図1は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図、図2は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機の要部の構成図、図3は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する中立位置を説明する模式図、図4は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機が備えるパワーローラの入力ディスクに対する変速位置を説明する模式図、図5は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機の駆動力振分部を示す部分断面図、図6は、本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機と比較例に係るトロイダル式無段変速機とを比較するための模式図、図7は、本発明の変形例に係るトロイダル式無段変速機の駆動力振分部を示す部分断面図である。
なお、図2は、トロイダル式無段変速機を構成する各パワーローラのうち任意のパワーローラと、このパワーローラに接触する入力ディスクを示す図である。また、図3、図4は、入力ディスクを出力ディスク側から見た図であり、入力ディスクとパワーローラをそれぞれ1つだけ模式的に図示している。なお、以下の説明では、このトロイダル式無段変速機が備える振分手段は、後述する回転軸線X1を中心としてほぼ対称になるように構成されることから、図5、図7には、回転軸線X1を中心として一方側のみを図示し、特に断りのない限り、回転軸線X1を中心として一方側のみを説明し、他方側の説明はできるだけ省略する。
ここで、以下で説明する実施例では、本発明の無段変速機に伝達される駆動力を発生する駆動源としてエンジントルクを発生する内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなど)を用いるが、これに限定されるものではなく、モータトルクを発生するモータなどの電動機を駆動源として用いてもよい。また、駆動源として内燃機関及び電動機を併用してもよい。
図1に示すように、本実施例に係る無段変速機としてのトロイダル式無段変速機1は、車両に搭載される駆動源としてのエンジン21からの駆動力、すなわち出力トルクを車両の走行状態に応じた最適の条件で車輪27に伝達するためのものであり、変速比を無段階(連続的)に制御することができる、いわゆるCVT(CVT:Continuously Variable Transmission)である。このトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟み込んだパワーローラ4を介して各入力ディスク2と出力ディスク3の間でトルクを伝達すると共に、パワーローラ4を傾転させて変速比を変化させる、いわゆる、トロイダル式の無段変速機である。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル面2a、3aを有する入力ディスク2と出力ディスク3との間に、外周面をトロイダル面2a、3aに対応する曲面としたパワーローラ4を挟み込み、これら入力ディスク2、出力ディスク3及びパワーローラ4との間に形成されるトラクションオイルの油膜のせん断力を利用してトルクを伝達するものである。
具体的には、このトロイダル式無段変速機1は、図1、図2に示すように、入力ディスク2と、出力ディスク3と、パワーローラ4と、変速比変更手段としての変速比変更部5とを備える。変速比変更部5は、トラニオン6と、移動部7を有する。さらに、移動部7は、油圧ピストン部8と、油圧制御装置9とを有する。また、このトロイダル式無段変速機1は、トロイダル式無段変速機1の各部を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)60を備える。このトロイダル式無段変速機1では、入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられるパワーローラ4が移動部7により入力ディスク2及び出力ディスク3に対して中立位置から変速位置に移動することで、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比である変速比が変更される。
入力ディスク2は、エンジン21側からの駆動力(トルク)が、例えば、発進機構であり流体伝達装置であるトルクコンバータ22や前後進切換機構23などを介して伝達(入力)されるものである。
エンジン21は、このエンジン21が搭載された車両を前進あるいは後進させるためのエンジントルク、すなわち、駆動力を出力するものである。また、エンジン21は、ECU60に電気的に接続されており、このECU60によってその駆動が制御され、出力する駆動力が制御されている。エンジン21からの駆動力は、クランクシャフト21aを介してトルクコンバータ22に伝達される。
トルクコンバータ22は、前後進切換機構23を介してエンジン21からの駆動力をトロイダル式無段変速機1に伝達するものである。トルクコンバータ22は、ポンプ(ポンプインペラ)、タービン(タービンランナ)、ステータ、ロックアップクラッチを備える。ポンプは、フロントカバー等を介してエンジン21のクランクシャフト21aに連結されており、クランクシャフト21a、フロントカバーと共に回転可能に設けられている。タービンは、上記ポンプと対向するように配置されている。このタービンは、前後進切換機構23を介して入力軸10に連結されており、入力軸10と共にクランクシャフト21aと同一の軸線を中心に回転可能に設けられている。ステータは、そのポンプとタービンとの間に配置されている。ロックアップクラッチは、このタービンとフロントカバーとの間に設けられており、タービンに連結されている。
したがって、このトルクコンバータ22は、エンジン21の駆動力(エンジントルク)がクランクシャフト21aからフロントカバーを介してポンプに伝達される。そして、ロックアップクラッチが解放されている場合には、このポンプに伝達された駆動力は、ポンプとタービンとの間に介在する作動流体である作動油を介してタービン、入力軸10に伝達される。このとき、トルクコンバータ22は、ステータにより、ポンプとタービンとの間を循環する作動油の流れを変化させ所定のトルク特性を得ることができる。そして、トルクコンバータ22は、タービンに連結されているロックアップクラッチがフロントカバーに係合されている場合、フロントカバーを介してポンプに伝達されたエンジン21からの駆動力は、作動油を介さずに直接的に入力軸10に伝達される。ここで、ロックアップクラッチの係合及び係合の解除、すなわち、ON、OFFを行うON/OFF制御は、後述する油圧制御装置9から供給される作動油によって行われる。油圧制御装置9は、後述するECU60と接続されている。したがって、ロックアップクラッチのON/OFF制御は、ECU60により行われる。
前後進切換機構23は、トルクコンバータ22を介して伝達されたエンジン21からの駆動力をトロイダル式無段変速機1の入力ディスク2に伝達するものである。前後進切換機構23は、例えば、遊星歯車機構、摩擦クラッチ、摩擦ブレーキなどにより構成され、エンジン21の駆動力を直接、あるいは反転して入力ディスク2に伝達するものである。つまり、前後進切換機構23を介したエンジン21の駆動力は、入力ディスク2を正回転させる方向(車両が前進する際に入力ディスク2が回転する方向)に作用する正回転駆動力として、あるいは、入力ディスク2を逆回転させる方向(車両が後進する際に入力ディスク2が回転する方向)に作用する逆回転駆動力として、入力ディスク2に伝達される。この前後進切換機構23による駆動力の伝達方向の切換制御は、摩擦クラッチ、摩擦ブレーキの係合及び係合の解除、すなわち、ON、OFFを行うON/OFF制御を実行することで行われる。前後進切換機構23による駆動力の伝達方向の切換制御、言い換えれば、摩擦クラッチ、摩擦ブレーキのON/OFF制御は、後述する油圧制御装置9から供給される作動油により行われる。したがって、前後進切換機構23の切換制御は、ECU60により行われている。
ここで、本実施例の前後進切換機構23は、ダブルピニオン式(デュアルプラネタリ式)のプラネタリギア(遊星歯車機構)で構成されている。前後進切換機構23は、リングギアと、キャリアと、サンギアとを回転要素として有しており、サンギアとリングギアとの間に、サンギア周りを公転する一対(2列)のピニオンギアを備える。さらに、前後進切換機構23は、キャリアとサンギアを係合可能なフォワードクラッチ(摩擦クラッチ)と、リングギアをハウジングに係合可能なリバースブレーキ(摩擦ブレーキ)を備えている。前後進切換機構23は、フォワードクラッチを係合し、リバースブレーキを解放することで、エンジン21のクランクシャフト21aからの駆動力が回転方向をそのままに、キャリアからトロイダル式無段変速機1に伝達される。一方、前後進切換機構23は、フォワードクラッチを解放し、リバースブレーキを係合することで、エンジン21のクランクシャフト21aからの駆動力が回転方向を逆向きにかえ、キャリアからトロイダル式無段変速機1に伝達される。
入力ディスク2は、エンジン21の回転に基づいて回転される入力軸10に2つが結合されており、この入力軸10により回転自在に設けられている。さらに言えば、各入力ディスク2は、入力軸10と同一の回転をする回転軸としてのバリエータ軸11と共に回転される。したがって、各入力ディスク2は、入力軸10の回転軸線X1を回転中心として回転可能である。このトロイダル式無段変速機1は、バリエータ軸11に対して、フロント側(エンジン21側)に第1入力ディスクとしてのフロント側入力ディスク2Fが設けられ、回転軸線X1に沿った方向にフロント側入力ディスク2Fに対して所定の間隔をあけてリア側(車輪27側)に第2入力ディスクとしてのリア側入力ディスク2Rが設けられる。フロント側入力ディスク2Fは、回転軸線X1に沿った方向にバリエータ軸11に対して相対移動可能に設けられる一方、リア側入力ディスク2Rは、バリエータ軸11に対して相対移動不能、すなわち、回転軸線X1に沿った方向にバリエータ軸11と共に移動可能に設けられている。なお、以下の説明では、フロント側入力ディスク2Fとリア側入力ディスク2Rとを特に区別する必要がない場合、単に「入力ディスク2」と略記する。また、フロント側入力ディスク2F、リア側入力ディスク2R及びバリエータ軸11の位置関係等については、後述の図5でより詳細に説明する。
各々の入力ディスク2は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各入力ディスク2の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各入力ディスク2のトロイダル面2aをなす。2つの入力ディスク2は、トロイダル面2aが互いに対向するように設けられる。
出力ディスク3は、各入力ディスク2に伝達(入力)された駆動力を車輪27側に伝達(出力)するものであり、各入力ディスク2に対応して1つずつ、合計2つ設けられる。このトロイダル式無段変速機1は、バリエータ軸11に対して、フロント側(エンジン21側)に第1出力ディスクとしてのフロント側出力ディスク3Fが設けられ、リア側(車輪27側)に第2出力ディスクとしてのリア側出力ディスク3Rが設けられる。フロント側出力ディスク3Fとリア側出力ディスク3Rとは、共に回転軸線X1に沿った方向に対してフロント側入力ディスク2Fとリア側入力ディスク2Rとの間に設けられ、さらに言えば、リア側出力ディスク3Rは、フロント側出力ディスク3Fとリア側入力ディスク2Rとの間に設けられている。つまり、このトロイダル式無段変速機1は、回転軸線X1に沿った方向に対して、フロント側からフロント側入力ディスク2F、フロント側出力ディスク3F、リア側出力ディスク3R、リア側入力ディスク2Rの順で設けられている。なお、以下の説明では、フロント側出力ディスク3Fとリア側出力ディスク3Rとを特に区別する必要がない場合、単に「出力ディスク3」と略記する。
各入力ディスク2と各出力ディスク3とは、回転軸線X1に同軸上に入力軸10に対して相対的に回転自在に設けられる。したがって、各出力ディスク3は、回転軸線X1を回転中心として回転可能である。そして、各出力ディスク3は、各入力ディスク2とほぼ同一な形状をなし、すなわち、各々の出力ディスク3は、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状をなす。各出力ディスク3の突出部分の斜面は、回転軸線X1方向に沿った断面がほぼ円弧形状となるように形成され各出力ディスク3のトロイダル面3aをなす。そして、各出力ディスク3は、上述のように回転軸線X1に沿った方向に対して2つの入力ディスク2の間に設けられると共に、各トロイダル面3aが各入力ディスク2のトロイダル面2aにそれぞれ対向するように設けられる。すなわち、回転軸線X1に沿った断面内において、一方のフロント側入力ディスク2Fのトロイダル面2aとフロント側出力ディスク3Fのトロイダル面3aとが対向してフロント側(エンジン21側)半円キャビティCFを形成し、リア側入力ディスク2Rのトロイダル面2aとリア側出力ディスク3Rのトロイダル面3aとが対向して別のリア側(車輪27側)半円キャビティCRを形成している。
また、各出力ディスク3は、ベアリングを介しバリエータ軸11に回転可能に支持されている。この2つの出力ディスク3の間には、出力ギア12が連結されており、この出力ギア12は、2つの出力ディスク3と共に一体で回転可能である。出力ギア12には、カウンターギア13がかみ合わされており、このカウンターギア13に出力軸14が連結されている。したがって、各出力ディスク3の回転に伴い、出力軸14が回転する。そして、この出力軸14は、動力伝達機構24、ディファレンシャルギア25等を介して車輪27に接続されており、駆動力は、動力伝達機構24、ディファレンシャルギア25等を介して車輪27に伝達(出力)される。
動力伝達機構24は、トロイダル式無段変速機1とディファレンシャルギア25との間で、駆動力の伝達を行うものである。動力伝達機構24は、出力ディスク3とディファレンシャルギア25との間に配置される。ディファレンシャルギア25は、動力伝達機構24と車輪27との間で、駆動力の伝達を行うものである。ディファレンシャルギア25は、動力伝達機構24と車輪27との間に配置されている。ディファレンシャルギア25には、ドライブシャフト26が連結されている。ドライブシャフト26には、車輪27が取り付けられている。
パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3との間にこの入力ディスク2と出力ディスク3とに接触して設けられ、入力ディスク2からの駆動力を出力ディスク3に伝達するものである。すなわち、パワーローラ4は、外周面がトロイダル面2a、3aに対応した曲面状の接触面4aとして形成される。そして、パワーローラ4は、入力ディスク2と出力ディスク3との間に挟持され、接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触可能であり、各パワーローラ4は、それぞれ後述するトラニオン6によってこの接触面4aがトロイダル面2a、3aに接触しながら、回転軸線X2を回転中心として回転自在に支持されている。パワーローラ4は、トロイダル式無段変速機1に供給されるトラクションオイルにより入力ディスク2と出力ディスク3のトロイダル面2a、3aとパワーローラ4の接触面4aとの間に形成される油膜のせん断力を用いて駆動力(トルク)を伝達する。
パワーローラ4は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3によって形成される1つのキャビティに対してそれぞれ2つずつ、合計4つ設けられる。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、フロント側半円キャビティCFに対して2つのパワーローラ4が一対で設けられ、リア側半円キャビティCRに対して2つのパワーローラ4が一対で設けられる。
さらに具体的には、パワーローラ4は、パワーローラ本体41と、外輪42とにより構成される。パワーローラ本体41は、外周面に入力ディスク2、出力ディスク3のトロイダル面2a、3aと接触する上述の接触面4aが形成されている。パワーローラ本体41は、外輪42に形成された回転軸42aに対して、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。また、パワーローラ本体41は、外輪42のパワーローラ本体41と対向する面に対して、スラストベアリングSBを介して回転自在に支持されている。したがって、パワーローラ本体41は、回転軸42aの回転軸線X2を回転中心として回転可能である。
外輪42は、上述の回転軸42aと共に偏心軸42bが形成されている。偏心軸42bは、回転軸線X2’が回転軸42aの回転軸線X2に対してずれた位置となるように形成されている。偏心軸42bは、後述するトラニオン6のローラ支持部6aに凹部として形成される嵌合部6dに対して、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。したがって、外輪42は、偏心軸42bの回転軸線X2’を中心として回転可能である。つまり、パワーローラ4は、トラニオン6に対して、回転軸線X2及び回転軸線X2’を中心として回転可能となり、すなわち、回転軸線X2’を中心として公転可能でかつ回転軸線X2を中心として自転可能となる。これにより、パワーローラ4は、回転軸線X1に沿った方向に移動可能な構成となり、例えば、部品変形や部品精度のバラツキを許容することが可能となる。
ここで、入力軸10は油圧押圧(エンドロード)機構15に接続される。油圧押圧機構15は、入力ディスク2及び出力ディスク3とパワーローラ4とを接触させ、この入力ディスク2と出力ディスク3との間にパワーローラ4を挟み込むための挟圧力を作用させるものである。この油圧押圧機構15は、挟圧力発生油圧室15aと、挟圧押圧力ピストン15bとを有する。挟圧力発生油圧室15aは供給通路99(図5参照)が接続される。
挟圧力発生油圧室15aは、2つの入力ディスク2に対して回転軸線X1に沿った方向の一方側に設けられる。ここでは、挟圧力発生油圧室15aは、回転軸線X1に沿った方向に対してフロント側入力ディスク2F側に設けられ、入力軸10とフロント側入力ディスク2Fとの間に配置される。挟圧力発生油圧室15aは、運転状態に応じて油圧制御装置9から内部に作動油が供給される。
挟圧押圧力ピストン15bは、円板状に形成され、その中心が回転軸線X1とほぼ一致するようにバリエータ軸11の一端部に設けられる。挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11のリア側入力ディスク2Rが設けられている端部とは反対側の端部、すなわち、フロント側(エンジン21側)に設けられている。挟圧押圧力ピストン15bは、回転軸線X1に沿った方向に対して、入力軸10とフロント側入力ディスク2Fとの間にフロント側入力ディスク2Fと間隔をあけて配置される。上述の挟圧力発生油圧室15aは、この挟圧押圧力ピストン15bとフロント側入力ディスク2Fとの間に設けられている。
また、挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11に対してこのバリエータ軸11と共に回転軸線X1を中心として回転可能であり、回転軸線X1に沿った方向に移動可能に設けられる。つまり、挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11の回転に伴って回転可能であると共に、バリエータ軸11の回転軸線X1に沿った方向の移動に伴って移動可能にバリエータ軸11に支持されている。さらに言い換えれば、挟圧押圧力ピストン15bは、バリエータ軸11に対して、回転軸線X1周りに相対的に回転変位しないと共に、回転軸線X1に沿った方向にも相対的に変位しない。したがって、リア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bは、一体となって回転軸線X1を中心として回転可能であり回転軸線X1に沿った方向に移動可能である。また、フロント側入力ディスク2Fは、後述する駆動力伝達部材112(図5参照)を介してリア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bと共に一体となって回転軸線X1を中心として回転可能である一方で、後述する第1摺動部130(図5参照)によって、このリア側入力ディスク2R、バリエータ軸11及び挟圧押圧力ピストン15bに対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能である。
また、フロント側入力ディスク2Fは、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28を有する一方、挟圧押圧力ピストン15bは、リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29を有する。フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28は、フロント側入力ディスク2Fにて、パワーローラ4との接触面であるトロイダル面2aの背面に設けられる。リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29は、挟圧押圧力ピストン15bにて、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28と回転軸線X1に沿った方向に対向する面に設けられる。リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29は、上述の挟圧力発生油圧室15aを挟んでフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28と対向するように設けられる。挟圧力発生油圧室15aは、挟圧押圧力ピストン15bとフロント側入力ディスク2Fとの間でフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28とリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29とによって回転軸線X1に沿った方向に対して区画されている。つまり、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28とリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29とは、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28がリア側で挟圧力発生油圧室15aに対向し、リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29がフロント側で挟圧力発生油圧室15aに対向する。
したがって、油圧押圧機構15は、挟圧力発生油圧室15a内に供給される作動油の油圧によりフロント側入力ディスク2Fのフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28及びリア側入力ディスク2Rのリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29に挟圧押圧力を作用させることで、フロント側入力ディスク2Fを油圧押圧機構15側からリア側に離間する方向へ移動させ、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共にリア側から油圧押圧機構15側に接近する方向へ移動させる。このとき、フロント側入力ディスク2Fは、バリエータ軸11に対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動する。そして、油圧押圧機構15は、フロント側入力ディスク2Fを油圧押圧機構15側からリア側に移動させ、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共にフロント側に接近する方向へ移動させることで、フロント側入力ディスク2Fをフロント側出力ディスク3F側に接近させると共にリア側入力ディスク2Rをリア側出力ディスク3R側に接近させ、フロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとの間及びリア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとの間に挟圧力を発生させる。これにより、油圧押圧機構15は、フロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとの間及びリア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとの間に挟圧力を発生させることから、各パワーローラ4をそれぞれ所定の挟圧力でフロント側入力ディスク2Fとフロント側出力ディスク3Fとの間、リア側入力ディスク2Rとリア側出力ディスク3Rとの間に挟み込むことができる。この結果、入力ディスク2、出力ディスク3とパワーローラ4との間のスリップを防ぎ、トラクション状態を維持することができる。
ここで油圧押圧機構15による挟圧押圧力は、後述する油圧制御装置9により、挟圧力発生油圧室15aに供給される作動油の量が制御されることで、トロイダル式無段変速機1への入力トルクに基づいた所定の大きさに制御される。油圧制御装置9は、後述するECU60と接続されている。したがって、油圧押圧機構15による挟圧押圧力の大きさの制御は、ECU60により行われる。
変速比変更部5は、上述したように、トラニオン6と、移動部7を有し、移動部7によって、入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して、トラニオン6と共にパワーローラ4を移動し、パワーローラ4をこの入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更するものである。ここで、変速比とは、入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比であり、典型的には、[変速比=出力側接触半径(パワーローラ4と出力ディスク3とが接触する接触半径(接触点と回転軸線X1との距離))/入力側接触半径(入力ディスク2とパワーローラ4とが接触する接触半径)]で表すことができる。
具体的には、各トラニオン6は、パワーローラ4をそれぞれ回転自在に支持すると共に、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して移動させ入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在に支持するものである。トラニオン6は、ローラ支持部6aと揺動軸6bとを有する。ローラ支持部6aは、パワーローラ4が配置される空間部6cが形成され、この空間部6cに凹部状の嵌合部6dが形成されている。そして、トラニオン6は、この空間部6cにて、上述のようにパワーローラ4の偏心軸42bが嵌合部6dに挿入されることで、パワーローラ4を回転自在に支持している。また、ローラ支持部6aは、揺動軸6bと一体で移動可能に設けられる。揺動軸6bは、柱状に形成され回転軸線X3を回転中心として回転可能に設けられる。したがって、トラニオン6は、ローラ支持部6aが揺動軸6bと共に回転軸線X3を回転中心として回転自在にケーシング(不図示)に支持されている。また、トラニオン6は、回転軸線X3に沿った方向に移動自在にケーシング(不図示)に支持され、後述する移動部7によって、回転軸線X3に沿った方向に移動可能に構成される。
トラニオン6は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3によって形成される1つのキャビティに対してそれぞれ2つずつ、合計4つ設けられ、4つのパワーローラ4をそれぞれ支持する。すなわち、このトロイダル式無段変速機1は、フロント側半円キャビティCFに対して2つのパワーローラ4を各々に支持する2つのトラニオン6が一対で設けられ、リア側半円キャビティCRに対して2つのパワーローラ4を各々に支持する2つのトラニオン6が一対で設けられる。
ここで、トラニオン6は、パワーローラ4の回転軸線X2が揺動軸6bの回転軸線X3と垂直な平面と平行になるようにパワーローラ4を支持している。また、トラニオン6は、揺動軸6bの回転軸線X3が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1と垂直な平面と平行になるように配置される。すなわち、トラニオン6は、回転軸線X1と垂直な平面内で回転軸線X3に沿って移動することで、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1に対して回転軸線X3に沿って移動させることができる。また、トラニオン6は、回転軸線X3を回転中心として回転揺動することで、パワーローラ4を回転軸線X3と垂直な平面内でこの回転軸線X3を中心として入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在とすることできる。なお、言い換えれば、トラニオン6は、パワーローラ4に後述する傾転力が作用することでこのパワーローラ4を傾転可能に支持していることになる。
移動部7は、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った方向に移動させるものであり、上述したように、油圧ピストン部8と、油圧制御装置9とを有する。
油圧ピストン部8は、変速制御ピストン81と、変速制御油圧室82とを含んで構成され、変速制御油圧室82に導入される作動油の油圧を変速制御ピストン81のフランジ部84により受圧することで、トラニオン6を回転軸線X3に沿った2方向(A1方向及びA2方向)に移動させるものである。すなわち、油圧ピストン部8は、変速制御油圧室82に供給される作動油の油圧によりトラニオン6に設けられたフランジ部84に変速制御押圧力を作用させる。
具体的には、変速制御ピストン81は、ピストンベース83とフランジ部84とにより構成されている。ピストンベース83は、円筒形状に形成され揺動軸6bの一端部に挿入され、回転軸線X3方向及び回転軸線X3周り方向に対して固定されている。
フランジ部84は、ピストンベース83からピストンベース83の径方向、言い換えれば、揺動軸6bの径方向に突出するように固定的に設けられており、ピストンベース83及びトラニオン6の揺動軸6bと共に回転軸線X3に沿った方向に移動可能である。フランジ部84は、揺動軸6bの回転軸線X3周りに円環板状に形成されている。
変速制御油圧室82は、油圧室構成部材85により構成される。この油圧室構成部材85は、シリンダボデー86及びロアカバー87により構成される。すなわち、油圧室構成部材85は、変速制御油圧室82の壁面をなすと共に、トラニオン6の移動方向(ストローク方向)である回転軸線X3に沿った方向に対してシリンダボデー86とロアカバー87とに分割されている。シリンダボデー86は、変速制御油圧室82の空間部となる凹部が形成されている。ロアカバー87は、シリンダボデー86の凹部の開口を塞ぐようにこのシリンダボデー86に固定され、これにより、変速制御油圧室82は、シリンダボデー86とロアカバー87とにより回転軸線X3を中心とした円筒状(シリンダ状)に区画される。このシリンダボデー86及びロアカバー87は、シリンダボデー86のロアカバー87側とは反対側においてケーシング(不図示)に固定されている。なお、シリンダボデー86とロアカバー87との間には、変速制御油圧室82内の作動油の外部への漏洩を防止するガスケット88が設けられている。
そして、フランジ部84は、作動油が導入される変速制御油圧室82内に収容されると共に、この変速制御油圧室82内を回転軸線X3に沿った方向に2つの油圧室、すなわち、第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とに仕切り区画する。第1油圧室OP1は、内部に供給される作動油の油圧により、フランジ部84と共にトラニオン6を回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動させる一方、第2油圧室OP2は、内部に供給される作動油の油圧により、フランジ部84と共にトラニオン6を第1方向の逆方向である第2方向A2に移動させる。そして、フランジ部84の径方向外側の先端部には、環状のシール部材Sが設けられており、したがって、このフランジ部84によって区画される変速制御油圧室82の第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とは、それぞれこのシール部材Sにより互いに作動油が漏れないようにシールされている。
なお、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにパワーローラ4、トラニオン6が2つずつ設けられることから、この第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとにそれぞれ2つずつ設けられることになる。このとき、この一対のトラニオン6では、第1油圧室OP1及び第2油圧室OP2の位置関係がトラニオン6ごとに入れ替わっている。つまり、一方のトラニオン6の第1油圧室OP1とした油圧室が他方のトラニオン6の第2油圧室OP2となり、一方のトラニオン6の第2油圧室OP2とした油圧室が他方のトラニオン6の第1油圧室OP1となる。したがって、図2に示すトロイダル式無段変速機1では、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる2つのパワーローラ4は、第1油圧室OP1又は第2油圧室OP2内の油圧により、回転軸線X3に沿って互いに逆方向に移動することになる。
油圧制御装置9は、トランスミッションの各部、例えば、油圧押圧機構15、トルクコンバータ22、前後進切換機構23等に作動油を供給するものであり、さらに、変速制御油圧室82内の作動油の油圧を制御するものである。油圧制御装置9は、オイルタンクに貯留されトランスミッションの各部に供給される作動油をオイルポンプにより吸引、加圧し、吐出する。そして、油圧制御装置9は、オイルポンプにより加圧された作動油がプレッシャーレギュレータバルブ(不図示)を介して、流量制御弁などに供給される。流量制御弁は、スプール弁子、電磁ソレノイドなどを含んで構成され、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2へ作動油の供給、あるいは、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2からの作動油の排出を制御するものである。油圧制御装置9の流量制御弁は、ECU60から入力される制御指令値入力に基づいた駆動電流により駆動する電磁ソレノイドがスプール弁子の位置を変位させることで、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2に供給、排出される作動油の流量を制御するものである。なお、このプレッシャーレギュレータバルブは、プレッシャーレギュレータバルブよりも下流側における油圧が所定油圧以上、すなわち、油圧制御装置9の元圧として用いられるライン圧以上になった際に、下流側にある作動油をオイルタンクに戻して所定のライン圧に調圧するものである。
例えば、ECU60は、油圧制御装置9の流量制御弁を制御し、オイルポンプにより加圧された作動油を第1油圧室OP1に供給し、第2油圧室OP2内の作動油を排出すると、第1油圧室OP1の油圧がフランジ部84に作用し[第1油圧室OP1の油圧>第2油圧室OP2の油圧]となる。これにより、油圧ピストン部8のフランジ部84は、回転軸線X3に沿った第1方向A1に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動する。同様に、ECU60は、油圧制御装置9の流量制御弁を制御し、オイルポンプにより加圧された作動油を第1油圧室OP1から排出し、第2油圧室OP2内に供給すると、第2油圧室OP2の油圧がフランジ部84に作用し[第1油圧室OP1の油圧<第2油圧室OP2の油圧]となる。これにより、油圧ピストン部8のフランジ部84が回転軸線X3に沿った第2方向A2に押圧され、トラニオン6と共にパワーローラ4が回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動する。このとき、流量制御弁のスプール弁子の移動量に応じて、パワーローラ4の第1方向A1、あるいは、第2方向A2のへの移動が調整される。
したがって、この移動部7は、ECU60により油圧制御装置9が駆動され油圧ピストン部8の各変速制御油圧室82内の油圧が制御されることで、変速制御ピストン81のフランジ部84に所定の変速制御押圧力を作用させ、トラニオン6と共にパワーローラ4を回転軸線X3に沿った2方向、すなわち、第1方向A1と第2方向A2とに移動させることができる。そして、変速比変更部5は、この移動部7によって、トラニオン6と共にパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置(図3参照)から変速比に応じた変速位置(図4参照)に移動させ、このパワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させることで変速比を変更することができる。
ここで、図3に示すように、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する中立位置は、変速比が固定される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用不能な位置である。すなわち、パワーローラ4が中立位置にあり、変速比が固定されている状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の中立位置(変速比固定時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る(直交する)位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4の回転方向(転がる方向)と入力ディスク2の回転方向とが一致しており、この結果、パワーローラ4に傾転力が作用せず、したがって、パワーローラ4は、この中立位置にとどまりながら入力ディスク2とともに回転をつづけ、この間の変速比は固定されている。
このとき、入力ディスク2からパワーローラ4に作用する力は駆動力(トルク)だけであるので、移動部7の油圧ピストン部8と油圧制御装置9とは、油圧によりこの駆動力に抗するだけの力をトラニオン6に作用させている。すなわち、パワーローラ4及びこれを支持するトラニオン6が中立位置にある場合、上述したように、入力トルクに応じて入力ディスク2、出力ディスク3とパワーローラ4との接触点に作用する接線力F1(図3参照)に抗する大きさの変速制御押圧力F2(図3参照)をフランジ部84に作用させ、パワーローラ4に作用する接線力F1と変速制御押圧力F2とをつりあわせることで、パワーローラ4及びこれを支持するトラニオン6の位置を中立位置に固定し、変速比を固定している。
一方、図4に示すように、パワーローラ4の変速位置は、変速比が変更される位置であり、パワーローラ4を入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転させる傾転力がこのパワーローラ4に作用する位置である。すなわち、パワーローラ4が変速位置にあり、変速比が変更される状態では、パワーローラ4の回転軸線X2は、回転軸線X1を含む平面で、かつ、回転軸線X3と垂直な平面内から回転軸線X3に沿った第1方向A1あるいは第2方向A2に移動した位置に設定される。言い換えれば、パワーローラ4の変速位置(変速時)では、パワーローラ4の回転軸線X3に沿った方向の位置は、このパワーローラ4の回転軸線X2が回転軸線X1を通る位置、すなわち、中立位置からオフセットされた位置に設定される。このとき、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4の回転方向と入力ディスク2の回転方向とがずれ、これにより、パワーローラ4に傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4に作用する傾転力によりパワーローラ4と入力ディスク2及び出力ディスク3との間にサイドスリップが発生し、パワーローラ4は、入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転し、パワーローラ4と入力ディスク2との入力側接触半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との出力側接触半径とが変更され、したがって、変速比が変更される。
例えば、本図4に示すように、入力ディスク2が図4中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、パワーローラ4を回転軸線X3に沿った第2方向A2(パワーローラ4と入力ディスク2と接触点における入力ディスク2の移動方向とは反対方向、すなわち、入力ディスク2の回転方向に逆らう方向(出力ディスク3の回転方向に沿う方向))にオフセットする。すると、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4に入力ディスク2の円周方向の力が作用し、パワーローラ4を入力ディスク2の周辺側に移動させる方向(パワーローラ4を入力ディスク2の回転軸線X1から離間させる方向)の傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4は、入力ディスク2との接触点が入力ディスク2の径方向外方側に移動すると共に出力ディスク3との接触点が出力ディスク3の径方向内方側に移動するように傾転し、変速比が減少側に変更され、アップシフトする。そして、パワーローラ4が再び中立位置に戻ることで変更された変速比が固定される。
逆に、ダウンシフトする場合は、パワーローラ4を回転軸線X3に沿った第1方向A1(パワーローラ4と入力ディスク2と接触点における入力ディスク2の移動方向、すなわち、入力ディスク2の回転方向に沿う方向(出力ディスク3の回転方向に逆らう方向))にオフセットする。すると、パワーローラ4と入力ディスク2との接触点において、パワーローラ4に入力ディスク2の円周方向の力が作用し、パワーローラ4を入力ディスク2の中心側に移動させる方向(パワーローラ4を入力ディスク2の回転軸線X1に近接させる方向)の傾転力が作用する。この結果、パワーローラ4は、入力ディスク2との接触点が入力ディスク2の径方向内方側に移動すると共に出力ディスク3との接触点が出力ディスク3の径方向外方側に移動するように傾転し、変速比が増加側に変更され、ダウンシフトする。そして、パワーローラ4が再び中立位置に戻ることで変更された変速比が固定される。
ここで、このパワーローラ4の位置は、中立位置からのストローク量と入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角により決定される。パワーローラ4のストローク量は、パワーローラ4の回転軸線X2が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転軸線X1を通る中立位置を基準位置として、この中立位置から第1方向A1あるいは第2方向A2への移動量(中立位置からのオフセット量)である。パワーローラ4の傾転角は、パワーローラ4の回転中心である回転軸線X2が入力ディスク2及び出力ディスク3の回転中心である回転軸線X1と直交する位置を基準位置として、この基準位置から入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾斜角度(鋭角側の傾斜角度)であり、言い換えれば、回転軸線X3周りの回転角度である。そして、このトロイダル式無段変速機1の変速比は、パワーローラ4の入力ディスク2及び出力ディスク3に対する傾転角によって定まり、この傾転角は、パワーローラ4の中立位置からのストローク量の積分値により定まる。
ここで、ECU60は、トロイダル式無段変速機1の運転状態に応じてトロイダル式無段変速機1の各部の駆動を制御しトロイダル式無段変速機1の実際の変速比である実変速比を制御するものである。すなわち、ECU60は、例えば、種々のセンサが検出するエンジン回転数、スロットル開度、アクセル開度、エンジン回転数、入力ディスク回転数、出力軸回転数、シフトポジションなどの運転状態や傾転角、ストローク量などに基づいて、目標の変速比である目標変速比を決定すると共に変速比変更部5を駆動してパワーローラ4を中立位置から変速位置側に所定のストローク量まで移動させて、所定の傾転角まで傾転させることで変速比の変更を実行する。さらに言えば、ECU60は、油圧制御装置9の流量制御弁に供給する駆動電流を制御指令値に基づいてデューティ制御することで、油圧ピストン部8の第1油圧室OP1、第2油圧室OP2の油圧を制御して、トラニオン6と共にパワーローラ4を中立位置から変速位置側に所定のストローク量まで移動させて所定の傾転角まで傾転させることで、実変速比が目標変速比となるように制御する。
上記のようなトロイダル式無段変速機1は、入力ディスク2に駆動力(トルク)が入力されると、その入力ディスク2にトラクションオイルを介して接触しているパワーローラ4に駆動力が伝達され、さらにそのパワーローラ4から出力ディスク3にトラクションオイルを介して駆動力が伝達される。この間、トラクションオイルは加圧されることによりガラス転移化し、それに伴う大きいせん断力によって駆動力を伝達するので、各入力ディスク2、出力ディスク3は、入力トルクに応じた挟圧力がパワーローラ4との間に生じるように、油圧押圧機構15により押圧される。また、パワーローラ4の周速と各入力ディスク2、出力ディスク3のトルク伝達点(パワーローラ4がトラクションオイルを介して接触している接触点)の周速とが実質的に同じであるから、入力ディスク2とパワーローラ4との接触点の回転軸線X1からの半径と、パワーローラ4と出力ディスク3との接触点の回転軸線X1からの半径とに応じて、各入力ディスク2、出力ディスク3の回転数(回転速度)が異なることとなり、その回転数(回転速度)の比率が変速比となる。
そして、ECU60は、変速比を設定した目標変速比に変更する場合、すなわち、変速比の変速の場合は、入力ディスク2の回転方向に基づいて、油圧制御装置9の流量制御弁に駆動電流を供給し、第1油圧室OP1、第2油圧室OP2の油圧を制御することで、パワーローラ4が目標変速比に応じた傾転角になるまで、トラニオン6を中立位置から第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。例えば、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第1油圧室OP1の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第1方向A1に移動させると、上述したように変速比が増加しダウンシフトが行われる。一方、入力ディスク2が図2中の矢印B方向(反時計回り)に回転している状態において、第2油圧室OP2の油圧によりパワーローラ4を中立位置から回転軸線X3に沿った第2方向A2に移動させると、上述したように変速比が減少しアップシフトが行われる。また、設定された変速比を固定する場合は、パワーローラ4が再び中立位置となるまで、トラニオン6を第1方向A1あるいは第2方向A2に移動させる。
なお、このECU60は、傾転角センサ(不図示)によって検出されるパワーローラ4の傾転角とストロークセンサ(不図示)によって検出されるストローク量に基づいて、実変速比(実際の変速比)が目標変速比(変速後の目標の変速比)となるようにカスケード式のフィードバック制御を行っている。すなわち、このECU60は、アクセル開度及び車速に基づいて目標変速比に対応した目標の傾転角である目標傾転角を決定し、この目標傾転角と傾転角センサによって検出した実際の傾転角である実傾転角との偏差に基づいて、目標変速比、目標傾転角に対応した目標のストローク量である目標ストローク量を決定し、ストロークセンサが検出したストローク量がこの目標ストローク量となるように移動部7の油圧制御装置9を制御している。このようなトロイダル式無段変速機1の変速制御では、基本的には、傾転角センサによって検出される傾転角(言い換えれば、変速比)のみをフィードバック制御すればよいが、ストローク量が傾転角の微分に相当することから、ストロークセンサによって検出されるストローク量のフィードバック制御もあわせて行うことで、傾転制御における振動を抑制するダンピング効果を得ることができる。また、このECU60は、変速比の応答性を向上するために、このフィードバック制御と共にフィードフォワード制御をあわせて行ってもよい。
ここで、トロイダル式無段変速機1は、一対の入力ディスク2及び出力ディスク3ごとに設けられる2つのパワーローラ4及びトラニオン6の回転軸線X3に沿った逆方向の移動を同期させるための機構として、ロアリンク16やアッパリンク17などにより構成されるリンク機構を備えている。ロアリンク16は、揺動軸6bにおいて変速制御ピストン81が設けられている一端部側(シリンダボデー86とローラ支持部6aとの間)にてラジアルベアリングRBを介して一対のトラニオン6を連結する一方、アッパリンク17は、揺動軸6bにおいて他端部側にてラジアルベアリングRBを介して一対のトラニオン6を連結する。そして、ロアリンク16、アッパリンク17は、それぞれケーシング(不図示)に固定されるロアポスト、アッパポストの支持軸16a、17aに支持されている。この支持軸16a、17aは、回転軸線X1と平行な方向に延設されており、ロアリンク16、アッパリンク17は、この支持軸16a、17aを支点としてシーソー状に揺動可能に構成されている。したがって、ロアリンク16、アッパリンク17は、一対のトラニオン6の回転軸線X3に沿った逆方向の移動を同期させることができる。
また、トロイダル式無段変速機1は、複数のトラニオン6の回転軸線X3を回転中心とした回転の同期を促進する機構として、同期機構18を備える。同期機構18は、同期ワイヤ19と、複数の固定プーリ20とを有する。同期機構18は、各トラニオン6の揺動軸6bに固定して設けられる固定プーリ20と、回転軸線X1方向又は回転軸線X2方向に隣り合う固定プーリ20間で一回交差するように反転して張架される同期ワイヤ19との摩擦力により、一方のトラニオン6の回転トルクを他方のトラニオン6に伝達することで、複数のトラニオン6の回転軸線X3を回転中心とした回転の同期を促進することができる。
ところで、本実施例のトロイダル式無段変速機1のように、1対の入力ディスク2と出力ディスク3とを2組備え、フロント側半円キャビティCFとリア側半円キャビティCRとを備える、いわゆる、ダブルキャビティ型のトロイダル式無段変速機1において、例えば、入力される駆動力が上流側の回転部材からフロント側入力ディスク2Fに入力された後、一部がパワーローラ4に伝達される一方、残りがバリエータ軸11に伝達されリア側入力ディスク2Rに入力されるようにすると、油圧押圧機構15により各入力ディスク2に押圧力を付与し、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共にフロント側に移動させ、フロント側入力ディスク2Fをリア側に移動させる際に、上流側の回転部材とバリエータ軸11との接触部分やフロント側入力ディスク2Fとバリエータ軸11との接触部分において、各部材が相互に回転軸線X1に沿った方向に摺動すると共にこの接触部分にて駆動力の伝達が伴う。このため、上流側の回転部材とバリエータ軸11との接触部分やフロント側入力ディスク2Fとバリエータ軸11との接触部分において、摺動に伴う摩耗が発生し、例えば、この摩耗により発生する摩耗粉が入力ディスク2、出力ディスク3のトロイダル面2a、3a(転走面)やパワーローラ4の接触面4aに付着し挟圧されることで、トロイダル面2a、3aや接触面4aを損傷してしまうおそれがある。
そこで、本実施例のトロイダル式無段変速機1は、図1、図5に示すように、振分手段としての駆動力振分部100によって駆動力を複数の入力ディスク2にそれぞれ振り分けて入力することで、摺動部分の摩耗の低減を図っている。
駆動力振分部100は、回転手段としての上流側回転部110と、第1摺動部130と、第2摺動部150とを有する。上流側回転部110は、ダブルピニオン式のプラネタリギアで構成される前後進切換機構23のプラネタリキャリア111と、駆動力伝達部材112とを有する。第1摺動部130は、入力ディスク側スプライン部2dと、駆動力伝達部材側スプライン部112fとを有する。第2摺動部150は、バリエータ軸側スプライン部11c、プラネタリキャリア側スプライン部111dとを有する。
プラネタリキャリア111は、トルクコンバータ22(図1参照)側から前後進切換機構23に入力された駆動力をトロイダル式無段変速機1の入力ディスク2側に出力するものである。プラネタリキャリア111は、フォワードクラッチ(摩擦クラッチ)を介してサンギアと係合可能であり、回転軸線X1を中心として回転可能であると共に、回転軸線X1に沿った方向に対して移動不能に設けられている。プラネタリキャリア111は、円板部111a、円筒部111bを有する。円板部111aは、回転軸線X1を中心とした円環板状に形成される。円筒部111bは、回転軸線X1を中心とした円筒状に形成され、一端部を基端部として円板部111aの内径側縁部にこの円板部111aと一体で設けられる。プラネタリキャリア111は、円筒部111bの先端部がリア側、すなわち、フロント側入力ディスク2Fに位置するように設けられる。
プラネタリキャリア111は、円筒部111bの外周面にプラネタリキャリア側スプライン部111cが形成され、内周面にプラネタリキャリア側スプライン部111dが形成される。プラネタリキャリア側スプライン部111c、プラネタリキャリア側スプライン部111dは、それぞれ、円筒部111bの外周面、又は、内周面に回転軸線X1に沿って形成される複数のスプライン溝やスプライン爪からなる。
駆動力伝達部材112は、回転軸線X1を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。さらに具体的にいえば、駆動力伝達部材112は、本体部112aと、小径部112bと、大径部112cとを有する。すなわち、駆動力伝達部材112は、相対的に径が小さい小径部112bと、この小径部112bより径が大きく設定される大径部112cとを有する。小径部112bと大径部112cとは、共に円筒状に形成される。そして、駆動力伝達部材112は、小径部112bと大径部112cとが円環板状の本体部112aを介して一端側の基端部にて連結されている。
駆動力伝達部材112は、挟圧押圧力ピストン15bのリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29の背面側、すなわち、挟圧押圧力ピストン15bのフロント側に設けられる。駆動力伝達部材112は、回転軸線X1に沿った方向に対して本体部112aが挟圧押圧力ピストン15bと対向するように配置される。また、駆動力伝達部材112は、本体部112aがフロント側に位置し、小径部112b、大径部112cの先端部がリア側に位置するように配置される。
また、駆動力伝達部材112は、小径部112bの内周面に回転軸線X1に沿って形成される複数のスプライン溝やスプライン爪からなる駆動力伝達部材側スプライン部112dが設けられている。一方、駆動力伝達部材112は、大径部112cの内周面に回転軸線X1に沿って形成される複数のスプライン溝やスプライン爪からなる駆動力伝達部材側スプライン部112fが設けられている。
そして、駆動力伝達部材112は、駆動力伝達部材側スプライン部112dがプラネタリキャリア111のプラネタリキャリア側スプライン部111cにスプライン嵌合されることで、プラネタリキャリア111に対して回転軸線X1に沿った方向に移動可能で、かつ、相対回転不能、つまり、プラネタリキャリア111の回転軸線X1周りの回転に伴って回転可能に設けられる。ただし、ここでは、駆動力伝達部材112は、小径部112bの先端部側で当該先端部に接するようにしてスナップリング112eが設けられていることから、回転軸線X1に沿った方向に対してもプラネタリキャリア111と相対的に変位しないように固定されている。したがって、プラネタリキャリア111と駆動力伝達部材112とからなる上流側回転部110は、駆動力により全体として一体となって回転軸線X1を中心として回転可能であり、回転軸線X1に沿った方向に対して移動不能な構成となる。
フロント側入力ディスク2Fは、突出部分2bの基端部が回転軸線X1を中心とした円筒状(シリンダ状)の円筒部2cとして形成される。この円筒部2cは、外周面に回転軸線X1に沿って形成される複数のスプライン溝やスプライン爪からなる入力ディスク側スプライン部2dが設けられている。
そして、駆動力伝達部材側スプライン部112fと入力ディスク側スプライン部2dとは、第1摺動部130をなす。駆動力伝達部材側スプライン部112fと入力ディスク側スプライン部2dとからなる第1摺動部130は、フロント側入力ディスク2Fを上流側回転部110の駆動力伝達部材112と共に回転可能、かつ、該駆動力伝達部材112に対して回転軸線X1に沿った方向に相対移動自在に、この駆動力伝達部材112に支持する。
すなわち、フロント側入力ディスク2Fは、入力ディスク側スプライン部2dが駆動力伝達部材112の大径部112cの駆動力伝達部材側スプライン部112fにスプライン嵌合されることで、駆動力伝達部材112に対して回転軸線X1に沿った方向に移動可能で、かつ、相対回転不能、つまり、駆動力伝達部材112の回転軸線X1周りの回転に伴って回転可能に設けられる。フロント側入力ディスク2Fは、入力ディスク側スプライン部2dと駆動力伝達部材側スプライン部112fとが相対的に摺動移動することで、回転軸線X1に沿った方向に移動可能に駆動力伝達部材112に支持される。さらに言えば、フロント側入力ディスク2Fは、上流側回転部110をなすプラネタリキャリア111及び駆動力伝達部材112に対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能で、かつ、相対回転不能、つまり、上流側回転部110をなすプラネタリキャリア111及び駆動力伝達部材112の回転軸線X1周りの回転に伴って回転可能に設けられる。
バリエータ軸11は、リア側の一端部にスプライン嵌合部(不図示)を介してリア側入力ディスク2Rが設けられている(図1参照)。リア側入力ディスク2Rは、バリエータ軸11のリア側端部に設けられたスナップリング11a(図1参照)により回転軸線X1に沿った方向への移動が制限されている。つまり、リア側入力ディスク2Rは、バリエータ軸11の回転に伴って回転可能であると共に、バリエータ軸11の回転軸線X1に沿った方向の移動に伴って移動可能にバリエータ軸11に支持されている。さらに言い換えれば、リア側入力ディスク2Rは、バリエータ軸11に対して、回転軸線X1周りに相対的に回転変位しないと共に、回転軸線X1に沿った方向にも相対的に変位しない。
また、バリエータ軸11は、挟圧押圧力ピストン15bの背面側、すなわち、フロント側の一端部に回転軸線X1に沿って円筒状に突出する突出部11bを有する。バリエータ軸11は、突出部11bの外周面に回転軸線X1に沿って形成される複数のスプライン溝やスプライン爪からなるバリエータ軸側スプライン部11cが設けられている。
そして、プラネタリキャリア側スプライン部111dとバリエータ軸側スプライン部11cとは、第2摺動部150をなす。プラネタリキャリア側スプライン部111dとバリエータ軸側スプライン部11cとからなる第2摺動部150は、バリエータ軸11を上流側回転部110のプラネタリキャリア111と共に回転可能、かつ、該プラネタリキャリア111対して回転軸線X1に沿った方向に相対移動自在に、このプラネタリキャリア111に支持する。
すなわち、バリエータ軸11は、バリエータ軸側スプライン部11cがプラネタリキャリア111のプラネタリキャリア側スプライン部111dにスプライン嵌合されることで、プラネタリキャリア111に対して回転軸線X1に沿った方向に移動可能で、かつ、相対回転不能、つまり、プラネタリキャリア111の回転軸線X1周りの回転に伴って回転可能に設けられる。バリエータ軸11は、バリエータ軸側スプライン部11cとプラネタリキャリア側スプライン部111dとが相対的に摺動移動することで、回転軸線X1に沿った方向に移動可能にプラネタリキャリア111に支持される。さらに言えば、バリエータ軸11は、上流側回転部110をなすプラネタリキャリア111及び駆動力伝達部材112に対して回転軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能で、かつ、相対回転不能、つまり、上流側回転部110をなすプラネタリキャリア111及び駆動力伝達部材112の回転軸線X1周りの回転に伴って回転可能に設けられる。したがって、リア側入力ディスク2Rは、リア側入力ディスク2Rと共に回転可能、かつ、回転軸線X1に沿った方向に移動可能なバリエータ軸11を介して第2摺動部150により上流側回転部110のプラネタリキャリア111に支持される。
なお、上述の挟圧押圧力ピストン15bは、フロント側入力ディスク2Fの円筒部2cの内側に収容されるように位置する。言い換えれば、挟圧押圧力ピストン15bは、回転軸線X1に沿った方向に対して、円筒部2cの内側にて、駆動力伝達部材112とフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28との間に位置する。挟圧押圧力ピストン15bは、径方向外側の先端部に環状のシール部材Sが設けられており、したがって、挟圧力発生油圧室15aの内部に供給される作動油がこのシール部材Sにより外部に漏れないようにシールされている。
上記のように構成されるトロイダル式無段変速機1は、プラネタリキャリア111からの駆動力の一部が駆動力伝達部材112及び第1摺動部130を介してフロント側入力ディスク2Fに入力されパワーローラ4に伝達される一方、残りの駆動力が第2摺動部150を介してバリエータ軸11、リア側入力ディスク2Rに入力されパワーローラ4に伝達されることから、駆動力振分部100によって駆動力をフロント側入力ディスク2Fとリア側入力ディスク2Rとにそれぞれ振り分けて並行して入力することができる。
そして、トロイダル式無段変速機1は、駆動力振分部100によって駆動力をフロント側入力ディスク2Fとリア側入力ディスク2Rとにそれぞれ振り分けて並行して入力していることから、駆動力伝達部材112とフロント側入力ディスク2Fとの摺動部分である第1摺動部130と、プラネタリキャリア111とバリエータ軸11との摺動部分である第2摺動部150とにおいて、1つの摺動部分に対して、トロイダル式無段変速機1に入力される全ての駆動力が伝達されることを防止することができ、したがって、摺動部分にて局所的に大きな駆動力が作用することを防止することができる。この結果、油圧押圧機構15により各入力ディスク2に押圧力を付与し、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共にフロント側に移動させ、フロント側入力ディスク2Fをリア側に移動させることで、各入力ディスク2と各出力ディスク3との間にパワーローラ4を挟み込む挟圧力を作用させる際に、第1摺動部130と第2摺動部150とにおいて、1つの摺動部分に対して、トロイダル式無段変速機1に入力される全ての駆動力が伝達されることを防止することができ、摺動部分にて局所的に大きな駆動力が作用することを防止することができるので、第1摺動部130、第2摺動部150における摩耗量を低減することができる。
図6は、本実施例に係るトロイダル式無段変速機1と比較例に係るトロイダル式無段変速機とを比較するための模式図である。ここでは、トロイダル式無段変速機の摺動部分の摩耗量指標に基づいて、実施例に係るトロイダル式無段変速機1と比較例に係るトロイダル式無段変速機とを比較する。この摩耗量指標は、摺動部分に伝達される駆動力に応じた数値と当該摺動部分における摺動量に応じた数値とを乗算した値を用いる。摺動部分にて伝達される駆動力に応じた数値は、エンジン21(図1参照)から出力されトロイダル式無段変速機に入力される全ての駆動力を「1.0」とし、摺動量に応じた数値は、例えば、回転軸線に沿った方向に移動不能な部材に対して移動可能な部材が相対的に摺動移動する場合を「1.0」とし、相互に回転軸線に沿った方向に移動可能な部材同士が互いに逆方向に摺動移動する場合を「2.0」とする。そして、トロイダル式無段変速機の摩耗量指標は、油圧押圧機構(挟圧手段)により各入力ディスクを各出力ディスク側に接近させ、各入力ディスクと各出力ディスクとの間にパワーローラを挟み込む挟圧力を作用させる際に各摺動部分において伝達される駆動力に応じた数値と摺動量に応じた数値との乗算値の和をとるものとする。この摩耗量指標が大きいほど、油圧押圧機構(挟圧手段)により各入力ディスクを各出力ディスク側に接近させ、各入力ディスクと各出力ディスクとの間にパワーローラを挟み込む挟圧力を作用させる際の摺動部分の摩耗量が多いことを示す。
比較例1−1のトロイダル式無段変速機は、トロイダル型無段変速機の上流側回転部(例えば、回転軸線に沿った方向に移動不能なプラネタリキャリア)からの駆動力がフロント側入力ディスクに入力された後、一部がパワーローラに伝達される一方、残りがバリエータ軸に伝達されリア側入力ディスクに入力されるものである。ここでは、リア側入力ディスクは、上流側回転部に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動可能なバリエータ軸に一体的に設けられ、このバリエータ軸と共に上流側回転部に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動可能に設けられる。一方、フロント側入力ディスクは、バリエータ軸に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動可能に設けられる。比較例1−2のトロイダル式無段変速機は、トロイダル型無段変速機の上流側回転部からの駆動力がフロント側入力ディスクに入力された後、一部がパワーローラに伝達される一方、残りがバリエータ軸に伝達されリア側入力ディスクに入力されるものである。ここでは、バリエータ軸は、上流側回転部に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動不能に設けられる。リア側入力ディスク及びフロント側入力ディスクは、共にバリエータ軸に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動可能に設けられる。
また、比較例2−1のトロイダル式無段変速機は、トロイダル型無段変速機の上流側回転部(例えば、回転軸線に沿った方向に移動不能なプラネタリキャリア)からの駆動力がバリエータ軸に入力された後、一部がフロント側入力ディスクに伝達される一方、残りがリア側入力ディスクに入力される。ここでは、リア側入力ディスクは、上流側回転部に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動可能なバリエータ軸に一体的に設けられ、このバリエータ軸と共に上流側回転部に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動可能に設けられる。一方、フロント側入力ディスクは、バリエータ軸に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動可能に設けられる。比較例2−2のトロイダル式無段変速機は、トロイダル型無段変速機の上流側回転部からの駆動力がバリエータ軸に入力された後、一部がフロント側入力ディスクに伝達される一方、残りがリア側入力ディスクに入力される。ここでは、バリエータ軸は、上流側回転部に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動不能に設けられる。リア側入力ディスク及びフロント側入力ディスクは、共にバリエータ軸に対して回転軸線に沿った方向に相対的に移動可能に設けられる。
まず、比較例1−1のトロイダル式無段変速機は、上流側回転部からフロント側入力ディスクに駆動力が伝達され、このとき、トロイダル式無段変速機に入力される全ての駆動力が上流側回転部とフロント側入力ディスクとの摺動部分を通過する(駆動力1.0×摺動量1.0)。そして、フロント側入力ディスクからパワーローラにおよそ半分の駆動力が伝達され、残りの半分の駆動力がリア側入力ディスクと一体のバリエータ軸に伝達されフロント側入力ディスクとバリエータ軸との摺動部分を通過する。このとき、フロント側入力ディスクと、リア側入力ディスクと一体のバリエータ軸とは、油圧押圧機構(挟圧手段)により各入力ディスクを各出力ディスク側に接近させる場合には互いに逆方向に摺動移動する(駆動力0.5×摺動量2.0)。したがって、比較例1−1のトロイダル式無段変速機の摩耗量指標は、[駆動力1.0×摺動量1.0]+[駆動力0.5×摺動量2.0]=2.0となる。
比較例1−2のトロイダル式無段変速機は、上流側回転部からフロント側入力ディスクに駆動力が伝達され、このとき、トロイダル式無段変速機に入力される全ての駆動力が上流側回転部とフロント側入力ディスクとの摺動部分を通過する(駆動力1.0×摺動量1.0)。そして、フロント側入力ディスクからパワーローラにおよそ半分の駆動力が伝達され、残りの半分の駆動力が回転軸線に沿った方向に移動不能なバリエータ軸に伝達されフロント側入力ディスクとバリエータ軸との摺動部分を通過する。このとき、フロント側入力ディスクとバリエータ軸とは、油圧押圧機構(挟圧手段)により各入力ディスクを各出力ディスク側に接近させる場合には、バリエータ軸は移動せず、フロント側入力ディスクがバリエータ軸に対して摺動移動する(駆動力0.5×摺動量1.0)。そして、バリエータ軸からリア側入力ディスクに駆動力が伝達されバリエータ軸とリア側入力ディスクとの摺動部分を通過する。このとき、バリエータ軸とリア側入力ディスクとは、油圧押圧機構(挟圧手段)により各入力ディスクを各出力ディスク側に接近させる場合には、バリエータ軸は移動せず、リア側入力ディスクがバリエータ軸に対して摺動移動する(駆動力0.5×摺動量1.0)。したがって、比較例1−2のトロイダル式無段変速機の摩耗量指標は、[駆動力1.0×摺動量1.0]+[駆動力0.5×摺動量1.0]+[駆動力0.5×摺動量1.0]=2.0となる。
比較例2−1のトロイダル式無段変速機は、上流側回転部からリア側入力ディスクと一体のバリエータ軸に駆動力が伝達され、このとき、トロイダル式無段変速機に入力される全ての駆動力が上流側回転部とバリエータ軸との摺動部分を通過する(駆動力1.0×摺動量1.0)。そして、バリエータ軸と一体のリア側入力ディスクからパワーローラにおよそ半分の駆動力が伝達され、残りの半分の駆動力がフロント側入力ディスクに伝達されバリエータ軸とフロント側入力ディスクとの摺動部分を通過する。このとき、バリエータ軸とフロント側入力ディスクとは、油圧押圧機構(挟圧手段)により各入力ディスクを各出力ディスク側に接近させる場合には互いに逆方向に摺動移動する(駆動力0.5×摺動量2.0)。したがって、比較例2−1のトロイダル式無段変速機の摩耗量指標は、[駆動力1.0×摺動量1.0]+[駆動力0.5×摺動量2.0]=2.0となる。
一方、本実施例のトロイダル式無段変速機1は、上流側回転部110の駆動力伝達部材112から第1摺動部130を介しておよそ半分の駆動力がフロント側入力ディスク2Fに伝達され駆動力伝達部材112とフロント側入力ディスク2Fとの摺動部分である第1摺動部130を通過する。このとき、駆動力伝達部材112とフロント側入力ディスク2Fとは、油圧押圧機構(挟圧手段)により各入力ディスク2を各出力ディスク3側に接近させる場合には、駆動力伝達部材112は移動せず、フロント側入力ディスク2Fが駆動力伝達部材112に対して摺動移動する(駆動力0.5×摺動量1.0)。そして、上流側回転部110のプラネタリキャリア111から残りの半分の駆動力が第2摺動部150を介してリア側入力ディスク2Rと一体のバリエータ軸11に伝達されプラネタリキャリア111とバリエータ軸11との摺動部分である第2摺動部150を通過する。このとき、プラネタリキャリア111とバリエータ軸11とは、油圧押圧機構(挟圧手段)により各入力ディスク2を各出力ディスク3側に接近させる場合には、プラネタリキャリア111は移動せず、バリエータ軸11がプラネタリキャリア111に対して摺動移動する(駆動力0.5×摺動量1.0)。したがって、実施例のトロイダル式無段変速機1の摩耗量指標は、[駆動力0.5×摺動量1.0]+[駆動力0.5×摺動量1.0]=1.0となる。
すなわち、本実施例のトロイダル式無段変速機1の摩耗量指標は1.0である一方、比較例1−1、比較例1−2、比較例2−1のトロイダル式無段変速機の摩耗量指標は2.0であることから明らかなように、実施例のトロイダル式無段変速機1は、比較例1−1、比較例1−2、比較例2−1のトロイダル式無段変速機と比較して、摺動部分における摩耗量を低減することができる。
この結果、トロイダル式無段変速機1は、駆動力伝達部材112とフロント側入力ディスク2Fとの摺動部分である第1摺動部130と、プラネタリキャリア111とバリエータ軸11との摺動部分である第2摺動部150とにおいて、各部材の摺動に伴う摩耗の量を低減することができることから、例えば、摩耗により発生する摩耗粉の量を低減することができ、この摩耗粉が入力ディスク2、出力ディスク3のトロイダル面2a、3a(転走面)やパワーローラ4の接触面4aに付着し挟圧されることで、トロイダル面2a、3aや接触面4aを損傷してしまうことを抑制することができる。
なお、比較例2−2のトロイダル式無段変速機は、駆動力が上流側回転部から回転軸線に沿った方向に移動不能なバリエータ軸に伝達される。そして、このバリエータ軸からおよそ半分の駆動力がフロント側入力ディスクに伝達される一方、残りがリア側入力ディスクに伝達され、それぞれおよそ半分の駆動力がバリエータ軸とフロント側入力ディスクとの摺動部分、バリエータ軸とリア側入力ディスクとの摺動部分を通過する。このとき、バリエータ軸とフロント側入力ディスク、リア側入力ディスクとは、油圧押圧機構(挟圧手段)により各入力ディスクを各出力ディスク側に接近させる場合には、バリエータ軸は移動せず、それぞれ、フロント側入力ディスクがバリエータ軸に対して摺動移動し(駆動力0.5×摺動量1.0)、同様に、リア側入力ディスクもバリエータ軸に対して摺動移動する(駆動力0.5×摺動量1.0)。したがって、比較例2−2のトロイダル式無段変速機の摩耗量指標は、[駆動力0.5×摺動量1.0]+[駆動力0.5×摺動量1.0]=1.0となる。
しかしながら、比較例2−2のトロイダル式無段変速機の場合、フロント側入力ディスクをバリエータ軸に対して摺動移動させる油圧押圧機構(例えば、挟圧力発生油圧室、挟圧押圧力ピストン)と、リア側入力ディスクをバリエータ軸に対して摺動移動させる油圧押圧機構とをそれぞれ別々にバリエータ軸の両端部に設ける必要があり、結果的に、トロイダル式無段変速機の大型化、高コスト化を招いてしまう。この点、本実施例のトロイダル式無段変速機1は、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共に回転可能、かつ移動可能に一体的に設け、フロント側入力ディスク2Fと、バリエータ軸11をそれぞれ回転軸線X1に沿った方向に移動させる油圧押圧機構15の挟圧力発生油圧室15a及び挟圧押圧力ピストン15bをフロント側入力ディスク2F側に兼用して設けることができることから、摩耗量を低減した上でトロイダル式無段変速機1の大型化や高コスト化を防止することができる。
また、このトロイダル式無段変速機1は、第1摺動部130がフロント側入力ディスク2Fの外周部に設けられることから、駆動力が駆動力伝達部材112を介して円筒部2cの外周面側に伝達されフロント側入力ディスク2Fに入力されると共に、このフロント側入力ディスク2Fが駆動力伝達部材112に対して、円筒部2cの外周面側にて、回転軸線X1に沿って相対的に摺動移動可能であることから、油圧押圧機構15によって挟圧押圧力が付加された際に、半径が相対的に大きな部分で、フロント側入力ディスク2Fを駆動力伝達部材112に対して回転軸線X1に沿って摺動移動させることができる。このため、フロント側入力ディスク2Fと駆動力伝達部材112とのスライド部、すなわち、入力ディスク側スプライン部2dと駆動力伝達部材側スプライン部112fとからなる第1摺動部130の接触荷重を小さくすることができ、この結果、入力ディスク側スプライン部2d及び駆動力伝達部材側スプライン部112fの摩耗量を抑制することができる。
以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、駆動力が入力される複数の入力ディスク2と、複数の入力ディスク2にそれぞれ対応して設けられ駆動力が出力される複数の出力ディスク3と、入力ディスク2と出力ディスク3との間に設けられるパワーローラ4と、パワーローラ4を回転自在、かつ、入力ディスク2及び出力ディスク3に対して傾転自在に支持し、パワーローラ4を傾転させることで入力ディスク2と出力ディスク3との回転数比である変速比を変更可能な変速比変更部5と、入力ディスク2を出力ディスク3に対して接近離間させることで、入力ディスク2と出力ディスク3との間にパワーローラ4を挟み込む挟圧力を作用可能な油圧押圧機構15と、駆動力を複数の入力ディスク2にそれぞれ振り分けて入力する駆動力振分部100とを備える。
したがって、駆動力振分部100によって駆動力を複数の入力ディスク2にそれぞれ振り分けて並行して入力することから、1つの摺動部分に対して、トロイダル式無段変速機1に入力される全ての駆動力が伝達されることを防止することができ、したがって、摺動部分にて局所的に大きな駆動力が作用することを防止することができる。この結果、摺動部分の摩耗を低減することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、複数の入力ディスク2は、フロント側入力ディスク2Fと、フロント側入力ディスク2Fの回転中心である回転軸線X1に沿った方向にこのフロント側入力ディスク2Fに対して所定の間隔をあけて設けられるリア側入力ディスク2Rとを有し、駆動力振分部100は、駆動力により回転軸線X1を中心として回転する上流側回転部110と、フロント側入力ディスク2Fを上流側回転部110と共に回転可能、かつ、上流側回転部110に対して回転軸線X1に沿った方向に相対移動自在に上流側回転部110に支持する第1摺動部130と、リア側入力ディスク2Rを上流側回転部110と共に回転可能、かつ、上流側回転部110に対して回転軸線X1に沿った方向に相対移動自在に上流側回転部110に支持する第2摺動部150とを有する。
したがって、上流側回転部110から第1摺動部130を介しておよそ半分の駆動力がフロント側入力ディスク2Fに伝達され、上流側回転部110から残りの半分の駆動力が第2摺動部150を介してリア側入力ディスク2Rに伝達されることから、各入力ディスク2と各出力ディスク3との間にパワーローラ4を挟み込む挟圧力を作用させる際に、第1摺動部130と第2摺動部150とにおいて、1つの摺動部分に対して、トロイダル式無段変速機1に入力される全ての駆動力が伝達されることを防止することができ、摺動部分にて局所的に大きな駆動力が作用することを防止することができるので、第1摺動部130、第2摺動部150における摩耗量を低減することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、 複数の出力ディスク3は、フロント側入力ディスク2Fとリア側入力ディスク2Rとの間にフロント側入力ディスク2Fと対向して設けられるフロント側出力ディスク3Fと、フロント側出力ディスク3Fとリア側入力ディスク2Rとの間にリア側入力ディスク2Rと対向して設けられるリア側出力ディスク3Rとを有し、リア側入力ディスク2Rは、このリア側入力ディスク2Rと共に回転可能、かつ、回転軸線X1に沿った方向に移動可能なバリエータ軸11を介して第2摺動部150により上流側回転部110に支持され、油圧押圧機構15は、回転軸線X1に沿った方向に対してフロント側入力ディスク2F側に設けられる挟圧力発生油圧室15aに供給される作動油の油圧によりフロント側入力ディスク2Fのフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28及びリア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29に挟圧押圧力を作用させ、複数の入力ディスク2をそれぞれ対応する出力ディスク3側に接近させることで挟圧力を発生させ、フロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28は、フロント側入力ディスク2Fのパワーローラ4との接触面であるトロイダル面2aの背面側に設けられ、リア側入力ディスク挟圧押圧力作用面29は、バリエータ軸11に設けられる挟圧押圧力ピストン15bに挟圧力発生油圧室15aを挟んでフロント側入力ディスク挟圧押圧力作用面28と対向するように設けられる。
したがって、リア側入力ディスク2Rをバリエータ軸11と共に回転可能、かつ移動可能に一体的に設け、フロント側入力ディスク2Fと、このバリエータ軸11をそれぞれ回転軸線X1に沿った方向に移動させる油圧押圧機構15の挟圧力発生油圧室15a及び挟圧押圧力ピストン15bをフロント側入力ディスク2F側に兼用して設けていることから、摩耗量を低減した上でトロイダル式無段変速機1の大型化や高コスト化を防止することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施例に係るトロイダル式無段変速機1によれば、第1摺動部130は、フロント側入力ディスク2Fの外周部に設けられる。したがって、油圧押圧機構15によって挟圧押圧力が付加された際に、半径が相対的に大きな部分で、フロント側入力ディスク2Fを上流側回転部110に対して回転軸線X1に沿って摺動移動させることができることから、入力ディスク側スプライン部2dと駆動力伝達部材側スプライン部112fとからなる第1摺動部130の接触荷重を小さくすることができ、この結果、入力ディスク側スプライン部2d及び駆動力伝達部材側スプライン部112fの摩耗量を抑制することができる。また、第1摺動部130がフロント側入力ディスク2Fの外周部側に位置することから、仮に摩耗粉が発生しても、この摩耗粉は、例えば、遠心力などにより外方に飛ばされ、入力ディスク2、出力ディスク3のトロイダル面2a、3a(転走面)やパワーローラ4の接触面4aに摩耗粉が付着することを抑制することができる。
なお、上述した本発明の実施例に係る無段変速機は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、回転手段は、ダブルピニオン式のプラネタリギアで構成される前後進切換機構のプラネタリキャリア111と、駆動力伝達部材112とにより構成されるものとして説明したが、これに限らず、一体の部材により構成するようにしてもよい。
また、以上の説明では、回転手段をなすプラネタリキャリア111を備える前後進切換機構は、ダブルピニオン式のプラネタリギアで構成されるものとして説明したが、これに限らず、例えば、シングルピニオン式のプラネタリギアで構成してもよい。
図7は、本発明の変形例に係るトロイダル式無段変速機の駆動力振分部を示す部分断面図である。変形例に係る無段変速機としてのトロイダル式無段変速機201は、振り分け手段としての駆動力振分部200を備える。なお、以下の変形例の説明では、上述した実施例と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。また、主要部分の構成については図1、図2を参照する。
駆動力振分部200は、回転手段としての上流側回転部210と、第1摺動部130と、第2摺動部150とを有する。そして、上流側回転部210は、シングルピニオン式のプラネタリギアで構成される前後進切換機構223のプラネタリサンギア211と、駆動力伝達部材212とを有する。
ここでは、前後進切換機構223は、シングルピニオン式のプラネタリギア(遊星歯車機構)で構成されている。前後進切換機構223は、リングギアと、キャリアと、サンギア(プラネタリサンギア211)とを回転要素として有しており、サンギアとリングギアとの間に、サンギア周りを公転する1列のピニオンギアを備える。さらに、前後進切換機構223は、リングギアとサンギアを係合可能なフォワードクラッチ(摩擦クラッチ)と、キャリアをハウジングに係合可能なリバースブレーキ(摩擦ブレーキ)を備えている。前後進切換機構223は、フォワードクラッチを係合し、リバースブレーキを解放することで、エンジン21のクランクシャフト21aからの駆動力が回転方向をそのままに、サンギアからトロイダル式無段変速機201に伝達される。一方、前後進切換機構223は、フォワードクラッチを解放し、リバースブレーキを係合することで、エンジン21のクランクシャフト21aからの駆動力が回転方向を逆向きにかえ、サンギアからトロイダル式無段変速機201に伝達される。
プラネタリサンギア211は、回転軸線X1を中心として回転可能であると共に、回転軸線X1に沿った方向に対して移動不能に設けられている。プラネタリサンギア211は、本体部211a、突出部211bを有する。本体部211aは、回転軸線X1を中心とした円筒状に形成される。突出部211bは、回転軸線X1を中心とした円筒状に形成され、一端部を基端部として本体部211aからリア側に突出するように設けられる。プラネタリサンギア211は、突出部211bの先端部がリア側、すなわち、フロント側入力ディスク2Fに位置するように設けられる。
プラネタリサンギア211は、突出部211bの外周面にプラネタリサンギア側スプライン部211cが形成され、内周面にプラネタリサンギア側スプライン部211dが形成される。プラネタリサンギア側スプライン部211c、プラネタリサンギア側スプライン部211dは、それぞれ、突出部211bの外周面、又は、内周面に回転軸線X1に沿って形成される複数のスプライン溝やスプライン爪からなる。
駆動力伝達部材212は、回転軸線X1を中心とした円筒状(シリンダ状)に形成される。さらに具体的にいえば、駆動力伝達部材212は、本体部212aと、小径部212bと、大径部212cとを有する。すなわち、駆動力伝達部材212は、相対的に径が小さい小径部212bと、この小径部212bより径が大きく設定される大径部212cとを有する。小径部212bと大径部212cとは、共に円筒状に形成される。そして、駆動力伝達部材212は、小径部212bと大径部212cとが回転軸線X1に沿った方向に対して円環板状の本体部212aを挟んで連結されている。
駆動力伝達部材212は、小径部212bの内周面に回転軸線X1に沿って形成される複数のスプライン溝やスプライン爪からなる駆動力伝達部材側スプライン部212dが設けられている。一方、駆動力伝達部材212は、大径部212cの内周面に回転軸線X1に沿って形成される複数のスプライン溝やスプライン爪からなる駆動力伝達部材側スプライン部212fが設けられている。
そして、駆動力伝達部材212は、駆動力伝達部材側スプライン部212dがプラネタリサンギア211のプラネタリサンギア側スプライン部211cにスプライン嵌合されることで、プラネタリサンギア211に対して回転軸線X1に沿った方向に移動可能で、かつ、相対回転不能、つまり、プラネタリサンギア211の回転軸線X1周りの回転に伴って回転可能に設けられる。ただし、ここでは、駆動力伝達部材212は、小径部212bの基端部側(リア側)で当該基端部に接するようにしてスナップリング212eが設けられていることから、回転軸線X1に沿った方向に対してもプラネタリサンギア211と相対的に変位しないように固定されている。したがって、プラネタリサンギア211と駆動力伝達部材212とからなる上流側回転部210は、駆動力により全体として一体となって回転軸線X1を中心として回転可能であり、回転軸線X1に沿った方向に対して移動不能な構成となる。
そして、ここでは、第1摺動部130は、入力ディスク側スプライン部2dと、駆動力伝達部材側スプライン部212fとにより構成され、第2摺動部150は、バリエータ軸側スプライン部11c、プラネタリサンギア側スプライン部211dとにより構成される。
この場合でも、トロイダル式無段変速機201は、駆動力振分部200によって駆動力を複数の入力ディスク2にそれぞれ振り分けて並行して入力することから、1つの摺動部分に対して、トロイダル式無段変速機201に入力される全ての駆動力が伝達されることを防止することができ、したがって、摺動部分にて局所的に大きな駆動力が作用することを防止することができる。この結果、摺動部分の摩耗を低減することができる。
また、以上の説明では、第1摺動部を入力ディスクの外周部に設けるものとして説明したが、第2摺動部、あるいは、第1摺動部と第2摺動部の両方をそれぞれ入力ディスクの外周部に設けるようにしてもよい。