JP5296016B2 - エンドトキシン除去用組成物 - Google Patents
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Description
注射剤やカテーテルなどのエンドトキシン汚染により体内へ発熱性物質が混入すると、発熱、ショック、広汎性血管内凝固(DIC:Disseminated Intravascular Coagulation)などを発症する可能性があるので、注射剤等の医薬品、注射器やカテーテル等の医療用具、さらには医薬品製造器具及び装置等のエンドトキシン汚染は、厳しく管理する必要がある。
多くの医療用具や医薬品製造器具及び装置等は、種々の合成樹脂、ガラス、金属及び天然繊維等から構成されており、エンドトキシンの付着又は吸着により汚染される可能性が高い。
これらの医療用具や医薬品製造器具及び装置等に含まれるエンドトキシンの除去には、例えば、エンドトキシンを含まない水や生理食塩水で洗浄する方法が考えられるが、この洗浄方法では、水や生理食塩水を大量に必要とし、しかも医療器具や医薬品製造器具及び装置に付着又は吸着したエンドトキシンの除去が不完全である可能性が危惧されていた。
しかし、血液タンパクは生体由来成分であるので、医療用具や医薬品製造器具及び装置等に存在するエンドトキシンを除去するための洗浄には望ましくない。このような用途には、上記のような生体由来成分を含む溶液を用いるのではなく、調製や使用がより簡便な組成物を用いることが望ましい。
したがって、本発明の除去用組成物の溶液を、エンドトキシンの除去が必要とされる医療用具や医薬品製造器具及び装置の他、各種の固体表面に接触せしめて回収することにより、エンドトキシンを効果的に除去することができる。
したがって、本発明の別の局面によれば、エンドトキシンを除去すべき固体表面と前記組成物の溶液とを接触せしめて、該固体表面に付着又は吸着したエンドトキシンを除去することを特徴とするエンドトキシンの除去方法が提供される。
また、本発明の組成物の溶液を用いて上記のような浸漬、洗浄、拭取操作等を行なうことによって、医療用具や医薬品製造器具または装置等の固体表面に付着または吸着したエンドトキシンを上記溶液中に移行せしめ、該溶液中にエンドトキシンを溶出もしくは抽出できるので、本発明の組成物は、該固体表面のエンドトキシンによる汚染の程度を検出および測定する際の検出液の獲得に有用である。
したがって、本発明のさらに別の局面によれば、エンドトキシンが付着または吸着した固体表面と前記組成物の溶液とを接触せしめて、該固体表面から脱離または脱着したエンドトキシンを含有する前記組成物を得ることを特徴とするエンドトキシンの抽出方法が提供される。
本発明の組成物で使用される糖類は、単糖類もしくはオリゴ糖類またはその誘導体が挙げられる。また、これらの糖類は、その塩または水和物でもよい。また、糖類はD体またはL体のいずれでもよい。具体的には、単糖類は、一般的には六炭糖が好ましく、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの他、グルコサミン、ガラクトサミン、グルコサミン塩酸塩、ガラクトサミン塩酸塩、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミンなどのアミノ糖、その誘導体および塩が挙げられる。オリゴ糖としては、二糖から六糖の大きさのものが挙げられ、好ましくは、マルトース、スクロース、ラクトースなどの二糖である。このうち、特に好ましい糖類はグルコース、グルコサミン塩酸塩、N−アセチル−D−ガラクトサミンおよびマルトースであり、最も好ましくはグルコースである。
溶媒としては、生理学的、薬学的または化学的に許容可能なものであれば特に限定されず、例えば水、生理食塩水、リンゲル液のような電解質の組成物、注射用液の他、各種緩衝液が挙げられる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の他、フタル酸、リン酸、ホウ酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、酢酸、塩化アンモニウム、炭酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよびこれらの塩より構成される緩衝液が挙げられる。
本発明において、溶液中の糖類の濃度は、糖および溶媒等の種類、または固体表面へのエンドトキシンの付着や吸着の程度等によって異なり必ずしも一定とすることはできないが、通常は、0.1〜15g/100ml(以下、w/v% と記す)、好ましくは0.5〜10w/v%程度である。濃度が低すぎるとエンドトキシンの除去効果が低下し、濃度が高すぎると除去操作後に残留した糖類を洗浄するために多量の洗浄液が必要となり、操作が煩雑になる。
注射筒、三方活栓及びカラム等は市販の滅菌済使い捨て器具を用いた。ガラス器具は洗浄後注射用水を通し、250℃、90分乾熱滅菌処理したものを用いた。
糖類の溶液については市販品を適宜希釈するか、市販品特級試薬を注射用水に溶解し、下記実施例でイオン遅滞樹脂に通過させるエンドトキシン除去用溶液として用いた。これらの溶液の調製はすべて無菌的な操作によって行った。
エンドトキシン標準溶液(10000EU/ml):エンドトキシン10000標準品(日本薬局方標準品)へエンドトキシン試験用水適量を加え溶解し、エンドトキシン標準溶液(10000EU/ml)を調製し、これを原液とし、適宜希釈して用いた。なお、「EU」はエンドトキシン単位を意味する。
ゲル化法:リムルスES−II テストワコー(和光純薬製)
比濁法:リムルスES−II テストワコーまたはリムルスES−J テストワコー(和光純薬製)
イオン遅滞樹脂はバイオラッド製イオン遅滞樹脂AG11A8を用いた。
グルコース溶液によるイオン遅滞樹脂の洗浄−1
オートクレーブ滅菌(120℃、20分)したカラムに、イオン遅滞樹脂を無菌的に充填した。カラムは2本作成した。
2本のカラムに注射用水100mlを通し、コンディショニングを行なった。その後、1本のカラム(以下カラム1とする)には注射用水10mlを通し、もう一本のカラム(以下カラム2とする)には0.175w/v%グルコース溶液10mlを通した。それぞれのカラムからの各溶出液についてエンドトキシン試験(ゲル化法)を行なった。ゲル化法は日本薬局方の方法に従い実施した。結果を表1に示す。
グルコース溶液によるイオン遅滞樹脂の洗浄−2
オートクレーブ滅菌(120℃、20分)したカラムに、イオン遅滞樹脂を無菌的に充填した。カラムは2本作成した。
1本のカラム(以下カラム3とする)に注射用水を通し、もう1本のカラム(以下カラム4とする)に0.175w/v%グルコース溶液を通した。各溶出液は100ml、200ml、500ml及び1000ml溶出された時点でサンプリングし、それぞれサンプリング番号1,2,3及び4とした。サンプリングした溶出液について比濁法によってエンドトキシン濃度の測定を行なった。比濁法は日本薬局方の方法に従い実施した。結果を表2に示す。
エンドトキシン混入イオン遅滞樹脂カラムの作成
ビーカーにイオン遅滞樹脂(AG11A8)20gをとり、注射用水適量を加え膨潤させ、さらに、上記の如く調製したエンドトキシン標準溶液(10000EU/ml)を0.4ml添加した。これを一昼夜攪拌しながら4℃で保管した。このイオン遅滞樹脂適量をオートクレーブ滅菌(120℃、20分)したカラムに無菌的に充填した。
イオン遅滞樹脂中に含まれるエンドトキシンの除去効果の測定:イオン遅滞樹脂からのエンドトキシンの除去操作−1
参考例にしたがって作成したイオン遅滞樹脂カラムを2本用意し、1本のカラム(以下カラム5とする)には注射用水5mlを、もう一本のカラム(以下カラム6とする)には10w/v%グルコース溶液5mlを通過させた。それぞれのカラムからの各溶出液を滅菌済みのビーカーに0.5mlずつ合計10フラクション分取した。これらのフラクションのそれぞれをフラクション番号1から10とした。
次いで、前記カラム5および6に10w/v%グルコース溶液7.5mlを通過させた。それぞれのカラムからの各溶出液を滅菌済みの試験管に0.5mlずつ合計15フラクション分取した。これらのフラクションのそれぞれをフラクション番号11から25とした。
カラム5及び6から上記のように得られたフラクション番号4,5,6,7,10,13,16,19,22及び25の溶液について、それぞれエンドトキシン濃度の測定を実施した。エンドトキシン試験は日本薬局方の方法に従い比濁法にて行った。
溶出液についてのエンドトキシン試験の測定値は、阻害補正を行った。阻害補正は以下のようにして行った。各々の糖類溶液にエンドトキシン標準溶液希釈液(0.5EU/ml)をサンプル液が0.25EU/mlとなるように添加し、この溶液のエンドトキシン濃度を測定した。一方、注射用水にもエンドトキシン標準溶液希釈液(0.5EU/ml)を同様に添加し、この溶液のエンドトキシン濃度を測定した。エンドトキシン標準溶液希釈液(0.5EU/ml)を加えた各糖類溶液のエンドトキシン濃度のそれぞれについて、エンドトキシン標準溶液希釈液(0.5EU/ml)を加えた注射用水のエンドトキシン濃度を百としたときの割合を百分率(%)を求め、これを阻害率(%)とした。各フラクションのエンドトキシン濃度をこの阻害率で補正した。注射用水のエンドトキシン試験の測定値については、補正は行なわなかった。
表3に、カラム5および6のそれぞれの各フラクション4、5、6、7および10中に含まれるエンドトキシン濃度(補正後の値)を示す。
この結果より、注射用水を用いるよりも10w/v%グルコース溶液を用いてカラム中のエンドトキシンを溶出させるほうが、より速やかにエンドトキシンを溶出できることが確認された。
カラム内になお残留しているエンドトキシンの有無を示すために、表4に、カラム5および6のそれぞれの各フラクション13,16,19,22及び25中に含まれるエンドトキシン濃度(補正後の値)を示す。
一方、フラクション1〜10の溶出液に10w/v%グルコース溶液を用いたカラム6では、その後の10w/v%グルコース溶液を溶出液としたフラクション11以降にほとんどエンドトキシンが溶出されなかった。
このように、上記イオン遅滞樹脂中のエンドトキシンを除去するための溶液として、注射用水を用いるよりも、10w/v%グルコース溶液を用いたほうが、より有効にエンドトキシンを溶出できることが確認された。
イオン遅滞樹脂中に含まれるエンドトキシンの除去効果の測定:イオン遅滞樹脂からのエンドトキシンの除去操作−2
参考例で作成したイオン遅滞樹脂カラム(以下カラム7とする)へ、1w/v%グルコース溶液5mlを通過させた。このカラムからの溶出液を滅菌済みのビーカーに0.5mlずつ合計10フラクション分取した(フラクション番号1から10)。
得られたフラクションのうち、フラクション番号4,5,6,7及び10の溶液について、それぞれエンドトキシン濃度の測定を実施した。エンドトキシン試験及び測定値の阻害補正は実施例3の方法と同様に行った。その結果を表5に示す。
イオン遅滞樹脂中に含まれるエンドトキシンの除去効果の測定:イオン遅滞樹脂からのエンドトキシンの除去操作−3
参考例で作成したイオン遅滞樹脂カラム(以下カラム8とする)へ、1w/v%D−(+)グルコサミン塩酸塩溶液5mlを通過させた。このカラムからの溶出液を滅菌済みのビーカーに0.5mlずつ合計10フラクション分取した(フラクション番号1から10)。
得られたフラクションのうち、フラクション番号4,5,6,7及び10の溶液について、それぞれエンドトキシン濃度の測定を実施した。エンドトキシン試験及び測定値の阻害補正は実施例3の方法と同様に行った。その結果を表6に示す。
イオン遅滞樹脂中に含まれるエンドトキシンの除去効果の測定:イオン遅滞樹脂からのエンドトキシンの除去操作−4
参考例にしたがって作成したイオン遅滞樹脂カラムを2本用意し、一本のカラム(以下カラム9とする)には1w/v%マルトース溶液5mlを、もう一本のカラム(以下カラム10とする)には10w/v%マルトース溶液5mlを通過させた。それぞれのカラムからの各溶出液を滅菌済みのビーカーに0.5mlずつ合計10フラクション分取した。これらのフラクションのそれぞれをフラクション番号1から10とした。
得られたフラクションのうち、フラクション番号4,5,6,7及び10の溶液について、それぞれエンドトキシン濃度の測定を実施した。エンドトキシン試験及び測定値の阻害補正は実施例3の方法と同様に行った。その結果を表7に示す。
イオン遅滞樹脂中に含まれるエンドトキシンの除去効果の測定:イオン遅滞樹脂からのエンドトキシンの除去操作−5
参考例にしたがって作成したイオン遅滞樹脂カラムを2本用意し、一本のカラム(以下カラム11とする)には1w/v%N−アセチル−D−ガラクトサミン溶液5mlを、もう一本のカラム(以下カラム12とする)には10w/v%N−アセチル−D−ガラクトサミン溶液5mlを通過させた。それぞれのカラムからの各溶出液を滅菌済みのビーカーに0.5mlずつ合計10フラクション分取した。これらのフラクションのそれぞれをフラクション番号1から10とした。
得られたフラクションのうち、フラクション番号4,5,6,7及び10の溶液について、それぞれエンドトキシン濃度の測定を実施した。エンドトキシン試験及び測定値の阻害補正は実施例3の方法と同様に行った。その結果を表8に示す。
Claims (8)
- 固体表面に付着又は吸着したエンドトキシンを除去するための組成物であって、濃度0.1〜15g/100mlの糖類を有効成分として溶媒に溶解させた溶液の形態であることを特徴とする、エンドトキシンの除去用組成物。
- 糖類が単糖類、オリゴ糖類およびそれらの誘導体ならびにそれらの水和物および塩からなる群より選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の組成物。
- 単糖類が六炭糖である請求項2に記載の組成物。
- 糖類がグルコース、グルコサミン塩酸塩、N−アセチル−D−ガラクトサミンまたはマルトースである請求項2に記載の組成物。
- 固体表面が医療用具、医薬品製造器具または医薬品製造装置の表面である請求項1に記載の組成物。
- 医薬品製造器具または医薬品製造装置が放射性医薬品の製造器具または製造装置である請求項5に記載の組成物。
- 固体表面がカラムに充填されたイオン交換樹脂又はイオン遅滞樹脂の表面である請求項1に記載の組成物。
- イオン交換樹脂又はイオン遅滞樹脂が2−[18F]−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコースの製造に用いられるものである請求項7に記載の組成物。
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