JP5364075B2 - 熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法およびそれにより得られた硬化物 - Google Patents

熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法およびそれにより得られた硬化物 Download PDF

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本発明は、パワーデバイスのような高耐熱性を必要とする封止材料に用いられる、長期耐熱性および耐ヒートサイクル性に優れた熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法およびそれにより得られた硬化物に関するものである。
従来から、トランジスターやIC、LSI等の半導体素子は、通常、セラミックパッケージやプラスチックパッケージ等にて封止され、半導体装置化されている。前者のセラミックパッケージは、構成材料そのものが耐熱性を有し、かつ耐湿性にも優れているので、高温高湿下に対しても優れた耐性を有しており、さらに機械的強度にも優れ、信頼性の高い封止が可能である。しかしながら、上記セラミックパッケージは構成材料が比較的高価であることや、量産性に劣るという問題点を有することから、近年は後者のプラスチックパッケージによる樹脂封止が主流となっている。上記プラスチックパッケージによる樹脂封止には、従来から耐熱性に優れるという性質を利用してエポキシ樹脂組成物が用いられており、良好な実績を収めている。このような半導体素子を封止するためのエポキシ樹脂組成物としては、一般的に主材としてのエポキシ樹脂と、硬化剤としてのフェノール樹脂、硬化促進剤としてのアミン系化合物、さらにその他の任意成分として弾性付与剤であるゴム成分、無機質充填剤であるシリカ粉末等からなる組成物が、特にトランスファー成形時の封止作業性等の点において優れたものとして用いられている。
一方で、アリル基を有するフェノール樹脂を含む半導体封止材等の絶縁材料が、これまでにもいくつか提案されているが、耐熱性に関して未だ充分に満足するものは得られていないのが実情である。上記アリル基を有するフェノール樹脂を含む半導体封止材等の絶縁材料として、例えば、接着性の向上を図ったもの(特許文献1参照)、耐吸湿性を改良したもの(特許文献2参照)、熱硬化性樹脂組成物の溶融粘度を低下させたもの(特許文献3参照)、レーザーマーキング性の向上を図ったもの(特許文献4参照)、低熱膨張性を有するもの(特許文献5参照)等があげられる。これらは各々の特性については良好なものの、耐熱性に関しては充分満足のいくまでには至っていない。また、耐熱性を向上させた例として、アリル基を有するフェノール樹脂とビスマレイミド樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物が提案されている(特許文献6参照)が、このビスマレイミド樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物は、成形時には封止材等で一般に用いられているエポキシ樹脂−フェノール樹脂の硬化反応と比較すると反応性に乏しく、作業性が悪いという問題がある。さらに、アリル基を有するフェノール樹脂およびエポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を用いてガラス転移温度を向上させたものはある(特許文献7〜10参照)が、これらはいずれの場合も後硬化温度は200℃以下であり、上記アリル基は硬化しておらず耐熱性の向上には至っていない。このアリル基の熱硬化は、200℃を超える高温を必要とし非常に反応性が低いため、アリル基を積極的に硬化させることで、耐熱性を向上させるということはこれまでに検討されていなかったのが実情である。
また、フェノール骨格に代えてナフトール骨格を備えたナフトール樹脂を用い、このナフトール骨格にアリル基を導入することにより、耐熱性および低吸水性を向上させてなる熱硬化性樹脂組成物が提案されている(特許文献11〜18)。しかし、上記アリル基を有するフェノール樹脂を含む半導体封止材等の絶縁材料と同様に、これらはいずれの場合も後硬化温度は200℃以下であるため、上記アリル基は硬化に関与しておらず大幅な耐熱性の向上には至っていない。
特開平8−306828号公報 特開平7−145300号公報 特開平9−31167号公報 特開平4−249526号公報 特開平6−263841号公報 特開平3−237126号公報 特開2001−11161号公報 特開平5−132539号公報 特開平5−320317号公報 特開平6−136093号公報 特開平5−85156号公報 特開平5−85157号公報 特開平7−173236号公報 特開平7−173237号公報 特開平7−173238号公報 特開平7−242726号公報 特開平7−242727号公報 特開平7−252342号公報
ところで、大型家電製品や産業機器において、大電力の制御等を行う半導体装置として、トランジスターやダイオード、サイリスター等のパワーデバイスがある。このようなパワーデバイスは、電力変換器での損失を大幅に低減するために、Si素子からSiC素子やGaN素子への置き換えが検討されている。このように、SiC素子やGaN素子に置き換えることにより大容量化は可能となるが、その結果、高電圧下に曝され、半導体素子の発熱温度が200〜250℃と非常に高くなると考えられる。したがって、半導体装置が耐熱性に劣るものであると、パッケージや半導体素子の破壊が生起しやすくなる可能性がある。
このため、封止樹脂の耐熱性を向上させる方法としては、シリコーンオイルや、ゴム成分を封止樹脂組成物中に添加することも考えられるが、これら添加成分はフレームと封止樹脂の界面に滲出する恐れがあり、上記界面での接着力が低下する等の問題が新たに生じる。
一方、半導体素子を封止する成型方法として、液状封止樹脂を用いたスクリーン印刷やディスペンス成型、固形の封止樹脂を用いたトランスファー成型、シート成型、コンプレッション成型等、種々の成型方法が存在するが、いずれの成型方法を用いる場合であれ、熱硬化性樹脂組成物には流動性および硬化性が要求される。
従来の熱硬化性樹脂組成物の中には高耐熱性の硬化樹脂も存在するが、このような熱硬化性樹脂組成物は反応速度が遅いため硬化性不良により成形性が悪くなることが考えられる。また、熱硬化性樹脂組成物として、熱硬化反応時にガス等の副生成物が発生するものもある。このような熱硬化性樹脂組成物を半導体封止材用途に用いた場合、成形中にガス等の副生成物が発生すると、このガスが原因で封止樹脂中にボイド等が形成され、デバイスの故障が発生したり等、信頼性が低下するという問題が生じる。
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、例えば、パワーデバイスのような高耐熱性を必要とする電子部品での絶縁用途において、高いガラス転移温度を有し長期耐熱性に優れ、デバイスとしての信頼性を向上させることができる高耐熱性を備えた熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法およびそれにより得られた硬化物の提供をその目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、下記の(A)〜(C)成分を含有する熱硬化性樹脂組成物を100〜200℃の温度にて1〜60分間加熱した後、さらに220〜350℃の温度で10〜6000分間加熱することにより上記熱硬化性樹脂組成物を硬化させる熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法を第1の要旨とする。
(A)下記の式(1)で表される構造単位および下記の式(2)で表される構造単位を含有するアリルエーテル化ナフトール樹脂。
Figure 0005364075
(B)エポキシ樹脂。
(C)硬化促進剤。
また、本発明は、熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法により得られてなる硬化物を第2の要旨とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、上記アリルエーテル化ナフトール樹脂〔(A)成分〕とエポキシ樹脂〔(B)成分〕、そして硬化促進剤〔(C)成分〕を含む熱硬化性樹脂組成物を用い、これをまず100〜200℃の温度で1〜60分間加熱した後、220〜350℃の温度で10〜6000分間加熱することにより硬化物を作製すると、得られる硬化物は、例えば、200〜250℃以上の長期耐熱性を充分に満足でき、パワーデバイスのように高耐熱性を必要とする用途に用いることができることを見出し、本発明に到達した。
上記アリルエーテル化ナフトール樹脂〔(A)成分〕およびエポキシ樹脂〔(B)成分〕は、それぞれナフトール性水酸基およびエポキシ基を有するため、上記100〜200℃の温度で加熱反応させることにより、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させた後の成形型からの離型が容易となり、トランスファー成形に代表される半導体封止材料を用いた樹脂封止成形プロセスにおいて、生産性が良好になると考えられる。また、上記アリルエーテル化ナフトール樹脂〔(A)成分〕は、アリル基を有することから220℃より高い温度条件下で後硬化させることができる。すなわち、一部のアリル基を220℃より高い温度条件下で熱硬化させると、硬化物のガラス転移温度(Tg)が向上すると考えられる。また、エポキシ基とナフトール性水酸基との反応により形成された架橋部分が、例えば、非常に高温であるパワーデバイスの使用環境温度に曝されることにより開裂等すると、熱硬性樹脂組成物の硬化物が柔軟になる恐れがあるところ、上記硬化に関与しなかったアリルエーテル化ナフトール樹脂〔(A)成分〕の有するアリル基が、高温により徐々に反応し、強固な結合を形成するようになると推測される。
そして、本発明者らは、一連の研究を重ねた結果、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分を含む熱硬化性樹脂組成物を用いて上記特定の加熱硬化条件にて得られる硬化物では200〜250℃あるいはそれ以上の温度での長期耐熱性を充分に満足でき、パワーデバイスのように高耐熱性を必要とする用途に用いることができることを見出したのである。
このように、本発明は、前記アリルエーテル化ナフトール樹脂〔(A)成分〕と、エポキシ樹脂〔(B)成分〕と、硬化促進剤〔(C)成分〕を含有する熱硬化性樹脂組成物を用い、これを、100〜200℃の温度にて1〜60分間加熱した後、さらに220〜350℃の温度で10〜6000分間加熱することにより上記熱硬化性樹脂組成物を硬化させる方法である。このようにして得られる硬化物は、液状封止樹脂材料によるスクリーン印刷やディスペンス成形、あるいはトランスファー成形、シート成形、コンプレッション成形等に供与して半導体装置を成形することができる。得られる半導体装置は、200〜250℃のような高温雰囲気下に長期間曝されても分解し難い優れた長期耐熱性が付与される。
そして、上記アリルエーテル化ナフトール樹脂〔(A)成分〕のアリル基当量が100〜3000当量(g/eq.)であると、耐熱性に一層優れたものが得られる。
また、上記アリルエーテル化ナフトール樹脂〔(A)成分〕のナフトール性水酸基当量が100〜3000当量(g/eq.)であると、耐熱性および硬化性に一層優れたものが得られる。
さらに、上記アリルエーテル化ナフトール樹脂〔(A)成分〕とエポキシ樹脂〔(B)成分〕の配合割合が、(A)成分のナフトール性水酸基1当量に対して(B)成分のエポキシ当量が0.5〜3.0当量の範囲であると、一層優れた反応性を奏するようになる。
アリルエーテル化ナフトール樹脂あるいはナフトール樹脂と、エポキシ樹脂との硬化物の後硬化条件によるガラス転移温度の変化を示す後硬化条件−ガラス転移温度(℃)の曲線図である。
本発明に用いられる熱硬化性樹脂組成物は、特定のアリルエーテル化ナフトール樹脂(以下、単に「アリルエーテル化ナフトール樹脂」という場合がある。)(A成分)と、エポキシ樹脂(B成分)と、硬化促進剤(C成分)とを用いて得られるものであり、通常、液状、あるいは粉末状、もしくはその粉末を打錠したタブレット状にして封止材料に供される。
上記アリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)は、下記の式(1)で表される構造単位および下記の式(2)で表される構造単位を含有するナフトール樹脂である。
Figure 0005364075
上記式(1)において、Xは、−H,−OH,アリロキシ基,炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基であるが、特に好ましくは−H,−OHまたはアリロキシ基である。
また、上記式(2)において、Yは、−H,−OH,炭素数1〜6のアルキル基または
フェニル基であるが、特に好ましくは−Hまたは−OHである。
そして、上記アリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)としては、上記式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位の割合が、重量比で、式(1)/式(2)=100/0〜10/90であることが好ましい。特に好ましくは式(1)/式(2)=100/0〜50/50である。
上記アリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)のナフトール性水酸基当量(ナフトール価)は、100〜3000当量(g/eq.)の範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜1000当量(g/eq.)、特に好ましくは100〜500当量(g/eq.)である。すなわち、ナフトール性水酸基当量が小さすぎると、硬化物の架橋点密度が高くなることに起因するためか破断伸び率が大きくなり難い傾向がみられ、逆にナフトール性水酸基当量が大きすぎると、硬化性が低下する傾向がみられるからである。
また、上記アリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)のアリル基当量(アリル価)は、100〜3000当量(g/eq.)の範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜2000当量(g/eq.)の範囲、特に好ましくは100〜1000当量(g/eq.)の範囲である。すなわち、上記アリル基当量が上記範囲を外れ小さ過ぎると、得られる硬化物の架橋点密度が高くなることに起因するためか破断伸び率が大きくなり難く好ましくなく、逆に上記アリル基当量が上記範囲を外れ大き過ぎると、耐熱性が低下する傾向がみられるからである。
上記アリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)は、例えば、つぎのようにして合成することができる。すなわち、ナフトール樹脂およびハロゲン化アリルを塩基性条件下、溶媒中に混合して加熱撹拌することにより、目的のアリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)を合成することができる。また、予めアリルエーテル化したナフトール樹脂のモノマー単位となる化合物とホルマリンとを混合し重合することによっても同様に目的のアリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)を合成することができる。このようにして合成し得られたアリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)は、先に述べたように、前記式(1)で表される構造単位および式(2)で表される構造単位を含有するナフトール樹脂である。
上記A成分とともに用いられるエポキシ樹脂(B成分)としては、多官能エポキシ樹脂が好ましく用いられる。例えば、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、トリフェニルメタン型、ジフェニルメタン型、フラン環含有ジシクロペンタジエンノボラック型等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
上記エポキシ樹脂(B成分)のエポキシ当量(エポキシ価)は、100〜3000当量(g/eq.)の範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜1000当量(g/eq.)の範囲、特に好ましくは100〜500当量(g/eq.)の範囲である。すなわち、上記エポキシ当量が上記範囲を外れ小さ過ぎると、得られる硬化物の架橋点密度が高くなることに起因するためか破断伸び率が大きくなり難く好ましくなく、逆に上記エポキシ当量が上記範囲を外れ大き過ぎると、硬化性が悪くなる傾向がみられる。
上記アリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)とエポキシ樹脂(B成分)の配合割合は、A成分のナフトール性水酸基1当量に対してB成分のエポキシ当量を0.5〜3.0当量の範囲に設定することが、その反応性の観点から好ましい。そして、上記反応性の観点から、より好ましくは0.6〜2.0当量の範囲、特に好ましくは0.8〜1.5当量の範囲に設定することである。
上記A成分およびB成分とともに用いられる硬化促進剤(C成分)としては、例えばアミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、有機リン系硬化促進剤、ホウ素系硬化促進剤、リン−ホウ素系硬化促進剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。中でも、市場での汎用性やコストの点から、トリフェニルホスフィン等の有機リン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤が好ましく用いられる。
上記硬化促進剤(C成分)の含有量は、上記A成分およびB成分の含有総量に対して、0.01〜10重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5重量%の範囲である。すなわち、上記硬化促進剤(C成分)が上記範囲を外れ少な過ぎると、硬化性が悪くなる傾向がみられ、逆に上記硬化促進剤(C成分)が上記範囲を外れ大き過ぎると、電気特性の悪化や、耐熱性の低下につながる傾向がみられるからである。
本発明に係る熱硬化性樹脂組成物には、上記A〜C成分以外に、本発明の効果が損なわれない範囲にて、必要に応じて、触媒、充填材、補強材、難燃剤、離型剤、カップリング剤、可塑剤、硬化助剤、着色剤、可撓化剤、溶剤等を適宜含有させることができる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法により得られる硬化物は、アリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)を含有するため、アリル基を積極的に硬化させた硬化物である。このように、アリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)、エポキシ樹脂(B成分)および硬化促進剤(C成分)を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化反応は、1段階目の反応工程である100〜200℃の加熱にてエポキシ−ナフトール硬化による硬化反応が起こり、2段階目の反応工程である220〜350℃の加熱にて熱分解に強いアリル基を硬化させることにより硬化物が得られる。本発明では、このアリル基の硬化反応によって硬化物の熱分解を抑制し、ガラス転移温度の向上を実現するものである。例えば、部分的にクライゼン転位が進行したアリルエーテル化ナフトール樹脂を200℃の条件下、100時間加熱すると、アリルエーテル基部位のクライゼン転位が進行が、硬化反応は全く進行しない。
本発明の熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法により硬化物を作製する場合、トランスファー成形、シート成形、コンプレッション成形、スクリーン印刷、ディスペンション成形等の成形性を考慮すると、プレ硬化させるためには、温度100〜200℃で反応させる必要があり、好ましくは150〜200℃である。また、上記温度での反応時間は、1〜60分間であり、より好ましくは1〜30分間加熱することであり、特に好ましくは1〜10分間加熱することである。さらにアリル基の硬化反応を促進するために、上記反応条件にて反応させた後、220〜350℃で10〜6000分間加熱する、特に好ましくは220〜300℃で10〜1440分間加熱することにより、熱分解を抑制し、ガラス転移温度の高い硬化物を得ることができる。上記温度領域が上記範囲を外れ低過ぎると、アリル基が充分反応することが困難となり、耐熱性およびガラス転移温度の向上に悪影響を及ぼす恐れがあるため好ましくなく、逆に上記温度領域を外れ高過ぎると、得られる硬化物の熱分解により耐熱性の低下につながる恐れがある。
また、上記アリル基は、半導体デバイスの高温(例えば、200〜250℃)での使用環境下で、徐々に硬化反応を進行させることにより、長期高温条件下で熱硬化性樹脂組成物を硬化させ得られた硬化物の架橋構造の一部が切断された場合においても、その架橋構造を修復し、長期耐熱性を付与するものである。上記硬化物の熱分解については、例えば、250℃で1000時間の条件下、重量減少は10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは7.5重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下である。すなわち、上記硬化物の熱分解による重量減少が上記範囲を外れ大き過ぎると、例えば、半導体封止材料として用いた場合、クラックやボイド発生の要因となり、半導体デバイスの故障につながる恐れがある。なお、上記硬化物の熱分解における重量減少は、例えば、つぎのようにして測定,算出される。すなわち、熱硬化性樹脂組成物を所定量準備し、175℃で5分間加熱硬化を行ない、その後、後硬化条件(220〜350℃で10〜6000分間)にて加熱して後硬化反応により硬化物を作製する。ついで、上記硬化物を、250℃で1000時間放置した後の重量を測定し、その重量減少の割合を算出する。
本発明の熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法は、アリルエーテル化ナフトール樹脂(A成分)、エポキシ樹脂(B成分)および硬化促進剤(C成分)を所定の含有量となるように配合し混合した後、これをまず100〜200℃の温度にて1〜60分間加熱した後、さらに220〜350℃の温度にて10〜6000分間加熱することにより熱硬化性樹脂組成物を硬化させ硬化体を作製するものである。
上記のように、本発明の製法により得られる硬化物は、耐熱性に特に優れることから、例えば、電子部品、プリント配線板用積層板およびプリント配線板、半導体封止材料、半導体搭載モジュール等の電子材料、自動車・車両、航空機部品、建築部材、工作機械等に好適に用いられる。
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
まず、熱硬化性樹脂組成物の作製に先立って部分的にアリルエーテル化ナフトール樹脂を合成した(合成例A−1〜A−4)。
〔合成例A−1〕
ナフトール樹脂〔SN−395、新日鐵化学社製、ナフトール性水酸基当量(ナフトール当量)110g/eq.〕110部、アリルブロマイド(東京化成社製)121.0部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)138.2部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。室温(25℃)まで冷却した後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮し、アリル化率が86.5%の部分的にアリルエーテル化したナフトール樹脂(ANR−1)を得た。このようにして、前記式(1)で表される構造単位〔式(1)中、Xは−OHまたはアリロキシ基〕および式(2)で表される構造単位〔式(2)中、Yは−OH〕を備えたアリルエーテル化ナフトール樹脂(ANR−1)を合成した。
〔合成例A−2〕
ナフトール樹脂(SN−395、新日鐵化学社製、ナフトール当量110g/eq.)110部、アリルブロマイド(東京化成社製)72.6部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)103.7部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。室温(25℃)まで冷却した後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮し、アリル化率が49.0%の部分的にアリルエーテル化したナフトール樹脂(ANR−2)を得た。このようにして、前記式(1)で表される構造単位〔式(1)中、Xは−OHまたはアリロキシ基〕および式(2)で表される構造単位〔式(2)中、Yは−OH〕を備えたアリルエーテル化ナフトール樹脂(ANR−2)を合成した。
〔合成例A−3〕
ナフトール樹脂(SN−395、新日鐵化学社製、ナフトール当量110g/eq.)110部、アリルブロマイド(東京化成社製)36.3部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)69.1部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。室温(25℃)まで冷却した後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮し、アリル化率が23.2%の部分的にアリルエーテル化したナフトール樹脂(ANR−3)を得た。このようにして、前記式(1)で表される構造単位〔式(1)中、Xは−OHまたはアリロキシ基〕および式(2)で表される構造単位〔式(2)中、Yは−OH〕を備えたアリルエーテル化ナフトール樹脂(ANR−3)を合成した。
〔合成例A−4〕
ナフトール樹脂(SN−395、新日鐵化学社製、ナフトール当量110g/eq.)110部、アリルブロマイド(東京化成社製)18.1部、炭酸カリウム(和光純薬工業社製)34.6部、アセトン(和光純薬工業社製)500部を混合し、窒素ガス気流下、24時間加熱還流した。室温(25℃)まで冷却した後、濾過、濃縮して残渣に酢酸エチル(和光純薬工業社製)400部を加え、塩酸(和光純薬工業社製)を蒸留水で希釈して5%に調整したものを200部で1回、各200部の蒸留水で2回洗浄した。その後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウム(和光純薬工業社製)で乾燥させた後、濾過、濃縮し、アリル化率が10.3%の部分的にアリルエーテル化したナフトール樹脂(ANR−4)を得た。このようにして、前記式(1)で表される構造単位〔式(1)中、Xは−OHまたはアリロキシ基〕および式(2)で表される構造単位〔式(2)中、Yは−OH〕を備えたアリルエーテル化ナフトール樹脂(ANR−4)を合成した。
一方、下記に示す各成分を準備した。
〔エポキシ樹脂〕
EPPN−501HY(エポキシ当量169g/eq.、日本化薬社製)
〔硬化促進剤〕
TPP(トリフェニルホスフィン、東京化成工業社製)
〔実施例1〜12〕
ナフトール樹脂として、上記合成例A−1〜A−4で得られた部分的にアリルエーテル化したナフトール樹脂(ANR−1、ANR−2、ANR−3、ANR−4)、エポキシ樹脂、硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)を用い、後記の表1〜表3に示す配合割合にて配合し混合することにより熱硬化性樹脂組成物を調製した。そして、上記熱硬化性樹脂組成物を用い175℃×5分間の加熱硬化を行い、その後、さらに後記の表1〜表3に示す後硬化条件(所定温度および所定時間)にて加熱して後硬化を行なうことにより熱硬化性樹脂組成物の硬化物を作製した。
〔比較例1〜5〕
ナフトール樹脂として、アリル基の無いナフトール樹脂(SN−395、新日鐵化学社製、ナフトール当量110g/eq.)、および、エポキシ樹脂、硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)を用い、後記の表4に示す配合割合にて配合し混合することにより熱硬化性樹脂組成物を調製した。そして、上記熱硬化性樹脂組成物を用い175℃×5分間の加熱硬化を行い、その後、さらに後記の表4に示す後硬化条件(所定温度および所定時間)にて加熱して後硬化を行なうことにより熱硬化性樹脂組成物の硬化物を作製した。
〔比較例6〜13〕
ナフトール樹脂として、上記合成例A−1〜A−4で得られた部分的にアリルエーテル化したナフトール樹脂(ANR−1、ANR−2、ANR−3、ANR−4)、エポキシ樹脂、硬化促進剤(トリフェニルホスフィン)を用い、後記の表5〜表6に示す配合割合にて配合し混合することにより熱硬化性樹脂組成物を調製した。そして、上記熱硬化性樹脂組成物を用い175℃×5分間の加熱硬化を行い、その後、さらに後記の表5〜表6に示す後硬化条件(所定温度および所定時間)にて加熱して後硬化を行なうことにより熱硬化性樹脂組成物の硬化物を作製した。
このようにして得られた熱硬化性樹脂組成物およびその硬化物を用い、下記の方法に従って特性(長期耐熱性、ガラス転移温度、動的粘弾性)を測定し評価を行った。その結果を後記の表1〜表6に併せて示す。
〔長期耐熱性〕
上記各熱硬化性樹脂組成物をアルミカップに2g程度入れて準備し、175℃に設定したホットプレート上に、準備したアルミカップに入ったサンプルを置き、5分間加熱硬化を行なった。その後、各表1〜表6に示す後硬化条件(所定温度および所定時間)にて加熱して後硬化を行なった。上記一連の硬化工程を経た硬化物サンプルを、250℃に設定した熱風オーブンに入れて、1000時間の長期耐熱性を下記に示す基準にて評価した。◎:250℃、1000時間での重量減少率が5%以下。
○:250℃、1000時間での重量減少率が5%より大きく、7.5%以下。
△:250℃、1000時間での重量減少率が7.5%より大きく、10%以下。
×:250℃、1000時間での重量減少率が10%を超えている。
〔ガラス転移温度〕
上記長期耐熱性評価と同様の所定条件(175℃×5分間の加熱硬化、表1〜表6に示す後硬化条件)にて硬化物サンプル(厚み2mm×幅5mm×長さ20mm)を作製し、動的粘弾性測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて測定した。得られたデータよりtanDのピーク最大値の温度をガラス転移温度(℃)とした。
〔動的粘弾性〕
上記長期耐熱性評価と同様の所定条件(175℃×5分間の加熱硬化、表1〜表6に示す後硬化条件)にて硬化物サンプル(厚み2mm×幅5mm×長さ20mm)を作製し、動的粘弾性測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて測定した。得られたデータより貯蔵弾性率(E′)の25℃と250℃での各値を各温度の動的粘弾性とした。
Figure 0005364075
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Figure 0005364075
上記結果から、アリルエーテル化ナフトール樹脂を用い、特定の硬化反応条件にて作製された硬化物である実施例品は、ガラス転移温度が高く、また高い動的粘弾性(25℃、250℃)を有しており、長期耐熱性に関しても良好な結果が得られた。
これに対して、アリル基の無い通常のナフトール樹脂を用いて作製された硬化物である比較例1〜5品は、ガラス転移温度が低く、250℃での動的粘弾性が低く、しかも長期耐熱性の評価では重量減少率が高く長期耐熱性に関し劣る評価結果となった。
また、特定の硬化反応条件を外れた条件にて作製された硬化物である比較例6〜13品は、いずれもガラス転移温度が低く、250℃での動的粘弾性が低く、しかも長期耐熱性の評価では比較例1〜5品に比べると若干重量減少率が抑制された例も確認されるが、それでも実施例品に比較して長期耐熱性に関し劣る評価結果となった。
つぎに、アリルエーテル化ナフトール樹脂(ANR−1〜ANR−4)およびナフトール樹脂(SN−395)とエポキシ樹脂(EPPN−501HY)を用い、配合比:50/50モル比にて硬化物(175℃×5分間+後硬化)を作製した際の後硬化条件による硬化物のガラス転移温度の変化を測定した。その結果を図1に示す。すなわち、図1は175℃×5分間にて硬化させ、後硬化条件の違いによる硬化物のガラス転移温度の変化を示したグラフである。なお、ガラス転移温度の測定は、前述と同様にして行なった。この結果から、アリルエーテル化ナフトール樹脂を用いた場合、後硬化温度条件が高温領域、特に220℃以上の温度領域においてガラス転移温度が著しく上昇し、一般的なエポキシ樹脂の骨格を持つものでも、ガラス転移温度が大幅に向上するような硬化物が得られることがわかった。一方、これとは対照的に、アリルエーテル化されていないナフトール樹脂(SN−395)を用いた場合、後硬化条件に関わらず、ガラス転移温度はほぼ一定であることがわかった。
本発明の熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法により得られる硬化物は、従来の熱硬化性樹脂組成物では実現出来なかった、優れた長期耐熱性と高いガラス転移温度を有するものであり、電子材料用の耐熱・絶縁樹脂として有用である。例えば、電子部品、プリント配線板用積層板およびプリント配線板、半導体封止材料、半導体搭載モジュール等の電子材料等があげられ、さらには自動車・車両、航空機部品、建築部材、工作機械等にも好適に用いられる。

Claims (5)

  1. 下記の(A)〜(C)成分を含有する熱硬化性樹脂組成物を100〜200℃の温度にて1〜60分間加熱した後、さらに220〜350℃の温度で10〜6000分間加熱することにより上記熱硬化性樹脂組成物を硬化させることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法。
    (A)下記の式(1)で表される構造単位および下記の式(2)で表される構造単位を含有するアリルエーテル化ナフトール樹脂。
    Figure 0005364075
    (B)エポキシ樹脂。
    (C)硬化促進剤。
  2. 上記(A)成分であるアリルエーテル化ナフトール樹脂のアリル基当量が100〜3000当量(g/eq.)である請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法。
  3. 上記(A)成分であるアリルエーテル化ナフトール樹脂のナフトール性水酸基当量が100〜3000当量(g/eq.)である請求項1または2記載の熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法。
  4. 上記(A)成分であるアリルエーテル化ナフトール樹脂と(B)成分であるエポキシ樹脂の配合割合が、(A)成分のナフトール性水酸基1当量に対して(B)成分のエポキシ当量が0.5〜3.0当量の範囲である請求項1〜のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法。
  5. 請求項1〜のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物硬化体の製法により得られてなる硬化物。
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