JP5307039B2 - ストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜製造用の蒸着材 - Google Patents

ストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜製造用の蒸着材 Download PDF

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Description

本発明は、ストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜を、特には電子ビーム蒸着法により製造する際に有利に用いることができる蒸着材及びその製造方法に関する。本発明はまた、電子ビーム蒸着法によりストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜を製造する方法にも関する。
交流型プラズマディスプレイパネル(以下、AC型PDPという)は、一般に、画像表示面となる前面板と、放電ガスが充填された放電空間を挟んで対向配置された背面板とからなる。前面板は、前面ガラス基板、前面ガラス基板の上に形成された一対の放電電極、放電電極を被覆する誘電体層、そして誘電体層の表面に形成された誘電体層保護膜からなる。背面板は、背面ガラス基板、背面ガラス基板の上に形成されたアドレス電極、背面ガラス基板とアドレス電極とを被覆し、かつ放電空間を区画する隔壁、そして隔壁の表面に配置された赤、緑、青の蛍光体で形成された蛍光体層からなる。
AC型PDPでは、前面板の放電電極に電圧を印加すると、次の(1)〜(4)の過程を繰り返すことによって放電空間内の荷電粒子数が増加して、荷電粒子の放電により真空紫外光が発生する。そして、発生した真空紫外光により、赤、緑、青の蛍光体が励起されて可視光が発生し、この可視光の組み合わせによって画像を形成する。
(1)放電電極間に電界が発生して放電ガス中に存在するイオンや電子などの荷電粒子が加速され、誘電体層保護膜に衝突する。
(2)荷電粒子の衝突により、誘電体層保護膜から二次電子が放出される。
(3)放出された二次電子がイオン化していない放電ガス原子に衝突し、放電ガスイオンを生成する。
(4)生成した放電ガスイオンが上記(1)の過程により誘電体層保護膜に衝突する。
上記(1)〜(4)の過程において、誘電体層保護膜は誘電体層を荷電粒子の衝突による衝撃から保護するだけでなく、二次電子放出膜としても機能する。一般に誘電体層保護膜の二次電子放出係数が高い方が、AC型PDPの放電開始電圧や放電維持電圧が低減する傾向がある。このため、誘電体層保護膜は、荷電粒子に対する耐衝撃性が高く(即ち、耐スパッタ性が高く)、かつ二次電子放出係数が高い(即ち、放電開始電圧や放電維持電圧の低減効果が高い)ことが要求される。
誘電体層保護膜には、酸化マグネシウム膜が広く利用されているが、最近では、酸化マグネシウムよりも二次電子放出係数が高いストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜が注目されている。
誘電体層保護膜の製造方法には、電子ビーム蒸着法が広く利用されている。電子ビーム蒸着法により酸化物膜を製造する際に用いる蒸着材は、吸湿しにくいことが好ましい。蒸着材が水分を多量に含んでいると、電子ビーム蒸着法を用いて酸化物膜を製造する際に、蒸着材中の水分が気化して、電子ビーム蒸着装置の真空チャンバー内の圧力が不安定となり、得られる酸化物膜が不均一となる恐れがあるからである。しかし、ストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物は吸湿性が高いという問題がある。
特許文献1には、吸湿性の低いストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜製造用の蒸着材の製造方法として、平均粒子径が0.01〜15μmの範囲にある炭酸ストロンチウム粉末と、平均粒子径が0.01〜15μmの範囲にある炭酸カルシウム粉末及び/又は水酸化カルシウム粉末とを含む成型体を焼結させる方法が記載されている。但し、この特許文献1の実施例に記載されている上記の方法を用いて製造した多結晶体は、温度20℃、湿度50%の条件下での48時間後の質量増加率が0.20〜0.50質量%である。なお、この特許文献1にはさらに、成型体に焼結助剤として、酸化イットリウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化ジルコニウム粉末、酸化スカンジウム粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化クロム粉末などの金属酸化物粉末を添加することも記載されている。
特許文献2には、蒸着材の表面をフッ化物層で被覆することより蒸着材の吸湿性が低減することが記載されている。この特許文献2の実施例の記載によれば、表面をフッ化物層で被覆したストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物からなる蒸着材は、7日間大気中に放置したときの質量増加率が0.2%である。
特許文献3には、蒸着材の表面を硫酸化物及び/又は硫化物で被覆することによって蒸着材の吸湿性が低減することが記載されている。この特許文献3の実施例の記載によれば、表面を硫酸化物層(硫化物層)で被覆したストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物からなる蒸着材は、7日間大気中に放置したときの質量増加率が0.2%である。
特開2009−256195号公報 特開2002−294432号公報 特開2004−281276号公報
特許文献1に記載されている方法により得られる蒸着材は、吸湿性が依然として高いという問題がある。特許文献2及び特許文献3に記載されている蒸着材は、吸湿性は低い。しかしながら、この蒸着材は、蒸着材表面を被覆しているフッ化物や硫酸化物及び/又は硫化物が気化するため、電子ビーム蒸着法やスパッタ法などの物理気相成長法では、安定下条件で酸化物膜を製造するのが難しいという問題がある。
本発明の目的は、吸湿性が低く、電子ビーム蒸着法などの物理気相成長法により安定した条件でストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜を製造することができる蒸着材を提供することにある。
本発明者は、ストロンチウムとカルシウムとをモル比で0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲となる割合で含む酸化物の結晶粒子から形成された多結晶体であって、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素を、ストロンチウムのモル量とカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量にて含み、かつ平均細孔直径が0.01〜0.50μmの範囲にあると、吸湿性が低くなり、さらに、この多結晶体を蒸着材に用いて電子ビーム蒸着法により製造した酸化物膜は、AC型PDPの誘電体層保護膜に用いると、AC型PDPの放電開始電圧を低減させる効果が高いことを確認して、本発明を完成させた。
従って、本発明は、ストロンチウムとカルシウムとをモル比で0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲となる割合で含む酸化物の結晶粒子から形成された多結晶体であり、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素を、ストロンチウムのモル量とカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量にて含み、かつ平均細孔直径が0.01〜0.50μmの範囲にあるストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜製造用の蒸着材にある。
本発明の蒸着材の好ましい態様は次の通りである。
(1)相対密度が90%以上である。
(2)金属元素が、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジスプロシウムからなる群より選ばれる一種以上の金属元素である。
本発明はまた、上記本発明の蒸着材に、減圧下にて電子ビームを照射して、ストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物を気化させ、気化した酸化物を基板の上に堆積させることからなるストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜の製造方法にもある。
本発明はまた、液体媒体中に、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とが、それらの粒子中のストロンチウムとカルシウムのモル比が0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲となる割合で分散し、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素が、該炭酸ストロンチウム粒子中のストロンチウムのモル量と該炭酸カルシウム粒子中のカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量にて溶解もしくは該金属元素を含む化合物粒子の状態で分散しており、該液体媒体中の全粒子の平均粒子径が0.05〜2.0μmの範囲にある分散液を、噴霧乾燥して乾燥粒状物を得る工程、該乾燥粒状物をペレット状に成形する工程、そして得られたペレット状成形物を焼成する工程を含む上記本発明の蒸着材の製造方法にもある。
本発明はさらに、液体媒体中に、ストロンチウムとカルシウムとをモル比で0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲にて含む炭酸複塩の粒子が分散し、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素が、該炭酸複塩粒子中のストロンチウムのモル量とカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量にて溶解もしくは該金属元素を含む化合物粒子の状態で分散しており、該液体媒体中の全粒子の平均粒子径が0.05〜2.0μmの範囲にある分散液を、噴霧乾燥して乾燥粒状物を得る工程、該乾燥粒状物をペレット状に成形する工程、そして得られたペレット状成形物を焼成する工程を含む上記本発明の蒸着材の製造方法にもある。
本発明の蒸着材は、温度25℃で、相対湿度47%の雰囲気下において168時間静置したときの質量増加率が通常は0.5質量%以下、特に0.01〜0.5質量%の範囲にあり、吸湿性が低いので、電子ビーム蒸着法やスパッタ法などの物理気相成長法により安定した条件でストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜を製造することができる。また、本発明の蒸着材は、吸湿性が低く、また特定の金属元素を所定の量で含むため、本発明の蒸着材を用いて製造したストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜は、AC型PDPの放電開始電圧を低減させる効果が大きい。また、本発明の製造方法を利用することによって、AC型PDPの誘電体層保護膜製造用として有用なストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜製造用の蒸着材を、工業的に有利に製造することができる。
実施例1及び実施例5で製造した多結晶体蒸着材を、温度25℃、相対湿度47%に調製した恒温恒湿器内に静置したときの質量増加率の経時変化を示すグラフである。
本発明の蒸着材は、ストロンチウムとカルシウムとをモル比で0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲、好ましくは0.3:0.7〜0.7:0.3の範囲で含む酸化物の結晶粒子から形成された多結晶体である。
本発明の蒸着材は、下記一般式により表すことができる。
Sr1-xCaxO:M
上記一般式において、Mは、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素を意味する。xは、0.2〜0.8の範囲、好ましくは0.3〜0.7の範囲の数を意味する。
但し、Mで表される金属元素は、結晶粒子の内部に存在していてもよいし、結晶粒子間の粒界に存在していてもよい。金属元素が結晶粒子間の粒界に存在する場合は、金属元素は通常、酸化物の状態で存在する。金属元素の含有量は、ストロンチウムのモル量とカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量である。
金属元素が結晶粒子の内部に存在していても、結晶粒子間の粒界に存在していても、蒸着材に電子ビームを照射すると、ストロンチウムとカルシウムと共に金属元素も気化するため、得られる酸化物膜内に金属元素が入り込む。この金属元素が酸化物膜内に入り込むことによって、酸化物膜の二次電子放出係数が向上する。このため、本発明の蒸着材を用いて電子ビーム蒸着法により製造した酸化物膜を、AC型PDPの誘電体層保護膜とするとAC型PDPの放電開始電圧が低減すると考えられる。
Mで表される金属元素は、ケイ素、アルミニウム、チタン及び希土類元素が好ましい。希土類元素は、スカンジウム、イットリウム、セリウム及びジスプロシウムであることが好ましく、ジスプロシウムであることが特に好ましい。
ストロンチウムのモル量とカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときの金属元素の含有量は、金属元素がケイ素の場合では0.051〜5.2モルの範囲にあることが好ましい。金属元素がアルミニウムの場合では0.10〜11モルの範囲にあることが好ましい。金属元素がチタンの場合では0.0044〜0.45モルの範囲にあることが好ましい。金属元素がジルコニウムの場合では0.031〜3.2モルの範囲にあることが好ましい。金属元素が希土類元素の場合では0.0041〜1.6モルの範囲にあることが好ましい。特に希土類元素がジスプロシウムの場合では0.0044〜0.45モルの範囲にあることが好ましい。
本発明の蒸着材は、平均細孔直径が0.01〜0.50μmの範囲、好ましくは0.01〜0.40μmの範囲にある。なお、本明細書において、平均細孔直径は水銀圧入法により測定した値である。
本発明の蒸着材の形状は特に限定されるものではないが、円板状であることが好ましい。円板状蒸着材は、直径が2.0〜10mmの範囲であることが好ましく、厚みが1.0〜5.0mmの範囲であることが好ましい。円板状蒸着材のアスペクト比(厚み/直径)は、1.0以下であることが好ましい。
本発明の蒸着材は、相対密度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることが特に好ましい。なお、本明細書において、相対密度は、下記の式により算出した値である。
相対密度=100×嵩密度/真密度
なお、蒸着材の真密度は、酸化カルシウムの真密度と酸化ストロンチウムの真密度と、合計モル量を1としたときの蒸着材中のカルシウムとストロンチウムのモル比とから下記の式を用いて算出した値である。
真密度(g/cm3)=3.350g/cm3(酸化カルシウムの真密度)×多結晶体中のカルシウムのモル比+5.009g/cm3(酸化ストロンチウムの真密度)×多結晶体中のストロンチウムのモル比
本発明の蒸着材は、ストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜を電子ビーム蒸着法により製造する際の蒸着材として有利に用いることができる。即ち、本発明の蒸着材を電子ビーム蒸着装置の蒸着チャンバーに配置し、減圧下にて蒸着材に電子ビームを照射して、ストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物を気化させ、気化した酸化物を基板の上に堆積させる方法により、基板の上にストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜を有利に製造することができる。膜製造時の蒸着チャンバー内の圧力は、全圧で6.00×10-2Pa以下であることが好ましい。また、蒸着チャンバー内には酸素ガスが酸素分圧で0.10〜5.99×10-2Paの範囲、特に0.50〜4.00×10-2Paの範囲で存在していることが好ましい。
本発明の蒸着材はまた、イオンプレーティング法やスパッタ法などの電子ビーム蒸着法以外の物理気相成長法により酸化物膜を製造する際の蒸着材としても使用することができる。
本発明の蒸着材は、液体媒体中に、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とが、それらの粒子中のストロンチウムとカルシウムのモル比が0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲となる割合で分散し、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素が、該炭酸ストロンチウム粒子中のストロンチウムのモル量と該炭酸カルシウム粒子中のカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量にて溶解もしくは該金属元素を含む化合物粒子の状態で分散しており、該液体媒体中の全粒子の平均粒子径が0.05〜2.0μmの範囲にある分散液を調製し、この分散液を噴霧乾燥して乾燥粒状物を得て、次いで該乾燥粒状物をペレット状に成形した後、得られたペレット状成形物を焼成する方法によって製造することができる。なお、本明細書において、液体媒体中の全粒子の平均粒子径とは、金属元素が化合物粒子として分散されている場合には、該金属元素の化合物粒子を含む全粒子の平均粒子径を意味する。また、平均粒子径は、その値が0.1μm以上の場合はレーザー回折法により測定した値を意味し、0.1μm未満の場合は動的光散乱法により測定した値を意味する。
分散液は、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子と液体媒体とを混合して得た混合液に、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素などの金属元素の水溶性塩もしくは該金属元素を含む化合物粒子を添加した後、該混合液をボールミルもしくはメディアミル(撹拌ミル)などの混合粉砕装置を用いて、液体媒体中の全粒子の平均粒子径が0.05〜2.0μmの範囲となるように混合しながら粉砕することよって調製することができる。
分散液の調製に用いる炭酸ストロンチウム粒子は、平均粒子径が0.03〜100μmの範囲にあることが好ましく、0.05〜100μmの範囲にあることがより好ましい。炭酸ストロンチウム粒子はBET比表面積が0.1〜70m2/gの範囲にあることが好ましい。炭酸ストロンチウム粒子は、粒子形状が針状もしくは粒状であることが好ましい。炭酸ストロンチウム粒子の純度は99質量%以上であることが好ましい。
分散液の調製に用いる炭酸カルシウム粒子は、平均粒子径が0.03〜100μmの範囲にあることが好ましく、0.05〜100μmの範囲にあることがより好ましい。炭酸カルシウム粒子はBET比表面積が0.1〜60m2/gの範囲にあることが好ましい。炭酸カルシウム粒子は、粒子形状が立方体状であることが好ましく、アスペクト比が1〜2の範囲にある立方体状であることがより好ましい。炭酸カルシウムの純度は99質量%以上であることが好ましい。
分散液の調製に用いる金属元素の水溶性塩の例としては、金属元素の硝酸塩及び塩化物を挙げることができる。金属元素の水溶性塩は水溶液の状態で混合液に添加してもよい。
分散液の調製に用いる金属元素を含む化合物粒子は、平均粒子径が0.01〜2μmの範囲にあることが好ましい。化合物粒子としては、酸化物粒子、水酸化物粒子及び炭酸塩粒子を挙げることができる。
分散液の調製に用いる液体媒体には、水、一価アルコール及びこれらの混合物を用いることができる。一価アルコールの例としては、エタノール、プロパノール及びブタノールを挙げることができる。液体媒体は、水であることが好ましい。
分散液には、ポリカルボン酸塩を添加してもよい。ポリカルボン酸塩は分散剤として作用する。ポリカルボン酸塩は、アンモニウム塩及びアルキルアンモニウム塩であることが好ましい。ポリカルボン酸塩の添加量は、混合物分散液中の固形分100質量部に対して0.5〜20質量部の範囲、特に1〜10質量部の範囲にあることが好ましい。ポリカルボン酸塩は、混合物分散液に添加してもよいし、原料の炭酸ストロンチウム粒子及び炭酸カルシウム粒子の両方もしくは一方の表面に予め付着させておいてもよい。
分散液には、さらに液体媒体と相溶性を有するポリマー及び/又はポリウレタンエマルジョンを添加することが好ましい。当該ポリマーは、乾燥混合粒状物からペレット状成形物を得る際のバインダーとして作用する。水と相溶性を有するポリマーの例としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール及びアクリル系共重合物を挙げることができる。ポリマーの添加量は、混合物分散液中の固形分100質量部に対して0.10〜10質量部の範囲にあることが好ましい。ポリマーは、混合粉砕を行なう前に添加してもよいし、混合粉砕を行なった後、分散液の噴霧乾燥前に添加してもよい。
分散液の噴霧乾燥は、通常のスプレードライヤーを用いて行なうことができる。噴霧乾燥温度は、150〜280℃の範囲にあることが好ましい。
分散液の噴霧乾燥により得られた乾燥混合粒状物は、プレス成形法などの方法によりペレット状に成形する。成形圧力は0.3〜3トン/cm2の範囲にあることが好ましい。
ペレット状成形物の焼成は、1400〜1800℃の温度にて行なうことが好ましい。焼成時間は成形物のサイズ(特に厚さ)や焼成温度などの要件により変わるので、一律に定めることはできないが、一般に1〜7時間である。
本発明の蒸着材はまた、液体媒体中に、ストロンチウムとカルシウムとをモル比で0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲にて含む炭酸複塩の粒子が分散し、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素が、該炭酸複塩粒子中のストロンチウムのモル量とカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量にて溶解もしくは該金属元素を含む化合物粒子の状態で分散しており、該液体媒体中の全粒子の平均粒子径が0.05〜2.0μmの範囲にある分散液を調製し、この分散液を噴霧乾燥して乾燥粒状物を得て、次いで該乾燥粒状物をペレット状に成形した後、得られたペレット状成形物を焼成する方法によっても製造することができる。
分散液は液体媒体に水を用いて、水中でストロンチウムとカルシウムとを含む炭酸複塩粒子を生成させる前もしくは生成させた後に、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素などの金属元素の水溶性塩もしくは該金属元素を含む化合物粒子を添加した後、該混合液をボールミルもしくはメディアミル(撹拌ミル)などの混合粉砕装置を用いて、液体媒体中の全粒子の平均粒子径が0.05〜2.0μmの範囲となるように混合しながら粉砕することよって調製することが好ましい。
水中でストロンチウムとカルシウムとを含む炭酸複塩粒子を生成させる方法としては、硝酸ストロンチウムや塩化ストロンチウムなどのストロンチウム水溶性塩と、硝酸カルシウムや塩化カルシウムなどのカルシウム水溶性塩を水性媒体に溶解させ、次いで該水溶液にアンモニア水溶液を加えて、該水溶液のpHを7〜14の範囲に調整した後、該水溶液に二酸化炭素ガスを供給する方法、あるいは水酸化カルシウム粒子と水酸化ストロンチウム粒子とを水に分散させ、次いで該水性分散液に二酸化炭素ガスを供給する方法を用いることができる。
分散液を噴霧乾燥して乾燥粒状物を得て、次いで該乾燥粒状物をペレット状に成形した後、得られたペレット状成形物を焼成する工程については、原料に炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とを用いた場合と同様とすることができる。
[実施例1]
(1)炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子と二酸化ケイ素粒子とが分散された分散液の調製
炭酸カルシウム粒子(純度:99.5質量%、BET比表面積:44m2/g、平均粒子径:6.9μm、一次粒子形状:立方体状)202g、炭酸ストロンチウム粒子(純度:99.5質量%、BET比表面積:20m2/g、平均粒子径:1.2μm、一次粒子形状:針状)298g、そして水1167mLを混合して混合液を得た。この混合液に、二酸化ケイ素粒子(純度:99質量%、平均粒子径:0.5μm)0.1861gを添加した後、該混合液を鉄心入りナイロンボール(直径:11mm)が充填されているボールミルに投入し、25時間混合粉砕して、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子と二酸化ケイ素粒子とが分散された分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径を下記の方法により測定したところ、0.74μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、ケイ素のモル比は、50:50:0.078(Sr:Ca:Si)である。
[平均粒子径の測定方法]
レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック9320HRA、日機装(株)製)もしくは動的光散乱式粒度分布測定装置(ナノトラックUPA−150、日機装(株)製)を用いて測定した。平均粒子径測定用の試料は、分散液を、分散液中の固形分0.5gに対して50gの水で希釈した後、超音波分散処理を3分間行なって調製した。
(2)多結晶体蒸着材の製造
上記(1)で調製した分散液に、ポリビニルアルコールを固形分100質量部に対して2.5質量部となる量にて、ポリエチレングリコールを固形分100質量部に対して0.4質量部となる量にて添加し撹拌した。次いで、分散液を、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥(乾燥温度:200℃)して、乾燥粒状物を得た。得られた乾燥粒状物を、成形圧0.6トン/cm2にて、ペレット状(直径:8mm、厚さ3.0mm、成形体密度:1.85g/cm3)に成形した。次いで、得られたペレット状成形物を1650℃の温度で5時間焼成して、多結晶体蒸着材を得た。
(3)評価
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び水蒸気存在下での質量増加率を下記の方法により測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、下記の方法によりAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。
図1に、水蒸気存在下での多結晶体蒸着材の静置時間と質量増加率との関係を示す。図1の結果から質量増加率は経時的に増加することが分かる。なお、48時間静置後の質量増加率は0.008質量%である。下記表1に、多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度、168時間静置後の質量増加率及び模擬パネルの放電開始電圧の測定結果を示す。
[平均細孔直径の測定方法]
水銀ポロシメーター(Quntachrome製、PoreMaster60−GT)を用いて、細孔直径が0.0036〜400μmの範囲にある細孔の累積細孔容積と累積比表面積とを測定し、下記の式により平均細孔直径を算出した。
平均細孔直径=4×累積細孔容積/累積比表面積
[相対密度の測定方法]
嵩密度をケロシンを媒液に用いたアルキメデス法により測定し、真密度は4.18g/cm3[Sr0.5Ca0.5O=3.350g/cm3(酸化カルシウムの真密度)×0.5+5.009g/cm3(酸化ストロンチウムの真密度)×0.5]として、下記の式により算出した。
相対密度=100×嵩密度/真密度
[質量増加率の測定方法]
予め質量を測定した多結晶体蒸着材を、温度25℃、相対湿度47%に調製した恒温恒湿器内に静置した。静置後の質量増加量を24時間毎に測定して、下記の式により算出した。
質量増加率=100×質量増加量/静置前の質量
[模擬パネルの製造と放電開始電圧の測定方法]
(1)石英基板の上に、互いに0.2mmの間隔で平行に配置された一対の放電電極が10組形成されていて、該放電電極の表面が誘電体層で覆われている基板を用意した。この基板の誘電体層の上に、多結晶体蒸着材を蒸着材として、電子ビーム蒸着装置(EX−50−D10型、ULVAC社製)を用いて、蒸着速度8kV、蒸着速度2nm/秒、酸素分圧2×10-2Pa、基板温度200℃の条件にて、厚さ1000nmのストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜を製造して、模擬パネルを製造した。
(2)放電開始電圧
模擬パネルの放電電極を電源に接続した。模擬パネルを密閉容器に入れ、該密閉容器内の圧力を1kPa以下にまで減圧下した後、該密閉容器内にネオンガスを95体積%、キセノンガスを5体積%の割合で含む混合ガスを60kPa(450トール)の圧力となるように封入した。この操作を3回繰り返した後、模擬パネルの放電電極間に電圧を印加して、徐々に電圧を上昇させ、10組の放電電極が全て点灯した際の電圧をオシロスコープで読み取り、この電圧を放電開始電圧とした。
[実施例2]
二酸化ケイ素粒子の添加量を1.8629gとしたこと以外は、実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子と二酸化ケイ素粒子とが分散された分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は0.76μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、ケイ素のモル比は、50:50:0.78(Sr:Ca:Si)である。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。
[実施例3]
二酸化ケイ素粒子の添加量を4.3469gとしたこと以外は、実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子と二酸化ケイ素粒子とが分散された分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は0.77μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、ケイ素のモル比は、50:50:1.8(Sr:Ca:Si)である。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。
[実施例4]
二酸化ケイ素粒子の代わりに、硝酸アルミニウム水溶液(アルミニウム濃度:4質量%)を3.6285g添加したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とが分散されていて、硝酸アルミニウムが溶解している分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は0.92μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、アルミニウムのモル比は、50:50:0.13(Sr:Ca:Al)である。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。
[実施例5]
二酸化ケイ素粒子の代わりに、硝酸アルミニウム水溶液(アルミニウム濃度:4質量%)を43.5410g添加したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とが分散されていて、硝酸アルミニウムが溶解している分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は0.68μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、アルミニウムのモル比は、50:50:1.6(Sr:Ca:Al)である。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。また、図1に多結晶体蒸着材の静置時間と質量増加率と関係を示す。図1の結果から質量増加率は経時的に増加することが分かる。なお、48時間静置後の質量増加率は0.005質量%である。
[実施例6]
二酸化ケイ素粒子の代わりに、硝酸アルミニウム水溶液(アルミニウム濃度:4質量%)を108.8528g添加したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とが分散されていて、硝酸アルミニウムが溶解している分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は0.70μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、アルミニウムのモル比は、50:50:4.0(Sr:Ca:Al)である。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。
[実施例7]
二酸化ケイ素粒子の代わりに、二酸化チタン粒子(純度:98質量%、平均粒子径:0.05μm)を4.8432g添加したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子と二酸化チタン粒子とが分散された分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は0.77μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、チタンのモル比は、50:50:1.5(Sr:Ca:Ti)である。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。
[実施例8]
二酸化ケイ素粒子の代わりに、二酸化チタン粒子(純度:98質量%、平均粒子径:0.05μm)を7.2648g添加したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子と二酸化チタン粒子とが分散された分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は0.78μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、チタンのモル比は、50:50:2.3(Sr:Ca:Ti)である。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。
[実施例9]
二酸化ケイ素粒子の代わりに、硝酸ジスプロシウム水溶液(ジスプロシウム濃度:4質量%)を0.7257g添加したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とが分散されていて、硝酸ジスプロシウムが溶解している分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は0.71μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、ジスプロシウムのモル比は、50:50:0.0045(Sr:Ca:Dy)である。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。
[実施例10]
二酸化ケイ素粒子の代わりに、硝酸ジスプロシウム水溶液(ジスプロシウム濃度:4質量%)を21.7700g添加したこと以外は実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とが分散されていて、硝酸ジスプロシウムが溶解している分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は0.73μmであった。なお、分散液中のストロンチウム、カルシウム、ジスプロシウムのモル比は、50:50:0.13(Sr:Ca:Dy)である。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。
[比較例1]
二酸化ケイ素粒子を添加しなかったこと、ボールミルによる混合粉砕時間を5時間としたこと以外は、実施例1の(1)と同様にして、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とが分散している分散液を調製した。この分散液中の全粒子の平均粒子径は2.2μmであった。次いで、この分散液を用いたこと以外は実施例1の(2)と同様にして多結晶体蒸着材を製造した。
得られた多結晶体蒸着材の平均細孔直径、相対密度及び質量増加率を実施例1と同様にして測定した。また、得られた多結晶体蒸着材を用いて、実施例1と同様にしてAC型PDPの前面板の模擬パネルを製造し、該模擬パネルの放電開始電圧を測定した。その結果を、下記の表1に示す。
表1
────────────────────────────────────────
多結晶体蒸着材 模擬パネル
──────────────────────────────の放電開始
添加 元素添加量 平均細孔直 相対密度 質量増加率 電圧
元素 (モル) 径(nm) (%) (質量%) (V)
────────────────────────────────────────
実施例1 Si 0.078 0.087 94.02 0.056 92
実施例2 Si 0.78 0.137 94.26 0.045 94
実施例3 Si 1.8 0.310 91.87 0.078 92
実施例4 Al 0.13 0.310 96.17 0.080 94
実施例5 Al 1.6 0.082 99.76 0.070 96
実施例6 Al 4.0 0.150 99.28 0.102 97
実施例7 Ti 1.5 0.350 90.67 0.140 89
実施例8 Ti 2.3 0.270 94.26 0.220 97
実施例9 Dy 0.0045 0.050 96.41 0.018 98
実施例10 Dy 0.13 0.083 97.37 0.011 99
────────────────────────────────────────
比較例1 なし 0.611 95.93 1.000 100
────────────────────────────────────────
元素添加量:ストロンチウムとカルシウムの合計モル量を100モルとした相対値。
質量増加率:168時間静置後の値。
模擬パネルの放電開始電圧:比較例1の電圧を100Vとした相対値。
上記表1の結果から明らかなように、特定の金属元素を本発明の範囲で含み、かつ平均細孔直径が本発明の範囲にある多結晶体蒸着材(実施例1〜10)は、吸湿性(質量増加率)が低く、またこの多結晶体蒸着材を用いて電子ビーム蒸着法により製造した酸化物膜は、模擬パネルの放電開始電圧を低減させる効果が高い。

Claims (6)

  1. ストロンチウムとカルシウムとをモル比で0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲となる割合で含む酸化物の結晶粒子から形成された多結晶体であり、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素を、ストロンチウムのモル量とカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量にて含み、かつ平均細孔直径が0.01〜0.50μmの範囲にあるストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜製造用の蒸着材。
  2. 相対密度が90%以上である請求項1に記載の蒸着材。
  3. 金属元素が、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジスプロシウムからなる群より選ばれる一種以上の金属元素である請求項1に記載の蒸着材。
  4. 請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の蒸着材に、減圧下にて電子ビームを照射して、ストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物を気化させ、気化した酸化物を基板の上に堆積させることからなるストロンチウムとカルシウムとを含む酸化物膜の製造方法。
  5. 液体媒体中に、炭酸ストロンチウム粒子と炭酸カルシウム粒子とが、それらの粒子中のストロンチウムとカルシウムのモル比が0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲となる割合で分散し、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素が、該炭酸ストロンチウム粒子中のストロンチウムのモル量と該炭酸カルシウム粒子中のカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量にて溶解もしくは該金属元素を含む化合物粒子の状態で分散しており、該液体媒体中の全粒子の平均粒子径が0.05〜2.0μmの範囲にある分散液を、噴霧乾燥して乾燥粒状物を得る工程、該乾燥粒状物をペレット状に成形する工程、そして得られたペレット状成形物を焼成する工程を含む請求項1もしくは2に記載の蒸着材の製造方法。
  6. 液体媒体中に、ストロンチウムとカルシウムとをモル比で0.2:0.8〜0.8:0.2の範囲にて含む炭酸複塩の粒子が分散し、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の金属元素が、該炭酸複塩粒子中のストロンチウムのモル量とカルシウムのモル量との合計を100モルとしたときに、0.0005〜20モルの範囲となる量にて溶解もしくは該金属元素を含む化合物粒子の状態で分散しており、該液体媒体中の全粒子の平均粒子径が0.05〜2.0μmの範囲にある分散液を、噴霧乾燥して乾燥粒状物を得る工程、該乾燥粒状物をペレット状に成形する工程、そして得られたペレット状成形物を焼成する工程を含む請求項1もしくは2に記載の蒸着材の製造方法。
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