まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両(車両の一例)の駆動系と制御系の構成を示す全体システム図である。以下、図1に基づき駆動系構成と制御系構成を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジン(駆動源)1と、ダンパー2と、第1モータジェネレータ3と、オイルポンプ4と、第2モータジェネレータ(駆動源/駆動モータ)5と、有段変速機6と、摩擦クラッチ(摩擦係合要素)7と、ドグクラッチ8と、遊星歯車装置10と、一対の駆動輪32,32と、を備えている。
前記エンジン1は、その出力トルクを、遊星歯車装置10にて第1モータジェネレータ3への発電トルク分と走行トルク分に分配する。そして、第1モータジェネレータ3が発電した電力を使って第2モータジェネレータ5が、有段変速機6を介してトルクを出力する。そして、遊星歯車装置10からの出力トルクと、有段変速機6からの出力トルクを、最終出力軸23にて合成している。
前記遊星歯車装置10は、リングギア11と、ピニオン12と、サンギア13と、ピニオン12を支持するキャリア14と、を有するシングルピニオン型遊星歯車により構成されている。前記リングギア11には、出力ギア15が接続される。前記キャリア14には、ダンパー2を介してエンジン1が接続される。前記サンギア13には、第1モータジェネレータ3が接続される。前記サンギア13とキャリア14には、オイルポンプ4が接続される。すなわち、第1モータジェネレータ3(サンギア13)の回転速度と、エンジン1(キャリア14)の回転速度が決まると、出力ギア15(リングギア11)の回転速度が自動的に決まる無段変速機能を有する。なお、出力ギア15は、最終出力軸23に固定されたハイ側従動ギア21に噛み合う。
前記有段変速機6は、第2モータジェネレータ5が接続されるモータ出力軸29にベアリング27を介して回転可能に支持されたハイ側駆動ギア25と、モータ出力軸29とハイ側駆動ギア25を滑り断接する湿式多板による摩擦クラッチ7と、第2モータジェネレータ5が接続されるモータ出力軸29にベアリング28を介して回転可能に支持されたロー側駆動ギア24と、モータ出力軸29とロー側駆動ギア24を噛み合い断接するドグクラッチ8と、を有している。そして、前記ハイ側駆動ギア25には、最終出力軸23に固定されたハイ側従動ギア21が噛み合う。前記ロー側駆動ギア24には、最終出力軸23に固定されたロー側従動ギア22が噛み合う。そして、摩擦クラッチ7を締結し、ドグクラッチ8を開放すると、ハイ側駆動ギア25とハイ側従動ギア21の歯数比により決まる「ハイモード(高速段)」になり、摩擦クラッチ7を開放し、ドグクラッチ8を締結すると、ロー側駆動ギア24とロー側従動ギア22の歯数比により決まる「ローモード(低速段)」になる。すなわち、切り替え変速段として、ハイモードによる高速段とローモードによる低速段を持つ2段変速機能を有する。
なお、ドグクラッチ8は、図示しないドグアクチュエータにより断接されると共に、ドグクラッチフォーク位置スイッチ(ドグ状態検出手段)Fを有している。このドグクラッチフォーク位置スイッチFは、ドグクラッチ8が実際に開放又は締結した時にON/OFFされるスイッチである。ここで、ドグクラッチ8は、図示しないドグアクチュエータに開放又は締結の制御信号を出力することによって断接するが、このとき、クラッチ入力側とクラッチ出力側との回転数が一致していると共に、ドグクラッチ8における伝達トルクが所定値以下である必要がある。そのため、ドグアクチュエータへの制御指令の出力のタイミングと、ドグクラッチ8が実際に開放又は締結するタイミングとが異なることがある。そこで、このドグクラッチ8は、実断接タイミングを検出するためにドグクラッチフォーク位置スイッチFを有している。
前記最終出力軸23は、ベアリング26,26により両端部が支持され、ハイ側従動ギア21とロー側従動ギア22と共に、最終出力ギア30が固定されている。この最終出力ギア30に伝達されたトルクは、図示しない終減速ギアとデファレンシャル装置31を介して、一対の駆動輪32,32へ伝達される。
実施例1のハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、第1インバータ41と、第2インバータ42と、バッテリー43と、第1モータコントローラ44と、第2モータコントローラ45と、エンジンコントローラ46と、トランスミッションコントローラ47と、バッテリーコントローラ48と、ハイブリッドコントローラ49と、を備えている。
前記第1モータコントローラ44は、第1インバータ41に対する制御指令により第1モータジェネレータ3の動作点(第1トルクTm1、第1回転数Nm1)を制御する。また、前記第2モータコントローラ45は、第2インバータ42に対する制御指令により第2モータジェネレータ5の動作点(第2トルクTm2、第2回転数Nm2)を制御する。
前記エンジンコントローラ46は、図示しない電子制御スロットルアクチュエータへの制御指令によりエンジン1の動作点(エンジントルクTe、エンジン回転数Ne)を制御する。
前記トランスミッションコントローラ47は、図示しない摩擦クラッチアクチュエータへの制御指令により摩擦クラッチ7の動作点(締結・スリップ締結・開放)を制御する。また、図示しないドグクラッチアクチュエータへの制御指令によりドグクラッチ8の動作点(締結・開放)を制御する。
前記バッテリーコントローラ48は、バッテリー43の充電容量(SOC)を監視し、SOC情報やバッテリー温度情報等を、ハイブリッドコントローラ49へ供給する。
前記ハイブリッドコントローラ49は、車両全体の消費エネルギーを管理し、要求駆動力を確保しながら最高効率でハイブリッド車両を走らせるための機能を担うもので、双方向通信線を介して、第1モータコントローラ44と第2モータコントローラ45とエンジンコントローラ46とトランスミッションコントローラ47とバッテリーコントローラ48等に接続される。このハイブリッドコントローラ49は、アクセル開度センサ50や車速センサ51等から必要情報を入力する。そして、入力した情報に基づいて、所定の演算処理を行い、各コントローラ44,45,46,47に対し動作点指令値を出力する。
図2は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の駆動系に有する各回転要素の回転速度(回転数)を縦軸にとってあらわした速度線図である。図3は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の駆動系に有するドグクラッチ(ロークラッチ)を締結したローモードを示す速度線図である。図4は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の駆動系に有する摩擦クラッチ(ハイクラッチ)を締結したハイモードを示す速度線図である。
電気変速部分は、図2に示すように、遊星歯車装置10に接続される第1モータジェネレータ3と、エンジン1と、出力ギア15により構成される。そして、電気変速部分は、2自由度系の遊星歯車装置10により、第1モータジェネレータ3の回転速度と、エンジン1の回転速度が決まると、出力ギア15の回転速度が自動的に決まる無段変速機能を有する。
モータ変速部分は、図2に示すように、有段変速機6にモータ出力軸29を介して接続される第2モータジェネレータ5と、摩擦クラッチ7と、ドグクラッチ8と、噛み合い対によるハイ側駆動ギア25とハイ側従動ギア21と、噛み合い対によるロー側駆動ギア24とロー側従動ギア22と、により構成される。そして、モータ変速部分は、摩擦クラッチ7の締結(ドグクラッチ8の開放)による「ハイモード(高速段)」と、ドグクラッチ8の締結(摩擦クラッチ7の開放)による「ローモード(低速段)」と、を切り替える2段変速機能を有する。
そして、最終出力軸23において、図2に示すように、電気変速部分からのエンジン直行駆動トルクとモータ変速部分からのモータ駆動トルクが合成され、最終出力ギア30に伝達された合成駆動トルクは、終減速ギアとデファレンシャル装置31を介して、一対の駆動輪32,32へ伝達され、車速Vとされる。このとき、図3に示すように、第2モータジェネレータ5の回転数を上げてドグクラッチ8を締結状態にし、摩擦クラッチ7を開放すると、ローモード(低速段)が選択される。一方、図4に示すように、第2モータジェネレータ5の回転数を下げて摩擦クラッチ7を締結状態にし、ドグクラッチ8を開放すると、ハイモード(高速段)が選択される。
ここで、「ハイモード」で摩擦クラッチ7を用い、「ローモード」でドグクラッチ8を用いる理由を説明する。例えば、両方共に摩擦クラッチとした場合、引き摺り損失や油圧ポンプ損失が生じ、特に、伝達されるトルクが大きい「ローモード」において損失が顕著になる。また、例えば、両方共にドグクラッチとした場合、損失を伴わないという利点があるが、変速の際に締結側も開放側も完全に開放し、回転同期をとって締結させる必要がある。つまり、回転同期制御が必要であると共に、変速過渡期にトルク抜けが生じる。そこで、「ハイモード」では、回転同期制御を必要としない摩擦クラッチ7を用い、「ローモード」では、損失を抑えたドグクラッチ8を用い、「ハイモード」から「ローモード」への変速過渡期には、摩擦クラッチ7での摩擦力によりトルク抜けを補償している。
すなわち、モータ変速部分において、「ハイモード」から「ローモード」へ移行する変速過渡期には、第2モータジェネレータ5を目標トルクに一致させるモータトルク制御から、目標回転数に一致させるモータ回転数制御に変更する。そして、摩擦クラッチ7をスリップ締結状態とし、摩擦力による駆動トルクの抜けを抑える駆動力補償を行いながら、第2モータジェネレータ5の回転数を上昇させ、ドグクラッチ8の入力回転数(=第2モータジェネレータ5の回転数)をドグクラッチ8の出力回転数(車速やギア比で決まる)に同期させ、回転数同期タイミングにてドグクラッチ8を噛み合い締結させる。
図5は、実施例1の統合コントローラにて実行されるローモードからハイモードへの変速制御処理の流れを示すフローチャートである(変速制御手段)。以下、図5の各ステップについて説明する。
ステップS1では、第2モータコントローラ45からの第2モータジェネレータ5の回転数(第2回転数Nm2)、バッテリーコントローラ48からのバッテリー43の充電容量(SOC)、アクセル開度センサ50からのアクセル開度(又は要求駆動力)、車速センサ51からの車速、等の必要情報を読み込み、ステップS2へ進む。
ステップS2では、有段変速機6において、ローモードからハイモードへの変速要求があるか否かを判断し、YES(要求あり)の場合はステップS4へ進み、NO(要求なし)の場合はステップS3へ進む。
ステップS3では、ステップS2での変速要求なしとの判断に続き、有段変速機6の変速モードを現在の状態に維持、すなわち現在ローモードであればローモードに維持し、現在ハイモードであればハイモードに維持し、エンドへ進む。
ステップS4では、ステップS2での変速要求ありとの判断に続き、ドグクラッチ8へ開放指令を出力し、ステップS5へ進む。なお、このドグクラッチ開放指令は、図示しないドグアクチュエータへ出力される。
ステップS5では、ドグクラッチ8を開放するために摩擦クラッチ7をスリップ締結するときの摩擦クラッチ7の油圧目標値Thtを設定し、ステップS6へ進む。ここで、油圧目標値Thtは、第2モータジェネレータ5からの出力トルク(第2トルクTm2)に基づいて算出される。
ステップS6では、トランスミッションコントローラ47へ油圧指令値Thoを出力することで摩擦クラッチ7の油圧制御を実行し、ステップS7へ進む。すなわち、このステップS6では、摩擦クラッチ7をスリップ締結させてドグクラッチ8を介して伝達している第2トルクTm2を、摩擦クラッチ7を介して伝達するようにトルクの伝達経路を振替える。ここで、摩擦クラッチ7の油圧制御は、予め定めた所定の油圧指令開始値Thsから油圧目標値Thtまで、経過時間に応じて所定の割合で油圧指令値Thoを変更することで実行する。
ステップS7では、ドグクラッチ8が実際に開放したか否かを判断し、YES(開放)の場合にはステップS8へ進み、NO(締結)の場合はステップS6を繰り返す。ここで、ドグクラッチ8の開放判断は、ドグクラッチフォーク位置スイッチFの検出値に基づいて行う。
ステップS8では、ステップS7でのドグクラッチ開放との判断に続き、第2モータジェネレータ5の回転数(第2回転数Nm2)を制御して、この第2回転数Nm2を次第に低減することで変速制御を行い、ステップS9へ進む。ここで、第2モータジェネレータ5の回転数制御は、摩擦クラッチ7の入力回転数と出力回転数との差、つまり摩擦クラッチ7における差回転が次第にゼロになるように制御する。
ステップS9では、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoを動力伝達保障油圧Tht2´に設定し、ステップS10へ進む。動力伝達保障油圧Tht2´とは、摩擦クラッチ7のスリップ締結により伝達駆動力保障をする油圧、つまり、摩擦クラッチ7の摩擦力により所定のモータ駆動トルクを保障できる油圧であり、下記式1により算出する。
Tht2´=Tht×(1+Ko) ・・・式1
但し、Tht:ステップS5で設定した油圧目標値
Ko:補正係数
ここで、補正係数Koは、図示しないメモリに記憶されており、動力伝達保障油圧Tht2´を算出するたびにメモリから読み込まれる。また、この補正係数Koは、後述する学習補正処理により、変速制御が実行されるごとに補正されて書き換えられる。なお、学習補正処理が実行される前では、補正係数Koの初期値としてゼロが設定されている。
ステップS10では、モータ変速が完了したか否かを判断し、YES(変速完了)の場合はステップS11へ進み、NO(変速未完了)の場合はステップS8へ戻る。ここで、変速が完了したか否かの判断は、摩擦クラッチ7における差回転がゼロになったか否かにより行う。差回転がゼロになれば変速が完了したと判断する。
ステップS11では、ステップS10でのモータ変速完了との判断に続き、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoをライン圧に設定し、摩擦クラッチ7を締結してエンドへ進む。これにより、有段変速機6においてドグクラッチ8から摩擦クラッチ7への掛け替えが完了し、ローモードからハイモードへの変速が実行される。
図6は、実施例1の統合コントローラにて実行される補正係数の学習補正処理の流れを示すフローチャートである。この学習補正処理は、図5に示す変速制御処理が実行されるごとに行われる。以下、図6の各ステップについて説明する。
ステップS101では、車両状態(車両外部環境・車両内部状況・各コントローラの制御状態等)が学習補正に適した状態であるか否かを判断し、YES(補正許可)の場合はステップS102へ進み、NO(補正不可)の場合は学習補正処理を実行できないとしてエンドへ進む。
ステップS102では、ステップS101での学習補正許可との判断に続き、ローモードからハイモードへの変速要求時において、図5に示すフローチャートのステップS5で設定した油圧目標値Thtを読込み、ステップS103へ進む。
ステップS103では、ドグクラッチ8が実際に開放したタイミングにおける摩擦クラッチ7への油圧指令値Tho*を読込み、ステップS104へ進む。
ステップS104では、ステップS102で読込んだ油圧目標値Thtと、ステップS103で読込んだ油圧指令値Tho*とに基づいて、次回変速制御時の動力伝達保障油圧Tht2´を算出する際に使用する補正係数Koを演算し、ステップS105へ進む。ここで、補正係数Koは、下記式2により求める。
Ko=(Tho*−Tht)/Tht ・・・式2
但し、Tht:ステップS102で読込んだ油圧目標値
Tht*:ステップS103で読込んだ油圧指令値
ステップS105では、図示しないメモリに書き込まれている補正係数Koを、ステップS104にて演算した値に書き換え、エンドへ進む。
次に、作用を説明する。
まず、実施例1の有段変速機6における変速過渡期、摩擦クラッチ7をスリップ締結させる必要性について説明する。
実施例1の車両の制御装置が適用されたハイブリッド車両において、有段変速機6のドグクラッチ8を締結すると共に、摩擦クラッチ7を開放したローモードでの走行中、車速等の条件により、有段変速機6の変速モードをローモードからハイモードへの変速要求が発生することがある。
このとき、ドグクラッチ8と摩擦クラッチ7とを掛け替える必要があり、ドグクラッチ8を開放しなければならない。しかしながら、運転手が要求する要求駆動力に基づいて必要な駆動力がドグクラッチ8に伝わっている(必要駆動力がドグクラッチ8を介して伝達されている)場合では、ドグアクチュエータに開放指令を出力してもドグクラッチ8を開放することができない。
そこで、ドグクラッチ8を開放するには、ドグクラッチ8に伝わっている(ドグクラッチ8を介して伝達されている)駆動力を所定範囲内にする必要がある。そして、そのためには、伝達される必要駆動力を所定範囲内、ここでは第2モータジェネレータ5の出力トルクを所定範囲内にするか、又は摩擦クラッチ7において駆動力を伝達するようにトルク伝達経路を振替える必要がある。
さらに、必要駆動力(第2モータジェネレータ5の出力トルク)を所定範囲内にした場合では、ドグクラッチ8を開放してから摩擦クラッチ7を締結するまでの間、伝達される駆動力が低減する。その結果、摩擦クラッチ7を締結したときにショック(変速ショック)を発生することがある。そのため、ドグクラッチ8を開放するときには、摩擦クラッチ7によりトルク伝達経路を振替えてからドグクラッチ8を開放することが望ましい。
そして、このトルク伝達経路を振替える際に、摩擦クラッチ7では入力側と出力側との回転数差(差回転)を吸収しなければならず、これにより、摩擦クラッチ7においてスリップ締結の必要性が生じるのである。
次に、実施例1の車両の制御装置における変速制御動作を説明する。
図7は、実施例1の車両の制御装置にて実行される有段変速機の変速制御で、ローモードからハイモードへ変速する際の第2モータジェネレータ回転数・第2モータジェネレータモータトルク・駆動トルク・ドグクラッチ指令・ドグクラッチ状態・摩擦クラッチ油圧の各特性を示すタイムチャートである。なお、図中実線により動力伝達保障油圧補正前の特性を示し、一点鎖線により動力伝達保障油圧補正後の特性を示す。
時刻t1以前では、有段変速機6においてドグクラッチ8が締結し、摩擦クラッチ7が開放したローモードに設定されている。なお、このとき、第2モータジェネレータ5の回転数は変速段に合わせて高くなっている。
時刻t1において、ローモードからハイモードへの変速要求が発生すると、図5に示すフローチャートにおいてステップS1→ステップS2→ステップS4→ステップS5→ステップS6へと進み、ドグクラッチ8の図示しないドグアクチュエータへ開放指令が出力されると同時に、摩擦クラッチ7の油圧目標値Thtを設定する。つまり、ドグクラッチ8を開放するために、第2モータジェネレータ5からのモータトルク(第2トルクTm2)から摩擦クラッチ7の油圧目標値Thtを算出し、摩擦クラッチ7によって伝達トルク経路の振替を行う。
そして、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoを、経過時間に応じて予め定めた所定の油圧指令開始値Thsから油圧目標値Thtまで所定の割合で変化させていくことで摩擦クラッチ7の油圧制御を実行する。このとき、摩擦クラッチ7での締結油圧が増加するに伴って、ドグクラッチ8を介して伝達されている駆動トルクは低減し、摩擦クラッチ7を介して伝達されている駆動トルクが増加する。つまり、第2モータジェネレータ5からのモータトルク(第2トルクTm2)は、ドグクラッチ8と摩擦クラッチ7とに分散されて伝達される。なお、このとき、摩擦クラッチ7における締結油圧が低くスリップ締結力が弱いため、モータトルク(第2トルクTm2)は低減する。
時刻t2において、ドグクラッチ8を介して伝達されている駆動トルクが、ドグクラッチ8が開放できる所定の範囲に達すると、ドグクラッチ8を開放するためのドグクラッチアクチュエータのトルクが、ドグクラッチ8を介して伝達されている駆動トルクを上回り、ドグクラッチ8が実際に開放される。なお、動力伝達保障油圧補正前におけるドグクラッチ8が実際に開放したタイミングでの摩擦クラッチ7への油圧指令値Tho*はP1であり、動力伝達保障油圧補正後におけるドグクラッチ8が実際に開放したタイミングでの摩擦クラッチ7への油圧指令値Tho*はP1´である。
そして、図5に示すフローチャートのステップS7へと進み、ドグクラッチ8が開放したと判断されてステップS8→ステップS9へと進む。つまり、第2モータジェネレータ5の回転数制御を実行して第2回転数Nm2を次第に低減させて、摩擦クラッチ7における差回転をゼロにし、回転数変化により変速を実行する。また、このとき摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoを動力伝達保障油圧Tht2´に設定し、摩擦クラッチ7の締結油圧を上昇させる。これにより、ドグクラッチ8が開放した後においても、摩擦クラッチ7の摩擦力により駆動力保障を確保することができる。なお、図7では、動力伝達保障油圧補正前の動力伝達保障油圧Tht2´としてP2が設定され、動力伝達保障油圧補正後の動力伝達保障油圧Tht2´としてP2´が設定されている。
時刻t3において、摩擦クラッチ7における差回転がゼロになると、図5に示すフローチャートのステップS10へと進み、モータ変速が完了したと判断されてステップS11へ進み、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoがライン圧にまで引き上げられる。また、第2モータジェネレータ5の回転数は変速段に合わせて低いまま維持される。
時刻t4において、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoがライン圧に達すると、摩擦クラッチ7の締結が完了し、変速段がローモードからハイモードへと完全に移行する。
次に、実施例1の車両の制御装置における学習補正作用について説明する。
上述のように、有段変速機6におけるローモードからハイモードへの変速過渡期、摩擦クラッチ7をスリップ締結させることで駆動力の振替えと、変速過渡期の駆動力保障との両立を図るが、一般的に摩擦クラッチ7は、作動油温度、経年劣化、相対回転等により、スリップ締結時の伝達トルクにばらつきが出ることが分かっている。さらに、この摩擦クラッチ7における伝達トルクばらつきは、ドグクラッチ8を開放するときのドグクラッチ8における伝達トルク範囲のばらつきよりも大きい。
そこで、ドグクラッチ8を開放するための油圧目標値Thtに対し、ドグクラッチ8が実際に開放した際の油圧指令値Tho*の値を取得し、摩擦クラッチ7における伝達トルクのばらつきの大きさを把握する。つまり、上記油圧目標値Thtと油圧指令値Tho*との差を把握する。そして、この油圧目標値Thtと油圧指令値Tho*との差に基づいて、動力伝達保障油圧Tht2´の補正係数Koを算出する。
つまり、有段変速機6における変速制御が実行されるごとに、図6に示すフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS104へと進み、補正係数KoをステップS105において書き換えることで、次回の変速制御時における摩擦クラッチ7での動力伝達保障油圧Tht2´を補正できる。
これにより、摩擦クラッチ7のスリップ締結による要求駆動力の伝達精度の向上を図ることができ、有段変速機6における伝達トルクのばらつきを抑制して変速ショックの発生を抑えることができる。
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1) 駆動系に、駆動源(エンジン1,第2モータジェネレータ5)と、駆動輪32,32と、入力側を前記駆動源(第2モータジェネレータ5)に接続すると共に出力側を前記駆動輪32,32に接続した有段変速機6と、を備え、前記有段変速機6は、変速要素として、高速段にて締結する摩擦係合要素(摩擦クラッチ7)と、低速段にて締結するドグクラッチ8と、を有し、前記有段変速機6への変速要求時、前記ドグクラッチ8の断接指令を出力すると同時に、前記摩擦係合要素7をスリップ締結する変速制御手段(図5)を備えた車両の制御装置において、前記ドグクラッチ8の実断接状態を検出するドグ状態検出手段(ドグクラッチフォーク位置スイッチF)を有し、前記変速制御手段(図5)は、前記ドグクラッチ8を断接するために前記摩擦係合要素7をスリップ締結するときの前記摩擦係合要素7の油圧目標値Tht*と、前記ドグクラッチ8が実際に断接したときの前記摩擦係合要素7への油圧指令値Thoとの差に基づいて、次回変速制御時における前記摩擦係合要素7のスリップ締結により伝達駆動力保障をするときの油圧指令値(動力伝達保障油圧Tht2´)を補正する構成とした。これにより、有段変速機6における伝達トルクのばらつきを抑制して変速ショックの発生を抑えることができる。
図9は、実施例3の統合コントローラにて実行されるローモードからハイモードへの変速制御処理の流れを示すフローチャートである(変速制御手段)。なお、実施例3の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御系及び駆動系の構成は、実施例1と同等であるので説明を省略する。以下、図9の各ステップについて説明する。
ステップS201では、第2モータコントローラ45からの第2モータジェネレータ5の回転数(第2回転数Nm2)、バッテリーコントローラ48からのバッテリー43の充電容量(SOC)、アクセル開度センサ50からのアクセル開度(又は要求駆動力)、車速センサ51からの車速、等の必要情報を読み込み、ステップS202へ進む。
ステップS202では、有段変速機6において、ローモードからハイモードへの変速要求があるか否かを判断し、YES(要求あり)の場合はステップS204へ進み、NO(要求なし)の場合はステップS203へ進む。
ステップS203では、ステップS202での変速要求なしとの判断に続き、有段変速機6の変速モードを現在の状態に維持、すなわち現在ローモードであればローモードに維持し、現在ハイモードであればハイモードに維持し、エンドへ進む。
ステップS204では、ステップS202での変速要求ありとの判断に続き、ドグクラッチ8へ開放指令を出力し、ステップS205へ進む。なお、このドグクラッチ開放指令は、図示しないドグアクチュエータへ出力される。
ステップS205では、ドグクラッチ8を開放するために摩擦クラッチ7をスリップ締結するときの摩擦クラッチ7の油圧目標値Thtを設定し、ステップS206へ進む。ここで、油圧目標値Thtは、第2モータジェネレータ5からの出力トルク(第2トルクTm2)に基づいて算出される。
ステップS206では、トランスミッションコントローラ47へ油圧指令値Thoを出力することで摩擦クラッチ7の油圧制御を実行し、ステップS207へ進む。
ステップS207では、第2モータジェネレータ5から出力されるモータトルク(第2トルクTm2)の制御を実行し、ステップS208へ進む、すなわち、このステップS207では、第2モータジェネレータ5からのモータトルクを制限することでドグクラッチ8に伝わっている(ドグクラッチ8を介して伝達されている)駆動力を制御する。ここで、モータトルク指令値Tmoは、下記式4により算出する。
Tmo=Tm×(1+Ko) ・・・式4
但し、Tm:前回の変速制御時におけるドグクラッチ開放時でのモータトルク指令値
Ko:補正係数
ここで、補正係数Koは、図示しないメモリに記憶されており、モータトルク指令値Tmoを算出するたびにメモリから読み込まれる。また、この補正係数Koは、実施例1において説明した補正係数の学習補正処理により、変速制御が実行されるごとに補正されて書き換えられる。なお、学習補正処理が実行される前では、補正係数Koの初期値としてゼロが設定されている。
ステップS208では、ドグクラッチ8が実際に開放したか否かを判断し、YES(開放)の場合にはステップS209へ進み、NO(締結)の場合はステップS206へ戻る。ここで、ドグクラッチ8の開放判断は、ドグクラッチフォーク位置スイッチFの検出値に基づいて行う。
ステップS209では、ステップS208でのドグクラッチ開放との判断に続き、第2モータジェネレータ5の回転数(第2回転数Nm2)を制御して、この第2回転数Nm2を次第に低減することで変速制御を行い、ステップS210へ進む。ここで、第2モータジェネレータ5の回転数制御は、摩擦クラッチ7の入力回転数と出力回転数との差、つまり摩擦クラッチ7における差回転が次第にゼロになるように制御する。
ステップS210では、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoを動力伝達保障油圧Tht2´に設定し、ステップS211へ進む。動力伝達保障油圧Tht2´とは、摩擦クラッチ7での摩擦力により所定のモータ駆動トルクを保障できる油圧であり、上述の式1により算出する。
ステップS211では、モータ変速が完了したか否かを判断し、YES(変速完了)の場合はステップS212へ進み、NO(変速未完了)の場合はステップS209へ戻る。ここで、変速が完了したか否かの判断は、摩擦クラッチ7における差回転がゼロになったか否かにより行う。差回転がゼロになれば変速が完了したと判断する。
ステップS212では、ステップS211でのモータ変速完了との判断に続き、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoをライン圧に設定し、摩擦クラッチ7を締結してエンドへ進む。これにより、有段変速機6においてドグクラッチ8から摩擦クラッチ7への掛け替えが完了し、ローモードからハイモードへの変速が実行される。
次に、作用を説明する。
まず、実施例3の車両の制御装置における変速制御動作を説明する。
図10は、実施例3の車両の制御装置にて実行される有段変速機の変速制御で、ローモードからハイモードへ変速する際の第2モータジェネレータ回転数・第2モータジェネレータモータトルク・駆動トルク・ドグクラッチ指令・ドグクラッチ状態・摩擦クラッチ指令/状態の各特性を示すタイムチャートである。
時刻t5以前では、有段変速機6においてドグクラッチ8が締結し、摩擦クラッチ7が開放したローモードに設定されている。なお、このとき、第2モータジェネレータ5の回転数は変速段に合わせて高くなっている。
時刻t5において、ローモードからハイモードへの変速要求が発生すると、図9に示すフローチャートにおいてステップS201→ステップS202→ステップS204→ステップS205→ステップS206→ステップS207へと進み、ドグクラッチ8の図示しないドグアクチュエータへ開放指令が出力されると同時に、摩擦クラッチ7の油圧目標値Thtを設定する。つまり、ドグクラッチ8を開放するために、第2モータジェネレータ5からのモータトルク(第2トルクTm2)から摩擦クラッチ7の油圧目標値Thtを算出し、摩擦クラッチ7によって伝達トルク経路の振替を行う。
そして、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoを、経過時間に応じて油圧指令開始値Thsから油圧目標値Thtまで所定の割合で変化させていくことで摩擦クラッチ7の油圧制御を実行する。また、同時に、第2モータジェネレータ5から出力されるモータトルク(第2トルクTm2)を制限し、ドグクラッチ8に伝わっている駆動力を、ドグクラッチ開放可能なトルクに制御する。
これにより、摩擦クラッチ7での締結油圧が増加するに伴って、ドグクラッチ8に伝達されているトルク(一点鎖線で示す)が低減すると共に、第2トルクTm2を制限することでドグクラッチ8に伝わっている駆動力が、短時間でドグクラッチ開放可能なトルク範囲に収まる。
時刻t6において、ドグクラッチ8を介して伝達されている駆動トルクがドグクラッチ8を開放できる所定の範囲に達すると、ドグクラッチ8を開放するためのドグクラッチアクチュエータのトルクが、ドグクラッチ8を介して伝達されている駆動トルクを上回り、ドグクラッチ8が実際に開放される。なお、このとき、ドグクラッチ8が実際に開放したタイミングにおける摩擦クラッチ7への油圧指令値Tho*はここではP1である。
そして、図8に示すフローチャートのステップS208へと進み、ドグクラッチ8が開放したと判断されてステップS209→ステップS210へと進む。つまり、第2モータジェネレータ5の回転数制御を実行して第2回転数Nm2を次第に低減させて、摩擦クラッチ7における差回転をゼロにし、回転数変化により変速を実行する。また、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoを動力伝達保障油圧Tht2´に設定し、摩擦クラッチ7の締結油圧を上昇させる。これにより、ドグクラッチ8が開放した後においても、摩擦クラッチ7の摩擦力により駆動力保障を確保することができる。なお、図9では動力伝達保障油圧Tht2´としてP2が設定されている。
時刻t7において、摩擦クラッチ7における差回転がゼロになると、図8に示すフローチャートのステップS211へと進み、モータ変速が完了したと判断されてステップS212へ進み、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoがライン圧にまで引き上げられる。また、第2モータジェネレータ5の回転数は変速段に合わせて低いまま維持される。
時刻t8において、摩擦クラッチ7への油圧指令値Thoがライン圧に達すると、摩擦クラッチ7の締結が完了し、変速段がローモードからハイモードへと完全に移行する。
次に、実施例2の車両の制御装置における学習補正作用について説明する。
上述のように、有段変速機6におけるローモードからハイモードへの変速過渡期、摩擦クラッチ7をスリップ締結させることで駆動力の振替えと、変速過渡期の駆動力保障との両立を図ると同時に、第2モータジェネレータ5から出力されるモータトルク(第2トルクTm2)を制限し、且つ、ドグクラッチ開放指令時における第2トルクTm2を、ドグクラッチ8を開放する際に設定される摩擦クラッチ7の油圧目標値Thtと、実際にドグクラッチ8が開放した際の油圧指令値Tho*との差に基づいて補正する。
これにより、ドグクラッチ8に伝わっている駆動力が、ドグクラッチ8が開放できるトルク範囲内に収まるように第2トルクTm2を変化させることができ、ドグクラッチ8を確実に開放することができる。
特に、実施例3の車両の制御装置では、ドグクラッチ8の断接指令時において第2モータジェネレータ5のからのモータトルクを制御するので、摩擦クラッチ7の締結油圧を制御する場合と比してより精度よくドグクラッチ8を介して伝達される駆動トルクを制御することができ、開放までの時間短縮を図ることができる。
次に、効果を説明する。
実施例3の車両の制御装置にあっては、実施例1の(1)の効果に加え、下記に列挙する効果を得ることができる。
(3) 前記駆動源に駆動モータ(第2モータジェネレータ5)を有すると共に、前記変速制御手段(図9)は、前記摩擦係合要素(摩擦クラッチ7)のスリップ締結により前記駆動モータ5からの駆動トルクを前記駆動輪32,32へ伝達させるときの前記摩擦係合要素7の油圧目標値Thtと、前記ドグクラッチ8が実際に断接したときの前記摩擦係合要素7への油圧指令値Tho*との差に基づいて、次回のドグクラッチ断接指令時における前記駆動モータ5が出力するモータトルク(第2トルクTm2)を補正する構成とした。これにより、摩擦クラッチ7における油圧制御よりも精度よくトルク制御を実行することができ、ドグクラッチ8を短時間で確実に開放することができる。
まず、構成を説明する。
図11は、実施例4の車両の制御装置における摩擦クラッチの締結油圧とドグクラッチ開放タイミングとの関係を説明する説明図である。以下、図11に基づいて実施例4を説明する。なお、実施例4の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御系及び駆動系の構成は、実施例1と同等であるので説明を省略する。
摩擦クラッチ7をスリップ締結して動力伝達経路をドグクラッチ8か摩擦クラッチ7へと振替えるには、摩擦クラッチ7の締結油圧を、図11にA部で示す油圧指令開始値Thsから油圧目標値Thtへと徐々に上昇させ、摩擦クラッチ締結油圧をドグクラッチ8が開放可能なトルク範囲T1〜T2にする。なお、ドグクラッチ8は、ドグクラッチ8が開放できるためのトルク範囲(T1〜T2)と、ドグクラッチ8を開放するための時間とを必要としており、ドグクラッチ開放可能トルクを一定時間維持しなければならない。
そして、ドグクラッチ8を開放するために摩擦クラッチ7の締結油圧を制御する際、ドグクラッチ8を開放する際に設定した油圧目標値Thtに対して、ドグクラッチ8が実際に開放した時の摩擦クラッチ7への油圧指令値Tho*が設計値範囲(T1´〜T2´)から外れた時(例えば、図11にB部で示す)、すなわち、上記油圧目標値Thtと上記油圧指令値Tho*との差が任意に定めた第1閾値以上の時には、摩擦材の劣化、作動油の低温等により摩擦クラッチ7の締結性能が低下していることが考えられる。
そして、この差が所定値以上の状態で摩擦クラッチ7に負荷を掛け続けると、摩擦クラッチ7の摩擦材の劣化が進み、部品を破損させたり、ドグクラッチ8が開放できない状態が続いたりする可能性がある。
そこで、ドグクラッチ8を開放する際に設定した油圧目標値Thtに対して、ドグクラッチ8が実際に開放した時の摩擦クラッチ7への油圧指令値Tho*が当初設計範囲(T1´〜T2´)外になった時には、次回変速要求時、摩擦クラッチ7によるドグクラッチ8の開放を中止し、第2モータジェネレータ5から出力するモータトルクをゼロにする、もしくはドグクラッチ8を開放できるモータトルクに補正する等、第2モータジェネレータ5から出力するモータトルクをドグクラッチ8が強制的に開放できる大きさに設定する。
これにより、確実にドグクラッチ8を開放できるようになり、摩擦クラッチ7の締結性能の低下により、摩擦クラッチ7によってドグクラッチ8を開放することができなくなっても変速モードをハイモードに変更することができる。
なお、第2モータジェネレータ5から出力するモータトルクをゼロにしてもドグクラッチ8が開放できない場合には、ドグクラッチ8が固着して開放できない状態になったと考えられる。このときには、摩擦クラッチ7を開放し、ドグクラッチ8が締結したままの状態(変速モードはローモードのまま)で走行する。
さらに、実施例4の制御装置では、ドグクラッチ8を開放するために摩擦クラッチ7の締結油圧を制御する際、ドグクラッチ8を開放する際に設定した油圧目標値Thtに対して、ドグクラッチ8が実際に開放した時の摩擦クラッチ7への油圧指令値Tho*が設計値範囲(T1´〜T2´)から何度も外れた時、すなわち、上記油圧目標値Thtと上記油圧指令値Tho*との差が所定回数以上第1閾値以上に達した時、又は、上記油圧指令値Tho*が設定値範囲(T1´〜T2´)から大きく外れた時(図11にC部で示す)、すなわち、上記油圧目標値Thtと上記油圧指令値Tho*との差が第2閾値(>第1閾値)以上になった時には、摩擦クラッチ7が故障していると判断する。
これにより、摩擦クラッチ7の故障を容易に判断することができ、早期発見・修理を行うことができる。
次に、効果を説明する。
実施例4の車両の制御装置にあっては、実施例1の(1)の効果に加え、下記に挙げる効果を得ることができる。
(4) 前記駆動源に駆動モータ(第2モータジェネレータ5)を有すると共に、前記変速制御手段は、前記摩擦係合要素(摩擦クラッチ7)のスリップ締結により前記駆動源5からの駆動トルクを前記駆動輪32,32へ伝達させるときの前記摩擦係合要素7の油圧目標値Thtと、前記ドグクラッチ8が実際に断接したときの前記摩擦係合要素7への油圧指令値Tho*との差が第1閾値以上のときは、次回ドグクラッチ断接指令時における前記駆動モータ5が出力するモータトルクを、前記ドグクラッチ8を断接可能な大きさに設定する構成とした。これにより、摩擦係合要素7の性能低下に拘らずドグクラッチ8を断接することができる。
(5) 前記変速制御手段は、前記摩擦係合要素7のスリップ締結により前記駆動源5からの駆動トルクを前記駆動輪32,32へ伝達させるときの前記摩擦係合要素の油圧目標値と、前記ドグクラッチが実際に断接したときの前記摩擦係合要素への油圧指令値との差が、所定回数以上前記第1閾値以上に達したとき、又は、第2閾値(>第1閾値)以上になったときには、前記摩擦係合要素7が故障していると判断する構成とした。これにより、摩擦係合要素7の故障を容易に判断し、早期発見・修理を実施することができる。
以上、本発明の車両の制御装置を実施例1〜実施例4に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1〜4では、本発明の車両の制御装置を、モータジェネレータを2台有するハイブリッド車両用に適用する例を示したが、一台のモータジェネレータによって駆動と発電を行うハイブリッド車両や、電気自動車や燃料電池車、エンジン車に対しても本発明の車両の制御装置を適用することができる。要するに、駆動源と駆動輪との間に、変速要素として摩擦係合要素とドグクラッチとを有する有段変速機を配置した駆動系を有していれば適用することができる。
また、実施例1〜4では、高速段と低速段とを有する有段変速機を示したが、これに限定されるものではなく、第2モータジェネレータ5のモータ出力軸29に3以上のギア比の異なる駆動ギアと、それぞれをモータ出力軸29に断接する断接要素(一つはドグクラッチ)とを設け、最終出力軸23に各駆動ギアにそれぞれ噛み合う従動ギアを固定し、3段以上の変速段を有する有段変速機であってもよい。
さらに、実施例1〜4では、ドグ状態検出手段としてドグクラッチフォーク位置スイッチFを設けたが、これに限らず、ドグクラッチ8の実際の開放/締結状態を検出するものであればよい。
そして、実施例1〜4では、ドグクラッチ8が締結すると共に摩擦クラッチ7が開放したローモードから、ドグクラッチ8を開放して摩擦クラッチ7を締結するハイモードへの変速制御について説明したが、ハイモードからローモードに変速する時であっても、本発明の変速制御を実行してもよい。