JP2010260781A - 無機充填材及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高い化学的耐久性を有し、高密度実装のプリント配線板で要求される低誘電率と低誘電正接を実現し、さらに低熱膨張係数を有する無機充填材を提供する。
【解決手段】本発明の無機充填材は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO2 45〜65%、Al2O3 10〜20%、B2O3 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 0〜1%、SrO及びBaOを含むガラスを含有する。無機充填材の製造方法は、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるものである。また本発明の無機充填材の製造方法は、本発明の無機充填材を製造する製造方法であって、無機充填材前駆体であるガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスカレット及びガラスロッドの何れかを粉砕する粉砕工程を含むものである。
【選択図】なし
【解決手段】本発明の無機充填材は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO2 45〜65%、Al2O3 10〜20%、B2O3 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 0〜1%、SrO及びBaOを含むガラスを含有する。無機充填材の製造方法は、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるものである。また本発明の無機充填材の製造方法は、本発明の無機充填材を製造する製造方法であって、無機充填材前駆体であるガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスカレット及びガラスロッドの何れかを粉砕する粉砕工程を含むものである。
【選択図】なし
Description
本発明は、無機粉末を主成分として含有する無機充填材に関する。この無機充填材は、特に低誘電率、低誘電正接、及び低線熱膨張係数を要求され、ガラスクロス、あるいはガラスペーパー等と共に有機樹脂材と複合化されて高密度実装を必要とする電子回路用プリント配線板等に使用されるものである。また本発明は、無機充填材の製造方法にも関わるものである。
多くの電子機器の発達の背景には、それを支える多くの革新的な技術の進化がある。携帯情報端末や携帯電話などの集積度の高い電子機器は、集積度を向上させるブレークスルーとなる様々な発明により進化を遂げてきている。これらの電子機器では、搭載されるプリント配線板(プリント回路板、リジッド基板、プリント基板あるいはプリント配線基板とも言う)上への電子部品の実装において、従来にない高い配線密度等を実現することで求められる多くの技術的な要求を実現してきた。プリント配線板は、モジュール、ボード、ユニットあるいはパッケージ等の別名を用いて表現されることもあるが、樹脂とガラス繊維及び改質剤等が適量混在する薄板形状の複合材料であり、上記したような各種電子部品を搭載するために適所にスルーホール等を設けた形態を呈するものである。
近年プリント配線板には、高速な電子回路を実現するため高周波が使用されるようになったが、この際に特に重視されるのは、プリント配線板の誘電特性である。伝送速度は誘電率の平方根に反比例するので、伝送速度を向上するためには低誘電率であることが必要である。また、プリント配線板に用いられる材料は、誘電損失が小さいことが求められるが、このためには誘電正接が小さいことが必要となる。ちなみに本発明での誘電率εは、正確には媒質の誘電率と真空の誘電率の比である比誘電率を意味する無次元数であるが、慣例に従い誘電率εと表す。一般に、ガラスに交流電流を流すと、ガラスは交流電流によるエネルギーを熱として吸収し、ガラス及びその周囲の温度が上昇することになる。吸収される誘電損失エネルギーWはガラスの成分及び構造により定まる誘電率ε及び誘電正接tanδに比例し、W=k×f×v2×ε×tanδで表される。ここに、kは定数、fは周波数、v2は電位傾度を表す。この式から誘電率ε及び誘電正接tanδが大きい程、また周波数fが高い程、誘電損失エネルギーWが大きくなることがわかる。よって誘電損失を小さくするためには誘電率εと誘電正接tanδを小さくすることが求められる。
また、上記した様な軽薄短小であることが求められる用途では電子機器の小型化により、薄いプリント配線板上にICチップを直接実装する技術が導入されるようになり、プリント配線板には高い曲げ弾性と低い熱膨張が求められるようになってきた。このような高い曲げ弾性と低い熱膨張を得るためには、無機充填材が広く利用されている。
プリント配線板には、周知のようにガラス繊維が使用されており、それはEガラスと呼ばれるガラス材質である。このガラス材質は、例えば、酸化物換算の質量百分率表示で、SiO2 52〜56%、Al2O3 12〜16%、B2O3 5〜10%、CaO 16〜25%、MgO 0〜5%、アルカリ金属酸化物(R2O) 0〜2%、Fe2O3 0.05〜0.4%、F2 0〜1.0%からなる。しかしこの材質は、誘電率ε、誘電正接tanδ、線熱膨張係数が大きいという問題点に加えて、無機充填材として使用してもプリント配線板の低熱膨張化への寄与が小さいという問題点があった。そこで特許文献1には、室温における周波数1MHzでの誘電率εが6.7、誘電正接tanδが12×10−4であるEガラスよりも低い誘電率εと誘電正接tanδを実現するためDガラスと呼ばれるガラス材質が開示されている。このDガラスは、例えば、酸化物換算の質量百分率表示で、SiO2 74.5%、Al2O3 0.3%、B2O3 21.7%、CaO 0.5%、Li2O 0.5%、Na2O 1.0%、K2O 1.5%からなるガラス材質であり、このガラスの1MHzでの誘電率εは約4.3、誘電正接tanδは約10〜20×10−4である。
特許文献3には、高多湿雰囲気中での機械的、電気的信頼性を有する高耐熱、低熱膨張基板へ適用するためにシアネート樹脂、エポキシ樹脂と共に平均粒径が2μm以下の球状熔融シリカを無機充填材として用いる発明が開示されている。
特許文献4は、絶縁層の耐熱性や機械強度に優れた多層プリント配線板を得るために、絶縁層形成において、樹脂組成物が回路基板にラミネートされる場合に樹脂組成物としてビスマレイド化合物とジアミン化合物の重合物、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂等を用いることによって課題を解決する製造方法に関わる発明であるが、この発明で用いられる無機充填材は、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、及びジルコン酸カルシウムなどである。
特許文献5は、機械的強度や耐熱性、線熱膨張係数の改善に加えて、基板のたわみ特性や伸び特性といった柔軟性の低さを抑制する樹脂組成物を提供するための発明であるが、この発明では熱可塑性樹脂に、無機充填材として、酸性メタケイ酸マグネシウムを主成分とし、且つ微量成分としてカルシウムを含有し、水分散時のマグネシウム溶出量を限定した鱗片状無機充填材を提示している。
特許文献6には、上記のEガラス、Dガラス以外に無機充填材としてガラスを使用するものとして、質量%で、SiO2 50〜60%、Al2O3 10〜20%、B2O3 20〜30%、CaO 0〜5%、MgO 0〜4%、Li2O+Na2O+K2O 0〜0.5%、TiO2 0.5〜5%の組成を含有することを特徴とする低誘電率ガラスパウダーが開示されている。
プリント配線板は多くの電子装置に搭載されるが、搭載される電子装置を取り巻く環境は多様である。例えば現在の自動車には数多くの集積回路が搭載されており、これらの電子部品はプリント配線板上に高密度実装されているが、自動車に使用される部品は真夏の炎天下から極北の路上での走行までの信頼性を確保できるものであることが要求される。また近年の乗用車では乗車空間を十分に確保するために、電子回路等はエンジンルームやエンジンルーム周辺などの周囲環境温度が高く、従来よりも温度変化の激しい環境下に配設されることが多くなっている。さらに、搭載する基板サイズを小型化したいという要求もある。
このような諸般の状況変化によって車載用途のプリント配線板は従来以上に耐熱性と高スルーホール信頼性が要求されることになってきている。プリント配線板と実装部品の線熱膨張係数に差があることから、高温環境下ではんだ接合部に熱応力が発生してはんだクラックを引き起こし、導通接続が得られなくなる等の大きな障害の発生は、絶対回避せねばならない。すなわち車載用途で使用される電子部品は、大きな温度変化によって電子回路に障害が発生したりすることは許されず、またその信頼性は長期に亘るものであることが求められる。よってこのような要求を満足するためには車載用途の環境で使用されるプリント配線板は実装部品との線熱膨張係数の差を小さくするため、線熱膨張係数が小さいことが求められている。プリント配線板の線熱膨張係数を小さくするためには、Eガラスよりも小さい線熱膨張係数を有するガラス材質よりなるガラス繊維が要求されることになる。また、プリント配線板の線熱膨張係数を小さくするためには、樹脂中に均一に無機充填材を分散させた樹脂を使用すると効果があるが、プリント配線板内の誘電特性の均一化の観点から、無機充填材はプリント配線板に使用されるガラスクロスやガラスペーパーと、誘電率ε、誘電正接tanδ等の誘電特性や熱的特性などが近いことが必要となる。
しかしながら、これまでに開示された発明だけでは、ガラスクロス、あるいはガラスペーパーと共に有機樹脂材と複合化されて高密度実装を必要とする電子回路用プリント配線板に使用する場合に、その性能を十分に発揮させることができ、さらに上述したようにガラスクロスやガラスペーパーと類似した性能を発揮できる無機充填材は得られていない。このような問題を解決する方法の1つは、例えば、ガラスクロス、あるいはガラスペーパーに用いられるガラス長繊維と同じ組成のガラスからガラスパウダー、ガラスビーズ、ミルドファイバー及びガラスフレーク等を作製して無機充填材として用いることである。しかし、上記した要求性能に関わる課題などの様々な要求を満足し、しかも製造効率の優れたガラス長繊維を経済的に製造するのは容易なことではない。ガラス長繊維を高い生産性で製造できるガラス組成からなり、低誘電率、低誘電正接と低線熱膨張係数とを実現するガラスからなる無機充填材を得るためには、さらに解決すべき問題点があった。
特許文献1のDガラスは、電気的な性能については優れたものであるが、プリント配線板やガラス繊維の製造工程上等で様々な製造効率にかかわる経済的な問題点が指摘された。すなわち、電子機器の軽薄短小化への要求を反映したプリント配線板の薄型化の進行に伴い、プリント配線板に用いるガラス繊維径は、より繊維径の小さいガラス繊維の品種が求められる。Dガラスのように紡糸温度が高く、しかもガラスの粘性が温度変化によって大きく変化することのない、いわゆる「ロング」なガラスである場合には、限られた製造環境下で繊維径の小さいガラス繊維を欠陥のない安定した品位で製造することが困難となる。すなわちガラス繊維の繊維径が大きいと粉砕工程に労力と費用がかかり、微細な直径のパウダーの製造には製造効率的な観点から支障がある。また紡糸温度が高い場合には、製造設備に大きな負荷を強いることになるのでガラス繊維を引き出す際に用いられるブッシング等の製造設備の耐用期間を短くするという問題もある。
また繊維径の小さいガラス繊維を製造する上で、熔融ガラス中に欠陥として含まれることのある気泡は、ガラス繊維の紡糸におけるガラス繊維の切断の原因となり易い。また、プリント配線板中に気泡を含有するガラス繊維がホローファイバーとして混入した場合、スルーホールメッキがホローファイバー中に侵入し、導通不良となる危険性があり、プリント配線板の信頼性を低下させるため問題とされる。Dガラスのように熔融温度の目安とされる102.0dPa・sとなる粘度の温度が高い場合には、熔融時に多大なエネルギーをかける必要がある上、熔融時に気泡が浮上しきれずホローファイバーが多数発生することが多々ある。熔融ガラス中の気泡の数を低減するには、亜砒酸や三酸化アンチモン等の清澄剤を使用するのが効果的である。しかしこれらの清澄剤は環境負荷物質ともなるものであり、電子機器に使用される部材にこれらの元素成分の含有は問題となる。
特許文献2から特許文献4の無機充填材は、適用できる樹脂材が限定される場合があり、あるいは所望の誘電特性を得がたい場合もあるため好ましくない。またガラス粉末を含有していないため、併用されるガラス繊維と類似した性能を有するものではない場合もあり、長期的に安定した性能を維持し続けるかどうかという点で不安の残るものである。
また特許文献5のガラス組成物は、誘電率εや誘電正接tanδを低下させることには成功しているが、ガラス熔融初期の熔解性に問題があり、ガラス熔融時に熔融ガラス中に泡が残存し易く熔融ガラスを均質なものとするには十分なものとは言えず、プリント配線板に使用される品質のガラス長繊維を生産するためには最適でない。この種のガラス長繊維がホローファイバーなどの問題から使用できないと、プリント配線板の誘電特性の均一化の観点から類似の誘電率εや誘電正接tanδを持つ無機充填材に適用するものとしても相応しくない。
本発明は、上記した種々の問題を解決し、熔融温度が低いため均質な熔融ガラスを得易く、ガラス繊維の紡糸性に優れ、高い化学的耐久性を有し、高密度実装のプリント配線板で要求される低誘電率と低誘電正接を実現し、さらに低い線熱膨張係数のガラス繊維を効率よく、しかも経済的に製造できるガラス組成からなるガラス粉末を含有する無機充填材と、その製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、高密度実装を可能とするプリント配線板の用途から要求される数多くの困難な課題を確実に克服することができ、しかも繊維径の小さいガラス繊維を安定生産することができ、無機充填材としても使用できるガラス組成物に関する多くの研究を重ねた。その中で特にガラス組成物中のアルカリ土類金属元素の役割に注目し、これらの成分を所定量添加することで、上記の様々な問題を解決し、これまでにない優れた性能を発揮するガラス組成物と、このガラス組成物を繊維径の小さいガラス繊維に成形できることを見出した。そしてこの組成のガラス粉末を含む無機充填材を同じガラス組成物からなるガラスクロスやガラスペーパーと一緒に用いることにより、誘電特性の均一性に優れ、低誘電率、低誘電正接、低線熱膨張係数のプリント配線板を得ることが可能となることが判明したため、ここに本発明を提示するものである。
本発明の無機充填材は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO2 45〜65%、Al2O3 10〜20%、B2O3 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 0〜1%、SrO及びBaOを含むガラスを含有することを特徴とする。
本発明の無機充填材は、ガラス繊維、ムク棒、又は水砕ガラス乾燥物等の破砕物、あるいは破砕を施さない熔融体粉末、両者を含む混合粉末によって構成されたガラス粉末を主な構成材として含有するものである。そして本発明の無機充填材には、ガラス以外に、コロイド粉末、結晶化ガラス粉末又は結晶粉末等を含有してもよい。また粉末は、必要に応じて顆粒、造粒体を形成するものであってもよい。このような粉末には具体的には、例えば酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、酸化ケイ素、すなわちシリカ(熔融シリカ粉末、クオーツフィラー(石英フィラー)、コロイダルシリカ等を含む)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)粉末などがある。また本発明の無機充填材には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの有機樹脂も適宜、必要量含有できる。ただし、より高い製造効率を重視するならば、本発明の無機充填材は、主な構成材としてガラス粉末を含有するのが好ましい。また製造時の粉砕効率を重視するのであれば、本発明の無機充填材は、主な構成材として、なるべく繊維径の小さいガラス繊維から製造されたガラス粉末であるのが好ましい。このような観点から予め9μm以下の直径のガラス繊維を製造し、このガラス繊維を粉砕してガラス粉末とすることがさらに好ましい。
本発明の無機充填材を構成するガラス組成物に含有される各成分の含有率の限定理由について、以下で具体的に説明する。
無機充填材を構成するガラス組成物に含有されるSiO2成分は、その網目状構造の骨格をなす成分であって本発明の無機充填材を構成するガラスの主要成分である。ガラス組成中のSiO2成分の含有量が増加するほどガラスの構造強度が大きくなる傾向となる。ガラスの構造強度が大きくなれば、それだけ化学的な耐久性も向上し、特に耐酸性について高い性能を有するものとなる。ガラス構造の強度を充分な状態となるように維持し、安定した品位を有するものとするには、SiO2成分の含有量は少なくとも45質量%以上とすることが必要であり、より好ましくは47質量%以上である。一方、無機充填材を構成するガラス組成中のSiO2成分の含有量が増加すると、熔融ガラスの高温粘性値が大きくなる。よって熔融法によりこのような組成のガラスを高い効率で均質になるように製造しようとすれば、高価な設備が必要となる。またガラス長繊維として成形する際の成形温度も高くなる。よって製造時の設備管理等の点でも制約が生じる場合がある。またガラス熔融時にガラス化反応時などに生じた気泡等が残存しない均質な熔融ガラスを得やすいものとし、ガラスの熔融に過剰な熱エネルギーを要しないようにし、しかもガラス長繊維を製造する際の高い紡糸性を確保するにはSiO2成分の含有量を65質量%以下の含有量とすることが必要であり、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下とすることである。
無機充填材を構成するガラス組成物に含有されるAl2O3成分は、ガラスの化学的、機械的な安定性を実現するために有効な成分であり、ガラス組成中に適量だけ含有されることによって、熔融ガラス中での結晶の晶出や分相生成を抑制する効果を有する場合もあるが、多量に含有すると熔融ガラスの粘性を増加させることになる。ガラス組成中のAl2O3成分の含有量が10質量%未満になると熔融時における分相性が悪化するため好ましくない。熔融ガラス中での分相性の悪化は、得られたガラスの耐酸性の劣化に繋がるため好ましくない。ここで分相とは、熔融ガラスが2以上の複数のガラス相に分離する現象のことを意味している。よってAl2O3成分の含有量は10質量%以上、より好ましくは11質量%以上とすることである。一方、ガラス組成中のAl2O3成分の含有量を増加させ過ぎると他の成分、特にSiO2成分の含有量が相対的に少なくなり前記した耐酸性に悪影響が現れることになるため、Al2O3成分の含有量は20質量%以下とする必要があり、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは17質量%以下、一層好ましくは16質量%以下、最も好ましくは15質量%以下である。
無機充填材を構成するガラス組成物に含有されるB2O3成分は、SiO2成分と同様にガラス網目構造において、その骨格をなす成分であるが、SiO2成分のように熔融ガラスの高温粘性を大きくすることはなく、むしろ高温粘性を低下させる働きがある。よってB2O3成分は成形されたガラスの誘電率εを低く維持し、かつ熔融ガラスの高温粘性の増加を抑える両方の役割を有する。ガラス組成中のB2O3成分の含有量は、13質量%未満ではガラスの誘電率εを6.0以下に維持しつつ、しかも紡糸温度である103.0dPa・sでの熔融ガラスの温度TYが十分な紡糸性を確保できる1300℃未満とするのが困難となる場合がある。よってB2O3成分の含有量は、13質量%以上、より好ましくは13.5質量%以上とすることである。一方、B2O3成分はガラス組成中での含有量が多くなりすぎると熔融中にB2O3成分の蒸発量が多くなり、熔融ガラスを均質な状態に維持するのが困難となる場合もある。またB2O3成分の含有量が多くなりすぎると耐酸性が悪化し易くなり、熔融ガラス中での分相性が悪化することに繋がることになる。よってB2O3成分の含有量は、25質量%以下、より好ましくは21質量%以下である。
無機充填材を構成するガラス組成物に含有されるMgO成分は、ガラス原料を熔融し易くする融剤としての働きを有する成分であると同時に102.0dPa・sの温度TWに相当する熔融ガラスの粘性低下に非常に有効であり、熔融時にガラスの泡切れを良くし、均質なガラスを作るのに役立つ。また103.0dPa・sの温度TYを下げガラスをショートにする働きがあるため生産性を非常に良くし、繊維径の小さいガラス繊維を効率よく生産するのに役立つ。しかしMgO成分が、このガラス組成物中で紡糸温度である103.0dPa・s温度TY付近の高温粘性を低下させるために有効に働く状態とするには5.5質量%以上、好ましくは6.0質量%以上とすることが必要である。一方、MgO成分はガラス組成中の含有量が多くなりすぎると熔融ガラスの分相性が高くなり耐酸性が悪化する。また誘電率εも上昇することになるため、このような観点からMgO成分の含有量は9質量%以下、好ましくは8.7質量%以下とすることである。
CaO成分は、MgO成分と同様に102.0dPa・sの温度TWに相当する熔融ガラスの粘性を低下させる働きをする成分であり、アルカリ土類金属元素よりなる成分の中では最も誘電率εの増加割合が小さい。しかしながらCaO成分をガラス組成中に多量に含有すると、分相性が高くなりガラスの耐酸性が低下する。またガラスの誘電率εもCaO成分の増加につれて大きくなる。このためCaO成分は、10質量%を超えるものとするのは好ましくない。よってCaO成分の含有量は、10質量%以下、より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8.8質量%以下とすることである。
Li2O成分、Na2O成分あるいはK2O成分として表されるアルカリ金属酸化物成分は、複数の無機ガラス原料を混合した状態で加熱して、融液状態とする際に、融液の生成を容易にする、いわゆる融剤としての働きをし、さらに高温粘性を低下させる働きをも有するものである。しかし、Li2O成分、Na2O成分あるいはK2O成分は、いずれも無機充填材を構成するガラス組成中の含有量が多くなると、無機充填材の誘電正接tanδの値が増加するため、その合量の上限値は、1質量%、好ましくは0.8質量%、さらに好ましくは0.6質量%までである。
SrO成分は、102.0dPa・sの温度TWに相当する熔融ガラスの粘性を低下させ、さらに熔融ガラスの103.0dPa・s付近の紡糸温度TYを低下させる働きをする成分であるが、その働きはMgOやCaO成分程のものではない。しかしSrO成分は、MgOやCaO成分の増加によってもたらされるガラス熔融時における分相性の悪化と、それに付随するガラスの耐酸性の低下を抑止する働きを有する成分であるため、本発明では必須の成分である。このようなSrO成分を含有する様々な働きが一層明瞭になるのは、ガラス組成中で0.1質量%以上含有される場合である。一方、SrO成分はガラス繊維用のガラス組成物とする場合に、その含有量が多すぎるとロングなガラスになり繊維径の小さいガラス繊維の作製が困難になる。このような観点からSrO成分の含有上限は、10質量%までとすることが好ましい。さらに好ましくは8質量%、最も好ましくは6質量%とすることである。ガラス熔融時において、分相性が悪化すると、熔融ガラスは耐酸性に富む相と耐酸性に劣る相とに分離することになり、その場合に耐酸性の劣る相がガラス繊維の耐酸性を決めるものとなるため、ガラス繊維としての耐酸性が劣悪になるので好ましくない。
無機充填材を構成するガラス中のBaO成分は、SrO成分と同様に102.0dPa・sの温度TWに相当する熔融ガラスの粘性を低下させ、さらに熔融ガラスの103.0dPa・s付近の紡糸温度TYを低下させる働きをする成分であるが、その働きはMgOやCaO成分程のものではない。しかしBaO成分は、MgOやCaO成分の増加によってもたらされる分相性の悪化と、それに付随するガラスの耐酸性の低下を抑止する働きを有する成分であり、SrO成分と同様に本発明の目的を達成するための必須の成分である。BaO成分についてもSrO成分と同様に、その含有効果が一層明瞭になるのは、ガラス組成中で0.1質量%以上含有される場合である。一方、BaO成分はその含有量が多すぎると液相温度TLが上昇する上、ロングなガラスになり繊維径の小さいガラス長繊維の作製が困難になる。このような観点からBaO成分は、10質量%までの範囲で含有するものとすることが好ましい。BaO成分は、さらに好ましくは8質量%、最も好ましくは6質量%とすることである。
本発明の無機充填材を構成するガラスは、酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO、BaOの各成分の合量が25質量%以下であると安定した化学的な耐久性を有する無機充填材を得ることができるので好ましい。このような観点からより好ましくはMgO、CaO、SrO、及びBaOの各成分の合量は22質量%以下であり、さらに好ましくは21質量%以下とすることである。
本発明の無機充填材を構成するガラスは、酸化物換算の質量百分率表示でSrO 0.1〜10%、BaO 0.1〜10%であるならば、ガラス熔融時の結晶析出性、いわゆる失透性の低い状態のガラス組成物となるので、ガラスの熔融が行い易くなり、またガラスの耐水性や耐酸性が悪化しないので好ましい。
すなわち、上述同様にこれは酸化物換算の質量百分率表示でSrO 0.1〜10%、BaO 0.1〜10%であるとは、ガラスを構成する元素成分を酸化物換算で表示すると、上述のガラス組成の構成に加えてSrO成分が0.1質量%以上10質量%以下の範囲であり、かつBaO成分が0.1質量%以上10質量%以下の範囲であることを意味している。
また本発明の無機充填材は、ガラスが酸化物換算の質量百分率表示でCeO2 0.01〜5.0質量%であるならば、熔融ガラス中の気泡の数を低減することができ、均質性の高い無機充填材を得ることができる。
さらに、SrO成分およびBaO成分は、SiO2との結晶を形成しやすく、SiO2を含むガラス組成中にSrO成分が含有されたならば、SrO・SiO2結晶を析出しやすく、またBaO成分が含有されたならば、BaO・2SiO2結晶を析出しやすくなり、その結果ガラスの液相温度TLが高くなる傾向がある。しかし、ガラス組成中にSrO成分とBaO成分とが共存されると、ガラス組成がSrO・SiO2とBaO・2SiO2の共晶領域に入ることによりガラスの液相温度TLが低下し、紡糸中に結晶が析出しにくくなるためSrO成分とBaO成分をともにガラス組成中に含有する、すなわちSrO成分とBaO成分が共存することが望ましい。
CeO2成分は、熔融ガラス中に欠陥として存在する気泡を除く働きをするものであり、環境負荷物質ではない清澄剤として適量添加するものである。そして無機充填材を構成するガラス中のCeO2成分は、酸化物換算の質量百分率表示で0.01%未満の含有率であると、熔融ガラス中の十分な泡除去作用を奏することができず、このような観点から、CeO2成分の清澄作用がより明瞭に表れるのは酸化物換算の質量百分率表示で0.01%以上とすることであり、より好ましくは0.02%以上とすることである。一方酸化物換算の質量百分率表示で5.0%を超える含有量であっても、含有量の多いだけの大きな作用を奏しない。またCeO2成分は、大量に添加しすぎると熔融ガラスの失透性に影響を及ぼす場合がある。このような観点から酸化物換算の質量百分率表示で5%を超えるべきではない。この上限値は、より安定した品位とするためには4%までとするのが好ましく、より好ましくは2%までとすることである。最適な添加量であれば、これによりガラス繊維のノンホロー化が達成できる。
また本発明の無機充填材では、上述に加えてガラスが酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が10〜25%であり、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.15以上0.50以下の範囲内であるならば、熔融時におけるガラスの分相が抑制され、分相により引き起こされる耐酸性の低下が避けられ、かつ紡糸温度を低く、ショートなガラスとなるので、ノンホローガラスの生産性を高めるので好ましい。ガラス熔融時に結晶の析出や分相によって熔融ガラスが不均質な状態になる危険性が小さく、紡糸温度付近での粘性の温度依存性の大きい、ショートな粘性を有するものとなり、しかも所定の誘電率ε、誘電正接tanδを得ることができるので好ましい。
酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOの各成分のアルカリ土類金属酸化物換算の合量が10質量%未満では、ガラス熔融初期に十分な均質状態を得難く、また熔融状態のガラスの粘性が高くなるため成形温度が上昇し過ぎてガラス繊維の紡糸性が低下する。一方、酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が25%を超える場合には、耐酸性や分相性において問題が生じる。
そしてSrOとBaOの各成分の合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値、すなわち(SrO+BaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値が0.15未満であれば、MgO、CaOの含有比が増加することによって熔融ガラスの分相性が高くなる傾向が大きくなり、しかも誘電率εも高くなるので好ましくない。一方、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.50を超える場合には、誘電率εが高くなりすぎる虞がある。また紡糸温度であるTYが高くなる上、ガラスの粘性がロングな方向になる変化するため紡糸性が低下し、繊維径の小さいガラス繊維の作製が困難になる。このような観点から酸化物換算の質量百分率表示でSrOとBaO成分の合量をMgO、CaO、SrO、BaOの各成分の合量で除した値は、0.15以上0.50以下の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0.20以上0.45以下の範囲とすることである。
本発明の無機充填材を構成するガラスは、本発明の無機充填材の性能に大きな影響を及ぼさない範囲で上記に加え必要に応じて、ガラス中に各種の成分を含有することができる。本発明の無機充填材に使用されるガラスの構成成分として使用できるものを具体的に例示するならば、ZrO2、P2O5、Fe2O3、SO2、Cl2、F2、WO3、La2O3やNb2O5等の希土類酸化物、あるいはMoO3等を質量%表示で3%以下含有することができる。
また上述以外にも、微量成分を質量%表示で0.1%まで含有することができる。例えば、Cr2O3、H2O、OH、H2、CO2、CO、He、Ne、Ar及びN2等の各種微量成分が該当する。
また本発明の無機充填材では、無機充填材の性能に大きな影響がないならば、ガラス中に微量の貴金属元素が含有してもよい。例えばPt、Rh及びOs等の白金属元素を1000ppmまで、すなわち金属元素の含有量を質量百分率で表示して0.1%まで含有してもよい。
本発明の無機充填材は、ガラスの周波数1MHzにおける誘電率εが6.0以下であり、かつ誘電正接tanδが20×10−4以下であり、線熱膨張係数が50×10−7/℃以下であるならば、プリント配線板として使用された場合にプリント配線板の熱損失を低く抑え、低い熱膨張係数のものとなるので好ましい。
また、本発明の無機充填材は、上述に加えガラスの周波数10GHzにおける誘電率εが6.0以下であり、かつ誘電正接tanδが100×10−4以下であるならば高周波数を使用するプリント配線板で誘電損失が一層小さくなるので好ましい。
本発明の無機充填材を構成するガラスは、150℃における体積電気抵抗率logρが13.0Ω・cm以上であるならば、電気抵抗が十分に大きいため、プリント配線板などとして利用する際に安定した性能を発揮するものとなる。
また本発明の無機充填材を構成するガラスは、103.0dPa・sの温度TYが1300℃未満であり、TYから107.6dPa・sの温度TXを差し引いた値が250℃以上450℃以下の範囲内にあれば、ガラス長繊維の紡糸装置や紡糸方法に大きな変更を行うことなく効率よくガラス長繊維を製造することができるので好適である。
103.0dPa・sの温度TYから107.6dPa・sの温度TXを差し引いた値が450℃以上であると、ガラスの粘性がロングになるため、繊維径の小さいガラス長繊維を紡糸しようとすると、ブッシングに配されたノズル先端から引き出された熔融ガラスがノズル下方にて形成する曲面形状、すなわちメニスカスが不安定となり、繊維径の整った安定した紡糸性が得られないという問題が発生する。一方、103.0dPa・sの温度TYから107.6dPa・sの温度TXを差し引いた値が250℃以下になると、ガラスの粘性がショートになり過ぎるため、所定の繊維径を得るための他の製造条件、例えば糸引き速度や冷却条件等を設定する際の適正範囲は狭くなり、繊維径の管理が難しくなるという問題が生じる。
本発明の無機充填材はガラスがガラスバルクを粉砕したガラスパウダー、熔融紡糸してガラス繊維化したのちに粉砕したガラスパウダー、ミルドファイバー、あるいはガラスビーズ、ガラスフレークの何れかであると複合材作成時に均一に分散させる事ができるため好ましい。ガラスバルク又は繊維化したガラスを粉砕するには、公知の方法であるボールミル、フレッドミル、ハンマーミル、オリエントミル、インペラーミル、ジェットミルなどの装置の単独または組み合わせで粉砕することができる。また、ガラスビーズ、ガラスフレークも公知の方法でつくることができる。またガラス繊維からガラスパウダーやミルドファイバーを作製するための繊維化は、所望の性能を実現できるのであれば、どのような製造方法によって製造されたものであってもよい。例えば直接成形法(DM法:ダイレクトメルト法)、間接成形法(MM法:マーブルメルト法)等の各種の製造方法を用途や製造量に応じて採用してよい。すなわち、耐熱性ノズルを備えたブッシングからガラス繊維を引き出すことによって所定直径のガラス繊維を得ることによって紡糸されたものであればよい。
マトリクス樹脂に対して本発明の無機充填材を混合させる割合は、格別制限はないが、体積含有率で1%以上50%以下の範囲が好ましい。1%未満であると有機樹脂複合材の低膨張化や高曲げ弾性率化の効果が十分得られない。逆に50%を超えると樹脂中に均一に分散させることが困難となるため好ましくない。
また、無機充填材の平均粒子径や繊維径も特に制約はないが、ガラス繊維を粉砕したものである場合は、その繊維径が3μm以上9μm以下の範囲であることが好ましい。3μm以下であると健康に影響する恐れがあり、9μm以上であると粉砕効率が低下する。また、その他の形状である場合は平均粒子径が0.5μm以上100μm以下であることが好ましい。0.5μm以下であると凝集により取り扱いが困難となったり、粉砕コストが高額になるため好ましくない。一方、平均粒子径が100μmを超えると、プリント配線板の作製時に於いて積層物を成形した時、得られる成形品の表面平滑性が悪くなったりする場合がある。好ましくは、50μm以下、より好ましくは20μm以下である。
無機充填材については、その表面に所望の物理化学的な性能を付与する被覆剤を塗布したものとしてもよい。具体的には帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、被膜形成剤、カップリング剤、分散剤あるいは潤滑剤を被覆したものであってもよい。
表面処理に使用できるシランカップリング剤を例示すれば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等があり、使用される無機充填材と複合化する樹脂の種類により適宜選択してもよい。
本発明の無機充填材は、ガラスクロス又はガラスペーパーと一緒に、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられることを特徴とする。
ここで、本発明の無機充填材をガラスクロス又はガラスペーパーと一緒に、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられることは、酸化物換算の質量百分率表示でSiO2 45〜65%、Al2O3 10〜20%、B2O3 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 0〜1%、SrO、BaOを含有するガラスを含有する無機充填材を熱硬化性の有機樹脂材中に均一に分散させた後、ガラスクロス又はガラスペーパーにこの有機樹脂材を含浸させて有機樹脂複合材を得る用途でガラスクロス又はガラスペーパーと共に使用されるものであることを意味している。
熱硬化性を有する有機樹脂材としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂あるいはビスマレイミド樹脂等の樹脂を使用すればよい。
ガラスクロスとしては、様々な構造の織布を採用することができる。例えば、平織り、綾織等の織り構造のものから、さらに複雑な構造を有するものまで使用することが可能である。さらにガラスペーパーについては、チョップドストランドを使用し、白水中でモノフィラメントとして分散させた後、すきあげ、有機結合剤を用いてシート状物に成形したものであればよい。例えばチョップドストランドを使用する場合であれば、上述した本発明の無機充填材に使用されるガラス粉末と同じ組成のガラス繊維用組成物を熔融した熔融ガラスをブッシング等の成形装置に配設された耐熱製ノズルから連続的に引き出してその周囲に集束剤などを被覆させてガラス長繊維として成形する。次いで得られたガラス長繊維を紙管等の周囲に巻き取ってケーキ(またはチーズともよぶ)とした後、ケーキから必要本数をまとめて引き出してガラス繊維切断装置によって所定長の寸法となるように切断する。こうして得られたチョップドストランドを白水中に分散させた後、メッシュ上にすき上げ、ランダムに堆積してシート状となった状態で、その上方より液状の結合剤を散布し、この結合剤を硬化させることによりそれぞれのガラスチョップドストランド同士を接合する工程を経て、ガラスチョップドストランドにより構成させるガラスペーパーが得られることとなる。ガラスクロス、ガラスペーパーのガラス組成は、所望の性能が得られるのであれば無機充填材と同じでも異なるものでもよいが、類似の組成とすることが好ましく、ほぼ同一の組成とすることがさらに好ましい。ここで、類似の組成とは、酸化物換算の各成分の質量百分率表示がガラスクロス、ガラスペーパーのガラス組成に対して±5%以内の組成とすることであり、ほぼ同一の組成とするとは、±2%以内の組成とすることである。
(1)本発明の無機充填材は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO2 45〜65%、Al2O3 10〜20%、B2O3 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 0〜1%、SrO及びBaOよりなるガラスを含有するものであるため、無地充填材を構成するガラスと同じ組成で製造されたガラス繊維からなるガラスクロスやガラスペーパーと併用してプリント基板とすることが可能であり、誘電率εや誘電正接tanδなどの電気的な性能に優れ、低い線熱膨張を有するものとなる。
(2)本発明の無機充填材は、ガラスが酸化物換算の質量百分率表示でCeO2 0.01〜5.0%であるならば、無機充填材を構成するガラスが泡数の抑制された熔融ガラスから均質性の高い無機充填材を得ることができるので好ましい。
(3)本発明の無機充填材は、ガラスが酸化物換算の質量百分率表示でSrO 0.1〜10%、BaO 0.1〜10%であれば、ガラス熔融時の分相性や、結晶析出による失透性を回避することができる。
(4)本発明の無機充填材は、ガラスが酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が10〜25%であり、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.15から0.50の範囲内であれば、紡糸操作を行うに適した高温粘性と高温粘性の温度依存性を実現することができ、しかもガラスの耐酸性や失透性にも優れた品位のガラスを得るのに適したものである。
(5)本発明の無機充填材は、ガラスの周波数1MHzにおける誘電率εが6.0以下であり、かつ誘電正接tanδが20×10−4以下で、線熱膨張係数が50×10−7/℃以下であれば、電気信号の高速化に対応でき、誘電損失が小さく、低熱膨張のプリント配線板を得ることができるため、プリント配線板に適用するのに好適な性能を有するものである。さらにガラスの周波数10GHzにおける誘電率εが6.0以下であり、かつ誘電正接tanδが100×10−4以下であれば、高周波を用いたプリント配線板に適用するのに一層好適な性質を有するものである。
(6)本発明の無機充填材は、ガラスがガラスパウダー、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレークの何れかであると有機樹脂材中に均一に分散できるため、高密度実装を実現するプリント配線板に用いるために好適なものである。
(7)本発明の無機充填材は、ガラスクロスあるいはガラスペーパーと一緒に、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられるものであれば、各種電子回路に適用されるプリント配線板の誘電特性や耐熱性を向上させることが可能となる。
(8)本発明の無機充填材の製造方法は、無機充填材前駆体であるガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスカレット及びガラスロッドの何れかを粉砕する粉砕工程を含むため、所定粒径の粉末形状の無機充填材を成形する効率がよく、経済的な製造工程を構築することができる。
以下に本発明の無機充填材について、実施例に基づいて具体的に説明する。
本発明の実施例に係る無機充填材を構成するガラスのガラス組成と評価結果とを表1に示す。表1中に示した酸化物換算表記のガラス組成は、何れも質量%で表したものである。
実施例である試料No.1から試料No.10までの性能評価用の各ガラス試料については、以下に示す手順に従って調製した。
まず、各々表1のガラス組成となるように、天然鉱物ガラス原料や化成ガラス原料等の複数のガラス原料種を小数点3桁のg単位で所定量秤量する。次いでこれら複数の原料を均質な状態になるように混合したガラス原料混合バッチを準備し、このガラス原料混合バッチを白金ロジウム製の500ccの容積を有する坩堝内に投入する。次いでこの原料混合バッチが投入された白金ロジウム製の坩堝を間接加熱電気炉内にて大気雰囲気中にて1550℃、5時間加熱してガラス原料混合バッチを高温下で化学反応させて熔融ガラスとした。この熔融ガラスを均質な状態とするために、加熱熔融の途中で耐熱性撹拌棒を使用して熔融ガラスの撹拌を行った。
こうして均質な状態とした熔融ガラスを、所定の耐火性鋳型内に流し出して所定形状に鋳込み成形を行って、徐冷炉内で室温までアニール処理を行い、試験等に使用するガラス成形体を得た。
こうして得られたガラス成形体(ガラス試料)を使用して、本発明の実施例についての各種の物理特性等の性能を以下の手順で計測した。その計測の結果を表1にまとめて示す。
線熱膨張係数は、NISTのSRM−731、SRM−738を線熱膨張係数既知の標準試料として使用し校正を受けた公知の線熱膨張計測機器により、30℃から380℃の温度範囲について計測された平均線熱膨張係数である。この線熱膨張係数の値が低い程、温度変化が大きい場合であってもガラスの膨張が小さくなり、その結果ガラスを含有する無機充填材が使用されるプリント配線板が電子機器に搭載された場合の温度変動に関わる信頼性を高めることに繋がる。
熔融ガラスの高温粘性を示す103.0dPa・sの温度TYは、予め適正なサイズとなるように破砕した各ガラス試料をアルミナ製坩堝に投入して、再加熱し、融液状態にまで加熱した後に白金球引き上げ法に基づいて計測した各粘性値の複数の計測によって得られた粘性曲線の内挿によってそれぞれの値を算出したものである。また表中のTY−TXの値は、103.0dPa・sに相当する温度TYの値から107.6dPa・sに相当する温度である軟化点TXの値を差し引いたものである。なお、軟化点TXの計測は、ASTM C338に準拠した方法により測定した値を指す。TY−TXの値が小さい値である程、粘性の温度依存性が大きく、ガラスの粘性が温度変化によって大きく変化する粘性を有し、そのガラスは「ショート」であることとなる。ガラスが「ショート」であるほど、熔融状態から冷却によって固化した状態になりやすいため、熔融ガラスをブッシングに付設したノズルから紡糸した後で同じ冷却条件であっても、メニスカスが安定し、切断することなくガラス繊維を生産することができる。ガラス繊維の粘性の温度依存性がロングであるほど、メニスカスが長くなり不安定になるため、冷却条件を強化するなど、ガラス繊維を製造する際の付帯設備を重装備にせねばならなくなる。
また液相温度TLは、各ガラス成形体を所定形状に切断して粉砕加工し、微粉砕物を除去して所定範囲の表面積となるように300μmから500μmの範囲の粒度となるように調整した状態で白金製の容器に適切な嵩密度を有する状態に充填して、最高温度を1250℃に設定した間接加熱型の温度勾配炉内に入れて静置し、16時間大気雰囲気中で加熱操作を行った。その後に白金製容器ごと試験体を取り出し、室温まで放冷後、偏光顕微鏡によって液相温度TLを特定した。表中のTY−TLの値については、103.0dPa・sに相当する温度TYの値から液相温度TLの値を差し引いたものである。TY−TLの値が大きい程、紡糸温度近傍において紡出操作を妨げるような結晶が簡単に析出することがなくなり、安定した紡糸状態が確保できることになる。このTY−TLの値を大きくするには、紡糸温度に相当する103.0dPa・sの温度TYを上昇させればよいが、そうするとガラスの熔融に要するエネルギーが大きくなり製造原価の上昇を招くことやブッシング装置等の付帯設備の耐用期間を短縮するという問題を発生させることに繋がる。
150℃における体積電気抵抗率は、ASTM C657−78に基づいて150℃における値を測定したものである。体積電気抵抗の値が高い程、高密度実装が行われるプリント配線板であっても安定した電気絶縁性能を発揮することができる。
周波数1MHzの誘電率ε及び誘電正接tanδの計測は、50mm×50mm×3mmの寸法に加工したガラス試料片の厚さ3mmの両表面を1200番のサンドペーパーで研磨したものを使用した。測定は、ASTM D150−87に準拠し、横河ヒューレットパッカード製4192Aインピーダンスアナライザを使用することによって、室温下にて周波数1MHzで計測することによって得た。周波数10GHzの誘電率ε及び誘電正接tanδの計測については、JIS R1627:1996に準拠した両端短絡形誘電体共振器法によりAglient製ネットワークアナライザーを使用することにより室温下にて測定することにより得た。誘電率εと誘電正接tanδが小さい値であるほど、プリント配線板を構成する用途で無機充填材として用いられた場合にプリント配線板の誘電損失は小さくなる。
耐酸性については、微粉砕物を除去して所定範囲の表面積となるように300μmから500μmの範囲の粒度となるように調整した状態で1cm3相当の粉砕物を質量百分率表示で10%の塩酸水溶液50ccと共に耐酸性密閉容器内へ投入し、この状態で80℃に設定した恒温振とう機中で16時間保持し、濾過して液体分を除き110℃の乾燥機中で乾燥を行いガラスの質量の恒量値を得る。そして当初投入したガラスの質量値に対する酸処理後の質量値の減少率を計測する。こうして得られた減少率計測値が30%以上であって、しかも耐酸性試験中に塩酸によるガラス表面の腐蝕反応の途中で反応生成物が形成されていることが確認された試料についてはガラスの耐酸性が低下しており×判定とし、他の試料については○判定とした。腐蝕反応によって反応生成物が形成されるとガラス繊維を使用したプリント配線板を製造する工程において行われるメッキ処理等で酸処理が行われた際に均質な処理状態を確保するのを妨げることになり、良品率が低下することに繋がる危険性が高いからである。
以上の試験によって次のようなことが明らかになった。すなわち本発明の実施例である試験No.1から試験No.10までの試料については、そのガラス組成は酸化物換算の質量%表示でSiO2が47.4%から54.5%の範囲にあり、Al2O3が11.7%から18.7%の範囲内、B2O3が14.0%から20.0%の範囲内、MgOが5.5〜8.7%、CaOが3.5〜8.8%の範囲内、Li2O+Na2O+K2Oが0.1〜0.4%の範囲内、SrOが1.1〜8.8%の範囲内、BaOが0.8〜5.0%の範囲内にあり、またMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が15.2〜21.4%の範囲内であり、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.20から0.45の範囲内であり、CeO2が0.1〜0.9%の範囲内となっているものである。
また表1中にそれぞれ示したように、本発明の実施例の30℃から380℃までの温度範囲における線熱膨張係数は39.2×10−7〜49.0×10−7/℃の範囲内にあり、紡糸温度に相当する103.0dPa・sの温度が1174℃〜1298℃の範囲内、107.6dPa・sの温度TXが828℃〜880℃の範囲内であって、粘性の温度依存性を示すTY−TXの値は、294℃から426℃の範囲内にある。さらに本発明の実施例の液相温度TLは、1095℃以下であり、そのためTY−TLの値は、162℃以上である。さらに熔融温度の目安となる102.0dPa・sの温度TWは、1384℃から1502℃の範囲であり、Dガラスよりも低い温度になっている。また電気的性質に関して、本発明の実施例の150℃における体積電気抵抗率logρは、13.3Ω・cm〜17.9Ω・cmの範囲内にあり、周波数1MHzでの誘電率εは5.36〜5.82の範囲内であって誘電率εが6.0以下という本発明の要件を満足しており、周波数1MHzでの誘電正接tanδは0.0008〜0.0014の範囲内にあり、誘電正接tanδが20×10−4以下にあるという要件をも満足するものである。また、周波数10GHzでの誘電率εは、5.4〜5.9の範囲内であって誘電率εが6.0以下という本発明の要件を満足しており、周波数10GHzでの誘電正接tanδは、0.0038〜0.0096の範囲内にあり、誘電正接tanδが100×10−4以下にあるという要件をも満足するものである。すなわち、本発明の実施例である試料No.1から試料No.10は、本発明の無機充填材として好適な性質を有するものであった。
本発明の実施例の中でも特に特徴的な試料の製造方法とその性能について、以下で説明する。
実施例である試料No.1の無機充填材は、ガラスパウダー(粉末ガラス)の形態である。このガラスパウダーの製造方法は、次のようになる。まず実施例の試料No.1のガラス組成の平均単繊維直径7μmのガラス繊維を紡糸、乾燥した後、ECカッターを用いて長さ25mmにカットして無機充填材前駆体である所定長のガラス繊維を得た。その後、このガラス繊維を450℃の電気炉で48時間焼却処理し、表面処理剤を除去した後、アルミナ製のボールミルで48時間粉砕し、平均繊維長30μmのミルドファイバーを得た。このミルドファイバーをジェットミルで、分級回転数13500rpmの条件で粉砕し、平均粒子径5μmの無機充填材であるガラスパウダーを得た。
こうして得られた実施例である試料No.1の組成はSiO2が47.7%と少ない含有率であるが、それをB2O3含有率が最大の20.0%とすることによって補ったものであり、線熱膨張係数が44.7×10−7/℃であって十分に低い値となり、粘性の温度依存性を示すTY−TXの値が364℃であって問題のない水準にあり、しかも紡糸温度に相当するTYが1194℃、熔融温度の目安となる102.0dPa・sの温度Twが1384℃と十分に低い値となっている。さらに液相温度であるTLは、1020℃以下であり、TY−TLの値は、少なく見積もっても190℃以上もあるため十分な大きさである。さらに体積電気抵抗率は17.5Ω・cmであって十分に大きい値であり、周波数1MHzでの誘電率εは5.50、誘電正接tanδが0.0010と、周波数10GHzでの誘電率εは5.6、誘電正接tanδが0.0042と、いずれも申し分なく小さい値を示している。そして耐酸性に関しては、質量減少率が低く、反応生成物の形成も認められないため「○」判定となった。また、CeO2を含有しており、熔融ガラスの清澄を促進しホローファイバーが発生しないように考慮されたものである。
このように実施例の試料No.1の無機充填材は本発明に相応しいものである。
このように実施例の試料No.1の無機充填材は本発明に相応しいものである。
実施例である試料No.2の無機充填材は、試料No.1と同様にガラス粉末のみで構成されたものである。試料No.2の無機充填材の製造方法は、まず、実施例の試料No.2のガラス組成となるように調合され、加熱、熔融された熔融ガラスを水砕、乾燥して無機充填材前駆体であるガラスカレットとした。この後、このガラスカレットをアルミナ製のボールミルで48時間粉砕し、平均粒子径14μmのガラス粉末を得た。次いで、このガラス粉末をジェットミルで、分級回転数13500rpmの条件で粉砕し、平均粒子径4μmの無機充填材であるガラスパウダーとした。
こうして得られた実施例である試料No.2ガラスパウダーの組成は、Al2O3が11.7%で最も少ない含有率を有するという特徴があり、CeO2を含有している。この試料No.2は、本発明の典型的な試料であり、線熱膨張係数も44.4×10−7/℃で十分に低い値であり、しかも粘性の温度依存性を示すTY−TXの値が391℃となって十分に大きくショートな粘性を有している。熔融温度の目安となる102.0dPa・sの温度TWが1436℃と低く、また液相温度であるTLは、1054℃と低い値であり、TY−TLの値は180℃と十分に大きい値を示している。また体積電気抵抗率は17.0Ω・cmで十分に大きく、周波数1MHzでの誘電率εは5.49、誘電正接tanδが0.0014と、周波数10GHzでの誘電率εは5.6、誘電正接tanδが0.0056と、いずれの値も小さい値である。そして耐酸性に関しても、試料No.1と同様に質量減少率が低く、反応生成物の形成も認められないため「○」判定となった。このことからプリント配線板用途の無機充填材として優れた品位と性能を有するものとなっていることが明瞭になった。よってこの無機充填材を使用してプリプレグを製造し、それにより得られたプリント配線板は、十分に設計性能を発揮するものとなり得る。
以上のようにして得られた試料No.2の無機充填材を使用して、試料No.2と予め作製した同組成のガラスストランドを平織りしたガラスクロスを用いたプリプレグを製造し、それにより得られたプリント配線板は、十分に設計性能を発揮するものであった。
実施例である試料No.4の無機充填材は、他の実施例と同様にガラス粉末のみで構成されたものである。試料No.2の無機充填材の製造方法は、まず、実施例の試料No.2のガラス組成となるように調合され、加熱、熔融された熔融ガラスをダウンドロー成形して3mm直径、10cm長の無機充填材前駆体であるガラスロッドを成形した。このガラスロッドをアルミナ製のボールミルで48時間粉砕し、平均粒子径20μmのガラス粉末を得た。次いで、このガラス粉末をジェットミルで、分級回転数13500rpmの条件で粉砕し、平均粒子径10μmの無機充填材であるガラスパウダーとした。
こうして得られた試料No.4のガラスパウダーの組成は、B2O3が14.0%で最も少ない含有率を有するという特徴があり、CeO2を含有している。この試料No.4は、線熱膨張係数も40.4×10−7/℃で十分に低い値であり、粘性の温度依存性を示すTY−TXの値が409℃で適度にショートな粘性を有している。熔融温度の目安となる102.0dPa・sの温度TWは1491℃と比較的高いが許容範囲内であり、また液相温度であるTLは、1095℃で許容範囲内であり、TY−TLの値は189℃と十分に大きい値を示している。また体積電気抵抗率は15.1Ω・cmと大きく、周波数1MHzでの誘電率εは5.46、誘電正接tanδが0.0012、さらに周波数10GHzでの誘電率εは5.6、誘電正接tanδが0.0038と、いずれの値も小さい値である。そして耐酸性に関しても、試料No.1と同様に質量減少率が低く、反応生成物の形成も認められないため「○」判定となった。このことからプリント配線板用途の無機充填材として十分な品位と性能を有するものとなっていることが判明した。
実施例である試料No.8の無機充填材は、ミルドファイバーの形態を呈している。このミルドファイバーの製造方法は、次のようになる。まず実施例の試料No.8のガラス組成の平均単繊維直径7μmのガラス繊維を紡糸、乾燥した後、ECカッターを用いて長さ25mmにカットして無機充填材前駆体である所定長のガラス繊維を得た。その後、このガラス繊維を450℃の電気炉で48時間焼却処理し、表面処理剤を除去した後、アルミナ製のボールミルで62時間粉砕し、無機充填材である平均繊維長15μmのミルドファイバーを得た。
こうして得られた試料No.8のミルドファイバーの組成は、SrOが1.1%と最も少なく、またMgO、CaO、SrO、及びBaOの各成分の合量も15.2%と最も少ないという特徴を有している。この試料No.8については、液相温度は測定していないが、粘性の温度依存性を示すTY−TXの値が409℃で適度にショートな粘性を有している。またまた体積電気抵抗率は13.9Ω・cmとやや低いが、誘電率、誘電正接については問題のない品位であり、耐酸性に関しても、試料No.1と同様に質量減少率が低く、反応生成物の形成も認められないため「○」判定となった。このことからプリント配線板用途の無機充填材として十分な品位と性能を有するものとなっていることが判明した。
[比較例]次いで表2に本発明の実施例と同様の手順で作成した比較例に相当する試料に関する調査結果を実施例と同様に示す。表2に示す各種測定の結果についても、使用した方法、装置は実施例と同じものである。
比較例の試料No.101の無機充填材は、一般にEガラスと呼ばれるガラス組成に類似した組成を有するガラス粉末であるが、線熱膨張係数が62.5×10−7/℃と高く、周波数1MHzでの誘電率εも7.00と高く、周波数10GHzにおける誘電率εも6.8と高いため本発明とは全く異なるものである。
比較例の試料No.102の無機充填材は、実施例同様にガラス粉末のみによって構成され、SrO、BaOを含有していないがSiO2の含有率が76.1%と高いため耐酸性は悪化していない。しかしSiO2の含有率が高いため、紡糸温度に相当する103.0dPa・sの温度TYが1336℃と高い値となっている。このガラス繊維は、長期間に亘り紡糸を行う場合に製造付帯設備の劣化を招くものとなり、経済的にも問題がある。TY-TXの値が526℃であり、ロングなガラスであり、紡糸性に問題がある。また熔融温度の目安となる102・0dPa・sの温度TWが1600℃以上と非常に高かった。このためガラス熔融時にも泡がガラス中に残存し易いものである上、TY-TXの値が526℃とロングなガラスであり、紡糸性に問題がある。
比較例の試料No.103の無機充填材は、実施例同様にガラス粉末のみによって構成され、アルカリ土類金属酸化物の総量に対するSrOとBaOの合量の比が0.5を越えている。103.0dPa・sの温度TYが1400℃をこえており、TY-TXの値が536℃とロングなガラスであるため繊維径の小さいガラス繊維が作製しにくく、熔融ガラスの熔解性や紡糸性に問題の発生するものであった。102.0dPa・sの温度TWも高く、CeO2を含有していないためガラス熔融時にも泡がガラス中に残存しやすいものであった。このため、このガラス組成では要求されているホローファイバー数が2本/10万フィラメント以下を満足するガラス繊維を作成できない。また、周波数1MHzでの誘電正接tanδが0.0025と高く、周波数10GHzにおける誘電正接tanδも0.0108と高いため誘電損失が大きくなり伝送速度が遅くなる問題がある。
比較例の試料No.104の無機充填材は、実施例同様にガラス粉末のみによって構成され、SrOやBaOを含有しないガラス組成物であり、アルカリ土類金属酸化物の総量に対するSrOとBaOの合量の比が0.00と低い。このため103.0dPa・sの温度TYが1332℃と高かった。熔融温度の目安となる102・0dPa・sの温度TWについても1568℃以上と高く、ガラス熔融時に泡が多く残存していた。ガラス熔融時に分相性が認められ、耐酸性試験で塩酸と反応した反応生成物が認められるためプリント配線板の製造工程で行われるエッチング処理等で問題の発生することが懸念されるものであった。体積電気抵抗率logρは12.7Ω・cmであり、プリント配線板としての電気的信頼性は低い。
比較例の試料No.105の無機充填材は、実施例同様にガラス粉末のみによって構成され、アルカリ土類金属酸化物の総量に対するSrOとBaOの合量の比が0.05と低い。この試料No.105のガラスは誘電率εが6.10と高く、周波数10GHzにおける誘電率εも6.2と高いものであった。またこの試料は、周波数1MHzにおける誘電正接tanδも0.0025と高く、周波数10GHzにおける誘電正接tanδも0.0127と高いため誘電損失が大きくなり伝送速度が遅くなる問題がある。またガラス熔融時に顕著な分相性が観察され、それが耐酸性にも悪影響を及ぼす結果に繋がり、問題の認められるガラス組成物であった。
以上に示した実施例と比較例において行った一連の評価によって、本発明の無機充填材は、高密度実装を実現するプリント配線板に使用される無機充填材として好適なものであり、無機充填材の母材であるガラス繊維の製造に於いても紡糸性に優れ、高い製造効率によって安定した品位のガラス繊維を得ることが容易であり、優れた品位の無機充填材を経済的に優れた効率で提供できるものであることが明瞭なものとなった。
Claims (9)
- 酸化物換算の質量百分率表示でSiO2 45〜65%、Al2O3 10〜20%、B2O3 13〜25%、MgO 5.5〜9%、CaO 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 0〜1%、SrO及びBaOを含むガラスを含有することを特徴とする無機充填材。
- ガラスが酸化物換算の質量百分率表示でCeO2 0.01〜5.0%含有することを特徴とする請求項1に記戴の無機充填材。
- ガラスが酸化物換算の質量百分率表示でSrO 0.1〜10%、BaO 0.1〜10%含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記戴の無機充填材。
- ガラスが酸化物換算の質量百分率表示でMgO、CaO、SrO及びBaOのアルカリ土類金属酸化物換算の合量が10〜25%であり、SrOとBaOの合量をアルカリ土類金属酸化物換算の合量で除した値が0.15から0.50の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記戴の無機充填材。
- ガラスの周波数1MHzにおける誘電率εが6.0以下であり、かつ誘電正接tanδが20×10−4以下であり、線熱膨張係数が50×10−7/℃以下であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記戴の無機充填材。
- ガラスの周波数10GHzにおける誘電率εが6.0以下であり、かつ誘電正接tanδが100×10−4以下であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記戴の無機充填材。
- ガラスがガラスパウダー、ガラスビーズ、ミルドファイバー及びガラスフレークの何れかであることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記戴の無機充填材。
- ガラスクロス、あるいはガラスペーパーと一緒に、有機樹脂材と複合化されて有機樹脂複合材を形成する用途で用いられることを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記戴の無機充填材。
- 請求項1から請求項8の何れかに記載の無機充填材を製造する製造方法であって、
無機充填材前駆体であるガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスカレット及びガラスロッドの何れかを粉砕する粉砕工程を含むことを特徴とする無機充填材の製造方法。
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