<実施の形態1>
図1に本発明の実施の形態1に係る熱転写記録装置10を概説するブロック図を示す。また、図2に熱転写記録装置10の構成概略図を示す。なお、図2ではいくつかの箇所について一部拡大図を併記している。
図2では説明のために、印刷媒体100と、インクシート220と、ボビン231,232と、保護層シート320と、ボビン331,332も併せて図示している。図2を参照して、これらをまず説明する。
印刷媒体100は例えば紙、OHP(overhead projector)フィルム等である。図2の例では印刷媒体100は、図面右側から供給され、最終的に図面左側へ排出される。なお、印刷媒体100のかかる移動に鑑み、印刷媒体100の供給側および排出側を上流側および下流側とも表現することにする。
インクシート220は、ベースフィルム221と、当該ベースフィルム221上に配置されたインク(またはインク層)222とを有している。インク222は画像記録用のインクであり、少なくとも1色のインク222が設けられている。ベースフィルム221およびインク層222は既存の各種材料で形成可能である。
なお、「画像」という用語は、「絵」および「文字」を含み、広く視覚的情報を言うものとする。
ここでは、イエロー(Y)のインク層222と、マゼンタ(M)のインク層222と、シアン(C)のインク層222とがベースフィルム221の長尺方向に沿って繰り返し並んでいる場合を例示する。かかる3色の配列順序は上記の記載順序に限定されるものではない。また、画像記録色の種類およびその数は上記の3色に限定されるものではない。
インクシート220は、長尺方向の一端部が供給ボビン231に固定され、長尺方向の他端部が巻き取りボビン232に固定されている。巻き取りボビン232が不図示の駆動機構によって回転することにより、インクシート220が供給ボビン231から繰り出され、巻き取りボビン232に巻き取られる。
インクシート220とボビン231,232とは、例えば不図示の筐体に収容されてカートリッジとして供給される。
保護層シート320は、ベースフィルム321と、当該ベースフィルム321上に配置された保護層322とを有している。ベースフィルム321および保護層322は既存の各種材料で形成可能である。ここでは保護層322が1種類の場合を例示する。これに対し、複数種類の保護層322をベースフィルム321の長尺方向に沿って繰り返し並べてもよい。
保護層シート320は、長尺方向の一端部が供給ボビン331に固定され、長尺方向の他端部が巻き取りボビン332に固定されている。巻き取りボビン332が不図示の駆動機構によって回転することにより、保護層シート320が供給ボビン331から繰り出され、巻き取りボビン332に巻き取られる。
保護層シート320とボビン331,332とは、例えば不図示の筐体に収容されてカートリッジとして供給される。
図2の例では、保護シート320はインクシート220よりも下流側に配置されている。
ここでは上記のようにインク層222と保護層322とが別々のベースフィルム221,321上に配置される場合を例示する。これに対し、インク層222と保護層322とを同じベースフィルム上に配置することも可能である。この場合、例えば、イエロー(Y)のインク層222と、マゼンタ(M)のインク層222と、シアン(C)のインク層222と、保護層322とがベースフィルムの長尺方向に沿って繰り返し並べられる。
以下では、まず図2を参照して、熱転写記録装置10を説明する。熱転写記録装置10は、サーマルヘッド(第1サーマルヘッド)20と、温度センサ(第1温度センサ)22と、プラテンローラ200と、印刷媒体搬送ローラ211と、ピンチローラ212と、ガイドローラ241,242とを有している。
サーマルヘッド20は、印刷媒体100上に画像記録用インク222を転写するために用いられるサーマルヘッドである。サーマルヘッド20は、所定方向に沿って整列配置された複数の発熱体21を有している。なお、図2では図示方向の都合上、発熱体21は1個のみ図示されている。発熱体21の列が印刷媒体100の搬送方向に直交する方向(図2において紙面垂直方向)に延在する姿勢で、サーマルヘッド20は配置されている。
ここではサーマルヘッド20がいわゆるラインヘッドの場合、すなわちサーマルヘッド20が印刷媒体100の搬送方向に直交する方向には移動せずに印刷を行う型式である場合を例示する。但し、サーマルヘッド20として、いわゆるシリアルヘッド、すなわち印刷媒体100の搬送方向に直交する方向に移動して印刷を行う型式のサーマルヘッドを採用することも可能である。
温度センサ22は、サーマルヘッド20の温度T20(図1参照)を測定するために用いられる。温度センサ22は図2の例ではサーマルヘッド20において発熱体21に対向する位置に取り付けられているが、かかる配置位置に限定されるものではない。温度センサ22は例えばサーミスタ等で構成可能である。
なお、温度センサ22が出力するヘッド温度T20は、発熱体21の温度の正確な値でなくてもよく、発熱体21の温度に相関する値であればよい。
プラテンローラ200は、サーマルヘッド20の発熱体21の列に対向して配置されている。より具体的には、プラテンローラ200は、発熱体21の配列方向、換言すれば印刷媒体100の搬送方向に直交する方向を回転軸方向として回転可能に支持されている。
サーマルヘッド20とプラテンローラ200のうちの少なくとも一方が移動することにより、両者20,200は近接および離反が可能である。なお、かかる近接動作および離反動作を行うための機構は図面の煩雑化を避けるために図示を省略している。
印刷媒体搬送ローラ211とピンチローラ212とは、図2の例では、サーマルヘッド20およびプラテンローラ200よりも下流側に配置されている。これらのローラ211,212は、印刷媒体100の搬送方向に直交する方向を回転軸方向として回転可能に支持されている。
ローラ211,212のうちの少なくとも一方が移動することにより、両者211,212は近接および離反が可能である。ローラ211,212は、近接状態において、移動媒体100を挟持可能である。ローラ211,212に挟持されている印刷媒体100は、ローラ211,212が離反することにより、挟持状態から開放される。なお、かかる近接動作および離反動作を行うための機構は図面の煩雑化を避けるために図示を省略している。
搬送ローラ211が不図示の駆動機構(モータ、当該モータの駆動装置等を含んで構成可能である)によって回転することにより、2つのローラ211,212に挟持された印刷媒体100が搬送される。例えば、サーマルヘッド20による1ライン分のインク転写に連動して、1ライン分ずつ印刷媒体100が搬送される。なお、搬送ローラ211の回転方向の設定により、印刷媒体100を上流側と下流側とのいずれにも搬送可能である。
一方のガイドローラ241は、サーマルヘッド20とインクシート220の供給ボビン231との間に配置され、インクシート220を案内するシート供給側ガイドローラである。他方のガイドローラ242は、サーマルヘッド20とインクシート220の巻き取りボビン232との間に配置され、インクシート220を案内するシート巻き取り側ガイドローラである。これら2つのローラ241,242は回転軸をボビン231,232の回転軸と平行にして、回転可能に支持されている。なお、ガイドローラ241,242の一方または両方を設けない構成も可能である。
上記構成において、印刷媒体100はサーマルヘッド20の発熱体21とプラテンローラ200との間を通って搬送される。インクシート220はベースフィルム221をサーマルヘッド20の側に向け、インク層222をプラテンローラ200の側、換言すれば印刷媒体100の側に向けて配置される。また、インクシート220は当該シート220の長尺方向が印刷媒体100の搬送方向に沿うように配置される。インクシート220のインク222を印刷媒体100上に転写する際、インク層222と印刷媒体100とがサーマルヘッド20の発熱体21とプラテンローラ200とによって挟持される。
熱転写記録装置10は、さらに、サーマルヘッド(第2サーマルヘッド)30と、温度センサ(第2温度センサ)32と、プラテンローラ300と、印刷媒体搬送ローラ311と、ピンチローラ312と、ガイドローラ341,342とを有している。
サーマルヘッド30は、印刷媒体100上に保護層322を転写するために用いられるサーマルヘッドである。サーマルヘッド30は、所定方向に沿って整列配置された複数の発熱体31を有している。なお、図2では図示方向の都合上、発熱体31は1個のみ図示されている。発熱体31の列が印刷媒体100の搬送方向に直交する方向(図2において紙面垂直方向)に延在する姿勢で、サーマルヘッド30は配置されている。
ここではサーマルヘッド30がいわゆるラインヘッドの場合を例示する。但し、サーマルヘッド30として、いわゆるシリアルヘッドを採用することも可能である。
温度センサ32は、サーマルヘッド30の温度T30(図1参照)を測定するために用いられる。温度センサ32は図2の例ではサーマルヘッド30において発熱体31に対向する位置に取り付けられているが、かかる配置位置に限定されるものではない。温度センサ32は例えばサーミスタ等で構成可能である。
なお、温度センサ32が出力するヘッド温度T30は、発熱体31の温度の正確な値でなくてもよく、発熱体31の温度に相関する値であればよい。
プラテンローラ300は、サーマルヘッド30の発熱体31の列に対向して配置されている。より具体的には、プラテンローラ300は、発熱体31の配列方向、換言すれば印刷媒体100の搬送方向に直交する方向を回転軸方向として回転可能に支持されている。
サーマルヘッド30とプラテンローラ300のうちの少なくとも一方が移動することにより、両者30,300は近接および離反が可能である。なお、かかる近接動作および離反動作を行うための機構は図面の煩雑化を避けるために図示を省略している。
印刷媒体搬送ローラ311とピンチローラ312とは、図2の例では、サーマルヘッド30およびプラテンローラ300よりも下流側に配置されている。これらのローラ311,312は、印刷媒体100の搬送方向に直交する方向を回転軸方向として回転可能に支持されている。
ローラ311,312のうちの少なくとも一方が移動することにより、両者311,312は近接および離反が可能である。ローラ311,312は、近接状態において、移動媒体100を挟持可能である。ローラ311,312に挟持されている印刷媒体100は、ローラ311,312が離反することにより、挟持状態から開放される。なお、かかる近接動作および離反動作を行うための機構は図面の煩雑化を避けるために図示を省略している。
搬送ローラ311が不図示の駆動機構(モータ、当該モータの駆動装置等を含んで構成可能である)によって回転することにより、2つのローラ311,312に挟持された印刷媒体100が搬送される。例えば、サーマルヘッド30による1ライン分の保護層転写に連動して、1ライン分ずつ印刷媒体100が搬送される。なお、搬送ローラ311の回転方向の設定により、印刷媒体100を上流側と下流側とのいずれにも搬送可能である。
一方のガイドローラ341は、サーマルヘッド30と保護層シート320の供給ボビン331との間に配置され、保護層シート320を案内するシート供給側ガイドローラである。他方のガイドローラ342は、サーマルヘッド30と保護層シート320の巻き取りボビン332との間に配置され、保護層シート320を案内するシート巻き取り側ガイドローラである。これら2つのローラ341,342は回転軸をボビン331,332の回転軸と平行にして、回転可能に支持されている。なお、ガイドローラ341,342の一方または両方を設けない構成も可能である。
上記構成において、印刷媒体100はサーマルヘッド30の発熱体31とプラテンローラ300との間を通って搬送される。保護層シート320はベースフィルム321をサーマルヘッド30の側に向け、保護層322をプラテンローラ300の側、換言すれば印刷媒体100の側に向けて配置される。また、保護層シート320は当該シート320の長尺方向が印刷媒体100の搬送方向に沿うように配置される。保護層シート320の保護層322を印刷媒体100上に転写する際、保護層322と印刷媒体100とがサーマルヘッド30の発熱体31とプラテンローラ300とによって挟持される。
図1に戻り、熱転写記録装置10は、さらに、制御部(または制御装置)40を有している。制御部40は、処理部70と、記憶部71と、記録色データ生成部72と、ヘッドデータ生成部73と、記憶部74と、ヘッドデータ生成部76とを含んでいる。
ここで、上記各部70,72,73,76における下記の処理または機能は、例えばソフトウェアによって実現可能である。
かかる場合、制御部40は、例えば、プログラムを格納した記憶装置と、当該プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行するマイクロコンピュータとを含んで構成される。各部70,72,73,76の処理内容または機能をプログラムとして記述しておくことにより、マイクロコンピュータによって各部70,72,73,76の機能が実現され、または、マイクロコンピュータが各部70,72,73,76に対応する手段として働く。
上記の記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置等の各種記憶装置の1つまたは複数で構成可能である。当該記憶装置は、上記のようにプログラムを格納するとともに、各種のデータ等を格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。
これに対し、上記各部70,72,73,76における下記の処理または機能は、例えば既存の各種回路を用いてハードウェアによって実現することも可能である。
処理部70は、各種の処理等を行う。処理部50が行う各種処理は、後述する保護層322の転写動作の制御に関するものを含む。また、制御部40内、さらには熱転写記録装置10内における各種の処理を処理部70に行わせるように構成することも可能である。
処理部70は、温度センサ22,32が測定したサーマルヘッド20,30の温度T20,T30のデータを当該温度センサ22,32から取得する。ヘッド温度T20,T30の測定値がアナログ信号の場合、当該信号は不図示のアナログ/デジタル変換器(A/D変換器)によってデジタルデータに変換された後に、処理部70へ入力される。A/D変換器は制御部40の内部と外部とのいずれに設けてもよい。
また、処理部70は、記録する画像の光沢度合いを示す光沢度D40のデータを取得する。光沢度D40は、図1の例では制御部40の外部から、例えば熱転写記録装置10に接続された不図示の各種機器(パーソナルコンピュータ、映像機器等)や、熱転写記録装置10に設けられた不図示の入力装置(操作パネル、キーボード等)から処理部70へ入力される。光沢度D40は、上記の各種機器や入力装置を介してユーザが設定可能なデータであり、印刷前に予め与えられる。
光沢度D40がアナログ信号によって入力される場合、当該信号は不図示のA/D変換器によってデジタルデータに変換された後に、処理部70へ入力される。A/D変換器は熱転写記録装置10内に設けてもよいし(制御部40の内部でも外部でもよい)、熱転写記録装置10と上記各種機器との間に接続してもよい。
取得したヘッド温度T20,T30と光沢度D40とのデータ処理については後述する。
記憶部71は、画像データD20を格納するものであり、例えばRAM等の各種記憶装置で構成可能である。画像データD20は、図1の例では制御部40の外部から、例えば熱転写記録装置10に接続された不図示の各種機器(パーソナルコンピュータ、映像機器等)から記憶部71へ入力され、記憶部71に書き込まれる。また、記憶部71に格納されている画像データD20は読み出されて、記録色データ生成部72へ出力される。記憶部71のデータの書き込みおよび読み出しは例えば処理部70によって制御される。
画像データD20はデジタルデータである。画像データD20は、例えば上記の各種機器においてデジタルデータに加工されて記憶部71へ入力される。上記の各種機器から送られてくるデータがアナログの場合、記憶部71へ入力される前にA/D変換器によってデジタルデータD20に変換される。A/D変換器は熱転写記録装置10内に設けてもよいし(制御部40の内部でも外部でもよい)、熱転写記録装置10と上記各種機器との間に接続してもよい。
画像データD20は、例えば光の3原色である赤(R)、緑(G)および青(B)の成分で構成されていてもよいし、あるいは、例えばR,G,Bの補色であるイエロー(Y)、マゼンタ(M)およびシアン(C)の成分で構成されていてもよい。また、例えば、画像データD20がビデオ信号の場合、当該データD20は輝度信号と色差信号とで構成されていてもよい。
記録色データ生成部72は、記憶部71から画像データD20を取得し(読み出し)、当該画像データD20から記録色データD21を生成する。記録色データD21は、記録色ごと、すなわちインクシート220(図2参照)に設けられているインク層222の各色(ここではイエロー(Y)、マゼンタ(M)およびシアン(C)が例示される)ごとの階調データを含む。
例えば画像データD20がR、G、Bのデータで構成され、R、G、Bの各データが2進法に基づくデジタルデータである場合、YのデータはBの補数を求めることにより取得可能であり、MのデータはGの補数を求めることにより取得可能であり、CのデータはRの補数を求めることにより取得可能である。但し、画像データデータD20から記録色データD21を求める手法はこれに限定されるものではない。
画像用サーマルヘッド20がラインヘッド型の場合、記録色データ生成部72は、次に印刷対象となる1ライン分について、記録対象となる色の記録色データD21を生成し出力する。記録対象となる色は、ここではY、M、Cのいずれかであり、サーマルヘッド20に対向する位置に準備されているインク222(図2参照)の色である。
このとき、記録色データ生成部72は、1ライン分ずつ逐次、記録色データD21を生成し出力するように構成可能である。より具体的には、画像データD20を印刷対象となる1ライン分ずつ取得し、当該1ライン分のデータD20に基づいて該当する記録色についてデータD21を生成する。
あるいは、例えば1フレーム分についてY、M、CのデータD21を予め生成しておき、印刷時に1ライン分ずつ、該当する記録色のデータD21を出力するように、記録色データ生成部72を構成してもよい。
ヘッドデータ生成部73は、記録色データ生成部72から、所定の記録色の1ライン分の記録色データD21を取得し、当該データD21に従って、画像用サーマルヘッド20を駆動するためのヘッドデータD22を生成する。ヘッドデータD22は、各発熱体21(図2参照)の発熱(発熱量)を記録色データD21の階調データに応じて制御するものであり、例えば各発熱体21の印加電圧値や通電時間長さに関するデータである。
記憶部74は、ルックアップテーブル(LUT)75を格納するものであり、例えばROM、EPROM等の各種記憶装置で構成可能である。
ここで、図3にLUT75を概説する模式図を示す。LUT75は、図3の例では、ヘッド温度T20,T30の値と光沢度D40の値とLUT値D30とが関連付けられて構成されている。このため、ヘッド温度T20,T30の測定値と光沢度D40の設定値とを検索キーとして用い、当該検索キーに基づいてLUT75から、対応するLUT値D30を抽出することが可能である。
例えば、ヘッド温度T20,T30の値と光沢度D40の値とには、その値に応じてアドレス情報が割り当てられている。これらの3つのアドレス情報の組合せで形成されるアドレス(以下、格納先アドレスと称することにする)は記憶部74のアドレスに対応し、当該アドレスの記憶領域に、予め規定されたLUT値D30が格納されている。
格納先アドレスは、記憶部74のアドレスを直接的に示すものであってもよいし、あるいは記憶部74のアドレスを間接的に示すものであってもよい。後者の場合、例えば格納先アドレスに対して予め規定されたアドレス変換を施すことにより、記憶部74のアドレスを取得可能である。
一例として、ヘッド温度T20が70℃、ヘッド温度T30が30℃、光沢度D40の設定値が”標準よりも高い”の場合を挙げる。かかる例について図3に従えば、ヘッド温度T20(70℃)に対して”11”というアドレス情報が得られ、ヘッド温度T30(30℃)に対して”01”というアドレス情報が得られ、光沢度D40(”標準よりも高い”)に対して”10”というアドレス情報が得られる。
これらのアドレス情報を連結することにより”110110”という格納先アドレスが得られる。かかる格納先アドレス”110110”に対応する記憶部74の記憶領域にアクセスすることにより、予め格納されている”40”というLUT値D30を取得することができる。
なお、上記例において、アドレス情報および格納先アドレスは2進数表記とし、LUT値は10進数表記とする。また、上記では説明を分かりやすくするために、光沢度D40を”標準”、”標準よりも低い”、”標準よりも高い”という表現を用いたが、光沢度D40を数値によって表現してもよい。
LUT75の構成は図3の例に限定されるものではない。例えばサーマルヘッド20,30以外の部品の温度等を更なる項目としてLUT75に組み込んでもよい。項目が多いほど、換言すれば検索キーが多いほど、多様な環境に対して詳細に対応できるので、より好ましい。
LUT値D30として、保護層322を所定の光沢度D40で形成するために転写時に必要なエネルギーレベルが採用されている。かかるエネルギーレベルは、ジュール(J)等の単位を用いて絶対的な値で表現してもよいし、あるいは熱転写記録装置10について規定された相対的な値で表現してもよい。
図3に例示するように、画像用サーマルヘッド20の温度T20が高いほど、エネルギーレベルD30は小さく設定されている。また、保護層サーマルヘッド30のヘッド温度T30が高いほど、エネルギーレベルD30は小さく設定されている。また、光沢度D40が高いほど、エネルギーレベルD30は小さく設定されている。
エネルギーレベルD30(LUT値D30)の抽出は、処理部70によって行われる。より具体的には、処理部70は、上記の所定の関係が規定されているLUT75に、保護層322の転写前におけるヘッド温度T20,T30の測定値と、光沢度D40について予め与えられた設定値とを検索キーとして上記のように当てはめることにより、対応するエネルギーレベルD30を抽出する。そして、処理部70は、取得したエネルギーレベルD30をヘッドデータ生成部76へ出力する(図1参照)。
ヘッドデータ生成部76は、処理部70から取得したエネルギーレベルD30に従って、保護層用サーマルヘッド30を駆動するためのヘッドデータD31を生成する。ヘッドデータD31は、各発熱体31(図2参照)の発熱をエネルギーレベルD30に応じて制御するものであり、例えば各発熱体31の印加電圧値や通電時間長さに関するデータである。エネルギーレベルD30が大きいほど、発熱体31での発熱量が大きくなるように、ヘッドデータD31は構成される。
なお、ヘッド温度T20,T30の値と光沢度D40の値とエネルギーレベルD30の値とが関連付けられた上記所定の関係は、LUT以外の形式のテーブルや、予め規定された所定のデータ構造によって与えられてもよい。また、上記所定の関係を、処理部70が実行するプログラム中に条件式として記述することにより、エネルギーレベルD30を取得するようにすることも可能である。
次に、熱転写記録装置10の動作を説明する。図4にインク層転写動作ST1を概説するフローチャートを示し、図5に保護層転写動作ST2を概説するフローチャートを示す。熱転写記録装置10では、まずインク層転写動作ST1が実行され、その後に保護層転写動作ST2が実行される。
図4の例では、インク層転写動作ST1はステップST10〜ST13を含み、これらのステップST10〜ST13がこの順序で実行される。
ステップST10では、処理部70の制御の下、記憶部71に画像データD20が格納される。
ステップST11では、記録色データ生成部72が、記憶部71から画像データD20を読み出し、所定の記録色(ここではイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)のいずれか)について記録色データD21を生成する。
ステップST12では、ヘッドデータ生成部73が、記録色データ生成部72から記録色データD21を取得し、当該データD21に基づいてヘッドデータD22を生成する。
ステップST13では、ヘッドデータ生成部72が、ヘッドデータD22を画像用サーマルヘッド20へ出力する。これにより、画像用サーマルヘッド20の発熱体21がヘッドデータD22に応じた発熱量で発熱し、対象色のインク層222が印刷媒体100上に転写される。
ここではインク層222の転写は1ラインずつ行われ、全ラインの転写の終了により所定色についての画像全体が印刷媒体100上に記録される。
インク転写動作ST1は全ての記録色について実行される。このとき、次の記録色についてインク転写動作ST1を実行する前に、搬送ローラ211(図2参照)によって印刷媒体100が上流側へ戻される。
図4の例では、保護層転写動作ST2はステップST20〜ST25を含み、これらのステップST20〜ST25がこの順序で実行される。
ステップST20では、処理部70が光沢度D40の設定値を取得する。ステップST21では、処理部70が温度センサ22から画像用サーマルヘッド20の温度T20の測定値を取得する。ステップST22では、処理部70が温度センサ32から保護層サーマルヘッド30の温度T30の測定値を取得する。なお、ステップST20〜ST22はどのような順番で実行しても構わない。
ステップST23では、処理部70が、ステップST20〜ST22で取得した光沢度D40の設定値とヘッド温度T20,T30の測定値とに基づいて、対応するLUT値D30、すなわち対応するエネルギーレベルD30を取得する。
ステップST24では、ヘッドデータ生成部76が、処理部70からエネルギーレベルD30を取得し、当該エネルギーレベルD30に基づいてヘッドデータD31を生成する。
ステップST25では、ヘッドデータ生成部76が、ヘッドデータD31を保護層用サーマルヘッド30へ出力する。これにより、保護層用サーマルヘッド30の発熱体31がヘッドデータD31に応じた発熱量で発熱し、保護層322が印刷媒体100上に転写される。
ここでは保護層322の転写は1ラインずつ行われ、全ラインの転写の終了により、先に形成された画像上に保護層322が積層される。なお、図2の左端に示す部分拡大図には、保護層322の下のインク層322が1層の箇所を例示している。
熱転写記録装置10によれば、上記のように、保護層322の転写時における保護層用サーマルヘッド30の発熱を、LUT75に規定された所定の関係に従って制御する。このため、保護層322の形成について、保護層転写前のヘッド温度T20,T30の影響を抑制することができる。したがって、設定通りの光沢度D40を有する保護層322を形成することができる。また、そのような保護層322を再現性良く形成することができる。
<実施の形態2>
図6に本発明の実施の形態2に係る熱転写記録装置11を概説するブロック図を示す。
熱転写記録装置11において、図6に示される移動機構80は、印刷媒体100上における保護層用サーマルヘッド30の位置を制御する機構である。
例えばサーマルヘッド30は固定され印刷媒体100が移動しつつ保護層322を転写する構成の場合、印刷媒体100を搬送する機構(搬送ローラ311、ピンチローラ312、搬送ローラ駆動機構等)が移動機構80に含まれる。この場合、保護層322の転写時において移動機構80は、予め設定された移動速度で印刷媒体100を移動させる。
また、例えば印刷媒体100が停止した状態でサーマルヘッド30とプラテンローラ300とが移動しつつ保護層322を転写する構成の場合、サーマルヘッド30およびプラテンローラ300を移動させる機構が移動機構80に含まれる。この場合、保護層322の転写時において移動機構80は、予め設定された移動速度でサーマルヘッド30を移動させる。
また、例えばサーマルヘッド30と印刷媒体100との両方が移動しつつ保護層322を転写する構成の場合、印刷媒体100の搬送機構とサーマルヘッド30およびプラテンローラ300の移動機構とが移動機構80に含まれる。この場合、保護層322の転写時において移動機構80は、サーマルヘッド30等と印刷媒体100とについてそれぞれ予め設定された移動速度で、サーマルヘッド30等と印刷媒体100とを移動させる。
なお、プラテン300に代えて例えば平板状のプラテン(いわゆるプラテン板)を採用することも可能である。かかる場合にはプラテンを移動させる必要がなくなる。
熱転写記録装置11は上記の熱転写記録装置10(図1参照)において制御部40の代わりに制御部41を設けた構成を有している。また、制御部41は、上記の制御部40においてヘッドデータ生成部76の代わりに移動速度データ生成部81を設けた構成を有している。
移動速度データ生成部81は、処理部70によって抽出されたLUT値D30、すなわちエネルギーレベルD30を取得し、その値D30に従って、保護層322の転写時における上記の移動速度を決定する。すなわち、熱転写記録装置11では、保護層322の転写時における移動速度D32は、ヘッド温度T20,T30の測定値と光沢度D40の設定値とに応じて決まる可変値である。
例えば、エネルギーレベルD30が大きいほど、移動速度D32は小さい値に設定される。これにより、エネルギーレベルD30が大きいほど、保護層322に与えられる単位時間あたりの熱エネルギーが高くなる。
移動速度データ生成部81における処理または機能はソフトウェアとハードウェアとのいずれによっても実現可能である。
移動速度データ生成部81は、生成した移動速度D32のデータを移動機構80へ出力する。
移動機構80は、取得した移動速度D32のデータに従って、搬送ローラ311の駆動モータの電流値や制御パルス等を制御する。これにより、印刷媒体100または/および保護層用サーマルヘッド30が、設定された移動速度D32で移動する。
なお、熱転写記録装置11では、保護層322の転写時におけるサーマルヘッド30の発熱量は予め設定される固定値が採用される。
次に、図7のフローチャートを参照して、熱転写記録装置11における保護層転写動作ST3を説明する。なお、熱転写記録装置11におけるインク層転写動作は上記で例示したインク層転写動作ST1(図4参照)と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図7の例では、保護層転写動作ST3はステップST20〜ST23,ST26,ST27を含み、これらのステップST20〜ST23,ST26,ST27がこの順序で実行される。なお、ステップST20〜ST23は上記で例示した保護層転写動作ST2(図5参照)の場合と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
ステップST26では、移動速度データ生成部81が、処理部70からエネルギーレベルD30を取得し、当該エネルギーレベルD30に基づいて移動速度D32のデータを生成する。
ステップST27では、移動速度データ生成部81が、生成した移動速度D32のデータを移動機構80へ出力する。これにより、移動機構80は移動速度D32に応じて稼働し、保護層322の転写が行われる。
熱転写記録装置11によれば、上記のように、保護層322の転写時における印刷媒体100または/および保護層用サーマルヘッド30の移動速度D32を、LUT75に規定された所定の関係に従って制御する。このため、保護層322の形成について、保護層転写前のヘッド温度T20,T30の影響を抑制することができる。したがって、設定通りの光沢度D40を有する保護層322を形成することができる。また、そのような保護層322を再現性良く形成することができる。
<実施の形態3>
図8に本発明の実施の形態3に係る熱転写記録装置12を概説するブロック図を示す。
熱転写記録装置12は上記の熱転写記録装置10(図1参照)において制御部40の代わりに制御部42を設けた構成を有している。また、制御部42は、上記の制御部40に、実施の形態2に係る移動速度データ生成部81を追加した構成を有している。
すなわち、熱転写記録装置12ではヘッドデータ生成部76と移動速度データ生成部81とが協働することにより、処理部70が選定したエネルギーレベルD30で保護層322の転写が行われる。
次に、図9のフローチャートを参照して、熱転写記録装置12における保護層転写動作ST4を説明する。なお、熱転写記録装置12におけるインク層転写動作は上記で例示したインク層転写動作ST1(図4参照)と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図9の例では、保護層転写動作ST4はステップST20〜ST24,ST26,ST28を含み、これらのステップST20〜ST24,ST26,ST28がこの順序で実行される。なお、ステップST20〜ST24,ST26は上記で例示した保護層転写動作ST2,ST3(図5および図7参照)の場合と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
ステップST28では、ヘッドデータ生成部72がヘッドデータD31を保護層用サーマルヘッド30へ出力するとともに、移動速度データ生成部81が移動速度D32のデータを移動機構80へ出力する。これにより、保護層用サーマルヘッド30がヘッドデータD31に応じて発熱するとともに移動機構80が移動速度D32に応じて稼働して、保護層322の転写が行われる。
なお、移動速度D32のデータの生成ステップST26を、ヘッドデータD31の生成ステップST24よりも先に実行することも可能である。また、両ステップST24,ST26を並行して実行することも可能である。
熱転写記録装置12によれば、熱転写記録装置10,11と同様の効果を得ることができる。
特に熱転写記録装置12によれば、保護層用サーマルヘッド30の発熱制御のみを行う熱転写記録装置10に比べて、また、印刷媒体100または/およびサーマルヘッド30の移動速度の制御のみを行う熱転写記録装置11に比べて、光沢度の階調数を増加させることができる。
例えば、保護層用サーマルヘッド30の発熱を熱転写記録装置10で設定可能な最小値に設定するとともに、印刷媒体100または/およびサーマルヘッド30の移動速度D32を熱転写記録装置10での設定値(固定値)よりも速く設定することが可能である。かかる設定によれば、熱転写記録装置10の場合よりも薄く保護層322を転写することができる。
また、例えば、上記移動速度D32を熱転写記録装置11で設定可能な最小値に設定するとともに、保護層用サーマルヘッド30の発熱を熱転写記録装置11での設定値(固定値)よりも高く設定することが可能である。かかる設定によれば、熱転写記録装置11の場合よりも厚く保護層322を転写することができる。
また、熱転写記録装置12では、ヘッドデータD31の取得と移動速度D32の取得とに、同じLUT75を利用する。すなわち、LUT75から抽出されるエネルギーレベルD30を共通の(共有の)中間パラメータとして利用する。このため、ヘッドデータD31と移動速度D32とをエネルギーレベルD30を介さずにそれぞれ直接に求める場合に比べて、熱転写記録装置12は構成が簡略である。エネルギーレベルD30を中間パラメータとして利用するので、データD31,D32の取得だけでなく、他の用途にもLUT75を活用可能である。このため、熱転写記録装置12は拡張性に富む。
<変形例>
実施の形態1〜3では保護層322を全面的に均一厚さで転写する場合、すなわち保護層用サーマルヘッド30の全ての発熱体31を同じ発熱量で発熱させる場合を例示した。
これに対し、各発熱体31の発熱量を個別に制御することにより、印刷媒体100上に保護層322の凹凸パターン(絹目パターン、ランダムパターン等)を形成することも可能である。これによれば、マット調(すりガラス調、つや消し調とも呼ばれる)等の視覚的効果を得ることができる。
各発熱体31の発熱量の個別制御は、例えばヘッドデータ生成部76またはこれに相当する要素によって行うことが可能である。例えば熱転写記録装置10を応用すると、ヘッドデータ生成部76が、処理部70を介してマット調等の設定情報を取得し、エネルギーレベルD30とともに当該設定情報に従って各発熱体31の発熱量を調整するという構成にすればよい。
10〜12 熱転写記録装置、20 画像用サーマルヘッド(第1サーマルヘッド)、22 温度センサ(第1温度センサ)、30 保護層用サーマルヘッド(第2サーマルヘッド)、32 温度センサ(第2温度センサ)、40〜42 制御部、75 LUT、80 移動機構、100 印刷媒体、222 画像記録用インク、322 保護層、D30 エネルギーレベル、D40 光沢度、T20,T30 ヘッド温度。