JP5062561B2 - 振動低減機構およびその諸元設定方法 - Google Patents
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Description
これは、図10にその概要を振動モデルとして示すように、支持体1(地盤や床など)に対してバネ2および減衰3を介して相対振動を生じるように支持されている構造体4(免震建物や機器設置架台など)に対し、付加バネ5および付加減衰6を介して付加質量7を設置し、その付加質量7と付加バネ5とからなる固有(角)振動数を構造体4の固有(角)振動数に同調させることによって構造体4の共振点近傍における応答を低減させるものである。
これによれば、地震や交通振動のような支持体1から構造体4への加速度加振入力による振動のみならず、構造体4に風や機械振動等の加振力が作用することによる振動も有効に低減させることができる。
なお、上記の回転慣性質量ダンパー10は、後述する実施形態においては第2の回転質量ダンパーとして機能するものである。
x=αθ
の関係があるときには、
Ψ2=Iθ/α2
として表され、振動低減効果を得るための制御力(変位方向負担力)Pは
そして、この回転慣性質量Ψ2の大きさは回転体の実際の質量に対して10〜1000倍にもなるので、小質量の回転体を回転させることのみで極めて大きな回転慣性質量を得ることができ、したがって小質量の回転体であっても充分な振動低減効果が得られる。
勿論、回転慣性質量Ψ2の大きさは、回転体の質量とその径寸法および径方向の質量分布により決定されるものであり、回転体の質量が大きいほど、径寸法が大きいほど、質量が内周部よりも外周部に分布しているほど回転慣性質量は大きくなるから、それらを適正に設定することによって所望の回転慣性質量を得ることができる。
たとえば、半径rで質量mの円盤の回転慣性モーメントIθは
そして、本参考例では回転慣性質量ダンパー10の他には従来のTMDと同様に付加バネ5と付加減衰6とを有するものであれば良く、一般には図1(b)に示すモデルのようにそれらを個々に設置すれば良いが、汎用の回転慣性質量ダンパー10には図1(a)に示すモデルに対応するものとして回転機構と減衰機構とを並列に組み込んだものもあるので、それを採用する場合には他に付加バネ5を設置することで足りる。
すなわち、回転慣性質量Ψ2と付加バネk2とにより定まる固有角振動数ω2は
たとえば、従来のTMDでは付加質量7の質量m2を構造体4の質量m1の1〜2%程度とすることが限度であり、したがってそれによる振動低減効果も自ずと限界があるが、本実施形態では必要であれば構造体4の質量m1の10〜50%ないしそれ以上の回転慣性質量Ψ2が与えられ、それにより従来一般のTMDによる場合に比べて格段に優れた振動低減効果を得ることができる。
勿論、従来のTMDと同様に、地震や交通振動のように地盤からの加速度加振入力による振動のみならず、風や機械振動等の加振力が作用することによる振動に対しても有効であるので、建物全体を免震支持するための機構としても、また、嫌振機器等を設置するための免震架台等に適用する鉛直あるいは水平振動低減機構としても有効なものである。但し、地震などによる加速度(変位)入力と、風などによる加振力入力とでは最適なバネや減衰量が異なるので、支配的な外力を対象として所望の減衰が得られるように設定する必要がある。
そのため、必要であれば回転慣性質量ダンパー10に過大な力が作用して破損するようなことを防止するために、付加バネ5の負担力にリミッターをかけることも考えられる。そのためのリミッター機構としては、たとえば付加バネ5が許容限度を超える負担力を受けた際には降伏するようにしたり、あるいは付加バネ5にすべり機構を直列に配置しておくことが考えられる。また、回転慣性質量ダンパー10に作用する相対加速度が許容限度を超えた場合には回転体が空回りして回転慣性質量が過大にならないようにしても同様のリミッター効果が得られる。
(i)基本モデル(図2参照)
図2(a)は回転慣性ダンパーを設置していない構造体のみの振動モデルを示す。このモデルにおいて、固定端における変位加振入力x(t)を
x(t)=x0・eiωt
と想定し、質点の静止座標系(絶対変位)の釣合式で表示すると、加振点変位x0として
ここで、変位xが角振動数ωの正弦波振動であるとして
xj=xjeiωt (j=0,1)
とし、構造体の固有角振動数をω0とすると
ω0 2=k1/m1
であり、さらに減衰定数h1は
h1=c1/(2m1ω0)
であるから、
この式で求まる|x1/x0|(複素数の絶対値)が加振入力に対する構造体の応答倍率(変位、速度、加速度とも同じ)を示すものとなる。
図2(b)はこのモデルにおいて減衰定数h1=0.02の場合の応答倍率を示すもので、これは加振振動数ωが構造体の固有振動数ω0と一致する場合(ξ=ω/ω0=1)に応答倍率が最大となる一般的な共振曲線を示すものである。この場合の応答倍率の最大値は1/(2h1)=25となる。
図1(a)に対応するモデルとして図3(a)に示すモデルを想定する。これは、図2(a)の基本モデルに対し、回転慣性質量ダンパーと付加バネとを直列に加え、付加減衰を回転慣性質量ダンパーに並列に加えたものである。
ここで、回転慣性モーメントをIθ、単位回転角に対するx方向変位量をαとすると、構造体変位をx1、ダンパーと付加バネとの接合部での変位をx2とし、質点の釣合式で表示すると、
h1=c1/(2m1ω0)
Ψ2=Iθ/α2
ω2 2=k2/Ψ2
h2=c2/(2Ψ2ω2)
ξ=ω/ω0
η=ω2/ω0
とおくと、
図3(c)は、回転慣性質量が構造体質量の0.1倍、つまりΨ2/m1=0.1であり、かつk2/k1=0.12、h2=0.2の場合における応答倍率を示すものであり、この場合には共振点近傍において最大応答を85%も低減できる。実際の回転体の質量が回転慣性質量の1/100以下であれば、構造体の質量に対しては1/1000以下の質量であり、この場合も大きな振動低減効果が得られることがわかる。
図3(d)は、回転慣性質量が構造体質量の半分、つまりΨ2/m1=0.5であり、かつk2/k1=2.5、h2=1.0の場合における応答倍率を示すものであり、この場合にはもはや共振現象はなくなり、構造体の応答を94%も低減できるが、高振動数域では回転慣性質量のない場合より振幅がわずかに増加する。この場合でも、回転体の実際の質量は回転慣性質量の1/100以下(構造体の質量に対しては1/200以下)である。
図1(b)に対応するモデルとして図4(a)に示すモデルを想定する。これは、図2(a)の基本モデルに対し、慣性慣性質量ダンパーと付加バネとを直列に加え、付加減衰を付加バネに並列に加えたものである。
この場合、質点の釣合式は
上式で求まる|x1/x0|(複素数の絶対値)が加振入力に対する構造体の応答倍率を示す。
図4(c)は、回転慣性質量が構造体質量の0.1倍、つまりΨ2/m1=0.1であり、かつk2/k1=0.085、h2=0.2の場合における応答倍率を示すものであり、共振点近傍において最大応答を84%も低減できる。
図4(d)は、回転慣性質量が構造体質量の半分、つまりΨ2/m1=0.5であり、かつk2/k1=0.25、h2=0.3の場合における応答倍率を示すものであり、この場合にはもはや共振現象はなくなり、構造体の応答を92%も低減できる。また、図3と異なり高振動数域での応答が振動数の増加により漸減する。
(i)基本モデル(図5参照)
図5は回転慣性質量ダンパーを設置していない構造体自体の振動モデルを示す。このモデルにおいて、加振入力f(t)を
f(t)=f0・eiωt
と想定し、質点の静止座標系(絶対変位)の釣合式で表示すると、
xj=xjeiωt
とし、構造体の固有角振動数をω0とすると
ω0 2=k1/m1
であり、さらに減衰定数h1は
h1=c1/(2m1ω0)
であるから、
この式のf0/k1は加振力の絶対値をバネで除した静的変位を意味している。
この式で求まる|k1x1/f0|(複素数の絶対値)が加振入力に対する構造体の応答倍率(加振入力が静的に作用したときの変位に対する比)を示すものとなる。
図5(b)はこのモデルにおいて減衰定数h1=0.02の場合の応答倍率を示すもので、これは加振振動数ωが構造体の固有振動数ω0と一致する場合(ξ=ω/ω0=1)に応答倍率が最大となる一般的な共振曲線を示すものである。この場合の応答倍率の最大値は1/(2h1)=25となる。
図1(a)に対応するモデルとして図6(a)に示すモデルを想定する。これは、図5(a)の基本モデルに対し、回転慣性質量ダンパーと付加バネとを直列に加え、付加減衰を回転慣性質量ダンパーに並列に加えたものである。
ここで、回転慣性モーメントをIθ、単位回転角に対するx方向変位量をαとすると、構造体変位をx1、ダンパーと付加バネとの接合部での変位をx2とし、質点の釣合式で表示すると、
h1=c1/(2m1ω0)
Ψ2=Iθ/α2
ω2 2=k2/Ψ2
h2=c2/(2Ψ2ω2)
ξ=ω/ω0
η=ω2/ω0
とおくと、
図6(c)は、回転慣性質量が構造体質量の0.1倍、つまりΨ2/m1=0.1であり、かつk2/k1=0.11、h2=0.2の場合における応答倍率を示すものであり、共振点近傍において最大応答を85%も低減できる。
図6(d)は、回転慣性質量が構造体質量と等しい、つまりΨ2/m1=1.0であり、かつk2/k1=2.0、h2=1.0の場合における応答倍率を示すものであり、この場合にはもはや共振現象はなくなり、構造体の応答を96%も低減できる。これは、全ての振動数領域において変位振幅が静的変位以下になることを意味する。この場合でも回転体の実質量は構造体の1/100以下である。
図1(b)に対応するモデルとして図7(a)に示すモデルを想定する。これは、図5(a)の基本モデルに対し、慣性慣性質量ダンパーと付加バネとを直列に加え、付加減衰を付加バネに並列に加えたものである。
この場合、質点の釣合式は
図7(c)は、回転慣性質量が構造体質量の0.1倍、つまりΨ2/m1=0.1であり、かつk2/k1=0.081、h2=0.2の場合における応答倍率を示すものであり、共振点近傍において最大応答を84%も低減できる。
図7(d)は、回転慣性質量が構造体質量と等しい、つまりΨ2/m1=1.0であり、かつk2/k1=0.25、h2=0.25の場合における応答倍率を示すものであり、この場合にはもはや共振現象はなくなり、構造体の応答を93%も低減できる。また、共振振動数以下で回転慣性質量なしの場合よりも応答が大きくならないという顕著な効果がある。
なお、以下の説明においては、本実施形態において付加した上記の回転慣性質量ダンパー20を「第1の回転慣性質量ダンパー」とし、参考例と同様に設置している回転慣性質量ダンパー10を「第2の回転慣性質量ダンパー」として区別する。
なお、本実施形態においても、付加減衰6は図8(a)に示すように第2の回転慣性質量ダンパー10と並列に設置するか、あるいは(b)に示すように付加バネ5と並列に設置すれば良い。
(m1/(m1+Ψ1))1/2 倍に長周期化され、そのように長周期化された固有振動数の周辺領域において参考例と同様に優れた応答低減効果が得られることになる。
また、構造体4を支持しているバネ2と第1の回転慣性質量ダンパー20により定まる角振動数 ω=(k1/Ψ1)1/2 で加振された場合には、応答が殆どゼロとなる(伝達関数がゼロ近くになる)という振動遮断効果も得られる。
h1=c1/(2m1ω0)
ω2 2=k2/Ψ2
h2=c2/(2Ψ2ω2)
ξ=ω/ω0
η=ω2/ω0
とおくと、
この場合、第1の回転慣性質量ダンパー20を設置することのみでは、それを付加することにより長周期化した振動数において約20%程度しか振動低減効果が得られないが、さらに第2の回転慣性質量ダンパー10を設置して、付加バネ5と回転慣性質量Ψ2による付加振動系の振動数を長周期化した固有振動数に対して同調させることにより、その固振動数領域における応答を大きく低減でき、最大応答値を87%も低減できることが分かる。
そして、この場合には図9(b)の縦軸を拡大表示した図9(c)に示されるように、応答低減できる振動数領域は充分に広いものであって、長周期化と相まって大幅な応答低減が図れるし、特にバネ2と第1の回転慣性質量ダンパー20により定まる上記の遮断振動数においては応答倍率がほぼゼロとなることが分かる。なお、応答が増大する領域もあるが、その範囲は狭く増大率も小さいので、実際上は問題にならない。
したがって地震のようなランダム振動入力や交通振動入力においても充分な応答低減効果が得られるし、免震建物に適用すれば長周期化しながら風揺れの低減効果も得られ、極めて有効である。
勿論、所望の共振点に同調させるための振動数同調作業は従来のTMDと同様に付加バネの値を調整することで容易にかつ広範に対応できるし、設置後の変更も自由にかつ容易に行うことができる。
2 バネ
3 減衰
4 構造体
5 付加バネ
6 付加減衰
10 回転慣性質量ダンパー(第2の回転慣性質量ダンパー)
20 回転慣性質量ダンパー(第1の回転慣性質量ダンパー)
Claims (4)
- 構造体の振動を低減する機構であって、
前記構造体をバネと減衰を介して支持体により支持する振動系に対し、回転体の回転により回転慣性質量を生じる第1の回転慣性質量ダンパーを前記バネと並列に付加することによって該振動系を長周期化するとともに、
前記構造体と前記支持体との間に、前記構造体を前記支持体に対して弾性支持する付加バネと、回転体の回転により回転慣性質量を生じる第2の回転慣性質量ダンパーとを直列に介装し、前記第2の回転慣性質量ダンパーによる回転慣性質量と前記付加バネとにより定まる固有振動数を、前記第1の回転慣性質量ダンパーの付加により長周期化された振動系の固有振動数に同調させてなることを特徴とする振動低減機構。 - 請求項1記載の振動低減機構であって、
付加減衰を前記第2の回転慣性質量ダンパーと並列に設置してなることを特徴とする振動低減機構。 - 請求項1記載の振動低減機構であって、
付加減衰を前記付加バネと並列に設置してなることを特徴とする振動低減機構。 - 構造体の振動を低減する機構の諸元設定方法であって、
前記構造体をバネと減衰を介して支持体により支持する振動系に対し、回転体の回転により回転慣性質量を生じる第1の回転慣性質量ダンパーを前記バネと並列に付加することによって該振動系を長周期化するとともに、
前記構造体と前記支持体との間に、前記構造体を前記支持体に対して弾性支持する付加バネと、回転体の回転により回転慣性質量を生じる第2の回転慣性質量ダンパーとを直列に介装し、前記第2の回転慣性質量ダンパーによる回転慣性質量と前記付加バネとにより定まる固有振動数を、前記第1の回転慣性質量ダンパーの付加により長周期化された振動系の固有振動数に同調させるように、それら第1および第2の回転慣性質量ダンパーと前記付加バネの諸元を設定することを特徴とする振動低減機構の諸元設定方法。
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