以下に、本発明に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機の概略断面図、図2は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機の要部の模式的構成図、図3は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する中立位置を説明する模式図、図4は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する変速位置を説明する模式図、図5は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機の回転軸線X1に直交する平面(位置決め平面P1)における断面図、図6は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機の回転軸線X1に沿った方向における断面図、図7は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置を用いたポスト位置決め方法を説明するフローチャート、図8、図9、図10は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置を用いたポスト位置決め方法を説明するトロイダル式無段変速機の回転軸線X1に沿った方向における断面図である。
なお、図2は、トロイダル式無段変速機を構成する各パワーローラのうち任意のパワーローラと、このパワーローラに接触する入力ディスクを示す図である。
ここで、以下で説明する実施形態では、本発明のトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機に伝達される駆動力を発生する駆動源として、エンジントルクを発生する内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなど)を用いるが、これに限定されるものではなく、モータトルクを発生するモータなどの電動機を駆動源として用いてもよい。また、駆動源として内燃機関及び電動機を併用してもよい。
図1に示すように、本実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機1は、車両に搭載される駆動源からの駆動力、すなわち出力トルクを車両の走行状態に応じた最適の条件で駆動輪に伝達するためのものであり、変速比を無段階(連続的)に制御することができる、いわゆるCVT(CVT:Continuously Variable Transmission)である。このトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟み込んだパワーローラ4を介して各入力ディスク2と出力ディスク3の間でトルクを伝達すると共に、パワーローラ4を傾転させて変速比を変化させる、いわゆる、トロイダル式の無段変速機である。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル面2a、3aを有する入力ディスク2と出力ディスク3との間に、外周面をトロイダル面2a、3aに対応する曲面としたパワーローラ4を挟み込み、これら入力ディスク2、出力ディスク3及びパワーローラ4との間に形成されるトラクションオイルの油膜のせん断力を利用してトルクを伝達するものである。
具体的には、このトロイダル式無段変速機1は、図1、図2に示すように、入力ディスク2と、出力ディスク3と、パワーローラ4と、変速比変更部5とを備える。変速比変更部5は、トラニオン6と、移動部7とを有する。さらに、移動部7は、油圧ピストン部8と、油圧制御装置9とを有する。また、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル式無段変速機1の各部を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)60を備える。このトロイダル式無段変速機1では、入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられるパワーローラ4が移動部7により入力ディスク2及び出力ディスク3に対して中立位置から変速位置に移動することで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比である変速比が変更される。
入力ディスク2は、駆動源側からの駆動力(トルク)が、例えば、発進機構であり流体伝達装置であるトルクコンバータや前後進切換機構などを介して伝達(入力)されるものである。
入力ディスク2は、駆動源から出力される出力回転に基づいて回転される入力軸10に2つが結合されており、この入力軸10により回転自在に設けられている。さらに言えば、各入力ディスク2は、入力軸10と同一の回転をするディスク回転軸としてのバリエータ軸11によって回転される。したがって、各入力ディスク2は、ディスク回転軸線としての入力軸10の回転軸線X1を回転中心として回転可能である。このトロイダル式無段変速機1は、バリエータ軸11に対して、フロント側(駆動源側)にフロント側入力ディスク2Fが設けられ、回転軸線X1に沿った方向にフロント側入力ディスク2Fに対して所定の間隔をあけてリア側(駆動輪側)にリア側入力ディスク2Rが設けられる。
フロント側入力ディスク2Fは、ボールスプライン11aを介してバリエータ軸11に支持されている。つまり、フロント側入力ディスク2Fは、バリエータ軸11の回転に伴って回転可能であると共に、このバリエータ軸11に対して回転軸線X1に沿った方向に移動可能にバリエータ軸11に支持されている。さらに言い換えれば、フロント側入力ディスク2Fは、バリエータ軸11に対して、回転軸線X1周りに相対的に回転変位しない一方、回転軸線X1に沿った方向には相対的に変位可能である。
一方、リア側入力ディスク2Rは、スプライン嵌合部を介してバリエータ軸11に支持されていると共に、バリエータ軸11のリア側端部に設けられたローディングナット11bにより回転軸線X1に沿ったリア側への移動が制限されている。ローディングナット11bは、バリエータ軸11のリア側端部に螺合されており、後述する油圧押圧機構15からの押圧力を受け、リア側入力ディスク2Rのリア側への移動を制限する。つまり、リア側入力ディスク2Rは、バリエータ軸11の回転に伴って回転可能であると共に、バリエータ軸11に対するリア側への相対移動がローディングナット11bにより所定位置で制限され、バリエータ軸11の回転軸線X1に沿ったフロント側への移動に伴って移動可能にバリエータ軸11に支持されている。さらに言い換えれば、リア側入力ディスク2Rは、バリエータ軸11に対して、回転軸線X1周りに相対的に回転変位しないと共に、ローディングナット11bに後述する油圧押圧機構15からの押圧力が作用する際には、バリエータ軸11に対して回転軸線X1に沿った方向にも相対的に変位しない。なお、以下の説明では、フロント側入力ディスク2Fとリア側入力ディスク2Rとを特に区別する必要がない場合、単に「入力ディスク2」と略記する。
各々の入力ディスク2は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各入力ディスク2の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各入力ディスク2のトロイダル面2aをなす。2つの入力ディスク2は、トロイダル面2aが互いに対向するように設けられる。
出力ディスク3は、各入力ディスク2に伝達(入力)された駆動力がパワーローラ4を介して伝達され、この駆動力を駆動輪側に伝達(出力)するものであり、各入力ディスク2に対応して1つずつ、合計2つ設けられる。このトロイダル式無段変速機1は、バリエータ軸11に対して、フロント側(駆動源側)にフロント側出力ディスク3Fが設けられ、リア側(駆動輪側)にリア側出力ディスク3Rが設けられる。トロイダル式無段変速機1は、回転軸線X1に沿った方向に対して、フロント側からフロント側入力ディスク2F、フロント側出力ディスク3F、リア側出力ディスク3R、リア側入力ディスク2Rの順で設けられている。なお、以下の説明では、フロント側出力ディスク3Fとリア側出力ディスク3Rとを特に区別する必要がない場合、単に「出力ディスク3」と略記する。
各入力ディスク2と各出力ディスク3とは、回転軸線X1に同軸上に回転自在に設けられる。したがって、各出力ディスク3は、回転軸線X1を回転中心として回転可能である。そして、各出力ディスク3は、各入力ディスク2とほぼ同一な形状をなし、すなわち、各々の出力ディスク3は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各出力ディスク3の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各出力ディスク3のトロイダル面3aをなす。
そして、各出力ディスク3は、上述のように回転軸線X1に沿った方向に対して2つの入力ディスク2の間に設けられると共に、各トロイダル面3aが各入力ディスク2のトロイダル面2aにそれぞれ対向するように設けられる。すなわち、回転軸線X1に沿った断面内において、一方のフロント側入力ディスク2Fのトロイダル面2aとフロント側出力ディスク3Fのトロイダル面3aとが対向してフロント側(駆動源側)キャビティCFを形成し、他方のリア側入力ディスク2Rのトロイダル面2aとリア側出力ディスク3Rのトロイダル面3aとが対向して別のリア側(駆動輪側)キャビティCRを形成している。
また、各出力ディスク3は、この2つの出力ディスク3の間に設けられた出力ギヤ12の円筒状のスリーブにスプライン係合部を介して支持されている。つまり、各出力ディスク3と出力ギヤ12とは、一体回転可能に連結されている。出力ギヤ12は、ケーシング1a(図2参照)の内側にこのケーシング1aに固定して設けられた中間壁32に対して、1対の軸受(ベアリング)31により、回転軸線X1に沿った変位が規制された状態で回転自在に支持されている。また、出力ギヤ12は、径方向内側の貫通孔12aにバリエータ軸11が挿入されると共にこのバリエータ軸11に対して相対回転可能に支持されている。したがって、各出力ディスク3は、出力ギヤ12と共にバリエータ軸11に対して相対回転可能に支持される。
つまり、このトロイダル式無段変速機1は、ケーシング1aに中間壁32が位置決めされ、中間壁32に軸受31が位置決めされ、軸受31に出力ギヤ12が位置決めされ、出力ギヤ12に各出力ディスク3が位置決めされることで、ケーシング1aに対して各出力ディスク3が位置決めされる。
また、バリエータ軸11は、回転軸線X1に沿った方向の中央部において、出力ギヤ12、軸受(ベアリング)31、中間壁32などからなる軸線方向中央支持部33を介してケーシング1a(図2参照)に対して相対回転可能に支持されている。つまり、このトロイダル式無段変速機1は、フロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとがなすフロント側キャビティCFと、リア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとがなすリア側キャビティCRとを備えるダブルキャビティ型のトロイダル式無段変速機1であって、フロント側入力ディスク2F、リア側入力ディスク2R、フロント側出力ディスク3F、リア側出力ディスク3Rが設けられるバリエータ軸11が回転軸線X1に沿った方向に対してこのフロント側キャビティCFとリア側キャビティCRとの間で軸線方向中央支持部33を介してケーシング1a(図2参照)に対して相対回転可能に支持される。
さらに、出力ギヤ12には、カウンターギヤ13が噛み合わされており、このカウンターギヤ13に出力軸14が連結されている。したがって、各出力ディスク3の回転に伴って、出力ギヤ12が回転し、この出力ギヤ12に噛み合わされたカウンターギヤ13が回転することで、出力軸14が回転する。そして、この出力軸14は、動力伝達機構、ディファレンシャルギヤ等を介して駆動輪に接続されており、駆動力は、動力伝達機構、ディファレンシャルギヤ等を介して駆動輪に伝達(出力)される。
パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3との間にこの入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられ、入力ディスク2からの駆動力を出力ディスク3に伝達するものである。すなわち、パワーローラ4は、外周面がトロイダル面2a、3aに対応した曲面状の接触面4aとして形成される。そして、パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟持され、接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触可能であり、各パワーローラ4は、それぞれ後述するトラニオン6によってこの接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触しながら、パワーローラ回転軸線としての回転軸線X2を回転中心として回転自在に支持されている。パワーローラ4は、トロイダル式無段変速機1に供給されるトラクションオイルにより入力ディスク2と出力ディスク3のトロイダル面2a、3aとパワーローラ4の接触面4aとの間に形成される油膜のせん断力を用いて駆動力(トルク)を伝達する。
パワーローラ4は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3によって形成される1つのキャビティに対してそれぞれ2つずつ、合計4つ設けられる。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、フロント側キャビティCFに対して2つのパワーローラ4が一対で設けられ、リア側キャビティCRに対して2つのパワーローラ4が一対で設けられる。フロント側キャビティCF、リア側キャビティCRに対してそれぞれ一対で設けられるパワーローラ4は、回転軸線X1を挟んで互いに対向して設けられる。
さらに具体的には、パワーローラ4は、パワーローラ本体41と、外輪42とにより構成される。パワーローラ本体41は、外周面に入力ディスク2、出力ディスク3のトロイダル面2a、3aと接触する上述の接触面4aが形成されている。パワーローラ本体41は、外輪42に形成された回転軸42aに対して、軸受部(ラジアルベアリング)43aを介して回転自在に支持されている。また、パワーローラ本体41は、外輪42のパワーローラ本体41と対向する面に対して、軸受部(スラストベアリング)43bを介して回転自在に支持されている。したがって、パワーローラ本体41は、回転軸42aの回転軸線X2を回転中心として回転可能である。
外輪42は、上述の回転軸42aと共に偏心軸42bが形成されている。偏心軸42bは、回転軸線X2’が回転軸42aの回転軸線X2に対してずれた位置となるように形成されている。偏心軸42bは、後述するトラニオン6のローラ支持部6aに凹部として形成される嵌合部6dに対して、軸受部(ラジアルベアリング)43cを介して回転自在に支持されている。したがって、外輪42は、偏心軸42bの回転軸線X2’を中心として回転可能である。つまり、パワーローラ4は、トラニオン6に対して、回転軸線X2及び回転軸線X2’を中心として回転可能となり、すなわち、回転軸線X2’を中心として公転可能でかつ回転軸線X2を中心として自転可能となる。これにより、パワーローラ4は、回転軸線X1に沿った方向に移動可能な構成となり、例えば、部品変形や部品精度のバラツキを許容することが可能となる。
ここで、入力軸10は、挟圧手段としての油圧押圧(エンドロード)機構15に接続される。油圧押圧機構15は、入力ディスク2及び出力ディスク3とパワーローラ4とを接触させ、この入力ディスク2と出力ディスク3との間にパワーローラ4を挟み込むための挟圧力を作用させるものである。この油圧押圧機構15は、挟圧力発生油圧室15aと、挟圧押圧力ピストン15bとを有する。油圧押圧機構15は、この挟圧力発生油圧室15aに供給される作動媒体としての作動油の圧力、すなわち、油圧を入力ディスク2の回転に伴って回転する圧力作用面としてのフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28及びリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29に作用させることで入力ディスク2と出力ディスク3との間にパワーローラ4を挟み込む挟圧力を作用可能のものである。
具体的には、挟圧力発生油圧室15aは、回転軸線X1に沿った方向に対してフロント側入力ディスク2F側に設けられ、入力軸10とフロント側入力ディスク2Fとの間に配置される。挟圧力発生油圧室15aは、運転状態に応じて油圧制御装置9から内部に作動油が供給される。
挟圧押圧力ピストン15bは、円板状に形成され、その中心が回転軸線X1とほぼ一致するようにバリエータ軸11の一端部に設けられる。挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11のリア側入力ディスク2Rが設けられている端部とは反対側の端部、すなわち、フロント側(駆動源側)に設けられている。挟圧押圧力ピストン15bは、回転軸線X1に沿った方向に対して、入力軸10とフロント側入力ディスク2Fとの間にフロント側入力ディスク2Fと間隔をあけて配置される。上述の挟圧力発生油圧室15aは、この挟圧押圧力ピストン15bとフロント側入力ディスク2Fとの間に設けられている。
また、挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11に対してこのバリエータ軸11と共に回転軸線X1を中心として回転可能であり、回転軸線X1に沿った方向に移動可能に設けられる。つまり、挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11に対して、回転軸線X1周りに相対的に回転変位しないと共に、回転軸線X1に沿った方向にも相対的に変位しない。したがって、リア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bは、一体となって回転軸線X1を中心として回転可能であり回転軸線X1に沿った方向に移動可能である。また、フロント側入力ディスク2Fは、リア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bと共に一体となって回転軸線X1を中心として回転可能である一方で、ボールスプライン11aによって、このリア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bに対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能である。
さらに、挟圧押圧力ピストン15bは、入力軸10にも連結されており、この入力軸10と共に回転軸線X1を中心として回転可能であり、また、回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能に設けられる。具体的に言えば、挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11と一体に形成されており、挟圧押圧力ピストン15bとバリエータ軸11とは、スプライン係合部11cを介して入力軸10と駆動力を伝達可能に連結されている。挟圧押圧力ピストン15b、バリエータ軸11は、円筒部11dの外周面に回転軸線X1に沿って形成されたスプラインと、入力軸10の内周面に回転軸線X1に沿って形成されたスプラインとがスプライン係合するスプライン係合部11cを介して入力軸10に連結される。ここで、円筒部11dは、挟圧押圧力ピストン15bのフロント側の面にフロント側に突出して設けられる部分であり、その中心軸線が回転軸線X1とほぼ一致するように円筒状に形成される部分である。
つまり、リア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bは、このスプライン係合部11cを介して入力軸10と一体となって回転軸線X1を中心として回転可能である一方で、この入力軸10に対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能である。入力軸10からの駆動力は、このスプライン係合部11c、挟圧押圧力ピストン15bを介してバリエータ軸11に伝達され、バリエータ軸11からフロント側入力ディスク2F、リア側入力ディスク2Rに伝達される。
また、フロント側入力ディスク2Fは、上述のフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28を有する一方、挟圧押圧力ピストン15bは、上述のリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29を有する。フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28は、フロント側入力ディスク2Fにて、パワーローラ4との接触面であるトロイダル面2aの背面に設けられる。リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29は、挟圧押圧力ピストン15bにて、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28と回転軸線X1に沿った方向に対向する面に設けられる。リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29は、上述の挟圧力発生油圧室15aを挟んでフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28と対向するように設けられる。挟圧力発生油圧室15aは、挟圧押圧力ピストン15bとフロント側入力ディスク2Fとの間でフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28とリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29とによって回転軸線X1に沿った方向に対して区画されている。つまり、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28とリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29とは、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28がリア側で挟圧力発生油圧室15aに対向し、リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29がフロント側で挟圧力発生油圧室15aに対向する。
したがって、油圧押圧機構15は、挟圧力発生油圧室15a内に供給される作動油の油圧によりフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28及びリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29に挟圧押圧力を作用させることで、フロント側入力ディスク2Fを油圧押圧機構15側からリア側に離間する方向へ移動させ、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共にリア側から油圧押圧機構15側に接近する方向へ移動させる。つまり、フロント側入力ディスク2Fは、バリエータ軸11に対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動する。そして、油圧押圧機構15は、フロント側入力ディスク2Fを油圧押圧機構15側からリア側に移動させ、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共にフロント側に接近する方向へ移動させることで、フロント側入力ディスク2Fをフロント側出力ディスク3F側に接近させると共にリア側入力ディスク2Rをリア側出力ディスク3R側に接近させ、フロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとの間及びリア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとの間に挟圧力を発生させる。このとき、バリエータ軸11のリア側端部に螺合されたローディングナット11bは、油圧押圧機構15が発生させる挟圧押圧力の反力受け部として作用し、すなわち、挟圧押圧力を受け、バリエータ軸11に対するリア側入力ディスク2Rのリア側への移動を制限する。これにより、油圧押圧機構15は、フロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとの間及びリア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとの間に挟圧力を発生させることから、各パワーローラ4をそれぞれ所定の挟圧力でフロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとの間、リア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとの間に挟み込むことができる。この結果、入力ディスク2、出力ディスク3とパワーローラ4との間のスリップを防ぎ、適正なトラクション状態を維持することができる。
ここで油圧押圧機構15による挟圧押圧力、言い換えれば挟圧力は、後述する油圧制御装置9により、挟圧力発生油圧室15aに供給される作動油の量あるいは油圧が制御されることで、トロイダル式無段変速機1への入力トルクに基づいた所定の大きさに制御される。油圧制御装置9は、後述するECU60と接続されている。したがって、油圧押圧機構15による挟圧押圧力の大きさの制御は、ECU60により行われる。
変速比変更部5は、上述したように、トラニオン6と、移動部7を有し、移動部7によって、入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して、トラニオン6と共にパワーローラ4を移動し、パワーローラ4をこの入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更するものである。ここで、変速比とは、入力ディスク2と出力ディスク3との回転速度比、言い換えれば、回転数比であり、典型的には、[変速比=出力側接触半径(パワーローラ4と出力ディスク3とが接触する接触半径(接触点と回転軸線X1との距離))/入力側接触半径(入力ディスク2とパワーローラ4とが接触する接触半径)]で表すことができる。
具体的には、各トラニオン6は、パワーローラ4をそれぞれ回転自在に支持すると共に、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して移動させ入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在に支持するものである。トラニオン6は、ローラ支持部6aと、軸部としての回転軸6bとを有する。
ローラ支持部6aは、パワーローラ4が配置される空間部6cが形成され、この空間部6cに凹部状の嵌合部6dが形成されている。そして、トラニオン6は、この空間部6cにて、上述のようにパワーローラ4の偏心軸42bが嵌合部6dに挿入されることで、パワーローラ4を回転自在に支持している。また、ローラ支持部6aは、回転軸6bと一体で移動可能に設けられる。回転軸6bは、ローラ支持部6aの肩部6eから突出するよう形成される。
ここで、ローラ支持部6aの肩部6eは、ローラ支持部6aにおいて嵌合部6dが設けられる壁面部に対して立設するようにして設けられる壁面部である。肩部6eは、ローラ支持部6aにおいて嵌合部6dが設けられる壁面部に対して一対で設けられており、この一対の肩部6eは、互いに対向するように設けられる。そして、ローラ支持部6aは、この一対の肩部6eが互いに対向することで上述の空間部6cが形成される。ここでは、ローラ支持部6aは、嵌合部6dが設けられる壁面部及び一対の肩部6eが一体に形成されている。
そして、回転軸6bは、上述のようにローラ支持部6aの一対の肩部6eからそれぞれ突出するよう形成される。各回転軸6bは、柱状に形成され、互いに同軸の回転軸線X3を回転中心として回転可能に設けられる。トラニオン6は、ローラ支持部6aがこの回転軸6bと共に回転軸線X3を回転中心として回転自在に、後述のロアリンク16aやアッパリンク17a、シリンダボデー86等を介してケーシング1aに支持されている。また、トラニオン6は、ローラ支持部6aがこの回転軸6bと共に回転軸線X3に沿った方向に移動自在に、ロアリンク16aやアッパリンク17aなどを介してシリンダボデー86やケーシング1aに支持され、後述する移動部7によって、回転軸線X3に沿った方向に移動可能に構成される。
なお、このロアリンク16a及びアッパリンク17aについては、後で詳細に説明する。
トラニオン6は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3によって形成される1つのキャビティに対してそれぞれ2つずつ、合計4つ設けられ、4つのパワーローラ4をそれぞれ1つずつ支持する。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、フロント側キャビティCFに対して2つのパワーローラ4を各々に支持する2つのトラニオン6が一対で設けられ、リア側キャビティCRに対して2つのパワーローラ4を各々に支持する2つのトラニオン6が一対で設けられる。
ここで、トラニオン6は、パワーローラ4の回転軸線X2が回転軸6bの回転軸線X3と垂直な平面と平行になるようにパワーローラ4を支持している。また、トラニオン6は、回転軸6bの回転軸線X3が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1と垂直な平面と平行になるように配置される。すなわち、トラニオン6は、回転軸線X1と垂直な平面内で回転軸線X3に沿って移動することで、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して回転軸線X3に沿って移動させることができる。また、トラニオン6は、回転軸線X3を回転中心として回転することで、パワーローラ4を回転軸線X3と垂直な平面内でこの回転軸線X3を中心として入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在とすることができる。なお、言い換えれば、トラニオン6は、パワーローラ4に後述する傾転力が作用することでこのパワーローラ4を傾転可能に支持していることになる。
移動部7は、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った方向に移動させるものであり、上述したように、油圧ピストン部8と、油圧制御装置9とを有する。
油圧ピストン部8は、ピストンとしての変速制御ピストン81と、変速制御油圧室82とを含んで構成され、変速制御油圧室82に導入される作動油の油圧を変速制御ピストン81のフランジ部84により受圧することで、トラニオン6を回転軸線X3に沿った2方向(A1方向及びA2方向)に移動させるものである。すなわち、油圧ピストン部8は、変速制御油圧室82に供給される作動油の油圧によりトラニオン6に設けられたフランジ部84に変速制御押圧力を作用させる。
具体的には、変速制御ピストン81は、ピストンベース83とフランジ部84とにより構成されている。ピストンベース83は、円筒形状に形成され回転軸6bの一端部が挿入され、回転軸線X3方向及び回転軸線X3周り方向に対して固定されている。
フランジ部84は、ピストンベース83からピストンベース83の径方向、言い換えれば、回転軸6bの径方向に突出するように固定的に設けられており、ピストンベース83及びトラニオン6の回転軸6bと共に回転軸線X3に沿った方向に移動可能である。フランジ部84は、回転軸6bの回転軸線X3周りに円環板状に形成されている。
変速制御油圧室82は、油圧室形成部材85により形成される。この油圧室形成部材85は、第1形成部材としてのシリンダボデー86及び第2形成部材としてのロアカバー87により構成される。すなわち、油圧室形成部材85は、変速制御油圧室82の壁面をなすと共に、トラニオン6の移動方向(ストローク方向)である回転軸線X3に沿った方向に対してシリンダボデー86とロアカバー87とに分割されている。シリンダボデー86は、変速制御油圧室82の空間部となる凹部が形成されている。ロアカバー87は、シリンダボデー86の凹部の開口を塞ぐようにこのシリンダボデー86に固定され、これにより、変速制御油圧室82は、シリンダボデー86とロアカバー87とにより回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に区画される。このシリンダボデー86及びロアカバー87は、シリンダボデー86のロアカバー87側とは反対側においてケーシング1aにボルト(不図示)やナット(不図示)などを用いて締め付け固定されている。つまり、ケーシング1aは、このトロイダル式無段変速機1を車両に搭載した際の鉛直方向下側が開口しており、そのケーシング1aの開口部分を塞ぐように、シリンダボデー86とロアカバー87が重ねて取り付けられている。ここでは、シリンダボデー86は、ケーシング1aとロアカバー87との間に配置される。なお、シリンダボデー86とロアカバー87との間には、変速制御油圧室82内の作動油の外部への漏洩を防止するガスケット88が設けられている。
そして、フランジ部84は、作動油が導入される変速制御油圧室82内に収容されると共に、この変速制御油圧室82内を回転軸線X3に沿った方向に2つの油圧室、すなわち、第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とに仕切り区画する。第1油圧室OP1は、内部に供給される作動油の油圧により、フランジ部84と共にトラニオン6を回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動させる一方、第2油圧室OP2は、内部に供給される作動油の油圧により、フランジ部84と共にトラニオン6を第1方向の逆方向である第2方向A2に移動させる。
フランジ部84の径方向外側の先端部には、環状のシール部材S1が設けられており、したがって、このフランジ部84によって区画される変速制御油圧室82の第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とは、それぞれこのシール部材S1により互いに作動油が漏れないようにシールされている。また、ピストンベース83の外周部には、変速制御油圧室82を形成する油圧室形成部材85であるシリンダボデー86、ロアカバー87との間に環状のシール部材S2、S3、S4が設けられており、したがって、ピストンベース83の外周部とシリンダボデー86、ロアカバー87との間は、このシール部材S2、S3、S4により変速制御油圧室82内の作動油が外部に漏れないようにシールされている。
なお、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにパワーローラ4、トラニオン6が2つずつ設けられることから、この第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにそれぞれ2つずつ設けられることになる。ここで、この一対のトラニオン6では、第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2の位置関係がトラニオン6ごとに入れ替わっている。つまり、一方のトラニオン6の第1油圧室OP1とした油圧室が他方のトラニオン6の第2油圧室OP2となり、一方のトラニオン6の第2油圧室OP2とした油圧室が他方のトラニオン6の第1油圧室OP1となる。したがって、図2に示すトロイダル式無段変速機1では、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる2つのパワーローラ4は、第1油圧室OP1又は第2油圧室OP2内の油圧により、回転軸線X3に沿って互いに逆方向に移動することになる。
油圧制御装置9は、トランスミッションの各部、例えば、油圧ピストン部8の変速制御油圧室82、油圧押圧機構15の挟圧力発生油圧室15a、トルクコンバータ、前後進切換機構等に作動油を供給するものである。ここでは、油圧制御装置9は、少なくとも挟圧力発生油圧室15a、変速制御油圧室82に供給される作動油の量あるいは油圧を制御するものである。
油圧制御装置9は、オイルポンプにより加圧された作動油がプレッシャーレギュレータバルブを介して、種々の流量制御弁などに供給される。種々の流量制御弁は、スプール弁子、電磁ソレノイドなどを含んで構成され、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2へ作動油の供給、あるいは、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2からの作動油の排出を制御する流量制御弁、挟圧力発生油圧室15aへの作動油の供給、あるいは、挟圧力発生油圧室15aからの作動油の排出を制御する流量制御弁などが含まれる。油圧制御装置9の流量制御弁は、例えば、ECU60から入力される制御指令値入力に基づいた駆動電流により駆動する電磁ソレノイドがスプール弁子の位置を変位させることで、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2、挟圧力発生油圧室15aに供給、排出される作動油の流量あるいは油圧を制御するものである。
例えば、ECU60は、油圧制御装置9の流量制御弁を制御し、オイルポンプにより加圧された作動油を第1油圧室OP1に供給し、第2油圧室OP2内の作動油を排出すると、第1油圧室OP1の油圧がフランジ部84に作用し[第1油圧室OP1の油圧>第2油圧室OP2の油圧]となる。これにより、油圧ピストン部8のフランジ部84は、回転軸線X3に沿った第1方向A1に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動する。同様に、ECU60は、油圧制御装置9の流量制御弁を制御し、オイルポンプにより加圧された作動油を第1油圧室OP1から排出し、第2油圧室OP2内に供給すると、第2油圧室OP2の油圧がフランジ部84に作用し[第1油圧室OP1の油圧<第2油圧室OP2の油圧]となる。これにより、油圧ピストン部8のフランジ部84が回転軸線X3に沿った第2方向A2に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動する。このとき、流量制御弁のスプール弁子の移動量に応じて、パワーローラ4の第1方向A1、あるいは、第2方向A2への移動が調整される。
したがって、この移動部7は、ECU60により油圧制御装置9が駆動され油圧ピストン部8の各変速制御油圧室82内の油圧が制御されることで、変速制御ピストン81のフランジ部84に所定の変速制御押圧力を作用させ、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った2方向、すなわち、第1方向A1と第2方向A2とに移動させることができる。このとき、上述したように、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる一対のトラニオン6及び一対のパワーローラ4は、回転軸線X3に沿って互いに逆方向に移動する。そして、変速比変更部5は、この移動部7によって、一対のトラニオン6と共に一対のパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置(図3参照)から変速比に応じた変速位置(図4参照)に互いに逆方向に移動させ、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更することができる。
ここで、図3に示すように、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置は、変速比が固定される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用不能な位置である。すなわち、パワーローラ4が中立位置にあり、変速比が固定されている状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の中立位置(変速比固定時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る(直交する)位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2、出力ディスク3との接触点において、パワーローラ4の回転方向(転がる方向)と入力ディスク2、出力ディスク3の回転方向とが一致しており、この結果、パワーローラ4に傾転力が作用せず、したがって、パワーローラ4は、この中立位置にとどまりながら入力ディスク2とともに回転をつづけ、この間の変速比は固定されている。
このとき、入力ディスク2からパワーローラ4に作用する力は基本的には駆動力(トルク)だけであるので、移動部7の油圧ピストン部8と油圧制御装置9とは、油圧によりこの駆動力に抗するだけの力をトラニオン6に作用させている。すなわち、パワーローラ4及びこれを支持するトラニオン6が中立位置にある場合、上述したように、入力トルクに応じて入力ディスク2、出力ディスク3とパワーローラ4との接触点に作用する接線力F1(図3参照)に抗する大きさの変速制御押圧力F2(図3参照)をフランジ部84に作用させ、パワーローラ4に作用する接線力F1と変速制御押圧力F2とをつりあわせることで、パワーローラ4及びこれを支持するトラニオン6の位置を中立位置に固定し、変速比を固定している。
一方、図4に示すように、パワーローラ4の変速位置は、変速比が変更される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用する位置である。すなわち、パワーローラ4が変速位置にあり、変速比が変更される状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内から回転軸線X3に沿った第1方向A1あるいは第2方向A2に移動した位置に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の変速位置(変速時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る位置、すなわち、中立位置からオフセットされた位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2、出力ディスク3との接触点において、パワーローラ4の回転方向と入力ディスク2、出力ディスク3の回転方向(例えば矢印B方向)とがずれ、これにより、パワーローラ4に傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4に作用する傾転力によりパワーローラ4と入力ディスク2及び出力ディスク3との間にサイドスリップが発生し、パワーローラ4は、入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転し、パワーローラ4と入力ディスク2との入力側接触半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との出力側接触半径とが変更され、したがって、変速比が変更される。
ここで、このトロイダル式無段変速機1は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる一対のパワーローラ4及びトラニオン6の回転軸線X3に沿った逆方向の移動を同期させるための機構として、ロアリンク機構16及びアッパリンク機構17を備えている。
ロアリンク機構16は、リンク部材としてのロアリンク16aを有する一方、アッパリンク機構17は、リンク部材としてのアッパリンク17aを有する。ロアリンク16aは、トラニオン6の回転軸6bにおいて変速制御ピストン81が設けられている一端部側(シリンダボデー86とローラ支持部6aの一方の肩部6eとの間)にて球面軸受である軸受部(ラジアルベアリング)6fを介して一対のトラニオン6を連結する。アッパリンク17aは、トラニオン6の回転軸6bにおいて他端部側(ローラ支持部6aの他方の肩部6e側)にて球面軸受である軸受部(ラジアルベアリング)6fを介して一対のトラニオン6を連結する。
そして、ロアリンク16aは、シリンダボデー86に固定されるロアポスト100にロア支持軸101を介して支持されている。アッパリンク17aは、ケーシング1aに固定されるアッパポスト110にアッパ支持軸111を介して支持されている。
ロアポスト100は、シリンダボデー86において、ケーシング1aの内部に臨む位置に取り付けられている。ロアポスト100は、例えば、ボルト(不図示)やナット(不図示)などを用いてシリンダボデー86に締め付け固定されると共に、ロア支持軸101が設けられている。ロア支持軸101は、円柱状に形成され、その中心軸線が回転軸線X1と平行な方向となるように設けられる。すなわち、ロアポスト100とロアリンク16aとは、ロアポスト100がロアリンク16aに形成された挿入孔16b内に挿入された状態で、ロアポスト100とロアリンク16aとにわたって回転軸線X1に沿って延在して形成される支持軸設置孔16cにロア支持軸101が挿入される。したがって、ロアリンク16aは、このロア支持軸101に支持されることで、ロア支持軸101を支点として、すなわち、ロア支持軸101の中心軸線を揺動軸線X4として、シーソー状に揺動可能に構成される。
このロアポスト100は、フロント側キャビティCF、リア側キャビティCRに対してそれぞれ1つずつ合計2つが設けられている。一方のロアポスト100は、回転軸線X1と直交する平面方向に対して、フロント側キャビティCF側の2つのパワーローラ4をそれぞれ支持する一対のトラニオン6の中間に位置するように設けられ、他方のロアポスト100は、回転軸線X1と直交する平面方向に対して、リア側キャビティCR側の2つのパワーローラ4をそれぞれ支持する一対のトラニオン6の中間に位置するように設けられる。各ロアポスト100は、各ロア支持軸101の中心軸線である揺動軸線X4が回転軸線X1と平行で、かつ、各キャビティの一対のトラニオン6の各回転軸線X3からほぼ同等な位置になるように設けられる。
一方、アッパポスト110は、ケーシング1aの上部を構成する天板1b、すなわち、回転軸線X1を挟んでシリンダボデー86と対向する天板1bにおいて、ケーシング1aの内部に臨む位置に取り付けられている。ここでは、アッパポスト110は、ポストベース112を介してケーシング1aの天板1bに取り付けられている。ポストベース112は、例えば、ボルト(不図示)やナット(不図示)などを用いてケーシング1aの天板1bに締め付け固定される。そして、アッパポスト110は、例えば、ボルト(不図示)やナット(不図示)などを用いてこのポストベース112に締め付け固定されると共に、アッパ支持軸111が設けられている。アッパ支持軸111は、円柱状に形成され、その中心軸線が回転軸線X1と平行な方向となるように設けられる。すなわち、アッパポスト110とアッパリンク17aとは、アッパポスト110がアッパリンク17aに形成された挿入孔17b内に挿入された状態で、アッパポスト110とアッパリンク17aとにわたって回転軸線X1に沿って延在して形成される支持軸設置孔17cにアッパ支持軸111が挿入される。したがって、アッパリンク17aは、このアッパ支持軸111に支持されることで、アッパ支持軸111を支点として、すなわち、アッパ支持軸111の中心軸線を揺動軸線X4として、シーソー状に揺動可能に構成される。
このアッパポスト110は、フロント側キャビティCF、リア側キャビティCRに対してそれぞれ1つずつ合計2つが設けられている。一方のアッパポスト110は、回転軸線X1と直交する平面方向に対して、フロント側キャビティCF側の2つのパワーローラ4をそれぞれ支持する一対のトラニオン6の中間に位置するように設けられ、他方のアッパポスト110は、回転軸線X1と直交する平面方向に対して、リア側キャビティCR側の2つのパワーローラ4をそれぞれ支持する一対のトラニオン6の中間に位置するように設けられる。各アッパポスト110は、各アッパ支持軸111の中心軸線である揺動軸線X4が回転軸線X1と平行で、かつ、各キャビティの一対のトラニオン6の各回転軸線X3からほぼ同等な位置になるように設けられる。
したがって、ロアリンク機構16、アッパリンク機構17は、ロアリンク16a、アッパリンク17aがロア支持軸101、アッパ支持軸111の中心軸線である揺動軸線X4を中心として揺動することで、各キャビティ、すなわち、フロント側キャビティCF、リア側キャビティCRの一対のトラニオン6の回転軸線X3に沿った逆方向への移動を同期させることができる。
また、トロイダル式無段変速機1は、複数のトラニオン6の回転軸線X3を回転中心とした回転の同期を促進する機構として、同期機構18を備える。同期機構18は、同期ワイヤ19と、複数の固定プーリ20とを有する。同期機構18は、各トラニオン6の回転軸6bに固定して設けられる固定プーリ20と、回転軸線X1方向又は回転軸線X2方向に隣り合う固定プーリ20間で一回交差するように反転して張架される同期ワイヤ19との摩擦力により、一方のトラニオン6の回転トルクを他方のトラニオン6に伝達することで、複数のトラニオン6の回転軸線X3を回転中心とした回転の同期を促進することができる。
この結果、各パワーローラ4、各トラニオン6の傾転動作(変速動作)において、複数のパワーローラ4の支持構造であるトラニオン6の部材精度や組付精度のバラツキ等により複数のパワーローラ4に油圧押圧機構15の挟圧力が均等に作用しない場合や油圧制御装置9の油路抵抗の差などに起因して変速応答性に微小なずれが発生しそうになった場合でも、この同期機構18が複数のトラニオン6の回転を相互に連動させ同期させ複数のパワーローラ4の傾転動作を相互に同期させることができるので、トロイダル式無段変速機1の変速制御精度を向上することができる。
ECU60は、トロイダル式無段変速機1の駆動を制御するものであり、各所に取り付けられたセンサから入力された各種入力信号や各種マップとに基づいてトロイダル式無段変速機1を制御する。ECU60は、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じて油圧制御装置9など制御しトロイダル式無段変速機1の実際の変速比である実変速比を制御する。
上記のようなトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2に駆動力(トルク)が入力されると、その入力ディスク2にトラクションオイルを介して接触しているパワーローラ4に駆動力が伝達され、さらにそのパワーローラ4から出力ディスク3にトラクションオイルを介して駆動力が伝達される。この間、トラクションオイルは加圧されることによりガラス転移化し、それに伴う大きいせん断力によって駆動力を伝達するので、各入力ディスク2、出力ディスク3は、入力トルクに応じた挟圧力がパワーローラ4との間に生じるように、油圧押圧機構15により押圧される。また、パワーローラ4の周速と各入力ディスク2、出力ディスク3のトルク伝達点(パワーローラ4がトラクションオイルを介して接触している接触点)の周速とが実質的に同じであるから、入力ディスク2とパワーローラ4との接触点の回転軸線X1からの半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との接触点の回転軸線X1からの半径とに応じて、各入力ディスク2、出力ディスク3の回転数(回転速度)が異なることとなり、その回転数(回転速度)の比率が変速比となる。
そして、ECU60は、変速比を設定した目標変速比に変更する場合、すなわち、変速比の変更の場合は、入力ディスク2(あるいは出力ディスク3)の回転方向に基づいて、油圧制御装置9の流量制御弁に駆動電流を供給し、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2の油圧を制御することで、パワーローラ4が目標変速比に応じた傾転角になるまで、トラニオン6を中立位置から第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。例えば、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第1油圧室OP1の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動させると、変速比が増加しダウンシフトが行われる。一方、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第2油圧室OP2の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動させると、変速比が減少しアップシフトが行われる。また、設定された変速比を固定する場合は、パワーローラ4が再び中立位置となるまで、トラニオン6を第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。
ところで、このトロイダル式無段変速機1は、シリンダボデー86にロアポスト100が位置決めされる一方、ケーシング1aにポストベース112が位置決めされ、ポストベース112にアッパポスト110が位置決めされる。そして、トロイダル式無段変速機1は、これらロアポスト100、アッパポスト110にロアリンク16a、アッパリンク17aが位置決めされ、ロアリンク16a、アッパリンク17aに各トラニオン6が位置決めされ、各トラニオン6に各パワーローラ4が位置決めされることで、ケーシング1aに対して各パワーローラ4が位置決めされる。そして、トロイダル式無段変速機1は、ロアポスト100とアッパポスト110の位置決め精度に応じて、パワーローラ4と回転軸線X1との位置関係、言い換えれば、パワーローラ4と各入力ディスク2、各出力ディスク3との位置関係の精度が変化する。つまり、トロイダル式無段変速機1は、ロアポスト100、アッパポスト110の取り付け位置が適正な位置関係からずれると、パワーローラ4の位置も適正な位置からずれてしまい、この結果、パワーローラ4と各入力ディスク2、各出力ディスク3との位置関係(パワーローラ4と回転軸線X1との位置関係)も適正な位置関係からずれてしまうおそれがある。このため、このようなトロイダル式無段変速機1では、ロアポスト100とアッパポスト110とが適正な位置関係で位置決めされる必要がある。また一方で、これらロアポスト100とアッパポスト110との相対的な位置決めを少ない作業工数で行われることも望まれている。
そこで、本実施形態のトロイダル式無段変速機1では、図5、図6に示すように、ポスト位置決め装置120を用いて、回転軸線X1に直交する位置決め平面P1内で第1ポストとしてのロアポスト100と第2ポストとしてのアッパポスト110との相対的な位置決めを行うことで、ロアポスト100とアッパポスト110とを正確に位置決めすると共に、ロアポスト100とアッパポスト110との位置決めにおける作業工数の低減を図っている。なお、この図5、図6は、便宜上、シリンダボデー86を向かって上側、ケーシング1aの天板1bを向かって下側に図示している。
本実施形態のポスト位置決め装置120は、図5、図6に示すように、回転軸線X1に直交する位置決め平面P1内で、ロアポスト100とアッパポスト110とを相対的に位置決めするものである。ポスト位置決め装置120は、第1の治具である軸部材130と、第2の治具であるアーム部材140とを含んで構成される。ポスト位置決め装置120は、ロアポスト100、アッパポスト110の位置決めの際に、アーム部材140が軸部材130に挿入され、このアーム部材140がロアポスト100とアッパポスト110とに接触して位置決め平面P1内で回転軸線X1を中心として回転可能な状態で、回転軸線X1に対するロアポスト100、アッパポスト110の位置だしをする。なお、本実施形態のトロイダル式無段変速機1は、一対のロアポスト100とアッパポスト110とを2組備えていることから、本実施形態のポスト位置決め装置120は、2つのアーム部材140を含んで構成される。
そして、本実施形態のポスト位置決め装置120は、アーム部材140が後述する第1接触部としての第1球状部153と第2接触部として第2球状部163との間で第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とに分割可能な構成となっている。ポスト位置決め装置120は、ロアポスト100とアッパポスト110との位置決め後に、このアーム部材140を第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とに分割して抜き取ることで、作業工数の削減を図っている。
具体的には、軸部材130は、回転軸線X1に対してアーム部材140を芯だしする部材、つまり、回転軸線X1を回転中心としてアーム部材140を回転自在に支持する部材である。軸部材130は、円柱状または円筒状に形成される。また、軸部材130は、外径が出力ギヤ12の径方向内側の貫通孔12aの内径よりも若干小さく設定されており、貫通孔12aに挿入可能となっている。そして、軸部材130は、ロアポスト100、アッパポスト110の位置決めの際に、バリエータ軸11(図1参照)のかわりに出力ギヤ12の径方向内側の貫通孔12aに挿入されるようにして設置された状態で、位置決め平面P1において、その外周形状が円形をなす。軸部材130は、出力ギヤ12の径方向内側の貫通孔12aに挿入された場合において、回転軸線X1を中心として配置される。
アーム部材140は、第1分割アーム部材150、第2分割アーム部材160がそれぞれ円筒部151、円筒部161を有している。
円筒部151は、円筒状に形成され、第1分割アーム部材150において軸部材130の外周に嵌合される部分である。円筒部161は、円筒状に形成され、第2分割アーム部材160において軸部材130の外周に嵌合される部分である。つまり、アーム部材140は、第1分割アーム部材150、第2分割アーム部材160が回転軸線X1を中心として、軸部材130に対して相対回転可能である。
そして、アーム部材140は、第1分割アーム部材150、第2分割アーム部材160がそれぞれアーム部152、アーム部162を有している。
アーム部152は、第1分割アーム部材150において円筒部151の径方向(円筒部151の中心軸線に直交する方向)に沿って延在して形成される軸状の部分である。アーム部152は、円筒部151の外周面にこの円筒部151の中心軸線を中心として径方向に延在して設けられる。つまり、アーム部152は、円筒部151に軸部材130が挿入された状態で回転軸線X1を中心として回転軸線X1に直交する方向に延在して設けられる。
アーム部162は、第2分割アーム部材160において円筒部161の径方向(円筒部161の中心軸線に直交する方向)に沿って延在して形成される軸状の部分である。アーム部162は、円筒部161の外周面にこの円筒部161の中心軸線を中心として径方向に延在して設けられる。つまり、アーム部162は、円筒部161に軸部材130が挿入された状態で回転軸線X1を中心として回転軸線X1に直交する方向に延在して設けられる。
そして、アーム部材140は、第1分割アーム部材150のアーム部152に第1接触部としての第1球状部153が設けられ、第2分割アーム部材160のアーム部162に第2接触部としての第2球状部163が設けられる。
第1球状部153は、ロアポスト100、アッパポスト110の位置決めの際に、第1分割アーム部材150においてロアポスト100又はアッパポスト110の一方、ここではロアポスト100と接触する部分であり、ここでは、球状に形成される。第1球状部153は、第1分割アーム部材150のアーム部152の一端部に設けられる。すなわち、第1分割アーム部材150は、アーム部152の径方向内側の端部(基端部)が円筒部151の外周面に固定され、アーム部152の径方向外側の端部(先端部)に第1球状部153が設けられる。
第2球状部163は、ロアポスト100、アッパポスト110の位置決めの際に、第2分割アーム部材160においてロアポスト100又はアッパポスト110の他方、ここではアッパポスト110と接触する部分であり、ここでは、第1球状部153と同等の形状の球状に形成される。第2球状部163は、第2分割アーム部材160のアーム部162の一端部に設けられる。すなわち、第2分割アーム部材160は、アーム部162の径方向内側の端部(基端部)が円筒部161の外周面に固定され、アーム部162の径方向外側の端部(先端部)に第2球状部163が設けられる。
ここで、アーム部材140は、ロアポスト100、アッパポスト110の位置決めの際には、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とが一体化されて用いられる。
本実施形態のアーム部材140は、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とを一体化した際に、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160との位置関係を所定の位置関係に合わせるためのピン部材170を備える。アーム部材140は、円筒部151に設けられるピン挿入孔171と、円筒部161に設けられるピン挿入孔172とにピン部材170が挿入されることで、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とが所定の位置関係で一体化される。ここでは、アーム部材140は、円筒部151の中心軸線に沿った方向の一方の端面と円筒部161の中心軸線に沿った方向の一方の端面とが接触するような位置関係で、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とが一体化される。つまり、アーム部材140は、ロアポスト100、アッパポスト110の位置決めの際には、回転軸線X1に沿って第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とが並んで、円筒部151の一方の端面と円筒部161の一方の端面とが接触するようにして配置される。
アーム部材140は、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とが一体化された状態で、第1分割アーム部材150のアーム部152と第2分割アーム部材160のアーム部162とが回転軸線X1周りの方向に対して180度ずれて位置するように、ピン部材170により位置関係が固定される。つまり、アーム部材140は、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とがピン部材170により一体化された状態で、第1分割アーム部材150のアーム部152と第2分割アーム部材160のアーム部162とが回転軸線X1周りの方向に対して180度ずれて放射状に設けられる。
そしてさらに、アーム部材140は、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とがピン部材170により一体化された状態で、第1球状部153と第2球状部163との位置が円筒部151、円筒部161の中心軸線に直交する平面内で、中心軸線を通過する直線上に位置するようにアーム部152、アーム部162が形成されている。アーム部材140は、第1分割アーム部材150のアーム部152又は第2分割アーム部材160のアーム部162のいずれか一方、ここではアーム部152に段付き部154が設けられている。
つまり、アーム部162は、径方向に沿って直線状に形成される一方、アーム部152は、中間部において、円筒部151、円筒部161の中心軸線に沿って折れ曲がるようにして段付き部154が設けられる。この段付き部154は、第1球状部153と第2球状部163とを円筒部151、円筒部161の中心軸線に直交する同一の平面内に位置させるための部分である。段付き部154は、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とがピン部材170により一体化された状態で、アーム部152の中間部において、アーム部152の円筒部151側の端部を基準として円筒部151、円筒部161の中心軸線に沿って第2分割アーム部材160側に向かって折れ曲がるようにして形成される。
つまり、アーム部材140は、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とがピン部材170により一体化され、円筒部151、円筒部161に軸部材130が挿入された状態で、回転軸線X1に直交する位置決め平面P1内で回転軸線X1を通過する直線L1上に第1球状部153と第2球状部163とが配置される。アーム部材140は、位置決め平面P1内で回転軸線X1を通過する直線L1上において、回転軸線X1を挟んで両側に第1球状部153と第2球状部163とが設けられる。
また、アーム部材140は、アーム部152の円筒部151の中心軸線に直交する径方向に沿った長さ(中心軸線から第1球状部153の中心までの距離)と、アーム部162の円筒部161の中心軸線に直交する径方向に沿った長さ(中心軸線から第2球状部163の中心までの距離)とがほぼ同等に設定される。
つまり、第1球状部153と第2球状部163とは、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とがピン部材170により一体化され、円筒部151、円筒部161に軸部材130が挿入された状態で、その中心位置が位置決め平面P1内において、位置決め平面P1と回転軸線X1との交点に対して点対称の位置になるように設けられる。
言い換えれば、アーム部材140は、円筒部151、円筒部161に軸部材130が挿入された状態で、第1球状部153と第2球状部163とが位置決め平面P1内において、位置決め平面P1と回転軸線X1との交点に対して点対称の位置になるような所定の位置関係で、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とがピン部材170により一体化され固定される。
次に、図7のフローチャートを参照して、本実施形態のポスト位置決め装置120を用いたトロイダル式無段変速機1のポスト位置決め方法について説明する。なお、トロイダル式無段変速機1、ポスト位置決め装置120の各部については、適宜図5、図6、図8、図9、図10を参照する。
まず、ポストベース112とアッパポスト110とを例えば、ボルト(不図示)やナット(不図示)などを用いて締結する(S100)。このとき、ポストベース112とアッパポスト110とは、例えばノックピン180により位置決めすればよい。
次に、シリンダボデー86とロアポスト100とを例えば、ボルト(不図示)やナット(不図示)などを用いて締結する(S101)。このとき、シリンダボデー86とロアポスト100とは、例えばノックピン181により位置決めすればよい。
次に、アッパポスト110と共にポストベース112をケーシング1aの天板1bに仮止めする(S102)。このとき、ポストベース112は、例えばボルト182により天板1bに仮止めすればよい。ポストベース112は、ボルト182により天板1bに仮止めされた状態では、ボルト182の軸部とボルト穴との隙間量の範囲内で、天板1bに対して相対移動可能である。
次に、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とがピン部材170により一体化された状態のアーム部材140が有する第1球状部153又は第2球状部163のうちの一方、ここでは、第2球状部163をアッパポスト110の球状部挿入穴113に挿入する(S103)。ここでは、2つのアッパポスト110に対して、それぞれアーム部材140の第2球状部163を球状部挿入穴113に挿入する。つまり、ここでは、アーム部材140を2つ用いる。
ここで、球状部挿入穴113は、アッパポスト110に設けられ、第2球状部163が挿入される穴であり、すなわち、アッパポスト110において第2球状部163と接触する部分である。球状部挿入穴113は、アッパポスト110に円柱状の穴として形成される。球状部挿入穴113は、円柱状の穴の開口が回転軸線X1側を向くようにアッパポスト110に形成されている。球状部挿入穴113は、回転軸線X1側を向いた開口の形状が円形状となっている。球状部挿入穴113は、内径が第2球状部163の直径とほぼ同等あるいはやや大きく設定されており、第2球状部163を挿入可能かつ内壁面が第2球状部163の外面と接触可能な大きさで形成される。
次に、軸部材130を第1分割アーム部材150の円筒部151、第2分割アーム部材160の円筒部161、出力ギヤ12の径方向内側の貫通孔12aに挿入して設置する(S104)。
次に、アーム部材140の第1球状部153又は第2球状部163のうちの他方、ここでは、第1球状部153をロアポスト100の球状部挿入穴102に挿入しながら、シリンダボデー86とケーシング1aとを例えば、ボルト(不図示)やナット(不図示)などを用いて締結する(S105、例えば、図5、図6参照)。このとき、シリンダボデー86とケーシング1aとは、例えばノックピン183により位置決めすればよい。ここでは、2つのロアポスト100に対して、それぞれアーム部材140の第1球状部153を球状部挿入穴102に挿入する。
ここで、球状部挿入穴102は、ロアポスト100に設けられ、第1球状部153が挿入される穴であり、すなわち、ロアポスト100において第1球状部153と接触する部分である。球状部挿入穴102は、ロアポスト100に円柱状の穴として形成される。球状部挿入穴102は、円柱状の穴の開口が回転軸線X1側を向くようにロアポスト100に形成されている。球状部挿入穴102は、回転軸線X1側を向いた開口の形状が円形状となっている。球状部挿入穴102は、内径が第1球状部153の直径とほぼ同等あるいはやや大きく設定されており、第1球状部153を挿入可能かつ内壁面が第1球状部153の外面と接触可能な大きさで形成される。
そして、ポスト位置決め装置120は、アーム部材140の第1球状部153がロアポスト100の球状部挿入穴102の内壁面と接触し第2球状部163がアッパポスト110の球状部挿入穴113の内壁面と接触してこのアーム部材140が位置決め平面P1内で回転軸線X1を中心として回転可能な状態で、ロアポスト100とアッパポスト110との相対的な位置決めを行う(S106)。
具体的には、アーム部材140は、第1球状部153、第2球状部163がそれぞれ位置決め平面P1内で球状部挿入穴102の内壁面、球状部挿入穴113の内壁面にそれぞれ2箇所で点接触する。そして、アーム部材140は、位置決め平面P1内で回転軸線X1を中心として回転可能な状態でロアポスト100、アッパポスト110との相対的な位置決めを行う。このようにして、ポスト位置決め装置120は、位置決め平面P1内でロアポスト100とアッパポスト110との相対的な位置決めを行う。すなわち、回転軸線X1に直交する位置決め平面P1内で回転軸線X1を通過する直線L1上にロアポスト100、アッパポスト110が位置決めされ、つまり、ロアポスト100、アッパポスト110が回転軸線X1上の点を基準として対称な位置に位置決めされる。さらに言えば、ロアポスト100、アッパポスト110は、位置決め平面P1内で回転軸線X1を中心として回転可能なアーム部材140により位置決めされることで、ロアポスト100の中心とアッパポスト110の中心を通る線が必ず回転軸線X1を通ることとなる。
次に、ボルト182を本締めすることにより、ポストベース112と天板1bとを締結し固定する(S107)。ポストベース112は、ボルト182により天板1bに本締めされた状態では、天板1bに対して相対移動不能であり、したがって、ポストベース112、アッパポスト110が天板1bに対して位置決めされた状態となる。
次に、軸部材130を回転軸線X1に沿って移動させて、第1分割アーム部材150の円筒部151、第2分割アーム部材160の円筒部161、出力ギヤ12の径方向内側の貫通孔12aから抜き取る(S108、例えば、図8参照)。このとき、軸部材130は、例えば、ケーシング1aの回転軸線X1に沿った方向の両端部の開口の一方から抜き取ればよい。
次に、アーム部材140のピン部材170をピン挿入孔171、ピン挿入孔172から抜き取る(S109)。
次に、アーム部材140を第1球状部153と第2球状部163との間で第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とに分割し、第1分割アーム部材150又は第2分割アーム部材160のいずれか一方、ここでは第1分割アーム部材150を回転軸線X1に直交する方向にずらしながらロアポスト100の球状部挿入穴102から抜き取る(S110、例えば図9参照)。
次に、アーム部材140の第1分割アーム部材150又は第2分割アーム部材160の他方、ここでは第2分割アーム部材160を回転軸線X1に直交する方向にずらしながらアッパポスト110の球状部挿入穴113から抜き取り(S111、例えば図10参照)、このポスト位置決め装置120を用いたトロイダル式無段変速機1のポスト位置決め方法を終了する。
この結果、このトロイダル式無段変速機1において、ロアポスト100とアッパポスト110の位置決めを正確に行うことができ、最終的には、ロアポスト100、アッパポスト110、ロアリンク16a、アッパリンク17a、各トラニオン6を介して位置決めされるパワーローラ4と回転軸線X1との位置関係、言い換えれば、パワーローラ4と各入力ディスク2、各出力ディスク3との位置関係を適正な位置関係で正確に固定することができる。さらに言えば、このトロイダル式無段変速機1において、各入力ディスク2、各出力ディスク3に対して、一方のトラニオン6に支持されたパワーローラ4の位置決め精度と、他方のトラニオン6に支持されたパワーローラ4の位置決め精度とを一致させることができる。つまり、一方のトラニオン6に支持されたパワーローラ4が、入力ディスク2、出力ディスク3に接触する接触点の半径と、他方のトラニオン6に支持されたパワーローラ4が、入力ディスク2、出力ディスク3に接触する接触点の半径とが一致する。
そして、トロイダル式無段変速機1の組み立て完了後に、そのトロイダル式無段変速機1でトルク伝達をおこなった場合に、一方のトラニオン6に支持されたパワーローラ4が、入力ディスク2、出力ディスク3に接触して発生する荷重、接線力、トルク容量、トラクション係数などの条件と、他方のトラニオン6に支持されたパワーローラ4が、入力ディスク2、出力ディスク3に接触して発生する荷重、接線力、トルク容量、トラクション係数などの条件とを、一致させることができる。したがって、例えば、トロイダル式無段変速機1の組み立て完了後に、トルク伝達をおこなって、アッパポスト110とロアポスト100との位置決め精度を測定し、その測定結果に基づいてトロイダル式無段変速機1を分解して、位置決め精度を調整する、という作業を未然に回避でき、トロイダル式無段変速機1の組み立て作業工数の増加を抑制できる。
また、位置決め平面P1内で、ロアポスト100とアッパポスト110との相対的な位置決めをおこなった後、例えば、ボルト182を本締めすることにより、ポストベース112と天板1bとを締結し固定する工程で、ロアポスト100又はアッパポスト110に対して、回転軸線X1と直交する平面に沿った外力が加わった場合、第1球状部153がロアポスト100の球状部挿入穴102の内壁面と接触し、第2球状部163がアッパポスト110の球状部挿入穴113の内壁面と接触した状態のまま、位置決め平面P1でアーム部材140が回転軸線X1を中心として回転可能である。したがって、ロアポスト100の中心位置とアッパポスト110の中心位置とが共に位置決め平面P1内で回転軸線X1を通過する直線L1上に位置決めされた状態に保持される。この結果、例えば、ロアポスト100、アッパポスト110、シリンダボデー86、天板1bなどの加工精度によらず、ロアポスト100、アッパポスト110、シリンダボデー86、天板1b、アーム部材140などの要素が変形したり、第1球状部153、第2球状部163が球状部挿入穴102、球状部挿入穴113から外れにくくなったりすることなく、ロアポスト100とアッパポスト110とを確実に位置決めできる。
また、位置決め平面P1内において、第1球状部153、第2球状部163の外周形状が円形であるため、アーム部材140が回転軸線X1を中心として回転した場合でも、この位置決め平面P1内において、第1球状部153、第2球状部163と球状部挿入穴102の内壁面、球状部挿入穴113の内壁面とがそれぞれ2箇所で点接触することから、第1球状部153、第2球状部163と球状部挿入穴102の内壁面、球状部挿入穴113の内壁面との隙間量が略同じに維持される(変化しない)。したがって、ロアポスト100、アッパポスト110、シリンダボデー86、天板1b、アーム部材140などの要素が変形したり、第1球状部153、第2球状部163が球状部挿入穴102、球状部挿入穴113から外れにくくなったりすることを、一層確実に抑制できる。
そして、本実施形態のポスト位置決め装置120は、アーム部材140がロアポスト100と接触する第1球状部153とアッパポスト110と接触する第2球状部163との間で第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とに分割可能な構成となっていることから、ロアポスト100とアッパポスト110との位置決め後に、このアーム部材140を第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とに分割して抜き取ることで、作業工数をさらに削減することができる。つまり、このポスト位置決め装置120を用いてトロイダル式無段変速機1のロアポスト100とアッパポスト110とを位置決めすることで、アーム部材140を分割して抜き取ることができるので、例えば、ロアポスト100とアッパポスト110との位置決め後に、ケーシング1aとシリンダボデー86とをロアポスト100、アッパポスト110と共に一旦引き離すことなく、ロアポスト100とアッパポスト110とを位置決めした状態でアーム部材140を抜き取ることができ、よって、作業工数を低減することができる。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機1のポスト位置決め装置120によれば、駆動力が入力される入力ディスク2と駆動力が出力される出力ディスク3との間に設けられるパワーローラ4を傾転させることで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転速度比である変速比を無段階に変更可能であり、入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1を挟んだ位置でパワーローラ4を支持するロアポスト100及びアッパポスト110が設けられるトロイダル式無段変速機1の回転軸線X1に直交する位置決め平面P1内でロアポスト100とアッパポスト110との相対的な位置決めを行うトロイダル式無段変速機1のポスト位置決め装置120において、位置決め平面P1内で回転軸線X1を通る線L1上に回転軸線X1を挟んで両側に設けられる第1球状部153及び第2球状部163を有し、第1球状部153がロアポスト100と接触し第2球状部163がアッパポスト110と接触して位置決め平面P1内で回転軸線X1を中心として回転可能な状態で、ロアポスト100とアッパポスト110との相対的な位置決めを行うと共に、第1球状部153と第2球状部163との間で分割可能なアーム部材140を備える。
また、以上で説明した本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機1のポスト位置決め方法によれば、駆動力が入力される入力ディスク2と駆動力が出力される出力ディスク3との間に設けられるパワーローラ4を傾転させることで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転速度比である変速比を無段階に変更可能であり、入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1を挟んだ位置でパワーローラ4を支持するロアポスト100及びアッパポスト110が設けられるトロイダル式無段変速機1の回転軸線X1に直交する位置決め平面P1内でロアポスト100とアッパポスト110との相対的な位置決めを行うトロイダル式無段変速機1のポスト位置決め方法において、位置決め平面P1内で回転軸線X1を通る線L1上に回転軸線X1を挟んで両側に設けられる第1球状部153及び第2球状部163を有するアーム部材140の第1球状部153をロアポスト100と接触させ第2球状部163をアッパポスト110と接触させてこのアーム部材140が位置決め平面P1内で回転軸線X1を中心として回転可能な状態で、ロアポスト100とアッパポスト110との相対的な位置決めを行った後に、このアーム部材140を第1球状部153と第2球状部163との間で分割して抜き取る。
したがって、このトロイダル式無段変速機1のポスト位置決め装置120、ポスト位置決め方法では、アーム部材140がロアポスト100と接触する第1球状部153とアッパポスト110と接触する第2球状部163との間で分割可能な構成となっていることから、ロアポスト100とアッパポスト110との位置決め後に、このアーム部材140を第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とに分割して抜き取ることで、例えば、ロアポスト100とアッパポスト110との位置決め後に、ケーシング1aとシリンダボデー86とをロアポスト100、アッパポスト110共に一旦引き離すことなく、ロアポスト100とアッパポスト110とを位置決めした状態でアーム部材140を抜き取ることができ、よって、作業工数を低減することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置、ポスト位置決め方法は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
以上の説明では、トロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置、ポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機は、ダブルキャビティ型のトロイダル式無段変速機に適用するものとして説明したが、これに限らず、シングルキャビティ型のトロイダル式無段変速機に適用してもよい。この場合、トロイダル式無段変速機は、1対の第1ポストと第2ポストとを1組だけ備えることになるので、適用するアーム部材は1つでよい。
以上の説明では、アーム部材140は、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160とを一体化した際に、ピン部材170をピン挿入孔171、ピン挿入孔172に挿入することで、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160との位置関係を所定の位置関係に合わせるものとして説明したがこれに限らない。
図11は、本発明の変形例に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機の回転軸線X1に直交する平面(位置決め平面P1)における断面図、図12は、本発明の変形例に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置及びポスト位置決め方法が適用されるトロイダル式無段変速機の回転軸線に沿った方向における断面図、図13は、本発明の変形例に係るトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置のアーム部材の部分斜視図である。
本変形例に係るポスト位置決め装置120Aは、図11、図12、図13に示すように、アーム部材140Aを含んで構成される。このアーム部材140Aは、第1分割アーム部材150Aと第2分割アーム部材160Aとに分割可能な構成となっている。
そして、このアーム部材140Aは、第1分割アーム部材150Aの円筒部151A又は第2分割アーム部材160Aの円筒部161Aのいずれか一方、ここでは、円筒部151Aに係合凹部155Aが設けられ、第1分割アーム部材150Aの円筒部151A又は第2分割アーム部材160Aの円筒部161Aの他方、ここでは、円筒部161Aに係合凸部165Aが設けられる。
係合凹部155Aは、円筒部151Aに切り欠き部として形成される。ここでは、係合凹部155Aは、円筒部151Aを中心軸線(言い換えれば、回転軸線X1)に沿って貫通している。係合凸部165Aは、円筒部161Aに突出部として形成される。ここでは、係合凸部165Aは、円筒部161Aから中心軸線(言い換えれば、回転軸線X1)に沿って突出するようにして形成される。係合凸部165Aは、係合凹部155Aにちょうど嵌合する大きさに形成されている。係合凹部155Aと係合凸部165Aとは、これら係合凹部155Aと係合凸部165Aとが嵌合した際に、第1分割アーム部材150Aと第2分割アーム部材160Aとの位置関係が適正になる位置、すなわち、係合凹部155Aと係合凸部165Aとが嵌合した際に、アーム部152とアーム部162とが回転軸線X1周りの方向に対して180度ずれて位置するように、円筒部151A、円筒部161Aに形成されている。
したがって、このアーム部材140Aは、第1分割アーム部材150Aと第2分割アーム部材160Aとを一体化した際に、係合凸部165Aが係合凹部155Aに嵌合し係合することで、第1分割アーム部材150と第2分割アーム部材160との位置関係を所定の位置関係に合わせて固定することができる。この場合、ポスト位置決め装置120Aは、ロアポスト100とアッパポスト110との位置決め後に、このアーム部材140Aを第1分割アーム部材150Aと第2分割アーム部材160Aとに分割して抜き取る際に、ピン部材170(図5参照)を抜き取る工程(S109、図7参照)を省略することができるので、さらに作業工数を低減することができる。
また、以上の説明では、第1接触部、第2接触部は、球状に形成される第1球状部153、第2球状部163により構成されるものとして説明したがこれに限らないが、アーム部材が回転軸線X1を中心として回転した際に第1接触部、第2接触部と第1ポスト、第2ポストとの各隙間量が略同じに維持される形状であることが好ましい。第1接触部、第2接触部は、例えば、円板状に形成される円板部により構成してもよい。すなわち、第1接触部、第2接触部は、位置決め平面P1内における外周形状が略円形であれば、球状または円板状のいずれであっても、その外周面が、第1ポスト、第2ポストの挿入穴の内壁面に2点で点接触した状態で、アーム部材が回転軸線X1を中心として回転可能となり、第1接触部、第2接触部と第1ポスト、第2ポストとの各隙間量が略同じに維持される。また、第1接触部、第2接触部が挿入される第1ポスト、第2ポストの挿入穴の内壁面側が曲面形状に形成される構成であってもよい。この場合であっても第1接触部、第2接触部と第1ポスト、第2ポストとの各隙間量が略同じに維持される構成とすることができる。
また、本発明のトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置、ポスト位置決め方法は、トロイダル式無段変速機1の回転軸線X1が水平方向以外の方向、例えば、鉛直方向に配置された状態であっても適用することができる。
また、以上の説明では、第1ポストとしてのロアポスト100は、固定部材としてのシリンダボデー86に固定され、第2ポストとしてのアッパポスト110は、固定部材としてのケーシング1aの天板1bに固定されるものとして説明したがこれに限らず、シリンダボデー86やケーシング1aとは別個の蓋部材、ブラケット、マウント部などの構造部品に固定されるものであってもよい。また、アッパポスト110とケーシング1aの天板1bとの間にポストベース112を介在させなくてもよい。
また、以上の説明では、ロアポスト100が第1ポスト、アッパポスト110が第2ポスト、第1球状部153が第1接触部、第2球状部163が第2接触部であるものとして説明したが、ロアポスト100が第2ポスト、アッパポスト110が第1ポスト、第1球状部153が第2接触部、第2球状部163がと第1接触部であってもよい。
また、ポスト位置決め装置120が備える第1の治具である軸部材130、第2の治具であるアーム部材140は、金属材料、例えば機械構造用炭素鋼、アルミニウム合金、アルミニウムなどの他、高剛性の樹脂材料により構成されてもよいし他の材料により構成されてもよい。
また、本発明のトロイダル式無段変速機のポスト位置決め装置、ポスト位置決め方法は、車両以外の工作機械、産業機械、運搬機械などに用いるトロイダル式無段変速機を対象とすることも可能である。