JP4936175B2 - 振動低減機構およびその諸元設定方法 - Google Patents
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Description
たとえば、建物の任意の層の床面上に架台を介して機器を設置する場合において、その架台を床面上に固定状態で直接設置した場合には、床面を構成している構造体自体(一般には柱、梁、スラブにより構成される)が地震等による加振を受けて特定の固有振動数で振動するものであるので、その床面の振動が架台および機器類にまで直接伝達されて好ましくない振動を生じたり、床面の振動に共振してしまうこともある。
また、架台に各種のダンパーを付加することで架台に対する免震効果を得ることも考えられており、特に架台に対して別の振動系としての小さな質量を付加してそれを架台に対して相対振動させることによって振動低減効果を得る所謂ダイナミックダンパーの採用が有効とされている。
さらに、たとえば特許文献1や特許文献2に示されるような回転慣性質量ダンパーの採用も考えられている。これらにおいて回転慣性質量ダンパーは小質量の回転体を回転させることでその回転慣性力を利用してより大きな免震効果を得るもので、それを架台と構造体との間に介装してそれらの間に生じる相対振動を回転体の回転運動に変換することによって優れた振動低減効果が得られるとされている。
また、特許文献3に示されるような、回転慣性質量ダンパーによる遮断層と粘性ダンパーによる減衰層を組み合わせた2段免震機構も考えられており、全ての共振を効果的に抑制する振動遮断効果が得られるとされている。
また、上記のようにダイナミックダンパーや回転慣性質量ダンパーを設けることで免震効果を得るという手法では、制御可能な振動数範囲が狭かったり、構造体や架台および機器の重量や剛性によって効果が変動したりすることから、必ずしも充分に有効な手法としては確立しておらず、広く普及するに至っていない。また、振動遮断機構を効果的にするためには、減衰層において大きな減衰と小さなバネ剛性を要し、2段免震とするためのコストがかかり、普及に至っていない。
また、請求項2記載の発明は、振動を生じる構造体に対してバネ要素を介して相対振動可能に設置される設置物を制御対象とする振動低減機構の諸元設定方法であって、前記構造体と前記設置物の間に、それらの相対振動によって作動して回転体を回転させることにより回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパーを設置するとともに、前記回転慣性質量ダンパーおよび前記バネ要素と並列に減衰要素を設置し、該回転慣性質量ダンパーにより生じる回転慣性質量と、前記バネ要素のバネ剛性とによって定まる固有振動数を、前記構造体の固有振動数もしくは卓越振動数に一致させること、および回転慣性質量やバネと並列する減衰の最適値を設定することを特徴としている。
特に、本発明によれば、応答低減効果を発揮する振動数を回転慣性質量と設置物のバネ剛性のみで定めることから、設置物の質量には依存せず、したがってその振動数をいったん設定してしまえば設置物への積載荷重が変化しても応答低減効果は変わることなく発揮され、その後の再設定を必要としない。
また、従来のダイナミックダンパーや回転慣性質量ダンパーを単に設置する場合には特定の振動数近傍のわずかな領域に対してしか有効ではないが、本発明によれば構造体の固有振動や卓越振動数以上の全ての領域の振動数に対して有効に応答低減することができる。
勿論、設置物を単にバネによって弾性支持することで長周期化するという従来一般の手法のようにバネ剛性を大きく低下させる必要はなく、したがって設置物の剛性が過度に低下してふわふわと不安定になったり常時の使用勝手が損なわれることもない。
本実施形態の振動低減機構は、建物の床面を構成している構造体1上に相対振動可能に架台2を設置する場合において、架台2を制御対象物としてその振動を低減させるように構成されたものであって、構造体1自体が地震等による上下方向の加振入力によって上下方向に振動した場合の架台2の上下方向の応答を低減させるための構成について以下に説明する。
本モデルにおいては、構造体1の質量をm1、バネ4のバネ定数をk1、ダッシュポット5の減衰係数をc1、構造体1の固有振動数をf0、固有角振動数をω0としている。
この場合、
ω0=2πf0
ω0 2=k1/m1である。
また、制御対象物である設置物としての架台2の質量をm2、バネ6のバネ定数をk2、ダッシュポット7の減衰係数をc2としている。
回転慣性質量ダンパー8は、構造体1と架台2との間に生じる上下方向の相対振動により作動して小質量の回転体9を回転させることにより大きな回転慣性質量ψ2を発生するものである。本実施形態ではその回転慣性質量ψ2を架台2の振動を低減させるための制御力として利用することを基本としつつ、回転慣性質量ダンパー8による振動低減効果が有効に得られるようにその仕様を構造体1および架台2の振動特性と関連づけて以下のように設定することを要旨とするものである。
回転慣性質量ダンパー8としては、上述した特許文献1〜3にも示されているように各種の形式のものが知られているが、本実施形態では図1(b)に概略的に示しているようにボールネジ機構によって円盤状の回転体9を回転させる形式のものを示している。
これは、ボールネジ機構を構成しているネジ軸10およびボールナット11をそれぞれ架台2の下面および構造体1の上面に固定し、ネジ軸10にはフライホイールとして機能する回転体9を固定したものであって、架台2と構造体1との間で上下方向の相対振動が生じると、ネジ軸10がボールナット11に対して軸方向(上下方向)に相対変位しつつ自転して回転体9を回転させるように構成されている。そして、そのような回転慣性質量ダンパー8の作動により、回転体9の回転慣性モーメントIθとそれに加わる回転加速度によって、回転体9の実際の質量に対して遙かに大きな回転慣性質量ψ2が生じることになる。
x=αθ
なる関係がある場合(すなわち、単位回転角に対する軸方向変位量の比がαの場合)、回転慣性質量ダンパー8における回転体9の慣性モーメントをIθとすると、回転慣性質量ダンパー8が作動した際に生じる回転慣性質量ψ2は
ψ2=Iθ/α2
で表される。
この回転慣性質量ψ2は回転体9の実際の質量の10〜500倍以上にも大きくすることができ、その回転慣性質量ψ2に構造体1と架台2との相対加速度を乗じて得られる力を架台2の振動を低減させるための大きな制御力として利用することができる。したがって、回転体9の質量が小さなものであっても自ずと充分に大きな制御力を得ることができるし、回転慣性質量ダンパー8の仕様であるIθやαの値を調整することで所望の制御力を得ることができる。
ψ2=Iθ/α2=k2/ω0 2
ω0 2=k2/ψ2=k2/(Iθ/α2)
と書き換えると、本式の左辺は構造体1の固有角振動数ω0の2乗であり、右辺は回転慣性質量ψ2と、バネ6のバネ定数k2とによって定まる角振動数の2乗であるから、本式は「回転慣性質量ψ2=Iθ/α2 と、バネ定数k2 とによって定まる角振動数」を、構造体1の固有角振動数ω0に一致させるように、回転慣性質量ダンパー8の仕様を設定することを意味している。
換言すれば、回転慣性質量ダンパー8の仕様の設定に際しては架台2の質量m2を考慮する必要はなく、構造体1の固有角振動数ω0と、架台2を支持しているバネ6のバネ定数k2のみを考慮してダンパー仕様を決定すれば良いことになる。
x=x0eiωt
ω0 2=k1/m1
h1=c1/(2m1ω0)
( ̄m)=m2/m1
( ̄k)=k2/k1
なお、( ̄m)はmの上部に ̄(バー)がつくことを表し、( ̄k)はkの上部に ̄がつくことを表す(以下、他の記号においても同様)。
( ̄ψ)=ψ2/m1=Iθ/(m1α2)
とすると、加振点変位x0に対する架台2の応答変位x2の比(応答倍率)は次式で表される。
( ̄ψ)=Iθ/(m1α2)=k2/k1=( ̄k)
を代入すると、上式は
本式は複素数表示しているので、応答倍率x2/x0はその絶対値として求められ、これにより求められる応答倍率は変位、速度、加速度について同じものとなる。
この応答倍率が極大になるのは、
ξ2=(ω/ω0)2=1
ξ2=( ̄k)/(( ̄k)+( ̄m))
の2つである。
( ̄ω)2=( ̄k)/( ̄m)=(k2/k1)/(m2/m1)
=(k2/m2)/ω0 2
とすると、2つのξに対する応答倍率を等値にすることでh2の最適減衰が次式から求められる。h2以外の変数は既知なので、次式からh2を求めるのは容易である。
図2(a)は、構造体1と架台2の質量比( ̄m)=m2/m1と、構造体1と架台2のバネ定数比( ̄k)=k2/k1が等しく、したがってそれらの固有振動数も等しい(いずれも角振動数ω0)場合、具体的には( ̄m)=( ̄k)=0.01の場合の例を示すものである。なお、構造体1の減衰定数h1=0.02,架台2の減衰定数h2=0.1である。
この場合、回転慣性質量ダンパー8を設置しなければ入力振動数ξ=ω/ω0=1において共振が生じて著しい応答倍率が生じるのに対し、回転慣性質量ダンパー8を設置してその仕様を上記のように設定した場合には、ほぼ全ての周波数領域において応答値を大幅に低減させることができる。
なお、この場合においては、回転慣性質量ψ2を考慮したことで架台2が自ずと長周期化し、最大応答が生じる周波数ξは
図2(b)は、( ̄m)=m2/m1=0.005、( ̄k)=k2/k1=0.01の場合、したがって架台2の固有振動数が構造体1の√(2)倍の場合の例を示す。構造体1および架台2の減衰定数h1、h2については上記と同様にh1=0.02、h2=0.1である。
図2(c)は、( ̄m)=m2/m1=0.02、( ̄k)=k2/k1=0.01の場合、したがって架台の固有振動数が構造体の1/√(2)倍であり、かつh1=0.02、h2=0.15の場合の例を示す。
いずれも(1)の場合と同様のパターンで最大応答を70〜80%も低減させることができる。
構造体1が特定の機械振動を受ける場合のように特定の周波数で卓越して振動するような場合、すなわち、構造体1の卓越振動数がf0であり、卓越角振動数がω0である場合、入力振動比ξ=ω/ω0=1近傍での応答倍率を小さくするように架台2の減衰定数h2を小さくする必要があると考えられる。但し、それを過度に小さくすると、架台2の固有振動数近傍の応答が過大になるので、応答を安定させるためには減衰定数h2を0.02程度としてわずかな減衰を付与することが好ましい。
その場合の解析結果を図3(a),(b),(c)に示す。これは、構造体1の卓越角振動数がω0である場合の解析結果を示すもので、架台2の減衰定数h2=0.02とした場合には、他の条件を上記(1)(2)のように様々に変化させても、ξ=1付近において応答倍率がほぼ1(応答が増幅されない)となり、ξ≧1では応答倍率が1以下(応答が低減する)となることが分かる。
これは、回転体9の中心位置を支点12により揺動自在に支持するとともに、その偏心位置をバネ6により支持して、構造体1と架台2との相対振動により回転体9を鉛直面内において微小回転させる(つまり、天秤のように支点12を中心として両側を上下方向に揺動させる)構成とすることが考えられる。この場合も、上記実施形態と同様に小さな質量の回転体9の回転(揺動)により大きな回転慣性質量ψ2を生じ、その回転慣性質量ψ2とバネ6のバネ定数k2とにより定まる振動数を構造体1の固有(卓越)振動数に一致させる設定とすることにより、上記と同様に優れた振動低減効果を得ることができる。
なお、そのような回転体9の揺動を利用する場合、図4(b)に示すように回転体9の両端部にさらに付加質量13を設ければ回転慣性質量ψ2をより大きくすることができるのでより効果的である。
2 架台(設置物、制御対象物)
3 支持体
4 バネ(バネ要素)
5 ダッシュポット(減衰要素)
6 バネ(バネ要素)
7 ダッシュポット(減衰要素)
8 回転慣性質量ダンパー
9 回転体
10 ネジ軸
11 ボールナット
12 支点
13 付加質量
Claims (2)
- 振動を生じる構造体に対してバネ要素を介して相対振動可能に設置される設置物を制御対象とする振動低減機構であって、
前記構造体と前記設置物の間に、それらの相対振動によって作動して回転体を回転させることにより回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパーを設置するとともに、前記回転慣性質量ダンパーおよび前記バネ要素と並列に減衰要素を設置し、
該回転慣性質量ダンパーにより生じる回転慣性質量と、前記バネ要素のバネ剛性とによって定まる固有振動数を、前記構造体の固有振動数もしくは卓越振動数に一致させてなることを特徴とする振動低減機構。 - 振動を生じる構造体に対してバネ要素を介して相対振動可能に設置される設置物を制御対象とする振動低減機構の諸元設定方法であって、
前記構造体と前記設置物の間に、それらの相対振動によって作動して回転体を回転させることにより回転慣性質量を生じる回転慣性質量ダンパーを設置するとともに、前記回転慣性質量ダンパーおよび前記バネ要素と並列に減衰要素を設置し、
該回転慣性質量ダンパーにより生じる回転慣性質量と、前記バネ要素のバネ剛性とによって定まる固有振動数を、前記構造体の固有振動数もしくは卓越振動数に一致させることを特徴とする振動低減機構の諸元設定方法。
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