以下、本発明の望ましい形態について図面に基づいて説明する。
<実施の形態1>
この実施の形態1において、殺菌処理しようとする容器は、図12に示すように、飲料等を充填する比較的底の深いカップであり、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレン等所望の樹脂を用いて例えば真空圧空成形により成形される。あるいは、層構成が例えばポリエチレン層/紙/ポリプロピレン層である積層シートを用いることにより形成される。
このカップ1は、略円筒形の胴部2を有する。カップ1の上部は開口部になっており、底部は底板で閉じられている。また、カップ1の開口部の回りにはフランジ3が設けられている。胴部2とフランジ3との境界には、スタッキングリブ2aが設けられている。スタッキングリブ2aは多数のカップ1を積み重ねた際にカップ同士が強く嵌り合わないようにするためのもので、充填機に供給した場合等においてカップ1の山からカップ1を一個ずつ確実に取り出しやすくするために設けられる。胴部2、フランジ3、スタッキングリブ2a等は、カップ1を成形する際に一体的に形成される。
図12中、二点鎖線で示すものはシート状又はフィルム状の殺菌された蓋5であり、カップ1が殺菌され、無菌処理された内容物が充填された後に、フランジ3の上面にヒートシール等によって接着される。これにより、カップ1内が内容物と共に無菌状態に保持された無菌包装体が完成する。
なお、図12中、符号5aは蓋5に設けられた摘み片を示す。この無菌包装体を購入した消費者等がこの摘み片5aを摘んで蓋5をフランジ3から引き剥がすことにより、無菌包装体を開封し内容物である例えば飲料4(図1及び図8参照参照)を取り出すことができる。
上記カップ1は、図1に示すように、無菌チャンバー16内において一連の工程A〜Lを経て、その内外の表面が殺菌処理され、内容物である飲料4が充填され、蓋5で閉じられることにより無菌包装体とされる。無菌チャンバー16内は、給気口16cから無菌エアdが常時供給されることによって、外気が侵入しないように陽圧に保たれている。
次に、工程A〜Lの各々について順に説明する。
(1)工程A
図2及び図3に示すようなリテーナ9が用意される。リテーナ9は、例えばステンレス鋼製の平板をその本体として備える。この平板に長さ方向に沿って、カップ1の胴部2が挿入される容器挿入穴17が複数個形成される。図示例では容器挿入穴17が四個形成されるが、それ以上の個数又はそれ以下の個数に適宜変更可能である。これにより、カップ1は複数列で走行可能となる。
容器挿入穴17は、カップ1の胴部2の上端における外径よりも大きく、フランジ3の外径より小さくなるように形成される。これにより、カップ1の胴部2が容器挿入穴17に挿入されると、フランジ3が容器挿入穴17の周縁のフランジ受け面9a上に留まり、胴部2が容器挿入穴17の周縁から下方に突出する。
容器挿入穴17の周縁のフランジ受け面9aはその全周にわたって平坦な面として形成される。この容器挿入穴17の周縁のフランジ受け面9aは、後にカップ1のフランジ3に蓋材5bをヒートシールする際に、フランジ3を蓋材5bごと図示しない加熱盤と共にプレスするための受け部として使用される。
容器挿入穴17の周縁のフランジ受け面9aには、その上に乗ったフランジ3を取り巻くように環状溝6が形成される。図8に示すように、この環状溝6内の外周壁はトリミング刃19と共に蓋材5bの余剰部分を切除し、蓋5と摘み片5aとを残すための雌刃として機能する。
リテーナ9は多数用意され、図1に示すように、カップ1をそのフランジ3と平行な方向にリテーナ9ごと間欠走行させる走行手段に取り付けられる。走行手段は例えば複数対のスプロケットホイール18a,18b間に水平に掛け渡される複数本の無端チェーン18として構成され、多数のリテーナ9がこの無端チェーン18に所定の間隔で取り付けられる。無端チェーン18よりなる無端走行路上に、多数のリテーナ9が単列又は複数列で取り付けられる。
リテーナ9、無端チェーン18等は上記無菌チャンバー16内に収納される。無端チェーン18の駆動により、この無菌チャンバー16内において、リテーナ9がカップ1を保持しつつ所定のピッチで間欠的に走行する。これにより、多数のカップ1が効率良く各工程へと供給される。
図1に示すように、カップ1の開口部及びフランジ3が上向きとなるようにカップ1の胴部2が、間欠停止したリテーナ9の容器挿入穴17内に挿入される。カップ1はそのフランジ3がリテーナ9のフランジ受け面9aに当接したところでリテーナ9上で静止する。
(2)工程B
図1及び図4に示すように、リテーナ9が間欠走行して工程Bにおいて一時停止すると、リテーナ9の容器挿入穴17内でカップ1が所定の高さだけ持ち上げられる。この持ち上げ高さは、例えばリテーナ9の厚さに2mm〜5mm程度を加えた大きさであり、リテーナ9の厚さを例えば16mmとすれば、カップ1の持ち上げ高さは18mm〜21mm程度である。カップ1の上昇は例えばカップ1を乗せる昇降体32を垂直に配置したエアシリンダ装置35のピストンロッド35aに取り付けることによって行うことができる。
カップ1が持ち上げられた状態で一時停止すると、カップ1のフランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に、過酸化水素のミストa又はガスが吹き付けられる。
これにより、リテーナ9の容器挿入穴17の周縁がその全周にわたってカップ1の外壁に沿うように円形、四角形等の閉線状に形成されていたとしても、図4に示すように、過酸化水素がフランジ3の裏面や、リテーナ9の容器挿入穴17の内周面で覆われるフランジ3の直下の部分である例えばスタッキングリブ2aの表面にも皮膜bとなってムラなく付着し、リテーナ9の陰になる箇所が適正に殺菌される。また、過酸化水素のミストa又はガスはリテーナ9の上面にも吹き付けられ、リテーナ9の少なくとも容器挿入穴17の周縁のフランジ受け面9aにも過酸化水素が皮膜bとなって付着する。
従来、このフランジ3の裏面やリテーナ9の容器挿入穴17の内周面で覆われるフランジ3の直下の部分には菌類が生残しやすく、この生残菌がカップ1内に混入するおそれがあったが、この工程Bによってフランジ3の裏面やフランジ3の直下の部分に付着した菌類が滅菌されることによって、そのようなおそれは払拭されることとなる。
次いで、エアシリンダ装置35の逆動作によって、カップ1がリテーナ9側に降ろされる。これにより、図5に示すように、カップ1はそのフランジ3がリテーナ9の容器挿入穴17の周縁に当接することでリテーナ9上に支持される。その際、フランジ受け面9a上の過酸化水素の皮膜もカップ1のフランジ3の裏面やフランジ3の直下部分にも付着するので、殺菌効果が向上する。
上記過酸化水素のミストa又はガスの吹き付けは、リテーナ9の走行方向に例えば直角に交差するように伸びる図1及び図4に示すようなスリット状ノズル20によって行うことができる。
スリット状ノズル20はこのノズル20に対するエアの導入口から離れた箇所での吐出圧が低下するので、スリットの長さに応じて熱風を追加供給するのが望ましい。
(3)工程C
図1に示すように、カップ1の走行路の下方に配置した殺菌用ノズル7から、カップ1の外面に向かって過酸化水素のミストa又はガスが吹き付けられ、カップ1の外面が殺菌処理される。
この殺菌用ノズル7は、カップ1の所定の間欠停止位置に設置される。殺菌用ノズル7における間欠停止位置で一時停止したカップ1の底部に正対する箇所には、図10に示すように、多数の小さい吐出孔7aが形成される。ノズル7からカップ1の底部に向かって吹き出した過酸化水素のミストa又はガスは、図6に示すように、カップ1の胴部2と底部の外面に均一厚さの皮膜eとなって付着し、カップ1の外面を殺菌する。
この殺菌用ノズル7からカップ1の外面に吹き付けられる過酸化水素のミストaは、フランジ3の直下部分へも付着するので、上記スリット状ノズル20から吐出する過酸化水素ミストaのフランジ3の直下部分に対する付着量の不足分を補うことができる。
また、カップ1の搬送路の上方に配置した殺菌用ノズル8から、カップ1の内面に向かって過酸化水素のミストa又はガスが吹き付けられ、カップ1の内面が殺菌処理される。
この殺菌用ノズル8は、カップ1の所定の間欠停止位置に設置される。殺菌用ノズル8における間欠停止位置で一時停止したカップ1の開口部に正対する箇所には、図10に示すように、多数の小さい吐出孔8aが形成される。
殺菌用ノズル8から過酸化水素のミストa又はガスがカップ1の開口部に向かって吹き付けられると、過酸化水素のミストa又はガスは多数の吐出孔8aからカップ1の開口部に向かってシャワー状に吹き出す。
過酸化水素のミストa又はガスの吐出圧は、多数の吐出孔8aから吹き出す過酸化水素のミストa又はガスの濃度が低下してカップ1の殺菌効果が薄れることがないように、また、過酸化水素のミストa又はガスが無菌チャンバー16内の各所で結露してカップ1内に滴下することがないように設定される。
また、殺菌用ノズル8とカップ1の開口部との間には、殺菌用ノズル8の回りからカップ1の開口部に設けられたフランジ3の回りに向かって延びる囲繞壁22が配置される。無菌チャンバー16内では、後述する乾燥用の熱風cや上記無菌チャンバー16内を陽圧に保つための無菌エアdが絶えず流れているが、この囲繞壁22はこうした熱風cや無菌エアdと殺菌用ノズル8から吹き出す過酸化水素のミストa又はガスの流れとの間を遮断する。
これにより、過酸化水素のミストa又はガスのカップ1に対する吹き付け時の流れは、囲繞壁22によって熱風cや無菌エアdの流れから保護され、乱されることなくカップ1の内面の全面に均一に行き渡り、図6に示すように、均一厚さの皮膜fとなって付着することとなる。その結果、カップ1の内面がムラなく一様に殺菌処理される。
囲繞壁22は、必要に応じて図示しないヒータ等によって加熱される。この加熱により、過酸化水素のミストa又はガスが囲繞壁22に接触することによる結露が防止される。
カップ1を複数列で搬送する場合は、殺菌用ノズル8はカップ1の列ごとに独立して配置してもよいし、全殺菌用ノズル8をカップ1の列間で連通する一体ものとして配置してもよい。囲繞壁22も同様にカップ1の列ごとに独立して配置してもよいし、カップ1の列間で連通する一体ものとして配置してもよい。
なお、図示例では過酸化水素のミストa又はガスのカップ1の内外面に対する吹き付けは同時に行っているが、カップ1の内面に対する吹き付けと外面に対する吹き付けとをカップ1の搬送方向でずらせて行ってもよい。
また、殺菌用ノズル7とカップ1の底部との間にも、殺菌用ノズル7の回りからカップ1の底部の回りに向かって延びる囲繞壁を設けて、殺菌用ノズル7から吐出する過酸化水素のミストa又はガスの流れを乾燥用の熱風cや上記無菌チャンバー16内を陽圧に保つ無菌エアdから保護するようにしてもよい。
(4)工程D
工程Cの直後からカップ1を所定時間だけ走行させることにより、工程Cにおいて吹き付けられた過酸化水素のミストa又はガスがカップ1内に滞留する。これにより、過酸化水素がカップ1の内外面の全面に、より一層均一に行き渡ることになる。さらに、過酸化水素が菌に所定時間付着することにより、殺菌効果が高くなる。
(5)工程E
工程Dにおいて過酸化水素のミストa又はガスがカップ1内に所定時間だけ滞留すると、その後直ちにカップ1の内外面に向かってカップ1が熱で変形しない程度に熱風cが吹き付けられる。これにより、カップ1の内外面に付着した過酸化水素がある程度除去される。また、カップ1のフランジ3とリテーナ9のフランジ受け部9aとの間に挟まれた過酸化水素も乾燥除去される。
熱風cの吹き付けは、図11に示すように、多数の吐出孔27a,28を有した乾燥用ノズル10a,10bをカップ1の開口部と底部に向けることによって行うことができる。
(6)工程F
工程Eに続いて、カップ1の内外面に向かって、カップ1が熱で変形しない程度に、再び熱風cが吹き付けられる。これにより、カップ1の内外面に付着した過酸化水素がさらに除去される。
この熱風cは上記工程Eにおいて使用した乾燥用ノズル10a,10bと同様なノズル11a,11bを用いることにより行われる。
(7)工程G
工程Fに続いて、カップ1の内外面に向かって、カップ1が熱で変形しない程度に、再び熱風cが吹き付けられる。これにより、カップ1の内外面に付着した過酸化水素がさらに除去される。
この熱風cは上記工程Eにおいて使用した乾燥用ノズル10a,10bと同様なノズル12a,12bを用いることにより行われる。
(8)工程H
工程Gに続いて、カップ1の内外面に向かって、カップ1が熱で変形しない程度に、再び熱風cが吹き付けられる。これにより、カップ1の内外面に付着した過酸化水素がさらに除去され、少なくともカップ1の内面の残留過酸化水素量が許容範囲まで低下する。
この熱風cは上記工程Eにおいて使用した乾燥用ノズル10a,10bと同様なノズル13a,13bを用いることにより行われる。
このように、工程E〜Hで繰り返し熱風cをカップ1に吹き付けるのでカップ1に対し全体として多量の熱風を供給することとなり、カップ1に付着した過酸化水素を効率良く除去することができる。
なお、乾燥工程E〜Hの間に、必要に応じて放冷工程、強制冷却工程を設けることも可能である。
(9)工程I
殺菌処理されたカップ1に、その開口部から内容物である飲料4が充填される。飲料4は予め殺菌処理され、冷却されている。
(10)工程J
図1及び図7に示すように、カップ1の開口部に枚葉シート又は連続シートの殺菌された蓋材5bが被せられ、この蓋材5bがカップ1のフランジ3にヒートシールされる。このヒートシールは、図示しない加熱盤がリテーナ9へと降下し、リテーナ9のフランジ受け面9aとの間でカップ1のフランジ3と蓋材5bとを挟んで熱圧着することによって行われる。
リテーナ9は、容器挿入穴17の周縁がその全周にわたってカップ1の外形に対応した形状に形成されているので、リテーナ9の容器挿入穴17の周縁と加熱盤とでフランジ3と蓋材5bとがフランジ3の全周にわたって均一に加熱及び加圧され、従って、カップ1の開口部がその全周にわたって適正に密封される。
(11)工程K
図1及び図8に示すように、トリミング刃19がリテーナ9の方へ降下し、リテーナ9の環状溝6内に侵入する。これにより、蓋材5bの余剰部分がトリミング刃19と環状溝6内の外周壁との間で切断される。
かくて、図12に示したような蓋5で密封された無菌包装体が完成する。
(12)工程L
無菌包装体がリテーナ9から抜き取られ、無菌チャンバー16外へ取り出される。
次に、上記工程A〜Lを実施するための無菌充填装置について説明する。
図1に示すように、無菌充填装置は、カップ1を保持するための多数のリテーナ9、リテーナ9を連続走行させる走行手段を有し、走行手段の走行方向に沿って、カップ1をリテーナ9に供給する供給部16a、カップ1をリテーナ9に対して昇降させる昇降手段としての昇降体32、カップ1のフランジ3の裏面等を殺菌するためのフランジ下殺菌用ノズルであるスリット状ノズル20、カップ1の外面を殺菌するための殺菌用ノズル7、カップ1の内面を殺菌するための殺菌用ノズル8、カップ1の表面から過酸化水素を除去するための乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13b、充填部14、蓋材シール部15、蓋材トリミング部15a、完成した無菌包装体をリテーナ9から取り出す取出部16bを備える。また、走行手段によるカップ1の走行路の全域を覆う無菌チャンバー16を備える。
リテーナ9は、図2及び図3に示すように構成され、図1に示したように、多数のリテーナ9が走行手段としての無端チェーン18に所定の間隔で取り付けられる。
無端チェーン18は、図示しない制御部で制御されるモータにより駆動される。無端チェーン18の駆動によりリテーナ9がカップ1を保持しつつ無菌チャンバー16内を上記供給部16aから取出部16bに向かって所定のピッチずつ間欠的に走行する。
無菌チャンバー16の前端である無端チェーン18の上流側には、カップ1をリテーナ9に供給する供給部16aが設けられる。
供給部16aは、多数のカップ1を積み重ねたカップ集積体からカップ1を一つずつ図示しないサッカー等により取り出してリテーナ9の各容器挿入穴17内に嵌め込むようになっている。
この供給部16aによって各カップ1はリテーナ9の各容器挿入穴17内に正立状態で投入され、その胴部2が容器挿入穴17に挿入される。そして、各カップ1のフランジ3がリテーナ9の容器挿入穴17の周縁におけるフランジ受け面9aに乗り上がり、フランジ3の裏面がリテーナ9のフランジ受け面9aに接触する。
カップ昇降手段は、具体的には昇降体32と、エアで駆動されるピストンシリンダ装置35とを含んだ構成である。ピストンシリンダ装置35が、上記カップ供給部16aの下流においてリテーナ9の上部走行路の下側に垂直に配置され、そのピストンロッド35aの先端に、図1及び図4に示すように、カップ1を底から支える板状の昇降体32が固定される。図示しないピストンのストロークは例えば、カップ1の底と昇降体32との間のクリアランスを10mmに設定した場合、28mm〜31mmである。ピストンシリンダ装置35に代えカム等を用いてカップ1の昇降体32を昇降させるようにしてもよい。
ピストンシリンダ装置35の伸動作によって、図4に示すように、カップ1のフランジ3がリテーナ9から所望の高さだけ持ち上げられると、フランジ下殺菌用ノズルであるスリット状ノズル20から過酸化水素のミストa又はガスがフランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に吹き付けられる。その後、速やかにピストンシリンダ装置35の縮動作により、カップ1が降下し、図5に示すように、そのフランジ3がリテーナ9の容器挿入穴17の周縁に接触する。
フランジ下殺菌用ノズルは、図9に示すように、リテーナ9の走行方向に例えば直角に交差するように伸びる二本のスリット状ノズル20として構成される。二本のスリット状ノズル20はカップ1をその進行方向の前後から挟むように配置される。各ノズル20は多角筒状の箱体33の一つの稜に沿うように形成される。
リテーナ9が一時停止し、カップ1が上記昇降手段のピストンシリンダ装置35によってリテーナ9から浮き上がるように持ち上げられた状態で一時停止すると、カップ1のフランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に、二本のスリット状ノズル20から過酸化水素のミストa又はガスが吹き付けられる。
これにより、図4に示すように、過酸化水素がフランジ下であるフランジ3の裏面やリテーナ9の容器挿入穴17の内周面で覆われるフランジ3の直下の部分にもムラなく皮膜bとなって付着し、リテーナ9の陰になる箇所が適正に殺菌される。
また、過酸化水素のミストa又はガスはリテーナ9の上面にも皮膜bとなって付着する。
次いで、エアシリンダ装置35の逆動作によって、カップ1がリテーナ9側に降ろされ、図5に示すように、カップ1はそのフランジ3がリテーナ9の容器挿入穴17の周縁に当接することでリテーナ9上に再び支持される。その際、フランジ受け面9a上の過酸化水素の皮膜bもカップ1のフランジ3の裏面やフランジ3の直下部分に付着することになり、殺菌効果がさらに高められる。
図9に示すように、上記箱体33には、各々ミスト生成器23が接続される。
このミスト生成器23は、殺菌剤である過酸化水素の水溶液を滴状にして供給する二流体スプレーである過酸化水素供給部24と、この過酸化水素供給部24から供給された過酸化水素の噴霧をその沸点以上、非分解温度以下に加熱して気化させる気化部25とを備える。過酸化水素供給部24は、過酸化水素供給路24a及び圧縮空気供給路24bからそれぞれ過酸化水素の水溶液と圧縮空気を導入して過酸化水素の水溶液を気化部25内に噴霧するようになっている。気化部25は内外壁間にヒータ25aを挟み込んだパイプであり、パイプ内に吹き込まれた過酸化水素の噴霧を加熱し気化させる。気化した過酸化水素のガスは噴霧管26から、ミストaとなって又はガスとして噴出する。
ミスト生成器23内で生成された過酸化水素のミストa又はガスは、そのノズル26から上記箱体33内へと流れ、上述したようにスリット状ノズル20からリテーナ9とカップ1のフランジ3との間に向かって吹き出る。
図9に示すように、スリット状ノズル20はリテーナ9の搬送方向に直交する方向に長く伸びるので、エアの導入口から離れた箇所での吐出圧が低下しやすく、過酸化水素が結露しやすい。そこで、望ましくはミスト生成器23のノズル26から箱体33に向かう導管36に、ヒータ37を有する送風管38が連結される。これにより、この送風管38からノズル20のスリットの長さに応じて熱風が追加供給され、過酸化水素のミストaは箱体33内等で結露することなくスリット状ノズル20からリテーナ9とカップ1のフランジ3との間に向かって吹き出ることとなる。
図1に示すように、カップ1の外面を殺菌するための殺菌用ノズル7は、フランジ下殺菌用ノズルであるスリット状ノズル20の下流側におけるカップ1の間欠停止位置の下方に設置される。
図10に示すように、この殺菌用ノズル7は円錐台形に形成され、その円錐台形が倒立するようにカップ1の下方に設置される。倒立した円錐台の上端板は、間欠停止位置で一時停止したカップ1の底部に正対するように形成され、この上端板に多数の小さい吐出孔7aが如雨露状に穿設される。
カップ1が複数列で搬送される場合は、殺菌用ノズル7は望ましくはカップ1の列ごとに独立して配置される。
この殺菌用ノズル7にも上述したミスト生成器23と同様なミスト生成器23から各殺菌用ノズル7へと過酸化水素のミストa又はガスが供給される。
各殺菌用ノズル7は、各ヘッド室内に供給された過酸化水素のミストa又はガスを、リテーナ9に保持されまま一時停止したカップ1の底部に向かって吐出孔7aから吹き出す。図6に示すように、吐出孔7aからカップ1に吹き付けられた過酸化水素のミストa又はガスはカップ1の外表面に薄い皮膜eとなって付着して結露し、高濃度の過酸化水素となってカップ1の外面を速やかに殺菌する。
なお、この下側の殺菌用ノズル7は、上記円錐台形のノズルをカップ1の列に交差する方向で連通する一体ものとして構成することも可能である。
図1に示すように、カップ1の内面を殺菌するための殺菌用ノズル8は、リテーナ及びカップを挟んで下側の殺菌用ノズル7に対向するように、カップ1の所定の間欠停止位置に設置される。カップ1が複数列で搬送される場合は、望ましくは殺菌用ノズル8はカップ1の列ごとに独立して配置される。
図10に示すように、殺菌用ノズル8は円錐台形に形成され、その円錐台形が正立するようにカップ1の上方に設置される。円錐台の底の端板は、間欠停止位置で一時停止したカップ1の開口部に正対するように形成され、この端板に多数の小さい吐出孔8aが如雨露状に穿設される。
この殺菌用ノズル8にも上述したミスト生成器23と同様なミスト生成器23から各殺菌用ノズル8へと過酸化水素のミストb又はガスが供給される。このミスト生成器23から供給される過酸化水素のミストb又はガスが、殺菌用ノズル8の吐出孔8aから、リテーナ9に保持されまま一時停止したカップ1の開口部に向かってシャワー状に吹き出す。
また、図1及び図10に示すように、上側の殺菌用ノズル8とカップ1の開口部との間には、この殺菌用ノズル8の回りからカップ1の開口部におけるフランジ3の回りに向かって延びる囲繞壁22が設けられる。
無菌チャンバー16内では、後述する乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13bから吹き出す乾燥用の熱風cや上記無菌チャンバー16内を陽圧に保つための無菌エアdが絶えず流れているが、この囲繞壁22はこうした熱風cや無菌エアdと殺菌用ノズル8から吹き出る過酸化水素のミスト又はガスbの流れとの間を遮断する。
これにより、カップ1に対する過酸化水素のミストb又はガスの流れは、囲繞壁22によって熱風cや無菌エアdの流れから保護され、乱れることなくカップ1の開口部からカップ内へと流れる。図6に示すように、この過酸化水素のミストa又はガスはカップ1の胴部2の内面、底部の内面、フランジ3の上面に接触して結露し、高濃度の薄い過酸化水素の皮膜fとなって付着し、カップ1の内表面を速やかにかつ適正に殺菌する。
なお、上側の殺菌用ノズル8は、上記円錐台形のノズルをカップ1の列に交差する方向で連通する一体ものとして構成することも可能である。また、上下の殺菌用ノズル8,7はカップ1の搬送方向の前後でずれるように配置することも可能である。
図1に示すように、乾燥用ノズル10a,10bは、カップ内外面殺菌用ノズル8,7の位置から下流側に所定距離だけ離れたリテーナ9の一時停止位置に設置される。
これにより、過酸化水素のミストa又はガスが吹き込まれたカップ1は乾燥用ノズル10a,10bに至るまでの一定時間だけそのまま保持され、ミストa又はガスがカップ1の内面に均一に付着し、少なくともカップ1の内面が所望程度まで殺菌された後に、乾燥処理に付されることになる。
乾燥用ノズル10a,10bは、図1及び図11に示すように、カップ1を保持して一時停止したリテーナ9を上下から挟むように対向配置される。
図11に示すように、上側の乾燥用ノズル10aは、リテーナ9の走行路を横断する方向に伸びる箱体を有し、この箱体の下面がリテーナ9上で一列に並んだすべてのカップ1の開口及びフランジ3に対向する。この箱体の下面に熱風cを噴出する多数の小さい吐出孔27aが形成される。
吐出孔27aは箱体の下面の全面に穿設してもよいが、カップ1の開口部およびフランジ3に正対する領域に穿設するようにしてもよい。あるいは、箱体に代えて、リテーナ9上のカップ1ごとに如雨露のような多数の吐出孔が開いた円錐体を設けるようにしてもよい。
また、箱体の下面にはカップ1の開口部に対向するように吹き出し筒27bが必要に応じて取り付けられる。この吹き出し筒27bからも熱風cがカップ1の開口に向かって吹き出し、カップ1内に滞留した過酸化水素のミストa又はガスをカップ1外に排出すると共に、カップ1の内面を効率的に加熱してカップ1の内面に付着した過酸化水素を乾燥させる。
下側の乾燥用ノズル10bは、リテーナ9の走行路を横断する方向に伸びる箱体を有し、この箱体の上面がリテーナ9上で一列に並んだすべてのカップ1の底部に対向する。この箱体の上面に熱風cを噴出する多数の吐出孔28が形成される。この下側の乾燥用ノズル10bは、上側の乾燥用ノズル10aと吐出孔28の開口方向が逆である点、また吹き出し筒27bが省略されている点を除いて略同じ構成である。
この下側の乾燥用ノズル10bから吐出される熱風cはカップ1の外面の全面に接触する。従って、カップ1の胴部2の外面についても適正な加熱が行われ、カップ1の外面から余剰の過酸化水素が除去される。
上下の乾燥用ノズル10a,10bはカップ1の走行方向でずれていてもよいが、望ましくはカップ1の走行路を挟んで正対するように配置される。ノズル10a,10b同士を正対させておくことで、カップ1に上下から風圧を作用させ、リテーナ9からのカップ1の脱落を防止することができる。風圧は、下側よりも上側の方を大きくするのが望ましい。
図1に示すように、上記上下の乾燥用ノズル10a,10bと同様な乾燥用ノズル11a,11b,12a,12b,13a,13bが、上下一対となってカップ1の走行路に沿って所定の間隔で配置される。
乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13bの設置数は、少なくともカップ1の内面での残留過酸化水素量を許容範囲内まで低下させることができる総風量を得ることができるように決定される。
乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13bの対間は、リテーナ9の隣り合った間欠停止位置に配置される。しかし、上流側の乾燥用ノズルによる熱風cの吹き付けから次の下流側の乾燥用ノズルによる熱風cの吹き付けまでの間にカップ1が冷却されるように、乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13bの間隔は多少離してもよい。
このようにカップ1に対する熱風cによる加熱が繰り返されることで、残留過酸化水素の除去が適正に行われる。また、後の飲料4の充填、蓋材5bのシールも適正に行われる。
図11に示すように、上記熱風cを作るためにブロア29、フィルタ30、加熱器31等が設けられる。ブロア29からの送風がフィルタ30で除菌され、加熱器31で加熱されて熱風cとされる。この熱風cが上下の乾燥用ノズル10a,10b,11a、11b,12a,12b,13a,13bの箱体27,28内に供給され、各箱体27,28の吐出孔27a,28からカップ1に向かって吹き出すことになる。
充填部14は、図1に示すように、カップ1の走行路において最終の乾燥用ノズル13a,13bよりも下流側におけるリテーナ9の一時停止位置に設置される。充填部14は、リテーナ9により運ばれて来た殺菌済みのカップ1内に殺菌処理済みの例えば飲料4を所定量充填するようになっている。充填部14は公知であるからその詳細な説明は省略する。
蓋材シール部15は、図1に示すように、カップ1の走行路において充填部14よりも下流側のリテーナ9の一時停止位置に設置される。蓋材シール部15は、リテーナ9により運ばれて来た充填済みのカップ1の開口部に蓋材5bを被せ、この蓋材5bの回りをカップ1のフランジ3にヒートシールするようになっている。蓋材5bは枚葉シートとして又は連続シートとしてカップ1の開口部上に供給される。
蓋材シール部15内には、図示しないがカップ1のフランジ3に対応した形状の加熱部を有する加熱盤が昇降可能に設けられる。この加熱盤が上記蓋材5bをカップ1のフランジ3と共にリテーナ9の容器挿入穴17の周縁におけるフランジ受け面9aに押し付ける。これにより、蓋材5bがカップ1のフランジ3にヒートシールされ、カップ1内が密封される。
蓋材トリミング部15aは、図1に示すように、カップ1の走行路において蓋材シール部15よりも下流側のリテーナの一時停止位置に設置される。蓋材トリミング部15a内には、上記蓋材5bから図12に示す蓋5を打ち抜くためのトリミング刃19が昇降可能に設けられる。
図8に示すように、トリミング刃19がリテーナ9の方へ降下してリテーナ9の環状溝6内に侵入すると、蓋材5bの余剰部分がトリミング刃19と環状溝6内の外周壁との間で切断される。これにより、図12に示すように摘み片5aを有した蓋5の輪郭が整えられると共に、蓋5で密封された無菌包装体が完成する。
図1に示すように、無菌包装体をリテーナ9から取り出す取出部16bが、カップ1の走行路において蓋材トリミング部15aよりも下流側のリテーナの一時停止位置に設置される。
取出部16bは、カップ1に飲料4が充填され、蓋5で密封されて完成した無菌包装体を図示しないサッカー等によりリテーナ9から抜き取り、無菌チャンバー16外に取り出すようになっている。
次に、上記構成の無菌充填装置の作用について説明する。
無菌チャンバー16内が、予め過酸化水素等の殺菌剤ミスト又はガスの供給、紫外線照射等により殺菌される。また、無菌チャンバー16内に給気口16cから無菌エアdが常時吹き込まれ、この無菌エアdが無菌チャンバー16の図示しない所定の出入口や隙間から排出されることによって、無菌チャンバー16内の無菌状態が維持される。
リテーナ9が間欠走行し、カップ供給部16aで一時停止すると、カップ供給部16aからカップ1がリテーナ9の容器挿入穴17内に供給される。
各カップ1のフランジ3は、リテーナ9の容器挿入穴17の周縁におけるフランジ受け面9aに乗り上がり、フランジ3の裏面がリテーナ9のフランジ受け面9aに接触する。
図1及び図4に示すように、ピストンシリンダ装置35の伸動作によって、昇降体32上のカップ1がリテーナ9から所望の高さだけ持ち上げられて一時停止する。これにより、カップ1のフランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に隙間が生じる。
フランジ下殺菌用ノズルであるスリット状ノズル20から過酸化水素のミストa又はガスがフランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に吹き付けられる。これにより、図4に示すように、過酸化水素がフランジ3の裏面やリテーナ9の容器挿入穴17の内周面で覆われるフランジ3の直下の部分にも皮膜bとなってムラなく付着し、リテーナ9の陰になる箇所が適正に殺菌される。過酸化水素のミストa又はガスはリテーナ9の上面にも皮膜bとなって付着する。
その後、ピストンシリンダ装置35の縮動作により、昇降体32上のカップ1が降下し、そのフランジ3がリテーナ9の容器挿入穴17の周縁に接触する。その際、図5に示すように、フランジ受け面9aに付着した過酸化水素がカップ1のフランジ3の裏面やフランジ3の直下部分に付着するので、フランジ3の裏面等の殺菌効果がさらに高められる。
フランジ3下に過酸化水素のミストa又はガスが供給されたカップ1は、リテーナ9によって上下の殺菌用ノズル8,7へと搬送されて一時停止する。
カップ1の開口部と底部が下側の殺菌用ノズル7に夫々正対すると、殺菌用ノズル7の多数の吐出孔7bから、カップ1の底部に向かって過酸化水素のミストa又はガスが吹き付けられる。図6に示すように、過酸化水素のミストa又はガスはカップ1の外面に薄い皮膜eとなって付着して結露し、高濃度の過酸化水素となってカップ1の外面を速やかに殺菌する。
また、下側の殺菌用ノズル8の吐出孔8aから、カップ1の開口部に向かって過酸化水素のミストa又はガスが吹き付けられる。図6に示すように、この過酸化水素のミストa又はガスはカップ1の胴部2の内面、底部の内面、フランジ3の上面に接触して結露し、高濃度の薄い過酸化水素の皮膜fとなって付着し、カップ1の表面を速やかにかつ適正に殺菌する。
内外面に過酸化水素の皮膜f,eが付着したカップ1は、各乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13bに対向する都度停止し、上下の乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13bによって熱風を吹き付けられる。
乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13bの各上下対はそれぞれカップ1の開口側と底面側からカップ1を挟むように熱風cを吹き付けるので、カップ1は軽いもの、面積の大きいものであっても、リテーナ9から脱落することなく走行する。
乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13bにより吹き付けられる熱風cによってカップ1の内外面が加熱され、これによりカップ1の表面に付着した過酸化水素が乾燥し除去される。カップ1は搬送中に複数箇所の乾燥用ノズル10a,10b,11a,11b,12a,12b,13a,13bによって繰り返し熱風cを吹き付けられるので、カップ1の表面に付着した過酸化水素は効率よく除去される。
最終の乾燥用ノズル13a,13b間を通過したカップ1は、残留過酸化水素が許容値内まで低下しており、リテーナ9が次の充填部14で一時停止することにより、充填部14によってカップ1内に定量の飲料4が充填される。
飲料4が充填されたカップ1を保持しつつ、リテーナ9が次の蓋材シール部15で一時停止すると、蓋材シール部15によってカップ1の開口に殺菌された蓋材5bが被せられ、蓋材5bがカップ1のフランジ3にヒートシールされ、これによりカップ1が密封される。
蓋材5bがヒートシールされたカップ1を保持しつつ、リテーナ9が次の蓋材トリミング部15aで一時停止すると、蓋材トリミング部15aによって蓋材5bがトリミングされ、これにより蓋5としての輪郭が整えられ、無菌包装体が完成する。
無菌包装体を保持しつつ、リテーナ9が取出部16bで一時停止すると、取出部16bの図示しないロボット等により、無菌包装体が無菌チャンバー16の外に製品として取り出される。
<実施の形態2>
図13に示すように、カップ1の昇降手段が定位置でカップ1を昇降させるものであるのに対し、この実施の形態2の昇降手段は、リテーナ9と平行に走行する無端体39を具備している。
この無端体39は、カップ1の取出部16aからフランジ下殺菌用ノズルであるスリット状ノズル20の設置位置へと伸びるように、リテーナ9の上部走行路の下方に設けられる。無端体39の上部走行路は、その上に乗ったカップ1を実施の形態1の場合と同様にリテーナ9から少しばかり浮き上がらせることができるような位置に設定される。この無端体39は、図示しないモータによりリテーナ9と同期的に間欠走行するようになっている。
この実施の形態2の殺菌装置は上記構成を備えることから、リテーナ9及び無端体39が間欠走行し、カップ供給部16aからカップ1がリテーナ9の容器挿入穴17内に供給され、カップ1の底部が無端体39の上部走行路上に乗ると、カップ1はそのフランジ3がリテーナ9の容器挿入穴17の周縁におけるフランジ受け面9aから少しばかり浮き上がった状態で走行する。
これにより、カップ1及びリテーナ9は、カップ1のフランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に隙間が生じた状態でフランジ下殺菌用ノズルであるスリット状ノズル20の位置に到達する。無端体39とリテーナ9は同期的に走行するので、カップ1は揺れたり倒れたりすることなく走行する。
カップ1がスリット状ノズル20に到達して一時停止すると、このノズル20から過酸化水素のミストa又はガスが、フランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に吹き付けられる。
これにより、図4に示すように、過酸化水素がフランジ3の裏面やリテーナ9の容器挿入穴17の内周面で覆われるフランジ3の直下の部分にも均一な皮膜bとなって付着し、リテーナ9の陰になる箇所が適正に殺菌される。過酸化水素のミストa又はガスはリテーナ9の上面にも皮膜bとなって付着する。
その後、無端体39とリテーナ9とがさらに進行すると、カップ1は無端体39から離れ、自重で落下し、そのフランジ3がリテーナ9の容器挿入穴17の周縁に接触する。
その際、図5に示すように、フランジ受け面9aに付着した過酸化水素がカップ1のフランジ3の裏面やフランジ3の直下部分に付着し、フランジ3の裏面等の殺菌効果がさらに高められる。
フランジ下に過酸化水素のミストa又はガスが供給されたカップ1は、リテーナ9によって上下の殺菌用ノズル7へと搬送され、内外面に過酸化水素のミストa又はガスを吹き付けられる。
以後、カップ1は実施の形態1と同様にして処理され無菌包装体とされる。
なお、実施の形態2において実施の形態1と同様な箇所には同じ符号を付して示し、重複した説明を省略する。
<実施の形態3>
この実施の形態3において、カップ1(図12参照)は、図14に示すように、無菌チャンバー16内において一連の工程A〜Lを経て、その内外の表面が殺菌処理され、内容物である飲料4が充填され、蓋5で閉じられることにより無菌包装体とされる。
工程A、工程D〜工程Lは実施の形態1と同様であるからそれらの工程の説明は省略し、工程B、B1、Cについてのみ説明する。
(1)工程B
図14乃至図16に示すように、リテーナ9が間欠走行して工程Bにおいて一時停止すると、リテーナ9の容器挿入穴17内でカップ1がエアシリンダ装置35のピストンロッド35aに連結された昇降体32によって所定の高さだけ持ち上げられる。この持ち上げ方法は実施の形態1と同様であるから説明を省略する。
この工程Bにおけるリテーナ9の上方には、後述する筒状のフランジ下殺菌用ノズル40が配置され、上記所定高さだけ持ち上げられるカップ1の上部がこの筒状のフランジ下殺菌用ノズル40内に入り込む。
なお、図16では、持ち上げられたカップ1とフランジ下殺菌用ノズル40とは離反した状態で図示してある。
フランジ下殺菌用ノズル40からは、カップ1のフランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に向かって、過酸化水素のミストa又はガスが吹き出ており、この過酸化水素が図15に示すように、フランジ3の裏面や、リテーナ9の容器挿入穴17の内周面で覆われるフランジ3の直下の部分である例えばスタッキングリブ2aの表面にも皮膜bとなってムラなく付着する。これにより、リテーナ9の陰になる箇所が適正に殺菌される。
次いで、エアシリンダ装置35の逆動作によって、カップ1がリテーナ9側に降ろされる。これにより、図5に示すと同様に、カップ1はそのフランジ3がリテーナ9の容器挿入穴17の周縁に当接することでリテーナ9上に支持される。
図15及び図16に示すように、フランジ下殺菌用ノズル40は、上記昇降体32によって持ち上げられたカップ1がリテーナ9の容器挿入穴17よりも上方に突出する部分に被さる二重筒を備える。
二重筒のうち内筒41は、カップ1のフランジ3よりもやや大きい径を有し、リテーナ9上に持ち上げられて容器挿入穴17上に突出するカップ1の上部よりもやや長い円筒として形成される。内筒41の上端は開放されていてもよいが、望ましくは天板42で閉じられる。
この内筒41には、上記持ち上げられたカップ1のフランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に対向するように、多数の小孔43が穿設される。この多数の小孔43は円筒の周方向に所定のピッチで穿設され、さらに内筒41の高さ方向に複数段穿設される。図15及び図16では、小孔43は三段に設けられるが一段又は四段以上設けることも可能である。また、円筒の高さ方向又は周方向に千鳥状に設けることも可能である。小孔43の形は円形に限らず、矩形、楕円形等他の形状にすることも可能である。
二重筒のうち外筒44は内筒41よりもやや大きい径を有する円筒として形成される。外筒44の上端には、フード45が取付けられ、このフード45内に図16に示すミスト生成装置23から過酸化水素のミストa又はガスが供給される。この外筒44の下端と内筒41の下端との間は環状の底板46で閉じられる。
これにより、ミスト生成装置23から過酸化水素のミストa又はガスがフランジ下殺菌用ノズル40内に供給されると、この過酸化水素のミストa又はガスが上記内筒41の小孔43から、上記持ち上げられたカップ1のフランジ3とリテーナ9の容器挿入穴17の周縁との間に向かって吐出される。より詳しくは、フード45から外筒44内に流入した過酸化水素のミストa又はガスは内筒41の天板42に当たって内外筒41,44間の環状空室へと向かって流れ、底板46に遮られて小孔43へと向かい、小孔43からカップ1の上部外面に向かって流出する。そして、図15に示すように、過酸化水素のミストa又はガスがカップ1のフランジ3の裏面とフランジ直下の部分に皮膜bとなって付着する。
なお、図16に示すミスト生成装置23は実施の形態1におけるものと同様な構成であるが、実施の形態2のフランジ下殺菌用ノズル40は実施の形態1のスリット式のものよりも過酸化水素のミストa又はガスの保温効果が高いので、実施の形態1におけるヒータ37、送風管38等は省略される。
(2)工程B1
図14に示すように、カップ1の走行路の下方に配置した殺菌用ノズル7から、カップ1の外面に向かって過酸化水素のミストa又はガスが吹き付けられ、カップ1の外面が殺菌処理される。
この殺菌用ノズル7は、カップ1の所定の間欠停止位置に設置される。殺菌用ノズル7は実施の形態1におけるものと同様であるから、その説明は省略する。
殺菌用ノズル7からカップ1の底部に向かって吹き出した過酸化水素のミストa又はガスは、図6に示したと同様に、カップ1の胴部2と底部の外面に均一厚さの皮膜eとなって付着し、カップ1の外面を殺菌する。
(3)工程C
図14に示すように、カップ1の搬送路の上方に配置した殺菌用ノズル8から、カップ1の内面に向かって過酸化水素のミストa又はガスが吹き付けられ、カップ1の内面が殺菌処理される。
この殺菌用ノズル8は殺菌用ノズル7よりも下流側におけるカップ1の間欠停止位置に配置される。この殺菌用ノズル8は実施の形態1におけるものと同様であるから、その説明は省略する。
殺菌用ノズル8から過酸化水素のミストa又はガスがカップ1の開口部に向かって吹き付けられると、過酸化水素のミストa又はガスは多数の吐出孔8a(図10参照)からカップ1の開口部に向かってシャワー状に吹き出す。過酸化水素のミストa又はガスのカップ1に対する吹き付け時の流れは、囲繞壁22によって熱風cや無菌エアdの流れから保護され、乱されることなくカップ1の内面の全面に均一に行き渡り、図6に示したと同様に、均一厚さの皮膜fとなって付着することとなる。その結果、カップ1の内面がムラなく一様に殺菌処理される。
なお、工程B1と工程Cは順序を入れ替えることも可能であるし、同時に行うことも可能である。
(実験例1)
図12に示すような外観を有し、開口内径52mm、開口外径71mm、フランジ幅4mm、底面径46mm、高さ107mmの大きさに成形されたポリプロピレン(PP)製カップを多数個用意し、各カップにおけるフランジ裏面と、リテーナの容器挿入穴の内周面で覆われるフランジ直下部分とにBI(biological indicator)を貼り付けた。
BIは、5mm角のアルミニウム箔、及び両面粘着テープを貼り付けた各シャーレをエチレンオキサイドガス(EOG)で滅菌し、各シャーレ内に貼着した両面粘着テープ上に上記アルミニウム箔を貼り付け、各アルミニウム箔に2.3×105ヶ/spotの枯草菌芽胞を塗布し、しかる後、クリーンベンチ内で風乾することにより作成した。
BIを貼付した各カップについて、図1の工程(A)〜(H)を実施例1,2,4として行い、図13の工程(A)〜(H)を実施例3,5として行った。
リテーナとして図2に示すものを使用した。リテーナは間欠走行させるものとした。
フランジ下殺菌用ノズルは、図9に示すような配置でセット、スリット長を200mm、スリット幅を1mm、リテーナに対する傾斜角を42°、ノズル間距離を100mm、ノズル先端からリテーナまでの距離を22mmとした。
実施例1,2,4では、実施の形態1の昇降体を用いてカップをそのフランジがリテーナに接した状態から上方に20mm程度浮上するように持ち上げて、過酸化水素ミストを各々所定時間吹き付けた。この過酸化水素ミストを吹き付ける時間、すなわち噴霧時間(カップの一時停止時間)は昇降体によってカップが上昇している時間であり、各々0.5秒、0.8秒、0.3秒とした。
実施例3,5については、実施の形態2の無端体を用いてカップをそのフランジがリテーナに接した状態から上方に20mm程度浮上するように持ち上げることとし、リテーナ及び無端体が一時停止した時間内に過酸化水素ミストを噴霧した。この噴霧時間は、各々0.5秒、0.3秒とした。
各フランジ下殺菌用ノズルから吐出する過酸化水素ミストは、35%過酸化水素溶液を流量6g/minで、図9に示すミスト生成器23に供給することによって生成した。
次いで、図1(C)の工程又は図13(C)の工程によって、カップの内外面に向かって過酸化水素ミストを吹き付けた。この過酸化水素ミストは、図10に示すミスト生成器23をカップ内面用と外面用とにそれぞれ用意して生成した。カップ内面用のミスト生成器では、35重量%過酸化水素溶液を流量4g/min、噴霧エアを流量0.09m3/minで供給することによってミストを生成し、カップ外面用のミスト生成器では、35重量%過酸化水素溶液を流量8g/min、噴霧エアを流量0.12m3/minで供給することによってミストを生成した。
その後、75mmφの円盤に口径15mmφの噴霧口を形成したものをノズルとして、乾燥エアをカップの内面に向かって4回に分けて吹き付け、フランジ等に付着した過酸化水素を乾燥させた。乾燥エアは、140℃に加熱し、風量を0.6m3/minとした。
その後、カップからBIを剥し取り、トリプトソイブイヨン培地中で、35°C×7日間培養し、菌の発生の有無を確認し、表1に示す滅菌効果(Log Reduction)=Log(付着菌数/生残菌数)を得た。
表1中、数字はカップのフランジ裏等への過酸化水素の付着量であり、単位はμL/cm2である。
比較例は、フランジがリテーナに接したままのカップに対して、フランジ下殺菌用ノズルにより過酸化水素ミストを吹き付けることによって実施した。
表1から明らかなように、カップの昇降方法の如何を問わず、過酸化水素ミストを0.5秒以上吹き付けることで、カップのフランジ裏とフランジ直下における殺菌効果を6D以上にすることができる。
(実験例2)
実験例1で用いたと同様なBIを貼付した各カップについて、図14の工程A〜Hを実施例6〜9として行った。また、図14の工程Bのフランジ下殺菌用ノズル40を上記実験例1で用いたスリット状ノズル20に交換して比較例1,2を実施した。
実施例及び比較例のいずれにおいても、リテーナとして10列走行用のものを使用した。リテーナは間欠走行させるものとした。
まず、工程Aにおいてカップを10列走行用のリテーナに供給した後、工程Bを次のようにして行った。
実施例6〜9において、フランジ下殺菌用ノズルは、図16に示した4列を10列に変更してセットした。各フランジ下殺菌用ノズルは、外筒の内径を89mm、内筒の内径を80mm、内筒の下端から天板までの距離を20mm、小孔の径を1mm、小孔の周方向ピッチを3mmとした。また、フランジ下殺菌用ノズルは、小孔を設ける段数が1段のものと2段のものとを用意し、実施例6,8において1段のものを使用し、実施例7,9において2段のものを使用した。フランジ下殺菌用ノズルの下端からリテーナまでの距離は6mmとした。
実施例6〜9及び比較例1,2において、実施の形態1の昇降体を用いてカップをそのフランジがリテーナに接した状態から上方に18mm程度浮上するように持ち上げて、過酸化水素ミストを各々所定時間吹き付けた。この過酸化水素ミストを吹き付ける時間、すなわち噴霧時間(カップの一時停止時間)は昇降体によってカップが上昇して停止している時間であり、各々1.2秒とした。
また、実施例6〜9及び比較例1,2において、各々カップは10列で走行させ、10個のカップを各々単一のミスト生成器からのミストによって殺菌するものとした。ミスト生成器への過酸化水素供給量は、35%過酸化水素溶液を供給するものとして、実施例6,7及び比較例1において各々流量30g/minとし、実施例8,9及び比較例2において流量50g/minとした。
次いで、図14のB1の工程でカップの外面に向かって過酸化水素ミストを吹き付け、続いて図14Cの工程によって、カップの内面に向かって過酸化水素ミストを吹き付けた。この過酸化水素ミストは、実験例1の場合と同様にして生成した。
その後、図14E〜Hの工程によって、実験例1と同様にして乾燥エアでカップに付着した過酸化水素を乾燥させた。
過酸化水素の乾燥後、カップからBIを剥し取り、トリプトソイブイヨン培地中で、35°C×7日間培養し、菌の発生の有無を確認し、表2に示す滅菌効果(Log Reduction)=Log(付着菌数/生残菌数)を得た。
表2から明らかなように、カップのフランジ裏及びフランジ直下の部分における殺菌効果を6D以上にする場合、実施の形態3における二重筒式のフランジ下殺菌用ノズルを用いると、実施の形態1におけるスリット式のフランジ下殺菌用ノズルを用いるよりも、過酸化水素の使用量を著しく低減することができた。
なお、本発明は上記実施の形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変更可能である。