JP5582375B2 - 感熱転写記録媒体 - Google Patents

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Description

本発明は、感熱転写方式のプリンタに使用される感熱転写記録媒体に関する。
一般に、感熱転写記録媒体は、サーマルリボンと呼ばれ、感熱転写方式のプリンタに使用されるインクリボンのことであり、基材の一方の面に感熱転写層、その基材の他方の面に耐熱滑性層(バックコート層)を設けたものである。ここで感熱転写層は、インクの層であって、プリンタのサーマルヘッドで発生する熱によって、そのインクを昇華(昇華転写方式)あるいは溶融(溶融転写方式)させ、被転写体側に転写するものである。
現在、感熱転写方式の中でも昇華転写方式は、プリンタの高機能化と併せて各種画像を簡便にフルカラー形成できるため、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書等のカード類、アミューズメント用出力物等、広く利用されている。そういった用途の多様化と共に、小型化、高速化、低コスト化、また得られる印画物への耐久性を求める声も大きくなり、近年では基材シートの同じ側に印画物への耐久性を付与する保護層等が重ならないように設けられた複数の感熱転写層をもつ感熱転写記録媒体がかなり普及してきている。
そのような状況の中、用途の多様化と普及拡大に伴い、よりプリンタの印画速度の高速化が進むに従って、従来の感熱転写記録媒体では十分な印画濃度が得られないという問題が生じてきた。そこで転写感度を上げるべく、感熱転写記録媒体の薄膜化により印画における転写感度の向上を試みることが行われてきたが、感熱転写記録媒体の製造時や印画の際に熱や圧力等によりシワが発生したり、場合によっては破断が発生するという問題を抱えている。
また、感熱転写記録媒体の染料層において、樹脂に対する染料の比率(Dye/Binder)を大きくして、印画濃度や印画における転写感度の向上を試みることが行われている。しかし、染料を増やすことでコストアップとなるばかりではなく、製造工程における巻き取り状態時に感熱転写記録媒体の耐熱滑性層へ染料の一部が移行し(裏移り)、その後の巻き返し時に、その移行した染料が他の色の染料層、あるいは保護層に再転移し(裏裏移り)、この汚染された層を被転写体へ熱転写すると、指定された色と異なる色相になったり、いわゆる地汚れが生じたりする。
また、感熱転写記録媒体側ではなく、プリンタ側で画像形成時のエネルギーをアップする試みも行われているが、消費電力が増えるばかりではなく、プリンタのサーマルヘッドの寿命を短くする他、染料層と被転写体が融着する、いわゆる異常転写が生じやすくなる。それに対して、異常転写を防止するために染料層あるいは被転写体に多量の離型剤を添加すると、画像のにじみや地汚れが生じたりする。
このような問題を解決するために、いくつかの方法が提案されている。例えば、特許文献1では、基材と染料層との間に、ポリビニルピロリドン樹脂と変性ポリビニルピロリドン樹脂とを含有する接着層を有する熱転写シートが提案されている。
また、特許文献2には、基材と染料層との間に、熱可塑性樹脂であるポリビニルピロリドン樹脂またはポリビニルアルコール樹脂とコロイド状無機顔料超微粒子とからなる接着層を有する熱転写シートが提案されている。
また、特許文献3には、基材と染料層との間に、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体とコロイド状無機顔料超微粒子とからなる下地層を有する熱転写シートが提案されている。
このように、基材と染料層との間に特定の材料からなる層を設けることによって転写感度は向上する。転写感度の向上に伴い、染料層を薄膜化することが可能となり、染料の総量が減少してコストダウンにも繋がる一方で、感熱転写記録媒体の印画の際に熱や圧力等によりシワが発生したり、場合によっては破断が発生するという問題を抱えている。
感熱転写記録媒体の印画時のシワは、耐熱滑性層の滑性が不十分な場合、基材とサーマルヘッドとの貼り付きが原因で発生することがある。また、耐熱滑性層の滑性が低エネルギー印画時と高エネルギー印画時とで大きく異なる場合、例えば、同一画像上に印画部と非印画部とが共存する場合等に、両者間で、サーマルヘッドと耐熱滑性層との摩擦の差が原因で発生することがある。
このような問題を解決するために、例えば特許文献4には、耐熱滑性層にシリコーン変性樹脂と共に金属石鹸及びフィラー成分が添加されており、高エネルギー印画時の滑性を向上させ、印画時のシワの発生を防ぐ熱転写シートが提案されている。
さらに、水系受容層が形成された水系の熱転写受像シートでは受像シート側の貼り付き性が強い傾向があり、さらには印画時にサーマルヘッドから高エネルギーをかけた場合(高濃度)と中エネルギーをかけた場合(中濃度)とでは、求められる離型性に差異があることが確認されている。
従来の油性の受像シートであれば、高濃度印画における離型性を確保すればよいので、例えば前記特許文献1〜3に記載の熱転写シートによってある程度の対応は可能である。しかし、水系の受像シートを用いた場合には、中濃度印画においても貼り付く傾向があるため、高濃度乃至中濃度印画において充分に対応し得る熱転写シートが必要とされる。
そこで、特許文献5には、染料、樹脂バインダーおよび該樹脂バインダーに対して特定量の離型剤を含む染料層を有し、含水率が2.5%以下に調整された熱転写シートが提案されている。
特開2005−231354号公報 特開2006−150956号公報 特開2008−155612号公報 特開2006−306017号公報 特開2010−058501号公報
しかしながら、特許文献1に提案されている感熱転写記録媒体にて昇華転写方式の高速プリンタにて印画を行った場合、印画における転写感度が低く、十分なレベルまで至っておらず、さらに薄膜化に伴う印画シワを防ぐことはできなかった。
また、基材に、水系(水を含む溶媒に溶解可能もしくは分散可能な)バインダーと中空粒子とを含む水系中空粒子層を介して、水系バインダーと離型剤とを含む水系受容層が形成された熱転写受像シートに、特許文献1に提案されている感熱転写記録媒体にて熱転写によって画像を形成した場合、高濃度部で発生する濃淡ムラを十分に抑えることができなかった。さらに、高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きと、中濃度部で発生する染料層の異常転写との双方を、十分に抑えることができなかった。
一方、特許文献2、3に提案されている感熱転写記録媒体にて同じく印画を行った場合、特許文献1と比較してコロイド状無機顔料超微粒子の添加による高濃度部における転写感度の上昇は認められるものの、ポリビニルピロリドン樹脂を接着層として使用しているものについては十分満足できるレベルには至っていなかった。また、ポリビニルアルコール樹脂を接着層として使用しているものについては、転写感度は高く、十分なレベルに至っているものの、染料層との密着性が不十分であり、異常転写の発生が認められる。また、薄膜化に伴う印画シワを防ぐことはできなかった。さらに、コロイド状無機顔料超微粒子は非常に高価であり、コスト的な面からも市場の要求と逆行するものである。
また、特許文献1に提案されている感熱転写記録媒体と同様に、特許文献2、3に提案されている感熱転写記録媒体に関しても、水系受容層が形成された熱転写受像シートに熱転写によって画像を形成した場合、高濃度部で発生する濃淡ムラを十分に抑えることができなかった。さらに、高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きと、中濃度部で発生する染料層の異常転写との双方を、十分に抑えることができなかった。
特許文献1〜3に提案されている感熱転写記録媒体において、耐熱滑性層として特許文献4に提案されている感熱転写記録媒体の耐熱滑性層を用いて印画を行った場合、特許文献1〜3に提案されている感熱転写記録媒体各々単独にて印画を行った場合と比較すると、印画シワはやや良化したものの、充分に防ぐことはできなかった。
また、離型剤の添加量が調整され、樹脂バインダーが易接着層として使用されているにすぎない、特許文献5に提案されている熱転写シートでは、使用時の環境により基材やバインダーが吸湿してしまう。したがって、該熱転写シートを用い、水系受容層が形成された熱転写受像シートに熱転写によって画像を形成した場合も、高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きと、中濃度部で発生する染料層の異常転写との双方を、十分に抑えることができなかった。
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑み、
(I)高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きく、また、印画における異常転写を防止することができる感熱転写記録媒体を提供すること
(II)高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きく、また、印画における異常転写および熱や圧力等の影響により発生する印画シワを十分に防止することができる感熱転写記録媒体を提供すること
(III)高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きく、また、印画における異常転写を防止することができ、しかも水系受容層が形成された熱転写受像シートに熱転写によって画像を形成した際に、高濃度部で発生する濃淡ムラを改善することができる感熱転写記録媒体を提供すること
(IV)高速印画時における転写感度が低濃度部および高濃度部ともに高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きく、また、印画における異常転写および印画の際に生じる熱や圧力等の影響により発生するシワを防止することができる感熱転写記録媒体を提供すること
(V)高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きく、しかも水系受容層が形成された熱転写受像シートに熱転写によって画像を形成した際に、高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きと、中濃度部で発生する染料層の異常転写との双方を改善することができる感熱転写記録媒体を提供すること
を目的とするものである。
(I)本発明に係わる感熱転写記録媒体は、基材に下引き層および染料層が順次積層形成され、該下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、該染料層が、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物を含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであることを特徴とする。以下、この感熱転写記録媒体を「感熱転写記録媒体I」という。
本発明に係わる感熱転写記録媒体Iにおいては、前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることが好ましい。
本発明に係わる感熱転写記録媒体Iにおいては、前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることが好ましい。
(II)本発明に係わる感熱転写記録媒体は、基材の一方の面に耐熱滑性層が形成され、該基材の他方の面に下引き層および染料層が順次積層形成され、該下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、該染料層が、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物を含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、該耐熱滑性層の表面粗さRaの平均値αが0.05〜0.50μmであり、かつ、150℃、10分間の条件で静置した後の該耐熱滑性層の表面粗さRaの平均値βが0.00〜0.80μmであり、該平均値αと該平均値βとの差が0.00〜0.30μmであることを特徴とする。以下、この感熱転写記録媒体を「感熱転写記録媒体II」という。
本発明に係わる感熱転写記録媒体IIにおいては、前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることが好ましい。
本発明に係わる感熱転写記録媒体IIにおいては、前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることが好ましい。
(III)本発明に係わる感熱転写記録媒体は、基材に、水系バインダーと中空粒子とを含む水系中空粒子層を介して、水系バインダーと離型剤とを含む水系受容層が形成された熱転写受像シートに、熱転写によって画像を形成するための感熱転写記録媒体であり、基材に下引き層および染料層が順次積層形成され、該下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、該染料層が、フィラー粒子と、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物とを含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、該染料層の3次元表面粗さ(SRa)が0.15〜0.70μmであることを特徴とする。以下、この感熱転写記録媒体を「感熱転写記録媒体III」という。
本発明に係わる感熱転写記録媒体IIIにおいては、前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることが好ましい。
本発明に係わる感熱転写記録媒体IIIにおいては、前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることが好ましい。
本発明に係わる感熱転写記録媒体IIIにおいては、前記フィラー粒子の体積平均粒子径が、0.1〜3.0μmであることが好ましい。
(IV)本発明に係わる感熱転写記録媒体は、基材に下引き層および染料層が順次積層形成され、該下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、該染料層が、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物を含み、かつ、樹脂バインダーとしてガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールとガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールとを含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであることを特徴とする。以下、この感熱転写記録媒体を「感熱転写記録媒体IV」という。
本発明に係わる感熱転写記録媒体IVにおいては、前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることが好ましい。
本発明に係わる感熱転写記録媒体IVにおいては、前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることが好ましい。
本発明に係わる感熱転写記録媒体IVにおいては、前記染料層中のガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールとガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアセタール/ポリビニルブチラール=50/50〜97/3であることが好ましい。
(V)本発明に係わる感熱転写記録媒体は、基材に、水系バインダーと中空粒子とを含む水系中空粒子層を介して、水系バインダーと離型剤とを含む水系受容層が形成された熱転写受像シートに、熱転写によって画像を形成するための感熱転写記録媒体であり、基材に下引き層および染料層が順次積層形成され、該下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、該染料層の少なくとも1つが、離型剤として少なくとも2種の変性シリコーンオイルと、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物とを含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、該変性シリコーンオイルが、数平均分子量が8000以上の非反応性シリコーンオイルと、数平均分子量が3000以下の反応性シリコーンオイルとからなることを特徴とする。以下、この感熱転写記録媒体を「感熱転写記録媒体V」という。
本発明に係わる感熱転写記録媒体Vにおいては、前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることが好ましい。
本発明に係わる感熱転写記録媒体Vにおいては、前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることが好ましい。
本発明に係わる感熱転写記録媒体Vにおいては、前記非反応性シリコーンオイルが、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイルであり、前記反応性シリコーンオイルが、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイルであることが好ましい。
本発明の感熱転写記録媒体Iは、高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きく、また、印画における異常転写を防止することができる。
本発明の感熱転写記録媒体IIは、高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きく、また、印画における異常転写および熱や圧力等の影響により発生する印画シワを十分に防止することができる。
本発明の感熱転写記録媒体IIIは、高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きく、また、印画における異常転写を防止することができる。さらに、基材に、水系バインダーと中空粒子とを含む水系中空粒子層を介して、水系バインダーと離型剤とを含む水系受容層が形成された熱転写受像シートに、熱転写によって画像を形成した際に、高濃度部で発生する画質不良、すなわち、被転写体である熱転写受像シートの水系受容層が感熱転写記録媒体に融着することで色相変動が起こり、その結果、印画物表面に濃淡ムラが発生する現象を改善することができる。
本発明の感熱転写記録媒体IVは、高速印画時における転写感度が低濃度部および高濃度部ともに高く、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きく、また、印画における異常転写、および印画の際に生じる熱や圧力等の影響により発生するシワを防止することができる。
本発明の感熱転写記録媒体Vは、高速印画時における転写感度が高く、すなわち、染料層に使用する染料を低減することでコストダウンの効果が大きい。さらに、基材に、水系バインダーと中空粒子とを含む水系中空粒子層を介して、水系バインダーと離型剤とを含む水系受容層が形成された熱転写受像シートに、熱転写によって画像を形成した際に、高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きと、中濃度部で発生する染料層の異常転写との双方を改善することができる。
図1は、本発明に基づく実施の形態に係る感熱転写記録媒体の側断面図である。
本発明の一実施例の感熱転写記録媒体は、図1に示すように、基材10の一方の面に、サーマルヘッドとの滑り性を付与する耐熱滑性層40を設け、基材10の他方の面に、下引き層20および染料層30を順次形成した構成である。なお、本発明の感熱転写記録媒体I〜Vはいずれも、例えば図1に示す構成を有する。
(実施の形態I:感熱転写記録媒体I)
基材10としては、熱転写における熱圧で軟化変形しない耐熱性と強度が必要とされ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、セロファン、アセテート、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、芳香族ポリアミド、アラミド、ポリスチレン等の合成樹脂のフィルム、およびコンデンサー紙、パラフィン紙などの紙類等を単独で、または組み合わされた複合体として使用可能である。中でも、物性面、加工性、コスト面などを考慮するとポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。また、その厚さは、操作性、加工性を考慮し、2μm以上、50μm以下の範囲のものが使用可能であるが、転写適性や加工性等のハンドリング性を考慮すると、2μm以上、9μm以下程度のものが好ましい。
また、基材10においては、耐熱滑性層40または/および下引き層20を形成する面に、接着処理を施すことも可能である。接着処理としては、コロナ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、プラズマ処理、プライマー処理等の公知の技術を適用することができ、それらの処理を二種以上併用することもできる。本発明では、基材と下引き層との接着性を高めることが有効であり、コスト面からもプライマー処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。
次に、耐熱滑性層40は、従来公知のもので対応することができ、例えば、バインダーとなる樹脂、離型性や滑り性を付与する機能性添加剤、充填剤、硬化剤、溶剤などを配合して耐熱滑性層形成用塗布液を調製し、塗布、乾燥して形成することができる。この耐熱滑性層40の乾燥後の塗布量は、特に限定がないが、0.1g/m以上、2.0g/m以下程度が適当である。
ここで、耐熱滑性層40の乾燥後の塗布量とは、耐熱滑性層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。また、後述する下引き層20の乾燥後の塗布量および染料層30の乾燥後の塗布量も、同様に、後述する下引き層形成用塗布液および染料層形成用塗布液を各々塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。
耐熱滑性層の一例を挙げると、バインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル樹脂およびこれらの変性体等を挙げることができる。
次に、下引き層20は、JIS K 7113「プラスチックの引張試験方法」に記載の方法に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上であるポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成される。
ポリビニルアルコールとしては、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上であることが必須である。抗張力が8kg/mm未満であると、印画時に高い転写感度を付与することが難しい。抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールとしては、例えば、クラレポバールPVA−124((株)クラレ製)やクラレポバールPVA−145((株)クラレ製)等が挙げられる。
ポリビニルアルコールは、メタノール中で酢酸ビニルを重合させてポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た後、水酸化ナトリウム等でケン化して得たケン化物を中和するといった、通常の方法で調製すればよい。また、得られたポリビニルアルコールは、上述のごとく、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上であればよく、そのケン化度や平均重合度には特に限定がないが、例えば、ケン化度が90〜99モル%程度、平均重合度が2000〜4500程度のものを好適に使用することができる。
ポリビニルピロリドンとしては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−ピロリドン等のビニルピロリドンの単独重合体(ホモポリマー)またはこれらの共重合体が挙げられる。さらには変性ポリビニルピロリドン樹脂などがあげられる。変性ポリビニルピロリドン樹脂は、N−ビニルピロリドン系モノマーと他のモノマーとの共重合体である。なお、共重合形態は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等特に限定されるものではない。上記のN−ビニルピロリドン系モノマーとは、N−ビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−ピロリドン等)およびその誘導体をいうものであり、誘導体としては、例えばN−ビニル−3−メチルピロリドン、N−ビニル−5−メチルピロリドン、N−ビニル−3,3,5−トリメチルピロリドン、N−ビニル−3−ベンジルピロリドン等のピロリドン環に置換基を有するものが挙げられる。
N−ビニルピロリドン系モノマーと共重合するモノマー成分は、下記のようなビニル重合性モノマーが挙げられる。例えば(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、塩化ビニリデン、四フッ化エチレン、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
下引き層20中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率は、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることが好ましく、さらには5/5〜6/4であることがより好ましい。ポリビニルアルコールは水溶性高分子化合物の中でも優れた染料バリア性能を有しているが、単独で積層すると、染料層との密着性が不十分であり、異常転写の懸念がある。その反面、ポリビニルピロリドンはポリビニルアルコールに比べて染料バリア性は劣るものの、染料層との密着性が良好であり、上記含有比率にて高い転写感度と異常転写の防止の双方の性能を十分に満足することが可能となる。
下引き層20の乾燥後の塗布量は、一概に限定されるものではないが、0.05g/m以上、0.30g/m以下の範囲内であることが好ましく、さらには0.10g/m以上、0.20g/m以下の範囲内であることがより好ましい。0.05g/m未満では、染料層積層時の劣化により、高速印画時における転写感度が不足し、基材あるいは染料層との密着性が低下する恐れがある。一方、0.30g/mを超えると、感熱転写記録媒体I自体の感度低下に影響し、高速印画時における転写感度が低下する恐れがある。
また、下引き層には、前記性能を損なわない範囲で、無機顔料微粒子、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、粘度調整剤、安定化剤等の公知の添加剤を使用することができる。
次に、染料層30は、熱移行性染料の他に、例えばバインダー、溶剤等を配合して染料層形成用塗布液を調製し、塗布、乾燥することで形成される。なお、染料層は、1色の単一層で構成することもでき、色相の異なる染料を含む複数の染料層を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成することもできる。
前記染料層30に用いられる熱移行性染料は、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料である。例えば、イエロー成分としては、ソルベントイエロー56、16、30、93、33、あるいはディスパースイエロー201、231、33等を挙げることができる。マゼンタ成分としては、C.I.ディスパースレッド60、C.I.ディスパースバイオレット26、C.I.ディスパースバイオレット38、C.I.ソルベントレッド27、あるいはC.I.ソルベントレッド19等を挙げることができる。本発明においては、これらの中でも、C.I.ディスパースバイオレット38等に代表されるアントラキノン系化合物を熱移行性染料として用いることが必須である。シアン成分としては、C.I.ディスパースブルー354、C.I.ソルベントブルー63、C.I.ソルベントブルー36、C.I.ソルベントブルー266、C.I.ディスパースブルー257、あるいはC.I.ディスパースブルー24等を挙げることができる。本発明においては、これらの中でも、C.I.ソルベントブルー63、C.I.ソルベントブルー36、あるいはC.I.ディスパースブルー24等に代表されるアントラキノン系化合物を熱移行性染料として用いることが必須である。その理由は、基材−染料層間に下引き層を導入した場合、アントラキノン系化合物から成る染料は、他の染料よりも受像層への転写効率に優れているため、高い転写感度を与え、すなわち、染料層に使用する染料を低減することができるからである。
染料層30に含まれるバインダーは、従来公知の樹脂バインダーをいずれも使用することができ、特に限定されるものではないが、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂や、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂や、ポリエステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、フェノキシ樹脂等を挙げることができる。
ここで、染料層30を形成する際の熱移行性染料とバインダーとの質量基準での配合比率は、熱移行性染料/バインダー=10/100〜300/100であることが好ましい。これは、熱移行性染料/バインダーの配合比率が10/100を下回ると、染料が少な過ぎて発色感度が不十分となり、良好な熱転写画像が得られず、また、この配合比率が300/100を越えると、バインダーに対する染料の溶解性が極端に低下するために、得られる感熱転写記録媒体Iは、保存安定性が低下し、染料が析出し易くなる恐れがあるためである。
また、染料層には、前記性能を損なわない範囲で分散剤、粘度調整剤、安定化剤等の公知の添加剤が含まれていてもよい。
染料層30の乾燥後の塗布量は、一概に限定されるものではないが、印画時の異常転写やシワの発生を抑え、またコストの上昇も抑えるという点から、0.3g/m以上、1.5g/m以下程度が適当である。
なお、耐熱滑性層40、下引き層20および染料層30は、いずれも、各々耐熱滑性層形成用塗布液、下引き層形成用塗布液および染料層形成用塗布液を、従来公知の塗布方法にて塗布し、乾燥することで形成可能である。塗布方法の一例として、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、スプレーコーティング法、リバースロールコート法を挙げることができる。
(実施の形態II:感熱転写記録媒体II)
基材10としては、前記感熱転写記録媒体Iを構成する基材10と同様のものを用いることができる。また、基材10においては、耐熱滑性層40または/および下引き層20を形成する面に、前記感熱転写記録媒体Iと同様にして、接着処理を施すことも可能である。
次に、耐熱滑性層40は、表面粗さRaの平均値αが0.05〜0.50μmであり、かつ、150℃、10分間の条件で静置した後の該耐熱滑性層40の表面粗さRaの平均値βが0.00〜0.80μmであり、該平均値αと該平均値βとの差が0.00〜0.30μmのものである。
表面粗さRaは、通常接触式、非接触式各種の方法で測定することができるが、本発明では、下地の影響を受け難く、微細形状の測定が可能である、非接触式の測定方法であるレーザ顕微鏡による測定方法を採用した。測定装置として、オリンパス(株)製の走査型共焦点レーザ顕微鏡「OLS1100」を用いた。レーザ顕微鏡による測定の場合、分解能が対物レンズの開口数に依存するため、最も開口数が大きい100倍の対物レンズを選択した。測定した画像をY軸方向に11分割し、分割した境界となる位置で、X軸方向におけるカットオフ値1/3の時のRa値の計測をそれぞれ行った。得られた10点のRa値を平均し、耐熱滑性層のRa値とした。平均値αは、150℃、10分間の条件で静置する前の値で、平均値βは、該条件で静置した後の値である。
耐熱滑性層40に一定の凹凸があることにより、耐熱滑性層40とサーマルヘッドとの接触面積は小さくなり、両者の摩擦は低下して滑性が得られ、印画不良を防ぐことができる。そのため、耐熱滑性層40の表面粗さRaの平均値αが0.05μm未満であると、平滑に近い状態となり、耐熱滑性層40とサーマルヘッドとの摩擦が上昇し、印画不良を起こす。しかし、耐熱滑性層40の表面粗さRaの平均値αが0.50μmを超えると、凹凸が大きくなり過ぎ、サーマルヘッドからの熱の伝わり方にムラが生じてしまい、それが印画物にも濃度ムラとなって現れてしまう。なお、平均値αは0.10〜0.40μmであることが好ましい。
また、150℃、10分間の条件で静置した後の耐熱滑性層40の表面粗さRaの平均値βが0.80μmを超えると、熱による凹凸の増加に伴い、サーマルヘッドからの熱の伝わり方にムラが生じてしまい、印画物にも濃度ムラが現れてしまう。なお、平均値βは0.10〜0.60μmであることが好ましい。
さらに、低エネルギー印画から高エネルギー印画にかけて一定の凹凸を保つことができれば、低エネルギー印画時から高エネルギー印画時まで安定した滑性が得られ、同一画像上に印画部と非印画部とが共存したとしても、両者の間で滑性に差が生じることはなく、印画シワの発生を抑制することができる。したがって、耐熱滑性層40を150℃、10分間の条件で静置した際に、その前後における表面粗さRaの平均値の差、すなわち平均値αと平均値βとの差が0.00〜0.30μmの範囲であると、低エネルギー印画時と高エネルギー印画時とで表面の凹凸に大きな差は生じず、印画シワの発生を十分に防止することができる。平均値αと平均値βとの差が0.30μmを超えると、サーマルヘッドとの摩擦と滑性とに差が生じ、印画シワの発生を防止するまでには至らない。このような表面粗さの範囲を満足するには、耐熱滑性層40の凹凸を調整する必要がある。なお、平均値αと平均値βとの差は0.00〜0.25μmであることが好ましい。
耐熱滑性層40は、例えば、バインダー樹脂に各種機能性添加剤等を配合して耐熱滑性層形成用塗布液を調製し、塗布、乾燥して形成することができるが、特に無機粒子を配合することが好ましい。無機粒子を配合することで耐熱滑性層40の表面に凹凸が形成され、サーマルヘッドとの接触面積が小さくなるため、サーマルヘッドとの摩擦が低下し、滑性が向上する。また、無機粒子は熱による変化が少ないため、高エネルギーで印画を行っても一定の凹凸が保持され、低エネルギー印画時から高エネルギー印画時にかけて一定の滑性が示される。すなわち、安定した耐熱性を有し、印画時のシワの発生を十分に防止することができる。さらに、無機粒子を配合することで、サーマルヘッドのクリーニング性も付与することができる。
また、耐熱滑性層40の凹凸を調整する目的で、平均粒子径の異なる無機粒子を2種以上組み合わせて使用してもよく、その組み合わせは適宜選択することができる。無機粒子の平均粒子径は、形成する耐熱滑性層40の厚み等に応じて異なり、特に限定されないが、0.1〜6.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜4.0μmである。無機粒子の平均粒子径が0.1μm未満であると、耐熱滑性層40中に埋没して凹凸を形成することができず、サーマルヘッドとの摩擦を低下させることができない場合があり、サーマルヘッドのクリーニング性も低下する場合がある。逆に無機粒子の平均粒子径が6.0μmを超えると、耐熱滑性層40の凹凸が大きくなり過ぎて、場所によってはサーマルヘッドからの熱を十分に伝えられず、ムラとなって印画物に現れたり、耐熱滑性層40から脱離し、印画面にキズ等を発生させる恐れがある。
耐熱滑性層40に用いることができる無機粒子の一例として、例えば、シリカ粒子、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、カオリン、クレー等を挙げることができる。
耐熱滑性層形成用塗布液中の無機粒子の含有量は、2〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜20質量%である。無機粒子の含有量が2質量%未満では、サーマルヘッドのクリーニング効果が不十分であり、また表面粗さRaの値が小さくなってしまう。逆に無機粒子の含有量が30質量%を超えると、無機粒子の種類によっては耐熱滑性層40自体の膜強度の低下を招く場合があり、また表面粗さRaの値が大きくなることで印画時の熱の伝わり方にムラが生じ、印画物に不良が生じる場合がある。
耐熱滑性層40には、サーマルヘッドとの滑性を向上させる目的で滑剤を配合することが好ましく、融点の異なる滑剤を2種以上組み合わせて配合してもよい。滑剤を配合することで、サーマルヘッドから熱が加えられた際に該滑剤が溶出し、滑性を向上させ、熱による感熱転写記録媒体IIへの負荷を軽減する効果がある。また、融点が異なる滑剤を配合することで、低温から高温に至るあらゆる温度、すなわち低エネルギー印画時から高エネルギー印画時にかけて、安定した滑性を付与することが可能となる。
耐熱滑性層40に用いることができる滑剤の一例として、例えば、動物系ワックス、植物系ワックス等の天然ワックス、合成炭化水素系ワックス、脂肪族アルコールと酸系ワックス、脂肪酸エステルとグリセライト系ワックス、合成ケトン系ワックス、アミンおよびアマイド系ワックス、塩素化炭化水素系ワックス、アルファーオレフィン系ワックス等の合成ワックス、ステアリン酸ブチル、オレイン酸エチル等の高級脂肪酸エステル、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸金属塩、長鎖アルキルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル又は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル等の界面性剤等を挙げることができる。
耐熱滑性層形成用塗布液中の滑剤の含有量は、5〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。滑剤の含有量が5質量%未満では、滑性が十分に発揮されなかったり、画像によっては滑剤の不足によりサーマルヘッドとの貼り付きを起こす場合がある。逆に滑剤の含有量が25質量%を超えると、必要以上に滑性が付与されたり、滑剤が溶出してしまい、印画に影響を与える場合がある。
耐熱滑性層40に用いることができるバインダー樹脂の一例として、例えば、前記感熱転写記録媒体Iに用いられるものと同様のバインダー樹脂を挙げることができる。
さらに耐熱滑性層40には、耐熱性を向上させる目的で架橋剤を配合してもよい。架橋剤を配合することで耐熱滑性層40の耐熱性が向上し、サーマルヘッドとの摩擦による基材の変形を防止することができる。架橋剤としては、例えばポリイソシアネートが挙げられ、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系のポリオール樹脂やセルロース系樹脂、アセタール樹脂等との組み合わせで用いることができる。
耐熱滑性層40の乾燥後の塗布量は、一概に限定されるものではないが、0.2g/m以上、2.6g/m以下の範囲内であることが好ましく、さらには0.6g/m以上、1.6g/m以下の範囲内であることがより好ましい。0.2g/m未満では、耐熱性が低く、印画時の熱収縮が生じ易くなる。一方、2.6g/mを超えると、サーマルヘッドからの熱が染料層30に十分に伝わらず、所望の濃度の印画物を得ることが困難になる。
ここで、耐熱滑性層40の乾燥後の塗布量とは、耐熱滑性層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。また、後述する下引き層20の乾燥後の塗布量および染料層30の乾燥後の塗布量も、同様に、後述する下引き層形成用塗布液および染料層形成用塗布液を各々塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。
次に、下引き層20は、前記感熱転写記録媒体Iにおける下引き層20と同様にして形成することができる。
次に、染料層30も、前記感熱転写記録媒体Iにおける染料層30と同様にして形成することができる。
なお、耐熱滑性層40、下引き層20および染料層30は、いずれも、前記感熱転写記録媒体Iと同様に、従来公知の方法にて形成することができる。
(実施の形態III:感熱転写記録媒体III)
基材10としては、前記感熱転写記録媒体Iを構成する基材10と同様のものを用いることができる。また、基材10においては、耐熱滑性層40または/および下引き層20を形成する面に、前記感熱転写記録媒体Iと同様にして、接着処理を施すことも可能である。
次に、耐熱滑性層40は、前記感熱転写記録媒体Iにおける耐熱滑性層40と同様にして形成することができる。
ここで、耐熱滑性層40の乾燥後の塗布量とは、耐熱滑性層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。また、後述する下引き層20の乾燥後の塗布量および染料層30の乾燥後の塗布量も、同様に、後述する下引き層形成用塗布液および染料層形成用塗布液を各々塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。さらに、後述する水系中空粒子層の乾燥後の塗布量および水系受容層の乾燥後の塗布量も、同様に、後述する水系中空粒子層形成用塗布液および水系受容層形成用塗布液を各々塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。
次に、下引き層20も、前記感熱転写記録媒体Iにおける下引き層20と同様にして形成することができる。
次に、染料層30は、フィラー粒子および熱移行性染料の他に、例えばバインダー、溶剤などを配合して染料層形成用塗布液を調製し、塗布、乾燥することで形成される。なお、染料層は、1色の単一層で構成することもでき、色相の異なる染料を含む複数の染料層を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成することもできる。
フィラー粒子は特に限定されず、合成樹脂微粒子、無機微粒子等の公知のものを使用することができる。フィラー粒子の体積平均粒子径にも特に限定がないが、後述するように、染料層30の乾燥後の塗布量は0.7〜1.0g/m程度であることが好ましいという点を考慮すると、0.1μm以上、3.0μm以下の範囲であることが好ましく、さらには0.5μm以上、2.0μm以下の範囲であることがより好ましい。体積平均粒子径が0.1μm未満のフィラー粒子では、必要とする染料層の凹凸が得られ難く、体積平均粒子径が3.0μmを超えるフィラー粒子を用いると、染料層からフィラー粒子が滑落し易くなり、また印画濃度が低下する恐れがある。
上記フィラー粒子を用いることによって、染料層の表面に凹凸が生じ、印画時に、熱転写受像シートにおける水系受容層と感熱転写記録媒体との熱融着を防ぐことが可能となり、その結果、高濃度部で発生する濃淡ムラを抑えることができる。染料層の3次元表面粗さ(SRa)は、0.15μm以上、0.70μm以下の範囲であることが必須であり、0.30μm以上、0.60μm以下の範囲であることが好ましい。SRaが0.15μm未満であると、染料層の表面が平坦過ぎて印画時に熱融着が起こり、高濃度部で濃淡ムラが発生する危険性が極めて高い。一方、SRaが0.70μmよりも大きくなると、印画時に熱融着が起こらない反面、転写感度の低下を招く恐れがあり、さらにフィラー粒子の添加量が多過ぎる場合は、染料層の膜強度が低下し、異常転写が発生する危険性が極めて高い。
使用することができる合成樹脂微粒子としては、例えば、アクリル樹脂微粒子、シリコーン樹脂微粒子、ビニルモノマーの乳化重合などによって得られる有機高分子化合物の微粒子やポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾールなど重縮合によって得られる有機高分子化合物の微粒子、フェノール樹脂、メラミン樹脂などの付加縮合によって得られる有機高分子化合物の微粒子等を挙げることができるが、これらの中でもシリコーン樹脂微粒子が望ましい。
無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化タングステン、ケイ酸アルミニウム(クレー、カオリン)、タルク、アタパルジャイト、セリサイト、マイカ、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、ベントナイト、ゼオライト、パイロフィライト、酸化ジルコン、ケイ酸ジルコン、ハイドロタルサイト、クリソタイル、ゾノトライト、ウォラストナイトなどが挙げられる。また、上記無機微粒子に対して表面処理を施したものであってもよい。
ここで、染料層30を形成する際のフィラー粒子とバインダーとの質量基準での配合比率は、フィラー粒子/バインダー=1/100〜10/100であることが好ましい。これは、フィラー粒子/バインダーの配合比率が1/100を下回ると、印画時に熱転写受像シートの水系受容層と染料層とが熱融着を起こし、高濃度部で濃淡ムラが発生する恐れがあるためであり、また、この配合比率が10/100を越えると、染料層の膜強度が低下し、異常転写を引き起こす恐れがあるためである。
染料層30に用いられる熱移行性染料およびバインダーとして、例えば、前記感熱転写記録媒体Iに用いられるものと同様の熱移行性染料およびバインダーをそれぞれ挙げることができる。
また、染料層30を形成する際の熱移行性染料とバインダーとの質量基準での配合比率、染料層30に含まれる公知の添加剤、及び染料層30の乾燥後の塗布量についても、前記感熱転写記録媒体Iと同様であればよい。
なお、耐熱滑性層40、下引き層20および染料層30は、いずれも、前記感熱転写記録媒体Iと同様に、従来公知の方法にて形成することができる。
次に、感熱転写記録媒体IIIに係る本発明で使用される被転写体となる熱転写受像シートについて説明する。
熱転写受像シートは、基材に、水系バインダーと中空粒子とを含む水系中空粒子層を介して、水系バインダーと離型剤とを含む水系受容層が形成されたものである。熱転写受像シートに用いられる基材としては、特に限定がなく、使用目的等に応じて種々の材質、層構成およびサイズのものを適宜選定、使用することができる。例えば、紙、コート紙、合成紙(ポリプロピレン、ポリスチレンまたはそれらを紙と貼り合わせた複合材料)等の各種紙類等を挙げることができる。
(水系中空粒子層)
前記基材には、中空粒子と接着成分(水系バインダー)とを含む水系中空粒子層が形成される。熱転写方式の印画は、サーマルヘッドからの加熱により行われ、サーマルヘッドと受像シートの基材との良好な密着性が要求される。水系中空粒子層が形成された基材は、クッション性を有するので、サーマルヘッドとの密着性が向上し、印画の際により均一な画像を得ることが可能である。
中空粒子の粒子壁を形成する材料として、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、スチレンアクリル酸エステルの重合体等が好ましく使用される。中空粒子の製造方法としては、樹脂粒子中にブタンガス等の発泡剤を封入し、加熱発泡させる方式や、エマルジョン重合方式等が挙げられる。加熱発泡させる方式としては、中空粒子を予め熱処理によって発泡させた既発泡中空粒子を用いる方式と、未発泡の粒子を含有した層を塗工等により形成した後、乾燥工程等の加熱処理によって中空構造を形成する方式とがある。中空粒子の中空率や粒子径を一定に制御することが容易な点から、一般的には既発泡中空粒子を用いる方式が好ましい。
水系中空粒子層に用いられる水系バインダーとしては、特に限定がないが、例えば、水溶性のポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ビニル系モノマーの重合体や共重合体等のビニル系ポリマー等が挙げられる。
水系中空粒子層の乾燥後の塗布量は、一概に限定されるものではないが、十分な断熱性の付与とコストの点から、5.0〜40.0g/m程度が適当である。
(水系受容層)
基材に形成された水系中空粒子層の上に、水系バインダーと離型剤とを含む水系受容層が形成される。該水系バインダーとしては、染料に対する親和性が高く、染料染着性の良好な染着性樹脂を好適に使用することができる。
前記染着性樹脂としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル化合物モノマーとベンゾトリアゾール骨格および/またはベンゾフェノン骨格を有するモノマーとの共重合樹脂等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、また二種以上を併用してもよい。これらの中でも、印画された画像の耐光性に優れることからアクリル系樹脂、ビニル化合物モノマーとベンゾトリアゾール骨格および/またはベンゾフェノン骨格を有するモノマーとの共重合樹脂、ウレタン系樹脂が好ましい。ウレタン系樹脂は分子内に結晶領域を持つため、異常転写が起こりにくく好ましい。また、本発明に用いられるこれらの染着性樹脂は、水溶性もしくは水分散系の、いわゆる水系であるので、環境負荷の面でも利点がある。
熱転写方式の印画においては、熱転写受像シート上の受容層とインクリボンの染料層とを重ね合わせてサーマルヘッドで加熱した後、受容層からインクリボンを剥離する工程があり、受容層には、インクリボンとの離型性も要求される。このため、本発明において、水系受容層には、インクリボンとの融着を防止し、印画走行性を向上する目的で離型剤が添加される。添加する離型剤としては、例えば、シリコーンオイル、ポリシロキサングラフトアクリル樹脂、ワックス類、フッ素化合物等が挙げられる。
さらに水系受容層に架橋剤を添加し、耐熱性を向上させることが好ましい。架橋剤としては、例えば、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、有機チタンキレート化合物等が好ましい。これら架橋剤の中でも、耐熱性向上の効果が高く、印画時のリボン融着などの走行性の問題が発生しにくい点や、水系受容層形成用塗布液中での安定性の点で、カルボジイミド系架橋剤が好ましい。
水系受容層の乾燥後の塗布量は、一概に限定されるものではないが、0.5〜5.0g/mが好ましく、より好ましくは0.5〜4.0g/mである。0.5g/m未満では、画像の耐光性が劣る場合がある。5.0g/mを超えると、水系受容層中で染料が拡散してしまい、画像の滲みが発生する場合がある。
(塗工方法)
前記水系中空粒子層および水系受容層には、一般の塗被紙製造において使用される濡れ剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤を適宜添加することができる。水系中空粒子層および水系受容層は、例えば、バーコーター、グラビアコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ゲートロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スライドビードコーター等の公知のコーターを使用して、所定の塗布液を各層ごとに、あるいは2層以上を同時に塗工、乾燥して形成することができる。
(実施の形態IV:感熱転写記録媒体IV)
基材10としては、前記感熱転写記録媒体Iを構成する基材10と同様のものを用いることができる。また、基材10においては、耐熱滑性層40または/および下引き層20を形成する面に、前記感熱転写記録媒体Iと同様にして、接着処理を施すことも可能である。
次に、耐熱滑性層40は、前記感熱転写記録媒体Iにおける耐熱滑性層40と同様にして形成することができる。
ここで、耐熱滑性層40の乾燥後の塗布量とは、耐熱滑性層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。また、後述する下引き層20の乾燥後の塗布量および染料層30の乾燥後の塗布量も、同様に、後述する下引き層形成用塗布液および染料層形成用塗布液を各々塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。
次に、下引き層20も、前記感熱転写記録媒体Iにおける下引き層20と同様にして形成することができる。
次に、染料層30は、熱移行性染料および樹脂バインダーの他に、例えば溶剤などを配合して染料層形成用塗布液を調製し、塗布、乾燥することで形成される。なお、染料層は、1色の単一層で構成することもでき、色相の異なる染料を含む複数の染料層を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成することもできる。
染料層30に用いられる熱移行性染料として、例えば、前記感熱転写記録媒体Iに用いられるものと同様の熱移行性染料を挙げることができる。
染料層30に用いられる樹脂バインダーとしては、ガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールおよびガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールが含まれている限り特に限定がなく、従来公知の樹脂バインダーをいずれも使用することができる。
ガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールは、高耐熱性を有するが、低濃度部等サーマルヘッドに与えられるエネルギーが小さい場合、染料が昇華し難く、低濃度部における十分な転写感度を得ることができなくなる。一方、ガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールを用いることで、染料は昇華し易くなり、特に低濃度部における転写感度が高くなるという利点があるが、耐熱性が十分ではなく、受像紙側にシワが発生するという問題点がある。したがって、これら2種類の樹脂を組み合わせることにより、低濃度部の転写感度も向上させることができるとともに、印画時に発生するシワを抑えることもできる。
ガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールとしては、例えば、デンカブチラール#5000−D(電気化学工業(株)製)やデンカブチラール#6000−AS(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。また、ガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールとしては、例えば、デンカブチラール#3000−1(電気化学工業(株)製)やデンカブチラール#3000−2(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。
染料層30中のガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールとガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールとの質量基準での含有比率は、ポリビニルアセタール/ポリビニルブチラール=50/50〜97/3であることが好ましく、さらには60/40〜90/10であることがより好ましい。ポリビニルアセタール/ポリビニルブチラールの含有比率が97/3を上回ると、高速印画時における低濃度部での転写感度が不足する恐れがある。一方、ポリビニルアセタール/ポリビニルブチラールの含有比率が50/50を下回ると、ポリビニルブチラールはポリビニルアセタールと比べて染料の昇華を促進するので、低濃度部における転写感度の上昇を実現することができるが、耐熱性が十分ではなく、印画の際にシワが発生する恐れがある。よって、上記含有比率にてポリビニルアセタールとポリビニルブチラールとを樹脂バインダーとして用いることにより、低濃度部の転写感度も高くすることができるとともに、印画時に発生するシワを防止することもできる。
ガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールおよびガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラール以外に染料層30に用いることができる樹脂バインダーとしては、特に限定がないが、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂や、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂や、ポリエステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、フェノキシ樹脂等を挙げることができる。
ここで、染料層30を形成する際の熱移行性染料と樹脂バインダーとの質量基準での配合比率は、熱移行性染料/樹脂バインダー=10/90〜75/25であることが好ましい。これは、熱移行性染料/樹脂バインダーの配合比率が10/90を下回ると、染料が少な過ぎて発色感度が不十分となり、良好な熱転写画像が得られず、また、この配合比率が75/25を越えると、樹脂バインダーに対する染料の溶解性が極端に低下するために、得られる感熱転写記録媒体は、保存安定性が低下し、染料が析出し易くなる恐れがあるためである。
染料層30に含まれる公知の添加剤及び染料層30の乾燥後の塗布量については、前記感熱転写記録媒体Iと同様であればよい。
なお、耐熱滑性層40、下引き層20および染料層30は、いずれも、前記感熱転写記録媒体Iと同様に、従来公知の方法にて形成することができる。
(実施の形態V:感熱転写記録媒体V)
基材10としては、前記感熱転写記録媒体Iを構成する基材10と同様のものを用いることができる。また、基材10においては、耐熱滑性層40または/および下引き層20を形成する面に、前記感熱転写記録媒体Iと同様にして、接着処理を施すことも可能である。
次に、耐熱滑性層40は、前記感熱転写記録媒体Iにおける耐熱滑性層40と同様にして形成することができる。
ここで、耐熱滑性層40の乾燥後の塗布量とは、耐熱滑性層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。また、後述する下引き層20の乾燥後の塗布量および染料層30の乾燥後の塗布量も、同様に、後述する下引き層形成用塗布液および染料層形成用塗布液を各々塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。さらに、後述する水系中空粒子層の乾燥後の塗布量および水系受容層の乾燥後の塗布量も、同様に、後述する水系中空粒子層形成用塗布液および水系受容層形成用塗布液を各々塗布し、乾燥した後に残った固形分量のことをいう。
次に、下引き層20も、前記感熱転写記録媒体Iにおける下引き層20と同様にして形成することができる。
次に、染料層30は、離型剤および熱移行性染料の他に、例えばバインダー、溶剤などを配合して染料層形成用塗布液を調製し、塗布、乾燥することで形成される。なお、染料層は、1色の単一層で構成することもでき、色相の異なる染料を含む複数の染料層を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成することもできる。
離型剤としては、数平均分子量が8000以上の非反応性シリコーンオイルと、数平均分子量が3000以下の反応性シリコーンオイルとからなる、少なくとも2種の変性シリコーンオイルが用いられ、安全性やコストの面で優れている。このような2種以上の分子量が異なる変性シリコーンオイルを離型剤として添加することにより、高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きと、中濃度部で発生する染料層の異常転写との双方を改善することが可能となる。
高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きの改善には、非反応性で染料層中に分散する離型剤が効果を発揮することから、数平均分子量が8000以上の非反応性シリコーンオイルが必要である。なお、高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きの改善効果が効率的に発現されるという点から、非反応性シリコーンオイルの数平均分子量は8000〜15000であることが好ましい。また、数平均分子量が8000以上の非反応性シリコーンオイルとしては、例えば導入有機基がポリエーテル基である側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイルや、導入有機基が長鎖アルキル基である両末端型長鎖アルキル変性シリコーンオイル等が挙げられるが、高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きの改善効果がより大きいという点から、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイルが特に好ましい。
また、中濃度部で発生する染料層の異常転写の改善には、反応性で染料層表面に局在化する離型剤が効果を発揮することから、数平均分子量が3000以下の反応性シリコーンオイルが必要である。なお、中濃度部で発生する染料層の異常転写の改善効果が効率的に発現されるという点から、反応性シリコーンオイルの数平均分子量は300〜3000であることが好ましい。また、数平均分子量が3000以下の反応性シリコーンオイルとしては、例えば導入有機基がジアミノ基である側鎖型ジアミン変性シリコーンオイルや、導入有機基がアミノ基である両末端型アミノ変性シリコーンオイル等が挙げられるが、中濃度部で発生する染料層の異常転写の改善効果がより大きいという点から、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイルが特に好ましい。
非反応性シリコーンオイルと反応性シリコーンオイルとの質量基準での配合比率は、非反応性シリコーンオイル/反応性シリコーンオイル=1/10〜10/1であることが好ましい。これは、非反応性シリコーンオイル/反応性シリコーンオイルの配合比率が1/10を下回ると、高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きの改善効果が不充分になる恐れがあるためであり、また、この配合比率が10/1を越えると、中濃度部で発生する染料層の異常転写の改善効果が不充分になる恐れがあるためである。
ここで、染料層30を形成する際の離型剤とバインダーとの質量基準での配合比率は、離型剤/バインダー=0.1/100〜10/100であることが好ましい。これは、離型剤/バインダーの配合比率が0.1/100を下回ると、離型性能が低下し、貼り付きや異常転写の改善効果が発揮されなくなる恐れがあるためであり、また、この配合比率が10/100を越えると、塗工時に起泡性が低下したり、印画時に印画シワが発生する恐れがあるためである。
染料層30に用いられる熱移行性染料およびバインダーとして、例えば、前記感熱転写記録媒体Iに用いられるものと同様の熱移行性染料およびバインダーをそれぞれ挙げることができる。
また、染料層30を形成する際の熱移行性染料とバインダーとの質量基準での配合比率、染料層30に含まれる公知の添加剤、及び染料層30の乾燥後の塗布量についても、前記感熱転写記録媒体Iと同様であればよい。
なお、耐熱滑性層40、下引き層20および染料層30は、いずれも、前記感熱転写記録媒体Iと同様に、従来公知の方法にて形成することができる。
感熱転写記録媒体Vに係る本発明で使用される被転写体となる熱転写受像シートとしては、前記感熱転写記録媒体IIIに係る発明で使用される熱転写受像シートと同様のものを用いることができる。
以下に、本発明の各実施例および各比較例に用いた材料を示す。なお、文中で「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。また、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(I)実施の形態I:感熱転写記録媒体Iに対応する実施例とその比較例
<耐熱滑性層付き基材の作製>
基材として、厚さ4.5μmの片面易接着処理済ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その非易接着処理面に、下記組成の耐熱滑性層形成用塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.5g/mになるように塗布し、100℃で1分間乾燥することで耐熱滑性層付き基材を得た。
<耐熱滑性層形成用塗布液>
シリコン変性アクリル樹脂(東亜合成(株)製US−350)50.0部
メチルエチルケトン 50.0部
<ポリビニルアルコールの調製>
攪拌機、温度計、窒素導入菅、還流冷却器を備えた反応容器中に、酢酸ビニル100部およびメタノール10部を仕込み、窒素ガスをバブリング、脱気し、還流状態になるまで昇温した後、20分間還流させてから、対酢酸ビニルでアゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%添加した。次いで、20時間重合させた後、冷却して重合を停止し、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。重合率は95%であった。次いで、連続脱モノマー塔で該メタノール溶液中の残存モノマー量が0.06%になるまでモノマーを追い出し、メタノールを添加してポリ酢酸ビニル濃度を50%に調整してから、対酢酸ビニルモノマー単位で5ミリモルの水酸化ナトリウムをメタノール溶液で加えて、40℃で90分間ケン化を行った。析出したケン化物を酢酸により中和した後、生成したポリビニルアルコール系樹脂組成物を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的のポリビニルアルコールを得た。得られたポリビニルアルコールは、ケン化度94モル%、平均重合度2200であった。また、ケン化の途中で溶液を抜き取ることにより、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールを得た。
<ポリビニルアルコールフィルムの抗張力測定>
得られた各ポリビニルアルコール15.0部を90℃の熱水85.0部中に溶解させ、ガラスシャーレ上に流延し、室温にて24時間乾燥後の厚さが0.06mmのフィルムを得た。得られた各フィルムをJIS K 7113に基づいて2号ダンベル形状に切り抜き、引張速度200mm/分で引張試験を行い、抗張力を測定した。その結果、ケン化度94モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが8.2kg/mm、また、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが6.8kg/mmの値を示した。さらに、市販品であるクラレポバールPVA−117((株)クラレ製)を用いて上記と同様にフィルムを作製し、抗張力を測定したところ、7.4kg/mmであった。
(実施例I−1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層形成用塗布液I−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.20g/mになるように塗布し、100℃で2分間乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、下記組成の染料層形成用塗布液I−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.70g/mになるように塗布し、90℃で1分間乾燥することで、染料層を形成し、実施例I−1の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液I−1>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
<染料層形成用塗布液I−1>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(実施例I−2)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液I−2にて形成した以外は、実施例I−1と同様にして、実施例I−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液I−2>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例I−3)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液I−3にて形成した以外は、実施例I−1と同様にして、実施例I−3の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液I−3>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 1.5部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
3.5部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例I−4)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.03g/mになるようにした以外は、実施例I−1と同様にして、実施例I−4の感熱転写記録媒体を得た。
(実施例I−5)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.40g/mになるようにした以外は、実施例I−1と同様にして、実施例I−5の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例I−1)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を形成しない以外は、実施例I−1と同様にして、比較例I−1の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例I−2)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液I−4にて形成した以外は、実施例I−1と同様にして、比較例I−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液I−4>
ポリビニルアルコール(抗張力6.8kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例I−3)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液I−2にて形成した以外は、実施例I−1と同様にして、比較例I−3の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液I−2>
C.I.ソルベントブルー266(アゾ系染料) 3.0部
ポリビニルアセタール 2.0部
トルエン 47.5部
メチルエチルケトン 47.5部
(比較例I−4)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を上述した下引き層形成用塗布液I−4にて形成し、染料層を上述した染料層形成用塗布液I−2にて形成した以外は、実施例I−1と同様にして、比較例I−4の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例I−5)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液I−5にて形成した以外は、実施例I−1と同様にして、比較例I−5の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液I−5>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例I−6)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液I−6にて形成した以外は、実施例I−1と同様にして、比較例I−6の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液I−6>
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例I−7)
実施例I−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液I−7にて形成した以外は、実施例I−1と同様にして、比較例I−7の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液I−7>
ポリビニルアルコール
((株)クラレ製PVA−117、抗張力7.4kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
<被転写体の作製>
基材として、厚さ188μmの白色発泡ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その一方の面に下記組成の受像層形成用塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が5.0g/mになるように塗布し、乾燥することで、感熱転写用の被転写体を作製した。
<受像層形成用塗布液>
塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体 19.5部
アミノ変性シリコーンオイル 0.5部
トルエン 40.0部
メチルエチルケトン 40.0部
<染料層の密着性評価>
実施例I−1〜I−5、比較例I−1〜I−7の感熱転写記録媒体について、感熱転写記録媒体の染料層の上に、幅24mm、長さ150mmのセロハンテープを貼り、その後すぐに剥がしたときの、セロハンテープ側への染料層の付着の有無を調べることにより、染料層の密着性を評価した。その結果を表1に示す。
染料層の密着性評価は、以下の基準にて行った。
○:染料層の付着が、認められない
△:染料層の付着が、ごく僅かに認められる
×:染料層の付着が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<印画評価>
実施例I−1〜I−5、比較例I−1〜I−7の感熱転写記録媒体を使用し、サーマルシミュレーターにてベタ印画を行い、最高反射濃度を測定して印画評価を行った。その結果を表1に示す。なお、最高反射濃度はX−Rite社製の分光濃度計「X−Rite528」にて測定した値である。
なお、印画条件は以下の通りである。
印画環境:23℃、50%RH
印加電圧:29V
ライン周期:0.7msec
印画密度:主走査300dpi、副走査300dpi
<異常転写>
実施例I−1〜I−5、比較例I−1〜I−7の感熱転写記録媒体について、以下の基準にて異常転写を評価した。その結果を表1に示す。
○:被転写体への異常転写が、認められない
△:被転写体への異常転写が、ごく僅かに認められる
×:被転写体への異常転写が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
Figure 0005582375
表1に示す結果から、実施例I−1〜I−5の感熱転写記録媒体は、下引き層が設けられていない比較例I−1の感熱転写記録媒体と比較して、明らかに高速印画時における転写感度が高く、染料層に使用する染料を低減することができ、コストダウンの効果が大きいことがわかった。また、染料層との密着性、および印画における異常転写も実用上問題ないことがわかった。
実施例I−2の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=8/2であり、ポリビニルピロリドン比率が低いためか、実施例I−1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下していることがわかる。
実施例I−3の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=3/7であり、ポリビニルアルコール比率が低いためか、実施例I−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度(最高反射濃度)が若干低下していることがわかる。
実施例I−4の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.05g/m未満であるためか、実施例I−1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下していることがわかる。
実施例I−5の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.30g/m超であるためか、実施例I−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が若干低下していることがわかる。
これに対して、比較例I−2の感熱転写記録媒体は、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用いた結果、実施例I−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例I−3の感熱転写記録媒体も、実施例I−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用い、かつ、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例I−4の感熱転写記録媒体は、比較例I−2やI−3の感熱転写記録媒体と比較してさらに転写感度が低下していることがわかる。ここで、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いている比較例I−3と、抗張力が8kg/mm未満のポリビニルアルコールを用いている比較例I−4とで、転写感度を比較すると、その差は僅かであり、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る場合は、ポリビニルアルコールの抗張力が転写感度に与える効果は小さいことがわかる。このことから、JIS K 7113に基づいて測定したポリビニルアルコールの抗張力が8kg/mm以上であり、かつ、染料層にアントラキノン系化合物を含む熱移行性染料を用いることで、飛躍的に高い転写感度が得られることがわかる。
比較例I−5の感熱転写記録媒体では、ポリビニルアルコールのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例I−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性が低下し、異常転写が全面で認められた。
比較例I−6の感熱転写記録媒体では、ポリビニルピロリドンのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例I−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性は問題ないものの、転写感度は著しく低下することがわかる。
比較例I−7の感熱転写記録媒体は、下引き層用のポリビニルアルコールとして市販品であるPVA−117((株)クラレ製)を用いたが、このPVA−117はJIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるため、抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いた実施例I−1〜I−5の感熱転写記録媒体と比較すると、転写感度が低く、十分に満足できるものではなかった。
(II)実施の形態II:感熱転写記録媒体IIに対応する実施例とその比較例
<ポリビニルアルコールの調製>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、ケン化度94モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールと、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールとを得た。
<ポリビニルアルコールフィルムの抗張力測定>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、抗張力を測定した。その結果、ケン化度94モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが8.2kg/mm、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが6.8kg/mm、クラレポバールPVA−117が7.4kg/mmであった。
(実施例II−1)
基材として、厚さ4.5μmの片面易接着処理済ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、その非易接着処理面に、下記組成の耐熱滑性層形成用塗布液II−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が1.0g/mになるように塗布し、100℃で1分間乾燥することで耐熱滑性層付き基材を得た。
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層形成用塗布液II−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.20g/mになるように塗布し、100℃で2分間乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、下記組成の染料層形成用塗布液II−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.70g/mになるように塗布し、90℃で1分間乾燥することで、染料層を形成し、実施例II−1の感熱転写記録媒体を得た。
<耐熱滑性層形成用塗布液II−1>
アクリルポリオール(固形分50%) 20.0部
リン酸エステル(融点15℃) 2.0部
リン酸エステル(融点70℃) 2.0部
ステアリン酸亜鉛(融点115〜125℃) 2.0部
タルク(平均粒子径1.0μm) 1.0部
タルク(平均粒子径2.5μm) 4.0部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 5.0部
トルエン 49.5部
メチルエチルケトン 20.0部
酢酸エチル 5.0部
<下引き層形成用塗布液II−1>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
<染料層形成用塗布液II−1>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(実施例II−2)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液II−2にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、実施例II−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液II−2>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例II−3)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液II−3にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、実施例II−3の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液II−3>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 1.5部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
3.5部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例II−4)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.03g/mになるようにした以外は、実施例II−1と同様にして、実施例II−4の感熱転写記録媒体を得た。
(実施例II−5)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.40g/mになるようにした以外は、実施例II−1と同様にして、実施例II−5の感熱転写記録媒体を得た。
(実施例II−6)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、耐熱滑性層を下記組成の耐熱滑性層形成用塗布液II−2にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、実施例II−6の感熱転写記録媒体を得た。
<耐熱滑性層形成用塗布液II−2>
アクリルポリオール(固形分50%) 20.0部
リン酸エステル(融点15℃) 2.0部
リン酸エステル(融点70℃) 2.0部
ステアリン酸亜鉛(融点115〜125℃) 2.0部
タルク(平均粒子径2.5μm) 5.0部
タルク(平均粒子径3.5μm) 1.0部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 5.0部
トルエン 46.0部
メチルエチルケトン 20.0部
酢酸エチル 5.0部
(実施例II−7)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、耐熱滑性層を下記組成の耐熱滑性層形成用塗布液II−3にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、実施例II−7の感熱転写記録媒体を得た。
<耐熱滑性層形成用塗布液II−3>
アクリルポリオール(固形分50%) 20.0部
リン酸エステル(融点15℃) 2.0部
リン酸エステル(融点70℃) 2.0部
ステアリン酸亜鉛(融点115〜125℃) 2.0部
タルク(平均粒子径2.5μm) 1.0部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 5.0部
トルエン 47.5部
メチルエチルケトン 20.0部
酢酸エチル 5.0部
(比較例II−1)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を形成しない以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−1の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例II−2)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液II−4にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液II−4>
ポリビニルアルコール(抗張力6.8kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例II−3)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液II−2にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−3の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液II−2>
C.I.ソルベントブルー266(アゾ系染料) 3.0部
ポリビニルアセタール 2.0部
トルエン 47.5部
メチルエチルケトン 47.5部
(比較例II−4)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を上述した下引き層形成用塗布液II−4にて形成し、染料層を上述した染料層形成用塗布液II−2にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−4の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例II−5)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液II−5にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−5の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液II−5>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例II−6)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液II−6にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−6の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液II−6>
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例II−7)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液II−7にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−7の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液II−7>
ポリビニルアルコール
((株)クラレ製PVA−117、抗張力7.4kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例II−8)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、耐熱滑性層を下記組成の耐熱滑性層形成用塗布液II−4にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−8の感熱転写記録媒体を得た。
<耐熱滑性層形成用塗布液II−4>
アクリルポリオール(固形分50%) 20.0部
ステアリン酸亜鉛(融点115〜125℃) 2.0部
タルク(平均粒子径0.6μm) 4.0部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 5.0部
トルエン 49.5部
メチルエチルケトン 20.0部
酢酸エチル 5.0部
(比較例II−9)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、耐熱滑性層を下記組成の耐熱滑性層形成用塗布液II−5にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−9の感熱転写記録媒体を得た。
<耐熱滑性層形成用塗布液II−5>
アクリルポリオール(固形分50%) 20.0部
リン酸エステル(融点15℃) 2.0部
リン酸エステル(融点70℃) 2.0部
ステアリン酸亜鉛(融点115〜125℃) 2.0部
タルク(平均粒子径2.5μm) 5.0部
タルク(平均粒子径3.5μm) 2.0部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 5.0部
トルエン 46.0部
メチルエチルケトン 20.0部
酢酸エチル 5.0部
(比較例II−10)
実施例II−1で作製した感熱転写記録媒体において、耐熱滑性層を下記組成の耐熱滑性層形成用塗布液II−6にて形成した以外は、実施例II−1と同様にして、比較例II−10の感熱転写記録媒体を得た。
<耐熱滑性層形成用塗布液II−6>
アクリルポリオール(固形分50%) 20.0部
リン酸エステル(融点15℃) 1.0部
リン酸エステル(融点70℃) 4.0部
ステアリン酸亜鉛(融点115〜125℃) 2.0部
タルク(平均粒子径1.0μm) 1.0部
タルク(平均粒子径2.5μm) 4.0部
2,6−トリレンジイソシアネートプレポリマー 5.0部
トルエン 49.5部
メチルエチルケトン 20.0部
酢酸エチル 5.0部
<被転写体の作製>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、感熱転写用の被転写体を作製した。
<表面粗さRaの測定>
非接触式の測定方法であるレーザ顕微鏡による測定方法を採用し、測定装置としてオリンパス(株)製の走査型共焦点レーザ顕微鏡「OLS1100」を用いた。100倍の対物レンズを選択し、測定した画像をY軸方向に11分割して、分割した境界となる位置で、X軸方向におけるカットオフ値1/3の時のRa値の計測をそれぞれ行った。得られた10点のRa値を平均し、耐熱滑性層のRa値とした。平均値αは、150℃、10分間の条件で静置する前の値で、平均値βは、該条件で静置した後の値である。また、平均値αと平均値βとの差も算出した。その結果を表2に示す。
<染料層の密着性評価>
実施例II−1〜II−7、比較例II−1〜II−10の感熱転写記録媒体について、感熱転写記録媒体の染料層の上に、幅24mm、長さ150mmのセロハンテープを貼り、その後すぐに剥がしたときの、セロハンテープ側への染料層の付着の有無を調べることにより、染料層の密着性を評価した。その結果を表2に示す。
染料層の密着性評価は、以下の基準にて行った。
○:染料層の付着が、認められない
△:染料層の付着が、ごく僅かに認められる
×:染料層の付着が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<印画評価>
実施例II−1〜II−7、比較例II−1〜II−10の感熱転写記録媒体について、染料層面と被転写体とをそれぞれ重ね、サーマルヘッドを用いて染料を転写させて画像形成を行い、最高反射濃度を測定して印画評価を行った。その結果を表2に示す。なお、最高反射濃度はX−Rite社製の分光濃度計「X−Rite528」にて測定した値である。
<異常転写>
実施例II−1〜II−7、比較例II−1〜II−10の感熱転写記録媒体について、以下の基準にて異常転写を評価した。その結果を表2に示す。
○:被転写体への異常転写が、認められない
△:被転写体への異常転写が、ごく僅かに認められる
×:被転写体への異常転写が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<印画シワ>
実施例II−1〜II−7、比較例II−1〜II−10の感熱転写記録媒体について、以下の基準にて印画シワを評価した。その結果を表2に示す。
○:印画シワが、認められない
△:印画シワが、ごく僅かに認められる
×:印画シワが、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<印画物の画質>
実施例II−1〜II−7、比較例II−1〜II−10の感熱転写記録媒体について、以下の基準にて印画物の画質を評価した。その結果を表2に示す。
○:濃度ムラがなく、画質に問題がない
×:濃度ムラが生じ、画質に問題がある
Figure 0005582375
表2に示す結果から、実施例II−1〜II−7の感熱転写記録媒体は、下引き層が設けられていない比較例II−1の感熱転写記録媒体と比較して、明らかに高速印画時における転写感度(最高反射濃度)が高く、染料層に使用する染料を低減することができ、コストダウンの効果が大きいことがわかった。また、染料層との密着性、印画における異常転写、印画シワおよび印画物の画質も実用上問題ないことがわかった。
実施例II−2の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=8/2であり、ポリビニルピロリドン比率が低いためか、実施例II−1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下し、実用上問題ないレベルではあるが、異常転写がごく僅かに認められていることがわかる。
実施例II−3の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=3/7であり、ポリビニルアルコール比率が低いためか、実施例II−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が若干低下していることがわかる。
実施例II−4の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.05g/m未満であるためか、実施例II-1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下し、実用上問題ないレベルではあるが、異常転写がごく僅かに認められていることがわかる。
実施例II−5の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.30g/m超であるためか、実施例II−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が若干低下していることがわかる。
実施例II−7の感熱転写記録媒体は、耐熱滑性層の表面粗さRaの平均値αが0.07μmと少し小さいためか、実用上問題ないレベルではあるが、印画シワがごく僅かに認められていることがわかる。
これに対して、比較例II−2の感熱転写記録媒体は、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用いた結果、実施例II−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例II−3の感熱転写記録媒体は、実施例II−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用い、かつ、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例II−4の感熱転写記録媒体は、比較例II−2やII−3の感熱転写記録媒体と比較してさらに転写感度が低下していることがわかる。ここで、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いている比較例II−3と、抗張力が8kg/mm未満のポリビニルアルコールを用いている比較例II−4とで、転写感度を比較すると、その差は僅かであり、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る場合は、ポリビニルアルコールの抗張力が転写感度に与える効果は小さいことがわかる。このことから、JIS K 7113に基づいて測定したポリビニルアルコールの抗張力が8kg/mm以上であり、かつ、染料層にアントラキノン系化合物を含む熱移行性染料を用いることで、飛躍的に高い転写感度が得られることがわかる。
比較例II−5の感熱転写記録媒体では、ポリビニルアルコールのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例II−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性が低下し、異常転写が全面で認められた。
比較例II−6の感熱転写記録媒体では、ポリビニルピロリドンのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例II−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性は問題ないものの、転写感度は著しく低下することがわかる。
比較例II−7の感熱転写記録媒体は、下引き層用のポリビニルアルコールとして市販品であるPVA−117((株)クラレ製)を用いたが、このPVA−117はJIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるため、抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いた実施例II−1〜II−7の感熱転写記録媒体と比較すると、転写感度が低く、十分に満足できるものではなかった。
比較例II−8の感熱転写記録媒体では、耐熱滑性層の表面粗さRaの平均値αが0.05μm未満であるため、印画シワが全面で認められていることがわかる。
比較例II−9の感熱転写記録媒体では、比較例II−8とは逆に耐熱滑性層の表面粗さRaの平均値αが0.50μm超であるため、印画物に濃度ムラが生じ、画質に問題があることがわかる。
比較例II−10の感熱転写記録媒体では、耐熱滑性層の表面粗さRaの平均値αと150℃、10分間の条件で静置した後の該耐熱滑性層の表面粗さRaの平均値βとの差が0.30μm超であるため、印画シワが全面で認められていることがわかる。
(III)実施の形態III:感熱転写記録媒体IIIに対応する実施例とその比較例
<耐熱滑性層付き基材の作製>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、耐熱滑性層付き基材を得た。
<ポリビニルアルコールの調製>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、ケン化度94モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールと、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールとを得た。
<ポリビニルアルコールフィルムの抗張力測定>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、抗張力を測定した。その結果、ケン化度94モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが8.2kg/mm、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが6.8kg/mm、クラレポバールPVA−117が7.4kg/mmであった。
(実施例III−1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層形成用塗布液III−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.20g/mになるように塗布し、100℃で2分間乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、下記組成の染料層形成用塗布液III−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.70g/mになるように塗布し、90℃で1分間乾燥することで、染料層を形成し、実施例III−1の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液III−1>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
<染料層形成用塗布液III−1>
シリコーンフィラー粒子(体積平均粒子径2.0μm) 0.2部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(実施例III−2)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液III−2にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、実施例III−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液III−2>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例III−3)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液III−3にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、実施例III−3の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液III−3>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 1.5部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
3.5部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例III−4)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.03g/mになるようにした以外は、実施例III−1と同様にして、実施例III−4の感熱転写記録媒体を得た。
(実施例III−5)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.40g/mになるようにした以外は、実施例III−1と同様にして、実施例III−5の感熱転写記録媒体を得た。
(実施例III−6)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液III−2にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、実施例III−6の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液III−2>
シリコーンフィラー粒子(体積平均粒子径0.7μm) 0.04部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.98部
メチルエチルケトン 44.98部
(実施例III−7)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液III−3にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、実施例III−7の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液III−3>
シリコーンフィラー粒子(体積平均粒子径2.0μm) 0.3部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.85部
メチルエチルケトン 44.85部
(比較例III−1)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を形成しない以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−1の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例III−2)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液III−4にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液III−4>
ポリビニルアルコール(抗張力6.8kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例III−3)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液III−4にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−3の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液III−4>
シリコーンフィラー粒子(体積平均粒子径2.0μm) 0.2部
C.I.ソルベントブルー266(アゾ系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(比較例III−4)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を上述した下引き層形成用塗布液III−4にて形成し、染料層を上述した染料層形成用塗布液III−4にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−4の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例III−5)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液III−5にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−5の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液III−5>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例III−6)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液III−6にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−6の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液III−6>
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例III−7)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液III−7にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−7の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液III−7>
ポリビニルアルコール
((株)クラレ製PVA−117、抗張力7.4kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例III−8)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液III−5にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−8の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液III−5>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(比較例III−9)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液III−6にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−9の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液III−6>
シリコーンフィラー粒子(体積平均粒子径0.7μm) 0.02部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.99部
メチルエチルケトン 44.99部
(比較例III−10)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液III−7にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−10の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液III−7>
シリコーンフィラー粒子(体積平均粒子径2.0μm) 0.4部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.8部
メチルエチルケトン 44.8部
(比較例III−11)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液III−8にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−11の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液III−8>
シリコーンフィラー粒子(体積平均粒子径0.02μm) 0.2部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(比較例III−12)
実施例III−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液III−9にて形成した以外は、実施例III−1と同様にして、比較例III−12の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液III−9>
シリコーンフィラー粒子(体積平均粒子径5.0μm) 0.2部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
なお、シリコーンフィラー粒子の体積平均粒子径は、(株)島津製作所製のナノ粒子径分布測定装置「SALD7100」を用いて、レーザ回折・散乱方式にて測定した。
<熱転写受像シートの作製>
基材として坪量180g/mのアート紙を用い、該基材に下記組成の水系中空粒子層形成用塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が10g/mになるように塗布し、乾燥した後に、40℃の環境下で1週間エージングすることで、水系中空粒子層付き基材を得た。
<水系中空粒子層形成用塗布液>
アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルを主成分とする共重合体からなる
既発泡中空粒子(体積平均粒子径3.2μm、体積中空率85%)
45.0部
ポリビニルアルコール 10.0部
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体分散物
(塩化ビニル/酢酸ビニル(質量比)=70/30、ガラス転移温度64℃)
45.0部
水 200.0部
前記水系中空粒子層上に、下記組成の水系受容層形成用塗布液を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が4g/mになるように塗布し、乾燥した後に、40℃の環境下で1週間エージングすることで、水系受容層を形成し、熱転写受像シートを得た。
<水系受容層形成用塗布液>
ウレタン樹脂(ガラス転移温度−20℃) 96.0部
会合型ウレタン系増粘剤 1.0部
スルホン酸系界面活性剤 2.0部
シリコーンオイル 1.0部
水 200.0部
<染料層の密着性評価>
実施例III−1〜III−7、比較例III−1〜III−12の感熱転写記録媒体について、感熱転写記録媒体の染料層の上に、幅24mm、長さ150mmのセロハンテープを貼り、その後すぐに剥がしたときの、セロハンテープ側への染料層の付着の有無を調べることにより、染料層の密着性を評価した。その結果を表3に示す。
染料層の密着性評価は、以下の基準にて行った。
○:染料層の付着が、認められない
△:染料層の付着が、ごく僅かに認められる
×:染料層の付着が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<染料層の3次元表面粗さ(SRa)測定>
実施例III−1〜III−7、比較例III−1〜III−12の感熱転写記録媒体について、感熱転写記録媒体の染料層の3次元表面粗さ(SRa)を、オリンパス(株)製の走査型共焦点レーザ顕微鏡「OLS1100」を用いて下記の条件で測定した。その結果を表3に示す。なお、測定および解析条件は以下の通りである。
走査方向:サンプルのMD方向
測定長さ:X方向128μm、Y方向128μm
カットオフ値:1/3
<印画評価>
実施例III−1〜III−7、比較例III−1〜III−12の感熱転写記録媒体を使用し、サーマルシミュレーターにてベタ印画を行い、最高反射濃度を測定して印画評価を行った。その結果を表3に示す。なお、最高反射濃度はX−Rite社製の分光濃度計「X−Rite528」にて測定した値である。
なお、印画条件は以下の通りである。
印画環境:23℃、50%RH
印加電圧:29V
ライン周期:0.7msec
印画密度:主走査300dpi、副走査300dpi
<異常転写>
実施例III−1〜III−7、比較例III−1〜III−12の感熱転写記録媒体について、以下の基準にて異常転写を評価した。その結果を表3に示す。
○:被転写体への異常転写が、認められない
△:被転写体への異常転写が、ごく僅かに認められる
×:被転写体への異常転写が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<高濃度部で発生する濃淡ムラ>
実施例III−1〜III−7、比較例III−1〜III−12の感熱転写記録媒体について、以下の基準にて高濃度部で発生する濃淡ムラを評価した。その結果を表3に示す。
○:高濃度部で濃淡ムラが、認められない
△:高濃度部で濃淡ムラが、僅かに認められる
×:高濃度部で濃淡ムラが、はっきりと認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
Figure 0005582375
表3に示す結果から、実施例III−1〜III−7の感熱転写記録媒体は、下引き層が設けられていない比較例III−1の感熱転写記録媒体と比較して、明らかに高速印画時における転写感度が高く、染料層に使用する染料を低減することができ、コストダウンの効果が大きいことがわかった。また、染料層との密着性、および印画における異常転写、さらに高濃度部で発生する濃淡ムラも実用上問題ないことがわかった。
実施例III−2の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=8/2であり、ポリビニルピロリドン比率が低いためか、実施例III−1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下していることがわかる。
実施例III−3の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=3/7であり、ポリビニルアルコール比率が低いためか、実施例III−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度(最高反射濃度)が若干低下していることがわかる。
実施例III−4の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.05g/m未満であるためか、実施例III−1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下していることがわかる。
実施例III−5の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.30g/m超であるためか、実施例III−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が若干低下していることがわかる。
実施例III−6の感熱転写記録媒体は、染料層の3次元表面粗さ(SRa)が小さいためか、実施例III−1〜III−5、III−7の感熱転写記録媒体と比較して高濃度部での濃淡ムラの発生が僅かに認められていることがわかる。
実施例III−7の感熱転写記録媒体は、染料層のSRaが大きいためか、高濃度部で発生する濃淡ムラは抑えられているものの、実施例III−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度がやや低下していることがわかる。
これに対して、比較例III−2の感熱転写記録媒体は、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用いた結果、実施例III−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例III−3の感熱転写記録媒体は、実施例III−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用い、かつ、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例III−4の感熱転写記録媒体は、比較例III−2やIII−3の感熱転写記録媒体と比較してさらに転写感度が低下していることがわかる。ここで、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いている比較例III−3と、抗張力が8kg/mm未満のポリビニルアルコールを用いている比較例III−4とで、転写感度を比較すると、その差は僅かであり、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る場合は、ポリビニルアルコールの抗張力が転写感度に与える効果は小さいことがわかる。このことから、JIS K 7113に基づいて測定したポリビニルアルコールの抗張力が8kg/mm以上であり、かつ、染料層にアントラキノン系化合物を含む熱移行性染料を用いることで、飛躍的に高い転写感度が得られることがわかる。
比較例III−5の感熱転写記録媒体では、ポリビニルアルコールのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例III−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性が低下し、異常転写が全面で認められた。
比較例III−6の感熱転写記録媒体では、ポリビニルピロリドンのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例III−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性は問題ないものの、転写感度は著しく低下することがわかる。
比較例III−7の感熱転写記録媒体は、下引き層用のポリビニルアルコールとして市販品であるPVA−117((株)クラレ製)を用いたが、このPVA−117はJIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるため、抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いた実施例III−1〜III−7の感熱転写記録媒体と比較すると、転写感度が低く、十分に満足できるものではなかった。
比較例III−8の感熱転写記録媒体では、染料層にフィラー粒子が含まれていないため、SRaが0.10μmと染料層表面が極めて平坦であり、印画時に熱融着が起こり、高濃度部での濃淡ムラがはっきりと確認された。
比較例III−9の感熱転写記録媒体では、染料層にフィラー粒子が含まれているものの、SRaが0.15μm未満で染料層表面が平坦過ぎるため、高濃度部での濃淡ムラの発生を十分に抑えることができていないことがわかる。
比較例III−10の感熱転写記録媒体は、染料層中のフィラー粒子の量が多過ぎ、SRaが0.7μmよりも大きいため、転写感度の低下および異常転写を引き起こしていることがわかる。
比較例III−11の感熱転写記録媒体は、染料層中のフィラー粒子の体積平均粒子径が0.02μmと小さく、SRaが0.15μm未満であるため、高濃度部での濃淡ムラの発生を十分に抑えることができていないことがわかる。
比較例III−12の感熱転写記録媒体は、染料層中のフィラー粒子の体積平均粒子径が5.0μmと大きく、SRaが0.70μmよりも大きいため、転写感度が低下していることがわかる。また、印画後の感熱転写記録媒体を光学顕微鏡で観察したところ、染料層からフィラー粒子が滑落していることがわかった。
(IV)実施の形態IV:感熱転写記録媒体IVに対応する実施例とその比較例
<耐熱滑性層付き基材の作製>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、耐熱滑性層付き基材を得た。
<ポリビニルアルコールの調製>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、ケン化度94モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールと、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールとを得た。
<ポリビニルアルコールフィルムの抗張力測定>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、抗張力を測定した。その結果、ケン化度94モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが8.2kg/mm、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが6.8kg/mm、クラレポバールPVA−117が7.4kg/mmであった。
(実施例IV−1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層形成用塗布液IV−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.20g/mになるように塗布し、100℃で2分間乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、下記組成の染料層形成用塗布液IV−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.70g/mになるように塗布し、90℃で1分間乾燥することで、染料層を形成し、実施例IV−1の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液IV−1>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
<染料層形成用塗布液IV−1>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#5000−D、
ガラス転移温度110℃) 3.6部
ポリビニルブチラール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#3000−1、
ガラス転移温度68℃) 0.4部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(実施例IV−2)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液IV−2にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、実施例IV−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液IV−2>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例IV−3)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液IV−3にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、実施例IV−3の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液IV−3>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 1.5部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
3.5部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例IV−4)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.03g/mになるようにした以外は、実施例IV−1と同様にして、実施例IV−4の感熱転写記録媒体を得た。
(実施例IV−5)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.40g/mになるようにした以外は、実施例IV−1と同様にして、実施例IV−5の感熱転写記録媒体を得た。
(実施例IV−6)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液IV−2にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、実施例IV−6の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液IV−2>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#5000−D、
ガラス転移温度110℃) 3.8部
ポリビニルブチラール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#3000−1、
ガラス転移温度68℃) 0.2部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(実施例IV−7)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液IV−3にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、実施例IV−7の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液IV−3>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#5000−D、
ガラス転移温度110℃) 3.92部
ポリビニルブチラール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#3000−1、
ガラス転移温度68℃) 0.08部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(実施例IV−8)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液IV−4にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、実施例IV−8の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液IV−4>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#5000−D、
ガラス転移温度110℃) 2.0部
ポリビニルブチラール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#3000−1、
ガラス転移温度68℃) 2.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(実施例IV−9)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液IV−5にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、実施例IV−9の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液IV−5>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#5000−D、
ガラス転移温度110℃) 1.6部
ポリビニルブチラール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#3000−1、
ガラス転移温度68℃) 2.4部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(比較例IV−1)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を形成しない以外は、実施例IV−1と同様にして、比較例IV−1の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例IV−2)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液IV−4にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、比較例IV−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液IV−4>
ポリビニルアルコール(抗張力6.8kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例IV−3)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液IV−6にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、比較例IV−3の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液IV−6>
C.I.ソルベントブルー266(アゾ系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#5000−D、
ガラス転移温度110℃) 3.6部
ポリビニルブチラール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#3000−1、
ガラス転移温度68℃) 0.4部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(比較例IV−4)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を上述した下引き層形成用塗布液IV−4にて形成し、染料層を上述した染料層形成用塗布液IV−6にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、比較例IV−4の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例IV−5)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液IV−5にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、比較例IV−5の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液IV−5>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例IV−6)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液IV−6にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、比較例IV−6の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液IV−6>
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例IV−7)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液IV−7にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、比較例IV−7の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液IV−7>
ポリビニルアルコール
((株)クラレ製PVA−117、抗張力7.4kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例IV−8)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液IV−7にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、比較例IV−8の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液IV−7>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルブチラール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#3000−1、
ガラス転移温度68℃) 4.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
(比較例IV−9)
実施例IV−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液IV−8にて形成した以外は、実施例IV−1と同様にして、比較例IV−9の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液IV−8>
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール
(電気化学工業(株)製デンカブチラール#5000−D、
ガラス転移温度110℃) 4.0部
トルエン 45.0部
メチルエチルケトン 45.0部
<被転写体の作製>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、感熱転写用の被転写体を作製した。
<染料層の密着性評価>
実施例IV−1〜IV−9、比較例IV−1〜IV−9の感熱転写記録媒体について、感熱転写記録媒体の染料層の上に、幅24mm、長さ150mmのセロハンテープを貼り、その後すぐに剥がしたときの、セロハンテープ側への染料層の付着の有無を調べることにより、染料層の密着性を評価した。その結果を表4に示す。
染料層の密着性評価は、以下の基準にて行った。
○:染料層の付着が、認められない
△:染料層の付着が、ごく僅かに認められる
×:染料層の付着が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<印画評価>
実施例IV−1〜IV−9、比較例IV−1〜IV−9の感熱転写記録媒体を使用し、サーマルシミュレーターにてベタ印画を行い、最高反射濃度である255階調を11分割した各階調の反射濃度を評価した。その結果を表5に示す。なお、低濃度部における転写感度は23〜46階調における反射濃度にて、高濃度部における転写感度は255階調における反射濃度にて評価した。また、反射濃度はX−Rite社製の分光濃度計「X−Rite528」にて測定した値である。
なお、印画条件は以下の通りである。
印画環境:23℃、50%RH
印加電圧:29V
ライン周期:0.7msec
印画密度:主走査300dpi、副走査300dpi
<異常転写>
実施例IV−1〜IV−9、比較例IV−1〜IV−9の感熱転写記録媒体について、以下の基準にて異常転写を評価した。その結果を表4に示す。
○:被転写体への異常転写が、認められない
△:被転写体への異常転写が、ごく僅かに認められる
×:被転写体への異常転写が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<シワ>
実施例IV−1〜IV−9、比較例IV−1〜IV−9の感熱転写記録媒体について、以下の基準にてシワを評価した。その結果を表4に示す。
○:被転写体のシワが、認められない
△:被転写体のシワは殆ど認められないが、感熱転写記録媒体の変形や伸びが僅かに認められる
×:被転写体のシワが、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
Figure 0005582375
Figure 0005582375
表4、5に示す結果から、実施例IV−1〜IV−9の感熱転写記録媒体は、下引き層が設けられていない比較例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して、明らかに高速印画時における高濃度部の転写感度が高く、染料層に使用する染料を低減することができ、コストダウンの効果が大きいことがわかった。また、染料層との密着性、および印画における異常転写も実用上問題ないことがわかった。
実施例IV−2の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=8/2であり、ポリビニルピロリドン比率が低いためか、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下していることがわかる。
実施例IV−3の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=3/7であり、ポリビニルアルコール比率が低いためか、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が若干低下していることがわかる。
実施例IV−4の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.05g/m未満であるためか、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下していることがわかる。
実施例IV−5の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.30g/m超であるためか、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が若干低下していることがわかる。
実施例IV−6の感熱転写記録媒体は、染料層に含まれるガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールとガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアセタール/ポリビニルブチラール=95/5であり、ポリビニルブチラール比率が若干低いためか、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して低濃度部の転写感度が若干低下していることがわかる。また実施例IV−7の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアセタール/ポリビニルブチラール=98/2であり、ポリビニルブチラール比率が実施例IV−6の感熱転写記録媒体よりも低いためか、実施例IV−6の感熱転写記録媒体と比較して低濃度部の転写感度が若干低下していることがわかる。
実施例IV−8の感熱転写記録媒体は、染料層に含まれるガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールとガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアセタール/ポリビニルブチラール=50/50であり、ポリビニルブチラール比率が若干高いためか、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して低濃度部の転写感度が若干高いことがわかる。また実施例IV−9の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアセタール/ポリビニルブチラール=40/60であり、ポリビニルブチラール比率が実施例IV−8の感熱転写記録媒体よりも高いためか、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して低濃度部の転写感度は若干高いが、感熱転写記録媒体の変形や伸びが僅かに認められることがわかる。
これに対して、比較例IV−2の感熱転写記録媒体は、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用いた結果、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例IV−3の感熱転写記録媒体は、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用い、かつ、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例IV−4の感熱転写記録媒体は、比較例IV−2やIV−3の感熱転写記録媒体と比較してさらに転写感度が低下していることがわかる。ここで、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いている比較例IV−3と、抗張力が8kg/mm未満のポリビニルアルコールを用いている比較例IV−4とで、転写感度を比較すると、その差は僅かであり、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る場合は、ポリビニルアルコールの抗張力が転写感度に与える効果は小さいことがわかる。このことから、JIS K 7113に基づいて測定したポリビニルアルコールの抗張力が8kg/mm以上であり、かつ、染料層にアントラキノン系化合物を含む熱移行性染料を用いることで、飛躍的に高い転写感度が得られることがわかる。
比較例IV−5の感熱転写記録媒体では、ポリビニルアルコールのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性が低下し、異常転写が全面で認められた。
比較例IV−6の感熱転写記録媒体では、ポリビニルピロリドンのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性は問題ないものの、転写感度は著しく低下することがわかる。
比較例IV−7の感熱転写記録媒体は、下引き層用のポリビニルアルコールとして市販品であるPVA−117((株)クラレ製)を用いたが、このPVA−117はJIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるため、抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いた実施例IV−1〜IV−9の感熱転写記録媒体と比較すると、転写感度が低く、十分に満足できるものではなかった。
比較例IV−8の感熱転写記録媒体では、ガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールのみを樹脂バインダーとして含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して染料層を形成させた結果、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して、低濃度部の転写感度は高くなるものの、被転写体のシワが全面で認められることがわかる。
比較例IV−9の感熱転写記録媒体では、ガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールのみを樹脂バインダーとして含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して染料層を形成させた結果、実施例IV−1の感熱転写記録媒体と比較して、低濃度部の転写感度が著しく低下することがわかる。
(V)実施の形態V:感熱転写記録媒体Vに対応する実施例とその比較例
<耐熱滑性層付き基材の作製>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、耐熱滑性層付き基材を得た。
<ポリビニルアルコールの調製>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、ケン化度94モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールと、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールとを得た。
<ポリビニルアルコールフィルムの抗張力測定>
上記(I)実施の形態Iに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、抗張力を測定した。その結果、ケン化度94モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが8.2kg/mm、ケン化度88モル%、平均重合度2200のポリビニルアルコールが6.8kg/mm、クラレポバールPVA−117が7.4kg/mmであった。
(実施例V−1)
耐熱滑性層付き基材の易接着処理面に、下記組成の下引き層形成用塗布液V−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.20g/mになるように塗布し、100℃で2分間乾燥することで、下引き層を形成した。引き続き、その下引き層の上に、下記組成の染料層形成用塗布液V−1を、グラビアコーティング法により、乾燥後の塗布量が0.70g/mになるように塗布し、90℃で1分間乾燥することで、染料層を形成し、実施例V−1の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液V−1>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
<染料層形成用塗布液V−1>
非反応性シリコーンオイル
(数平均分子量8000、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイル)
0.1部
反応性シリコーンオイル
(数平均分子量3000、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイル)
0.1部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(実施例V−2)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液V−2にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、実施例V−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液V−2>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例V−3)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液V−3にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、実施例V−3の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液V−3>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 1.5部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
3.5部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(実施例V−4)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.03g/mになるようにした以外は、実施例V−1と同様にして、実施例V−4の感熱転写記録媒体を得た。
(実施例V−5)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層の乾燥後の塗布量が0.40g/mになるようにした以外は、実施例V−1と同様にして、実施例V−5の感熱転写記録媒体を得た。
(実施例V−6)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液V−2にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、実施例V−6の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液V−2>
非反応性シリコーンオイル
(数平均分子量8000、両末端型長鎖アルキル変性シリコーンオイル)
0.1部
反応性シリコーンオイル
(数平均分子量3000、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイル)
0.1部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(実施例V−7)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液V−3にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、実施例V−7の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液V−3>
非反応性シリコーンオイル
(数平均分子量8000、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイル)
0.1部
反応性シリコーンオイル
(数平均分子量3000、両末端型アミノ変性シリコーンオイル)
0.1部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(比較例V−1)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を形成しない以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−1の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例V−2)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液V−4にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−2の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液V−4>
ポリビニルアルコール(抗張力6.8kg/mm) 3.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
2.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例V−3)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液V−4にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−3の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液V−4>
非反応性シリコーンオイル
(数平均分子量8000、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイル)
0.1部
反応性シリコーンオイル
(数平均分子量3000、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイル)
0.1部
C.I.ソルベントブルー266(アゾ系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(比較例V−4)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を上述した下引き層形成用塗布液V−4にて形成し、染料層を上述した染料層形成用塗布液V−4にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−4の感熱転写記録媒体を得た。
(比較例V−5)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液V−5にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−5の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液V−5>
ポリビニルアルコール(抗張力8.2kg/mm) 5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例V−6)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液V−6にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−6の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液V−6>
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
5.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例V−7)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、下引き層を下記組成の下引き層形成用塗布液V−7にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−7の感熱転写記録媒体を得た。
<下引き層形成用塗布液V−7>
ポリビニルアルコール
((株)クラレ製PVA−117、抗張力7.4kg/mm) 4.0部
ポリビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドンのホモポリマー)
1.0部
純水 57.0部
イソプロピルアルコール 38.0部
(比較例V−8)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液V−5にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−8の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液V−5>
非反応性シリコーンオイル
(数平均分子量8000、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイル)
0.2部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(比較例V−9)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液V−6にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−9の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液V−6>
反応性シリコーンオイル
(数平均分子量3000、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイル)
0.2部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(比較例V−10)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液V−7にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−10の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液V−7>
非反応性シリコーンオイル
(数平均分子量8000、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイル)
0.1部
非反応性シリコーンオイル
(数平均分子量3000、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイル)
0.1部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(比較例V−11)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液V−8にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−11の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液V−8>
反応性シリコーンオイル
(数平均分子量8000、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイル)
0.1部
反応性シリコーンオイル
(数平均分子量3000、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイル)
0.1部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
(比較例V−12)
実施例V−1で作製した感熱転写記録媒体において、染料層を下記組成の染料層形成用塗布液V−9にて形成した以外は、実施例V−1と同様にして、比較例V−12の感熱転写記録媒体を得た。
<染料層形成用塗布液V−9>
非反応性シリコーンオイル
(数平均分子量7000、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイル)
0.1部
反応性シリコーンオイル
(数平均分子量4000、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイル)
0.1部
C.I.ソルベントブルー63(アントラキノン系染料) 6.0部
ポリビニルアセタール 4.0部
トルエン 44.9部
メチルエチルケトン 44.9部
<熱転写受像シートの作製>
上記(III)実施の形態IIIに対応する実施例とその比較例における方法と同様の方法で、熱転写受像シートを得た。
<染料層の密着性評価>
実施例V−1〜V−7、比較例V−1〜V−12の感熱転写記録媒体について、感熱転写記録媒体の染料層の上に、幅24mm、長さ150mmのセロハンテープを貼り、その後すぐに剥がしたときの、セロハンテープ側への染料層の付着の有無を調べることにより、染料層の密着性を評価した。その結果を表6に示す。
染料層の密着性評価は、以下の基準にて行った。
○:染料層の付着が、認められない
△:染料層の付着が、ごく僅かに認められる
×:染料層の付着が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<印画評価>
実施例V−1〜V−7、比較例V−1〜V−12の感熱転写記録媒体を使用し、サーマルシミュレーターにてベタ印画を行い、最高反射濃度を測定して印画評価を行った。その結果を表6に示す。なお、最高反射濃度はX−Rite社製の分光濃度計「X−Rite528」にて測定した値である。
なお、印画条件は以下の通りである。
印画環境:23℃、50%RH
印加電圧:29V
ライン周期:0.7msec
印画密度:主走査300dpi、副走査300dpi
<中濃度部で発生する異常転写>
実施例V−1〜V−7、比較例V−1〜V−12の感熱転写記録媒体について、以下の基準にて中濃度部で発生する異常転写を評価した。その結果を表6に示す。
○:被転写体への異常転写が、認められない
△:被転写体への異常転写が、ごく僅かに認められる
×:被転写体への異常転写が、全面で認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
<高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付き>
実施例V−1〜V−7、比較例V−1〜V−12の感熱転写記録媒体について、以下の基準にて高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きを評価した。その結果を表6に示す。
○:高濃度部乃至中濃度部で貼り付きの痕跡が、認められない
△:高濃度部乃至中濃度部で貼り付きの痕跡が、僅かに認められる
×:高濃度部乃至中濃度部で貼り付きの痕跡が、はっきりと認められる
なお、△以上であれば実用上問題ないレベルである。
Figure 0005582375
表6に示す結果から、実施例V−1〜V−7の感熱転写記録媒体は、下引き層が設けられていない比較例V−1の感熱転写記録媒体と比較して、明らかに高速印画時における転写感度が高く、染料層に使用する染料を低減することができ、コストダウンの効果が大きいことがわかった。また、染料層との密着性、および印画時に中濃度部で発生する異常転写、さらに高濃度部乃至中濃度部で発生する水系受容層と染料層との貼り付きも実用上問題ないことがわかった。
実施例V−2の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=8/2であり、ポリビニルピロリドン比率が低いためか、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下していることがわかる。
実施例V−3の感熱転写記録媒体は、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=3/7であり、ポリビニルアルコール比率が低いためか、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度(最高反射濃度)が若干低下していることがわかる。
実施例V−4の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.05g/m未満であるためか、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して染料層との密着性が若干低下していることがわかる。
実施例V−5の感熱転写記録媒体は、下引き層の塗布量が0.30g/m超であるためか、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が若干低下していることがわかる。
実施例V−6の感熱転写記録媒体は、非反応性シリコーンオイルとして側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイルではなく両末端型長鎖アルキル変性シリコーンオイルを用いたためか、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して高濃度部乃至中濃度部で水系受容層と染料層との貼り付きの発生が僅かに認められていることがわかる。
実施例V−7の感熱転写記録媒体は、反応性シリコーンオイルとして側鎖型ジアミン変性シリコーンオイルではなく両末端型アミノ変性シリコーンオイルを用いたためか、高濃度部乃至中濃度部での水系受容層と染料層との貼り付きの発生は抑えられているものの、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して中濃度部で異常転写の発生が僅かに認められていることがわかる。
これに対して、比較例V−2の感熱転写記録媒体は、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用いた結果、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例V−3の感熱転写記録媒体は、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して転写感度が著しく低下していることがわかる。
JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるポリビニルアルコールを用い、かつ、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る比較例V−4の感熱転写記録媒体は、比較例V−2やV−3の感熱転写記録媒体と比較してさらに転写感度が低下していることがわかる。ここで、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いている比較例V−3と、抗張力が8kg/mm未満のポリビニルアルコールを用いている比較例V−4とで、転写感度を比較すると、その差は僅かであり、染料層がアントラキノン系化合物を含まない染料から成る場合は、ポリビニルアルコールの抗張力が転写感度に与える効果は小さいことがわかる。このことから、JIS K 7113に基づいて測定したポリビニルアルコールの抗張力が8kg/mm以上であり、かつ、染料層にアントラキノン系化合物を含む熱移行性染料を用いることで、飛躍的に高い転写感度が得られることがわかる。
比較例V−5の感熱転写記録媒体では、ポリビニルアルコールのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性が低下し、中濃度部での異常転写が全面で認められた。
比較例V−6の感熱転写記録媒体では、ポリビニルピロリドンのみを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して下引き層を形成させた結果、実施例V−1の感熱転写記録媒体と比較して、染料層との密着性は問題ないものの、転写感度は著しく低下することがわかる。
比較例V−7の感熱転写記録媒体は、下引き層用のポリビニルアルコールとして市販品であるPVA−117((株)クラレ製)を用いたが、このPVA−117はJIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm未満であるため、抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールを用いた実施例V−1〜V−7の感熱転写記録媒体と比較すると、転写感度が低く、十分に満足できるものではなかった。
比較例V−8の感熱転写記録媒体では、染料層に反応性シリコーンオイルが含まれていないため、中濃度部での異常転写の発生を十分に抑えることができていないことがわかる。
比較例V−9の感熱転写記録媒体では、染料層に非反応性シリコーンオイルが含まれていないため、高濃度部乃至中濃度部での水系受容層と染料層との貼り付きの発生を十分に抑えることができていないことがわかる。
比較例V−10の感熱転写記録媒体では、数平均分子量は3000であるが、反応性ではなく非反応性シリコーンオイルが染料層に含まれているため、中濃度部での異常転写の発生を十分に抑えることができていないことがわかる。
比較例V−11の感熱転写記録媒体では、数平均分子量は8000であるが、非反応性ではなく反応性シリコーンオイルが染料層に含まれているため、高濃度部乃至中濃度部での水系受容層と染料層との貼り付きの発生を十分に抑えることができていないことがわかる。
比較例V−12の感熱転写記録媒体では、数平均分子量が8000未満の非反応性シリコーンオイルと数平均分子量が3000を超える反応性シリコーンオイルとが染料層に含まれているため、高濃度部乃至中濃度部での水系受容層と染料層との貼り付きの発生および中濃度部での異常転写の発生を十分に抑えることができていないことがわかる。
本発明により得られる感熱転写記録媒体は、昇華転写方式のプリンタに使用することができ、プリンタの高速・高機能化と併せて、各種画像を簡便にフルカラー形成できるので、デジタルカメラのセルフプリント、身分証明書などのカード類、アミューズメント用出力物等に広く利用することができる。
10 基材
20 下引き層
30 染料層
40 耐熱滑性層

Claims (18)

  1. 基材に下引き層および染料層が順次積層形成され、
    前記下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、
    前記染料層が、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物を含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであることを特徴とする、感熱転写記録媒体。
  2. 前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることを特徴とする、請求項1に記載の感熱転写記録媒体。
  3. 前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることを特徴とする、請求項1または2に記載の感熱転写記録媒体。
  4. 基材の一方の面に耐熱滑性層が形成され、該基材の他方の面に下引き層および染料層が順次積層形成され、
    前記下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、
    前記染料層が、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物を含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、
    前記耐熱滑性層の表面粗さ(Ra)の平均値αが0.05〜0.50μmであり、かつ、150℃、10分間の条件で静置した後の該耐熱滑性層の表面粗さ(Ra)の平均値βが0.00〜0.80μmであり、
    前記平均値αと前記平均値βとの差が0.00〜0.30μmであることを特徴とする、感熱転写記録媒体。
  5. 前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることを特徴とする、請求項4に記載の感熱転写記録媒体。
  6. 前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることを特徴とする、請求項4または5に記載の感熱転写記録媒体。
  7. 基材に、水系バインダーと中空粒子とを含む水系中空粒子層を介して、水系バインダーと離型剤とを含む水系受容層が形成された熱転写受像シートに、熱転写によって画像を形成するための感熱転写記録媒体であって、
    基材に下引き層および染料層が順次積層形成され、
    前記下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、
    前記染料層が、フィラー粒子と、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物とを含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、
    前記染料層の3次元表面粗さ(SRa)が0.15〜0.70μmであることを特徴とする、感熱転写記録媒体。
  8. 前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることを特徴とする、請求項7に記載の感熱転写記録媒体。
  9. 前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることを特徴とする、請求項7または8に記載の感熱転写記録媒体。
  10. 前記フィラー粒子の体積平均粒子径が、0.1〜3.0μmであることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1つに記載の感熱転写記録媒体。
  11. 基材に下引き層および染料層が順次積層形成され、
    前記下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、
    前記染料層が、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物を含み、かつ、樹脂バインダーとしてガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールとガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールとを含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであることを特徴とする、感熱転写記録媒体。
  12. 前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることを特徴とする、請求項11に記載の感熱転写記録媒体。
  13. 前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることを特徴とする、請求項11または12に記載の感熱転写記録媒体。
  14. 前記染料層中のガラス転移温度が100℃以上のポリビニルアセタールとガラス転移温度が75℃以下のポリビニルブチラールとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアセタール/ポリビニルブチラール=50/50〜97/3であることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1つに記載の感熱転写記録媒体。
  15. 基材に、水系バインダーと中空粒子とを含む水系中空粒子層を介して、水系バインダーと離型剤とを含む水系受容層が形成された熱転写受像シートに、熱転写によって画像を形成するための感熱転写記録媒体であって、
    基材に下引き層および染料層が順次積層形成され、
    前記下引き層が、JIS K 7113に基づいて測定した抗張力が8kg/mm以上のポリビニルアルコールと、ポリビニルピロリドンとを含む下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、
    前記染料層の少なくとも1つが、離型剤として少なくとも2種の変性シリコーンオイルと、熱移行性染料としてアントラキノン系化合物とを含む染料層形成用塗布液を塗布し、乾燥して形成されたものであり、
    前記変性シリコーンオイルが、数平均分子量が8000以上の非反応性シリコーンオイルと、数平均分子量が3000以下の反応性シリコーンオイルとからなることを特徴とする、感熱転写記録媒体。
  16. 前記下引き層中のポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンとの質量基準での含有比率が、ポリビニルアルコール/ポリビニルピロリドン=4/6〜7/3であることを特徴とする、請求項15に記載の感熱転写記録媒体。
  17. 前記下引き層形成用塗布液を塗布し、乾燥した後に残った固形分量で表される、前記下引き層の乾燥後の塗布量が、0.05〜0.30g/mであることを特徴とする、請求項15または16に記載の感熱転写記録媒体。
  18. 前記非反応性シリコーンオイルが、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンオイルであり、前記反応性シリコーンオイルが、側鎖型ジアミン変性シリコーンオイルであることを特徴とする、請求項15〜17のいずれか1つに記載の感熱転写記録媒体。
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