JP5804803B2 - 植物細胞分化促進剤 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素原子数が4〜24のケトール脂肪酸であって、カルボニル基を構成する炭素原子と水酸基が結合した炭素原子がα位の位置にある、炭素原子数が4〜24のケトール脂肪酸(以下、特定のケトール脂肪酸という。)を含んでなる植物細胞分化促進剤に関する。本発明はさらに、特定のケトール脂肪酸を添加することを含む、カルス又は植物切片からの再生植物体の作成方法にも関する。
植物体のもつ分化全能性を利用した組織培養技術は、均質な優良クローンの増産、ウィルスフリー植物の再生、新品種作出を目的とした育種に不可欠なものになっている。植物体の組織培養技術を用いることにより、カルスを増殖させ、次いで増殖組織に対して、培地中のオーキシンとサイトカインの濃度比を変更することにより、不定芽若しくは不定根へと器官分化させるか、又は不定胚を経て再生植物体を得ることができる。しかしながら、これらの組織培養技術は、用いられる基本培地や炭素源、植物ホルモン、塩類の種類、濃度あるいは培養温度等により影響を受けることが知られており、安定的にカルスから不定胚、不定芽、及び/又は不定根を誘導することは困難な場合が多い。
組織培養技術を応用することにより、高等植物へ外来遺伝子を導入する形質転換や細胞融合が行われている。例えば、アグロバクテリウム形質転換法においては、植物片又はカルスにアグロバクテリウムを感染させた後に、選抜用抗生物質を含む再分化培地に移して培養を行い、外来遺伝子が導入された細胞を選抜しつつ再分化させる過程が行われている。この際、植物種によっては植物細胞内に外来遺伝子が導入されているにもかかわらず、再分化能の低さから形質転換体が得られない場合がある。また、遠縁の組み合わせによる細胞融合雑種の作出では、融合細胞が得られた場合でも、再分化能が低いために途中の段階で一方の染色体が脱落し、完全な植物体へと再分化できないという問題もある。したがって、形質転換や細胞融合の技術には、カルスから植物体へと再分化効率が重要である。
従来、効率よく短期間で再分化させるために、いくつかの提案がなされてきた。例えば、特許文献1には、ポテトエクストラクトを添加したカルス増殖培地で培養して得られた不定胚様のカルスを、主要無機塩類濃度を低減した再分化培地に移植することによるイネ科植物の再生方法が、特許文献2には、増殖させたカルスをある程度乾燥させてから再分化培地に移植し、静置培養するイグサのカルス再分化法が、特許文献3には、サイトカイニン系の植物ホルモンを含有するpH調整された合成培地に置床して培養するケナフのカルス再分化方法が、特許文献4には、スターチスの植物体の一部を、ピクロラムを含有する培地で培養し、カルスを誘導、培養増殖し、そのカルスを、サイトカイニンを含有する培地で培養する再分化植物体を作製する方法が、それぞれ報告されている。更に、特許文献5、6及び7には、エンターバクター属、バチルス属あるいはシュードモナス属に属する微生物を培養し、該培養液から抽出した植物カルス細胞分化剤が開示されている。
しかしながら、これら方法はいずれも品種や生理的な要因が限定的であると共に、その効果も十分なものとは言い難かった。
一方で、本願発明者らは、炭素原子数が4〜24のケトール脂肪酸であって、カルボニル基を構成する炭素原子と水酸基が結合した炭素原子がα位の位置にある、炭素原子数が4〜24のケトール脂肪酸、特に9−ヒドロキシ−10−オキソ−12(Z),15(Z)−オクタデカジエン酸が、花芽形成促進作用、さらには植物賦活作用を有することを見出していた(特許文献8及び9)。
特開平5−219851号公報 特開平6−153730号公報 特開2000−217457号公報 特開2000−270854号公報 特開平5−49470号公報 特開平10−191966号公報 特開平10−229875号公報 特開平11−29410号公報 特開2001-131006号公報
本発明は、カルスから正常な不定胚、不定根、若しくは不定芽への分化を促進し、又は植物切片から不定根又は不定芽への分化を促進し、結果として安定して再生植物体を得ることを可能にする植物細胞分化促進剤を提供することを課題とする。また、本発明は、植物体の一部から誘導されたカルスからの不定胚、不定根、又は不定芽の分化、又は植物切片からの不定根又は不定芽の分化を促進し、再生植物体を効率よく取得させる方法を提供することを課題とする。
本発明者は、植物ホルモンの一種である特定のケトール脂肪酸についてその効果について鋭意研究を行っていたところ、驚くべきことにカルスから不定胚への誘導工程において、特定のケトール脂肪酸が、カルスから正常な不定胚への誘導を促進することを見出すことにより、本発明を完成させた。
本発明は、当該特定のケトール脂肪酸、又はその誘導体を有効成分として含有することを特徴とする、植物細胞分化促進剤、並びに当該特定のケトール脂肪酸又はその誘導体を使用することによる再生植物体の作成方法にも関する。
より具体的に、本願は以下の発明を包含する。
[1] 炭素原子数が4〜24のケトール脂肪酸であって、カルボニル基を構成する炭素原子と水酸基が結合した炭素原子がα位の位置にある、炭素原子数が4〜24のケトール脂肪酸を含んでなる植物細胞分化促進剤。
[2] 前記ケトール脂肪酸に、炭素間の二重結合が1〜6か所(ただし、この二重結合数は、ケトール脂肪酸の炭素結合数を超えることはない)存在する、[1]に記載の植物細胞分化促進剤。
[3] 前記ケトール脂肪酸の炭素原子数が18であり、かつ、炭素間の二重結合が2か所存在する、[1]又は[2]に記載の植物細胞分化促進剤。
[4] 前記ケトール脂肪酸が、9−ヒドロキシ−10−オキソ−12(Z),15(Z)−オクタデカジエン酸(以下、KODAと呼ぶ)である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の植物細胞分化促進剤。
[5] 前記植物細胞分化促進剤が、植物のカルスからの不定胚、不定根、又は不定芽の分化を促進する、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の植物細胞分化促進剤。
[6] 前記植物細胞分化促進剤が、植物切片からの不定芽又は不定根の分化を促進する、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の植物細胞分化促進剤。
[7] 前記植物細胞分化促進剤が、不定胚、不定根、又は不定芽を経た再生植物体への分化を促進する、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の植物細胞分化促進剤。
[8] カルスからの再生植物体の作成方法であって、継代培地中で維持しているカルスを再分化培地に移植する3週間前から再分化培地に移植後2週間までの期間に、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の植物細胞分化促進剤をカルスに施用する工程を含む、再生植物体の作成方法。
[9] 前記期間が、再分化培地に移植する2週間前から再分化培地に移植後1週間までの期間である、[8]の再生植物体の作成方法。
[10] [9]に記載の再生植物体の作成方法を用いて作成された再生植物体。
[11] [1]〜[4]のいずれか一項に記載の植物細胞分化促進剤を含む、植物培養培地。
本発明に係る植物細胞分化促進剤を、脱分化した細胞の塊であるカルスに施用(滴下)することにより、正常な不定胚への誘導能を発揮する。不定胚分化を誘導するための汎用的条件は未だ確立されておらず、多くの場合、カルスをオーキシンを含む培地で培養した後に、オーキシンを含まないか又はオーキシン濃度の低い培地に移すことで不定胚分化が誘導されるが、同一個体、同一組織から得られたカルスであっても、カルスの状態によって不定胚誘導能、誘導効率は大きく異なり安定しない。そこで、本発明に係る植物細胞分化促進剤を使用することにより、不定胚分化の効率を高め、かつ安定させることができる。
図1は、スパティフィラム(Spathiphyllum)のカルスから不定胚への分化を誘導する際におけるKODAの効果を示す図である。対照区に比較して、2週間後にKODAを施用した処理区において多くの不定胚が回収された。 図2は、スパティフィラムのカルスから不定胚への分化を誘導する際におけるKODAの効果を示すグラフである。KODAの施用時期が不定胚分化の誘導に影響を及ぼすことが示される。 図3は、スパティフィラムのカルスから不定胚への分化を誘導する際におけるKODAの濃度が再分化効率に及ぼす影響を示した図である。 図4は、図3の結果である再分化した植物体数をグラフとして表した図である。各濃度において、対照に比較して再分化した植物体数が増加したことを示す。
本発明は、特定のケトール脂肪酸、又はその誘導体を有効成分として含有することを特徴とする植物細胞分化促進剤に関する。好ましくは本発明に係る植物細胞分化促進剤は、カルスから不定胚への正常分化を促進する。カルスは不定胚へ分化後に、再生植物体へとさらに分化する。したがって、カルスから正常な不定胚への分化を促進することにより、最終的に効率よく再生植物体を得ることができる。
別の態様では本発明に係る植物細胞分化促進剤は、器官分化を促進する。器官分化の例として、不定器官、例えば不定芽や不定根への分化が挙げられる。本発明に係る植物細胞分化促進剤は、カルスからの不定器官への正常分化、或いは植物体の一部からの不定器官、例えば不定根や不定芽への正常分化を促進する。カルスから不定器官、例えば不定芽や不定根が分化した場合、カルスは、不定芽又は不定根を経て再生植物体へとさらに分化する。植物体の一部から不定芽又は不定根を分化させる場合、植物体の一部から不定芽又は不定根が現れることで再生植物体が得られる。
さらに別の態様では、本発明は、上記細胞分化促進剤を含む溶液を、カルス又は植物体の一部に施用して培養することを含む、カルス又は植物体の一部からの再生植物体の作成方法にも関する。好ましくはカルスからの再生植物体の作成方法では、上記細胞分化促進剤は、再分化培地に移す3週間前から、移植後2週間までの期間にカルスに対し1又は複数回滴下することにより施用される。より好ましくは、再分化培地への移植2週間前から移植後1週間までの期間にカルスに1回又は複数回施用される。植物体の一部からの再生植物体の作成方法では、植物体の一部を切り出した後すぐに、上記細胞分化促進剤を含む溶液に切り口を浸すことにより施用される。カルスや植物体に細胞分化促進剤を含む溶液を直接施用する代わりに、当該細胞分化促進剤が添加された培地中で、カルス又は植物の一部を培養することもできる。
本発明の植物細胞分化促進剤に含まれる特定のケトール脂肪酸は、炭素原子数が4〜24のケトール脂肪酸であり、アルコールの水酸基とケトンのカルボニル基とを同一分子内に有する脂肪酸である。
特定のケトール脂肪酸は、カルボニル基を構成する炭素原子と水酸基が結合した炭素原子がα位またはγ位の位置にあることが好ましく、特に、α位であることが好ましい。また、特定のケトール脂肪酸は、炭素間の二重結合が0〜6か所(ただし、この二重結合数は、ケトール脂肪酸の炭素結合数を超えることはない)存在することが好ましい。
また、特定のケトール脂肪酸の炭素原子数は18であり、かつ、炭素間の二重結合が1〜2か所存在することが好ましい。
特定のケトール脂肪酸の具体例としては、例えば9−ヒドロキシ−10−オキソ−12(Z),15(Z)−オクタデカジエン酸〔以下,特定のケトール脂肪酸(I)又はKODAということもある〕、13−ヒドロキシ−12−オキソ−9(Z),15(Z)−オクタデカジエン酸〔以下,特定のケトール脂肪酸(II)ということもある〕、13−ヒドロキシ−10−オキソ−11(E),15(Z)−オクタデカジエン酸〔以下、特定のケトール脂肪酸(III)ということもある〕、9−ヒドロキシ−12−オキソ−10(E),15(Z)−オクタデカジエン酸〔以下、特定のケトール脂肪酸(IV)ということもある〕、9,15,16−ヒドロキシ−10−オキソ−12(Z)−オクタデカモノエン酸、9,15-ヒドロキシ‐10‐オキソ‐16‐クロル‐オクタデカモノエン酸、9,16-ヒドロキシ‐10‐オキソ‐15‐クロル‐オクタデカモノエン酸等を挙げることができる。
以下に、特定のケトール脂肪酸(I)〜(IV)の化学構造式を記載する。
その他の特定のケトール脂肪酸の化学構造式並びにこれらの特定のケトール脂肪酸の合成法については特許文献9に開示されている通りである。
特定のケトール脂肪酸、特にKODAは、アサガオ、レタス、ソラマメ、ユーストマ(トルコギキョウ)、シクラメン、ジギタリス、クリサンセマム、ゼラニウム、プリムラ・メラコイデス、ベゴニア・センパフローレンス、カーネーション、イネ及びイチゴに対して、成長調節効果、成長促進効果、休眠抑制効果といった植物賦活効果を有することが示されており(特許文献9)、植物種に対して汎用性が高い物質である。
一般に植物ホルモンは、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、エチレン、アブシジン酸といった限られた数の植物ホルモンが、その作用部位に応じて様々な効果を及ぼすことが知られている。例えばオーキシンの場合、茎や幼葉鞘の成長を促進するが、根や側芽の成長は阻害し、そして花芽や果実の発達を促進する。一方サイトカイニンの場合、茎と根の伸張を阻害するが、本葉や子葉などでは細胞の拡大を促進する。本発明の特定のケトール脂肪酸も、その作用部位に応じて種々の効果を発揮する。特許文献8、9には、本発明の特定のケトール脂肪酸が、花芽形成、植物成長促進、成長調節効果、休眠抑制効果といった様々な効果を発揮することを記載している。本願発明は、これらの効果に加えて、特定のケトール脂肪酸が、カルスからの正常不定胚分化を促進する効果を発見したことに基づいている。
本発明の特定のケトール脂肪酸が、多くの種類の植物種に対して、その成長調節効果、成長促進効果、休眠抑制効果が知られていることから、カルスからの正常不定胚分化の促進効果についても汎用性を有すると考えられる。したがって、本発明の特定のケトール脂肪酸のカルスからの正常不定胚分化を促進する効果は、下記の実施例に記載されたスパティフィラムに限定されるものではない。
本発明の植物細胞分化促進剤を使用する植物としては、被子植物(双子葉植物・単子葉
植物)の他、シダ類および裸子植物が挙げられる。例えば被子植物のうち、双子葉植物としては、例えば、アサガオ属植物(アサガオ)、ヒルガオ属植物(ヒルガオ、コヒルガオ、ハマヒルガオ)、サツマイモ属植物(グンバイヒルガオ、サツマイモ)、ネナシカズラ属植物(ネナシカズラ、マメダオシ)が含まれるひるがお科植物、ナデシコ属植物、ハコベ属植物、タカネツメクサ属植物、ミミナグサ属植物、ツメクサ属植物、ノミノツヅリ属植物、オオヤマフスマ属植物、ワチガイソウ属植物、ハマハコベ属植物、オオツメクサ属植物、シオツメクサ属植物、マンテマ属植物、センノウ属植物、フシグロ属植物、ナンバンハコベ属植物等のなでしこ科植物をはじめ、もくまもう科植物、どくだみ科植物、こしょう科植物、せんりょう科植物、やなぎ科植物、やまもも科植物、くるみ科植物、かばのき科植物、ぶな科植物、にれ科植物、くわ科植物、いらくさ科植物、かわごけそう科植物、やまもがし科植物、ぼろぼろのき科植物、びゃくだん科植物、やどりぎ科植物、うまのすずくさ科植物、やっこそう科植物、つちとりもち科植物、たで科植物、あかざ科植物、ひゆ科植物、おしろいばな科植物、やまとぐさ科植物、やまごぼう科植物、つるな科植物、すべりひゆ科植物、もくれん科植物、やまぐるま科植物、かつら科植物、すいれん科植物、まつも科植物、きんぽうげ科植物、あけび科植物、めぎ科植物、つづらふじ科植物、ろうばい科植物、くすのき科植物、けし科植物、ふうちょうそう科植物、あぶらな科植物、もうせんごけ科植物、うつぼかずら科植物、べんけいそう科植物、ゆきのした科植物、とべら科植物、まんさく科植物、すずかけのき科植物、ばら科植物、まめ科植物、かたばみ科植物、ふうろそう科植物、あま科植物、はまびし科植物、みかん科植物、にがき科植物、せんだん科植物、ひめはぎ科植物、とうだいぐさ科植物、あわごけ科植物、つげ科植物、がんこうらん科植物、どくうつぎ科植物、うるし科植物、もちのき科植物、にしきぎ科植物、みつばうつぎ科植物、くろたきかずら科植物、かえで科植物、とちのき科植物、むくろじ科植物、あわぶき科植物、つりふねそう科植物、くろうめもどき科植物、ぶどう科植物、ほるとのき科植物、しなのき科植物、あおい科植物、あおぎり科植物、さるなし科植物、つばき科植物、おとぎりそう科植物、みぞはこべ科植物、ぎょりゅう科植物、すみれ科植物、いいぎり科植物、きぶし科植物、とけいそう科植物、しゅうかいどう科植物、さぼてん科植物、じんちょうげ科植物、ぐみ科植物、みそはぎ科植物、ざくろ科植物、ひるぎ科植物、うりのき科植物、のぼたん科植物、ひし科植物、あかばな科植物、ありのとうぐさ科植物、すぎなも科植物、うこぎ科植物、せり科植物、みずき科植物、いわうめ科植物、りょうぶ科植物、いちやくそう科植物、つつじ科植物、やぶこうじ科植物、さくらそう科植物、いそまつ科植物、かきのき科植物、はいのき科植物、えごのき科植物、もくせい科植物、ふじうつぎ科植物、りんどう科植物、きょうちくとう科植物、ががいも科植物、はなしのぶ科植物、むらさき科植物、くまつづら科植物、しそ科植物、なす科植物(なす、トマト等)、ごまのはぐさ科植物、のうぜんかずら科植物、ごま科植物、はまうつぼ科植物、いわたばこ科植物、たぬきも科植物、きつねのまご科植物、はまじんちょう科植物、はえどくそう科植物、おおばこ科植物、あかね科植物、すいかずら科植物、れんぷくそう科植物、おみなえし科植物、まつむしそう科植物、うり科植物、ききょう科植物、きく科植物等を例示することができる。
同じく、単子葉植物としては、例えば、ウキクサ属植物(ウキクサ)およびアオウキクサ属植物(アオウキクサ、ヒンジモ)が含まれる、うきくさ科植物、カトレア属植物、シンビジウム属植物、デンドロビューム属植物、ファレノプシス属植物、バンダ属植物、パフィオペディラム属植物、オンシジウム属植物等が含まれる、らん科植物、がま科植物、みくり科植物、ひるむしろ科植物、いばらも科植物、ほろむいそう科植物、おもだか科植物、とちかがみ科植物、ほんごうそう科植物、いね科植物(イネ、オオムギ、コムギ、ライムギ、トウモロコシ等)、かやつりぐさ科植物、やし科植物、さといも科植物、ほしぐさ科植物、つゆくさ科植物、みずあおい科植物、いぐさ科植物、びゃくぶ科植物、ゆり科植物(アスパラガス等)、ひがんばな科植物、やまのいも科植物、あやめ科植物、ばしょう科植物、しょうが科植物、かんな科植物、ひなのしゃくじょう科植物等を例示することができる。
本発明の植物細胞分化促進剤を使用する植物として、上記のものが考えられるが、特に、種子を介した繁殖が困難である植物に対して本発明の植物細胞分化促進剤を用いることが好ましい。具体的な例として、ラン、ユリ、ニンニク、花木、ジャトロファ、アロエ、アガベ、オペルクリカリア、アレカヤシ、ドラセナ、キセログラフィカ、シェフレラ、チューリップ、チャメドレア、ハートカズラ、フィカス、フィロデンドロン、ヘデラ、ベビーティアーズ、ペペロミア、ポトス、ポリスキアス、ホヤ、モンステラ、ワイヤープランツ、ムラサキゴテン、パキア、ハツユキカズラ、ヒポエステス、ピレア、フィットニア、ポインセチア、マランタ、ハイビスカス、ブーゲンビレア、ブライダルベール、ベゴニア、パキラ、フィカス、プミラ、ベンジャミン、ヤシ類、ユッカなどが挙げられる。また、優良形質を持つ個体の栄養繁殖の際にも本技術は有用である。その際の植物種に制限はない。
特定のケトール脂肪酸は、使用する植物の種類に応じて、使用濃度を選択することができる。植物細胞分化促進剤を含む溶液をカルスに直接滴下することにより施用する場合、当該溶液は、0.01ppm〜10ppmの濃度の特定のケトール脂肪酸を含む。好ましくは、特定のケトール脂肪酸の濃度範囲は、下限値として0.01、0.02、0.03、0.05、0.1、0.2、及び0.3ppmのうちのいずれか、並びに上限値として0.1、0.2、0.3、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、5.0、7.0、及び10ppmのうちのいずれかを組み合わせた任意の範囲をとることができる(ただし、下限値は上限値を超えることはない)。より好ましくは特定のケトール脂肪酸は、0.1ppm〜3ppm、さらに好ましくは0.03ppm又は0.3ppmの濃度で用いることができる。当業者であれば植物種に応じて簡単な実験を行うことにより、至適濃度を決定することができる。培地に添加する場合は、上記濃度範囲になるように、特定のケトール脂肪酸を培地に添加すればよい。
本発明の再分化植物体の作製方法において用いられるカルスは、植物体の一部から誘導されたものであり、形質転換系のものであってもよいし、また細胞融合により得られたものであってもよい。植物体の一部からカルスの誘導は、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、植物体の一部を、植物組織培養に用いられている培地、例えば、MS培地(MurashigeとSkoogの培地)、LS培地(LinsmaierとSkoogの培地)、ガンボルグB5培地、ホワイト培地、ニッチ培地、KNUDSON C培地、SB培地、R2培地、N6培地、Tuleeke培地等の基本培地に、ショ糖などの栄養源を加え、これに植物ホルモン、例えば2,4−ジクロロフェノキシ酢酸等のオーキシン、カイネチンやベンジルアデニン等のサイトカイニン等を加えて調製される固体培地あるいは液体培地で培養することにより、カルスを得ることができる。カルスを誘導する培養条件は、光存在下あるいは不存在下、15〜35℃で静置あるいは振とう培養すればよい。
誘導されたカルスは、継代培地に移植され培養されるが、直接、後述する再分化培地に移植することもできる。継代培地は、カルスを未分化のまま維持し、増殖させるための培地であり、一般的に使用される任意の継代培地であってよい。例えば、継代培地は、上記基本培地に、糖類、無機塩、ビタミン、オーキシン、必要に応じてサイトカイニン、アミノ酸等を添加した培地であり、固体培地を用いることができるが液体培地が好ましい。カルスの継代培地は、カルスの誘導培地と同一であることもある。培養条件は、カルス誘導培養条件と同様である。カルスの継代は、1〜4週間毎に行うことが好ましい。
再分化培地とは、未分化状態に維持されたカルスを、不定胚、不定根、又は不定芽を経て再生植物体へと分化させる培地である。本発明において用いられる再分化培地としては、従来公知の培地が用いられ、例えば、上記基本培地に、糖類、無機塩、ビタミン、及び必要に応じてオーキシン、サイトカイニン、アミノ酸等が添加されたものである。培地は固体培地あるいは液体培地を用いることができる。固体培地を調製するときのゲル化剤としては、寒天、ジェランガム等が挙げられる。培養条件は、光存在下、15〜35℃で静置培養することが望ましい。
本発明の植物細胞分化促進剤は、継代培地及び/又は再分化培地に添加すること、又は固体培地上のカルスに滴下することにより使用することができる。当該植物細胞分化促進剤は、固体培地に用いられる場合、予め固化する前の液体培地に含められてもよいし、固体培地の表面上に塗布されることにより添加されてもよい。
本発明の植物細胞分化促進剤を含む継代培地又は再分化培地上でカルスを培養することにより、又は、本発明の植物細胞分化促進剤をカルスに滴下することにより、カルスからの正常な不定胚の形成を促進することができる。また、本発明の植物細胞分化促進剤を含む継代培地又は再分化培地上でカルスを培養することにより、又は本発明の植物細胞分化促進剤をカルスに滴下することにより、不定根又は不定芽の形成を促進することもある。カルスから不定胚、不定根、不定芽のいずれが形成するかは、培地におけるオーキシンとサイトカイニン量の比率に依存しており、一般にオーキシン量が多いと不定根分化が見られ、サイトカイニン量が多いと不定芽分化が見られ、オーキシン量を極端に低下させると不定胚が形成される。分化された不定胚、及び不定芽はいずれも再生植物体へと分化することができる。これらをまとめると、本発明の植物細胞分化促進剤は、カルスの分化促進剤であるといえる。そして、従来カルスからの不定胚誘導に使用されるオーキシンやサイトカイニンといった植物ホルモンを含む培地に添加して分化を促進することから、植物細胞分化促進補助剤、カルスの分化促進補助剤ということもできる。
一方、本発明の植物細胞分化促進剤は、植物切片からの不定器官、特に不定根や不定芽の分化を促進することもできる。したがって、本発明の植物細胞分化促進剤は、マイクロプロパゲーション法において用いることができ、植物切片の発芽促進剤又は発根促進剤としても使用することができる。本発明の植物細胞分化促進剤を使用する植物切片としては、植物体の任意の一部、例えば、葉、茎、根などが挙げられるが、植物体から切り離された脇芽などの発根促進に用いることもできる。
本発明の植物細胞分化促進剤は、再分化培地に移す3週間前から、再分化培地に移植後2週間までの期間に継代培地又は再分化培地に添加することにより、その分化促進作用を発揮することができる。より好ましくは、再分化培地への移植2週間前から移植後1週間までの期間に継代培地又は再分化培地に添加することにより、その分化促進作用を発揮することができる。
本発明の植物細胞分化促進剤は、植物組織培養において一般的に使用される植物ホルモンと一緒に使用されることが好ましい。本発明の植物細胞分化促進剤と一緒に使用される植物ホルモンとして、オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、エチレン、アブシジン酸などが挙げられるが、オーキシン、サイトカイニンが好ましい。
本発明の別の態様では、本発明は、特定のケトール脂肪酸を含む培地にも関する。本発明の培地は、好ましくは、特定のケトール脂肪酸を含むカルスの継代培地又は再分化培地である。これらの培地は、特定のケトール脂肪酸を含むことを除いて、一般的に使用されるカルスの継代培地又は再分化培地と同じである。一般的に使用されるカルスの継代培地又は再分化培地の基本培地として、MS培地、LS培地、N6培地、ガンボルグB5培地、ホワイト培地、ニッチ培地、KNUDSON C培地、SB培地、R2培地、Tuleeke培地などが挙げられ、これらの基本培地にさらにオーキシン及びサイトカイニンを加えて継代培地とし、オーキシン量を低下させるか又は完全に取り除き、かつサイトカイニン量を変化させることにより再分化培地とすることができる。これらの培地は、液体培地又は固体培地であってもよい。
本明細書において用いられるオーキシンとしてはインドール酢酸(IAA)、インドール酪酸(IBA)、ナフタレン酢酸、ナフトキシ酢酸、フェニル酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、及び2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5−T)などが挙げられる。本明細書において用いられるサイトカイニンとしては、ゼアチン、ベンジルアデニン及びチジアズロンなどが挙げられる。
本発明の植物細胞分化促進剤に含まれる特定のケトールの具体的な例である9−ヒドロキシ−10−オキソ−12(Z),15(Z)−オクタデカジエン酸(KODA)は、アオウキクサ科植物の一種であるアオウキクサから抽出して得る抽出法を用いて製造することができる。他の製造方法として、不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸(一般名:cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸)に9位特異性リポキシゲナーゼ(LOX)、アレンオキシドシンターゼ(AOS)といった酵素を、植物体内における脂肪酸代謝経路に準じて作用させることにより得る酵素法、及び通常公知の化学合成法を駆使することにより得る化学合成法を用いてKODAを製造することもできる。これらの製造方法については特許文献8及び9に具体的に記載されている。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を何ら制限するものではない。
実施例1:スパティフィラム培養苗からのカルスの誘導
スパティフィラム(品種Double Take)の培養苗として、旭テクノグラス社製のプラントボックス(内容積300ml)に入れたMS培地(MurashigeとSkoogの培地)にショ糖3%、寒天(和光純薬社、東京、日本国)0.8%を添加しpHを5.8に調整した固体培地上にて、明所(光合成光量子束密度5.7μmole/m2/sec、16時間日長)、25℃の条件下にて継代維持されている培養苗を使用した。
0.8%寒天にて固化したMS培地に、ショ糖(3%)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(4ppm)、ベンジルアデニン(BA)(0.2ppm)、カゼインの酸加水分解物(100ppm)、5mMの2−モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES)を添加してカルス誘導及び増殖用の培地(以下、「継代培地」という)とした(pH5.8)。培養4週目の培養苗から、葉鞘を株から剥がす様に採取し、剥離部分を含む約2cmの切片(葉鞘基部)を外植片とした。その外植片を、カルス継代培地(50ml)を加えたプラントボックスに置床した。25℃、暗所条件にて8週間培養したところ、置床切片のの剥離部分にカルスが誘導された。これらのカルスを0.2g/容器ずつ継代培地に継代し1ヶ月培養することによって、エンブリオジェニック・カルスが選抜された。エンブリオジェニック・カルスは、4週間毎に継代培地へ継代することにより、不定胚誘導能を保持したまま2年間の維持が可能であった。
ショ糖(1%)、フラクトース(1.1%)、BA(0.1ppm)、MES(5mM)を含むMS液体培地(pH5.8)(以下、「再分化培地」という)160mlを入れた500mlの三角フラスコに、エンブリオジェニック・カルスを各0.05gずつ置床し、25℃、明所(16時間日長、光合成光量子束密度22.8μmole/m2/sec)にて6週間浸とう培養を行い(80rpm)、不定胚を得た。これらの不定胚を、ショ糖(3%)を含み寒天(0.8%)で固化したMS培地(pH5.8、以下「発芽培地」という)(50ml)を入れたプラントボックスに0.2gずつ置床し、25℃、明所(16時間日長、光合成光量子束密度5.7μmole/m2/sec)にて8週間培養を行ったところ、不定胚は発芽し完全な植物が得られた。
実施例2:スパティフィラムのカルスからの不定胚分化誘導におけるKODAの影響
継代培地中に維持しているエンブリオジェニックカルスを、新たな継代培地において継代培養し、1週間(7日)後、2週間(14日)後、3週間(20)後にKODAの3ppm水溶液をカルスに滴下した。継代開始から3週間後に、培養されたカルスを液体の再分化培地に置床し、6週間後に分化した不定胚を回収し(図1)、脱水し、脱水後の不定胚重量を測定した。不定胚を発芽培地に置床し、得られた発芽体の数をカウントした。結果を表1に示す。測定結果から、脱水後の不定胚重量1gあたりの発芽体数を算出した(図2)。対照区に比較し、1週間後処理区では、対照区に比較して増減が見られないが、2週間後処理区で最も増加し、3週間後処理区では2週間後処理区よりも減少した。KODAのカルスに対する不定胚誘導効果は施用時期特異性があると考えられる。
実施例3:スパティフィラムのカルスからの不定胚分化誘導におけるKODA濃度の影響
継代培地中に維持しているエンブリオジェニックカルスを、新たな再分化培地に置床し、2週間後に、0.03ppm、0.3ppm、3ppmのKODA水溶液を滴下し、8週間後に正常に再生した植物体の数を記録した。すべての試験区において、植物体に再生しているものの、甚だしいストレス症状(細葉)を有する植物体が多数見られた(図3)。これらの甚だしいストレス症状を示す植物体については、正常に再生した植物体数に計上しなかった。対照区では、ストレス症状を示す植物体の数が多く、結果として、正常に再生した植物体数が少なかった。結果を図4に示す。

Claims (6)

  1. 炭素原子数が4〜24のケトール脂肪酸であって、カルボニル基を構成する炭素原子と水酸基が結合した炭素原子がα位の位置にある、炭素原子数が4〜24のケトール脂肪酸を含んでなる、カルスからの不定胚への分化促進剤。
  2. 前記ケトール脂肪酸に、炭素間の二重結合が1〜6か所(ただし、この二重結合数は、ケトール脂肪酸の炭素結合数を超えることはない)存在する、請求項1に記載の分化促進剤。
  3. 前記ケトール脂肪酸の炭素原子数が18であり、かつ、炭素間の二重結合が2か所存在する、請求項1又は2に記載の分化促進剤。
  4. 前記ケトール脂肪酸が、9−ヒドロキシ−10−オキソ−12(Z),15(Z)−オクタデカジエン酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分化促進剤。
  5. カルスからの再生植物体の作成方法であって、継代培地中で維持しているカルスを再分化培地に移植する3週間前から移植後2週間までの期間に、カルスに対し請求項1〜4のいずれか一項に記載の分化促進剤を施用する工程を含む、再生植物体の作成方法。
  6. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の分化促進剤を含む、植物培養培地。
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