JP5651280B2 - 耐食性および連続高速プレス成形後の表面外観に優れる表面処理亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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中でも、表面処理亜鉛系めっき鋼板は、自動車や家電、OA機器の部品として使用する場合が多く、特にモーターケースなどの部品として使用する場合には、絞り加工等のプレス成形が施される。
そのため、6価クロムフリー表面処理亜鉛系めっき鋼板において問題となる亜鉛の白錆を抑制するためのクロメートフリー処理技術が、数多く提案されている。
a)クロム酸と同じIVA族に属するモリブデン酸やタングステン酸の不動態化作用を利用する方法、
b)Ti,Zr,V,Mn,Ni,Coなどの遷移金属やLa,Ceなどの希土類元素の金属塩を用いる方法、
c)タンニン酸などの多価フェノールカルボン酸やS,Nを含む化合物などのキレート剤をベースとする方法、
d)シランカップリング剤を用いてポリシロキサン皮膜を形成する方法、あるいは
e)これらを組み合わせた方法
などが挙げられる。
(1)ポリビニルフェノール誘導体などの有機樹脂と酸成分、シランカップリング剤やバナジウム化合物等を配合した処理液から皮膜を形成する方法(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3)、
(2)水性樹脂とチオカルボニル基とバナジン酸化合物とリン酸を含む皮膜を形成する方法(例えば特許文献4)、
(3)Tiなどの金属化合物とフッ化物、リン酸化合物等の無機酸および有機酸を含む処理液から皮膜を形成する方法(例えば特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11)、
(4)Ce,La,Y等の希土類元素とTi,Zr元素の複合皮膜を形成し、その皮膜中でめっき界面側に酸化物層、表面側に水酸化物層を濃化させる方法(特許文献12)や、CeとSi酸化物の複合皮膜を形成する方法(特許文献13)
(5)PおよびN成分ならびにMg,Alなどの金属成分を含む処理液からプレス成形性に優れる皮膜を形成する方法(特許文献14,15)
などが挙げられる。
このように、いずれの技術も、耐食性はある程度発現するものの、これまで数多く提案されている有機樹脂系皮膜や厚膜の場合、連続高速プレス成形を行う場合には不適であり、平板耐食性と連続高速プレス成形後の外観および耐食性を両立することはできなかった。
その結果、特定の無機化合物を組み合わせた無機系の皮膜を極薄膜で形成した場合に、格段に優れた連続高速プレス成形後外観が得られ、しかも平板耐食性および連続高速プレス成形後耐食性も改善されることの知見を得た。
本発明は上記の知見に立脚するものである。
1.亜鉛系めっき鋼板の表面に、リン化合物と、微粒子シリカおよび/またはシランカップリング剤からなるけい素化合物と、アミン系窒素化合物を含有する表面処理皮膜を有し、該表面処理皮膜中のリン化合物の付着量がP換算で20〜100mg/m2、けい素化合物の付着量がSi換算で20〜100mg/m2、けい素化合物中のSi量に対するアミン系窒素化合物のN量の質量比N/Siが0.05〜3で、かつ表面処理皮膜の皮膜厚が0.005〜0.4μmであり、しかも該リン化合物およびけい素化合物が非晶質であることを特徴とする耐食性および連続高速プレス成型後の表面外観に優れる表面処理亜鉛系めっき鋼板。
また、本発明の表面処理鋼板は、製品中に環境、人体に有害な物質(特に6価クロム)を全く含まないので、環境調和型表面処理鋼板として極めて有用である。
本発明の表面処理鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、Zn−Niめっき鋼板、Zn−Al−Mgめっき鋼板(例えばZn−6%Al−3%Mg合金めっき鋼板やZn−11%Al−3%Mg合金めっき鋼板)およびZn−Alめっき鋼板(例えば、Zn−5%Al合金めっき鋼板)等が好適である。また、これらのめっき層に、異種金属元素あるいは不純物として少量のニッケル、コバルト、マンガン、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、鉛、アンチモン、錫、銅等のうちから選んだ1種または2種以上を含有しためっき鋼板を用いることもできる。さらに、めっき層として、同種または異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
まず、本発明において用いるリン(P)化合物としては、例えばリン酸や第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、ピロリン酸、ピロリン酸塩、トリポリリン酸、トリポリリン酸塩などの縮合リン酸塩、亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩等が挙げられる。これらのリン(P)化合物は、一種を単独で用いることも、2種以上を複合して用いることもできる。
また、皮膜中のリン(P)化合物の付着量は、P換算で1〜100mg/m2とする。というのは、1mg/m2未満では平板耐食性および連続プレス後の耐食性が低下し、一方 100mg/m2超えでは連続プレス後の表面外観が低下するからである。好ましくは3〜70mg/m2の範囲、より好ましくは7〜50mg/m2の範囲である。
コロイダルシリカとしては、例えば日産化学(株)製のスノーテックスO、C、N、S、20、OS、OXSなどを用いることができる。また、乾式シリカとしては、日本アエロジル(株)製のAEROSIL50、130、200、300、380などを用いることができる。さらに、カルシウムをその表面に結合させたカルシウムイオン交換シリカとして、W.R.Grace & Co.製のSHIELDEX C303、SHIELDEX AC3、富士シリシア化学(株)製のSHIELDEX SY710などを挙げることができる。
また、皮膜中のけい素(Si)化合物の付着量は、Si換算で1〜100mg/m2とする。というのは、1mg/m2未満では平板耐食性および連続プレス後の耐食性の低下を招き、一方100mg/m2を超えると飽和したけい素(Si)化合物が逆に耐食性を悪化させてしまうからである。好ましくは5〜80mg/m2の範囲、より好ましくは15〜60mg/m2の範囲である。
ここに、アミン系窒素(N)化合物(以下、単に窒素(N)化合物という)は、処理液中にN/Siで0.05〜3の範囲で含有させる必要がある。というのは、N/Siが0.05に満たないと添加効果が不十分で耐食性および連続プレス後の耐食性が劣り、一方N/Siが3を超えると皮膜の親水性が高くなり、耐食性および連続プレス後の耐食性が低下するからである。より好ましくは0.15〜2.5であり、さらに好ましくは0.3〜2である。
まず、亜鉛系めっき鋼板のめっき金属表面を表面処理液で処理する際に、けい素(Si)化合物由来のシラノール基(Si−OH)とめっき皮膜表面との水素結合的な吸着によって、めっき金属表面(皮膜下部)にけい素(Si)化合物が濃化する。その後、乾燥することにより脱水縮合反応が起きて強固な化学結合となり、めっき金属表面との密着性に優れる皮膜が形成される。しかも、表面処理液がリン(P)化合物を含有する場合には、めっき表面のエッチング反応が増加しているものと推定され、このエッチング反応によって活性化されためっき金属表面との結合がより強固なものとなる。その結果、連続高速プレス後も皮膜が剥がれにくくなり、プレス時の剥離カスの発生が抑制されるため、プレス後外観が向上する。また、けい素(Si)化合物とリン(P)化合物によってめっき金属と強固に密着した皮膜を形成することに加え、さらに窒素(N)化合物を含有することで、耐食性がさらに向上するため、0.4μm以下の皮膜厚でも優れた耐食性が得られる。これは、窒素(N)化合物がめっき金属に吸着する作用があるためで、めっき金属の腐食(溶解)を抑制する効果や、腐食によって溶出しためっき金属イオンを皮膜中のフリーの窒素(N)化合物がトラップし、安定した不溶性キレート化合物層を形成する効果によるものであると考えられる。加えて、この皮膜は、上記の理由からプレス後も残存するため、プレス後の耐食性の低下も防ぐことができる。
また、表面処理皮膜の厚みは0.005μm以上 0.4μm以下とする必要がある。というのは、皮膜厚が 0.005μmに満たないと十分な平板耐食性を付与することができず、一方0.4μmを超えると連続高速プレスによる皮膜剥離カスの蓄積量が多くなり、連続高速プレス成形後外観が低下するからである。好ましい皮膜厚は0.01〜0.3μm、より好ましくは0.03〜0.2μmである。
表1に示す各種めっき鋼板の表面をアルカリ脱脂処理後、水洗、乾燥したのち、表5に示す表面処理液を塗布した。その後、直ちに、鋼板表面温度が数秒〜十数秒で所定温度になるように加熱乾燥し、皮膜を形成させた。皮膜の膜厚は、皮膜組成物の固形分(加熱残分)や処理時間等により調整した。処理条件、皮膜厚および皮膜形態を表6に示す。
かくして得られた表面処理鋼板の品質性能(平板耐食性、連続高速プレス後外観、連続高速プレス後耐食性)について調べた結果を、表6に併記する。
(1)耐食性
各サンプルについて、プレスを行わず平板の状態で塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を施し、72時間後の耐白錆面積で評価した。判定方法は、次のとおりである。
◎:白錆面積率5%未満
○:白錆面積率5%以上 10%未満
〇−:白錆面積率10%以上 25%未満
△:白錆面積率25%以上 50%未満
×:白錆面積率50%以上
各サンプルについて、前記皮膜を形成した亜鉛系めっき鋼板に潤滑油を塗油した状態で、下記プレス条件の多段絞り成形を行い、金型に付着する汚れを拭き取ることなく10回連続して成形した後、10個目の成形材表面に付着した剥離カスの程度と、成形材表面の黒ずみ(黒化)の程度で評価した。
・プレス条件
亜鉛系めっき鋼板の板厚:0.8mm、成形速度:450mm/秒、ブランク径:90mm
(1段目)ポンチ径:φ49mm、 ポンチとダイスのクリアランス:1.4mm
(2段目)ポンチ径:φ39mm、 ポンチとダイスのクリアランス:0.8mm
(3段目)ポンチ径:φ32mm、 ポンチとダイスのクリアランス:0.8mm
(4段目)ポンチ径:φ27.5mm、ポンチとダイスのクリアランス:0.8mm
(5段目)ポンチ径:φ24.4mm、ポンチとダイスのクリアランス:0.8mm
判定方法は、次のとおりである。
◎:目視で潤滑油に蓄積された剥離カスが成形材表面にほとんど付着せず、成形材表面の黒ずみは確認されない。
〇:目視で潤滑油に蓄積された剥離カスが成形材表面にわずかに付着し、成形材表面の黒ずみは軽微。
△:目視で潤滑油に蓄積された剥離カスが成形材表面に少量付着し、成形材表面の黒ずみがやや多い。
×:目視で潤滑油に蓄積された剥離カスが成形材表面に多量に付着し、成形材表面の黒ずみが顕著
プレス成形後外観評価と同様の多段絞り成形を行った後、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を施し、16時間後の耐白錆面積で評価した。判定方法は、次のとおりである。
◎ :白錆面積率5%未満
○ :白錆面積率5%以上 10%未満
〇−:白錆面積率10%以上 25%未満
△ :白錆面積率25%以上 50%未満
× :白錆面積率50%以上
これに対し、比較例は、耐食性、連続高速プレス後の外観および耐食性のうち少なくともいずれか一つは発明例に比べると劣っている。
Claims (3)
- 亜鉛系めっき鋼板の表面に、リン化合物と、微粒子シリカおよび/またはシランカップリング剤からなるけい素化合物と、アミン系窒素化合物とからなるクロメートフリー表面処理皮膜のみを有し、該表面処理皮膜中のリン化合物の付着量がP換算で20〜100mg/m2、けい素化合物の付着量がSi換算で20〜100mg/m2、けい素化合物中のSi量に対するアミン系窒素化合物のN量の質量比N/Siが0.05〜3で、かつ表面処理皮膜の皮膜厚が0.005〜0.4μmであり、しかも該リン化合物およびけい素化合物が非晶質であることを特徴とする耐食性および連続高速プレス成型後の表面外観に優れる表面処理亜鉛系めっき鋼板。
- 前記表面処理皮膜中のけい素化合物中のSi量に対するリン化合物中のP量の質量比P/Siが、0.2〜3であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性および連続高速プレス成型後の表面外観に優れる表面処理亜鉛系めっき鋼板。
- 請求項1または2に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、
リン化合物、微粒子シリカおよび/またはシランカップリング剤からなるけい素化合物およびアミン系窒素化合物を、けい素化合物中のSi量に対するリン化合物中のP量の質量比P/Siが0.01〜100、またけい素化合物中のSi量に対するアミン系窒素化合物のN量の質量比N/Siが0.05〜3を満たす範囲で溶解または懸濁させた処理液を、亜鉛系めっき鋼板の表面に、乾燥・固化後の皮膜中のリン化合物の付着量がP換算で20〜100 mg/m2、けい素化合物の付着量がSi換算で20〜100mg/m2となる範囲で塗布し、乾燥・固化させ、皮膜厚が0.005〜0.4μmでかつ非晶質の表面処理皮膜を形成することを特徴とする耐食性および連続高速プレス成型後の表面外観に優れる表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
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