JP5545590B2 - ガラス繊維用ガラス組成物、ガラス繊維及びガラス繊維シート状物 - Google Patents

ガラス繊維用ガラス組成物、ガラス繊維及びガラス繊維シート状物 Download PDF

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Description

本発明は、電子部品等で利用される高密度実装を必要とするプリント配線板等に使用される熔融性、紡糸性に優れたガラス繊維用のガラス組成物と、そのガラス組成物よりなるガラス繊維、さらにこのガラス繊維より構成されるガラス繊維シート状物に関する。
携帯電話や携帯情報端末(PDA)等の各種情報機器の発達に伴い、抵抗器、コンデンサ、集積回路等の数多くの電子部品は、高密度実装技術を背景とした潮流の中で、従来にない高い密度でプリント配線板(プリント回路板、リジッド基板、プリント基板あるいはプリント配線基板とも言う)上へ実装されることが多くなっている。プリント配線板とは、樹脂とガラス繊維及び改質剤等が適量混在するシート形状の複合材料であり、各種電子部品を搭載するためのスルーホール等を設けた形態を有し、その機能や用途に応じてモジュール、ボード、ユニットあるいはパッケージ等の別名を用いて表現されることもある。
このプリント配線板用途で用いられるガラス繊維には、従来無アルカリガラス組成であるEガラスと呼ばれるガラス組成物が用いられてきた。このEガラスは、電気絶縁性に優れ、ガラス繊維として熔融状態から製造する際の紡糸性に優れ、切断加工などの加工性にも優れた材質であるため、多くの使用実績があり最も良く知られたガラス繊維用ガラス材質である。そしてEガラスは、例えば、酸化物換算の質量百分率表示で、SiO 52〜56%、Al 12〜16%、B 5〜10%、CaO 16〜25%、MgO 0〜5%、アルカリ金属酸化物(RO) 0〜2%、Fe 0.05〜0.4%、F 0〜1.0%からなるガラス材質である。
一方、プリント配線板の用途では、近年高速な電子回路を実現するためには高周波の使用が必要とされるようになったが、この際に重要視されるのは、プリント配線板の電気特性である。伝送速度は誘電率の平方根に反比例するので、伝送速度を向上するためには低誘電率であることが必要である。また、誘電損失が小さいことが求められるが、このためには誘電正接が小さいことが必要となる。ちなみに本発明で誘電率(ε)と表すのは、正確には媒質の誘電率と真空の誘電率の比である比誘電率を意味している無次元数であるが、慣例に従い誘電率(ε)と表す。一般に、ガラスに交流電流を流すと、ガラスは交流電流に対してエネルギー吸収を行い熱として吸収する。吸収される誘電損失エネルギーはガラスの成分及び構造により定まる誘電率及び誘電正接に比例し、W=kfv×εtanδで表される。ここに、Wは誘電損失エネルギー、kは定数、fは周波数、vは電位傾度、εは誘電率、tanδは誘電正接を表す。この式から誘電率及び誘電正接が大きい程、また周波数が高い程、誘電損失が大きくなることがわかる。よって誘電損失を小さくするためには誘電率と誘電正接を小さくすることが求められる。
このためプリント配線板に用いられるガラス繊維には誘電率と誘電正接が低いガラス繊維用材質が要望されるようになり、特許文献1には、室温における周波数1MHzでの誘電率が6.7、誘電正接が12×10−4であるEガラスよりも低い誘電率と誘電正接を実現するためDガラスと呼称されるガラス材質が開示されている。このDガラスは、例えば、酸化物換算の質量百分率表示で、SiO 74.5%、Al 0.3%、B 21.7%、CaO 0.5%、LiO 0.5%、NaO 1.0%、KO 1.5%からなるガラス材質であり、このガラスの1MHzの誘電率は約4.3、誘電正接は約10〜20×10−4である。
しかしながらDガラスは、電気的な性能については優れたものであるが、プリント配線板やガラス繊維の製造工程上等で様々な問題点が指摘された。例えばDガラスは、Eガラスに比較してガラスの熔融性が劣り、紡糸時に糸切れ等が多発し易く、ガラス繊維の製造が容易ではない。またDガラスは、構造的に脆いものとなるため、プリント配線板を得るために用いられる布形態を形成するために行われる製織工程での製織性に劣り、その結果製品良品率が低下することに繋がる。さらにDガラスを用いたプリント配線板では、電子部品リードを挿入しない層間導通を目的としたスルーホールであるビアホール(Via Hole)を形成するドリリング工程でのドリルの摩耗が大きくなり、ビアホールの位置精度が低くなるといった問題もあった。
以上のような問題を解決するため、これまでにも多数の発明が行われてきた。例えば特許文献2には、質量%で、SiO 50〜60%、Al 10〜18%、B 18〜25%、CaO 0〜10%、MgO 1〜10%、LiO+NaO+KO 0〜1.0%、Fe 0.1〜1%のガラス組成を有することを特徴とする低誘電率ガラス繊維が開示されている。
特許文献3には、質量%で、SiO 50〜60%、Al 10〜20%、B 20〜30%、CaO 0〜5%、MgO 0〜4%、LiO+NaO+KO 0〜0.5%、TiO 0.5〜5%の組成を有することを特徴とする低誘電率ガラス繊維が開示されている。
また特許文献4には、質量%で、SiO 48〜80%、Al 0〜18%、B 11〜35%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0〜7%、TiO 3%未満の組成を有し、HO<800ppmであって、1MHzで誘電率が5.0以下、誘電正接が7×10−4以下であることを特徴とする低誘電率低誘電正接ガラスが開示されている。
特開昭63−2831号公報 特開平10−167759号公報 特開平8−333137号公報 特開2003−137590号公報
しかしながら、これまでに開示された発明だけでは、充分な機械的性能を有し、しかも失透等のガラス欠陥の発生を抑制することが容易で、さらに低誘電率と低誘電正接とを実現するガラス材質を実現し、低誘電率と低誘電正接のガラス繊維を得るには、さらに解決すべき問題点があった。
例えば特許文献2のガラス組成物は、ガラス繊維の誘電率や誘電正接を低下させることには成功しているが、ガラス熔解初期の熔融性に問題があり、ガラス熔融時に熔融ガラス中に泡が残存し易く熔融ガラスを均質なものとするには十分なものとは言えない。
またプリント配線板は多くの電子装置に搭載されるが、搭載される電子装置を取り巻く環境は多様である。例えば現在の自動車には数多くの集積回路が搭載されており、これらの電子部品はプリント配線板上に高密度実装されているが、自動車に使用される部品は真夏の炎天下から極北の路上での走行までの信頼性を確保できるものであることが要求される。また近年の乗用車では乗車空間を十分に確保するために、電子回路等はエンジンルームやエンジンルーム周辺などの周囲環境温度が高く、従来よりも温度変化の激しい環境下に配設されることが多くなっている。さらに、搭載する基板サイズを小型化したいという要求もある。

このような諸般の状況変化によって車載用途のプリント配線板は従来以上に耐熱性と高スルーホール信頼性が要求されることになってきている。プリント配線板と実装部品の線熱膨張係数に差があることから、高温環境下ではんだ接合部に熱応力が発生してはんだクラックを引き起こし、電気接続が得られなくなる等の大きな障害の発生は、絶対回避せねばならないからである。すなわち車載用途で使用される電子部品は、大きな温度変化によって電子回路に障害が発生したりすることは許されず、またその信頼性は長期に亘るものであることが求められる。よってこのような要求を満足するためには車載用途の環境で使用されるプリント配線板は実装部品との線熱膨張係数の差を小さくするため、線熱膨張係数を小さくことが求められている。このため、Eガラスよりもより低い線熱膨張係数を有するガラス材質よりなるガラス繊維が要求されることになる。
さらに電子機器の軽薄短小化への要求を反映したプリント基板の薄型化の進行に伴い、プリント配線板に用いるガラス繊維は、より繊維径の小さいガラス繊維の品種が求められる傾向があるが、Dガラスのように紡糸温度が高く、しかもガラスの粘性が温度変化によって大きく変化することのない、いわゆる「ロング」なガラスである場合には、限られた製造環境下で繊維径の小さい高品質なガラス繊維を欠陥のない安定した品位で製造することが困難となるため、温度変化によってガラスの粘性が急激に変化する、いわゆる「ショート」なガラスとすることが求められている。特許文献3のガラス組成物は、103.0dPa・sの紡糸温度が高い傾向があり、粘性の温度依存性が小さい「ロング」なガラスであって繊維径の小さいガラス繊維を製造するには向かない。また紡糸温度が高い場合には、製造設備に大きな負荷を強いることになるのでガラス繊維を引き出す際に用いられるブッシング等の製造設備の耐用期間を短くするという問題もある。特許文献4のガラス組成物は、紡糸温度が1300℃以上と高く、紡糸装置の耐用期間を短くするという問題がある。
また繊維径の小さいガラス繊維を製造する上で、熔融ガラス中に欠陥として含まれることのある気泡は、ガラス繊維の紡糸におけるガラス繊維の切断の原因となり易い。また、プリント配線板中に気泡を含有するガラス繊維がホローファイバーとして混入した場合、スルーホールメッキがホローファイバー中に侵入し、導通不良となる危険性があり、プリント配線板の信頼性を低下させるため問題とされる。Dガラスのように熔融温度の目安とされる102.0dPa・sの温度が高い場合には熔融時に多大なエネルギーをかける必要がある上、熔融時に気泡が浮上しきれずホローファイバーが多数発生することが多々ある。熔融ガラス中の気泡の数を低減するには、亜砒酸や三酸化アンチモン等の清澄剤を使用するのが効果的である。しかしこれらの清澄剤は環境負荷物質ともなるものであり、電子機器に使用される部材にこれらの元素成分が含有されるのは問題視されることになる。
本発明は、上記した種々の問題を解決し、熔融温度が低いため均質な熔融ガラスを得ることが容易であり、ガラス繊維の紡糸性に優れ、高い化学的耐久性を有し、高密度実装のプリント配線板で要求される低誘電率と低誘電正接を実現し、さらに低い線熱膨張係数を有するガラス繊維用組成物と、このガラス繊維用組成物のガラスを紡糸することによって得られるガラス繊維及びこのガラス繊維より構成されるガラス繊維シート状物を提供することを課題とする。
本発明者らは、高密度実装を可能とするプリント配線板の用途から要求される数多くの困難な課題を確実に克服することができ、しかも繊維径の小さいガラス繊維を安定生産することのできるガラス繊維組成物に関する多くの研究を重ね、その中で特にガラス組成物中のアルカリ土類金属元素の役割に注目し、これらの成分を所定量添加することで、上記の様々な問題を解決し、これまでにない優れた性能を発揮するガラス繊維組成物とこのガラス繊維組成物を繊維径の小さいガラス繊維として成形することのできることが判明したため、ここに本発明を提示するものである。
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 45〜65%、Al 10〜20%、B 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0〜1%、SrO、BaOを含有し、アルカリ土類金属酸化物の合量が10〜25%であることを特徴とする。
ここで、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 45〜65%、Al 10〜20%、B 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0〜1%、SrO、BaOを含有するとは、以下のようなものである。
すなわち、化学分析や機器分析等の各種分析手段を使用することによってガラスを構成する元素成分を酸化物換算で表示すると、ガラス組成はSiO成分が45質量%から65質量%の範囲にあり、Al成分が10質量%から20質量%の範囲にあり、B成分が13質量%から25質量%の範囲にあり、MgO成分が5.5質量%から9質量%の範囲にあり、CaO成分が10質量%以下、LiO成分とNaO成分とKO成分の合量が1質量%以下で、さらにSrO成分、BaO成分を含有するものであるということを表している。
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物では、上述に加えて酸化物換算の質量百分率表示でCeO 0.01〜5.0%であるならば、熔融ガラス中の気泡の数を低減することができ、ホローファイバーの発生が少なくなり、均質性の高いガラス繊維を得ることができる。
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物では、上述に加えて酸化物換算の質量百分率表示でSrO 0.1〜10%、BaO 0.1〜10%であるならば、ガラス熔融時の結晶析出性、いわゆる失透性の低い状態のガラス組成物となるので、ガラスの熔融が行い易くなり、またガラスの耐水性や耐酸性が低くなることもないものにできるので好ましい。
すなわち、上述同様にこれは酸化物換算の質量百分率表示でSrO 0.1〜10%、BaO 0.1〜10%であるとは、ガラスを構成する元素成分を酸化物換算で表示すると、上述のガラス組成の構成に加えてSrO成分が0.1質量%から10質量%、BaO成分が0.1質量%から10質量%であることを意味している。
以上の本発明のガラス繊維用ガラス組成物を構成する各成分の含有率の限定理由について、以下で具体的に説明する。
SiO成分はガラス構造において、その網目状構造の骨格をなす成分であって本発明のガラス組成物の主要成分であり、ガラス組成物中のSiO成分の含有量が増加するほどガラスの構造強度が大きくなる傾向となる。ガラスの構造強度が大きくなれば、それだけ化学的な耐久性も向上し、特に耐酸性について高い性能を有するものとなる。ガラス構造の強度を充分な状態となるように維持し、安定した品位を有するものとするには、SiO成分の含有量は少なくとも45質量%以上とすることが必要であり、より好ましくは48質量%以上とすることである。一方、ガラス組成物中のSiO成分の含有量が増加すると、熔融ガラスの高温粘性値が大きくなり、その結果熔融法によりこのようなガラス組成物を高い効率で均質になるように製造しようとすれば、高価な設備が必要となる。またガラス繊維として成形する際の成形温度も高くなる。よって製造時の設備管理等の点でも制約が生じることとなる場合がある。またガラス熔融時にガラス化反応時などに生じた気泡等が残存しない均質な熔融ガラスを得やすいものとし、ガラスの熔融に過剰な熱エネルギーを要しないようにし、しかもガラス繊維を製造する際の高い紡糸性を確保するにはSiO成分の含有量を65%以下の含有量とすることが必要である。
Al成分はガラスの化学的、機械的な安定性を実現するために有効な成分であり、ガラス中に適量だけ含有されることによって、熔融ガラス中での結晶の晶出や分相生成を抑制する効果を有する場合もあるが、多量に含有すると熔融ガラスの粘性を増加させることになる。ガラス組成中のAl成分の含有量が10質量%未満になると熔融時における分相性が悪化するため好ましくない。熔融ガラス中での分相性の悪化は、得られたガラス繊維の耐酸性の劣化に繋がるため好ましくない。ここで分相とは、熔融ガラスが2以上の複数のガラス相に分離する現象のことを意味している。一方、ガラス組成中のAl成分の含有量を増加させ過ぎると他の成分、特にSiO成分の含有量が相対的に少なくなり前記した耐酸性に悪影響が表れることになるため、Al成分の含有量は20質量%以下とする必要があり、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは17質量%以下、一層好ましくは16質量%以下、最も好ましくは15質量%以下とすることである。
成分はSiO成分と同様にガラス網目構造において、その骨格をなす成分であるが、SiO成分のように熔融ガラスの高温粘性を大きくすることはなく、むしろ高温粘性を低下させる働きがある。よってB成分は成形されたガラスの誘電率を低く維持し、かつ熔融ガラスの高温粘性の増加を抑える両方の役割を有する。ガラス組成中のB成分の含有量は、13質量%未満ではガラスの誘電率を6.0以下に維持しつつ、しかも紡糸温度である103.0dPa・sでの熔融ガラスの温度が十分な紡糸性を確保できる1300℃未満とするのが困難となる場合がある。一方、B成分はガラス組成中での含有量が多くなりすぎると熔融中にB成分の蒸発量が多くなり、熔融ガラスを均質な状態に維持するのが困難となる場合もある。またB成分の含有量が多くなりすぎると耐酸性が悪化し易くなり、熔融ガラス中での分相性が悪化することに繋がることになる。このような観点からガラス組成中のB成分が25質量%を超えるとガラスの耐酸性や分相性が悪化するため好ましくない。
MgO成分は、ガラス原料を熔融し易くする融剤としての働きを有する成分であると同時に102.0dPa・sの温度に相当する高温粘性の低下に非常に有効であり、熔融時にガラスの泡切れを良くし、均質なガラスを作るのに役立つ。また103.0dPa・sの温度を下げガラスをショートにする働きがあるため生産性を非常に良くし、繊維径の小さいガラス繊維を効率よく生産するのに役立つ。しかしMgO成分が、このガラス組成物中で紡糸温度である103.0dPa・s付近の高温粘性を低下させるために有効に働く状態とするには5.5質量%以上とすることが必要である。一方、MgO成分はガラス組成中の含有量が多くなりすぎると熔融ガラスの分相性が高くなり耐酸性が悪化する。また誘電率も上昇することになるため、このような観点から9質量%を超えるものとするのは好ましくない。
CaO成分は、MgO成分と同様に102.0dPa・sの温度に相当する熔融ガラスの粘性を低下させる働きをする成分であり、アルカリ土類金属元素よりなる成分の中では最も誘電率の増加割合が小さい。しかしながらCaO成分をガラス組成中に大量に含有すると、分相性が高くなりガラスの耐酸性が低下する。またガラスの誘電率もCaO成分の増加につれて大きくなる。このためCaO成分は、10質量%を超えるものとするのは好ましくない。
LiO成分、NaO成分あるいはKO成分として表されるガラス組成中の酸化物換算表示のアルカリ金属酸化物成分については、複数のガラス原料を混合した状態で加熱してガラス融液とする際に、ガラス融液の生成を容易にする、いわゆる融剤としての働きをし、さらに高温粘性を低下させる働きをも有するものである。しかし、LiO成分、NaO成分あるいはKO成分は、いずれもガラス組成中の含有量が多くなると、ガラスの誘電正接の値が増加するため、その合量の上限値は、1質量%までである。
SrO成分は、102.0dPa・sの温度に相当する熔融ガラスの粘性を低下させ、さらに熔融ガラスの103.0dPa・s付近の紡糸温度を低下させる働きをする成分であるが、その働きはMgOやCaO成分程のものではない。しかしSrO成分は、MgOやCaO成分の増加によってもたらされるガラス溶融時における分相性の悪化と、それに付随するガラスの耐酸性の低下を抑止する働きを有する成分であるため、本発明では必須の成分である。このようなSrO成分を含有する様々な働きが一層明瞭になるのは、ガラス組成中で0.1質量%以上含有される場合である。一方、SrO成分はガラス繊維用のガラス組成物とする場合に、その含有量が多すぎるとロングなガラスになり繊維径の小さいガラス繊維の作製が困難になる。このような観点からSrO成分の含有上限は、10質量%までとすることが好ましい。ガラス溶融時において、分相性が悪化すると、熔融ガラスは耐酸性に富む相と耐酸性に劣る相に分離することになり、その場合に耐酸性の劣る相がガラス繊維の耐酸性を決めるものとなるため、ガラス繊維としての耐酸性が劣悪になるので好ましくない。
BaO成分は、SrO成分と同様に102.0dPa・sの温度に相当する熔融ガラスの粘性を低下させ、さらに熔融ガラスの103.0dPa・s付近の紡糸温度を低下させる働きをする成分であるが、その働きはMgOやCaO成分程のものではない。しかしBaO成分は、MgOやCaO成分の増加によってもたらされる分相性の悪化と、それに付随するガラスの耐酸性の低下を抑止する働きを有する成分であり、SrO成分と同様に本発明の目的を達成するための必須の成分である。BaO成分についてもSrO成分と同様に、その含有効果が一層明瞭になるのは、ガラス組成中で0.1質量%以上含有される場合である。一方、BaO成分はガラス繊維用のガラス組成物とする場合に、その含有量が多すぎると液相温度が悪化する上、ロングなガラスになり繊維径の小さいガラス繊維の作製が困難になる。このような観点からBaO成分は、10質量%までの範囲で含有するものとすることが好ましい。ロングなガラスとは、温度変化に対する粘性の依存性が小さいガラスのことで、冷却によって繊維として固化し難い。
さらに、SrO成分およびBaO成分はSiOとの結晶を形成しやすく、SiOを含むガラス組成中にSrO成分が含有されたならば、SrO・SiO結晶を析出しやすく、またBaO成分が含有されたならば、BaO・2SiO結晶を析出しやすくなり、その結果ガラスの液相温度が高くなる傾向がある。ガラス繊維紡糸時に液相温度が高いとブッシングノズルで析出した結晶によりブッシングノズルが詰まり、ガラス繊維が紡糸中に切断することが問題となる。しかし、ガラス組成中にSrO成分とBaO成分とが共存されると、ガラス組成がSrO・SiOとBaO・2SiOの共晶領域に入ることによりガラスの液相温度が低下し、紡糸中に結晶が析出しにくくなるためSrO成分とBaO成分をともにガラス組成中に含有する、すなわちSrO成分とBaO成分が共存することが望ましい。
CeO成分は、熔融ガラス中に欠陥として存在する気泡を浮上させて清澄しやすくする働きをするものであり、環境負荷物質ではない清澄剤として適量添加するものであるが、CeO成分の清澄作用がより明瞭に表れるのは酸化物換算の質量百分率表示で0.01%以上とすることであり、より好ましくは0.02%以上とすることである。ただしCeO成分は、大量に添加しすぎると熔融ガラスの失透性に影響を及ぼす場合がある。このような観点から酸化物換算の質量百分率表示で5%を超えるべきではない。この上限値は、より安定した品位とするためには4%までとするのが好ましく、より好ましくは2%までとすることである。最適な添加量であれば、これによりガラス繊維のノンホロー化が達成できる。
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、本発明のガラス繊維用ガラス組成物の性能に大きな影響を及ぼさない範囲で上記に加え必要に応じて各種の成分を添加することができる。本発明のガラス繊維用ガラス組成物の構成成分として使用できるものを具体的に例示するならば、ZrO、P、Fe、SO、Cl、F、La、WO、Nb及びY等の希土類酸化物、あるいはMoO等を質量%表示で3%以下の含有量であれば含有することができる。
また上述以外にも、微量成分を質量%表示で0.1%まで含有することができる。例えば、Cr、HO、OH、H、CO、CO、He、Ne、Ar及びN等の各種微量成分が該当する。
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物では、ガラス繊維用ガラス組成物の性能に大きな影響がないならば、ガラス中に微量の貴金属元素が含有してもよい。例えばPt、Rh及びOs等の白金属元素を1000ppmまで、すなわち金属元素の含有量を質量百分率で表示して0.1%まで含有してもよい。
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物では、上述に加えて酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が10〜25%であり、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.15から0.50の範囲内であるならば、熔融時におけるガラスの分相が抑制され、分相により引き起こされる耐酸性の低下が避けられ、かつ紡糸温度を低く、ショートなガラスとなるので、ノンホローガラスの生産性を高めるので好ましい。また、ガラス熔融時に結晶の析出や分相によって熔融ガラスが不均質な状態になる危険性が小さく、紡糸温度付近での粘性の温度依存性の大きい、ショートな粘性を有するものとなり、しかも所定の誘電率、誘電正接を得ることができるので好ましい。
酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が10〜25%であり、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.15から0.50の範囲内であるとは、アルカリ土類酸化物元素であるMg、Ca、Sr、Baの酸化物換算の質量百分率表示の合量値によってSrとBaの酸化物換算の質量百分率表示の合量値を割った値が0.15〜0.50の範囲内となることを意味している。
酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が10質量%未満では、ガラス熔融初期に十分な均質状態を得難く、また熔融状態のガラスの粘性が高くなるため成形温度が上昇し過ぎてガラス繊維の紡糸性が低下する。一方、酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が25%を超える場合には、耐酸性や分相性において問題が生じる。
そしてSrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.15未満であれば、MgO、CaOの含有比が増加することによって熔融ガラスの分相性が高くなる傾向が大きくなり、しかも誘電率も高くなるので好ましくない。一方、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.50を超える場合には、誘電率が高くなりすぎる虞がある。また紡糸温度であるTyが高くなる上、ガラスがロングな方向になるため紡糸性が低下し、繊維径の小さいガラス繊維の作製が困難になる。
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、上述に加え周波数1MHzにおける誘電率が6.0以下であり、かつ誘電正接が20×10−4以下であるならば、プリント配線板の誘電損失が小さくなるので好ましい。
また、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、上述に加え周波数10GHzにおける誘電率が6.0以下であり、かつ誘電正接が100×10−4以下であるならば高周波数を使用するプリント配線板で誘電損失が一層小さくなるので好ましい。
本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、上述に加え150℃における体積電気抵抗率logρが13Ω・cm以上であるならば、電気抵抗が十分に大きいため、プリント配線板などとして利用する際に安定した性能を発揮するものとなる。
また本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、上述に加え103.0dPa・sの温度Tyが1300℃未満であり、Tyから107.6dPa・sの温度Txを差し引いた値が300〜450℃の範囲内にあれば、ガラス繊維の紡糸装置や紡糸方法に大きな変更を行うことなく効率よくガラス繊維を製造することができるので好適である。
103.0dPa・sの温度Tyから107.6dPa・sの温度Txを差し引いた値が450℃以上であると、ガラスの粘性がロングになるため、繊維径の小さいガラス繊維のガラス繊維を紡糸しようとすると、ブッシングに配されたノズル先端から引き出された熔融ガラスがノズル下方にて形成する曲面形状、すなわちメニスカスが不安定となり、繊維径の整った安定した紡糸性が得られないという問題が発生する。また一方103.0dPa・sの温度Tyから107.6dPa・sの温度Txを差し引いた値が300℃以下になると、ガラスの粘性がショートになり過ぎるため、所定の繊維径を得るための他の製造条件、例えば糸引き速度や冷却条件等を設定する際の適正範囲は狭くなり、繊維径の管理が難しくなるという問題が生じる。
本発明のガラス繊維は、本発明のガラス繊維用ガラス組成物よりなり、ガラス繊維の直径の平均値が3〜7.2μmであるため、特に高密度で薄型化が必要となるプリント配線板等の用途に適用する場合に、このような繊維径の小さいガラス繊維を使用することによって構成されたプリント配線板用途の複合材の性能を大きく改善するものとなる。
ガラス繊維の直径の平均値が3μm未満である場合には、繊維径が小さくなりすぎるため、ガラス繊維の製造収率が低くなる場合もある。また製造されたガラス繊維が使用される環境によっては、経時的に劣化したガラス繊維が大気中等に飛散した場合の環境面の問題や、リサイクル等において人体等に悪影響を及ぼさない高価な処理環境を構築する必要もでてくる。このような環境面における諸問題に繋がるものとなるので好ましくない。
一方ガラス繊維の直径の平均値が7.2μmを超える場合には、本発明のガラス組成物よりなるガラス繊維を用いずとも従来から使用されてきた低誘電率のガラス組成物よりなるガラス繊維を用いることによってもガラス欠陥などの少ない安定した品位のガラス繊維を得ることができるので、経済的な長所に乏しい。
以上のような観点から、本発明のガラス繊維は、本発明のガラス繊維用ガラス組成物よりなり、その直径の平均値が3.1〜6.5μmの範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは3.2〜6.2μmの範囲とすることであり、一層好ましくは3.3〜5.5μmの範囲とすることであり、さらに一層好ましくは3.4〜5.2μmとすることであって、最も好ましくは3.8〜4.8μmとすることである。
また本発明のガラス繊維は、上述に加えホローファイバーが2本/10万フィラメント以下であるならば、プリント配線板を構成する用途で使用される場合に、信頼性の高いプリント配線板を得ることができる。
ホローファイバーが2本/10万フィラメント以下であるとは、10万フィラメント当たりのホローファイバー数が2本以下であることを意味している。ホローファイバー数の計測は、ガラスファイバーと屈折率が等しくなるように調整された浸液中にガラスクロスを浸漬し、透過光の顕微鏡(50倍)下で観察し、ガラスクロスの経糸中のホローファイバーの本数を計測し、その値を観察したフィラメント本数で割り、10万倍することにより容易に求めることができる。
また本発明のガラス繊維は、上述に加え気泡含有率が0.01個以下、特に0.001個/m以下であるならば、プリント配線板を構成する用途で使用される場合に、欠陥の削減された均質度の高い複合材構造を得ることができ、プリント配線板の設計仕様に従う性能を発揮させるものとなる。
気泡含有率が0.001個/m以下であるとは、ガラスフィラメント1000m当たりの泡数が1個以下であることを意味しており、この泡数のカウントは1mm以上の泡長さを有する全ての気泡に対してのものである。泡数のカウントは、顕微鏡中でガラスと屈折率が等しくなるように調整された浸液中にガラス繊維を浸すことによって容易に計測することができる。
また本発明のガラス繊維は、上述に加え気泡含有割合が、50個/100gガラス以下であれば、一層高い品位を実現でき、より好ましくは20個/100gガラス以下、さらに好ましくは5個/100gガラス以下とすることである。気泡含有割合は、ガラスの質量100g中の泡数を表している。
ガラス繊維については、その表面に所望の物理化学的な性能を付与する被覆剤を塗布したものとしてもよい。具体的には集束剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、被膜形成剤、カップリング剤あるいは潤滑剤を被覆したものであってもよい。
表面処理に使用できるシランカップリング剤を例示すれば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等があり、使用されるガラス繊維と複合化する樹脂の種類により適宜選択してもよい。
本発明のガラス繊維は、上述に加えて繊維直径の標準偏差を繊維直径の平均値で除し、その値に100を乗じて得られるガラス繊維直径のCV値が10%以下である複数本のガラスフィラメントをチョップドストランド、ヤーン又はロービングの形態としたものであれば、プリント配線板用途に加えて、プリント配線板以外の他の用途であっても、繊維径の小さいガラス繊維を必要とする様々な場合に用いることができる。ガラス繊維のCV値が10%を超えると、精密な形状を要求される成形性等で支障が生じるため好ましくない。
ガラス繊維直径のCV値が10%以下である複数本のガラスフィラメントをチョップドストランド、ヤーン又はロービングの形態としたものとは、前記した本発明のガラス繊維を熔融ガラスから紡糸して得たガラスストランド中の各フィラメントの直径を測定し、その標準偏差を平均値で割って100を掛けた値が10以下となるようにガラス繊維製造装置の諸条件を調整することによって紡糸を行い、得られたガラス繊維を切断したガラスチョップドストランドとするか、あるいは撚糸としたヤーンとするか、ガラスフィラメント複数本を引き揃えて回巻状態に巻き取ったロービングとしたものであることを表している。ちなみに繊維直径の標準偏差及び平均値は、200本のガラス繊維についての計測値から算出するものである。
ガラス繊維直径のCV値が10%以下となるように制御するには、例えばブッシングに多数の耐熱性ノズルを配設したガラス成形装置を用いる場合であれば、ノズル孔直径、ノズル長さ、ノズル温度、ノズル周囲大気温度、ノズルヘッド圧、送風速度及びガラスフィラメント引き出し速度の夫々の条件を本発明のガラス繊維用組成物に適合する最適なものとなるように決めればよい。
本発明のガラス繊維は、ガラス繊維直径のCV値が10%以下である複数本のガラスフィラメントをチョップドストランド、ヤーン又はロービングの形態としたものであるならば、均一な直径のガラス繊維を種々の形態で成形されたものとでき、プリント配線板の用途で用いられる際に開繊、拡幅処理されたガラスクロスとすることにより、スルーホールを形成するドリリング工程でドリル先端のズレによって発生する孔位置の変動を抑止することによって孔位置精度を高めることになるので好ましい。
また本発明のガラス繊維は、所望の性能を実現できるのであれば、どのような製造方法によって製造されたものであってもよい。例えば直接成形法(DM法:ダイレクトメルト法)、間接成形法(MM法:マーブルメルト法)等の各種の製造方法を用途や製造量に応じて採用してよい。すなわち、本発明のガラス繊維は上述に加えて耐熱性ノズルを備えたブッシングからガラス繊維を引き出すことによって所定直径のガラス繊維を得ることによって紡糸されたものであればよい。
本発明のガラス繊維は、上述に加えてガラスクロス、あるいはガラスペーパーにした後、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるものであれば、高密度なプリント配線板を構成する上で最適なガラス繊維となるので好ましい。
すなわちガラスクロス、あるいはガラスペーパーにした後、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるものであるとは、ガラス繊維を経糸と緯糸として、プリント配線板用ガラスクロスに用いられる種々の製織方法で織られた織物とするか、あるいはチョップドストランドを湿式法や乾式法にてガラスペーパーとし、これらを有機樹脂材と複合化することによって有機樹脂複合材を形成する用途で用いるものである。
本発明のガラス繊維を使用して得られるガラスクロスを構成するガラス繊維は、例えば1〜50tex、好ましくは1.5〜23texであり、さらに好ましくは1.5〜15texであり、束ねられたガラスストランドを構成するガラスフィラメントの断面形状等については特別な限定を必要としない。ガラスフィラメントの断面形状は、円形であっても楕円形であっても長円形であってもよい。ガラス繊維束の撚り数は、2回/25mm以下がより好ましい。
また本発明のガラス繊維を使用して得られるガラスクロスは経糸、及び緯糸の25mm当たりについての打ち込み本数がそれぞれ30〜100本、好ましくは経糸が45〜90本、緯糸が35〜90本となる構成のガラスクロスであればさらに好適である。
本発明のガラス繊維を使用して得られる製織品が、プリント配線板の構成材料として用いられる場合には、その製造工程は具体的に以下のようなものとなる。すなわち、本発明のガラス繊維用組成物よりなるガラスヤーン回巻体やガラスヤーン合撚糸回巻体のパッケージから解舒されたガラスヤーンやガラスヤーン合撚糸をワーパーで整経し、糊付け機で二次サイズしてビームからルームビームに巻き取りこれを経糸とする。ガラスヤーン回巻体やガラスヤーン合撚糸回巻体のパッケージを解舒して、これを緯糸に使用し、エアージェットルームなどを用いてガラスクロスを製織する。製織されたガラスクロスに付着している有機成分を加熱焼却することにより取り除き(加熱脱油)、シランカップリング剤を含む処理液に浸漬して乾燥した(表面処理)後、樹脂を含侵させ、積層して樹脂を硬化させることによってプリント配線板用の積層板が製造される。
また本発明のガラス繊維を使用して得られるガラスペーパーが、チョップドストランドを使用するものである場合は、そのチョップドストランドの長さ寸法ついては限定されない。繊維の長さ寸法については、用途に適応したものを選択することができる。また、チョップドストランドの製造方法についても任意のものを採用することができる。熔融工程から紡糸されたストランドを紡糸直後に切断加工することもできるし、一度連続繊維として巻き取った後に用途に応じて切断装置により切断加工してもよい。この場合、切断方法についても任意の方法を採用することができる。例えば、外周刃切断装置や内周刃切断装置、ハンマーミル等を使用することが可能である。また、チョップドストランドの集合形態についても特に限定しない。
また本発明のガラス繊維を使用して得られるガラスクロスやガラスペーパーには、本発明のガラス繊維以外の繊維材や固形添加剤、液状添加剤を用途に応じて併用してよい。またガラスクロスやガラスペーパーを構成する場合に本発明のガラス繊維材と併用する本発明のガラス繊維以外の繊維材としては、Dガラス繊維や他の組成のガラス繊維、また有機繊維材、セラミック繊維やカーボン繊維等を使用してもよく、固形添加材としては、セラミックス粉末、有機樹脂粉末、シリコーン粉末等があり、液状添加剤としては、重合促進剤、重合禁止剤、酸化防止剤、分解反応禁止剤、希釈剤、帯電防止剤、凝集防止剤、改質剤、湿潤剤、乾燥剤、防黴剤、分散剤、硬化促進剤、反応促進剤、増粘剤又は反応促進剤等を適量使用してもよい。
本発明のガラス繊維シートは、本発明のガラス繊維を有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられることを特徴とする。
ここで、本発明のガラス繊維を有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるとは、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 45〜65%、Al 10〜20%、B 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0〜1%、SrO、BaOを含有するガラス繊維をその厚さが1mm以下のガラス繊維シート状物とし、熱硬化性を有する有機樹脂材を含浸させて有機樹脂複合材を得る用途で使用されるものであることを意味している。
熱硬化性を有する有機樹脂材としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂あるいはビスマレイミド樹脂等の樹脂を使用すればよい。
また本発明のガラス繊維シートは、上述に加えガラスシート状物が、ガラスクロス又はガラスペーパーであるならば、用途に応じて種々の性能を発揮するプリント配線板を製造することができる。
ガラスクロスとしては、様々な構造の織布を採用することができる。例えば平織り、綾織等の織り構造のものから、さらに複雑な構造を有するものまで使用することが可能である。さらにガラスペーパーについては、チョップドストランドを使用し、白水中でモノフィラメントとして分散させた後、すきあげ、有機結合剤を用いてシート状物に成形したものであればよい。例えばチョップドストランドを使用する場合であれば、上述した本発明のガラス繊維用組成物を熔融した溶融ガラスをブッシング等の成形装置に配設された耐熱製ノズルから連続的に引き出してその周囲に集束剤などを被覆させてガラス長繊維として成形する。次いで得られたガラス長繊維を紙管等の周囲に巻き取ってケーキ(またはチーズともよぶ)とした後ケーキから必要本数をまとめて引き出してガラス繊維切断装置によって所定長の寸法となるように切断する。こうして得られたチョップドストランドを白水中に分散させた後、メッシュ上にすき上げ、コンベヤ上にランダムに堆積してシート状となった状態で、その上方より液状の結合剤を散布し、この結合剤を硬化させることによりそれぞれのガラスチョップドストランド同士を接合する工程を経て、ガラスチョップドストランドにより構成させるガラス繊維シート状物が得られることとなる。
(1)本発明のガラス繊維用組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO 45〜65%、Al 10〜20%、B 13〜25%、MgO 5〜9%、CaO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0〜1%、SrO、BaOを含有するものであるため、ガラス繊維を紡糸する際の紡糸性に優れ、繊維径の小さいガラス繊維の成形が容易に行え、しかも得られたガラス繊維の誘電率や誘電正接などの電気的な性能に優れたものとなる。
(2)本発明のガラス繊維用組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でCeO 0.01〜5.0%であるならば、泡数の抑制された熔融ガラスから均質性の高いガラス繊維を得ることができるので製造効率や製造されたガラス繊維の性能を向上するものとなるので好ましい。
(3)本発明のガラス繊維用組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でSrO 0.1〜10%、BaO 0.1〜10%であれば、ガラス熔融時の分相性や、結晶析出による失透性を回避することができるものである。
(4)本発明のガラス繊維用組成物は、酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が10〜25%であり、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.15から0.50の範囲内であれば、紡糸操作を行うに適した高温粘性と高温粘性の温度依存性を実現することができ、しかもガラスの耐酸性や失透性にも優れた品位のガラス繊維を得るのに適したものである。
(5)本発明のガラス繊維用組成物は、周波数1MHzにおける誘電率が6.0以下であり、かつ誘電正接が20×10−4以下であれば、電気信号の高速化に対応でき、誘電損失が小さいプリント配線板を得ることができるため、プリント配線板に適用するのに好適な性能を有するものである。さらに周波数10GHzにおける誘電率が6.0以下であり、かつ誘電正接が100×10−4以下であれば、高周波を用いたプリント配線板に適用するのに一層好適な性質を有するものである。
(6)本発明のガラス繊維は、本発明のガラス繊維用ガラス組成物よりなり、ガラス繊維の直径の平均値が3〜7.2μmであるため、高密度実装を実現するプリント配線板として特に好適なものである。
(7)本発明のガラス繊維は、ガラスクロスあるいはガラスペーパーに形成された後、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるものであれば、高い性能を有するガラス繊維を用途に応じた最適な形態で供給することができ、各種電子回路に適用されるプリント配線板の誘電特性や耐熱性を向上させることが可能となる。
(8)本発明のガラス繊維シート状物は、本発明のガラス繊維を有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるものであれば、従来工程を変更することなく製造された高い品位と安定した性能を発揮するプリント配線板を製造するのに好適なものである。
(9)本発明のガラス繊維シート状物は、ガラスクロス又はガラスペーパーであるため、プリント配線板を製造する工程で用いられるプリプレグを製造する際に、製造条件の変更などを伴うことなく製造することができるので、プリント配線板の製造工程にとって妨げとなることもなく、温度変化の激しい環境でも使用することのできるプリント配線板を得るのに好適なものである。
以下に本発明のガラス繊維用組成物、ガラス繊維及びその製造方法について、実施例に基づいて具体的に説明する。
本発明の実施例に係るガラス繊維用組成物の組成と評価結果を表1に示す。表1中に示した酸化物換算表記のガラス組成は、何れも質量%で表したものである。
実施例である試料No.1から試料No.10までの各ガラス試料については、以下に示す手順に従ってガラス試料を調整した。
まず、各々表1のガラス組成となるように、天然鉱物ガラス原料や化成ガラス原料等の複数のガラス原料種を小数点3桁のg単位で所定量秤量する。次いでこれら複数の原料を均質な状態になるように混合したガラス原料混合バッチを準備し、このガラス原料混合バッチを白金ロジウム製の500ccの容積を有する坩堝内に投入する。次いでこの原料混合バッチが投入された白金ロジウム製の坩堝を間接加熱電気炉内にて大気雰囲気中にて1550℃、5時間加熱してガラス原料混合バッチを高温下で化学反応させて熔融ガラスとした。この熔融ガラスを均質な状態とするために、加熱熔融の途中で耐熱性撹拌棒を使用して熔融ガラスの撹拌を行った。
こうして均質な状態とした熔融ガラスを所定の耐火性鋳型内に流し出して所定形状に鋳込み成形を行って、徐冷炉内で室温までアニール処理を行い、試験等に使用するガラス成形体を得た。
こうして得られたガラス成形体を使用して、本発明の実施例の各ガラス組成物についての各種の物理特性等を以下の手順で計測した。その計測の結果を表1にまとめて示す。
線熱膨張係数の計測については、NISTのSRM−731、SRM−738を線熱膨張係数既知の標準試料として使用し校正を受けた公知の線熱膨張計測機器により、30℃から380℃の温度範囲について計測された平均線熱膨張係数である。この線熱膨張係数の値が低い程、温度変化が大きい場合であってもガラス繊維の膨張が小さくなり、その結果ガラス繊維が使用されるプリント配線板が電子機器に搭載された場合の温度変動に関わる信頼性を高めることに繋がる。
熔融ガラスの高温粘性を示す103.0dPa・sの温度(Ty)を計測するには、予め適正なサイズとなるように破砕した各ガラス試料をアルミナ製坩堝に投入して、再加熱し、融液状態にまで加熱した後に白金球引き上げ法に基づいて計測した各粘性値の複数の計測によって得られた粘性曲線の内挿によってそれぞれの値を算出したものである。また表中のTy−Txの値については、103.0dPa・sに相当する温度の値から107.6dPa・sに相当する温度である軟化点の値を差し引いたものである。なお、軟化点の計測は、ASTM C338に準拠した方法により測定した値を指す。Ty−Txの値が小さい値である程、粘性の温度依存性が大きく、そのガラスはショートであることとなる。ガラスがショートであるほど、熔融状態から冷却によって固化した状態になりやすいため、熔融ガラスをブッシングに付設したノズルから紡糸した後で同じ冷却条件であっても、メニスカスが安定し、切断することなくガラス繊維を生産することができる。ガラス繊維の粘性の温度依存性がロングであるほど、メニスカスが長くなり不安定になるため、冷却条件を強化するなど、ガラス繊維を製造する際の付帯設備を重装備にせねばならなくなる。
また液相温度Tについては、各ガラス成形体を所定形状に切断して所定粒度に粉砕加工し、微粉砕物を除去して所定範囲の表面積となるように300μmから500μmの範囲の粒度となるように調整した状態で白金製の容器に適切な嵩密度を有する状態に充填して、最高温度を1250℃に設定した間接加熱型の温度勾配炉内に入れて静置し、16時間大気雰囲気中で加熱操作を行った。その後に白金製容器ごと試験体を取り出し、室温まで放冷後、偏光顕微鏡によって液相温度Tを特定した。表中のTy−Tの値については、103.0dPa・sに相当する温度の値から液相温度Tの値を差し引いたものである。Ty−Tの値が大きい程、紡糸温度近傍において紡出操作を妨げるような結晶が簡単に析出することがなくなり、安定した紡糸状態が確保できることになる。このTy−Tの値を大きくするには、紡糸温度に相当する103.0dPa・sの温度Tyを上昇させればよいが、そうするとガラスの熔融に要するエネルギーが大きくなり製造原価の上昇を招くことやブッシング装置等の付帯設備の耐用期間を短縮するという問題を発生させることに繋がる。
150℃における体積電気抵抗率については、ASTM C657−78に基づいて150℃における値を測定したものである。体積電気抵抗の値が高い程、高密度実装が行われるプリント配線板であっても安定した電気絶縁性能を発揮することができる。
周波数1MHzの誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)の計測については、50mm×50mm×3mmの寸法に加工したガラス試料片の厚さ3mmの両表面を1200番のサンドペーパーで研磨したものを使用した。測定は、ASTM D150−87に準拠し、横河ヒューレットパッカード製4192Aインピーダンスアナライザを使用することによって、室温下にて計測することによって得た。周波数10GHzの誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)の計測については、JIS R1627:1996に準拠した両端短絡形誘電体共振器法によりAglient製ネットワークアナライザーを使用することにより室温下にて測定することにより得た。誘電率と誘電正接が小さい値であるほど、プリント配線板を構成する用途でガラス繊維が用いられた場合にプリント配線板の誘電損失は小さくる。
耐酸性については、微粉砕物を除去して所定範囲の表面積となるように300μmから500μmの範囲の粒度となるように調整した状態で1cm相当の粉砕物を質量百分率表示で10%の塩酸水溶液50ccと共に耐酸性密閉容器内へ投入し、この状態で80℃に設定した恒温振とう機中で16時間保持し、濾過して液体分を除き110℃の乾燥機中で乾燥を行いガラスの質量の恒量値を得る。そして当初投入したガラスの質量値に対する酸処理後の質量値の減少率を計測する。こうして得られた減少率計測値が30%以上であって、しかも耐酸性試験中に塩酸によるガラス表面の腐蝕反応の途中で反応生成物が形成されていることが確認された試料についてはガラスの耐酸性が低下しており×判定とし、他の試料については○判定とした。腐蝕反応によって反応生成物が形成されるとガラス繊維を使用したプリント配線板を製造する工程において行われるメッキ処理等で酸処理が行われた際に均質な処理状態を確保するのを妨げることになり、良品率が低下することに繋がる危険性が高いからである。
以上の試験によって次のようなことが明らかになった。すなわち本発明の実施例である試験No.1から試験No.12までの試料については、そのガラス組成は酸化物換算の質量%表示でSiOが47.4%から54.5%の範囲にあり、Alが11.7%から18.7%の範囲内、Bが14.0%から20.0%の範囲内、MgOが5.5〜8.7%、CaOが3.5〜8.8%の範囲内、LiO+NaO+KOが0.1〜0.4%の範囲内、SrOが1.1〜8.8%の範囲内、BaOが0.8〜5.0%の範囲内にあり、またMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が15.2〜21.4%の範囲内であり、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.20から0.45の範囲内であり、CeOが0.1〜0.9%の範囲内となっているものである。
また表1中にそれぞれ示したように、本発明の実施例の30℃から380℃までの温度範囲における平均線膨張係数は39.2×10−7〜49.0×10−7/℃の範囲内にあり、紡糸温度に相当する103.0dPa・sの温度が1194℃〜1298℃の範囲内、107.6dPa・sの温度Txが828℃〜880℃の範囲内であって、粘性の温度依存性を示すTy−Txの値は、364℃から426℃の範囲内にある。さらに本発明の実施例の液相温度Tは、1000℃以下の値から1095℃の範囲内であり、そのためTy−Tの値は、162℃から251℃の範囲内にある。さらに熔融温度の目安となる102.0dPa・sの温度Twは、1384℃から1502℃の範囲であり、Dガラスよりも低い温度になっている。また電気的性質に関して、本発明の実施例の150℃における体積電気抵抗率logρは、13.3Ω・cm〜17.9Ω・cmの範囲内にあり、周波数1MHzでの誘電率(ε)は5.36〜5.82の範囲内であって誘電率が6.0以下という本発明の要件を満足しており、周波数1MHzでの誘電正接(tanδ)は0.0008〜0.0014の範囲内にあり、誘電正接が20×10−4以下にあるという要件をも満足するものである。また、周波数10GHzでの誘電率(ε)は5.4〜5.9の範囲内であって誘電率が6.0以下という本発明の要件を満足しており、周波数10GHzでの誘電正接(tanδ)は0.0038〜0.0096の範囲内にあり、誘電正接が100×10−4以下にあるという要件をも満足するものである。さらに、ホローファイバー数についても、1.5本/10万フィラメント以下の優れた品位を有するものである。すなわち本発明の実施例である試料No.1から試料No.10は、本発明のガラス繊維組成物として好適な性質を有するものであった。
本発明の実施例の中でも特に特徴的な試料について以下で説明する。
実施例の試料No.1のガラス組成物は、SiOが47.74%と最も少ない含有率であるが、それをB含有率が最大の20.0%とすることによって補ったものであり、膨張係数が44.7×10−7/℃であって十分に低い値となり、粘性の温度依存性を示すTy−Txの値が364℃であって問題のない水準にあり、しかも紡糸温度に相当するTyが1194℃、熔融温度の目安となる102.0dPa・sの温度Twが1384℃と十分に低い値となっている。さらに液相温度であるTは、1020℃以下であり、Ty−Tの値は、少なく見積もっても190℃以上もあるため十分な大きさである。さらに体積電気抵抗率は17.5Ω・cmであって十分に大きい値であり、周波数1MHzでの誘電率εは5.50、誘電正接が0.0010、周波数10GHzでの誘電率εは5.6、誘電正接が0.0042と、いずれも申し分なく小さい値を示している。そして耐酸性に関しては、質量減少率が低く、反応生成物の形成も認められないため「○」判定となった。また、CeOを含有しており、熔融ガラスの清澄を促進しホローファイバーが発生しないように考慮されたものである。このように実施例の試料No.1のガラス組成物は本発明に相応しいものである。そこでこのガラス成形体によってガラス繊維化の評価を実施したところ、失透等の問題が発生することなく、ガラス繊維中に泡が残存することもなくガラス繊維中のホローファイバー数を計測したところ2本/10万フィラメント以下を満足する均質なガラス繊維を紡糸できることが判明した。
実施例の試料No.2のガラス組成物は、Alが11.7%で最も少ない含有率を有するという特徴があり、CeOを含有している。この試料No.2は、本発明の典型的な試料であり、膨張係数も44.4×10−7/℃で申し分ない低い値であり、しかも粘性の温度依存性を示すTy−Txの値が391℃となって十分にショートな粘性を有している。熔融温度の目安となる102.0dPa・sの温度が1436℃と低く、また液相温度であるTは、1054℃と低い値であり、Ty−Tの値は180℃と十分に大きい値を示している。また体積電気抵抗率は17.0Ω・cmで十分に大きく、周波数1MHzでの誘電率(ε)は5.49、誘電正接(tanδ)が0.0014、周波数10GHzでの誘電率εは5.6、誘電正接が0.0056と、いずれの値も小さい値である。そして耐酸性に関しても、試料No.1と同様に質量減少率が低く、反応生成物の形成も認められないため「○」判定となった。この試料No.2に関しても平均繊維径5.0μmとなるように200本のノズルで紡糸を行ってガラス繊維化の評価を実施したところ、従来のガラス製造設備に大きな変更を加えることなく安定した紡出操作を行うことができ、得られたガラス繊維には失透等の問題が発生することなく、ガラス繊維中に泡が残存することもなくガラス繊維中のホローファイバー数を計測したところ、2本/10万フィラメント以下を満足する均質なガラス繊維を紡糸できることが判明した。またこのガラス繊維200本の繊維の直径の平均値は5.0μm、標準偏差は0.40μmであり、繊維直径の標準偏差を繊維直径の平均値で除し、その値に100を乗じて得られるCV値は8%と良好な品位であった。このことからプリント配線板用途のガラス繊維として優れた品位と性能を有するものとなっていることが明瞭になった。よってこのガラス繊維を平織りしてプリプレグを製造し、それにより得られたプリント配線板は、十分に設計性能を発揮するものとなり得る。
実施例の試料No.4のガラス組成物は、実施例の中ではBaOの含有率が最も大きいガラス組成物であるが、平均線膨張係数も40.4×10−7/℃で非常に小さい値を有するものとなっており、さらに102.0dPa・sの温度Twが1491℃であって、103.0dPa・sの温度が1284℃であって、粘性の温度依存性を示すTy−Txの値は、409℃と十分にショートなガラスとなっている。また電気的な性能についても周波数1MHzでの誘電率(ε)が5.46、誘電正接(tanδ)が0.0012、周波数10GHzでの誘電率εは5.6、誘電正接が0.0038であり、本発明の要件を満足するものである。さらに耐酸性に関しても、試料No.1などと同様に質量減少率が低く、反応生成物の形成も認められないため「○」判定となり、ガラス繊維化の評価を実施したところ、従来のガラス製造設備に大きな変更を加えることなく安定した紡出操作を行うことができた。こうして得られた試料No.4のガラス組成を有するガラス繊維には、分相や失透等の問題が発生することもなく、ガラス繊維中に泡が残存することもないものであり、ガラス繊維中のホローファイバー数を計測したところ、2本/10万フィラメント以下を満足するガラス繊維を紡糸できることが判明した。
以上のようにして得られた試料No.2のガラス組成物を使用して平織りによるガラスクロスを製造したところ、ホローファイバーが少なく、誘電率と誘電正接の低いガラスクロスを得ることができ、プリント配線基板用途として好適な性能を発揮するものであった。
[比較例]次いで表2に本発明の実施例と同様の手順で作成した比較例に相当する試料に関する調査結果を実施例と同様に示す。表2に示す各種測定の結果についても、使用した方法、装置は実施例と同じものである。
比較例の試料No.101のガラス組成物は、一般にEガラスと呼ばれるガラス組成に類似した組成を有するものであるが、線熱膨張係数が62.5×10−7/℃と高く、周波数1MHzにおける誘電率も7.00と高く、周波数10GHzにおける誘電率も6.8と高いため本発明とは全く異なるものである。
比較例の試料No.102のガラス組成物は、SrO、BaOを含有していないがSiOの含有率が76.1%と高いため耐酸性は悪化していない。しかしSiOの含有率が高いため、紡糸温度に相当する103.0dPa・sの温度が1336℃と高い値となっている。このガラス繊維は、長期間に亘り紡糸を行う場合に製造付帯設備の劣化を招くものとなり、経済的にも問題がある。また熔融温度の目安となる102・0dPa・sの温度Twが1600℃以上と非常に高かった。このためガラス熔融時にも泡がガラス中に残存し易いものである上、Ty-Txの値が526℃とロングなガラスであり、紡糸性に問題がある。
比較例の試料No.103のガラス組成物は、アルカリ土類金属酸化物の総量に対するSrOとBaOの合量の比が0.5を越えている。103.0dPa・sの温度が1400℃をこえており、Ty-Txの値が536℃とロングなガラスであるため繊維径の小さいガラス繊維が作製しにくく、熔融ガラスの熔融性や紡糸性に問題の発生するものであった。102.0dPa・sの温度Twも高く、CeOを含有していないためガラス熔融時にも泡がガラス中に残存しやすいものであった。このため、このガラス組成では要求されているホローファイバー数が2本/10万フィラメント以下を満足するガラス繊維を作成できない。また、周波数1MHzにおける誘電正接が0.0025と高く、周波数10GHzにおける誘電正接も0.0108と高いため誘電損失が大きくなり伝送速度が遅くなる問題がある。
比較例の試料No.104のガラス組成物は、SrOやBaOを含有しないガラス組成物であり、アルカリ土類金属酸化物の総量に対するSrOとBaOの合量の比が0.00と低い。このため103.0dPa・sの温度が1332℃と高かった。熔融温度の目安となる102・0dPa・sの温度Twについても1568℃以上と高く、ガラス熔融時に泡が多く残存していた。ガラス熔融時に分相性が認められ、耐酸性試験で塩酸と反応した反応生成物が認められるためプリント配線板の製造工程で行われるエッチング処理等で問題の発生することが懸念されるものであった。体積電気抵抗率logρは12.7Ω・cmであり、プリント配線板としての電気的信頼性は低い。
比較例の試料No.105のガラス組成物は、アルカリ土類金属酸化物の総量に対するSrOとBaOの合量の比が0.05と低い。この試料No.105のガラスは周波数1MHzにおける誘電率が6.10と高く、周波数10GHzにおける誘電率も6.2と高いものであった。またこの試料は、周波数1MHzにおける誘電正接も0.0025と高く、周波数10GHzにおける誘電正接も0.0127と高いため誘電損失が大きくなり伝送速度が遅くなる問題がある。またガラス熔融時に顕著な分相性が観察され、それが耐酸性にも悪影響を及ぼす結果に繋がり、問題の認められるガラス組成物であった。
以上に示した実施例と比較例において行った一連の評価によって、本発明のガラス繊維用ガラス組成物は、高密度実装を実現するプリント配線板に使用される繊維径の小さいガラス繊維として好適なものであり、ガラス繊維の製造に於いても紡糸性に優れ、高い製造効率によって安定した品位のガラス繊維を提供できるものであることが明瞭なものとなった。

Claims (10)

  1. 酸化物換算の質量百分率表示でSiO 45〜65%、Al 10〜20%、B 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、LiO+NaO+KO 0〜1%、SrO、BaOを含有し、アルカリ土類金属酸化物の合量が10〜25%であることを特徴とするガラス繊維用ガラス組成物。
  2. 酸化物換算の質量百分率表示でCeO 0.01〜5.0%であることを特徴とする
    請求項1に記戴のガラス繊維用ガラス組成物。
  3. 酸化物換算の質量百分率表示でSrO 0.1〜10%、BaO 0.1〜10%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記戴のガラス繊維用ガラス組成物。
  4. rOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.15から0.50の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかにに記戴のガラス繊維用ガラス組成物。
  5. 周波数1MHzにおける誘電率が6.0以下であり、かつ誘電正接が20×10−4以下であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記戴のガラス繊維用ガラス組成物。
  6. 周波数10GHzにおける誘電率が6.0以下であり、かつ誘電正接が100×10−4以下であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記戴のガラス繊維用ガラス組成物。
  7. 請求項1から請求項6の何れかに記戴のガラス繊維用ガラス組成物よりなり、ガラス繊維の直径の平均値が3〜7.2μmであることを特徴とするガラス繊維。
  8. ガラスクロス、あるいは不織布として有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられることを特徴とする請求項7に記戴のガラス繊維。
  9. 請求項7又は請求項8に記戴のガラス繊維を有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられることを特徴とするガラス繊維シート状物。
  10. ガラス繊維シート状物が、ガラスクロス又はガラスペーパーであることを特徴とする請求項9に記戴のガラス繊維シート状物。
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