JP5243689B2 - セルロースエステル樹脂用改質剤、及びそれを含有してなるフィルム - Google Patents

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Description

本発明は、偏光板用保護フィルム等の光学フィルムをはじめ様々な用途に使用することが可能なセルロースエステル樹脂用改質剤に関する。
近年、映像や文字を鮮明に表示できる液晶ディスプレイを備えたノートパソコン等の情報機器が、次々と市場に供給されている。これら情報機器に対する消費者の要望としては、高機能付与の他に、薄型化・軽量化などがある。なかでも薄型化は、省スペース化等を図るうえで重要であり、消費者からも強く要望されている。
情報機器の薄型化を実現するうえで解決すべき1つの課題は、前記情報機器に備えられている液晶ディスプレイの薄型化を実現することである。前記液晶ディスプレイは、概略として、2枚のガラス基板の間に電極からなる層と液晶物質からなる層とを有する積層構造体である。該ガラス基板の両面には偏光板が貼付されており、該偏光板としては、通常、ポリビニルアルコールからなる偏光子の両面に保護フィルムが貼付されたものが使用されている。前記保護フィルムとしては、光学等方性、すなわち偏光子に貼り合わせた際に光の透過を阻害しない性質を有し、かつ透明性、平滑性、強靭性に優れたセルロースエステル樹脂からなるフィルムが、従来より使用されている。
しかし、前記セルロースエステル樹脂からなるフィルムは、湿気(水)を透過させない性質、いわゆる耐透湿性の点で不十分であり、水による偏光子の劣化や偏光子とフィルムとの剥離を引き起こす場合があった。そのため、これまでは前記セルロースエステル樹脂にトリフェニルホスフェート等の可塑剤を併用して得られたフィルムを保護フィルムとして使用することで、耐透湿性の改善を図っていた。
ところで、前記保護フィルムとしては、液晶ディスプレイの構造等により異なるものの、通常、膜厚約80μm程度のものが使用されることが多い。近年は、液晶ディスプレイの薄型化が進行するのに伴って、保護フィルムの更なる薄膜化、目安として約30〜50μmの膜厚のフィルムの検討が進められている。
このような検討が進められる中で、前記可塑剤と前記セルロースエステル樹脂とを含有する従来の保護フィルムは、その膜厚を要求レベルにまで薄くした場合に、耐透湿性の著しい低下を引き起こすという問題を有していたため、これらを偏光板の保護フィルムに使用することは困難であった。
また、前記可塑剤は、セルロースエステル樹脂との相溶性が十分でないため、熱の影響により前記可塑剤がフィルム表面からにじみ出る(ブリードする)場合があった。例えば、前記フィルムを液晶ディスプレイに使用される偏光子の保護フィルムに使用した場合、バックライトの熱等の影響により、前記可塑剤が前記保護フィルムの表面からブリードし、映像等を鮮明に表示することができなくなるという問題を有していた。
また、前記保護フィルムは、該フィルムに光学等方性を付与することを目的として、前記可塑剤及びセルロースエステル樹脂の有機溶剤溶液をフィルム状に流延し、次いで乾燥させる、いわゆるソルベントキャスト法で製造される場合が多い。しかし、前記可塑剤は比較的低分子量であるため、前記乾燥工程で揮発しやすく、揮発した前記可塑剤がフィルム製造装置を構成するウェブやロールなどに付着し装置を汚染するという問題があった。
前記可塑剤のブリード及び揮発のしやすさは、セルロースエステル樹脂が前記フィルム以外の用途、例えば玩具や食器具などに使用される場面において、従来より問題視されていた。かかる問題を解決しうる可塑剤としては、糖アルコールのアセチル化物を主成分とする可塑剤やフタル酸系ポリエステルが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
しかし、前記アセチル化物とセルロースエステル樹脂とを含有する樹脂組成物からなるフィルムや、フタル酸系ポリエステルとして具体的に記載されている無水フタル酸及び1,3−ブタンジオールを反応させて得られるフタル酸系ポリエステルと、セルロース誘導体樹脂とを含有してなる樹脂組成物を成形して得られたフィルムは、保護フィルムとして使用可能なレベルの耐透湿性を有しておらず、また、前記可塑剤は、高温多湿下では依然としてブリードしやすいという問題を有していた。
一方で、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールと安息香酸を反応させて得られるエステル化合物及びセルロース系樹脂を含有するフィルムが、耐透湿性に優れることが報告されている(例えば、特許文献3参照。)。
しかし、前記エステル化合物及びセルロース系樹脂を含有するフィルムは、その膜厚を薄く、目安として約40〜50μm程度とした場合に、十分な耐透湿性を維持することができないため、実用には今一歩及ばない。また、前記エステル化合物は、比較的低分子量の化合物であることから、保護フィルムの製造工程における乾燥工程で揮発しやすく、フィルム製造装置を構成するロール等を汚すという問題を有していた。
特開2000−351871号公報 特開昭61−276836号公報 特開2003−096236号公報
本発明は、優れた耐透湿性を付与でき、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、かつ揮発しにくいセルロースエステル樹脂用改質剤を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために各種検討を進めるなかで、分子構造が比較的平面状である改質剤であれば、セルロースエステル樹脂を主成分とするフィルムの耐透湿性を向上できるのではないかと考え、平面的な分子構造を有する構造を各種検討した結果、特に分子末端と分子鎖中に芳香族環式構造を有する改質剤が、セルロースエステル樹脂を主成分とするフィルムに優れた耐透湿性を付与できることを見出した。また、前記改質剤は、セルロースエステル樹脂との相溶性に優れることから、高温多湿下であってもフィルム表面からブリードせず、かつ揮発しにくいことを見出した。
即ち、本発明は、プロピレングリコールまたは2−メチル−1,3−プロパンジオールであるグリコール(a)と、テレフタル酸、テレフタル酸のエステル化物、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸のエステル化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族系ジカルボン酸及び/またはそのエステル化物(b)と、安息香酸またはp−トルイル酸である芳香族系モノカルボン酸(c)とを反応させて得られる、300〜5000の数平均分子量を有するエステル化合物からなることを特徴とするセルロースエステル樹脂用改質剤に関するものである。
また、本発明は、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、及びセルロースエステル樹脂を含有してなるフィルムに関するものである。
また、本発明は、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、セルロースエステル樹脂及び有機溶剤を含有するセルロースエステル樹脂溶液を金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を乾燥させることによって得られる偏光板用保護フィルムに関するものである。
なお、本発明でいう数平均分子量とは、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した値である。
本発明によれば、優れた耐透湿性を付与でき、高温多湿下での耐ブリード性に優れ、フィルム製造工程で揮発しにくいセルロースエステル樹脂用改質剤を提供することができる。また、該改質剤とセルロースエステル樹脂とを用いて得られるフィルムは、偏光板用保護フィルムをはじめとする各種光学フィルムに使用することが可能である。
はじめに、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤について説明する。
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤は、プロピレングリコールまたは2−メチル−1,3−プロパンジオールであるグリコール(a)とテレフタル酸、テレフタル酸のエステル化物、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸のエステル化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族系ジカルボン酸及び/またはそのエステル化物(b)とをエステル化反応させて得られるポリエステルの両末端の水酸基が、安息香酸またはp−トルイル酸である芳香族系モノカルボン酸(c)によって封鎖された構造を有するエステル化合物からなる。
前記セルロースエステル樹脂用改質剤は、後述するセルロースエステル樹脂と混合して使用する場合に、該セルロースエステル樹脂との相溶性に優れるため、セルロースエステル樹脂からブリードしにくい。また、前記セルロースエステル樹脂用改質剤は、下記に示すような特定の構造を有することにより、該改質剤及びセルロースエステル樹脂を含有するフィルムの耐透湿性を格段に向上させることができる。
前記セルロースエステル樹脂用改質剤を構成するエステル化合物としては、例えば下記一般式(I)で表される構造を有するものを使用することができる。
Figure 0005243689
(式(I)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表す。G1及びG2は、それぞれ独立して、プロピレングリコールまたは2−メチル−1,3−プロパンジオールが有する水酸基の除いたアルキレン基を表す。A1、A2及びA3はそれぞれ独立して、芳香族環式構造を表す。nは1〜30の整数を表す。)
前記一般式(I)のA1、A2及びA3としては、ベンゼン環構造またはナフタレン環構造であ、なかでもベンゼン環構造であるものを使用することが好ましい。
また、前記一般式(I)中のnは、1〜30の範囲であることが好ましい。本発明のセルロースエステル用改質剤は、通常、n数の異なるエステル化合物の混合物であることが多いが、前記エステル化合物を製造する際に生成しうる、nがゼロであるエステル化合物や、nが30を超えるエステル化合物を本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤を構成するエステル化合物を製造するうえで使用する前記グリコール(a)としては、プロピレングリコールまたは2−メチル−1,3−プロパンジオールを使用することができ、これらを単独で使用又は2種併用することができる。前記グリコール(a)としては、プロピレングリコールを使用することが、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、また耐透湿性を向上させることが可能なセルロースエステル樹脂用改質剤を得ることができるため好ましい。
記芳香族系ジカルボン酸及び/またはそのエステル化物(b)としては、テレフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸や、これらのエステル化物を使用することができ、これらを単独で使用又は2種以上併用できる。前記芳香族系ジカルボン酸及び/またはそのエステル化物(b)としては、テレフタル酸ジメチルを使用することが好ましい。テレフタル酸ジメチルを使用して得られるエステル化合物からなるセルロースエステル樹脂用改質剤は、セルロースエステル樹脂に優れた耐透湿性を付与でき、且つ高温多湿下における耐ブリード性に優れる。
記芳香族系モノカルボン酸(c)としては、安息香酸またはp−トルイル酸を単独で使用又は2種併用することができる。前記芳香族系モノカルボン酸(c)としては、安息香酸を使用することが、セルロースエステル樹脂に優れた耐透湿性を付与でき、且つ高温多湿下での耐ブリード性に優れたセルロースエステル樹脂用改質剤を得ることができるため好ましい。
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤を構成するエステル化合物は、前記グリコール(a)、前記芳香族系ジカルボン酸及び/またはそのエステル化物(b)、及び前記芳香族系モノカルボン酸(c)を、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば180〜250℃の温度範囲内で、10〜25時間、周知慣用の方法でエステル化反応させることによって製造することができる。
前記エステル化触媒としては、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、p−トルエンスルホン酸、ジブチル錫オキサイド等を使用することができる。前記エステル化触媒は、前記グリコール(a)、前記芳香族系ジカルボン酸及び/またはそのエステル化物(b)及び前記芳香族系モノカルボン酸(c)の全量100質量部に対して0.01〜0.1質量部使用することが好ましい。
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤を構成するエステル化合物は、300〜5000の範囲内の数平均分子量を有することが好ましく、350〜3000の数平均分子量を有することがより好ましく、400〜2000の数平均分子量を有することがさらに好ましい。前記範囲の数平均分子量を有するエステル化合物からなるセルロースエステル樹脂用改質剤は、高温多湿下における耐ブリード性に優れ、フィルム製造工程をはじめとする高温条件下でも揮発しにくい。
また、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤を構成するエステル化合物の分散度は1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜1.5であることがさらに好ましい。分散度が上記範囲以内であれば、セルロースエステル樹脂との相溶性に優れたセルロースエステル樹脂用改質剤を得ることができる。なお、分散度とは、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した重量平均分子量の値(Mw)を数平均分子量の値(Mn)で割った値である。
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤を構成するエステル化合物は、15以下の水酸基価を有し、かつ1.0以下の酸価を有することが好ましく、10以下の水酸基価を有し、かつ0.5以下の酸価を有することがより好ましい。
酸価は、前記グリコール(a)及び前記芳香族系ジカルボン酸(b)が反応した際に生成しうる、末端にカルボキシル基を有するポリエステルに由来するものである。フィルムに優れた耐透湿性を付与し、かつ該改質剤自身の安定性を維持するうえで、前記セルロースエステル樹脂用改質剤中に含まれる前記末端に有するカルボキシル基を有するポリエステルの含有量は、できる限り少ないことが好ましく、目安として酸価が前記範囲内であることが好ましい。
また、水酸基価は、前記グリコール(a)と前記芳香族系ジカルボン酸(b)が反応した際に生成しうるポリエステルの末端に存在する水酸基のうち、前記芳香族系モノカルボン酸(c)によって封鎖されていない水酸基に由来するもの、または前記グリコール(a)と前記芳香族系モノカルボン酸(c)が反応した際に生成しうる、末端に水酸基を1個有するエステル化合物に由来するものである。水酸基は水との親和性が高いため、得られるフィルムの耐透湿性を維持するうえで、水酸基価は前記範囲内であることが好ましい。
前記セルロースエステル樹脂用改質剤は、構成するエステル化合物の数平均分子量及び組成によって異なるが、液体状又は固体状である。
次に、セルロースエステル樹脂及び前記セルロースエステル樹脂用改質剤を含有するフィルムについて説明する。
本発明のフィルムは、セルロースエステル樹脂、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるフィルムである。
本発明のフィルムは、使用される用途によって異なるが、一般に10〜200μm程度の膜厚を有するものである。前記フィルムは、光学異方性や光学等方性等の特性を有していても良く、該フィルムを偏光板用保護フィルムに使用する場合には、光の透過を阻害しない、光学等方性のフィルムを使用することが好ましい。
本発明のフィルム中に含まれるセルロースエステル樹脂は、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等から得られるセルロースの有する水酸基の一部又は全部がエステル化されたものである。なかでも、綿花リンターから得られるセルロースをエステル化して得られるセルロースエステル樹脂を使用して得られるフィルムは、フィルムの製造装置を構成する金属支持体から剥離しやすく、フィルムの生産効率を向上させることが可能となるため好ましい。
前記セルロースエステル樹脂としては、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート及び硝酸セルロース等を使用することができ、これらを単独で使用又は2種以上を併用することが可能である。本発明のフィルムを偏光板用保護フィルムとして使用する場合には、セルロースアセテートを使用することが、機械的物性及び透明性に優れたフィルムを得ることができるため好ましい。
前記セルロースアセテートとしては、重合度が250〜400、酢化度が55.0質量%〜62.5質量%を有するものを使用することが好ましく、酢化度が58.0質量%〜62.5質量%の範囲である、いわゆるセルローストリアセテートを使用することがより好ましい。前記範囲内の重合度及び酢化度を有するセルロースアセテートを使用することによって、得られるフィルムの機械的物性を向上させることができる。なお、酢化度は、セルロースアセテートの全量に対する、該セルロースアセテートをケン化することによって生成する酢酸の質量割合である。
本発明のフィルムは、前記セルロースエステル樹脂、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を含有してなるセルロースエステル樹脂組成物をフィルム状に成形することにより得ることができる。
本発明のフィルムは、例えば前記セルロースエステル樹脂、前記セルロースエステル樹脂用改質剤、及び必要に応じてその他の各種添加剤等を押出機等で溶融混練し、Tダイ等を用いることでフィルム状に成形することによって得られる。
また、本発明のフィルムは、前記成形方法の他に、例えば前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤とを有機溶剤中に均一に溶解、混合して得られた樹脂溶液を、金属支持体上に流延し乾燥させる、いわゆるソルベントキャスト法で成形することによって得ることができる。ソルベントキャスト法によれば、成形途中でのフィルム中における前記セルロースエステル樹脂の配向を抑制することができるため、得られるフィルムは、実質的に光学等方性を示す。前記光学等方性を示すフィルムは、例えば液晶ディスプレイなどの光学材料に使用することができ、なかでも偏光板の保護フィルムに使用することができる。また、前記方法によって得られたフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れる。
前記ソルベントキャスト法は、主に前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤とを有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1の工程、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を乾燥させフィルムを形成する第2の工程、及び金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3の工程からなる。
第1の工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属、例えばステンレス製で、その表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。
前記金属支持体上に、前記樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
第2の工程における乾燥方法としては、例えば30〜50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤のおよそ50質量%〜80質量%程度を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法がある。
第3の工程は、前記第2の工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2の工程よりも高温で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100〜160℃の温度範囲で段階的に温度を上昇させる方法が好ましい。前記温度範囲で加熱乾燥することによって、前記第2の工程で得られたフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
前記セルロースエステル樹脂と前記セルロースエステル樹脂用改質剤とを有機溶剤に混合、溶解する際に使用できる有機溶剤としては、それらを溶解できるものであれば限定されないが、例えば、セルロースエステルとしてセルロースアセテートを使用する場合は、セルロースアセテートの良溶媒として、例えばメチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類を使用することができる。また、前記良溶媒に対して、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の貧溶媒を併用することが、フィルムの生産効率を向上させるうえで好ましい。良溶媒と貧溶媒とを混合して使用する場合の質量割合は、良溶媒/貧溶媒=75/25〜95/5の範囲であることがより好ましい。
前記フィルム中に含まれる前記セルロースエステル樹脂用改質剤は、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、3〜30質量部の範囲内であることが好ましく、5〜20質量部の範囲内であることがより好ましい。前記範囲の前記セルロースエステル樹脂用改質剤を使用することによって、耐透湿性、及び高温多湿下における耐ブリード性に優れたフィルムを得ることができる。
本発明のフィルムには、本発明の目的を損なわない範囲内で、各種添加剤を使用することができる。
前記添加剤としては、例えば本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤以外のその他の改質剤、紫外線吸収剤、熱可塑性樹脂、マット剤等や、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤等)、染料などを使用することができる。これらは、前記有機溶剤中に前記セルロースエステル樹脂及び前記セルロースエステル樹脂用改質剤を溶解、混合する際に、併せて使用することができる。
前記セルロースエステル樹脂用改質剤以外のその他の改質剤としては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート等を使用することができる。
前記紫外線吸収剤としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を使用することができる。前記紫外線吸収剤は、前記セルロースエステル100質量部に対して0.01〜2質量部の範囲内であることが好ましい。
前記熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル、ポリエステルエーテル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等を使用することができる。
前記マット剤としては、例えば酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等を使用することができる。前記マット剤は、前記セルロースエステル100質量部に対して、0.1〜0.3質量部の範囲内で使用することが好ましい。
前記染料としては、通常使用されている公知慣用のものを用いることができ、その配合量は本発明の目的を阻害しない範囲であれば、特に限定しない。
本発明のフィルムは、耐透湿性、透明性、非揮発性、高温多湿下における耐ブリード性などに優れることから、例えば液晶表示装置の光学フィルムやハロゲン化銀写真感光材料の支持体等に使用できる。なかでも前記したような優れた特性に加えて、光学等方性に優れたフィルムは、偏光板用保護フィルムとして使用することが可能である。
前記液晶表示装置の光学フィルムとは、例えば、偏光板用保護フィルム、位相差板、反射板、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等である。
本発明のフィルムは、10〜100μmの膜厚を有することが好ましく、15〜80μmの膜厚を有することがより好ましく、20〜50μmの膜厚であることがより好ましい。かかるフィルムを偏光板用保護フィルムとして使用する場合には、20〜50μm程度の膜厚を有するフィルムであれば、液晶表示装置の薄型化を図ることが可能で、かつ優れた耐透湿性を維持することができる。
以下に本発明の実施例を示す。
参考例1]
プロピレングリコールを250.8g、無水フタル酸を370g、安息香酸を122g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.089gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃になるまで段階的に昇温することで、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のプロピレングリコールを減圧留去することによって、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤A(固体(25℃)、酸価0.89、水酸基価13.2、数平均分子量920)を得た。
参考例2]
ネオペンチルグリコールを608.4g、無水フタル酸を370g、安息香酸を610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃になるまで段階的に昇温することで、合計15時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のネオペンチルグリコールを減圧留去することにより、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤B(粘度(25℃)100000mPa・s、酸価0.45、水酸基価14.5、数平均分子量450)を得た。
参考例3]
2−メチル−1,3−プロパンジオールを554.4g、無水フタル酸を621.6g、安息香酸を341.6g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.182gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃になるまで段階的に昇温することで、合計13時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の2−メチル−1,3−プロパンジオールを減圧留去することにより、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤C(粘度(25℃)100000mPa・s、酸価0.39、水酸基価13.5、数平均分子量700)を得た。
参考例4]
2−メチル−1,3−プロパンジオールを205g、無水フタル酸を148g、p−トルイル酸を272g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.075gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃になるまで段階的に昇温することで、合計11時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の2−メチル−1,3−プロパンジオールを減圧留去することにより、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤D(粘度(25℃)100000mPa・s、酸価0.08、水酸基価10.8、数平均分子量500)を得た。
参考例5]
プロピレングリコールを229.9g、無水フタル酸を370g、安息香酸を61g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.079gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃になるまで段階的に昇温することで、合計28時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のプロピレングリコールを減圧留去することにより、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤E(固体(25℃)、酸価0.81、水酸基価14.5、数平均分子量1600)を得た。
[実施例
プロピレングリコールを207.9g、テレフタル酸ジメチルを232.8g、安息香酸を292.8g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.044gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで段階的に昇温することで、合計13時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のプロピレングリコールを減圧留去することにより、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤F(酸価0.24、水酸基価5.5、数平均分子量580)を得た。
[実施例
プロピレングリコールを207.9g、テレフタル酸ジメチルを232.8g、p−トルイル酸を321.6g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.044gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで段階的に昇温することで、合計13時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のプロピレングリコールを減圧留去することにより、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤G(酸価0.10、水酸基価10.5、数平均分子量600)を得た。
[実施例
2−メチル−1,3−プロパンジオール246.2g、テレフタル酸ジメチルを232.8g、安息香酸を292.8g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.044gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積1リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで段階的に昇温することで、合計13時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応の2−メチル−1,3−プロパンジオールを減圧留去することにより、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤H(酸価0.04、水酸基価14.1、数平均分子量550)を得た。
[実施例
プロピレングリコールを207.9g、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを585.6g、安息香酸を292.8g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.044gを、温度計、攪拌器、及び還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで段階的に昇温することで、合計13時間脱水縮合反応させた。反応後、200℃で未反応のプロピレングリコールを減圧留去することにより、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤I(酸価0.08、水酸基価13.5、数平均分子量550)を得た。
[比較例1]
実施例1の無水フタル酸の代わりにアジピン酸を使用する以外は、実施例1と同様の方法でセルロースエステル樹脂用改質剤J(酸価0.55、水酸基価15.0、数平均分子量400)を調製した。
[比較例2]
実施例1において安息香酸を使用せず、かつプロピレングリコールの代わりに1,3-ブタンジオールを使用すること以外は、実施例1と同様の方法でセルロースエステル樹脂用改質剤K(酸価1.32、水酸基価110、数平均分子量900)を調製した。
[比較例3]
セルロースエステル樹脂用改質剤として2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールと安息香酸とを反応させて得られたジエステルLを使用した。
[比較例4]
セルロースエステル樹脂用改質剤としてソルビトールアセテートMを使用した。
[比較例5]
セルロースエステル樹脂用改質剤としてジメチルフタレートNを使用した。
[比較例6]
セルロースエステル樹脂用改質剤としてトリフェニルホスフェートOを使用した。
[比較例7]
実施例1の安息香酸の代わりに4−ヘキサデシルオキシ安息香酸を使用する以外は、実施例1と同様の方法でセルロースエステル樹脂用改質剤P(酸価0.71、水酸基価12.1、数平均分子量900)を調製した。
[比較例8]
実施例1のプロピレングリコールの代わりに1,6−ヘキサンジオールを使用する以外は、実施例1と同様の方法でセルロースエステル樹脂用改質剤Q(酸価0.69、水酸基価10.5、数平均分子量850)を調製した。
[揮発性]
実施例1〜9及び比較例1〜8の各改質剤を、窒素雰囲気下に130℃で60分間放置した場合の、放置前後の質量減少率をTG−DTA(示差熱熱重量同時測定装置)(セイコーインスツルメンツ社製DMS6100)を用いて測定した。前記改質剤の揮発性は、その用途によって異なるものの、偏光板用保護フィルムに使用する場合には、概ね0.50質量%未満であれば、実用上使用可能である。
[フィルムの作製]
実施例1〜9及び比較例1〜8で得られた各改質剤A〜Qの1gと、セルローストリアセテート(酢化度61質量%、重合度260)の10gと、塩化メチレン81g及びメタノール9gからなる混合溶剤とを混合しドープ液を調製した。これらの各ドープ液をガラス板上に約0.5mmの厚さになるようにそれぞれ流延し、室温で16時間乾燥させた後、50℃で30分間乾燥させ、さらに100℃で30分乾燥させることで、膜厚約40μmのフィルムA’〜Q’を得た。
[ブリード性]
前記フィルムを30mm×40mmの大きさに切り取り、温度80℃、相対湿度90%の恒温恒湿中に120時間放置した。その後、前記フィルム表面を目視で観察し、改質剤のブリードの程度を以下の基準に従い評価した。
○:ブリードしていなかった。
△:僅かにブリードしていた。
×:著しくブリードしていた。
[耐透湿性]
JIS Z 0208に記載の方法に従い、前記フィルムの透湿度を測定した。測定条件は、温度40℃、相対湿度90%である。前記フィルムの透湿度は、その用途によって異なるものの、概ね800g/m・24h未満であれば、偏光板保護フィルムとして使用することが可能である。
実施例及び比較例について評価した結果を、それぞれ表1〜4に示す。
Figure 0005243689
Figure 0005243689
Figure 0005243689
Figure 0005243689

Claims (5)

  1. プロピレングリコールまたは2−メチル−1,3−プロパンジオールであるグリコール(a)と、テレフタル酸、テレフタル酸のエステル化物、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸のエステル化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族系ジカルボン酸及び/またはそのエステル化物(b)と、安息香酸またはp−トルイル酸である芳香族系モノカルボン酸(c)とを反応させて得られる、300〜5000の数平均分子量を有するエステル化合物からなることを特徴とするセルロースエステル樹脂用改質剤。
  2. 前記エステル化合物の水酸基価が15以下で、かつ酸価が1.0以下である、請求項1に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
  3. 請求項1又は2に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤、及びセルロースエステル樹脂を含有してなるフィルム。
  4. 前記セルロースエステル樹脂用改質剤が、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して3〜30質量部含まれる、請求項に記載のフィルム。
  5. 請求項1又は2に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤及びセルロースエステル樹脂を有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を乾燥させることによって得られる偏光板用保護フィルム。
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