以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
(実施形態)
実施形態に係る希土類磁石合金は基本的構成として、組成として、プラセオジム(Pr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)に加えて、イットリウム(Y)を必須元素として含有し、かつ、前記組成が一般式PrxFe100−x−y−z−o−p−qCoyTizBoYpSiq(但し、x=10.0〜13.0、y=7.5〜10.5、z=0.1〜2.0、o=9.0〜14.0、p=0.1〜1.2、q=0〜1.5である)で表されることを特徴とするものである。
本発明者らは、Pr-Fe-Co-Ti-B-Si系の組成に、イットリウム(Y)を必須元素として添加し、これらを溶解させた合金浴湯を急冷した後、熱処理を施すことで、残留磁化Jrの低下を抑制して固有保磁力HcJに優れ、しかも、Pr-Fe-Co-Ti-B-Si系の組成のもつ熱安定性を発揮できる希土類磁石合金を得ることを見いだした。
希土類磁石合金の組成は、用いられる合金材料の配合比から推定する、或いは、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析法などを用いて分析することで得られる。実施形態に係る希土類磁石合金の組成は、プラセオジム(Pr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)に加えて、イットリウム(Y)を必須元素として含有し、かつ、前記組成が一般式PrxFe100−x−y−z−o−p−qCoyTizBoYpSiq(但し、x=10.0〜13.0、y=7.5〜10.5、z=0.1〜2.0、o=9.0〜14.0、p=0.1〜1.2、q=0〜1.5である)で表されることを得た。
実施形態の希土類磁石合金では、合金の組成を前記一般式に設定することで、残留磁束密度(Br)、保磁力(HcJ;HcB)、及び最大エネルギー積((BH)max)等の磁気特性に優れることに加えて、熱安定性に優れた希土類磁石合金を得ることができる。さらに、実施形態の希土類磁石合金は、高価な希少金属であるTb、Dy、Hoを用いる必要がない。
さらに、実施形態に係る希土類磁石合金は、組成が一般式PrxFe100−x−y−z−o−p−qCoyTizBoYpSiq(但し、x=10.0〜13.0、y=7.5〜10.5、z=0.1〜2.0、o=9.0〜14.0、p=0.1〜1.2、q=0〜1.5である)で表され、少なくともPr2Fe14B型ハード相を含むナノコンポジェット構造を有している。また、実施形態に係る希土類磁石合金は、前記Pr2Fe14B型ハード相に加えて、α−Fe型ソフト相を含むナノコンポジット構造を有するものであってもよい。
実施形態に係る希土類磁石合金は、Pr2Fe14B型ハード相を含んでいる。Pr2Fe14B型ハード相は、R2Fe14B型ハード相の希土類元素RがPrであるものを意味する。Rの一部がPr以外の希土類元素に置き換えられている形態も含む概念である。Prの一部をNdで置き換える場合、合金中の置換されるPrの量は、Prに対する30at%以下であることが好ましい。30at%を越えると、保磁力の低下が大きくなる等の問題が発生する。Prの一部をTbで置き換える場合、合金中の置換されるPrの量は、Prに対する10at%以下であることが好ましい。10at%を越えると、磁化の低下が大きくなる等の問題が発生する。また、磁石の原材料費が高くなる。Prの一部をDyで置き換える場合、合金中の置換されるPrの量は、Prに対する10at%以下であることが好ましい。10at%を越えると、磁化の低下が大きくなる等の問題が発生する。また、磁石の原材料費が高くなる。Prの一部をHoで置き換える場合、合金中の置換されるPrの量は、Prに対する10at%以下であることが好ましい。10at%を越えると、磁化の低下が大きくなる等の問題が発生する。また、磁石の原材料費が高くなる。Prの一部を上記以外Nd,Tb,Dy,Ho以外の希土類元素で置き換える場合、合金中の置換されるPrの量は、Prに対する5at%以下であることが好ましい。5at%を越えると、磁化の低下が大きくなるkと、保磁力の低下が大きくなる等の問題が発生する。
実施形態に係る希土類磁石合金は、Pr2Fe14B型ハード相を含んでいる。Pr2Fe14B型ハード相は、Feの一部をCoで置換したしたものであって、Pr2Fe14B型ハード相のキュリー温度を上昇させ、希土類磁石合金の耐熱温度が向上し、使用温度範囲を拡大させることができる。
実施形態に係る希土類磁石合金は、Pr2Fe14B型ハード相に加えて、少なくともα−Fe型ソフト相を含んでいる。α−Fe型ソフト相とは、Feの一部が他の元素で置換されている形態も含む概念である。Feの一部がCo等の遷移金属元素で置換されてもよい。特に、Feの一部をCoで置換した場合には、α−Fe型ソフト相のキュリー温度を上昇させ、希土類磁石合金の耐熱温度が向上し、使用温度範囲を拡大できる。
実施形態に係る希土類磁石合金は、少なくともPr2Fe14B型ハード相を含む、或いはPr2Fe14B型ハード相に加えて、少なくともα−Fe型ソフト相を含んでいる複合組織構造を有することで、合金に添加されたCoの分布の割合は明らかではないが、合金中の置換されるFeの量は、Feに対する0.1at%以上、30at%以下であることが好ましい。0.1at%未満であると、置換による効果が不十分となる恐れがある。30at%を越えると、磁化の低下が大きくなること、保磁力の低下が大きくなる等の問題が発生する。
実施形態の希土類磁石合金は、合金溶湯を冷却した後、熱処理して得られる。すなわち、プラセオジム(Pr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)と、必須元素のイットリウム(Y)を、上記組成一般式PrxFe100−x−y−z−o−p−qCoyTizBoYpSiq(但し、x=10.0〜13.0、y=7.5〜10.5、z=0.1〜2.0、o=9.0〜14.0、p=0.1〜1.2、q=0〜1.5である)を満たすように配合し、これらを溶解させ、その合金溶湯を、回転するロールに供給することで急冷合金を得る。この場合、ロールの周速度は8.5〜20m/secの範囲に設定することが望ましい。ロールの周速度を前記範囲に設定することで、残留磁化(Jr)、保磁力(HCJ;HCB)、及び最大エネルギー積((BH)max)等の磁気特性に優れた合金が得られる。ロールの周速度が8.5m/sec未満であると、急冷合金の内部組織が粗大なものとなり、均質性も失われ、磁石特性が低下してしまう。ロール周速度が20.0m/secを越えると、次工程で行われる熱処理の条件設定が難しくなる。
実施形態の希土類磁石薄帯は、プラセオジム(Pr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)と、必須元素のイットリウム(Y)を、上記組成一般式PrxFe100−x−y−z−o−p−qCoyTizBoYpSiq(但し、x=10〜13、y=7.5〜10.5、z=0.1〜2.0、o=9.0〜14.0、p=0.1〜1.2、q=0〜1.5である)を満たすように配合し、これらを溶解させ、その合金溶湯を、回転する冷却ロールに供給して急冷することで得る。すなわち、実施形態の希土類磁石薄帯は、プラセオジム(Pr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)と、必須元素のイットリウム(Y)を、上記組成一般式PrxFe100−x−y−z−o−p−qCoyTizBoYpSiq(但し、x=10〜13、y=7.5〜10.5、z=0.1〜2.0、o=10.5〜14.0、p=0.1〜1.2、q=0〜1.5である)を満たすように配合し、これらを溶解させ、その合金溶湯を、回転するロールに供給して、急冷薄帯を得て、その急冷薄帯を熱処理して、急冷薄帯を結晶化させる。この場合、ロールの周速度を8.5〜13.5m/secに設定する。前記熱処理での加熱温度は550〜635℃、昇温時間は1〜7min、保持時間は1〜7minに設定することが望ましい。
実施形態の希土類磁石合金粉末は、上述した希土類磁石合金薄帯を粉砕して得られる。この希土類磁石合金粉末をボンド材で成形することで、実施形態のボンド磁石が得られる。実施形態のボンド磁石を得るには、次の過程を経て作成する。すなわち、上述した希土類磁石合金薄帯を150μm以下に粉砕して希土類磁石合金粉末を得て、その希土類磁石合金粉末に耐熱性樹脂2.5wt%を混合攪拌し、980MPaの圧力で圧縮成型した後、200℃×1hのキュア処理を行うことにより作成する。なお、上述したボンド磁石を作成する方法は、一例であって、これ以外の公知技術を適用して実施形態のボンド磁石を作成してもよいものである。
実施形態によれば、Pr-Fe-Co-Ti-B-Si系の組成に、イットリウム(Y)を必須元素として含有することで、残留磁化Jrの低下を抑制して固有保磁力HcJを向上させることができ、しかも、Pr-Fe-Co-Ti-B-Si系の組成のもつ熱安定性を発揮させることができる。
次に、実施形態を裏付けるために各種の実験を行った。その実験を実施例として説明する。
(実施例1)
(実施例1)
以下に述べる方法により、希土類磁石合金の組成がPrを10at%含む、Pr10Fe69.5−pCo8Ti1.5B10.5YpSi0.5の希土類磁石合金を得た。実施例1では、表1に示すように、必須元素であるYの含有量pを種々変化させた複数種の希土類磁石合金を得た。以下、具体的に説明する。
まず、Pr、Fe、Co、Ti、B、Y、Siの各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金インゴットを溶融させた溶融合金を、周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
最適な急冷薄帯の熱処理条件を定める際の参考とするために、組成Pr10Fe68.5Co8Ti1.5B10.5Y1.0Si0.5の合金薄帯についてDSC曲線を測定した。測定結果を図1に示す。DSC曲線の測定は、リガク社製示差熱量計を用いて行い、DSC(Differential Scanning Calorimetry)の昇温速度は20℃/minで行った。
希土類磁石合金における結晶相の同定は、急冷して得られた合金薄帯の試料に、低温より熱処理を施し、発熱ピーク温度に達した後、常温まで急冷し、X線回折を調べ、それぞれの発熱ピークがどの結晶相に対応しているかを確認した。DSC曲線上には、図1に示すようにソフト相として作用するα−Fe型結晶相とPr2Fe14B型結晶相の発熱反応が見られた。また図1に示すように、ハード相として作用するPr2Fe14B型結晶相の結晶化開始温度は約545℃であることが分かり、経験的に、この組成系の熱処理は500℃以上で行うべきという指針が得られた。
その後、急冷して得られた合金薄帯(急冷薄帯)の試料に、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、600℃×5minの熱処理を施した。ここで、昇温時間5minとは、室温から熱処理温度である600℃までの昇温に要した時間が5minであったことを意味している。また、×5minと表記したのは、前記急冷薄帯を600℃とした後、加熱を継続し、600℃で保持した時間を、5minとしたことを意味している。以下の表記も同様である。急冷薄帯の試料に対する磁気測定は、パルス着磁を行った後に、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。
表1の磁気特性からわかるように、Jr、(BH)maxは、イットリウム(Y)の含有量pの増加とともに減少し、イットリウム(Y)の含有量がp=1.0まで減少する傾向を示した。HcJは、イットリウム(Y)の含有量がp=1.0まで増加し、その後緩やかに減少する傾向を示した。また、HcBは、イットリウム(Y)の含有量の増加による変化がほとんどみられなかった。この結果より、合金薄帯の組成におけるYの含有量pは1.0at%が最適であることがわかる。
ここで、Coを8.0at%としたのは、Co量を7.5at%、8at%、10at%、10.5at%と変化させて磁気特性を評価したところ、Co量が8at%の場合に磁気特性が最高値を示したためである。また、Ti量yを1.5at%としたのは、Ti量を0.1at%、0.5at%、1.0at%、1.5at%、2.0at%と変化させて磁気特性を評価したところ、Ti量が1.5at%の場合に磁気特性が最高値を示したためである。また、B量を10.5at%としたのは、B量を9at%、10.5at%、12at%と変化させて磁気特性を評価したところ、B量が10.5at%の場合に磁気特性が最高値を示したためである。また、Si量qを0.5at%としたのは、Si量を0at%、0.5at%、1.0at%、1.5at%と変化させて溶融合金を作製したところ、Si無添加の場合は、湯流れが悪く、急冷薄帯を作製することが不可能であったことと、Si添加により、q=1.5まで、湯流れが良く、特にq=0.5の時、最良の湯流れとなり、良好な急冷薄帯を作製することができたことによる。
(実施例2)
以下に述べる方法により、合金組成がPr10Fe68.5Co8Ti1.5B10.5Y1Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例2では、ロール周速度を変化させた複数種の合金薄帯を得た。以下、具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Y、Siの各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金インゴットを溶融させた溶融合金を、周速度を7.5〜15m/secの範囲に設定したロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。実施例2では、周速度を7.5m/sec、10m/sec、12.5m/sec、15m/secに変化させた場合での合金薄帯を得た。その後、合金薄帯に対して、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、600℃×5minの熱処理を施した。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表2の磁気特性からわかるように、Jr及びHcB、(BH)maxは、周速度10m/sec以上にて大きな値を示し、HcJは、周速度10m/secで最大値を得た。以上の結果より、ロールの周速度は、10m/secが最適であることがわかった。
以下に述べる方法により、希土類磁石合金の組成がPr10Fe68.5Co8Ti1.5B10.5Y1Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例3では、急冷後に行われる熱処理温度を変化させた複数種の希土類磁石合金薄帯を得た。以下、具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Y、Siの各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金を溶融させた溶融合金を、周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
その後、前記合金薄帯の試料に対して、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、550〜625℃×5minの熱処理を施し、熱処理温度を変化させた複数種の合金薄帯を得た。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表3の磁気特性からわかるように、急冷後に合金薄帯に対して施される熱処理での熱処理温度を増すと、Jrにはほとんど変化が見られなかったが、HcBおよび(BH)maxは低下する傾向にある。これに対して、HcJは、熱処理温度600℃で最大値をとることがわかった。以上の結果より、急冷後に合金薄帯に対して施される熱処理での熱処理温度は、600℃が最適であることがわかる。
図2に、急冷後に合金薄帯に対して施される熱処理での熱処理温度を575℃〜625℃の範囲で変化させたときのX線回折図形を示す。図2から明らかなように、As melt−spunでは結晶質相と非晶質相が混在しているものと思われる。また、575℃、600℃、625℃のいずれの熱処理温度においても、ハード相としてのPr2Fe14B型結晶相と、ソフト相としてのα−Fe型結晶相が現れ、複合組織であることがわかった。
(実施例4)
以下に述べる方法により、合金組成がPr10Fe68.5Co8Ti1.5B10.5Y1Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例4では、急冷後に合金薄帯に対して施される熱処理の保持時間を変化させた複数種の合金薄帯を得た。具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Y、Siの各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金を溶融させた溶融合金を、周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
その後、急冷して得られた合金薄帯の試料に、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、600℃×3〜7minの熱処理を施し、熱処理の保持時間を変化させた複数種の合金薄帯を得た。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表4の磁気特性からわかるように、熱処理時間5minにて、Jr、HcJ、HcBおよび(BH)maxがともに最大値を示した。以上の結果より急冷後に合金薄帯に対して施される熱処理の保持時間は、5minが最適であることがわかる。
以下に述べる方法により、合金組成がPr10Fe68.5Co8Ti1.5B10.5Y1Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例5では、急冷後に合金薄帯に対して施される熱処理の加熱昇温時間を変化させた複数種の合金薄帯)を得た。具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Y、Siの各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金を溶融させた溶融合金を、周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
その後、急冷後に合金薄帯に対して、アルゴンガス雰囲気中で、加熱処理の加熱昇温時間3〜7min、600℃×5minの範囲で熱処理を施し、熱処理の昇温時間を変化させた複数種の合金薄帯を得た。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表5の磁気特性からわかるように、熱処理の昇温時間5minにて、Jr、HcJ、HcBおよび(BH)maxがともに最大値を示した。以上の結果より、熱処理の昇温時間は、5minが最適であることがわかる。
実施例1〜5の結果より定めた、Pr含有量10at%である希土類磁石合金薄帯の最適条件(組成Pr10Fe68.5Co8Ti1.5B10.5Y1Si0.5、ロール周速度10m/sec、昇温時間5min、熱処理温度600℃、保持時間5min)にて作製した希土類磁石薄帯の室温で測定した減磁曲線を図3に示す。
図3にから明らかなように、Jr=0.76T、HcJ=1670kA/m、HcB=520kA/m、(BH)max=99.7kJ/m3、Hk/HcJ=21.8%と、優れた保磁力を有する希土類磁石合金薄帯であった。
図4は、得られた合金薄帯のJrとHcJの温度特性である。試料は予め、4.8MA/mにて着磁し、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。25℃から125℃の範囲で求めたJrの可逆温度係数の平均値α(Jr)aveは、α(Jr)ave=−0.078(%/℃)であり、25℃から125℃の範囲で求めたHcJの可逆温度係数の平均値α(HcJ)aveは、α(HcJ)ave=−0.430(%/℃)と、磁気特性の熱変動が小さく抑えられた、耐熱性に優れる希土類磁石合金薄帯であった。
図5は、得られた希土類磁石合金薄帯のσ−T曲線である。試料は予め、4.8MA/mにて着磁し、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。測定磁界は160kA/mであった。図5より、試料のキュリー温度は392℃、Pr2Fe14B型結晶相の量はおよそ79.1vol%、α−Fe型結晶相の量はおよそ20.9vol%であった。
図6は、得られた合金薄帯TEM写真と電子線回折図形である。結晶粒径はTEM写真より, 約24 〜 42nm程度のものが観察され, 平均結晶粒径は31nmであることがわかった。また, 電子線回折写真より等方性であることがわかった。
(実施例6)
Pr含有量10at%である希土類磁石合金薄帯の最適条件(組成Pr10Fe68.5Co8Ti1.5B10.5Y1Si0.5、ロール周速度10m/sec、昇温時間5min、熱処理温度600℃、保持時間5min)にて作製した希土類磁石合金薄帯を用いて、ボンド磁石を作製した。
まず、前記希土類磁石合金薄帯を150μm以下に粉砕して、希土類磁石合金粉末を得た。前記希土類磁石合金粉末と、バインダーとして作用する耐熱性樹脂であるエポキシ樹脂2.5質量%とを混合撹拌し、980MPaの圧力で圧縮成形した。その後、180℃×1hの硬化処理を行い、直径10mm×長さ7.9mmの等方性ボンド磁石を得た。
各ボンド磁石の磁気特性は、4.8MA/mのパルス着磁を行った後に、高感度自記磁束計(東英工業社製)を用いて測定した。ボンド磁石の減磁曲線を図7に示す。このボンド磁石の密度は6.27Mg/m3であった。また、磁気特性の値はそれぞれJr=0.61T、HcJ=1.47MA/m、HcB=0.42MA/m、(BH)max=63.3kJ/m3、Hk/HcJ=21.8%と保磁力に優れるボンド磁石であった。
ボンド磁石の不可逆減磁率は、以下の様に求めた。まず、デジタルフラックスメータ(東英工業社製)を使用し、4.8MA/mのパルス着磁した後のボンド磁石の磁束(F1)を測定した。次に、恒温槽にて所定の温度で1時間保持し、空気中で1時間放冷した後のボンド磁石の磁束(F2)を測定した。これらの測定結果に基づき、125℃、150℃および175℃における不可逆減磁率(%)を、(F1−F2)×100/F1により算出した。
作製したボンド磁石の不可逆減磁率の温度依存性を図8に示す。図8からわかるように、本発明のボンド磁石における減磁率は、125℃において、−0.85%、150℃において、−1.40%、175℃において、−2.11%と、優れた耐熱性をもつボンド磁石となっている。
(実施例7)
以下に述べる方法により、希土類磁石合金の組成が、Prを11at%含む、Pr11Fe68.5−pCo8Ti1.5B10.5YpSi0.5の希土類磁石合金を得た。実施例7では、表6に示すように、必須元素であるYの含有量pを種々変化させた複数主の希土類磁石合金を得た。具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Y、Siの各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金を溶融させた溶融合金を、周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
最適な急冷薄帯の熱処理条件を定める際の参考とするために、組成Pr11Fe67.8Co8Ti1.5B10.5Y0.7Si0.5の合金薄帯について実施例1と同様にしてDSC曲線を測定した。測定結果を図9に示す。
希土類磁石合金における結晶相の同定は、急冷薄帯試料に低温より熱処理を施し、発熱ピーク温度に達した後、常温まで急冷し、X線回折を調べ、それぞれの発熱ピークがどの結晶相に対応しているかを確認した。図9のDSC曲線上には、ソフト相として作用するα−Fe型結晶相とFe3B型結晶相およびPr2Fe14B型結晶相の発熱反応が見られた。また、ハード相として作用するPr2Fe14B型結晶相の結晶化開始温度は明瞭には把握されなかったが、約600℃にDSC信号の屈曲が認められることから、この組成系の熱処理はおよそ600℃以上で検討を行った。
その後、急冷して得られた合金薄帯の試料に、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、625℃×5minの熱処理を施した。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表6の磁気特性からわかるように、Jr、(BH)max及びHcJは、イットリウム(Y)の含有量pの増加とともにほぼ減少する傾向を示したが、イットリウム(Y)の含有量がp=0.7で極大値をそれぞれ示した。HcJは、イットリウム(Y)の含有量がp=0.7まで増加し、その後緩やかに減少する傾向を示した。したがって、イットリウム(Y)の含有量pは、0.7at%が最適であることがわかる。
以下に述べる方法により、合金組成がPr11Fe67.8Co8Ti1.5B10.5Y0.7Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例8では、ロールの周速度を変化させた複数種の合金薄帯を得た。以下、具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Si各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金を溶融させた溶融合金を、周速度7.5から15m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。実施例8では、ロールの周速度を7.5m/sec、10m/sec、12.5m/sec、15m/secに変化させた場合での合金薄帯を得た。その後、合金薄帯に対して、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、625℃×5minの熱処理を施した。合金薄帯の試料に対しての磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表7の磁気特性からわかるように、周速度を大きくすると、Jr、HcJ、HcB及び(BH)maxはいずれも周速度10m/s及び20m/sにおいて良好な値を示した。特に、Jrおよび(BH)maxは、周速度10m/secで最大値を示した。以上の結果により、ロールの周速度が10〜12.5m/secの範囲のうち、ロールの周速度は、10m/secが最適であることがわかった。
以下に述べる方法により、合金組成がPr11Fe67.8Co8Ti1.5B10.5Y0.7Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例9では、急冷後に行われる加熱処理の加熱処理温度を変化させた複数種の希土類磁石合金薄帯を得た。具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Y、Siの各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金を溶融させた溶融合金を、周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
その後、急冷して得られた合金薄帯に対して、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、575〜650℃×5minの熱処理を施し、熱処理温度を変化させた複数種の合金薄帯を得た。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表8の磁気特性からわかるように、熱処理温度が増すと、Jrと(BH)maxは増大する傾向にあり、HcJとHcBは熱処理温度625℃で最大値をとることがわかった。以上の結果より、熱処理温度は625℃が最適であることがわかる。
図10に、熱処理温度を575℃〜650℃の範囲で変化させたときのX線回折図形を示す。図10より、As melt−spunでは結晶質相と非晶質相が混在しているものと思われる。また、いずれの熱処理温度においても、Pr2Fe14B型結晶相とα−Fe型結晶相が現れ、複合組織であることがわかった。
(実施例10)
以下に述べる方法により、合金組成がPr11Fe67.8Co8Ti1.5B10.5Y0.7Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例10では、急冷後に合金薄帯に対して施される熱処理の保持時間を変化させた複数種の合金薄帯を得た。具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Si各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金を溶融させた溶融合金を、周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
その後、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、625℃×1〜7min(保持時間)の熱処理を施し、熱処理の保持時間を変化させた複数種の合金薄帯を得た。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表9の磁気特性からわかるように、Jrは、熱処理時間を増すと、増大する傾向を示した。Jr、HcJ、HcBや(BH)maxは、保持時間5minにてともに最大値を示した。以上の結果より、熱処理の保持時間は、5minが最適であることがわかる。
以下に述べる方法により、合金組成がPr11Fe67.8Co8Ti1.5B10.5Y0.7Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例11では、熱処理の昇温時間を変化させた複数種の合金薄帯を得た。具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Si各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に母合金を溶融させた溶融合金を周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
その後、急冷して得られた合金薄帯に対して、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間1〜7min、625℃×5minの熱処理を施し、熱処理の昇温時間を変化させた複数種の合金薄帯を得た。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表10の磁気特性からわかるように、昇温時間が増すと、Jrと(BH)maxは緩やかに増大する傾向にあるが、HcJは昇温時間5minでともに最大値を示した。また、HcBにはほとんど変化が見られなかった。以上の結果より、昇温時間は、HcJが最大値を示した5minが最適であると判断した。
実施例7〜11の結果より定めた、Pr含有量11at%である希土類磁石合金薄帯の最適条件(組成Pr11Fe67.8Co8Ti1.5B10.5Y0.7Si0.5、ロール周速度10m/sec、昇温時間5min、熱処理温度625℃、保持時間5min)にて作製した希土類磁石薄帯の室温で測定した減磁曲線を図11に示す。Jr=0.77T、HcJ=1820kA/m、HcB=540kA/m、(BH)max=103.5kJ/m3、Hk/HcJ=24.0%と、優れた保磁力を有する磁石合金薄帯であった。
図12は得られた合金薄帯のJrとHcJの温度特性である。試料は予め、4.8MA/mにて着磁し、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。25℃から125℃の範囲で求めたJrの可逆温度係数の平均値α(Jr)aveは、α(Jr)ave=−0.078(%/℃)であり、25℃から125℃の範囲で求めたHcJの可逆温度係数の平均値α(HcJ)aveは、α(HcJ)ave=−0.420(%/℃)と、磁気特性の熱変動が小さく抑えられた、耐熱性に優れる磁石合金薄帯であった。
図13は得られた合金薄帯のσ−T曲線である。試料は予め、4.8MA/mにて着磁し、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。測定磁界は160kA/mであった。図5より、試料のキュリー温度は380℃、Pr2Fe14B型結晶相の量はおよそ88.3vol%、α−Fe型結晶相の量はおよそ11.7vol%であった。
図14は得られた合金薄帯TEM写真と電子線回折図形である。結晶粒径はTEM写真より, 約21 〜 43nm程度のものが観察され, 平均結晶粒径は31nmであることがわかった。また, 電子線回折写真より等方性であることがわかった。
(実施例12)
Pr含有量11at%である希土類磁石合金薄帯の最適条件(組成Pr11Fe67.8Co8Ti1.5B10.5Y0.7Si0.5、ロール周速度10m/sec、昇温時間5min、熱処理温度625℃、保持時間5min)にて作製した合金薄帯を用いて、ボンド磁石を作製した。
まず、合金薄帯を150μm以下に粉砕して、合金粉末を得た。合金粉末と、バインダーとして作用する耐熱性樹脂であるエポキシ樹脂2.5質量%とを混合撹拌し、980MPaの圧力で圧縮成形した。その後、180℃×1hの硬化処理を行い、直径10mm×長さ7.9mmの等方性ボンド磁石を得た。各ボンド磁石の磁気特性は、4.8MA/mのパルス着磁を行った後に、高感度自記磁束計(東英工業社製)を用いて測定した。ボンド磁石の減磁曲線を図15に示す。このボンド磁石の密度は6.29Mg/m3であった。また、磁気特性の値はそれぞれJr=0.63T、HcJ=1600kA/m、HcB=430kA/m、(BH)max=67.6kJ/m3と、特に優れた保磁力有するボンド磁石であった。
実施例6と同様にして求めた、作製したボンド磁石の不可逆減磁率の温度依存性を図16示す。図16からわかるように、本発明のボンド磁石における減磁率は、125℃において、−1.3%、150℃において、−2.1%、175℃において、−3.7%、と、優れた耐熱性をもつボンド磁石になっている。
(実施例13)
以下に述べる方法により、合金組成がPrxFe68.5−xCo8Ti1.5B10.5Y0.7Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例13では、Prの含有量xを種々変化させた複数種の希土類磁石合金を得た。具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Siの各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、前記母合金を溶融させた溶融合金を、周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
その後、急冷して得られた合金薄帯に対して、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、625℃×5minの熱処理を施した。合金薄帯の試料に対しての磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表11の磁気特性からわかるように、Prの含有量xの増加に対し、Jrおよび(BH)maxは、Prの含有量xが‘11’を超えると、一度減少し、Prの含有量xの増加とともに緩やかに増加する傾向を示した。HcJは、Prの含有量xの増加とともに、Prの含有量xが‘12’まで増加し、その後緩やかに減少した。また、HcBは、Prの含有量の増加と共に減少傾向を示し、Prの含有量xが‘12’で極小値を示した後、増加に転じた。この結果より、Prの含有量xは12.0at%において、特に大きなHcJが得られることがわかった。
以下に述べる方法により、合金組成がPrを13at%含む、Pr13Fe76.3−oCo8Ti1.5BoY0.7Si0.5の希土類磁石合金を得た。実施例14では、Bの含有量oを種々変化させた複数種の希土類磁石合金を得た。具体的に説明する。
まずPr、Fe、Co、Ti、B、Y、Siの各原料を秤量して、真空溶解により母合金インゴットを得た。次に、Bの含有量oが‘10.5’である母合金については、母合金を溶融させた溶融合金を、周速度10m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
その後、急冷して得られた合金薄帯に対して、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、625℃×5minの熱処理を施した。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
Bの含有量oが‘14’である母合金については、母合金を溶融させた溶融合金を、周速度20m/secで回転するロールの上に噴射して、前記溶湯合金を前記ロール上で急冷し、リボン状の合金薄帯を得た。
その後、急冷して得られた合金薄帯に対して、アルゴンガス雰囲気中で、昇温時間5min、575℃×5minの熱処理を施した。合金薄帯の試料に対する磁気測定は、実施例1と同様に行った。
表12の磁気特性からわかるように、Bの含有量oを増すと、Jr、(BH)maxおよびHcBは減少したが、HcJは大きく増大した。この結果より、Bの含有量oは14.0at%において、特に大きなHcJが得られることがわかった。
図17は、Bの含有量o=14の薄帯試料のTEM像、図18は図17の一部の拡大である。図17より、約100〜400nmの粗大な粒子Aと約13〜40nmの微細な粒子Bが見られた。粒子Aと粒子Bは、粒径が異なるだけで同一のものかもしれないが、詳細はわからなかった。また、図18より、前記約40〜420nmの粗大な粒子の内部には、約6〜20nmの微細な粒子Cが含まれている。図19は、前記粗大な粒子のひとつを選び測定した、制限視野回折像である。図19より、単一結晶相由来と思われる回折パターンが強く観測されるとともに、合わせて前記単一結晶相由来と思われる回折パターンとは、別の回折パターンが弱く観測された。
以上をまとめると、前記薄帯には、
a)約6〜20nmの微細な粒子
b)前記約6〜20nmの微細な粒子を包含し、単一結晶相の回折パターンを与える約40〜約420nmの粗大な粒子
c)前記約40〜約420nmの粗大な粒子の粒界部にある、約13〜40nmの微細な粒子
の三種類に大別される粒子が含まれることがわかった。
希土類磁石薄帯において大きな固有保磁力を得ようとした場合、一般に微細な結晶粒からなる組織構造を形成し、個々の結晶粒に含まれる逆磁区核発生サイトを減らすことや、磁壁移動を妨げることで、容易に磁化反転が進行することを抑制し、固有保磁力を高めることができる。本発明の希土類磁石においては、たとえ粗大な結晶粒が介在するにもかかわらず、高い固有保磁力が実現されているが、粗大な結晶粒が、微細な結晶粒を内包していることが保磁力を高める効果に寄与しているものと考えられる。
(実施例15)
また、上述した希土類磁石合金薄帯を150μm以下に粉砕して希土類磁石合金粉末を得て、その希土類磁石合金粉末に耐熱性樹脂2.5wt%を混合攪拌し、980MPaの圧力で圧縮成型した後、200℃×1hのキュア処理を行うことにより作製した。ボンド磁石の磁気特性は、4.8MA/mのパルス着磁後、高感度自記磁束計を用いて測定した。その結果、ボンド磁石の室温での固有保磁力HcJが1.6MA/m≦<HcJ≦2.0MA/mを示した。さらに、25℃から125℃まで加熱した際の不可逆減磁率が−2.2%未満であった。25℃から150℃まで加熱した際の前記結晶構造の不可逆減磁率が−4.2%未満であった。25℃から175℃まで加熱した際の前記結晶構造の不可逆減磁率が−6.0%未満であった。これらの結果から、熱安定性に優れていることが分かった。
(考察)
以上の実験結果を考察すると、プラセオジム(Pr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)のPr-Fe-Co-Ti-B-Si系の組成に、必須元素として含有するイットリウム(Y)の含有量pについて考察する。Prが10at%の場合、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持する、及びHcJを高めつつ、Jrを維持するには、Yの含有量pは0.9〜1.2であった。Prが11at%の場合、HcJを高めつつ、Jrを維持するには、Yの含有量pは0.5〜1.0であった。同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持するには、Yの含有量pは、0.1〜1.0であった。また、Prが12〜13at%の場合、HcJを高めつつ、Jrを維持するには、Yの含有量pは0.7であった。同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持するには、Yの含有量pは、0.7であった。
0.1at%未満では、Yを添加した効果が十分に発揮されず、また、2.0at%を超えると、合金中の総希土類量が大きくなりすぎるため、ソフト相であるα-Fe型結晶相の体積分率が減じられることや、Pr2Fe14B型結晶相のRサイトへのY元素の置換量が大きくなりすぎるために、ハード相の異方性磁場が減じられてしまい、JrやHcJ、(BH)maxなどの磁気特性が悪化する。1.2at%から2at%については未検討であるが、上記弊害は小さく抑えられるものと推測される。
したがって、Yの含有量は、下限を0.1、上限を1.2に設定すべきである。
次に、ロールの周速度について考察する。Prが10at%である場合、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持する、及びHcJを高めつつ、Jrを維持するには、ロールの周速度は、9.5〜12.5であった。Prが11at%の場合、HcJを高めつつ、Jrを維持するには、ロールの周速度は、9〜13.5であった。同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持するには、ロールの周速度は、8.5〜13.5であった。また、Prが12at%の場合は、検討した10m/secにおいて、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。Prが13at%の場合は、検討した10m/sec及び20m/secのいずれにおいて、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。
ロールの周速度を8.5m/s未満に設定すると、急冷合金の内部組織が粗大になり、均質性が失われ、磁石特性も低下した。ロール周速度を20m/sを越えると、次工程での熱処理条件設定が困難であった。したがって、ロールの周速度は、8.5〜20m/sに設定すべきである。
次に、加熱処理での熱処理温度について考察する。Prが10at%である場合、HcJを高めつつ、Jrを維持するには、熱処理温度は、595〜605℃であった。同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持するには、熱処理温度は、550〜610℃であった。Prが11at%の場合、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持する、及びHcJを高めつつ、Jrを維持するには、熱処理温度は、575〜635℃であった。Prが12at%の場合は、検討した熱処理温度625℃において、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。特に磁気特性が良好であることから、この周囲においても、熱処理温度を選択可能であると予想される。
Prが13at%の場合は、検討した検討した熱処理温度575〜625℃において、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。
熱処理温度が550℃未満であると、ハード相として作用するPr2Fe14B型結晶相の成長が不足するため、この結果十分大きな固有保磁力HcJを得ることができない。また、熱処理温度が635℃を超えると、ハード相として作用するPr2Fe14B型結晶相が粗大化してしまい、固有保磁力HcJが低下してしまう。
したがって、熱処理温度は、550〜635℃の範囲に設定すべきである。
次に、加熱処理での保持時間について考察する。Prが10at%である場合、HcJを高めつつ、Jrを維持するには、保持時間は、3.5〜6.5minであった。同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持するには、保持時間は、3.5〜7minであった。Prが11at%の場合、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持する、及びHcJを高めつつ、Jrを維持するには、保持時間は、1〜7minであった。すなわち、検討した保持時間1〜7minの全域で、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持する、及びHcJを高めつつ、Jrを維持することができた。
Prが12at%の場合は、検討した5minにおいて、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。
Prが13at%の場合は、検討した5minにおいて、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。
熱処理の保持時間が1min未満であると、Pr2Fe14B型結晶相の成長が不足するため、この結果十分大きな固有保磁力HcJを得ることができないリスクが高まる。また、熱処理の保持時間が7minを超えると、ハード相として作用するPr2Fe14B型結晶相が粗大化してしまい、固有保磁力HcJが低下してしまうリスクが高まる。
したがって、熱処理温度は、1〜7minの範囲に設定すべきである。
次に、加熱処理での昇温時間について考察する。Prが10at%である場合、HcJを高めつつ、Jrを維持し、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持するには、昇温時間は、3.5〜6.5minであった。Prが11at%の場合、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持する、及びHcJを高めつつ、Jrを維持するには、昇温時間は、1〜7minであった。
Prが12at%の場合は、検討した昇温時間5minにおいて、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。
Prが13at%の場合は、検討した昇温時間5minにおいて、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。
熱処理の昇温時間が1min未満であると、Pr2Fe14B型結晶相の成長が不足するため、この結果十分大きな固有保磁力HcJを得ることができないリスクが高まる。また、熱処理の昇温時間が7minを超えると、ハード相として作用するPr2Fe14B型結晶相が粗大化してしまい、固有保磁力HcJが低下してしまうリスクが高まる。
したがって、昇温時間は、1〜7minの範囲に設定すべきである。
なお、これらの条件は、単独で設定するのではなく、所望とする、残留磁化Jr、および最大エネルギー積(BH)maxを維持しつつ、固有保磁力HcJを向上させるには、ロールの周速度、加熱温度、昇温時間及び保持時間を、上記の範囲内で適宜組み合わせて設定する。
次に、保磁力とボンド磁石の耐熱性の関係について考察する。Pr量x=10at%である場合に、最適な組成と条件で作製された合金薄帯は、実施例1〜5に示すように、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。なおかつ、Jrの温度係数であるα(Jr)aveが小さく抑えられ、かつ、HcJの温度係数であるα(HcJ)aveが小さく抑えられている。すなわち、高温に加熱されても、大きなJrとHcJを維持することができる、耐熱性に優れた合金薄帯であった。この優れた耐熱性ゆえに、前記合金薄帯を粉砕した磁石粉末を用いて作製したボンド磁石は、高温での不可逆減磁率が、125℃で−1.3%、150℃で−2.1%、175℃で−3.7%と非常に小さく抑えらた、耐熱性に優れたボンド磁石であった。
Pr量x=11at%である場合に、最適な組成と条件で作製された合金薄帯は実施例7〜11に示しように、HcJを高めつつ、Jrを維持し、同様に、HcJを高めつつ、(BH)maxを維持することができた。なおかつ、Jrの温度係数であるα(Jr)aveが小さく抑えられ、かつ、HcJの温度係数であるα(HcJ)aveが小さく抑えられている。すなわち、高温に加熱されても、大きなJrとHcJを維持することができる、耐熱性に優れた合金薄帯であった。この優れた耐熱性ゆえに、前記合金薄帯を粉砕した磁石粉末を用いて作製したボンド磁石は、高温での不可逆減磁率が、125℃で−1.3%、150℃で−2.1%、175℃で−3.7%と非常に小さく抑えられた、耐熱性に優れたボンド磁石であった。
Pr量x=12および13at%である場合にも同様の結果が得られた。