JP5732877B2 - 磁性体およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ナノサイズの結晶粒が集合してなる高保磁力を発現する磁性体とその製造方法に関する。
Nd−Fe−B系を代表とする希土類(永久)磁石は、非常に高い磁気特性を示す。この希土類磁石を用いると、電磁機器や電動機の小型化、高出力化、高密度化さらには環境負荷の低減化等を図ることが可能となる。このため、幅広い分野で希土類磁石の利用が検討されている。この希土類磁石の実用化に際して、厳しい環境下でも高い磁気特性が長期的に安定して発揮されることが求められる。このような観点から、希土類磁石の磁化(残留磁束密度)のみならず、その保磁力を向上させる研究開発が盛んに行われている。
従来は、ジルコニウム(Dy)やテルビウム(Tb)等の重希土類元素を、磁石合金に直接添加したり、磁石表面から拡散させることにより、異方性磁界を高くして保磁力の向上が図られてきた。最近では、さらなる保磁力の向上やDy等の稀少元素の使用量を削減するため、主相を構成するNdFe14B結晶粒の微細化が進められている。これらに関連する記載が下記の特許文献等にある。
特開2010−98115号公報 特開2010−114200号公報 特開2010−10665号公報 特開2010−222601号公報
上記の特許文献1および特許文献2では、急冷凝固させた薄片の破砕粉からなる磁石片に、DyF等を塗布してDy等を表面から内部に拡散させている。
また特許文献3では、磁石合金溶湯の急冷速度を制御して、単磁区粒子径以下(<100nm)の結晶粒からなる純三元系Nd−Fe−B磁石を得ている。また特許文献4では、HfCを添加した磁石合金溶湯を急冷して、結晶粒を微細化させた希土類永久磁石を得ている。ちなみに特許文献3では、アモルファス相の出現を抑制するために、急冷速度の上限を制限している。また特許文献4では、急冷凝固後の加熱により、出現したアモルファス相を結晶化させている。
このように従来は、磁石合金の溶湯を急冷凝固させて微細な結晶粒からなる希土類磁石を得ており、結晶粒界にDy等を拡散させる場合は、その晶出後に拡散処理を別途行っていた。
本発明は、このような従来のものとは異なり、結晶粒の形態や製法が新規な磁性体およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者が鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、希土類元素(R1)と鉄(Fe)とホウ素(B)からなる非晶質体に拡散材を付着させた付着非晶質体を加熱することにより、R1Fe14B結晶粒の生成と、結晶粒間にできる粒界相の生成とが並行してなされることを新たに発見した。しかも、その結晶粒は従来の結晶粒と形態が異なることもわかった。この画期的な成果を発展させることにより、以降に述べるような本発明を完成するに至った。
《磁性体》
(1)本発明の磁性体は、R1とFeとBの正方晶金属間化合物(R1Fe14B)の結晶粒からなる主相と該結晶粒間に形成された粒界相とからなる磁性体であって、前記結晶粒は、最長幅が20〜500nmの角丸形状をしており、前記粒界相は、最小幅が1〜15nmであり、該粒界相は、前記R1および/または該R1と異なる希土類元素(R2)と、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、スズ(Sn)、酸素(O)、窒素(N)、C(炭素)、水素(H)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ゲルマニウム(Ge)および鉛(Pb)からなる元素群中の一種以上である粒界構成元素とからなることを特徴とする。
(2)本発明の磁性体は、先ず、微細なR1Fe14Bの結晶粒(適宜「R1Fe14B結晶粒」または「結晶粒」という。)からなる主相と、それら結晶粒間に存在する薄い粒界相とからなり、Dy等の稀少元素を拡散等させるまでもなく高い保磁力を発現する。従って、本発明の磁性体によれば、高磁気特性の希土類磁石を工業的に安定して供給し得る。
次に本発明の磁性体は、R1Fe14B結晶粒が単に微細なだけではなく、従来の結晶粒と異なる角丸形状をしている(図1B、図3A〜図3C参照)。現状、結晶粒の形状と磁気特性(特に保磁力)との相関は必ずしも定かではないが、次のような理由により、結晶粒の角丸形状が保磁力の向上に寄与していると考えられる。すなわち、結晶粒が丸みを帯びた角丸形状をしていることにより、結晶粒の角部における反磁界が低減される。その結果、結晶粒における逆磁区の生成等が抑制され、磁性体の保磁力が著しく高まったと考えられる。
なお本発明でいう「角丸形状」は、結晶粒ごとに形状やサイズは多少異なるため、厳密に定義することは容易ではないが、少なくとも、R1Fe14B結晶粒を磁化容易軸(c軸)に平行な面で切断したときの断面形状を、走査透過型電子顕微鏡(STEM)等で観察した場合に、特に角張った部位が観られないことを意味する。例えば、従来の結晶粒のような方形状ではなく、その方形状を構成する角部が略円弧状になっている形状である。
また、結晶粒の最長幅は、前記断面形状に現れたc軸に垂直な方向における結晶粒の最大長さである。多数の結晶粒がある場合、各結晶粒の最長幅の相加平均をもって、本発明でいう「最長幅」とする。
さらに、粒界相の最小幅は、前記断面形状に現れた結晶粒間の距離の最小長さである。この場合も、各粒界相の最小幅の相加平均をもって、本発明でいう「最小幅」とする。
結晶粒の最長幅は、500nm以下、300nm以下、250nm以下さらには200nm以下であると磁気特性の向上を図れてより好ましい。この最長幅の下限値は特に限定されないが、20nm以上さらには30nm以上であると、熱擾乱の影響を受けにくくなり好ましい。
粒界相は、結晶粒を包囲して各結晶粒を孤立させることにより、磁性体の保磁力を向上させ得る。もっとも、この粒界相が厚くなると磁性体の磁化が相対的に低下する。そこで粒界相の最小幅は、1nm以上さらには2nm以上であり、その最大幅は15nm以下さらには10nm以下であると好ましい。
磁性体の厚さ(c軸方向の長さ)は特に問わない。もっとも本発明のように、ナノサイズの結晶粒や粒界相が集合してできたナノ結晶集合体(ひいては磁性体)は、厚さが1〜500nmさらには5〜200nmの薄膜状であると製造が容易である。
《磁性体の製造方法》
(1)本発明は磁性体としてのみならず、それに適した製造方法としても把握される。すなわち本発明は、R1とFeとBからなる非晶質体内に拡散し得る拡散元素を含む拡散材を、該非晶質体へ付着させた付着非晶質体を得る付着工程と、該付着非晶質体を加熱して、R1Fe14Bの結晶粒からなる主相と該結晶粒間に形成され該拡散元素を含む粒界相とを並行して形成させ得る加熱工程とを備え、上述した本発明の磁性体が得られることを特徴とする磁性体の製造方法でもよい。
(2)本発明の製造方法によれば、角丸形状の微細な結晶粒と薄い粒界相とからなる磁性体を容易に製造することができる。本発明の製造方法により、そのような結晶粒や粒界相が形成される理由は必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。
先ず従来のように、磁石合金の溶湯を急冷凝固させて得た非晶質体を加熱してR1Fe14B結晶粒を晶出させた場合、結晶粒はその成長と共に隣接する結晶粒間で相互にぶつかり合いながら晶出する。このため、結晶粒がぶつかりあった部分で、結晶粒は角ばった形状(方形状)となる。なお、結晶粒の晶出後に熱処理や拡散処理を別途施さない限り、その晶出過程中に粒界相が形成されることはない。
次に本発明の製造方法の場合、R1−Fe−B非晶質体に拡散材を付着させて加熱することにより、R1Fe14B結晶粒の晶出(生成)および成長と、粒界相の形成が並行して進行する。つまり粒界相が、結晶粒の生成および成長に誘起されつつ、その結晶粒を包囲するように形成される。このような晶出過程を経る場合、粒界相は緩衝帯(層)となって成長時の結晶粒の衝突を抑制する。こうして本発明の製造方法によると、丸みを帯びたナノサイズの結晶粒が薄い粒界相により包み込まれたような結晶組織が形成されたと考えられる。
ちなみに本発明の製造方法によれば、非晶質体からR1Fe14B結晶粒が晶出する際の結晶化温度が、従来の結晶化温度(665℃)よりも低い。これは、非晶質体内へ拡散した拡散元素が、非晶質体としての安定性を下げ、R1Fe14B結晶の核生成エネルギーを低下させたためと考えられる。なお、これを逆に観ると、本発明でいう拡散元素(さらには粒界構成元素)は、非晶質体中においてR1Fe14B結晶の核生成エネルギーを低下させる元素であると好ましいといえる。
いずれにしても本発明の製造方法によれば、上述したような特異なナノ結晶集合体からなる磁性体を容易に得ることが可能となる。ちなみに、こうして得られた磁性体は、Dy等の稀少元素を用いるまでもなく、例えば、20kOe以上、25kOe以上さらに27kOe以上の高い保磁力を発現し得る。
《その他》
(1)本発明に係るナノ結晶集合体や磁性体は、巨視的な形態を問わない。つまり、薄膜体でも、その薄膜体が基板上に積層された積層体でも、薄膜体を粉砕した粉砕粉でも、その粉砕粉を成形した成形体でも、さらにはその成形体を焼結させた焼結体でもよい。また本発明の磁性体は、バルクのような素材であっても最終的な希土類磁石であってもよく、着磁の有無を問わない。
(2)本明細書でいう「x〜y」は、特に断らない限り下限値xおよび上限値yを含む。また本明細書に記載した種々の数値や数値範囲内に含まれる数値を、新たな下限値または上限値としては、「a〜b」のような数値範囲を任意に設定し得る。
本発明に係る付着非晶質体を模式的に示した断面図である。 本発明に係るナノ結晶集合体を模式的に示した断面図である。 実施例に係る磁性体の製造時に得られた積層体である。 実施例に係る磁性体の断面をSTEMで観察した写真である。 従来の磁性体の断面をSTEMで観察した写真である。 比較例である磁性体の断面をSTEMで観察した写真である。 実施例に係る磁性体の断面をSTEMで観察した写真である。 実施例に係る磁性体の断面をSTEMで拡張して観察した写真である。 実施例をエネルギー分散型X線分光法(EDX)により観察したNd像の写真である。 同EDXにより観察したFe像の写真である。 同EDXにより観察したCu像の写真である。 同EDXにより観察したMo像の写真である。 同EDXにより観察したCr像の写真である。
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を上述した本発明に付加し得る。本明細書で説明する内容は、磁性体のみならずその製造方法にも適用される。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成になり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《主相と粒界相》
(1)主相
主相は、希土類元素(R1)、FeおよびBの正方晶金属間化合物であるR1Fe14Bの結晶粒からなる。R1は一種のみならず二種以上であってもよい。本明細書でいう希土類元素には、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイドを含む。ランタノイドは、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)などがある。もっともR1は、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbの少なくとも1種以上であると好ましく、特にコストや磁気特性の観点からR1はNdであるとよい。この点は後述のR2についても同様である。
(2)粒界相
粒界相は、結晶粒を孤立させて磁性体の保磁力の向上に寄与し、またR1Fe14B結晶の核生成エネルギーを低下させ、角丸形状の結晶粒を安定的に形成させ得る粒界構成元素を含むと好ましい。この粒界構成元素は、結晶粒の構成元素(R1、FeおよびB)以外であって、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、スズ(Sn)、酸素(O)、窒素(N)、C(炭素)、水素(H)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ゲルマニウム(Ge)および鉛(Pb)からなる元素群中の一種以上である。特に粒界構成元素はCuであり、粒界相はR1および/またはR1と異なる希土類元素(R2)とCuからなると好ましい。ここでR1およびR2は異種でも同種でもよいが、R1およびR2が共にNdであれば磁性体の磁気特性向上およびコスト低減を図れて好ましい。
《非晶質体と拡散材》
(1)非晶質体
本発明の磁性体のベースとなるR1−Fe−Bの非晶質体は、具体的な組成を問わない。もっとも、正方晶金属間化合物(R1Fe14B)の生成に適した組成、例えば、非晶質体全体を100原子%としたとき、R1:8〜30原子%、B:4〜20原子%、Fe:残部からなる組成が好ましい。R1リッチな組成の場合、粒界相の形成が容易となり、ひいては磁性体の保磁力が向上し易くなる。さらには非晶質体は、R1、FeおよびB以外に、種々の改質元素を少量含有してもよいし、当然に不可避不純物を含む。この点は拡散材についても同様である。
ところで、このような非晶質体は、所望組成の合金溶湯の急冷凝固、所望組成の合金等をターゲットとしたスパッタリング、蒸着等によって形成され得る(非晶質体形成工程)。この形成時の温度が高温の場合、非晶質体よりも結晶質体の形成が容易となり好ましくない。そこで非晶質体形成工程は590℃以下さらには560℃以下でなされると好ましい。
スパッタリング等により非晶質体を形成する基材は、その材質や形態を問わない。もっとも、非晶質体から晶出する結晶粒がエピタキシャル成長し易い基材を用いると、結晶方位が特定方向に揃った配向度の大きな(つまり残留磁化の大きな)ナノ結晶集合体ひいては磁性体を得ることができる。具体的には、R1Fe14B結晶粒と格子定数がほぼ等しい結晶からなる基材、表面が平坦な基材あるいは熱膨張係数が近接している基材を用いるとよい。例えば、酸化マグネシウム(MgO)の単結晶からなるMgO単結晶基材、W、Mo、Cu、Si、Al、SiOの単結晶基材などである。この際、基材の積層面(ミラー指数でいう(001)面)を磁化容易軸(c軸)に垂直な面とするとよい。
なお、基材自体がそのような結晶構造をもたない場合は、そのような結晶構造をもつ下地層を基材の表面に形成してもよい。勿論、基材および下地層が共にそのような結晶構造をもつとより好ましい。この下地層の構成材として、Mo、Ta、W、Ti、Cr、V、Nbなどがある。なお下地層も、例えば、スパッタリングにより形成し得る。
(2)拡散材
拡散材は、非晶質体内に拡散し得る拡散元素を含むものであればよい。拡散元素は粒界構成元素を兼ね、上述した粒界構成元素に関する内容は拡散元素にも該当する。但し、拡散元素がR1Fe14B結晶粒中に固溶すると、磁性体の磁気特性の低下を招くため、拡散元素は結晶粒内に非固溶なものほど好ましい。
拡散材は、比較的低温で液相を生じて濡れ性に優れると、拡散元素の非晶質体内への拡散が容易となり好ましい。具体的にいうと、拡散材は、R1−Fe−Bの共晶点(Nd−Fe−B系なら665℃)よりも低い温度で液相を生じるものであると好ましい。
このような拡散材として、例えば、R−Cu系合金、R−Al系合金等がある(R:R1および/またはR2)。特に共晶点の低いNd−Cu合金(共晶点:520℃)が好適である。この銅合金の組成は特に限定されないが、例えば、全体を100原子%としたときにCuが20〜90原子%で残部がNdであると好ましい。
《磁性体の製造方法》
本発明の希土類磁石の製造方法は主に付着工程と加熱工程とからなる。
(1)付着工程
付着工程は、R1−Fe−B非晶質体へ拡散材を付着させた付着非晶質体(図1A参照)を得る工程である。ここでいう「付着」は、拡散元素が非晶質体内へ拡散し得る程度に、非晶質体と拡散材とが接触していれば足りる。従って、非晶質体と拡散材とは脱離可能でもよく、必ずしも溶着等している必要はない。もっとも、拡散材が非晶質体の少なくとも一面を被覆していると、効率的な拡散が可能となり好ましい。
このような付着工程は、例えば、拡散材をターゲットとして非晶質体に対してスパッタリングすることでなされる。このとき、全体組成が所望組成となっていれば、ターゲット自体は、単種でも複数種でもよい。これにより、一般的に製造困難な組成の拡散材も非晶質体へ付着可能となる。なお、これらのことは本明細書で述べるスパッタリング全般についていえることである。
(2)加熱工程
加熱工程は、付着非晶質体を加熱して、R1Fe14Bの結晶粒からなる主相と結晶粒間に拡散元素を含む粒界相とを並行して生成させる工程である。これにより角丸形状の結晶粒が粒界相で被包されたナノ結晶集合体(図1B参照)が得られる。このときの加熱温度は、拡散材の液相温度(共晶点)以上であると好ましい。Nd−Fe−B系非晶質体にNd−Cu系拡散材を付着させた付着非晶質体を加熱する場合なら、その加熱温度は540〜680℃さらには560〜660℃で加熱すると好ましい。
(3)その他
加熱工程後に得られたナノ結晶集合体の酸化等を抑止するため、その表面に保護被膜(保護層)を設けると好適である。このような保護被膜の形成も前述したスパッタリングにより行える。そのターゲットには、Cr、Ag、Au、Pd、Pt、Mo、Cu、Ti、Ta、Ru、V、Hf、W、Ir、Al、Nbなどの単体、合金または化合物などを用いることができる。このスパッタリングは通常、室温域で行えば足りる。
《磁性体》
本発明の磁性体は、磁気ディスクなどの磁気記録媒体、電動機のロータまたはステータなどに用いることができる
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《試料の製造》
図2に示すような試料を表1に示すように種々製造した。
(1)基材および下地層
先ず、試料(磁性体)を形成する基材としてMgO単結晶基板(以下単に「基板」という。)を用意した。このMgO単結晶基板は、(001)面が基板面になるように加工し、表面粗度を小さくするため研磨を行ったものである(フルウチ化学株式会社製、MgO(100)単結晶)。
この基板の(001)面上にMoからなる平坦な下地層を形成した(下地層形成工程)。この下地層は、Moをスパッタリングにより積層した後、加熱処理して形成した。下地層の厚さは20nmとした。ちなみに、Moは、NdFe14B結晶配向面(c面)と格子整合性の高いb.c.c.材料である。なお、本実施例では基板上にMo下地層を直接形成したが、その形成前に基板上にCrからなるシード層(厚さ数nm程度)を形成しておいてもよい。
なお、本実施例で用いたスパッタリングは、マグネトロンスパッタ法に基づき、積層(成膜)前の到達真空度を1x10−8Pa以下、製膜形状をφ8mmとして行った。また、各層の厚さ(層厚)は、積層速度と積層時間の積から算出した。本実施例では、積層速度を0.4〜1Å/sとした。
(2)Nd−Fe−B層の形成(非晶質体形成工程)
上述のスパッタリングにより、基板を加熱しつつ下地層上にNd−Fe−B層を形成した。基板の加熱温度は表1に示すように試料毎に変更した。ターゲットには、Nd、Fe、Fe8020(単位:原子%)合金を用いた。こうして厚さ20nmのNd−Fe−B層を形成した。
(3)Nd−Cu層の形成(付着工程)
Nd−Fe−B層を形成した基板を室温域まで冷却し、室温域で、Nd−Fe−B層上へNd−Cu層(拡散層、拡散材)を上述したスパッタリングにより積層した。このときターゲットには、Nd30Cu70(原子%)の銅合金を用いた。Nd−Cu層の厚さは全試料とも1nmとした。なお、比較のため、このNd−Cu層の形成を行わない試料も並行して用意した。
(4)拡散結晶化(加熱工程)
Nd−Cu層の有る基板およびNd−Cu層の無い基板を、表1に示す各温度で加熱した。この熱処理は、前述した1x10−8Pa以下の真空雰囲気中で1時間行った。
(5)保護層の形成
この熱処理後、基板を室温域まで冷却し、室温域で、各試料の最表面に、CrあるいはMoからなる保護層を上述したスパッタリングにより形成した。保護層の厚さは全試料とも10nmとした。こうして図2に示す積層体(Nd−Cu層が残存している場合)からなる試料が得られた。
《各試料の測定》
上述した各試料の保磁力を超伝導量子干渉型磁束計(SQUID)により測定した。その結果を表1に併せて記載した。なお、表1中に示した保磁力増加率は、上述したNd−Cu層の無い試料の保磁力(H)に対する、Nd−Cu層の有る試料の保磁力(H)の比率(H/H)である。
またNd−Fe−B層が非晶質か結晶質かは、X線回折法およびSTEM観察により判断した。
《試料の観察》
(1)Nd−Fe−B層(非晶質)にNd−Cu層を積層した試料(試料No.A3参照)と、Nd−Fe−B層(非晶質)にNd−Cu層を積層しなかった試料(試料No.A3参照)と、Nd−Fe−B層(結晶質)にNd−Cu層を積層した試料(試料No.A9参照)とについて、各積層断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察した。それらの画像をそれぞれ図3A〜図3Cに示した。
(2)試料No.A3(Nd−Cu層有り)の積層断面をSTEMで観察した画像を図4Aに、また同試料をより広範囲でSTEM観察した画像を図4Bに示した。なお、図4Bでは、Nd−Fe−B層中に観察された複数の結晶粒に、順次、粒子1〜8を付した。これら粒子1〜粒子8の最長幅を図4BのSTEM像から読み取り、その結果を表2にまとめた。
(3)図4Aに示した試料No.A3の断面を、エネルギー分散型X線分光法(EDX)により観察した。得られた各元素の分布像を図5A〜図5Eにそれぞれ示した。
《各試料の評価》
(1)結晶粒と粒界相
先ず図3Aから明らかなように、非晶質のNd−Fe−B層にNd−Cu層を積層して加熱した試料では、角丸形状の微細な結晶粒(ナノサイズ結晶粒)と、それら結晶粒間に非常に薄い粒界相が同時に形成されていた。
一方、図3Bからわかるように、Nd−Cu層を積層せずに非晶質のNd−Fe−B層のみを加熱した試料では、そのような角丸形状の結晶粒は形成されず、粗大な結晶粒が副相と共に晶出した。さらに図3Cからわかるように、結晶質のNd−Fe−B層へNd−Cu層を積層して加熱した試料では、粒界相が形成されるものの、結晶粒は角張った比較的長大なものとなった。
(2)結晶粒のサイズ
図4A、図4Bおよび表2から、非晶質のNd−Fe−B層とNd−Cu層との積層体を加熱して得られた試料は、結晶粒の最長幅がいずれも500nm以下、具体的には50〜150nmであり、相加平均すると約75nm程度であった。また、それら結晶粒間にできた粒界相の最小幅はいずれも1nm以上さらには2nm以上あった。
(3)結晶粒および粒界相の構成元素
先ず、図5Aおよび図5Bから明らかなように、Feは主に結晶粒中に存在し、粒界相中に殆ど存在していない。またNdは結晶粒中および粒界相中に存在している。次に、図5Cから明らかなように、Cuは結晶粒および粒界相を含む広い領域に分布しているが、図5Dおよび図5Eから明らかなように下地層のMoおよび保護層のCrは、結晶粒や粒界相にほとんど存在していない。これらのことから、上述した結晶粒はNdFe14Bからなる結晶粒であり、粒界相はNdとCuの合金または化合物からなるといえる。
(4)非晶質体の形成
先ず表1の試料No.A1〜A12より、非晶質のNd−Fe−B層は、基板の加熱温度をNd−Fe−Bの共晶点(結晶化温度)より低い590℃以下で形成されることが解る。
次に試料No.A1〜A6より、非晶質のNd−Fe−B層上にNd−Cu層を積層して加熱した試料は、いずれも保磁力が飛躍的に向上することがわかる。特に非晶質のNd−Fe−B層の形成温度が低い程、保磁力増加率が大きくなった。もっとも、保磁力自体は、非晶質のNd−Fe−B層の形成温度が325〜590℃、450〜590℃さらには525〜590℃のときに大きくなった。
(5)拡散・結晶化
表1の試料No.B1〜B9より明らかなように、非晶質のNd−Fe−B層上にNd−Cu層を積層した試料の加熱温度が510〜680℃さらには540〜670℃であると、保磁力増加率が大きくなることがわかる。また、その加熱温度をさらには560〜660℃とすると、保磁力自体も非常に大きくなることがわかる。
(6)総括
表1に示した各試料の結果から、300〜590℃さらには325〜590℃で加熱しつつ形成した非晶質なNd−Fe−B層上に、Nd−Cu層を積層した積層体を、さらに540〜680℃さらには560〜660℃で加熱することにより、Dy等の稀少元素を用いるまでもなく、30kOe前後の大きな保磁力を発現する磁性体が得られることがわかった。そして、このような磁性体は、角丸形状の結晶粒(主相)とそれを包囲する粒界相とにより構成されたナノサイズの結晶集合体からなることが明らかとなった。

Claims (12)

  1. 希土類元素(R1)と鉄(Fe)とホウ素(B)の正方晶金属間化合物(R1Fe14B)の結晶粒からなる主相と該結晶粒間に形成された粒界相とからなる磁性体であって、
    前記結晶粒は、最長幅が20〜500nmの角丸形状をしており、
    前記粒界相は、最小幅が1〜15nmであり、
    該粒界相は、前記R1および/または該R1と異なる希土類元素(R2)と、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、スズ(Sn)、酸素(O)、窒素(N)、C(炭素)、水素(H)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ゲルマニウム(Ge)および鉛(Pb)からなる元素群中の一種以上である粒界構成元素とからなることを特徴とする磁性体。
  2. 前記粒界構成元素は、Cuである請求項1に記載の磁性体。
  3. 前記R1および前記R2はネオジム(Nd)である請求項1または2に記載の磁性体。
  4. 前記結晶粒の最長幅は、30〜300nmであり、
    前記粒界相の最小幅は、2〜10nmである請求項1に記載の磁性体。
  5. 厚さが1〜500nmの薄膜である請求項1〜4のいずれかに記載の磁性体。
  6. 前記角丸形状は、方形状を構成する角部が略円弧状になっている形状である請求項1に記載の磁性体。
  7. R1とFeとBからなる非晶質体内に拡散し得る拡散元素を含む拡散材を、該非晶質体へ付着させた付着非晶質体を得る付着工程と、
    該付着非晶質体を加熱して、R1Fe14Bの結晶粒からなる主相と該結晶粒間に形成され該拡散元素を含む粒界相とを並行して形成させる加熱工程とを備え、
    請求項1〜6のいずれかに記載の磁性体が得られることを特徴とする磁性体の製造方法。
  8. 前記拡散材は、請求項1に記載した粒界構成元素を含む合金である請求項7に記載の磁性体の製造方法。
  9. 前記粒界構成元素を含む合金は、前記R1および/またはR2とCuとからなる銅合金である請求項8に記載の磁性体の製造方法。
  10. 前記加熱工程は、前記付着非晶質体を540〜680℃で加熱する工程である請求項7〜9のいずれかに記載の磁性体の製造方法。
  11. さらに、前記付着工程前に、325〜590℃で前記非晶質体を形成する非晶質体形成工程を備える請求項7〜10のいずれかに記載の磁性体の製造方法。
  12. 前記非晶質体は、前記主相の配向結晶面と整合的な結晶構造を有する基材上または下地材上に形成される請求項7〜11のいずれかに記載の磁性体の製造方法。
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