以下、更に詳しく、本発明の実施の形態にかかるプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料について説明をする。
本発明は、サイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなるプリプレグであって、前記サイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含み、前記サイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を、X線源としてAlKα
1,2を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度15°で測定されるC
1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)が0.50〜0.90であり、前記熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(D)、潜在性硬化剤(E)、下記一般式(1)で表される構造を有する、および前記エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子(F)
(式(1)中、R
1、R
2は、炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン元素を表わし、それぞれ同一でも異なっていても良い。式中R
3は、炭素数1から20のアルキレン基を表わす)を含むことを特徴とする。
まず、本発明のプリプレグで使用するサイジング剤について説明する。本発明にかかるサイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)として芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む。
本発明者らの知見によれば、かかる範囲のものは、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面接着性に優れるとともに、そのサイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合にもプリプレグを長期保管した場合の経時変化が小さく、複合材料用の炭素繊維に好適なものである。
本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維に塗布した際、サイジング層内側(炭素繊維側)に脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在することで、炭素繊維とエポキシ化合物(A)とが強固に相互作用を行い、接着性を高めるとともに、サイジング層表層(マトリックス樹脂側)には芳香族エポキシ化合物(B1)を含む芳香族化合物(B)を多く存在させることで、内層にあるエポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂との反応を阻害しながら、サイジング剤表層(マトリックス樹脂側)にはマトリックス樹脂と強い相互作用が可能な化学組成として、所定割合のエポキシ基を含む芳香族エポキシ化合物(B1)および脂肪族エポキシ化合物(A)が所定の割合で存在するため、マトリックス樹脂との接着性も向上するものである。
サイジング剤が、芳香族エポキシ化合物(B1)のみからなり、脂肪族エポキシ化合物(A)を含まない場合、サイジング剤とマトリックス樹脂との反応性が低く、プリプレグを長期保管した場合の力学特性変化が小さいという利点がある。また、剛直な界面層を形成することができるという利点もある。しかしながら、芳香族エポキシ化合物(B1)はその化合物の剛直さに由来して、脂肪族エポキシ化合物(A)と比較して、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が若干劣ることが確認されている。
また、サイジング剤が、脂肪族エポキシ化合物(A)のみからなる場合、該サイジング剤を塗布した炭素繊維はマトリックス樹脂との接着性が高いことが確認されている。そのメカニズムは確かではないが、脂肪族エポキシ化合物(A)は柔軟な骨格および自由度が高い構造に由来して、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基との官能基と脂肪族エポキシ化合物が強い相互作用を形成することが可能であると考えられる。しかしながら、脂肪族エポキシ化合物(A)は、炭素繊維表面との相互作用により高い接着性を発現する一方、マトリックス樹脂中の硬化剤に代表される官能基を有する化合物との反応性が高く、プリプレグの状態で長期間保管すると、マトリックス樹脂とサイジング剤の相互作用により界面層の構造が変化し、そのプリプレグから得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性が低下する課題があることが確認されている。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)を混合した場合、より極性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い芳香族化合物(B)が偏在しやすいという現象が見られる。このサイジング層の傾斜構造の結果として、脂肪族エポキシ化合物(A)は炭素繊維近傍で炭素繊維と強い相互作用を有することで炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を高めることができる。また、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグにした場合には、外層に多く存在する芳香族化合物(B)は、脂肪族エポキシ化合物(A)をマトリックス樹脂から遮断する役割を果たす。このことにより、脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂中の反応性の高い成分との反応が抑制されるため、長期保管時の安定性が発現される。なお、脂肪族エポキシ化合物(A)を芳香族化合物(B)でほぼ完全に覆う場合には、サイジング剤とマトリックス樹脂との相互作用が小さくなり接着性が低下してしまうため、サイジング剤表面の脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)の存在比率が重要である。
本発明に係るサイジング剤は、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、脂肪族エポキシ化合物(A)を35〜65質量%、芳香族化合物(B)を35〜60質量%少なくとも含むことが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することにより、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が向上する。また、65質量%以下とすることで、プリプレグを長期保管した場合にも、その後炭素繊維強化複合材料に成形した際の力学特性が良好になる。脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、38質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、脂肪族エポキシ化合物(A)の配合量は、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。
本発明のサイジング剤において、芳香族化合物(B)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、35質量%以上配合することで、サイジング剤の外層中の芳香族化合物(B)の組成を高く維持することができるため、プリプレグの長期保管時に反応性の高い脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂中の反応性化合物との反応による力学特性低下が抑制される。また、60質量%以下とすることで、サイジング剤中の傾斜構造を発現することができ、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を維持することができる。芳香族化合物(B)の配合量は、37質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。また、芳香族化合物(B)の配合量は、55質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。
本発明におけるサイジング剤には、エポキシ成分として、脂肪族エポキシ化合物(A)に加えて、芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)が含まれる。脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)との質量比(A)/(B1)は、52/48〜80/20であることが好ましい。(A)/(B1)を52/48以上とすることにより、炭素繊維表面に存在する脂肪族エポキシ化合物(A)の比率が大きくなり、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。その結果、得られた炭素繊維強化複合材料の引張強度などの力学特性が高くなる。また、(A)/(B1)を80/20以下とすることにより、反応性の高い脂肪族エポキシ化合物(B)が炭素繊維表面に存在する量が少なくなり、マトリックス樹脂との反応性が抑制できるため好ましい。(A)/(B1)の質量比は55/45以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましい。また、(A)/(B1)の質量比は75/35以下がより好ましく、73/37以下がさらに好ましい。
本発明における脂肪族エポキシ化合物(A)は、芳香環を含まないエポキシ化合物である。自由度の高い柔軟な骨格を有していることから、炭素繊維と強い相互作用を有することが可能である。その結果、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が向上する。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は分子内に1個以上のエポキシ基を有する。そのことにより、炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合を形成することができる。分子内のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りのエポキシ基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性をさらに向上することができる。エポキシ基の数の上限は特にないが、接着性の観点からは10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が、分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量は、360g/eq.未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq.未満であり、さらに好ましくは180g/eq.未満である。脂肪族エポキシ化合物(A)のエポキシ当量が360g/eq.未満であると、高密度で炭素繊維との相互作用が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ポリオールとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。たとえば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である。また、このグリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
本発明に使用する脂肪族エポキシ化合物(A)として、これらのエポキシ化合物以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
本発明にかかる脂肪族エポキシ化合物(A)は、1個以上のエポキシ基と、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を有することが好ましい。脂肪族エポキシ化合物(A)が有する官能基の具体例として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えて水酸基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(商標登録)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ウレタン変性エポキシ化合物が挙げられ、具体的には“アデカレジン(商標登録)”EPU−78−13S、EPU−6、EPU−11、EPU−15、EPU−16A、EPU−16N、EPU−17T−6、EPU−1348およびEPU−1395(ADEKA(株)製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する脂肪族エポキシ化合物(A)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシ化合物は脂肪族ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物(A)は、上述した中でも高い接着性の観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましい。
上記の中でも本発明における脂肪族エポキシ化合物(A)は、高い接着性の観点から、分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物が好ましい。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
本発明において、芳香族化合物(B)は、分子内に芳香環を1個以上有する。芳香環とは、炭素のみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維近傍のいわゆる界面層は、炭素繊維あるいはサイジング剤の影響を受け、マトリックス樹脂とは異なる特性を有する場合がある。サイジング剤が芳香環を1個以上有する芳香族化合物(B)を含むと、剛直な界面層が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の応力伝達能力が向上し、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性が向上する。また、芳香環の疎水性により、脂肪族エポキシ化合物(A)に比べて炭素繊維との相互作用が弱くなるため、炭素繊維との相互作用により炭素繊維側に脂肪族エポキシ化合物(A)が多く存在し、サイジング層外層に芳香族化合物(B)が多く存在する結果となる。これにより、サイジング層外層に局在する芳香族化合物(B)が脂肪族エポキシ化合物(A)とマトリックス樹脂との反応を抑制するため、本発明にかかるサイジング剤を塗布した炭素繊維をプリプレグに用いた場合、長期間保管した場合の経時変化を抑制することができ好ましい。芳香族化合物(B)として、芳香環を2個以上有するものを選択することで、プリプレグとした際の長期安定性をより向上することができる。芳香環の数の上限は特にないが、10個あれば力学特性およびマトリックス樹脂との反応の抑制の観点から十分である。
本発明において、芳香族化合物(B)は分子内に1種以上の官能基を有することができる。また、芳香族化合物(B)は、1種類であっても良いし、複数の化合物を組み合わせて用いても良い。芳香族化合物(B)は、分子内に1個以上のエポキシ基と1個以上の芳香環を有する芳香族エポキシ化合物(B1)とを少なくとも含むものである。エポキシ基以外の官能基は水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基またはスルホ基から選択されるものが好ましく、1分子内に2種以上の官能基を含んでいても良い。芳香族化合物(B)は、芳香族エポキシ化合物(B1)以外には、化合物の安定性、高次加工性を良好にすることから、芳香族エステル化合物、芳香族ウレタン化合物が好ましく用いられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。また、10個以下であることが好ましい。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。芳香族エポキシ化合物(B1)が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。芳香族エポキシ化合物(B1)が、分子内に3個以上のエポキシ基または1個のエポキシ基と他の官能基を2個以上有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ当量は、360g/eq.未満であることが好ましく、より好ましくは270g/eq.未満であり、さらに好ましくは180g/eq.未満である。芳香族エポキシ化合物(B1)のエポキシ当量が360g/eq.未満であると、高密度で共有結合が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/eq.以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)の具体例としては、例えば、芳香族ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有する芳香族アミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、芳香族ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する芳香族化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジンのほか、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。
さらに、例えば、グリシジルアミン型エポキシ化合物として、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
本発明に使用する芳香族エポキシ化合物(B1)として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、1個以上のエポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を好ましく用いられる。例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシ化合物は芳香環を含有するジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてイミド基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的には“デナコール(商標登録)”EX−731(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の芳香環を含有する多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシ化合物はジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有する芳香環を含有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
エポキシ基に加えてスルホ基を有する芳香族エポキシ化合物(B1)としては、例えば、p−トルエンスルホン酸グリシジルおよび3−ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、またはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのいずれかであることが好ましい。これらのエポキシ化合物は、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、かつ、2個以上の芳香環を有しており、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることに加え、炭素繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性を向上させる。芳香族エポキシ化合物(B1)は、より好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ化合物およびクレゾールノボラック型エポキシ化合物である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(B1)がフェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがプリプレグを長期保管した場合の安定性、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性の観点から好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがより好ましい。
さらに、本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)以外の成分を1種類以上含んでも良い。炭素繊維とサイジング剤との接着性を高める接着性促進成分、サイジング剤塗布炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与する材料を配合することで取り扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高め、マトリックス樹脂の含浸性を向上させることができる。本発明において、プリプレグでの長期安定性を向上させる目的で、(A)および(B1)以外の化合物を含有することができる。また、サイジング剤の安定性を目的として、分散剤および界面活性剤等の補助成分を添加しても良い。
本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族エポキシ化合物(B1)以外に、分子内にエポキシ基を持たないエステル化合物(C)を配合することができる。本発明にかかるサイジング剤は、エステル化合物(C)を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、2〜35質量%配合することができる。15〜30質量%であることがより好ましい。エステル化合物(C)を配合することで、収束性が向上し、取り扱い性が向上すると同時に、マトリックス樹脂とサイジング剤との反応によるプリプレグを長期保管したときの力学特性の低下を抑制することができる。エステル化合物(C)は、芳香環を持たない脂肪族エステル化合物でも良いし、芳香環を分子内に1個以上有する芳香族エステル化合物でも良い。なお、エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いた場合には、芳香族エステル化合物(C1)は、分子内にエポキシ化合物を持たないエステル化合物(C)に含まれるのと同時に、本発明において芳香族化合物(B)に含まれる。かかる場合、芳香族化合物(B)の全てが、芳香族エステル化合物(C1)となることはなく、芳香族化合物(B)は、芳香族エポキシ化合物(B1)と芳香族エステル化合物(C1)とにより構成される。エステル化合物(C)として芳香族エステル化合物(C1)を用いると、サイジング剤塗布炭素繊維の取り扱い性が向上すると同時に、芳香族エステル化合物(C1)は、炭素繊維との相互作用が弱いため、マトリックス樹脂の外層に存在することとなり、プリプレグの長期保管時の力学特性低下の抑制効果が高くなる。また、芳香族エステル化合物(C1)は、エステル基以外にも、エポキシ基以外の官能基、たとえば、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、およびスルホ基を有していてもよい。芳香族エステル化合物(C1)として、具体的にはビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合物からなるエステル化合物を用いるのが好ましい。不飽和二塩基酸としては、酸無水物低級アルキルエステルを含み、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などが好ましく使用される。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物としてはビスフェノールのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物、ブチレンオキシド付加物などが好ましく使用される。上記縮合物のうち、好ましくはフマル酸またはマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキシドまたは/およびプロピレンオキシド付加物との縮合物が使用される。
ビスフェノール類へのアルキレンオキシドの付加方法は限定されず、公知の方法を用いることができる。上記の不飽和二塩基酸には、必要により、その一部に飽和二塩基酸や少量の一塩基酸を接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることができる。また、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物には、通常のグリコール、ポリエーテルグリコールおよび少量の多価アルコール、一価アルコールなどを、接着性等の特性が損なわれない範囲で加えることもできる。ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物と不飽和二塩基酸との縮合法は、公知の方法を用いることができる。
また、本発明にかかるサイジング剤は、炭素繊維とサイジング剤成分中のエポキシ化合物との接着性を高める目的で、接着性を促進する成分である3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を配合することができる。発明にかかるサイジング剤は、該化合物を、溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、0.1〜25質量%配合することが好ましい。2〜8質量%がより好ましい。
脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)に、接着性促進成分として3級アミン化合物および/または3級アミン塩、カチオン部位を有する4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩および/またはホスフィン化合物から選択される少なくとも1種の化合物を併用したサイジング剤は、該サイジング剤を炭素繊維に塗布し、特定の条件で熱処理した場合、炭素繊維との接着性がさらに向上する。そのメカニズムは確かではないが、まず、該化合物が本発明で用いられる炭素繊維のカルボキシル基および水酸基等の酸素含有官能基に作用し、これらの官能基に含まれる水素イオンを引き抜きアニオン化した後、このアニオン化した官能基と脂肪族エポキシ化合物(A)または芳香族エポキシ化合物(B1)成分に含まれるエポキシ基が求核反応するものと考えられる。これにより、本発明で用いられる炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合が形成され、接着性が向上するものと推定される。
接着性促進成分の具体的な例としては、N−ベンジルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩であることが好ましく、特に1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)およびその塩、または、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(DBN)およびその塩が好適である。
上記のDBU塩としては、具体的には、DBUのフェノール塩(U−CAT SA1、サンアプロ(株)製)、DBUのオクチル酸塩(U−CAT SA102、サンアプロ(株)製)、DBUのp−トルエンスルホン酸塩(U−CAT SA506、サンアプロ(株)製)、DBUのギ酸塩(U−CAT SA603、サンアプロ(株)製)、DBUのオルソフタル酸塩(U−CAT SA810)、およびDBUのフェノールノボラック樹脂塩(U−CAT SA810、SA831、SA841、SA851、881、サンアプロ(株)製)などが挙げられる。
本発明において、サイジング剤に配合する接着性促進成分としては、トリブチルアミンまたはN,N−ジメチルベンジルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミンであることが好ましく、特にトリイソプロピルアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロピルエチルアミンが好適である。
上記以外にも、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。また、本発明の効果に影響しない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、および不飽和ポリエステル化合物等を添加してもよい。
次に、本発明で使用する炭素繊維について説明する。本発明において使用する炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
本発明にかかる炭素繊維は、得られた炭素繊維束のストランド強度が、3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上であり、さらに好ましくは5GPa以上である。また、得られた炭素繊維束のストランド弾性率が、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは240GPa以上であり、さらに好ましくは280GPa以上である。ストランド強度およびストランド弾性率を上記の範囲とすることにより、耐衝撃性に優れ、高い剛性および機械強度を有する炭素繊維強化複合材料が得られる。
本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業(株)製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
本発明において用いられる炭素繊維は、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmであることが好ましい。より好ましくは15〜80nmであり、30〜60nmが好適である。表面粗さ(Ra)が6.0〜60nmである炭素繊維は、表面に高活性なエッジ部分を有するため、前述したサイジング剤のエポキシ基等との反応性が向上し、界面接着性を向上することができ好ましい。また、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmである炭素繊維は、表面に凹凸を有しているため、サイジング剤のアンカー効果によって界面接着性を向上することができ好ましい。
炭素繊維の表面粗さ(Ra)を前述の範囲に制御するためには、後述する紡糸方法として湿式紡糸方法が好ましく用いられる。また、炭素繊維の表面粗さ(Ra)は、紡糸工程での凝固液の種類(例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤の水溶液、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液)及び濃度および凝固液温度、凝固糸の引取速度および延伸比、さらに耐炎化、前炭化、炭化それぞれの工程での延伸比を組み合わせることによって制御することもできる。さらに電解処理を組み合わせることにより、所定の炭素繊維の表面粗さ(Ra)に制御することもできる。
炭素繊維の表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いることにより測定することができる。例えば、炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測すればよい。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムなどが使用可能であり、以下の観測条件で観測することができる。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中
また、各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、平均粗さ(Ra)を算出し、単繊維5本について、平均粗さ(Ra)を求め、平均値を評価することが好ましい。
本発明において炭素繊維の総繊度は、400〜3000テックスであることが好ましい。また、炭素繊維のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本であり、さらに好ましくは3000〜50000本である。
本発明において、炭素繊維の単繊維径は4.5〜7.5μmが好ましい。7.5μm以下であることで、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるため、好ましく用いられる。6μm以下であることがより好ましく、さらには5.5μm以下であることが好ましい。4.5μm以上で工程における単繊維切断が起きにくくなり生産性が低下しにくく好ましい。
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.05〜0.50の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.06〜0.30の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.07〜0.25の範囲内のものである。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、マトリックス樹脂との強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち、光電子脱出角度90°で測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面のカルボキシル基(COOH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が、0.003〜0.015の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面のカルボキシル基濃度(COOH/C)のより好ましい範囲は、0.004〜0.010である。また、本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面の水酸基(OH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面水酸基濃度(COH/C)が、0.001〜0.050の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面の表面水酸基濃度(COH/C)は、より好ましくは0.010〜0.040の範囲である。
炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、水酸基濃度(COH/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。
表面水酸基濃度COH/Cは、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04mol/Lの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rが求められる。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表される。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02mol/Lの3弗化エタノール気体、0.001mol/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04mol/Lのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mが求められる。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
本発明に用いられる炭素繊維としては、表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上50mJ/m2以下のものであることが好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上であることで、脂肪族エポキシ化合物(A)がより炭素繊維表面に近づくことで接着性が向上し、サイジング層が偏在化した構造を有するため好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が50mJ/m2以下であることで、炭素繊維間の収束性が大きくなるためにマトリックス樹脂との含浸性が良好になるため、炭素繊維強化複合材料として用いた場合に用途展開が広がり好ましい。
炭素繊維表面の表面自由エネルギーの極性成分は、より好ましくは15mJ/m2以上45mJ/m2以下であり、最も好ましくは25mJ/m2以上40mJ/m2以下である。炭素繊維の表面自由エネルギーの極性成分は、炭素繊維を水、エチレングリコール、燐酸トリクレゾールの各液体において、ウィルヘルミ法によって測定される各接触角をもとに、オーエンスの近似式を用いて算出した表面自由エネルギーの極性成分である。
本発明に用いられる脂肪族エポキシ化合物(A)は表面自由エネルギーの極性成分が9mJ/m2以上、50mJ/m2以下のものであれば良い。また、芳香族エポキシ化合物(B1)は表面自由エネルギーの極性成分が0mJ/m2以上、9mJ/m2未満のものであれば良い。
脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)の表面自由エネルギーの極性成分は、脂肪族エポキシ化合物(A)または芳香族エポキシ化合物(B1)のみからなる溶液中に炭素繊維束を浸漬して引き上げた後、120〜150℃で10分間乾燥後、上述の通り、水、エチレングリコール、燐酸トリクレゾールの各液体において、ウィルヘルミ法によって測定される各接触角をもとに、オーエンスの近似式を用いて算出した表面自由エネルギーの極性成分である。
本発明において、炭素繊維の表面自由エネルギーの極性成分ECFと脂肪族エポキシ化合物(A)、芳香族エポキシ化合物(B1)の表面自由エネルギーの極性成分EA、EB1がECF≧EA>EB1を満たすことが好ましい。
次に、PAN系炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。
炭素繊維とマトリックス樹脂であるエポキシ樹脂(D)との接着性をさらに向上するために、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmの炭素繊維が好ましく、該表面粗さの炭素繊維を得るためには、湿式紡糸方法により前駆体繊維を紡糸することが好ましい。
紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。溶剤としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を使用する。ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドが溶剤として好適である。
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中、あるいは空気中に吐出した後、紡糸浴中で凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理ならびに炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
得られた炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、これにより、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられるが、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性の観点からアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤を塗布することがより好ましい。
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。電解液の濃度が0.01mol/L以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5mol/L以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃未満であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m2当たり1.5〜1000A/m2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500A/m2の範囲内である。電流密度が1.5A/m2以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000A/m2以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法またはスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは260℃以下、さらに好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下で乾燥することが好ましい。
次に、上述した炭素繊維にサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維について説明する。本発明にかかるサイジング剤は、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族化合物(B)である芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含み、それ以外の成分を含んでも良い。
本発明において、炭素繊維へのサイジング剤の塗布方法としては、溶媒に、脂肪族エポキシ化合物(A)および芳香族エポキシ化合物(B1)を少なくとも含む芳香族化合物(B)、ならびにその他の成分を同時に溶解または分散したサイジング液を用いて、1回で塗布する方法や、各化合物(A)、(B1)、(B)やその他の成分を任意に選択し個別に溶媒に溶解または分散したサイジング液を用い、複数回において炭素繊維に塗布する方法が好ましく用いられる。本発明においては、サイジング剤の構成成分をすべて含むサイジング液を、炭素繊維に1回で塗布する1段付与を採用することが効果および処理のしやすさからより好ましく用いられる。
本発明にかかるサイジング剤は、サイジング剤成分を溶媒で希釈したサイジング液として用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドが挙げられるが、なかでも、取り扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、界面活性剤で乳化させた水分散液あるいは水溶液が好ましく用いられる。
サイジング液は、芳香族化合物(B)を少なくとも含む成分を界面活性剤で乳化させることで水エマルジョン液を作成し、脂肪族エポキシ化合物(A)を少なくとも含む溶液を混合して調整することが好ましい。この時に、脂肪族エポキシ化合物(A)が水溶性の場合には、あらかじめ水に溶解して水溶液にしておき、芳香族化合物(B)を少なくとも含む水エマルジョンと混合する方法が、乳化安定性の点から好ましく用いられる。また、脂肪族エポキシ化合物(A)と芳香族化合物(B)およびその他の成分を界面活性剤で乳化させた水分散剤を用いることが、サイジング剤の長期安定性の点から好ましく用いることができる。
サイジング液におけるサイジング剤の濃度は、通常は0.2質量%〜20質量%の範囲が好ましい。
サイジング剤の炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラを介してサイジング液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング液の付着したローラに炭素繊維を接する方法、サイジング液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
サイジング液を炭素繊維に塗布する際のサイジング液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤の濃度変動を抑えるため、10〜50℃の範囲であることが好ましい。また、サイジング液を付与した後に、余剰のサイジング液を絞り取る絞り量を調整することにより、サイジング剤の付着量の調整および炭素繊維内への均一付与ができる。
炭素繊維にサイジング剤を塗布した後、160〜260℃の温度範囲で30〜600秒間熱処理することが好ましい。熱処理条件は、好ましくは170〜250℃の温度範囲で30〜500秒間であり、より好ましくは180〜240℃の温度範囲で30〜300秒間である。熱処理条件が、160℃未満および/または30秒未満であると、サイジング剤の脂肪族エポキシ化合物(A)と炭素繊維表面の酸素含有官能基との間の相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となったり、溶媒を十分に乾燥除去できない場合がある。一方、熱処理条件が、260℃を超えるおよび/または600秒を超える場合、サイジング剤の分解および揮発が起きて、炭素繊維との相互作用が促進されず、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が不十分となる場合がある。
また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。マイクロ波照射および/または赤外線照射によりサイジング剤塗布炭素繊維を加熱処理した場合、マイクロ波が炭素繊維内部に侵入し、吸収されることにより、短時間に被加熱物である炭素繊維を所望の温度に加熱できる。また、マイクロ波照射および/または赤外線照射により、炭素繊維内部の加熱も速やかに行うことができるため、炭素繊維束の内側と外側の温度差を小さくすることができ、サイジング剤の接着ムラを小さくすることが可能となる。
上記のようにして製造した、本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、サイジング剤を塗布した炭素繊維のサイジング剤表面をX線源としてAlKα1,2を用い、光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90であることを特徴とする。本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、この(a)/(b)が、特定の範囲、すなわち、0.50〜0.90である場合に、マトリックス樹脂との接着性に優れ、かつプリプレグの状態で長期保管したときも力学特性低下が少ないことを見出してなされたものである。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が、好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、比率(a)/(b)が、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.74以下である。(a)/(b)が大きいということは、表面に芳香族由来の化合物が多く、脂肪族由来の化合物が少ないことを示す。
X線光電子分光の測定法とは、超高真空中で試料の炭素繊維にX線を照射し、炭素繊維の表面から放出される光電子の運動エネルギーをエネルギーアナライザーとよばれる装置で測定する分析手法のことである。この試料の炭素繊維表面から放出される光電子の運動エネルギーを調べることにより、試料の炭素繊維に入射したX線のエネルギー値から換算される結合エネルギーが一意的に求まり、その結合エネルギーと光電子強度から、試料の最表面(〜nm)に存在する元素の種類と濃度、その化学状態を解析することができる。
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定が行われる。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせる。このときに、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求められる。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVのピークの高さ(cps)を求め、(a)/(b)が算出される。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を400eVのX線を用いたX線光電子分光法によって光電子脱出角度55°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)より求められる(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことが好ましい。
(I)超音波処理前のサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(II)サイジング剤塗布炭素繊維をアセトン溶媒中で超音波処理することで、サイジング剤付着量を0.09〜0.20質量%まで洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維の表面の(a)/(b)の値
(III)0.50≦(I)≦0.90かつ0.60<(II)/(I)<1.0
超音波処理前のサイジング剤塗布炭素繊維表面の(a)/(b)値である(I)が上記範囲に入ることは、サイジング剤の表面に芳香族由来の化合物が多く、脂肪族由来の化合物が少ないことを示す。超音波処理前の(a)/(b)値である(I)は好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、超音波処理前の(a)/(b)値である(I)が、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.74以下である。
超音波処理前後のサイジング剤塗布炭素繊維表面の(a)/(b)値の比である(II)/(I)が上記範囲に入ることは、サイジング剤表面に比べて、サイジング剤の内層に脂肪族由来の化合物の割合が多いことを示す。(II)/(I)は好ましくは0.65以上である。また、(II)/(I)は0.85以下であることが好ましい。
(I)および(II)の値が、(III)の関係を満たすことで、マトリックス樹脂との接着性に優れ、かつプリプレグの状態で長期保管したときも力学特性低下が少ないため好ましい。
本発明において、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は350〜550g/eq.であることが好ましい。エポキシ当量が550g/eq.以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。また、炭素繊維に塗布されたエポキシ当量が350g/eq.以上であることで、プリプレグに該サイジング剤塗布炭素繊維を用いた場合に、プリプレグに用いているマトリックス樹脂成分とサイジング剤との反応を抑制することができるため、プリプレグを長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の力学特性が良好になるため好ましい。塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は360g/eq.以上が好ましく、380g/eq.以上がより好ましい。また、塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、530g/eq.以下が好ましく、500g/eq.以下がより好ましい。塗布されたサイジング剤のエポキシ当量を上記範囲とするためには、エポキシ当量180〜470g/eq.のサイジング剤を塗布することが好ましい。313g/eq.以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。また、222g/eq.以上であることで、プリプレグに該サイジング剤塗布炭素繊維を用いた場合に、プリプレグに用いている樹脂成分とサイジング剤との反応を抑制することができるため、プリプレグを長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の力学特性が良好になる。
本発明におけるサイジング剤のエポキシ当量は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。エポキシ当量は220g/eq.以上が好ましく、240g/eq.以上がより好ましい。また、310g/eq.以下が好ましく、280g/eq.以下がより好ましい。また、本発明における炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、サイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。なお、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、塗布に用いるサイジング剤のエポキシ当量および塗布後の乾燥での熱履歴などにより、制御することができる。
本発明において、サイジング剤の炭素繊維への付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.1〜10.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量部の範囲である。サイジング剤の付着量が0.1質量部以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグ化および製織する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、炭素繊維シートの平滑性などの品位が優れる。一方、サイジング剤の付着量が10.0質量部以下であると、サイジング剤塗布炭素繊維の周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる炭素繊維強化複合材料においてボイド生成が抑えられ、炭素繊維強化複合材料の品位が優れ、同時に力学特性が優れる。
サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維を約2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定し、質量変化量を加熱処理前の質量で除した値(質量%)とする。
本発明において、炭素繊維に塗布され乾燥されたサイジング剤層の厚さは、2.0〜20nmの範囲内で、かつ、厚さの最大値が最小値の2倍を超えないことが好ましい。このような厚さの均一なサイジング剤層により、安定して大きな接着性向上効果が得られ、さらには、安定した高次加工性が得られる。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.05〜5.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜2.0質量部の範囲である。さらに好ましくは0.3〜1.0質量部である。脂肪族エポキシ化合物(A)の付着量が0.05質量部以上であると、炭素繊維表面に脂肪族エポキシ化合物(A)でサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上するため好ましい。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法では、表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上50mJ/m2以下の炭素繊維にサイジング剤を塗布することが好ましい。表面自由エネルギーの極性成分が8mJ/m2以上であることで脂肪族エポキシ化合物(A)がより炭素繊維表面に近づくことで接着性が向上し、サイジング層が偏在化した構造を有するため好ましい。50mJ/m2以下で、炭素繊維間の収束性が大きくなるためにマトリックス樹脂との含浸性が良好になるため、炭素繊維強化複合材料として用いた場合に用途展開が広がり好ましい。該炭素繊維表面の表面自由エネルギーの極性成分は、より好ましくは15mJ/m2以上45mJ/m2以下であり、最も好ましくは25mJ/m2以上40mJ/m2以下である。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、例えば、トウ、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド等の形態で用いられる。特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、炭素繊維が一方向に引き揃えたトウが最も適しており、さらに、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂組成物を含浸したプリプレグが好ましく用いられる。
次に、本発明におけるプリプレグで使用する熱硬化性樹脂組成物について説明する。
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(D)、潜在性硬化剤(E)、下記一般式(1)で表される構造を有する、および前記エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子(F)
(式(1)中、R
1、R
2は、炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン元素を表わし、それぞれ同一でも異なっていても良い。式中R
3は、炭素数1から20のアルキレン基を表わす)を含む。
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、とくに、エポキシ樹脂(D)を含む。
エポキシ樹脂(D)に用いるエポキシ化合物としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノール型エポキシ化合物、アミン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、レゾルシノール型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、イソシアネート変性エポキシ化合物、テトラフェニルエタン型エポキシ化合物、トリフェニルメタン型エポキシ化合物などの中から1種以上を選択して用いることができる。
ここで、ビスフェノール型エポキシ化合物とは、ビスフェノール化合物の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものであり、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、もしくはこれらビスフェノールのハロゲン、アルキル置換体、水添品等が挙げられる。また、単量体に限らず、複数の繰り返し単位を有する高分子量体も好適に使用することができる。
ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、“jER(登録商標)”505、5050、5051、5054、5057(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、ST5100(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールF型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”806、807、4002P、4004P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830、835(以上、DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001、YDF2004(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。テトラメチルビスフェノールF型エポキシ化合物としては、YSLV−80XY(新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールS型エポキシ化合物としては、“エピクロン(登録商標)”EXA−154(DIC(株)製)などが挙げられる。
また、アミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホン、テトラグリシジルジアミノジフェニルエーテル、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキノール置換体、水添品などが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、MY721、MY725(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、ELM120(以上、住友化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600、MY0610(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)などが挙げられる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品の市販品としては、“TETRAD(登録商標)”−X、“TETRAD(登録商標)”−C(以上、三菱ガス化学(株)製)などが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルスルホンの市販品としては、TG4DAS、TG3DAS(三井化学ファイン(株)製)などが挙げられる。
フェノールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N−740、N−770、N−775(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
クレゾールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、N−665、N−670、N−673、N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
レゾルシノール型エポキシ化合物の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
グリシジルアニリン型エポキシ化合物の市販品としては、GANやGOT(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000H、YX4000、YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200L(エポキシ当量245〜250、軟化点54〜58)、“エピクロン(登録商標)”HP7200(エポキシ当量255〜260、軟化点59〜63)、“エピクロン(登録商標)”HP7200H(エポキシ当量275〜280、軟化点80〜85)、“エピクロン(登録商標)”HP7200HH(エポキシ当量275〜280、軟化点87〜92)(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、XD−1000−L(エポキシ当量240〜255、軟化点60〜70)、XD−1000−2L(エポキシ当量235〜250、軟化点53〜63)(以上、日本化薬(株)製)、“Tactix(登録商標)”556(エポキシ当量215〜235、軟化点79℃)(Vantico Inc社製)などが挙げられる。
イソシアネート変性エポキシ化合物の市販品としては、オキサゾリドン環を有するXAC4151、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)やACR1348(ADEKA(株)製)などが挙げられる。
テトラフェニルエタン型エポキシ化合物の市販品としては、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン型エポキシ化合物である“jER(登録商標)”1031(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
トリフェニルメタン型エポキシ化合物の市販品としては、“タクチックス(登録商標)”742(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
これらエポキシ化合物の中でも、多官能のグリシジルアミン型エポキシ化合物を少なくとも含有するエポキシ樹脂(D)が好ましい。かかるエポキシ樹脂(D)は、多架橋密度が高く、炭素繊維強化複合材料の耐熱性および圧縮強度を向上させることができるためである。
多官能のグリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾール、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリンおよびN,N−ジグリシジル−4−(4‐フェノキシフェノキシ)アニリン等が挙げられる。これらの化合物は、多くの場合、フェノキシアニリン誘導体にエピクロロヒドリンを付加し、アルカリ化合物により環化して得られる。分子量の増加に伴い粘度が増加していくため、取り扱い性の点から、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリンが特に好ましく用いられる。
フェノキシアニリン誘導体としては、具体的には、4−フェノキシアニリン、4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、4−(3−メチルフェノキシ)アニリン、4−(2−メチルフェノキシ)アニリン、4−(4−エチルフェノキシ)アニリン、4−(3−エチルフェノキシ)アニリン、4−(2−エチルフェノキシ)アニリン、4−(4−プロピルフェノキシ)アニリン、4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリン、4−(4−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(3−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(2−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(4−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(2−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−[4−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[3−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[2−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−(2−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−(1−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−[(1,1’−ビフェニル−4−イル)オキシ]アニリン、4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(3−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2−ニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−アミノフェニルフェニルエーテル、2−ニトロ−4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−フェノキシアニリン、4−(2−クロロフェノキシ)アニリン、4−(3−クロロフェノキシ)アニリン、4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジクロロフェノキシ)アニリン、3−クロロ−4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、および4−(4−クロロ−3−トリルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
多官能のグリシジルアミン型エポキシ化合物として、上述した中でもグリシジルアミン骨格を少なくとも1つ有し、かつ3個以上のエポキシ基を有する芳香族エポキシ化合物であることが好ましい。
多官能のグリシジルアミン型芳香族エポキシ化合物は耐熱性を高める効果があり、その割合は、エポキシ樹脂(D)中に30〜100質量%含まれていることが好ましく、より好ましい割合は50質量%以上である。グリシジルアミン型エポキシ化合物の割合が30質量%以上で、炭素繊維強化複合材料の圧縮強度が向上、耐熱性が良好になるため好ましい。
これらのエポキシ化合物を用いる場合、必要に応じて酸や塩基などの触媒を添加してよい。例えば、エポキシ樹脂(D)の硬化には、ハロゲン化ホウ素錯体、p−トルエンスルホン酸塩などのルイス酸などが好ましく用いられる。
本発明で用いられる熱硬化性樹脂組成物としては、エポキシ樹脂(D)に加えて、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成する熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂および熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられ、これらの変性体および2種類以上ブレンドした樹脂なども用いることができる。また、これらの熱硬化性樹脂は、加熱により自己硬化するものであっても良いし、硬化剤や硬化促進剤などを配合するものであっても良い。
不飽和ポリエステル樹脂としては、α,β−不飽和ジカルボン酸を含む酸成分とアルコールとを反応させて得られる不飽和ポリエステルを、重合性不飽和単量体に溶解したものが挙げられる。α,β−不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等及びこれらの酸無水物等の誘導体等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。また、必要に応じてα,β−不飽和ジカルボン酸以外の酸成分としてフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和ジカルボン酸及びこれらの酸無水物等の誘導体をα,β−不飽和ジカルボン酸と併用してもよい。
アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族グリコール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド(1〜100mol)付加物、キシレングリコール等の芳香族ジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール等が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。
不飽和ポリエステル樹脂の具体例としては、例えば、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのエチレンオキサイド(以下、EOと略す)付加物との縮合物、フマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのプロピレンオキサイド(以下、POと略す。)付加物との縮合物及びフマル酸又はマレイン酸とビスフェノールAのEO及びPO付加物(EO及びPOの付加は、ランダムでもブロックでもよい)との縮合物等が含まれ、これらの縮合物は必要に応じてスチレン等のモノマーに溶解したものでもよい。不飽和ポリエステル樹脂の市販品としては、“ユピカ(登録商標)”(日本ユピカ(株)製)、“リゴラック(登録商標)”(昭和電工(株)製)、“ポリセット(登録商標)”(日立化成工業(株)製)等が挙げられる。
ビニルエステル樹脂としては、前記エポキシ化合物とα,β−不飽和モノカルボン酸とをエステル化させることで得られるエポキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。α,β−不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、チグリン酸及び桂皮酸等が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。ビニルエステル樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ化合物(メタ)アクリレート変性物(ビスフェノールA型エポキシ化合物のエポキシ基と(メタ)アクリル酸のカルボキシル基とが反応して得られる末端(メタ)アクリレート変性樹脂等)等が含まれ、これらの変性物は必要に応じてスチレン等のモノマーに溶解したものでもよい。ビニルエステル樹脂の市販品としては、“ディックライト(登録商標)”(DIC(株)製)、“ネオポール(登録商標)”(日本ユピカ(株)製)、“リポキシ(登録商標)”(昭和高分子(株)製)等が挙げられる。
ベンゾオキサジン樹脂としては、o−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、m−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、p−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−メチルアミン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−シクロヘキシルアミン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−m−トルイジン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−3,5−ジメチルアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA−アミン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールF−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールS−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ジヒドロキシジフェニルスルホン−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ジヒドロキシジフェニルエーテル−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾフェノン型ベンゾオキサジン樹脂、ビフェニル型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールAF−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA−メチルアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−ジアミノジフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、トリフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、およびフェノールフタレイン型ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。ベンゾオキサジン樹脂の市販品としては、BF−BXZ、BS−BXZ、BA−BXZ(以上、小西化学工業(株)製)等が挙げられる。
フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、t−ブチルフェノール、ノニルフェノール、カシュー油、リグニン、レゾルシン及びカテコール等のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びフルフラール等のアルデヒド類との縮合により得られる樹脂が挙げられ、ノボラック樹脂やレゾール樹脂等が挙げられる。ノボラック樹脂は、シュウ酸等の酸触媒存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はフェノール過剰の条件で反応させることで得られる。レゾール樹脂は、水酸化ナトリウム、アンモニア又は有機アミン等の塩基触媒の存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを同量又はホルムアルデヒド過剰の条件で反応させることにより得られる。フェノール樹脂の市販品としては、“スミライトレジン(登録商標)”(住友ベークライト(株)製)、レヂトップ(群栄化学工業(株)製)、“AVライト(登録商標)”(旭有機材工業(株)製)等が挙げられる。
尿素樹脂としては、尿素とホルムアルデヒドとの縮合によって得られる樹脂が挙げられる。尿素樹脂の市販品としては、UA−144(サンベーク(株)製)等が挙げられる。
メラミン樹脂としては、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合により得られる樹脂が挙げられる。メラミン樹脂の市販品としては、“ニカラック(登録商標)”(三和ケミカル(株)製)等が挙げられる。
熱硬化性ポリイミド樹脂としては、少なくとも主構造にイミド環を含み、かつ末端又は主鎖内にフェニルエチニル基、ナジイミド基、マレイミド基、アセチレン基等から選ばれるいずれか一つ以上を含む樹脂が挙げられる。ポリイミド樹脂の市販品としては、PETI−330(宇部興産(株)製)等が挙げられる。
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、潜在性硬化剤(E)を配合して用いる。ここで説明される潜在性硬化剤は、本発明で使用する熱硬化性樹脂の硬化剤であって、温度をかけることで活性化して熱硬化性樹脂の反応基、たとえば、エポキシ基等と反応する硬化剤であり、70℃以上で反応が活性化することが好ましい。ここで、70℃で活性化するとは、反応開始温度が70℃の範囲にあることをいう。かかる反応開始温度(以下、活性化温度という)は例えば、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、具体的には、エポキシ当量184〜194程度のビスフェノールA型エポキシ化合物100質量部に評価対象の硬化剤10質量部を加えたエポキシ樹脂組成物について、示差走査熱量分析により得られる発熱曲線の変曲点の接線とベースラインの接線の交点から求められる。
潜在性硬化剤(E)は、芳香族アミン硬化剤、ジシアンジアミドまたはその誘導体であることが好ましい。芳香族アミン硬化剤としては、エポキシ樹脂硬化剤として用いられる芳香族アミン類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、3,3’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−10)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールの2−エチルヘキサン酸エステル等を使用することができる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
芳香族アミン硬化剤の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA−220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’−DAS(三井化学(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DEA、M−DIPA、M−MIPAおよび“Lonzacure(登録商標)”DETDA80(以上、Lonza(株)製)などが挙げられる。
ジシアンジアミド誘導体またはその誘導体とは、アミノ基、イミノ基およびシアノ基の少なくとも一つを用いて反応させた化合物であり、例えば、o−トリルビグアニド、ジフェニルビグアニドや、ジシアンジアミドのアミノ基、イミノ基またはシアノ基に熱硬化性樹脂組成物に用いるエポキシ化合物のエポキシ基を予備反応させたものである。ジシアンジアミドの市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
上記の硬化剤以外の硬化剤としては、脂環式アミンなどのアミン、フェノール化合物、酸無水物、ポリアミノアミド、有機酸ヒドラジド、イソシアネートを芳香族アミン硬化剤に併用して用いてもよい。
本発明にかかるプリプレグにおいて、使用するサイジング剤と潜在性硬化剤(E)との組み合わせとしては、次に示す組み合わせが好ましい。潜在性硬化剤(E)のアミン当量とサイジング剤のエポキシ当量との比率であるアミン当量/エポキシ当量が0.9となるように、サイジング剤と潜在性硬化剤(E)とを混合し、混合直後と、温度25℃、60%RHの環境下で20日保管した場合の、混合物のガラス転移点を測定する。20日経時後のガラス転移点の上昇が25℃以下である、サイジング剤と潜在性硬化剤(E)とを組み合わせて使用することが好ましい。ガラス転移点の上昇が25℃以下であることで、プリプレグにしたときに、サイジング剤外層とマトリックス樹脂中の反応が抑制され、プリプレグを長期間保管した後の炭素繊維強化複合材料の引張強度等の力学特性低下が抑制されるため好ましい。またガラス転移点の上昇が15℃以下であることがより好ましい。10℃以下であることがさらに好ましい。なお、ガラス転移点は、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。
また、潜在性硬化剤(E)の総量は、エポキシ樹脂(D)成分のエポキシ基1当量に対し、活性水素基が0.6〜1.2当量の範囲となる量を含むことが好ましく、より好ましくは0.7〜0.9当量の範囲となる量を含むことである。ここで、活性水素基とは、硬化剤成分のエポキシ基と反応しうる官能基を意味し、活性水素基が0.6当量に満たない場合は、硬化物の反応率、耐熱性、弾性率が不足し、また、炭素繊維強化複合材料のガラス転移温度や強度が不足する場合がある。また、活性水素基が1.2当量を超える場合は、硬化物の反応率、ガラス転移温度、弾性率は十分であるが、塑性変形能力が不足するため、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性や層間靱性が不足する場合がある。
また、硬化を促進させることを目的に、硬化促進剤を配合することもできる。
硬化促進剤としては、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾールとその塩、トリフェニルホスフィンまたはその誘導体、カルボン酸金属塩や、ルイス酸類やブレンステッド酸類とその塩類などが挙げられる。中でも、長期保管安定性と触媒能力のバランスから、ウレア化合物が好適に用いられる。特に、ウレア化合物と潜在性硬化剤(E)のジシアンジアミドとの組合せが好適に用いられる。
ウレア化合物としては、例えば、N,N‐ジメチル‐N’‐(3,4‐ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’‐メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3‐フェニル‐1,1‐ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上、Emerald Performance Materials,LLC製)などが挙げられる。
ウレア化合物の配合量は、熱硬化性樹脂成分100質量部に対して1〜4質量部とすることが好ましい。かかるウレア化合物の配合量が1質量部に満たない場合は、反応が十分に進行せず、硬化物の弾性率と耐熱性が不足することがある。また、かかるウレア化合物の配合量が4質量部を超える場合は、熱硬化性樹脂の自己重合反応が、熱硬化性樹脂と硬化剤との反応を阻害するため、硬化物の靭性が不足することや、弾性率が低下することがある。
また、これらエポキシ樹脂(D)と潜在性硬化剤(E)、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を熱硬化性樹脂組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や長期保管安定性向上に有効な場合がある。
次に、下記一般式(1)で表される構造を有する、エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子(F)
(式(1)中、R
1、R
2は、炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン元素を表わし、それぞれ同一でも異なっていても良い。式中R
3は、炭素数1から20のアルキレン基を表わす)について説明する。
本発明において、エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子(F)の粒子は、上記の一般式(1)で表される構造を有する、ポリアミド樹脂からなる樹脂粒子である。樹脂粒子(F)は、靱性、耐湿熱性、および耐溶剤性に優れており、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性、湿熱時有孔圧縮強度および層間靱性を発現させるために必須の成分である。この樹脂粒子(F)がエポキシ樹脂(D)に不溶であるために、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂を硬化させるときに到達する、180℃といった高温でも、エポキシ樹脂中に溶解せず最終的な炭素繊維強化複合材料中で形態を保つことができ、高い耐衝撃性や層間靭性を発現できる。
不溶であるか否かは、樹脂粒子のTgよりも低い温度で、エポキシ樹脂に添加したのち、1時間撹拌し、撹拌前後で粘度変化が小さく、±10%に収まるかどうかを確認することで調べることができる。
本発明では、70℃に保温したビスフェノールA型エポキシ樹脂である、“EPON(登録商標)”825、100質量部に対し、樹脂粒子(F)5質量部を予備混練することにより得られるエポキシ樹脂混合物を、下記の方法による粘度変化の有無により、溶解性を判断するものとする。
上記エポキシ樹脂混練物を、動的粘弾性測定装置ARES(TA−Insturments(株)社製)を用いて、直径40mmのパラレルプレートに樹脂をキャストし、80℃一定下、周波数0.5Hz、Gap 1mmで1時間粘度変化を測定する。
樹脂粒子(F)が溶解する場合は、測定開始後に粘度が上昇し、溶解が終了すると粘度上昇が止まり、粘度が一定になるという挙動が観察できる。樹脂粒子(F)が溶解しない場合は、この粘度変化が±10%以内に収まるので、樹脂粒子(F)の溶解性を判断することができる。
本発明にかかる樹脂粒子(F)の主構成成分であるポリアミド樹脂は、少なくとも4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体と、脂肪族ジカルボン酸とを必須構成成分とするポリアミドである。少なくとも前記4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体と、前記脂肪族ジカルボン酸とを必須構成成分とするポリアミド樹脂を用いることで、靱性、耐湿熱性、および耐溶剤性に優れた樹脂粒子(F)となる。
4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体の具体例としては、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジプロピルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジクロロジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジブロモジシクロヘキシルメタンなどが挙げられる。なかでも耐熱性の点から4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタンが好ましい。
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、レパルギル酸、セバシン酸、セバチン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸などの直鎖状飽和ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸などの鎖状不飽和ジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。1,12−ドデカンジカルボン酸は、アルキル鎖が長く、ポリアミドからなる樹脂粒子の靱性を高くすることから特に好ましい。
4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体と、脂肪族ジカルボン酸を必須構成成分とするポリアミドからなる樹脂粒子(F)は、上記の4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体から少なくとも1種以上と、上記の脂肪族ジカルボン酸から少なくとも1種以上とから誘導される構成成分とするポリアミドからなる樹脂粒子(F)であってもよい。
樹脂粒子(F)中、一般式(1)で表される構造を有する、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体と、脂肪族ジカルボン酸を必須構成成分とするポリアミドの構成成分量としては、樹脂粒子(F)中の全ポリアミドに対し50〜100質量%であることが好ましい。ポリアミド自身の靱性を最大限に発揮できるという点から80〜100質量%であることが、より好ましい。
4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体と、脂肪族ジカルボン酸を必須構成成分とするポリアミドの市販品としては、“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323、CX9701、CX9704、(デグサ(株)社製)が挙げられる。
また、本発明のエポキシ樹脂に不要な樹脂粒子(F)は、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体と脂肪族ジカルボン酸とを必須構成成分とするポリアミドに、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体と、イソフタル酸、12−アミノドデカン酸とを構成成分とするポリアミドを混合または共重合したものであってよい。
4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体、イソフタル酸、12−アミノドデカン酸を構成成分とするポリアミドにおける、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体としては、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジプロピルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジクロロジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジブロモジシクロヘキシルメタンなどが挙げられる。なかでも耐熱性の点から4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタンが好ましい。
4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体、イソフタル酸、12−アミノドデカン酸を構成成分とするポリアミドの市販品としては、“グリルアミド(登録商標)”TR55(エムザベルケ(株)社製)などが挙げられる。
4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体と、脂肪族ジカルボン酸とを必須構成成分とするポリアミド、および、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンおよび/またはその誘導体と、イソフタル酸と、12−アミノドデカン酸とを構成成分とするポリアミドの共重合体の市販品として、“グリルアミド(登録商標)”TR70LX(エムザベルケ(株)社製)などが挙げられる。また前記“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323(デグサ(株)社製)と“グリルアミド(登録商標)”TR55(エムザベルケ(株)社製)とを混合して用いてもよい。
さらには、前記“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323(デグサ(株)社製)、“グリルアミド(登録商標)”TR55(エムザベルケ(株)社製)と上記“グリルアミド(登録商標)”TR70LX(エムザベルケ(株)社製)とを混合して用いてもよい。
また、本発明で用いられる熱硬化性樹脂組成物には、樹脂粒子(F)と異なるポリアミド粒子、すなわち、上記一般式(1)で表される構造を有しないエポキシ樹脂(D)に不溶なポリアミド粒子(H)も配合することができる。ポリアミド粒子(H)の中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11やナイロン6/12共重合体や特開平01−104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)からなる粒子は、エポキシ樹脂(D)との接着強度が特に良好であることから、炭素繊維強化複合材料の層間靱性を向上する効果が高く、かつ、落錘衝撃時の炭素繊維強化複合材料の層間剥離強度が高く、耐衝撃性の向上効果が高いため好ましく用いられる。ポリアミド粒子(H)の市販品としては、SP−500、SP−10、TR−1、TR−2、842P−48、842P−80(以上、東レ(株)製)、“トレパール(登録商標)”TN(東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D、3502D(以上、アルケマ(株)製)等を使用することができる。
本発明で用いられる樹脂粒子(F)と前記ポリアミド粒子(H)とを併用して用いる場合、樹脂粒子(F)とポリアミド粒子(H)の質量比は、好ましくは5:5〜10:0、より好ましくは6:4〜9:1、更に好ましくは7:3〜8:2である。樹脂粒子(F)とポリアミド粒子(H)とを上記範囲で用いることは、炭素繊維強化複合材料の層間靱性を向上させることが出来るので好ましい。
また、樹脂粒子(F)は、エポキシ樹脂(D)に不溶な範囲内で、熱硬化性樹脂を含有しても良い。樹脂粒子(F)が熱硬化性樹脂を含有することで、樹脂粒子(F)の耐熱性、弾性率などを制御することができる。ポリアミドからなる樹脂粒子(F)に配合する熱硬化性樹脂としては、具体的には、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂または尿素樹脂などが挙げられる。
樹脂粒子(F)の平均粒子径は、熱硬化性樹脂組成物の製造プロセスや、炭素繊維強化複合材料をつくるプロセスの影響を受けるが、平均粒子径で、1〜150μmの間であることが好ましく、より好ましくは、1〜100μmであり、さらに好ましくは、5〜50μmであり、特に好ましくは、10〜35μmである。
樹脂粒子(F)の平均粒子径がこの範囲未満であると、樹脂粒子(F)を作成することの難易度が高い上、炭素繊維強化複合材料を製造するプロセス中に、繊維と繊維の隙間に粒子が入り込むことにより、繊維のアライメントを乱すため、炭素繊維強化複合材料の強度が低下することがある。また、平均粒子径が、150μmよりも大きい場合、プロセス中で使用される、フィルター、スリッター等の目詰まりを起こす場合があり、炭素繊維強化複合材料の欠点となる場合がある。
樹脂粒子(F)とは別のポリアミド粒子(H)の平均粒子径は、樹脂粒子(F)の平均粒子径より小さいことが好ましい。樹脂粒子(F)より小さい平均粒子径のポリアミド粒子(H)を用いることで、炭素繊維強化複合材料の積層層間部では、樹脂粒子(F)の隙間にポリアミド粒子(H)が入り混むことにより、高い粒子の充填率が得られる。結果、樹脂粒子(F)を単独で用いる場合より、樹脂粒子(F)とポリアミド粒子(H)とを併用することにより炭素繊維強化複合材料の層間靱性を向上できる場合がある。また、このポリアミド粒子(H)の平均粒子径が、樹脂粒子(F)の平均粒子径より小さい場合、樹脂粒子(F)とポリアミド粒子(H)の質量比は、好ましくは5:5〜10:0、より好ましくは6:4〜9:1、更に好ましくは7:3〜8:2である。ポリアミド粒子(H)の平均粒子径が樹脂粒子(F)の平均粒子径より小さく、かつ樹脂粒子(F)とポリアミド粒子(H)の質量比が上記の範囲の場合、炭素繊維強化複合材料の積層層間部では、樹脂粒子(F)の隙間にポリアミド粒子(H)が入り混むことになり、高い粒子の充填率が得られ、炭素繊維強化複合材料の層間靱性を向上させることが出来るので特に好ましい。
ポリアミド粒子(H)の平均粒子径は、1〜50μmの間であることが好ましく、より好ましくは1〜15μmであり、さらに好ましくは2〜9μm、特に好ましくは2〜8μmである。ポリアミド粒子(H)の平均粒子径が小さすぎると、炭素繊維強化複合材料を製造するプロセス中に、繊維と繊維の隙間にポリアミド粒子(H)が入り込むことにより、炭素繊維強化複合材料の層間靱性の向上効果が小さい場合がある。また、平均粒子径が大きすぎる場合、炭素繊維強化複合材料の積層層間部で、ポリアミド粒子(H)が樹脂粒子(F)の隙間に入り込むことができず、炭素繊維強化複合材料の層間靱性の向上効果が小さい場合がある。
ここでいう平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡写真から任意の100個の粒子直径を測定し、その算術平均を求めることにより算出することができる。上記写真において、真円状でない場合、即ち楕円状のような場合は、粒子の最大径をその粒子径とする。粒子径を正確に測定するためには、少なくとも1000倍以上、好ましくは、5000倍以上の倍率で測定する。
樹脂粒子(F)の形状としては、球状のものが安定した炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性および層間靱性の発現や炭素繊維強化複合材料をつくる際の粘度の安定性の面で好ましいが、楕円球状、扁平状、岩状、金平糖状、不定形などの形状のものでも使用できる。また、粒子内部は、中空状、多孔状などであっても良い。
また、ポリアミド粒子(H)の形状としては、樹脂粒子(F)と同様に、球状のものが安定した炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性および層間靱性の発現や炭素繊維強化複合材料をつくる際の粘度の安定性の面で好ましいが、楕円球状、扁平状、岩状、金平糖状、不定形などの形状のものでも使用できる。また、粒子内部は、中空状、多孔状などであっても良い。
樹脂粒子(F)およびポリアミド粒子(H)の作成方法としては、既存のどの様な方法を用いても良い。例えば液体窒素などにより凍結後機械粉砕により微細な粒子を得る方法、溶媒に原材料を溶解させた後にスプレードライする方法、粒子化したい樹脂成分とそれとは異なる樹脂成分とを機械的に混練することにより海島構造を形成させ、その後に海成分を溶媒で除去する強制溶融混練乳化法、溶媒に原材料を溶解させた後に貧溶媒中で再沈殿または再凝集させる方法などが挙げられる。
また、この樹脂粒子(F)およびポリアミド粒子(H)の表面を加工することで、新しい機能を付与することも可能である。
例えば、本発明の樹脂粒子(F)およびポリアミド粒子(H)をコア材として、その表面に別のシェル層をつける方法などが挙げられる。この際、シェル層としては、所望の機能により、選定するものが異なるが、例えば、鉄、コバルト、銅、銀、金、白金、パラジウム、錫、ニッケルなどの導電性を持つ金属をシェル層として付与することで、マトリックス樹脂の導電性を向上させるという機能を付与することができる。金属をシェル層として付与する場合、そのシェルの厚みは付与したい機能の特性が得られる十分な厚みとするべきであるが、マトリックス樹脂を調製する際に、マトリックス樹脂の比重に比べて大きすぎたり、小さすぎたりすると均一に混合することができなくなることから、金属をシェル層に付与した最終的な粒子の比重としては、0.9〜2.0の間に含まれていることが好ましい。
また、本発明において、樹脂粒子(F)の配合量は、プリプレグに対して20質量%以下の範囲であることが好ましい。前記樹脂粒子(F)の配合量が、プリプレグに対して20質量%を超えると、ベース樹脂であるエポキシ樹脂(D)等との混合が困難になる上、プリプレグのタックとドレープ性が低下することがある。すなわち、ベース樹脂であるエポキシ樹脂(D)の特性を維持しつつ、炭素繊維強化複合材料に高い耐衝撃性、湿熱時有孔圧縮強度および層間靱性を付与するには、前記樹脂粒子(F)の配合量は、プリプレグに対して20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下である。プリプレグの取り扱い性を一層優れたものにするためには、10質量%以下であることがさらに好ましい。前記樹脂粒子(F)の配合量は、炭素繊維強化複合材料の高い耐衝撃性、湿熱時有孔圧縮強度および層間靱性を得るために、プリプレグに対し1質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは2質量%以上である。
本発明において、樹脂粒子(F)とポリアミド粒子(H)を併用して用いる場合、前記ポリアミド粒子(H)の配合量は、プリプレグに対して20質量%以下の範囲であることが好ましい。前記ポリアミド粒子(H)の配合量が、プリプレグに対して20質量%を超えると、ベース樹脂であるエポキシ樹脂(D)等との混合が困難になる上、プリプレグのタックとドレープ性が低下することがある。すなわち、ベース樹脂であるエポキシ樹脂(D)の特性を維持しつつ、炭素繊維強化複合材料に高い耐衝撃性、湿熱時有孔圧縮強度および層間靱性を付与するには、前記ポリアミド粒子(H)の配合量は、プリプレグに対して20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下である。プリプレグの取り扱い性を一層優れたものにするためには、10質量%以下であることがさらに好ましい。前記ポリアミド粒子(H)を前記樹脂粒子(F)と併用して用いる場合は、前記ポリアミド粒子(H)の配合量は、炭素繊維強化複合材料の高い耐衝撃性、湿熱時有孔圧縮強度および層間靱性を得るために、プリプレグに対し1質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは2質量%以上である。
次に、本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物に配合することができる、エポキシ樹脂(D)に可溶な熱可塑性樹脂(G)について説明する。
本発明にかかる熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(D)に可溶な熱可塑性樹脂(G)を配合することで、熱硬化性樹脂組成物の粘度を適切な領域にすることができ、炭素繊維と組み合わせてプリプレグとした際に、タック性やドレープ性を使用目的に合った範囲に調整することができる。また、熱硬化性樹脂組成物にエポキシ樹脂(D)に可溶な熱可塑性樹脂(G)を配合することで、熱硬化性樹脂組成物の耐衝撃性や層間靱性の向上を図ることが可能となる。ここでいう可溶であるとは、Tgもしくは融点よりも低い温度でエポキシ樹脂(D)に添加、1時間撹拌し、撹拌前後で粘度変化が−10%よりも小さくなるか、10%よりも大きくなるかどうかで判断できる。
このような熱可塑性樹脂(G)としては、一般に、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、この熱可塑性樹脂(G)は、部分的に架橋構造を有していても差し支えなく、結晶性を有していても非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂が、エポキシ樹脂(D)に溶解していることが好適である。なかでも、良好な耐熱性を得るためには、溶解する熱可塑性樹脂(G)のガラス転移温度(Tg)が少なくとも150℃以上であり、170℃以上であることが好ましい。配合する熱可塑性樹脂(G)のガラス転移温度が、150℃未満であると、成形体として用いた時に熱による変形を起こしやすくなる場合がある。さらに、この熱可塑性樹脂(G)の末端官能基としては、水酸基、カルボキシル基、チオール基、酸無水物などのものがカチオン重合性化合物と反応することができ、好ましく用いられる。水酸基を有する熱可塑性樹脂(G)としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂を挙げることができ、また、スルホニル基を有する熱可塑性樹脂(G)としては、ポリエーテルスルホンを挙げることができる。炭素繊維強化複合材料としたときに高い層間靭性の得やすいポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、またはポリフェニレンエーテルが好ましい。特に好ましくはポリエーテルスルホンである。
具体的には、ポリエーテルスルホンの市販品である“スミカエクセル(登録商標)”PES3600P、PES5003P、“PES5200P、PES7600P、PES7200P(以上、住友化学工業(株)製)、“Ultrason(登録商標)”E2020P SR、E2021SR(以上、BASF(株)製)、 “Virantage(登録商標)”PESU VW−10200、“PESU VW−10700(以上、ソルベイアドバンスポリマーズ(株)製)などを使用することができ、また、特表2004-506789号公報に記載されるようなポリエーテルスルホンとポリエーテルエーテルスルホンの共重合体オリゴマー、さらにポリエーテルイミドの市販品である“ウルテム(登録商標)”1000、1010、1040(以上、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)などが挙げられる。オリゴマーとは10個から100個程度の有限個のモノマーが結合した比較的分子量が低い重合体を指す。
熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂(D)に熱可塑性樹脂(G)を溶解させる場合、それらを単独で用いた場合より良好な結果を与えることが多い。エポキシ樹脂(D)の脆さを熱可塑性樹脂(G)の強靱さでカバーし、かつ熱可塑性樹脂(G)の成形困難性をエポキシ樹脂(D)でカバーし、バランスのとれたベース樹脂となる。エポキシ樹脂(D)と熱可塑性樹脂(G)との使用割合(質量%)は、バランスの点で、熱硬化性樹脂組成物100質量%のうち、好ましくは熱可塑性樹脂(G)の配合割合が1〜40質量%であり、より好ましくは5〜30質量%であり、さらに好ましくは8〜20質量%の範囲である。熱可塑性樹脂(G)の配合量が多すぎると、熱硬化性樹脂組成物の粘度が上昇し、熱硬化性樹脂組成物およびプリプレグの製造プロセス性や取扱性を損ねる場合がある。熱可塑性樹脂(G)の配合量が少なすぎると、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の靱性が不足し、得られる炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性や層間靱性が不足する場合がある。
本発明で使用する熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、カーボン粒子や金属めっき有機粒子等の導電性粒子、熱硬化性樹脂粒子、ゴム粒子、あるいはシリカゲル、クレー等の無機フィラーや、導電性フィラーを配合することができる。導電性粒子や導電性フィラーを用いることは、得られる樹脂硬化物や炭素繊維強化複合材料の導電性を向上することが出来るので、好ましく用いられる。ゴム粒子を用いることは、得られる炭素繊維強化複合材料の層間靱性や疲労特性を向上することが出来るので、好ましく用いられる。
導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長法炭素繊維(VGCF)、フラーレン、金属ナノ粒子などが挙げられ、単独で使用しても併用してもよい。なかでも安価で効果の高いカーボンブラックが好ましく用いられ、かかるカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなどを使用することができ、これらを2種類以上ブレンドしたカーボンブラックも好適に用いられる。
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。
コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL−2655、EXL−2611、EXL−3387(ロームアンドハーズ(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC−3355、TR−2122(ガンツ(株)製)、“NANOSTRENGTH(登録商標)”M22、51、52、53(アルケマ社製)、“カネエース(登録商標)”MXシリーズ(カネカ(株)製)等を使用することができる。
次に、本発明のプリプレグおよびプリプレグの製造方法について説明する。
一般に、プリプレグとは、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸した成形中間基材であり、本発明においては、強化繊維として炭素繊維が用いられ、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂組成物が用いられる。かかるプリプレグにおいては、熱硬化性樹脂組成物は未硬化の状態にあり、プリプレグを積層、硬化することで炭素繊維強化複合材料が得られる。もちろん、プリプレグ単層を硬化させても炭素繊維強化複合材料が得られる。複数枚のプリプレグを積層、硬化させてなる炭素繊維強化複合材料は、プリプレグの表面部が、炭素繊維強化複合材料の積層層間部となり、プリプレグの内部が、炭素繊維強化複合材料の積層層内部となる。
本発明のプリプレグは、特開平01−26651号公報、特開昭63−170427号公報または特開昭63−170428号公報に開示されているような方法を応用して製造することができる。具体的には、本発明のプリプレグは、炭素繊維とマトリックス樹脂であるエポキシ樹脂(D)、潜在性硬化剤(E)および熱可塑性樹脂(G)からなる一次プリプレグの表面に、熱可塑性樹脂粒子(F)およびポリアミド粒子(H)を粒子の形態のまま塗布する方法、エポキシ樹脂(D)、潜在性硬化剤(E)および熱可塑性樹脂(G)を配合したマトリックス樹脂中に樹脂粒子(F)およびポリアミド粒子(H)を均一に混合した熱硬化性樹脂組成物を調整し、この熱硬化性樹脂組成物を炭素繊維に含浸させる過程において、炭素繊維でこれら樹脂粒子(F)およびポリアミド粒子(H)の侵入を遮断せしめてプリプレグの表面部分に樹脂粒子(F)およびポリアミド粒子(H)を局在化させる方法、または予めエポキシ樹脂(D)、潜在性硬化剤(E)および熱可塑性樹脂(G)からなるマトリックス樹脂を炭素繊維に含浸させて一次プリプレグを作製しておき、一次プリプレグ表面に、樹脂粒子(F)およびポリアミド粒子(H)を高濃度で含有する熱硬化性樹脂組成物のフィルムを貼付する方法等で製造することができる。樹脂粒子(F)およびポリアミド粒子(H)が、プリプレグの厚み20%の深さの範囲に均一に存在することで、層間靭性の高い炭素繊維強化複合材料用のプリプレグが得られる。
本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸せしめたものである。プリプレグは、例えば、熱硬化性樹脂組成物をメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法あるいは加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
ウェット法では、サイジング剤塗布炭素繊維束を熱硬化性樹脂組成物が含まれる液体に浸漬した後、引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。
また、ホットメルト法では、加熱により低粘度化した熱硬化性樹脂組成物を直接サイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法、あるいは一旦熱硬化性樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムをまず作成し、ついでサイジング剤塗布炭素繊維束の両側あるいは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧して熱硬化性樹脂組成物サイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法により、プリプレグを製造することができる。ホットメルト法は、プリプレグ中に残留する溶媒がないため好ましい手段である。
本発明のプリプレグの炭素繊維質量分率は、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。炭素繊維質量分率が低すぎると、得られる炭素繊維強化複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる炭素繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、炭素繊維質量分率が高すぎると、熱硬化性樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる炭素繊維強化複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
本発明のプリプレグは、粒子に富む層、すなわち、その断面を観察したときに、エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子(F)、および樹脂粒子(F)とは異なるポリアミド粒子(H)が局在して存在している状態が明瞭に確認しうる層(以下、粒子層と略記することがある。)が、プリプレグの表面付近部分に形成されている構造であることが好ましい。
このような構造をとることにより、プリプレグを積層してエポキシ樹脂(D)を硬化させて炭素繊維強化複合材料とした場合は、プリプレグ層、即ち炭素繊維強化複合材料層の間で樹脂層が形成され易く、それにより、炭素繊維強化複合材料層相互の接着性や密着性が高められ、得られる炭素繊維強化複合材料に高度の層間靭性や耐衝撃性が発現されるようになる。
このような観点から、前記の粒子層は、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から、表面を起点として厚さ方向に好ましくは20%の深さ、より好ましくは10%の深さの範囲内に存在していることが好ましい。また、粒子層は、片面のみに存在させても良いが、プリプレグに表裏ができるため、注意が必要となる。プリプレグの積層を間違えて、粒子のある層間とない層間が存在すると、層間靭性の低い炭素繊維強化複合材料となる。表裏の区別をなくし、積層を容易にするため、粒子層はプリプレグの表裏両面に存在する方がよい。
さらに、粒子層内に存在する樹脂粒子(F)の存在割合は、プリプレグ中に存在する樹脂粒子(F)の全量に対して好ましくは90〜100質量%であり、より好ましくは95〜100質量%である。
同様に、粒子層内に存在するポリアミド粒子(H)の存在割合は、プリプレグ中に存在するポリアミド粒子(H)の全量に対して好ましくは90〜100質量%であり、より好ましくは95〜100質量%である。
この樹脂粒子(F)の粒子層内の存在率は、例えば、下記の方法で評価することができる。すなわち、プリプレグを2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の間に挟持して密着させ、7日間かけて徐々に硬化温度まで温度を上昇させてゲル化、硬化させて板状のプリプレグ硬化物を作製する。硬化後、密着面と垂直な方向から切断し、その断面を研磨後、光学顕微鏡で断面の写真を撮影し、プリプレグ硬化物の表面から、厚さの20%深さ位置にプリプレグの表面と平行な線を2本引く。次に、プリプレグの表面と上記線との間に存在する樹脂粒子(F)の合計面積と、プリプレグの厚みに渡って存在する樹脂粒子(F)の合計面積を求め、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する樹脂粒子(F)の存在率を計算する。ここで、樹脂粒子(F)の合計面積は、断面写真から樹脂粒子(F)部分を刳り抜き、その質量から換算して求める。かかる断面写真から樹脂中に分散する樹脂粒子(F)部分の特定が困難な場合は、樹脂粒子(F)を染色する手段も採用できる。
また、ポリアミド粒子(H)の粒子層内の存在率も、樹脂粒子(F)の粒子層内の存在率の評価方法と同様にして求めることができる。
本発明のプリプレグは、本発明の熱硬化性樹脂組成物を、メチルエチルケトンやメタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、炭素繊維に含浸させるウェット法と、熱硬化性樹脂組成物を加熱により低粘度化し、炭素繊維に含浸させるホットメルト法等によって好適に製造することができる。
ウェット法は、炭素繊維を熱硬化性樹脂組成物の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発せしめ、プリプレグを得る方法である。
ホットメルト法は、加熱により低粘度化した熱硬化性樹脂組成物を直接炭素繊維に含浸させる方法、または熱硬化性樹脂組成物を離型紙等の上にコーティングした樹脂フィルムを作製しておき、次に炭素繊維の両側または片側からその樹脂フィルムを重ね、加熱加圧することにより熱硬化性樹脂組成物を転写含浸せしめ、プリプレグを得る方法である。このホットメルト法では、プリプレグ中に残留する溶媒が実質的に皆無となるため好ましい態様である。
また、本発明の炭素繊維強化複合材料は、このような方法により製造された複数のプリプレグを積層後、得られた積層体に熱および圧力を付与しながらエポキシ樹脂(D)を加熱硬化させる方法等により製造することができる。
熱および圧力を付与する方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法等が使用される。特にスポーツ用品の成形には、ラッピングテープ法と内圧成形法が好ましく用いられる。
ラッピングテープ法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを捲回して、炭素繊維強化複合材料製の管状体を成形する方法であり、ゴルフシャフトや釣り竿等の棒状体を作製する際に好適な方法である。より具体的には、マンドレルにプリプレグを捲回し、プリプレグの固定および圧力付与のため、プリプレグの外側に熱可塑性樹脂フィルムからなるラッピングテープを捲回し、オーブン中でエポキシ樹脂(D)を加熱硬化させた後、芯金を抜き去って管状体を得る方法である。
また、内圧成形法は、熱可塑性樹脂製のチューブ等の内圧付与体にプリプレグを捲回したプリフォームを金型中にセットし、次いでその内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力を付与すると同時に金型を加熱せしめ、管状体を成形する方法である。この内圧成形法は、ゴルフシャフト、バット、およびテニスやバトミントン等のラケットのような複雑な形状物を成形する際に、特に好ましく用いられる。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱してエポキシ樹脂(D)を硬化させる方法を一例として製造することができる。
また、本発明において炭素繊維強化複合材料を得る方法としては、プリプレグを用いて得る方法の他に、ハンドレイアップ、RTM、“SCRIMP”(登録商標)、フィラメントワインディング、プルトルージョンおよびレジンフィルムインフュージョンなどの成形法を目的に応じて選択し適用することができる。これらのいずれかの成形法を適用することにより、前述のサイジング剤塗布炭素繊維とエポキシ樹脂(D)の硬化物を含む炭素繊維強化複合材料が得られる。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途、さらにはゴルフシャフト、バット、バトミントンやテニスラケットなどスポーツ用途に好ましく用いられる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。次に示す実施例のプリプレグの作製環境および評価は、特に断りのない限り、温度25℃±2℃、50%RH(相対湿度)の雰囲気で行ったものである。
(1)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面のX線光電子分光法
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち、光電子脱出角度15°で測定を行った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
なお、(b)より(a)のピークが大きい場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1に合わせた場合、C1sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた後、上記手法にて(a)/(b)を算出した。
(2)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤の洗浄
サイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施した。続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥した。
(3)サイジング剤塗布炭素繊維の400eVでのX線光電子分光法
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維およびサイジング剤を洗浄したサイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源として佐賀シンクトロトン放射光を用い、励起エネルギーは400eVで実施した。試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。なお、光電子脱出角度55°で実施した。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と、(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
なお、(b)より(a)のピークが大きい場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1に合わせた場合、C1sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた後、上記手法にて(a)/(b)を算出した。
(4)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業(株)製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(5)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1、2を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sメイン面積を、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sメインピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
(6)炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、表面水酸基濃度(COH/C)
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。
溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04mol/Lの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rを求めた。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表した。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206での、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求めた。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02mol/Lの3弗化エタノール気体、0.001mol/Lのジシクロヘキシルカルボジイミド気体及び0.04mol/Lのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sのピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mを求めた。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いた場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919であった。
(7)サイジング剤のエポキシ当量、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量
サイジング剤のエポキシ当量は、溶媒を除去したサイジング剤をN,N−ジメチルホルムアミド中に溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、サイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルムアミド中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。
(8)ガラス転移点の上昇温度
アミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が0.9になるようにサイジング剤と潜在性硬化剤(E)とを混合し、JIS K7121(1987)に従い、示差走査熱量計(DSC)により調整した混合物のガラス転移温度の測定を行った。容量50μlの密閉型サンプル容器に、3〜10mgの試料(試験片)を詰め、昇温速度10℃/minで30〜350℃まで昇温し、ガラス転移温度を測定した。ここでは、測定装置として、TA Instruments社製の示差走査型熱量計(DSC)を使用した。
具体的には、得られたDSC曲線の階段状変化を示す部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とした。
続いて、調整した混合物を温度25℃、60%RHの環境下で20日保管した後、上記の方法でガラス転移温度を測定し、初期からの上昇温度をガラス転移点の上昇温度とした(表中の「硬化剤とのΔTg」がそれに該当する)。
(9)サイジング付着量の測定方法
約2gのサイジング付着炭素繊維束を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50ml/minの窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20L/minの乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回行い、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
(10)界面剪断強度(IFSS)の測定
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(イ)〜(ニ)の手順で行った。
(イ)樹脂の調整
ビスフェノールA型エポキシ化合物“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)14.5質量部を、それぞれ容器に入れた。その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱した。その後、両者をよく混合し、80℃の温度で約15分間真空脱泡を行った。
(ロ)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥を行った。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmだった。
(ハ)樹脂注型から硬化まで
上記(ロ)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(イ)の手順で調整した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/minで75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5℃/minで125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温した。その後、脱型して試験片を得た。
(ニ)界面剪断強度(IFSS)の測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、歪みを12%生じさせた後、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数N(個)を測定した。次に、平均破断繊維長laを、la(μm)=22×1000(μm)/N(個)の式により計算した。次に、平均破断繊維長laから臨界繊維長lcを、lc(μm)=(4/3)×la(μm)の式により計算した。ストランド引張強度σと炭素繊維単糸の直径dを測定し、炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度IFSSを、次式で算出した。実施例では、測定数n=5の平均を試験結果とした。
・界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
(11)樹脂粒子(F)の平均粒子径の測定
樹脂粒子(F)の平均粒子径については、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡にて樹脂粒子(F)を1000倍以上に拡大し写真撮影し、無作為に樹脂粒子(F)を選び、その樹脂粒子(F)の外接する円の直径を粒子径とし、その粒子径の平均値(n=50)として求めた。ポリアミド粒子(H)についても同様な方法で測定した。
(12)炭素繊維強化複合材料の0°の定義
JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)の繊維方向を軸方向とし、その軸方向を0°軸と定義し軸直交方向を90°と定義した。
(13)炭素繊維強化複合材料の0°引張強度測定
作製後24時間以内の一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、これを一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm2、2時間で硬化させ、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を得た。この一方向強化材を幅12.7mm、長さ230mmにカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。このようにして得られた試験片について、インストロン社製万能試験機を用いてクロスヘッドスピード1.27mm/minで引張試験を行った。
本発明において、0°引張強度の値を(B)で求めたストランド強度の値で割り返したものを強度利用率(%)として、次式で求めた。
強度利用率=引張強度/((CF目付/190)×Vf/100×ストランド強度)×100
CF(炭素繊維)目付=190g/m2
Vf(炭素繊維体積含有率)=56%
(14)プリプレグ保管後の0°引張強度低下率
一方向プリプレグを温度25℃、60%RHで20日保管後、(13)と同様に0°引張強度測定を行い、強度利用率を算出した。
(15)プリプレグの厚み20%の深さの範囲に存在する樹脂粒子(F)の存在率
一方向プリプレグを、2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板間に挟持して密着させ、7日間かけて徐々に150℃迄温度を上昇させてゲル化、硬化させて板状の樹脂硬化物を作製する。硬化後、密着面と垂直な方向から切断し、その断面を研磨後、光学顕微鏡で200倍以上に拡大しプリプレグの上下面が視野内に納まるようにして写真撮影した。同様な操作により、断面写真の横方向の5ヵ所でポリ四フッ化エチレン樹脂板間の間隔を測定し、その平均値(n=5)をプリプレグの厚さとした。プリプレグの両面について、プリプレグの表面から、厚さの20%深さ位置にプリプレグの表面と平行な線を2本引く。次に、プリプレグの表面と上記線との間に存在する樹脂粒子(F)の合計面積と、プリプレグの厚みに渡って存在する樹脂粒子(F)の合計面積を求め、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する樹脂粒子(F)の存在率を計算した。ここで、樹脂粒子(F)の合計面積は、断面写真から粒子部分を刳り抜き、その質量から換算して求めた。
(16)モードI層間靭性(GIC)試験用炭素繊維強化複合材料製平板の作成とGIC測定
JIS K7086(1993)に準じ、次の(a)〜(e)の操作によりGIC試験用一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を作製した。
(a)一方向プリプレグを、繊維方向を揃えて20ply積層した。ただし、積層中央面(10ply目と11ply目の間)に、繊維配列方向と直角に、幅40mm、厚み50μmのフッ素樹脂製フィルムをはさんだ。
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で180℃、圧力6kg/cm2で2時間加熱加圧して硬化し、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を成形した。
(c)(b)で得た一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を、幅20mm、長さ195mmにカットした。繊維方向は、サンプルの長さ側と平行になるようにカットした。
(d)JIS K7086(1993)に従い、ピン負荷用ブロック(長さ25mm、アルミ製)を試験片端(フィルムをはさんだ側)に接着した。
(e)亀裂進展を観察しやすくするため、試験片の両側面に白色塗料を塗った。
作製した一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を用いて、以下の手順により、GIC測定を行った。
JIS K7086(1993)附属書1に従い、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、亀裂進展が20mmに到達するまでは0.5mm/min、20mm到達後は1mm/minとした。JIS K7086(1993)にしたがって、荷重、変位、および、亀裂長さから、亀裂進展初期の限界荷重に対応するGIC(亀裂進展初期のGIC)を算出した。
(17)炭素繊維強化複合材料の湿熱時有孔圧縮強度測定
一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、(+45/0/−45/90度)2Sの構成となるように16枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm2、2時間で硬化させ、擬似等方強化材(炭素繊維強化複合材料)を得た。この擬似等方強化材を0゜方向が304.8mm、90゜方向が38.1mmの長方形に切り出し、中央部に直径6.35mmの円形の孔を穿孔して有孔板に加工して試験片を得た。この試験片はインストロン万能試験機を用いて、ASTM−D6484の規格に準じて有孔圧縮試験(70℃の温水に2週間浸漬後、82℃で測定)を行った。
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。
・(A)成分:A−1〜A−3
A−1:“デナコール(登録商標)”EX−810(ナガセケムテックス(株)製)
エチレングリコールのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:113g/eq.、エポキシ基数:2
A−2:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、エポキシ基数:4
水酸基数:2
A−3:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:183g/eq.、エポキシ基数:3以上
・(B1)成分:B−1〜B−4
B−1:“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)
フェノールノボラックのグリシジルエーテル
エポキシ当量:175g/eq.、エポキシ基数:3
B−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/eq.、エポキシ基数:2
B−3:“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:475g/eq.、エポキシ基数:2
B−4:“jER(登録商標)”807(三菱化学(株)製)
ビスフェノールFのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/eq.、エポキシ基数:2
(D)熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)成分:D−1、D−2
D−1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、“エピコート(登録商標)”825(ジャパンエポキシレジン(株)製)
D−2:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ELM434(住友化学(株)製)
(E)潜在性硬化剤成分:
“セイカキュア(登録商標) ”S(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)
(F)一般式(1)で示す構造を有するエポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子:F−1、F−2
F−1:粒子1(“トロガミド(登録商標)”CX7323を原料として、作成した平均粒子径13.2μmの粒子、80℃2時間での粘度変化0%)
(粒子1の製造方法:国際公開2009/142231号パンフレットを参考とした。)
1000mlの4口フラスコの中に、ポリマーAとしてポリアミド(重量平均分子量17,000、デグザ(株)製“TROGAMID(登録商標)”CX7323)20g、有機溶媒としてギ酸500g、ポリマーBとしてポリビニルアルコール20g(和光純薬工業(株)製 PVA 1000、SP値32.8(J/cm3)1/2)を加え、80℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を55℃に下げた後に、十分に攪拌した状態を継続しながら、900rpmで攪拌をしながら、貧溶媒として500gのイオン交換水を、送液ポンプを経由し、0.5g/minのスピードで滴下を開始した。徐々に滴下速度を上げながら滴下し、全量を90分かけて滴下した。100gのイオン交換水を入れた時に系が白色に変化した。半分量のイオン交換水を滴下した時点で系の温度を60℃まで昇温させ、引き続き、残りのイオン交換水を入れ、全量滴下した後に、引き続き30分間攪拌した。室温に戻した懸濁液を、ろ過し、イオン交換水500gで洗浄し、80℃、10時間真空乾燥を行い、白色固体11gを得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、平均粒子径13.2μmのポリアミド微粒子であった。
F−2:粒子2(“トロガミド(登録商標)”CX7323を原料として、作成した平均粒子径30.5μmの粒子、80℃2時間での粘度変化0%)
(粒子2の製造方法:国際公開2009/142231号パンフレットを参考とした。)
1000mlの4口フラスコの中に、ポリマーAとしてポリアミド(重量平均分子量17,000、デグザ(株)製“TROGAMID(登録商標)”CX7323)20g、有機溶媒としてギ酸500g、ポリマーBとしてポリビニルアルコール20g(和光純薬工業(株)製 PVA 1000、SP値32.8(J/cm3)1/2)を加え、70℃に加熱し、ポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度をそのまま維持し、十分に攪拌した状態を継続しながら、900rpmで攪拌をしながら、貧溶媒として600gのイオン交換水を、送液ポンプを経由し、0.5g/minのスピードで滴下を開始した。徐々に滴下速度を上げながら滴下し、全量を90分かけて滴下した。100gのイオン交換水を入れた時に系が白色に変化した。半分量のイオン交換水を滴下した時点で系の温度を60℃まで昇温させ、引き続き、残りのイオン交換水を入れ、全量滴下した後に、引き続き30分間攪拌した。室温に戻した懸濁液を、ろ過し、イオン交換水500gで洗浄し、80℃、10時間真空乾燥を行い、白色固体11gを得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて、観察したところ、平均粒子径30.5μmのポリアミド微粒子であった。
(G)エポキシ樹脂(D)に可溶な熱可塑性樹脂(G):末端に水酸基を有するポリエーテルスルホン“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(住友化学(株)製)
その他として、一般式(1)で示される構造を有しない、エポキシ樹脂(D)に不溶なポリアミド粒子(H)として、以下の樹脂を使用した。
・“トレパール(登録商標)”TN(東レ(株)製、平均粒子径12.3μm)
・SP−500(ナイロン12粒子、東レ(株)製、平均粒子径5μm)
(実施例1)
本実施例は、次の第Iの工程、第IIの工程および第IIIの工程からなる。
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
アクリロニトリル99mol%とイタコン酸1mol%からなる共重合体を紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1mol/Lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.15、表面カルボン酸濃度COOH/Cは0.005、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。これを炭素繊維Aとした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(B1)成分として(B−1)を20質量部、(C)成分20質量部および乳化剤10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(A)成分として(A−3)を50質量部混合してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2mol付加物2molとマレイン酸1.5mol、セバチン酸0.5molの縮合物、乳化剤としてポリオキシエチレン(70mol)スチレン化(5mol)クミルフェノールを用いた。なお(C)成分、乳化剤はいずれも芳香族化合物であり、(B)成分に該当することにもなる。サイジング液中の溶媒を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表1の通りである。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)、サイジング剤と潜在性硬化剤(E)との混合物のガラス転移点の上昇温度(△Tg)を測定した。結果を表1にまとめた。この結果、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成および△Tgともに期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
混練装置で、エポキシ樹脂(D)成分として(D−1)を50質量部、および(D−2)を50質量部と、熱可塑性樹脂(G)としてPES5003Pを10質量部配合して溶解した後、潜在性硬化剤(E)成分として、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを40質量部混練して、樹脂粒子(F)を除く1次樹脂組成物を作製した。得られた1次樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付32g/m2で離型紙上にコーティングし、1次樹脂フィルムを作製した。この1次樹脂フィルムを一方向に引き揃えた炭素繊維(目付190g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、100℃、1気圧で加熱加圧しながら熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、一次プリプレグを得た。次に、最終的な炭素繊維強化複合材料用プリプレグの熱硬化性樹脂組成が表1の配合量になるように、樹脂粒子(F)として(F−1)を加えて調整した2次樹脂組成物で、ナイフコーターを用いて樹脂目付20g/m2で離型紙上にコーティングし、2次樹脂フィルムを作製した。この2次樹脂フィルムを、一次プリプレグの両側に重ね合せてヒートロールを用い、100℃、1気圧で加熱加圧しながら炭素繊維強化複合材料用熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、目的のプリプレグを得た。得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製し、0°引張強度測定および長期保管後の0°引張強度試験、湿熱時有孔圧縮強度および層間靭性を測定した。その結果を表1に示す。初期の0°引張強度利用率、湿熱時有孔圧縮強度および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。
(実施例2〜8)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表1に示す(A)成分、および(B1)成分を用いた以外は、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成、△Tgともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。結果を表1に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率、湿熱時有孔圧縮強度および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。
(実施例9〜13)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表2に示す質量比にした以外は、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成、△Tgともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。結果を表2に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率、湿熱時有孔圧縮強度および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表2に示す。
(実施例14)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−3)を55質量部、(B1)成分として(B−2)を22.5質量部、(C)成分を22.5質量部、DMFに溶解してサイジング液を調合した。なお、(C)成分として、ビスフェノールAのEO2mol付加物2molとマレイン酸1.5mol、セバチン酸0.5molの縮合物を用いた。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表2の通りである。実施例1と同様に、このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。この結果、表2に示す通り、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成、△Tgともに期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率、湿熱時有孔圧縮強度および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表2に示す。
(実施例15)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
(A)成分として(A−3)を60質量部、(B1)成分として(B−2)を40質量部、DMFに溶解してサイジング液を調合した。サイジング液中の溶液を除いたサイジング剤のエポキシ当量は表2の通りである。実施例1と同様に、このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。この結果、表2に示す通り、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成、△Tgともに期待通りであることが確認できた。また、IFSSで測定した接着性も十分に高いことがわかった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率、湿熱時有孔圧縮強度および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。結果を表2に示す。
(実施例16〜19)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成、△Tgともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表3に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
一般式(1)の構造を有する、エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子(F)として、表3の樹脂粒子を表3の配合量で配合した以外は、実施例1と同様の方法で目的のプリプレグを作製した。なお、実施例17〜19では、一般式(1)の構造を有しないエポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子であるSP−500も表3に示す割合で配合した。得られたプリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を作製し、0°引張強度測定および長期保管後の0°引張強度試験、湿熱時有孔圧縮強度および層間靭性を測定した。その結果を表3に示す。初期の0°引張強度利用率、湿熱時有孔圧縮強度および層間靭性は十分高く、20日後の引張強度利用率の低下も小さいことが確認できた。
(比較例1〜3)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表4に示す質量比にした以外は、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)を測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性が低いことが分かった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率が低いことがわかった。
(比較例4)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤として表4に示す質量比にした以外は、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50より小さく、本発明の範囲から外れていた。IFSSで測定した接着性は十分高いことが分かった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率は良好だったが、20日後の0°引張強度の低下が見られた。
(比較例5、6)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤のエポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物(B1)を用いず、脂肪族エポキシ化合物(A)のみを用いて、実施例1と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50より小さく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性は十分高いことが分かった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率は高かったが、20日後の引張強度の低下率が大きいことが分かった。
(比較例7)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
サイジング剤のエポキシ化合物として、脂肪族エポキシ化合物(A)を用いず、芳香族エポキシ化合物(B1)のみを用いて、実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.90より大きく、本発明の範囲から外れていた。また、IFSSで測定した接着性が低いことが分かった。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
実施例1と同様にプリプレグを作製、成形、評価を実施した。初期の0°引張強度利用率が低いことが分かった。
(比較例8)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表4に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
熱硬化性樹脂組成物として、一般式(1)の構造を有し、エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子(F)にかえて、一般式(1)の構造を有さず、エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子である、トレパールTNを配合した以外は、実施の形態1と同様の方法でプリプレグを作製、成形、評価した。初期の0°引張強度利用率および湿熱時有孔圧縮強度は高く、20日後の引張強度の低下率も小さかったが、層間靭性の値が十分ではなかった。
(比較例9)
・第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程
実施例1と同様にした。
・第IIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程
実施例2と同様の方法でサイジング剤塗布炭素繊維を得た。続いて、サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)および△Tgを測定した。サイジング剤のエポキシ当量、サイジング剤表面の化学組成ともに期待通りであり、IFSSで測定した接着性も問題ないレベルであった。結果を表4に示す。
・第IIIの工程:一方向プリプレグの作製、成形、評価
熱硬化性樹脂組成物として、一般式(1)の構造を有し、エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子(F)にかえて、一般式(1)の構造を有さず、エポキシ樹脂(D)に不溶な樹脂粒子であるSP−500を配合した以外は、実施の形態1と同様の方法でプリプレグを作製、成形、評価した。初期の0°引張強度利用率および層間靭性は高く、20日後の引張強度の低下率も小さかったが、湿熱時有孔圧縮強度が十分ではなかった。
(実施例20)
実施例1で得られたサイジング剤塗布炭素繊維2gをアセトン50ml中に浸漬させて超音波洗浄30分間を3回実施した。続いてメタノール50mlに浸漬させて超音波洗浄30分を1回行い、乾燥した。洗浄後に残っているサイジング剤付着量を測定したところ、表6の通りだった。
続いて、洗浄前のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面、および洗浄により得られたサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の400eVでのX線光電子分光法で(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さと(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(I)洗浄前のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)/(b)、(II)洗浄後のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面の(a)/(b)を算出した。(I)および(II)/(I)は表5に示す通りだった。
(実施例21〜24)
実施例20と同様に実施例2、実施例6、実施例10、実施例13で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表5に示す。
(比較例10)
実施例20と同様に比較例5で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表5に示すが、(II/I)が大きく、サイジング剤に傾斜構造が得られていないことが分かった。
(比較例11)
実施例20と同様に比較例7で得られたサイジング剤塗布炭素繊維を用いて洗浄前後の400eVのX線を用いたX線光電子分光法によってC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)を求めた。結果を表5に示すが、(II/I)が大きく、サイジング剤に傾斜構造が得られていないことが分かった。