JP5777061B2 - 滑り免震機構 - Google Patents
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Description
すなわち、この種の滑り免震機構における摩擦係数をμ<0.05と十分に小さくすれば加速度は小さくなるものの変位や残留変位が大きくなってしまう。逆に、摩擦係数をμ>0.2と大きくすれば残留変位を小さくできるものの加速度が大きくなって免震効果が小さくなってしまう。
特に、リニアガイドやベアリング等の転動機構を利用して摩擦係数をμ<0.01と十分に小さくしたうえで、復元ばねに摩擦抵抗力以上の大きな予荷重(通常は予引張力)を与えれば残留変位を完全に無くすことが知られているが、その場合には復元ばねのばね剛性により滑り開始時の抵抗力が大きく増大することになるから、加速度に対して摩擦抵抗力(ひいては摩擦係数)を増加したことと同じになり、必然的に免震性能が損なわれてしまう。また、摩擦係数を過度に小さくすることは摩擦減衰も期待できないためにオイルダンパー等の他の減衰要素を付加する必要も生じる。
具体的には、滑り面の摩擦係数μ、免震対象物の自重W(質量M、重力加速度gとするとW=Mg)とすると、滑り出し荷重はμWとなるから、復元ばねによる予荷重Fをその滑り出し荷重と同等、つまり F=μW と設定するのであるが、その場合においては免震対象物の加速度は(μMg+F)/Mとなり、復元ばねを設けない場合の加速度μgに対して(1+F/μMg)倍にまで大きく増大してしまうことになるから、免震性能が大きく低下してしまうことは不可避である。
(1)滑り免震は単純な構成で薄くできることから、床段差が小さい免震をローコストに実現できる特徴があるものの、従来一般の滑り免震では残留変形が大きいという問題があったが、本発明のように免震床の滑り出し荷重より大幅に小さい予荷重を作用させることで、免震効果を殆ど低下させず(加速度を大きく増加させず)に残留変位を大幅に低減することができ、地震後に免震床を原位置に復帰させる手間をかけず継続使用することが可能となる。
すなわち、従来の復元ばねは免震床の滑り出し荷重以上の予荷重を付与して地震後に強制的に原位置に完全復帰させるようにしていたが、本発明ではその10〜40%の小さな予荷重で残留変位を使用上問題のない程度まで抑制できる。
したがって、復元ばねや接合部に要するコストを大幅に低減できてコストパフォーマンスに優れるばかりでなく、予荷重が小さいので加速度の増加が従来の復元ばねに比べて格段に小さくなり、免震効果を殆ど低下させない。
(3)コンパクトで高さの小さい復元ばねを使用可能であるので、免震床の可動範囲に容易に収納可能であり、使用上の邪魔になりにくい。
(4)設置工事に特別な施工技能を必要とせす、新築だけでなく既存の構造床にも適用可能である。
これは、基本的には従来一般の滑り免震機構と同様に、免震対象物1を免震床2を介して支持部(構造床)4上に水平変位自在に支持して設置するもので、免震床2の底面には滑り材3を一体に固着して支持部4上を水平各方向に滑らかに滑動可能とすることにより、免震対象物1は通常時には図1に示すように定位置(原位置)に安定に静止しているが、地震時には免震床2が支持部4上を水平各方向に滑動することによってたとえば図2に示すように原位置から任意の方向に変位可能かつ回転可能とされているものである。
なお、本実施形態では滑り材3による摩擦係数μはこの種の滑り免震機構において一般的であるμ=0.05〜0.2の範囲とすることで十分であり、リニアガイドやベアリング等の転動機構のようにμ<0.01と過度に小さくする必要はない。
但し、上述したように従来のこの種の滑り免震機構では免震対象物1を原位置に完全に復元させるように復元ばね5に対して滑り出し荷重に相当するような大きな予引張力を与えるものであったのに対し、本実施形態では予引張力Fを従来に比べて十分に小さく設定することを主眼とする。
つまり、上述したように従来において復元ばね5を設ける場合にはその予引張力Fを滑り出し荷重以上(F≧μW)とする必要があり、少なくともF=μWとすることが通常であるのに対して、本実施形態では予引張力Fを従来の場合に比べて10〜40%程度とするに留め、それによって以下で実証するように免震効果を大きく損なうことなく残留変位を十分に低減することを可能としたものである。
これは、(a)に示すようにゼンマイ状のばね材7を2つのドラム8に対して逆方向に巻回した構造のもので、(b)に示すように一般の線ばねやゼンマイばねでは変形量(伸び出し量)に応じてばね反力が変化するのに対し、定荷重ばね6はばね反力が変形量に依存せずに一定のばね反力で大きく変形(伸び出し)可能なものである。
すなわち、ワイヤー10をたとえばドラム8の径の1.5倍程度引き出した状態で戻り止めのストッパー11をケース9に対して係止することにより、定荷重ばね6を上記の限界変位まで変位させて上記の予引張力Fを与えた状態でケース9内に収容しておき、そのうえでその限界変位以上の変位(さらなる伸び出し)は支障なく許容しつつ限界変位以下に復元する(縮退する)ことを規制することにより、予引張力Fが低減したり消失することなく常に一定の予引張力Fが与えられた状態を維持するようにしている。
したがって、本実施形態の定荷重ばね6の荷重−変位特性は、図3(c)に示すように予引張力Fに相当する荷重が作用するまでは変位せず、予引張力Fを超える荷重が作用した際には予引張力Fに相当する一定の反力(復元力)のままで変位する(伸び出す)ような特性を呈するものとなる。
解析モデルは図4に示す1質点系モデルとし、免震構造物1および免震床2の質量をm1=1000kgとし、復元ばね5としての定荷重ばね6(ばね剛性kc)および減衰要素13(減衰定数c1:周期4秒で0.1%の減衰を付与する程度)で支持し、摩擦力f1が質量m1の動きと逆向きに作用すると仮定する。
解析ケースは、
・case1:復元ばねのない(予引張力F=0)従来型免震の場合
・case2:完全に復元させるために予引張力F=1μWとした従来型免震の場合
・case3:復元ばね(定荷重ばね)による予引張力F=0.1μWとした本発明の場合
とする。
地震波は、
・kokuji Level 2
・El Centro 50cm/s
・Taft 50cm/s
・Hachinohe 50cm/s
・Kobe 原波
の5波とした。
また、一例として、kokuji Level 2の場合における各ケースの応答波形を図6〜図8に示す。各図は上段から変位、速度、加速度および地震動加速度を示す。(図7、図8の最上段における破線はcase1の場合を示す。)
また、加速度については、case1の場合の102.05cm/s2に比較してcase2では198.38cm/s2と約2倍にもなるのに対し、本発明のcase3では110.35cm/s2とcase1に比較して僅か1.1倍程度に増大するに留まることがわかる。
これらの図において横軸は予引張力比(F/μW)であり、F/μW=0が従来型免震のcase1に該当し、F/μW=1が従来型免震のcase2に該当し、F/μW=0.1が本発明のcase3に該当する。
各図において左上段は残留変位(絶対値)を示し、左下段は残留変位低減率(復元ばねがある場合の残留変位を復元ばねがない場合の残留変位からの低減率で規準化した値。すなわち、1−復元ばねのある場合の残留変位/復元ばねのない場合の残留変位)を示す。
また、右上段は加速度(絶対値)を示し、右下段は加速度増加率(復元ばねがない場合の加速度に対する復元ばねがある場合の加速度の倍率)を示す。
残留変位は予引張力F=0.1μWとすることで復元ばねのない場合(F=0)に比較して大幅に低減する。但し、地震波がHachinoheの場合については、予引張力F=0.1μWでは残留変位が1.2cmとあまり低減効果が得られないが、F=0.2μWとすると残留変位は0.2cmに大幅に改善される。
また、いずれの地震波についても、予引張力を滑り出し荷重の0.1〜0.4倍程度与えることにより残留変位を10%以下と大幅に低減できる。その時の加速度の増加分は規準化した値F/μWに比例し、仮にF=0.2μWの場合には加速度の増加は20%の増加に留まる。
さらに、残留変位低減率は予引張力に比例するのではなく、予引張力の小さな領域から大きな低減率を発揮でき、予引張力をF=0.1〜0.4μWとすることで十分な残留変位の低減が可能である。また、そのときの加速度の増加分は1.1〜1.4倍に留まり、予引張力を従来通りの滑り出し荷重で与えた場合には2倍程度にもなるに対してその上昇を大幅に小さくすることができる。したがって小さな予引張力で加速度の増加率を極力抑え、残留変位を大きく減らすことができる。
以上のことから、本発明においては予引張力比を0.1〜0.4の範囲とする、すなわち予引張力Fを滑り出し荷重μWの0.1〜0.4倍として F=(0.1〜0.4)μW の範囲に設定すべきであり、それが最も合理的であり有効である。
たとえば、本発明においては復元ばね5として上記実施形態のような定荷重ばね6を用いることが好適ではあるが、それに限るものではなく、他の形式のばねを用いることも可能である。
但し、その場合には、復元ばね5のばね定数と免震対象物1の自重Wとにより定まる固有周期が4秒以上となるように設定することが好ましく、そのような設計とすればどのような地震波であっても応答を小さくすることができるので有効である。
その場合には、図14(a)に示すようにコイルばね14に対して定荷重ばね6の場合と同様に上記の予引張力Fが生じるような所定の限界変位を与えた状態でケース9内に収納し、戻り止めのストッパー11によって限界変位以上の変位を許容しつつ限界変位以下に復元することを規制する状態で設置すれば良い。
このようなコイルばね14を復元ばね5として用いる場合には、その復元特性は(b)に示すように反力(復元力)が変位に依存するような特性を呈するものとはなるが、実質的に定荷重ばね6を用いる場合と同様に機能し同様の効果が得られるものとなる。
2 免震床
3 滑り材
4 支持部(構造床)
5 復元ばね
6 定荷重ばね(復元ばね)
7 ばね材
8 ドラム
9 ケース
10 ワイヤー
11 ストッパー
12 ピン
13 減衰要素
14 コイルばね(復元ばね)
Claims (6)
- 自重Wを有する免震対象物を摩擦係数μを有する滑り面を介して支持部上に滑動自在に支持する滑り免震機構であって、
前記免震対象物と前記支持部との間に復元ばねを設けて該復元ばねに対して予荷重Fを与えるとともに、前記予荷重Fを F=(0.1〜0.4)μW の範囲に設定してなり、
前記摩擦係数μを μ=0.05〜0.2 の範囲に設定してなることを特徴とする滑り免震機構。 - 請求項1記載の滑り免震機構であって、
前記復元ばねを定荷重ばねとして該復元ばねに前記予荷重Fとしての予引張力が生じるような所定の限界変位を与えるとともに、該限界変位以上の変位を許容しつつ該限界変位以下に復元することを規制する状態で前記復元ばねを前記免震対象物と前記支持部との間に介装してなることを特徴とする滑り免震機構。 - 請求項1記載の滑り免震機構であって、
前記復元ばねを、該復元ばねのばね定数と前記免震対象物の自重Wとにより定まる固有周期が4秒以上となるコイルばねによる引張ばねとして該復元ばねに前記予荷重Fとしての予引張力が生じるような所定の限界変位を与えるとともに、該限界変位以上の変位を許容しつつ該限界変位以下に復元することを規制する状態で前記復元ばねを前記免震対象物と前記支持部との間に介装してなることを特徴とする滑り免震機構。 - 請求項1記載の滑り免震機構であって、
前記復元ばねを、該復元ばねのばね定数と前記免震対象物の自重Wとにより定まる固有周期が4秒以上の皿ばねからなる圧縮ばねとして該復元ばねに前記予荷重Fとしての予圧縮力が生じるような所定の限界変位を与えるとともに、該限界変位以上の変位を許容しつつ該限界変位以下に復元することを規制する状態で前記復元ばねを前記免震対象物と前記支持部との間に介装してなることを特徴とする滑り免震機構。 - 請求項1,2,3または4記載の滑り免震機構であって、
前記復元ばねを、前記免震対象物が前記支持部に対して水平各方向に復元力を持たせるように複数配置してなることを特徴とする滑り免震機構。 - 請求項5記載の滑り免震機構であって、
前記各復元ばねを、前記免震対象物の水平各方向への変位に追随して水平面内において回転自在な状態で前記支持部に対して設置してなることを特徴とする滑り免震機構。
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