(第1実施形態)
以下、本発明をインクジェット式プリンターに適用した第1実施形態を、図1〜図11に従って説明する。図1は、外装ケースを取り外した状態のインクジェット式プリンターの斜視図を示す。図1に示すように、流体噴射装置としてのインクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター11」と称す)は、上側が開口する略四角箱状の本体ケース12を備え、この本体ケース12内に架設されたガイド軸13にはキャリッジ14が主走査方向(図1におけるX方向)に案内されて往復動可能な状態で設けられている。キャリッジ14が背面側で固定された無端状のタイミングベルト15は、本体ケース12の背板内面に配設された一対のプーリ16,17に巻き掛けられ、そのうち一方のプーリ16に駆動軸を連結するキャリッジモーター(以下、「CRモーター18」という)が正逆転駆動されることにより、キャリッジ14は主走査方向Xに往復動する構成となっている。
キャリッジ14の下部には、流体としてのインクを噴射する流体噴射ヘッドとしての記録ヘッド19が設けられている。記録ヘッド19の下面は複数列のノズルが開口するノズル形成面19a(ノズル開口面)となっている。さらに本体ケース12内において記録ヘッド19と対向する下方位置には、記録媒体としての用紙Pと記録ヘッド19との間隔を規定するプラテン20がX方向に延びる状態で配置されている。また、キャリッジ14の上部には、ブラック用およびカラー用の各インクカートリッジ21,22が着脱可能に装填されている。記録ヘッド19は、各インクカートリッジ21,22から供給された各色のインクを、色ごとのノズル列から噴射(吐出)する。なお、本実施形態では、CRモーター18及びタイミングベルト15等により、移動手段が構成される。
プリンター11の背面側には、給紙トレイ23と、給紙トレイ23上に積重された多数枚の用紙Pのうち最上位の1枚のみを分離して副走査方向Y下流側に供給する自動給紙装置(Auto Sheet Feeder)24とが設けられている。自動給紙装置24によって用紙Pはプラテン20上の印刷開始位置まで給送される。
また、本体ケース12の図1における右側下部には、紙送りモーター(以下、「PFモーター25」という)が配設されている。PFモーター25が駆動されることにより、紙送り機構の紙送りローラー及び排紙ローラー(いずれも図示せず)が回転駆動され、給送後の用紙Pの副走査方向Yへの搬送が行われる。そして、キャリッジ14を主走査方向Xに往復動させながら記録ヘッド19のノズルから用紙Pに向けてインクを噴射する印字動作と、用紙Pを副走査方向Yに次行印字位置まで搬送する紙送り動作とを交互に繰り返す印刷動作により、用紙Pに文字や画像等の印刷が施される。なお、PFモーター25が自動給紙装置24の動力源としても利用されている。
また、プリンター11には、キャリッジ14の移動距離に比例する数のパルスを出力するリニアエンコーダー26がガイド軸13に沿って延びるように架設されている。リニアエンコーダー26の出力パルスを用いて求められるキャリッジ14の移動位置、移動速度及び移動方向に基づいて、キャリッジ14の速度制御及び位置制御は行われる。
プリンター11において、キャリッジ14の移動経路のうち主走査方向Xにおいて印刷可能な最大範囲が印刷領域(流体噴射領域)となっている。印刷領域の外側(図1における右外側)には、キャリッジ14のホーム位置(ホームポジション)が設定されている。ホーム位置にあるキャリッジ14の直下には、記録ヘッド19のノズル目詰まり等を予防・解消するためのクリーニングを行うメンテナンス装置30が配設されている。
メンテナンス装置30は、キャッピング装置31とワイピング装置32とを備える。キャッピング装置31は、上側が開口する略四角箱状のキャップ33を昇降可能に備え、上昇させたキャップ33を記録ヘッド19のノズル形成面19aに当接させることで、記録ヘッド19がキャップ33でノズルを囲む状態にキャッピングされる構成となっている。そして、このキャッピング状態の下で、キャッピング装置31に隣接する吸引ポンプ35が駆動されると、キャップ33内に吸引力が及んで負圧が発生し、その負圧により記録ヘッド19の全ノズルからインクが強制的に吸引排出されるインク吸引動作が行われる。なお、本実施形態では、インク吸引動作を行うキャッピング装置31によりクリーニング手段が構成される。
また、プリンター11では、記録ヘッド19が印刷領域外の所定位置で、全ノズルから印刷とは関係のないインクを噴射してノズル内の増粘インクなどを廃棄する空吐出(以下、フラッシングと呼ぶ)が行われる。本例では、キャップ33が、フラッシング時のインク滴を受け止める受け皿としても機能し、インク吸引動作が行われるクリーニング位置(本例ではホーム位置)と同じ位置にフラッシング位置が設定されている。キャップ33から吸引ポンプ35に吸引された廃インクは、プラテン20の下側に配置された廃液タンク36に排出される。さらにキャップ33は、プリンター11が印刷を行わない待機中や、プリンター11の電源オフ中に、記録ヘッド19をキャッピングしてノズル内のインクの増粘や固化を抑制する蓋体として機能(キャッピング機能)する。なお、本例の吸引ポンプ35は、例えばチューブポンプであるが、ダイヤフラム式ポンプ、ベローズ式ポンプ、ピストン式ポンプ、ギヤポンプなど他のポンプも採用できる。
ワイピング装置32は、キャッピング装置31の印刷領域側の略隣接位置に配置され、ノズル形成面19aを払拭(ワイピング)するためのワイピング手段としてのワイパー37(ワイパーユニット)を備えている。ワイパー37は、回転式であると共に昇降可能に設けられ、ノズル形成面19aを払拭できる高さ(払拭位置)と、ノズル形成面19aから離間する高さ(退避位置)とに移動配置可能となっている。クリーニング(インク吸引動作)終了後、キャリッジ14がホーム位置から印刷領域側へ移動する過程(払拭過程)で、払拭位置に配置されたワイパー37によりノズル形成面19aがワイピング(払拭)される。なお、ワイピング装置32の詳細については後述する。
図2は記録ヘッドのノズル形成面を示す。図2に示すように、記録ヘッド19のノズル形成面19aには、副走査方向(図2における上下方向)に一定のノズルピッチで配列された計180個のノズル♯1〜♯180が4列配置され、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の計4列のノズル19bが形成されている。本例では、4列のノズル19bを用いて、K,C,M,Yの4色の印刷を行う。なお、ノズル列を構成する各ノズル19bは千鳥配置でもよい。
また、図2に示すように、記録ヘッド19には、ノズル19bからインクを噴射させるための吐出駆動素子38(噴射駆動素子)がノズル19b毎に設けられている(但し、図2では記録ヘッド19の外側に模式的に1列分のみ描いている)。吐出駆動素子38は、例えば圧電振動素子又は静電駆動素子からなり、所定駆動波形の電圧パルスが印加されると、電歪作用又は静電駆動作用により、ノズル19bに連通するインク室の内壁部(振動板)を振動させて、インク室を膨張・圧縮させることでノズル19bからインク滴を噴射する。もちろん吐出駆動素子38はノズル通路内のインクを加熱するヒーターでもよく、ヒーターで加熱したインク内に沸騰により発生した気泡の膨張を利用してノズルからインク滴を吐出させる方式も採用できる。
次に、メンテナンス装置30の構成を説明する。図3はメンテナンス装置の一部を破断した正面図である。図3に示すように、キャッピング装置31は、キャップ33を昇降させる昇降機構40と、吸引ポンプ35とを備えている。昇降機構40は、電動モーター41から入力された回転力(回転運動)を内部のカム機構(図示せず)で上下運動に変換し、スライド式の支持部42を上下方向(キャップ33がノズル形成面19aに対して接離する方向)に移動させる機構である。キャップ33は、支持部42の上端部の支持板42aにバネ43を介して上方へ付勢された状態で支持されている。キャップ33は、電動モーター41の正逆転駆動により昇降し、ノズル形成面19aから離間した図3に実線で示す退避位置と、ノズル形成面19aに当接する図3に二点鎖線で示すキャッピング位置との間を移動可能に構成されている。
また、キャップ33内は昇降機構40内に配管されたチューブ等の管路44を通じて吸引ポンプ35の吸入口と連通している。そのため、吸引ポンプ35が吸引駆動(ポンピング駆動)されると、管路44を通じてキャップ33内に吸引力が作用する。なお、本例では、吸引ポンプ35は、紙送り機構と共通のPFモーター25を動力源として駆動される。
また、キャリッジ14の下面には、所定長さを有するラック46が主走査方向X(図3では左右方向)に沿って延びる状態で固定されている。このラック46は、ワイパー37を回転させる動力をワイピング装置32に伝達する動力伝達手段の一部を構成する。
次に図3及び図4を用いて、ワイピング装置32の詳細を説明する。図4は、ワイピング装置の側断面図を示す。図3に示すように、キャッピング装置31の印刷領域側にほぼ隣接して位置するワイピング装置32は、本体ケース12の底面に固定された筒状又は一対よりなるガイド部材50と、ガイド部材50に案内されて上下方向にスライド可能に支持された貯留手段としてのタンク51と、タンク51内に貯留された洗浄液Lに一部が浸漬する状態でタンク51に回転自在に支持された前述の回転式のワイパー37と、タンク51を昇降させる昇降装置52とを備えている。
図3及び図4に示すように、昇降装置52は、タンク51の底面(裏面)に当接する偏心カム53を有するカム機構54と、カム機構54に動力を出力する電動モーター55とを備えている。カム機構54は、電動モーター55の駆動軸に固定されたピニオンギヤ56と噛合する歯車57と、歯車57が一端部に固定されるとともに他端部に偏心カム53が固定された回動軸58とを有している。偏心カム53は、その回転中心から外周面(カム面)までの距離(径)が連続的に変化する所定形状を有し、その偏心位置に回動軸58が連結されている。電動モーター55が正転駆動されると、偏心カム53が図3及び図4に示す横倒位置から、図3における反時計方向へ回動してタンク51は持ち上げられる(上昇する)。また、電動モーター55が逆転駆動されると、偏心カム53が図3における時計方向へ回動してタンク51は図3及び図4に示す退避位置まで下降するようになっている。
図3及び図4に示すように、回転式のワイパー37は、タンク51に回転自在に支持された回転体としてのローラー体59と、ローラー体59の外周面から突出する状態で周方向に等間隔に配置された複数組(本例では3組)の払拭部60とを備えている。本実施形態の払拭部60は、ゴム素材を短冊状に成形したワイパーブレード61と、液体(インクや洗浄液等)を吸収可能な多孔質材又は繊維材(不織布、織布又はフェルト等)からなる吸収体62とを有する。本例では、3組の払拭部60のうちローラー体59の上端部から上方へ突出する払拭姿勢の払拭部60が、ノズル形成面19aの払拭に使用される。そして、ワイパー37を所定回転角(例えば約120度)ずつ回動させる度に、複数組(3組)の払拭部60のうち払拭に使用される1組が順番に払拭姿勢に配置される構成となっている。
図6及び図7はワイピング装置及びキャッピング装置の模式正面図である。ここで、図6はワイパーが払拭位置に配置されてワイピング(払拭過程)が開始されたときの状態を示し、図7はワイパーが動力伝達位置に配置されて復帰過程(非払拭過程)が開始されたときの状態を示す。
ワイパー37は、電動モーター55が正逆転駆動されることで3つの高さ位置に配置される。すなわち、ワイパー37は、図3及び図4に示す退避位置(最下降位置)と、払拭姿勢(払拭可能な位置)の払拭部60をノズル形成面19aと接触可能な高さに配置しうる図6に示す払拭位置と、払拭位置より更に所定距離だけ上方の高さであってピニオン73とラック46とが噛合可能な図7に示す動力伝達位置(最上昇位置)とに配置される。なお、本実施形態では、昇降装置52が、ワイピング手段と流体噴射ヘッドとのうち少なくとも一方を、払拭部のノズル形成面に対する離接方向に沿って昇降させる昇降手段を構成している。
ここで、図3〜図7に示すように、払拭姿勢に配置された払拭部60では、ワイパーブレード61の先端が吸収体62の先端より高く位置し、かつ払拭過程でワイパーブレード61よりも吸収体62の方がノズル形成面19aに先に当接する配列順序となっている。このため、払拭過程では、洗浄液Lで湿潤した吸収体62がノズル形成面19aに先に当接してこれを洗浄液で軽く拭き取り、その洗浄液で拭き取られたノズル形成面19aをワイパーブレード61が掻き取る順序でワイピング動作が行われるようになっている。
図3〜図7に示すように、ローラー体59には、略円柱状の回転支持機構64が嵌挿されている。図4に示すように、回転支持機構64の右端部に延びる2本の軸部66aがタンク51の右側壁部に軸止されるとともに、回転支持機構64の左端部に突出する1本の回転軸67aが軸受69を介してタンク51の左側壁部に回転可能に支持されている。ローラー体59は、回転軸67aと共に回転可能となっているが、回転支持機構64が備えるワンウェイクラッチ65の作用により一方向(図3、図6、図7における時計方向)のみに回転が許容され、他方向(図3、図6、図7における反時計方向)への回転が規制される。なお、ワンウェイクラッチ65により、ワイピング手段の従動回転を規制する回転規制手段が構成される。
また、図4に示すように、回転軸67aの左端部には歯車70が固着されている。そして、タンク51の左側壁部の上部に固定された支持部71には、互いに噛合する上下2個の小歯車72,73が支持されている。下側の小歯車72は歯車70と噛合し、上側の小歯車73がキャリッジ14側のラック46と噛合可能なピニオン(以下、「ピニオン73」とも称す)となっている。ラック46とピニオン73は、ワイパー37が動力伝達位置に配置された状態の下で、記録ヘッド19がワイパー37の上方を通過してホーム位置側へ復動する復帰過程(図3における右方向移動過程)で噛合して、キャリッジ14とワイパー37との相対直線運動をピニオン73の回転運動に変換する動力伝達手段としてのラック・アンド・ピニオン機構75を構成する。ラック・アンド・ピニオン機構75により相対直線運動から変換された回転運動の回転力は、小歯車72、歯車70及び回転軸67aを介してワイパー37に伝達される。なお、本実施形態では、歯車70、小歯車72、ラック・アンド・ピニオン機構75(ピニオン73及びラック46)等により、回転手段が構成される。
ここで、ラック46の長さは、ワイパー37を約1/3回転(約120度回動)できる値に設定されている。このため、図7に示す復帰過程では、ラック46とピニオン73との噛合によりワイパー37が図7における時計方向に約1/3回転する。このワイパー37の約1/3回転により、払拭に使用された払拭部60が払拭姿勢の位置から洗浄液Lに浸漬する位置まで移動し、これと同時に、それまで洗浄液Lに浸漬していた払拭部60が払拭姿勢の位置まで移動するようになっている。
次にワンウェイクラッチ65の構成を図5に基づいて説明する。図5(a),(b)は、ワンウェイクラッチ65の一部破断側面図、図5(c)は、ワンウェイクラッチ65の図5(b)におけるB−B線断面図、図5(d)〜(f)は、ワンウェイクラッチ65の図5(a)におけるA−A線断面図をそれぞれ示す。ここで、図5(b),(c)は払拭過程でワイパーにノズル形成面との摺動摩擦抵抗による従動回転方向の力が加わって回転規制された状態を示し、図5(a),(d)〜(f)は復帰過程でワイパーの回転軸にラック・ランド・ピニオン機構からの回転力が加わって約1/3回転する様子を示す。なお、図5(c)〜(f)では軸部67bは図示を省略している。
図5(a)に示すように、ワンウェイクラッチ65は、回転支持機構64を構成する回転軸体67の右端側部分と、支持体66と、コイルバネ77とにより構成される。回転軸体67は、ローラー体59の筒内に嵌挿されてローラー体59と一体回転可能な大径の軸部67bと、軸部67bの右端部からそれより少し小さな軸径で同軸上に延出した中径の軸部67cと、軸部67cの右端部からそれより少し小さな軸径で同軸上に延出した小径の軸部67dとを有している。
図5(a)に示すように、支持体66は、コイルバネ77のバネ座となる板状の支持部66bと、支持部66bのバネ座面(図5(a)における左面)と反対側の面から突出する前述の2本の軸部66aと、支持部66bのバネ座面から同軸上に延出した円筒状の筒部66cとを有している。
筒部66cに挿通された小径の軸部67dの先端部が支持体66の貫通孔66dに挿通支持されることで、回転軸体67は支持体66に対して相対回転可能となっている。各々の端面を僅かな隙間を隔てて対峙させた状態で同軸上に配置された外径の等しい軸部67cと筒部66cには、これらの外径より若干大きな内径を有するコイルバネ77が外挿された状態で装着されている。
また、図5(a),(b)に示すように、軸部67cの外周面上左側領域には、3つの突起68が図5(c)〜(f)に示すように周方向に等間隔の位置に設けられている。3つの突起68は、軸部67cの外周面とほぼ垂直な規制面68aと、軸部67cの外周面からの径方向高さが規制面68a側へ近づくに連れて徐々に高くなる斜状の案内斜面68bとを有している。図5(a),(b)に示すように、コイルバネ77の一端部77aは支持部66bの外周面上に凹設された掛止凹部66fに掛止され、コイルバネ77の他端部77bは3つの突起68のうち1つの突起68の規制面68aに掛止されている。
コイルバネ77は自由状態で図5(a)の状態にあり、回転軸体67にコイルバネ77のバネ径を縮める方向の回転力が加わると、図5(b)に示すように、縮径したコイルバネ77が軸部67b及び筒部66cを締め付けることにより、回転軸体67は支持体66に対してロックし、回転軸体67の回転が規制される。ここで、軸部67c及び筒部66cの外周面とコイルバネ77との隙間は、図5(a)に示すものよりも実際はかなり小さく、回転軸体67がバネ縮径方向へ相対回転し始めると直ちにその回転が規制されるようになっている。
一方、回転軸体67にコイルバネ77の縮径方向と逆方向の回転力が加わったときには、突起68がコイルバネ77の他端部77bを引っ掛けることなく軸部67cがコイルバネ77に対して相対回動できるので、回転軸体67の支持体66に対する相対回転が許容される。このとき、図5(d)の状態から回転軸体67が時計方向に約1/3回転する過程で、コイルバネ77の他端部77bは軸部67cの外周面に沿って相対移動し、やがて図5(e)に示すように次の突起68の案内斜面68bを登り、その突起68を乗り越えて図5(f)に示すように次の突起68の規制面68aと係合する状態になる。
本実施形態では、払拭過程で、ワイパーブレード61及び吸収体62がノズル形成面19aから受ける摺動抵抗によるワイパー37の従動回転を規制するようにワンウェイクラッチ65が取り付けられている。このため、記録ヘッド19がホーム位置から印刷領域側(払拭終了位置)へ移動する払拭過程では、ワンウェイクラッチ65の作用によりワイパー37の従動回転が規制される。一方、記録ヘッド19が払拭終了位置からホーム位置へ復帰する復帰過程(非払拭過程)では、ラック46とピニオン73との噛合によりワイパー37に図5(d),(e)に矢印で示す時計方向の回転力が加わった際は、ワンウェイクラッチ65の回転が許容されるため、ワイパー37は約1/3回転することが可能となる。
こうして回転軸体67が約1/3回転することで、払拭部60が約1/3回転し、払拭に使用された払拭部60が洗浄液Lに浸漬し、かつそれまで洗浄液Lに浸漬していた払拭部60が払拭姿勢に配置される。なお、本例では、ワンウェイクラッチ65は、バネ式に限定されず、ローラー式ワンウェイクラッチやラチェット式ワンウェイクラッチなど他方式のものを採用してもよい。
図8(a)〜(c)は、払拭過程におけるワイピング動作の説明図である。図8(a)はワイピング中、図8(b)はワイピング終了時点、図8(c)はワイパーが動力伝達位置に配置された状態をそれぞれ示す。ワイピング動作を開始するのに先立ち予めワイパー37が退避位置(図3、図4を参照)から上昇して払拭位置に配置される。図8(a)に示すように、ワイパー37が払拭位置に配置された状態では、高さ方向においてピニオン73とラック46との間にギャップΔGが確保されており、ピニオン73とラック46は互いに噛合しない位置関係にある。そして、ワイパー37が図8(a)に示す払拭位置に配置された状態で、記録ヘッド19がホーム位置から印刷領域側(図8(a)に矢印で示す方向)へ移動(往動)する払拭過程でワイピングが行われる。記録ヘッド19が図8(b)に示す払拭終了位置で停止してワイピングは終了する。このワイピング終了後、図8(c)に示すように、ワイパー37を動力伝達位置へ上昇させ、次に記録ヘッド19を払拭終了位置からホーム位置側へ復動させる復帰過程(非払拭過程)へ移行する。
図9(a)〜(c)は復帰過程の説明図である。図9(a)は復帰過程におけるワイパー回動動作開始時(ラック・ピニオン噛合開始時)、図9(b)はワイパー回動中、図9(c)はワイパー回動動作終了時の状態をそれぞれ示す。復帰過程は、ワイパー37が動力伝達位置に配置された後、記録ヘッド19が図8(b)に示す払拭終了位置からホーム位置に向かって移動(復動)する過程である。図9(a),(b)に示すように、復帰過程では、ピニオン73がラック46と噛合して回転し、その回転が小歯車72、歯車70及び回転軸67aを介して伝達されることで、ワイパー37が同図に矢印で示す時計方向へ約1/3回動する。図9(a)〜(c)に示すように、復帰過程でワイパー37が約1/3回転することにより、払拭に使用された払拭部60が払拭姿勢の位置から洗浄液Lに浸漬する位置まで移動し、これと同時に、それまで洗浄液Lに浸漬していた払拭部60が払拭姿勢の位置まで移動する(図9(c))。
復帰過程ではワイパー37は払拭位置より高い動力伝達位置に配置されるため、復帰過程における払拭部60とノズル形成面19aとの干渉が危惧される。しかし、本実施形態では、記録ヘッド19の移動と同期してワイパー37が回動するときに、記録ヘッド19が払拭部60,60間の間隙と相対しつつ移動しうるようにピニオン73とラック46の噛合タイミングを設定している。そのため、動力伝達位置に配置したワイパー37を、払拭部60とノズル形成面19aとの干渉を回避しつつ回動させることが可能となっている(図9(a)〜(c)参照)。
次にプリンター11の電気的構成を説明する。図10は、プリンターの電気的構成を示すブロック図である。図10に示すように、プリンター11はコントローラー80を備える。コントローラー80は、制御手段としての制御部81、ヘッド駆動回路82及びモーター駆動回路83〜86を備える。また、制御部81には、入力系として、電源スイッチ87を含む各種スイッチ類及びリニアエンコーダー26などが接続されている。制御部81は、例えばマイクロコンピュータにより構成され、CPU91、メモリー92、タイマー93、クリーニングタイマー94及びフラッシングタイマー95を備える。なお、各タイマー93〜95は、所定周波数のパルスのパルス数を計数するカウンタにより構成されるが、ソフトウェアで実現されるソフトタイマーも採用できる。
メモリー92は、例えばROM及びRAMにより構成されており、ROMには図11にフローチャートで示されるクリーニング処理ルーチンのプログラムが記憶されている。また、ROMには、記録ヘッド19、CRモーター18、PFモーター25を駆動制御する各種制御プログラム等が記憶されている。RAMには、CPU91の演算結果が一時的に記憶されたり、印刷データなどが一時記憶されたりする。
CPU91は、ヘッド駆動回路82を介して記録ヘッド19に接続されている。CPU91は、例えばホストコンピュータ(図示せず)から受信した印刷データに基づく吐出駆動データをヘッド駆動回路82に出力して、記録ヘッド19の各吐出駆動素子38(図2参照)に電圧パルスを印加する。吐出駆動素子38は、例えば圧電振動素子である場合、印加された電圧パルスの振幅に応じた強さで振動してインク室を膨張・圧縮させることで、ノズル19bからインク滴を噴射させる。
また、CPU91は、モーター駆動回路83を介してCRモーター18を駆動制御するとともに、モーター駆動回路85を介してPFモーター25を駆動制御する。PFモーター25が正転駆動されると、給送系や搬送系の各種ローラーが回転駆動して用紙Pの給紙・紙送り・排紙が行われ、PFモーター25が逆転駆動されると、吸引ポンプ35のポンプピング動作が行われる。なお、吸引ポンプ35と給送系・搬送系との動力源は別々に設けてもよい。
また、タイマー93は、ワイパー37の前回の回動動作終了時点からの経過時間を計時し、その計時時間が設定時間に達すると、CPU91にその旨を通知する。この設定時間は、払拭可能な位置にある払拭部60の洗浄液の乾燥速度に応じてその払拭部60を洗浄液で湿潤し直す必要があると判断される時間に設定され、使用される洗浄液の種類(蒸発し易さ)に応じて例えば1分〜1日の範囲内の値に設定されている。また、クリーニングタイマー94は、前回のインク吸引動作終了時点からの経過時間を計時し、その計時時間が設定時間(例えば1〜20日の範囲内の値)に達すると、CPU91にクリーニング実行時期に達した旨を通知する。さらにフラッシングタイマー95は、印刷動作中に前回のフラッシング終了時点からの経過時間を計時し、その計時時間が設定時間(例えば5〜20秒の範囲内の値)に達すると、CPU91にフラッシング実行時期に達した旨を通知する。
CPU91はクリーニングタイマー94からクリーニング実行時期に達した旨の通知を受け付けると、インク吸引動作を含むクリーニング動作を実行する。また、図示しないクリーニングスイッチのオン信号を入力したときにも、CPU91はクリーニング動作を実行する。また、CPU91は、フラッシングタイマー95からフラッシング実行時期に達した旨の通知を受け付けたとき、及びインク吸引動作終了後のワイピング動作を終えたときに、記録ヘッド19にフラッシング動作を実行させる。
クリーニング動作は、CPU91が複数の工程を所定の順番で実行することで実施される。本実施形態のクリーニング動作は、インク吸引動作、ワイピング動作、フラッシング動作、空吸引動作などからなり、制御部81はこれらの動作をシーケンスによってこの順番で実施させる。メモリー92には、CPU91がワイパー37の回転動作を実施すべきか否かを判断するためのフラグが格納される。CPU91は、タイマー93から前回のワイパー回動動作から設定時間以上経過した旨の通知を受け付けると、フラグをオンにする。そして、CPU91はクリーニング動作開始時にフラグを確認し、フラグがオンであると、ワイピング動作に先立ちワイパー37の回動動作を実行する。CPU91は、ワイパー37の回転動作を終える度に、タイマー93のリセット及びフラグのオフ処理を行う。
リニアエンコーダー26は、キャリッジ14の軌道に沿って張設されるとともに多数の光学的なスリットが一定ピッチで穿孔されたテープ状の符号板96と、キャリッジ14に固定されてキャリッジ14と共に移動しつつ符号板96に向けて投光する投光器及びスリットを通過した光を受光する受光器を有する光学センサ97とを備える。リニアエンコーダー26は、キャリッジ14の移動量に応じた数のパルスをもつ位相の異なる2種類の検出信号(パルス信号)をCPU91に出力する。CPU91は、リニアエンコーダー26からの2種類のパルス信号を比較してキャリッジ14の移動方向(往動か復動か)を認識する。そして、CPU91は、リニアエンコーダー26からの各パルス信号のパルスエッジの数をキャリッジ14の往動時にインクリメント、復動時にデクリメントすることで計数したカウンタ(図示せず)の計数値に基づき、キャリッジ14の原点位置(例えばホーム位置)を基準とする主走査方向Xにおける位置を把握する。
制御部81は、モーター駆動回路84を介して電動モーター41を駆動制御することで、キャップ33の昇降制御を行う。また、制御部81は、モーター駆動回路86を介して電動モーター55を駆動制御することで、ワイパー37及びタンク51の昇降制御を行う。
次に、プリンター11における記録ヘッド19のクリーニング動作を説明する。なお、クリーニング動作開始前においては、キャップ33はノズル形成面19aに当接するキャッピング状態にあり、ワイパー37及びタンク51は退避位置に下降しているものとする。
CPU91は、クリーニングタイマー94からクリーニング実行時期に達した旨の通知を受け付けたとき、あるいはクリーニングスイッチ(図示せず)からの操作信号を入力したときに、図11のクリーニング処理ルーチンを実行する。以下、クリーニング動作について図11に従って説明する。
まずステップS10では、前回のワイパー回動動作から設定時間以上経過したか否かを判断する。ここで、メモリー92のフラグは、前回のワイパー回動動作から設定時間以上経過していればオン状態にあり、設定時間を経過していなければオフ状態にある。CPU91はメモリー92のフラグを確認し、フラグがオン(設定時間以上の経過)であればステップS20に進み、フラグがオフ(設定時間未満の経過)であればステップS30に進む。
ステップS20では、ワイパー回動動作を行う。すなわち、CPU91はPFモーター25を逆転駆動させてキャップ33を下降させ、次にCRモーター18を正転駆動させて、記録ヘッド19をホーム位置から印刷領域側の払拭終了位置へ移動させる。次にCPU91は電動モーター55を正転駆動させ、ワイパー37を動力伝達位置に配置する。さらにCPU91はCRモーター18を逆転駆動させ、記録ヘッド19をホーム位置へ復帰させる。この復帰過程で、図9(a)〜(c)に示すように、ラック46とピニオン73が噛合して、ピニオン73から伝達された回転力によりワイパー37が約1/3回転する。その結果、それまでタンク51内の洗浄液Lに浸漬していた払拭部60が払拭姿勢の位置に配置される。その後、この例では、CPU91は、電動モーター55を逆転駆動させて、タンク51を下降させることでワイパー37を退避位置に復帰させる。
ステップS30では、インク吸引動作を実施する。すなわち、CPU91はまず電動モーター41を正転駆動してキャップ33で記録ヘッド19をキャッピングする。続いてPFモーター25を設定駆動速度で設定駆動時間だけ逆転駆動させることで吸引ポンプ35をポンピング動作させる。この結果、キャップ33内が負圧となることで、ノズル19bからインクが強制的に吸引排出され、増粘インクやインク中の気泡などが除去される。
ステップS40では、ワイパー37を払拭位置へ上昇させる。すなわち、CPU91は、電動モーター55を正転駆動させ、タンク51を上昇させることでワイパー37を払拭位置(図6、図8(a)の高さ位置)に配置する。
ステップS50では、ワイピング動作を行う。すなわち、CPU91は、CRモーター18を正転駆動させ、記録ヘッド19をホーム位置から払拭終了位置まで往動させる。この払拭過程で、ワイパー37の払拭部60がノズル形成面19aを払拭する。このとき、先行した吸収体62が洗浄液を塗布しつつノズル形成面19aを拭き取り、その洗浄液の塗布領域を後続のワイパーブレード61が掻き取る。そのため、ノズル形成面19a上にインク乾燥固形物が付着していても、その乾燥固形物を洗浄液で溶解しつつ掻き取ることで除去できるので、清掃効果の高い払拭が行われる。そして、記録ヘッド19は払拭終了位置で停止する。
次のステップS60では、ワイパー37を動力伝達位置へ上昇させる。すなわち、CPU91は電動モーター55を正転駆動して、ワイパー37を動力伝達位置(図7、図8(c)、図9の高さ位置)に配置する。この動力伝達位置では、ワイパー37は、ピニオン73がラック46と噛合可能な高さ位置に配置される。
ステップS70では、記録ヘッド19をフラッシング位置へ復動させる。すなわち、CPU91は、CRモーター18を逆転駆動し、記録ヘッド19をフラッシング位置(本例ではホーム位置)へ復動させる。この復帰過程(非払拭過程)の途中区間において、ラック46とピニオン73が噛合し、ピニオン73の回転力がワイパー37に伝達されることで、ワイパー37が、図9(a)〜(c)に示すように時計方向へ約1/3回転する。このワイパー37の回動動作によって、払拭に使用された払拭部60がタンク51内の洗浄液Lに浸漬されるとともに、それまで洗浄液Lに浸漬していた払拭部60が払拭姿勢の位置に配置される。
このワイパー37の回動動作過程では、図9(a)〜(c)に示すように、記録ヘッド19が払拭部60,60間の間隙と相対する状態を保ちつつ移動するため、ワイパー37が払拭位置より高い動力伝達位置に配置されていても、払拭部60がノズル形成面19aと干渉することがない。このため、払拭部60のノズル形成面19aへの接触に起因するノズル形成面19aの汚染を回避できる。この復帰過程の結果、記録ヘッド19はフラッシング位置(ホーム位置)に配置される。
次にステップS80では、フラッシング動作を行う。すなわち、CPU91は、記録ヘッド19を駆動制御して全ノズル19bから印刷とは関係のないインク滴を吐出させる。このフラッシングにより、例えば払拭時に他色のインクが混ざったノズル内に混色インク等が除去されたり、ノズル19b内のインクメニスカスが整えられたりする。
次のステップS90では、ワイパー37を退避位置へ下降する。すなわち、CPU91は、電動モーター55を逆転駆動させてワイパー37を退避位置に戻す。
次のステップS100では、印刷要求ありか否かを判断する。CPU91は次の印刷要求があればステップS110に進み、印刷要求がなければステップS120に進む。
ステップS110では、記録ヘッド19を印刷領域へ移動させて印刷動作を実行する。すなわち、CPU91は、PFモーター25を駆動させて用紙の給送動作を行うとともに、CRモーター18を正転駆動させて記録ヘッド19をフラッシング位置(ホーム位置)から印刷領域側へ移動させて印刷動作を開始させる。この印刷においては、先にフラッシングを実施しているため、ノズル19bからの混色インクの吐出及びインク滴サイズのばらつきが抑制される。
一方、ステップS120では、キャッピング動作を行う。すなわち、CPU91は、電動モーター41を正転駆動させ、キャップ33で記録ヘッド19をキャッピングする。こうして印刷要求がないときには、クリーニング動作終了後に記録ヘッド19はキャッピング状態で待機する。
本実施形態のクリーニングでは、ワイピング終了後にワイパー37を約1/3回動させることで、それまで洗浄液Lに浸漬していた払拭部60が払拭姿勢の位置に配置される。このときタイマー93は一旦リセットされて改めて計時を開始する。そして、タイマー93の計時時間が設定時間を超えると、CPU91によりフラグがオンされる。そのため、ワイパー37の最後の回動動作から設定時間以上の時間が経過して、吸収体62の洗浄液が効果的な払拭を期待できない程度に乾燥した場合は、ワイピング動作に先立ちワイパー37の回動動作が行われ、洗浄液で湿潤した払拭部60が払拭姿勢の位置に配置される。このため、ワイピング時は、いつも適度に湿潤した吸収体62でノズル形成面19aを払拭し、ノズル形成面19aに付着したインク乾燥固形物を洗浄液で溶解させつつワイパーブレード61で掻き取ることができるので、乾燥した比較的強固な付着物でも確実に取り除くことができる。なお、インク吸引動作終了後あるいはフラッシング終了時には、キャップ33をノズル形成面19aから離間させたキャップ開放状態で吸引ポンプ35をポンピング駆動させる空吸引動作が行われ、この空吸引動作によりキャップ33内や管路44に溜まった廃インクが廃液タンク36へ回収される。また、クリーニング動作のうちインク吸引動作は1回に限定されず複数回行ってもよく、この場合、その都度、ワイパー37を回動させることで、毎回汚れのない綺麗な払拭部60でワイピング動作を行うことができる。さらに、ステップS20においてワイパー37の回動動作を行った場合は、このワイパー回動動作終了後にワイパー37を退避位置ではなく払拭位置に移動させるようにし、ワイパー回動動作の実施時に限りステップS40の処理を廃止してもよい。
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(1)払拭過程では、ワンウェイクラッチ65の作用によりワイパー37の従動回転を規制しているので、払拭部60によりノズル形成面19aをしっかり掻き取ることができる。このため、ノズル形成面19aの高い払拭効果を得ることができる。
(2)払拭部60でノズル形成面19aを払拭した後の復帰過程(非払拭過程)で、ワイパー37を回動させ、払拭に使用された払拭部60をタンク51内の洗浄液Lに浸漬させる構成とした。このため、払拭時のインク等で汚れた払拭部60をワイピング終了後、直ちに洗浄液に浸漬させることで、払拭部60の洗浄効果を高めることができる。例えば、払拭後、次回の払拭動作が行われるときまで、払拭部60が洗浄液に浸漬されず放置されると、インク等が乾燥して払拭部60に固着してしまう。このようなインク固着状態になってしまってからでは、払拭部60を洗浄液に浸漬しただけではその固着物を簡単に洗い落とすことはできない。そのため、その後の払拭部60の清掃効果を著しく低下させてしまう。しかし、本実施形態では、払拭に使用された払拭部60を速やかに洗浄液Lに浸漬するので、払拭部60からインク等を簡単に洗い落とすことができる。特にその後、ワイパー37の回動動作が2回(払拭部の個数Nであれば(N−1)回)行われるまでは、洗浄液Lに浸漬状態に保持されるので、その洗浄時間を長く確保でき、払拭部60の高い洗浄効果を期待できる。
(3)復帰過程(非払拭過程)では、ワイパー37がワンウェイクラッチ65の回転許容方向に回動するようにしたので、払拭過程でワイパー37の従動回転を規制しつつ、復帰過程でワイパー37の回動動作を可能とすることができる。
(4)キャリッジ14(記録ヘッド19)のワイパー37に対する相対直線運動(リニア運動)を、ラック・アンド・ピニオン機構75(動力伝達手段)を用いて回転運動に変換してその変換した回転力を伝達することでワイパー37を回動動作させる構成とした。よって、キャリッジ14の動力を利用してワイパー37の回動動作を行わせることができるので、ワイパー37を回動動作させるための専用の動力源を別途設ける必要がない。
(5)記録ヘッド19の移動と同期してワイパー37が回動するときに、記録ヘッド19が払拭部60,60間の間隙と相対しつつ移動しうるようにピニオン73とラック46との噛合タイミングを設定した。このため、動力伝達位置に配置したワイパー37を、復帰過程において、払拭部60とノズル形成面19aとの干渉を避けつつ回動させることができる。
(第2実施形態)
次に第2実施形態のワイピング装置を図12〜図16に基づいて説明する。本実施形態では、ワイピング手段がローラーである。図12〜図16はワイピング装置を示し、図12はワイピング手段としてのローラーが払拭位置にあるときの正断面図、図13は同じく側断面図、図14はローラーが動力伝達位置にあるときの正断面図、図15は同じく側断面図をそれぞれ示す。なお、ワイピング装置のみが前記第1実施形態と異なっているので、第1実施形態と共通な構成部分については説明を省略し、特に異なる部分についてのみ詳細に説明する。
図12〜図15に示すように、ワイピング装置100は、ワイピング手段としてローラー101を備える。ローラー101は、前記第1実施形態と同様の回転支持機構64が筒内に嵌挿された構成である。図13に示すように、回転支持機構64の右端側に突出する2本の軸部66aがタンク51の右側壁部に軸止され、かつその左端側の回転軸67aがタンク51の左側壁部に軸受69を介して挿通支持されている。ローラー101は、回転支持機構64のワンウェイクラッチ65の作用により、払拭過程における従動回転が規制され、その逆方向の回転は許容される状態でタンク51に支持されている。ローラー101は、少なくともその外周層が多孔質材(スポンジ等)あるいは繊維材(織布、不織布、フェルト等)などの吸液性及び保液性を有する材料で形成されている。ローラー101の下側部分は、タンク51内に貯留された洗浄液Lに所定深さ(1回のワイピングによってインク等で汚れた払拭部分(払拭領域)が洗浄液Lに完全に浸漬されうる深さ)まで浸漬された状態にある。なお、本実施形態では、ローラー101においてノズル形成面19aの払拭に用いられる外周層(吸収体層)の部分が払拭部に相当する。そして、ワイピング1回につき、ローラー101の払拭部である外周層のうち払拭に使用された部分が洗浄液に浸漬されるまで、ローラー101が回動するようになっている。
図12〜図15に示すように、回転軸67aの端部に固定された歯車70は、タンク51の左側壁部の上部に固定された支持部102(図13、図14に示す)に設けられた小歯車103と噛合している。支持部102には、この小歯車103と一体回転可能な小歯車104が同軸上に支持されている。本実施形態では、この小歯車104が、動力伝達手段を構成するピニオン(以下、「ピニオン104」とも称す)となる。
図12〜図15に示すように、キャリッジ14の側部に固定されて下方へ延出する支持アーム105の下端部には、主走査方向Xに長く延びたラック106が歯部を上側に向けた状態で水平に支持されている。ローラー101の昇降装置52は、第1実施形態と同様の構成であり、電動モーター55の駆動により偏心カム53を介してタンク51を昇降させることにより、ワイピング手段としてのローラー101を、ノズル形成面19aから離間する退避位置と、図12及び図13に示す払拭位置と、図14及び図15に示す動力伝達位置とに配置される。なお、ピニオン104とラック106とにより、動力伝達手段としてのラック・アンド・ピニオン機構107が構成されている。
図12に示すように、ローラー101が払拭位置に配置された状態では、高さ方向においてピニオン104とラック106との間にギャップΔGが確保されており、ピニオン104とラック106は互いに噛合しない位置関係にある。また、図14及び図15に示すように、ローラー101が動力伝達位置に配置された状態では、ピニオン104が高さ方向においてラック106と噛合可能な位置関係に配置されるようになっている。なお、ラック106の主走査方向長さは、ローラー101を約1/2回転させうる値に設定されている。
第1実施形態では、復帰過程において記録ヘッド19を払拭部60,60の間隙に相対しつつ移動させるようにしたが、ワイピング手段がローラーである本実施形態では、記録ヘッド19を相対させる間隙がないので、動力伝達位置を払拭位置より高くすると、復帰過程でローラー101とノズル形成面19aが干渉してしまう。そのため、本実施形態では、動力伝達位置を払拭位置より低く設定し、払拭位置にあるローラー101をノズル形成面19aから離間しうる所定量(≒ΔG)だけ下降すると、ピニオン104がラック106と噛合する動力伝達位置に配置されるようにしている。
次にこのワイピング装置100を備えたプリンター11における記録ヘッド19のクリーニング動作を説明する。クリーニング動作の手順は、図11のクリーニング処理ルーチンにおけるステップS60の処理が、ワイパー(ローラー101)を動力伝達位置に下降する処理に変更される他は、前記第1実施形態と同様である。
払拭過程では、ローラー101は図12及び図13に示す払拭位置に配置される。この状態で、記録ヘッド19がホーム位置から印刷領域側の払拭終了位置まで図12に示す矢印方向へ往動することで、ローラー101はワンウェイクラッチ65の作用により従動回転が規制された状態でノズル形成面19aを払拭する。
このとき、前回のローラー回動動作からの経過時間が設定時間以上経過しているとき(フラグがオンのとき)には、ローラー101は約1/2回転し(図16(a)〜(c)を参照)、払拭に使用されるその上端部(払拭部)は、洗浄液で湿潤している。このため、ワイピング時は、ローラー101の上端部分(払拭に用いられる払拭部)を洗浄液で湿潤させた状態でノズル形成面19aを払拭できる。
ワイピング終了後、図15に矢印で示すように、タンク51を少し下降させることでローラー101を動力伝達位置に配置する。よって、動力伝達位置に配置されたローラー101は、高さ方向にノズル形成面19aから離間する位置関係に配置される。そして、図16に示すように、記録ヘッド19を払拭終了位置からホーム位置側へ復動させる復帰過程では、その途中でピニオン104がラック106と図16(b)に示すように噛合して、ピニオン104の回転力が小歯車103から歯車70を介してローラー101に伝達されることによりローラー101が約1/2回転する。その結果、ローラー101の払拭に使用された上端部(払拭部)が洗浄液Lに浸漬する位置まで移動するとともに、それまで洗浄液Lに浸漬していた部分(払拭部)が、上端部となる位置(払拭可能な位置)まで移動する。その他の動作や処理は、前記第1実施形態における図11のクリーニング動作処理ルーチンと同様である。
よって、この第2実施形態によれば、以下の効果が得られる。
ローラー101が払拭位置に配置されると、ピニオン104とラック106の噛合が解除され、ローラー101を払拭位置から下降させると、ピニオン104とラック106が噛合するように、ラック・アンド・ピニオン機構107(動力伝達手段)を設けた。このため、ワイピング動作終了後、ローラー101をピニオン104とラック106が噛合可能な動力伝達位置に配置すると、ローラー101はノズル形成面19aから離間するので、復帰過程におけるローラー101と記録ヘッド19との干渉を回避することができる。よって、第1実施形態で採用した払拭部60と記録ヘッド19との干渉を回避すべく、記録ヘッド19が払拭部間の間隙に相対する状態を保ちつつワイピング手段を回動させるために必要な動力伝達手段の噛合タイミングの設定など面倒な設定を不要にできる。
前記実施形態は上記に限定されず、以下の態様に変更することもできる。
(変形例1)回転規制手段によるワイピング手段の従動回転の規制は、ワイパー37の従動回転の阻止に限定されない。例えばワイパー37を図8(a)における時計方向(従動回転方向と逆方向)に積極回転させることにより、従動回転を規制する構成も採用できる。この場合、ワンウェイクラッチを廃止するとともに、動力伝達手段のワイピング手段側の部分を第2実施形態の歯車70、小歯車103及びピニオン104を備えた歯車機構とし、2つのラック46,106をピニオン104と噛合できるように配置する。ワイピング手段(ワイパー37又はローラー101)を払拭位置に配置して行われる払拭過程では、ピニオン104がキャリッジ14の下面側のラック46と噛合することで、ワイピング手段は従動回転方向と逆方向に積極回転しながらノズル形成面19aを掻き取る。一方、ワイピング手段を払拭位置より低い動力伝達位置に配置して行われる復帰過程(被払拭過程)では、ピニオン104が支持アーム105側のラック106と噛合することで、ワイピング手段は同じく従動回転方向と逆方向(つまり、ワイピング手段の記録ヘッドと対向する部分(上端部側)がヘッド移動方向と同じ方向へ移動しうる回転方向)に回転する。この結果、ワイピング手段の払拭に使用された部分(払拭部)がタンク51内の洗浄液Lに浸漬するまで移動するとともに、それまでタンク51内の洗浄液Lに浸漬していた部分(払拭部)が次回の払拭に用いられる位置まで移動する。この構成によれば、払拭過程では、ワイピング手段が従動回転方向と逆方向に積極回転してノズル形成面を払拭するので、掻き取り効果がさらに増し、ノズル形成面の清掃効果を一層高めることができる。
(変形例2)前記第1実施形態において、第2実施形態のラック・アンド・ピニオン機構及び歯車機構を採用し、動力伝達位置を、払拭位置よりもノズル形成面19aから離間する側の位置(下方位置)に設定してもよい。
(変形例3)回転手段は、ワイピング手段と流体噴射ヘッドとの相対直線運動を回転運動に変換する動力伝達手段を備えた構成に限定されない。回転手段は、ワイピング手段を回転駆動させる専用の動力源を備えた構成でもよい。
(変形例4)前記第1実施形態においてワイパー37の払拭部60は複数あることに限定されず1つでもよい。1つの場合、回転式のワイパーを払拭直後にその1つの払拭部が洗浄液に浸漬できる回転量だけ回転(例えば約半回転)させ、払拭前になると、ワイパーをさらに半回転(順回転でも逆回転でもよい)させることにより、その1つの払拭部が払拭可能な位置に配置されるようにすればよい。もちろん、ワイパーの回転は半回転ずつに限らず、浸漬位置と払拭位置との間を移動できる回転量であれば足り、また回動方向も一方向回動に限らず往復回動でもよい。
(変形例5)払拭に用いられた払拭部を洗浄液に浸漬させるまでワイピング手段を回動させたときに、それまで洗浄液に浸漬していた他の払拭部が払拭可能な位置に配置されない構成も採用できる。例えば次回の払拭過程の前に非払拭過程をもう1回行うことで、他の払拭部が払拭可能な位置に配置される構成でもよい。
(変形例6)記録ヘッド19が復動することで払拭過程が行われ、記録ヘッド19が往動することで非払拭過程が行われる構成でもよい。
(変形例7)払拭部はワイパーブレード及び吸収体の1組により構成されることに限定されず、ワイパーブレードのみ、又は吸収体のみとしてもよい。この場合も、払拭部はローラー体の周方向に複数個設けることが好ましい。
(変形例8)復帰過程におけるワイピング手段の回転量は、ワイピング手段の払拭に使用された部位が洗浄液に浸漬される限りにおいて適宜設定できる。例えば第1実施形態でワイピング手段(ワイパー37)を1/2回転させてもよいし、1回転を超える回動量でワイピング手段を回動させてもよい。
(変形例9)前記各実施形態では、ワイパー37(ワイピング手段)を昇降させたが、記録ヘッド19(流体噴射ヘッド)を昇降させてもよいし、ワイパー37と記録ヘッド19の両方を離接可能な方向に昇降させてもよい。
(変形例10)前記各実施形態では、流体噴射ヘッドを移動させたが、ワイピング装置又はワイピング手段を移動させる移動手段を採用したり、流体噴射ヘッドとワイピング手段の両方を移動させる移動手段を採用したりしてもよい。
(変形例11)ワイパーブレードと吸収体を別々のローラー体に設けてもよい。この場合、洗浄液を貯留する貯留手段としてのタンクは共通でもよいし別々でもよい。
(変形例12)クリーニング以外のワイピングに適用してもよい。例えばクリーニング時期以外の時期にワイピングを行ってもよい。
(変形例13)フラッシング位置はホーム位置に限定されず、例えばホーム位置より少し印刷領域側の位置であってもよい。要するに、払拭終了位置からフラッシング位置へ移動する方向が非払拭過程を行うべき方向であれば足りる。
(変形例14)クリーニング動作のシーケンス内容は前記各実施形態に限定されない。例えばインク吸引動作を本吸引動作と微量吸引動作との2回行い、「本吸引動作→ワイピング動作→微量吸引動作→ワイピング動作→フラッシング動作」としてもよい。この場合、1回のクリーニング中にワイピング動作が2回入るが、1回目と2回目で払拭部を変更でき、しかも1回目の払拭終了後の復帰過程で、使用済みの払拭部と洗浄液で湿潤した払拭部との入れ替えが行われるので、クリーニング動作に要する所要時間が長くなることもない。しかも毎回のワイピングを、洗浄済みかつ洗浄液で湿潤した払拭部を用いてノズル形成面19aを払拭できる。
(変形例15)流体噴射装置はシリアルプリンターに限定されず、ラインプリンターあるいはページプリンターでもよい。
(変形例16)前記実施形態では、流体噴射装置をインクジェット式のプリンターとして具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の流体(但し気体を除く)を吐出する流体噴射装置にも適用してよい。液滴とは、上記流体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう流体とは、流体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。