JP5743154B2 - フック・ループ混在型面ファスナー - Google Patents

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Description

本発明は、ポリエステル系の繊維で構成されたフック・ループ混在型の面ファスナーであって、優れた係合力と優れた耐久性を有する面ファスナーに関する。
従来から、フック状係合素子とループ状係合素子が同一基布面に存在している、いわゆるフック・ループ混在型の面ファスナーは公知であり、従来のフック状係合素子とループ状係合素子を別々の面に設けた2種類の面ファスナーを用いるものと比べて一種類の面ファスナーで事足りることから最近需要が増大している。
例えば、特許文献1には、同一基布面に、高さ1.3〜3.8mmのフック状係合素子と、該フック状係合素子よりも0.2〜2mm高い、高さ1.5〜4mmのループ状係合素子を設けたフック・ループ混在型の面ファスナーが記載されている。そして、同公報には、フック状係合素子やループ状係合素子を構成する繊維として、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性合成繊維が使用できることが記載されている。
また特許文献2には、同一基布にフック状係合素子とループ状係合素子を存在させたフック・ループ混在型の面ファスナーであって、軽い荷重では係合を生じず、強い荷重を与えた場合に初めて係合が生じる面ファスナーが記載されている。そして、同公報には、フック状係合素子やループ状係合素子を構成する繊維として、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維などの合成繊維が使用でき、なかでも、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維が好ましいことが記載されている。
しかしながら、これら公報の実施例では、フック状係合素子およびループ状係合素子として、単にポリエステル系繊維が用いられたことやフック状係合素子としてポリエステルモノフィラメントを用いループ状マルチフィラメントとしてナイロン−66マルチフィラメントを用いたことが記載されているに過ぎない。
本発明者等は、フック・ループ混在型面ファスナーにおいて、フック状係合素子とループ状係合素子として、共に、ポリエチレンテレフタレート系の繊維を用いたところ、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントがバラケにくく、その結果、フック状係合素子がループ状係合素子の輪の中に入りにくくなり、十分な係合力が得られないことを、またフック状係合素子とループ状係合素子として、共に、ポリブチレンテレフタレート系の繊維を用いたところ、フック状係合素子が柔らか過ぎて、これまた十分な係合力が得られず、係合力を高めるためにフック状係合素子を構成するモノフィラメントを太くすると、フック状係合素子がループ状係合素子の中に入りにくく、これまた十分な係合力が得られないことを見出した。
一方、ナイロン系の繊維をフック状係合素子やループ状係合素子に用いた場合には湿潤寸法安定性が悪く、吸水により面ファスナーが波打ったような状態となることを見出した。さらに、従来からの面ファスナーには、フック状係合素子やループ状係合素子が係合剥離の際に、引き抜かれないように、基布裏面に接着剤を塗布して係合素子の耐引抜性を得ているが、基布裏面に接着剤を塗布した場合には、基布が接着剤で固められることから剛直なものとなり、柔軟性が要求される衣類分野には適さない。面ファスナーを構成する繊維として熱融着性の繊維を用い、この熱融着性繊維を溶融させて基布中の係合素子用繊維を融着させて、係合素子の耐引抜性を高める技術も公知であるが(特許文献3)、基布を構成する繊維としてポリアミド系繊維が用いられている場合には、該ポリアミド系繊維は耐熱性が劣り、熱融着処理により繊維性能が大きく低下することとなる。
特開平5−154009号公報 特許請求の範囲、0022段落および実施例 特開2003−125813号公報 特許請求の範囲、0008段落および実施例 国際公開第2005/12281号パンフレット 特許請求の範囲
本発明は、高い係合力を有するフック・ループ混在型の面ファスナーであって、好ましくはフック状係合素子とループ状係合素子が熱融着により根元が基布に強固に固定されており、優れた係合耐久性、すなわち繰り返し係合・剥離を行っても係合力が低下しにくいフック・ループ混在型の面ファスナーを提供することにある。
すなわち、本発明は、フック状係合素子とループ状係合素子が同一基布面に存在している面ファスナーにおいて、フック状係合素子を構成するモノフィラメントがポリエチレンテレフタレート系のポリエステル樹脂から形成されており、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントがポリブチレンテレフタレート系のポリエステル樹脂から形成されていることを特徴とするフック・ループ混在型面ファスナーである。
そして、好ましくは、本発明は、上記フック・ループ混在型面ファスナーにおいて、基布を構成している経糸および緯糸がともにポリエステル系樹脂から形成されている糸であり、かつ緯糸が芯鞘型の熱融着性繊維を含み、さらにフック状係合素子およびループ状係合素子が、基布を構成する緯糸により融着固定されている場合であり、またループ状係合素子を構成するマルチフィラメントが5〜9本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150〜350デシテックスのマルチフィラメント糸である場合であり、フック状係合素子を構成するモノフィラメントが、直径0.10〜0.25mmのモノフィラメント糸である場合であり、また少なくとも1条のループ状係合素子列に隣接して少なくとも1条のフック状係合素子列が存在している場合であり、そして、ループ状係合素子が、フック状係合素子より0.2mm以上高い場合であり、さらに、このようなフック・ループ混在型の面ファスナーがボタン代わりに用いられている衣類である。
本発明のフック・ループ混在型面ファスナーは、柔軟かつ係合力に優れる。
詳しくは、ループ状係合素子が基布を構成する緯糸により融着固定されている場合は、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントのフィラメント数が多いと融着固定されないフィラメントが発生し、係合剥離を繰り返すと融着固定されていない数本のフィラメントが引き抜かれることから、優れた係合耐久性を得るためのフィラメント数は5〜9本が好ましい事を見出した。
しかしながら、ループ状係合素子のフィラメント数が少なくなる事は、フック状係合素子が引っかかる機会が少なくなる事であり、ポリエチレンテレフタレート系のポリエステルをループ状係合素子に用いた場合、剛性が高くヤング率が80〜140cN /dtexで剛直である性質がフィラメントを集束させやすいため、軽度な荷重で係合させた場合は高い強力が得られず、針布で軽く擦るなどの手法を用いループ状係合素子のフィラメントをバラけさせなければならない。
本発明は、ループ状係合素子のマルチフィラメントがポリブチレンテレフタレート系のポリエステルから構成されている事から、剛性を表すヤング率が15〜35cN/ dtexである柔軟な性質がループ状係合素子のフィラメントをバラケやすくし、ループ状係合素子のフィラメントにフック状係合素子が引っかかりやすくなり軽度な荷重でも高い強力を得られる。その結果、針布で軽く擦るなどのフィラメントを開く必要がなくなった。
またフック状係合素子を構成するモノフィラメントはポリエチレンテレフタレート系のポリエステルであることから、剛性が高くヤング率が80〜140cN/ dtexで剛直である性質がループ状係合素子から抜けにくく、この点からも高い係合力が得られる。
そして、好ましくは、基布を構成する緯糸および経糸が共にポリエステル系の繊維であることから、緯糸を溶融させると、フック状係合素子およびループ状係合素子が共にポリエステル系の繊維であることから強固に基布に融着され、繰り返しの係合剥離によっても、係合素子が基布から引き抜かれることがなく、すぐれた耐久性のある係合力がいつまでも得られることとなる。また、面ファスナーを構成する、フック状係合素子、ループ状係合素子、経糸および緯糸が共にポリエステル系の繊維であることから、ポリアミド系繊維のように熱融着の際に熱劣化して繊維性能が大きく低下することもない。
しかも、本発明のフック・ループ混在型の面ファスナーは、裏面に係合素子を固定するための接着剤を塗布する必要がないことから面ファスナーが柔軟であり、さらに光沢が美しいという利点も有していることから、柔軟性や光沢の美しさが要求される衣類の分野においてボタン代わりとして使用できる。さらに、面ファスナーを構成する繊維はほぼ全てポリエステル系の繊維であることから、染色した場合に同一の染色工程でほぼ均一に染色でき、従来の面ファスナーのように異種の繊維が混入されていることによる染色性の相違に基づく色むらの発生の問題も生じない。
本発明のフック・ループ混在型面ファスナーの一例の斜視図である。
まず、本発明の面ファスナーは、主として、フック状係合素子用モノフィラメント、ループ状係合素子用マルチフィラメント、経糸および緯糸から構成される。
フック状係合素子には剛直性および軽い力ではフック形状が伸展されない、いわゆるフック形状保持性が求められ、そのために太い合成繊維製のモノフィラメントが用いられる。本発明では、このモノフィラメントとして、ポリエチレンテレフタレート系ポリエステルから構成されるモノフィラメントが用いられる。
そして、ヤング率が80〜140cN/ dtexであることが、剛直でループ状係合素子から抜けにくく高い係合力が得られる点で好ましい。
ポリエチレンテレフタレート系ポリエステルとは、エチレンテレフタレート単位からなるポリエステルであり、主としてテレフタル酸とエチレングリコールから縮合反応により得られるポリエステルであり、若干ならばテレフタル酸やエチレングリコール以外の重合単位が付加されていてもよい。このような重合単位の代表例としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸等の脂肪族ジカルボン酸、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のジオール類、安息香酸、乳酸等のオキシカルボン酸等が挙げられる。更に、上記ポリエチレンテレフタレート系ポリエステルには、それ以外のポリマーが少量添加されていても良い。好ましくは、ポリエチレンテレフタレートホモポリマーから形成されている場合である。いずれにしても、後述する熱処理温度で、モノフィラメントが溶融しない融点を有するポリエチレンテレフタレート系ポリエステルがモノフィラメントを構成する主成分であることが好ましい。
このようなポリエステルからなるフック状係合素子用モノフィラメントの太さとしては、直径0.10〜0.25mmがフック状係合素子を形成する製織性の点で好ましく、より好ましくは直径0.12〜0.22mmの範囲である。この太さは、従来の一般的な面ファスナーのフック状係合素子の太さと比べて若干細いが、この細さが、フック・ループ混在型面ファスナーに柔軟性をもたらし、更には、衣料用途に適するという性能をもたらす。
次に、本発明において、ループ状係合素子は、ポリブチレンテレフタレート系のポリエステルから構成されたマルチフィラメント糸である。ポリブチレンテレフタレート系のポリエステルとは、ブチレンテレフタレート単位からなるポリエステルであり、主としてテレフタル酸と1,4―ブタンジオールから縮合反応により得られるポリエステルであり、若干ならばテレフタル酸や1,4―ブタンジオール以外の重合単位が付加されていてもよい。このような重合単位の代表例としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸等の脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール類、安息香酸、乳酸等のオキシカルボン酸等が挙げられる。更に、上記ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルには、それ以外のポリマーが少量添加されていても良い。
このようなポリエステルからなるループ状係合素子用マルチフィラメントとしては、5〜9本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150〜350デシテックスのマルチフィラメント糸である。熱融着によりループ状係合素子を基布に強固に固定するためには、ループ状係合素子を構成するフィラメントの本数を少なくする方が好ましく、本発明を構成するループ状係合素子用マルチフィラメントのフィラメント本数は、従来一般に用いられているループ状係合素子を構成するマルチフィラメントのフィラメント本数10〜24本より若干低い。より好ましくは、6〜8本のフィラメントからなるトータルデシテックスが230〜330デシテックスのマルチフィラメントである。
なお、本発明において、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントには、ポリブチレンテレフタレート系ポリエステルのマルチフィラメントに、少数の他のフィラメント糸が引きそろえられていてもよい。一般に、ポリエステル系のマルチフィラメントからなるループ状係合素子は、面ファスナーの製造工程中の加圧ロールによるループ倒れ及びマルチフィラメントの集束が起こり易く、基布が透けて見え、見栄えが劣るという問題が生じ易く、それを防ぐために、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントのフィラメント本数を10本以上、通常は14〜24本と多くし、更にマルチフィラメント糸をバラケさせるための処理を行い、それにより基布が透けて見えることを防止している。
ところが、ポリブチレンテレフタレート系の場合には、面ファスナー製造工程中の加圧ロールによるループ倒れ及びマルチフィラメントの集束が起こり難く、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメント糸のフィラメント本数を従来のポリエチレンテレフタレートの場合と比べて、5〜9本と減らすことができる。さらに、ループ状係合素子のマルチフィラメント糸を構成するフィラメントの本数が少ないことにより、フック状係合素子がループ状係合素子に嵌入し易く、さらに、係合・剥離の繰り返しによるループ状係合素子の基布からの引き抜きが生じ難くなるという効果も得られる。
また、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントがポリブチレンテレフタレート系のポリエステルから構成され、ヤング率が15〜35cN/ dtexであることが、柔軟で、かつループ状係合素子のフィラメントをバラケやすくし、ループ状係合素子のフィラメントにフック状係合素子が引っかかりやすくなり軽度な荷重でも高い強力を得られる点て好ましく、その結果、針布で軽く擦るなどのフィラメントを開く必要がなくなった。
本発明において、フック状係合素子の高さとしては1.5〜3.0mm、ループ状係合素子の高さとしては1.6〜4.0mm、そしてフック状係合素子よりもループ状係合素子の方が0.1〜1.0mm高いのが、面ファスナー表面に触れた場合に柔軟な肌触り感を与える点で好ましい。より好ましくは、フック状係合素子の高さが1.8〜2.5mm、ループ状係合素子高さが2.0〜3.3mm、そしてフック状係合素子よりもループ状係合素子の方が0.2〜0.8mm高い場合である。
そして、本発明において、フック状係合素子の密度としては、15〜50個/cmが好ましく、特に好ましくは20〜40個/cmである。そしてループ状係合素子の密度としては、マルチフィラメント単位で15〜50個/cmが好ましく、特に好ましくは20〜40個/cmである。さらに、100×(ループ状係合素子の個数)/(ループ状係合素子の個数+フック状係合素子個数)は30〜70となるような割合が好ましく、特に好ましくは45〜55である。
本発明において、フック状係合素子およびループ状係合素子を構成するモノフィラメントおよびマルチフィラメントは経糸に平行に基布に挿入され、所々で経糸をまたいでループを構成し、そしてループ形状を固定するために、熱が加えられる。本発明の面ファスナーにおいては、ループ形状を固定するために加えられる熱が同時に基布を構成する熱融着性繊維を融着させ、ループ状係合素子およびフック状係合素子を基布に固定することとなる。したがって、加えられる熱の温度としては、熱融着性繊維が溶融する温度で、かつフック状係合素子用モノフィラメントおよびループ状係合素子用マルチフィラメントが熱固定される温度である180〜220℃が一般的に用いられ、より好ましくは190〜210℃の範囲である。
そして、フック状係合素子用ループは、そのループ脚部の片側部が切断され、フック状係合素子とされる。そして、フック状係合素子を形成するためにフック状係合素子用ループの側部を切断するために用いられる切断装置は、2本の固定刃の間を1本の可動切断刃の往復運動によって切断し、ループ状係合素子部分は刃を設けない構造となっているのが好ましく、そのために、フック状係合素子用のループは図1に示すように最低2列設けると、隣接するループ状係合素子を切断せずにフック状係合素子用ループの側部を切断してフック状係合素子を形成することができる。
特に、本発明の面ファスナーでは、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントが反発弾性の高いポリブチレンテレフタレート系ポリエステルから構成されていることから、ループ状係合素子がバラケて横に広がりやすいことから、フック状係合素子の脚部の片側部を切断する際に、ループ状係合素子のマルチフィラメントも傷つけ易い。それを防ぐためには、図1に示すように、フック状係合素子を緯糸方向に最低2列続けて存在させ(図1では2列)、そしてその隣にループ状係合素子列を存在させるような配列とし、ループ状係合素子から離れている方のフック状係合素子用ループの脚部を切断するのが、フック・ループ混在型面ファスナーにおいて、高い係合強力を得るためには好ましい。また、上記配列から、少なくとも1条のループ状係合素子列に隣接して少なくとも1条のフック状係合素子列が存在していることが高い係合強力を得る点で好ましい。
次に、本発明のフック・ループ混在型面ファスナーにおいて、基布を構成する経糸としては、ポリエステル系のマルチフィラメント糸を用いるのが好ましい。特に、耐熱性に優れたポリエチレンテレフタレート系のマルチフィラメント糸が好ましい。もちろん、若干の共重合成分や他のポリマーや他のフィラメントを含んでいてもよいが、経糸は、面ファスナーの長さ方向に連続して存在することにより、面ファスナーを製造する上で工程安定性をもたらす糸であることから、熱処理条件において、収縮等の変化が少ない糸であることが好ましく、したがってポリエチレンテレフタレートのホモポリマーから形成されているのがより好ましい。
経糸を構成するマルチフィラメントの太さとしては、12〜96本のフィラメントからなり、トータルデシテックスが75〜250デシテックスであるマルチフィラメントが好ましく、特に24〜48本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100〜170デシテックスであるマルチフィラメントが好ましい。そして、このようなマルチフィラメント糸を熱処理後の経糸織密度として60〜90本/cmとなるように基布を構成する。
なお、フック状係合素子を構成するモノフィラメントおよびループ状係合素子を構成するマルチフィラメントは前述したように経糸に平行に基布に打ち込まれる。フック状係合素子用モノフィラメントおよびループ状係合素子用マルチフィラメントの打ち込み本数は、合計で、経糸本数20本(フック状係合素子用モノフィラメントおよびループ状係合素子用マルチフィラメントを含む)に対して3〜6本位が好ましい。
最後に、本発明の面ファスナーの基布に用いられる緯糸としては、上記熱処理条件下で熱融着してフック状係合素子用モノフィラメントおよびループ状係合素子用マルチフィラメントの根元を基布に強固に固定できるポリエステル系の樹脂からなるものが好ましい。例えば、芯成分は熱処理条件で溶融しないが鞘成分は溶融する芯鞘型の断面を有するポリエステル系繊維が好適例として挙げられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、イソフタル酸やアジピン酸等で代表される共重合成分を多量に共重合、例えば20〜30モル%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型ポリエステル繊維が代表例として挙げられる。
芯成分と鞘成分の比率は重量比で5:5〜8:2の範囲が好ましい。そして緯糸を構成する繊維中に占める熱融着性繊維の割合は25〜100重量%が好ましく、特に緯糸の全てが実質的に熱融着性繊維で形成されている場合には、芯成分が少ないと面ファスナーが長手方向に引き裂け易く、鞘成分が少ないと融着固定力が低くなる。
さらに、フック状係合素子およびループ状係合素子を共に強固に基布に固定するためには、緯糸として用いられた熱融着性繊維が熱融着すると共に、繊維自身が収縮してフック状係合素子およびループ状係合素子の根元を締め付けるのが好ましく、そのためには、緯糸として用いられる熱融着性繊維は熱処理条件下で大きく熱収縮を生じる繊維が好ましい。具体的には、200℃で1分間加熱した場合の乾熱収縮率が10〜20%である繊維が好適に用いられ、特に同収縮率が13〜17%である繊維が好適である。
なお、緯糸を構成するマルチフィラメントの太さとしては、12〜72本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100〜300デシテックスであるマルチフィラメントが好ましく、特に24〜48本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150〜250デシテックスであるマルチフィラメントが好ましい。そして、このようなマルチフィラメント糸を熱処理後の織密度として15〜25本/cmとなるように基布に打ち込むのが好ましい。そして、緯糸の重量割合としては、面ファスナーを構成するフック状係合素子用モノフィラメントとループ状係合素子用マルチフィラメントと経糸および緯糸の合計重量に対して15〜40%が好ましい。
なお、上記したように、本発明は、基布構成繊維を熱融着させることにより従来のように基布裏面に接着剤を塗布しない面ファスナーに適しているが、もちろん、基布裏面に接着剤を塗布する場合にも適用でき、その場合には、基布を構成する緯糸は熱融着性を有するものである必要はなく、さらに基布を構成する経糸および緯糸はポリエステル系のものである必要もない。しかし、好ましくは、基布を構成する経糸および緯糸がともにポリエステル系の糸であり、かつ基布を構成する緯糸が熱融着性のバインダー繊維からなる場合である。
基布の織組織としては、フック状係合素子用モノフィラメントおよびループ状係合素子用マルチフィラメントを経糸の一部とした平織りが好ましく、これら係合素子用糸は、組織の途中で基布面から立ち上がり、ループを形成しつつ経糸を1〜4本飛び越えて経糸間にもぐりこむような織組織がフック状係合素子用ループの側部を、ループ状係合素子ループを傷つけることなく切断できることから好ましい。
本発明のフック・ループ混在型の面ファスナーは、従来の面ファスナーが用いられている用途分野に用いることができ、例えば、靴、バッグ、帽子、手袋等の他、衣類、血圧計、サポーター類、荷造りの縛りバンド、各種おもちゃ類、土木用シートの固定、各種パネルや壁材の固定、太陽電池の屋根への固定、電気部品の固定、小物類、カーテン等に使用できる。
本発明の面ファスナーは、全て、ポリエステル系の繊維で構成されている場合には、色むらを生じることなく均一に染色することができ、特に衣類等にボタン代わりに用いられた場合には、優れた光沢と柔軟性の点で、さらに衣類がポリエステル系の繊維で形成されている場合には、同一の染色条件下で面ファスナーも同色に同時染色できることから、従来のごとく、染色する色に合わせた多色の多くの面ファスナーを用意する必要がなく、極めて好ましいこととなる。
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、乾熱収縮率はJIS L 1013にしたがって、また係合強力はJIS L 3416にしたがって面ファスナー幅100mmで測定した。
実施例1
基布を構成する経糸および緯糸、フック状係合素子用モノフィラメント、ループ状係合素子用マルチフィラメントとして次の糸を用意した。
[経糸]
・融点260℃のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:167デシテックスで30本
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:180℃)
・芯鞘比率(重量比):7:3
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:197デシテックスで48本
・200℃で1分間の乾熱収縮率:14%
[フック状係合素子用モノフィラメント]
・ポリエチレンテレフタレート繊維(融点:260℃)
・繊度:390デシテックス(直径:0.19mm)
[ループ状係合素子用マルチフィラメント]
・ポリブチレンテレフタレート繊維(融点:220℃)
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:265デシテックスで7本
上記4種の糸を使用し、フック状係合素子を長手方向に2列設け、隣接してループ状係合素子を2列設けた配列を繰り返すよう、フック状係合素子用モノフィラメントとループ状係合素子用マルチフィラメントを並べた。また、表面を触った時にループ状係合素子が触れるよう、ループ状係合素子が外側の両端にあるように配列した。織組織は平織りで、織密度が経糸72本/cmで緯糸18本/cmで、経糸8本に2本の割合でフック状係合素子用モノフィラメントを、また経糸8本に2本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメントをそれぞれ打ち込んだ。
上記条件にて織成されたテープを、緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、なおかつ、経糸、ループ係合素子用マルチフィラメント、フック係合素子用モノフィラメントさらには緯糸の芯成分が熱溶融しない温度域、すなわち摂氏200℃で熱処理を施した。緯糸は大きく収縮するとともに鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。その結果、基布は緯糸方向に大きく収縮して、緯糸方向に10%収縮した。そして、得られた織物を冷却させたのち、フック状係合素子用ループの片脚部(ループ状係合素子から離れている方)を切断したフック状係合素子を形成した。
得られたフック・ループ混在型面ファスナーのフック状係合素子密度は30個/ cm、ループ状係合素子密度は31個/cmであり、さらにフック状係合素子およびループ状係合素子の基布面からの高さはそれぞれ1.7mmおよび2.2mmであった。
得られたフック・ループ混在型面ファスナーの係合素子面を手で触れたところ、従来の面ファスナーと比べて極めて肌触りが優しく、さらに基布自体も極めて柔軟で、ポリエステル生地に縫い付けたところ、面ファスナーの剛直なシートが一体化されているという印象のない折りたたみ可能なものであった。
染色は、ポリエチレンテレフタレート繊維が染色可能な高圧条件で実施したが、ポリブチレンテレフタレート繊維は、ポリエチレンテレフタレート繊維より染料が入り始める温度が約20℃低いため、ループ状係合素子がフック状係合素子、経糸、緯糸に比べ濃色に発色し、面ファスナーが色の深みを有する高級感あるものに見えた。
次に、得られた面ファスナーの係合強力を求めた。その結果を表1に示す。なお、係合強力は100mm幅の面ファスナーのせん断方向と剥離方向の両方向で測定した。
その結果、係合力は、極めて高い価を示した。さらに、この面ファスナー同士を5000回係合・剥離を繰り返し、その後の係合強力を測定した。その結果を表1に記載する。同表から明らかなように、係合・剥離を5000回繰り返した後であっても、係合強力は殆ど低下することなく、極めて耐久性に優れたものであることが分かる。
比較例1および2
上記実施例1において、ループ状係合素子を、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(融点:260℃、トータルデシテックス:265デシテックス、フィラメント本数:7本)に置き換える以外は実施例1と同様にして面ファスナーを作製した(比較例1)。
また、上記実施例1において、フック状係合素子を、ポリブチレンテレフタレートからなるモノフィラメント(融点:220℃、繊度:390dtex)に置き換える以外は実施例1と同様にして面ファスナーを作製した(比較例2)。
上記比較例1で得られた面ファスナーは実施例1のものより肌触りが固い印象であり、また比較例2の面ファスナーは、極めて肌触りの柔らかいものであった。さらに表面を観察すると、比較例1の面ファスナーは実施例1と比較例2に比べてループ状係合素子のマルチフィラメントが集束し細くまとまって見え、比較例1の見た目の印象は、実施例1と比較例2に比べてループ状係合素子の下にある基布部分が透けているようであった。そして、これら比較例の面ファスナーに関しても、係合強力を測定した。その結果を表1に併記する。表1から、比較例1および2のものは共に、実施例1のものより係合強力の劣るものであることが分かる。
比較例3
上記実施例1において、フック状係合素子として、ナイロン−66からなるモノフィラメント(融点:255℃、繊度:390デシテックス)に置き換え、さらにループ状係合素子用マルチフィラメントをナイロン−6からなるマルチフィラメント(融点:220℃、トータルデシテックス:265デシテックス、フィラメント本数:7本)に置き換える以外は実施例1と同様にして面ファスナーを製造した。ただ、本比較例の場合には、係合素子用繊維が十分に基布に固定されないことが予測されることから基布裏面に、ポリウレタン系の接着剤を塗布して、係合素子用繊維を基布に固定する方法を併用した。
得られた面ファスナーの表面は肌触りの柔らかいものであったが、水に濡れると面ファスナーの基布が波打ち状態を示すものであった。さらに、係合力を測定したところ、表1に併記するように、上記実施例1のものより劣るものであった。
比較例4
上記実施例1において、ループ状係合素子を、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(融点:260℃、トータルデシテックス:265デシテックス、フィラメント本数:7本)に置き換え、そしてフック状係合素子を、ポリブチレンテレフタレートからなるモノフィラメント(融点:220℃、繊度:390デシテックス)に置き換える以外は実施例1と同一の方法により面ファスナーを製造した。得られた面ファスナーは肌触りの柔らかいものであったが、係合力において実施例1のものと比べて大きく劣るものであった。
Figure 0005743154
実施例2
実施例1において、ループ状係合素子用マルチフィラメントを、融点220℃の ポリブチレンテレフタレートからなるトータルデシテックスが350デシテックスのフィラメント本数9本のマルチフィラメントに置き換える以外は実施例1と同一の方法により面ファスナーを製造した。
得られた面ファスナーの表面の肌触りは柔らかく、少し固めでループフィラメント間隔がやや収束したものであった。そして、係合力を測定したところ、実施例1のものより初期係合が強い値を有するものであった。ただし、ループ状係合素子が十分に基布に固定されていないフィラメントが1部見受けられ、繰り返しの係合・剥離により、基布表面から引き抜かれるものが見られたが十分係合機能を有するものであった。
実施例3
実施例1において、フック状係合素子用のモノフィラメントを、623デシテックスのポリエチレンテレフタレートモノフィラメント(直径:0.24mm)に置き換える以外は同一の方法により面ファスナーを製造した。
得られた面ファスナーの表面の肌触りは、剛直なフック状係合素子が存在するものの背の高い柔軟なループ状係合素子により剛直さは大きく軽減されたものであった。
係合力に関しては、実施例1、2のものと比べるとせん断強力は十分強いものとなった。
ただし、繰り返し剥離すると、フック状係合素子がループ状係合素子の繊維を一部切断し、5000回剥離後の低下がやや大きいが、耐久性の要求されない用途には十分使用可能なものであった。
また、得られた面ファスナーの表面の肌触りは剛直なフック状係合素子が直接手に触れることから柔軟性の点で、実施例1、2のものより劣り、フック状係合素子太さの限界であった。
以上の実施例2、3の面ファスナーの係合強力の値を表2に記載する。
Figure 0005743154
1:基布
2:フック状係合素子
3:ループ状係合素子
4:経糸方向
5:緯糸方向

Claims (7)

  1. フック状係合素子とループ状係合素子が同一基布面に存在している面ファスナーにおいて、フック状係合素子を構成するモノフィラメントがポリエチレンテレフタレート系のポリエステル樹脂から形成されており、ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントがポリブチレンテレフタレート系のポリエステル樹脂から形成されていることを特徴とするフック・ループ混在型面ファスナー。
  2. 基布を構成している経糸および緯糸がともにポリエステル系樹脂から形成されている糸であり、かつ緯糸が芯鞘型の熱融着性繊維を含み、さらにフック状係合素子およびループ状係合素子が、基布を構成する緯糸により融着固定されている請求項1に記載のフック・ループ混在型面ファスナー。
  3. ループ状係合素子を構成するマルチフィラメントが5〜9本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150〜350デシテックスのマルチフィラメント糸である請求項1または2に記載のフック・ループ混在型面ファスナー。
  4. フック状係合素子を構成するモノフィラメントが、直径0.10〜0.25mmのモノフィラメント糸である請求項1〜3のいずれかに記載のフック・ループ混在型面ファスナー。
  5. 少なくとも1条のループ状係合素子列に隣接して少なくとも1条のフック状係合素子列が存在している請求項1〜4のいずれかに記載のフック・ループ混在型面ファスナー。
  6. ループ状係合素子が、フック状係合素子より0.2mm以上高い請求項1〜5のいずれかに記載のフック・ループ混在型面ファスナー。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のフック・ループ混在型面ファスナーがボタン代わりに用いられている衣類。
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