以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。なお、図面において、同一の要素については同一の符号を付し、同一の要素の符号の一部は省略する。各粒子の位置関係及び寸法比は図面に示すものに限定されない。
(断熱材)
図1は、本発明の一実施形態に係る断熱材が含有する小粒子及び大粒子の断面模式図である。
本実施形態の断熱材は、複数の小粒子Sと、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する。小粒子Sは、シリカを含む無機化合物からなる。また、断熱材は小粒子Sよりも粒子径が大きい複数の大粒子Lを含有することが好ましい。
小粒子の平均粒子径DSは、5nm以上50nm未満である。平均粒子径DSは、小粒子1000個を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察し、その等面積円相当径を求めて数平均を算出することにより、確認することができる。
小粒子の平均粒子径DSが5nmよりも小さいと、DSが上記の数値範囲内である場合に比べて、小粒子が化学的に不安定になり、断熱性能が安定し難い。DSが50nm以上であると、DSが上記の数値範囲内である場合に比べて、小粒子同士の接触面積が大きくなり、断熱材の固体伝導による伝熱が増し、断熱性能が不十分となる。
小粒子の平均粒子径DSは、5nm以上40nm以下であると、断熱材が後述する大粒子を含む場合に小粒子と大粒子の粒径の差が大きくなり、大粒子の小粒子に対する分散が容易となり、好ましい。DSが5nm以上30nm以下であると、粒子の付着力が増して、断熱材からの粒子の脱落が減少し、より好ましい。
小粒子を構成する第一の無機化合物は、シリカを含有する。第一の無機化合物におけるシリカの含有率が50質量%以上であると、断熱材の固体伝導による伝熱が小さいため、好ましい。第一の無機化合物は、シリカを75質量%以上含むと、粒子の付着力が増して、断熱材からの粒子の脱落が減少するため、より好ましい。なお、本発明においてシリカとは、組成式SiO2で表される成分を指す。第一の無機化合物は、純粋な二酸化ケイ素であってもよく、Si及び種々の他元素との塩や複合酸化物であってもよく、水酸化物のような含水酸化物であってもよい。第一の無機化合物が、シラノール基を有していてもよい。第一の無機化合物は、結晶質であっても、非晶質であっても、それらの混合体であってもよいが、非晶質であると、断熱材中の固体伝導による伝熱が小さくなり、断熱性能が向上するため、好ましい。
シリカを含む第一の無機化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
シリカや石英と呼ばれるケイ素の酸化物。
ケイ素の部分酸化物。
シリカアルミナやゼオライトのようなケイ素の複合酸化物。
ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)、セリウム(Ce)、ホウ素(B)、鉄(Fe)及びアルミニウム(Al)等のいずれかのケイ酸塩(ガラス)。
ケイ素以外の元素の酸化物,部分酸化物,塩又は複合酸化物(アルミナやチタニア等)と、ケイ素の酸化物,部分酸化物,塩又は複合酸化物との混合体。
SiCやSiNの酸化物。
小粒子がシリカを含有することは、例えば、小粒子を断熱材より分級して固体Si−NMR測定を行い、Q4構造を検出することで、確認することができる。小粒子におけるシリカの含有量は、例えば、電界放射型走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(FE−SEM EDX)により、求めることができる。
第一の無機化合物は、断熱材の使用される温度において、熱的に安定であることが好ましい。具体的には、断熱材の使用最高温度において1時間保持したときに、無機化合物の重量が10%以上減少しないことが好ましい。また、無機化合物は耐水性を有することが好ましい。具体的には、25℃の水100gに対する無機化合物の溶解量が0.1g未満であることが好ましく、0.01g未満であることがより好ましい。
小粒子の比重CSは、ピクノメーター法により求まる真比重を指す。成形欠陥の抑制及び断熱性向上の観点からCSは2.0以上4.0以下であることが好ましい。2.0以上3.0以下であると、断熱材のかさ密度が小さくなるため、より好ましい。2.0以上2.5以下であると、小粒子のかさ密度が小さいため、大粒子との混合時において、より小さな動力で混合が可能となるため、生産性が向上し、さらに好ましい。
断熱材に大粒子が含まれていることは、成形欠陥の発生抑制、断熱性能の安定化、断熱性能の向上の面から好ましい。大粒子の平均粒子径DLは50nm以上100μm以下である。DLは、前述のDSと同じ方法により求められる。DLが50nmより小さいと、DLが上記の数値範囲内である場合に比べて、断熱材におけるスプリングバックが大きくなる。DLが100μmより大きいと、断熱性能が不十分となる。ここでスプリングバックとは、超微粒子を主成分とする断熱材前駆体を加圧成形する際、加圧後圧力を開放した時に成形体が大きく膨張する現象を言う。スプリングバックによって、加工成形時のプレス面に対して垂直な面に亀裂状の成形欠陥が発生することがある。このような成形欠陥が断熱材に存在すると、断熱材が破損する恐れがあるばかりか、断熱性能も低下するため好ましくない。
大粒子の平均粒子径DLは、60nm以上30μm以下であると、断熱材が無機繊維や赤外線不透明化粒子を含む場合にこれらとの均一な混合が容易であるため、好ましい。DLは、60nm以上10μm以下であると、粒子の付着力が増し、断熱材からの粒子の脱落が減少するため、より好ましい。
DLはDSの2倍以上であることが、スプリングバックが小さくなるため、好ましい。DLはDSの3倍以上であると、小粒子と大粒子の混合粉体のかさ比重が大きくなり、粉体体積が小さくなるため作業性が向上するので、より好ましい。DLはDSの4倍以上であると、小粒子と大粒子の粒径の差が大きく、大粒子が小粒子中で分散した状態になり易いので、さらに好ましい。
複数の大粒子のうち粒子径が100nm以上である大粒子は、熱伝導率を小さくする観点から、球状であることが好ましい。この理由は明らかではないが、粒子径が100nm以上の粒子が球状であれば、粒子の接触抵抗が大きくなるため、断熱材の熱伝導率が小さくなるためであると推測される。なお、「複数の大粒子」とは、粒子径が100nm以上の大粒子だけでなく、小粒子よりも粒子径が大きい全ての大粒子を意味する。
本明細書中、「粒子径が100nm以上の粒子が球状」であるか否かは、以下のようにして判断される。すなわち、大粒子同士が重ならないように撮影、画像処理した大粒子のFE−SEM画像から、粒子径が100nm以上の1000個の大粒子の最大径及び面積を求める。そして、下記式(1)に基づき、個々の粒子の丸さの度合いを求め、その平均値を求める。このとき、丸さの度合いの平均値が、1以上1.3以下である場合に、大粒子中に含まれる、粒子径が100nm以上の粒子が球状であるものとする。
丸さの度合い={π×(最大径/2)2/面積} (1)
丸さの度合いの平均値が1以上1.28以下であると、大粒子の付着性が低く、ハンドリングが容易であるため、好ましい。丸さの度合いの平均値が1以上1.26以下であると、大粒子と小粒子の混合が容易であるため、さらに好ましい。丸さの度合いの平均値が1以上1.24以下であると、大粒子が単分散し易く、混合粉体を成形すると断熱材が均質になり易いため、生産性が高く、最も好ましい。
大粒子の比重CLは、前述のCSと同じ方法で求められる。大粒子の比重CLは、2.0以上3.0以下であると、断熱材のかさ密度が小さくなるため、好ましい。CLが2.0以上2.9以下であると、小粒子との比重差が小さく、小粒子との均一混合が容易であるため、好ましい。CLは、2.1以上2.8以下であると、小粒子との比重差がさらに小さく、貯蔵や輸送において小粒子と大粒子の分離が起こりにくくなるため、より好ましい。
大粒子を構成する第二の無機化合物としては、特に限定されないが、第一の無機化合物同様、断熱材の使用される温度において熱的に安定であり、耐水性がある化合物が好ましい。第二の無機化合物は、第一の無機化合物と同一でもよく、異なっていてもよい。例えば、第二の無機化合物は、3〜11族、12族の亜鉛(Zn)、13族のAl、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、14族のケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)及び15族のビスマス(Bi)のいずれかの単体、合金、酸化物、複合酸化物、窒化物、炭化物及び難溶性の塩でもよい。第二の無機化合物は2族の難溶性の塩でもよい。第二の無機化合物は、これらの混合物でもよい。第二の無機化合物は、結晶質であっても、非晶質であっても、それらの混合体であってもよい。
好ましい第二の無機化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
上記の第一の無機化合物と同様のもの。
SiC、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化鉄、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化銅、炭酸カルシウム。
Na、Mg、Ca、K、Ba及びCeのいずれかを含む難溶性ケイ酸塩。
これらの混合物。
第二の無機化合物は、第一の無機化合物と同様のもの、炭酸カルシウム又は上記の難溶性ケイ酸塩であることがより好ましい。難溶性ケイ酸塩としては、例えば鉄鋼スラグなどが挙げられる。さらに好ましいのは、第一の無機化合物と同様のものである。
大粒子の組成は、小粒子の場合と同様に、FE−SEM EDXにより求められる。
断熱材に含まれる全小粒子の質量の合計値MSと断熱材に含まれる全大粒子の質量の合計値MLとの比率MS/MLは、0.035CS/CL以上3以下である。MS/MLが0.035CS/CL以上3以下である断熱材は、そのスプリングバックが小さく、十分な断熱性能を有する。未加熱の断熱材の場合、MS/MLは、例えば、断熱材を構成する粒子をそれ以上粉砕しない方法により構成粒子まで粉砕し、小粒子及び大粒子を分級して、それぞれの質量を測定し、小粒子の質量を大粒子の質量で除することにより、求められる。
MS/MLは、0.092CS/CL以上0.9以下であることが、小粒子の体積が減少し、混合が容易となるため、より好ましい。MS/MLは、0.092CS/CL以上0.5以下であると、小粒子と大粒子の混合粉体を加圧成形する際に、混合粉体と成形体の体積差が小さくなり、加圧成形が容易となるため、さらに好ましい。
本発明者らは、小粒子及び球状の大粒子の混合体を用いて断熱材を作成し、その熱伝導率とMS/MLの関係を詳細に調べた。その結果、MS/MLが0.035CS/CL以上3以下の範囲では、断熱材の熱伝導率は十分小さく、かつMS/MLの減少量に対する熱伝導率の増加量(熱伝導率の増加率)も小さいことを本発明者らは発見した。さらに、本発明者らは、MS/MLが閾値の0.035CS/CL未満の範囲では、驚くべきことに不連続な変化が現れ、MS/MLの減少に従い熱伝導率が急激に増加することを見出した。この理由は明らかではないが、MS/MLが0.035CS/CL以上の領域では、断熱材が、気体伝導と固体伝導の伝熱に対するボトルネックを有する構造をとるためであると考えられる。
以下に、MS/MLが0.035CS/CL以上のとき、断熱材中に伝熱に対するボトルネックが発生する構造となる原理を説明する。
仮に、すべての大粒子が球状で同一の粒子径DLを有し、粒子間力が無いため大粒子は凝集せずに単分散すると仮定する。
一定の空間に大粒子を充填し、断熱材を形成すると、空間における大粒子の充填率は、最大で面心立方格子に占める大粒子の体積百分率の理論値である74体積%になる。この空間とは、断熱材全体において大粒子及び小粒子が占める全体積に相当する。大粒子間に生じた26体積%のすべての空隙が、内部の細孔サイズが100nm以下の小粒子凝集体により充填される場合、この小粒子凝集体が気体伝導による伝熱に対するボトルネックとなり、断熱材全体において気体伝導による伝熱が小さくなる。加えて、小粒子の数をわずかに増やして、大粒子同士の各接点に、2個分の小粒子を直列に挿入すれば、大粒子同士が直接接触しない構造となる。このような構造においては、大粒子から大粒子への固体伝導による伝熱経路は、必ず伝熱抵抗が大きな小粒子の点接合部を通ることとなる。この小粒子の点接合部が、固体伝導による伝熱に対するボトルネックとなるため、断熱材全体において固体伝導による伝熱は小さくなる。
つまり、上記空間内に存在する小粒子凝集体の体積の合計値が上記空間内に存在する全大粒子の体積の理論値74体積%よりもわずかに大きい場合、断熱材は、気体伝導及び固体伝導の伝熱に対するボトルネックを有する構造となる。
小粒子凝集体のかさ比重は、小粒子のみを加圧成形した断熱材のかさ比重とほぼ等しいと考えることができる。このような小粒子のみを加圧成形した断熱材の空隙率は、概ね90%程度であり、かさ比重は真比重CSの10分の1程度であることが知られている。
以上の前提に基づけば、上記空間内に存在する全大粒子の体積の理論値(下限)と、上記空間内に存在する小粒子凝集体の体積の合計値(上限)との比74:26は、下記数式(2)で表される。
74:26=(ML/CL):(MS/0.1CS) (2)
大粒子間に生じた全空隙を充填するために必要な小粒子凝集体の質量の合計値MSの下限は、上記式(2)に基づく下記数式(3)で表される。換言すれば、気体伝導及び固体伝導の伝熱に対するボトルネックを有する構造を断熱材内に形成するために必要なMSの下限は下記数式(3)で表される。
MS=(ML/CL)×(26/74)×0.1CS=ML×0.035(CS/CL) (3)
上記数式(3)から明らかなように、MS/MLが0.035CS/CL以上であれば、大粒子間に生じた全空隙を充填するために充分な小粒子が断熱材に含有される。断熱材内で大粒子が凝集している場合、大粒子が単分散している場合と同様に、MS/MLを0.035CS/CL以上とすることにより、すべての大粒子凝集体の間の空隙を、小粒子凝集体により充填することが可能である。この時、大粒子同士の接触が起こるが、粒子が球状であるため、粒子同士の接触面積が小さく、大粒子間の固体伝導伝熱は低く抑えられる。
また、大粒子に粒径分布がある場合には、空間における大粒子の充填率は、最大で74%以上となり、同一の大粒子が単分散している場合と同様に、少なくともMS/MLを0.035CS/CL以上とすることにより、すべての大粒子凝集体の間の空隙を、小粒子凝集体により充填することが可能である。大粒子に粒径100nm以下の粒子が含まれる場合、仮にこれらの粒子同士の接触が起こったとしても、粒径が小さいため、粒子同士の接触面積が小さく、大粒子間の固体伝熱は低く抑えられる。
なお、MS/MLが0.035CS/CL以上のとき、断熱材が伝熱に対するボトルネックを有する構造となる原理は、以上のものに限定されない。
小粒子及び大粒子の含有量の合計値は、断熱材の全質量を基準として、30質量%以上100質量%以下であることが好ましい。小粒子及び大粒子の含有量の合計値が30質量%以上97.5質量%以下で無機繊維や赤外線不透明化粒子を含有する断熱材は、断熱材からの粒子の脱落の減少や高い温度での断熱性能の向上といった効果がより好適にあらわれ、より好ましい。小粒子及び大粒子の含有量の合計値は、40質量%以上97.5質量%以下であると、断熱材のかさ密度がより小さいため、さらに好ましい。
大粒子の含有率を同じにして比較すると、断熱材に含まれる大粒子の分散性が高いほど断熱性能が高い傾向があるため、大粒子が単分散し、大粒子同士が直接接触しないことが好ましい。つまり、大粒子が互いに接触している箇所が存在せず、断熱材の端から端まで大粒子が直接連結していないことが好ましい。大粒子が直接連結しないことで生じる大粒子間の空隙には小粒子か、小粒子間に生じるスペースが存在することになる。空間の熱伝導より固体の熱伝導の方が大きいので、大粒子同士が直接接触しているとそこが伝熱し易いパスとなるが、大粒子の接触が少ないことで断熱材中に固体伝導の大きい伝熱経路が存在せず、断熱材全体の熱伝導率が低くなり易い。また、小粒子の存在によって大粒子間の空隙が分断されていることで、断熱材中に存在する各空隙の大きさが小さく、空気による対流や伝熱が少ないため、断熱材全体の熱伝導率が低くなり易い。
断熱材は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素(以下、本明細書において「塩基性元素」という場合がある)の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属がそれぞれ挙げられる。塩基性元素は一種のみ含まれてもよく、2種類以上が含まれてもよい。その種類は特に限定されないが、後述する加熱処理工程における生産性を高める観点から、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが好ましい。
後述するように、断熱材の製造において、小粒子や塩基性元素を含む混合物を加熱処理する工程を有する。加熱処理工程において塩基性元素が溶融することは、断熱材の硬化に寄与すると本発明者らは推定している。塩基性元素の必要量は、断熱材に不純物として含まれるシリカ成分以外の成分、例えばTiO2、Fe2O3、Al2O3等の量に依存するが、断熱材を十分に硬化させ、圧縮強度を高める観点から、塩基性元素の含有率は断熱材の全質量を基準として、0.005質量%以上5質量%以下が好ましく、0.005質量%以上1質量%以下がより好ましい。
加熱処理を施すことにより塩基性元素は溶融し、断熱材の主要な構成成分であるシリカと反応すると推定される。その結果、シリカを含む無機化合物の粒子が互いに粒子界面で融着し、例えばSi−O−Siのような結合が生じ、強固な接合箇所を形成すると考えられる。接合箇所の形成は、シリカを含む無機化合物の粒子により形成される構造の安定化に作用する結果、断熱材全体として硬化し、圧縮強度が向上すると考えられる。なお、塩基性元素の含有量を5質量%以下とすることで、小粒子及び/又は大粒子の界面におい必要以上に大きい融着面が形成されないため、断熱材中に固体伝導の大きい伝熱経路が存在せず、断熱材全体の熱伝導率を低くすることが可能であると考えられる。
塩基性元素の含有率は、例えば、XRF(蛍光X線分析)により定量することができる。
断熱材は、赤外線不透明化粒子を含有することが、高い温度での断熱性能を発現させることから、好ましい。赤外線不透明化粒子とは、赤外線を反射、散乱又は吸収するような材料からなる粒子を指す。断熱材に赤外線不透明化粒子が混合されていると、輻射による伝熱が抑制されるため、特に200℃以上の高い温度領域での断熱性能が向上する。
赤外線不透明化粒子として例を示すと、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、二酸化チタン、鉄チタン酸化物、酸化鉄、酸化銅、炭化ケイ素、金鉱石、二酸化クロム、二酸化マンガン、グラファイトなどの炭素質物質、炭素繊維、スピネル顔料、アルミニウムの粒子、ステンレス鋼の粒子、青銅の粒子、銅/亜鉛合金の粒子、銅/クロム合金の粒子を挙げることができる。従来から赤外線不透明物質として知られる上記の金属粒子又は非金属粒子を、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
赤外線不透明化粒子としては、特に、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、二酸化チタン又は炭化ケイ素を用いることが好ましい。赤外線不透明化粒子の組成は、小粒子の場合と同様に、FE−SEM EDXにより求められる。
赤外線不透明化粒子の平均粒子径は、0.5μm以上30μm以下であることが好ましい。赤外線不透明化粒子の平均粒子径が0.5μm以上である場合、200℃以上での十分な断熱性能を達成し易い。赤外線不透明化粒子の平均粒子径が30μm以下である場合、断熱材における固体伝導が抑制され、200℃未満での十分な断熱性能を達成し易い。なお、赤外線不透明化粒子の平均粒子径は、小粒子と同じ方法により求められる。赤外線不透明化粒子の平均粒子径は、0.5μm以上20μm以下であることが、無機繊維や小粒子、大粒子との混合が容易となるため、より好ましい。
断熱材中の赤外線不透明化粒子の含有率は、0質量%以上50質量%以下であることが好ましい。赤外線不透明化粒子の含有率が50質量%より大きいと、固体伝導による伝熱が増すため、200℃未満での断熱性能が低下する傾向がある。200℃以上での断熱性能を向上させるためには、赤外線不透明化粒子の含有量は、2質量%以上45質量%以下であることが好ましい。
赤外線不透明化粒子の含有率は、2質量%以上40質量%以下であると、無機繊維や大粒子、小粒子との混合が容易となり、さらに好ましい。
赤外線不透明化粒子の含有率は、例えば、赤外線不透明化粒子のみが含有する元素を、蛍光X線分析法により定量することで、求めることができる。
断熱材は、無機繊維を含有することが好ましい。無機繊維と小粒子、もしくは無機繊維と大粒子、もしくは無機繊維と小粒子と大粒子が互いに界面で融着していることが好ましい。これらの小粒子、大粒子、無機繊維が互いに融着していることで、圧縮強度が向上する。また、無機繊維を用いると、断熱材からの粒子の脱落が減少する。なお、ここで言う無機繊維とは、無機化合物からなる繊維状のもののことを指す。
本明細書中、無機繊維とは平均太さに対する無機繊維の平均長さの比(アスペクト比)が10以上であるものをいう。アスペクト比は10以上であることが好ましく、小さい圧力で成形が可能となり、断熱材の生産性を向上させる観点から50以上がより好ましく、断熱材の曲げ強度の観点から100以上がさらに好ましい。無機繊維のアスペクト比は、FE−SEMにより測定した無機繊維1000本の太さ及び長さの平均値から求めることができる。無機繊維は断熱材中で単分散して混合されていることが好ましいが、無機繊維が互いに絡まった状態や、複数の無機繊維が同一方向で揃った束の状態で混合されていてもかまわない。
無機繊維として例を示すと、ガラス長繊維(フィラメント)(SiO2−Al2O3−B2O3−CaO)、グラスウール(SiO2−Al2O3−CaO−Na2O)、耐アルカリガラス繊維(SiO2−ZrO2−CaO−Na2O)、ロックウール(バサルトウール)(SiO2−Al2O3−Fe2O3−MgO−CaO)、スラグウール(SiO2−Al2O3−MgO−CaO)、セラミックファイバー(ムライト繊維)(Al2O3−SiO2)、シリカ繊維(SiO2)、アルミナ繊維(Al2O3−SiO2)、チタン酸カリウム繊維、アルミナウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー(セッコウ繊維)、酸化亜鉛ウィスカー、ジルコニア繊維、炭素繊維、黒鉛ウィスカー、フォスフェート繊維、AES(Alkaline Earth Silicate)ファイバー(SiO2−CaO−MgO)、天然鉱物のウォラストナイト、セピオライト、アタパルジャイト、ブルーサイトなど、従来から知られる無機繊維を挙げることができる。
無機繊維の中でも、特に人体にとって安全である生体溶解性のAESファイバー(Alkaline Earth Silicate Fiber)を用いることが好ましい。AESファイバーとしては、例えば、SiO2−CaO−MgO系の無機質のガラス(無機高分子)が挙げられる。
無機繊維の平均太さは1μm以上20μm以下であることが好ましい。平均太さが1μm未満であると、無機繊維は飛散しやすいため、作業性が悪くなる。平均太さが20μmより大きいと、固体伝導による伝熱が大きく、断熱性能が不十分である傾向がある。
無機繊維の平均太さは、FE−SEMにより、無機繊維1000本の太さを求めて、これを平均して求めることができる。
断熱材中の無機繊維の含有率は、断熱材全体の質量に対して0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。無機繊維の含有率が20質量%より大きいと、固体伝導による伝熱が大きくなり、断熱性能を低下させる傾向がある。
小粒子や大粒子、赤外線不透明化粒子との混合を容易にする観点から、無機繊維の含有率は0質量%以上10質量%以下であることが、より好ましい。
無機繊維の含有率は、例えば、無機繊維を断熱材から分級することにより、求めることができる。
断熱材は、圧縮率が0〜5%の範囲における最大荷重が0.7MPa以上である。0.8MPaであることがより好ましく、0.9MPaであることが更に好ましい。
圧縮率は、圧縮強度測定時のサンプル厚み、すなわちサンプルの圧縮方向長さに対するストローク(押し込み距離)から算出することが可能である。例えば、断熱材を1cm×1cm×1cmの立方体形状にしたサンプルを用いて圧縮強度を測定する場合、ストロークが0.5mmとなる状態を圧縮率が5%であると定義する。圧縮率は、下記数式(4)で算出される。
圧縮率=100×ストローク(押し込み距離)/サンプルの圧縮方向長さ (4)
圧縮強度測定時に描かれる荷重−圧縮率曲線のパターンは、特に限定されない。すなわち、上記圧縮率が0〜5%の範囲において、サンプルである断熱材が崩壊し明確な破壊点を示しても、崩壊しなくてもかまわない。圧縮率が0〜5%の範囲においてサンプルである断熱材が崩壊し破壊点を示す場合、その断熱材の最大荷重は破壊点における荷重と定義する。その破壊点における荷重が0.7MPa以上であることが好ましく、0.8MPaであることがより好ましく、0.9MPaであることが更に好ましい。サンプルが崩壊しない場合は、圧縮率が0〜5%の範囲で示す最大荷重の値を使用して評価する。
圧縮強度は、後述する方法で測定することが可能である。
(断熱材の製造方法)
小粒子及び大粒子としては、従来知られる製法で製造されるシリカ成分を有する粒子を使用することができる。例えば、小粒子及び大粒子は、酸性又はアルカリ性の条件下での湿式法により、ケイ酸イオンを縮合して製造された粒子でもよい。小粒子及び大粒子は、湿式法でアルコキシシランを加水分解・縮合して製造されたものでもよい。小粒子及び大粒子は、湿式法で製造されたシリカ成分を焼成して製造されたものでもよい。小粒子及び大粒子は、塩化物などケイ素の化合物を気相で燃焼して製造されたものでもよい。小粒子及び大粒子は、ケイ素金属やケイ素を含む原料を加熱して得られたケイ素ガスを酸化・燃焼して製造されたものでもよい。小粒子及び大粒子は、ケイ石などを溶融して製造されたものでもよい。
小粒子や大粒子に含まれるシリカ成分以外の成分としては、上記の製法において原料中に不純物として存在しているものを利用してもよい。シリカ成分以外の成分を、製造プロセス中に意図的に原料に添加してもよい。
小粒子や大粒子として用いるシリカとしては、従来から知られる製法で製造された下記のシリカが好適に使用される。
<湿式法で合成されるシリカ>
ケイ酸ナトリウムを原料に酸性で作られるゲル法シリカ。
ケイ酸ナトリウムを原料にアルカリ性で作られる沈降法シリカ。
アルコキシシランの加水分解・縮合で合成されるシリカ。
<乾式法で合成されるシリカ>
ケイ素の塩化物を燃焼して作られるヒュームドシリカ。
ケイ素金属ガスを燃焼して作られるシリカ。
フェロシリコン製造時などに副生するシリカヒューム。
アーク法やプラズマ法で製造されるシリカ。
ケイ石を溶融して作られる溶融シリカなど。
上記のシリカのうち、小粒子としては、ヒュームドシリカを用いることがより好ましい。大粒子しては、ヒュームドシリカ、ケイ素金属ガスを燃焼して作られるシリカ、シリカヒューム、溶融シリカを用いることがより好ましい。
大粒子として、天然のケイ酸塩鉱物を使用することが可能である。天然の鉱物としては、例えばカンラン石類、緑簾石類、石英、長石類、沸石類が挙げられる。天然のケイ酸塩鉱物に粉砕等の処理を施してから、断熱材を構成する大粒子として使用することが可能である。
塩基性元素(アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素)は、シリカの製造プロセスや断熱材の製造プロセス中に、塩基性元素を含む化合物として添加してもよいが、大粒子及び/又は小粒子が十分な量の塩基性元素を不純物として含有している場合は、添加しなくてもよい。塩基性元素を含む化合物としては、特に限定されないが、例えばアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、複合酸化物、水酸化物、窒化物、炭化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩及び難溶性の塩が挙げられる。これらは単独で添加してもよく、もしくはこれらの混合物を添加してもよい。塩基性元素を不純物として含有する大粒子及び/又は小粒子を原料とするのは、生産性、コスト、作業性の観点から、好ましい態様である。このような大粒子及び/又は小粒子は、例えば沈殿法で作られたシリカゲル由来の粒子やフェロシリコン製造時などに複製するシリカヒュームとして得ることができる。
塩基性元素を含む化合物を添加する方法は、特に限定されない。例えば、上記湿式法や乾式法で得られたシリカに添加してもよいし、シリカの上記各製造工程において添加してもよい。塩基性元素を含む化合物は、水溶性であっても水に不溶であってもよい。塩基性元素を含む化合物の水溶液として添加し、必要に応じて乾燥させてもよいし、塩基性元素を含む化合物を固形物の状態で添加してもよい。塩基性元素の化合物は、予め所定の粒子径まで粉砕しておいてもよく、また、予備的に粗粉砕しておいてもよい。塩基性元素の化合物を予め粉砕したり予備的に粗粉砕したりせず、得られたシリカを含む無機化合物を所望の粒子径まで粉砕してもよい。
断熱材は、シリカを含む無機化合物からなる小粒子と塩基性元素を含む粉体により製造される。さらに使用状況に応じて、この小粒子に大粒子、赤外線不透明化粒子や無機繊維を添加して形成した粉体を断熱材として用いてもよい。
小粒子、大粒子、塩基性元素を含む化合物、赤外線不透明化粒子及び無機繊維は、公知の粉体混合機を使用して混合することができる。公知の粉体混合機としては、例えば、容器回転型(容器自体が回転、振動、揺動する)として水平円筒型、V型(攪拌羽根が付いていてもよい)、ダブルコーン型、立方体型及び揺動回転型、機械撹拌型(容器は固定され、羽根などで撹拌する)として、単軸リボン型、複軸パドル型、回転鋤型、二軸遊星攪拌型、円錐スクリュー型、高速撹拌型、回転円盤型、ローラー付き回転容器型、撹拌付き回転容器型、高速楕円ローター型、流動撹拌型(空気、ガスによって撹拌する)として、気流撹拌型、重力による無撹拌型が挙げられる。これらの混合機を組み合わせて使用してもよい。
小粒子、大粒子、塩基性元素を含む化合物、赤外線不透明化粒子及び無機繊維の混合は、公知の粉砕機を使用して、粒子を粉砕したり、無機繊維を裁断したり、粒子や無機繊維の分散性を向上させながら行ってもよい。従来から知られる粉砕機としては、ロールミル(高圧圧縮ロールミル、ロール回転ミル)、スタンプミル、エッジランナー(フレットミル、チリアンミル)、切断・せん断ミル(カッターミルなど)、ロッドミル、自生粉砕機(エロフォールミル、カスケードミルなど)、竪型ローラーミル(リングローラーミル、ローラーレスミル、ボールレースミル)、高速回転ミル(ハンマーミル、ケージミル、ディスインテグレーター、スクリーンミル、ディスクピンミル)、分級機内蔵型高速回転ミル(固定衝撃板型ミル、ターボ型ミル、遠心分級型ミル、アニュラー型ミル)、容器駆動媒体ミル(転動ボールミル(ポットミル、チューブミル、コニカルミル)、振動ボールミル(円形振動ミル、旋動振動ミル、遠心ミル)、遊星ミル、遠心流動化ミル)、媒体撹拌式ミル(塔式粉砕機、撹拌槽式ミル、横型流通槽式ミル、竪型流通槽式ミル、アニュラーミル)、気流式粉砕機(気流吸込型、ノズル内通過型、衝突型、流動層ジェット吹込型)、圧密せん断ミル(高速遠心ローラーミル、インナーピース式)、乳鉢、石臼などが挙げられる。これらの粉砕機を組み合わせて使用してもよい。
これらの混合機と粉砕機のうち、高速回転ミル、分級機内蔵型高速回転ミル、容器駆動媒体ミル、圧密せん断ミルが、粒子や無機繊維の分散性が向上するため、好ましい。粒子や無機繊維の分散性を向上させるには、撹拌羽根を有する粉体混合機を使用し、撹拌羽根先端の周速を100km/h以上にするのが好ましい。大粒子同士の接触をより少なくする観点で200km/h以上がより好ましく、300km/h以上がさらに好ましい。
断熱材は、シリカを含む無機化合物からなる小粒子と塩基性元素を含み、使用状況に応じて大粒子、赤外線不透明化粒子や無機繊維を添加して形成した粉体を使用する箇所に充填したものでもよいし、この粉体を加圧成形したものを断熱材として用いてもよい。粉体を使用する箇所に充填した場合の圧縮強度は、例えば、粉体を充填し、加熱処理を施した後の状態で測定用サンプルとして測定する。もしくは、粉体をかさ密度が0.6g/cm3以上となるように成形後、900℃で24時間以上加熱処理を施して断熱材を作成し、圧縮強度の測定用サンプルとする。
粉体を加圧成形して断熱材を製造する場合、金型プレス成形法(ラム式加圧成形法)、ラバープレス法(静水圧成形法)、押出成形法など、従来から知られるセラミックス加圧成形法によって成形することができる。生産性の観点から、金型プレス成形法が好ましい。
金型プレス成形法やラバープレス法において粉末状の断熱材を型に充填するときには、粉末状の断熱材に振動を与えるなどして、均一に充填することが、断熱材成形体の厚みが均一となるため、好ましい。
型内を減圧・脱気しながら粉末状の断熱材を型に充填すると、粉体を短時間で充填できるため、生産性の観点から好ましい。
加圧成形中又は加圧成形後の断熱材を、断熱材の耐熱性が十分である温度や時間の条件の範囲内で、断熱材が構造変化しないように加熱乾燥し、断熱材中の吸着水を除去した後、実用に供すると、熱伝導率が低くなるため、好ましい。
本実施形態の断熱材の製造方法は、シリカを含む無機化合物からなる小粒子と塩基性元素を含む化合物とを含み、使用状況に応じて大粒子、赤外線不透明化粒子や無機繊維を添加して形成した粉体もしくは加圧成形したものを400℃以上の温度で加熱処理する工程を有する。寸法安定性の観点から、加熱処理温度は、その断熱材の使用最高温度より高温が好ましい。断熱材の用途により様々であるが、400〜1200℃が好ましく、より好ましくは500〜1200℃、更に好ましくは600〜1200℃である。
加熱処理の雰囲気は、空気中(又は大気中)、酸化性雰囲気中(酸素、オゾン、窒素酸化物、二酸化炭素、過酸化水素、次亜塩素酸、無機・有機過酸化物等)、及び不活性ガス雰囲気中(ヘリウム、アルゴン、窒素等)が挙げられる。加熱処理時間は、加熱処理温度及び断熱材の量に応じて適宜選択すればよい。
加熱処理は、上記粉体を断熱材として使用する箇所に充填した後に施してもよいし、粉体を加圧成形したものに施してもよい。加熱処理を施すことにより塩基性元素が溶融し、断熱材の構成成分であるシリカと反応すると推定される。その結果、シリカを含む無機化合物の粒子が互いに粒子界面で融着し、例えばSi−O−Siのような結合が生じ、強固な接合箇所を形成すると考えられる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1では、小粒子として、ヒュームドシリカHDK−N20(商品名、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)を用いた。大粒子として、シリカヒュームEFACO(商品名、巴工業株式会社製)を用いた。
各粒子の平均粒子径を、FE−SEM装置S−4700(商品名、日立ハイテクフィールディング製)を使用して求めた。ヒュームドシリカHDK−N20の平均粒子径は14nmであった。シリカヒュームEFACOの平均粒子径は150nmであった。
自動湿式真密度測定器オートトゥルーデンサーMAT−7000(商品名、セイシン企業製)を使用し、各粒子の真比重を求めた。ヒュームドシリカHDK−N20の真比重CSは2.2であり、シリカヒュームEFACOの真比重CLは2.2であった。これより、実施例1における0.035CS/CLは0.035であった。
62gのヒュームドシリカHDK−N20と、187gのシリカヒュームEFACOと、を、M20汎用ミル(商品名、IKAジャパン株式会社製)を使用して均一に混合した後、16gの無機繊維であるS−2グラスファイバー チョップドストランド401(商品名、AGY社製)と、47gの赤外不透明化粒子であるケイ酸ジルコニウムのミクロパックスS(商品名、ハクスイテック株式会社製)を添加して、M20汎用ミルを使用して均一に混合し、実施例1の混合粉末(粉末状の断熱材)を調製した。ヒュームドシリカHDK−N20の質量の合計値MSは62gであり、シリカヒュームEFACOの質量の合計値MLは187gであることから、比率MS/MLは0.33であった。
実施例1の混合粉末中のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属(塩基性元素)の量について、株式会社リガク製蛍光X線分析装置RIX−3000により定量分析を行なったところ、塩基性成分の含有量は1.31質量%であった。
上記の混合粉末を、内寸が縦20cm、横20cmの金型を使用して加圧成形を行い、縦20cm、横20cm、厚み20mmの成形体(断熱材)を得た。続いて、上記の成形体に900℃で5時間の加熱処理を施した。
実施例1の成形体には、成形欠陥は見られなかった。この成形体の25℃での熱伝導率を、熱伝導率測定装置オートΛ HC−074 200(商品名、英弘精機株式会社製)を利用して測定した。実施例1の成形体の熱伝導率は、0.027W・m−1・K−1であった。
上記の成形体を縦2cm、横2cm、厚み2cmに加工し、株式会社島津製作所製精密万能試験機オートグラフAG−100KNを使用して、押し込み速度0.5mm/分で圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=4.4%においてサンプルが崩壊して破壊点を示し、この時の荷重は0.98MPaだった。
[実施例2]
22gのヒュームドシリカHDK−N20と、532gのシリカヒュームEFACOを使用した以外は、実施例1と同様の方法で混合粉末を調製し、加圧成形を行って縦20cm、横20cm、厚み20mmの成形体(断熱材)を得た。比率MS/MLは0.042であった。実施例3の混合粉末中の塩基性元素の量について、実施例1と同様に分析を行なったところ、塩基性成分の含有量は1.90質量%であった。続いて、上記の成形体に900℃で1時間の加熱処理を施した。
実施例2の成形体には、成形欠陥は見られなかった。実施例2の成形体の熱伝導率は、0.045W・m−1・K−1であった。
上記の成形体を実施例1と同様に圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=3.1%においてサンプルが崩壊して破壊点を示し、この時の荷重は4MPaだった。
[実施例3]
136gのヒュームドシリカHDK−N20と、136gのシリカヒュームEFACOを使用した以外は、実施例1と同様の方法で混合粉末を調製し、加圧成形を行って縦20cm、横20cm、厚み20mmの成形体(断熱材)を得た。比率MS/MLは1.0であった。実施例3の混合粉末中の塩基性元素の量について、実施例1と同様に分析を行なったところ、塩基性成分の含有量は0.99質量%であった。続いて、上記の成形体に900℃で24時間の加熱処理を施した。
実施例3の成形体には、成形欠陥は見られなかった。実施例3の成形体の熱伝導率は、0.021W・m−1・K−1であった。
上記の成形体を実施例1と同様に圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=2.7%においてサンプルが崩壊して破壊点を示し、この時の荷重は3.9MPaだった。
[実施例4]
100gのヒュームドシリカHDK−N20と、300gのシリカヒュームEFACOを使用した以外は、実施例1と同様の方法で混合粉末を調製し、加圧成形を行って縦20cm、横20cm、厚み20mmの成形体(断熱材)を得た。比率MS/MLは0.33であった。実施例4の混合粉末中の塩基性元素の量について、実施例1と同様に分析を行なったところ、塩基性成分の含有量は1.49質量%であった。続いて、上記の成形体に900℃で5時間の加熱処理を施した。
実施例4の成形体には、成形欠陥は見られなかった。実施例4の成形体の熱伝導率は、0.026W・m−1・K−1であった。
上記の成形体を実施例1と同様に圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=4.1%においてサンプルが崩壊して破壊点を示し、この時の荷重は3.6MPaだった。
[実施例5]
147gのヒュームドシリカHDK−N20に0.5mol/LのNaOH水溶液を添加した以外は、実施例1と同様の方法で混合粉末を調製し、加圧成形を行って縦20cm、横20cm、厚み20mmの成形体(断熱材)を得た。実施例5の混合粉末中の塩基性元素の量について、実施例1と同様に分析を行なったところ、塩基性成分の含有量は2.9質量%であった。続いて、上記の成形体に900℃で24時間の加熱処理を施した。
実施例5の成形体には、成形欠陥は見られなかった。実施例5の成形体の熱伝導率は、0.019W・m−1・K−1であった。
上記の成形体を実施例1と同様に圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=5.0%の時の荷重は0.79MPaだった。
[実施例6]
160gのヒュームドシリカHDK−N20と、53gのシリカヒュームEFACOを使用した以外は、実施例1と同様の方法で混合粉末を調製し、加圧成形を行って縦20cm、横20cm、厚み20mmの成形体(断熱材)を得た。比率MS/MLは3.0であった。実施例6の混合粉末中の塩基性元素の量について、実施例1と同様に分析を行なったところ、塩基性成分の含有量は0.50質量%であった。続いて、上記の成形体に900℃で24時間の加熱処理を施した。
実施例6の成形体には、成形欠陥は見られなかった。実施例6の成形体の熱伝導率は、0.040W・m−1・K−1であった。
上記の成形体を実施例1と同様に圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=3.9%においてサンプルが崩壊して破壊点を示し、この時の荷重は12MPaだった。
[実施例7]
99gのヒュームドシリカHDK−N20と、298gのシリカヒュームEFACOと、21gのS−2グラスファイバー チョップドストランド401を使用した以外は、実施例1と同様の方法で混合粉末を調製し、加圧成形を行って縦20cm、横20cm、厚み20mmの成形体(断熱材)を得た。比率MS/MLは0.33であった。実施例7の混合粉末中の塩基性元素の量について、実施例1と同様に分析を行なったところ、塩基性成分の含有量は1.52質量%であった。続いて、上記の成形体に900℃で5時間の加熱処理を施した。
実施例7の成形体には、成形欠陥は見られなかった。実施例7の成形体の熱伝導率は、0.034W・m−1・K−1であった。
上記の成形体を実施例1と同様に圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=(4.7%においてサンプルが崩壊して破壊点を示し、この時の荷重は3.8MPaだった。
[実施例8]
98gのヒュームドシリカHDK−N20と、293gのシリカヒュームEFACOと、73gのミクロパックスSを使用した以外は、実施例1と同様の方法で混合粉末を調製し、加圧成形を行って縦20cm、横20cm、厚み20mmの成形体(断熱材)を得た。比率MS/MLは0.33であった。実施例8の混合粉末中の塩基性元素の量について、実施例1と同様に分析を行なったところ、塩基性成分の含有量は1.27質量%であった。続いて、上記の成形体に900℃で5時間の加熱処理を施した。
実施例8の成形体には、成形欠陥は見られなかった。実施例8の成形体の熱伝導率は、0.041W・m−1・K−1であった。
上記の成形体を実施例1と同様に圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=4.5%においてサンプルが崩壊して破壊点を示し、この時の荷重は3.6MPaだった。
[比較例1]
900℃で5時間の加熱処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にして成形体を得、圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=0〜5%の範囲では破壊点を示さず、圧縮率=5%における荷重は0.41MPaだった。
[比較例2]
0.5mol/LのNaOH水溶液を添加しなかった以外は、実施例6と同様にして成形体を得、圧縮強度を測定した。その結果、圧縮率=0〜5%の範囲では破壊点を示さず、圧縮率=5%における荷重は0.11MPaだった。