本発明は、セラミックス粉末や金属粉末およびこれらの混合粉末を、冷間静水圧プレスを用いて成形して得た成形体を焼成して得られる焼結体、それを用いたスパッタリングターゲット及び前記成形体を製造する際に使用される成形型、並びに前記焼結体の製造方法に関する。
セラミックス粉末や金属粉末およびこれらの混合粉末を板状に成形した成形体は、成形後、焼成、加工が施されスパッタリングターゲット材や耐摩耗材として用いることが出来る。スパッタリングターゲット材はスパッタリング法により薄膜作製の材料として用いられ、LCD(液晶ディスプレイ)、EL(エレクトロフミネセンス)や半導体の製造などで使用される。最近では、これらLCDや半導体製品の大型化に伴い、ターゲット材の大型化に対する要求が強くなっている。また、ITO(Indium Tin Oxide)ターゲットでは、積算スパッタリング時間の増加と共にターゲット表面にノジュールと呼ばれる黒色の付着物が析出し、異常放電の原因となる。この異常放電が発生すると製品の歩留まりが低下することが知られており、異常放電を減少するためターゲット材の高性能化が強く要求されている。そのため、大型でかつ高密度の焼結体が強く要求されている。
異常放電の発生およびノジュール生成の抑制に関しては、従来よりターゲット材の高密度化やスパッタ面の平滑化等の種々の検討がなされている。特許文献1には、ITOターゲットにおいては、ターゲット中に含まれるAl、Si等の周期律表IIIb族およびIVb族に属する元素を50ppm以下にすることが開示されているが、炭素の影響については、具体的には何ら言及されていない。また、ターゲット中の炭素の影響に関しては、特許文献2に、ITOターゲットにおいて、炭素、窒素、ホウ素のいずれかを添加することにより、得られる透明導電膜のエッチング速度の向上と安定化が得られること、炭素含有量は0.005〜3%、窒素含有量は0.1〜5%、ホウ素含有量は0.001〜10%が好ましいことが記載されている。
一方、従来から、セラミックス粉末や金属粉末およびこれらの混合粉末を板状に成形する方法として、乾式プレス成形法、鋳込み成形法または冷間静水圧プレス法が用いられている。
乾式プレス成形法は、原料粉末にバインダーを加え、金型を用いて成形体を成形する方法であり、鋳込み成形法は原料粉末にバインダーを加え、スラリー化し、鋳込み用成形型に流し込み成形体を製造する方法である。これらの成形体(一次成形体)は高密度化を図るため、さらに冷間静水圧プレスを施して高密度の二次成形体を製造する場合もある。例として、金属インジウムおよび金属スズからなる合金ターゲット(ITターゲット)、或いは酸化インジウムと酸化スズからなる複合酸化物ターゲット(ITOターゲット)の製造が挙げられる(例えば、特許文献3、4参照)。これらの成形方法は、高密度のターゲットが得られるものの製造プロセスが複雑になる欠点があった。また、高価な乾式成形用のダイスや、鋳込み用鋳型が必要であり、大型の成形体を作製する場合には成形型コストが高くなるという欠点があった。さらに、原料粉末の造粒やスラリー化が必要となるため製造コストが高くなる欠点があった。
このような製造方法に対して、特許文献5には、1次成形なしに安価なゴム型に粉末を充填して、冷間静水圧プレスにて直接高圧成形する方法が開示されている。また、特許文献6では、ゴム型の復元による成形体の割れに関して、反発弾性値の小さいゴムを用いて、成形体の割れを防止する方法が提案されている。さらに、ゴム型への成形体の固着による成形体の割れに関して、特許文献7には、減圧時にほとんど弾性回復しない物質を介在させることで割れの解消が出来ることが報告されている。
また、前出の特許文献5では、形状精度の改善のために、片面を金属板で構成した型を用いて、冷間静水圧プレスにて直接高圧成形する方法を提案している。冷間静水圧プレスを用いて、さらに形状精度の良い成形体を得る方法として、特許文献8には、粉末を2枚の金属板で挟み、真空パックした後、5〜50MPaの圧力で冷間静水圧プレスで予備成形した後、再度真空パックを施し冷間静水圧プレスで本成形を行なう方法が報告されている。さらに、特許文献9では、原料粉末を充填した金型を密閉封入して冷間静水圧プレスに挿入して高圧成形する方法が提案されている。特許文献10では、樹脂製の組立式型枠及び成形パンチからなる型を用いて、冷間静水圧プレスで成形する方法が提案されている。この方法では型枠が分解できることから、型から成形体を取り出すことが容易になる。特許文献11には分割式の型枠と弾性材料の蓋からなる成形型が提案されている。特許文献12には分割式の型枠および成形パンチからなる成形型を軟質材で覆い、CIP成形することが提案されている。
一方、成形体の大きさが大きくなると成形体を保持するためにその強度を高める必要がある。しかし、例えば3000cm2の面を持つ大きな成形体を作製する場合、プレス成形では大きな圧力がかけられず成形体の強度を高める事ができない。そこで強度を高めるためにバインダー等の成形助剤を添加することが必要となる。そうすると焼成時に成形体中の有機物の除去を目的とした焼成工程(脱脂工程)が必要となる。バインダー等の成形助剤が燃焼、分解する際には成形体にクラックが入りやすく、割れを生じないようにするためには極めて低速度で昇温する必要があり、多大な時間を要する。例えば、特許文献13には大きさ1000cm2以上の板状の焼結体を作成する場合でも歩留まりよく作製するためには2℃/hr以下の極めて低速度で昇温を行う必要があることが開示されている。
また、ターゲットの使用効率を高めるために、特許文献14にはターゲットのエロージョン領域を他の部分よりも厚くすることが開示されている。
特開平08−246139号公報
特開平07−187769号公報
特開2000−144393号公報
特開平05−311428号公報
特開2003−003257号公報
特開平09−057495号公報
特開平06−100903号公報
特開平09−003636号公報
特開平05−287315号公報
特公平08−009120号公報
特開昭61−266204号公報
特開2003−266198号公報
特開平10−330169号公報
特開平01−290764号公報
上記のように、スパッタリングターゲットに用いる焼結体中の不純物については、特許文献1では周期律表のIIIb族およびIVb族に属する元素の量を50ppm以下にすることで異常放電の発生やノジュールの生成を抑制することが開示されているが、IVb族に属する元素である炭素の影響については何ら具体的な開示はなされていない。この特許文献1では有機物を含むバインダー等の成形助剤を用いて成形体を作製しているが、そのような場合には、通常、焼結のための本焼成の前に、添加した有機物を取り除くため300〜600℃程度の温度で脱脂処理を行っている。しかし、このような脱脂処理では焼結体中の有機物を完全に除去することは極めて困難であり、有機物が分解して生じた炭素が成形体中に残留してしまう。実際に、バインダーを1重量%以上添加した場合には、得られる焼結体中の炭素含有量を50ppm以下にすることは困難である。さらに、成形体の厚みが厚いほど脱脂が不完全になり易く、焼結体中に残留する炭素が多くなる。
また、特許文献2に開示されているように、ITOターゲットの場合には炭素含有量が多いと、得られる薄膜のエッチング速度が早くなるため、ターゲットの品質を一定に保ち、適切なエッチング速度を維持するためには焼結体中の炭素含有量を管理する必要がある。
一方、冷間静水圧プレスによる成形方法に関しては、前述のように、特許文献5には1次成形なしに安価なゴム型に粉末を充填して、冷間静水圧プレスにて直接高圧成形する方法が開示されている。しかし、このような方法で成形する場合、肉厚のゴム型で構成されているために、加圧時には、曲げ応力が発生して中央部が大きく変形する。このため、得られる成形体は面方向における中央部の厚みが端部よりも薄くなり、形状精度の悪い成形体しか得られない。さらに、この方法では、加圧成形後の減圧過程でゴム型は自身の弾性による復元力により、最終的に加圧前の状態にまで復元するが、成形体は収縮したままであるために、成形体とゴム型の固着などにより、成形体の一部が剥がれたり、あるいは成形体が割れる欠点がある。
特許文献6には、このゴム型の復元による成形体の割れに対して、反発弾性値の小さいゴム型を用いて、成形体の割れを防止する方法が提案されている。しかし、この方法は粉末の種類(成形体の強度)によって、あるいは成形体が大型化した場合には、粉末がゴム型に少しでも固着すると成形体のスプリングバックにより成形体が割れる欠点がある。したがって、大型で強度が低い成形体を製造する場合には、必ずしも十分な対策ではない。また、ゴム型と接している部分は依然として形状精度が悪いものである。
ゴム型への成形体の固着による成形体の割れに関して、特許文献7には、減圧時にほとんど弾性回復しない物質を介在させることで割れの解消が出来ることが報告されている。しかしながら、この方法でも形状精度は依然悪く、所望の製品形状に仕上げるため、研削量が増加し、その結果、必要となる原料粉末量が増加し、製造コストが高くなるという欠点がある。さらに、研削量が増えることで、研削に必要な加工時間も長くなり、加工費用も増加する欠点がある。高価な原材料を多く必要とする製品の場合、形状精度の良い成形体を得ることはコスト的にも非常に重要である。
形状精度の改善のためには、特許文献5では片面を金属板で構成した型を用いて、冷間静水圧プレスにより直接高圧成形する方法が提案されているが、この方法においても、ゴムで構成された面は依然形状精度が悪く、さらに、前記したように、ゴム型と成形体の弾性回復の違いにより、割れや剥離が発生する欠点がある。
冷間静水圧プレスを用い、さらに形状精度の良い成形方法として、特許文献8には、粉末を2枚の金属板で挟み、真空パックした後、5〜50MPaの圧力で冷間静水圧プレスで予備成形した後、再度真空パックを施し冷間静水圧プレスで本成形を行なう方法が報告されている。しかし、この方法では予備成形と本成形と2回の成形が必要であり、従来の2段成形処理における1次成形を省略して工程を簡素化する効果はない。さらに、高価な静水圧プレス装置を2回使う必要があり生産性でも劣っている。
特許文献9には、原料粉末を充填した金型を密閉封入して冷間静水圧プレスに挿入して高圧成形する方法が提案されている。この方法は、基本的に1軸プレスであり、形状精度の優れた成形体が得られるが、このような1軸プレスと同様の型を用いた場合、冷間静水圧プレスの様な高い圧力で成形される場合には、成形圧力が抜けた後の成形体のスプリングバックが大きくなる。したがって、スプリングバックによる成形体の膨張のため、成形体を型から取り出すのが難しくなるという欠点がある。特に、大型の成形や嵩高い粉末の成形の場合、スプリングバックがさらに大きくなるために、脱型の際に成形体が割れてしまう問題がある。
このような問題に対して、特許文献10では、樹脂製の組立式型枠及び成形パンチからなる型を用いて、冷間静水圧プレスで成形する方法が提案されている。型枠が分解できることから、型から成形体を取り出すことが容易になる。しかしながら、この方法でもスプリングバックの完全な解消には至っておらず、減圧後、スプリングバックによる成形体の膨張のため、成形体と枠との間に応力がかかり、これによって成形体が割れる欠点がある。特に、ターゲットのような大型の成形体の場合には、スプリングバックが大きくなり、成形体と枠との間に大きな応力が発生して、その応力に成形体が耐えられずに割れるという問題がある。
さらに、特許文献11には分割式の型枠と弾性材料の蓋からなる成形型が提案されている。この方法では分割型により、圧力伝達の方向に垂直な方向のスプリングバックによる成形体の膨張を吸収する構造となっているものの、静水圧による成形体への加圧は弾性材料である蓋を介して行われている。そのため、加圧成形後の減圧過程では、弾性材料である蓋が自身の弾性による復元力により加圧前の状態にまで復元することにより、圧力伝達の方向とその垂直な方向で成形体にかかる圧力が異なることとなる。特に成形体が大型化した場合には、これにより大きな不均一な力が成形体に働き成形体が割れる欠点がある。また、弾性材料である蓋による加圧では加圧時に成形体に加わる力が不均一になり易く、割れ易いばかりでなく、弾性体と接する面が不均一な形状となり、形状精度が悪いという欠点がある。
特許文献12には分割式の型枠および成形パンチからなる成形型を軟質材で覆い、CIP成形することが提案されている。この方法では、型枠が少なくとも二つ以上に分割され、かつ、固定されていないため、スプリングバックによる成形体の割れを避けることが可能となる。しかしながら、枠同士が固定されていないため、型全体の安定性に乏しく、型の形状を保持するために成形型をゴム媒体で覆う必要がある。この場合、高圧加圧成形後の減圧過程でゴム媒体は自身の弾性による復元力により加圧前の状態にまで復元するが、成形型の上パンチは収縮した成形体の位置に留まる。また分割された側壁はスプリングバックにより膨張した位置に移動することとなる。そのため、上パンチとゴム媒体の間には大きな空間が生じるが、側壁とゴム媒体の間には成形体が膨張しているため空間はなく、その結果、上下方向と側面方向の成形体にかかる圧力が異なることとなる。そのため、特に成形体が大型化した場合には大きな不均一な力が成形体に働き成形体が割れる欠点がある。また、側壁が上下パンチを加圧する構造となっているため、上下のパンチの摺動性が悪く、均一な加圧ができず成形体が割れるという欠点がある。加えて、型の隙間から充填粉末の洩れが発生し、部分的に充填粉末量が少なくなるため、成形体に密度むらができる。これらの現象は成形体のサイズが大きくなるほど顕著になる。
一方、特許文献14ではターゲットのエロージョン領域を厚くすることでターゲットの使用効率を高めているが、このような形状で大型の焼結体を冷間静水圧プレスで形成する場合、加圧終了後の減圧時に焼結体の凸部がスプリングバックにより膨張するために割れが生じてしまうという問題がある。
上記のように、スパッタリングターゲットのターゲット材として、大型でかつ高密度であり、また、不純物含有量の少ない焼結体が求められている。さらに、焼結体の形状も、平板形状の焼結体だけでなく、ターゲットの使用効率の向上のため、エロージョン領域の厚さを厚くした焼結体であって、大型でかつ高密度であり、不純物含有量の少ない焼結体が求められている。
大型の焼結体を製造するための大型の成形体の作製では、高い圧縮圧力を得るために冷間静水圧プレスにより加圧成形することが好ましいが、前述のように、成形終了後の減圧の際に、成形体に生じるスプリングバックにより成形体が割れてしまうという問題がある。このスプリングバックは成形体が大型であるほど大きく、また、成形体が均質でない場合にその影響をより強く受けることになる。したがって、原料粉末の流動性を向上させて均一に充填するために原料粉末に有機質の添加物を加えて造粒したり、成形体の相対的な強度の低下を補うためにバインダー等の成形助剤を原料粉末に添加することが行われている。しかし、そのような原料粉末を用いて作製した成形体では、バインダー等の成形助剤の有機質の添加物を加熱により除去する脱脂工程が必要であり、焼結体の製造に時間がかかるばかりでなく、得られる焼結体の密度の低下やその不均一性の増大、さらに、除去しきれない炭素が焼結体中に不純物として残留するという問題がある。
本発明は、厚さ10mm以上の厚い焼結体や、板面の面積が600cm2以上あるいは1000cm2以上さらには3000cm2以上の大型で高密度の焼結体、及び大型で高密度のエロージョン領域の厚さを厚くした焼結体等を、バインダー等の成形助剤を原料粉末に添加することなく、あるいは、添加するとしても極少量に留めることができ、したがって、焼結体の製造において成形体中の有機物の除去を目的とした焼成工程が不要であり、かつ、簡便な方法で、割れやクラックが発生せず、しかも優れた形状精度で作製することが可能な焼結体の製造方法、並びに、それに使用される成形型を提供すると共に、大型で高密度の焼結体及びそれを用いた大型で高性能なスパッタリングターゲットを提供しようとするものである。
本発明者らは、スパッタリングターゲットに用いられる焼結体とスパッタリング特性について、鋭意検討を重ねた結果、構成元素として炭素を含まない焼結体において、焼結体中に不純物として含まれる炭素の含有量が0.005重量%未満であるとスパッタリングにおける放電特性や得られる薄膜特性が良好となることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに、焼成により焼結体となる成形体の製造方法として、成形型内に原料粉末を充填し圧縮成形して成形体を製造する際に使用する成形型について、鋭意検討を重ねた結果、成形型を構成する部材の構造および材質を工夫することにより、加圧圧縮時には充填した原料粉末に対して実質的に1軸方向からのみ加圧し、加圧終了後の減圧時には、成形体に対して実質的に等方的に圧力を開放可能な構造とすることで、成形体の形状精度を向上させると共に、成形する際に発生するスプリングバックによる応力を解消して成形体の割れを防止可能な方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の焼結体の第1の態様は、構成元素として炭素を含まない焼結体であって、焼結体中に不純物として含まれる炭素の含有量が0.005重量%以下であることを特徴とする焼結体である。なお、本発明の焼結体はその厚さを10mm以上とすることが可能であり、また、焼結体の表面を構成する少なくとも1つの平面の面積を600cm2以上あるいは1000cm2以上さらには3000cm2以上とすることが可能である。該焼結体は、例えば単純な平板状の焼結体のように、焼結体の上面及び下面が各々1つの平面で構成されている焼結体であってもよい。また、例えば板面に凸部を設けることで特定部分の厚さを厚くした板状の焼結体のように、焼結体の上面及び下面の少なくとも1方の面に、少なくとも1つの凸部を有する焼結体であっても良い。さらに、該焼結体は、焼結体全体の焼結密度が90%以上であることが好ましく、焼結体内の焼結密度の変動が0.2%以下、すなわち、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分の焼結密度の差が0.2%以下であることがさらに好ましい。
本発明の焼結体の第2の態様は、焼結体の表面を構成する面の最も広い面の面積が1000cm2以上、好ましくは、3000cm2以上であり、かつ、焼結体全体の焼結密度が90%以上であることを特徴とする焼結体である。該焼結体は、焼結体内の焼結密度の変動が0.2%以下、すなわち、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分の焼結密度の差が0.2%以下であることが好ましい。また、該焼結体は、形状が略直方体の焼結体であって、最も長い稜と最も短い稜の長さの比が40以上であってもよく、焼結体の上面及び下面の少なくとも1方の面に、少なくとも1つの凸部を有するものであってもよい。
また、本発明のスパッタリングターゲットは、上記の焼結体をターゲット材として用いたことを特徴とするスパッタリングターゲットである。
本発明の成形型は、成形型内に原料粉末を充填し圧縮して成形体を製造するための成形型であって、加圧圧縮時には充填した原料粉末に対して実質的に1軸方向からのみ加圧し、加圧終了後の減圧時には成形体に対して実質的に等方的に圧力を開放可能な構造を有していることを特徴とする圧縮成形用成形型である。なお、成形体の板面を水平にした状態で成形を行う場合、成形体の自重や、上パンチの重量による力が成形体に作用するが、本発明の成形体では、成形体の板面の面積が大きいため、これらの力による圧力は無視することができる。
本発明の成形型を具現化する第1の態様は、成形型内に充填した原料粉末を、冷間静水圧プレスにより成形して成形体を製造するための成形型であって、複数の型枠部材からなる組立式型枠、該組立式型枠の内面に沿って移動可能に設けられた上パンチおよび前記組立式型枠に接して設けられた底板を備えるとともに、加圧終了後の減圧時に生じる成形体の膨張に併せて、前記組立式型枠を構成する型枠部材が移動可能な構造を有していることを特徴とする冷間静水圧プレス用成形型である。なお、前記底板は前記組立式型枠の内面に沿って移動することができないように構成されていることが好ましい。また、前記底板は上パンチよりも圧縮変形の少ない材料により構成されていることが好ましく、特に、底板が金属製であり、上パンチが樹脂製であることがさらに好ましい。
さらに、本発明の上記成形型では、組立式型枠を構成する型枠部材の少なくとも一部が、隣接する型枠部材の端部と係合し、成形時の加圧下において、組立式型枠が形成する原料粉末充填室の開口形状が所定の大きさ以下にならないように制限する構造を、その端部に有していることが好ましい。なお、本発明においては、原料粉末充填室は組立式型枠の内面、上パンチの底面及び底板(又は下パンチ)の上面により構成される空間を意味するが、この原料粉末充填室の上パンチの底面に平行な面での断面形状を原料粉末充填室の開口形状又は組立式型枠の開口形状と称する。
また、底板及び上パンチの原料粉末に接する面は各々1つの平面で構成されていても良く、また、底板が互いに移動可能な複数の底板構成部材からなり、かつ、前記底板の原料粉末に接する面に少なくとも1つの凹部を有するものであっても良い。同様に、上パンチが互いに移動可能な複数の上パンチ構成部材からなり、かつ、前記上パンチの原料粉末に接する面に少なくとも1つの凹部を有するものであっても良い。
本発明の成形型を具現化する第2の態様は、成形型内に充填した原料粉末を、冷間静水圧プレスにより成形して成形体を製造するための成形型であって、該成形型が複数の型枠部材からなる組立式型枠と該組立式型枠の内部に挿入される上パンチ及び下パンチを有し、加圧終了後の減圧時に生じる成形体の膨張に併せて前記型枠部材が移動可能な構造を備えるとともに、前記型枠部材同士を固定して前記組立式型枠の開口形状を保持する固定機構を有することを特徴とする冷間静水圧プレス用成形型である。なお、型枠部材同士を連結する連結部材としてピン状の部材を用いることが好ましい。連結部材としてピン状の部材を用いる場合、少なくとも一部の型枠部材が、その端部に、前記連結部材が挿入される連結部材挿入部を有し、かつ、加圧終了後の減圧時に生じる成形体の膨張に併せて、型枠部材が移動できるように、該連結部材挿入部が前記連結部材の可動領域を有していることが好ましい。
また、該成形型では、下パンチが組立式型枠内に挿入される底板と組立式型枠の開口形状より大きな形状を有する台座とで構成されていることが好ましい。さらに、底板が上パンチよりも圧縮変形の少ない材料で構成されていることが好ましく、特に、底板が金属製であり、上パンチが樹脂製であることがさらに好ましい。
該成形型では、上パンチ及び下パンチ(又は底板)の原料粉末に接する面は各々1つの平面で構成されていても良く、また、下パンチ(又は底板)が移動可能な複数の下パンチ構成部材(又は底板構成部材)からなり、かつ、該下パンチ(又は底板)の原料粉末に接する面に少なくとも1つの凹部を有するものであってもよい。同様に、上パンチが移動可能な複数の上パンチ構成部材からなり、かつ、前記上パンチの原料粉末に接する面に少なくとも1つの凹部を有するものであってもよい。
さらに、本発明の成形体の製造方法は、成形型内に充填した原料粉末を加圧成形して成形体とする成形体の製造方法において、加圧圧縮時には充填した原料粉末に対して実質的に1軸方向からのみ加圧し、加圧終了後の減圧時には成形体に対して実質的に等方的に圧力を開放可能な構造を有する圧縮成形用成形型を用いることを特徴とする成形体の製造方法である。
すなわち、本発明の成形体の製造方法を具現化する第1の態様は、成形型内に充填した原料粉末を冷間静水圧プレスにより成形する成形体の製造方法において、複数の型枠部材からなる組立式型枠、該組立式型枠の内面に沿って移動可能に設けられた上パンチおよび前記組立式型枠に接して設けられた底板を備えるとともに、加圧終了後の減圧時に生じる成形体の膨張に併せて、該組立式型枠を構成する型枠部材が移動可能な構造を有している成形型を用いることを特徴とする成形体の製造方法である。
さらに、本発明の成形体の製造方法を具現化する第2態様は、成形型内に充填した原料粉末を冷間静水圧プレスにより成形する成形体の製造方法において、複数の型枠部材からなる組立式型枠、該組立式型枠の内部に挿入される上パンチ及び下パンチを有し、加圧終了後の減圧時に生じる成形体の膨張に併せて前記型枠部材が移動可能な構造を備えるとともに、前記型枠部材同士を固定して前記組立式型枠の開口形状を保持する固定機構を有する成形型を用いることを特徴とする成形体の製造方法である。
なお、本発明の成形体の製造方法では、前記底板又は下パンチは前記組立式型枠の内面に沿って移動することができないように構成されていることが好ましい。また、前記底板又は下パンチは前記上パンチよりも圧縮変形の少ない材料で構成されていることが好ましく、特に、前記底板又は下パンチが金属製であり、前記上パンチが樹脂製であることが好ましい。さらに、本発明の成形体の製造方法では、原料粉末への有機物の添加量が0.6重量%以下であることが好ましく、特に、原料粉末に有機物を含む成形助剤を添加しないことがさらに好ましい。
本発明の焼結体の製造方法の第一の態様は、原料粉末を加圧成形して成形体とした後、該成形体を焼成して焼結体とする焼結体の製造方法において、原料粉末が有機物を含む成形助剤を含まないことを特徴とする焼結体の製造方法である。なお、この製造方法では原料粉末を直接冷間静水圧プレスにより成形して成形体を得ることが好ましい。そのために、原料粉末の成形を上記の成形型を用いて行うことが好ましく、上記の成形体の製造方法により製造された成形体を用いることが好ましい。
さらに、本発明の焼結体の製造方法の第二の態様は、原料粉末を加圧成形して成形体とした後、該成形体を焼成して焼結体とする焼結体の製造方法において、成形体中の有機物の除去を目的とした焼成工程を有さないことを特徴とする焼結体の製造方法である。なお、成形体中の有機物の除去を目的とした焼成工程とは、600℃以下程度の低温領域において、低速で昇温することにより、成形体中の可燃成分を除去する工程であり、例えば、100℃から400℃に達するまでの時間を30時間以上とした焼成工程を意味する。この成形体中の有機物の除去を目的とした焼成工程を不要とするためには、有機物含有量が0.6重量%以下、さらに好ましくは0.3重量%以下の原料粉末を用いて成形体を作製することが好ましい。そのために、原料粉末の成形を上記の成形型を用いて行うことが好ましく、上記の成形体の製造方法により製造された成形体を用いることが好ましい。
なお、本発明は、セラミックスや金属あるいはこれらの混合物の焼結体に適用することができる。セラミックスとしては酸化物、窒化物、硫化物あるいは酸窒化物等の複化合物等、金属としては、Cr、Mo等の単体金属あるいはTiW等の合金等に適用することができる。特に、金属粉末に比べて成形体密度が低く、強度の弱い成形体となるセラミックス粉末を原料粉末とする焼結体に好適に適用することができる。また、本発明の成形型は成形の際のスプリングバックをほぼ完全に吸収することができるため、スプリングバックの大きさが0.1%以上となるセラミックス粉末、特に、ITOやAZO(Aluminum Zinc Oxide)等の酸化物粉末を原料粉末とする焼結体に特に好適に適用することができる。なお、スプリングバックの大きさは、厳密には、成形圧力解放後の成形体と成形圧力印加時の成形体の大きさの差を成形圧力印加時の成形体の大きさで除したものとして定義できるが、より簡便に、例えば、成形圧力解放後の成形体の一辺の長さ(A)から、成形圧力解放後の成形型の原料粉末充填室の対応する辺の長さ(B)を引いた長さを、この原料粉末充填室の対応する辺の長さ(B)で除した値((A−B)/B)として計算してもよい。
また、炭素含有量を規定した焼結体以外の本発明の焼結体は、炭化物等を含む焼結体であってもよく、さらに、本発明の焼結体の製造方法やそれに用いられる成形型は炭化物等を含む焼結体の製造にも適用することができる。
本発明によれば、高密度で均質な大型の焼結体や、薄くて板面の面積の大きな焼結体、厚さの厚い焼結体等であって高密度で均質な焼結体を容易に得ることができる。また、本発明によれば、板厚が部分的に異なる形状の焼結体であっても、高密度で均質であり、かつ、大型の焼結体を容易に得ることができる。さらに、このような焼結体であって、焼結体中の炭素含有量が非常に少ない焼結体を容易に得ることができる。
そして、これらの焼結体を用いることにより、異常放電の発生やノジュールの生成がなく、また、例えば低抵抗の薄膜が得られる等、優れた性能の大型のスパッタリングターゲットを提供することができる。
さらに本発明の成形体の製造方法によれば、大型の成形体に対しても高い圧力による成形が可能であるため、バインダー等の成形助剤を原料粉末に添加することなく、あるいは、その添加量を極少量に留めて、形状精度に優れ、かつ割れやクラックの無い大型の高密度で均質な成形体を、原料粉末を直接静水圧プレスすることで、容易に得ることが可能となる。また、高価な乾式プレス用のダイスや鋳込み成型用の鋳型が必要なく、安価な樹脂や金属の板材のみを用いて原料粉末を直接成形できるため製造プロセスが簡略化され、経済的な製造方法を提供することができる。
さらに、本発明の焼結体の製造方法によれば、上記の成形体の製造方法により得られる成形体を用いること、すなわち、バインダー等の成形助剤を添加していないか、あるいは、その添加量が極少量である原料粉末を、直接静水圧プレスにより成形して成形体を得、得られた成形体を焼成して焼結体とすることにより、成形体中の有機物の除去を目的とした焼成工程を不要とすることが可能となる。そのため、焼成工程を非常に短時間で行うことができ製造効率の大幅な向上を達成することができる。
また、本発明によれば、部分的に厚さが異なるような板面が平面でなく、かつ、大型で高密度の焼結体を容易に作製することができるため、エロージョン領域の厚さを厚くした大型で高密度のスパッタリングターゲットを歩留まり良く製造することができ、ターゲットの使用効率を大幅に向上させることができる。
以下、本発明を具体例を用いてさらに詳細に説明する。
本発明の圧縮成形用の成形型およびそれを用いた成形体の製造方法は、スパッタリングターゲットなどに用いられる焼結体の製造に用いられる成形体を製造する際に使用することができる。
例えば、スパッタリングターゲットの製造は、原料粉末を必要に応じて混合し、成形、焼成して得られる焼結体を用いて製造されるが、このような原料粉末の混合、成形体の焼成は通常用いられている方法により行うことができる。
本発明に用いられる原料粉末は、特に限定されるものではないが、例えば、アルミナ、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、AZO(Aluminum Zinc Oxide)、GZO(Gallium Zinc Oxide)、BST(Barium Strontium Titanate)、STO(Strontium Titanate)等の金属酸化物粉末、Cr、Mo等の金属粉末を挙げることができる。
原料粉末の混合が必要な場合は、例えば、ボールミル、ジェットミル、クロスミキサー等で行なう。原料粉末を混合する前に、原料粉末の粉砕及び/又は分級処理を施しておくことが好ましい。こうした粉砕・分級処理を施すことにより原料粉末粒径が微細化し、均一に混合しやすくなるため、焼結体内組成の不均一性によって引き起こされる焼結体の変形・割れや密度むらを防止することが可能となる。また、原料粉末として炭酸塩を用いた場合や粉末中に炭素が多い場合には、粉末を混合した後に、粉末の状態で仮焼して脱炭酸処理を施すことが好ましい。なお、原料粉末として1種類の化合物のみを用いる場合には上記のような混合操作が必要でないことは言うまでもない。
本発明では、冷間静水圧プレスを用いた場合、高い圧力で成形され、かつスプリングバックの解消により割れの発生がないことから、通常、乾式プレス成形方法で行なわれているような造粒などの粉末処理は必ずしも必要としない。しかし、必要に応じて、造粒して得られた顆粒あるいは平均粒径が1〜10μmの粒状粉末を原料として用いても良い。本発明では、このような粉末処理を必ずしも必要としないことから、成形前の粉末処理工程を簡素化することができるとともに、焼結体への炭素の混入を防止することができる。
次に、成形型内に上記により得られた原料粉末を充填し、圧縮成形を行なう。この時、加圧圧縮時には充填した原料粉末に対して実質的に1軸方向からのみ加圧し、加圧終了後の減圧時には、成形体に対して実質的に等方的に圧力を開放することが可能な構造を有する成形型を用いる。なお、この成形型は剛性の大きな材料で構成することができるため、このようにして得られる成形体の形状精度は極めて良好である。さらに成形体に作用する圧力が成形体に対して等方的に開放されるため、成形する際に発生するスプリングバックによる応力を解消でき、割れのない成形体を得ることが可能となる。また、得られる成形体の強度と形状精度を高め、割れを発生させないためには、成形体への圧力伝達を担う成形型の摺動部材が、均一に成形体を加圧できるように、摺動抵抗が小さくスムーズに摺動可能であることが好ましい。さらに、成形体の割れを発生させないためには、減圧時に等方的に圧力を開放することが極めて重要である。すなわち、圧力の開放速度や開放度合が成形体に対して等方性を失った場合、割れを引き起こす原因となる。特に、スプリングバックが大きい大型の成形体を成形する場合や、バインダーや滑剤などの成形助剤が添加されていないかその添加量が少ない原料粉末を成形する場合には、等方的に減圧することが極めて重要である。バインダーや滑剤などの成形助剤を使用しないかその添加量が少ない場合、成形体の強度が低下するため、成形が極めて難しくなるが、本発明の成形型では前記理由により、成形助剤を使用しなくても、大型の成形体の成形が可能である。また、成形助剤を用いない場合あるいはその添加量が少ない場合、成形助剤の除去工程である脱脂工程を省略でき、主として有機物である成形助剤の分解に伴なう脱脂工程での割れの問題も解消することができるだけでなく、残留炭素が存在しないため得られる焼結体が高純度となる。特に、スパッタリングターゲットでは、高純度の焼結体が得られることからスパッタリング中の異常放電の発生が抑制され、得られる薄膜の特性が優れたものとなる。
より具体的には、例えば、上記により得られた原料粉末を成形型に充填し冷間静水圧プレスにより成形体とする。成形型は、例えば、図1に示すように、複数の型枠部材2a、2bにより構成される組立式型枠2、該組立式型枠2の内面に沿って自由に可動する上パンチ1および前記組立式型枠2に接して設けられた底板3を備え、前記型枠内の上パンチ1および底板3の間で原料粉末をプレス成形する構造体である。組立式型枠2を構成する少なくとも一部の型枠部材2bの両端には型枠部材同士を当接させて組立式型枠の開口形状が所定の形状より小さくならないように保持するための段部7が形成されている。このように、静水圧プレスを用いると、加圧軸方向とそれに垂直な方向で異なる成形体のスプリングバックによる膨張を比較的容易に等方的に制御することが可能である。しかし、印加される静水圧は成形型を介して成形体に作用するため、成形型に自発的に圧力(例えば弾性力など)を発生させる部材や構造を用いた場合、成形型へ加わる圧力は等方的であっても、成形型内の成形体へ加わる圧力は等方的に作用しないため、スプリングバックによる応力を解消することができない。したがって、静水圧プレス用の成形型は、実質的に弾性変形等のない剛性体で構成することが好ましい。なお、組立式型枠2の開口形状が所定の形状より小さくならないように保持するために型枠部材に形成する段部等の構造は、開口形状が所定の形状より小さくならないように保持できるものであればどのようなものでも良く、例えば、図1に示すように、型枠部材2a又は2bのいずれか一方の両端に形成しても良いし、型枠部材2a及び2bの一方の端部に各々形成しても良い。またその構造は、図1に示すような単純な段部7でも良いし、例えば、図13に示すような型枠部材の高さ(原料粉末充填室の深さ)方向に凸出部と切欠部を交互に形成して互いに咬み合わせたものであっても良い。
また、前記底板3は、前記組立式型枠2の内面に沿って移動することができないように構成されていることが好ましい。すなわち、図2に示すように、組立式型枠を構成する型枠部材2a、2bの底部の底板3が当接する部分に段部8を形成したり、後述のように組立式型枠の開口形状より大きな台座4を設けることが好ましい。これにより、前記底板3は組立式型枠2の内面に沿った上方向への移動が制限される。なお、型枠部材2a、2bの底部の段部8は、原料粉末の充填に際し原料粉末の型からの漏れを防止すると共に、組立式型枠の開口形状を安定に保持する機能を担う。
組立式型枠を構成する型枠部材の前記段部の作製方法は特に限定されないが、板材を切削加工して作製しても良いし、2枚の長さの異なる板を接着剤などで張り会わせて作製しても良い。いずれの方法もプレス法のダイスや、鋳込み法の鋳込み型の加工に比べ加工方法が簡単であり、コストも安く経済的である。
上記成形型は、台座4に保持されても良い。台座4は組立式型枠2と底板3の下に設置され、底板3と台座4は両面テープまたは接着剤などで接合されていても良い。台座4は成形型の移動や搬送などの取り扱い作業をしやすくするばかりでなく、スプリングバックにより成形体が膨張する際、組立式型枠2を構成する型枠部材2a、2bがスムースに平行移動するためのガイドとしての機能を担うことができる。もちろん、台座4と底板3を一体で作製してもよい。
組立てられた組立式型枠2の開口形状を保持するため、組立式型枠2を構成する型枠部材2a、2bの当接箇所は粘着テープ等で仮止めしてもよい。仮止めにより原料粉末の充填の際に組立式型枠2の開口形状が安定に保持され、充填作業がしやすくなる。仮止めに用いる材料は、原料粉末を充填する際には形状が保持され、かつ成形体のスプリングバックが発生した際には、容易に、伸びたり、破れたり、剥がれたりすることで、組立式型枠2を構成する型枠部材2a、2bの移動を妨げないものであれば特に限定されないが、粘着テープなどが好ましい。また、適度な締め付け力の輪ゴム等を組立式型枠2の周囲に巻き付けることで仮止めすることもできる。
組立式型枠2および底板3により規定された所定の大きさの開口形状を有する状態における組立式型枠2の内面と上パンチ1の側面との間の隙間は0mmより大きくなるように設計する。上パンチ1をスムーズに可動させるためには前記隙間を0.1mm以上2mm以下とすることが好ましい。さらに好ましくは0.1mm以上1mm以下とする。前記隙間を2mmより大きくした場合は、組立式型枠2と上パンチ1の隙間の部分に対応する部分の成形体強度が低下し、成形体の割れや剥離が起きる場合がある。また0.1mm以下の場合には組立式型枠が静水圧により変形した場合には上パンチと組立式型枠の隙間が減少し、上パンチの摺動を妨げる可能性がある。
上パンチ1の摺動性を改善するために、組立式型枠2の内面、及び/又は上パンチ1の側面に摩擦係数の小さな材料を塗布またはコーティングしてもよい。また、そのような材料を塗布またはコーティングしたテープを貼っても良い。塗布またはコーティングする材料は摩擦係数が組立式型枠2または上パンチ1の摩擦係数よりも小さければ特に限定しないが、テフロン(登録商標)またはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)が好ましい。
組立式型枠2、上パンチ1、底板3の材質は冷間静水圧プレスでの加圧時に実質的に変形が少ないものであれば、特に限定はされないが、金属ではアルミニウム、ジュラルミン、超ジュラルミン、ステンレス鋼、工具鋼などが好ましい。樹脂ではMCナイロン、ABS、ベークライトなどの板材が使用可能である。本発明の成形型は、組立式型枠2および底板3により組立式型枠2の開口形状を規定する構造となっているため、上パンチ1がよりスムーズに移動するためには、底板3が上パンチ1よりも圧縮率の少ない材料で形成されていることがより好ましい。さらに好ましくは底板3が圧縮率の少ない金属であり、上パンチ1は圧縮率が金属よりも大きな樹脂であることが好ましい。これにより、静水圧加圧中に上パンチ1と組立式型枠2の隙間が十分確保され、上パンチがよりスムーズに移動可能となる。
一般に、加圧圧力が200kg/cm2以上となると粉末が押し固められて成形体となる。静水圧プレスでは成形体密度をさらに増加させるために圧力をさらに0.5ton/cm2以上に増加させる。組立式型枠の型枠部材は両端が段部において当接されているため、静水圧により型枠部材の端部よりも中央部が押されて変形しやすい。変形量は静水圧が高ければ高いほど大きく、ある圧力に達すると、上パンチと組立式型枠の隙間以上に変形し、上パンチは型枠部材と接触し摩擦が生じて移動を妨げられる。その結果、上パンチは型枠部材と接触している端部よりも押圧面中央部がより強く押されて変形し、一度形成された成形体に不均一な力を及ぼしクラックが生じる原因となる。最初から型枠部材と上パンチの前記隙間(クリアランス)を広くすれば、この問題は解決するが、この隙間(クリアランス)を2mm以上とすると、実質的に上パンチと組立式型枠の隙間の部分の成形体が上パンチによりプレスされず、成形体強度は弱くなる。
一方、底板の圧縮率が上パンチの圧縮率よりも小さい場合は、底板が型枠部材と接して組立式型枠の開口形状を規定するため開口形状が広く保たれ、かつ、上パンチは底板以上に収縮するため、上パンチと型枠部材とのクリアランスが維持される。その結果、高圧の静水圧プレス成形においてもクラックの発生がない成形が可能となる。
組立式型枠の高さは、目的とする成形体の厚みと成形体密度および原料粉末の密度から計算して得られる値以上であれば特に限定されないが、型枠内面と底板により囲まれた空間に原料粉末を充填した後、原料粉末の上に上パンチを乗せる際に、確実に上パンチが型枠内に入ったことが確認できるように、組立式型枠の高さを前記の計算値以上とすることが好ましい。
また、組立式型枠を構成する型枠部材の厚さは特に限定されないが、静水圧による変形を少なくするために厚いほど良い。しかし、厚いほど成形型の重量が重くなるため取り扱いにくくなる。そのため、組立式型枠の大きさにも依存するが、その厚さは1cm以上10cm以下が好ましい。
底板の厚さは特に限定されないが、厚いほど組立式型枠から受ける圧力による変形が少なくなり、厚いほど重くなるため取り扱いにくくなる。そのため、組立式型枠の大きさにも依存するが、その厚さは0.5cm以上10cm以下が好ましい。
上パンチの厚さは、パンチが変形しなければよく特に限定されないが、組立式型枠の内面に沿って平行移動するためには厚いほど良く、組立式型枠の大きさにも依存するが、その厚さは1cm以上が好ましい。
台座の厚さは、ハンドリングが容易になる厚さであればよく、特に限定されない。
原料粉末を充填した後、原料粉末を充填した成形型をビニール袋等に入れ真空パックを行う。静水圧加圧の際に、ビニール袋が成形型の隙間に引き込まれて破れることを避けるために、成形型の周りあるいは一部に緩衝材を設置してもよい。緩衝材の材質は特に限定しないが、ゴムシート、ゴム板、樹脂シート、樹脂板、紙などが好ましい。水漏れに対する安全対策として複数回ビニール袋による真空パックを行っても良い。
このようにして準備された成形型を冷間静水圧プレスに投入し、高圧で成形を行なうが、このときの成形圧力としては、成形体が得られる圧力であれば特に限定しない。圧力が高ければ高いほど成形体強度が増加するため、0.5ton/cm2以上が好ましい。より好ましくは1ton/cm2以上である。
本発明の成形型では、組立式型枠は型枠部材が互いに固定されておらず、静水圧加圧終了後の降圧時に、成形体が組立式型枠に拘束されずに膨張することが可能となり、成形体の割れを防止することができる。本発明の成形型は、完全に成形体のスプリングバックによる応力を緩和できるため、バインダー等の成形助剤を添加していないか、あるいはその添加量が0.6重量%以下の原料粉末を用いた成形体や、大型でスプリングバックが大きな成形体でも、割れやクラックを発生させることなく、形状精度に優れた成形体の成形が可能となる。
すなわち、本発明の成形型は、成形体のスプリングバックによる割れがなく、1軸プレスのように形状精度の優れた高密度の成形体を得ることができる圧縮成形用の成形型である。
一方、厚さの厚い成形体の場合には、通常は、成形体の内部まで均一に加圧することが難しくなるため、均一な焼結体を得ることが難しくなる。また、バインダー等の焼結助剤を添加した場合には、成形体の厚さが厚いほど、脱脂工程における有機物の除去が難しくなるため、焼結体中の残留炭素を低減するためには、焼結助剤の添加は少量に留めるか、全く添加しないことが好ましい。本発明においては、静水圧プレスを用いることにより、大型の成形体に対しても大きな圧力を印加することができるので、厚さの厚い成形体に対しても、十分に均一な成形が可能となる。さらに均一な成形体を得るためには、1次成形において大きな圧力で加圧を行うことが重要で、特に凝集のある粉末や造粒された顆粒などを潰して緻密で均一な成形体を得るためには、等方加圧ではなく1軸加圧を行うことが有効である。例えば、実施例9のように1次成形を1ton/cm2の圧力で1軸加圧した場合、緻密で均一な成形体となりその焼結体の密度分布(焼結密度の変動)が0.06%となるのに対し、同じ焼結密度となっても比較例2のように、1次成形を300kg/cm2の低い圧力で1軸加圧したのち、2次成形として1ton/cm2の圧力で等方加圧した場合、成形体に粉末の潰れ残りによる空孔が残り不均一な成形体となるため、その密度分布(焼結密度の変動)は0.18%と大きくなる。したがって、本発明においては、1軸加圧が可能な静水圧プレスを用いることで、油圧プレス機などを用いた1軸プレスに比べ、大面積の成形体でも1次成形で大きな圧力での1軸加圧が可能であり、緻密で均一な成形体を得ることが可能となる。また、このような大きな圧力で成形する場合、圧力の開放時に生じるスプリングバックも非常に大きなものとなるが、本発明によれば、このようなスプリングバックによる応力を効果的に解消することができるため、完全な脱脂が難しくなる厚さ10mm以上、さらには厚さ12mm以上の焼結体の作製においても、十分に均一な成形が可能であり、焼結密度が90%以上、あるいは95%以上、さらには99%以上で、焼結密度の変動(焼結密度の最も大きい所と最も小さい所との差)が0.2%以下の均一な焼結体を得ることができる。また、本発明においては、高い圧力で成形することが可能であり、十分な強度の成形体を得ることができるため、バインダー等の焼結助剤の添加量を少量に留めるか、あるいは全く添加しないことにより、焼結体中の残留炭素の量を0.005重量%未満、あるいは0.003重量%以下、さらには0.002重量%以下とすることができる。なお、バインダー等の焼結助剤を添加する場合は、その添加量は原料粉末の0.6重量%以下とすることが好ましく、0.3重量%以下とすることがさらに好ましい。
なお、スパッタリングにおける異常放電の発生やノジュールの生成には、使用するスパッタリングターゲットの焼結密度が影響していることが知られているが、スパッタリングターゲットの焼結密度の変動を0.2%以下とすることにより、安定な放電を維持することができ、スパッタリングによる成膜を安定に行うことができる。
上記と同じ理由で、本発明によれば、焼結体の表面を構成する少なくとも1つの平面の面積が600cm2以上、あるいは1000cm2以上、さらには3000cm2以上の大型の焼結体であって、かつ、焼結体全体の焼結密度が90%以上、あるいは95%以上、さらには99%以上で、焼結密度の変動(焼結密度の最も大きい所と最も小さい所との差)が0.2%以下の均一な焼結体を得ることができる。また、焼結体の表面を構成する少なくとも1つの平面の面積が600cm2以上、あるいは1000cm2以上、さらには3000cm2以上の大型で高密度の焼結体であって、かつ、焼結体中の残留炭素の量が0.005重量%未満、あるいは0.003重量%以下、さらには0.002重量%以下の均一で残留炭素の少ない焼結体を得ることができる。
さらに、本発明によれば、上記と同じ理由により、形状が略直方体の焼結体で、その表面を構成する面の最も広い面の面積が1000cm2以上であり、最も長い稜と最も短い稜の長さの比が40以上の焼結体に対しても、上記と同様に、焼結体全体の焼結密度が90%以上、あるいは95%以上、さらには99%以上で、焼結体内の焼結密度の変動が0.2%以下の焼結体を得ることができる。
また、本発明によれば、エロージョン領域の焼結体の厚さを厚くして、スパッタリングにおける材料の使用効率を向上させた高効率ターゲットに対しても、パンチや底板の形状を工夫することにより、上記と同じ理由で、大型で高密度の焼結体を得ることができる。
例えば、図6に示すように、底板部材33a、33bから構成される底板33を有する成形型を用いることにより、スパッタ面に凸部を有する大型の成形体を得ることができる。この時、本発明によれば、組立式型枠の使用に加えて、複数の底板部材に分割された底板を用いることにより、成形後の減圧時に生じるスプリングバックにより、成形体の凸部に作用する応力も有効に解消することができるため、高い圧力での成形が可能であり、大型で高密度であり、均一で残留炭素の少ない焼結体を製造することが可能となる。
なお、スパッタ面の凸部を形成するための底板は、成形後の減圧時に、成形体の凸部の膨張に併せて移動することが可能な構造を有していれば良く、例えば、図7に示されるように2つに分割されたものの他、図8に示されるような、33c、33d、33eの3つの底板構成部材に分割されたものであっても良い。
本発明の成形型の第2の態様は、例えば、図11及び図12に示される成形型であり、組立式型枠52を構成する型枠部材52a、52bの両端にピン状の連結部材(ボルト55)を挿入して固定する構造を有すものであり、それにより組立式型枠の形状を保持することが可能なものである。ここでピン状の連結部材と称している組立式型枠を結合する連結部材及び該連結部材が挿入される連結部材挿入部からなる構造は、組立式型枠部材52a、52bが所定の位置より内側に移動することを制限し、かつ、外側にある程度移動することを可能とする構造であり、連結部材55が移動することができる可動領域57bを有しているものである。例えば、組立式型枠の連結部にピンを挿入する構造を有するもの、組立て式型枠の連結部が組み木状に結合する構造を有しかつ組み木の個々に設けられた凹凸により型枠部材が外側にスライドできる構造を有しているものなどが挙げられる。但し、この部材の形状および構造に関してはこれらに限定されるものではない。また、ピンを導入する組立式型枠端部には、ピンの直径より大きな穴(ボルト導入穴57)を設けており、ピンが可動な構造をとっていることが好ましい。このような構造を採用することにより、大型の板状の成形体を製造する場合、従来の方法において成形体の割れの原因となっていた、加圧終了後の減圧時に生じるスプリングバッグによる応力を効果的に解消することが可能である。連結部材が挿入される連結部材挿入部(ボルト導入穴57)は、成形体のスプリングバッグによる膨張を緩和するためにピンの直径より2mm以上10mm以下程度大きな径を有することが好ましい。穴の形状は、楕円形に近い形状を有し、ピンを固定する領域57aではピンの径とほぼ同等の径が好ましい。但し、成形体膨張時のスプリングバッグを許容しうるクリアランスさえ確保できればよいので、穴の形状および大きさに関してはこれに限定されるものではない。またピンは、螺子式のものが好ましく、組立式型枠を保持できる強度をもつ材質のもので直径は1mm以上100mm以下が好ましく、3mm以上30mm以下がさらに好ましい。但し、ピンの形状および材質はこれに限定されるものではない。この組立式型枠は、原料粉末充填時には、このピン螺子により組立式型枠を固定し作業性の改善を促し、充填作業後、適度な締め付け力の輪ゴム等を組立式型枠の周囲に巻き付けることで組立式型枠を固定した後ピン螺子を緩めることにより、成形時のスプリングバッグにより成形体が膨張する際に型枠部材がスームスに移動する構造とすることができる。この可動式ピンを有した組立式型枠を採用することにより、粉末充填時には螺子を締めつけて組立式型枠を固定することにより原料粉末の型からの漏れを防止する機能を付加することができ、また粉末充填後ピン螺子を緩め型枠部材のスムースな移動を促し成形体のスプリングバッグを緩和し成形体の割れを防止する機能を持たせることができる。
上記の成形型の具体例としては、例えば、図11及び図12に示される成形型を例示することができる。この成形型は、組立式型枠52が複数の型枠部材52a、52bからなり、加圧終了後の減圧時に生じる成形体の膨張に併せて前記型枠部材52a、52bが移動可能な構造を備えるとともに、例えば、前記型枠部材52a、52bが、その両端に連結部材導入穴(ボルト導入穴)57を備え、ボルト55を該ボルト導入穴57に挿入して、ナット56により締め付けることで組立式型枠52の開口形状を保持する固定機構を有している。このボルト導入穴は、図11(b)に示すように、挿入されるボルト55の直径より大きく形成されており、ナット56による締め付けを緩めておけば、加圧成形終了後の減圧時に生じる焼結体の膨張に併せて、型枠部材52a、52bが移動することが可能となる。
具体的な作業手順としては、組立式型枠52を組立てた後、ボルト55をボルト導入穴57に挿入し、ナット56により締め付けて固定することで、原料粉末の充填等の作業を容易に行うことが可能となる。原料粉末を充填した後、該原料粉末の上に上パンチ51を乗せ、適度な締め付け力の輪ゴム等を組立式型枠52の周囲に巻き付け、組立式型枠52を固定しているボルト55のナット56を緩め、型枠部材52a及び52bが相対的に移動可能とする。その後、上パンチ51と組立式型枠52の隙間を覆うように上パンチの上にゴムシートを緩衝材として乗せた後、ビニール袋に入れ袋内を減圧し真空パックを行い、冷間静水圧プレスに投入して成形体を作製する。
ここで、ボルト導入穴57は、加圧終了後の減圧時に生じる成形体の膨張に併せて、型枠部材52a、52bが自由に移動できるように、ボルト55の直径より十分大きく形成する。特に、図11(b)に示すように、組立式型枠52の開口形状の対角線方向に伸張した形状とすることが好ましい。
なお、このボルト導入穴57のうち、組立式型枠の開口形状が最も小さい状態の時に連結部材(ボルト)55が存在する領域57a(連結部材初期位置)の周壁にゴム等の弾性体を設けることにより、原料粉末充填後の真空パック時等には、組立式型枠52が適度な強さでその形状が保持されており、加圧終了後の減圧時には、成形体の膨張に併せて連結部材(ボルト)55が連結部材可動領域57bに移動するようにすることが好ましい。この時、図11(b)に示すように、ボルト導入穴57の連結部材初期位置57aと連結部材可動領域57bの境界に括れを形成しておくことが好ましい。この括れの大きさや弾性体の強度、その厚さ等を調整することにより、加圧終了後の減圧時に、ボルト55がスムースに連結部材可動領域57bに移動できるようにすることができ、型枠部材52a、52bの移動をよりスムースにして、割れや反りの発生をさらに抑制することができる。
上記の例は、図12から分かるように、下パンチ58が組立式型枠内を上下に移動可能なものであるが、図13に示すように、組立式型枠の開口形状より大きな形状の台座64を設けることで、底板63の組立式型枠62内での上下の移動を制限するとともに、型枠部材62a、62bの移動をスムースにして、動作をより安定にすることができ、さらに割れや反りの発生を抑制することができる。さらに、この台座64を設けることにより、原料粉末の充填や成形型の搬送等の作業性を飛躍的に向上させることが可能となる。
なお、この成形型を構成する材料や付加的な機能を付与するための構造等に関しては、図1にその一例を示した本発明の成形型の第一の態様について上記で述べたことは、この成形型の第2の態様についても同様に適用することができる。
上記のようにして得られた成形体を焼成炉内で焼成して、焼結体を製造する。焼成温度、昇温速度、降温速度等の条件は、種々の材料によって異なるが、例えばITOの場合、焼成温度は、酸化スズの酸化インジウム中への固溶が促進される1400℃〜1600℃であることが好ましい。1400℃未満ではITOとしての焼結が完全でないため、焼結体強度が低く、また1600℃を超える温度ではITO焼結粒子からの酸化インジウムあるいは酸化スズの蒸発が顕著となり、組成ずれ等の問題を引き起こす要因となる。焼成温度までの昇温速度は、成形体の均一な焼結による収縮を考慮すると、20℃/hr〜200℃/hrが好ましい。焼成温度で保持した後の、室温までの降温速度は、200℃/hr以下とすることが、焼結体への熱衝撃を緩和し、割れや反りの発生を防止する点で好ましい。
前述のように、本発明では、原料粉末に添加するバインダー等の成形助剤は、必要がないか、又は、その添加量を極少量に留めることができるため、焼結を行うための焼成に際して、成形助剤の除去を目的とした焼成工程(脱脂工程)を設ける必要がない。一般に、成形体中の有機物の除去を目的とした焼成工程のような低温での低速昇温は加熱炉のヒーターの劣化を招きやすく、その寿命を短くして生産コストを増大させるばかりではなく、有機成分の燃焼又は分解により焼結体にクラックを発生させないようにするため、室温から400℃乃至600℃まで、10℃/hr以下の低速で昇温する必要があり、焼結体の製造時間を大幅に増大させるものである。したがって、成形体中の有機物の除去を目的とした焼成工程を設けない本発明によれば、焼結体の製造効率を飛躍的に向上させることができる。なお、成形体中の有機物の除去を目的とした焼成工程を不要とするためには、原料粉末にバインダー等の有機物を含む成形助剤を添加しないことが良いことはもちろんであるが、原料粉末中の有機物含有量を0.6重量%以下、さらに好ましくは0.3重量%以下とすることによっても可能となる。
以上の方法により製造された焼結体は、形状精度が良好であるので容易に所望の形状に研削加工することができ、容易にスパッタリングターゲットとすることができる。
一方、本発明の焼結体の第1の態様は、構成元素として炭素を含まない焼結体であって、焼結体中に不純物として含まれる炭素量が少ないことを特徴としている。炭素量が多い焼結体を用いた場合、例えば、ITOターゲットにおいては、異常放電の発生原因となるだけでなく、得られる薄膜のエッチングレートも変わってしまう。また、AZOターゲットにおいては、得られる透明導電膜の抵抗が増加する。したがって、焼結体中の炭素の含有量は、これらの特性に影響が見られない0.005重量%未満が好ましく、より好ましくは0.003重量%以下、さらに好ましくは0.002重量%以下である。
焼結体中に存在する炭素は、焼結体を製造する過程で使用するスラリー化のための分散剤や消泡剤、粉末成形におけるバインダーや滑剤などの有機物が、脱脂工程で完全に除去されず残ることが主要な要因である。このため、成形体のサイズが大きい場合や厚さが厚い場合は、特に脱脂が不完全に成り易く、焼結体中の残留炭素が多くなり易い。この影響は、焼結体の大きさとしては600cm2以上のもので顕著となり、1000cm2以上のものでさらに顕著となる。厚さとしては10mm以上のもので顕著となり、さらには12mm以上で特に顕著となる。また、成形体のサイズが大きい場合や厚さが厚い場合は、特に成形が難しく、スラリーを用いた粉末造粒や成形助剤を用いることが行なわれるため、残留炭素が多くなる原因となっているが、本発明の成形型を用いて原料粉末を直接冷間静水圧プレスにより成形して成形体を得ることにより、スラリーを用いた粉末造粒や成形助剤を用いることなしに、又は、有機物を含む成形助剤等の添加量の少ない原料粉末を用いて、厚さ10mm以上、あるいは、大きさ600cm2以上や1000cm2以上、さらには3000cm2以上の大型で高密度の焼結体を製造することができる。
特に、本発明では、前述のように、冷間静水圧プレスを用いることにより、大型の焼結体においても大きな圧力で成形することが可能であり、かつ、加圧成形終了後の減圧時に発生する成形体のスプリングバックによる応力を効果的に開放できることから、原料粉末に添加する有機物を含むバインダー等の成形助剤を全く使用しなくても、あるいは、原料粉末に対して0.6重量%以下あるいは0.3重量%以下という僅かな量の添加によっても、十分な強度を有する成形体を作製することが可能であり、大型で高密度、かつ、残留炭素の少ない均一な焼結体を得ることができる。そして、得られた焼結体を、所望の形状に整形し、必要に応じて焼結体表面を研削又は研磨した後、必要に応じてバッキングプレートに接合してスパッタリングターゲットを作製することにより、低抵抗の透明導電膜を高速で形成することができ、かつ、スパッタリング中の異常放電やノジュールの発生の少ないスパッタリングターゲットを提供することができる。
なお、特許文献1には、ITOターゲットにおいて、ターゲット中に含まれる周期律表のIIIb族およびIVb族に属する元素を50ppm以下にすることにより、スパッタ時の異常放電やノジュールの発生を低減できることが記載されているが、炭素の影響については具体的には何ら言及されていない。事実、この特許文献1は、バインダーを添加し成形したITO成形体をITO焼結板の上で焼成した実施例と、同じ成形体を低純度アルミナ板(SiO2を7%含む)の上で焼成した比較例とを比較していることから、実質的に焼成時にセッタから拡散して混入するAl及びSiの不純物を低減させることを目的としたものである。すなわち、この特許文献1には、炭素の存在がスパッタ時の異常放電やノジュールの発生と関係があることを示す具体的なデータは全く記載されておらず、また、どのような作用により炭素の存在がスパッタ時の異常放電やノジュールの発生と関係するかについても全く記載されていない。さらに、特許文献1の実施例では、成形に際して1重量%のPVAをバインダーとして原料粉末に添加しており、得られた焼結体は50ppm程度の炭素を含んでいたものと考えられる。なお、本発明者らの検討結果によれば、この特許文献1のように有機物を含むバインダー等の成形助剤を用いた場合には、300〜600℃程度の温度に加熱する通常の脱脂処理では、焼結体中に残留する炭素を必ずしも完全に除去することができないことが認められているが、この特許文献1には、このことについては何らの考慮もされていない。
本発明の焼結体の第2の態様は、焼結体の表面を構成する面の最も広い面の面積が1000cm2以上、かつ、焼結密度が焼結体全体で90%以上、あるいは95%以上、さらには99%以上であることを特徴とする焼結体であり、好ましくは、焼結体内の焼結密度の変動が0.2%以下の焼結体である。該焼結体も、本発明の成形型を用いて冷間静水圧プレスにより成形を行うことにより、その製造が可能となるものである。すなわち、原料粉末に添加する有機物を含むバインダーや滑材等の成形助剤を全く使用しなくても、あるいは、原料粉末中の有機物含有量が0.6重量%以下、さらには0.3重量%以下という僅かな量を添加しただけのものによっても、十分な強度を有する成形体を作製することができ、それにより上記のような大型で高密度、かつ、焼結体内での密度の変動が少なく、残留炭素の少ない焼結体を製造することができる。これにより、表示装置等の大型化で要求されている大型で高性能のスパッタリングターゲットを提供することが可能となる。
本発明の焼結体の第3の態様は、焼結体のスパッタ面に凸部を形成することによりエロージョン領域の厚さを厚くして、ターゲット材の使用効率を向上させたものである。このような形状のスパッタリングターゲットは、凹部を有する底板を、複数の底板構成部材により構成するとともに、本発明の成形型を用いることにより、大型で高密度、かつ、焼結体内での密度の変動が少なく、残留炭素の少ない焼結体を製造することができる。これにより、ITOターゲット等では、高価なターゲット材料の使用効率を飛躍的に向上させることができるとともに、低抵抗の薄膜が得られ、異常放電やノジュールの発生も少ない優れた大型のターゲットを提供することができる。
以下、本発明を実施例を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
図1〜3に示すように、本実施例で使用した成形型は上パンチ1、型枠部材2a及び型枠部材2bからなる組立式型枠2、底板3並びに台座4から成る。上パンチ1はMCナイロン製、組立式型枠2および底板3はSUS製、台座4はMCナイロン製とした。組立式型枠2は型枠部材2aと型枠部材2bとからなり、型枠部材2bの両端には型枠部材2aと当接させて組み合わせるための段部7が形成されている。型枠部材2aおよび型枠部材2bの底部には底板3が当接する段部8が形成されており、これにより、底板3は組立式型枠2の側面に沿った移動ができないように構成されている。
組立式型枠2と上パンチ1の隙間は0.5mm(上パンチ1の幅及び長さが開口形状の幅及び長さより各々1.0mm小さい)とし、さらに、組立式型枠2の内側面および上パンチ1の側面には摩擦低減のためにテフロン(登録商標)テープを接着した。
組立式型枠2と底板3を台座4の上に置き、台座4と底板3は両面テープにより強固に接着した。組立式型枠2の型枠部材2aおよび型枠部材2bの当接部分は幅1cmの粘着テープ(スコッチテープ(登録商標))を貼着することにより固定して組立式型枠2を組み立てた。
Al2O3粉末2wt%とZnO粉末98wt%を乾式ボールミル混合し作製した原料粉末5を底板3および組立式型枠2により囲まれた空間(開口形状:390mm×770mmの矩形)に9.6kg充填し、この原料粉末5の上に上パンチ1を乗せた。特に、造粒やバインダーの添加などの粉末処理は実施しなかった。上パンチ1と組立式型枠2の隙間を覆うように上パンチの上にゴムシートを緩衝材6として乗せた後、ビニール袋に入れ袋内を減圧し真空パックを行なった。
このようにして準備した成形型を冷間静水圧プレスに投入して、1ton/cm2の圧力で成形を行なった。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×9.5mmの成形体を得た。
上記成形体を焼成炉内に設置し、以下の条件で焼成を実施し、焼結体を作製した。
焼成条件
焼成雰囲気:大気雰囲気
昇温速度:100℃/hr、焼成温度:1500℃、焼成時間:5hr
降温速度:100℃/hr
得られた焼結体は、約328mm×649mm×8mmの大きさで、焼結体中の炭素含有量は、0.003wt%であった。また、焼結密度は全体で99.45%、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分との差は0.09%であった。なお、焼結体の真密度は5.632g/cm3とした。
(実施例2)
上パンチ1、組立式型枠2及び底板3をMCナイロン製とした以外は実施例1と同様の成形型を用い、実施例1と同様に冷間静水圧プレスに投入して、1ton/cm2の圧力で成形を行なった。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×9.5mmの成形体を得た。但し、成形体の角から2mm以下の部分の強度が実施例1で得られた成形体の強度よりも弱く、強く握ると剥離した。
得られた成形体を実施例1と同様の方法で焼成し、約328mm×649mm×8mmの大きさの焼結体を得た。焼結体中の炭素含有量は、0.004wt%であった。また、焼結密度は全体で99.14%、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分との差は0.18%であった。
(実施例3)
上パンチ1をベークライト製、組立式型枠2および底板3を超ジュラルミン製とし、充填する粉末量を14.5kgにした以外は実施例1と同様の成形型を用い、実施例1と同様に冷間静水圧プレスに投入して、1ton/cm2の圧力で成形を行なった。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×14mmの成形体を得た。
得られた成形体を実施例1と同様の方法で焼成し、約328mm×649mm×12mmの大きさの焼結体を得た。焼結体中の炭素含有量は、0.003wt%であった。また、焼結密度は全体で99.38%、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分との差は0.10%であった。
(実施例4)
原料粉末をSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末とし、成形型に17kg充填した以外は実施例1と同様の成形型を用い、実施例1と同様の条件にて冷間静水圧プレスに投入した。特に、造粒やバインダーの添加などの粉末処理は実施しなかった。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×16mmの成形体を得た。
上記成形体を焼成炉内に設置し、以下の条件で焼成を実施し、焼結体を作製した。
焼成条件
焼成雰囲気:酸素フロー雰囲気
昇温速度:100℃/hr、焼成温度:1600℃、焼成時間:5hr
降温速度:100℃/hr
得られた焼結体は、約307mm×607mm×13mmの大きさで、焼結体中の炭素含有量は、0.002wt%であった。また、焼結密度は全体で99.79%、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分との差は0.04%であった。なお、焼結体の真密度は7.156g/cm3とした。
(実施例5)
原料粉末をSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末を焼成・粉砕して得たITO粉末とし、成形型に17kg充填した以外は、実施例1と同様の成形型を用い、実施例1と同様の条件にて冷間静水圧プレスに投入した。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×15mmの成形体を得た。
(実施例6)
上パンチ1をベークライト製、組立式型枠2および底板3を超ジュラルミン製とし、原料粉末をSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末を焼成・粉砕して得たITO粉末とし、成形型に14.5kg充填した以外は、実施例1と同様の成形型を用い、実施例1と同様の条件にて冷間静水圧プレスに投入した。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×13mmの成形体を得た。
得られた成形体を実施例4と同様の方法で焼成し、約320mm×630mm×10mmの大きさの焼結体を得た。焼結体中の炭素含有量は、0.001wt%以下であった。また、焼結密度は全体で99.80%、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分との差は0.05%であった。
(実施例7)
原料粉末をSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末とし、成形型に17kg充填したこと、及び、型枠部材の当接箇所に粘着テープ(スコッチテープ(登録商標))を貼着するかわりに、輪ゴムにより型枠部材を束ねることで組立式型枠を組み立てたこと以外は実施例1と同様にして成形体を作製した。得られた成形体の形状を確認したところ、割れや反りはなく、その大きさは391mm×773mm×16mmであった。
(実施例8)
原料粉末をSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末とし、成形型に11kg充填したこと、上パンチ1をベークライト製、組立式型枠2および底板3を超ジュラルミン製としたこと、及び、型枠部材の当接箇所に粘着テープ(スコッチテープ(登録商標))を貼着するかわりに、輪ゴムにより型枠部材を束ねることで組立式型枠を組み立てたこと以外は実施例1と同様にして成形体を作製した。特に、造粒やバインダーの添加などの粉末処理は実施しなかった。得られた成形体の形状を確認したところ、割れや反りはなく、その大きさは391mm×773mm×10mmであった。
得られた成形体を実施例4と同様の方法で焼成し、約307mm×607mm×8mmの大きさの焼結体を得た。焼結体中の炭素含有量は、0.001wt%であった。また、焼結密度は全体で99.82%、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分との差は0.04%であった。
(実施例9)
原料粉末をSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末とし、大きさが異なるが実施例1の成形型と類似の構造を有する成形型(開口形状:265mm×390mmの矩形)を用い、原料粉末7.4kgを充填したこと以外は実施例1と同様にして成形体を作製した。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、265mm×391mm×20mmの成形体を得た。
得られた成形体を実施例4と同様の条件で焼成して得られた焼結体は、約208mm×307mm×16mmの大きさで、焼結体中の炭素含有量は、0.003wt%であった。また、焼結密度は全体で99.74%、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分との差は0.06%であった。
(実施例10)
原料粉末をSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末とし、大きさが異なるが実施例1の成形型と類似の構造を有する成形型(開口形状:330mm×5200mmの矩形)を用い、原料粉末9.2kgを充填したこと以外は実施例1と同様にして成形体を作製した。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、331mm×522mm×15mmの成形体を得た。
得られた成形体を実施例4と同様の条件で焼成して得られた焼結体は、約260mm×410mm×12mmの大きさで、焼結体中の炭素含有量は、0.002wt%であった。また、焼結密度は全体で99.77%、焼結密度の最も大きい部分と最も小さい部分との差は0.05%であった。
(実施例11)
図4に示すように、型枠部材12bの端部に段部を形成していないこと以外は実施例1と同様の成形型を用い、原料粉末としてSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末17kgを充填したこと以外は実施例1と同様の条件にて冷間静水圧プレスに投入した。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×16mmの成形体を得た。
(比較例1)
Al2O3粉末2wt%とZnO粉末98wt%を乾式ボールミル混合した混合粉末に、パラフィンバインダー2.0wt%添加し、原料粉末を作製した。この原料粉末7.2kgを260mm×850mmの金型に充填し、300kg/cm2の成形圧力によりプレス成形を行ない成形体を得た。さらに、1ton/cm2の圧力でCIP処理した。この後、成形体に残存するバインダーを除去するために、上記成形体を焼成炉内に設置し、以下の条件で脱脂を実施した。なお、CIP処理後の成形体の大きさは250mm×815mm×10mmであった。
脱脂条件
脱脂雰囲気:大気フロー雰囲気
脱脂温度:450℃、昇温速度:3℃/hr、保持時間:2hr
得られた成形体を実施例1と同様の方法で焼成し、約220mm×309mm×8mmサイズの焼結体を得た。焼結体中の炭素含有量は、0.010wt%であった。また、焼結体の密度(焼結密度)は焼結体全体で99.33%、焼結体各部の焼結密度の最大値と最小値の差は0.24%であった。なお、焼結体の真密度は5.632g/cm3とした。
(比較例2)
SnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末に、ポリビニールアルコールバインダー1.0wt%、イオン交換水を混合し湿式ボールミル混合しスラリーを作製し、スプレードライ乾燥により造粒粉を得た。この造粒粉末4.2kgを185mm×415mmの金型に充填し、300kg/cm2の成形圧力によりプレス成形を行ない成形体を得た。さらに、1ton/cm2の圧力でCIP処理した。この後、成形体に残存するバインダーを除去するために、上記成形体を焼成炉内に設置し、比較例1と同様の方法で脱脂を実施した。なお、CIP処理後の成形体の大きさは168mm×377mm×17mmであった。
得られた成形体を実施例4と同様の方法で焼成を実施し、約137mm×309mm×13mmの大きさの焼結体を得た。焼結体中の炭素含有量は、0.008wt%であった。また、焼結体の密度(焼結密度)は焼結体全体で99.74%、焼結体各部の焼結密度の最大値と最小値の差は0.18%であった。なお、焼結体の真密度は7.156g/cm3とした。
(比較例3)
SnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末に、ポリビニールアルコールバインダー1.0wt%、イオン交換水を加え湿式ボールミル混合しスラリーを作製した。得られたスラリーにポリアルキレングリコール系消泡剤0.1wt%を添加し、真空中で脱泡処理を実施した。これを420mm×960mm×11mmの鋳込み成形用鋳型に注入し20kg/cm2の成形圧力により鋳込み成形を行ない成形体を得た。この成形体を乾燥後、1ton/cm2の圧力でCIP処理した。この後、成形体に残存する分散剤およびバインダーを除去するために、上記成形体を焼成炉内に設置し、比較例1と同様の方法で脱脂を実施した。なお、CIP処理後の成形体の大きさは380mm×870mm×10mmであった。
得られた成形体を実施例4と同様の方法で焼成し、約310mm×710mm×8mmの大きさの焼結体を得た。焼結体中の炭素含有量は、0.007wt%であった。また、焼結体の密度(焼結密度)は焼結体全体で99.76%、焼結体各部の焼結密度の最大値と最小値の差は0.21%であった。
(比較例4)
図5に示すように、ウレタンゴム型(硬度70°)25内に4つに分割されたSUS製の型枠部材22a、22bからなる組立式型枠22とSUS製の上パンチ21、下パンチ28を配置し、その空間(開口形状:390mm×770mmの矩形)にSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末を充填した。この成形型をビニール袋に入れ袋内を減圧し真空パックを行なった後、実施例1と同様に静水圧プレス成形を行った。プレス後、ウレタンゴム型25と上パンチ21の間に空間が発生しており、成形体には縦方向に大きな割れが発生していた。
(成膜確認)
実施例1と比較例1で得られた焼結体を研削加工して4インチφ×6mm(厚さ)のターゲット材を作製し、無酸素銅製のバッキングプレートにインジウム半田により接合してスパッタリングターゲットを作製した。こうして作製されたスパッタリングターゲットを用いて以下のスパッタリング条件で成膜を行った。得られた薄膜の抵抗率を4端子法で測定したところ、実施例1のターゲットで得られた薄膜は9.6×10−4Ωcmで、比較例1のターゲットでは1.3×10−3Ωcmであった。
スパッタ条件
DC電力 :300W
スパッタガス:Ar
ガス圧 :0.5Pa
基板温度 :200℃
膜厚 :100nm
ガラス基板 :コーニング#1737
(放電確認)
実施例8と比較例2で得られた焼結体を研削加工して101.6mm×177.8mm×6mmのターゲット材を作製し、無酸素銅製のバッキングプレートにインジウム半田により接合してスパッタリングターゲットを作製した。こうして作製されたスパッタリングターゲットを以下のスパッタリング条件で20kWhスパッタリングを行い、異常放電の発生回数を測定した。異常放電の発生回数の測定は、マイクロアークモニター(ランドマークテクノロジ社製)を用いて以下の測定条件で行った。アークの回数は、実施例8のターゲットでは283回で、比較例2のターゲットでは364回であった。
スパッタ条件
DC電力 :300W
スパッタガス:Ar+O2
ガス圧 :0.5Pa
アーク測定条件
検出電圧 :200V
検出時間 :50μsec
(実施例12)
図6に示すように、本実施例で使用した成形型は上パンチ31、型枠部材32a、32bからなる組立式型枠32、凹部を有する底板33及び台座34から成る。型枠部材32aの両端には、型枠部材32bの端部が当接し組立式型枠の開口形状を規定するための段部が形成されている。凹部を有する底板33は図7に示されるように底板構成部材33a、33bからなる。上パンチ31はベークライト製、型枠部材32a、32bおよび底板33は超ジュラルミン製、台座34はベークライト製とした。
組立式型枠32と上パンチ31の隙間は0.5mmとした。すなわち、上パンチ31の幅及び長さを組立式型枠32の開口形状の幅及び長さより各々1.0mm小さく形成した。
組立式型枠32と底板33を台座34の上に置くことで、成形型を安定化した。すなわち、組立式型枠を台座34の上に置くことで、加圧終了後の減圧時に生じる成形体の膨張に伴い、型枠部材32a、32bが台座34上を滑らかに移動することを可能にするとともに、成形時の加圧下では、組立式型枠との接触により動きが不均一となる底板33が上下方向に移動しないようにすることにより、割れや反りの発生をさらに低減することができる。さらに、底板33を台座34上に載置した2つの底板構成部材33a、33bで構成することにより、加圧終了後の減圧時には成形体の凸部の膨張に伴い、2つの底板構成部材33a、33bが互いに分離する方向に台座34上を滑らかに移動することを可能とした。
凹部を有する底板33および組立式型枠32により囲まれた空間(130mm×250mm×30mm、底板の凹部の深さ5mm)に原料粉末としてSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末を充填し、この原料粉末の上に上パンチ31を乗せた。上パンチ31と組立式型枠32の隙間を覆うように上パンチの上にゴムシートを緩衝材として乗せた後、ビニール袋に入れ袋内を減圧し真空パックを行なった。
このようにして準備した成形型を冷間静水圧プレスに投入して、1ton/cm2の圧力で成形を行なった。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りのない、一方の板面に凸部を有する板状の成形体を得た。
(実施例13)
凹部を有する底板33として図8に示すように3つの底板構成部材33c、33d、33eからなる底板を用いた以外は実施例12と同様の成形型を用い、実施例12と同様に冷間静水圧プレスに投入して、1ton/cm2の圧力で成形を行なった。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りのない、一方の板面に凸部を有する板状の成形体を得た。
(実施例14)
底板33および組立式型枠32により囲まれた空間が250mm×600mm×30mm、底板に設けられた凹部の深さが5mmである他は実施例12と同様の成形型を用い、実施例12と同様に冷間静水圧プレスに投入して、1ton/cm2の圧力で成形を行なった。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りのない、一方の板面に凸部を有する板状の成形体を得た。
(実施例15)
凹部を有する底板33として図9に示すような一体型の底板33fを用いた以外は実施例12と同様の成形型を用い、実施例12と同様に冷間静水圧プレスに投入して、1ton/cm2の圧力で成形を行なった。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、板状の成形体の板面に形成された凸部の先端の稜線部に欠けが認められた。
(実施例16)
図10に示すように、本実施例で使用した成形型は上パンチ41、型枠部材42a、42bからなる組立式型枠42、底板43及び台座44から成る。型枠部材42aの両端には、型枠部材42bの端部が当接し組立式型枠42の開口形状を規定するための段部が形成されている。上パンチ41はベークライト製、型枠部材42a、42bおよび底板43は超ジュラルミン製、台座44はベークライト製とした。また、組立式型枠42と上パンチ51の隙間は0.5mmとした。すなわち、上パンチ41の幅及び長さを組立式型枠42の開口形状の幅及び長さより各々1.0mm小さく形成した。
組立式型枠42と底板43を台座44の上に置くことで型全体を安定化した。すなわち、組立式型枠42を台座44の上に置くことで、加圧終了後の減圧時に生じる成形体の膨張に伴い、型枠部材42a、42bが台座44上を滑らかに移動することを可能にするとともに、成形時の加圧下では、組立式型枠42との接触により動きが不均一となる底板43が上下方向に移動しないようにすることにより、割れや反りの発生をさらに低減することができる。
底板43および組立式型枠42により囲まれた空間(開口形状:400mm×1300mmの矩形)に原料粉末としてSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末18.4kgを充填し、この原料粉末の上に上パンチ41を乗せた。上パンチ41と組立式型枠42の隙間を覆うように上パンチの上にゴムシートを緩衝材として乗せた後、ビニール袋に入れ袋内を減圧し真空パックを行った。
このようにして準備した成形型を冷間静水圧プレスに投入して、1ton/cm2の圧力で成形を行った。得られた成形体を型から取り出し、状態を確認したところ、割れや反りはなく、401mm×1305mm×10mmの成形体を得た。
その後その成形体を酸素雰囲気下にて以下の焼成パターンにて焼結を行った。室温から800℃まで100℃/hr、1600℃までは50℃/hrで昇温し、1600℃にて3時間保持した後に室温まで100℃/hrにて降温した。焼結体を取り出したところ、315mm×1025mm×8mmの焼結体が得られ、割れ、クラックなどは見られなかった。得られた焼結体の焼結密度は全体で99.80%であり、焼結密度の最も大きな所と最も小さな所との差は0.05%であった。なお、焼結体の真密度は7.156g/cm3とした。
(実施例17)
本実施例で使用した成形型は、組立式型枠52、上パンチ51、下パンチ58を有するが、その平面図を図11(a)に、側面図を図12に示す。図12に示すように、組立式型枠52は型枠部材52a、52bからなり、互いに組み合わされて型枠を形成する。型枠部材52a、52bは組み合わされた部分にボルト(螺子式のピン)55を貫通することにより連結され、ナット56で締付けることにより固定できるように構成されている。図11(a)、(b)に示すように、型枠部材52a、52bの両端部には連結部材であるボルト(螺子式のピン)55を挿入するボルト導入穴57が設けられている。このボルト導入穴57の大きさは、ボルト55の直径よりも5mm程度大きくしてあり、ボルト55・ナット56による締め付けを緩めれば、型枠部材52a、52bが組立式型枠の開口形状の幅及び長さが増大する方向に移動可能なように構成されている。具体的には、図12に示すように、ボルト導入穴として組立式型枠の開口形状の対角線の方向に伸長した形状の穴を形成している。
図12に示すように、上パンチ51及び下パンチ58は、組立式型枠52の内部に挿入される。この上パンチ51および型枠部材52a、52bはベークライト製、下パンチ58はジュラルミン製とした。組立式型枠52と上パンチ51の隙間は0.5mmとし、さらに、組立式型枠52の内側面および上パンチ51の側面には摩擦低減のためにテフロン(登録商標)テープを接着した。
この組立式型枠52を組み立て、ボルト55を挿入してナット56を用いて締め付け、原料粉末が漏れないように固定した。
下パンチ58および組立式型枠52により囲まれた空間(開口形状:390mm×770mmの矩形)に原料粉末としてAl2O3を2wt%添加したZnO粉末9.6kgを充填し、この原料粉末の上に上パンチ51を乗せた。適度な締め付け力の輪ゴム等を組立式型枠52の周囲に巻き付け、組立式型枠52を固定しているボルト55のナット56を緩めた。上下のパンチ51、58と組立式型枠52の隙間を覆うように上パンチの上及び下パンチの下にゴムシートを緩衝材として設けた後、ビニール袋に入れ袋内を減圧し真空パックを行なった。
このようにして準備した成形型を冷間静水圧プレスに投入して、1ton/cm2の圧力で成形を行なった。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×9.5mmの成形体を得た。
(実施例18)
原料粉末をSnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末とし、成形型に17kg充填した以外は実施例17と同様の条件にて冷間静水圧プレスに投入した。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×13mmの成形体を得た。
(実施例19)
図13に示すように下パンチではなく、底板63と台座64を有すること以外は実施例17と同様の成形型を用い、実施例18と同様の粉末17kgを充填して、実施例17と同様の条件で冷間静水圧プレスを行った。組立式型枠62を台座64の上に置くことで、加圧成形後の減圧時に生じる成形体の膨張に伴い、型枠部材62a、62bが台座64上を滑らかに移動することを可能にするとともに、成形時の加圧下では、組立式型枠との接触により動きが不均一となる底板63が上下方向に移動しないようにすることにより、割れや反りの発生をさらに低減することができる。
得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×13mmの成形体を得た。
(比較例5)
ボルト導入穴の形状が円形であり、その直径と挿入するボルトの直径との差が1mm以下であること以外は実施例17と同様の成形型を用い、粉末充填後もボルト・ナットを締め付けたまま加圧したこと以外は実施例17と同様にして静水圧プレスを行い成形体を作成した。プレス後、成形体を成形型から取り出し、形状を確認したところ、縦方向に大きな割れが発生していた。
(実施例20)
SnO2粉末10wt%とIn2O3粉末90wt%の混合粉末に、パラフィンバインダーを0.6wt%添加し、原料粉末を作製した。この原料粉末を成形型に17kg充填した以外は実施例1と同様の成形型を用い、実施例1と同様の条件にて冷間静水圧プレスに投入した。得られた成形体を型から取り出し、形状を確認したところ、割れや反りはなく、391mm×773mm×16mmの成形体を得た。
得られた成形体を焼成炉内に設置し、450℃までの昇温速度を50℃/hrとしたい以外は実施例4と同様の方法で焼成を実施し、割れのない約307mm×607mm×13mmの大きさの焼結体を得た。
(比較例6)
パラフィンバインダーの添加量を0.8wt%とした以外は実施例20と同様の方法で、割れや反りのない成形体を得た。
得られた成形体を実施例20と同様の方法で焼成を行ったが、焼結体表面に多数の亀裂が発生し、さらに縦方向に割れが発生していた。
本発明の成形型の一例を模式的に分解して示す斜視図である。
本発明の成形型の一例を分解して示す断面図(側面図)である。
本発明の成形型の一例を示す断面図(側面図)である。
本発明の成形型の他の例を模式的に分解して示す斜視図である。
比較例4で用いた成形型を示す断面図である。(a)平面図、(b)側面図
本発明の成形型の他の例を模式的に分解して示す斜視図である。
本発明の成形型の底板の例を分解して示す斜視図である。
本発明の成形型の底板の他の例を示す斜視図である。
本発明の成形型の底板のさらに他の例を示す斜視図である。
本発明の成形型の他の例を模式的に分解して示す斜視図である。
本発明の成形型の他の例を示す平面図である。(a)組立式型枠を示す平面図、(b)組立式型枠の角部のボルト導入穴の形状を示す拡大図
本発明の成形型の他の例の側面図である。
本発明の成形型のさらに他の例の側面図である。
符号の説明
1、11、21、31、41、51、61 上パンチ
2、12、22、32、42、52、62 組立式型枠
2a、12a、22a、32a、42a、52a、62a 型枠部材
2b、12b、22b、32b、42b、52b、62b 型枠部材
3、13、33、43,63 底板
33a、33b、33c、33d、33e、33f 底板構成部材
4、14、34、44、64 台座
5 原料粉末
6 緩衝材
7、8 段部
25 ウレタンゴム型
28、58 下パンチ
55、65 ボルト
56、66 ナット
57 ボルト導入穴
57a 連結部材初期位置
57b 連結部材可動領域