(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば、有機溶媒(反応性希釈剤など)、硬化促進剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤、粘着付与剤、安定剤、カップリング剤、可塑剤、滑剤、着色剤などを含んでいてもよい。慣用の添加剤の割合は、第1処理剤全体に対して30質量%以下であってもよく、例えば0.01〜30質量%、好ましくは0.05〜20質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%程度であってもよい。
(B)親水性溶媒
本発明では、第1処理剤の溶媒が親水性溶媒(B)であるため、疎水性溶媒に比べて、環境に対する負荷が小さい。親水性溶媒(B)としては、例えば、水、低級脂肪族アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノールなどのC1−4アルキルアルコールなど)、アルキレングリコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなど)、ケトン類(アセトンなど)などが挙げられる。これらの親水性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、水を含む親水性溶媒が好ましく、水単独が特に好ましい。
第1処理剤中のゴム組成物(A)の割合は1〜50質量%程度の範囲から選択でき、例えば2〜30質量%、好ましくは3〜25質量%、さらに好ましくは5〜20質量%(特に10〜20質量%)程度であってもよい。耐ホツレ性を向上させるためには、撚糸内部の繊維(フィラメント)間に接着成分であるゴム組成物(A)を十分に浸透させる必要があるが、ゴム組成物(A)の割合が多すぎると、第1処理剤の撚糸内部への浸透性が低下する虞があり、少なすぎると、浸透性は十分であっても接着成分であるゴム組成物(A)が十分に付着しないため、接着力が低下する虞がある。
(処理方法)
第1処理剤の調製方法は、特に限定されず、例えば、一括して攪拌混合することにより調製してもよく、分割して攪拌混合することにより調製してもよい。
伝動ベルト用心線の未処理糸に第1処理剤を処理する方法としては、特に制限されず、例えば、噴霧、塗布、浸漬などが例示できる。これらの処理方法のうち、浸漬が汎用される。浸漬時間は、例えば1〜20秒、好ましくは2〜15秒程度であってもよい。
伝動ベルト用心線の未処理糸を第1処理剤で処理した後、必要に応じて乾燥してもよい。乾燥温度は、例えば100〜250℃、好ましくは130〜240℃、さらに好ましくは150〜230℃(特に180〜220℃)程度であってもよい。乾燥時間は、例えば、10秒〜30分、好ましくは30秒〜10分、さらに好ましくは1〜5分程度であってもよい。さらに、乾燥は、伝動ベルト用心線の未処理糸に対して張力を作用させて行ってもよい。張力は、例えば、5〜15N、好ましくは10〜15N程度であってもよい。張力の作用下で乾燥させると、伝動ベルト用心線の未処理糸に対して処理剤が馴染み易くなり、撚りムラを低減でき、撚りムラによって生じる撚糸の径のばらつきを小さくすることができる。
本発明では、伝動ベルト用心線の未処理糸に第1処理剤が適度な割合で付着して適度な厚みで被膜を形成しているため、相反する特性であるゴムに対する接着性と耐屈曲疲労性とを両立できる。すなわち、相反する両特性のバランスを調整するために、第1処理剤の付着量と被膜厚みとが適度にコントロールされている。具体的には、第1処理剤で処理した伝動ベルト用心線の未処理糸に付着した第1処理剤の付着率[(第1処理剤による処理後の質量−第1処理剤による処理前の質量)/第1処理剤による処理後の質量×100]は、例えば0.5〜10質量%程度の範囲から選択でき、例えば1〜7質量%、好ましくは2〜6.8質量%、さらに好ましくは3〜6.5質量%(特に4〜6質量%)程度であってもよい。第1処理剤の付着率が少なすぎると、ゴムに対する接着性が低下する虞があり、多すぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
第1処理剤により形成される被膜の平均厚みは、例えば0.001〜25μm(例えば、1〜22.5μm)程度の範囲から選択でき、例えば0.001〜20μm、好ましくは0.05〜18μm、さらに好ましくは0.1〜15μm(例えば0.5〜15μm)、特に1〜12μm(例えば、3〜12μm)程度であり、ゴムに対する接着性と、耐屈曲疲労性と、耐ホツレ性とを高度に両立できる点から、例えば3〜15μm(特に5〜10μm)程度であってもよい。厚みが薄すぎると、ゴムに対する接着性が低下する虞があり、厚すぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。本発明では、被膜の厚みは走査型電子顕微鏡を用いた方法により測定でき、詳細には後述する実施例に記載の方法で測定できる。
[第2処理工程]
第1処理剤で処理した第1処理糸は、そのまま伝動ベルト用心線として用いてもよいが、通常、さらに、レゾルシンとホルマリンとラテックスとを含む第2処理剤で処理してもよい。このような第2処理剤で処理する工程(第2処理工程)を経ることにより、伝動ベルト用心線と伝動ベルト本体との接着性をより一層向上できる。
第2処理剤(未加硫のゴム組成物又はRFL液)は、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とゴム又はラテックス(L)とを含んでいる。レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とは、これらの縮合物(RF縮合物)の形態で含まれていてもよい。特に、第1処理糸が撚糸コードである場合、第2処理剤は、第1処理剤の被膜の上に被膜を形成し、撚糸コードの集束性を向上するとともに、第1処理剤の熱処理による硬化反応で未反応の残存イソシアネート基と、第2処理剤のRFLに含まれる水酸基とが反応して、第1処理剤による被膜と強固に一体化できる。さらに、第2処理剤による被膜は、第3処理剤による被膜とも強固に接着して、第1から第3処理剤による被膜を強固に一体化できる。
RF縮合物としては、特に制限されず、例えば、ノボラック型、レゾール型、これらの組み合わせなどが例示できる。RF縮合物は、第1処理剤の未反応の残存イソシアネート基と反応し、かつ第1処理剤の表面で縮合物の被膜を形成できる点から、ノボラック型とレゾール型との組み合わせ(混合物)が好ましい。第1処理糸が撚糸コードである場合、ノボラック型とレゾール型とを組み合わせると、第1処理剤により撚糸コード内部の繊維間で第1処理剤の未反応の残存イソシアネート基とノボラック型RF縮合物とが反応するとともに、多くのレゾール型RF縮合物が撚糸の外周で架橋密度の高い強固なRFL被膜を形成できる。そのため、繊維間を接着させる変性ラテックス硬化物と、撚糸外周のRFL被膜とが、ノボラック型RF縮合物と未反応のイソシアネート基との反応により一体化した硬化物を形成でき、撚糸とゴムとの接着性や耐ホツレ性を向上できる。
RF縮合物は、例えば、水及び塩基触媒(水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属塩;アルカリ土類金属塩;アンモニアなど)の存在下、レゾルシンとホルムアルデヒドとを反応することにより得られる反応生成物(例えば、初期縮合物又はプレポリマー)であってもよい。なお、本発明の効果を阻害しない限り、レゾルシンと共に、フェノール、クレゾールなどの芳香族モノオールを併用してもよく、カテコール、ハイドロキノンなどの芳香族ジ又はポリオールを併用してもよい。また、ホルムアルデヒドとしては、ホルムアルデヒドの縮合体(例えば、トリオキサン、パラホルムアルデヒドなど)を使用してもよく、ホルムアルデヒドの水溶液(ホルマリンなど)を使用してもよい。
レゾルシンとホルムアルデヒドとの割合(使用割合)は、例えば、前者/後者(モル比)=1/0.1〜1/5程度の範囲から選択でき、レゾール型とノボラック型との混合物を生成する場合、両者のモル比は、例えば、前者/後者=1/0.3〜1/1、好ましくは1/0.4〜1/0.95、さらに好ましくは1/0.5〜1/0.9程度であってもよい。ホルムアルデヒドの割合が多すぎると、レゾール型RF縮合物の割合が多すぎるため、未反応イソシアネート基との反応が低下する虞があり、逆に少なすぎると、ノボラック型RF縮合物の割合が少なすぎるため、第2処理剤による被膜の強度が低下する虞がある。
ラテックスを構成するゴムとしては、アラミド心線に柔軟性を付与できる限り特に制限されず、例えば、ジエン系ゴム[例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、これらのジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム[例えば、エチレン−α−オレフィン系ゴム(エチレン−α−オレフィンエラストマー)、ポリオクテニレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど]、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、ウレタン系ゴム、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム、これらの組み合わせなどが例示できる。
なお、ラテックスを構成するゴムは、第1処理剤のラテックスの種類や、後述する第3処理剤のゴムの種類などに応じて適宜選択することもでき、例えば、これらのゴムと同じ又は同系統のゴムを好適に使用することもできる。
RF縮合物100質量部に対して、ラテックスの割合は、固形分換算で、40〜700質量部程度の範囲から選択でき、例えば45〜600質量部、好ましくは50〜500質量部、さらに好ましくは55〜400質量部程度であってもよい。
第2処理剤は、通常、水を含んでいる場合が多い。また、第2処理剤は、必要であれば、反応性のバインダー樹脂(エポキシ化合物など)や、第3処理剤の項で例示する添加剤(例えば、加硫剤、加硫促進剤、共加硫剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤など)を含んでいてもよい。
第2処理剤の全固形分濃度(RF縮合物の固形分質量とラテックスの固形分質量との合計質量を処理剤の質量で除した濃度)は、例えば0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%(例えば1〜11質量%)、さらに好ましくは1.5〜10質量%(特に2〜10質量%)程度であってもよい。このような割合とすることにより、第1処理糸に対する固形分付着量を適度な範囲に調整し、伝動ベルト用心線の特性を効率よく改善しやすい。
なお、第2処理剤による処理方法は、第1処理剤による処理方法と同様である。好ましい乾燥温度は150〜250℃(特に200〜240℃)程度であってもよい。
第1処理剤及び第2処理剤で処理した伝動ベルト用心線の第2処理糸に付着した第2処理剤の付着率[(第2処理剤による処理後の質量−第2処理剤による処理前の質量)/第2処理剤による処理後の質量×100]は、例えば0.1〜20質量%、好ましくは1〜3質量%程度であってもよい。
なお、第1処理剤の付着量と、第2処理剤の付着量との比率(質量比)は、固形分換算で、例えば、前者/後者=0.5/1〜20/1、好ましくは1/1〜10/1、さらに好ましくは2/1〜5/1(特に3/1〜4/1)程度であってもよい。
第2処理剤により形成される被膜の平均厚みは、例えば0.05〜30μm、好ましくは0.1〜5μm程度であってもよい。
[第3処理工程]
第2処理剤で処理した伝動ベルト用心線の第2処理糸は、ゴムを含む第3処理剤(未加硫のゴム組成物又はゴム糊)で処理してもよい。このような第3処理剤で処理する工程(第3処理工程)を経ることにより、第3処理剤による被膜が伝動ベルトのゴム部と強固に接着するため、伝動ベルト用心線(特にアラミド心線)と伝動ベルト本体(特に接着ゴム層)との接着性をより一層向上できる。
なお、前記第2処理工程を経ることなく、前記第1処理工程で処理された伝動ベルト用心線の第1処理糸を、ゴムを含む第3処理剤で処理してもよい。この場合、前述の第3処理剤による効果に加えて、第1処理剤における未反応の残存イソシアネート基と、第3処理剤に含まれる反応成分(アミン化合物、水酸基を有する化合物など)とが反応して、第1処理剤による被膜と強固に一体化できる。さらに、第2処理工程を経ることなく、前記接着性を向上できるため、簡便性(心線の生産性)に優れている。
ゴムとしては、第1処理剤又は第2処理剤に含有されるゴムの種類、伝動ベルトで心線(特にアラミド心線)を埋設するゴム層のゴムの種類などに応じて適宜選択でき、第2処理剤の項で例示したゴム、例えば、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー(又はエチレン−α−オレフィン系ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)など)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど)、ジエン系ゴム(例えば、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムなど)などが例示できる。これらのゴムは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
なお、ゴムとして、心線を埋設するゴムと同じ又は同系統のゴムを好適に使用することもできる。
第3処理剤は、ゴムに加えて、必要により、慣用の添加剤、例えば、加硫剤(又は架橋剤)、共加硫剤(又は共架橋剤)、加硫促進剤(又は架橋助剤)、加硫遅延剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、粘着付与剤、安定剤、カップリング剤、可塑剤、滑剤、着色剤、溶媒などを含んでいてもよい。添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。添加剤のうち、加硫剤、共加硫剤、加硫促進剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤、溶媒などが汎用される。
加硫剤は、硫黄系加硫剤と非硫黄系加硫剤とに分類できる。硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄(例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄など)、硫黄化合物(例えば、一塩化硫黄、二塩化硫黄などの塩化硫黄など)などが例示できる。
非硫黄系加硫剤としては、例えば、有機過酸化物[例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)など]、オキシム類[例えば、キノンジオキシムなど]、マレイミド類[例えば、ビスマレイミド、フェニルマレイミド、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドなど]、アリルエステル類[例えば、DAF(ジアリルフマレート)、DAP(ジアリルフタレート)、TAC(トリアリルシアヌレート)、TAIC(トリアリルイソシアヌレート)、TMAIC(トリメタリルイソシアヌレート)など]、(メタ)アクリレート類[例えば、メチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジ乃至テトラオールのジ乃至テトラ(メタ)アクリレートなど]などが例示できる。
加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.01〜20質量部、さらに好ましくは0.1〜15質量部(特に0.5〜10質量部)程度であってもよい。
共加硫剤としては、金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなどが例示できる。共加硫剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。共加硫剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば、30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(特に1〜10質量部)程度であってもよい。
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤(例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)など)、チアゾ−ル系促進剤(例えば、2−メルカプトベンゾチアゾ−ル又はその塩など)、スルフェンアミド系促進剤(例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなど)、ウレア系促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)、これらの組み合わせなどが例示できる。
加硫促進剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(例えば、1〜10質量部)程度であってもよい。
接着性改善剤としては、例えば、第2処理剤の項で例示したRF縮合物、メラミン類とアルデヒド類との縮合物(例えば、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、ヘキサC1−4アルコキシメチロールメラミンなど)、エポキシ化合物(例えば、アルカントリ乃至ヘキサオールポリグリシジルエーテル、ポリC2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル、C6−8ポリアルカントリ乃至テトラオールポリグリシジルエーテルなど)、イソシアネート化合物(例えば、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートなど)、これらの組み合わせなどが例示できる。なお、接着性改善剤は、市販の接着剤、例えば、ロード社製の「ケムロック402」などを使用してもよい。
接着性改善剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば50質量部以下、好ましくは0.1〜40質量部、さらに好ましくは0.5〜30質量部(特に1〜20質量部)程度であってもよい。
充填剤(補強剤も含む)としては、有機又は無機充填剤、例えば、粉粒状充填剤[例えば、カーボンブラック(例えば、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、GPF、SRFなどのファーネスブラックなど)、シリカ(乾式シリカ、湿式シリカ)、炭酸カルシウム、タルクなど]、繊維状充填剤[例えば、ポリアミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの短繊維など]、これらの組合せなどが例示できる。充填剤のうち、無機充填剤(例えば、カーボンブラック、シリカなどの粉粒状充填剤)が汎用される。
充填剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば1〜80質量部、好ましくは5〜70質量部、さらに好ましくは10〜60質量部程度であってもよい。
老化防止剤としては、例えば、アミン系老化防止剤[例えば、芳香族第2級アミン類(例えば、N−フェニル−1−ナフチルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジナフチル−p−フェニレンジアミンなど)、ケトン−アミン反応生成物(例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合物、アセトンとジフェニルアミンとの縮合物、アセトンとN−フェニル−2−ナフチルアミンとの縮合物など)など]、フェノール系老化防止剤[例えば、モノフェノール類(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなど)、ビスフェノール類(例えば、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)など]、これらの組み合わせなどが例示できる。
老化防止剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(特に1〜10質量部)程度であってもよい。
滑剤としては、例えば、高級飽和脂肪酸又はその塩(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩など)、ワックス、パラフィン、これらの組み合わせなどが例示できる。滑剤の割合は、ゴム100質量部に対して、例えば30質量部以下、好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部(特に1〜10質量部)程度であってもよい。
溶媒としては、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロアルカン類)、アルコール類(エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルカノール類)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、エステル類(例えば、酢酸エチルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどの鎖状ケトン、シクロヘキサノンなどの環状ケトン)、セロソルブ類、カルビトール類などが例示できる。溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用してもよい。
溶媒の割合は、ゴム1質量部に対して、例えば0.5〜50質量部、好ましくは1〜20質量部程度であってもよい。
代表的な第3処理剤としては、ゴムとRF縮合物と添加剤(例えば、加硫剤、共加硫剤、加硫促進剤、接着性改善剤、充填剤、老化防止剤、滑剤)とを含む組成物を溶媒に溶解させたゴム糊などが挙げられる。なお、ゴム糊に対するゴム濃度は、特に限定されず、例えば1〜20質量%、好ましくは2〜15質量%、さらに好ましくは3〜10質量%程度であってもよい。
なお、第3処理剤による処理方法も、第1処理剤による処理方法と同様である。好ましい乾燥温度は100〜250℃(特に150〜200℃)程度であってもよい。
第1処理剤と(必要に応じて第2処理剤と)第3処理剤とで処理した伝動ベルト用心線の第3処理糸に付着した第3処理剤の付着率[(第3処理剤による処理後の質量−第3処理剤による処理前の質量)/第3処理剤による処理後の質量×100]は、例えば1〜20質量%、好ましくは5〜15質量%程度であってもよい。
第3処理剤により形成される被膜の平均厚みは、特に制限されず、例えば、1〜20μm、好ましくは5〜15μm程度であってもよい。
<伝動ベルト用心線>
本発明の伝動ベルト用心線は、前記製造方法により、表面及び繊維間に樹脂成分が付与された伝動ベルト用心線であり、表面及び繊維間に、少なくとも前記カルボキシル基含有ラテックスとポリイソシアネートとの硬化物を含んでおり、さらに第2処理剤で処理されることにより、RFL液が未反応のイソシアネート基に反応した硬化物を含むのが好ましく、さらに第3処理剤で処理されることにより、硬化ゴムを含むのが特に好ましい。
本発明の心線は、伝動ベルト用途に適しており、通常、伝動ベルトのゴム層に埋設して利用される。なお、ゴム層は、伝動ベルトの用途等に応じて適宜選択でき、例えば、ラップドVベルトでは、アラミド心線を、ジエン系ゴム(天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴムなど)、オレフィン系ゴム(EPDMなど)などのゴム(又はその組成物)で形成されたゴム層に埋設してもよい。
伝動ベルト用心線は、前記の製造方法により得られるアラミド心線であってもよい。すなわち、伝動ベルト用アラミド心線は、第1処理剤で(さらに必要に応じて、第2処理剤又は第3処理剤、又は第2処理剤及び第3処理剤で)処理(例えば、被覆又は含浸)したアラミド系マルチフィラメント糸(例えば、撚糸)であってもよい。さらに、伝動ベルト用アラミド心線は、第1処理剤(さらに必要に応じて第2処理剤又は第3処理剤、又は第2処理剤および第3処理剤)で処理(例えば、被覆又は含浸)した後、加硫されたアラミド系マルチフィラメント糸であってもよい。
伝動ベルト用心線の平均径は、例えば、0.3〜3.6mm、好ましくは0.5〜3.1mm、さらに好ましくは0.6〜2.7mm程度であってもよい。
<伝動ベルト>
伝動ベルトは、前記伝動ベルト用心線を含んでいればよく、通常、ベルトの長手方向(又は周方向)に沿って、伝動ベルト用心線(特に複数の伝動ベルト用心線)を埋設したゴム層を備えた伝動ベルトである場合が多い。隣接する心線の間隔(スピニングピッチ)は、例えば、0.5〜4mm、好ましくは0.6〜2.5mm、さらに好ましくは0.7〜2.3mm程度であってもよい。
代表的には、伝動ベルトは、接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に圧縮ゴム層とを有し、接着ゴム層が伝動ベルト用心線を埋設する伝動ベルトであってもよい。なお、接着ゴム層の他方の面には伸張ゴム層を設けてもよい。また、伝動ベルトは、ゴム層からなるベルト本体の一部(例えば、伸張ゴム層及び/又は圧縮ゴム層の表面)又は全部を補強布で被覆(又は積層)していてもよい。
このような伝動ベルトとしては、ラップドVベルト、ローエッジVベルトなどのVベルト、Vリブドベルト、平ベルト、歯付ベルトなどが挙げられる。
図1は、本発明の伝動ベルトの一例であるVリブドベルトを示す概略断面図である。この例では、ベルトの長手方向に伝動ベルト用心線1を埋設した接着ゴム層2と、この接着ゴム層の一方の面(内周面)に形成された圧縮ゴム層3と、前記接着ゴム層の他方の面(外周面又は背面)に形成された伸張ゴム層4とを備えており、圧縮ゴム層3にV字状溝のリブ5が形成されている。圧縮ゴム層3には、伝動ベルトの耐側圧性を向上させるため、ポリアミド短繊維6が含有されている。なお、接着ゴム層2、圧縮ゴム層3及び伸張ゴム層4は、それぞれ、第3処理剤に含有する成分と同様の成分を含有するゴム組成物で形成されている場合が多い。また、伸張ゴム層4の背面には、織物、不織布、編物などで形成された補強布を積層してもよい。
図2は、本発明の伝動ベルトの他の例であるローエッジVベルトを示す概略断面図である。図2に示すベルトは、圧縮ゴム層3にリブ5が形成されていない点及び外周面から内周面に向かってベルト幅が小さくなる台形状である点を除き、図1と同様に構成されている。なお、圧縮ゴム層3には、ベルトの長手方向に沿って、複数のコグ(凸部)を所定の間隔をおいて形成してもよい。また、圧縮ゴム層3の面(内周面)及び伸張ゴム層4の面(外周面)には、織物、不織布、編物などで形成された補強布を積層してもよい。
これらの伝動ベルトは、円筒状の成形ドラムに、圧縮ゴム層用シートと第1接着ゴム層用シートとを順次巻き付け、この上に伝動ベルト用心線を螺旋状にスピニングし、さらに、第2接着ゴム層用シートと伸張ゴム層用シートとを順次巻き付けて積層体を形成し、この積層体を加硫して加硫ベルトスリーブを作製し、この円筒状の加硫ベルトスリーブを周方向に切断して形成される。この切断の際、周方向に配列又は配向した伝動ベルト用心線も切断され、伝動ベルト用心線が伝動ベルトの側面(切断面)に露出する。伝動ベルト用心線が伝動ベルトの側面に露出していると、心線の糸が解れ易くなり、伝動ベルトの側面から解れた糸を起点として、伝動ベルト用心線が伝動ベルトの側面から突出するポップアウトが生じ、ポップアウトした伝動ベルト用心線が回転するプーリの軸に巻き付いて伝動ベルトが破断するおそれがある。しかし、図1及び図2に示す伝動ベルトでは、接着ゴム層に特定の処理剤で処理された伝動ベルト用心線を埋設しており、伝動ベルト用心線のフィラメント同士の結束性が高いため、伝動ベルトの側面で伝動ベルト用心線が解れることがなく、伝動ベルト用心線のポップアウトを有効に防止でき、伝動ベルトの耐久性を著しく向上できる。
伝動ベルトは、前記Vリブドベルト及びローエッジVベルトに限定されず、歯付ベルト、平ベルトなどにも利用できる。
<伝動ベルトの製造方法>
伝動ベルトは、慣用の方法、例えば、一対の未加硫ゴムシート(未加硫の積層ゴムシートを含む)の間に、特定の処理剤で処理した伝動ベルト用心線を挟持させた円筒状の積層体を加硫して伝動ベルト前駆体(加硫ベルトスリーブ)を作製し、この円筒状の伝動ベルト前駆体を周方向にカッティングすることにより作製できる。このようにカッティングしても、伝動ベルトの側面において、伝動ベルト用心線の毛羽立ちやホツレが生成しない。なお、一対の未加硫ゴムシートは、同一又は異なって、第3処理剤の項で例示した成分を含むゴム組成物で形成されている場合が多い。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[原料]
(第1処理剤)
(A1)ゴム成分
カルボキシル変性NBRラテックス(COOH変性NBR):日本ゼオン(株)製「Nipol 1571CL」
カルボキシル変性Vpラテックス(COOH変性Vp):日本ゼオン(株)製「Nipol LX603」
未変性NBRラテックス(未変性NBR):日本ゼオン(株)製「Nipol 1562」
未変性Vpラテックス(未変性Vp):日本ゼオン(株)製「Nipol 2518FS」
(A2)硬化剤
ブロック型ポリイソシアネート(解離温度180℃)(ブロック180硬化剤):第一工業製薬(株)製「エラストロンBN−27」
ブロック型ポリイソシアネート(解離温度120℃)(ブロック120硬化剤):第一工業製薬(株)製「エラストロンBN−69」
非ブロック型ポリイソシアネート(非ブロック硬化剤):ポリメリックMDI、東ソー(株)製「MR−200」
(A3)樹脂成分
エポキシ化合物:ナガセケムテックス(株)製「デナコールEX521」
RF縮合物:表1に示す第2処理剤と同一のRF縮合物。
(第2処理剤)
NBRラテックス:日本ゼオン(株)製「Nipol 1562」
(第3処理剤)
クロロプレンゴム:電気化学工業(株)製「PM−40」
シリカ:東ソー・シリカ(株)製「Nipsil VN3」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストS」
ナフテン系オイル:日本サン石油(株)製「SUNTHENE410」
架橋剤(イソシアネート化合物):ポリメリックMDI、東ソー(株)製「MR−200」。
(接着ゴム層用ゴム組成物)
加硫促進剤:テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
レゾルシン・ホルマリン縮合物:レゾルシノール20%未満、ホルマリン0.1%未満のレゾルシン・ホルマリン縮合物。
[アラミド繊維コードの作製]
1100dtex(フィラメント数667本)の未処理のアラミド繊維(帝人(株)製「テクノーラ(登録商標)T−2000」)からなる無撚りでリボン状に引き揃えたアラミド繊維フィラメントの束(アラミド繊維単糸という)2本を、下撚り数を70〜80回/mで下撚り(S撚り)し、この下撚り糸を3本束ね、上撚り数を130〜150回/mで下撚りと反対方向に上撚り(Z撚り)し、アラミド繊維コードを作製した。
[処理剤]
(第1処理剤)
表4に示す第1処理剤の成分及び水を混合し、室温で10分攪拌し、各種第1処理剤(処理液)を作製した。
(第2処理剤)
表1に第2処理剤(RFL)の構成成分を示す。まず、水にレゾルシンを加えて室温で30分間攪拌して溶解させた後、37質量%ホルマリン及び水酸化ナトリウムを加えて、さらに室温で30分間攪拌して反応させ、A液を得た。
次に、ラテックスを水で希釈してB液とし、攪拌しながらA液を加えて混合した。この混合液を、25℃で6日間熟成して第2処理剤(RFL液)を作製した。
(第3処理剤)
表2に示すゴム組成物と架橋剤とを、固形分濃度6質量%でトルエンに溶解して第3処理剤(ゴム糊)を作製した。
[第1処理剤が形成する被膜の厚み(表4中の被膜厚み)]
第1処理剤で処理したアラミド繊維の撚糸コード(アラミド撚糸コード)の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、任意の10点の被膜の厚みを測定し、平均値を求めた。
[第1処理剤の付着率(表4中の付着率)]
第1処理剤に浸漬処理及び熱処理したアラミド撚糸コードの処理前後の質量を測定し、次式で算出した。
第1処理剤で処理した撚糸コードの付着率(wt%)=[(第1処理剤で処理後の撚糸コードの質量−処理前の撚糸コードの質量)/第1処理剤で処理後の撚糸コードの質量]×100。
[第1処理剤が形成する被膜の10%伸び時の引張応力(表4中の引張応力)]
各第1処理剤を平板上に塗布、熱処理して乾燥塗膜を形成し、所定の試験片(幅約5mm、長さ約50mm)に調整して、引張試験を行い、10%伸張時の引張応力を測定した。
[剥離試験(剥離性)]
表3に示す接着ゴム層用ゴム組成物の未加硫ゴムシート(厚み4mm)の上に、アラミド心線を、幅が25mmとなるように複数本平行に並べ(繊維間隔0.1mm)、プレス板で2.0MPaの圧力をかけ、160℃で30分間加硫して、剥離試験用の短冊試料(幅25mm×長さ150mm×厚み4mm)を作製した。そして、JIS K6256(1999)に従って、引張速度50mm/分で剥離試験を行い、心線と接着ゴムとの接着力(加硫接着力)を室温雰囲気下で測定した。
[剥離面の破壊状態]
剥離試験を行った試料の剥離面を目視で観察し、以下の基準で判定した。
○(ゴム破壊):心線とゴムとが剥離する際にゴムが破壊し、心線表面にゴムがほとんど付着した状態で、剥離力が高い
△(部分ゴム破壊):部分的にゴム破壊し、心線表面にゴムが部分的に付着した状態で、剥離力はゴム破壊よりやや低くなる
×(界面剥離):心線とゴムとが剥離する際に被膜が破壊して剥離し、心線表面にゴムがほとんど付着していない状態で、剥離力がかなり低い。
[屈曲疲労試験(強度保持率)]
アラミド心線の耐屈曲疲労性を評価するため、次の方法で平ベルトを作製した。まず、表3に示す接着ゴム層用ゴム組成物で形成された厚み0.5mmの未加硫ゴムシートを円筒状の金型に巻き付け、この上にアラミド心線をスパイラル状に巻き付け、さらにこの上に表3に示す接着ゴム層用ゴム組成物で形成された厚み0.5mmの未加硫ゴムシートを巻き付け、このゴムシートにジャケットを被せて加熱することよって加硫し、加硫ゴムスリーブを作製した。アラミド心線が2本埋設され、かつカットした側面にアラミド心線が露出しないように加硫ゴムスリーブを周方向にカッターでカットし、幅3mm、長さ50cm、厚み1.5mmの試験片(平ベルト)を作製した。
得られた試験片21を、図3に示すように、上下に配置した一対の円柱形の回転バー(直径30mm)22a,22bに屈曲させて巻き掛け、試験片21の一端をフレーム23に固定すると共に、試験片21の他端に2kgの荷重24を作用させ、一対の回転バー22a,22bを相対距離を一定に保ったまま、上下方向に30万回往復(ストローク:100mm、サイクル:100回/分)させることによって、回転バー22a,22bへの試験片21の巻き付け・巻き戻しを繰り返し、屈曲疲労させた。オートグラフ((株)島津製作所製「AGS−J10kN」)を用いて、屈曲後の試験片を引張速度50mm/分の条件で引張り、試験片の破断時の強力を測定した。一方、屈曲前の試験片の破断時の強力を予め測定しておき、下記式に基づいて強力保持率を算出し、下記基準で評価した。
強力保持率(%)=(屈曲後の強力/屈曲前の強力)×100
(評価基準)
◎:強力保持率50%以上
○:強力保持率40%以上50%未満
△:強力保持率30%以上40%未満
×:強力保持率30%未満。
[耐ホツレ性]
Vリブドベルトについて、カッターで周方向(ベルト長さ方向)に切断したベルト側面において露出しているアラミド心線のホツレの状態を評価した。すなわち、図1に示すように、接着ゴム層2と、この接着ゴム層の内周面に形成された圧縮ゴム層3と、前記接着ゴム層の外周面に形成された伸張ゴム層4とを備えたVリブドベルトにおいて、前記接着ゴム層2に埋設されたアラミド心線を切断により露出させ、アラミド心線のホツレの状態を以下の基準で評価した。なお、評価が「△」以上の場合を、製品として許容レベルとして良好と判定した。
○:ベルトカット時に端面にホツレがない
△:ベルトカット時に端面に軽微なホツレがある(フィラメントは集束しており、拡がらない程度)
×:ベルトカット時に端面にホツレがある(フィラメント単位でばらけて、花が咲くように拡がる)。
特に、評価「△」については、主に摩擦などの外因によるホツレであり、製品として許容できるレベルであるとする。一方、評価「×」については、処理コードの内因によるホツレであり、製品として許容できない。なお、内因とは、アラミド繊維が処理コード中で潜在的にもっている撚糸や延伸などの後加工による歪に対する復元力に、処理による繊維間の拘束力が劣ることを意味する。
[実施例1〜11及び13〜18及び比較例1〜4]
アラミド繊維コード(アラミド撚糸コード)を、表4に示す各種第1処理剤に10秒間浸漬処理し、200℃、2分間の条件で乾燥処理した。
第1処理剤で処理したアラミド撚糸コードを、第2処理剤に10秒間浸漬処理し、230℃で2分間の条件で乾燥処理した。
第2処理剤で処理したアラミド撚糸コードを、第3処理液に2秒間浸漬処理し、175℃、1分間の条件で乾燥処理した。第3処理剤によるこの浸漬・乾燥処理を3回繰り返すことによりアラミド心線を得た。
[実施例12]
第1処理剤で処理したアラミド撚糸コードを、第2処理剤で処理することなく、第3処理剤で処理すること以外は実施例2と同様にしてアラミド心線を得た。
得られたアラミド心線のそれぞれについて、剥離試験及び屈曲疲労試験を行った。結果を表4に示す。
表4の結果から明らかなように、実施例の中では、第1処理剤の被膜厚みと付着率とが比較的小さい実施例8は、剥離力がやや低かった。また、実施例2及び6〜9の結果から、第1処理剤の固形分(ゴム組成物)濃度が高くなると、被膜厚みと付着率が高くなる傾向が見られた。
実施例での剥離面の破壊状態は、いずれも「ゴム破壊」を示し、剥離力が高く、被膜の引張応力は1〜10N/mm2の範囲であった。一方、剥離状態が「部分ゴム破壊」や「界面剥離」で、剥離力の低い比較例1〜4は、被膜の引張応力が1N/mm2以下であった。以上から、剥離状態と被膜の引張応力とには相関があり、被膜の引張応力が高いと「ゴム破壊」が起こり易く、低いと「界面剥離」になり易い傾向があり、少なくとも被膜の引張応力が1N/mm2であれば「ゴム破壊」を示した。
実施例1〜5の結果から、被膜の引張応力は、第1処理剤中の硬化剤の割合が多いと高くなる傾向が見られた。一方、比較例1〜4の処理剤は、被膜が充分硬化しない構成であるため、被膜の引張応力が低くなったと推定できる。
実施例1〜11及び実施例13〜18が、第1〜3処理剤の3浴処理であるのに対し、第1及び第3処理剤の2浴処理である実施例12も、剥離力、耐屈曲疲労性、耐ホツレ性を同時に満足することができた。
ラテックスがカルボキシル基で変性されていない比較例1及び2は、実施例に比べると剥離力と耐ホツレ性が低かった。この理由は、ブロック型ポリイソシアネートを添加しても硬化反応が十分ではなく、繊維間接着性や処理剤被膜の強度が低いためであると推定できる。
ブロック型でないポリイソシアネートを添加した比較例3は、実施例に比べると剥離力と耐ホツレ性がかなり低かった。この理由は、ラテックスとポリイソシアネートとが浸漬処理中に反応してしまい、処理剤が繊維間に浸透しにくくなるとともに、浸漬処理後の熱処理において反応するイソシアネート基の残存量が少なかったためと推定できる。
硬化剤を含まない比較例4も硬化反応が起こらないため、剥離力と耐ホツレ性がかなり低かった。
樹脂成分(エポキシ化合物)を含む実施例17では、剥離力と耐ホツレ性が他の実施例と同等であったが、樹脂成分を含まない実施例2と比較して、耐屈曲疲労性が若干低下した。この理由は、樹脂成分により被膜が剛直になったためと考えられる。
第1処理剤にRF縮合物を含む実施例18では、樹脂成分としてエポキシ化合物を含む実施例17と同様に、剥離力と耐ホツレ性は他の実施例と同等であったが、樹脂成分を含まない実施例2と比較して、耐屈曲疲労性が若干低下した。この理由は、実施例17と同様の理由であると考えられる。
このように、比較例に対し、実施例は、剥離力(ゴムとの接着)と耐屈曲疲労性とが高いレベルで両立できていた。