JP2005048199A - 耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板 - Google Patents

耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板 Download PDF

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和久 岡井
Akira Matsuzaki
晃 松崎
Takafumi Yamaji
隆文 山地
Keiji Yoshida
啓二 吉田
Masaaki Yamashita
正明 山下
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Abstract

【課題】皮膜中に6価クロムのような有害物質を全く含まずに、耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板の表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物とリン酸化合物とSi化合物を含有する表面処理皮膜が形成されている耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。この時、4価の価数を有するバナジウム化合物、リン酸化合物及びSi化合物の付着量は、それぞれV換算で0.1〜200mg/m、P換算で1〜1000mg/m、Si換算で10〜600mg/mであることが好ましい。さらに、前記表面処理皮膜中に、有機樹脂を含有することが好ましい。また、加熱乾燥後の前記表面処理皮膜厚が5μm以下であることが好ましい。さらに、表面処理鋼板の表面に、厚み:0.01〜5μmの有機系被覆層を形成することが好ましい。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用、家電用、建材用等に用いられる耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板に関するものであり、特に製造時の排水処理、製品を取扱う作業者・ユーザーへの影響を考慮し、製品中に環境・人体に有害な物質(特に6価クロム)を全く含まない環境調和型表面処理鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用鋼板、家電製品用鋼板、建材用鋼板には、従来から亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる目的で、6価クロムを主要成分とした処理液によるクロメート処理が施された鋼板が幅広く用いられてきた。しかし、クロメート処理は公害規制物質である6価クロムを使用するため、最近は従来から使用されていたクロメート処理に代わって、6価クロムを全く用いない無公害な処理皮膜を施した化成処理鋼板が提案されている。その中で、6価クロムに代わる成分として、バナジウム化合物を含有した溶液を用い、浸漬、塗布、電解処理などの方法によってめっき表面に薄膜を形成させる技術が数多く開示されている。
【0003】
特に、亜鉛やアルミニウムの防錆剤として広く公知なのは、5価の価数を有するバナジウム化合物である。5価のバナジウム化合物は貴な酸化還元電位をもち、酸化作用を有するため、めっき表面に不動態皮膜を形成して腐食環境下でのアノード腐食反応の抑制剤として防錆効果を発揮すると考えられている。
【0004】
例えば特許文献1や特許文献2では、主にリン酸イオンとバナジン酸イオンを含有する塗料で処理を行う方法が、特許文献3では、有機樹脂とチオカルボニル基含有化合物、バナジウム化合物を含む塗膜を形成する方法が、特許文献4では、特殊変性フェノール樹脂とバナジウム化合物とジルコニウム、チタニウム等の金属化合物を含む表面処理剤による処理がそれぞれ開示されている。また、特許文献5では、バナジウム化合物とジルコニウム、チタニウム化合物等を含む表面処理液も提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平1−92279号公報
【0006】
【特許文献2】
特開平1−131281号公報
【0007】
【特許文献3】
特開2000−248380号公報
【0008】
【特許文献4】
特開平2001−181860号公報
【0009】
【特許文献5】
特開2002−30460号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法は、主に5価のバナジウム化合物の防錆効果を狙ったもので、大きな防食効果は得られない。また、特許文献3に記載の方法は、耐食性向上効果を発揮しているのはチオカルボニル基を含む化合物であり、主成分は5価のバナジウム化合物であるため耐食性向上効果は大きくない。特許文献4に記載の技術は、最も耐食性に効果のあるのは特殊変性フェノール樹脂であって、バナジウム、ジルコニウム等の金属塩の効果は小さく、クロメート処理皮膜に比べ耐食性が十分とは言えない。さらに、特許文献5に記載の技術は、5価のバナジウム化合物を一部還元した2〜4価のバナジウム化合物によって皮膜を形成したものであるが、この場合、腐食抑制効果の小さい2、3価のバナジウム化合物皮膜が混在し十分な耐食性が得られないと同時に、湿潤環境等にさらされた場合、皮膜の着色が顕著になり外観劣化を生じる。
【0011】
このように、いずれの技術も耐食性をある程度発現するものの、クロム酸イオンに比べ酸化力が劣るため、クロメート皮膜と比較して耐食性が十分ではない。また、耐食性を確保するために付着量を大きくすると、5価のバナジウム化合物を含有した皮膜の場合、乾燥後に5価のバナジウム化合物に由来した黄色味を帯びた外観となってしまうという問題がある。さらに、5価以外のバナジウム化合物でも亜鉛系めっき鋼板に処理を施した場合にも、皮膜が変色し、皮膜外観と耐食性を両立することはできていなかった。
【0012】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたもので、皮膜中に6価クロムのような有害物質を全く含まずに、耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、着色を起こさずに優れた皮膜外観を有し、かつ耐食性に優れた無機化合物の検討を行った。その結果、これまでに亜鉛やアルミニウムの防錆剤として知られている5価のバナジウム化合物ではなく、4価のバナジウム化合物を用いることにより、従来の課題であった着色による皮膜外観の問題を解消できること、さらにリン酸化合物、Si化合物と併用することで格段に優れた耐食性を有することを見出した。
【0014】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下のとおりである。
【0015】
[1]亜鉛系めっき鋼板の表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物とリン酸化合物とSi化合物を含有する表面処理皮膜が形成されていることを特徴とする耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
【0016】
[2]上記[1]において、4価の価数を有するバナジウム化合物、リン酸化合物及びSi化合物の付着量が、それぞれV換算で0.1〜200mg/m、P換算で1〜1000mg/m、Si換算で10〜600mg/mであることを特徴とする耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
【0017】
[3]上記[1]または[2]において、前記表面処理皮膜中に、さらに有機樹脂が含有されていることを特徴とする耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
【0018】
[4]上記[1]ないし[3]において、前記表面処理皮膜の加熱乾燥後の皮膜厚が5μm以下であることを特徴とする耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
【0019】
[5]上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の表面処理鋼板の表面に、さらに厚み:0.01〜5μmの有機系被覆層が形成されていることを特徴とする耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
【0021】
本発明の特徴である表面処理皮膜を形成するためのベースとなる亜鉛系めっき鋼板としては、例えば、Al:≦20質量%、Ni:≦20質量%、Si:≦10質量%、Fe:≦15質量%、Mg:≦10質量%、Cr:≦20質量%、Co:≦2質量%、Mn:≦40質量%を満たし、残部がZnであるめっき層を電気めっき法(電解法)、溶融めっき法(溶融めっきをした後に合金化処理した合金化めっき鋼板を用いることも可能)、気相法等によって形成した鋼板を使用することができる。また、例えば、亜鉛を50質量部%以上含む亜鉛めっき鋼板、Zn−Niめっき鋼板、Zn−Feめっき鋼板、Zn−Crめっき鋼板、Zn−Mnめっき鋼板、Zn−Coめっき鋼板、Zn−Co−Cr合金めっき鋼板、Zn−Cr−Niめっき鋼板、Zn−Cr−Feめっき鋼板、Al−Zn−Mgめっき鋼板(例えばZn−6%Al−3%Mg合金めっき鋼板、Zn−11%Al−3%Mg合金めっき鋼板)、Al−Znめっき鋼板(例えば、Zn−5%Al合金めっき鋼板)を用いることができる。これらのめっきにはさらに金属酸化物、ポリマーなどを分散した亜鉛系複合めっき鋼板(例えば、Zn−SiO分散めっき鋼板)を用いることも可能である。さらには、同種または異種のものを二層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
【0022】
また、めっき層と鋼板の間に、あらかじめNiなどの薄目付けのめっきを施しても良い。さらに、めっき層の黒変(めっき表面の酸化現象の一種)を防止する目的で、めっき皮膜中に1〜5000ppmのNi、Co、Feを含有させることが望ましい。また、めっき層表面に無機、あるいは有機皮膜を形成する際に、皮膜欠陥やムラを生じさせにくくするために、あらかじめ、めっき層の表面にNi、Co、Feを含むアルカリもしくは酸性水溶液による表面調整処理を施し、これらの元素を析出させることも可能である。
【0023】
本発明では、前記亜鉛系めっき鋼板の表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物とリン酸化合物とSi化合物を含有する表面処理皮膜を形成する。
【0024】
まず、4価のバナジウム化合物について説明する。4価のバナジウム化合物としては、バナジウムの酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸物、炭酸物、ハロゲン化物、窒化物、フッ化物、炭化物、シアン化物(チオシアン化物)およびこれらの塩などが挙げられる。このようにバナジウムの供給源は特別に制約はなく、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。特に、4価バナジウム化合物の中でも、最も優れた耐食性を発現することが可能な硫酸物を4価のバナジウム化合物として用いることが望ましい。表面処理皮膜中のバナジウム化合物の付着量としては、バナジウム換算で0.1〜200mg/mとするのが好ましい。200mg/m超えでは経済的に不利である。さらに好ましくは、0.5〜150mg/mであり、より好ましくは、1〜100mg/mである。
【0025】
次に、リン酸化合物について説明する。本発明において用いられるリン酸化合物とは、可溶性の化合物であり、可溶性リン酸化合物としては、例えばリン酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、ピロリン酸、ピロリン酸塩、トリポリリン酸、トリポリリン酸塩などの縮合リン酸塩、亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩等が挙げられる。また、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることもできる。皮膜中のリン酸化合物の付着量としては、リン換算で1〜1000mg/mとするのが好ましい。最も優れた耐食性を発現するために、リン換算で1mg/m以上とするのが好ましい。1000mg/m超えでは、耐水性が低下する。さらに好ましくは、5〜750mg/mであり、より好ましくは10〜500mg/mである。
【0026】
次に、Si化合物について説明する。本発明において用いられるSi化合物として、微粒子シリカ(コロイダルシリカおよび乾式シリカ等)やシランカップリング剤などが挙げられる。コロイダルシリカでは、例えば、日産化学(株)製のスノーテックスO、C、N、S、20、OS、OXSなどを用いることができる。乾式シリカとしては、日本アエロジル(株)製のAEROSIL50、130、200、300、380などを用いることができる。また、カルシウムをその表面に結合させたカルシウムイオン交換シリカとして、W.R.Grace&Co.製のSHIELDEX C303、SHIELDEX AC3、富士シリシア化学(株)製のSHIELDEX SY710などを挙げることができる。シランカップリング剤は、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメエキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジルアミン)−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができ、これらのSi化合物は1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することも可能である。皮膜中のSi化合物の付着量としては、Si換算で10〜600mg/mとすることが好ましい。600mg/m超えでは飽和したSi化合物が逆に耐食性を悪化させてしまう。さらに好ましくは、30〜500mg/mであり、より好ましくは50〜400mg/mである。
【0027】
4価のバナジウム化合物とリン酸化合物とSi化合物を含有した皮膜をめっき鋼板の表面に形成することにより、耐食性を高められる理由は必ずしも明らかではないが、以下の機構によるものであると推定する。
【0028】
バナジウム化合物の中で一般的な5価のバナジウム化合物は、その酸化作用のためにバナジウム化合物自身は還元され、酸化物や水酸化物などとしての皮膜がめっき層の表面に形成される。そして、形成される皮膜は、皮膜形成時における局部的なpHの上昇度の違い(バナジウム化合物還元時の水素イオン消費による局部的なpH上昇度の違い)によって2、3、4価の化合物が混在すると考えられる。すなわち、pHによって安定に存在する還元物の形態が異なり、2、3、4価のバナジウム化合物皮膜を形成する。しかしながら、形成された2、3、4価が混在するバナジウム化合物皮膜の中には、腐食を抑制する十分なバリア効果を発揮できないものも存在し、その部分が腐食の起点となってしまう。一方、本発明で用いる4価のバナジウム化合物は5価のバナジウム化合物と異なり、酸化作用がないため、2、3価のバナジウム化合物は形成されにくく、皮膜のほとんどが4価のバナジウム化合物で形成される。4価の化合物が十分なバリア効果をもつ理由は、4価のバナジル(IV)イオン:VO や、その錯イオン(例えば、[VO(SO2−)が、他に比べ、めっき表面に緻密な皮膜を形成するためであると推測される。
【0029】
また、本発明ではリン酸化合物を4価のバナジウム化合物と複合添加することによって、飛躍的に耐食性を向上させることができる。その理由は、めっき鋼板の表面状態によらず良好な耐食性が得られることからも、処理液とめっき金属との界面反応、つまりリン酸化合物を表面処理皮膜中に配合することによりめっき表面のエッチング反応が増加しているものと推定される。このエッチング反応によって活性化されためっき層の表面に、バナジウムおよびリンを含有した界面反応層が形成され、めっき金属と強固に密着した皮膜を形成する。その結果、湿潤環境下においても防錆成分が溶出しにくくバリア効果を維持できるため、優れた耐食性を発揮できると考えられる。
【0030】
さらに、本発明では、Si化合物を添加することにより、腐食環境下において、Si化合物が緻密で安定な亜鉛の腐食生成物の生成に寄与し、この腐食生成物がめっき表面に形成されることによって、腐食の促進を抑制する。微粒子シリカの場合、耐食性の観点からは緻密な腐食性生物を形成しやすい平均粒子径のより小さいシリカが望ましく、めっき成分として亜鉛を多く含有するめっき鋼板ほどシリカの防食効果が大きい。さらに、Si化合物添加は湿潤環境下でのバナジウム化合物溶出を抑制するため、皮膜の着色を起こさせない効果がある。
【0031】
上記のようにして形成された表面処理皮膜によって耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板を得ることができるが、本発明ではさらに表面処理皮膜中に有機樹脂を配合することが可能であり、一段と耐食性を向上させることができる。
【0032】
有機樹脂としては特に制限はなく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリル−エチレン共重合体、アクリル−スチレン共重合体、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン樹脂、フッ素樹脂等を用いることができる。特に耐食性の観点からは、OH基および/またはCOOH基を有する有機高分子樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
前記OH基および/またはCOOH基を有する有機高分子樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂、アルキド樹脂、ポリブタジエン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミン樹脂、ポリフェニレン樹脂類及びこれらの樹脂2種以上の混合物もしくは付加重合物等が挙げられる。
【0034】
前記ポリヒドロキシポリエーテル樹脂は、単核型若しくは2核型の2価フェノールまたは単核型と2核型との混合2価フェノールを、アルカリ触媒の存在下にほぼ等モル量のエピハロヒドリンと重縮合させて得られる重合体である。単核型2価フェノールの代表例としてはレゾルシン、ハイドロキノン、カテコールが挙げられ、2核型フェノールの代表例としてはビスフェノールAが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ノボラック等をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、ビスフェノールAにプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドまたはポリアルキレングリコールを付加し、グリシジルエーテル化したエポキシ樹脂、さらには脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、ポリエーテル系エポキシ樹脂等を用いることができる。これらエポキシ樹脂は、特に低温での硬化を必要とする場合には、数平均分子量1500以上のものが望ましい。なお、上記エポキシ樹脂は単独または異なる種類のものを混合して使用することもできる。また、変性エポキシ樹脂とすることも可能であり、上記エポキシ樹脂中のエポキシ基またはビドロキシル基に各種変性剤を反応させた樹脂が挙げられる。例えば乾性油脂肪酸中のカルボキシル基を反応させたエポキシエステル樹脂、アクリル酸、メタクリル酸等で変性したエポキシアクリレート樹脂、イソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂、エポキシ樹脂にイソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂にアルカノールアミンを付加したアミン付加ウレタン変性エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0036】
前記ウレタン樹脂としては、例えば、油変性ポリウレタン樹脂、アルキド系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。
【0037】
前記アクリル樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアクリル酸エステル及びその共重合体、ポリメタクリル酸及びその共重合体、ポリメタクリル酸エステル及びその共重合体、ウレタン−アクリル酸共重合体(またはウレタン変性アクリル樹脂)、スチレン−アクリル酸共重合体等が挙げられ、さらにこれらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等によって変性させた樹脂を用いてもよい。
【0038】
前記アクリルシリコン樹脂としては、例えば、主剤としてアクリル系共重合体の側鎖又は末端に加水分解性アルコキシシリル基を含み、これに硬化剤を添加したもの等が挙げられる。これらのアクリルシリコン樹脂を用いた場合、優れた耐候性が期待できる。
【0039】
前記アルキド樹脂としては、例えば、油変性アルキド樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、フェノール変性アルキド樹脂、スチレン化アルキド樹脂、シリコン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、オイルフリーアルキド樹脂、高分子量オイルフリーアルキド樹脂等を挙げることができる。
【0040】
前記エチレン樹脂としては、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、カルボキシル変性ポリオレフィン樹脂などのエチレン系共重合体、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体、エチレン系アイオノマー等が挙げられ、さらに、これらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等によって変性させた樹脂を用いてもよい。
【0041】
前記フッ素樹脂としては、フルオロオレフィン系共重合体があり、これには例えば、モノマーとしてアルキルビニルエーテル、シンクロアルキルビニルエーテル、カルボン酸変性ビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル、テトラフルオロプロピルビニルエーテル等と、フッ素モノマー(フルオロオレフィン)とを共重合させた共重合体がある。これらフッ素樹脂を用いた場合には、優れた耐候性と優れた疎水性が期待できる。
【0042】
また、樹脂の乾燥温度の低温化を狙いとして、樹脂粒子のコア部分とシェル部分とで異なる樹脂種類、または異なるガラス転移温度の樹脂からなるコア・シェル型水分散性樹脂を用いることも可能である。また、自己架橋性を有する水分散性樹脂を用い、例えば、樹脂粒子にアルコキシシラン基を付与することによって、樹脂の加熱乾燥時にアルコキシシランの加水分解によるシラノール基の生成と樹脂粒子間のシラノール基の脱水縮合反応を利用した粒子間架橋を利用することも可能である。また、有機樹脂を、シランカップリング剤を介してシリカと複合化させた有機複合シリケートも好適である。
【0043】
上記の有機樹脂は1種または2種類以上を混合して用いることができる。
【0044】
さらに、耐食性や加工性の向上を狙いとして、特に熱硬化性樹脂を用いることが望ましいが、この場合、尿素樹脂(ブチル化尿素樹脂等)、メラミン樹脂(ブチル化メラミン樹脂)、ブチル化尿素・メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂、ブロックイソシアネート、オキサゾリン化合物、フェノール樹脂等の硬化剤を配合することができる。
【0045】
また、上記有機樹脂中に、必要に応じて、皮膜の加工性を向上させる目的で固形潤滑剤を配合することができる。本発明に適用できる固形潤滑剤としては、例えば、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、ラノリン系ワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス及びカルナウバろうなどを挙げることができ、特に限定はされない。また潤滑剤は、1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。皮膜中での固形潤滑剤の配合量は、樹脂100質量部(固形分)に対して1〜50質量部(固形分)、好ましくは3〜30質量部(固形分)とする。固形潤滑剤の配合量が1質量部未満では潤滑効果が乏しく、一方、配合量が50質量部を超えると塗装性が低下するので好ましくない。
【0046】
本発明における表面処理皮膜の加熱乾燥後の皮膜厚は、皮膜中のバナジウム化合物のV換算での付着量1〜500mg/mとリン酸化合物のP換算での付着量5〜500mg/m、Si化合物のSi換算での付着量30〜750mg/mを確保した上で、5μm以下であることが望ましい。5μm超えでは導電性が低下するという問題が生じる可能性がある。好ましくは3μm以下であり、さらに好ましくは2μm以下である。
【0047】
また、耐食性を向上させるための防錆添加剤として、表面処理皮膜中にさらに酸化物微粒子(例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アンチモン等)、リン酸塩(例えば、リン酸亜鉛、リン酸二水素アルミニウム、亜リン酸亜鉛等)、モリブデン酸塩、リンモリブデン酸塩(リンモリブデン酸アルミニウム等)、バナジン酸塩、有機リン酸およびその塩(例えば、フィチン酸、フィチン酸塩、ホスホン酸、ホスホン酸塩及びこれらの金属塩、アルカリ金属塩)、有機インヒビター(例えば、ヒドラジン誘導体、チオール化合物、ジチオカルバミン酸塩等)、有機化合物(ポリエチレングリコール)等から選ばれる1つ以上の化合物を添加してもよい。
【0048】
その他の添加剤として、有機着色顔料(例えば、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料等)、着色染料(例えば、有機溶剤アゾ系染料、水溶性アゾ系金属染料等)、無機顔料(酸化チタン)、キレート剤(チオール等)、導電性顔料(例えば、亜鉛、アルミニウム、ニッケルなどの金属粉末、リン化鉄、アンチモンドープ型酸化錫など)、メラミン・シアヌル酸付加物等を表面処理皮膜中に添加することもできる。
【0049】
亜鉛系めっき鋼板の表面に表面処理皮膜を形成する方法としては、通常行われている方法を用いることができる。例えば、塗布法、浸漬法、スプレー法等により本発明範囲内の表面処理組成物を処理した後、加熱乾燥を行う。塗布処理方法としては、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーターなどいずれの方法でもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、あるいは浸漬処理、スプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。加熱乾燥手段としてはドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。加熱処理は、到達板温で300℃以下、好ましくは250℃以下である。加熱温度が300℃を越えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じ耐食性が低下する。
【0050】
また、さらに、上記のようにして形成された表面処理皮膜の表面に、第2層皮膜として、有機系の表面処理組成物によって厚み:0.01〜5μmの被覆層を形成させることも可能である。前記被覆層の皮膜成分は特に限定しないが、前述した有機樹脂および硬化剤に、防錆添加剤、固形潤滑剤等を含有した皮膜とすることが耐食性向上の観点から望ましい。ただし、第2層皮膜を形成する場合、第2層である被覆層の厚みを0.01μm以上5μm以下にするとともに、表面処理皮膜と第2層皮膜の両皮膜の合計厚みが5μm以下にすることが、導電性の観点から好ましい。また、第2層の被複層を形成する方法は、通常行われている方法であり、特に限定されない。
【0051】
【実施例】
表1に示すバナジウム化合物、表2に示すリン酸化合物、表3に示すSi化合物を配合し、必要に応じて表4に示す有機樹脂、防錆添加剤を配合した表面処理液を作製した。処理原板としては、表5に示す各種めっき鋼板を用い、めっき鋼板の表面をアルカリ脱脂処理、水洗乾燥した後、上記処理液で処理し各種温度で乾燥した。皮膜の膜厚は、皮膜組成物の固形分(加熱残分)や処理時間等により調整し0.01〜5μmとした。得られた表面処理鋼板の品質性能(皮膜外観、耐食性、導電性)結果を実験条件と併せて表6に示す。なお、品質性能評価方法は、以下の通りである。
(1)湿潤試験後皮膜外観
各サンプルについて、80℃×98%RHの環境下で1日放置した後、皮膜外観を目視で評価した。評価基準は、以下の通りである。
【0052】
◎ :着色および変色なし(湿潤試験前と同じ)
○ :斜めからみて確認できる程度のごくうすい着色
△ :20%未満の明らかな着色および変色
× :20%以上の明らかな着色および変色
(2)耐白錆性
各サンプルについて、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、所定時間後の白錆面積率で評価した。尚、シリカを含まない皮膜については120時間後、180時間後及び240時間後の耐白錆性で評価した。
判定方法は、以下の通りである。
【0053】
◎ :白錆面積率5%未満
○ :白錆面積率5%以上、10%未満
○−:白錆面積率10%以上、25%未満
△ :白錆面積率25%以上、50%未満
× :白錆面積率50%以上、100%以下
(3)導電性
JIS C2550により層間絶縁抵抗値を測定した。
【0054】
○ :3Ω・cm/枚 以下
△ :3〜5Ω・cm/枚
× :5Ω・cm/枚 超え
【0055】
【表1】
Figure 2005048199
【0056】
【表2】
Figure 2005048199
【0057】
【表3】
Figure 2005048199
【0058】
【表4】
Figure 2005048199
【0059】
【表5】
Figure 2005048199
【0060】
【表6】
Figure 2005048199
【0061】
表6より、本発明例では湿潤試験後皮膜外観、耐白錆性(耐食性)、導電性いずれも優れており、特に付着量を限定した本発明例ではさらに耐白錆性(耐食性)が向上していることがわかる。一方、比較例では湿潤試験後皮膜外観、耐白錆性(耐食性)、導電性のいずれか一つ以上が本発明例に比べ劣っている。
【0062】
【発明の効果】
以上、本発明によれば、耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板を提供することができる。特にめっき皮膜中のAl含有量が低く耐食性に劣るAl−Znめっき鋼板の表面に表面処理皮膜を形成する場合などに本発明は有効である。また、本発明の表面処理鋼板は、製品中に環境・人体に有害な物質(特に6価クロム)を全く含まないので、環境調和型表面処理鋼板として最適である。

Claims (5)

  1. 亜鉛系めっき鋼板の表面に、4価の価数を有するバナジウム化合物とリン酸化合物とSi化合物を含有する表面処理皮膜が形成されていることを特徴とする耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
  2. 4価の価数を有するバナジウム化合物、リン酸化合物及びSi化合物の付着量が、それぞれV換算で0.1〜200mg/m、P換算で1〜1000mg/m、Si換算で10〜600mg/mであることを特徴とする請求項1に記載の耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
  3. 前記表面処理皮膜中に、さらに有機樹脂が含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載の耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
  4. 前記表面処理皮膜の加熱乾燥後の皮膜厚が5μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3に記載の耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理鋼板の表面に、さらに厚み:0.01〜5μmの有機系被覆層が形成されていることを特徴とする耐食性、導電性および皮膜外観に優れる表面処理鋼板。
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