以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されない。
本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、フェノール化合物とカルボニル化合物とを酸性触媒を充填した反応器に連続的に供給することによりビスフェノール化合物の製造を行う。
(1)フェノール化合物
ビスフェノール化合物はフェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応により製造される。フェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応では、フェノール性水酸基の強いオルト‐パラ配向性、特にパラ配向性を利用するものと解されるところより、使用するフェノール化合物はオルト位又はパラ位に置換基のないものが好ましい。中でも、縮合反応生成物であるビスフェノール化合物は、その用途の点から4,4′−ビスフェノール化合物が一般的に好ましく、この点からパラ位に置換基のないフェノール化合物が好ましい。
フェノール化合物が置換基を有する場合、置換基はフェノール性水酸基のオルト−パラ配向性を阻害せず、又、カルボニル化合物の縮合位置に対して立体障害を及ぼさない限り、得られるビスフェノール化合物の用途や物性に応じて任意のものでありうる。典型的な置換基としては、例えば炭素数1〜4の低級アルキル基が挙げられる。又、該置換基の代わりに、弗素原子、塩素原子及び臭素原子等のハロゲン原子が置換したフェノール化合物についても、同様の置換位置の化合物を使用することができる。置換基の数は1つでも複数でもよい。
前記フェノール化合物としては、具体的には、例えば、フェノール(無置換のフェノール)、o−クレゾール、m−クレゾール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、2,5−ジクロロフェノール及び2,6−ジクロロフェノール等が挙げられる。これらの中ではフェノールが特に好ましい。
(2)カルボニル化合物
カルボニル化合物としては特に制限はないが、具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びアセトフェノン等の炭素数3〜10程度のケトン類、並びにホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド及びブチルアルデヒド等の炭素数1〜6程度のアルデヒド類が挙げられる。これらの中では、アセトンが好ましい。フェノール化合物としてフェノールを使用し、カルボニル化合物としてアセトンを使用した場合、ポリカーボネート樹脂等の原料として有用なビスフェノールAを得ることができるので、特に好ましい。
縮合反応の原料として用いるフェノール化合物とカルボニル化合物のモル比は、カルボニル化合物1モルに対してフェノール化合物が通常2モル以上、好ましくは4モル以上であり、通常40モル以下、好ましくは30モル以下とする。フェノール化合物の使用量が少なすぎると、副生物が増加する傾向があり、一方、多すぎてもその効果に殆ど変化はなく、むしろ回収、再使用するフェノール化合物の量が増大するため経済的でなくなる傾向がある。
(3)酸性触媒
(3−1)スルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒
本発明では、酸性触媒として、スルホン酸基の一部を2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1で変性したスルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒を使用する。
この変性に供するスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、スチレン系モノマーと架橋性モノマーとを含む重合性モノマーの共重合反応で得られたスチレン系共重合体にスルホン酸基を導入したものである。
ここで、スチレン系モノマーとは、スチレン、又はスチレンのベンゼン環若しくはスチレンのビニル基にイオン交換樹脂としての機能を損なわない範囲の任意の置換基を有するモノマーであるが、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル及びポリスチレンなどのポリマー、並びにオリゴマーの末端がスチリル構造になっているようなマクロモノマーであってもよい。なお、ここで、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」を意味する。後述の「(メタ)アクリロイル」についても同様である。
スチレン系モノマーとしては、好ましくは下記式(I)で表されるモノマーが挙げられる。
式(I)中、X1、X2、X3は、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルキルシリルオキシ基、ニトロ基及びニトリル基のいずれか1を示し、Yは、水素原子、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、フェニル基及びナフチル基などのアリール基、ベンジル基などのアラルキル基、アルコキシアルキル基、ニトロ基、アルカノイル基、ベンゾイル基などのアロイル基、アルコキシカルボニル基、アリルアルコキシカルボニル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリルオキシ基、アラルキルオキシ基、アルコキシアルキルオキシ基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アラルキルオキシカルボニルオキシ基、又はアルキルシリルオキシ基を示す。mは1から5までの整数であり、X1、X2、X3は互いに同一でも異なっていてもよく、またmが2以上の場合の複数のYは同一でも異なっていてもよい。
スチレン系モノマーとしては、具体的には、スチレン、並びにo−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン及びブロモスチレン等の、ベンゼン環が炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子で置換されたスチレンや、α−メチルスチレン、α−フルオロスチレン及びβ−フルオロスチレン等の、ビニル基が炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子で置換されたスチレン等が挙げられる。
これらのスチレン系モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
スチレン系モノマーとしては、これらの中でも、スチレンが最も好ましい。
一方、架橋性モノマーは、分子内に上記スチレン系モノマーと共重合可能な炭素−炭素二重結合を2以上有する化合物であり、具体的には、ジビニルベンゼン及びトリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン、ジビニルトルエン等のアルキルジビニルベンゼン、並びにビス(ビニルフェニル)、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン及びビス(4−ビニルフェニル)スルホン等の、2以上のベンゼン環が直接又はアルキレン基及びスチリレン基などの連結基を介して結合した構造を有する芳香族ジビニル化合物が挙げられる。また、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル及びポリスチレンなどのポリマー、並びにオリゴマーの両末端がスチリル構造及び(メタ)アクリル構造のような重合性炭素−炭素二重結合を有するマクロモノマーでもよい。
これらの架橋性モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼンが好ましい。なお、ジビニルベンゼンによっては、製造される際に副生物としてエチルビニルベンゼン(エチルスチレン)が生成し、これを多量に含有している場合もあるが、本発明においてはこのようなジビニルベンゼンも使用することができる。
スチレン系共重合体の製造に用いる重合性モノマーは、前記スチレン系モノマーと前記架橋性モノマーとを含むが、それ以外に、必要に応じて、更にこれらと重合可能な他のモノマーを含んでいてもよい。このような重合可能なモノマー(以下「第3のモノマー」と言う場合がある。)の具体例としては、ビニルナフタレンなどのナフタレン、ビニルアントラセンなどのアントラセン、並びにフェナントレンなどの多環芳香族骨格を有するビニルモノマー;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、並びにメタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;ブタジエン及びイソプレン等のジエン系炭化水素化合物;1−ペンテン及び1−ヘキセンなどのα−オレフィン;(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、このような第3のモノマーを使用することにより、耐酸化性が増す等の効果が得られるが、この場合、その使用量はスチレン系モノマーに対して、通常50モル%以下、好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。第3のモノマーの使用量が多すぎると、得られる共重合体に導入することができる単位重量当たりのスルホン酸基の量が少なくなり、所望の触媒活性を得られないことがある。
スチレン系モノマーと架橋性モノマーとを含む重合性モノマーを重合させて得られるスチレン系共重合体の架橋度は1%以上が好ましく、2%以上が更に好ましく、また40%以下が好ましく、8%以下が更に好ましく、5%以下が特に好ましい。ここで言う架橋度とは、重合に供する重合性モノマー中の架橋性モノマーの重量基準での濃度をいい、当該分野において使われている定義と同様である。
この架橋度が小さすぎると、得られる陽イオン交換樹脂の強度を保つことが困難となり、ビスフェノール化合物製造用触媒として反応に供するに際し、使用前にフェノール化合物やフェノール化合物と水との混合溶媒等に接触させてコンディショニングを行う時の膨潤、収縮により、陽イオン交換樹脂の破砕等が生じるため好ましくない。一方、架橋度が大きすぎると、得られる共重合体粒子が膨潤しにくくなるので、共重合体粒子内の拡散抵抗が生じ易くなり、触媒活性の著しい低下を生じることから好ましくない。
スチレン系モノマーと架橋性モノマーとを含む重合性モノマーの共重合反応は、ラジカル重合開始剤を用いて公知の技術に基づいて行うことができる。
ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド及びアゾビスイソブチロニトリル等の1種又は2種以上が用いられ、通常、重合性モノマーの重量(全モノマー重量)に対して0.05重量%以上、5重量%以下で用いられる。
重合様式は、特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合及び懸濁重合等の種々の様式で行うことができ、必要に応じて篩による分級等を行うこともできる。
共重合反応における重合温度は、通常、室温(約18〜25℃)以上、好ましくは40℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。重合温度が高すぎると解重合が併発し、重合完結度がかえって低下する。重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となる。
また、重合雰囲気は、空気又は不活性ガス下で実施可能であり、不活性ガスとしては窒素、二酸化炭素、アルゴン等が使用できる。
上記の共重合反応で得られたスチレン系共重合体にスルホン酸基を導入する(スルホン化)方法は、特に限定されるものではなく、常法に従って行うことができる。
例えば、有機溶媒の非存在下、または、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエチレン及びプロピレンジクロライド等の有機溶媒の存在下、共重合体を、硫酸、クロロスルホン酸及び発煙硫酸等のスルホン化剤と反応させることにより行われる。ここで有機溶媒及びスルホン化剤は、いずれも、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
この際の反応温度は、通常0〜150℃程度で、スルホン化剤及び使用する有機溶媒に応じて適宜選択される。
スルホン化された共重合体を、常法に従って、洗浄及び単離等により分離することで、スルホン酸型の強酸性陽イオン交換樹脂を得る。
本発明において、強酸性陽イオン交換樹脂としての交換容量(スルホン酸基の量)は、含水状態の樹脂の、単位体積当り、通常0.5meq/mL以上、好ましくは1.0meq/mL以上であり、一方、通常3.0meq/mL以下、好ましくは2.0meq/mL以下である。また、乾燥状態の樹脂では、単位体積当り、通常1.0meq/g以上、好ましくは2.0meq/g以上であり、一方、通常6.0meq/g以下、好ましくは5.5meq/g以下である。含水状態の樹脂から付着水を取り除いた湿潤状態では、通常0.5meq/g以上、好ましくは1.0meq/g以上であり、一方、通常3.0meq/g以下、好ましくは2.0meq/g以下である。この交換容量が低過ぎると触媒活性が不足し、また、過度に交換容量の高い陽イオン交換樹脂は製造困難である。
この強酸性陽イオン交換樹脂の交換容量は、例えば「ダイヤイオン、イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1」(三菱化学株式会社刊、改訂4版、平成19年10月31日発行、133〜135頁)に記載される方法や、これに準じた方法で求めることができる。
なお、ここで用いられるスルホン酸型陽イオン交換樹脂の主な形態としては、ゲル型と多孔質型(ポーラス型、ハイポーラス型、又はマクロポーラス型)が挙げられるが、ビスフェノール化合物の製造に用いる場合、製造コストの観点から、ゲル型が好ましい。また、物質拡散性や、樹脂の耐久性、強度の確保の観点で、多孔質型(ポーラス型、ハイポーラス型、又はマクロポーラス型)も好ましい。ゲル型には単純ゲル型共重合体及び拡大網目型ゲル共重合体があり、いずれも用いることができる。一方、多孔質型は多孔性共重合体であって、表面積、気孔率、平均孔径などが任意のものを用いることができる。
ゲル型又は多孔質型のスルホン酸型交換樹脂とする方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば「イオン交換樹脂その技術と応用」(オルガノ株式会社発行、改訂版、昭和61年5月16日発行、13〜21頁)に従って製造することができる。
スルホン酸型陽イオン交換樹脂のサイズは、平均粒径が、通常0.2mm以上、好ましくは0.4mm以上、一方、通常2.0mm以下、好ましくは1.5mm以下の範囲にあり、かつ粒径分布均一度は、通常1.6以下、好ましくは1.5以下である。なお、本明細書で樹脂について言う平均粒径及び粒系分布均一度は、ダイヤイオンマニュアル1(三菱化学株式会社刊、平成19年第4版、140〜142頁)に記載の方法で算出した値で定義される。
(3−2)2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類
本発明における2−ピリジルアルカンチオール化合物類は、ピリジン環の2位がメルカプトアルキル基又はチオール部位が保護されたチオアルキル基で置換されている化合物である。
2−ピリジルアルカンチオール化合物類のピリジン環及びアルキル鎖は任意の置換基や原子で置換されていてもよい。また、チオール部位の保護基としては、硫黄原子を保護することが可能な基であれば特に限定されず、「Green’s Protective Groups in Organic Synthesis,Fourth Edition,Wiley(2007)」に記載されている保護基や保護する方法を用いることで保護が可能であり、例えば、tert−ブチル基のような安定なカルボカチオンを生じる脂肪族保護基で保護したチオエーテル体、アセチル基のようなアシル保護基で保護したチオエステル体、カーボネート保護基で保護したチオカーボネート体、ベンジル保護基で保護したベンジルチオエーテル体、及びケトン又はアルデヒドで保護したジチオアセタール体等が挙げられる。
中でも好ましい2−ピリジルアルカンチオール化合物類は、下記一般式(II)で示される化合物である。
一般式(II)中、R1は、炭素数が1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、アルキレン基の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい。R2〜R5はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数が1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、ハロゲン原子を示す。またXは、水素原子、アルキル基、アシル基、カーボネート基、ベンジル基、又はアセタール基を示す。
R1で示される炭素数が1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基及びテトラメチレン基等が挙げられる。R2〜R5及びXで表わされるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等が挙げられる。アルキレン基に置換しているハロゲン原子及びR2〜R5で表わされるハロゲン原子としては、塩素原子及び臭素原子等が挙げられる。又、Xで表わされるアシル基としては、アセチル基及びエチルカルボニル基等が、カーボネート基としては、メトキシカルボニル基及びエトキシカルボニル基等が挙げられる。
上記構造式(II)においてR1がアルキレン基であり、R2〜R5及びXがHである2−ピリジルアルカンチオール化合物類としては、具体的には2−ピリジルメタンチオール;2−(2’−ピリジル)エタンチオール及び1−(2’−ピリジル)エタンチオール等の2−ピリジルエタンチオール類;3−(2’−ピリジル)プロパンチオール及び2−(2’−ピリジル)プロパンチオール等の2−ピリジルプロパンチオール類;4−(2’−ピリジル)ブタンチオール、3−(2’−ピリジル)ブタンチオール及び2−(2’−ピリジル)ブタンチオール等の2−ピリジルブタンチオール類;2−クロロ−2−(2’−ピリジル)エタンチオール及び2−ブロモ−2−(2’−ピリジル)エタンチオール等のハロゲン置換チオール類等が挙げられ、これらのうち、2−ピリジルエタンチオール類が好ましく、なかでも特にエタンチオールの2−位に2−ピリジル基がついた2−(2’−ピリジル)エタンチオールが好ましい。
また、本発明における3−ピリジルアルカンチオール化合物類は、ピリジン環の3位がメルカプトアルキル基又はチオール部位が保護されたチオアルキル基で置換されている化合物であり、3−ピリジルアルカンチオール化合物類のピリジン環及びアルキル鎖は任意の置換基や原子で置換されていてもよい。また、チオール部位の保護基及び保護する方法としては、上記2−ピリジルアルカンチオール化合物類に関して説明したものと同じ保護基及び保護する方法が挙げられる。
また、好ましい3−ピリジルアルカンチオール化合物類は、下記一般式(III)で示される化合物である。
一般式(III)中、R6は、炭素数が1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表わし、アルキレン基の一部がハロゲン原子で置換されていてもよい。R7〜R10はそれぞれ独立に水素原子、炭素数が1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基又はハロゲン原子を示す。またXは、水素原子、アルキル基、アシル基、カーボネート基、ベンジル基、又はアセタール基を示す。
一般式(III)におけるR6としては、一般式(II)におけるR1と同様のものが挙げられ、一般式(III)におけるR7〜R10しては、一般式(II)におけるR2〜R5と同様のものが挙げられる。
上記構造式(III)においてR6がアルキレン基であり、R7〜R10及びXがHである3−ピリジルアルカンチオール化合物類としては、具体的には3−ピリジルメタンチオール;2−(3’−ピリジル)エタンチオール及び1−(3’−ピリジル)エタンチオール等の3−ピリジルエタンチオール類;3−(3’−ピリジル)プロパンチオール及び2−(3’−ピリジル)プロパンチオール等の3−ピリジルプロパンチオール類;4−(3’−ピリジル)ブタンチオール、3−(3’−ピリジル)ブタンチオール及び2−(3’−ピリジル)ブタンチオール等の3−ピリジルブタンチオール類;2−クロロ−2−(3’−ピリジル)エタンチオール及び2−ブロモ−2−(3’−ピリジル)エタンチオール等のハロゲン置換チオール類等が挙げられ、これらのうち、3−ピリジルエタンチオール類が好ましく、なかでも特にエタンチオールの2−位に3−ピリジル基がついた2−(3’−ピリジル)エタンチオールが好ましい。
尚、本発明のスルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒は、スルホン酸基の一部が2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類のいずれか1の化合物で変性されていても、両方の化合物で変性されていても良い。また、変性に使用する2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類は、夫々単独で使用しても複数種を使用してもよい。
但し、触媒を変性する容易さ及び触媒活性の点からは、スルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒のスルホン酸基の一部が2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類のいずれか1で変性されているのが好ましく、中でも2−ピリジルアルカンチオール化合物類で変性されているのが好ましい。
2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1で、スルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒のスルホン酸基の一部を変性することにより、触媒の劣化が抑制され、長期間に渡って高い転化率を保ったままで使用が可能となる。
4−ピリジルアルカンチオール化合物類と2−ピリジルアルカンチオール化合物類とを比較すると、これらは単なる異性体なので、化合物の安定性はほぼ同程度であると予想される。そのため、従来は初期活性が高い4−ピリジルアルカンチオール化合物類が、有効な助触媒として検討され、使用されてきた。しかしながら今回の検討により、2−ピリジルアルカンチオール化合物類は熱によるチオールからスルフィドへの変質が起こりにくいことが判明した。そのため、ビスフェノール類の生成反応は発熱反応なので、触媒が継続的に熱にさらされることにより、ピリジルアルカンチオールが徐々にスルフィドに変質し、触媒性能が劣化するが、2−ピリジルアルカンチオール化合物によりスルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性することにより、長期間高活性の状態を保ったままで触媒を使用できる。
さらに、2−ピリジルアルカンチオール化合物類で陽イオン交換樹脂を変性した触媒は、不純物をある程度含有するフェノールを用いても、不純物をほとんど含まない純フェノールの場合と同様に、変性剤として従来から知られている2−アミノエタンチオールに代表されるアミノアルカンチオール化合物類や4−ピリジルアルカンチオール化合物類等で陽イオン交換樹脂を変性した触媒に比べて、長時間活性を維持することができる。
(3−3)2−ピリジルアルカンチオール化合物類の製造方法
本発明で使用する、2−ピリジルアルカンチオール化合物類は、市販品、または特開2002−003475号公報、特開2002−220373号公報及び特開2005−170820号公報などに記載されている方法に代表される公知の方法に準じて製造したもののうち、いずれを使用してもよい。
(3−3−1)2−ピリジルエタンチオールの製造方法
本発明で使用する2−ピリジルエタンチオールの製造は、2−ビニルピリジンと含硫黄化合物とを用いて、常法に従って行うことができる。
例えば、含硫黄化合物としてチオ尿素を用いてイソチウロニウム塩を得、得られたイソチウロニウム塩を加水分解する方法、含硫黄化合物としてチオ酢酸を使用し、ピリジルエチルチオアセテートを得る方法、また含硫黄化合物として硫化水素を使用し、ピリジルエタンチオールを得る方法等を挙げることができる。
以下、含硫黄化合物としてチオ尿素を用いた例を代表例として説明する。
まず、酸の存在下に2−ビニルピリジンとチオ尿素とを反応させ、下記一般式(IV)で表されるイソチウロニウム塩を得る。
一般式(IV)中、X−は用いた酸の残基である。
ここで、酸としては、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びトリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸、硫酸、塩酸、並びに硝酸などの一般的な無機酸等が使用される。これら中では、取り扱いの容易な点から、パラトルエンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸や硫酸が好ましく、特に、パラトルエンスルホン酸又は硫酸が好ましい。
酸は、2−ビニルピリジンに対し、化学量論量以上となるように使用されるが、大過剰に使用した場合は、副反応を起す可能性があるため、2−ビニルピリジンに対し、通常4当量以下、好ましくは3当量以下となるように使用される。また、チオ尿素は、2−ビニルピリジンに対し化学量論量ないしこれより若干過剰に使用されるが、2−ビニルピリジンに対し、通常1.5当量以下、好ましくは1.3当量以下である。
2−ビニルピリジンとチオ尿素の反応は、反応溶媒中に酸とチオ尿素を加えて溶解させた後、撹拌下に2−ビニルピリジンを滴下し、好ましくは窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われる。反応液中の酸の濃度は、反応操作の容易性が損われない限度で高い方が好ましく、硫酸であれば、通常5〜50重量%、好ましくは20〜40重量%である。また、反応温度は、通常30〜100℃、好ましくは50〜100℃であり、反応時間は通常1〜10時間である。
前記反応溶媒としては、例えば、アルコール等の有機溶媒又は水性溶媒が挙げられる。
また、水と炭化水素系溶媒の存在下で2−ビニルピリジンとチオ尿素を反応させるのが好ましい。水と共に反応溶媒として用いる炭化水素系溶媒は、水に不溶性で、水と相分離し得るものであればよく、例えば、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロエタン及び四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素などが使用される。これらの炭化水素系溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、チオール化合物の溶解度の観点からトルエンが好適である。
前記炭化水素系溶媒と水の存在下に2−ビニルピリジンとチオ尿素とを反応させることによる2−ピリジルエタンチオールの収率の向上及びポリマーの生成の防止の効果が奏される作用機構の詳細は明らかではないが、2−ビニルピリジンが希釈されることで重合速度が遅くなり、ポリマーの生成量が減少することによるものと推定される。
炭化水素系溶媒の使用量は、2−ビニルピリジンに対し、好ましくは0.5〜10容量倍、より好ましくは1〜3容量倍である。炭化水素系溶媒の使用量が少な過ぎると、ポリマーの生成を抑制する効果が小さく、収率の低下、装置内への固形物(ポリマー)の付着、更には配管の閉塞などの問題が生じる。炭化水素系溶媒の使用量が多すぎると、反応液量が多くなるため、過大な反応設備が必要となり、設備投資に多大な費用が掛かる。また、炭化水素系溶媒は反応後蒸留により除去する必要があるため、使用量が多いと蒸留のコストが掛かる。
一方、水の使用量は、2−ビニルピリジンに対し、好ましくは1〜20容量倍、より好ましくは3〜10容量倍である。水の使用量が少な過ぎると、酸の濃度が高くなることにより副反応が起こりやすくなり選択性が低下するなどの問題が生じる。また、水の使用量が多すぎると、酸の濃度が低くなることにより、2−ビニルピリジンとチオ尿素との反応が著しく遅くなり、2−ビニルピリジンの重合反応などの副反応が起こりやすくなり、収率低下などの問題が生ずる。また反応液量が多くなるため、過大な反応設備が必要となり、設備投資に多大な費用が掛かる。
また、炭化水素系溶媒と水の使用量比については、容量比で、炭化水素系溶媒:水=1:1〜10、特に1:2〜5の範囲とすることが好ましい。この範囲よりも水が多く、炭化水素系溶媒が少ないとポリマーの生成を抑制する効果が小さくなり、特に本発明の効果が得られにくい場合がある。逆にこの範囲よりも炭化水素系溶媒が多く、水が少ないと、上記水の必要量を確保するために反応液量が多くなるため、過剰な反応設備が必要となり、設備投資に多大な費用がかかるということがある。
反応系に反応溶媒として水と炭化水素系溶媒とを存在させる方法には特に制限はなく、例えば、予め2−ビニルピリジンと炭化水素系溶媒とを混合し、それをチオ尿素を溶解した酸水溶液へ加えても良く、また、炭化水素系溶媒をチオ尿素を溶解した酸水溶液へ加えて、油水二相としておき、そこへ2−ビニルピリジンを加えてもよい。また、炭化水素系溶媒の一部をチオ尿素を溶解した酸水溶液へ加えて油水二相としておき、そこへ2−ビニルピリジンと炭化水素系溶媒の残部とを混合したものを加えてもよい。
次いで、イソチウロニウム塩の生成反応が完了した後、得られたイソチウロニウム塩をアルカリ加水分解して、下記一般式(V)で表される2−ピリジルエタンチオールを得る。
イソチウロニウム塩の加水分解反応は、具体的には、上記のイソチウロニウム塩生成の反応液にアルカリを加えて液性をアルカリ性にすることにより行われる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物を使用することもできるが、アンモニアを使用するのが好ましい。アンモニアを使用した場合、分解反応は下記のように進行する。
上記反応式中、X−は一般式(IV)におけると同義である。
アンモニアの所要量は、イソチウロニウム塩に対して化学量論上は2倍モルであるが、反応を十分に進行させるため、通常は過剰に使用する。アンモニアの使用量は、具体的には、イソチウロニウム塩溶液中に存在する前工程の酸を中和するのに要する量に加え、原料として使用した2−ビニルピリジンに対し、通常3〜15倍モル、好ましくは3〜5倍モルである。アンモニアの使用量が多過ぎる場合は一般に収率が低下するが、これは生成した2−ピリジルエタンチオールが副反応を起すためと推定される。なお、アンモニアは、通常、取扱いの容易なアンモニア水として使用されるが、その濃度は、後続する濾過及び抽出工程での操作性を考慮して適宜に決定すればよい。通常は5〜28重量%程度のアンモニア水が使用される。
なお、この加水分解反応において、必要に応じて、イソチウロニウム塩生成反応液に対して、後述の抽出溶媒となる有機溶媒を水相に対して0.1〜1倍量程度加えて希釈してもよく、これによりさらにポリマーの生成量を抑えるという効果が得られる。
イソチウロニウム塩から2−ピリジルエタンチオールへの加水分解反応は、撹拌下、30〜70℃の温度で0.5〜10時間で完了する。この加水分解反応は室温でも進行するが反応速度が遅く、一方、高温で反応を行うと、副反応が起きて収率が低下する傾向となる。
反応終了後は、酸として芳香族スルホン酸を使用した場合は、反応生成液を10℃程度まで冷却し、副生したグアニジニウム塩を析出させ、更にトルエン等の抽出溶媒を加えて濾過し、不溶物を除去する。濾滓は、更に抽出溶媒で洗浄し、洗浄液は濾液と合体させる。次いで、濾液を分液し、抽出溶媒相を回収する。
一方、酸として硫酸などの無機酸を使用した場合は、冷却によってグアニジウム塩は析出しないため、上記の濾過を省略し、有機溶媒による抽出操作を直接行えばよい。
上記の何れの場合も、水相は、更に抽出溶媒で抽出し、得られた抽出溶媒相を先に得られた抽出溶媒相と合体する。合体した抽出溶媒相から抽出溶媒を留去した後、残液を減圧蒸留することにより、目的とする2−ピリジルエタンチオールを得ることができる。
また、本発明によらない、炭化水素系溶媒の不存在下に得られた2−ピリジルエタンチオールをそのまま用いてスルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性し、酸性触媒として使用しようとすると、上記反応中に精製したポリマーがスルホン酸型陽イオン交換樹脂の表面に付着し、触媒性能が十分に発揮されないおそれがある。
本発明においては、2−ビニルピリジンと含硫黄化合物とを反応させて2−ピリジルエタンチオールを得る場合に、2−ビニルピリジンを含む2量体以上のポリマー含有量が2重量%以下である2−ビニルピリジンを使用することが好ましい。このようなポリマー含有量の少ない2−ビニルピリジンを用いて、固着物の問題を引き起こすことなく、2−ピリジルエタンチオールを高収率で製造することができる。
また、本発明によらない、2−ビニルピリジンを含む2量体以上のポリマー含有量が2重量%を超えた2−ビニルピリジンを使用して得られた2−ピリジルエタンチオールをそのまま用いてスルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性し、酸性触媒として使用しようとすると、残存するポリマーがスルホン酸型陽イオン交換樹脂の表面に付着し、触媒性能が十分に発揮されないおそれがある。
(3−3−2)2−ビニルピリジンの製造方法
本発明において、2−ピリジルエタンチオールの原料である2−ビニルピリジンは次の製造方法により製造するのが好ましい。
2−ビニルピリジンは、ビニル基とピリジン環の窒素原子の位置とから、2−ビニルピリジンの合成中及びその後の保存中に重合し易く、ポリマーが多くなり易い。しかしながら、このようなポリマーが生成し易い2−ビニルピリジンであっても、2−ビニルピリジンに含有されているポリマーを2重量%以下とすることによって本発明による効果が有効に発揮される。
本発明における2−ビニルピリジン中に含まれるポリマーとは、合成時又はその後の製品2−ビニルピリジンを保存している間に2−ビニルピリジン同士や重合性の不純物が重合することにより生成した2量体以上のポリマーである。
2−ピリジルエタンチオールの原料として用いる2−ビニルピリジンに含有されているポリマーが2重量%よりも多いと、2−ピリジルエタンチオールを製造した際に、仕込みの原料当たりの生産量が低下すると共に、固形分の生成量が多く、配管の閉塞トラブルや装置内に付着した固形分を除去するために洗浄が必要となるなど、生産効率の大幅な低下を招く。
2−ビニルピリジン中のポリマー含有量が2重量%以下であれば、2−ピリジルエタンチオールを高い収率で得ることができ、また、固形分の析出量が少ないため、配管の閉塞が起こり難く、装置内に付着した固形分を除去するための洗浄頻度の低減ないしは洗浄を不要とすることができるため、高い生産効率を維持できる。
2−ビニルピリジンに含有されているポリマーは少ない程好ましく、1.0重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以下であることが更に好ましい。ただし、極端に低濃度とするためには、後述の精製操作を高度に行う必要があり、また、使用する直前に再度蒸留精製を行う必要があるなど、精製や蒸留によるコストがかかり過ぎる。或いは、保存中にポリマーの生成を抑制するため、多量の重合禁止剤を用い、極低温で保存する必要があるなど、保管、運搬時のコストが高騰する上に、そのコストに見合う効果も得難いことから、2−ビニルピリジンに含有されるポリマーの下限は100重量ppmであるのが好ましい。
2−ビニルピリジン中のポリマーの定量方法としては、これらのポリマーのうち、2量体及び3量体等の分子量の小さいものはNMR(核磁気共鳴)、GC(ガスクロマトグラフィー)及びLC(液体クロマトグラフィー)等で直接定量することができる。
一方、高分子量のポリマー、具体的には4量体以上のポリマーの定量方法としては、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて、UV(紫外線)検出器及びRI(示差屈折率)検出器等で検出されるピークを元に算出する方法が挙げられる。また、モノマーとポリマーとの有機溶剤に対する溶解度の差を利用して、再沈法によりポリマーを分離し、分離回収したポリマーの重量を秤量することにより定量する方法などが挙げられる。
なお、ここで言う高分子量のポリマーの分子量は、GPCで測定したピークを元に標準ポリスチレンサンプルを用いて算出することができる。
2−ビニルピリジン中に含まれるポリマーは、直接2−ビニルピリジンの純度に影響し、2−ピリジルエタンチオールの収率を低減する原因となる。当該ポリマーのうち、特に分子量2000以上の高分子量ポリマーは、2−ピリジルエタンチオールの製造系内でそのまま、或いは更に重合したり、他の物質と反応して反応溶媒に溶解しない固形分を生成する要因となる。そのため、本発明で用いる2−ビニルピリジンは、2−ビニルピリジンを含む2量体以上のポリマーの中でも、特に分子量2000以上の高分子量ポリマーの含有量が1.0重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましい。
従って、例えば、後述の実施例の項で示されるGPC法で定量されたポリマー含有量が1.0重量%以下、特に0.5重量%以下であり、再沈法により定量されたポリマー含有量が1.0重量%以下、特に0.5重量%以下である2−ビニルピリジンを用いることが好ましい。これらの高分子量ポリマーの下限についても、前記ポリマーと同様の理由で100重量ppmであるのが好ましい。
前記2−ビニルピリジンに含有されるポリマーを2重量%以下とする方法としては特に制限はないが、通常は蒸留による精製手段が採用される。例えば、減圧蒸留設備を使用して2−ビニルピリジンの精製を行う。具体的には、段数が通常1段以上、好ましくは2〜10段相当の蒸留塔、好ましくは充填塔を使用し、塔頂温度が好ましくは30〜150℃となるように圧力などの条件を調節して蒸留を行えばよい。
また、精製した2−ビニルピリジンは、保存中にポリマーが生成するのを防ぐために、tert−ブチルピロカテコールやヒドロキノンなどの重合禁止剤を100〜1000重量ppm程度加え、−5℃程度以下の低温、例えば−5℃〜−40℃で保存することが好ましい。
(3−3−3)含硫黄化合物
本発明において、2−ピリジルエタンチオールの原料である含硫黄化合物の種類は、特に限定されず、2−ビニルピリジンとの反応の結果、2−ピリジルエタンチオールを生成させるものであればよい。含硫黄化合物の具体例としては、チオ尿素、チオ酢酸、硫化水素及び硫化ナトリウムなどが挙げられる。好ましくは、チオ尿素又はチオ酢酸であり、その中でも、取り扱いの容易さ、及び反応収率の点で、チオ尿素が特に好ましい。
(3−4)3−ピリジルアルカンチオール類の製造方法
本発明で使用する、3−ピリジルアルカンチオール類は、任意の方法で合成することができる。例えば、対応する3−ピリジルアルカノール類の末端水酸基をハロゲン化チオニルなどでハロゲン化し、得られたハロゲン化アルキル誘導体をアルカリ金属チオアセテートやチオ尿素などと反応させることにより得ることができる。
具体的には、3−ピリジル酢酸を出発物質として用いた場合、3−ピリジル酢酸を塩化チオニルとメタノールとで反応させることにより、メチルエステル体とし、さらに水素化ホウ素ナトリウムで還元することにより3−ピリジルエタノールを得る。得られた3−ピリジルエタノールと塩化チオニルとの反応により、対応する塩化物を合成し、さらに、得られた塩化物とチオ酢酸カリウムとの反応によりチオエステル体を合成する。得られたチオエステル体をリチウムアルミニウムハイドライドで還元処理することにより、3−ピリジルエタンチオールを得ることができる。
(3−5)酸性触媒の製造方法
(3−5−1)2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1によるスルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性
本発明に用いる酸性触媒は、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1により、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性することにより得ることができる。
2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1によるスルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性割合は、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の全スルホン酸基の3モル%以上とするのが好ましく、5モル%以上とするのがより好ましい。また70モル%以下とするのが好ましく、50モル%以下とするのが更に好ましく、30モル%以下とするのが特に好ましい。これにより、反応に必要なスルホン酸基の量の低下による活性低下を引き起こすことなく、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1が助触媒として働く効果を最大限に発現させることができる。
2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1によるスルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性割合が小さすぎる場合は、助触媒による反応性の向上効果が低くなる傾向にあり、長期に亘って触媒の活性を継続し得るという効果が不十分となる傾向にある。また変性する割合が大きすぎる場合は、反応に関与するスルホン酸基の量が少なくなるので、反応性が低下する傾向がある。また経済的にも高価なチオール化合物を多く使用することになる。
尚、スルホン酸型陽イオン交換樹脂のスルホン酸基が、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の両方で変性されている場合の、2−ピリジルアルカンチオール化合物類と3−ピリジルアルカンチオール化合物類との割合は、特に限定されない。但し、上述の通り、何れか一方で変性されているのが好ましい。
又、これらの2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1で陽イオン交換樹脂のスルホン酸基を変性させる方法は、公知の方法、例えば、特開平11−246458号公報等に示されている方法に準じて、水、アルコール、ケトン、エーテル及びフェノール等の溶媒に、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及びは3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1を溶解させた溶液、または溶媒により希釈されていない2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1を直接、上記溶媒中に分散させたスルホン酸型陽イオン交換樹脂に滴下するなどの方法により混合し攪拌する方法、等により行われる。当該方法により、スルホン酸型陽イオン交換樹脂のスルホン酸基の一部とチオール化合物とが反応(中和)し、イオン結合することで変性されることとなる。
本発明におけるビスフェノール化合物製造用の酸性触媒として使用するスルホン酸型強陽イオン交換樹脂は、樹脂内に水分が残留していると反応時の阻害要因となるため、反応に使用する前に原料であるフェノール化合物と接触させることによりイオン交換樹脂内の水分を除去しておくのが好ましい。このような処理により、反応開始時の誘導期間が短くなり、速やかに反応に使用できるようになる。
(3−5−2)2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物による、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性
本発明で使用する酸性触媒は、以下の工程を経ることにより得てもよい。
(I)2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物を用いてスルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性する変性工程
(II)工程(I)の変性時及び変性後の少なくともいずれかに、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物のチオエステル部分を、40℃以上100℃以下の温度で加水分解する加水分解工程
以下、各工程について説明する。
(I)2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物を用いてスルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性する変性工程
2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類は特に限定されるものではなく、後述の陽イオン交換樹脂のスルホン酸基とイオン結合を形成する化合物であればよい。例えば、3−ピリジルメタンチオール、2−ピリジルエタンチオール、3−ピリジルエタンチオール等が挙げられる。特に、2−ピリジルエタンチオール及び3−ピリジルエタンチオールが転化率や選択率の向上及び長期に亘って使用した場合の活性低下が少ないことから好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、前記2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類は精製された高純度のものを用いるのが好ましいが、変性後の強酸性陽イオン交換樹脂を触媒として使用する際に反応を著しく阻害しない範囲で、ジスルフィド体等の不純物を含んでいてもよい。
チオール基を保護するアシル基としては以下のような構造のものが挙げられる。
上記式(VI)中、Raの例としては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル及びtert−ブチルなどの炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基、又は水素原子が挙げられ、これらの炭化水素基にフェニルなどの芳香族基、ハロゲン原子及びその他の種々の官能基などが更に結合していてもよい。
これらのうち、合成の容易さなどからRaがメチルであるアセチル基が特に好ましい。アセチル基が加水分解反応により脱離すると酢酸が生成する。
即ち、本発明で用いる2−ピリジルアルカンチオール化合物類のチオール基をアシル基で保護した化合物としては、2−ピリジルエチルチオアセテートが好ましい。また、3−ピリジルアルカンチオール化合物類のチオール基をアシル基で保護した化合物としては、3−ピリジルエチルチオアセテートが好ましい。
なお、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類のチオール基をアシル基で保護した化合物は公知の方法で合成することができ、例えば、米国特許第2,607,776号明細書に記載の方法で合成することができる。
一般に、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の末端硫黄原子に結合された保護基は、末端硫黄原子の酸化を抑制するために存在している。通例、保護されないチオール基は、保管中、合成中又はスルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性反応条件下等で容易に酸化されてジスルフィドになり、それにより助触媒としての性能が低下する。また、硫黄部位が保護された2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類は、硫黄部位が保護されていない2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類に比べ臭気が大幅に低減される。本発明で用いる2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物においても同様の効果を有するばかりではなく、容易に加水分解されることにより助触媒として有用なチオール基を効率的に生成することができるという利点を有する。
なお、本発明において、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性に用いる2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物は、1種類の2−ピリジルアルカンチオール化合物類または3−ピリジルアルカンチオール化合物類由来のものであってもよく、2種以上の2−ピリジルアルカンチオール化合物類または3−ピリジルアルカンチオール化合物類に由来するものであってもよい。また、チオール基を保護するアシル基についても、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
前記のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物で変性するには、適当な有機溶媒及び水系溶媒の少なくともいずれか1の存在下にスルホン酸型陽イオン交換樹脂と当該化合物とを反応させればよい。用いる反応溶媒としては、スルホン酸型陽イオン交換樹脂のスルホン酸基と酸塩基反応を引き起こすようなものでなければよく、特に制限はない。
反応溶媒として使用し得る溶媒としては、例えば、水、並びにアルコール、ケトン、エーテル及びフェノール等の極性の高い有機溶媒が好ましい溶媒として挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、より均一に変性させる目的で、酢酸、モノクロロ酢酸及びトリフルオロ酢酸等を溶解させた溶媒を用いてもよく、これらを水に溶解させた溶媒として用いるのが好ましい。
変性と同時に加水分解を行うことができることから、変性は水の存在下に行うことが好ましく、例えば、水と、他の有機溶媒との混合溶媒中、又は水溶媒中で変性反応を行うことが好ましい。
変性反応温度は、使用する溶媒の沸点を超えない範囲であれば、特に制限はないが、温度が高すぎると、変性に使用する2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物が反応して副反応などを起こし、収率が低下する場合があるので、加熱、冷却操作の必要のない常温が好ましい。ただし、変性と同時に加水分解を行う場合には、この変性は、後述の加水分解温度で行う。
変性反応はバッチ式でも連続式でも何れも使用可能であるが、装置や操作が簡便なバッチ式が好ましい。また、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1の酸化による劣化を防止するためにも、窒素などの不活性ガス雰囲気下で変性反応を行うことが好ましい。
連続式の場合、例えば、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を固定床として、変性剤である2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物が溶解した溶液を流通させる方法が挙げられる。ただし、この場合、全体を均一に変性させることが困難な場合がある。
バッチ式の場合には、例えば反応器の中にスルホン酸型陽イオン交換樹脂と水及び有機溶媒の少なくともいずれか1の溶媒を入れて、更に変性剤を添加する方法等を用い、スルホン酸型陽イオン交換樹脂、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物及び溶媒の混合反応系を形成して、攪拌しながら変性を行うのが好ましい。
特に水を溶媒として用いると、変性剤である2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物と水とが2相に分離していても、攪拌することによって液滴として水中に分散し、それらが徐々に水に溶解して均一に変性される。また、加水分解で副生したカルボン酸が水に溶解し、容易に除去することができるので好ましい。
溶媒の使用量としては、用いる溶媒の種類によっても異なるが、スルホン酸型陽イオン交換樹脂に対して重量で0.5〜100倍とすることが好ましく、1〜10倍とすることがより好ましい。溶媒使用量がこの範囲よりも多いと廃液量の増加や巨大な設備が必要となるので好ましくなく、少ないとスルホン酸基を均一に変性することが困難な場合があるので好ましくない。
変性時間は、変性のみを行う場合と、変性と加水分解とを同時に行う場合とで異なる。変性のみを行う場合は、変性時間を0.5〜4時間とすることが好ましく、1〜3時間とすることがより好ましい。また、変性と加水分解を同時に行う場合は、変性時間を0.5〜6時間とすることが好ましく、1〜4時間とすることがより好ましい。反応時間が短か過ぎると、目的の反応が十分に進行せず、過度に長くてもそれ以上の反応の進行は望めず、効率的でない。
なお、変性に用いる2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物の量は、所望の変性率に応じて適宜決定する。
(II)工程(I)の変性時及び変性後の少なくともいずれかに、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物のチオエステル部分を、40℃以上100℃以下の温度で加水分解する加水分解工程
工程(II)において、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物のチオエステル部分は水を含む溶媒の存在下で加水分解する。使用可能な水以外の溶媒としては、例えば、前記の変性工程に用いる溶媒が挙げらる。当該溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、当該溶媒は、加水分解に必要な水量を確保するために、水と他の溶媒との混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中の水含有率は1重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。好ましくは、加水分解は、水溶媒中で行う。
溶媒の使用量としては、用いる溶媒の種類によっても異なるが、スルホン酸型陽イオン交換樹脂に対して重量で0.5〜100倍とすることが好ましく、1〜10倍とすることがより好ましい。溶媒使用量がこの範囲よりも多いと廃液量の増加や巨大な設備が必要となるので好ましくなく、少ないと加水分解(チオール基の脱保護反応)が十分に進行しない場合があり、好ましくない。
2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物におけるチオエステル部分の加水分解は、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜95℃、更に好ましくは60〜90℃、最も好ましくは70〜85℃の範囲で行うことが好ましい。
前記範囲より低い温度では加水分解に長時間を要するか、大量の水が必要になる。即ち、加水分解温度が40℃未満の場合においても、加水分解反応は進行するが、反応速度は低くなるので、反応完了まで多大な時間や水を費やすことになり、実用的ではない。また、加水分解の温度が高いほど、加水分解の反応速度が速くなるので短時間で加水分解が可能になり好ましいが、ある温度からは高くしても反応速度は頭打ちとなり、その効果は制限される。
また、水溶媒系で反応させる場合、100℃より高い温度で行う場合には、液相を維持するために加圧の設備が必要になり、設備投資に多大な費用が掛かる。更には、温度が高すぎると、陽イオン交換樹脂からのスルホン酸基の脱離や、樹脂自体の劣化が懸念される。
前記加水分解反応は、バッチ式であっても連続式であっても良いが、装置及び操作が簡便なバッチ式が好ましい。
連続式の場合は、例えば変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂の固定床に水を流すことにより行われるが、一般に大量の水が必要になることが多い。この場合の通水条件は、反応温度にもよるが、通常は液空間速度(LHSV)が0.01〜10hr−1、特に0.1〜5hr−1とするのが好ましい。
バッチ式の場合、例えば変性後のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を水溶媒中で攪拌することにより行うことができるが、その反応時間は、0.5〜6時間、特に1〜4時間とすることが好ましい。
いずれの場合も、反応時間が短か過ぎると加水分解が十分に進行せず、目的とする加水分解の転化率の高い酸性触媒を得ることができず、長過ぎてもそれ以上の加水分解反応の進行は起こらず、処理時間が徒に長くなり効率的でない。
本発明においては、特に水溶媒中で、スルホン酸型陽イオン交換樹脂と変性剤である2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物とを、加温下に攪拌することにより、変性と加水分解とを同時に行うことが好ましい。その場合には、前述の如く、スルホン酸型陽イオン交換樹脂に対して重量で好ましくは0.5〜100倍、より好ましくは1〜10倍の水を加え、当該水/樹脂混合系内に変性剤である当該化合物を添加し、40〜100℃、好ましくは50〜95℃、より好ましくは70〜85℃で、0.5〜6時間、特に1〜4時間攪拌することが好ましい。
本発明において、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物による、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性の割合(変性率)は、前記した2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1によるスルホン酸型陽イオン交換樹脂の変性と同様に、特に制限はないが、スルホン酸型陽イオン交換樹脂の全スルホン酸基の3mol%以上とするのが好ましく、5mol%以上とするのがより好ましい。また70mol%以下とするのが好ましく、50mol%以下とするのが更に好ましく、30mol%以下とするのが特に好ましい。
前記変性率は、変性反応において、スルホン酸型陽イオン交換樹脂に対する変性剤である2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物の使用量及び反応時間等を調整することにより制御することができる。
また、2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1のチオール基をアシル基で保護した化合物で変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂の加水分解の転化率(スルホン酸型陽イオン交換樹脂に導入されたアシル基のうち、加水分解によりチオール基に変換される割合)は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
前記転化率が低い場合には、ビスフェノール化合物の製造反応過程でカルボン酸もしくはカルボン酸誘導体が遊離してプロセス内に混入し、ビスフェノール化合物の分解や2,4’−ビスフェノール化合物に代表されるような異性体の生成などによる品質低下や製造装置の腐食の原因となる。この転化率は理想的には100%である。この転化率は、本発明で採用される変性温度40〜100℃の範囲内で変性時間を調整することにより達成することができる。
(4)フェノール化合物とカルボニル化合物との反応
本発明では、前述の2−ピリジルアルカンチオール化合物類及び3−ピリジルアルカンチオール化合物類の少なくともいずれか1により変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂を反応器に充填し、該反応器にフェノール化合物とカルボニル化合物とを連続的に供給し、これらを反応させてビスフェノール化合物を製造する。
また、本発明では長期間に亘って触媒を使用した場合に、触媒活性の低下が少なく、長期間に亘って高い転化率を維持したまま使用できるという顕著な効果を有する。ここで長期間とは、純度の高いフェノール化合物では2000時間以上であることをいい、フェノール化合物の少なくとも一部がビスフェノール化合物を精製するに際し得られたフェノールである場合は300時間以上であることをいう。
本発明における前記フェノール化合物と前記カルボニル化合物との反応方式は前記スルホン酸型強陽イオン交換樹脂を酸性触媒として充填した反応器にフェノール化合物とカルボニル化合物とを連続的に供給して反応を行う方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、固定床流通方式、流動床方式、及び連続撹拌方式のいずれでもよい。
固定床流通方式、流動床方式、及び連続撹拌方式でフェノール化合物とカルボニル化合物の反応を行う場合には、原料混合物の供給は、フェノール化合物湿潤状態のスルホン酸型強陽イオン交換樹脂を基準として、通常LHSV0.05hr-1以上、好ましくは0.2hr-1以上で行なう。また通常20hr-1以下、好ましくは10hr-1以下で行う。
また固定床流通方式でフェノール化合物とカルボニル化合物の反応を行う場合、必要に応じて装置の上部及び下部の少なくともいずれか一方にスクリーンなどを設けて充填したスルホン酸型強陽イオン交換樹脂が装置外に留出せずに反応液だけが流通できるようにしてもよい。反応液は装置の上部から下部に流しても(ダウンフロー式)、装置の下部から上部に流しても(アップフロー式)もよい。
フェノール化合物とカルボニル化合物は別々に反応器に供給してもよく、混合して供給してもよい。
本発明では、フェノール化合物とカルボニル化合物とをスルホン酸型強陽イオン交換樹脂を充填した反応器に連続的に供給してビスフェノール化合物を製造する。反応方式としては、回分方式も知られているが、連続的に反応させることにより、回分方式で反応を行なう場合に比べ、効率よくビスフェノール化合物を製造することができる。
反応温度は、通常、反応溶液が固化せずに液状で存在しうる温度で行なわれ、フェノール化合物がフェノールの場合は好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上である。反応温度が高いほど、反応速度的には有利であるが、イオン交換樹脂の耐熱温度の点から反応器内の最高温度が好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下となるような条件で反応させるのが好ましい。反応温度が高くなるとスルホン酸型強陽イオン交換樹脂の耐熱温度以下でも部分的に分解などによりスルホン酸基の脱離などが起こるので、このような観点からは、できるだけ低い温度が好ましいが、温度が低すぎると生成したビスフェノール化合物が固化する場合がある。
本発明のビスフェノール化合物の製造方法に使用するフェノール化合物(後述の、ビスフェノール製造プロセス内で回収・使用される以外のフェノール化合物)は、純度が高いものであればそのまま使用することもできるが、一般的には精製した後に使用するのが好ましい。フェノール化合物の精製方法としては特に制限はないが、例えばフェノール化合物を40〜110℃で一般的なスルホン酸型陽イオン交換樹脂のような酸性触媒と反応させ、フェノール化合物中に含まれる不純物を重質化させた後に蒸留して重質分を除去する方法などが挙げられる。このようにして得られるフェノール化合物は、反応器へ供給することにより反応原料として使用される。
また、本発明のビスフェノール化合物の製造方法に使用するフェノール化合物としては、ビスフェノール化合物の製造工程で回収されたものをリサイクルして使用することも可能であり、リサイクルされるフェノール化合物としては、反応生成液から目的とするビスフェノール化合物を分離したフェノール溶液(ビスフェノール化合物を晶析などによって固化し、固液分離工程にて固液分離する方法によってビスフェノール化合物を分離した場合には、この液は、一般的に「母液」と呼ばれているが、その他にも蒸留などによって分離する方法もあり、これらに限定されるものではない)を用いることができる。尚、上記の如く精製されたフェノール化合物は、固液分離工程で得られた結晶の洗浄液として使用し、母液と共に反応器へリサイクルする等、プロセスに応じて所望の方法で使用することもできる。
その際に全量もしくは一部を分離して、酸やアルカリの触媒で処理をした後に重質分などの不純物を除去したり、更にビスフェノール化合物を回収した後にビスフェノール化合物の原料として用いることが好ましい。プロセス内で回収されたフェノール化合物をリサイクルして固液分離工程で得られた結晶の洗浄液として使用する際は、一般的には精製した後、使用するのが好ましい。
尚、実験室などの小さなスケールでは、原料として用いるフェノール化合物として精製した高純度のフェノール化合物なども用いられるが、工業レベルのスケールでは、通常、プロセス内で回収されたフェノール化合物をリサイクルさせて使用するのが有利である。
上記の通り、精製されたフェノール化合物を用いれば不純物の生成も少なく反応に有利であり、触媒の失活を防止することが出来るのは一般的に知られていることであり、本発明の方法においても同様である。しかしながら、本発明においては、必要とするフェノール化合物以外の化合物が特定の濃度で反応器に供給された場合は更に、4−ピリジルエタンチオールに比べて長期間に亘り高転化率及び高選択率で安定してビスフェノール化合物を連続的に製造できることが判明した。
特にフェノール化合物がフェノールであり、かつビスフェノールA(4,4’−ビスフェノールA)、2,4’−ビスフェノールA及びp−イソプロピルフェノールの少なくとも1がフェノールと共に反応器に供給される場合に、本発明の方法は、変性剤として従来から知られている2−アミノエタンチオールや4−ピリジルエタンチオールでスルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性した触媒を使用する方法に比べて、長時間活性を維持できるので好ましい。本発明はこのような特徴を有するので、フェノール化合物の少なくとも一部が、ビスフェノール化合物を精製するに際し得られたフェノール化合物である場合、即ち、上記のようなプロセス内で回収されたフェノール化合物をリサイクルさせて使用する場合に、特に好ましい。
本発明において、フェノール化合物がフェノールであり、かつビスフェノールA(4,4’−ビスフェノールA)、2,4’−ビスフェノールA、及びp−イソプロピルフェノールの少なくとも1がフェノールと共に反応器に供給される場合、その量は、通常フェノール100重量部に対してビスフェノールA(4,4’−ビスフェノールA)の下限は通常0.3重量部、好ましくは1重量部、より好ましくは3重量部、さらに好ましくは5重量部、特に好ましくは7重量部であり、上限は通常20重量部、好ましくは18重量部、より好ましくは15重量部である。
また、フェノール100重量部に対して2,4’−ビスフェノールAの下限は通常0.3重量部、好ましくは0.5重量部、より好ましくは1重量部、さらに好ましくは1.5重量部、特に好ましくは2重量部であり、上限は通常10重量部、好ましくは8重量部、より好ましくは5重量部である。
また、フェノール100重量部に対してp−イソプロピルフェノールの下限は通常0.1重量部、好ましくは0.2重量部であり、上限は通常5重量部、好ましくは3重量部、より好ましくは2重量部、更に好ましくは1重量部、特に好ましくは0.5重量部である。
また、フェノール100重量部に対してビスフェノールA(4,4’−ビスフェノールA)、2,4’−ビスフェノールA、及びp−イソプロピルフェノールの合計の下限は通常1重量部、好ましくは3重量部、より好ましくは5重量部、更に好ましくは8重量部であり、上限は通常35重量部、好ましくは30重量部、より好ましくは25重量部、更に好ましくは20重量部である。
一方、更にその他に構造不明物が共存する場合、その量は、通常フェノール100重量部に対してその他の構造不明物下限は通常0.3重量部、好ましくは1重量部、より好ましくは1.5重量部、さらに好ましくは2重量部、特に好ましくは3重量部であり、上限は通常10重量部、好ましくは8重量部、より好ましくは6重量部である。
また、フェノール100重量部に対してビスフェノールA(4,4’−ビスフェノールA)、2,4’−ビスフェノールA、p−イソプロピルフェノール、及びその他の構造不明物の合計の下限は通常1重量部、好ましくは3重量部、より好ましくは5重量部、更に好ましくは10重量部、特に好ましくは15量部であり、上限は通常45重量部、好ましくは35重量部、より好ましくは30重量部、更に好ましくは25重量部である。
フェノールに対してこれらの化合物をこの下限よりも低い濃度にしようとすると、追加の精製工程等が必要となり、好ましくない。また、フェノールに対してこれらの化合物が上限を超えて含まれると、反応系内でビスフェノールA(4,4’−ビスフェノールA)、2,4’−ビスフェノールA、及びビスフェノールAとフェノールとのアダクトが結晶として析出し、運転の継続が困難になる場合があり好ましくない。また、製品としてビスフェノールAを製造する際に精製が困難となる場合もある。
フェノールに対して前記化合物が上限を超えて含まれると、反応系内でビスフェノールA(4,4’−ビスフェノールA)、2,4’−ビスフェノールA、及びビスフェノールAとフェノールとのアダクトが結晶として析出し、運転の継続が困難になる場合があり好ましくない。また、製品としてビスフェノールAを製造する際に精製が困難となる場合もある。
上記方法により製造された反応液中には大過剰のフェノールの他に未反応原料、反応時に生成した不純物等が含まれているので、これらの溶液の中から目的とするビスフェノール化合物を取り出す必要がある。反応混合物から目的物質であるビスフェノール化合物を分離精製する方法は特に制限はなく、公知の方法に準じて行なわれるが、目的物質が、ビスフェノールAの場合を例として以下に説明する。
上記反応に引き続いて、低沸点成分分離工程において、反応で得られた反応混合物を、ビスフェノールAとフェノールとを含む成分と、反応で副生する水及び未反応アセトン等を含む低沸点成分とに分離する。低沸点成分分離工程は、減圧下に蒸留によって低沸点成分を分離する方法で行なわれるのが好ましく、低沸点成分にはフェノール等が含まれていてもよい。ビスフェノールAとフェノールとを含む成分は、必要に応じて、さらに蒸留等によってフェノールを除去したり、フェノールを追加することによって、ビスフェノールAの濃度を所望の濃度に調整することができる。
続いて、晶析工程においてビスフェノールAとフェノールとの付加物の結晶を含有するスラリーを得る。晶析工程に供するビスフェノールAとフェノールとを含む成分のビスフェノールAの濃度は、得られるスラリーの取り扱いの容易さ等から、10〜30%が好ましい。また晶析方法としては、ビスフェノールAとフェノールとを含む成分を直接冷却させる方法、水等の他の溶媒を混合し、当該溶媒を蒸発させることによって冷却を行なう方法、さらにフェノールを除去して濃縮を行なう方法及びこれらを組み合わせる方法等が挙げられ、所望の純度の付加物を得るために1回もしくは2回以上晶析させてもよい。
前記晶析工程で得られたスラリーは、固液分離工程において減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等により付加物の結晶と母液とに固液分離され、ビスフェノールAとフェノールとの付加物の結晶が回収される。当該晶析工程で、ビスフェノールAの結晶を晶析によって直接得ることもできる。
前記固液分離工程で得られた付加物の結晶を、続く脱フェノール工程において、溶融後にフラッシュ蒸留、薄膜蒸留及びスチームストリッピング等の手段によってフェノールを除去することにより、高純度の溶融ビスフェノールAを得る。除去されたフェノールは所望により精製され、反応や前記固液分離工程で得られた付加物の結晶の洗浄等に供することができる。
得られた高純度の溶融ビスフェノールAは、造粒工程において固化される。ノズルから溶融ビスフェノールAを噴射させ、冷却ガスと接触させることにより小球状のビスフェノールAプリルを得る方法が簡便で好ましい。尚、脱フェノール工程を経ることなく、固液分離工程で得られた付加物の結晶から、再度、晶析を行いビスフェノールAのみを晶析により得ることもできる。
また、系内の不純物の蓄積を防止する目的で、固液分離工程で分離された母液の少なくとも一部を不純物処理工程において処理することもできる。例えば、アルカリ又は酸を混合して加熱処理した後に蒸留して軽質分と重質分とに分離し、軽質分を酸触媒等により再結合反応処理して反応に使用するのが経済性の点でも好ましい。ここで重質分を系外にパージすることにより不純物の蓄積を防止し、製品の純度を向上させることができる。また、母液の少なくとも一部を酸触媒によって異性化した後、晶析を行なうことによってビスフェノールAの回収率の向上を図ることもできる。
低沸点成分分離工程で得られた低沸点成分は、アセトン循環工程によって未反応アセトンを分離回収し、回収されたアセトンを反応工程に循環させることができる。
以下、実施例によって本発明を詳細に示す。ただし、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(実施例1−1)
<2−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂の調製>
窒素ガス導入管を備えた200mlの四つ口フラスコ中に、三菱化学株式会社製の架橋度4%ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂(商品名:SK104、交換容量1.67meq/g−湿潤状態)20.0g−湿潤状態、及び60℃の脱塩水約60mlを入れ、強酸性陽イオン交換樹脂を洗浄した。洗浄液はデカンテーションにより廃棄し、再度60℃の脱塩水約60mlを導入した。この洗浄操作を3回繰り返した。次いで、洗浄液を廃棄した後、脱塩水60mLを加え、フラスコ内を窒素で置換した。そこへ、助触媒としてToronto Research Chemicals Inc.製の2−ピリジルエタンチオール0.73g(5.24ミリモル)を攪拌下に一度に加え、更に、2時間、室温下で攪拌して変性処理を行った。処理終了後、得られた変性陽イオン交換樹脂を脱塩水で洗浄し、2−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂触媒(変性率15.7%)を得た。
尚、変性率は、変性に使用したゲル型強酸性陽イオン交換樹脂の量、添加した助触媒の量及び滴定によって求めたゲル型強酸性陽イオン交換樹脂中のスルホン酸基の量から、下式に従って求めた。ここで、ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂中のスルホン酸基の量は、上記交換容量に相当する。
変性率(%)=[(添加した助触媒のモル数(ミリモル))/{(ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂中のスルホン酸基の量(meq/g‐湿潤状態)×変性に使用したゲル型強酸性陽イオン交換樹脂の重量(g−湿潤状態))}]×100
<ビスフェノール化合物の製造>
調製した2−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂(以下、「触媒」と言うことがある。)7.5mlを、内径1cm、全長44cmのステンレス製カラムに充填した。60℃のフェノールを26ml/hrで触媒を充填した反応器上部より24時間通液し、触媒中の水分を完全にフェノールで置換し、その後フェノール/アセトン(モル比)が11の混合液(アセトン4.3重量%、フェノール79.4重量%、4,4’−ビスフェノールA10重量%、その他の物質6.3重量%(2,4’−ビスフェノールA3.0重量%、p−イソプロピルフェノール0.25重量%、残りは構造不明物))を73℃、26ml/時間で反応器上部よりダウンフローで連続的に通液し反応を行なった。反応器下部から反応液を採取し、ガスクロマトグラフィーにより以下の条件で分析した。結果を図1及び図2に示す。尚、アセトン転化率及びビスフェノールA選択率は、下記式より求めた。
<分析法>
ガスクロマトグラフィー:島津製作所製「GC−14B」
カラム:Hewlett Packard製「Ultra Performance Capillary Column Ultra2(Cross−linked 5%Phenylmethyl Silicone)25m×0.32mm×0.52μm」
検出器:FID
キャリアーガス:He
アセトン転化率(%)=〔{(原料1kg中のアセトンモル数)−(生成液1kg中のアセトンモル数)}/(原料液1kg中のアセトンモル数)〕×100
ビスフェノールA選択率(%)=〔(生成液1kg中のビスフェノールAモル数)−(原料液1kg中のビスフェノールAモル数)〕/〔(原料液1kg中のアセトンモル数)−(生成液1kg中のアセトンモル数)〕×100
(実施例1−2)
<3−ピリジルエタノールの合成>
3−ピリジルエタンチオールを合成するために、中間体である3−ピリジルエタノールを以下の方法によって合成した。窒素ガス導入管、温度計、ジムロート冷却管、滴下ロートを取り付けた1Lのフラスコに3−ピリジル酢酸・1塩酸塩25.12g(0.145mol)を入れ、これに無水メタノール500mlを加え、フラスコ内を窒素で置換した後、室温下で攪拌して溶解させた。これに塩化チオニル31.12g(0.248mol)を滴下した後昇温し、さらに2.5時間、還流させながら反応させた。反応後、室温まで冷却し、メタノールを減圧留去させた後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。酢酸エチル100mlで3回抽出操作を行い、形成された有機相に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、無水硫酸ナトリウムをデカンテーションで除去した後、溶媒を減圧留去して、3−ピリジル酢酸のメタノールエステルである3−ピリジル酢酸メチル21.29g(0.141mol)を得た(収率97%)。
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート冷却管を取り付けた500mlのフラスコに、前記で得られた3-ピリジル酢酸メチル21.29g(0.141mol)及び無水メタノール250mlを入れ、室温下で攪拌した。フラスコ内を窒素で置換し、これに水素化ホウ素ナトリウム 15.62g(0.372mol)を少量ずつ加えた後昇温し、さらに3.5時間、還流させながら反応させた。その後、反応液を室温まで冷却し、水100mlを加えて未反応の過剰の水素化ホウ素ナトリウムを加水分解させた。メタノールを減圧留去した後、クロロホルム100mlで2回抽出操作を行い、形成された有機相を飽和食塩水100mlで洗い、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。無水硫酸ナトリウムをデカンテーションで除去した後、減圧蒸留をして、3−ピリジルエタノール12.59g(0.102mol)を得た。
<3−ピリジルエタンチオールの合成>
上記方法により得られた3ピリジルエタノールを用いて3−ピリジルエタンチオールを以下の方法によって製造した。
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート冷却管、滴下ロートを取り付けた500mlのフラスコに前記で得られた3−ピリジルエタノール13.95g(0.113mol)をクロロホルム100mlで希釈した液を入れ、フラスコ内を窒素で置換した後、これに室温下でクロロホルム50mlで希釈した塩化チオニル19.10g(0.153mol)を攪拌しながら滴下し、滴下終了後さらに3時間攪拌して反応させた。その後、エタノール50mlを加えて反応を停止させた後に、トルエン50mlを加えて減圧留去し、エタノールとトルエンをほぼ除去した。これを再度繰り返し、1−クロロ−2−(3’−ピリジル)エタン・塩酸塩の結晶20.12gを得た。
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート冷却管を取り付けた500mlのフラスコに上記方法により得られた1−クロロ−2−(3’−ピリジル)エタン・塩酸塩の結晶20.12gにエタノール200ml及び水100ml、チオ酢酸カリウム25.41g(0.223mol)を加え、フラスコ内を窒素で置換した後、4時間、加熱還流を行なった。エタノールを減圧留去した後、1N水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和し、塩化メチレン100mlで3回抽出操作を行った。形成された有機相に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、無水硫酸ナトリウムをデカンテーションで除去した後、溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開液:ヘキサン:酢酸エチル=1:1)による精製を行い、チオ酢酸と3−ピリジルエタノールのエステルであるチオ酢酸3−ピリジルエチル14.91g(0.082mol)を収率73%で得た。
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート冷却管、滴下ロートを取り付けた500mlのフラスコを窒素で置換した後、水素化リチウムアルミニウム3.12g(82.3mmol)、無水テトラヒドロフラン60mlを加え、氷冷下で攪拌した。この溶液に前記で得られたチオ酢酸3−ピリジルエチル14.33g(79.1mmol)を無水テトラヒドロフラン50mlに溶解させ、氷冷下で滴下した。滴下終了後、60℃に加温し、3時間攪拌した。反応後、氷冷し水100mlと酢酸50mlを加えた。酢酸エチル100mlで3回抽出操作を行うことにより、油層側に3−ピリジルエタンチオールを抽出させた。油層側の液を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、更に飽和食塩水100mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。無水硫酸ナトリウムをデカンテーションで除去した後、溶媒である酢酸エチルを減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル、展開液:ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製を行い、3−ピリジルエタンチオール8.92g(64.1mmol)を得た。
<3−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂の調製>
実施例1−1の<2−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂の調製>において、助触媒を、2−ピリジルエタンチオールに代えて3−ピリジルエタンチオールとした他は実施例1−1と同様にして、3−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂(変性率15.7%)を得た。
<ビスフェノール化合物の製造>
実施例1−1の<ビスフェノール化合物の製造>において、2−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂(変性率15.7%)に代えて3−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂(変性率15.7%)を使用した他は実施例1−1と同様にして、反応を行い、実施例1−1と同様にしてアセトン転化率及びビスフェノールA選択率を求めた。結果を図1及び図2に示す。
(比較例1−1)
<4−ピリジルエタンチオールの合成>
300mLの4口フラスコに、窒素ガス導入管、温度計、ジムロート冷却管、滴下ロートを取り付け、30重量%硫酸水溶液102.9g(0.315モル)と、チオ尿素11.42g(0.15モル)とを仕込んだ。窒素雰囲気下、攪拌しながら70℃まで加熱した後、滴下ロートより、反応温度70℃を保ちながら、4−ビニルピリジン12.62g(0.12モル)を約1時間で滴下し、その後、70℃を保ちながら引き続き5時間反応を行った。この反応液を室温迄冷却した後、トルエン30mlを添加した。
更に、攪拌下、反応液に、28重量%アンモニア水45.74g(アンモニアとして0.75mol)を液温が上がらない様に注意しながら約2時間かけて滴下した。滴下終了後、40℃まで昇温し、3時間撹拌した。撹拌停止後、分液ロートに反応液を移して2相に分離した。上相(トルエン相)を取り出し、更に下相(水相)をトルエン30mlで2回抽出を繰り返した。
次に、バス温50℃、圧力12.5〜1.1kPaの条件下、ロータリーエバポレータによりトルエンを留去した。ここで得た残渣を薄膜蒸発器を使用し、壁面温度130℃、圧力0.6kPaの条件で蒸留精製した結果、純度95.2%の4−ピリジルエタンチオール15.6gを得た。仕込んだ4−ビニルピリジンに対する収率は88.9%であった。
<4−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂の調製>
実施例1−1の<2−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂の調製>において、助触媒として2−ピリジルエタンチオールの代わりに、上記で得られた4−ピリジルエタンチオールを用いた他は、実施例1−1と同様の方法で、4−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂(変性率15.7%)の調製を行った。
<ビスフェノール化合物の製造>
実施例1−1において、2−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂の代わりに、上記で得られた4−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂を用いた他は、実施例1−1と同様にして反応を行い、分析を行った。結果を図1及び図2に示す。
2−ピリジルエタンチオール、3−ピリジルエタンチオールまたは4−ピリジルエタンチオールにより変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂を酸性触媒として使用した結果、ビスフェノールAの生成反応において、初期のアセトン転化率は4−ピリジルエタンチオールにより変性された触媒が最も高く、次いで3−ピリジルエタンチオールにより変性された触媒、2−ピリジルエタンチオールにより変性された触媒の順であることが分かった。また、図2より、長期間連続的に反応を行った場合でも、選択率はいずれも同等であることがわかった。但し、長期間連続的に反応を行った場合、2−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂及び3−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂を酸性触媒として使用した場合、4−ピリジルエタンチオール変性陽イオン交換樹脂を酸性触媒として使用した場合に比べてアセトン転化率の低下が小さく、触媒の劣化が抑制されていることから、長期間に亘って高い転化率を保ったままで使用が可能であることがわかった。
(実施例1−3)
<ピリジルエタンチオールの耐熱性評価>
窒素置換した100mlの三口フラスコに後述する実施例3−1と同様の方法で調製した2−ピリジルエタンチオールを60g入れて、窒素雰囲気下でマグネティックスターラーで攪拌しながら、オイルバスにより100℃に加熱した。加熱を開始してから1時間おきにサンプリングを行い、サンプル中の2−ピリジルエタンチオール由来のスルフィド体の濃度をガスクロマトグラフィーにより以下の条件で分析した。4−ピリジルエタンチオールについても同様の評価を行った。結果を図3に示す。
<分析法>
ガスクロマトグラフィー:島津製作所製「GC−14A」
カラム:GL Sciences製「TC−5(5% Diphenyl−95% Dimethylpolysiloxane)60m×0.32mm×1.00μm」
検出器:FID
キャリアーガス:He
スルフィド/チオール比=(スルフィドのGCピーク面積)/(チオールのGCピーク面積)
図3に示すように、加熱時間5時間後において、2−ピリジルエタンチオール中のスルフィド体の生成量は4−ピリジルエタンチオールに比べて約1/8であった。この結果から、2−ピリジルエタンチオールは、異性体である4−ピリジルエタンチオールに比べて、熱によるチオールからスルフィドへの変質がおこりにくく、耐熱性に優れていることがわかった。
ピリジルエタンチオールを強酸性のイオン交換樹脂に担持してビスフェノール類の触媒として使用する場合、ピリジルエタンチオールがチオール状態の時にのみ、ビスフェノール類生成反応の促進効果があり、ピリジルエタンチオールがスルフィド体に変質してしまうとビスフェノール類の生成反応への促進効果がなくなる。ビスフェノール類の生成反応は発熱反応なので、触媒が継続的に熱にさらされることにより、ピリジルエタンチオールが徐々にスルフィドに変質し、触媒性能が劣化するが、2−ピリジルエタンチオールでは熱によるチオールからスルフィドへの変質が起こりにくいことにより、長期間高活性の状態を保ったままで触媒が使用できることが期待される。
<ピリジルエタンチオールの不純物テスト>
(1)純フェノールを用いた評価
(実施例1−4)
変性率15%に調製した2−ピリジルエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂7.5mlを、内径1cm、全長44cmのステンレス製カラムに充填した。60℃のフェノールを26ml/時間で触媒を充填した反応器上部より24時間通液し、触媒中の水分を完全にフェノールで置換し、その後フェノール/アセトン(モル比)が13の混合液(アセトン4.5重量%、フェノール95.4重量%、4,4’−ビスフェノールA20重量ppm以下、その他の物質0.2重量%(2,4’−ビスフェノールA10重量ppm以下、p−イソプロピルフェノール0.02重量%、残りは構造不明物))を73℃、26ml/時間で反応器上部よりダウンフローで連続的に通液し反応を行なった。途中、反応液のサンプリングを適宜行い、それぞれ転化率を求めて、触媒活性の変化を評価した。図4Aにアセトン転化率の変化を、図4Bに初期のアセトン転化率を100とした場合のアセトン転化率の推移を示す。
(比較例1−2)
実施例1−4において、2−ピリジルエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂に変えて4−ピリジルエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いた他は実施例1−4と同様に触媒活性の変化を評価した。図4Aにアセトン転化率の変化を、図4Bに実施例1−4と同様に計算したアセトン転化率の推移を示す。
(比較例1−3)
実施例1−4において、2−ピリジルエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂に変えて、2−アミノエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いた他は実施例1−4と同様に触媒活性の変化を評価した。図4Aにアセトン転化率の変化を、図4Bにアセトン転化率の推移を示す。なお、図4Bにおいて2−アミノエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂の初期のアセトン転化率は、2−ピリジルエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂の初期のアセトン転化率に比べて2割程度低いので、触媒活性は約80からの評価となっている。
図4Aに示すように、2−ピリジルエタンチオールでスルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性した触媒は、変性剤として従来から知られている2−アミノエタンチオールを用いた触媒に比べてアセトン転化率が高く、4−ピリジルエタンチオールを用いた触媒に比べて初期活性は若干劣っているものの、長期間に亘って使用した場合に活性の低下が少なく、工業的な使用に優れていることが分かった。
図4Bに示すように、2−ピリジルエタンチオールでスルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性した触媒は、変性剤として従来から知られている2−アミノエタンチオールや4−ピリジルエタンチオールを用いた触媒に比べて長時間活性を維持できる触媒であることが見いだされた。
(2)不純物を含んだ反応液を用いた評価
(比較例1−4)
実施例1−1において、2−ピリジルエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂に変えて、2−アミノエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いた他は実施例1−1と同様に触媒活性の変化を評価した。前記図4Bと同様に評価したアセトン転化率の推移を図5に示す。なお、2−アミノエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂の初期のアセトン転化率は、2−ピリジルエタンチオール変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂の初期のアセトン転化率に比べて2割程度低いので、触媒活性は約80からの評価となっているのは、図4Bと同様である。
図5に示した2−ピリジルエタンチオールの評価は、実施例1−1で得られた値から計算を行い、3−ピリジルエタンチオールの評価は、実施例1−2で得られた値から計算を行い、4−ピリジルエタンチオールの評価は、比較例1−1で得られた値から計算を行い、評価を行った。図5に示すように、(1)で上述した不純物をほとんど含まない純フェノールの場合と同様に、不純物をある程度含有するフェノールを用いても同様に、2−ピリジルエタンチオールで陽イオン交換樹脂を変性した触媒は、変性剤として従来から知られている2−アミノエタンチオールや4−ピリジルエタンチオールでスルホン酸型陽イオン交換樹脂を変性した触媒に比べて、長時間活性を維持できる触媒であることが見いだされた。また、不純物をほとんど含まない純フェノールの場合に比べて長時間触媒の活性を維持できる効果が2−アミノエタンチオールや4−ピリジルエタンチオールなどにより陽イオン交換樹脂を変性した触媒と比較してより顕著にみられた。
使用したフェノールは固液分離で晶析工程から排出されたスラリー液からビスフェノールA又はビスフェノールA/フェノールのアダクト結晶を分離した液(母液)とほぼ同程度の不純物を含有しているフェノールである。したがって、晶析工程からの母液を反応工程にリサイクルし、再び原料として使用する場合、2−ピリジルエタンチオールで陽イオン交換樹脂を変性した触媒によりビスフェノール類を製造することが特に有利であることが明らかになった。
[実施例2]
以下の実施例2−1〜3及び参考例2−1において、2−ピリジルエタンチオールの製造原料として用いた2−ビニルピリジンに含有されるポリマーの定量は、以下のGPC法及び/又は再沈法で行った。
<GPC法>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記の条件で測定した。ポリマー分の定量に用いた検量線は、ポリ2−ビニルピリジン標準試料(Polymer source inc.製:Mn=10000、Mw=10800、Mw/Mn=1.08)を用いて作成し、絶対検量線法により標準ポリスチレン換算分子量2000以上のポリマー分を定量した。
装置: 島津製作所製「LC−10AS」
UV検出器:島津製作所製「SPD−10A」
カラム:東ソー社製「TSKgelG2000HXL」(7.8mmφ×300mm)
移動相:テトラヒドロフラン(HPLC用)
流量:0.8mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:254nm
試料:100容量倍希釈
<再沈法>
2−ビニルピリジンW1(g)に対し、10重量倍のn−ヘキサン(純度99.5%以上)を加えて撹拌した。析出した沈殿物を孔径0.1μmのメンブレンフィルター(東洋濾紙株式会社製「H010A047A」)を用いて濾別した後、得られた沈殿物を60℃の恒温減圧乾燥機で3時間乾燥して、2−ビニルピリジン中に含まれるポリマー分W2(g)を回収し、下記の式を用いてポリマー含有量を算出した。
ポリマーの含有量(重量%)=100×W2(g)/W1(g)
また、2−ビニルピリジンから製造された2−ピリジルエタンチオール粗生成物の純度は、以下の条件のガスクロマトグラフィー(GC)分析により求めた。
<GC分析>
ガスクロマトグラフィー:島津製作所製「GC−2014」
カラム:GL Sciences製「TC−5」(60m×0.32mm×1.00μm)
検出器:FID
キャリアーガス:He
(実施例2−1)
GPC法で測定したポリマーの含有量が0.24重量%である2−ビニルピリジンを用いて2−ピリジルエタンチオールの製造を行った。ジャケット付きの4口セパラブルフラスコ(容量約700mL)に、撹拌モータ、窒素ガス導入管を付したジムロート冷却管、及び温度計を取り付け、29重量%硫酸水溶液254.2g(0.75モル)と、チオ尿素27.2g(0.36モル)とを仕込んだ。窒素雰囲気下、攪拌しながらジャケットに温水を流して70℃まで加熱した後、シリンジポンプを用いて2−ビニルピリジン30.0g(0.29モル)を約2時間かけて滴下し、その後、70℃に保ちながら引き続き5時間反応を行った。
この反応液を室温迄冷却した後、トルエン51.7gを添加し、さらに反応液を20℃まで冷却した。攪拌下、反応液に、28重量%アンモニア水108.4g(アンモニアとして1.78mol)を液温が上がらないように注意しながら約2時間かけて滴下した。滴下終了後、40℃まで昇温し、更に、3時間撹拌した。撹拌停止後、分液ロートに反応液を移して2相に分離した。上相(トルエン相)を取り出し、更に下相(水相)をトルエン51.7gで2回抽出した。
フラスコ内壁及び撹拌翼に付着した固形分を掻き取って回収したところ、回収量は0.62gであり、仕込んだ2−ビニルピリジンに対する割合は2.1重量%であった。
また、上記トルエン相を全て集め、バス温度30〜60℃、圧力1.0kPaで、ロータリーエバポレータによりトルエンを留去することにより、2−ピリジルエタンチオール粗生成物36.6g(純度94.2%)を得た。仕込んだ2−ビニルピリジンに対する2−ピリジルエタンチオールの収率は86.8%であった。
(参考例2−1)
GPC法で測定したポリマーの含有量が2.76重量%であり、再沈法で測定したポリマーの含有量が2.58重量%である2−ビニルピリジンを原料として用いた他は、実施例3−1と同様にして2−ピリジルエタンチオールを合成した。
フラスコ内壁及び撹拌翼に付着した固形分の回収量は2.46gであり、仕込んだ2−ビニルピリジンに対する割合は8.2重量%であった。また、得られた2−ピリジルエタンチオール粗生成物の量は33.8g(純度93.8%)であり、仕込んだ2−ビニルピリジンに対する収率は79.8%であった。
(実施例2−2)
参考例2−1で使用した2−ビニルピリジンを単蒸留(温度43℃、圧力1.5kPa)により精製した。精製した2−ビニルピリジンのポリマーをGPC法で測定したが、ポリマーは検出されなかった。当該2−ビニルピリジンを原料として用いた他は、実施例2−1と同様にして2−ピリジルエタンチオールを合成した。
フラスコ内壁及び撹拌翼に付着した固形分の回収量は0.20gであり、仕込んだ2−ビニルピリジンに対する割合は0.7重量%であった。また、得られた2−ピリジルエタンチオール粗生成物の量は35.5g(純度95.0%)であり、仕込んだ2−ビニルピリジンに対する収率は84.9%であった。
(実施例2−3)
GPC法及び再沈法でポリマー分が検出されない2−ビニルピリジンを原料として用いた他は、実施例2−1と同様にして2−ピリジルエタンチオールを合成した。
フラスコ内壁及び撹拌翼に付着した固形分の回収量は0.03gであり、仕込んだ2−ビニルピリジンに対する割合は0.1重量%であった。また、得られた2−ピリジルエタンチオール粗生成物の量は35.3g(純度96.5%)であり、仕込んだ2−ビニルピリジンに対する収率は85.8%であった。
上記実施例2−1〜3及び参考例2−1の結果を表1にまとめる。
表1より、ポリマー含有量が2重量%以下の2−ビニルピリジンを原料として2−ピリジルエタンチオールを製造することにより、製造設備における固着物の生成を抑えて高純度の2−ピリジルエタンチオールを高収率で製造することができることが分かった。
[実施例3]
なお、実施例3−1〜2及び参考例3−1において、2−ビニルピリジンから製造された2−ピリジルエタンチオール粗生成物の純度は、実施例2と同様の条件でガスクロマトグラフィー(GC)分析により求めた。
(実施例3−1)
ジャケット付きの4口セパラブルフラスコ(容量約700mL)に、撹拌モータ、窒素ガス導入管を付したジムロート冷却管、及び温度計を取り付け、29重量%硫酸水溶液254.2g(0.75モル)と、チオ尿素27.2g(0.36モル)と、トルエン51.7gとを仕込んだ。窒素雰囲気下、攪拌しながらジャケットに温水を流して70℃まで加熱した後、シリンジポンプを用いて2−ビニルピリジン30.0g(0.29モル)を約2時間かけて滴下し、その後、70℃に保ちながら引き続き5時間反応を行った。
この反応液中の水及びトルエンの2−ビニルピリジンに対する容量比は表2に示す通りである。
この反応液を20℃まで冷却し、攪拌下、28重量%アンモニア水108.4g(アンモニアとして1.78mol)を液温が上がらないように注意しながら約2時間かけて滴下した。滴下終了後、40℃まで昇温し、更に、3時間撹拌した。撹拌停止後、分液ロートに反応液を移して2相に分離した。上相(トルエン相)を取り出し、更に下相(水相)をトルエン51.7gで2回抽出した。
この反応において、フラスコ内壁及び撹拌翼への固形物の付着は認められなかった。
また、上記トルエン相を全て集め、バス温度30〜60℃、圧力1.0kPaで、ロータリーエバポレータによりトルエンを留去することにより、2−ピリジルエタンチオール粗生成物36.5g(純度95.8%)を得た。仕込んだ2−ビニルピリジンに対する2−ピリジルエタンチオールの収率は87.8%であった。
(実施例3−2)
ジャケット付きの4口セパラブルフラスコ(容量約700mL)に、撹拌モータ、窒素ガス導入管を付したジムロート冷却管、及び温度計を取り付け、29重量%硫酸水溶液254.2g(0.75モル)と、チオ尿素27.2g(0.36モル)とを仕込んだ。窒素雰囲気下、攪拌しながらジャケットに温水を流して70℃まで加熱した後、シリンジポンプを用いて2−ビニルピリジン30.0g(0.29モル)をトルエン51.7gで希釈した溶液を約1.2時間かけて滴下し、その後、70℃に保ちながら引き続き5時間反応を行った。
この反応液中の水及びトルエンの2−ビニルピリジンに対する容量比は表5に示す通りである。
この反応液を20℃まで冷却し、攪拌下、28重量%アンモニア水108.4g(アンモニアとして1.78mol)を液温が上がらないように注意しながら約2時間かけて滴下した。滴下終了後、40℃まで昇温し、更に、3時間撹拌した。撹拌停止後、分液ロートに反応液を移して2相に分離した。上相(トルエン相)を取り出し、更に下相(水相)をトルエン51.7gで2回抽出した。
反応後、フラスコ内壁及び撹拌翼に付着した固形分を掻き取りにより回収したところ、回収量は0.25gであり、仕込んだ2−ビニルピリジンに対する割合は0.8重量%であった。
また、上記トルエン相を全て集め、バス温度30〜60℃、圧力1.0kPaで、ロータリーエバポレータによりトルエンを留去することにより、2−ピリジルエタンチオール粗生成物36.5g(純度95.9%)を得た。仕込んだ2−ビニルピリジンに対する2−ピリジルエタンチオールの収率は88.1%であった。
(参考例3−1)
ジャケット付きの4口セパラブルフラスコ(容量約700mL)に、撹拌モータ、窒素ガス導入管を付したジムロート冷却管、及び温度計を取り付け、29重量%硫酸水溶液254.2g(0.75モル)と、チオ尿素27.2g(0.36モル)とを仕込んだ。窒素雰囲気下、攪拌しながらジャケットに温水を流して70℃まで加熱した後、シリンジポンプを用いて2−ビニルピリジン30.0g(0.29モル)を約2時間かけて滴下し、その後、70℃に保ちながら引き続き5時間反応を行った。
この反応液を室温迄冷却した後、トルエン51.7gを添加し、さらに反応液を20℃まで冷却した。攪拌下、反応液に、28重量%アンモニア水108.4g(アンモニアとして1.78mol)を液温が上がらないように注意しながら約2時間かけて滴下した。滴下終了後、40℃まで昇温し、更に、3時間撹拌した。撹拌停止後、分液ロートに反応液を移して2相に分離した。上相(トルエン相)を取り出し、更に下相(水相)をトルエン51.7gで2回抽出した。
反応後、フラスコ内壁及び撹拌翼に付着した固形分を掻き取りにより回収したところ、回収量は0.96gであり、仕込んだ2−ビニルピリジンに対する割合は3.2重量%であった。
また、上記トルエン相を全て集め、バス温度30〜60℃、圧力1.0kPaで、ロータリーエバポレータによりトルエンを留去することにより、2−ピリジルエタンチオール粗生成物36.1g(純度93.1%)を得た。仕込んだ2−ビニルピリジンに対する2−ピリジルエタンチオールの収率は85.5%であった。
上記実施例3−1〜2及び参考例3−1の結果を表2にまとめる。
表2より、2−ビニルピリジンとチオ尿素とを水及び炭化水素系溶媒の存在下で反応させてイソチウロニウム塩を得、得られたイソチウロニウム塩を分解して2−ピリジルエタンチオールを得ることにより、製造設備における固着物の生成を抑えて高純度の2−ピリジルエタンチオールを高収率で製造することができることが分かる。
[実施例4]
(実施例4−1−1)
<2−ピリジルエチルチオアセテートの合成>
窒素ガス導入管、温度計、ジムロート冷却管、及び滴下ロートを備えた100mlの四つ口フラスコに、チオ酢酸(東京化成製)15.22g(0.20mol)を秤り入れ、攪拌を開始した。窒素導入後、氷浴にて5℃以下に冷却し、滴下ロートより、2−ビニルピリジン21.03g(0.20mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外し、室温で更に1時間攪拌して反応を行った。反応終了後、反応液をバス温120℃、圧力0.8kPaの条件下で減圧蒸留を行い、2−ピリジルエチルチオアセテートを27.8g得た。ガスクロマトグラフィー分析の結果、2−ピリジルエチルチオアセテートの純度は96.8%であり、収率は78.2%であった。
以下にガスクロマトグラフィーの条件、及び収率の計算方法を示す。
(ガスクロマトグラフィー)
装置:島津製作所製「GC−14A」
カラム:ジーエルサイエンス製「TC−5」(60m×0.32mm×1.0μm)
検出器:FID
キャリアーガス:ヘリウム
(計算方法)
収率(%)=〔(2−ピリジルエチルチオアセテートのmol数)/(チオ酢酸のmol数)〕×100
<酸性触媒の調製>
窒素ガス導入管を備えた100mlの四つ口フラスコ内に、スルホン酸型陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標)「SK104H」:交換容量1.65mmol/g−湿潤状態)3.00g−湿潤状態、及び60℃の脱塩水約20mlを秤り入れて、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を洗浄し、洗浄液をデカンテーションにより廃棄した。この60℃の脱塩水約20mlでの洗浄を3回繰り返し、洗浄液を廃棄した後、脱塩水約20mlを加えて、フラスコ内を窒素で置換し、攪拌を開始した。ウォーターバスによりフラスコ内温が70℃になるように加熱し、上記条件で調製した2−ピリジルエチルチオアセテート0.14g(0.73mmol)をシリンジで滴下した。滴下終了後、更に3時間攪拌し、変性と加水分解処理を行った。変性及び加水分解処理終了後、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を濾別し、酸性触媒を得ると共に、濾液を回収した。
回収した濾液に指示薬メチルレッド−メチレンブルーを加え、0.1N水酸化ナトリウム水溶液(力値:f)で滴定分析を行い、滴定に要した滴下量(Aml)から以下の式を用いて濾液中の酸量、及び2−ピリジルエチルチオアセテートの加水分解の転化率を算出したところ、酸量は、0.66mmolであり、2−ピリジルエチルチオアセテートの加水分解の転化率は90.4%であった。
酸量(mmol)=A(ml)×f×0.1
転化率(%)=[(濾液中の酸量(mmol)/(2−ピリジルエチルチオアセテートの添加量(mmol)]×100
なお、変性に使用したスルホン酸型陽イオン交換樹脂の量、添加した変性剤(2−ピリジルエチルチオアセテート)の量及びスルホン酸型陽イオン交換樹脂中のスルホン酸基の量(交換容量)から下式により算出した変性率は14.7%であった。
変性率(%)=[(添加した変性剤のmol数(mmol))/{(スルホン酸型陽イオン交換樹脂中のスルホン酸基の量(mmol/g−湿潤状態)×変性に使用したスルホン酸型陽イオン交換樹脂の重量(g−湿潤状態))}]×100
<ビスフェノール化合物の製造>
東京理化器械(株)製パーソナル有機合成装置「ケミステーションPPV−3000」に付属の試験管に、上記で得られた酸性触媒0.50gを秤り入れ、60℃の溶融フェノール約50mlを添加した。この試験管を当該装置に組み込み、窒素を導入して攪拌することにより、酸性触媒をフェノールで洗浄し、洗浄後のフェノールの含水率が0.1重量%以下になるまで攪拌とデカンテーションを繰り返した。次いで、上記試験管にフェノール15.0gを加え、窒素と約5℃の冷却水の流通を開始した後、300rpmの攪拌下、温度を70℃に保ちながら、アセトン0.71gを加えて反応を開始した。
反応開始後、所定時間毎に反応液を採取し、以下に示す条件でガスクロマトグラフィー及びイオンクロマトグラフィー分析を行い、4,4’−ビスフェノールA収率、4,4’−ビスフェノールAと2,4’−ビスフェノールAの生成比(4,4’−体/2,4’−体比)、酢酸フェニル及び酢酸の生成量を求めた結果を表3に示す。
なお、「4,4’−ビスフェノールA」及び「4,4’−体」とは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのことをいい、「2,4’−ビスフェノールA」及び「2,4’−体」とは2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのことをいう。
(ガスクロマトグラフィー)
装置:島津製作所製「GC−2014」
カラム:アジレントテクノロジー製「HP−Ultra2」(25m×0.32mm×0.52μm)
検出器:FID
キャリアーガス:ヘリウム
(計算方法)
4,4’−ビスフェノールA収率(%)=〔(生成した4,4’−ビスフェノールAのmol数)/(反応に用いたアセトンのmol数)〕×100
4,4’−体/2,4’−体比=〔(生成した4,4’−ビスフェノールAのmol数)/(生成した2,4’−ビスフェノールAのmol数)〕
(イオンクロマトグラフィー)
前処理法:反応開始120分後の反応液1.0gを秤量し、キュメン0.5gと0.1N−水酸化ナトリウム水溶液1gを加えて振り混ぜた。一晩静置後、水相のみを採取した。
装置:(以下の装置群からなる)
デガッサー:昭和電工製「DEGAS KT−27」
ポンプ(2台):島津製作所製「LC−10AD」「LC−10AT」
自動注入装置:システムインスツルメント製「AUTO SAMPLER 09」
恒温槽:島津製作所製「CTO−10A」
電気伝導度検出器:昭和電工製「CD−5」
カラム:島津製作所製「SPR−H」(250mm×7.8mmφ)×2本
温度:45℃
溶離液:
A液:5mM p−トルエンスルホン酸水溶液
B液:100μM 4H−EDTAを含む20mM Bis−Tris溶液
(実施例4−1−2)
<酸性触媒の調製>
2−ピリジルエチルチオアセテート滴下時のフラスコの内温を室温(25℃)で行った以外は、実施例4−1−1と同様の操作を行った。変性及び加水分解処理終了後、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を濾別した濾液の酸量を、実施例4−1−1と同様に滴定分析により求めた結果、0.05mmolであり、2−ピリジルエチルチオアセテートの加水分解の転化率は6.8%であった。
<ビスフェノール化合物の製造>
上記の酸性触媒を用いて実施例4−1−1と同条件で反応を行い、所定時間毎に反応液を採取し、同様に分析を行って4,4’−ビスフェノールA収率、4,4’−体/2,4’−体比、酢酸フェニル及び酢酸の生成量を求めた結果を表4に示す。
(実施例4−1−3)
<酸性触媒の調製>
東京理化器械(株)製パーソナル有機合成装置「ケミステーションPPV−3000」に付属の試験管に、スルホン酸型陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標)「SK104H」:交換容量1.65mmol/g−湿潤状態)0.50g−湿潤状態を秤量し、60℃の溶融フェノール約50mlを添加した。この試験管を当該装置に組み込み、窒素を流通させながら攪拌をすることにより洗浄し、洗浄後のフェノールの含水率が0.1重量%以下になるまで攪拌とデカンテーションを繰り返した。次いで、上記試験管にフェノール15.0gを加え、窒素と約5℃の冷却水の流通を開始した後、温度を70℃に保ちながら、フラスコ内を窒素で置換し、300rpmで攪拌を開始した。次いで、実施例4−1−1におけると同様の条件で調製した2−ピリジルエチルチオアセテート0.023g(0.13mmol)をシリンジで滴下し、滴下終了後、更に2時間攪拌して変性処理を行い、酸性触媒(変性率15.8%)を調製した。
<ビスフェノール化合物の製造>
上記酸性触媒の調製を行った試験管を当該装置に組み込んだまま、この試験管にアセトン0.71gを添加して反応を開始した。反応開始後、所定時間毎に反応液を採取し、実施例4−1−1と同様に分析を行って、4,4’−ビスフェノールA収率、4,4’−体/2,4’−体比、酢酸フェニル及び酢酸の生成量を求めた結果を表5に示す。
実施例4−1−1〜3の結果を表6にまとめる。
表6より明らかなように、アシル基で保護した化合物を加水分解することによって得られた酸性触媒を用いることにより、ビスフェノールA生成反応での不純物生成量が著しく低減された。
(実施例4−2〜13)
水溶媒下における変性(加水分解)温度と変性(加水分解)時間の影響についてさらに検討する実験を行った。
<酸性触媒の調製>
東京理化器械(株)製パーソナル有機合成装置「ケミステーションPPV−3000」に付属の試験管に、スルホン酸型陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製ダイヤイオン(登録商標)「SK104H」:交換容量1.65mmol/g−湿潤状態)1.00g−湿潤状態、及び60℃の脱塩水約20mlを秤り入れ、攪拌を開始した。装置内に窒素を導入し、試験管内温を表7に示す所定温度に保ちながら、実施例4−1におけると同様の条件で調製した2−ピリジルエチルチオアセテート0.046g(0.024mmol)をシリンジで滴下した。滴下終了後、更に表7に示す所定時間攪拌し、変性及び加水分解処理を行った後、スルホン酸型陽イオン交換樹脂を濾別し、実施例4−1と同様にして濾液の酸量と2−ピリジルエチルチオアセテートの加水分解の転化率を求めた結果を表7に示す。
なお、この実施例4−2〜13における変性(加水分解)温度及び変性(加水分解)時間と2−ピリジルエチルチオアセテートの加水分解転化率との関係を図6に示す。
実施例4−2〜13の結果から、変性(加水分解)温度が高くなると、加水分解速度が上昇し、短時間で加水分解反応が進行することが分かった。