以下に、本発明に係る無段変速機の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図、図2は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機の要部の構成図、図3は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機に適用される前後進切換機構の構成図、図4は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する中立位置を説明する模式図、図5は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する変速位置を説明する模式図、図6は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機の変速比制御部の一例を示す概略構成図、図7は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機の傾転角ゲイン、ストロークゲイン設定マップを示す図、図8は、本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機における目標ストローク量制限制御を説明するフローチャートである。
なお、図2は、トロイダル式無段変速機を構成する各パワーローラのうち任意のパワーローラと、このパワーローラに接触する入力ディスクを示す図である。また、図4、図5は、入力ディスクを出力ディスク側から見た図であり、入力ディスクとパワーローラをそれぞれ1つだけ模式的に図示している。
ここで、以下で説明する実施形態では、本発明の無段変速機に伝達される駆動力を発生する駆動源としてエンジントルクを発生する内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなど)を用いるが、これに限定されるものではなく、モータトルクを発生するモータなどの電動機を駆動源として用いてもよい。また、駆動源として内燃機関及び電動機を併用してもよい。
図1に示すように、本実施形態に係る無段変速機としてのトロイダル式無段変速機1は、車両に搭載される駆動源としてのエンジン21からの駆動力、すなわち出力トルクを車両の走行状態に応じた最適の条件で車輪27に伝達するためのものであり、変速比を無段階(連続的)に制御することができる、いわゆるCVT(CVT:Continuously Variable Transmission)である。このトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟み込んだパワーローラ4を介して各入力ディスク2と出力ディスク3の間でトルクを伝達すると共に、パワーローラ4を傾転させて変速比を変化させる、いわゆる、トロイダル式の無段変速機である。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル面2a、3aを有する入力ディスク2と出力ディスク3との間に、外周面をトロイダル面2a、3aに対応する曲面としたパワーローラ4を挟み込み、これら入力ディスク2、出力ディスク3及びパワーローラ4との間に形成されるトラクションオイルの油膜のせん断力を利用してトルクを伝達するものである。
具体的には、このトロイダル式無段変速機1は、図1、図2に示すように、入力ディスク2と、出力ディスク3と、パワーローラ4と、変速比変更手段としての変速比変更部5とを備える。変速比変更部5は、支持手段としてのトラニオン6と、移動手段としての移動部7を有する。さらに、移動部7は、油圧ピストン部8と、油圧制御手段としての油圧制御装置9とを有する。また、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル式無段変速機1の各部を制御する制御手段としての電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)60を備える。このトロイダル式無段変速機1では、入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられるパワーローラ4が移動部7により入力ディスク2及び出力ディスク3に対して中立位置から変速位置に移動することで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比である変速比が変更される。
入力ディスク2は、エンジン21側からの駆動力(トルク)が、例えば、発進機構であり流体伝達装置であるトルクコンバータ22や切換手段としての前後進切換機構23などを介して伝達(入力)されるものである。
エンジン21は、このエンジン21が搭載された車両を前進あるいは後進させるためのエンジントルク、すなわち、駆動力を出力するものである。また、エンジン21は、ECU60に電気的に接続されており、このECU60によってその駆動が制御され、出力する駆動力が制御されている。エンジン21からの駆動力は、クランクシャフト21aを介してトルクコンバータ22に伝達される。
トルクコンバータ22は、前後進切換機構23を介してエンジン21からの駆動力をトロイダル式無段変速機1に伝達するものである。トルクコンバータ22は、ポンプ(ポンプインペラ)、タービン(タービンランナ)、ステータ、ロックアップクラッチを備える。ポンプは、フロントカバー等を介してエンジン21のクランクシャフト21aに連結されており、クランクシャフト21a、フロントカバーと共に回転可能に設けられている。タービンは、上記ポンプと対向するように配置されている。このタービンは、インプットシャフト22a、前後進切換機構23を介して入力軸10に連結されており、入力軸10と共にクランクシャフト21aと同一の軸線を中心に回転可能に設けられている。ステータは、そのポンプとタービンとの間に配置されている。ロックアップクラッチは、このタービンとフロントカバーとの間に設けられており、タービンに連結されている。
したがって、このトルクコンバータ22は、エンジン21の駆動力(エンジントルク)がクランクシャフト21aからフロントカバーを介してポンプに伝達される。そして、ロックアップクラッチが解放されている場合には、このポンプに伝達された駆動力は、ポンプとタービンとの間に介在する作動流体である作動油を介してタービン、インプットシャフト22a、入力軸10に伝達される。このとき、トルクコンバータ22は、ステータにより、ポンプとタービンとの間を循環する作動油の流れを変化させ所定のトルク特性を得ることができる。そして、トルクコンバータ22は、タービンに連結されているロックアップクラッチがフロントカバーに係合されている場合、フロントカバーを介してポンプに伝達されたエンジン21からの駆動力は、作動油を介さずに直接的に入力軸10に伝達される。ここで、ロックアップクラッチの係合及び係合の解除、すなわち、ON、OFFを行うON/OFF制御は、後述する油圧制御装置9から供給される作動油によって行われる。油圧制御装置9は、後述するECU60と接続されている。したがって、ロックアップクラッチのON/OFF制御は、ECU60により行われる。
前後進切換機構23は、トルクコンバータ22を介して伝達されたエンジン21からの駆動力をトロイダル式無段変速機1の入力ディスク2に伝達するものである。
ここで、図3に示すように、前後進切換機構23は、遊星歯車機構23aと、係合手段としてのフォワードクラッチ23b及びリバースブレーキ23cとによって構成され、エンジン21の駆動力を直接、あるいは反転して入力ディスク2に伝達するものである。つまり、前後進切換機構23を介したエンジン21の駆動力は、入力ディスク2を正回転させる方向(車両が前進する際に入力ディスク2が回転する方向)に作用する正回転駆動力として、あるいは、入力ディスク2を逆回転させる方向(車両が後進する際に入力ディスク2が回転する方向)に作用する逆回転駆動力として、入力ディスク2に伝達される。この前後進切換機構23による駆動力の伝達方向の切換制御は、フォワードクラッチ23b、リバースブレーキ23cの係合及び係合の解除、すなわち、ON、OFFを行うON/OFF制御を実行することで行われる。前後進切換機構23による駆動力の伝達方向の切換制御、言い換えれば、フォワードクラッチ23b、リバースブレーキ23cのON/OFF制御は、後述する油圧制御装置9から供給される作動油により行われる。したがって、前後進切換機構23の切換制御は、ECU60により行われている。
具体的には、遊星歯車機構23aは、サンギヤ23dと、プラネタリピニオン23eと、リングギヤ23fと、キャリヤ23gとから構成される。
サンギヤ23dは、連結部材を介して入力軸10にスプライン嵌合される。これにより、サンギヤ23dに伝達されたエンジン21からの出力トルクは、入力軸10に伝達される。
プラネタリピニオン23eは、サンギヤ23dの周囲に複数個設けられる。本実施形態では、例えば3個のプラネタリピニオン23eがサンギヤ23dの周囲に設けられる。各プラネタリピニオン23eは、サンギヤ23dに噛み合わされ、キャリヤ23gによって支持される。
キャリヤ23gは、各プラネタリピニオン23eを自転可能かつサンギヤ23dを中心に公転可能に支持する。また、キャリヤ23gは、キャリヤ23gの外周の端部でリバースブレーキ23cに接続される。
リングギヤ23fは、キャリヤ23gに支持される各プラネタリピニオン23eに噛み合わされる。また、リングギヤ23fは、フォワードクラッチ23bを介してトルクコンバータ22のインプットシャフト22aに接続される。
フォワードクラッチ23bは、作動油供給部分であるインプットシャフト22aの図示しない中空部に、後述する油圧制御装置9から作動油が供給されることにより、ON/OFF制御されるものである。フォワードクラッチ23bのOFF時には、インプットシャフト22aに伝達されたエンジン21からの出力トルクがリングギヤ23fに伝達される。一方、フォワードクラッチ23bのON時には、リングギヤ23fとサンギヤ23dと各プラネタリピニオン23eとが互いに相対回転することなく、インプットシャフト22aに伝達されたエンジン21からの出力トルクが直接サンギヤ23dに伝達される。
リバースブレーキ23cは、作動油供給部分である図示しないブレーキピストンに、後述する油圧制御装置9から作動油が供給されることにより、ON/OFF制御されるものである。リバースブレーキ23cがON時には、キャリヤ23gがケーシングに固定され、各プラネタリピニオン23eがサンギヤ23dの周囲を公転できない状態となる。リバースブレーキ23cがOFF時には、キャリヤ23gが解放され、各プラネタリピニオン23eがサンギヤ23dの周囲を公転できる状態となる。
前後進切換機構23は、車両の前進走行時には、フォワードクラッチ23bがON、リバースブレーキ23cがOFFにされる。また、車両の後進走行時には、フォワードクラッチ23bがOFF、リバースブレーキ23cがONにされる。これにより、前後進切換機構23は、トルクの回転方向を切り替えることができる。そして、前後進切換機構23は、ニュートラル時には、フォワードクラッチ23bがOFF、リバースブレーキ23cがOFFにされる。
図1、図2に戻って、入力ディスク2は、エンジン21の回転に基づいて回転される入力軸10に2つが結合されており、この入力軸10により回転自在に設けられている。さらに言えば、各入力ディスク2は、入力軸10と同一の回転をするバリエータ軸11によって回転される。したがって、各入力ディスク2は、入力軸10の回転軸線X1を回転中心として回転可能である。このトロイダル式無段変速機1は、バリエータ軸11に対して、フロント側(エンジン21側)にフロント側入力ディスク2Fが設けられ、回転軸線X1に沿った方向にフロント側入力ディスク2Fに対して所定の間隔をあけてリア側(車輪27側)にリア側入力ディスク2Rが設けられる。
フロント側入力ディスク2Fは、ボールスプライン11aを介してバリエータ軸11に支持されている。つまり、フロント側入力ディスク2Fは、バリエータ軸11の回転に伴って回転可能であると共に、このバリエータ軸11に対して回転軸線X1に沿った方向に移動可能にバリエータ軸11に支持されている。さらに言い換えれば、フロント側入力ディスク2Fは、バリエータ軸11に対して、回転軸線X1周りに相対的に回転変位しない一方、回転軸線X1に沿った方向には相対的に変位可能である。一方、リア側入力ディスク2Rは、スプライン嵌合部を介してバリエータ軸11に支持されていると共に、バリエータ軸11のリア側端部に設けられたスナップリング11bにより回転軸線X1に沿った方向への移動が制限されている。つまり、リア側入力ディスク2Rは、バリエータ軸11の回転に伴って回転可能であると共に、バリエータ軸11の回転軸線X1に沿った方向の移動に伴って移動可能にバリエータ軸11に支持されている。さらに言い換えれば、リア側入力ディスク2Rは、バリエータ軸11に対して、回転軸線X1周りに相対的に回転変位しないと共に、回転軸線X1に沿った方向にも相対的に変位しない。なお、以下の説明では、フロント側入力ディスク2Fとリア側入力ディスク2Rとを特に区別する必要がない場合、単に「入力ディスク2」と略記する。
各々の入力ディスク2は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各入力ディスク2の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各入力ディスク2のトロイダル面2aをなす。2つの入力ディスク2は、トロイダル面2aが互いに対向するように設けられる。
出力ディスク3は、各入力ディスク2に伝達(入力)された駆動力を車輪27側に伝達(出力)するものであり、各入力ディスク2に対応して1つずつ、合計2つ設けられる。このトロイダル式無段変速機1は、バリエータ軸11に対して、フロント側(エンジン21側)に第1出力ディスクとしてのフロント側出力ディスク3Fが設けられ、リア側(車輪27側)に第2出力ディスクとしてのリア側出力ディスク3Rが設けられる。フロント側出力ディスク3Fとリア側出力ディスク3Rとは、共に回転軸線X1に沿った方向に対してフロント側入力ディスク2Fとリア側入力ディスク2Rとの間に設けられ、さらに言えば、リア側出力ディスク3Rは、フロント側出力ディスク3Fとリア側入力ディスク2Rとの間に設けられている。つまり、このトロイダル式無段変速機1は、回転軸線X1に沿った方向に対して、フロント側からフロント側入力ディスク2F、フロント側出力ディスク3F、リア側出力ディスク3R、リア側入力ディスク2Rの順で設けられている。なお、以下の説明では、フロント側出力ディスク3Fとリア側出力ディスク3Rとを特に区別する必要がない場合、単に「出力ディスク3」と略記する。
各入力ディスク2と各出力ディスク3とは、回転軸線X1に同軸上に入力軸10に対して相対的に回転自在に設けられる。したがって、各出力ディスク3は、回転軸線X1を回転中心として回転可能である。そして、各出力ディスク3は、各入力ディスク2とほぼ同一な形状をなし、すなわち、各々の出力ディスク3は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各出力ディスク3の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各出力ディスク3のトロイダル面3aをなす。そして、各出力ディスク3は、上述のように回転軸線X1に沿った方向に対して2つの入力ディスク2の間に設けられると共に、各トロイダル面3aが各入力ディスク2のトロイダル面2aにそれぞれ対向するように設けられる。すなわち、回転軸線X1に沿った断面内において、一方のフロント側入力ディスク2Fのトロイダル面2aとフロント側出力ディスク3Fのトロイダル面3aとが対向してフロント側(エンジン21側)半円キャビティCFを形成し、他方のリア側入力ディスク2Rのトロイダル面2aとリア側出力ディスク3Rのトロイダル面3aとが対向して別のリア側(車輪27側)半円キャビティCRを形成している。
また、各出力ディスク3は、ベアリングを介しバリエータ軸11に回転可能に支持されている。この2つの出力ディスク3の間には、出力ギヤ12が連結されており、この出力ギヤ12は、2つの出力ディスク3と共に一体で回転可能である。出力ギヤ12には、カウンターギヤ13が噛み合わされており、このカウンターギヤ13に出力軸14が連結されている。したがって、各出力ディスク3の回転に伴い、出力軸14が回転する。そして、この出力軸14は、動力伝達機構24、ディファレンシャルギヤ25等を介して車輪27に接続されており、駆動力は、動力伝達機構24、ディファレンシャルギヤ25等を介して車輪27に伝達(出力)される。
動力伝達機構24は、トロイダル式無段変速機1とディファレンシャルギヤ25との間で、駆動力の伝達を行うものである。動力伝達機構24は、出力ディスク3とディファレンシャルギヤ25との間に配置される。ディファレンシャルギヤ25は、動力伝達機構24と車輪27との間で、駆動力の伝達を行うものである。ディファレンシャルギヤ25は、動力伝達機構24と車輪27との間に配置されている。ディファレンシャルギヤ25には、ドライブシャフト26が連結されている。ドライブシャフト26には、車輪27が取り付けられている。
パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3との間にこの入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられ、入力ディスク2からの駆動力を出力ディスク3に伝達するものである。すなわち、パワーローラ4は、外周面がトロイダル面2a、3aに対応した曲面状の接触面4aとして形成される。そして、パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟持され、接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触可能であり、各パワーローラ4は、それぞれ後述するトラニオン6によってこの接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触しながら、回転軸線X2を回転中心として回転自在に支持されている。パワーローラ4は、トロイダル式無段変速機1に供給されるトラクションオイルにより入力ディスク2と出力ディスク3のトロイダル面2a、3aとパワーローラ4の接触面4aとの間に形成される油膜のせん断力を用いて駆動力(トルク)を伝達する。
パワーローラ4は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3によって形成される1つのキャビティに対してそれぞれ2つずつ、合計4つ設けられる。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、フロント側半円キャビティCFに対して2つのパワーローラ4が一対で設けられ、リア側半円キャビティCRに対して2つのパワーローラ4が一対で設けられる。
さらに具体的には、パワーローラ4は、パワーローラ本体41と、外輪42とにより構成される。パワーローラ本体41は、外周面に入力ディスク2、出力ディスク3のトロイダル面2a、3aと接触する上述の接触面4aが形成されている。パワーローラ本体41は、外輪42に形成された回転軸42aに対して、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。また、パワーローラ本体41は、外輪42のパワーローラ本体41と対向する面に対して、スラストベアリングSBを介して回転自在に支持されている。したがって、パワーローラ本体41は、回転軸42aの回転軸線X2を回転中心として回転可能である。
外輪42は、上述の回転軸42aと共に偏心軸42bが形成されている。偏心軸42bは、回転軸線X2’が回転軸42aの回転軸線X2に対してずれた位置となるように形成されている。偏心軸42bは、後述するトラニオン6のローラ支持部6aに凹部として形成される嵌合部6dに対して、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。したがって、外輪42は、偏心軸42bの回転軸線X2’を中心として回転可能である。つまり、パワーローラ4は、トラニオン6に対して、回転軸線X2及び回転軸線X2’を中心として回転可能となり、すなわち、回転軸線X2’を中心として公転可能でかつ回転軸線X2を中心として自転可能となる。これにより、パワーローラ4は、回転軸線X1に沿った方向に移動可能な構成となり、例えば、部品変形や部品精度のバラツキを許容することが可能となる。
ここで、入力軸10は油圧押圧(エンドロード)機構15に接続される。油圧押圧機構15は、入力ディスク2及び出力ディスク3とパワーローラ4とを接触させ、この入力ディスク2と出力ディスク3との間にパワーローラ4を挟み込むための挟圧力を作用させるものである。この油圧押圧機構15は、挟圧力発生油圧室15aと、挟圧押圧力ピストン15bとを有する。
挟圧力発生油圧室15aは、2つの入力ディスク2に対して回転軸線X1に沿った方向の一方側に設けられる。ここでは、挟圧力発生油圧室15aは、回転軸線X1に沿った方向に対してフロント側入力ディスク2F側に設けられ、入力軸10とフロント側入力ディスク2Fとの間に配置される。挟圧力発生油圧室15aは、運転状態に応じて油圧制御装置9から内部に作動油が供給される。
挟圧押圧力ピストン15bは、円板状に形成され、その中心が回転軸線X1とほぼ一致するようにバリエータ軸11の一端部に設けられる。挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11のリア側入力ディスク2Rが設けられている端部とは反対側の端部、すなわち、フロント側(エンジン21側)に設けられている。挟圧押圧力ピストン15bは、回転軸線X1に沿った方向に対して、入力軸10とフロント側入力ディスク2Fとの間にフロント側入力ディスク2Fと間隔をあけて配置される。上述の挟圧力発生油圧室15aは、この挟圧押圧力ピストン15bとフロント側入力ディスク2Fとの間に設けられている。
また、挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11に対してこのバリエータ軸11と共に回転軸線X1を中心として回転可能であり、回転軸線X1に沿った方向に移動可能に設けられる。つまり、挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11の回転に伴って回転可能であると共に、バリエータ軸11の回転軸線X1に沿った方向の移動に伴って移動可能にバリエータ軸11に支持されている。さらに言い換えれば、挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11に対して、回転軸線X1周りに相対的に回転変位しないと共に、回転軸線X1に沿った方向にも相対的に変位しない。したがって、リア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bは、一体となって回転軸線X1を中心として回転可能であり回転軸線X1に沿った方向に移動可能である。また、フロント側入力ディスク2Fは、リア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bと共に一体となって回転軸線X1を中心として回転可能である一方で、ボールスプライン11aによって、このリア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bに対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能である。
さらに、挟圧押圧力ピストン15bは、入力軸10にも連結されており、この入力軸10と共に回転軸線X1を中心として回転可能であり、また、回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能に設けられる。つまり、リア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bは、入力軸10と一体となって回転軸線X1を中心として回転可能である一方で、この入力軸10に対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能である。入力軸10からの駆動力は、バリエータ軸11に伝達され、バリエータ軸11からフロント側入力ディスク2F、リア側入力ディスク2Rに伝達される。
また、フロント側入力ディスク2Fは、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28を有する一方、挟圧押圧力ピストン15bは、リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29を有する。フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28は、フロント側入力ディスク2Fにて、パワーローラ4との接触面であるトロイダル面2aの背面に設けられる。リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29は、挟圧押圧力ピストン15bにて、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28と回転軸線X1に沿った方向に対向する面に設けられる。リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29は、上述の挟圧力発生油圧室15aを挟んでフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28と対向するように設けられる。挟圧力発生油圧室15aは、挟圧押圧力ピストン15bとフロント側入力ディスク2Fとの間でフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28とリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29とによって回転軸線X1に沿った方向に対して区画されている。つまり、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28とリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29とは、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28がリア側で挟圧力発生油圧室15aに対向し、リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29がフロント側で挟圧力発生油圧室15aに対向する。
したがって、油圧押圧機構15は、挟圧力発生油圧室15a内に供給される作動油の油圧によりフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28及びリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29に挟圧押圧力を作用させることで、フロント側入力ディスク2Fを油圧押圧機構15側からリア側に離間する方向へ移動させ、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共にリア側から油圧押圧機構15側に接近する方向へ移動させる。このとき、フロント側入力ディスク2Fは、バリエータ軸11に対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動する。そして、油圧押圧機構15は、フロント側入力ディスク2Fを油圧押圧機構15側からリア側に移動させ、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共にフロント側に接近する方向へ移動させることで、フロント側入力ディスク2Fをフロント側出力ディスク3F側に接近させると共にリア側入力ディスク2Rをリア側出力ディスク3R側に接近させ、フロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとの間及びリア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとの間に挟圧力を発生させる。これにより、油圧押圧機構15は、フロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとの間及びリア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとの間に挟圧力を発生させることから、各パワーローラ4をそれぞれ所定の挟圧力でフロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとの間、リア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとの間に挟み込むことができる。この結果、入力ディスク2、出力ディスク3とパワーローラ4との間のスリップを防ぎ、トラクション状態を維持することができる。
ここで油圧押圧機構15による挟圧押圧力は、後述する油圧制御装置9により、挟圧力発生油圧室15aに供給される作動油の量が制御されることで、トロイダル式無段変速機1への入力トルクに基づいた所定の大きさに制御される。油圧制御装置9は、後述するECU60と接続されている。したがって、油圧押圧機構15による挟圧押圧力の大きさの制御は、ECU60により行われる。
変速比変更部5は、上述したように、トラニオン6と、移動部7を有し、移動部7によって、入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して、トラニオン6と共にパワーローラ4を移動し、パワーローラ4をこの入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更するものである。ここで、変速比とは、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比であり、典型的には、[変速比=出力側接触半径(パワーローラ4と出力ディスク3とが接触する接触半径(接触点と回転軸線X1との距離))/入力側接触半径(入力ディスク2とパワーローラ4とが接触する接触半径)]で表すことができる。
具体的には、各トラニオン6は、パワーローラ4をそれぞれ回転自在に支持すると共に、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して移動させ入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在に支持するものである。トラニオン6は、ローラ支持部6aと揺動軸6bとを有する。ローラ支持部6aは、パワーローラ4が配置される空間部6cが形成され、この空間部6cに凹部状の嵌合部6dが形成されている。そして、トラニオン6は、この空間部6cにて、上述のようにパワーローラ4の偏心軸42bが嵌合部6dに挿入されることで、パワーローラ4を回転自在に支持している。また、ローラ支持部6aは、揺動軸6bと一体で移動可能に設けられる。揺動軸6bは、柱状に形成され回転軸線X3を回転中心として回転可能に設けられる。したがって、トラニオン6は、ローラ支持部6aが揺動軸6bと共に回転軸線X3を回転中心として回転自在に、ロアリンク16やアッパリンク17等を介してケーシング(不図示)に支持されている。また、トラニオン6は、回転軸線X3に沿った方向に移動自在に、ロアリンク16やアッパリンク17等を介してケーシング(不図示)に支持され、後述する移動部7によって、回転軸線X3に沿った方向に移動可能に構成される。
トラニオン6は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3によって形成される1つのキャビティに対してそれぞれ2つずつ、合計4つ設けられ、4つのパワーローラ4をそれぞれ1つずつ支持する。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、フロント側半円キャビティCFに対して2つのパワーローラ4を各々に支持する2つのトラニオン6が一対で設けられ、リア側半円キャビティCRに対して2つのパワーローラ4を各々に支持する2つのトラニオン6が一対で設けられる。
ここで、トラニオン6は、パワーローラ4の回転軸線X2が揺動軸6bの回転軸線X3と垂直な平面と平行になるようにパワーローラ4を支持している。また、トラニオン6は、揺動軸6bの回転軸線X3が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1と垂直な平面と平行になるように配置される。すなわち、トラニオン6は、回転軸線X1と垂直な平面内で回転軸線X3に沿って移動することで、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して回転軸線X3に沿って移動させることができる。また、トラニオン6は、回転軸線X3を回転中心として回転揺動することで、パワーローラ4を回転軸線X3と垂直な平面内でこの回転軸線X3を中心として入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在とすることができる。なお、言い換えれば、トラニオン6は、パワーローラ4に後述する傾転力が作用することでこのパワーローラ4を傾転可能に支持していることになる。
移動部7は、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った方向に移動させるものであり、上述したように、油圧ピストン部8と、油圧制御装置9とを有する。
油圧ピストン部8は、変速制御ピストン81と、変速制御油圧室82とを含んで構成され、変速制御油圧室82に導入される作動油の油圧を変速制御ピストン81のフランジ部84により受圧することで、トラニオン6を回転軸線X3に沿った2方向(A1方向及びA2方向)に移動させるものである。すなわち、油圧ピストン部8は、変速制御油圧室82に供給される作動油の油圧によりトラニオン6に設けられたフランジ部84に変速制御押圧力を作用させる。
具体的には、変速制御ピストン81は、ピストンベース83とフランジ部84とにより構成されている。ピストンベース83は、円筒形状に形成され揺動軸6bの一端部に挿入され、回転軸線X3方向及び回転軸線X3周り方向に対して固定されている。
フランジ部84は、ピストンベース83からピストンベース83の径方向、言い換えれば、揺動軸6bの径方向に突出するように固定的に設けられており、ピストンベース83及びトラニオン6の揺動軸6bと共に回転軸線X3に沿った方向に移動可能である。フランジ部84は、揺動軸6bの回転軸線X3周りに円環板状に形成されている。
変速制御油圧室82は、油圧室構成部材85により構成される。この油圧室構成部材85は、第1構成部材としてのシリンダボデー86及び第2構成部材としてのロアカバー87により構成される。すなわち、油圧室構成部材85は、変速制御油圧室82の壁面をなすと共に、トラニオン6の移動方向(ストローク方向)である回転軸線X3に沿った方向に対してシリンダボデー86とロアカバー87とに分割されている。シリンダボデー86は、変速制御油圧室82の空間部となる凹部が形成されている。ロアカバー87は、シリンダボデー86の凹部の開口を塞ぐようにこのシリンダボデー86に固定され、これにより、変速制御油圧室82は、シリンダボデー86とロアカバー87とにより回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に区画される。このシリンダボデー86及びロアカバー87は、シリンダボデー86のロアカバー87側とは反対側においてケーシング(不図示)に固定されている。
そして、フランジ部84は、作動油が導入される変速制御油圧室82内に収容されると共に、この変速制御油圧室82内を回転軸線X3に沿った方向に2つの油圧室、すなわち、第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とに仕切り区画する。第1油圧室OP1は、内部に供給される作動油の油圧により、フランジ部84と共にトラニオン6を回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動させる一方、第2油圧室OP2は、内部に供給される作動油の油圧により、フランジ部84と共にトラニオン6を第1方向の逆方向である第2方向A2に移動させる。フランジ部84の径方向外側の先端部には、環状のシール部材Sが設けられており、したがって、このフランジ部84によって区画される変速制御油圧室82の第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とは、それぞれこのシール部材Sにより互いに作動油が漏れないようにシールされている。
なお、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにパワーローラ4、トラニオン6が2つずつ設けられることから、この第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにそれぞれ2つずつ設けられることになる。このとき、この一対のトラニオン6では、第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2の位置関係がトラニオン6ごとに入れ替わっている。つまり、一方のトラニオン6の第1油圧室OP1とした油圧室が他方のトラニオン6の第2油圧室OP2となり、一方のトラニオン6の第2油圧室OP2とした油圧室が他方のトラニオン6の第1油圧室OP1となる。したがって、図2に示すトロイダル式無段変速機1では、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる2つのパワーローラ4は、第1油圧室OP1又は第2油圧室OP2内の油圧により、回転軸線X3に沿って互いに逆方向に移動することになる。
油圧制御装置9は、トランスミッションの各部、例えば、油圧押圧機構15、トルクコンバータ22、前後進切換機構23等に作動油を供給するものであり、さらに、変速制御油圧室82内の作動油の油圧を制御するものである。油圧制御装置9は、オイルタンク91と、加圧手段としてのオイルポンプ92と、流量制御弁としての第1流量制御弁93と、第2流量制御弁94と、作動油通路としての第1通路95と、第2通路96と、供給通路97と、排出通路98と、作動油供給通路99とを含んで構成される。
オイルタンク91は、トランスミッションの各部に供給する作動油を貯留している。オイルポンプ92は、例えば、エンジンの出力軸であるクランクシャフト21aの回転に連動して作動し、オイルタンク91に貯留されている作動油を吸引、加圧し、吐出するものである。この加圧された作動油は、プレッシャーレギュレータバルブ(不図示)を介して、第1流量制御弁93及び第2流量制御弁94や他の流量制御弁などに供給される。なお、このプレッシャーレギュレータバルブは、プレッシャーレギュレータバルブよりも下流側における油圧が所定油圧以上、すなわち、油圧制御装置9の元圧として用いられるライン圧以上になった際に、下流側にある作動油をオイルタンク91に戻して所定のライン圧に調圧するものである。
第1流量制御弁93は、第1油圧室OP1に作動油を供給し、第2油圧室OP2から作動油を排出するものである一方、第2流量制御弁94は、第2油圧室OP2に作動油を供給し、第1油圧室OP1から作動油を排出するものである。第1流量制御弁93は、油路構成本体部93aと、スプール弁子93bと、作動油供給ポート93cと、作動油排出ポート93dと、第1油圧室連通ポート93eと、第2油圧室連通ポート93fと、第1弾性部材93gと、第1ソレノイド93hとにより構成される。一方、第2流量制御弁94は、油路構成本体部94aと、スプール弁子94bと、作動油供給ポート94cと、作動油排出ポート94dと、第2油圧室連通ポート94eと、第1油圧室連通ポート94fと、第2弾性部材94gと、第2ソレノイド94hとにより構成される。この第1流量制御弁93と、第2流量制御弁94は、ECU60から入力される制御指令値入力に基づいた駆動電流により駆動する駆動手段としての第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hがスプール弁子93b、94bの位置を変位させることで、作動油供給ポート93c、94c、作動油排出ポート93d、94dと、第1油圧室連通ポート93e、94f、第2油圧室連通ポート93f、94eから流出入する作動油の流量を制御するものである。
具体的には、油路構成本体部93a、94aは、油路を構成するものであり、それぞれ、構成された油路と連通する作動油供給ポート93c、94c、作動油排出ポート93d、94dと、第1油圧室連通ポート93e、94fと、第2油圧室連通ポート93f、94eが形成される。油路構成本体部93a、94aに構成される油路は、それぞれスプール弁子93b、94bが挿入されている。スプール弁子93b、94bは、各ポートの連通状態を切り替えるものである。
作動油供給ポート93c、94cは、供給通路97を介してオイルポンプ92と接続されており、この作動油供給ポート93c、94cにはオイルポンプ92によりライン圧に加圧された作動油が供給される。作動油排出ポート93d、94dは、排出通路98を介してオイルタンク91と接続されている。第1流量制御弁93の第1油圧室連通ポート93eは、第1通路95を介して第1油圧室OP1と接続されると共に、第2流量制御弁94の第1油圧室連通ポート94fと接続される。また、第1流量制御弁93の第2油圧室連通ポート93fは、第2通路96を介して第2油圧室OP2と接続されると共に、第2流量制御弁94の第2油圧室連通ポート94eと接続される。
そして、第1弾性部材93g、第2弾性部材94gは、それぞれ、スプール弁子93b、94bの一端側に設けられる一方、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hは、それぞれ、スプール弁子93b、94bの他端側に設けられる。第1弾性部材93g、第2弾性部材94gは、スプール弁子93b、94bを第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94h側(OFF側)に移動させる付勢力を作用させる一方、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hは、供給される駆動電流に応じて発生する電磁力により、当該付勢力に抵抗してスプール弁子93b、94bを第1弾性部材93g、第2弾性部材94g側(ON側)に移動させる押圧力を作用させる。
また、この第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hは、ECU60と電気的に接続されており、このECU60により駆動制御されている。したがって、スプール弁子93b、94bには、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給される駆動電流に応じた押圧力が作用する。
例えば、ECU60は、第1流量制御弁93がOFF状態(図2に示すOFFの部分)では、第1ソレノイド93hに供給する駆動電流を0Aとする。したがって、スプール弁子93bには、第1ソレノイド93hによる押圧力が作用しないため第1弾性部材93gによる付勢力のみが作用し、スプール弁子93bは、第1ソレノイド93h側のOFF位置に位置する。このとき、作動油供給ポート93cと第1油圧室連通ポート93eとの連通が遮断され、作動油排出ポート93dと第2油圧室連通ポート93fとの連通が遮断される。つまり、第1流量制御弁93がOFF状態では、オイルポンプ92により加圧された作動油は第1油圧室OP1に供給されず、第2油圧室OP2内の作動油は、排出されない。
一方、ECU60は、第1流量制御弁93がON状態(図2に示すONの部分)では、第1ソレノイド93hに駆動電流を供給する。このとき、ECU60は、トロイダル式無段変速機1の変速比や変速速度などに基づいて駆動電流を設定する。したがって、スプール弁子93bには、第1ソレノイド93hによる押圧力と第1弾性部材93gによる付勢力とが作用する。第1ソレノイド93hによる押圧力が第1弾性部材93gによる付勢力よりも大きくなると、スプール弁子93bは、第1弾性部材93g側に移動し、OFF位置以外のON位置(最大ON位置は図2のONの部分)に位置する。このとき、作動油供給ポート93cと第1油圧室連通ポート93eとが連通され、作動油排出ポート93dと第2油圧室連通ポート93fとが連通される。つまり、第1流量制御弁93がON状態では、オイルポンプ92により加圧された作動油は第1油圧室OP1に供給され、第2油圧室OP2内の作動油は排出される。これにより、第1油圧室OP1の油圧がフランジ部84に作用し[第1油圧室OP1の油圧>第2油圧室OP2の油圧]となることで、油圧ピストン部8のフランジ部84が回転軸線X3に沿った第1方向A1に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動する。このとき、スプール弁子93bのON側への移動量に応じて、パワーローラ4の第1方向A1への移動が調整される。
同様に、第2流量制御弁94のOFF状態(図2に示すOFFの部分)では、ECU60は、第2ソレノイド94hに供給する駆動電流を0Aとする。このとき、作動油供給ポート94cと第2油圧室連通ポート94eとの連通が遮断され、作動油排出ポート94dと第1油圧室連通ポート94fとの連通が遮断され、オイルポンプ92により加圧された作動油は第2油圧室OP2に供給されず、第1油圧室OP1内の作動油は、排出されない。第2流量制御弁94のON状態(図2に示すONの部分)では、ECU60は、第2ソレノイド94hに駆動電流を供給する。このとき、作動油供給ポート94cと第2油圧室連通ポート94eとが連通され、作動油排出ポート94dと第1油圧室連通ポート94fとが連通され、オイルポンプ92により加圧された作動油は第2油圧室OP2に供給され、第1油圧室OP1内の作動油は排出される。これにより、第2油圧室OP2の油圧がフランジ部84に作用し[第1油圧室OP1の油圧<第2油圧室OP2の油圧]となることで、油圧ピストン部8のフランジ部84が回転軸線X3に沿った第2方向A2に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動する。
したがって、この移動部7は、ECU60により油圧制御装置9が駆動され油圧ピストン部8の各変速制御油圧室82内の油圧が制御されることで、変速制御ピストン81のフランジ部84に所定の変速制御押圧力を作用させ、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った2方向、すなわち、第1方向A1と第2方向A2とに移動させることができる。そして、変速比変更部5は、この移動部7によって、トラニオン6と共にパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置(図4参照)から変速比に応じた変速位置(図5参照)に移動させ、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更することができる。
作動油供給通路99は、供給通路97におけるオイルポンプ92の下流側、第1流量制御弁93、第2流量制御弁94の上流側と油圧押圧機構15、トルクコンバータ22、前後進切換機構23等とを接続しオイルポンプ92によりライン圧に加圧された作動油を油圧押圧機構15、トルクコンバータ22、前後進切換機構23等に供給する。
ここで、図4に示すように、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置は、変速比が固定される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用不能な位置である。すなわち、パワーローラ4が中立位置にあり、変速比が固定されている状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の中立位置(変速比固定時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る(直交する)位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4の回転方向(転がる方向)と入力ディスク2の回転方向とが一致しており、この結果、パワーローラ4に傾転力が作用せず、したがって、パワーローラ4は、この中立位置にとどまりながら入力ディスク2とともに回転をつづけ、この間の変速比は固定されている。
このとき、入力ディスク2からパワーローラ4に作用する力は駆動力(トルク)だけであるので、移動部7の油圧ピストン部8と油圧制御装置9とは、油圧によりこの駆動力に抗するだけの力をトラニオン6に作用させている。すなわち、パワーローラ4及びこれを支持するトラニオン6が中立位置にある場合、上述したように、入力トルクに応じて入力ディスク2、出力ディスク3とパワーローラ4との接触点に作用する接線力F1(図4参照)に抗する大きさの変速制御押圧力F2(図4参照)をフランジ部84に作用させ、パワーローラ4に作用する接線力F1と変速制御押圧力F2とをつりあわせることで、パワーローラ4及びこれを支持するトラニオン6の位置を中立位置に固定し、変速比を固定している。
一方、図5に示すように、パワーローラ4の変速位置は、変速比が変更される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用する位置である。すなわち、パワーローラ4が変速位置にあり、変速比が変更される状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内から回転軸線X3に沿った第1方向A1あるいは第2方向A2に移動した位置に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の変速位置(変速時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る位置、すなわち、中立位置からオフセットされた位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4の回転方向と入力ディスク2の回転方向とがずれ、これにより、パワーローラ4に傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4に作用する傾転力によりパワーローラ4と入力ディスク2及び出力ディスク3との間にサイドスリップが発生し、パワーローラ4は、入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転し、パワーローラ4と入力ディスク2との入力側接触半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との出力側接触半径とが変更され、したがって、変速比が変更される。
例えば、本図5に示すように、入力ディスク2が図5中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、パワーローラ4を回転軸線X3に沿った第2方向A2(パワーローラ4と入力ディスク2と接触点における入力ディスク2の移動方向とは反対方向、すなわち、入力ディスク2の回転方向に逆らう方向(出力ディスク3の回転方向に沿う方向))にオフセットする。すると、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4に入力ディスク2の円周方向の力が作用し、パワーローラ4を入力ディスク2の周辺側に移動させる方向(パワーローラ4を入力ディスク2の回転軸線X1から離間させる方向)の傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4は、入力ディスク2との接触点が入力ディスク2の径方向外方側に移動すると共に出力ディスク3との接触点が出力ディスク3の径方向内方側に移動するように傾転し、変速比が減少側に変更され、アップシフトする。そして、パワーローラ4が再び中立位置に戻ることで変更された変速比が固定される。
逆に、ダウンシフトする場合は、パワーローラ4を回転軸線X3に沿った第1方向A1(パワーローラ4と入力ディスク2との接触点における入力ディスク2の移動方向、すなわち、入力ディスク2の回転方向に沿う方向(出力ディスク3の回転方向に逆らう方向))にオフセットする。すると、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4に入力ディスク2の円周方向の力が作用し、パワーローラ4を入力ディスク2の中心側に移動させる方向(パワーローラ4を入力ディスク2の回転軸線X1に近接させる方向)の傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4は、入力ディスク2との接触点が入力ディスク2の径方向内方側に移動すると共に出力ディスク3との接触点が出力ディスク3の径方向外方側に移動するように傾転し、変速比が増加側に変更され、ダウンシフトする。そして、パワーローラ4が再び中立位置に戻ることで変更された変速比が固定される。
ここで、このパワーローラ4の位置は、ストローク量と入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角により決定される。パワーローラ4のストローク量は、パワーローラ4の回転軸線X2が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1を通る中立位置を基準位置として、この中立位置から第1方向A1あるいは第2方向A2への移動量としてのストローク量、さらに言えば、中立位置からのストローク量(オフセット量)に応じた量である。パワーローラ4の傾転角は、パワーローラ4の回転中心である回転軸線X2が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転中心である回転軸線X1と直交する位置を基準位置として、この基準位置から入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾斜角度(鋭角側の傾斜角度)であり、言い換えれば、回転軸線X3周りの回転角度である。そして、このトロイダル式無段変速機1の変速比は、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角によって定まり、この傾転角は、パワーローラ4の中立位置からのストローク量(オフセット量)の積分値により定まる。
ここで、トロイダル式無段変速機1は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる2つのパワーローラ4及びトラニオン6の回転軸線X3に沿った逆方向の移動を同期させるための機構として、ロアリンク16やアッパリンク17などにより構成されるリンク機構を備えている。ロアリンク16は、揺動軸6bにおいて変速制御ピストン81が設けられている一端部側(シリンダボデー86とローラ支持部6aとの間)にてラジアルベアリングRBを介して一対のトラニオン6を連結する一方、アッパリンク17は、揺動軸6bにおいて他端部側にてラジアルベアリングRBを介して一対のトラニオン6を連結する。そして、ロアリンク16、アッパリンク17は、それぞれケーシング(不図示)に固定されるロアポスト、アッパポストの支持軸16a、17aに支持されている。この支持軸16a、17aは、回転軸線X1と平行な方向に延設されており、ロアリンク16、アッパリンク17は、この支持軸16a、17aを支点としてシーソー状に揺動可能に構成されている。したがって、ロアリンク16、アッパリンク17は、一対のトラニオン6の回転軸線X3に沿った逆方向の移動を同期させることができる。
また、トロイダル式無段変速機1は、複数のトラニオン6の回転軸線X3を回転中心とした回転の同期を促進する機構として、同期機構18を備える。同期機構18は、同期ワイヤ19と、複数の固定プーリ20とを有する。同期機構18は、各トラニオン6の揺動軸6bに固定して設けられる固定プーリ20と、回転軸線X1方向又は回転軸線X2方向に隣り合う固定プーリ20間で一回交差するように反転して張架される同期ワイヤ19との摩擦力により、一方のトラニオン6の回転トルクを他方のトラニオン6に伝達することで、複数のトラニオン6の回転軸線X3を回転中心とした回転の同期を促進することができる。
この結果、各パワーローラ4、各トラニオン6の傾転動作(変速動作)において、複数のパワーローラ4の支持構造であるトラニオン6の部材精度や組付精度のバラツキ等により複数のパワーローラ4に油圧押圧機構15の挟圧力が均等に作用しない場合や油圧制御装置9の油路抵抗の差などに起因して変速応答性に微小なずれが発生しそうになった場合でも、この同期機構18が複数のトラニオン6の回転を相互に連動させ同期させ複数のパワーローラ4の傾転動作が相互に同期させることができるので、トロイダル式無段変速機1の変速制御精度を向上することができる。
ECU60は、トロイダル式無段変速機1の駆動を制御、特に変速比γを制御するものであり、ここでは、エンジン21が搭載された車両の各所に取り付けられたセンサから入力された各種入力信号や各種マップとに基づいてエンジン21の運転制御、例えば図示しない燃料噴射弁の噴射制御、エンジン21の吸入空気量を制御する図示しないスロットルバルブのスロットル開度制御、点火プラグの点火制御なども行うものである。そして、ECU60は、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じてトロイダル式無段変速機1の各部の駆動を制御しトロイダル式無段変速機1の実際の変速比である実変速比を制御する。すなわち、ECU60は、例えば、種々のセンサが検出するエンジン回転数、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、入力ディスク回転数、出力軸回転数、シフトポジションなどの運転状態や傾転角、ストローク量などに基づいて、目標の変速比である目標変速比を決定すると共に変速比変更部5を駆動してパワーローラ4を中立位置から変速位置側に所定のストローク量まで移動させて、所定の傾転角まで傾転させることで変速比の変更を実行する。さらに言えば、ECU60は、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給する駆動電流を制御指令値に基づいてデューティ制御することで、第1流量制御弁93又は第2流量制御弁94のON/OFF状態を制御し、これにより、油圧ピストン部8の第1油圧室OP1、第2油圧室OP2の油圧を制御して、トラニオン6と共にパワーローラ4を中立位置から変速位置側に所定のストローク量まで移動させて所定の傾転角まで傾転させることで、実変速比が目標変速比となるように制御する。
具体的には、図2に示すように、ECU60は、上述したように、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに電気的に接続されており、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hをデューティ制御している。さらに、ECU60は、傾転角検出手段としての傾転角センサ50と、移動量検出手段としてのストロークセンサ51とが電気的に接続されている。また、ECU60は、さらに、エンジン回転数センサ52と、回転検出手段としての入力回転数センサ53及び出力回転数センサ54と、アクセル開度センサ55と、車速検出手段としての車速センサ56と、スロットル開度センサ57と、ポジション検出手段としてのシフトポジションセンサ58と、ライン圧センサ59などの種々のセンサが電気的に接続されている。
傾転角センサ50は、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角を検出し、検出した傾転角をECU60に送信する。また、傾転角センサ50は、複数のパワーローラ4に対応して複数設けられており、各パワーローラ4の傾転角をそれぞれ検出している。ここで、傾転角センサ50が検出する傾転角は、パワーローラ4と共に回転軸線X3周りに回転するトラニオン6の回転軸線X3周りの回転角度として検出している。ストロークセンサ51は、パワーローラ4のストローク量を検出し、検出したストローク量をECU60に送信する。また、ストロークセンサ51は、複数のパワーローラ4に対応して複数設けられており、各パワーローラ4のストローク量をそれぞれ検出している。ここで、ストロークセンサ51が検出するパワーローラ4のストローク量は、このパワーローラ4と共に回転軸線X3に沿った方向に移動するトラニオン6のストローク量として検出している。
また、エンジン回転数センサ52は、駆動源であるエンジン21の回転速度としてエンジン回転数を検出し、検出したエンジン回転数をECU60に送信する。ここで、エンジン回転数センサ52は、例えば、エンジンのクランク角度を検出するクランク角センサを用いることができ、ECU60は、検出されたクランク角度に基づいて各気筒における吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を判別すると共に、エンジンの回転速度としてエンジン回転数(rpm)を算出する。なおここで、エンジン回転数は、言い換えれば、クランクシャフト21aの回転速度に対応し、このクランクシャフト21aの回転速度が高くなれば、クランクシャフト21aの回転数、エンジン回転数も高くなる。以下、特に断りの無い限り、回転速度は、回転数として説明する。
入力回転数センサ53は、例えば、正逆判定機能付きホール素子回転センサを用いることができ、入力ディスク2の回転数である入力回転数及び回転方向を検出し、検出した入力回転数及び回転方向をECU60に送信する。出力回転数センサ54は、例えば、正逆判定機能付きホール素子回転センサを用いることができ、出力ディスク3の回転数である出力回転数及び回転方向を検出し、検出した出力回転数及び回転方向をECU60に送信する。なお、入力回転数センサ53、出力回転数センサ54は、それぞれ、入力ディスク2、出力ディスク3の回転数(回転速度)に比例した回転数(回転速度)で回転する部材の回転数に基づいて検出してもよい。また、入力回転数、出力回転数は、言い換えれば、入力ディスク2、出力ディスク3の回転速度に対応する。
アクセル開度センサ55は、このトロイダル式無段変速機1が搭載される車両のアクセル開度を検出し、検出したアクセル開度をECU60に送信する。車速センサ56は、このトロイダル式無段変速機1が搭載される車両の車速を検出し、検出した車速をECU60に送信する。スロットル開度センサ57は、このトロイダル式無段変速機1が搭載される車両のスロットル開度を検出し、検出したスロットル開度をECU60に送信する。
シフトポジションセンサ58は、このトロイダル式無段変速機1が搭載される車両に設けられた図示しないシフトポジション装置のシフトポジションを検出し、検出したシフトポジションをECU60に送信する。シフトポジションセンサ58が検出するシフトポジションとしては、前後進切換機構23を含むトロイダル式無段変速機1が駆動力を伝達可能な駆動ポジションと、駆動力を伝達不能な非駆動ポジションとがある。駆動ポジションは、例えば、トロイダル式無段変速機1を搭載した車両の走行時の走行ポジションである一方、非駆動ポジションは、例えば、車両の停止時の非走行ポジションである。さらに、シフトポジションセンサ58が検出する駆動ポジションとしては、トロイダル式無段変速機1を搭載した車両を前進させるトルクをトロイダル式無段変速機1から出力することができるドライブポジション(以下特に断りの無い限り「Dポジション」と略記する。)と、車両を後進(後退)させるトルクをトロイダル式無段変速機1から出力することができるリバースポジション(以下特に断りの無い限り「Rポジション」と略記する。)とがあり、非駆動ポジションとしては、車両を走行させるトルクをトロイダル式無段変速機1から出力させないニュートラルポジション(以下特に断りの無い限り「Nポジション」と略記する。)と、不図示のパーキングブレーキギヤが係合されるパーキングポジション(以下特に断りの無い限り「Pポジション」と略記する。)とがある。上述したように、Dポジションでは前後進切換機構23のフォワードクラッチ23bがON、リバースブレーキ23cがOFFにされ、Rポジションではフォワードクラッチ23bがOFF、リバースブレーキ23cがONにされ、Nポジションではフォワードクラッチ23bがOFF、リバースブレーキ23cがOFFにされる。
ライン圧センサ59は、油圧制御装置9の元圧として用いられるライン圧を検出し、検出したライン圧をECU60に送信する。
上記のようなトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2に駆動力(トルク)が入力されると、その入力ディスク2にトラクションオイルを介して接触しているパワーローラ4に駆動力が伝達され、さらにそのパワーローラ4から出力ディスク3にトラクションオイルを介して駆動力が伝達される。この間、トラクションオイルは加圧されることによりガラス転移化し、それに伴う大きいせん断力によって駆動力を伝達するので、各入力ディスク2、出力ディスク3は、入力トルクに応じた挟圧力がパワーローラ4との間に生じるように、油圧押圧機構15により押圧される。また、パワーローラ4の周速と各入力ディスク2、出力ディスク3のトルク伝達点(パワーローラ4がトラクションオイルを介して接触している接触点)の周速とが実質的に同じであるから、入力ディスク2とパワーローラ4との接触点の回転軸線X1からの半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との接触点の回転軸線X1からの半径とに応じて、各入力ディスク2、出力ディスク3の回転数(回転速度)が異なることとなり、その回転数(回転速度)の比率が変速比となる。
そして、ECU60は、変速比を設定した目標変速比に変更する場合、すなわち、変速比の変速の場合は、入力ディスク2(あるいは出力ディスク3)の回転方向に基づいて、第1ソレノイド93hあるいは第2ソレノイド94hに駆動電流を供給し、第1流量制御弁93あるいは第2流量制御弁94をON状態とすることで、パワーローラ4が目標変速比に応じた傾転角になるまで、トラニオン6を中立位置から第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。例えば、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第1流量制御弁93をON状態、第2流量制御弁94をOFF状態として、第1油圧室OP1の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動させると、上述したように変速比が増加しダウンシフトが行われる。一方、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第1流量制御弁93をOFF状態、第2流量制御弁94をON状態として、第2油圧室OP2の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動させると、上述したように変速比が減少しアップシフトが行われる。また、設定された変速比を固定する場合は、第1ソレノイド93hあるいは第2ソレノイド94hに駆動電流を供給し、第1流量制御弁93あるいは第2流量制御弁94をON状態とすることでパワーローラ4が中立位置となるまで、トラニオン6を第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。
この間、トロイダル式無段変速機1を搭載した車両に設けられた図示しないシフトポジション装置により、運転者がDポジションを選択した場合は、ECU60が油圧制御装置9を制御し、この油圧制御装置9から供給される作動油により前後進切換機構23を制御し、すなわち、フォワードクラッチ23bをON、リバースブレーキ23cをOFFとする。これにより、インプットシャフト22aと入力軸10が直結状態となる。つまり、遊星歯車機構23aのサンギヤ23dとリングギヤ23fを直接連結し、エンジン21のクランクシャフト21aの回転方向と同一方向に入力軸10を回転させ、このエンジン21からの出力トルクを入力ディスク2に伝達する。
一方、車両に設けられた図示しないシフトポジション装置により、運転者がRポジションを選択した場合は、ECU60が油圧制御装置9を制御し、この油圧制御装置9から供給される作動油により前後進切換機構23を制御し、すなわち、フォワードクラッチ23bをOFF、リバースブレーキ23cをONとする。これにより、遊星歯車機構23aのキャリヤ23gがケーシング(不図示)に固定され、各プラネタリピニオン23eが自転のみを行うようにキャリヤ23gに保持される。従って、リングギヤ23fがインプットシャフト22aと同一方向に回転し、このリングギヤ23fと噛み合っている各プラネタリピニオン23eもインプットシャフト22aと同一方向に回転し、この各プラネタリピニオン23eと噛み合っているサンギヤ23dがインプットシャフト22aと逆方向に回転する。つまり、サンギヤ23dに連結されている入力軸10は、インプットシャフト22aと逆方向に回転し、エンジン21からの出力トルクが入力ディスク2に伝達される。これにより、出力ディスク3、出力軸14、ドライブシャフト26などは、運転者がDポジションを選択した場合とは逆方向に回転し、車両が後進する。
なお、このECU60は、傾転角センサ50によって検出されるパワーローラ4の傾転角とストロークセンサ51によって検出されるストローク量に基づいて、実変速比(実際の変速比)が目標変速比(変速後の目標の変速比)となるようにカスケード式のフィードバック制御を行っている。すなわち、このECU60は、アクセル開度及び車速に基づいて目標変速比に対応した目標の傾転角である目標傾転角を決定し、この目標傾転角と傾転角センサ50によって検出した実際の傾転角である実傾転角との偏差に基づいて、目標変速比、目標傾転角に対応した目標のストローク量である目標ストローク量を決定し、ストロークセンサ51が検出したストローク量がこの目標ストローク量となるように移動部7の第1流量制御弁93、第2流量制御弁94を制御している。
すなわち、ECU60は、アクセル開度センサ55が検出するアクセル開度と車速センサ56が検出する車速などから目標の変速比である目標変速比を決定する。ここで、例えば、アクセル開度などで表される要求駆動量と車速とに基づいて要求駆動力が算出され、その要求駆動力と車速とから目標出力が求められ、その目標出力を最小の燃費で達成するエンジンの回転数が求められ、トロイダル式無段変速機1への入力回転数がそのエンジンの回転数に相当する目標の回転数、すなわち目標入力回転数となるように目標変速比が求められる。そして、パワーローラ4と入力ディスク2及び出力ディスク3との接触点がわかれば、変速比と傾転角との関係は幾何学形状だけで定まるため、目標変速比から目標傾転角を求めることができる。
このようなトロイダル式無段変速機1の変速制御では、基本的には、傾転角センサ50によって検出される傾転角(言い換えれば、変速比)のみをフィードバック制御すればよいが、ストローク量が傾転角の微分に相当することから、ストロークセンサ51によって検出されるストローク量のフィードバック制御もあわせて行うことで、傾転制御における振動を抑制するダンピング効果を得ることができる。また、このECU60は、変速比の応答性を向上するために、このフィードバック制御と共にフィードフォワード制御をあわせて行ってもよい。
ところで、本実施形態のトロイダル式無段変速機1は、制御手段としてのECU60が少なくとも入力ディスク2又は出力ディスク3の回転に基づいてパワーローラ4の目標の移動量である目標ストローク量を設定し変速比変更部5を制御すると共に、車両の速度が予め設定される所定速度以下で、かつ、前後進切換機構23を非駆動ポジションから駆動ポジションに切り換える際に目標ストローク量に制限を設定することで、例えば、非駆動ポジションから駆動ポジションに切り替えるシフトポジションの切り換え操作を含むいわゆるガレージシフト時でも適正に変速比を制御することができるようにしている。ここで、ガレージシフトとは、例えば、非駆動ポジションであるNポジションを基準として、駆動ポジションであるDポジション、Rポジションに頻繁に切り換えるようなシフト操作である。
具体的には、本実施形態のトロイダル式無段変速機1が備えるECU60は、図2に示すように、トルクコンバータ制御部61と、前後進切換制御部62と、挟圧力制御部63と、エンジン制御部64と、変速比制御部65と、目標ストローク量制限部66とを有する。
トルクコンバータ制御部61は、トルクコンバータ22のロックアップクラッチを制御するものである。トルクコンバータ制御部61は、油圧制御装置9を制御してトルクコンバータ22のロックアップクラッチの係合及び係合の解除、すなわち、ON/OFF制御を行う。
前後進切換制御部62は、前後進切換機構23を制御するものである。前後進切換制御部62は、油圧制御装置9を制御して前後進切換機構23のフォワードクラッチ23b及びリバースブレーキ23cの係合及び係合の解除、すなわち、ON/OFF制御を行うことで、前後進切換機構23の切換制御を行う。
挟圧力制御部63は、入力ディスク2と出力ディスク3との間にパワーローラ4を挟み込む挟圧力としての挟圧押圧力を作用させる油圧押圧機構15を制御するものである。挟圧力制御部63は、油圧制御装置9を制御して挟圧力発生油圧室15aに供給される作動油の量を制御することで、油圧押圧機構15による挟圧押圧力をトロイダル式無段変速機1への入力トルクに基づいた所定の大きさに制御する。
エンジン制御部64は、エンジン21を運転制御するものである。エンジン制御部64は、インジェクタ、点火プラグ、電子スロットル弁を制御してエンジン21から取り出される出力を制御し、エンジン21の出力トルクとしてのエンジントルクとエンジン回転数との制御を行うものである。
変速比制御部65は、実際の変速比である実変速比が目標の変速比である目標変速比になるように変速比変更部5を制御するものである。言い換えれば、変速比制御部65は、変速比変更部5を制御して入力ディスク2への実際の入力回転数が目標変速比に応じた目標入力回転数となるように実変速比を制御するものである。すなわち、変速比制御部65は、上述のように、エンジン回転数、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、入力ディスク回転数、出力軸回転数、シフトポジションなどの運転状態や傾転角、ストローク量などに基づいて、目標の変速比である目標変速比を決定すると共に変速比変更部5を駆動してパワーローラ4を中立位置から変速位置側に所定のストローク量まで移動させて、所定の傾転角まで傾転させることで変速比の変更を実行する。変速比制御部65は、上述のように、実変速比(実際の変速比)が目標変速比(変速後の目標の変速比)となるようにカスケード式のフィードバック制御を行うと共に、変速比の応答性を向上するために、このフィードバック制御と共にフィードフォワード制御をあわせて行ってもよい。
図6は、変速比制御部の構成の一例を示す概略構成図である。このECU60が備える変速比制御部65は、減算器65a、65d、積算器65b、65e及び加算器65cを有する。このトロイダル式無段変速機1では、上述のようにアクセル開度センサ55が検出するアクセル開度、車速センサ56が検出する車速に基づき要求駆動力が算出され、その要求駆動力と車速とから目標出力が求められ、その目標出力を最小の燃費で達成する目標入力回転数が求められ、これにより、目標変速比が求められる。そして、この目標変速比に対応する目標傾転角φTが決定される。この目標傾転角φTは、減算器65aに入力される。減算器65aは、傾転角センサ50により実際に検出された実傾転角φが入力されており、目標変速比と現時点での実変速比との偏差として、目標傾転角φTと現時点での実傾転角φとの偏差Δφを算出し出力する。この減算器65aの出力である目標傾転角φTと実傾転角φとの偏差Δφは、積算器65bに入力される。
積算器65bは、目標傾転角φTと実傾転角φとの偏差Δφに所定の傾転角ゲインKφを乗算し、Kφ×Δφを算出して出力する。このKφ×Δφが目標変速比と現在の実変速比の差に応じて決定される目標ストロークオフセット量ΔXT、すなわち、中立位置からの目標のストローク量となる。この積算器65bの出力である目標ストロークオフセット量ΔXT=Kφ×Δφは、加算器65cに入力される。
加算器65cは、パワーローラ4及びトラニオン6の中立位置における中立位置ストローク量X0が入力されており、目標ストロークオフセット量ΔXTと中立位置ストローク量X0との和を算出して出力する。この目標ストロークオフセット量ΔXTと中立位置ストローク量X0との和が目標変速比と現在の実変速比の差に応じて決定される目標ストローク量XTとなる。すなわち、この減算器65aと、積算器65bと、加算器65cは、実変速比に応じた実傾転角と目標変速比に応じた目標傾転角との偏差に基づいて目標ストローク量を設定する目標ストローク量設定手段をなす。この加算器65cの出力である目標ストローク量XTは、減算器65dに入力される。
この減算器65dは、ストロークセンサ51により実際に検出された実ストローク量Xが入力されており、加算器65cにより算出された目標ストローク量XTと実ストローク量Xとの偏差ΔXを算出し出力する。この減算器65dの出力である目標ストローク量XTと実ストローク量Xとの偏差ΔXは、積算器65eに入力される。この積算器65eは、目標ストローク量XTと実ストローク量Xとの偏差ΔXに所定のストロークゲインKxを乗算し、Kx×ΔXを算出して出力する。このKx×ΔXがフィードバック制御系において目標変速比と現在の実変速比の差に応じて決定されるフィードバック制御指令値dutyとなる。すなわち、この減算器65dと積算器65eとは、目標ストローク量XTと実ストローク量Xとの偏差に基づいて、第1流量制御弁93及び第2流量制御弁94を制御するためのフィードバック制御指令値dutyを算出するFB制御指令値算出手段をなす。この積算器65eの出力であるフィードバック制御指令値dutyは、第1流量制御弁93、第2流量制御弁94の第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに入力され、このフィードバック制御指令値dutyに応じた駆動電流が第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給される。
そして、このフィードバック制御指令値dutyに基づいて第1流量制御弁93及び第2流量制御弁94の駆動制御が行われることで、トロイダル式無段変速機1のトラニオン6の駆動制御が行われ変速比の制御が行われる。すなわち、第1ソレノイド93h、第2ソレノイド94hに供給される駆動電流量が制御され、トラニオン6の実ストローク量が目標ストローク量となるように制御され、実傾転角が目標傾転角となるように変更され、実変速比を目標変速比に追従させるフィードバック制御が行われる。
なお、積算器65bの傾転角ゲインKφ及び積算器65eのストロークゲインKxは、トロイダル式無段変速機1の運転条件に応じて変更される。本実施形態では、傾転角ゲインKφ及びストロークゲインKxは、入力回転数Ninと、傾転角φと、挟圧押圧力fとに基づいて設定される。傾転角ゲインKφ及びストロークゲインKxは、入力回転数センサ53により検出される入力ディスク2の入力回転数Ninと、傾転角センサ50により検出されるパワーローラ4の傾転角φと、挟圧力制御部63により設定される油圧押圧機構15の挟圧押圧力fと、図7に例示する傾転角ゲイン、ストロークゲイン設定マップとに基づいて設定される。傾転角ゲイン、ストロークゲイン設定マップは、図7に示すように、入力回転数Ninと、傾転角φと、挟圧押圧力fとの関係から傾転角ゲインKφ及びストロークゲインKxを設定するものである。これにより、トロイダル式無段変速機1は、運転状態によらず、一定の応答性で変速をおこなうことができる。
図2に戻って、目標ストローク量制限部66は、車速センサ56により検出される車両の速度、すなわち車速が予め設定される所定速度に応じた閾値以下で、かつ、前後進切換機構23を非駆動ポジションから駆動ポジションに切り換える際に、変速比制御部65によるフィードバック制御で用いられる目標ストローク量に制限を設定するものである。
ここで、トロイダル式無段変速機1を搭載した車両の停止時、もしくはごく微小な速度での走行時(極低速走行時)において、例えば、非駆動ポジションであるNポジションを基準として、駆動ポジションであるDポジション、Rポジションに頻繁に切り換えるガレージシフトを行った場合、フォワードクラッチ23b又はリバースブレーキ23cの係合によるショックが大きくなるおそれがある。
すなわち、車両の停止時もしくは極低速走行時にて実傾転角(実変速比)が目標傾転角(目標変速比)に収束していなかった場合、例えば、急制動により実傾転角(実変速比)と目標傾転角との偏差が残ったまま車両が停止した場合には、変速比制御部65によるフィードバック制御で用いられる目標ストローク量が所定の大きさに設定されたままになっていることがある。また、車両の停止時もしくは極低速走行時においては、一般的に変速速度が低くなることから、傾転角から目標ストローク量を算出するための傾転角ゲインKφが相対的に大きな値に設定される傾向にあり、このため、この傾転角ゲインKφに基づいて算出される目標ストローク量が相対的に大きな値に設定される傾向にある。
一方、車両の停止中の動かない状態(例えば、ブレーキON状態)でガレージシフトを行うと、車輪27側からドライブシャフト26、ディファレンシャルギヤ25、動力伝達機構24、出力軸14などに反力としてトルクが入力され、これにより、これらを構成する部材(ギヤや線材)が若干捻られ、この結果、入力ディスク2、出力ディスク3が多少回転することがある。このとき、入力回転数センサ53、出力回転数センサ54がこの捻れによる入力ディスク2、出力ディスク3の回転、すなわち、回転数及び回転方向を検出することがある。
そして、例えば、捻れによる回転の影響で逆回転判定状態での停止中に、前進走行、すなわちDポジションにガレージシフトを実行すると、今度は逆方向にねじれることで、検出される回転方向が反転し正回転判定となる。このとき、少なくとも入力ディスク2又は出力ディスク3の回転に基づいて設定される目標ストローク量は、検出される回転方向が反転するがために、中立位置をまたいで逆方向となるような値に設定されることになる。
なお、このような検出される回転方向の反転は、RポジションからNポジションにシフトされさらにDポジションにシフトされるようなガレージシフトやDポジションからNポジションにシフトされさらにRポジションにシフトされるようなガレージシフトの場合に限らず、RポジションからNポジションにシフトされ再びRポジションにシフトされるようなガレージシフトやDポジションからNポジションにシフトされ再びDポジションにシフトされるようなガレージシフトの場合であっても発生することがある。これは、Rポジション又はDポジションにて今まで捻られていた部材がNポジションとなることで一旦解放され、これにより一瞬回転が反転し、この結果、検出される回転方向が反転する。
そして、上記のように車両の停止時もしくは極低速走行時にて目標ストローク量が相対的に大きな値に設定されている上に、検出される回転方向が反転するがために目標ストローク量が中立位置をまたいで逆方向となるような大きな値に設定されると、変速制御ピストン81及びトラニオン6を大きくストロークさせるために、油圧制御装置9から油圧ピストン部8の変速制御油圧室82への作動油の供給量が大量に要求されるおそれがある。この結果、油圧制御装置9のライン圧が一瞬低下するおそれがあり、このライン圧の一瞬の低下がフォワードクラッチ23b又はリバースブレーキ23cの係合中に生じると、このフォワードクラッチ23b又はリバースブレーキ23cへの作動油の供給量が低下し、フォワードクラッチ23b又はリバースブレーキ23cの係合によるショックが発生するおそれがある。特に、車両の停止時もしくは極低速走行時においてはエンジン回転数も低いので、エンジン21のクランクシャフト21aの回転に連動して作動するオイルポンプ92の吐出量も低下することから、このライン圧の低下が起こりやすい傾向にある。
しかしながら、本実施形態のトロイダル式無段変速機1は、車速が予め設定される所定速度に応じた閾値以下で、かつ、前後進切換機構23を非駆動ポジションから駆動ポジションに切り換えるガレージシフトの際に、目標ストローク量制限部66が変速比制御部65によるフィードバック制御で用いられる目標ストローク量に制限を設定し、すなわち、上限値を設定するので、目標ストローク量が中立位置をまたいで逆方向となるような大きな値に設定されることを防止することができる。これにより、変速制御ピストン81及びトラニオン6が大きくストロークするような要求がされることを防止することができ、油圧制御装置9から油圧ピストン部8の変速制御油圧室82への作動油の供給量が大量に要求されることを防止することができる。これにより、油圧制御装置9のライン圧が一瞬低下することを防止することができ、フォワードクラッチ23b又はリバースブレーキ23cへの作動油の供給量が低下してガレージシフト時に係合によるショックが発生することを防止することができる。そしてこの場合でも、目標ストローク量は制限が設定されるだけであって、変速制御そのものが禁止されることはないので変速は実行される。この結果、適正に変速比を制御することができる。
次に、図8のフローチャートを参照して、本実施形態に係るトロイダル式無段変速機1における目標ストローク量制限制御を説明する。なお、この制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
まず、目標ストローク量制限部66は、車速センサ56により検出される車速spdが予め設定される所定速度に応じた閾値Thspd以下であるか否かを判定する(S100)。ここで、車速spdに対して予め設定される所定速度に応じた閾値Thspdは、傾転角ゲインKφの大きさやガレージシフト中に回転方向の反転が検出されうる車速などに応じて適宜設定すればよい。車速spdが閾値Thspdよりも大きいと判定された場合(S100:No)、この目標ストローク量制限制御を終了する。
車速spdが閾値Thspd以下であると判定された場合(S100:Yes)、目標ストローク量制限部66は、シフトポジションセンサ58が検出するシフトポジションに基づいて、ガレージシフトを実行中であるか否かを判定する(S102)。ガレージシフトを実行中でないと判定された場合(S102:No)、この目標ストローク量制限制御を終了する。
ガレージシフトを実行中であると判定された場合(S102:Yes)、目標ストローク量制限部66は、目標ストローク量XTに上限ガードXTGRDを設定し(S104)、この目標ストローク量制限制御を終了する。そして、変速比制御部65は、この上限ガードXTGRDが設定された目標ストローク量XTを用いてフィードバック制御を実行する。なお、上限ガードXTGRDは、ガレージシフト中にショックが発生しないように適宜設定すればよい。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機1によれば、エンジン21からの駆動力を回転の方向を切り換えて伝達可能であると共に、油圧制御装置9により作動油の油圧を制御してフォワードクラッチ23b及びリバースブレーキ23cの作動状態を切り換えることで、この駆動力を伝達可能な駆動ポジションとこの駆動力を伝達不能な非駆動ポジションとに切り換え可能な前後進切換機構23と、駆動力が入力される入力ディスク2と、駆動力が出力される出力ディスク3と、入力ディスク2と出力ディスク3との間に設けられるパワーローラ4と、パワーローラ4を回転自在、かつ、傾転自在に支持すると共に、油圧制御装置9により作動油の油圧を制御して、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置から変速位置に移動させ傾転させることで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比である変速比を変更可能な変速比変更部5と、少なくとも入力ディスク2又は出力ディスク3の回転に基づいてパワーローラ4の目標ストローク量を設定し変速比変更部5を制御すると共に、車両の速度が予め設定される所定速度以下で、かつ、前後進切換機構23を非駆動ポジションから駆動ポジションに切り換える際に目標ストローク量に制限を設定するECU60を備える。
したがって、車速が予め設定される所定速度に応じた閾値以下で、かつ、前後進切換機構23を非駆動ポジションから駆動ポジションに切り換えるガレージシフトの際に、ECU60が変速比制御部65によるフィードバック制御で用いられる目標ストローク量に制限を設定するので、ガレージシフト時にフォワードクラッチ23b又はリバースブレーキ23cの係合によるショックが発生することを防止することができ、この結果、適正に変速比を制御することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機1によれば、ECU60は、車両の速度が予め設定される所定速度以下で、かつ、前後進切換機構23を非駆動ポジションから駆動ポジションに切り換える際に目標ストローク量に上限値を設定する。したがって、ガレージシフト時に目標ストローク量が大きな値に設定されることを防止することができ、油圧制御装置9から油圧ピストン部8の変速制御油圧室82への作動油の供給量が大量に要求されることを防止することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトロイダル式無段変速機1によれば、車両の速度を検出する車速センサ56と、入力ディスク2又は出力ディスク3の回転数及び回転方向を検出する入力回転数センサ53及び出力回転数センサ54と、駆動ポジションと非駆動ポジションとを検出するシフトポジションセンサ58とを備え、ECU60は、車速センサ56、入力回転数センサ53、出力回転数センサ54及びシフトポジションセンサ58の検出結果に基づいて、目標ストローク量を設定する。したがって、ECU60は、車速センサ56、入力回転数センサ53、出力回転数センサ54及びシフトポジションセンサ58の検出結果に基づいて、パワーローラ4の目標ストローク量を設定し変速比変更部5を制御すると共に、車両の速度が予め設定される所定速度以下で、かつ、前後進切換機構23を非駆動ポジションから駆動ポジションに切り換える際に目標ストローク量に制限を設定することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る無段変速機は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、無段変速機はダブルキャビティ型のトロイダル式無段変速機であるものとして説明したが、これに限らず、シングルキャビティ型のトロイダル式無段変速機であってもよい。また、以上の説明では、変速比変更手段を構成する油圧制御装置9は、流量制御弁を2つ備えるものとして説明したが、これに限らず、1つでもよいし3つ以上でもよい。
また、例えば、パワーローラ4と入力ディスク2及び出力ディスク3との接触点がわかれば、実変速比と実傾転角との関係は幾何学形状だけで定まるため、実変速比を実傾転角に置き換えることができ、また、実傾転角を実変速比に置き換えることもできる。すなわち、変速比制御部65は、傾転角センサ50が検出した実際の実傾転角に基づいて実変速比を算出し、算出した実変速比と目標変速比との偏差を算出し、この偏差に基づいて目標ストローク量を設定するようにしてもよい。また、この場合、実変速比は、傾転角センサ50が検出した実際の実傾転角に基づいて算出する以外にも、例えば、入力回転数センサ53が検出した入力回転数と出力回転数センサ54が検出した出力回転数から算出することもできる。
また、目標ストローク量は、目標ストローク量に相当する制御指令値として算出してもよい。例えば、以上の説明では、変速比制御部65は、目標ストローク量と、ストロークセンサ51が検出した実ストローク量との偏差に基づいて変速比変更部5を制御するための制御指令値を算出するものとして説明したが、目標ストローク量に相当する制御指令値(例えば、目標傾転角と実傾転角との偏差に所定のゲインKφ’を乗じた値に基づく傾転角制御指令値)と、実目標ストローク量に相当する制御指令値(例えば、実移動量に所定のゲインKx’を乗じた値に基づくストローク量制御指令値)との偏差から変速比変更部5を制御するための制御指令値を算出してもよい。
また、以上の説明では、パワーローラ4、トラニオン6の実ストローク量は、ストロークセンサ51により検出するものとして説明したが、これに限らず、傾転角センサ50が検出した実傾転角の変化量、入力回転数センサ53が検出した入力回転数の変化量又は実変速比の変化量などに基づいて算出してもよい。