JP5598855B2 - 背もたれの傾動可能な椅子 - Google Patents

Description

本発明は、椅子に関し、特に、背もたれの傾動可能な椅子に関する。

従来、椅子の傾動装置として、脚支柱の上部の固定枠体に座席の背支柱が傾動可能に取り付けられた椅子において、前記固定枠体内に一の腕が固定されたねじりコイルばねと、前記背支柱に連繋され、前記ねじりコイルばねの他の腕をスライド移動可能に支持する作用部材と、前記背支柱の後傾に伴い、前記作用部材を前記他の腕の長さの短い位置で支持するように前記他の腕に沿って移動させるスライド手段とを備えたものが提案されていた（例えば、特許文献１参照）。

この構成によれば、後傾に伴う荷重の重心移動により、作用部材にかかる荷重の変化量が増大しても、作用部材は、後傾に伴ってばねの他の腕の長さを短くする位置でバネに作用するため、荷重の変化量に対するばねの変位量を小さくすることができ、傾動範囲を通じて、傾動量に対するばねの変位量（反力）が安定化され、体感上、安定した傾動感覚を与えることができ、特に傾動末期において、不安定感のない傾動感覚が確保できた。

ところで、椅子に着座して背もたれを後傾させる場合、着座者は、まず、拇指球により床を押し、これによって生じる力が足関節、膝関節、股関節を経て骨盤に作用し、重心の移動とともに背もたれを後傾させることになる。

これは、車椅子における障害者の座りの研究において解明された一連の作用であり、どのような椅子にでも適応可能な健常者を対象とした実験では、得がたい動きであるが、健常者にも当てはまる座りの本質を解明した作用といえる。

このように、車椅子における座りの研究として、頭頸部のアライメントの適正化を目標とする技術をアクティブ・バランス・シーティング（以下「ＡＢＳ」）という。

特開平０７−２８９３８３号公報

上記従来技術では、後傾時における着座者の重心移動に着目して、後傾末期（後傾の最大角度）の安定感を提供するものであるが、上記拇指球を後傾動作の始点とする動きを考慮すると、後傾による頭頸部の負担を解消するものではなかった。

すなわち、従来の椅子では、上記一連の作用から自然に背もたれを後傾させる構成にはなっておらず、着座者は、背筋を使い胸郭で背もたれを倒していた。また、着座面や背もたれのシートも特に上記一連の作用をサポートする構成になっていないため、拇指球で床を蹴ったときの力が必ずしも骨盤に上手く伝達されていなかった。このため、上記の通り、重心移動の観点からは、従前の椅子に比べて、不安定感は解消したものの、後傾時に背屈反射が生じ、身体に負担をかけるという不具合があった。

一般に、前傾動作をとるときは、身体的に腹側筋運動となるが、着座者が後傾動から切り返す戻り傾動の場合、上記腹側筋運動に先行して頸部屈曲による重心移動が先行する。上記従来技術では、この戻り傾動に関するケアについてサポートされていない。従って、背もたれが上記身体運動を十分にサポートしていないため、戻り傾動においても、頸部に大きな負荷がかかるという不都合が生じていた。

そこで、本発明は、前記問題点に鑑み、ＡＢＳの概念を事務用椅子等一般の椅子にも適用し、後傾動及び戻り傾動において頭頸部等の身体の負荷を軽減する椅子を提供することを課題とする。

上記課題を解決するため、本発明にかかる椅子は、上記課題を解決するため、本発明にかかる椅子は、脚支柱の上部に固定された受台と、この受台の上部に設けられた座部と、この座部の後方に立設された背もたれとを有し、この背もたれを傾動させるために、回動機構を備えた椅子であって、
前記回動機構は、一端を前記受台に回動可能に軸支し、他端を前記背もたれに固定し、背もたれを傾動させる回動アームと、前記受台内部に設けられ、前記回動アームの軸を巻回部に遊嵌し、一端を回動アームに係止し、他端を背もたれを後傾動させる回動アームの動きに対して戻し方向に付勢力が生じるように固定したねじりコイルばねからなる第１弾性手段と、背もたれを後傾動させる回動アームの動きに対して前記座部の前方向と水平な引張り方向の付勢力を有する第２弾性手段とを有し、
前記第１弾性手段及び第２弾性手段は、前記背もたれが後傾動するに従い、前記戻し方向の付勢力と前記引張り方向の付勢力との合成された付勢力により、後傾動の傾斜角度が大きくなるにつれて、背反力が増大し、次第に後傾速度を抑え、戻り傾動と後傾動との背反力の差が小さくなるように弾性特性を調整させたものであることを特徴とする。

この構成によれば、ＡＢＳの概念に基づき、第１弾性手段と第２弾性手段の相補的な作用により、後傾時における背もたれの背反力は、線形的に大きくなるため、後傾動においては、背反力の増大に伴い、後傾角度が大きくなるにしたがって緩やかに作用し、切り返し傾動においては、重心移動に先行する頭頸部の初動から、後傾動と同様な軌道を示すように作用する。

また、前記第２弾性手段は、前記受台内部に設けられ、一端のフックを前記座部の前方方向に設けられた固定掛止部に掛止し、他端のフックを前記回動アームに連結された連結部に掛止し、回動アームが背もたれを後傾動させると、この回動アームの動きに連動した前記連結部の動きに伴って伸び反力が生じる引張りばねとしてもよい。

なお、本発明にかかる傾動作用は、たとえば、ばね特性を調整することによって、板ばねを単体で使用しても実現させることは可能であるが、耐久性の低下及び高コストという問題がある。そこで、耐久性及びコスト面を考慮し、上記ねじりコイルばねと引張りばねの上記組み合わせとした。

前記座部の着座面は、前記傾動時に、着座面上で骨盤の圧力中心の移動を前後の広い範囲で生じさせ、坐骨結節前方部を支えるように、坐骨結節部を深く沈みこませる構造にしてもよい。また、前記背もたれのシートは、前記後傾動時に、徐々に胸郭を後方に解放し、骨盤を後方から支えるものであってもよい。

この着座面及び背もたれのシートは、傾動時における着座者の身体的な負担をサポートする作用をする。

以上の説明から明らかなように、本発明にかかる椅子は、拇指球によって生じる力を引き金とした重心移動による傾動を実現することにより、後傾動及び戻り傾動における頭頸部の負荷を軽減し、スムーズかつ快適な傾動感を提供することができるという効果を奏する。

本発明にかかる椅子の側面図 （ａ）後傾動させる前の受台内部の状態図、（ｂ）後傾動させた後の受台内部の状態図 反力調整機構を説明する部分拡大図 （ａ-１）着座面にスリットを設けた着座用部材の上面図、（a−２）（a−１）の側断面図、（ｂ−１）着座面にネット素材を用いた着座用部材の上面図、（ｂ−２）（ｂ−１）の側断面図 背もたれの傾動時の変化（傾斜角度と背反力との関係）を示した図

図１を参照して、１は、本発明にかかる椅子の脚支柱であり、脚支柱１の下部は、脚部２に嵌挿され、脚部２は、図示しない嵌挿口から、床面に対して水平方向に放射状に延びた複数の脚を有する。脚部２は、各先端部に設けられたキャスター３を介して床面に接触している。

脚支柱１の上部には、ガススプリング等（図示せず）を備え、脚支柱１を伸長自在及び回転自在に動かすことが可能な嵌合部４を設けている。嵌合部４の上部には、受台５を介して座フレーム７が設置され、座フレーム７は、上記嵌合部４の作用によって、脚支柱１の伸長あるいは回転に伴い、伸長及び回転する。なお、受台５と座フレーム７とは、受台５の上部に設けられた凸状の連結部６によって連結されている。

座フレーム７の上には、着座用部材８が覆設され、後端には、背もたれ９が立設されている。また、背もたれ９の下端には、背もたれ９を傾動させる回動アーム１０の一端が固定して取り付けられている。この回動アーム１０の他端は、受台５の側面後部に回動自在に取り付けられている。着座者が、背もたれ９に体重をかけて寄りかかると、回動アーム１０が下方向に回動し、背もたれ９は、後傾動、すなわち、リクライニングする。なお、後傾動の際のがたつきを抑えるため、座フレーム７の側面後部には、背もたれと略平行立設された固定軸１１と、回動アーム１０と略平行に、一端が固定軸１１に回動自在に取り付けられ、他端が背もたれ９に固定して取り付けられた補助回動アーム１２が、回動アーム１０と略平行して設置されている。したがって、回動アーム１０が背もたれ９を傾動させるために、回動すると、補助回動アーム１２も連動して回動するリンク状の機構が形成されている。

なお、上記回動アーム１０、固定軸１１及び補助回動アーム１２は、いずれも本発明にかかる椅子の正面視左右に１対で形成されている（図示せず）。

受台５は、内部に本発明にかかる背もたれ９の傾動を制御する各構成部品を内設するベース部５１を有する。ベース部５１には、上記左右の回動アーム１０を軸支する回転軸５２が設けられている。

回動アーム１０が背もたれを後傾動させる場合に、この回動アーム１０の動きに対して戻し傾動させる方向に反力を及ぼすために、ねじりコイルばね５３が使用される。ねじりコイルばね５３は、巻回部に回転軸５２を遊嵌し、巻回部から接線上に交差する方向で延出する両端部の一端は、回動アーム１０に取り付けられた係止部１０１に係止され、他端は、ブラケット５６を介して反力調整部５４により押圧されている。なお、反力調整部５４の上部には、ガイド部５５が設けられている。

ベース部５１の内部には、回転軸５２の動きに連動し、所定の範囲以上、回動アーム１０を回動させないロック機構を備えた内部ベース部５７が設けられている。

本発明では、上記ねじりコイルばね５３のほか、ベース部５１前方（すなわち、座フレーム７の前方方向）と内部ベース部５７とに各々掛止ピンを設け、両掛止ピンに両端のフックを掛止して引張りばね５８も設置されている。

上記ねじりコイルばね５３及び引張りばね５８は、一つずつ設置するものでもよいが、ブラケット５６を挟んで左右で１対設けるようにしてもよい。

本実施の形態では、弾性部材として上記ねじりコイルばね５３及び引張りばね５８を用いているが、同様の作用をするものであれば、これに限定する趣旨ではなく、他の弾性部材を使用してもよい。

図２は、受台５の部分拡大図であり、（ａ）は、回動アーム９の定常状態、すなわち、背もたれを後傾動させる前の状態を示し、（ｂ）は、後傾動させた状態を示した図である。

図２（ａ）を参照して、５３ａは、ねじりコイルばね５３の長端部であり、５３ｂは、短端部である。図１で説明したように、長端部５３ａと短端部５３ｂとは、ねじりコイルばね５３の巻回部から接線上に交差する方向で延出されている。短端部５３ｂは、ブラケット５６を介して所定の調整位置で反力調整部５４により押圧された状態で固定されている。また、
引張りばね５８についても、図１で説明したとおり、ベース部５１前方に、掛止ピン５１ａを、内部ベース部５７に掛止ピン５７ａを各々設けている。

図２（ｂ）で、回動アーム１０が回動すると、長端部５３ａは、係止部１０１に押され、短端部５３ｂが固定されていることから、回転軸５２の軸まわりにねじりモーメントを受け、戻り方向に付勢力がはたらく。一方、引張りばね５８は、回動アーム１０の後傾動に従って連動する内部ベース部５７の動きに伴い、座フレーム７と略平行の方向に引っ張られるため、伸び方向に反力としての付勢力が生じる。従って、回動アーム１０の回動によって背もたれ９が後傾動するに従い、ねじりコイルばね５３による上記付勢力と引張りばね５８の上記付勢力との合成された付勢力により、次第に背反力が増大し、後傾動の速度を抑えるようになる。

図３は、反力調整機構を説明する部分拡大図である。なお、説明の便宜のため、図３では、ブラケット５６の左側にのみねじりコイルばね５３を設けているが、実際には、ブラケット５６の右側にもねじりコイルばね５３を設けてもよい。

反力調整部５４は、押圧片５４ａと被押圧片５４ｂとから構成され、各々同一傾斜角度を有する傾斜面が形成され、両傾斜面が対向接触している。押圧片５４ａには、調整ネジ５４ｃが螺挿されている。押圧片５４ａの傾斜面と反対側の上面には、ガイド部５５が設けられている。被押圧片５４ｂの傾斜面と反対側の下面は、ブラケット５６の押圧突起部５６ａと接触しており、押圧突起部５６ａは、ねじりコイルばね５３の短端部５３ｂと交差するように接触している。上記ガイド部５５は、調整ネジ５４ｃ及びねじりコイルばね５３の巻回部の長手方向と平行に設置されている。

調整ネジ５４ｃを緩め方向または締め方向に回転させると、押圧片５４ａは、ガイド部５５に沿って移動する。押圧片５４ａが、移動すると、押圧片５４ａの傾斜面と被押圧片５４ｂの傾斜面とが、摺動し、押圧片５４ａの傾斜面の傾斜に従って被押圧片５４ｂが、下方に押圧され、あるいは元の位置戻るように上下動する。

被押圧片５４ｂの上記上下動に伴い、押圧突起部５６ａを介して短端部５３ｂがねじられてねじりコイルばね５３の支点位置角度が変化し、ねじりコイルばね５３による反力として付勢力を調整することができる。このような構成により、着座者の体重の違いによる背もたれ９の最適な反力を調整することができる。

なお、本実施の形態では、調整ネジ５４ｃを図示しない調整ダイヤルで着座者が手動により調整する構成を想定しているが、この構成に限定するもではなく、着座者の体重を検知して最適な反力調整を自動でおこなう公知の構成を備えたものであってもよい。

図４は、着座用部材８の実施例を示したものである。図４（ａ−１）で示す例は、着座用部材８ａの着座面の奥行方向に向かって、奥行方向に対して垂直方向に延びる細長のスリット８１ａを一定間隔で複数本設けている。これらのスリット８１ａのうち、着座面手前側（図の左側）最先のスリット８１ａには、スリット８１ａに対して直交する方向に短めの切り込み８２ａを複数櫛の歯状に形成している。

図４（ａ−２）は、（ａ−１）の着座用部材８ａの側断面図である。着座用部材８ａの上面に２点鎖線で示した曲線は、着座者が座ったときの撓みｆを示している。この撓みｆの最下端は、骨盤の圧力中心になるが、このような構成にすることにより、スリット８１ａが設けられていない着座用部材に比べて、骨結節部を深く沈みこませることが可能になり、上記圧力中心の移動を前後の広い範囲で生じさせるとともに、切り込み８２ａによって坐骨結節前方部を支えることが可能になり、後傾動時にいわゆる滑り座りを防止し、拇指球で床を蹴ったときの力を骨盤に上手く伝達することが可能となる。

図４（ｂ−１）は、着座用部材８ｂとして、枠体８１ｂ内の素材としてネット素材８２ｂを用いたものを示したものである。図４（ｂ−２）の側断面図で示す着座時の撓みｆによって図示されている通り、効果としては、図４（ａ−１）（ａ−２）のスリットを設けたものと同じであるが、ネット素材８２ｂの方が、着座時の体圧分布や動きに対してより柔軟に対応することができる。

なお、図４では、着座面の部材について説明したが、拇指球で床を蹴ったときの力を骨盤に上手く伝達するためには、背もたれのシートについても、後傾動時に、徐々に胸郭を後方に解放し、骨盤を後方から支えるものであることが好ましい。そこで、たとえば、背もたれのシートの素材としては、オレフィン系エラストマー（ポリプロピレン+架橋EPDM20％）が好適である。

図５は、背もたれの傾動時の変化（傾斜角度と背反力との関係）をねじりコイルばね単体の場合とねじりコイルばね及び引張りばねを組み合わせた場合とで比較して示した図である。

図５の実線で示したものは、ねじりコイルばね及び引張りばねの組み合わせの傾動時変化を示し、破線で示したものは、ねじりコイルばね単体の傾動時の変化を示している。実線ａ１及び破線ｂ１は、後傾動時の変化であり、ａ２及びｂ２は、戻り傾動時の変化である。

図５からも明らかな通り、実線ａ１、実線ａ２で示すねじりコイルばね及び引張りばねの組み合わせの場合は、変化がほぼリニアな線形を示し、後傾動と戻り傾動とが概ね同相の変化を示し、両者の背反力の差は比較的小さい。

一方、破線ｂ１、破線ｂ２で示すねじりコイルばね単体の場合は、背もたれの傾斜角度５度前後から急激に背反力の変化が小さくなり、また、後傾動と戻り傾動との背反力の差が上記ねじりコイルばね及び引張りばねの組み合わせの場合に比べて大きい。

以上より、ねじりコイルばね及び引張りばねの組み合わせの場合は、ねじりコイルばね単体の場合に比べて、後傾動においては、傾斜角度が大きくなるにつれて、背反力が大きくなるので、次第に後傾速度を抑えることができ、なだらかな後傾動作を実現することができ、戻り傾動においては、後傾動からの切り返しをスムーズに行うことができ、あたかも、ロッキングチェアのような動きを再現するように作用する。従って、ねじりコイルばね及び引張りばねの組み合わせは、傾動時における頭頸部等の身体の負荷を軽減させる効果が認められる。

１ 脚支柱
２ 脚部
３ キャスター
４ 嵌合部
５ 受台
６ 連結部
７ 座フレーム
８ 着座用部材
９ 背もたれ
１０ 回動アーム

Claims (3)

1. 脚支柱の上部に固定された受台と、この受台の上部に設けられた座部と、この座部の後方に立設された背もたれとを有し、この背もたれを傾動させるために、回動機構を備えた椅子であって、
   前記回動機構は、一端を前記受台に回動可能に軸支し、他端を前記背もたれに固定し、背もたれを傾動させる回動アームと、前記受台内部に設けられ、前記回動アームの軸を巻回部に遊嵌し、一端を回動アームに係止し、他端を背もたれを後傾動させる回動アームの動きに対して戻し方向に付勢力が生じるように固定したねじりコイルばねからなる第１弾性手段と、背もたれを後傾動させる回動アームの動きに対して前記座部の前方向と水平な引張り方向の付勢力を有する第２弾性手段とを有し、
   前記第１弾性手段及び第２弾性手段は、前記背もたれが後傾動するに従い、前記戻し方向の付勢力と前記引張り方向の付勢力との合成された付勢力により、後傾動の傾斜角度が大きくなるにつれて、背反力が増大し、次第に後傾速度を抑え、戻り傾動と後傾動との背反力の差が小さくなるように弾性特性を調整させたものであることを特徴とする椅子。
   
2. 前記第２弾性手段は、前記受台内部に設けられ、一端のフックを前記受台の前記座部前方側に設けられた固定掛止部に掛止し、他端のフックを回動アームの動きに連動するように、前記軸に取り付けられた連動部に前記引張り方向の付勢力が生じるように掛止された引張りばねであることを特徴とする請求項１記載の椅子。
3. 前記座部の着座面は、前記傾動時に、着座面上で骨盤の圧力中心の移動を前後の広い範囲で生じさせ、坐骨結節前方部を支えるように、坐骨結節部を深く沈みこませる構造であることを特徴とする請求項１または請求項２に記載の椅子。

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