JP5164411B2 - 標的物質検出方法および標的物質検出キット - Google Patents

標的物質検出方法および標的物質検出キット Download PDF

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Description

本発明は、検体液中の標的物質を検出する標的物質検出方法および標的物質検出キットに関するものである。本発明は、特に、生体由来の物質又はその類似物質の特異的な分子認識能を利用したいわゆるバイオセンサーに好適に応用できる標的物質検出方法及び標的物質検出キットに関する。
バイオセンサーは生体や生体分子の持つ、優れた分子認識能を活用した計測デバイスである。生体内には、互いに親和性のある物質の組み合わせとして例えば酵素-基質、抗原-抗体、DNA-DNA等がある。バイオセンサーはこれらの組み合わせの一方を基体に固定もしくは担持し、用いることによって、もう一方の物質を選択的に計測できるという原理を利用している。近年では、バイオセンサーは医療分野のみならず、環境や食料品等での各種分析への幅広い応用が期待され、その使用領域を広げるためにも、あらゆる場所に設置あるいは持ち運び可能な小型、軽量、高感度、高効率なバイオセンサーが望まれている。
そして、現在、このような生体分子間相互作用を検出する方法のひとつとして、磁性標識を利用した磁気検出法の研究が盛んに進められており、固相分析にも用いられている。
図1に、従来の磁性標識を用いた固相分析法の一例を示す。図1に示される方法においては、まずあらかじめ、基板1の表面に、標的物質5の一部の領域を特異的に認識し捕捉することができる第一の標的物質捕捉体3を固定する。標的物質5の一部の領域は、標的物質が抗原であり抗原抗体反応を用いて抗原を検出する場合はエピトープと呼ばれる。また、第一の標的物質捕捉体3は、抗原抗体反応を用いて抗原を認識する場合は一次抗体と呼ばれる。そして、基板1の表面に、標的物質5を含む検体液を接触させる。この操作により、標的物質5が第一の標的物質捕捉体3によって特異的に捕捉される。次に、標的物質5のうち第一の標的物質捕捉体3により特異的に捕捉された領域とは別の領域を特異的に認識し捕捉することができる磁性標識9を検体液中に投入する。磁性標識9は、第二の標的物質捕捉体(抗原抗体反応を用いて抗原を認識する場合は二次抗体と呼ばれる)4を有する。(なお、ここで、磁性標識9は磁性構造体2とその表面に設けられた第二の標的物質捕捉体4とからなっている。)この操作により、第二の標的物質捕捉体4が、基板1の表面に固定化された第一の標的物質捕捉体3に特異的に捕捉された標的物質5を認識して捕捉する。それにより、見かけ上磁性標識が標的物質に捕捉されたようになる。結果的に図1のように、標的物質5を介して、磁性標識が基板1の表面近傍に固定化される。
また、異なる方法を用いたものとして、以下のような例を挙げることもできる。あらかじめ、標的物質5を含む検体液中に、第二の標的物質捕捉体4を有する磁性標識2を加えて、“標的物質-第二の標的物質捕捉体を有する磁性標識”複合体を形成させる。その複合体を基板1上に固定化された第一の標的物質捕捉体3と接触させることによって、結果的に、図1のように、標的物質を介して、磁性標識を基板表面に固定化することも可能である。
そして、検出素子表面に固定化された磁性標識の数を何らかの手法で測定する事で、目的とする標的物質の数、濃度を計算することが可能となる。
このような磁気検出の手法を用いた標的物質検出素子として、以下の手法が提案されている。特許文献1には、標識としての磁性体を抗原抗体反応により検体液中の標的物質に結合させ、該標識を磁化した上で、磁気センサとしてのSQUID(超電導量子干渉計)により該標識を検出する免疫検査方法が開示されている。
また、特許文献2には、結合した磁性分子により形成される磁場を検知するための検知素子が半導体ホール素子を含むものであり、特定された磁性分子の量に基づいて測定対象物の分析を行うバイオセンサーが開示されている。
また、特許文献3には、センサ素子上の第一の捕捉分子と標的分子を介した第二の捕捉分子に標識された磁性微粒子の磁気信号を、磁気抵抗効果素子を用いて検出する方法が開示されている。
上述のような磁性標識を利用したバイオセンシング法に対して、特許文献4には、生体分子固定領域と、生体分子固定領域を取り囲むようにテンプレート領域を形成した基体を用いるバイオセンシング方法が開示されている。このテンプレート領域は、ターゲット分子及びキャプチャー分子に対して反応性を有さない単分子膜で基体を被覆することにより形成されたものである。かかる構成は、ターゲット分子とキャプチャー分子との生体分子間相互作用に由来するシグナルを安定的に発生させて、このシグナルを高精度、かつ高感度で検出することを目的としたものである。
特開2001-033455号公報 国際公開WO03 067258号パンフレット 米国特許5981297号明細書 特開2005-91014号公報
しかし、バイオセンサーには、さらなる高感度化、高精度化(ノイズ低減)や反応時間短縮、つまり検出効率向上という課題がある。
本発明は、
第一の標的物質捕捉体を表面に有する検出部非検出部とからなる検出素子と、磁性標識と、を用いて、検体液中の標的物質を検出する標的物質検出方法において、
前記検出部に接触させる前記磁性標識を含む溶液もしくは検体液おける前記磁性標識の表面電位ψ1、前記検出部の表面電位ψ2、前記非検出部の表面電位ψ3 、とした時、
前記磁性標識が、磁性構造体と、該磁性構造体を被覆し、かつ以下のi)〜iv)のいず
れかの関係を満たすための被覆層を有し、
前記いずれかの関係を満たした状態で、
前記第一の標的物質捕捉体に前記標的物質を介して前記磁性標識を捕捉させことを特徴とする標的物質検出方法である。
i)ψ1ψ3>0かつψ2=0
ii)ψ1ψ2<0かつψ3=0
iii)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3>0かつ|ψ2|>|ψ3
iv)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3<0
また、別の本発明は、
第一の標的物質捕捉体を表面に有する検出部非検出部とからなる検出素子と、磁性標識とからなり、検体液中の標的物質を検出する標的物質検出キットにおいて、
前記磁性標識が磁性構造体と該磁性構造体を被覆し、以下のi)〜iv)のいずれかの関
係を満たすための被覆層を有し、
前記検出部に接触させる前記磁性標識を含む溶液もしくは検体液における前記磁性標識の表面電位ψ1、前記検出部の表面電位ψ2、前記非検出部の表面電位ψ3 、とした時、
以下のi)〜iv)のいずれかの関係を満たすことを特徴とする標的物質検出キットである

i)ψ1ψ3>0かつψ2=0
ii)ψ1ψ2<0かつψ3=0
iii)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3>0かつ|ψ2|>|ψ3
iv)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3<0
前記磁性標識および前記非検出部が前記積層構造を有し、前記磁性標識を構成する積層構造のうちの最表面の層と、前記非検出部を構成する積層構造の最表面の層が同一の材料からなる層であることが好ましい。また、同一の材料からなる層はグラフトポリマーからなる層であることが好ましい。前記検出部の表面電位が、前記検出部に接続された外部電源による電圧印加もしくは電流印加によって生じるものであることが好ましい。前記検出部が、電圧もしくは電流を印加するための端子を有することが好ましい。
本発明は、検出効率に優れ、高感度な標的物質検出方法及び標的物質検出キットを提供する。
図2〜図4は、本発明の検出方法に用いる磁性標識および検出素子の例を標的物質検出方法の差異も踏まえて分類して示す模式図である。2は磁性構造体、3は第一の標的物質捕捉体、4は第二の標的物質捕捉体、5は標的物質、7は検出部、8は非検出部、9は磁性標識を示す。これらの例において、磁性標識9は、磁性構造体2を必須構成要素とする。図2は磁性標識が表面に第二の標的物質捕捉体を有する形態を、図3は磁性標識が表面に標的物質を有する形態を、図4は磁性標識が表面に標的物質を捕捉した第二の標的物質捕捉体を有する形態をそれぞれ示す。
図2に示す形態と図4に示す形態とは、いずれも磁性標識が表面に第二の標的物質捕捉体を有しているという共通点を有している。ただし、標的物質検出方法という観点で考えると、図2に示す形態は、第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に捕捉させる形態である。一方、図4に示す形態は、第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させる形態である。このように、標的物質検出方法という観点で考えると、図3に示す形態と図4に示す形態とは、いずれも第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させるという共通点を有している。
また、検出部と非検出部の構成としては、図5に示すような構造とすることもできる。図5に示す構造は、基材6が検出部の一部となる領域と非検出部の一部となる領域とを有する構造である。図5のような構造である場合、基板1のうち第一の標的物質捕捉体3を表面に形成した領域と第一の標的物質捕捉体3とからなる部分が検出部7となり、基板1のうちの前記検出部7以外の領域と該領域の表面に形成される層とからなる部分が非検出部8となる。なお、本発明において、基材とは検出素子全体の支持体として機能するものであり、基板とは第一の標的物質捕捉体を形成する前の段階の検出素子のこととする。したがって、基材は基板の一部であり、基板が一層で構成されている場合は基材と基板は同一のものとなる。
また、図5の例では、基材6のうち前記検出部7以外の領域の表面に複数の層が形成されており、前記複数の層のうちの最表面の層を被覆層16として図中に示している。磁性標識は、図6に示す構造のように磁性構造体2が表面に被覆層16を有し、該被覆層に第一の標的物質捕捉体4が形成されたものであっても良い。
本発明では、検出部と非検出部とからなる検出素子を検体液と接触させ、検出部近傍に位置する磁性標識(磁性マーカー)の有無、数を検知する事により検体液中の標的物質の有無、濃度を検出する。
この際、検体液との接触状態において、検出部、非検出部および磁性標識の表面電位が以下の関係にあることが本発明の重要な特徴である。なお、本発明においては、検出部近傍に存在する磁性標識が検出される。
検体液中における磁性標識の表面電位がψ1、前記検出部の表面電位がψ2、前記非検出部の表面電位がψ3であり、ψ1、ψ2、ψ3が以下のi)〜iv)のいずれかの関係にある状態で検出が行われる。検出は、検出部が有する第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させる、もしくは磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を捕捉させて行う。
前記検体液中における前記磁性標識の表面電位がψ1、前記検出部の表面電位がψ2、前記非検出部の表面電位がψ3であり、前記ψ1、ψ2、ψ3が以下のi)〜iv)のいずれかの関係にある状態で、前記検出部が有する第一の標的物質捕捉体に前記磁性標識が有する標的物質を捕捉させる、もしくは前記磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に前記検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を捕捉させる。
i)ψ1ψ3>0かつψ2=0
ii)ψ1ψ2<0かつψ3=0
iii)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3>0かつ|ψ2|>|ψ3
iv)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3<0
このように磁性標識の捕捉時における条件に上記の特徴を持たせることにより、迅速かつ選択的に磁性標識を検出部近傍に導き、検出効率の向上を可能とする。
なお、本発明において、表面電位とは、表面の帯電状態を示すものであり、「Aの表面電位」とは、Aの表面における局所的な帯電状態を示すものではなく、Aの表面全体での帯電状態を示すものである。したがって、Aの表面電位とは、Aの表面電荷平均であっても良いし、Aの表面電位平均であっても良い。また、Aのゼータ電位であっても良い。
更に、外部電源によりAの表面に電位を印加し、該電位によって表面に生じた電位であっても良い。検出部の表面電位を制御することができれば、外部電源は反応容器に接続されていてもよい。なお、反応容器自体は検出部の表面電位とは異なる極性の表面電位を有していてもよい。
表面電位が表面電荷平均である例としては、Aが溶液中でアニオンとなる官能基やカチ
オンとなる官能基を表面に有する化合物である場合などが挙げられる。このような場合、表面電位とは、化合物全体における電荷平均を示す。
したがって、表面電位を有する二つの物質間において、前記二つの物質が有する電位の極性が等しく、絶対値の差が大きいほど、二つの物質間の反発力が大きいと言える。
尚、表面電位の極性は、表面を形成する材料の等電点と検体液のpHの関係から容易に決定できるが、ケルビン法等を用いることにより、測定することも可能である。また、粒子表面のゼータ電位は電気泳動法等により測定することが可能である。
以下、本発明を構成する要素である磁性標識、検出素子および検出キットについて述べた後に、i)〜iv)の各形態について詳細に述べる。
本発明においては、検出部、非検出部、および磁性標識の表面電位を制御することで、迅速かつ選択的に、磁性標識を検出部近傍に導く。
<標的物質検出素子>
本発明に用いる標的物質検出素子は、非検出部と、第一の標的物質捕捉体を表面に有する検出部と、からなるものである。第一の標的物質捕捉体によって標的物質が捕捉され、結果的に、磁性標識が検出部近傍に固定されることにより、検出部が磁性標識を認識する。この際の磁性標識の有無によるシグナルの変化を利用して標的物質の検出を行う。
本発明において、検出素子の検出部は、磁性標識の有無、量によって、検体液中の標的物質の有無、量を測定する機能を有する部分のことであり、表面に標的物質を捕捉する第一の標的物質捕捉体を有する。また、非検出部とは検出素子における検出部以外の部分を示す。検出素子が有する非検出部と検出部は隣接していれば良く、一部が接していても良いし、非検出部が検出部の周囲に位置していても良い。
以下のプロセスAまたはBにおいて、検出部および非検出部の表面電位が磁性標識の表面電位との関係において前記i)〜iv)のいずれかを満たしていれば、検出部および非検出部は一層で構成されていても良く、複数の層の積層体で構成されていても良い。
プロセスA:
検出部が有する第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させるプロセス。
プロセスB:
検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に捕捉させるプロセス。
また、検出部もしくは非検出部の表面電位は、検出部もしくは非検出部表面の材料の性質によって制御しても良いし、検出部、非検出部の、一方、もしくは双方それぞれを、外部電源と接続して電圧もしくは電流の印加を行うことで制御しても良い。このような場合、検出部もしくは非検出部は外部電源によって電圧もしくは電流を印加するための端子を有する。検出部もしくは非検出部の表面の材料によって表面電位の制御を行う場合であって、検出部もしくは非検出部が一層で構成されている場合、表面電位が前記条件を満たすような材料を基板として用いることが好ましい。なお、検出部および非検出部が一層で構成されている場合には、検出部および非検出部を異なる材料によって構成する。一方、検出部もしくは非検出部の表面の材料によって表面電位の制御を行う場合であって、検出部もしくは非検出部が複数の層の積層体で構成されている場合、最表面の層に表面電位が前記条件を満たすような材料を用いることが好ましい。前記条件を満たすような材料は、例えば、特定の温度もしくはpHの溶液中で、アニオンとなる官能基やカチオンとなる官能基を有するポリマーや、等電点を有する無機酸化物などから選択することができる。特定の温度もしくはpHの溶液中でアニオンとなる官能基としては、例えば、カルボキシル基等が挙げられ、カチオンとなる官能基としては、例えば、アミノ基等が挙げられる。なお、積層体を形成した際の最表面の層の表面電位が前記条件を満たせば、最表面の層以外の層は、表面電位を有さない材料であっても良く、前記条件を満たさない表面電位を有する材料で構成されていても良い。また、最表面の層は、最表面の層が単体で存在する場合には、前記表面電位の条件を満たさないとしても、積層体とすることで前記条件を満たすような材料で構成しても良い。
また、検出部もしくは非検出部は、外部電源からの電圧もしくは電流の印加によって各表面における表面電位を前記条件に制御する場合、外部電源と非接続状態では表面電位を有さない、もしくは前記条件を満たさない表面電位を有する材料で構成していても良い。検出部に外部電源を接続する場合の例を図7に示す。本例では、外部電源15によって検出部の表面に電位を付与している。このような方法は、磁性標識の表面電位に対応させて、容易に検出部7の表面電位を変化させることができるため好ましい。
また、検出部の一部となる基板表面に予め活性基を有する分子などを固定化し、その後活性基によって、別の検出部の一部となる第一の標的物質捕捉体を固定化することが好ましい。
(標的物質捕捉体)
本発明において使用する標的物質捕捉体は、検体液中の標的物質の選択に係わる物質であり、標的物質に応じて選択することができる。
ここで、本発明の標的物質捕捉体を説明する前に、本発明における標的物質について説明する。
標的物質は検出素子と反応させる検体液中に含まれており、検出部が表面に有する第一の標的物質捕捉体によって捕捉される部分(領域)を有する。本発明における検出対象は、代表的には生物の体内に存在する化学物質(生体物質)である。本発明においては、検出対象自体を標的物質とすることが一般的である。
もっとも、本発明では、標的物質を用いて検出対象を検出することができれば良い。したがって、前述したように検出対象自体が標的物質であり、標的物質捕捉体によって直接検出対象を捕捉することで検出しても良いし、標的物質と検出対象が異なっており、標的物質捕捉体によって標的物質を検出することで間接的に検出対象の検出を行っても良い。後者の例としては、検出対象が存在することによって、標的物質が生じる場合などである。したがって、検出対象は生体物質に限るものではなく、またそのサイズも、、特に限定されるものではない。ただし、標的物質は糖、蛋白質、アミノ酸、抗体、抗原や疑似抗原、ビタミン、遺伝子などの生体物質、及び、その関連物質や人工的に合成された擬似生体物質であることが望ましい。更に、検体液は、検出対象物質を含む試料そのものであっても良く、試料に対して、標的物質の抽出処理、分離処理、希釈処理及び精製処理等の各種処理を経て調製したものであってもよい。検体液は、標的物質の種類に応じた液媒体、例えば水や緩衝液、水と水溶性の有機溶媒との混合物などを用いて調製される。なお、分析対象物質から直接あるいは間接的に得られる分解物や生成物を標的物質として検出することで分析対象物質を間接的に検出する場合にも、本発明は好適に適用可能である。
本発明に使用される標的物質捕捉体の例としては、前述した標的物質の例を捕捉できるものであり、酵素、抗体および抗原などのタンパク質、DNA、RNA、糖鎖などが挙げられるが、これに限る物ではない。
本発明における標的物質−第一もしくは第二の標的物質捕捉体の組み合わせの例としては、抗原−抗体、酵素−基質、DNA−DNA、DNA−RNA、DNA−タンパク質、RNA−タンパク質、糖鎖−タンパク質等が挙げられるが、特異的な結合を有する関係のものであれば特に制限されるものではない。なお、これらは組み合わせを示しているものである。したがって、標的物質−標的物質捕捉体の組み合わせとして、「A−B」と記載する場合は、標的物質としてA、標的物質捕捉体としてBを用いる場合と、標的物質としてB、標的物質捕捉体としてAを用いる場合の両方を表しているものとする。
<標的物質検出キット>
本態様の標的物質検出キットは磁性標識および標的物質検出素子からなるものであり、該標的物質検出素子は前述した標的物質検出素子からなる。
(磁性標識)
本発明に用いる磁性標識は、基板に設けられた検出部の有する第一の標的物質捕捉体に標的物質が結合した状態を磁性を利用して検出可能とするためのものである。この磁性標識としては、以下の形態のものを挙げることができる。
(1)磁性構造体と、該磁性構造体の表面に存在する標的物質を捕捉する第二の標的物質捕捉体と、からなる形態。
(2)磁性構造体と、該磁性構造体の表面に存在する標的物質と、からなる形態。
(3)磁性構造体と、該磁性構造体の表面に存在する第二の標的物質捕捉体−標的物質複合体と、からなる形態。
磁性標識は、検出部が有する第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させる、もしくは磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を捕捉させる際に先に挙げた表面電位の関係を満たしている。従って、磁性標識は、かかる表面電位の関係を満たし、かつ標的物質検出のための標識としての物性や特性を満たすものであればよく、磁性標識に用いる磁性構造体は、常磁性、超常磁性を示す磁性微粒子(磁性ビーズ)などから選択して用いることができる。
磁性構造体を構成する磁性体材料としては、例えば、金属酸化物を用いることができる。金属酸化物は、通常、水溶液中で等電点より低いpHでは正に帯電し、等電点より高いpHでは負に帯電するという性質を有しており、容易に帯電するため好ましい。金属酸化物の中でも、磁性標識の磁性構造体として一般的に使用されているフェライトやマグネタイトといった鉄酸化物の粒子は、生理活性条件下で十分な磁性を有し、溶媒中で酸化等の劣化が起こりにくいことから好ましい。フェライトは、マグネタイト(Fe34)、マグヘマイト(γ−Fe23)、及びこれらのFeの一部を他の原子で置換した複合体から選択される。他の原子としては、Li、Mg、Al、Si、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Sn、Ta、Wの少なくともいずれかが挙げられる。
また、磁性構造体には、磁性体材料から成る基体をコアとして、基体の表面に分散性を向上するためのポリマー層(樹脂層)を形成したコアシェル粒子を用いることもできる。このような樹脂層としては、例えば、スチレン系、デキストラン系、アクリルアミド系等の樹脂を用いることができる。ここで、スチレン系の樹脂とは、スチレンおよびスチレン誘導体からなる樹脂のことであり、デキストラン系樹脂やアクリルアミド系の樹脂についても同様のことを示すものとする。また、スチレン系樹脂、デキストラン系樹脂、アクリルアミド系樹脂を形成するそれぞれのモノマーのうち少なくとも2つを共重合させた樹脂も、スチレン系、デキストラン系、アクリルアミド系等の樹脂に含むものとする。
前述したような樹脂層が検体液中で表面電位を有し、結果的に磁性標識が表面電位を有する場合、金属酸化物と樹脂層からなる積層構造体を磁性構造体として磁性標識に用いることができる。また、樹脂層が検体液中で十分な表面電位を有さない場合は、前記コアシェル粒子を基体として、基体表面に更に後述する最表層としての被覆層を形成した積層構造体を磁性構造体として用いることができる。またコアシェルタイプ以外にも、磁性体材料からなる粒子をスチレン系、デキストラン系、アクリルアミド系等の樹脂内に分散させた粒子や、樹脂からなる粒子の表面に磁性体材料からなる微粒子が担持された粒子も本発明の磁性構造体として用いることができる。このような磁性構造体として、市販されているものでは、例えば、Dynal社から市販されているダイナビーズ、micromod社から市販されているmicromer−M、nanomag−D、メルク社から市販されているエスタポール等があり、これらを用いることもできる。
磁性構造体の大きさは、検出素子の形状、大きさ、或いは用途によって様々に選択する事が可能であるが、一般的に3nmから500μmの直径を有するものが好ましい。より好ましくは3nmから10μmであり、更に好ましくは5nmから1μmの直径を有するものである。なお、磁性構造体の直径もしくは平均粒径は、動的光散乱法で測定できる。
また、磁性標識は、磁性構造体の表面に標的物質を捕捉する第二の標的物質捕捉体を有していることが好ましい。なお、検出部が有する第一の標的物質捕捉体が検体液中の標的物質における第一の領域を特異的に認識して捕捉し、磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体が検体液中の標的物質における第二の領域を特異的に認識して捕捉することが好ましい。ここで、第二の領域とは、第一の領域とは別の領域のことであり、標的物質における第一の領域以外の領域の少なくとも一部のことを示す。このような場合、磁性標識および検出部の両方が標的物質捕捉体を表面に有していることにより、磁性標識の表面に存在する第一の標的物質捕捉体と検出部表面に存在する第二の標的物質捕捉体の両者が標的物質を捕捉する。したがって、標的物質を介して磁性標識が検出部表面近傍に固定され、検出部が磁性標識を検出し、容易に標的物質の検出を行うことができる。
なお、磁性標識が表面に第二の標的物質捕捉体を有していなくても、磁性標識が標的物質を磁性構造体の表面に有し、該標的物質を検出部表面に存在する標的物質捕捉体が捕捉することにより標的物質の検出を行うことも可能である。このような場合、磁性標識が表面に有する標的物質は磁性標識に固定化される領域と、検出部表面に存在する第一の標的物質捕捉体によって捕捉される領域の少なくとも2つの領域を有することが好ましい。また、磁性標識が標的物質−第二の標的物質捕捉体複合体を有し、該標的物質を検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉することで、標的物質の検出を行うことも可能である。なお、本明細書及び本発明において、磁性標識が標的物質を磁性構造体の表面に有する場合という概念は、第二の標的物質捕捉体が標的物質を捕捉した結果、磁性標識が標的物質−第二の標的物質捕捉体複合体を有するに至ったような場合をも包含する概念である。
上記構成の検出素子と磁性標識とを用いて標的物質検出用のキットを構成することができる。すなわち、検体液との接触による検出素子の検出部表面へ標的物質を取り込み、さらに検出部表面近傍に存在する磁性標識の有無、数を検知する事により、検体液中の標的物質の有無、濃度を検出することができるキットである。
(被覆層)
本発明による磁性標識および検出素子は、前述したように、複数の層の積層体を有する構造とすることができる。複数の層からなる積層体は、例えば、基体の表面に少なくとも1つの層を形成することで得ることができる。このような場合、基体を含む複数の層からなる積層体の最表面の層を被覆層と呼ぶ。したがって、基体の表面に対して一つの層を形成する場合、前記層を被覆層と呼ぶ。なお、本発明において、被覆層もしくは樹脂層を形成する前の状態の基板もしくは磁性構造体を便宜的に基体と呼んでいる。被覆層を形成することで、基体表面の表面電位を制御することができる。したがって、前述したi)〜iv
)のいずれの関係も満たさない磁性標識、検出部及び非検出部の少なくも一つの表面にこのような被覆層を形成することで、前記i)〜iv)のいずれかの関係を満たすようにする
ことも可能である。検体液中における磁性標識や検出素子の表面電位がゼロに近い、もしくはゼロである材料で基体が構成されていても、本発明による効果を得ることが可能となる。これらの被覆層の材質は、検体液中で目的に応じた表面電位を有するものであればよい。例えば、ガラス等無機材料、樹脂等有機材料、シリコン等半導体材料、金属材料等から目的に応じて選択した材料を用いることが可能である。
更には、標的物質もしくは標的物質捕捉体が生体物質である場合、これらの被覆層は親水性の層であることが望ましい。
一般的にタンパク質等の生体物質は疎水性であるため、被覆層が疎水性である場合には、「疎水性相互作用」により、被覆層への非特異的吸着が生じやすくなる場合があるからである。
例えば、検出部表面の第一の標的物質捕捉体以外に標的物質が非特異的に吸着した場合、非特異的に吸着した標的物質を磁性標識の表面に存在する第二の標的物質捕捉体が捕捉することで、磁性標識のシグナルがノイズとして発生する。このようなノイズは、検出感度や精度を下げる要因となりえる。また、磁性標識が表面に有する第二の標的物質捕捉体や、磁性標識が表面に有する標的物質が、標的物質を介することなく、直接、非検出部や検出部に非特異的に吸着した場合、同様に、検出感度や精度を下げる要因となりえる。
一方、被覆層が親水性である場合には、生体物質の非特異的な吸着の原因のひとつである「疎水性相互作用」を低減することができるため、生体物質の非特異吸着を低減することが可能となるのである。このような親水性の被覆層としては、例えば、グラフトポリマーからなる層が好ましい。グラフトポリマーの例としては、ポリグリシジルメタクリレート、PHEMA(ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート))、ポリエチレングリコールメタクリレートなどが挙げられる。尚、これらの中でも、ポリグリシジルメタクリレートは、タンパク等生体物質に対ずる非特異吸着防止能に優れ、さらに、エポキシ基を開環しアミノ基等の官能基を導入することが可能である。よって、基体表面に表面電位を持たせることができる被覆層として好適である。
(検出方法)
本発明の検出方式は、検出部表面近傍に位置する磁性標識の有無、数を検知し、検体液中の標的物質の有無、濃度を検出するものである。検体液中の標的物質の濃度を検出する場合には、検出部表面近傍に位置する磁性標識の数を検知し、予め作成した検量線と比較することが好ましい。以下、検出方法の例について以下に述べる。
(第一の例)
検出部表面に第一の標的物質捕捉体を固定化する。その後、標的物質を含む検体液を検出部に接触させる。この際、検体液中に所望の標的物質が存在するならば、第一の標的物質捕捉体が標的物質を捕捉する。検出部表面の検体液を洗浄し、不要な物質を除去した後、標的物質を捕捉する第二の標的物質捕捉体を表面に固定化させた磁性標識を含む溶液を、前記洗浄後の検出素子の検出部表面に接触させる(前述した図2参照)。
次に、検出部の表面を洗浄し、検出部に結合しなかった磁性標識を除去する。その後、磁性標識を検出することによって、間接的に標的物質を検出することができる。その際、検出部が表面に有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を、磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体が更に捕捉する際に、磁性標識が有する表面電位と検出素子が有する表面電位との関係において前述した特徴を持たせる。
このような系としては、例えば、標的物質が抗原であり、第一の標的物質捕捉体が一次抗体、第二の標的物質捕捉体が二次抗体である場合などが挙げられる。この際、第一の標的物質捕捉体における標的物質の捕捉とは、抗原抗体反応のことを意味する。なお、ここでの二次抗体とは、一次抗体が捕捉した抗原を、一次抗体が捕捉した抗原の領域とは別の領域で捕捉する抗体のことである。一次抗体と二次抗体は同一の種類の抗体であっても良く、別の種類の抗体であっても良い。また前記一次抗体が捕捉した抗原の領域と二次抗体が捕捉する抗原の領域は別の抗原決定基であっても良く、同一の抗原決定基であっても良い。
(第二の例)
第一の例と同様に、検出部表面に第一の標的物質捕捉体を固定化する。次に、磁性標識の表面に標的物質を固定化する。標的物質が固定化された磁性標識を含む検体液を検出部表面に接触させた後に、検出部表面を洗浄し、検出部に結合しなかった磁性標識を除去する。その後、磁性標識を検出することによって、間接的に標的物質を検出することができる(前述した図3参照)。その際、検出部が表面に有する第一の標的物質捕捉体が、磁性標識が表面に有する標的物質を捕捉する際に、磁性標識が有する表面電位と検出素子が有する表面電位との関係において前述した特徴を持たせる。このような系としては、例えば、標的物質が抗原かつ第一の標的物質捕捉体が抗体である場合や、標的物質が抗体かつ第一の標的物質捕捉体が抗原である場合などが挙げられる。
(第三の例)
磁性標識の表面に第二の標的物質捕捉体を固定化した後、該第二の標的物質捕捉体に標的物質を捕捉させる。次に、第一の例と同様に、検出部表面に第一の標的物質捕捉体を固定化する。次に標的物質−第二の標的物質捕捉体を表面に有する磁性標識を含む検体液を検出部表面に接触させ、前記第二の標的物質捕捉体に捕捉された標的物質を第一の標的物質捕捉体に捕捉させる。その後、検出部表面を洗浄することで、検出部に結合しなかった磁性標識を除去した後、磁性標識を検出することによって、間接的に標的物質を検出することができる(前述した図4参照)。その際、磁性標識が表面に有する第二の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を、検出部が表面に有する第一の標的物質捕捉体が更に捕捉する際に、磁性標識が有する表面電位と検出素子が有する表面電位との関係において前述した特徴を持たせる。
ここで、本発明において、磁性標識が表面に有する第二の標的物質捕捉体が標的物質を捕捉した状態は、磁性標識が、表面に第二の標的物質捕捉体および標的物質を有するものとして、「磁性標識が標的物質を有する」という概念に含まれることとする。
また、検出部に検体液を接触させた直後に、第二の標的物質捕捉体を有する磁性標識を含む溶液を検出部に接触させる、もしくはそれらを同時に行うこともできる。このような場合には、第一の例と第三の例が共に起こるものと考えられる。すなわち、以下のプロセスA及びBが同時に、あるいは重複(並行)して生じ、これらのプロセスの際に磁性標識が有する表面電位と検出素子が有する表面電位との関係において前述した特徴を持たせることになる。
プロセスA:
検出部が有する第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させるプロセス。
プロセスB:
検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に捕捉させるプロセス。
なお、「もしくは」は「および」を含む概念であるので、このような場合であっても本発明の範囲内となることは言うまでもない。
また、第一〜第三のいずれの例においても、検出部表面近傍に存在する磁性標識を検出する方法であれば、検出手段には如何なる手段を用いても良い。中でも、検出部表面に磁性標識が存在する際の磁界効果を利用する方式が好ましく、特に、磁気抵抗効果素子、ホール効果素子、超電導量子干渉計素子を好適に用いることができる。
以下、磁性標識が有する表面電位と検出部および非検出部が有する表面電位の関係について、第一〜第四の実施形態で説明する。
第一の実施形態
本実施形態では、磁性標識が有する表面電位ψ1、検出部が有する表面電位ψ2、非検出部が有する表面電位ψ3がi)の関係にある。この関係を満たす状態で、検出部が有する第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させる、もしくは磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を捕捉させる。
i)ψ1ψ3>0かつψ2=0
このような関係を有するψ1、ψ2、ψ3としては、以下の場合が挙げられる。
イ)ψ1<0、ψ2=0、ψ3<0
ロ)ψ1>0、ψ2=0、ψ3>0
本実施形態においては、磁性標識が有する表面電位ψ1と非検出部が有する表面電位ψ3
は同一極性であるため、磁性標識と非検出部との間に反発力(静電斥力)が発生する。ま
た、検出部の表面電位ψ2は略ゼロである。したがって、磁性標識はψ1とψ3の反発力によって間接的に検出部へと導かれる。よって、磁性標識の非検出部への非特異的吸着が軽減され(ノイズが軽減され)、高感度かつ高精度に標的物質の検出を行うことが可能である。
第二の実施形態
本実施形態では、磁性標識が有する表面電位ψ1、検出部が有する表面電位ψ2、非検出部が有する表面電位ψ3がii)の関係にある。この関係を満たす状態で、検出部が有する第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させる、もしくは磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を捕捉させる。
ii)ψ1ψ2<0かつψ3=0
このような関係を有するψ1、ψ2、ψ3としては、以下の場合が挙げられる。
ハ)ψ1<0、ψ2>0、ψ3=0
ニ)ψ1>0、ψ2<0、ψ3=0
本実施形態においては、磁性標識が有する表面電位ψ1と検出部が有する表面電位ψ2は逆極性であり、磁性標識と検出部との間に静電引力が発生する。一方、非検出部表面電位ψ3は略ゼロであるので、磁性標識と非検出部の間に静電引力は発生しない。したがって、磁性標識はψ1とψ2の静電引力によって検出部へと導かれる。よって、磁性標識の非検出部への非特異的吸着が軽減され、検出部に迅速かつ選択的に導かれるため、高感度かつ高精度に標的物質の検出を行うことが可能である。
第三の実施形態
本実施形態では、磁性標識が有する表面電位ψ1、検出部が有する表面電位ψ2、非検出部が有する表面電位ψ3がiii)の関係にある。この関係を満たす状態で、検出部が有する第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させる、もしくは磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を捕捉させる。
iii)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3>0かつ|ψ2|>|ψ3
このような関係を有するψ1、ψ2、ψ3としては、以下の場合が挙げられる。
ホ)ψ1>0、ψ2<ψ3<0
へ)ψ1<0、ψ2>ψ3>0
本実施形態においては、磁性標識が有する表面電位ψ1と検出部が有する表面電位ψ2は逆極性であり、磁性標識と検出部との間に静電引力が発生する。また、磁性標識ψ1と非検出部が有する電荷ψ3も逆極性であるため、磁性標識と非検出部との間にも静電引力が発生する。しかしながら、|ψ2|>|ψ3|であるため、磁性標識と非検出部の間に生じる静電引力よりも磁性標識と検出部に生じる静電引力の方が大きい。したがって、検出部に迅速かつ選択的に磁性標識が導かれ、高感度かつ高精度に標的物質の検出を行うことが可能である。
第四の実施形態
本実施形態では、磁性標識が有する表面電位ψ1、検出部が有する表面電位ψ2、非検出部が有する表面電位ψ3がiv)の関係にある。この関係を満たす状態で、検出部が有する第一の標的物質捕捉体に磁性標識が有する標的物質を捕捉させる、もしくは磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に検出部が有する第一の標的物質捕捉体が捕捉した標的物質を捕捉させる。
iv)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3<0
このような関係を有するψ1、ψ2、ψ3としては、以下の場合が挙げられる。
ト)ψ1>0、ψ2<0、ψ3>0
チ)ψ1<0、ψ2>0、ψ3<0
本実施形態においては、磁性標識が有する表面電位ψ1と検出部が有する表面電位ψ2は逆極性であり、磁性標識と検出部との間に静電引力が発生する。また、磁性標識が有する表面電位ψ1と非検出部が有する表面電位ψ3とが同一の極性であるため、磁性標識と非検出部との間に反発力が生じる。したがって、磁性標識の非検出部への非特異的吸着が軽減され、かつ検出部に迅速かつ選択的に導かれるため、高感度かつ高精度に標的物質の検出を行うことが可能である。
本実施形態では、非検出部および磁性標識を積層構造として、非検出部の最表面の層と、標的物質捕捉体もしくは標的物質を捕捉する前の磁性標識すなわち磁性構造体の最表面の層(被覆層)を同一の材料からなる層とすることが好ましい。非検出部と磁性構造体の表面に同一の材料からなる被覆層を形成することで、検体液中における磁性標識の表面電位の極性と非検出部の表面電位の極性を同一にすることが容易となる。すなわち、磁性標識と非検出部との間に反発力を生じさせることが容易となる。なお、図6に、被覆層16を有する非検出部8と検出部7とからなる検出素子および被覆層16を有する磁性標識を示す。
このような被覆層16は、グラフトポリマーからなることが好ましい。これはグラフトポリマーが、グラフトポリマーの分子量、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)、及びグラフト密度を精密に制御することができるリビングラジカル重合によって形成されることによるものである。非検出部および磁性構造体表面に存在するグラフトポリマーのグラフト密度を精密に制御することにより、非検出部および磁性標識の表面を同一極性となるよう制御し、磁性標識の非検出部への非特異的吸着を防止することが可能となる。さらに好ましくは、同一極性であって、非検出部および磁性標識の表面のゼータ電位の絶対値を大きくすることである。グラフトポリマーの例としては、ポリグリシジルメタクリレート、PHEMA、ポリエチレングリコールメタクリレートなどが挙げられる。
以下、グラフトポリマーを形成する方法について述べる。基体へのグラフトポリマーの形成は、少なくとも以下の1)および2)の工程によって行うことができる。なお、ここでの基体とは、グラフトポリマーを形成する前の非検出部もしくは磁性構造体のことであり、基体表面とは、グラフトポリマーを形成する前の非検出部の表面もしくは磁性構造体表面のことを示す。
1)基体の表面にリビング重合開始基を導入する工程。
2)該リビング重合開始基からモノマーをリビング重合して、該リビング重合開始基に結合したグラフトポリマーを形成する工程。
リビングラジカル重合は、一般的にモノマーの種類、重合度、共重合体の形成を自由に設計することができるため、基体表面のグラフトポリマーの分子量、分子量分布、及びグラフト密度を精密に制御することが可能となる。リビング重合としては、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、及びリビングアニオン重合などを挙げることができる。これらの中でも、重合の簡便さからリビングラジカル重合が好ましい。また、リビングラジカル重合には、原子移動ラジカル重合、ニトロキシド媒介重合、RAFT(付加開裂移動型)重合、光イニシエーター重合等を使用することができる。ここでは、特に、原子移動ラジカル重合を用いた方法について詳細に説明する。
1)の工程について
基体への原子移動ラジカル重合開始基の導入方法について説明する。基体の表面に存在する官能基と、原子移動ラジカル重合開始基の前駆体の官能基とを反応させて、基体の表面に原子移動ラジカル重合開始基を導入することができる。例えば、下記の反応式(I)に従って行うことができる。
Figure 0005164411
即ち、基体を反応溶媒中に浸漬させた後、不活性ガスの雰囲気下で原子移動ラジカル重合開始基の前駆体1を加え、基体表面の水酸基と原子移動ラジカル重合開始基の前駆体1のトリクロロシリル基を反応させる。これにより、基体表面に原子移動ラジカル重合開始基を導入することができる。原子移動ラジカル重合開始基の前駆体1の官能基は、トリクロロシリル基以外にトリメトキシシリル基、あるいはトリエトキシシリル基であっても構わない。
不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガスを使用することができる。反応溶媒は特に限定されないが、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を使用することができる。
原子移動ラジカル重合開始基の前駆体1の代わりに、以下に記載の原子移動ラジカル重合開始基の前駆体2から4のいずれかを使用しても良い。また、原子移動ラジカル重合開始基の前駆体2から4のトリクロロシリル基は、トリメトキシシリル基、あるいはトリエトキシシリル基であっても構わない。
Figure 0005164411
反応温度に関しては、上記の反応が進行するのであれば特に限定されないが、0℃以上100℃以下の範囲内であることが好ましい。原子移動ラジカル重合開始基の前駆体の濃度は、基体表面の官能基の濃度に対して1当量以上5当量以下の範囲内が好ましい。
導入されるリビング重合開始基の数は、目的とするグラフト密度となるように適宜調整する。例えば、0.01分子/nm2以上1.0分子/nm2以下のグラフト密度でリビング重合開始基を基体表面に導入することができる。なお、磁性微粒子にグラフトポリマーを形成して磁性構造体とする場合、グラフトポリマーを形成する磁性微粒子の平均直径は、3nm以上500μm以下が好ましく、更に好ましくは5nm以上1μm以下である。
2)の工程について
(リビング重合)
ここでは、原子移動ラジカル重合について説明する。原子移動ラジカル重合は、例えば、ハロゲン化銅−ビピリジル錯体を用いると、ポリマー鎖末端の速やかな移動反応により分子量分布の狭いポリマーを得ることができる。この原子移動ラジカル重合は、銅錯体が成長末端から可逆的にハロゲン原子を引き抜くことにより反応が進行する。原子移動ラジカル重合における反応制御の要因としては、リガンド、開始基の種類、触媒濃度、反応温度、反応時間、濃度などが挙げられる。これらの条件を最適化し、反応を制御することによって、分子量分布の狭いポリマーを形成することができる。そこで、原子移動ラジカル重合開始基が導入された基体に対して、原始移動ラジカル重合を行うことで、容易に鎖長の揃ったグラフトポリマーを形成することができる。
具体的には、基体を反応溶媒に浸漬させた後、グラフトポリマーとなるモノマー、遷移金属錯体を添加し、反応系を不活性ガスで置換して原子移動ラジカル重合を行う。このようにして、グラフトポリマーのグラフト密度を一定に保持しながら重合を進行させることができる。つまり、重合をリビング的に進行させ、全てのグラフトポリマーを基体表面にほぼ均等に成長させることができる。
反応溶媒はリビング重合を進行させるものであれば何でも良い。溶媒は単独で使用して
も良いし、2種以上を併用しても良い。
不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガスを使用することができる。
遷移金属錯体としては、ハロゲン化金属とリガンドからなる錯体を使用することができる。ハロゲン化金属の金属種としては、原子番号22番のTiから30番のZnまでの遷移金属が好ましく、更に好ましくは、Fe、Co、Ni、Cuなどである。それらの中でも、塩化第一銅、臭化第一銅が最も好ましい。
リガンドとしては、ハロゲン化金属に配位可能であれば特に限定されない。例えば、2,2’−ビピリジル、4,4’−ジ−(n−ヘプチル)−2,2’−ビピリジル、2−(N−ペンチルイミノメチル)ピリジン、(−)−スパルテイン、トリス(2−ジメチルアミノエチル)アミン、エチレンジアミン、ジメチルグリオキシム、1,4,8,11−テトラメチル−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン、1,10−フェナントロリン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチル(2−アミノエチル)アミン等を使用することができる。
遷移金属錯体は、グラフトポリマーとなるモノマーに対して、0.001質量%以上10質量%以下の割合で添加することが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上5質量%以下である。
重合温度は、40℃以上100℃以下の範囲が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下の範囲である。
また、重合を行う際、基体に固定化されていないフリーな重合開始種を添加することが好ましい。フリーな重合開始種から生成するフリーポリマーは、基体表面に形成されたグラフトポリマーの分子量及び分子量分布の指標とすることができる。
フリーな重合開始種としては、基体に固定化している原子移動ラジカル重合基と同種のものを選択することが好ましい。つまり、原子移動ラジカル重合開始基の前駆体1により基体に重合開始基を導入した場合は、フリーな重合開始種として2−ブロモイソ酪酸エチルを選択することが好ましい。原子移動ラジカル重合開始基の前駆体2により基体に重合開始基を導入した場合は、フリーな重合開始種として2−ブロモプロピオン酸エチルを選択することが好ましい。原子移動ラジカル重合開始基の前駆体3により基体に重合開始基を導入した場合は、ベンゼンスルホニルクロライドを選択することが好ましい。原子移動ラジカル重合開始基の前駆体4により基体に重合開始基を導入した場合は、フリーな重合開始種としてベンジルクロライドを選択することが好ましい。
(グラフトポリマー)
基体に形成するグラフトポリマーについて説明する。基体に形成するグラフトポリマーは、リビング重合開始基が導入された基体の存在下、モノマーをリビング重合することで形成することができる。このときのグラフトポリマーは、リビング重合開始基に結合しており、直鎖状に成長した非架橋型の高分子鎖となる。基体に形成するグラフトポリマーのグラフト密度は、0.01〜1分子/nm2の範囲が好ましい。グラフト密度は、グラフトポリマーを形成する基体表面でのリビング重合開始基の密度に相当しており、リビングラジカル重合開始基の導入率によって制御することができる。
グラフトポリマーのグラフト密度は、基体に形成されたグラフトポリマーの膜厚と重量から求めることができる。尚、基体に形成されたグラフトポリマーの膜厚は分光エリプソメトリー法によって、またグラフトポリマーの重量は精密重量計によってリビング重合前後における基体の重量差から求めることができる。このような場合、検出素子を用いて求めることが好ましい。
基体表面に形成するグラフトポリマーは、親水性ポリマーであることが好ましい。ここで、本発明において、「親水性」とは水の接触角が0〜90度の範囲にあるもののことを示す。グラフトポリマーが水に対して親和性を有することにより、水溶性の検体液中でグラフトポリマーが伸長する。更にグラフトポリマーのグラフト密度が高くなると、基体に対して垂直に立った、ブラシのような構造をとる。このような構造となることで、磁性標識と非検出部が同一の極性を有することによる反発力に加えて、グラフトポリマーによるブロッキング効果も高まる。このようなブロックポリマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート重合体、2−ヒドロキシエチルメタリレート重合体、アクリルアミド重合体、メタクリルアミド重合体、ポリエチレングリコールアクリレート重合体、メトキシポリエチレングリコールアクリレート重合体、ポリエチレングリコールメタクリレート重合体、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート重合体等を挙げることができる。これらは、単独重合体でもよく、又は2種以上の共重合体であってもよい。
このようなグラフトポリマーを形成する為のモノマーの使用量は、目的とする数平均分子量のグラフトポリマーを形成するのに必要な量とする。例えば、リビング重合開始基1個に対して5分子以上10000分子以下のモノマーを使用することができる。
また、グラフトポリマーの数平均分子量は、500以上1000000以下の範囲が好ましく、更に1000以上500000以下が好ましい。グラフトポリマーの数平均分子量が500未満であると、ブロッキング効果を十分に発現できない場合があり、一方、グラフトポリマーの数平均分子量が1000000を超えると、水に対する溶解性が低下する場合がある。
なお、非検出部および磁性標識が有する表面電位のバラツキを抑制するには、基体表面に形成されるグラフトポリマーの分子量分布が狭いことが望ましい。グラフトポリマーの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.8以下が好ましく、更に好ましくは1.5以下である。
尚、基体表面に形成されたグラフトポリマーの数平均分子量及び分子量分布は、前述したようにフリーな重合開始種から生成するフリーポリマーの数平均分子量及び分子量分布と同じとして見積もることができる。また、ポリマーの数平均分子量及び分子量分布は、GPC(東ソー社製、AS−8020、溶離液:水、標準ポリマー:ポリエチレンオキシド)により測定できる。また、グラフトポリマーの鎖長(数平均分子量)及び分子量分布は、モノーの添加量や重合時間等によって制御することができる。
また、グラフトポリマーを形成した磁性構造体に、標的物質を捕捉する捕捉体(第二の捕捉体)もしくは標的物質を固定化する際は、以下の工程で固定化を行う。なお、以下は説明を簡略化するため、磁性構造体表面に第二の標的物質捕捉体を固定化する例を用いて説明するが、磁性構造体に標的物質を固定化する場合も同様の方法で行うことができる。
・グラフトポリマーの少なくとも一部の末端に活性基を導入する工程
・導入した活性基に第二の標的物質捕捉体を結合させる工程
以下、それぞれの工程について詳細に説明する。
(グラフトポリマーの末端への活性基の導入)
グラフトポリマーに導入する活性基は第二の標的物質捕捉体を結合させることができるものであれば何でも良い。このような活性基としては、例えば、アミド結合によってタンパク質を結合させることができるカルボキシル基やアミノ基などが挙げられる。ここでの「活性基」とは、第二の標的物質捕捉体が有する官能基と反応し得る官能基のことを意味する。ポリマー鎖の末端への活性基の導入方法としては、例えば、グラフトポリマーを重合する過程で連鎖移動剤を添加する方法を用いることができる。連鎖移動剤とは、一般にラジカル重合反応において、連鎖移動反応により、反応の活性点を移動させる物質であり、重合の末端を所望の官能基に変換したいときに用いられる。
連鎖移動剤はチオール化合物であることが好ましい。連鎖移動剤として有効なチオール化合物は、炭素数が2以上のアルキル鎖の一端にチオール基を有し、他端に所望の官能基を有するものを用いる。所望の官能基とは、第二の標的物質捕捉体を固定化する為の官能基、即ち、活性基のことであり、活性基としては、例えば、カルボキシル基、活性エステル基、及びアミノ基などを挙げることができる。活性基を有する連鎖移動剤としては、例えば、メルカプト酢酸を挙げることができる。
また、高分子鎖の末端に導入する活性基の量を制御するには、活性基を有する連鎖移動剤と不活性基を有する連鎖移動剤の2種を所望の割合で添加すれば良い。不活性基を有する連鎖移動剤としては、炭素鎖が2以上のアルキル鎖の一端にチオール基を有し、他端に水酸基を有するものが好ましい。活性基を有する連鎖移動剤と不活性基を有する連鎖移動剤の割合は、例えば、モル比での、活性基を有する連鎖移動剤/不活性基を有する連鎖移動剤が1/100000以上100/1以下の範囲とすることができる。
重合終了後、生成した磁性微粒子を洗浄、ろ過、デカンテーション、沈殿分別、遠心分離等の適当な方法によって分離精製して、末端に活性基を含むグラフトポリマーが結合した磁性構造体を得ることができる。
(活性基に第二の標的物質捕捉体を結合させる工程)
磁性構造体が有する活性基に第二の標的物質捕捉体を結合させる工程は、前述したように、例えばアミド結合を利用した結合方法などを利用することができる。アミド結合の例としては、以下のものを挙げることができる。
・グラフトポリマーの末端にカルボキシル基を導入し、前記カルボキシル基と第二の標的物質捕捉体が有するアミノ基とをアミド結合する。
・グラフトポリマーの末端にアミノ基を導入し、前記アミノ基と第二の標的物質捕捉体がカルボキシル基とをアミド結合する。
アミド結合を形成する為の反応条件、即ち、pHや反応温度などは、上記の組合せに応じて適宜決めれば良い。
少なくともこれらの工程により、図10に示すように、磁性構造体と、磁性構造体中のグラフトポリマーの末端に活性基13を介して結合された第二の標的物質捕捉体14とを有する磁性標識9を得ることができる。ここで、磁性構造体は、基体10と、基体表面に設けられたリビング重合開始基12と、基体10の表面にリビング重合開始基12を介して形成されたグラフトポリマー(高分子鎖)11と、を有する。
以下、実施例を用いてさらに詳細に本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、材料、組成条件、反応条件等、同様な機能、効果を有する検出素子、検出キットが得られる範囲で自由に変えることができる。
以下、本発明の第一〜第四の実施形態にかかる検出方法について実施例を用いて更に詳細に本発明を説明する。なお、各実施例におけるψ1、ψ2及びψ3の関係は、以下のとおりである。
第一の実施形態:実施例1及び2:i)ψ1ψ3>0かつψ2=0
第二の実施形態:実施例4:ii)ψ1ψ2<0かつψ3=0
第三の実施形態:実施例5:iii)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3>0かつ|ψ2|>|ψ3
第四の実施形態:実施例3:iv)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3<0
(実施例1)
本実施例では本発明の第一の実施形態(の一例を述べる。本実施例では、被覆層を表面に有する非検出部とPSAを捕捉する一次抗体を表面に有する検出部とからなる検出素子と、PSAを捕捉する二次抗体を表面に有するマグネタイトからなる磁性標識を組み合わせて、PSAを検出する。この際、前記検出部には外部電源により表面電位を付与する。また、前記検出素子は磁気抵抗効果素子とする。
(1)磁性標識の作製
まず、第二の標的物質捕捉体4としてPSAを捕捉する二次抗体を有する磁性標識9を作製する。マグネタイト粒子(平均粒径50nm)を乾燥N2雰囲気下、加熱処理した後、無水トルエンに分散させる。このマグネタイト粒子/トルエン分散液に、シランカップリング剤であるアミノプロピルトリメトキシメトキシシランを添加し、マグネタイト粒子表面にアミノ基を導入する。但し、マグネタイト粒子に対してアミノ基の導入量が多すぎるとマグネタイトとしての等電点が大きく変化してしまうので、アミノ基の導入量はマグネタイト粒子の前処理(乾燥条件等)や、シランカップリング処理における条件(濃度、混合比等)を適宜制御する。さらに二次抗体を固定化するためのグルタルアルデヒド等の架橋剤を用いて、前記アミノ基とペプチド鎖間を化学結合させ、第二の標的物質捕捉体4として、PSAを捕捉する二次抗体を固定することができる。
以上の操作を経ることで、第二の標的物質捕捉体を備えた磁性標識を得ることができる。この磁性標識は、マグネタイトからなり、マグネタイトの等電点は、6.5付近であるため、これより低いpH(6.5よりも酸性側)の水溶液中では、磁性標識は正に帯電することになる。
(2)検出素子の作製
次に、検出部と非検出部を有し、非検出部が基体と被覆層からなり、検出部表面に第一の標的物質捕捉体としてPSAを捕捉する一次抗体を有する検出素子を作製する。本実施例においては、図11に示す磁気抵抗効果素子の上電極を形成していないものを図5の基材6として用いる。基材6の表面にAu膜を形成し、検出部となる領域以外の領域にはSiO2膜を形成する。すなわち、基材のうち検出部となる領域に上電極であるAu膜を形成して検出部の一部とし、非検出部となる領域にはSiO2膜を形成して非検出部の一部として基板の形成を行った。
次に、SiO2膜を表面に有する非検出部の一部を基体として、該基体の表面に被覆層を形成する。尚、被覆層を形成する領域以外に対して、マスキングを行って、以下の工程を行ってもよい。まず、SiO2膜を無水トルエンに侵漬させ、シランカップリング剤である2-(4-クロロメチルフェニル)エチルトリメトキシシランを添加し、SiO2膜表面にクロロメチル基を導入する。この反応の進行は、XPSにてCl原子を指標とすることで確認される。次に、クロロメチル基を導入したSiO2膜を水に浸漬させる。ジチオカルバミン酸ナトリウムを添加してクロロメチル基と反応させ、SiO2膜表面にUVグラフト重合の重合開始点を導入する。この反応の進行はXPSにてN原子とS原子を指標とすることで確認される。次に、SiO2膜をアセトン中に浸漬させ、グリシジルメタクリレートを加えた後、反応容器を窒素置換する。次いで室温にて波長312nm〜577nmのUVランプを2時間照射することによりUVグラフト重合を進行させ、SiO2膜表面にポリグリシジルメタクリレートを形成する。次に、SiO2膜をpH11に調製したアンモニア水に浸漬させ、加温し、反応させることでSiO2膜表面のポリグリシジルメタクリレートにアミノ基を導入する。この反応はXPSにてN原子を指標に確認することができる。
以上の操作を経ることで、表面に被覆層16を有する非検出部8を形成することができる。なお、前記被覆層はポリグリシジルメタクリレートのグラフト層からなる親水層であり、多くのタンパク質に対する非特異吸着防止能に優れ、且つアミノ基を有するために水溶液中で正に帯電しやすい。
次に、検出部となる領域であるAu膜の表面に第一の標的物質捕捉体3としてPSAを捕捉する一次抗体を固定化する。まず、10-カルボキシ-1-デカンチオールのエタノール溶液をAu膜表面に塗布する。この操作により、Au膜表面にカルボキシル基が固定される。次に、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド水溶液と1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩水溶液をAu膜表面に同様に塗布する。これらの操作により、Au膜表面に固定化されたカルボキシル基がスクシンイミド化する。スクシンイミド基と第一の標的物質捕捉体のアミノ基を反応させることで、第一の標的物質捕捉体として、PSAを捕捉する一次抗体を固定化することができる。尚、Au膜表面上の未反応のスクシンイミド基は、塩酸ヒドロキシルアミンを添加して脱離させてもよい。
以上の操作により、表面に被覆層16としてポリグリシジルメタクリレートを有する非検出部8と、第一の標的物質捕捉体3としてPSAを捕捉する一次抗体を表面に有する検出部7からなる検出素子を作製することができる。
(3)PSAの検出
前記(1)、(2)において作製される磁性標識と検出素子を用い、以下の操作を行うことで、前立腺癌のマーカーとして知られているPSAの検出を試みることができる。
(a)前記検出素子の検出部に、抗原(標的物質)であるPSAを含むpH7.0のリン酸緩衝液を接触させる。
(b)未反応のPSAをリン酸緩衝液で洗浄する。
(c)工程(a)および(b)が終了した前記検出素子の検出部に磁性標識を含むpH5.5に調整したリン酸緩衝液を接触させ、図8のように検出部7に接続した外部電源15により検出部表面の表面電位がゼロとなるよう電流もしくは電圧を印加する。この際、他方の端子は図8のように、反応容器に接続してもよい。
(d)外部電源による電圧もしくは電流印加を停止し、未反応の磁性標識をリン酸緩衝液で洗浄する。
これらの操作によって、標的物質であるPSAが、検出部表面に存在するPSAの一次抗体、磁性標識の表面に存在するPSAのニ次抗体により捕捉され、図5に示すように磁性標識が検出素子の検出部近傍に固定化されることになる。検体液中に標的物質が存在しない場合には、磁性標識は検出素子の検出部近傍に留まらないので、磁性標識の有無を検出することによって、標的物質の検出が可能となる。また、磁性標識と標的物質の数を表す検量線を予め作成しておくことで、磁性標識の数から検体液中に含まれる標的物質の量を間接的に知ることも可能である。
なお、本実施例の工程(c)において、使用する緩衝液のpHは5.5であり、マグネタイトの等電点よりも酸性であるため、磁性標識は正に帯電する。また、非検出部は、多数のアミノ基を有するポリグリシジルメタクリレートを表面に有するため、pH10以下程度であれば水溶液中で正に帯電する。したがって、非検出部表面も正に帯電する。また、外部電源により検出部表面はゼロとなるよう調整される。その結果、磁性標識と非検出部との間には反発力が生じ、磁性標識と検出部の間には反発力が生じないため、検出効率が向上する。ここで、図8において、非検出部となる領域の表面には絶縁膜であるSiO2膜が形成されるため、基板に電圧もしくは電流を印加した場合、検出部7の表面のみに表面電位を付与することができる。また、基板1を挟んで検出部7と対向する部分に電極を形成して電流もしくは電圧を印加することによって、検出部7のみの表面電位を制御することも可能である。
(実施例2)
本実施例では、第一の実施形態の実施例1とは別の例を述べる。本実施例では、被覆層を有する非検出部と、PSAを捕捉する一次抗体を備えた検出部を有する検出素子に、被覆層と、PSAを捕捉する二次抗体を備えたマグネタイトからなる磁性標識を組み合わせて、PSAを検出する。なお、磁性標識が被覆層を有する以外は実施例1と同様とする。
(1)磁性標識の作製
まず、被覆層16を表面に有する磁性構造体2を作製する。マグネタイト粒子を乾燥N2雰囲気下、加熱処理した後、無水トルエンに分散させる。このマグネタイト粒子/トルエン分散液に、シランカップリング剤である2-(4-クロロメチルフェニル)エチルトリメトキシシランを添加し、マグネタイト粒子にクロロメチル基を導入する。この反応はXPSによりCl原子を検出して確認することができる。クロロメチル基を導入したマグネタイト粒子を水で分散し、ジチオカルバミン酸ナトリウムを添加してクロロメチル基と反応させることで、マグネタイト粒子表面にUVグラフト重合の開始点を導入する。この反応はXPSによりN原子、S原子を検出して確認することができる。次に、マグネタイト粒子とアセトンを反応容器にはかりとり、超音波処理によりマグネタイト粒子をアセトン中に分散させる。次に、反応容器にグリシジルメタクリレートを計り取り、反応容器内を窒素置換する。次いで室温にて波長312nm〜577nmのUVランプを2時間照射することによりUVグラフト重合を進行させ、マグネタイト粒子の表面にポリグリシジルメタクリレートを形成する。この反応は 動的光散乱法に基づく粒子径増大で確認することができる。
次に、前記被覆層16を表面に有する磁性構造体2にPSAを捕捉する二次抗体4を固定化する。まず、前記磁性構造体を水に分散させ、アミノエタンチオールとジチオトレイトールを加えて、塩酸水溶液あるいは水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH5に調製し、反応させる。これにより、磁性構造体の被覆層表面にアミノ基とチオール基を導入する。次に、N-Succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionateを加え、室温にて5時間反応させることによりチオール基を介して、磁性構造体表面にスクシンイミド基を導入する。前記スクシンイミド基と抗体のアミノ基を反応させ、第ニの捕捉体成分として、PSAを捕捉するニ次抗体を固定化することができる。
以上の操作により、ポリグリシジルメタクリレートからなる被覆層とPSAを捕捉する二次抗体を備えたマグネタイトからなる磁性標識を作製することができる。なお、前記被覆層はポリグリシジルメタクリレートのグラフト層からなる親水層であり、多くのタンパク質に対する非特異吸着防止能に優れ、且つアミノ基を有するために水溶液中で正に帯電しやすい。
(2)検出素子の作製
実施例1と同様な方法で、検出部と非検出部を有し、非検出部に非検出部被覆層を備え、検出部に第一の標的物質捕捉体としてPSAを捕捉する一次抗体を有する検出素子を作製する。
(3)PSAの検出
前記磁性標識と検出素子を用い、以下の操作を行うことで、前立腺癌のマーカーとし
て知られているPSAの検出を試みることができる。本実施例では実施例1と同様に検出部を外部電源と接続し、検出部の表面電位を制御する。
(a)前記検出素子の検出部に、抗原(標的物質)であるPSAを含むpH7.0のリン酸緩衝液を接触させる。
(b)未反応のPSAをリン酸緩衝液で洗浄する。
(c)工程(a)および(b)が終了した前記検出素子の検出部に磁性標識を含むpH5.5に調整したリン酸緩衝液を接触させ、図9のように検出部7に接続した外部電源15により検出部表面の表面電位がゼロとなるよう電流もしくは電圧を印加する。この際、他方の端子は図9のように、反応容器に接続してもよい。
(d)外部電源による、電圧もしくは電流印加を停止し、未反応の磁性標識をリン酸緩衝液で洗浄する。
これらの操作によって、標的物質であるPSAが、検出部表面に存在するPSAの一次抗体、磁性標識の表面に存在するPSAの二次抗体により捕捉され、図6に示すように磁性標識9が検出素子の検出部7近傍に固定化されることになる。
本実施例の工程(c)において、使用する緩衝液のpHは5.5であり、磁性標識および非検出部は多数のアミノ基を有するポリグリシジルメタクリレートを表面に有するため、正に帯電する。また、検出部表面の表面電位は外部電源によりゼロとなるよう制御する。これにより、非検出部と磁性標識の間には反発力が生じ、検出部と磁性標識の間には反発力が生じないため、検出効率を向上させることができる。
尚、本実施例においては、磁性標識と非検出部にほぼ同じ材料からなる被覆層を形成しているため、上記工程(c)において、任意のpHの緩衝液を用いても、磁性標識の表面電荷の極性と非検出領域の表面電荷の極性が同じとなりやすく、本発明の効果を得ることができる。
(実施例3)
本実施例では本発明の第四の実施形態の一例を述べる。本実施例では、被覆層を有する非検出部と、PSAを捕捉する一次抗体を備え、外部電源により表面電位を付与可能な検出部を有する検出素子に、被覆層と、PSAを捕捉する二次抗体を備えたマグネタイトからなる磁性標識を組み合わせて、PSAを検出する。なお、外部電源により検出部に付与する表面電位を負とする以外は実施例2と同様とする。
(1)磁性標識の作製
実施例2と同様な方法で磁性標識を作製する。
(2)検出素子の作製
実施例1と同様な方法で、PSAを捕捉する一次抗体を備えた検出部7と、被覆層16を表面に有する非検出部8を作製する。
(3)PSAの検出
上述の磁性標識と検出素子を用い、以下の操作を行うことで、前立腺癌のマーカーとして知られているPSAの検出を試みることができる。
(a)前記検出素子の検出部7に、抗原(標的物質)であるPSAを含むpH7.0のリン酸緩衝液を接触させる。
(b)未反応のPSAをリン酸緩衝液で洗浄する。
(c)工程(a)および(b)が終了した前記検出素子の検出部に磁性標識を含むpH5.5に調整したリン酸緩衝液を接触させ、図9のように検出部7に接続した外部電源15により検出部表面の表面電位が負電位となるよう電流もしくは電圧を印加する。この際、他方の端子は図9のように、反応容器に接続してもよい。
(d)外部電源による、電圧もしくは電流印加を停止し、未反応の磁性標識をリン酸緩衝
液で洗浄する。
これらの操作によって、標的物質であるPSAが、検出部表面に存在するPSAの一次抗体、磁性標識の表面に存在するPSAのニ次抗体により捕捉され、図6に示すように磁性標識が検出素子の検出部近傍に固定化されることになる。
なお、本実施例の工程(c)において、使用する緩衝液のpHは5.5であり、磁性標識および非検出部は多数のアミノ基を有するポリグリシジルメタクリレートを表面に有するため、正に帯電する。また、検出部表面の表面電位は、外部電源により負電位となるよう制御する。これにより、非検出部と磁性標識の間には反発力が生じ、検出部と磁性標識の間には静電引力が生じる。したがって、検出効率を向上させることができる。
本実施例においては、実施例2と同様に、非検出部の被覆層と、磁性標識の被覆層は同様の材料からなる。したがって、緩衝溶液のpHおよび検出部の表面電位を変化させることで、非検出部および磁性標識の表面電位を負とし、検出部表面の表面電位を正電位とすることも可能である。
(実施例4)
本実施例では、本発明の第二の実施形態の一例を述べる。本実施例では、被覆層を有する非検出部とPSAを捕捉する一次抗体を備え、外部電源により表面電位を付与することが可能な検出部を有する検出素子に、被覆層とPSAを捕捉する二次抗体を備えたマグネタイトからなる磁性標識を組み合わせて検出素子として、PSAを検出する。この際、前記検出部には外部電源により表面電位を付与する。また、検出素子には磁気抵抗効果素子を用いる。
(1)磁性標識の作製
実施例2と同様な方法で磁性標識を作製する。
(2)検出素子の作製
実施例1と同様に、基板表面の一部にAu膜を形成し、検出部となる領域以外の領域にはSiO2膜を形成する。すなわち、基板のうち検出部となる領域にはAu膜が形成され、非検出部となる領域にはSiO2膜が形成される。本実施例では、PHEMA層からなる被覆層を備えた非検出部を作製する。尚、被覆層を形成する領域以外に対して、マスキングを行って、以下の工程を行ってもよい。
まず、SiO2膜を無水トルエンに侵漬させ、反応式(I)に従って、SiO2膜の水酸基と原子移動ラジカル重合開始基の前駆体の官能基とを反応させて、非検出部の表面に原子移動ラジカル重合開始基を導入することができる。次に、原子移動ラジカル重合開始基を導入した非検出部をメタノールに浸漬させた後、フリーな重合開始剤として2−ブロモイソ酪酸エチルを加え、CuBr、2,2’−ビピリジルを加える。凍結真空脱気により反応系内の酸素を除去した後、窒素で置換し、HEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)モノマーを原子移動ラジカル重合により所定時間反応させる。また、フリーな重合開始種として加えておいた2−ブロモイソ酪酸エチルから生成したPHEMAの分子量と分子量分布を測定すると、数平均分子量が60000で、分子量分布が1.07である。このことから、非検出部にグラフト化されたグラフトポリマーは鎖長の揃ったポリマーであることを確認できる。非検出部にグラフト化されたグラフトポリマーの膜厚と重量を測定すると、グラフトポリマーのグラフト密度は、0.6分子/nm2であることがわかる。
以上の操作を経ることで、非検出部表面に非検出部被覆層を形成することができる。PHEMA層は水酸基を多く持つ親水層であり、多くのタンパク質に対する非特異吸着防止能に優れる。
また本実施例では、実施例2と同様な方法で、PSAを捕捉する一次抗体を備えた検出部を作製する。
(3)PSAの検出
上述の磁性標識と検出素子を用い、以下の操作を行うことで、前立腺癌のマーカーとして知られているPSAの検出を試みることができる。
(a)前記検出素子の検出部に、抗原(標的物質)であるPSAを含むpH7.0のリン酸緩衝液を接触させる。
(b)未反応のPSAをリン酸緩衝液で洗浄する。
(c)工程(a)および(b)が終了した検出素子の検出部に磁性標識を含み、前記非検出部の被覆層を形成するPHEMAの等電点に近いpHを有するリン酸緩衝液を接触させ、図9のように検出部7に接続した外部電源15により検出部表面の表面電位が負電位となるよう電流もしくは電圧を印加する。この際、他方の端子は図9のように、反応容器に接続してもよい。
(c)外部電源による、電圧もしくは電流印加を停止し、未反応の磁性標識をリン酸緩衝液で洗浄する。
これらの操作によって、標的物質であるPSAが、検出部表面に存在するPSAの一次抗体、磁性標識の表面に存在するPSAのニ次抗体により捕捉され、図6に示すように磁性標識が検出素子の検出部近傍に固定化されることになる。なお、本実施例の工程(c)においては、非検出部の被覆層を形成するPHEMAの等電点(中性付近)に近いpHの緩衝液を用いるため、非検出部表面は事実上電気的に中性となる。一方、検出部表面の表面電位は、外部電源により負電位となるよう制御可能である。また、磁性標識は表面に多くのアミノ基を有するポリグリシジルメタクリレートを表面に有するため、中性付近では正となる。これにより、検出部と磁性標識の間には静電引力が生じるため、検出効率を向上させることができる。
(実施例5)
本発明では、本発明の第三の実施形態の一例を述べる。本実施例では、被覆層を有する非検出部と、PSAを捕捉する一次抗体を備え、外部電源により表面電位を付与可能な検出部を有する検出素子に、PSAを捕捉する二次抗体を備えたマグネタイトからなる磁性標識を組み合わせて、PSAを検出する。磁性標識を含む検体液の緩衝溶液のpHを磁性構造体の等電点よりも高く設定すること、および検出部表面の表面電位が非検出部の表面電位よりも絶対値が大きくかついずれの表面電位も正とする以外は、実施例2と同様とする。
(1)磁性標識の作製
実施例1と同様な方法で磁性標識を作製する。
(2)検出素子の作製
実施例2と同様な方法で、PSAを捕捉する一次抗体を備えた検出部と、非検出部被覆層を備えた非検出部を作製する。
(3)PSAの検出
上述の磁性標識と検出素子を用い、以下の操作を行うことで、前立腺癌のマーカーとして知られているPSAの検出を試みることができる。
(a)前記検出素子の検出部に、抗原(標的物質)であるPSAを含むpH7.0のリン酸緩衝液を接触させる。
(b)未反応のPSAをリン酸緩衝液で洗浄する。
(c)工程(a)および(b)が終了した検出素子の検出部に磁性標識を含むpH7.5のリン酸緩衝液を接触させ、図8のように検出部7に接続した外部電源15により検出部表面の表面電位が正電位となるよう電流もしくは電圧を印加する。この際、他方の端子は図8のように、反応容器に接続してもよい。
(d)外部電源による、電圧もしくは電流印加を停止し、未反応の磁性標識をリン酸緩衝液で洗浄する。
これらの操作によって、標的物質であるPSAが、検出部表面に存在するPSAの一次抗体、磁性標識の表面に存在するPSAの二次抗体により捕捉され、図6に示すように磁性標識が検出素子の検出部近傍に固定化されることになる。
なお、本実施例の工程(c)において、使用する緩衝液のpHは7.5であり、マグネタイトの等電点よりも塩基性であるため、磁性標識は負に帯電する。また、非検出部は多数のアミノ基を有するポリグリシジルメタクリレートを表面に有するので、pH7.5において正に帯電し、検出部は外部電源により正に帯電する。しかしながら、検出部には、外部電源によって非検出部よりも大きな表面電位を付与するため、検出部と磁性標識の静電引力が非検出部と磁性標識の静電引力より大きくなる。したがって検出効率が向上する。
従来の磁性標識を用いた固相分析法を説明するための図である。 磁性標識と検出素子の関係の一例を模式的に示す図である。 非検出部と検出部からなる検出素子と、表面に標的物質を有する磁性標識の関係の一例を模式的に示す図である。 非検出部と検出部からなる検出素子と、表面に標的物質を捕捉した第二の標的物質を有する磁性標識の関係の一例を模式的に示す図である。 表面に被覆層を有する非検出部と検出部からなる検出素子と、磁性標識の関係の一例を模式的に示す図である。 表面に被覆層を有する非検出部と検出部からなる検出素子と、被覆層を表面に有する磁性標識の関係の一例を模式的に示す図である。 電圧または電流の印加により検出部の表面電位の極性を制御し得る検出素子の一例を模式的に示す図である。 実施例1、5の検出素子および磁性標識を模式的に示す図である。 実施例2〜4の検出素子および磁性標識を模式的に示す図である。 磁性標識の一例を模式的に示す図である。 磁気抵抗効果素子の一例を模式的に示す図である。
符号の説明
1 基板
2 磁性構造体
3 第一の標的物質捕捉体
4、14 第二の標的物質捕捉体
5 標的物質
6 基材
7 検出部
8 非検出部
9 磁性標識
10 基体
11 高分子鎖(グラフトポリマー鎖)
12 リビング重合開始基
13 活性基
15 外部電源
16 被覆層
17 基体

Claims (17)

  1. 第一の標的物質捕捉体を表面に有する検出部非検出部とからなる検出素子と、磁性標識と、を用いて、検体液中の標的物質を検出する標的物質検出方法において、
    前記検出部に接触させる前記磁性標識を含む溶液もしくは検体液おける前記磁性標識の表面電位ψ1、前記検出部の表面電位ψ2、前記非検出部の表面電位ψ3 、とした時、
    前記磁性標識が、磁性構造体と、該磁性構造体を被覆し、かつ以下のi)〜iv)のいず
    れかの関係を満たすための被覆層を有し、
    前記いずれかの関係を満たした状態で、
    前記第一の標的物質捕捉体に前記標的物質を介して前記磁性標識を捕捉させる
    ことを特徴とする標的物質検出方法。
    i)ψ1ψ3>0かつψ2=0
    ii)ψ1ψ2<0かつψ3=0
    iii)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3>0かつ|ψ2|>|ψ3
    iv)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3<0
  2. 第一の標的物質捕捉体を表面に有する検出部非検出部とからなる検出素子と、磁性標識と、を用いて、検体液中の標的物質を検出する標的物質検出方法において、
    前記磁性標識が、磁性構造体と、該磁性構造体を被覆する被覆層とを有し、
    前記検出部に接触させる前記磁性標識を含む溶液もしくは検体液おける前記磁性標識の表面電位ψ1、前記検出部の表面電位ψ2、前記非検出部の表面電位ψ3 、とした時、
    以下のi)〜iv)のいずれかの関係を満たし、
    前記いずれかの関係を満たした状態で、
    前記第一の標的物質捕捉体に前記標的物質を介して前記磁性標識を捕捉させ、
    前記磁性標識が前記被覆層を有さない状態では前記いずれの関係も満たさないことを特徴とする標的物質検出方法。
    i)ψ1ψ3>0かつψ2=0
    ii)ψ1ψ2<0かつψ3=0
    iii)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3>0かつ|ψ2|>|ψ3
    iv)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3<0
  3. 前記検出部に前記標的物質を含む検体液を接触させる工程と、
    該工程の後に前記磁性標識を含む溶液を接触させる工程と、を有し、
    前記磁性標識を含む溶液を接触させる工程で前記関係を満たしている
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の標的物質検出方法。
  4. 前記磁性標識が有する第二の標的物質捕捉体に前記標的物質を捕捉させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の標的物質検出方法。
  5. 前記非検出部が基体と該基体を被覆する被覆層とを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の標的物質検出方法。
  6. 前記磁性標識が有する被覆層と前記非検出部が有する被覆層が同一の材料からなる層であることを特徴とする請求項5に記載の標的物質検出方法。
  7. 前記同一の材料グラフトポリマーであることを特徴とする請求項に記載の標的物質検出方法。
  8. 前記グラフトポリマーがポリグリシジルメタクリレートであることを特徴とする請求項7に記載の標的物質検出方法
  9. 前記検出部の表面電位ψ 2 が、前記検出部に接続された外部電源による電圧印加もしくは電流印加によって生じるものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の標的物質検出方法。
  10. 第一の標的物質捕捉体を表面に有する検出部非検出部とからなる検出素子と、磁性標識とからなり、検体液中の標的物質を検出する標的物質検出キットにおいて、
    前記磁性標識が磁性構造体と該磁性構造体を被覆し、以下のi)〜iv)のいずれかの関
    係を満たすための被覆層を有し、
    前記検出部に接触させる前記磁性標識を含む溶液もしくは検体液における前記磁性標識の表面電位ψ1、前記検出部の表面電位ψ2、前記非検出部の表面電位ψ3 、とした時、
    以下のi)〜iv)のいずれかの関係を満たすことを特徴とする標的物質検出キット。
    i)ψ1ψ3>0かつψ2=0
    ii)ψ1ψ2<0かつψ3=0
    iii)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3>0かつ|ψ2|>|ψ3
    iv)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3<0
  11. 第一の標的物質捕捉体を表面に有する検出部非検出部とからなる検出素子と、磁性標識と、を用いて、検体液中の標的物質を検出する標的物質検出キットにおいて、
    前記磁性標識が、磁性構造体と、該磁性構造体を被覆する被覆層とを有し、
    前記検出部に接触させる前記磁性標識を含む溶液もしくは検体液おける前記磁性標識の表面電位ψ1、前記検出部の表面電位ψ2、前記非検出部の表面電位ψ3 、とした時、
    以下のi)〜iv)のいずれかの関係を満たし、
    前記いずれかの関係を満たした状態で、
    前記第一の標的物質捕捉体に前記標的物質を介して前記磁性標識を捕捉させ、
    前記磁性標識が前記被覆層を有さない状態では前記いずれの関係も満たさない
    ことを特徴とする標的物質検出キット。
    i)ψ1ψ3>0かつψ2=0
    ii)ψ1ψ2<0かつψ3=0
    iii)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3>0かつ|ψ2|>|ψ3
    iv)ψ1ψ2<0かつψ2ψ3<0
  12. 前記磁性標識が第二の標的物質捕捉体を有することを特徴とする請求項10または11に記載の標的物質検出キット。
  13. 前記非検出部が基体と該基体を被覆する被覆層とを有することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の標的物質検出キット。
  14. 前記磁性標識が有する被覆層と前記非検出部が有する被覆層が同一の材料からなる層であることを特徴とする請求項13に記載の標的物質検出キット
  15. 前記同一の材料グラフトポリマーであることを特徴とする請求項14に記載の標的物質検出キット。
  16. 前記グラフトポリマーがポリグリシジルメタクリレートであることを特徴とする請求項15に記載の標的物質検出キット。
  17. 前記検出部が、電圧もしくは電流を印加するための端子を有することを特徴とする請求項10〜16のいずれかに記載の標的物質検出キット。
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