JP5121192B2 - ゴム物品補強用ブラスめっき鋼線とその製造方法 - Google Patents
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Description
上記ブラスめっき鋼線とゴムとの接着性については、例えば、タイヤ製造時の加硫工程において、ゴムとの接触下で加熱されることにより、ゴム中の硫黄とブラスめっき中の銅とが反応して接着層が形成されることが知られている。この接着層は、加硫工程において速やかにかつ確実に形成されること(初期接着性能)、及び、ゴム物品の使用時に水分や熱によって劣化しないこと(接着耐久性能)が求められている。
以下、図1を参照し、ブラスめっき鋼線10の構成を説明する。
ブラスめっき鋼線10は、鋼線12と鋼線12の表面に形成されたブラスめっき層11とを有する。このブラスめっき層11は、表面側の非結晶質性部11aと内側の結晶質性部11bとが積層された積層構造部分13を備える。非結晶質性部11aは、20nm以下の粒径の結晶粒により形成される。換言すれば、非結晶質性部11aは、20nm以下の微細結晶粒により形成されたり、あるいは、結晶粒が判別できない特徴を備えた実質的に非結晶質の部分である。結晶質性部11bは、20nmを超える粒径の結晶粒により形成された部分である。例えば、後方散乱電子線パターンをとると、結晶質性部11bではCuの結晶方位に対応する明確な菊池パターンが得られるが、非結晶質性部11aでは明確な結晶構造を有しないため、明確な菊池パターンは得られない。
ブラスめっき層の組成を、銅55〜66重量%、亜鉛34〜45重量%とした理由は、銅が55重量%未満であると、ブラスめっき中において、硬くて脆いβ層が非常に多くなって伸線性が損なわれ、銅が66重量%を超えた場合には、接着耐久性能が著しく損なわれるからである。
また、接着耐久性能については、めっきのバルクにおける亜鉛の量が多い方が、ゴム側からの劣化因子(水など)の浸入に対するめっきの耐湿性(耐腐食性)の点で優れているので、劣悪な湿熱劣化環境においては、亜鉛の量が多く銅の量が少ない方が高い接着耐久性能を得ることができるからである。
ブラスめっき層11の非結晶質性部11aは、格子欠陥濃度がきわめて高いので、活性度が高く、Cu原子の拡散速度が速い。このため、ブラスめっき鋼線10をタイヤ補強用スチールコードの素線として用いてタイヤを製造する際の加硫工程において、ブラスめっき鋼線10の非結晶質性部11aとゴムとが接触された状態でブラスめっき鋼線10が加熱されると、ブラスめっき鋼線10とゴムとの接着反応が速やかに進行する。よって、加硫工程においてブラスめっき鋼線10とゴムとの接着層が速やかに形成されるので、初期接着性能が向上する(以下、効果(1)という)。即ち、最良の形態1では、初期接着性能の良好なブラスめっき鋼線10を得ることができた。
また、接着層が形成された後に、接着界面においてCu原子が速やかに消費されるような環境(例えば、高温、高湿環境)にタイヤが置かれても、非結晶質性部11aからCu原子が速やかに供給されるので、接着層中のCu原子の希薄化が防止され、強固な接着層が維持される。
また、ブラスめっき層11の結晶質性部11bは、非結晶質性部11aと比べて活性度が低く、Cu原子の拡散速度も遅い。したがって、ブラスめっき層11が、活性度の高い非結晶質性部11aのみを備えた構成の場合、劣悪な湿熱劣化環境においては、ブラスめっき/スチール界面が脆弱化しやすく、破壊の起点となりやすい。そこで、最良の形態1では、ブラスめっき層11に結晶質性部11bを設けたことで、接着耐久性能を向上できた。つまり、ブラスめっき層11は、ゴムとの接着反応を緩やかに進行させる結晶質性部11bを有しているので、タイヤ等のゴム物品の使用時における水分や熱による反応が進行しても銅が早期に枯渇せず、接着耐久性能を確保することができた(以下、効果(2)という)。
ブラスめっき層の極表面の強加工は、例えば、ダイスによる伸線加工により行う。
伸線加工で潤滑が不十分な場合、被加工線材と工具とが直接あるいは不完全な被膜を介して接触すると、被加工線材の表面に強加工層が生じることが知られている。この強加工層は、きわめて高い密度の格子欠陥が導入された部分である。このような強加工層の生成は、一般に、ブラスめっきの脱落や鋼線材質の劣化、あるいは、断線やダイス摩耗をもたらす問題があるといわれているが、潤滑性をある程度下げた状態で伸線加工することにより、ブラスめっき層の極表面に極めて薄い強加工層を形成することができる。
例えば、液体潤滑液を用いた湿式伸線によって潤滑性をある程度下げた状態での伸線加工を行うには、潤滑液中の潤滑成分の濃度を、通常の伸線に用いる時の濃度よりも下げて伸線したり、潤滑液の温度を潤滑剤の使用推奨温度よりも下げて伸線する。
どの程度に潤滑性を下げた状態で伸線するかについては、製造する鋼線の強度や線径にもよるが、例えば、潤滑成分の濃度を下げる場合、鋼線の伸線作業で通常使用する潤滑液の濃度の80%〜20%の濃度とすればよい。潤滑性を下げ過ぎると、ブラスめっきの脱落、鋼線材質の劣化、あるいは、断線やダイス摩耗をもたらす。逆に、潤滑性の下げ方が足りないと、上記ブラスめっき層表面の非結晶質性部11aの割合が少なくなるので、接着性が劣化する。
・伸線条件
−1ダイス当たりの減面率を低めに設定する。
−伸線速度を低めに設定する。
−ダイスを冷却して温度上昇を抑制する。
−ダイスに入線する線材及び/又はダイスから出線する線材を冷却する。
このとき、非結晶質性部11aと結晶質性部11bとの積層構造部分13を形成するには、ブラスめっき層11の厚さを厚めにする方がよい。
また、湿式連続伸線にて製造する場合には、仕上げダイス、または、仕上げダイスを含む伸線下流の数ダイスにおける伸線を、上記したような潤滑性をある程度下げた状態で行い、他のダイスでは良好な潤滑条件で行うようにすれば、内部が結晶質性部11bで表面が非結晶質性部11aであるブラスめっき層11を確実に製造することができる。
面積割合Aを20%以上とし、積層構造部分の非結晶質性部が積層構造部分全体に対して占める体積割合(以下、体積割合Bという)を20%以上80%以下とした場合に、ゴムに対して優れた初期接着性能、接着耐久性能を有したブラスめっき鋼線10が得られた。
尚、面積割合Aを20%未満とした場合は、上述した効果(1)で説明した効果、即ち、優れた初期接着性能は得られなかった。また、体積割合Bを20%未満とした場合は、上述した効果(1)、(2)で説明した効果、即ち、優れた初期接着性能、接着耐久性能は得られなかった。さらに、体積割合Bが80%を超えた場合には、上述した効果(2)で説明した効果、即ち、優れた接着耐久性能は得られなかった。また、体積割合Bを25%以上75%以下とした場合には、さらに優れた初期接着性能、耐久接着性能が得られた。
ブラスめっきの組成、面積割合A及び体積割合Bの異なる図2に示す実施例1乃至4のブラスめっき鋼線をそれぞれ作製し、接着性能評価を実施した。面積割合Aは、作製したブラスめっき鋼線の表面について後方散乱電子パターンをとり、Cuの結晶方位に対応する明確な菊池パターンが得られる度合より算出した。体積割合Bは、作製したブラスめっき鋼線の断面観察画像を画像解析して算出した。図2に接着性能評価を実施した実施例1乃至4による各ブラスめっき鋼線のデータを示した。接着性能評価については、初期接着性は、素線径0.30mmのブラスめっき鋼線を1×3構造に撚りスチールコードを作製した後、これを等間隔に平行に並べ、両側からゴムでコーティングした後、160℃、7〜20分の加硫後、得られたゴム−スチールコード複合体につき、ゴムからスチールコードを剥離し、その時のゴム付着率を測定し、その結果について実施例1を100とした指数で示した。数値が大きいほど接着性が良好であることを示す。また、接着耐久性は、初期接着性と同様にゴムでコーティングした後、160℃、20分で加硫後、得られたゴム−スチールコード複合体につき、温度75℃、湿度95%の大気圧雰囲気中に7〜14日放置し、その後ゴムからスチールコードを剥離し、その時のゴム付着率を測定し、その結果について実施例1を100とした指数で示した。数値が大きいほど接着性が良好であることを示す。また、実施例1乃至4のブラスめっき鋼線10の断面を図3に示した。
尚、実施例2、3、4は、上述したように潤滑性をある程度下げた状態で伸線したことによって、面積割合Aが80%以上、体積割合Bが20%以上80%以下に形成されたブラスめっき鋼線10であり、実施例1は、良好な潤滑条件で伸線したことによって、面積割合Aが80%より少なく、体積割合Bが20%より少ない状態に形成されたブラスめっき鋼線10である。
実施例1では、ブラスめっき層11の組成が、銅55〜66重量%、亜鉛34〜45重量%であるが、面積割合Aが80%以上という条件を満たさず、さらに、体積割合Bが20%以上80%以下という条件を満たしていないため、初期接着性能、接着耐久性能とも実施例2,3より劣っている。
実施例2,3では、ブラスめっき層11の組成が、銅55〜66重量%、亜鉛34〜45重量%であり、かつ、面積割合Aが80%以上、体積割合Bが20%以上80%以下という条件を満たしているので、初期接着性能、接着耐久性能のいずれも良好なブラスめっき鋼線10が得られた。
実施例4では、面積割合Aが80%以上、体積割合Bが20%以上80%以下という条件を満たしているが、銅が68重量%であって、銅55〜66重量%、亜鉛34〜45重量%という条件を満たしていないため、実施例1,2,3と比べて接着耐久性能が悪い。
また、面積割合Aが80%以上という条件を満たし、体積割合Bが20%以上80%以下という条件を満たしている実施例2,3では、初期接着性能、接着耐久性能のいずれも良好なブラスめっき鋼線10を得ることができた。
11b 結晶質性部、12 鋼線、13 積層構造部分。
Claims (1)
- 潤滑液中で複数のダイスを用いて行う湿式伸線加工によりゴム物品補強用ブラスめっき鋼線を製造する方法において、
仕上げダイス、または、仕上げダイスを含む伸線下流の数ダイスでの伸線加工に用いる潤滑液として、仕上げダイス、または、仕上げダイスを含む伸線下流の数ダイス以外の他のダイスでの伸線加工に用いる潤滑液よりも潤滑性を下げた潤滑液を用いることによって、結晶質のブラスめっき層の極表面とダイスとが直接あるいは不完全な被膜を介して接触するようにして結晶質のブラスめっき層の極表面に強加工層を形成することにより、鋼線の表面に、表面側の非結晶質性部と内側の結晶質性部とが積層され、かつ、銅55〜66重量%、亜鉛34〜45重量%の組成のブラスめっき層を形成したことを特徴とするゴム物品補強用ブラスめっき鋼線の製造方法。
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